デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

  詳細検索へ

公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

6章 対外事業
1節 韓国
1款 韓国ニ於ケル第一銀行
■綱文

第16巻 p.37-46(DK160007k) ページ画像

明治26年12月6日(1893年)

是日栄一、第一国立銀行頭取トシテ、大阪商業会議所ヨリ送付セラレタル、同所立案ノ日韓貿易拡張策ニ関スル照会書ニ対シ、同所会頭田中市兵衛宛ニ回答書ヲ発ス。


■資料

大阪商業会議所月報 第一四号 明治二六年一〇月 商業部(DK160007k-0001)
第16巻 p.37-45 ページ画像

大阪商業会議所月報 第一四号 明治二六年一〇月
○商業部 九月十五日部会ヲ開キ、日韓貿易拡張策ニ付キ討議ノ末左ノ議案ヲ総会ニ提出スルコトニ決セリ
    日韓貿易拡張策ニ関スル方案
日韓貿易ノ拡張ヲ計ルノ第一著トシテ左ノ諸手続キヲ為サントス
 (第一)商業部ニ於テハ自今主任ヲ定メテ専ラ日韓貿易ノ消長ニ注意シ、常ニ同貿易ニ関スル各般ノ調査ヲ為シ、務テ之カ拡張ノ方策ヲ講究スル事
  但シ主任ノ員数及ヒ選定ハ部会ノ決議ヲ以テ之ヲ定ム
 (第二)本会議所ト在朝鮮京城及ヒ仁川・釜山・元山三港商業会議所トノ間ニ通信報告ノ道ヲ開カンカタメ左ノ照会書ヲ発スル事
 - 第16巻 p.38 -ページ画像 
    照会書
  拝啓貴所愈々御隆盛奉恭賀候、陳ハ今般本所ニ於テ調査セシ所ニ拠レハ昨年来日韓貿易ノ状況漸ク一変シテ啻ニ其ノ貿易総額減退ノ傾向生セシノミナラス殊ニ輸入貿易ノ如キハ漸次清商ノ侵蝕ヲ被リ将ニ彼ニ抑圧セラレントスルノ形跡有之、且ツ在京城杉村領事ノ報告ニ徴スレハ同地ニ於テハ清商ノ勢力一層旺盛ナルニ反シ日商ノ経営力ハ倍々不振ノ由ニ御座候、右ハ日韓貿易上最モ悲ムヘキ現象ニシテ事体頗ル重大ナルヲ以テ、本所ニ於テハ目下之ヲ挽回シ益々拡張ヲ図ルノ方策討究中ニ候処、先ツ其ノ第一著トシテ貴地貿易上ノ事情ヲ審ニスルカタメ貴所ト本所トノ間ニ通信報告ノ道ヲ開クヘキ旨決議致候、就テハ自今質問応答ハ勿論、苟モ日韓貿易ニ関シ貴所及ヒ本所ニ於テ調査シタル事項ハ悉ク互ニ相報告シ、彼我事情ノ審明ヲ得ル様致度此段不取敢及御照会候也
  追テ右拡張ヲ計ルノ第一著トシテ今回本所ニ於テ決議致候事項御参考ノタメ左ニ記載致候
    一議決ノ事項ヲ記ス
    一同
  年 月 日                  会頭
    朝鮮京城及三港商業会議所会頭宛
 (第三)朝鮮京城及ヒ三港在留本邦領事ニ直接ニ通信及ヒ質問ヲ為スヲ得ルノ許可ヲ得ンカタメ左ノ意見書ヲ外務大臣ニ提出スル事
    意見書
  曩ニ大阪府庁ヲ経テ通牒セラレタル在京城杉村領事ノ報告書ニ徴スルモ、亦本所ニ於テ調査シタル所ニ拠ルモ、近時日韓貿易ノ漸次清商ノ侵蝕スル所トナリタルハ歴然タル事実ニ有之候、因テ本所ニ於テ目下之カ恢復ヲ計リ拡張ヲ図ルノ方策考究中ニ御座候処先ツ其ノ第一著トシテ彼地貿易上ノ事情ヲ審ニスルノ必要ヲ感シ候ニ付、自今左記ノ事項ニ就テハ本所ハ貴省経由ノ手続キヲ省キ直接ニ在京城及ヒ三港本邦領事ニ通信並ニ質問ヲ為シ、以テ右拡張策考究ノ利便ヲ得度候間、何卒右御採用ノ上在朝鮮各本邦領事ニ御訓示相成度、別記理由書相添ヘ此段意見開申致候也
   一朝鮮国輸出入品ノ種類・価格・嗜好、及ヒ海陸運輸ノ景況等貿易上ニ関スル総テノ事項
   一朝鮮国ノ物産ノ種類・興廃等ニ関スル総テノ事情
   一租税・貨幣・金融等理財上ニ関スル総テノ事項
  年 月 日                  会頭
    外務大臣宛
    理由書
  朝鮮ノ外国貿易ハ全体ヨリ言ヘハ最モ長足ノ進歩ヲ為シタリ、即チ去ル十八年以降ノ純輸出入額ハ凡ソ左表ノ如シ

           貨物輸出     砂金輸出      貨物輸入        合計
              円         円         円         円
  十八年   三八八、〇二三   一四一、五九四 一、六七一、五六二 二、二〇一、一七九
  十九年   五〇四、二二五 一、一三〇、四八八 二、四七四、一八五 四、一〇八、八九八
  二十年   八〇四、九九六 一、三八八、二六九 二、八一五、四四一 五、〇〇八、七〇六
 - 第16巻 p.39 -ページ画像 
  廿一年   八六七、〇五八 一、三七三、九六五 三、〇四六、四四三 五、二八七、四六六
  廿二年 一、二三三、八四一   九二八、〇九一 三、三七七、八一五 五、五九三、七四七
  廿三年 三、五五〇、四七八   七四九、六九九 四、七二七、八三九 九、〇二八、〇一六
  廿四年 三、三六六、三四四   六八九、〇七八 五、二五六、四六八 九、三一一、八九〇
  廿五年 二、四四三、七三九   八五二、七五一 四、五九八、四八五 七、八九四、九七五

  前表ノ如ク昨二十五年ニ至リ一頓挫ヲ生セシカ如シト雖モ、是レ同年ハ農産物ノ不作及ヒ韓銭ノ下落等一時ノ原因ニ基キシモノナレハ将来益々発達スヘキハ何人モ疑ハサル所ナリトス
  然リ而シテ右貨物輸出品ノ重ナルモノハ米麦大豆等ニシテ清国ニ輸出ノ要ナキカ故ニ貨物ノ輸出ハ専ラ本邦ニ輸出シ、又清国ニ輸出スル貨物乏シキノ結果ハ砂金ヲ専ラ同国ニ輸出セリ、即チ昨二十五年ニ於ケル貨物砂金ノ両商輸出高ハ凡ソ左表ノ如シ

             仁川       釜山           元山
              円         円            円
  貨物 日商 九四三、七一〇 一、二三〇、二四二 貨金(日)三三七、八六一
     清商 一〇一、二九九    四三、一〇九
  砂金 日商  一五、五五五   一〇七、九三九 貨金(清)三六〇、五八八
     清商 一三七、二三一         ―

  斯ノ如ク日商ノ貨物砂金輸出合額ハ百六十三万五千余円《(二脱)》ナルニ拘ハラス清商ノ同輸出高ハ僅々六十四万一千余円ニ過キス、而モ其ノ七八分ハ砂金ナルヲ以テ輸出上ニ於テハ日商ノ勢力尚ホ頗ル大ナリ、又輸入高ハ棉絹布ヲ重トシ其産地ハ欧米及ヒ清国ニシテ清商ハ其ノ仕入レ上ノ利便ヲ有スルカ故ニ清商ノ輸入高漸次増加ノ傾向ヲ有セリ、即チ最近三ケ年間ノ両商輸出入高ハ凡ソ左ノ如シ
         廿三年       廿四年       廿五年
             円         円         円
  日商 三、〇七〇、七七八 三、二〇四、二八五 二、五六〇、〇七九
  清商 一、六五一、八一六 二、〇四四、四四九 二、〇五六、三九三
   (前表二十五年ノ統計ハ再輸出ヲ含ムヲ以テ反テ前記ノ純輸入総額ニ超過セリ、然レトモ以テ其ノ概計ヲ知ルニ足ルヘシ)
  右ノ如ク日商ノ輸入高ハ二十四年ハ三百万以上ナリシニ昨年ハ二百五十余万円トナレリ、之ニ反シ清商ノ輸入高ハ年々増加シテ昨年ハ二百万以上トナリ、将サニ日商ノ輸入高ト相伯仲セントスルニ至レリ
  以上ハ朝鮮ノ外国貿易及ヒ日清両商経営高ノ比較ヲ最モ簡単ニ略叙シタルモノナレト、以テ如何ニ輸入貿易ニ於テハ清商ノ侵蝕スル所トナリタルカヲ知ルニ足ルヘシ、況ンヤ一品一物ニ就キテ詳説セハ、従来重ニ本邦商人ノ輸入セシ物品ニシテ今ヤ彼ノ専ラ輸入スル所トナリタル洋反物若クハ木綿類・絹布類・染料等其ノ種類一二ニシテ止マラサルヲヤ
  抑モ数年前ニ在リテハ朝鮮ノ外国貿易トハ殆ト日韓貿易ト同一ノ意味ヲ有シ、其ノ貿易ハ輸出入共専ラ日商ノ経営セシ所ナリシニ拘ハラス、今ヤ斯ノ如ク清商ノ競争ニ遭ヒ十数年来ノ苦心将ニ水泡ニ帰セントスルノ状アリ、且ツ杉村領事ノ報告ニ拠レハ、京城ニ於テ清商カ日商ヲ抑圧スル状態ハ尚ホ一層甚タシキモノアルカ如シ、是レ豈ニ本邦商人ノ軽視スヘキ所ナランヤ、宜シク速カニ
 - 第16巻 p.40 -ページ画像 
其ノ原因ヲ探求シ之カ恢復策ヲ考究スヘキナリ
  依テ本所ニ於テハ種々調査ノ上多少ノ原因ヲ探求シ得タリト雖モ単ニ記録ニ徴シ若クハ二三片言ニ依リテ俄カニ断定スヘカラサルモノアリ、又未来幾多ノ変遷ニ応シ其ノ拡張策ヲ案出スルニハ常ニ彼地ニ於ケル貿易上ノ事情ヲ審ニセサルヘカラス、故ニ本所ハ既ニ在韓ノ各商業会議所ト通信往復ノ約ヲ結ヒ諸種ノ調査ヲ托スルノ道ヲ開キタリト雖モ苟モ事ノ緻密公平ヲ得ンニハ亦在韓本邦各領事ノ厚意ヲ煩ハサヽルヘカラス、然リト雖モ従来ノ如ク一通信ヲ発シ一質問ヲ為スニ当リ一々貴省ヲ煩スニ於テハ啻ニ相互ノ煩労ヲ来スノミナラス或ハ急匆ノ際機ニ投シ変ニ応スル能ハサルノ恐レナキヲ保セス、故ニ別記ノ如ク貿易・産業及ヒ理財上ニ関スル事項ニシテ外交上ノ要件ニ関セサルモノハ貴省ヲ経由セスシテ直ニ在朝鮮領事ニ通信質問ヲ為スヲ得ルノ許可ヲ得以テ日韓貿易ノ発達ニ大ニ力ムル所アラントス、若シ幸ニ微衷ノ在ル所ヲ採納シ在韓本邦各領事ニ訓示スルニ本所意見ノアル所ヲ以テセラレ各領事モ亦貴省ヲ経由セス自由ニ本所ニ回答セラルヽニ至レハ其ノ日韓貿易ノ発達上ニ致ス所ノ効益決シテ鮮少ナラスト信ス
 (第四)在朝鮮京城及ヒ三港ノ本邦銀行支店ト在清国上海ノ同銀行支店トノ間ニ為替取組ノ便ヲ開カシメンカ為メ、左ノ意見書ヲ当該官庁及ヒ関係銀行ニ送致スル事
    意見書
  朝鮮ニ輸入スル物品ハ従来専ラ本邦商人ノ輸入セシ所ナリシニ、両三年来清商ノ競争最モ烈シク、若シ今ニシテ適当ノ処置ヲ施サスンハ遂ニ彼ノ圧倒スル所トナラントスルノ状有之候、就テハ本所ハ之カ恢復ヲ計リ尚ホ進ンテ日韓貿易ヲ発達拡張セシムルノ方策ヲ討究致シ候処、先ツ朝鮮京城並ニ三港ト清国上海間ニ為替取組ノ便ヲ開クコト目下ノ最大急務ナリト議決致候、仍テ別記理由書御審議ノ上関係ノ各銀行ヘ右開設方御勧諭相成度、此段意見開申候也
   追テ目下本邦ノ各銀行中朝鮮各地及ヒ清国上海ニ支店若クハ出張所ヲ有スルモノハ左記ノ諸行ニ御座候
   朝鮮京城 第一銀行出張所
   同 仁川 第一銀行支店
        第十八銀行支店
        第五十八銀行支店
   同 釜山 第一銀行支店
        第十八銀行支店
   同 元山 第一銀行支店
        第百二銀行支店
   清国上海 正金銀行支店
  年 月 日                  会頭
    外務大臣
    大蔵大臣  宛
    農商務大臣
 - 第16巻 p.41 -ページ画像 
  (前文同シ)仍テ別記理由書御審議ノ上相当ノ方法ヲ以テ右ノ便利相達セラレ候様御取計相願度、此段及御照会候也
  年 月 日                  会頭
    第一・第十八・第百二国立銀行
    正金銀行各頭取        宛
    
    理由書
  目下衰頽セル日韓貿易ノ恢復ヲ計リ、尚ホ進ミテ其発達拡張ヲ謀ルノ一方策トシテ、朝鮮京城及ヒ三港ト清国上海間ノ為替取組ノ便ヲ開クヲ以テ目下ノ最大急務ト為スノ理由ハ、左ノ諸点ニ分チ記述スルヲ便利トス
 (一)朝鮮ヘ貨物輸入上ノ便利 今、此為替取組ノ便ノ開クルニ従ヒ、朝鮮ヘ貨物ヲ輸入スル上ニ於テ本邦商人ノ被ル便利ヲ説明センニハ、先ツ日清両国カ右輸入上ニ於ケル勢力ノ比較及ヒ其ノ原因ヲ略叙セサルヘカラス
   抑々朝鮮ノ外国貿易ヲ開キタルハ既ニ十数年以前ニ在リタリト雖モ、其ノ貿易ノ著シク発達シタルハ去ル明治二十三年以後ニアリトス、即チ同年ニ至リ日本ヘ多額ノ米穀ヲ輸出シタルカタメ頓ニ其ノ輸出額ノ増加シタルト共ニ、又一般ノ購買力増加シテ輸入額モ亦増加シ、遂ニ左表ニ示スカ如キ発達ヲ為セリ

         貨物輸出   砂金輸出     貨物輸入      合計
             円      円        円       円
   廿二年 一、二三三、八四一 九八二、〇九一 三、三七七、八一五 五、五九三、七四七
   廿三年 三、五五〇、四七八 七四九、六九九 四、七二七、八三九 九、〇二八、〇一六
   廿四年 三、三六六、三四四 六八九、〇七八 五、二五六、四六八 九、三一一、八九〇
   廿五年 二、四四三、七三九 八五二、七五一 四、五九八、四八五 七、八九四、九七五

   然リ而シテ貨物ノ輸出貿易ニ於テハ日商尚ホ殆ト其ノ全権ヲ有セリト雖モ、輸入ニ於テハ清商ノ輸入高漸次増加シテ今ヤ将ニ我ト相伯仲セントセリ、即チ二十三年以降ノ輸入総額及ヒ日清両国ノ輸入額ハ左ノ如シ

            二十三年      二十四年      二十五年
                円         円         円
   総輸入額 四、七二七、八三九 五、二五六、四六八 四、五九八、四八五
   日商 同 三、〇七〇、七七八 三、二〇四、二八五 二、五六〇、〇七九
   清商 同 一、六五一、八一六 二、〇四四、四四九 二、〇五六、三九三

   (前表中二十五年ノ日清両国ノ輸入高ハ再輸出ヲ含ムモノナルヲ以テ反テ総額ニ超過セリ)
   以テ清商ノ輸入高ハ漸次増加セルニ拘ハラス日商ノ進歩如何ニ遅々タルカヲ見ルニ足ルヘシ
   次ニ斯ノ如ク日商取引ノ進歩遅々タルニ拘ハラス清商取引ノ発達最モ速ナル理由ヲ説明センニ、元来清国《(韓)》ニ物品ヲ輸入スルモノハ主トシテ日清ノ両商ナリト雖モ、其ノ物品ハ寧ロ日清両国ノ産品ヨリモ欧米諸国ノ産品多シ、即チ試ニ二十四年ノ輸入総額五百二十五万余円ノ貨物ヲ其ノ産出地ニ依リテ区別スレハ左ノ如シ
      英吉利及ヒ其ノ属国      二、九三五、〇二四円
      日本               九七〇、七〇四
 - 第16巻 p.42 -ページ画像 
      支那               七九七、二七五
      独逸               二四五、五六二
      北米合衆国            一八七、二七五
      仏蘭西               七二、一六四
      和蘭                二六、一三八
      澳太利               一八、二九七
      白耳義                三、一二八
      露西亜                  九五二
   又右ノ輸入額ヲ品物別ニスレハ左ノ如シ
      綿布             二、八一九、五六七円
      雑貨             一、八二三、九八〇
      鉱物               五三九、五九八
      毛布                五二、六六二
      雑布                二〇、六六一
   斯ノ如ク輸入品ノ大部ハ欧米諸国ノ産品ナルノミナラス又其過半ヲ占ムルモノハ綿毛両布ナリ、故ニ生金巾其ノ他ノ洋布ハ従来日商ハ長崎及ヒ神戸ニテ仕入レ之ヲ朝鮮ニ輸入シ、清商ハ上海ニテ仕入レテ等シク之ヲ輸入シ、互ニ仲買人ノ地位ニ立チシト雖モ、元来上海ノ洋反物類仕入レ上ニ於ケル便利ノ到底長崎若クハ神戸ノ及フ所ニアラサルヲ以テ、清商ハ此ノ便利ヲ利用シ最モ低廉ニ之カ輸入ヲ為スニ至リシヨリ日商ハ常ニ其ノ競争上敗ヲ取リ、今ヤ殆ト其輸入ヲ絶止セントセリ、又其ノ他染料鉄類等ニ於テモ亦同一ノ境遇ニ陥レリ、之ヲ要スルニ総テ欧米品ノ取引上ニ於ケル上海ト神戸及ヒ長崎トノ比較ハ恰モ問屋ト小売ノ如キ等差アルヲ以テ、上海ハ価格其ノ他仕入上ノ便利最モ多ク、而シテ清商ハ此ノ便利ヲ享有スルカ故ニ、終ニ前表ノ如ク我カ商売ヲ圧倒シテ多額ノ輸入ヲ為スニ至リシナリ
   以上掲載セシ如クナルヲ以テ、我カ商人ニシテ若シ上海ニ於テ仕入レヲ為スニ於テハ必スシモ清商ト競争シ得サルニアラスト雖モ、従来朝鮮各港ト上海トノ為替便利ナラサリシノミナラス日本各地ト上海間ニ於ケル為替モ亦不便ナリシカ故ニ、上海ニ於ケル仕入上ノ便利ハ独リ清商ノ専有ニ帰シ、日商ハ其ノ便利ヲ利用シ得サリシナリ
   而シテ今ヤ幸ニ正金銀行ハ支店ヲ上海ニ設ケシカ故ニ同地ト日本各地トノ為替取組上幾分ノ便利ヲ得、従テ又間接ニ朝鮮ヘ輸入スル貨物ノ仕入レ上ニ多少ノ利便ヲ与ヘタリト雖モ、尚ホ上海及ヒ朝鮮各港間ニ直接ノ為替取組ノ道開クニアラサレハ未タ充分ノ便利ヲ得タリト謂フヘカラス、然ルニ今若シ右ノ如ク直接ニ為替取組ノ道ヲ開クニ至ラハ、我カ商人ハ上海ニ於ケル仕入レ上ノ便利ヲ利用シテ能ク清商ト競争シ得ヘク、従テ其ノ朝鮮ヘ貨物ヲ輸入スル上ニ於テ得ル所ノ利便決シテ鮮少ニアラサルナリ
 (二)朝鮮ヨリ貨物輸出上ノ便利 近来朝鮮海ニ往漁スル本邦漁夫ノ数ハ凡ソ一万人以上ニシテ、其収漁額一ケ年無慮百五十万円
 - 第16巻 p.43 -ページ画像 
ニ下ラスト云フ、而シテ其ノ漁獲中鰮ハ肥料トシテ本邦ニ輸入シ、鯛其ノ他ノ雑魚ハ朝鮮沿岸ニ於テ販売シ、海参・鱶鰭等ハ清国ニ輸出スレト、其朝鮮ヨリ直接ニ清国ニ輸出スルモノハ最モ少ナク、多クハ一旦長崎商人ノ手ヲ経テ之ヲ輸出スルヲ常トセリ、又其ノ他清国ヘ輸出スル貨物砂金ハ一ケ年凡ソ五十万円内外ナリト雖モ、在留本邦商人ノ輸出ニ係ルモノ頗ル少キハ、蓋シ従来取引上ノ関係及ヒ船便ノ都合等種々ノ原因ニ基クナルヘシト雖モ、亦両地間ニ於ケル為替ノ便利ナキコト実ニ其ノ一原因タラスンハアラス、故ニ若シ朝鮮各港ト上海トノ間ニ此ノ便利開クル時ハ、一方ニ於ケル輸入貨物ノ仕入レニ対シ又朝鮮ヨリ貨物輸出ノ道ヲ開キ得ヘキカ故ニ、其ノ輸出上ニ於ケル便利モ亦必ラスヤ少ナカラサルヘキナリ
 (三)清韓両国ニ対スル貿易発達上ノ便利 目下日清韓三国ノ貿易ノ景況ヲ看ルニ、本邦ノ清国ニ輸出スル所ハ其ノ輸入スル所ヨリ多ク、清国ノ朝鮮ニ輸出スル所ハ其ノ輸入スル所ヨリ多ク、又朝鮮ノ日本ニ輸出スル所ハ其ノ輸入スル所ヨリ多ク、互ニ一方ニ多ク輸出シテ他ノ一方ヨリ多ク輸入スルノ実アリ、即チ関税局ノ年表ニ依リ之ヲ表出スレハ左ノ如シ
      日清貿易表

          日本ヨリ輸出貨物    清国ヨリ輸入貨物
                 円            円
   二十三年 一四、五九三、九〇一   一四、三四五、五九七
   二十四年 一八、四〇四、五四六   一三、八八八、〇三四
   二十五年 一九、六四七、三九九   一九、四九五、一三二

    前表輸出入トモ香港ヲモ含メリ
      日韓貿易表

         日本ヨリ輸出貨物   朝鮮ヨリ輸入貨物       同砂金
                円           円         円
   二十三年 一、二五〇、七一三   四、三六三、五四〇   三五九、六一八
   二十四年 一、四六六、〇三九   四、〇三二、九二二   二八二、四九四
   二十五年 一、四一〇、六九九   三、〇四六、三三九   三九四、五八五

      清韓貿易表

       朝鮮ヨリ輸出貨物及ヒ砂金   清国ヨリ輸入
                  円         円
   二十四年     五五五、〇七六 二、〇四四、四四九
   二十四年《(五)》 六四一、二二七 二、〇五六、三九三

    砂金ハ通常貨物ト異ナレト朝鮮ニ於テハ一種ノ輸出重要商品ナルヲ以テ日韓及ヒ清韓ノ両表ニハ特ニ之ヲ掲ク、又清韓ノ表ハ朝鮮ノ統計ニヨリ其概数ヲ示セシノミ
   然リ而シテ前述ノ如ク目下朝鮮ノ輸出貨物ノ大部ハ日本ニ輸入シ且ツ専ラ日商ノ経営スル所ナリト雖モ、此ノ現象タル永久持続スヘキモノナリヤ否ヤハ目下ノ一大疑問タリ、何トナレハ斯ノ如ク日商カ輸出上ニ勢力ヲ有スル所以ノモノハ朝鮮ノ輸出品ノ重ナルモノハ米・大豆等ニシテ、其ノ輸出ハ最モ変動ノ甚シキ日本内地ノ相場如何ニ依リテ消長スルモノナルヲ以テ、日本内地ニ於ケル市価変動ノ事情ニ暗キ所ノ清商ノ如キハ容易ニ之ニ従事スル能ハサルト、一ハ日清貿易ニ従事スル清商ト日韓貿
 - 第16巻 p.44 -ページ画像 
易ニ従事スル清商トハ各々其ノ生地ヲ異ニシ両者ノ間連絡少キトノ二原因ニ依リ、止ムヲ得ス其ノ得意ノ手腕ヲ振フ能ハスシテ独リ日商ヲシテ勢力ヲ占有セシメタルニ過キス、然リト雖モ三国貿易ノ実状前表ノ如クナル以上ハ此ノ連絡ヤ早晩起ルヘキハ明ナルノミナラス、又彼等ニシテ常ニ注意ヲ施スニ於テハ日本内地ニ於ケル米豆市価ノ変動ヲ熟知スヘキハ頗ル容易ノ業ナレハナリ、而シテ一旦三国在留ノ清商間ニ連絡ヲ通シ各在留国ノ物品ヲ輸出スルニ於テハ、今日日商カ朝鮮ノ輸出貿易上ニ占ムル所ノ地位タル決シテ安全ナルヲ得サルナリ、即チ清商等カ概シテ資本ニ豊富ナル又商取引上彼等ノ手腕ノ敏ニシテ且ツ巧ナル、終ニ日商ノ勢力ヲ侵掠スルコト尚ホ今日朝鮮ノ輸入貿易上ニ於ケルカ如クナルニ至ランモ知ルヘカラス、故ニ目下ノ急務ハ三国在留ノ日商ヲシテ先ツ進ミテ其ノ連絡ヲ通シ、予メ清商ニ先チテ其ノ地位ヲ作ラシムルニ在リ、然レトモ日商ヲシテ能ク此ノ連絡ヲ通セシメンニハ先ツ朝鮮ト上海間ノ為替取組ノ道ヲ開カサルヘカラス、何トナレハ各地在留ノ商人ヲシテ互ニ相連絡セシムルノ最要具ハ為替取組ノ自由ナルヨリ最要ナルモノナケレハナリ、故ニ若シ目下既ニ開通セル本邦各港ト上海間及ヒ本邦ト朝鮮各港ト上海間ノ為替上ノ便ヲ以テセハ三国間ノ為替取組ノ道玆ニ全ク通スルヲ以テ三国在留ノ日商漸次相連絡スルニ至ルヘシ、而シテ三国在留ノ日商各々連絡ヲ通シテ互ニ其ノ在留国ノ物品ヲ輸出スルニ於テハ、啻ニ今日日商ノ占有セル朝鮮ノ輸出上ニ於ケル勢力ヲ保持スルヲ得ルノミナラス、其ノ輸入上ニ於ケル勢力ヲ挽回スルヲ得、又間接ニ日清間ノ貿易ヲモ発達セシムルヲ得ヘキナリ、即チ一ノ為替取組ノ道開クルノ結果ハ能ク本邦ヲシテ清韓両国ニ対スル貿易上至大ノ利便ヲ蒙ルシムルニ足ルモノナリ
 (四)日清韓三国ノ為替ヲ平衡セシムル便利 三国間貿易ノ現況前項記載ノ如クナルヲ以テ、従テ三国間ノ貨幣ノ輸出入モ亦左表ノ如キ現象ヲ呈スルヲ見ル
      日清間金銀及ヒ貨幣出入表

          日本ヨリ輸出      清国ヨリ輸入
                円           円
   二十三年   四五九、八七八     一七八、四四六
   二十四年   二〇八、七四九   三、四九八、四四二
   二十五年 一、五三六、〇〇九   一、八三一、一〇三

      日韓間同表

          日本ヨリ輸出      朝鮮ヨリ輸入
                円           円
   二十三年   四五二、五七七     二二一、一三五
   二十四年   四八〇、八五二     一八一、七九六
   二十五年   三三九、二九七     一七八、七二六

    右ノ外朝鮮ヨリノ輸入中砂金ノ輸入多シト雖モ同品ハ前記ノ如ク同国重要ノ輸出品ナルヲ以テ之ヲ省ケリ
      清韓間同表

          朝鮮ヨリ輸出      清国ヨリ輸入
                円           円
   二十五年   二五一、一二一     二〇五、五八六

 - 第16巻 p.45 -ページ画像 
    前表ト同シク朝鮮ヨリ輸出中砂金ヲ控除セリ
    又本表ハ朝鮮ノ統計ニ依リ概計ヲ掲ケシノミ
   三国間金銀ノ輸出入斯ノ如クナルヲ以テ其ノ為替各々平準ヲ得サルノミナラス、殊ニ日韓及ヒ清韓間ノ如キハ貨幣輸出入ノ不平均最モ甚シキヲ以テ絶ヘス日本ヨリ銀貨ヲ朝鮮ニ輸入スルモ従テ輸入スレハ清商従テ之ヲ自国ニ輸出シ、為ニ在韓ノ本邦商人ヲシテ往々銀貨ノ不足ヲ告ケシムルコト少ナカラス、然ルニ今朝鮮ト上海間ノ為替行ハルヽニ至ラハ我ノ朝鮮ニ負フ所朝鮮ノ清国ニ負フ所及ヒ清国ノ我ニ負フ所ノ仕払義務ハ互ニ相殺シ得ヘキカ故ニ、玆ニ大ニ三国間ノ為替ノ平準ヲ得、従テ現貨輸送ノ不便ヲモ除却シ、三国間ノ貿易上ニ最モ便利ヲ与フヘシ、蓋シ為替ノ順逆常ナキト現貨輸送ノ煩労ハ貿易上ノ一大障碍物ナレハナリ
  以上記述スルカ如ク、一度ヒ朝鮮京城及ヒ三港ト清国上海間ニ為替取組ノ道ヲ開クニ至ラハ、其ノ結果ハ啻ニ(一)目下衰頽セル朝鮮ノ輸入貿易ヲ恢復スルニ便利ナルノミナラス(二)其ノ輸出ヲ増加シ併テ(三)本邦ノ清韓両国ニ対スル貿易ヲ拡張シ(四)三国間ノ為替ヲ平準セシムル等諸種ノ点ニ便利ヲ与フルコト少ナカラス、而シテ此事タル実行上費用ヲ要スル少ナク且ツ既ニ朝鮮ノ京城及ヒ三港ニハ我カ第一・第十八・第百二国立銀行ノ支店若クハ出張所ノ設ケアリ、又清国上海ニハ正金銀行ノ支店アレハ之ヲ実際ニ行フコト決シテ難事ニアラサルヘシト信ス、冀ハクハ本所意見ノ在ル所ヲ洞察セラレ
   関係ノ諸銀行ニ右取組開設ヲ勧諭セラレン事切望ニ堪ヘサルナリ(政府ノ分)
   至急実行アラン事切望ニ堪ヘサルナリ(銀行ノ分)


大阪商業会議所月報 第一六号 明治二六年一二月 朝鮮貿易拡張策ニ関スル回答書(DK160007k-0002)
第16巻 p.45-46 ページ画像

大阪商業会議所月報 第一六号 明治二六年一二月
○朝鮮貿易拡張策ニ関スル回答書 同件ニ関シ曩ニ本所ヨリ在朝鮮各商業会議所及ヒ各国立銀行ニ宛テタル照会書ニ対シ左ノ諸回答書ニ接シタリ
○中略
    第一国立銀行ノ回答書
 本邦朝鮮間貿易上ノ利害ニ関シ其理由書ヲ以テ御意見御照会ノ趣拝承仕候、彼地貿易之事情及上海為替連絡ノ必用等詳細御説明之次第着々適実大ニ御同感ヲ表シ、且如此御考査之労ニ御従事相成候段称賛仕候、但其彼地ヘ輸入ノ一途ニ於テ本邦商賈ノ近年清商ニ一籌ヲ輸シ候ハ御説明ノ如ク清商ハ其輸入物ヲ上海ニ於テ便利ニ買入テ勝算ヲ占メ候実モ有之候得共、元来本邦商賈ノ彼地ニテ貿易致候者ハ概シテ資本強盛ノ者ニ無之候ヨリ目前ノ射利ニ急ニシテ、彼豊資黠敏ナル清商ニ対シ充実ノ力ヲ以テ競争勝ヲ制シ難キ事情モ其原因ノ一ニ居リ可申ト相察シ申候、尤上海為替連絡ノ議ハ本邦貿易商ノ朝鮮輸入物ヲ買入ル便利ニ先チ目下本邦朝鮮間ノ為替上便利ヲ得ル事ニ付、本行ニ於テハ過日正金銀行ト訂約致シ、彼京城ヲ除キ三港ト
 - 第16巻 p.46 -ページ画像 
ハ業已ニ連絡相付キ候間、多少貿易上ノ便宜ニモ相成可申奉存候、此段御照会ニ対シ貴答旁申上度、宜敷御諒意可被下候也
  明治二十六年十二月六日
             第一国立銀行頭取 渋沢栄一
    大阪商業会議所会頭 田中市兵衛殿