デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治35年8月27日（1902年）

是日、第一銀行ト韓国平式院トノ間ニ、韓国度量衡制度施行ニ要スル資金十五万円ノ貸付契約証書調印サル。栄一頭取トシテ之ニ与ル。

韓国ニ於ケル第一銀行　第一銀行編　第一六六―一八三頁　明治四一年八月刊
　○第四章　韓国政府貸上金
　　　　第四節　平式院貸上金
平式院ノ官制発布セラレ度量衡制度ノ施行ニ着手セラルヽヤ、同院ヨリ本行ニ対シ右ニ要スル資金借入ノ申込ミアリテ、明治三十五年八月二十七日左ノ契約ヲ締結セリ
　　　　契約証書
　今般大韓国平式院総務課長韓相竜ハ本院ニ於テ度量衡器製造事業ニ要スル資金ヲ、大日本国株式会社第一銀行ヨリ借用ノ事ヲ左ノ条項ニ依リ契約ス
　第一条　平式院ハ第一銀行ヨリ借受クベキ金額ハ日本貨金拾五万円ニシテ、度量衡法ヲ発布シ、事業着手ノ日ヨリ、必要ニ応ジ其受授ヲ為ス事
　第二条　第一条ノ借用返済期限ハ来ル大日本暦明治四十年九月三十日（大韓国暦光武十一年九月三十日）トシ最初ノ三箇年間据置キ来ル明治三十八年九月三十日（光武九年九月三十日）ヨリ満期限迄二箇年間ニ金七万五千円宛分割シテ第一銀行ヘ完済スベキ事
　　但シ期限以内ト雖ドモ双方合議ノ上何時ニテモ償還スルコトヲ得
　第三条　第一条ノ借用金ニ対スル利息ハ元金百円ニ付一日金弐銭八厘（年一割強）ノ割合ヲ以テ計算シ、毎年両度六月二十日・十二月二十日ヲ以テ第一銀行京城出張所ヘ仕払フベキ事
　本書ニ対シテハ第一銀行ハ大日本国駐韓公使ノ承認ヲ経ル事
　以上各条項ノ通リ契約シタルニ付、其証トシテ日本文弐通及韓文弐通ヲ製シ、日韓文各自弐通ヲ領有スルモノ也
　　大日本暦明治三十五年八月二十七日
　　大韓暦光武六年八月二十七日
　　　　　　　　　　　大韓国平式院総務課長　韓相竜
　　　　　　　　　　　大日本株式会社第一銀行京城出張所
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　主任　高木正義
　右契約証明
　大韓国宮内府内大臣兼平式院総裁　李載完
右ノ如ク契約ハ「日本駐韓公使ノ承認ヲ経ルコト」ヲ条件トシ調印済トナレルヲ以テ、当時駐韓公使林権助氏ハ韓廷内有力ノ保証ヲ得ント
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シ大ニ力ヲ尽セリト雖モ、種々ノ内情アリテ意ヲ達スルヲ得ズ、為メニ契約履行ハ一時行悩ノ状態ヲ呈セリ、左ニ掲グル萩原書記官ノ書翰ハ以テ当時ノ事情ヲ知ルニ足ルモノアリ
　（前略）今回平式院ノ官制発布セラレ、完順君其総裁ニ任ジ度量衡制度ヲ実行致候為メ、貴行ヨリ拾五万円借入ノ件申込有之、林公使ノ勧誘ニテ高木氏ニ於テハ「林公使ノ承認ヲ得テ契約ヲ履行ス」トノ条件ノ下ニ、調印丈ハ相済候得共、扨履行済ノ一段ニ至リ、高木氏ハ其職責範囲ニテハ、林公使ニ於テ十分弁済ノ保証ヲ致サルヽニアラザレバ資金供給実行難致トノ事ニテ、林公使モ韓帝ノ承印若クハ度支外部ノ承認ヲ求ムル事ニ十分尽力被致候得共、諸種ノ内情有之、殊ニ御祭騒ギ最中ニテ、到底我希望ヲ達スル事六ケ敷ト断念致候、就テハ該契約ハ此際断然棄却スルカ、若クハ貴行ニ於テ十分ノ決断ヲ以テ大胆ニ該契約ヲ履行セラルヽカ、二途其一ヲ取ル事必要ト相成、公使ヨリハ外務大臣ニ大要上申相成居候ニ付、追テ御相談可有之候、小弟ハ対韓国トノ契約ハ其形式ノ備不備ニ論無ク、拠《（マヽ）》テ弁済延期又ハ義務履行難ハ必ズ附随ス可キ普通ノ危険タル事ヲ経験致居候ガ故ニ、本契約ノ如キ此ノ上形式ノ完備責任者ノ増加ヲ必要ト致サヾル主義ニ有之候、今更列挙致候迄モ無之、諸種ノ対政府損害賠償問題ヲ始メトシテ、貴行始メ諸会社ニ於テ是迄締結セラレタル契約モ、平易ニ履行セラレタルモノハ一モ無之、乍併交渉難ト多少ノ支払延期ヲ忍ブニ於テハ、結局我債権ヲ完済セラレタル事ヲ得ル次第ニ御座候、本契約ノ如キ、当事者トシテハ一箇独立官衙タル平式院総裁ノ記名アリ、自然不履行ノ場合ニハ政府ニ対シ当然要求スルニ於テ、理論上欠クル処ハ無之ト存候、此当事者ヲ無能力同様ト見做シ候トモ、民法上ノ不当利得トシテノ要求ハ何時ニテモ政府ニ対シ提出スル原因ハ有之候、殊ニ韓帝ノ認印始メ他部ノ承認トテモ、同ジク無資力者ノ保証ト同様、一点ノ益スル処ハ無之候、又形式ノ不完全ヨリ起論致候時ハ、現在貴行ノ契約ハ勿論外部ノ認印無之候上ハ、曾テ韓国政府ヨリ照会致候処モ有之、悉皆無効ノ契約ナリト論決スル外無之候、是等ノ議論ハ兎モ角モ、完順君ガ韓帝ノ内意ヲ受ケ起債致候ハ疑フ点ハ無之候得共、啓字ヲ得ルニ至リテハ、現ニ白銅事件始メ近クハ電気車灯ニ関スル対米人ノ起債ニシテ、啓字ノ濫用並ニ其効力問題内外人間ニ議論喧敷折柄ニ付容易ニ行ハレ難ク、他部ノ認印ハ当国各部ハ何等ノ関聯スル処無之互ニ独立執務致候理由ノ外ニ、現度支部大臣李容翊ハ到底之ニ承印スル議無之候ニ付、此上ハ一ニ貴行ノ英断ヲ以テ、支払延期ト交渉難ヲ見越シテ契約履行被致候外致方無之候、右詳細ノ事情ハ山座政務局長ヘ本便記送致候得共、猶ホ当事者ノ一人井上宜文氏本船便ニテ帰京ノ上、親シク貴行ヘ交渉可相成トノ旨ニ付、前述ノ大要貴見ニ供シ度拝啓致候、尚ホ十分御考量ノ上、時宜ニ適シタル御処分相成候様希望仕候　草々拝具
　　明治三十五年九月十二日　　　　　　　於京城
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　萩原拝
　　　　佐々木老台
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九月十七日ニ至リ、林公使ハ萩原書記官及塩川通訳官ヲ遣ハシテ平式院総裁李載完氏ニ交渉セシメシニ、同氏ヨリ「平式院職務ハ国家重要ノ事業ナルヲ以テ、国庫窮乏ノ際ナレバ外債ヲ起シテモ之ヲ決行スベシ」トノ啓字ヲ押シタル真正ノ委任状ヲ示シテ懇願スル所アリシヲ以テ、公使モ遂ニ右起債ノ権限ヲ認識シテ承認ヲ与フルニ至リ、玆ニ愈愈契約ノ成立ヲ見ルニ至レリ
下テ光武七年三月二十五日、右借款拾五万円追加契約トシテ更ニ拾万円ノ貸越ヲ約定シ、而シテ該借款総額ヲ返済スル迄ハ、平式院収入ヲ本行ニ預金スルコトヲ約セリ
右貸越約定ニ由リ明治三十七年四月迄ニ貸越ヲナセル金額ハ九万八千五百円ニ及ビ、先キニ貸上ゲタル拾五万円ト共ニ総額殆ド弐拾五万円ニ達スルニ至レリ、而シテ平式院ハ利子支払期ニ至リテ更ニ約束ヲ履行セズ、再三催告ヲ与フルモ顧ミザルヲ以テ、本行京城支店ハ度支部ニ宛左ノ計算書ヲ送リ、支払ノ請求ヲナセリ
　貴政府所属平式院ニ対シテハ、明治三十五年八月二十七日付契約証書ニヨリ金拾五万円ヲ、明治四十年九月三十日ヲ期限トシ、最初ノ三箇年据置キ、明治三十八年九月三十日ヨリ満期限迄二箇年間ニ金七万五千円宛分割シテ完済スルコトヽシ、利息ハ元金百円ニ付日歩弐銭八厘ノ割合ニテ計算シ、毎年六月二十日・十二月二十日ノ両度ニ支払フ約束ニテ貸付タリ、然ルニ本年一月一日以降本年十二月三十一日ニ至ル迄利足壱万五千参百七拾弐円ニシテ、其間ニ再三利息ノ支払ヲ催告シタレドモ、約束ヲ履行セズシテ支払ヲ為サズ、又同院ニ対シ、明治三十六年三月二十五日付約定書ニヨリ、年利七歩ノ割合ニテ限額金拾万円当座貸越ノ約束ヲ為シ、本年四月九日迄ニ九万八千五百参拾八円弐拾銭ノ貸越ヲ為シタリ、而シテ本年六月十日当座勘定決算日ニ至ル迄ノ利息参千参百七拾参円八拾弐銭トナルモ其支払ヲ為サヾルニ付、之ヲ貸越金ノ中ニ加ヘタリ、同日以降ノ利息ハ百円ニ付日歩弐銭八厘ノ割合ニ改正シ、本年十二月十日当座勘定決算日ニ至ル迄ノ利息ハ五千弐百弐拾壱円九拾七銭トナルモ、其支払ヲ為サヾルニ付、再ビ之ヲ貸越金ノ中ニ加ヘタリ、依テ当座貸越元金現在残高ハ拾万七千百参拾参円九拾九銭也、前記定期貸付金及当座貸越金ノ元利金ハ別紙計算書ノ通ニ付、契約ノ条款ニ依リ、御支払御成度《（相カ）》、此段度支部ヘ請求仕候也
　　明治三十七年十二月三十一日
　　　　　　　　　　　　　　　株式会社第一銀行京城支店
　　　　　　　　　　　　　　　　　　支配人　清水泰吉
　　　　大韓国度支部大臣　閔泳綺閣下
　　　　平式院貸付計算書
　一金拾五万円也
　　　　　明治三十五年八月二十七日付契約書ニヨル貸付金
　一金壱万五千参百七拾弐円
　　　　　前記貸付金ニ対スル明治三十七年一月一日ヨリ十二月三十一日ニ至ル迄ノ滞リ利息（日歩弐銭八厘ノ割）
　一金九万八千五百参拾八円弐拾銭
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　　　　　明治三十六年三月二十五日付契約書ニヨル当座貸越金四月九日現在
　一金参千参百七拾参円八拾弐銭
　　　　　前記当座貸越金ニ対スル明治三十七年六月十日迄ノ利息（年七歩ノ割）
　一金五千弐百弐拾壱円九拾七銭
　　　　　前記当座貸越金ニ対スル明治三十七年六月十一日ヨリ十二月十日迄ノ利息（日歩弐銭八厘ノ割）
　合計金弐拾七万弐千五百五円九拾九銭也
　　　　　　　　　　　　平式院ニ対スル債権総額
　右之通リニ候也
　　明治三十七年十二月三十一日
　　　　　　　　　　　　　　　株式会社第一銀行京城支店
　　　　　　　　　　　　　　　　　　支配人　清水泰吉
　　　　大韓国度支部大臣　閔泳綺閣下
右ニ対シ度支部大臣ヨリ回答セル所左ノ如シ
　敬復者頃奉
　大函閲悉而前平式院借款一事初非弊部商則今此　函詢殊属詫訝玆庸仰復尚望涵亮順頌
　大安
　　光武九年一月十日　　　　　　度支部大臣　閔泳綺
　　　　第一銀行京城支店支配人
　　　　　　　清水泰吉貴下
是ヲ以テ京城支店ハ更ニ左ノ書簡ヲ送付セリ
　十日付貴翰拝誦仕候、陳者昨年十二月三十一日付書面ヲ以テ平式院借款ノ件ニ付御照会致置候処、右ハ当初ヨリ度支部ニ於テ協商シタルモノニ非ラザル旨御来示ニ有之候得共、此借款ニ関シ再三平式院ヘ請求シタルモ支払ヲ為サズ、然ルニ同院ハ貴政府所属ノモノナレバ、当銀行ヨリ同院ニ対スル権利ノ関係ヲ明確ニシテ、貴部ヘ請求シタル次第ニ御座候間御了知相成度候、此段及御回答候也
　　明治三十八年一月十一日
　　　　　　　　　　　　　　　株式会社第一銀行京城支店
　　　　　　　　　　　　　　　　　　支配人　清水泰吉
　　　　度支部大臣　閔泳綺閣下
然レドモ右交渉ハ結局要領ヲ得ズシテ終リ、下テ明治三十八年八月ニ至リ韓国国庫債券ノ募集アルヤ、其払込金ヲ以テ度支部貸上金ト共ニ元利悉皆完済セラレタリ

第一銀行五十年史稿　巻五・第六五―六七頁　大正一二年刊
　○第二編　第五章　日清戦後の発達
　　　　第三節　韓国中央金融機関
○上略
明治三十五年韓国政府は新に平式院官制を定め、度量衡制度を改正実施することゝなれり、是に於て平式院は其資金十五万円の借入を申込
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みたれば、本行は其請を納れ、同年八月廿五日京城出張所主任高木正義と、平式院総務課長韓相竜との間に、借款契約の記名調印を了したり、利子は日歩二銭八厘となし別に担保を定めず、而して其契約書に「本書に対しては、第一銀行は大日本国駐韓公使の承認を経る事」と規定せるは、蓋し我公使において弁済の保証を為すにあらざれば不安心なるを以てなり、されば林公使は韓国皇帝又は度支部外部等の承認を得んことに尽力したれども、種々の事情ありて意の如くならず、これが為に一時契約の履行は行悩となりしが、九月に至り平式院総裁李載完より「平式院職務は国家重要の事業なるを以て国庫窮乏の際なれば、外債を起しても之を決行すべし」と認めたる勅裁の委任状を示して懇願せしかば、公使も遂に右起債の権限を認識して承認を与へ、玆に始めて契約の成立を見たり。尋で三十六年三月更に追加契約として拾万円の貸越を約定すると共に、該借款総額を返済するまでは、平式院収入を本行に預金することをも約したるが、此貸越約定により三十七年四月までに貸越をなせる金額九万八千五百円に及び、曩に貸付たる十五万円と合せて総額二十五万円に上れり、然るに平式院は常に利子の支払を怠り、再三の催告にも応ぜざれば、清水京城支店支配人は同年十二月書を度支部大臣閔泳綺に与へて、其支払を要求せるも亦要領を得ざりしが、三十八年八月同国国庫債券募集の際、其払込金を以て度支部借款と共に元利悉皆完済する事となりて、漸く解決を告げたり。
○下略
　　　○光武六年（明治三十五年）度量衡器改正ノ詔勅発セラレ、続テ度量衡器改正ニ関スル法規公布セラレタリ。而シテ平式院ハ右法律ノ精神ヲ貫徹セシムルノ目的ヲ以テ同年之ヲ設立セラレタルモノニシテ、同院ノ権限ハ度量衡器ニ対スル絶対ノ権限ヲ有シ、一切ノ度量衡器ノ製作及検定ヲナスニアリ、故ニ同院ノ事業ニシテ予定ノ如ク進捗セハ従来ニ於ケル韓国度量衡ノ弊害ハ久シカラスシテ一掃セラルヽニ至ルヘシ。而シテ韓国度量衡規則ヲ閲スルニ度量衡器ノ形状及物質ハ悉ク我度量衡法ノ規定ト相符合セルモノアレハ、特ニ本邦人ニ取リテハ至大ノ便宜アルヘキヲ信ス。
　　　　官制
　　　　一平式院ハ国内ニ通行スル度量衡器ノ製造検定ニ関スル一切ノ事務ヲ専管シ、左ノ職員ヲ置ク
　　　　　　一総裁一人勅任
　　　　　　　　一切ノ院務ヲ専轄シテ府属官吏ヲ進退シ職権内事務ニテ各府部院庁長官ニ平行照会シテ観察使以下ニ訓令指令スルコト
　　　　　　一副総裁一人勅任
　　　　　　　　　総裁ヲ補佐シテ院務ヲ協賛シ総裁事故アル時ハ事務ヲ処理スル事
　　　　　　一総務課長一人奏任
　　　　　　　　　上官ノ指揮監督ヲ承ケテ課務ヲ掌理スル事
　　　　　　一検定課長一人奏任
　　　　　　　　　上官ノ指揮監督ヲ承ケテ課務ヲ掌理スル事
　　　　　　一技師一人奏任
　　　　　　　　　上官ノ指揮監督ヲ承ケテ一切ノ技術ヲ弁理スル事
　　　　　　一主事四人判任
　　　　　　　　　上官ノ命令ヲ承ケテ庶務ニ従事スル事
　　　　　　一技手二人判任
 - 第16巻 p.157 -ページ画像 
　　　　　　　　　上官ノ命令ヲ承ケテ技術ニ従事スル事
　　　　　　　　　　　　　　　　　（韓国総覧第一二二五―一二二七頁ニヨル）