デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治38年6月24日（1905年）

韓国政府財政整理ノ為メ、是日国庫証券条例ヲ発布ス。同日第一銀行、該公債日本貨二百万円ノ募集引受ノ約ヲ韓国政府ト結ビ、尋イデ七月一日、日本興業銀行ト共ニソノ引受組合ヲ組織ス。

韓国ニ於ケル第一銀行　第一銀行編　第二九三―三〇三頁　明治四一年八月刊
　　　　第七章　韓国公債ノ引受
明治三十八年六月韓国政府ハ財政整理ノ為メ国庫証券ノ発行ヲ企図シ同月二十四日左ノ条例ヲ発布セリ
　　　　国庫証券条例　勅令第三十五号（訳文）
　第一条　国庫証券ハ一時国庫ノ融通ニ使用スル為メ発行スル短期国債ニシテ、日本貨弐百万円ヲ限リ募集スル事
　第二条　本証券ハ日本東京ニ於テ此ヲ発行シ、担当銀行ヲ定メテ此ヲ担当セシムル事
　第三条　本証券ハ無記名利票添付トシ日本貨ヲ以テ其金額ヲ記載シ百円及五百円ノ二種トスル事
　第四条　本証券ノ利子ハ一箇年百分ノ七トスル事
　第五条　本証券ノ元金ハ募集ノ年ヨリ三箇年ヲ経テ其翌年ヨリ向フ二箇年内ニ随時償還スル事
　　前項一部償還ノ場合ニハ第一銀行本店ニ於テ慣例ニ従ヒ抽籤ヲ執行シ、当籤シタル証券ノ記番号・種類及金額ハ元金支払ノ斯日ヨリ一箇月前ニ新聞紙ヲ以テ広告スル事
　第六条　本証券ノ利子ハ毎年五月及十一月ニ支撥スル事
　第七条　本証券ノ利子ハ其元金払込ノ時、月ノ十五日以前ニ在ルモノハ下半月分ヨリ仕払ヒ、月ノ十六日以後ニ在ルモノハ翌月分ヨリ支払ヒ、元金償還ノトキハ其償還ノ月マデ月割ヲ以テ支払フ事
 - 第16巻 p.268 -ページ画像 
　第八条　本証券元利金ノ償還ハ国庫金収入ヲ以テ優先ニ担保スル事
　第九条　本証券ノ様式・発行価格・応募金申込期日・応募金払込回数・償還期日・償還金額其他必要ナル事項ハ、度支部大臣此ヲ定ムル事
　第十条　本証券ハ何人ニテモ売買授受スル事ヲ得
　第十一条　本証券ハ額面価格ヲ以テ韓国政府ニ対スル各種保証金ニ代用スルヲ得ル事
　第十二条　本証券ニ対シテハ、何等ノ名義ヲ以テスルニ拘ラズ租税其他ノ公課ヲ課セサル事
　第十三条　本証券ノ元利ハ第一銀行ノ本・支店・出張所及代理店ニ於テ支撥スル事
　第十四条　本証券元利ハ其支撥期日ヨリ起算シテ満三箇年ヲ過グレバ此ヲ支撥セズ、但証券ノ紛失・汚染及毀損等ニヨリテ元利ノ支撥ヲ中止スルカ、訴訟事件ニ因リ請求シ難キ場合ニハ其間ノ日数ハ算セザル事
　第十五条　本証券ヲ汚染又ハ毀損シタル時ハ第一銀行ヲ経テ度支部ニ呈出シ、交換ヲ請フコトヲ得、但券面金額・記番号及主要ナル印様ヲ検査シ、其真正ナルヲ証認スルモノアラザレバ交換セザル事
　第十六条　本証券又ハ利票ヲ亡失シタル時ハ、其事由ト券面金額・記番号等ヲ詳記シテ二名以上ノ保証人ヲ置キ、第一銀行ヲ経テ度支部ニ請願シ、代証券又ハ代利票ノ交付ト利子ノ支撥ヲ請求スルヲ得
　　度支部ハ其亡失ノ証跡明確ナルヲ認メタル時ハ、代証券又ハ代利票ヲ交付シ又利子ヲ支撥スル事
　第十七条　本証券又ハ利票ヲ紛失シタル時ハ前条ニ準ジテ請願シ、代証券又ハ代利票ノ交付又ハ利子ノ支撥ヲ請求スルヲ得、度文部大臣ハ此場合ニハ其証券又ハ利票ノ授受・売買・交換及支撥ヲ停止スル旨ヲ告示スル事
　第十八条　紛失証券ハ其請願ノ時ヨリ満五箇年ヲ過ギ、紛失利票ハ其支撥期限ヨリ満三箇年ヲ過ギテ尚発見セザルトキハ、請願人ニ代証券又ハ代利票ヲ交付シ、又ハ利子ヲ支撥ス、本文期限ヲ過ギ紛失証券又ハ利票ヲ持チ来ルモノアルトモ政府ハ此ノ責ニ任ゼザル事
　第十九条　代証券又ハ代利票ヲ受ケタルモノハ相当ナル酬労料ヲ納ムル事
　第二十条　第十六条・第十七条ノ保証人ハ第一銀行ニ於テ満足スルモノニ限ル事
　第二十一条　本証券ヲ偽造変造シ、又ハ情ヲ知テ此ヲ行使スルモノハ厳罰ニ処スル事
右条例ニ由リ韓国政府ハ本行ト契約ヲ締結シ本行ヲシテ公債募集ノ引受ヲナサシメ、且ツ之ニ関スル一切ノ事務取扱ヲ委托セラレタリ、其契約文左ノ如シ
　　　　約定書
 - 第16巻 p.269 -ページ画像 
韓国政府ハ財政上ノ必要ニヨリ公債ヲ募集スルニ付、韓国政府ヲ甲トシ、日本帝国東京株式会社第一銀行ヲ乙トシ左ノ契約ヲ締結ス
　　　　第一条
　甲ハ左記ノ条件ニ依リ公債ヲ募集スルニ付、乙ハ之ガ募集ヲ引受クルモノトス
　　一、額面総額、日本貨弐百万円也
　　二、発行年月日明治三十八年七月
　　三、利率ハ壱箇年百分ノ七トス
　　四、公債証書ハ無記名利札付トシ百円・五百円ノ二種トス
　　五、元利償還ノ年限ハ五箇年トシ、光武九年七月（明治三十八年七月）ヨリ三箇年間据置キ、其以降二箇年間ニ抽籤ニヨリ償還スルモノトス
　　六、利子ハ毎年五月及十一月ニ於テ仕払フモノトス
　　　但シ払込以後ノ端数利子ハ本年十一月ニ仕払ヒ、元金償還ノトキハ其償還ノ月迄月割ヲ以テ支払フモノトス
　　七、本公債元利金ノ支払ハ国庫金ノ収入ヲ以テ優先ニ担保セラルルモノトス
　　八、本公債発行価格ハ額面百円ニ付九拾五円トス
　　九、本公債ノ元利金ハ日本価ヲ以テ支払フモノトス
　　十、本公債証書ハ額面価格ヲ以テ韓国政府ニ対スル各種保証金ニ代用スルコトヲ得
　　十一、本公債証書ニ対シテハ何等ノ名義ヲ以テスルニ拘ハラズ、租税其他ノ公課ヲ課セラルヽコトナシ
　　　　第二条
　乙ハ日本東京ニ於テ引受銀行ヲ組織シ、公債全額ニ付引受ノ責任ヲ負ヒ公衆ニ向テ募集スルモノトス
　　　第三条
　乙ヨリ甲ニ納入スベキ金額ハ公債証書額面百円ニ付九拾弐円トシ、明治三十八年七月二十五日東京ニ於テ甲ニ交付スルモノトス
　　　　第四条
　甲ハ本公債ノ元利金仕払ニ関スル一切ノ事項ヲ乙ニ委任スルモノトス
　　　　第五条
　甲ハ利子仕払ノ資金トシテ半年分ノ利子ニ相当スル金額ヲ、毎年四月・十月ノ十五日迄ニ乙ノ本店ニ交付スルモノトス
　　　　第六条
　甲ハ元金償還ノ場合ニ於テハ償還期日ヨリ一箇月前ニ其元利金ヲ乙ノ本店ニ交付スルモノトス
　　　　第七条
　乙ハ甲ノ為メニ本公債証書額面弐百万円ヲ製造シ、甲ノ承認ヲ経テ之ヲ発行スルモノトス
　　但本公債証書ノ製造費ハ甲ノ負担トス
　　　　　第八条
　本公債ノ元利金ハ乙ノ指定スル場所ニ於テ支払フモノトス
 - 第16巻 p.270 -ページ画像 
　甲ハ元利金仕払ノ手数料トシテ元金ニ付テハ其仕払高ノ千分ノ三、利金ニ付テハ其仕払高ノ千分ノ五ヲ乙ニ仕払フ可シ
　右契約ヲ証スル為メ此約定書日韓文弐通ヲ作製シ、双方署名捺印ノ上各壱通ヲ所持スルモノナリ
　　明治三十八年六月二十四日
　　　　　　　　　　　　株式会社第一銀行
　　　　　　　　　　　　　　　頭取　男爵　渋沢栄一代理
　　　　　　　　　　　　同行京城支店支配人
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　清水泰吉
　　　　　　　　　　　　度支部大臣　　　　　閔泳綺
　　　　　　　　　　　　外部大臣　　　　　　李夏栄
　　　　　　　　　　　　大韓国政府財政顧問　目賀田種太郎
是ニ於テ同年七月、本行ハ東京ニ於テ日本興業銀行ト共ニ引受組合ヲ組織シ、左ノ契約ヲ締結セリ
　　　　契約書
　明治三十八年六月二十四日韓国政府ト株式会社第一銀行トノ間ニ締結シタル、公債総額弐百万円募集引受ノ約定書第二条ニ基キ、株式会社第一銀行ハ株式会社日本興業銀行ト組合ヒ、其公債ノ引受銀行トナルニ付、株式会社日本興業銀行ヲ甲トシ、株式会社第一銀行ヲ乙トシ左ノ契約ヲ締結ス
　　　　第一条
　甲乙互ニ其一方ヲ害スベキ所業ヲ為サヾルモノトス
　　　　第二条
　本公債ノ発売価格ト韓国政府ヘノ納付金トノ差益、其他募集及発行ニ伴フ損益ハ総テ平分スベシ
　　　　第三条
　甲ハ乙ノ依頼ニ依リ公債元利金ノ支払ヲ取扱フベシ、而シテ其手数料ハ乙ガ韓国政府ヨリ受クル支払手数料ニ準ジテ各自ノ取扱高ニヨリ分配スルモノトス
　　但共同ノ費用ハ平分シ其他ノ費用ハ各自ノ負担トス
　　　　第四条
　韓国政府ト乙トノ約定書第二条ノ引受責任ハ此契約書ニヨリ甲乙各百万円宛トス
　　但シ双方トモ自カラ申込ヲ為ストキニハ、互ニ協議シテ同額ノ申込ヲ為スベシ
　　　　第五条
　応集高ハ甲乙全体ヲ通ジテ計算シ、残額ハ平分ニ割分ヒテ引受クルモノトス
　　　　第六条
　韓国政府ト乙トノ約定書第五条及第六条ニ依リ該政府ヨリ払込ム元利金ハ甲乙ニ平分スルモノトス
　　但実際支払ノ場合ニハ互ニ過不足ヲ授受スルモノトス
　　　　第七条
　本公債ノ取扱ニ関スル手続規程等ハ総テ協議ノ上之ヲ決定シ、決定
 - 第16巻 p.271 -ページ画像 
ノ上ハ互ニ違背スルコトナカルベシ
　　　　第八条
　契約若クハ規程等修正ヲ要スト認ムルトキハ甲乙何レヨリモ提議スルコトヲ得
　右訂約ノ証トシテ此契約書弐通ヲ作リ双方署名捺印ノ上各壱通ヲ領有スルモノ也
　　明治三十八年七月一日
　　　　　　　　　　　　　　東京市日本橋区兜町壱番地
　　　　　　　　　　　　　　　　株式会社第一銀行
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　頭取　渋沢栄一
　　　　　　　　　　　　　　東京市麹町区銭瓶町壱番地
　　　　　　　　　　　　　　株式会社日本興業銀行
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　総裁　添田寿一
　　　○同年同月（明治三十八年七月）六日目論見書ヲ公示シテ募集ヲ計リタリシガ、当時金融緊縮ノ際ナリシニモ拘ハラズ応募者頗ル多ク、総申込高八百四拾弐万九千四百円即チ募集額ヲ超過スルコト六百四拾弐万九千余円ニ上リ、且ツ価格以上申込四拾七万五千四百円ニ達スルノ好成績ヲ上グルヲ得タリ。（「韓国ニ於ケル第一銀行」第三〇三頁）
　　　○「日本興業銀行十年史」（大正元年刊）ニヨレバ、韓国政府ノ国庫証券元利金ノ支払ハ次ノ如クデアル。
　　　　　　明治三八年　　　　　　　一五、九三九・二六七
　　　　　　　　三九年　　　　　　　三六、七八三・五〇〇
　　　　　　　　四〇年　　　　　　　二九、一三七・五〇〇
　　　　　　　　四一年　　　　　　　二一、一〇〇・〇〇〇
　　　　　　　　四二年　　　　　　一七五、六四一・六四〇
　　　　　　　　四三年　　　　　　一六〇、七二八・三六〇
　　　　　　合計　　　　　　　　　四四〇、一四〇・二六七