デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
2款 東京商工会
■綱文

第19巻 p.360-364(DK190045k) ページ画像

明治23年5月26日(1890年)

是日栄一、当会会頭トシテ清酒特別税徴収方法ヲ簡便ナラシメンコトヲ、東京府知事侯爵蜂須賀茂韶ニ建議ス。


■資料

東京商工会議事要件録 第四四号・第六―一〇頁 (明治二三年六月)刊(DK190045k-0001)
第19巻 p.360-361 ページ画像

東京商工会議事要件録  第四四号・第六―一〇頁 (明治二三年六月)刊
  第二十四定式会
           (明治二十三年五月二十四日開)
  第四十臨時会
    会員出席スル者 ○三十八名
○上略
次ニ会長(渋沢栄一)ハ是ヨリ臨時会ヲ開キ第一号議案ヲ議スベキ旨ヲ告ゲ書記ヲシテ議案ヲ朗読セシム
○第一号
 別紙ノ事項何卒本会ノ意見トシテ其筋ヘ建議相成度此段建議候也
  二十三年五月       六十番会員  山口豊助
               六十一番会員 酒井泰
  東京商工会々頭
    渋沢栄一殿
    清酒特別税徴収方法ニ改正ヲ要スル義ニ付建議
 謹テ明治二十二年三月二十日東京府令第十五号ヲ以テ発セラレタル特別税徴収方法ヲ案スルニ、清酒輸入営業者ガ市内ヘ清酒ヲ輸入スルニハ其清酒ノ入着スル毎ニ先ツ其樽数ヲ記載シタル書面ヲ撿査所ニ差出シ、然ル後撿査官吏ノ出張ヲ請フテ数量ノ撿査ヲ経、一樽毎ニ必ズ撿査済ノ証印ヲ受ケザルヲ得ズ、蓋シ市内ヘ入津スル商品ヨリ此種ノ特別税ヲ徴収スルニハ固ヨリ相当ノ取締ヲ要スル事勿論ナルベシト雖トモ、其手続ノ極メテ繁雑ナルガ為メ営業者ヲシテ非常ノ手数ト時間トヲ空費セシムルニ至ルハ是本員等ノ深ク遺憾トスル所ナリ
 従来市内ヘ輸入スル所ノ清酒ハ概ネ水路ヨリ大川口ヘ達シ、各営業者ハ随テ着スレバ随テ陸揚ゲシ、之ヲ各自ノ持蔵又ハ枝蔵ニ入レ、或ハ市内ノ仲買人ニ売渡シ、或ハ更ニ千住品川其他近国ヘ再輸出スル等其間毫モ運転ヲ拘束セラルヽ事ナクシテ営業甚ダ便利ナリシガ客年四月一タビ前掲ノ方法ヲ実施セラレタル以来、苟モ清酒ト称スベキモノハ其輸出入毎ニ綿密ノ撿査ヲ要スル事トナリテ其運転円滑
 - 第19巻 p.361 -ページ画像 
ヲ失シ、之ガ為メ各営業者ハ往々其商機ヲ誤ルノ不幸ニ遭逢セリ、抑モ東京市内ヘ輸入スル清酒ハ毎年無慮八十万樽ニ下ラズ、随テ季節ニヨリテハ毎日大川口ヘ輻輳スルモノ四五千樽以上ニ達スル事通例ニシテ、殊ニ風雨数日ニ連リ陸揚ケニ差閊ヲ生ズル場合ニ際シテハ入津ノ貨物渋滞堆積シテ其樽数殆ド万ヲ以テ数フルニ至ル事アリ然ルニ此等夥多ノ貨物ヲ逸々書面ニテ撿査所ヘ届出テ毎樽撿査ヲ経テ各々之ニ証印ノ押捺ヲ受ケザルヲ得ズトスルハ是活溌機敏ヲ貴ブ営業者ノ大ニ困難トスル所ナリ
 蓋シ東京市区改正ノ如キ公共ニ関スル大事業ヲ経営スルニ当リ、市民ヲシテ其費用ヲ分担セシムルハ敢テ不当ニアラズシテ其幾分ヲ補充スル為メニ清酒ノ如キ市内ヘ輸入スル商品ニ特別税ヲ賦課セラルルハ亦固ヨリ已ムヲ得ザル所ナリト雖トモ、独リ其徴収ノ手続繁雑ヲ極ムル為メ納税者ヲシテ非常ノ困難ヲ感セシムルハ豈甚ダ遺憾ナルニアラズヤ、故ニ願ハクバ現行ノ徴収方法ニ相当ノ改正ヲ加ヘラレ、例ヘバ清酒特別税ハ輸入毎ニ逸々撿査シテ徴収スル事ナク、既往数年間ニ於ケル実際ノ輸入高ヲ平均シテ予メ其税額ヲ定メ置キ、之ヲ輸入営業者ヨリ一纏メニシテ徴収セラルヽカ、若クバ又其撿査法ヲ今少シク簡便ニシ毎樽逸々証印ヲ押捺スル等ノ手数ヲ省キ、水路ヨリ入ルモノハ本船ニ於テ、陸路ヨリ入ルモノハ停車場其他便宜ノ場所ニ於テ積荷ノ儘送状ト照合シテ其現数ヲ撿査セラルヽト云フガ如ク、要スルニ一方ニ於テハ収税者ヲシテ充分予算ノ税額ヲ収入スルヲ得セシメ、又一方ニ於テハ納税者ヲシテ可成其手数ト時間トヲ省略スルヲ得セシムルノ方法ヲ実施セラレ度、此段建議仕候也
会長(渋沢栄一)曰ク、各員ノ参考ノ為メ過日来幹事会ニテ本案ヲ審議シタル顛末ヲ略述スヘシ、初メ建議者ヨリ提出シタル議案ハ清酒特別税ヲ恰モ受負税ノ如キモノニ改メタシトノ趣旨ナリシガ、其後幹事会ヲ開キ府庁ノ主務員ニモ参席ヲ請フテ之ヲ審議シタルニ、其精神ハ敢テ不可ナシト雖トモ之ヲ受負税ニ改ムル時ハ或ハ入府税ノ性質ニ抵触スルノ嫌アリ、又斯ノ如クスル時ハ再輸出ノ際戻税ヲ請フ者アルニ当リ其処分ニモ差支アルヘシトノ論アリ、依テ其後建議者ハ更ニ之ヲ再調シテ提出シタルガ其要旨ハ徴収ノ方法ヲ簡易ニシ、寧ロ戻税ノ制ヲ廃スヘシト云フニ在リ、依テ重テ幹事会ヲ開キテ之ヲ審議シタルニ此戻税ノ制ハ曩ニ本会ノ熱心ニ要望シタル所ナルニ今之ヲ廃スヘシト云フハ甚ダ軽挙ニ失スルニ似タリ、故ニ戻税ヲ廃スヘシト云フノ一項丈ケハ暫ク之ヲ除ク方穏当ナラントノ説ニ一致シタリ、依テ其後建議者ハ幹事ノ意見ニ同意シ再応修正ノ上之ヲ提出シタリ、是即チ只今朗読シタル第一号議案ナリ
本案ハ各員異議ナク全ク原案ニ決シ、直チニ之ヲ府知事ニ上呈スルニ決ス(本案ハ理事本員ニ於テ少シク修正ノ上五月廿六日附ヲ以テ之ヲ蜂須賀東京府知事ヘ進達シタリ、依テ其全文ハ参考部第六号ニ掲グ)
   ○参考部第六号ハ本文ト等シケレバ略ス。


東京商工会々外諸向往復文書 第四号(DK190045k-0002)
第19巻 p.361-362 ページ画像

東京商工会々外諸向往復文書 第四号
                 (東京商工会議所所蔵)
 - 第19巻 p.362 -ページ画像 
    (農商務大臣ヘ上申案)
今般本会ヨリ清酒特別税徴収方法ニ改正ヲ要スル義ニ付東京府知事閣下ヘ建議書進達仕候間、別紙謄本一部相添此段上陳仕候也
                 東京商工会々頭
  明治二十三年五月廿七日         渋沢栄一
    農商務大臣 陸奥宗光殿


東京商工会議事要件録 第四六号・第二―五頁 (明治二三年九月)刊(DK190045k-0003)
第19巻 p.362 ページ画像

東京商工会議事要件録  第四六号・第二―五頁 (明治二三年九月)刊
  第二十五定式会
           (明治二十三年八月二十六日開)
  第四十二臨時会
    会員出席スル者 ○二十八名
会長(渋沢栄一)ハ開会ノ趣旨ヲ報ジ、先ヅ定式会ヲ開クベキ旨ヲ告ゲ、規程第五章第二十二条ニ拠リ明治二十三年上半季間定式事務ノ成跡ヲ報告ス
  自明治二十三年一月至同年六月 半季間東京商工会事務報告
○中略
    其筋ヘ建議   四件
○中略
○清酒特別税徴収方法ニ改正ヲ要スル儀ニ付東京府知事ヘ建議
  本件ハ明治二十三年五月、六十番会員(山口豊助)及六十一番会員(酒井泰)ノ建議ニ係リ、其要旨ハ現行清酒特別税徴収方法ニヨレバ徴税ノ手続繁雑ニシテ営業者ノ困難不少ニ付右徴収方法ハ今少シク之ヲ簡便ニ改正シタシト云フニ在リ、即チ明治二十三年五月二十四日第四十臨時会ニ於テ之ヲ審議シタルニ全ク原案ニ可決シタルニ付理事本員ニ於テ少シク字句ヲ修正シ、同月二十六日附ヲ以テ之ヲ蜂須賀東京府知事ニ進達シタリ



〔参考〕東京経済雑誌 第二一巻第五二二号・第六七一―六七二頁 明治二三年五月二四日 ○清酒特別税に関する困難の実況(DK190045k-0004)
第19巻 p.362-364 ページ画像

東京経済雑誌  第二一巻第五二二号・第六七一―六七二頁 明治二三年五月二四日
    ○清酒特別税に関する困難の実況
東京市区改正の費用に充てんが為め、新たに設けたる清酒特別税は、其の実施以来既に一年余を経過せり、実施上の景況果して如何ぞや、抑も此の租税は一種の入市税にして、之を徴収するには多くの手数と費用とを要し、而して営業者の困難を感すること非常なるべきを以て余輩は嘗て此の税法新設の噂を聞くや、斯の如き租税主義の我が東京市に行はれざらんことを希望し、既にして税則の発布あり、将さに実施せられんとするに至りても、尚ほ成るべく其の徴収方法を簡易にせられんことを希望したりしが、其の言終に用ひられず、我か営業者は此の税法実施の為めに非常の困難を感し、或は東京府庁に上申し、或は東京商工会に建議して、此の税法改正の目的を達し、以て其の困難を免かれんと欲せり、余輩親しく其の実況を査察するに、営業者の困難を訴ふるもの決して理由なきにあらず、是れ余輩が玆に清酒特別税に関し営業者困難の実況を述べて、我が予言の誤らざりしことを証し併せて当局有司の一顧を請はんと欲する所以なり
蓋し全国各地より東京市内に輸入し、又た市内より近在及び近国に輸
 - 第19巻 p.363 -ページ画像 
出する清酒は、下り酒・地廻り酒の二種にして、其の輸出入高は去る明治十七年より廿一年に至る五ケ年間の調査に拠れば、輸入は一ケ年に付き平均八十万七千二百七十六樽、輸出は同三十三万六千九百四十二樽にして即ち輸出高は輸入高の四割一分強に居るものなり、然り而して輸入は専ら水路より大川口に到着し、輸出は新橋・新宿・上野等より各地に散布する者にて、水陸共に其の運搬授受の活溌迅速なるや驚くへきものなり、今ま特に輸入の場合に就いて其の概況を記述せんに、荷主より何日郵船会社の滊船に清酒を積荷せりとの報知あるや、各問屋は五大力と称する和船を横浜に出たして滊船を迎へしめ、其の到着を待ち、直ちに積換を為して大川口に回航せしめ、更に艀船を大川口に出だして五大力を迎へしむ、是に於て艀船は五大力の回航するを待ちて陸揚に従事し、其の間殆んど昼夜を問はざるなり、然かるに清酒特別税実施以来は、一々収税官吏の撿査を受けざるべからざるを以て、復た斯の如き活溌なる運転を為す能はざることとなれり、今ま其の概況を記述せんに、荷主より積荷の報知あるや、問屋は前記せるが如く陸揚までの用意を為し、大川口なる収税官吏出張所に到り、何日清酒何千樽着荷すべきに付き、撿査を請ふ旨を書面にて届出で、官吏之を諾して大川口に碇泊せる五大力に到り、数千樽の清酒に就きて一々其の掩へる藁席を発かしめ、側面と鏡との二ケ所に押印し、而して右届出でたる輸入高と徴収する税額とを撿査し、始めて一回の手続を完了することなり、然かるに官吏の出張は午前八時若くは九時より早きを得ず、又午後も三時若くは四時に至れば退出せらるゝを以て、往日の如く払暁若くは夜間に於て陸揚を為すこと能はず、又た官吏には定員あるを以て問屋より人を出だして手伝はしむるも、尚ほ許多の時間を費さゞるへからずして、往日に在りては三十分にて弁したる所も、今日にては三四時間も費さゞるべからず、且つ清酒は最も日光と雨露とを忌むものなるに押印手続の久しきに亘るか為め、往々日光に晒らし雨露に湿さるゝことあり、是に於て乎営業者は第一に時間を空費し、第二に手数を要し、第三に陸揚賃を増加し、第四に清酒に損害を受けざるべからざることなり、輸出の場合に於ても亦た然り、但だ輸出の場合に於ては特別税の下戻を請ふと否とは営業者の随意なるを以て、営業者は官吏の押印を請ふが為めに時間と手数とを費やして商機を失はんことを恐れ、其の下戻を請はずして直ちに輸出するものありと云ふ、以て営業者か此の税法の為めに非常に困難せるを知るべし実際の事情斯の如くなるを以て、余輩は我か営業者が此の税法に対して困難を訴ふるは、決して理由なきものにあらずと思惟するなり、然らは則ち営業者をして斯の如く困難を感せしめず、而して此の租税を徴収するの方法如何、是れ識者の宜しく講究すべき所なり、蓋し此の種の租税は元来善良なるものにはあらざるを以て、全然営業者の困難を除去せんと欲せば、之を廃止せざるべからずと雖、亦た敢て改良の方法なきにもあらさるべし、営業者の意見に曰く、既往数年間に就いて清酒の輸出入高を調査し、其の平均輸入高より平均輸出高を控除し残余高を以て東京市内一ケ年間の消費高と仮定し、之に課するに清酒特別税の総額を以てし、而して清酒輸入営業者より徴収する割合に至
 - 第19巻 p.364 -ページ画像 
りては、清酒輸入営業組合をして之を評定せしむべし」と、是れ固より一種の税法にして、現に北海道に行はるゝ水産税の徴収法は是なり然れども此税法に於ても亦た弊害なきにあらず、且つ徴税の権は営業組合の如きものに委すべからざるを以て、余輩は単に押印の手続を廃止せは、以て大に営業者の困難を減するを得へしと信するなり、蓋し今日営業者が困難を感する所以のものは、数百千樽の清酒に対して一一押印を受けざるべからざるが為めなり、若し夫れ此の事なからん乎大に其の困難を減すへきなり、然かるに此の押印は樽数を計算して、兼て届出てたる着荷樽数と合するや否やを撿して、而して後ち租税を徴収するにはあらずして、租税は単に着荷の届書に拠りて徴収し又た輸出の場合に於て之を下戻すにも亦た積出の届書に拠るを以て、殆んど無用の手続なり、故に此押印手続を廃止せば、以て大に営業者の困難を減ずべきなり