デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
2款 東京商工会
■綱文

第19巻 p.402-413(DK190051k) ページ画像

明治23年8月27日(1890年)

先ニ設置サレシ商法質議会ノ質議未ダ終ラザルニ商法施行ノ期至ルノ虞レアルヲ以テ、是日栄一当会会頭トシテ其施行ヲ明治二十六年一月一日即チ民法実施ノ日マデ延期アランコトヲ司法大臣伯爵山田顕義ニ建議シ、次イデ翌二十八日全国各商業会議所宛書ヲ送リ、各会議所ニ於テモ同一趣旨ノ建議呈出ヲ希望ス。


■資料

東京商工会議事要件録 第四五号・第五―二一頁 (明治二三年八月)刊(DK190051k-0001)
第19巻 p.403-407 ページ画像

東京商工会議事要件録  第四五号・第五―二一頁 (明治二三年八月)刊
  第四十一臨時会  (明治二十三年七月二十一日開)
    会員出席スル者 ○三十二名
会頭渋沢栄一ハ差支アリテ欠席シタルニ付副会頭益田孝会長席ニ着ク
○中略
次ニ会長(益田孝)ハ是ヨリ商法施行延期ノ議案ヲ議スベキ旨ヲ告ゲ書記ヲシテ之ヲ朗読セシム
    商法施行延期ノ義ニ付建議
明治廿三年三月廿七日法律第三十二号ヲ以テ商法ヲ公布セラレタルハ我商業上未曾有ノ大事件ニシテ殊ニ其施行期限ヲ明治廿四年一月一日ト定メラレ、公布ノ時ヨリ施行ノ日マテ僅カニ数月ニ過キザルヲ以テ商法公布ノ後直ニ之ヲ一閲スルニ法文ノ意義深遠ニシテ新奇ノ字句多ク尋常商人ニハ容易ニ了解スル事能ハザルノ条項亦尠ナカラズ、是ニ於テ東京商工会ト銀行集会所ハ特ニ臨時会ヲ開キ衆議ノ上委員各十名ヲ選出シ、共同シテ商法質疑会ヲ開キ、商法ニ明カナル人ニ就テ先ツ疑義ヲ質シ、若シ本法中不便不利ノ条項アラハ其筋ニ向テ意見ヲ開陳シ、或ハ修正ヲ請願セント企テタレトモ本法ハ三十二章千六十四条ニ分チタル大法典ニシテ質疑未ダ半バナラザルニ施行ノ期既ニ至ルノ恐アリ、故ニ商業ニ従事スル者ハ今日殆ント狼狽シテ出ル所ヲ知ラザルノ状況ナリ
人民法律ニ遵従スルノ義務ハ法律ヲ知ラサルノ故ヲ以テ之ヲ免ルヽヲ得サルハ論ヲ待ス、従来我国ノ商業ハ多クハ慣習ニノミ依頼シ商人ノ脳裏ニハ法律ノ思想甚ダ乏シキハ争フヘカラサル事実ナリ、施行ノ日ヨリ能ク商法ノ大旨ヲ解シ、之ニ依テ営業スルヲ得ル者ハ実ニ千百人中一二人ニ過キサルヘク、多数ノ商人ハ知ラスシテ法律ニ違反シ、或ハ扞踵《(奸黠)》ノ徒ノ為メニ法網ニ陥レラレテ意外ノ不幸ヲ蒙ル者陸続黠《(踵)》ヲ接スルモ計リ難シ、故ニ良民ヲシテ法律ニ遵従スルノ義務ヲ全クセシムルニハ施行ヲ延期セサルヘカラス、今姑ク一歩ヲ譲リ施行ノ期日マテニハ商法ノ要領ヲ知ルニ難カラストスルモ従来ノ習慣及ヒ営業方法ノ新法ト抵触スル者蓋シ少ナカラス、俄ニ之ヲ改メント欲スレハ啻ニ無用ノ費用ヲ要スルノミナラス一時非常ノ混雑ヲ生シ商人ヲシテ新法ヲ不便トスルノ念ヲ起サシムルヤ必セリ、若シ施行ノ期ヲ延シ、其間ニ漸次新法ニ依従スルノ準備ヲ為ス事ヲ得ハ急激ノ変動ヲ感セスシテ次第ニ旧習ヲ去リ、新法ニ移ルヲ得ヘク且其間ニ政府ニ於テモ実際商業ニ従事スル者ノ意見志望ヲ聴キ其取ルヘキハ之ヲ取リ以テ万一ノ不便不利ヲ除去セラルレハ善美ノ法典更ニ一層ノ光輝ヲ益スニ至ルヘシ
右ノ理由ニ依リ商法ノ施行ハ数年間ノ猶予ヲ与ヘラレン事切望ノ至ニ堪ス、然レトモ近年諸般ノ会社陸続トシテ興リ、其弊害亦少ナカラサルヲ以テ政府ハ之ヲ憂慮セラレ、新法典中独リ商法ノ施行ヲ早クスルノ必要ヲ感セラレタルモ知ルヘカラス、蓋シ諸会社ノ過度ニ勃興シタルハ唯之ヲ管束スル法律無キカ為メノミナラス別ニ他ノ原因アルカ如シト雖トモ、会社ニ関スル法律無キカ為メニ会社組織ノ完全ナラサルモ之ヲ制裁スル事能ハサルノ害ハ決シテ之レ無シト謂フヘカラス、且
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ツ会社事業ハ一般ノ商業ニ比スレハ古来ノ習慣ト其関係甚タ深カラス新法ノ下ニ立ツモ敢テ大難事ニ非サルヘシ、故ニ商法全体ノ施行延期ニシテ行ハレサレハ商法中会社ニ関スル条項ト之ト連絡セル商業登記簿及ヒ破産ニ関スル条項ノミ先ツ之ヲ実施シ明年ヨリ新設ノ会社ハ一一之ヲ遵守シ既設ノ会社ニ在テハ可成既定ノ組織ヲ保存シ、若シ改正ヲ要スル点アラハ若干ノ期間ニ之ヲ執行スルヲ許サハ仮令ヒ商法全体ノ執行ヲ延期セサルモ円滑ニ新法ヲ実施スル事ヲ得ルハ疑無シ、右建議致候本会ニ於テ可決致候ハヽ本会ノ名ヲ以テ其筋ヘ建議相成度候也
  明治廿三年七月十一日  東京商工会々員 阿部泰蔵
    東京商工会々頭 渋沢栄一殿
二番(阿部泰蔵)曰ク、余ハ即チ建議者ナルニ付一応本案ノ趣旨ヲ玆ニ略陳スベシ、抑モ此商法ハ三月二十七日附ヲ以テ発布セラレタレトモ余輩ガ官報ニヨリテ始メテ之レヲ見タルハ四月二十六日ニシテ即チ公布ヨリ実施ニ至ル迄其猶予期限ハ僅々八ケ月ニ過ギズ左レバ先達テ以来本会及銀行集会所ニテ委員ヲ設ケ目下研究中ナレトモ何分此商法ハ千余条ヨリ成レル大法典ニシテ、特ニ其字句ニ至リテハ恰モ横文字ヲ縦記シタルガ如ク了解ニ苦シム廉少カラザレバ、委員ガ此僅々数月ノ中ニ研究ヲ遂ゲ其意見ヲ報告スルハ実際甚ダ困難ナリト信ズ、蓋シ世間ニハ一般人民ハ法律ノ明文ヲ知ラザルモ可ナリ、代言人ニ依頼スレバ足レリト云フノ説アリ、成程訴訟法ノ如キ若クハ刑法ノ如キ人民其明文ヲ知ラザルモ左程不都合ヲ感ズル事ナシト雖トモ、此商法ニ至リテハ是迄ノ慣習ト支吾スルケ条少カラザルニ付、商人ガ之ヲ知ラザル時ハ甚シキ不都合アリ、若シ又一歩ヲ譲リ仮ニ此僅々数月ノ中ニ商法ノ大意ヲ知ルヲ得ルトスルモ之ニ遵依セントスルニハ或ハ帳簿ヲ引直シ契約ヲ改ムル等種々ノ準備ヲ要スル事ニテ、若シ其準備ヲ急速ニ仕遂ゲントスル時ハ之ガ為メ非常ノ手数ト費用トヲ懸ケザルベカラズ、是商法実施ノ延期ヲ必要ト信ズル所以ナリ、尤会社ノ如キハ近頃創記シタル者ニシテ其平常為ス所ハヤヽ旧慣ニ関係ナクシテ新法ニ遵依スルモ普通ノ商人ニ比スレバ左迄ノ困難ヲ感ゼザルガ如シ、且ツ泡沫会社ノ流行ノ如キモ畢竟斯カル取締法ノ設ナキヨリ致シタルノ事情ナキニアラザレバ商法全体ノ中例ヘバ商事会社其他会社ニ関スル部分丈ケハ来年一月ヨリ実施シ、其他普通ノ商人ニ関スル部分ハ今後数年間其施行ヲ延期セン事ヲ望ム
十六番(益田克徳)曰ク、抑モ商法中ニハ大ニ従来ノ慣習ト支吾スルノケ条少カラズシテ、若シ急速ニ之ヲ実施スル時ハ商業者ハ之ガ為メ貴重ナル財産及時間ヲ空費セザルベカラズ、是商業者ノ最モ困難トスル所ナリ、故ニ余ハ熱心ニ本案ヲ賛成ス、蓋シ商法ハ一地方商業ノ為メニ発セラレタルモノニアラザレバ今本会ガ商法施行ノ延期ヲ請フニハ全国商業者ノ輿論ニ依ルニアラザレバ其目的ヲ達シ難シ、故ニ全国商業会議所聯合シテ延期ノ建議ヲ其筋ヘ提出セン事ヲ望ム
三番(梅浦精一)曰ク、商法施行延期ノ事ニ就テハ曩ニ元老院ニ於テモ全会ノ可決ヲ得テ内閣ヘ意見書ヲ呈セラレタル趣ナルガ、頃日
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之ニ対スル当局大臣ノ弁駁書ナリトシテ新聞紙上ニ記載スル所ヲ見テモ内閣ノ決心ハ蓋シ之ヲ断行セラルヽニ在ルモノヽ如シ、夫レ元老院ハ我ガ立法府ニシテ其議決ハ内閣ノ常ニ重キヲ置カルヽ所ナルニモ拘ラズ、猶内閣ニ於テ之ヲ採用セラルヽノ様子ナキヲ見レバ、今本会ガ商法施行延期ノ建議ヲ為シテ内閣ノ決心ヲ動カサントスルハ是実ニ容易ノ業ニアラズ、故ニ本会ガ其筋ヘ建議スルニ当リテハ十六番(益田克徳)ノ説ノ如ク全国商業会議所ノ賛成ヲ求メ、要スルニ全国商業者ノ輿論ニヨリテ其目的ヲ達スル事ヲ期スベシ
二十番(大倉喜八郎)曰ク、余ハ原案ヲ賛成シ、且ツ十六番(益田克徳)ノ説ヲ賛成ス
二番(阿部泰蔵)問テ曰ク、過刻十六番(益田克徳)ハ全国商業会議所聯合云々ト述ヘタルガ、是ハ全国商業会議所委員ノ聯合会ヲ開キテ建議案ヲ議セシムルノ意ナルヤ
十六番(益田克徳)荅テ曰ク、余ガ全国商業会議所聯合云々ト述ベタルハ独リ本件ノミニ止マラズ今後商業上緊要ノ問題生ズル時ハ可成全国商業会議所委員ノ聯合会ヲ開キテ之ヲ議シタキノ精神ナリ蓋シ本案ノ如キハ只商法施行ヲ延期スベシト云フニ在リテ其主旨極メテ短簡ナレバ態々斯カル聯合会ヲ開クヲ要セズ、先ヅ本会ヨリ其筋ヘ建議書ヲ上呈シ、然ル後其写ヲ全国商業会議所ヘ送リテ賛成ヲ求メ同意ナルニ於テハ同一ノ趣旨ヲ以テ其筋ヘ建議アリ度旨ヲ照会スル丈ケニテ然ルベキ見込ナリ
三十二番(吉田幸作)曰ク、余ハ大体ニ於テ原案ヲ賛成ス、蓋シ建議者ハ会社ニハ弊害多キニ付之ニ関スル部分丈ケハ実施スル方可ナリト述ベタレトモ、抑モ近来会社熱ノ熾ナリシハ敢テ取締法ノ設ナキガ為メニアラズシテ要スルニ時ノ流行之ヲ然ラシメタルノミ左レバ今日ニ至リテハ其流行消滅シタルガ為メ別段取締法ノ設ナキモ其熱度大ニ冷却シタルニアラズヤ、故ニ余ハ一歩ヲ進メ全部ノ延期ヲ建議セン事ヲ望ム、而シテ十六番(益田克徳)ノ説ノ如キハ余ノ大ニ賛成スル所ナリ
十一番(辻粂吉)曰ク、余モ三十二番(吉田幸作)ノ説ノ如ク全部ノ延期ヲ望ム、蓋シ原案ニハ只数年ノ延期トアレトモ是ハ少シク漠然ニ失スルニ付何年迄ト云フガ如ク其期限ヲ明記セン事ヲ望ム
会長(益田孝)曰ク、諸君ノ注意迄玆ニ一言ス、諸君ガ商法施行ノ延期ヲ論ゼラルヽニ当リテハ可成事実ニ就テ商法実施ノ困難ナル理由ヲ述ベラレタシ、然ル上ハ仮令其廉々ハ直接ニ建議書中ニ明記セズトスルモ自ラ新聞紙上ニ登載セラルヽ事アリテ間接ニ会員諸君ガ商法ニ対スル感情ヲ其筋ヘ貫徹セシムルニ於テ其効少カラズト信ズ
二十九番(山中隣之助)曰ク、会長ノ注意ハ尤ナレトモ余ハ商法発布以来未ダ其半ヲ通読セザル程ナレバ商法中斯々ノ不都合アリト云フテ其ケ条ヲ指摘スルヲ得ズ、思フニ会員諸君ト雖トモ亦同様ナルベシ、之ヲ要スルニ余ハ年限ヲ定メテ商法全部ノ施行延期ヲ其筋ヘ建議スルハ甚ダ適当ノ事ト信ズ、而シテ十六番(益田克徳)
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ノ説ハ余モ同意ニシテ本会ハ先ヅ其筋ヘ建議シタル後之ヲ全国商業会議所ニ通牒シテ各会議所ヨリモ同一ノ建議ヲ提出セシメ、然ル後若シ其事行ハレザルニ於テハ更ニ各会議所委員ノ聯合会ヲ開キ帝国議会ニ向テ建議書ヲ提出スベシ
六十四番(笹瀬元明)曰ク、余モ全部延期ノ説ヲ賛成ス、蓋シ此目的ヲ達セントスルニハ全国商業会議所一団体トナリテ共同一致ノ建議ヲ為サン事ヲ望ム、否ラザレハ其効能自ラ薄弱ナルノ恐アリ
二番(阿部泰蔵)曰ク、過刻来諸君ノ中ニ全国商業会議所委員聯合会ヲ開クノ説モアリタレトモ、斯ノ如クスル時ハ緩漫ニ失シ時機ヲ誤ルノ恐モアレバ、是ハ暫ク別問題トシ兎ニ角本会ハ先ヅ一日モ早ク其筋ヘ建議書ヲ上呈セン事ヲ望ム、又諸君ノ中会社ニ関スル部分ヲ実施スベシト云フ時ハ論勢簿弱《(薄)》ナリトノ説アリタレトモ、抑モ会社条例ノ制定ハ数年前ニ在リテ吾人ノ共ニ希望シタル所ナリシニ、今本会ガ全部ノ延期ヲ望ム時ハ世間或ハ本会ヲ以テ全ク会社ノ取締ヲ好マザル者ト誤解スルノ恐アルニ付、今本会ヨリ商法施行ノ延期ヲ建議スルニ当リテ会社ニ関スル部分ニ限リ之ヲ実施スベシト云フハ甚ダ穏当ナル意見ナリト信ズ、且ツ三十二番(吉田幸作)ハ近来会社熱ノ熾ンナリシハ全ク流行ノ然ラシメタル所ニシテ取締法ノ設ナキガ為メニアラズト論ズレトモ、是甚ダ不安心ノ説ナリ、今本会ガ仮ニ五年或ハ六年ヲ期シテ商法全部ノ施行延期ヲ請フトセンニ其間会社熱再燃シテ若シ輓近ノ如キ弊害ヲ再生スル事アラバ此事ニ就テハ本会其責ニ任ゼザルヲ得ザルベシ、又余ハ会社ニ関スル部分ヲ実施スベシト論ズレトモ必ズシモ現ニ商法ニ規定スル通リニ之ヲ実施スベシト云フニアラズ、若シ調査ノ上不都合ノケ条モアラバ之ガ改正ヲ其筋ヘ求ムルモ可ナリ
三十二番(吉田幸作)曰ク、二番(阿部泰蔵)ハ頻ニ会社ニ関スル部分ヲ実施スベシト論ズレトモ、抑モ利ノ在ル所人ノ之ニ就クハ人情ノ常ナリ、若シ会社ノ創起ヲシテ利益アラシメンカ仮令条例ヲ以テ之ヲ抑制セントスルモ豈得ベケンヤ、現ニ今日会社熱ノ衰ヘタルハ是自然ノ制裁ナルニアラズヤ、由是視之余ハ到底会社ニ関スル部分ヲ実施スベシト云フノ必要ヲ発見スル事能ハザルナリ
二十九番(山中隣之助)曰ク、夫レ会社ト雖トモ法律上ヨリ之ヲ見ル時ハ亦是一個ノ商人タルニ過ギズ、然ルニ同一ノ商人中ニ区別ヲ立テ甲ニハ商法ヲ実施シ乙ニハ之ヲ実施スベカラズト云フハ豈不公平ノ至ナラズヤ
七十番(矢島作郎)曰ク、余モ要スルニ全部ノ施行延期説ヲ賛成ス、而シテ此事タル頗ル重大ノ件ナルニ付全国商業会議所ノ同意ヲ求ムル事ハ固ヨリ可ナリト雖トモ、此際聯合会ヲ開テ建議ヲ一致セシメントスル時ハ機ヲ失スルノ恐アレバ、兎ニ角一日モ早ク其筋ヘ建議書ヲ差出シ、然ル後各会議所ヘ通牒スベシ
二十九番(山中隣之助)曰ク、全部ノ法律中一部ヲ実施シ一部ヲ実施セザルト云フハ多ク其例ヲ聞カズ、而シテ此建議ハ全国商業会議所ノ意見ヲ聞キタル後其筋ヘ上呈スル時ハ少クモ二ケ月位ノ時日ヲ要シ大ニ時機ヲ失スルノ恐アルニ付、先ヅ一日モ早ク其筋ヘ建
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議シ、然ル後各会議所ヘ通牒シテ其賛成ヲ求ムル事トスヘシ
二番(阿部泰蔵)曰ク、現ニ民法ノ如キ全部ヲ実施セズシテ其一部丈ケヲ実施スルノ例アルニアラズヤ、左レバ商法ノ中一部ヲ除キ一部ヲ実施スルモ敢テ不都合ナシ、又会社モ一個ノ商人モ法律上ヨリ見ル時ハ同様ナルベシト雖トモ会社ノ方ハ一個商人ニ比スレバ商法ニ遵依スルニ困難少ク且ツ会社ノ方ハ特ニ取締法ヲ要スルノ事情アリ、是余ガ一部ノ延期ヲ要望スル所以ナリ
二十番(大倉喜八郎)問フテ曰ク、原案ニ数年間延期スベシトアルハ凡ソ何年位ノ意ナルヤ
二番(阿部泰蔵)荅テ曰ク、数年トアルハ凡ソ三四年ヨリ五六年位迄ノ意ナリ、決シテ十年若クハ二十年迄ヲモ含ムノ趣旨ニアラズ
六十一番(酒井泰)曰ク、会社ト雖トモ一個商人同様旧来ノ慣習ヲ因襲スル者多シ、故ニ余ハ全部ノ延期説ヲ賛成ス
四十五番(米林乾吉)曰ク、余モ全部ノ延期説ヲ可トス、要スルニ二十九番(山中隣之助)及三十二番(吉田幸作)ノ説ヲ賛成ス
十一番(辻粂吉)曰ク、延期ノ期限ハ来ル明治二十六年一月一日即チ民法ノ実施期限ト同時ナランコトヲ要ス
右ノ外猶多少議論アリタルガ衆議ノ末遂ニ左ノ通リニ決ス
  一商法全部ノ施行ヲ来ル明治二十六年一月一日即チ民法実施ノ日迄延期セラレン事ヲ其筋ヘ建議スル事
  一右建議書ハ理事本員ニ於テ調成シ直チニ司法大臣閣下ヘ上呈スル事
  一右建議書ヲ上呈シタル後其写ヲ全国商業会議所ヘ送リテ賛成ヲ求メ、同一ノ趣旨ヲ以テ其筋ヘ建議アラン事ヲ照会スル事
於是会長(益田孝)ハ本日ノ議事完了シタル旨ヲ述ベ、各員ニ散会ヲ告グ、時ニ午後十一時三十分ナリ
○下略


東京経済雑誌 第二二巻第五三一号・第一一三―一一五頁 明治二三年七月二六日 ○東京商工会臨時会(DK190051k-0002)
第19巻 p.407-409 ページ画像

東京経済雑誌  第二二巻第五三一号・第一一三―一一五頁 明治二三年七月二六日
    ○東京商工会臨時会
同会は去廿一日午後七時より開会、会員阿部泰蔵氏の建議に係る商法施行延期の件に付議事を開く、益田副会頭会長席に就き先づ議事を開くの前に当り、会長は印度の「ジアム、イー、ジアムシツド」新聞記者兼持主シロツフ氏を紹介し、日本印度間貿易に関する一場の演説を請ふ旨を告げ、夫よりシロツフ氏の演説あり、益田氏通弁の労を取れり、此演説殆んど二時間の長きに渉りて局を結び、九時三十分直ちに本会議に取掛り阿部氏提出の建議案を朗読す、尚阿部氏は立て曰く、建議案の精神は諸君已に了承せられたらんと存ずれ@、尚建議案の精神を補はん為め玆に一言為し置き度事あり、商法施行の難事たるは今更申迄もなければ別に贅言を費さず、今吾々に反対の或論者は曰く、人民法律に遵従するの義務は、法律を知らざるの故を以て免るゝを得ざれば表面は悉く知らざるべからざる者なりと雖も、扨て実際は決して知らざるも差支なきは是迄の事実に徴しても明かなり、若し法律の拠らざるべからざる必要あるときは専門家に尋ねて事済むなり、故に
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人民たるものは諸法律を知らざるべからざるとは只表面の事にて、実際諸法律を知悉し得べきものにあらず、又知悉するの必要なきなり、去れば独り商法に限り人民の知悉するを待て施行せざるべからざるの理あらんやと、此論一応は尤もなるが如くなれども是れ一を知て未だ其二を知らざるものなり、成程是迄の法律にして悉く知らずして差支なきものあれども、知らずして差支あるとなきとは其法律の種類にも依るなり、縦令ば訴訟法の如きは或は自ら知らずとも代言人に依頼すれば事済むならん、又刑法の如きは悪を為さば罰あると云ふ事又は悪の大小に依て刑に軽重ありと云ふ事は、刑法を熟読せざるも誰人も善悪の区別の出来得る人は推測し得る処なり、故に是等の法律は知らずと雖も大なる差支なしと雖も商法に至ては然らず、訴訟法の如く専門家に依頼する訳に行かず、又刑法の如く斯くすれば斯くなると云ふ推測の付かざるケ条多ければ、必ず商業に従事するものは銘々に熟知せざるとも大躰を知らざれば、如何なる損害如何なる不幸を蒙むるやも知れず、次に又予が意見は商法の全部を延期する事或は難からん、然らは明年一月より実施して差支なきケ条は実施するも可なり、縦令ば会社に関する条項是なり、近来不信用の会社勃興し経済社会を紊乱する事少からず、且一般の会社も会社条例の制定なき為め種々の不都合も感じ居りし際なれば、此会社に関係の条項即ち商事会社及共産商業組合(第一編第六章残らず)商業登記簿(第一編第二章第十条より第二十二条迄)破産(第三篇残らず)等は明年より実施するも差支なきのみならず又必要の場合多からんと考ふ、尤も既設の会社は従来の仕来りもあり俄に改め難き場合多ければ是には其筋に於ても特別猶予の議ありと聞けば明年一月より実施するものは新設会社に行ふものなりと述べたり、益田氏(克徳)は曰く延期説は至極阿部氏に賛成なり、併し此事を成し遂ぐるには吾々に於て余程の決心なかるべからず、仄に其筋の意向を窺ふに中々容易に吾々の希望を容れらるゝ様子なけれは、之れに当るには我商工会丈の力にては迚ても無覚束と考ふれば、全国各地の商法会議所に照会し、広く賛成を求め、輿論の勢力を以てすべしと述るや二三の賛成者あり、梅浦氏は曰く本案の目的を達する実に容易の事にあらずと思はる、過般元老院に於ても商法延期の議起り、終に同院一致の賛成を得て其意見書を内閣へ提出せり、然るに直に司法大臣より之を反駁する意見書を提出せられたる事は当時既に新聞紙上に上りたる事なるが、元老院の意見を以てすら容易に容れらるるの摸様なし、況して吾々一商工会の建議を容れらるゝの筈なし、去れば全国の輿論を以て之れに当らざるべからず、然れども建議の事一日も早きを要すれば先づ兎に角本会は本会限りの建議書を出し、然る後此事を各地商工会議所に照会し、一致聯合して運動する事を謀るべしと、吉田氏は曰く建議者(阿部氏)の精神は商法全躰の延期に在らずして或部分は明年より実施するも可なりとの事なるが、夫れでは其筋へ建議の力弱きを覚ゆ、ドーデ延期するならば全躰をすべしと述ぶ之れにも二三の賛成者あり、阿部氏は或一部を実施すればとて其筋へ建議の力決して弱くなる筈なし、却て差支なきは差支なしとすれば吾吾の条理尤もに聞へ、他の部分延期を請ふに大に都合善からんと思惟
 - 第19巻 p.409 -ページ画像 
すと弁じ、互に議論あり、山中氏曰く予も全躰延期を可とす、何となれば建議者の説に拠れば会社に関係のケ条は、新設会社に限り明年より実施すると云ふにあるが是れ或は偏頗不公平の嫌なきか、新設会社にのみ困難なる新法を実施せしむるは、恰も明年一月より商業を始むるものは新法に依て営業すべしと云ふと一般にして延期の建議は既設会社に親切にして新設の会社に不親切に当る道理ならずや、且我国に於て「ブールス」の如く法律延期の例あれども法律を半ば施行して半ば延期するの例なき事なれば、全躰延期を可とす、又吾々は此事に付充分決心を定め居れば若し此目的を達する能はざるに於ては、来る十一月は帝国議会の開設もあれば此議会に持出すも、或は吾々の目的を達するの一手段と思へば為念一言なし置くなりと、大倉氏は延期年限に於て建議者は数年の文字を用ゆれども是にては余りボンヤリして分らず、宜しく何年迄と定むべし、辻氏曰く年限を定むるを可とするが其年限は民法施行と同時に致したし、阿部氏曰く数年とあれば少くも二三年の事なれば、別に何年と定むるも果して其年限通り採用せらるるや否や知れず、数年とするも二三年以内の事にあらずと信ずれば是にて差支なしと弁じ、年限の可否に就て二三の論弁あり、夫より会長は議論粗ぼ尽きたるが如くなれば、是より可否を起立に問ひ、結局商法施行は民法施行と同時迄全躰を延期する事を其筋へ建議し、且全国商工会議所へ此旨を照会し賛成を求むる事に決したり、会長は尚此事に付ては臨時会を催す事あるべしと述べて閉会を告げたり、時に午後十一時二十分頃なりき


東京商工会議事要件録 第四六号・第五五―六一頁 (明治二三年九月)刊(DK190051k-0003)
第19巻 p.409-412 ページ画像

東京商工会議事要件録  第四六号・第五五―六一頁 (明治二三年九月)刊
 ○参考部
(第八号)
    ○(商法施行延期ノ件ニ付各地商業会議所ヘ照会書附同件ニ付司法大臣ヘ建議書)
謹啓陳ハ本年三月二十七日法律第三十二号ヲ以テ発布セラレタル商法ノ義ハ、明年一月一日ヨリ施行セラルベキ筈ニ付、本会ニ於テハ夙ニ之ガ研究ニ着手シ、追テ施行ノ際万一不都合ナキ様諸事予メ準備中ノ処、右ハ何分千余条ヨリ成立セル大法典ニシテ殊ニ法文ノ意義解釈シ難キ廉不少、随テ来年一月一日迄僅々数ケ月間ニ其大意ヲ了解シ、相当ノ準備ヲ遂ケ候義ハ甚ダ困難ト存候ニ付、今般本会ニ於テハ右商法ノ施行ヲ民法ト同シク来明治二十六年一月迄延期セラレ度旨ヲ以テ、別紙ノ通リ司法大臣ヘ意見書ヲ提出仕候、然ルニ右商法ノ義ハ元来一地方商業ノ為メニ発布セラレタルモノニアラズシテ、随テ全国商業者ノ輿論ヲ以テスルニアラザレバ到底其趣旨ヲ貫徹シ難ク存候ニ付、此義貴会ニ於テ幸ニ御賛成被下候ハヾ何卒同様ノ趣旨ヲ以テ其筋ヘ意見書ヲ御提出相成候様仕度切ニ希望仕候、依テ此段別紙意見書ノ写ヲ添ヘ御照会申上候也
  明治廿三年八月廿八日
                 東京商工会々頭
                      渋沢栄一
 - 第19巻 p.410 -ページ画像 
    大阪商業会議所
    外            (各通)
     五十四個ノ商業会議所宛
 尚々今後商業ノ利害ニ至大ノ関係ヲ有スル事抦ニシテ全国商業者ノ輿論ヲ定ムルノ必要有之候場合ニハ、全国商業会議所ノ委員便宜ノ土地ニ相会シテ聯合ノ会議ヲ相開キ候歟、若クハ其他ノ方法ニヨリ相互ニ気脈ヲ通シ候様致度、既ニ当方ニ於テハ右商法修正ノ義ニ付各地商業会議所委員ノ聯合会ヲ開ベシトノ議モ有之、依テ此義ハ別ニ御相談可申上候間左様御承知被下度候、此旨添テ得貴意候也
(別紙)
    商法施行ノ延期ヲ要スル義ニ付意見
 明治二十三年三月二十七日法律第三十二号ヲ以テ発布セラレタル商法ハ実ニ我ガ商業社会ニ容易ナラザル関係ヲ及ボシ、且ツ其施行期限ハ明治二十四年一月一日ト定メラレタルニ付、我ガ商人ハ直チニ其研究ニ従事シ、目下之ガ準備ニ汲々タリト雖トモ、抑モ商法ハ我国未曾有ノ大法典ニシテ殊ニ新奇ノ事項ヲ規定シタル箇条頗ル多ク随テ従来法律ノ思想ニ乏シキ商人ニ取リテハ其一字一句ノ正義サヘ尚且ツ之ヲ解スルニ苦シムノ情況アリ、況ンヤ此僅々数月ノ間ニ於テ通篇ノ大意ヲ了知シ能ク之ニ応ズルノ準備ヲ遂ゲントスルハ、実ニ非常ノ困難タラザルヲ得ザルナリ
 蓋シ我国ノ商業ハ猶幼穉ニシテ是迄其秩序ノ備ハラザルガ為メ往々放恣ニ失スルノ弊アリ、故ニ今商法ヲ制定シテ之ニ相当ノ規正ヲ加ヘラルヽガ如キハ固ヨリ本会ノ希望スル所ナリ、然リト雖トモ仮令其商法ハ何程完全ナリトスルモ未ダ相当ノ準備ヲ為スヲ得ズシテ直チニ之ニ遵依セザルヲ得ズトスルハ商人ノ最モ困難トスル所ナリ、是本会ガ特ニ其施行ノ延期ヲ要望スル所以ナリ
 論者或ハ曰ク、本来商人ハ法律ヲ研究スベキ者ニアラサレハ仮令商法ノ施行ヲ延期シテ之ヲ緩クスル事三四年ナラシムルモ、到底無益ニ属スヘシ、寧ロ速ニ之ヲ施行スルニ如カスト、抑モ本会カ商法施行ノ延期ヲ望ムモノハ自ラ進ンテ其法理ヲ研究センカ為メニアラスシテ、只商人ヲシテ商法中ニ如何ナル事項ノ規定シアルヤヲ解セシメ、其自ラ守ルヘキハ自ラ之ヲ守リ否ラサルモノハ代言人若クハ法律家ニ相談シテ之ヲ守ルノ計ヲ為ス等、要スルニ商人ヲシテ商法ニ違背セサル様相当ノ準備ヲ為サシメンカ為メナリ、聞ク所ニ拠レハ欧米諸国ニ在リテモ人民一般ハ法律ノ明文ヲ知ル者ニアラスト此言実ニ然リ、然リト雖トモ之レ以テ我カ商法ノ急施ヲ要スル理由ト為スハ是豈至当ノ論ト謂フヘケンヤ、抑モ欧米諸国ノ商法ノ如キハ従来其国ニ行ハルヽ商人ノ習慣ヲ採輯シタルモノニシテ、学者之ヲ別称シテ商人制定法ト云フト聞ケリ、左レハ其商法ハ敢テ新奇ノ事項ヲ規定スルモノニアラスシテ、要スルニ其精神ハ商人自ラカ作為シタル所ニ外ナラス、故ニ商人ハ仮令其明文ヲ熟知セサルモ能ク安心シテ之ニ遵依スルヲ得、之ヲ譬フルニ商法ハ猶一種ノ訳書ニシテ商人ノ習慣ハ其原書ナルカ如シ、商人既ニ原書ノ作者タリ、其訳書ノ明文ヲ解セサルニ於テ何カアランヤ、然ルニ今熟々我国ノ場合ニ就テ之ヲ案スルニ其情況大ニ彼ト異ナルモノアリ、何ソヤ、今回発布
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セラレタル商法中ニハ我商人カ従来夢想セサル新奇ノ事項ヲ規定スルモノ多クシテ、先ツ之ヲ解セサル時ハ安心シテ之ニ遵依スルヲ得サル事是ナリ、且ツヤ欧米諸国ニ在リテハ重立タル商人ハ必ス顧問トシテ適当ナル法律家ヲ雇使スルカ故ニ、大ニ便利ヲ得ルト雖トモ我国ニ於テハ商業猶幼穉ニシテ一個ノ商人カ斯カル法律家ヲ雇使スルカ如キハ決シテ其実力ノ許サヽル所ナリ、仮ニ之ヲ許ストスルモ其雇使ニ応スヘキ適当ナル人物ニ乏シキヲ如何セン、殊ニ地方ノ如キハ其人物ニ乏シキト謂ハンヨリハ寧ロ絶無ト云フモ可ナリ、是我カ商人カ商法ニ遵依セントスルニ当リ、相当ノ準備ヲ尽ス為メ特ニ多少ノ歳月ヲ要スル所以ナリ
 政府カ商法施行期限ヲ明示セラレタル以来、我カ商人ハ頻ニ其準備ニ汲々タリト雖トモ自ラ其規定スル事項ヲ解釈スルヲ得ス、又代言人或ハ法律家ニ就テ相談ヲ為スモ亦未タ充分信頼スヘキ忠告ヲ得ル能ハス、於是乎我カ商人ハ一層恐怖ノ念ヲ発シ、皆私ニ謂ヘラク、我カ最モ信頼スヘキ専門ノ代言人又ハ法律家ニシテ尚其準備ニ欠クル所アリ、商人タルモノ誰ニ依リテ法律ヲ守ルヘケンヤト、本会カ商法施行ノ延期ヲ望ムモノ実ニ已ムヲ得サルナリ
 都下有名ノ法律家ニシテ新定商法ヲ非難スル者不少、其言ヲ聞クニ或ハ曰ク民法トノ関係明瞭ナラサルカ為メ他日必ス紛議ヲ起スヘシト、或ハ曰ク訴訟法ト抵触スル所アリト、曰ク何、曰ク何ト、其説ク所一ニシテ足ラス、本会ハ尽ク之ヲ記臆セサルノミナラス、其説頗ル高尚ニシテ能ク普通ノ思想ヲ以テ其当否ヲ判シ難シト雖モ、想フニ此等ノ説亦必ズシモ皆取ルニ足ラズト謂フベカラズ、故ニ政府ニ於テハ暫ク商法ノ施行ヲ延期セラレ、一方ニ於テハ此等ノ説ヲ参照セラレ、一方ニ於テハ此等ノ輩ニモ充分研究ノ余地ヲ与ヘラレン事、是亦本会ノ私ニ希望スル所ナリ
 論者或ハ又曰ク、商人ニシテ商法ヲ不都合ナリトセバ其不都合ナル条々ヲ指摘セサルベカラズ、若シ否ラザル以上ハ商法ハ完全ナルモノト為スベシト、嗚呼此論ノ如キハ実ニ不親切ヲ極ムルモノト謂フベシ、夫レ挙証ノ責任ノ何レニ在ルヤヲ論シテ、本案訴訟ノ当否ヲ第二段ニ置ク事ハ、往々法廷ノ弁論ニ於テ聞ク所ナリト雖トモ、是豈国家ノ大事ヲ議スル所以ナランヤ、当局者カ斯ノ如キ浅薄ナル弁論法ヲ喜バザルハ本会ノ確信スル所ナリ、之ヲ要スルニ本会カ玆ニ商法施行ノ延期ヲ望ムノ要旨ハ、敢テ必ズシモ商法ヲ不都合ナリトシテ之ヲ望ムニアラス、只商人ハ勿論法律社会ヲシテ充分ノ準備ヲ為サシメンカ為メ、之ニ相当ノ歳月ヲ仮スヘシト云フニ外ナラサルナリ、蓋シ本会ガ少クモ是迄研究シタル所ニ拠レバ、逐条ニ就キ私ニ見ル所ナキニアラズト雖トモ、其得失ハ自ラ別問題ニ属スルヲ以テ、其意見ハ猶充分研究ヲ遂ケタル上、他日更ニ之ヲ開陳セン事ヲ期ス
 蓋シ人民法律ニ遵従スルノ義務ハ法律ヲ知ラザルノ故ヲ以テ之ヲ免ルヽヲ得ザルハ勿論ニ付、今若シ商人ニ相当ノ準備ヲ為スノ余地ヲ与ヘズシテ、直チニ商法ヲ断行セラルヽニ於テハ多数ノ商人ニ知ラズ識ラズ之ニ違反シ、或ハ奸黠ノ徒ノ為メニ法網ニ陥レラレテ意外
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ノ不幸ヲ蒙ル者陸続踵ヲ接スルモ計リ難シ、且ツ従来我ガ商人ノ習慣及営業方法ニシテ現ニ商法ニ規定スル所ト抵触スルモノ亦少シトセズ、然ルニ今俄ニ之ヲ改メント欲スル時ハ、之ガ為メ商人ハ啻ニ無益ノ費用ヲ要スルノミナラズ、一時商業上ニ非常ノ激変ヲ生ジ、其極遂ニ国家ノ経済ニ容易ナラザル影響ヲ及ボサンモ知ルベカラズ是本会ガ前途私ニ憂慮スル所ナリ
 以上陳述スル所ニ由リテ之ヲ観レバ新定商法ヲ来ル明治二十四年一月一日ヨリ施行セラルヽハ商人ノ最モ困難トスル所ニシテ、要スルニ国家ノ経済上ニ甚ダ不利ナルモノト信スルニ付、何卒其施行期限ハ更ニ来ル明治二十六年一月一日迄延期セラレン事ヲ望ム、依テ此段建議仕候也
  明治廿三年八月二十七日
                 東京商工会々頭
                      渋沢栄一
    司法大臣 伯爵 山田顕義殿


(大阪商法会議所)月次報告 第二五号・第一三頁 明治二三年九月刊 曩きに東京商工会よりの照会に係る(別紙甲号)○略スに対する回答書(DK190051k-0004)
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(大阪商法会議所)月次報告  第二五号・第一三頁 明治二三年九月刊
    ○曩きに東京商工会よりの照会に係る(別紙甲号) ○略ス に対する回答書
拝復陳者去八月廿八日付を以て商法施行延期を要する義に付き御意見附帯之御照会に対し本月十六日臨時総会に御来意の委曲提出討議仕候処、結局其条項の如何を討究せず啻に貴会の御意見に賛成仕、同様の趣旨を以て延期を建議するが如きよりは、尚一層可及的の調査研究を経て本会の意嚮を確定したる上何分の運動相試むべしとの決議にて有之候間、兎に角御来示之趣旨に憑り意見書呈出には御同意致兼候間右様御承了被下度此段及御回答候也
                大坂商法会議所会頭
  明治廿三年九月廿五日
                      田中市兵衛
  東京商工会々頭
    渋沢栄一殿


東京商工会残務整理報告 第二―三頁 (明治二五年)刊(DK190051k-0005)
第19巻 p.412-413 ページ画像

東京商工会残務整理報告  第二―三頁 (明治二五年)刊
○明治二十四年八月二十五日日本橋区坂本町東京銀行集会所ニ於テ東京商工会最終ノ臨時会ヲ開ク、当日出席シタル会員左ノ如シ ○二十名氏名略当日午後四時開議、会頭渋沢栄一君ハ開会ノ趣旨ヲ告ゲ、先ヅ明治二十三年七月ヨリ同二十四年七月ニ至ル定式事務ノ成蹟及明治二十三年二月ヨリ同二十四年七月ニ至ル会計収支ノ決算ヲ報告ス
  自明治二十三年七月至同二十四年七月 東京商工会事務報告
○中略
    其筋ヘ建議   三件
○商法施行延期ノ義ニ付司法大臣ヘ建議
  本件ハ明治二十三年七月十一日二番会員(阿部泰蔵)ノ建議ニ係リ其要旨ハ本年三月法律第三十二号ヲ以テ公布セラレタル商法ニ就テハ既ニ銀行集会所ト協議ノ上委員ノ質義中ニ係リ、追テ不都合ノ箇条モアラバ其筋ヘ修正ノ建議ヲ上呈スベキ筈ナレトモ何分
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右商法ハ商業上未曾有ノ大法典ナルガ故ニ質義未ダ半バナラザルニ施行ノ期既ニ至ルノ恐アルニ付、此際研究ノ余地ヲ得ン為メ先ヅ数年ノ施行延期ヲ其筋ヘ請願スベシト云フニアリ、即チ明治二十三年七月二十一日第四十一臨時会ニ於テ之ヲ審議シタルニ衆議ノ末商法ノ施行ハ来ル明治二十六年一月一日即チ民法実施ノ日迄延期セラレン事ヲ其筋ヘ建議シ、且ツ其謄本ヲ全国ノ商業会議所ヘ送リテ賛成ヲ求ムベシト決シタルニ付其後理事本員ニ於テ文案ヲ調成シ、八月二十七日附ヲ以テ之ヲ山田司法大臣閣下ニ進達シタリ
○下略
   ○本巻明治二十三年五月二十四日(第二八二頁)、同二十三年八月十二日(第三九四頁)、同二十三年九月四日(第四二九頁)、同二十三年十二月十三日(第四三四頁)、同二十四年九月二十一日(第四六六頁)、本節第三款東京商業会議所明治二十五年六月六日、同二十六年九月二十二日、同二十六年十二月二十五日、同二十七年六月二十七日、同二十七年十二月二十日、同二十八年一月十二日、同二十九年九月十四日、同三十年六月二十八日、同三十年十二月二十七日、同三十一年十二月二十四日、同三十二年二月十日ノ各条参照。