デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
2款 東京商工会
■綱文

第19巻 p.424-429(DK190053k) ページ画像

明治23年8月28日(1890年)

是日栄一当会会頭トシテ大阪商法会議所会頭田中市兵衛ニ書ヲ送リ、現下不景気ノ原因及其救治策ニ関スル大阪商法会議所ノ決議書並ニ調査書ニ就
 - 第19巻 p.425 -ページ画像 
キ意見ヲ述ブ。


■資料

東京商工会議事要件録 第四六号・第三一―三二頁 (明治二三年九月)刊(DK190053k-0001)
第19巻 p.425 ページ画像

東京商工会議事要件録  第四六号・第三一―三二頁 (明治二三年九月)刊
  第二十五定式会
           (明治二十三年八月二十六日開)
  第四十二臨時会
    会員出席スル者 ○二十八名
○上略
次ニ会長(渋沢栄一)ハ今般大阪商法会議所ヨリ不景気救済ノ問題ヲ総会ニ附シ其原因並ニ其筋ヘ救済策ノ実施ヲ促スベキ方法ヲ議決シタルニ付、本会ノ賛成ヲ得タキ旨ヲ以テ其決議書並ニ調査書ヲ添ヘ照会アリタル旨ヲ告ゲ、其回答方ニ就キ各員ノ意見ヲ問フタルニ衆議ノ末右ハ金融逼迫調査委員ノ提出シタル報告書ノ趣旨ニ基キ相当ノ回答書ヲ製シテ之ヲ送附スベシト云フニ決ス(本件ニ就テハ八月二十八日附ヲ以テ大阪商法会議所ヘ回答書ヲ送リタリ依テ其往復書ハ参考部第十号第十一号及第十二号ニ掲グ)
○下略


東京商工会議事要件録 第四六号・第六四―六九頁 (明治二三年九月)刊(DK190053k-0002)
第19巻 p.425-427 ページ画像

東京商工会議事要件録  第四六号・第六四―六九頁 (明治二三年九月)刊
 ○参考部
(第十号) ○略ス
(第十一号)
    ○(不景気ノ原因並ニ救済策調査ノ件ニ付大阪商法会議所ヨリ照会書)
拝啓仕候近時不景気之原因並ニ之カ救済策ニ付テハ貴会議所ニ於テモ予テ種々御意見有之候事ト奉存候、当会議所ニテハ昨年来米価騰貴株式下落金融円滑ナラズ商業不景気且ツ新設会社之困難等事態黙視シ難キ場合ニ可有之思考仕候ニ付、不景気救済問題ヲ総会ニ附シ調査討究ヲ尽シ且ツ原因救済並ニ其筋ヘ救済策実施ヲ促スベキ方法等凡別紙之通決議致シ、且各地商法会議所及商工会ヘ決議ノ次第ヲ報告シ連絡ヲ通シテ可成賛成ヲ求メ相共ニ運動可仕様決定相成候ニ付右之趣旨ヲ貴会議所ヘ報告シ御賛成相求メ候、尤其原因並ニ救済策ニ付テ御賛成難相成ノ事項有之候得者別ニ貴所ノ御意見ヲ以テ不景気救済之方法御研究相成候様仕度、之ヲ要スルニ当所ノ目的ハ右決議ノ次第ヲ御報告致シ可成貴所ノ賛成ヲ仰キ貴所ヨリモ其筋ヘ建議セラレン事ヲ希望シ若シ別段ノ御意見有之事柄ハ貴所ノ御意見ヲ以テ之ニ処セラレ帰着スル所今日ノ世況回復ヲ企図スルニ外ナラサル次第ニ有之候、右御了承之上貴所会員一般ヘ此旨御協議相成候様希望仕候此段御照会申上候也
  明治廿三年八月七日         大阪商法会議所
  (別紙)
    総会決議報告書
 七月廿九日大阪商法会議所総会ノ決議如左
   不景気ノ原因並ニ救済策
  原因
   第一 新事業ノ勃興
       其一 金利ノ低落 其二 投機ノ流行 其三 会社法
 - 第19巻 p.426 -ページ画像 
ノ未制定
   第二 金融ノ不円滑
       其一 固定資本ノ増加 其二 信用ノ欠乏
   第三 米価ノ騰貴
       其一 昨年米作ノ減少 其二 本年麦作ノ凶歉 其三地方農民ノ売惜
   第四 恐慌
       其一 米価ノ騰貴 其二 株式ノ下落 其三 金融ノ逼迫
  救済策
   第一 本年米作ノ程度ヲ測リ外国米ヲ購入スル事
   第二 日本銀行担保品ノ区域ヲ拡張シ固定資本ヲ融解スル事
   第三 日本銀行ニ於テ他所為換手形ノ再割引ヲ拡張セラルベキ事
   第四 国私立銀行ニ於テ商業取引ノ便利ヲ謀ルベキ事
   第五 各商工組合ニ於テ信約取引ヲ拡張シ手形ノ流通ヲ盛ニスベキ事
   第六 東京大阪日本銀行本支店ノ金利歩合ヲ均一ナラシムル事
   第七 動産銀行及農業貸付銀行ヲ設立シ農商工ノ隆盛ヲ謀ル事
  前記救済策ノ実施ヲ促カサンカ為メ左ノ方法ヲ取ルベキ事
   一本件ハ重要ノ事抦ナルヲ以テ役員ノ内上京シテ其筋ヘ建議スベキハ建議シ之ガ実施ヲ促ス事
     但シ上京費用ハ本年度予算臨時費ヲ以テ支出スベシ
   一各地商法会議所ヘ決議ノ次第ヲ報告シ連絡ヲ通シテ共ニ其実施ヲ促カシ世況回復ヲ謀ル事
      (以上原案之通)
   一前記救済策ノ第一・第二・第三・第六・第七項ハ政府ノ其筋又ハ日本銀行ヘ建議シ、第四・第五実施ノ為メニハ調査委員ヲ設ケ手形取引拡張ノ方法細目ヲ調査スル事(但目下調査着手中)此一項追加
追白
 右源因並ニ救済策ニ付テハ曩キニ説明報告書ヲ印刷シ一部送呈仕置候事ニ御座候御通読相願候
 本件ニ付其筋ヘ建議ノタメ当時役員上京仕候此段申添致候
(第十二号)
    ○(以上二件ニ対スル回答書)
○上略 又今般貴会ニ於テ不景気ノ原因並ニ救済策ヲ御取調ノ上其実施ノ方法御規画中ニ付本会ニ於テモ賛成候様別紙報告書ヲ添ヘ御照会ノ趣承知仕候、依テ右報告書ヲ一覧仕候処不景気ノ原因ニ就テハ本会ノ見ル処モ要スルニ貴会ノ御意見ト大同小異ニシテ其間別段ノ異見ハ無之候得共、本会ノ見ル所ニ拠レバ今回ノ不景気ハ専ラ事業進歩ノ勢ニヨリ生ジタル反動ニシテ今人為ノ手段ヲ以テ強テ株券ノ価ヲ高メ或ハ金利ノ割合ヲ低下スルト云フガ如キ直接ナル救済策ヲ其筋ヘ求ムルハ然ルベカラザルニ付、此際只全躰商業ノ実力ヲ助長スベキ間接救済策ノ
 - 第19巻 p.427 -ページ画像 
実施ニ尽力致候方可然見込ニ御座候、先ハ此段及御回報候也
                 東京商工会々頭
  明治廿三年八月二十八日
                      渋沢栄一
  大阪商法会議所会頭
    田中市兵衛殿


東京商工会残務整理報告 第二―一三頁 (明治二五年)刊(DK190053k-0003)
第19巻 p.427 ページ画像

東京商工会残務整理報告  第二―一三頁 (明治二五年)刊
○明治二十四年八月二十五日日本橋区坂本町東京銀行集会所ニ於テ東京商工会最終ノ臨時会ヲ開ク当日出席シタル会員左ノ如シ ○二十名氏名略当日午後四時開議、会頭渋沢栄一君ハ開会ノ趣旨ヲ告ゲ、明治二十三年七月ヨリ同二十四年七月ニ至ル定式事務ノ成蹟及明治二十三年二月ヨリ同二十四年七月ニ至ル会計収支ノ決算ヲ報告ス
  自明治二十三年七月至同二十四年七月 東京商工会事務報告
○中略
    雑事    十二件
○中略
○不景気ノ原因並ニ救済策調査ノ義ニ付大阪商法会議所ヨリ照会ノ件
  明治二十三年八月七日附ヲ以テ大坂商法会議所ヨリ今般不景気救済ノ問題ヲ総会ニ附シ其原因並ニ救済策ヲ議決シタルニ付本会ノ賛成ヲ得タキ旨ヲ照会アリタルニ付、即チ同年八月二十六日第四十二臨時会ニ於テ其回答方ヲ審議シタルニ衆議ノ末右ハ金融逼迫調査委員ノ提出シタル報告書ノ趣旨ニ基キ相当ノ回答書ヲ製シテ之ヲ送附スベシト云フニ決シ、依リテ同月二十八日附ヲ以テ前陳議決ノ趣旨ニヨリ回報シタリ
○下略



〔参考〕東京経済雑誌 第二二巻第五二八号・第一―三頁 明治二三年七月五日 我か商法会議所は宜しく奮て不景気挽回の策を示すべし(DK190053k-0004)
第19巻 p.427-429 ページ画像

東京経済雑誌  第二二巻第五二八号・第一―三頁 明治二三年七月五日
    我か商法会議所は宜しく奮て不景気挽回の策を示すべし
農事は之を老圃に問へ、商事は之を老商に聴け、蓋し人各々其の業とし職として慣熟する所は他人の敢て端睨すべからざるものあれはなりアダム、スミツスの自由貿易説は「行ふべからず」として時の英相ピツトに斥けられて、而してピールか之れを僅々四十余年の後ちに断行したるものは何ぞや、マンチヱスター府商人の一団結、即ち商法会議所の議決、之れか先駆となりて以て世論を動かせしに因るならずや、仏の賢相コルベールをして其固守せる牽制的商政説を緩うせしめ、仍て以て大に仏国累代の疲弊を救ひ、国威を伸張せしものは何ぞや、巴里商人の一言によるにあらずや、グラスゴーの商法会議所は蘇格蘭を不測の凶難より救ひ、ヱジンバラーの商法会議所は愛爾蘭を非常の災厄より済ひ、ロンドン及びマンチヱスターの商法会議所は啻たに国会の議決を左右するのみならず、時に或は世界の議論実業を支配するの権力を有す、若し夫れ今後世界の大勢か愈々各邦をして商業を以て立国の基たらしむる以上は、実際之れに従事して其の事務に鍛錬せるものゝ言は、勢ひ世に尊重せられざるを得ざるなり
従来我か国に設立せる商法会議所は、或は政府の勧誘に起り、或は二
 - 第19巻 p.428 -ページ画像 
三有志者の発意に成りて、稍々自然に発し必要に迫まられて顕はれたるにはあらざるか如し、故に其の維持の方法の如きも悉とく鞏固なりと云ふべからす、種々困苦の中に辛うして設立せるもの、蓋し十中の八九なるべし、而して其の機関の運転自在ならす、神経の動作鋭剛ならず、肝腎要めの時に当り往々にして其の用を為さゞるの憾みなきにあらざるなり、若し夫れ我か国商法会議所の目的志望をして単に商品の俵包を改正し、或は商業上一部の規則改正等を建議請願するか如き末件細事に止まらしめは余輩復た何をか云はん、苟くも商法会議所《チヱムバー、ヲブ、コムマース》と云へる名目を以て其の実に副はしめんとするからには、余輩は今日の有様を見て焉んぞ望蜀の感なからんや、今ま之を例へば即ち近年の如く金融動揺し、商業混乱し、財産変動し、工業攪擾し、為替相場は高低して外国貿易方さに萎縮し、穀価非常に騰奔して細民自から養ふ能はず、労働者飢饑に迫ると雖とも資本家も亦た実に苦熱の中に在り正に是れ一国の生産力衰へて却て消費力の盛んなるの時なり、是の時に当りて我か国の商法会議所は曾て力を奮て大躰の救済法を講せし乎余輩の謭劣なる其の終に聞くを得ざるを惜しむ
方今の世奇才子多し、其の智識は円満に其の神経は鋭利なり、彼等は変に臨み機に応して能く奇策を立てゝ、往々にして人意の表に出づ、故に時としては時好に投し、時としては実功を奏することありと雖とも、唯々惜らくは要するに一時の籌策に過きずして永年の基本たらざるを、又た惜むらくは一個々々の私意にして、衆多団結の公意にあらざることを、五指交る交る打つは一拳に若かず、先きに行はれたる金融緩和策の効績が、世人の予想の如くならざりしもの、夫れ或は此の憾あることを表明せざるや
此の如き時に当りて私交上の勧告、宴席の建言は力弱くして効験薄し世の識者たるもの宜しく整々堂々原因を探り、理由を陳じ、更らに其の救済の方案を講して以て当局者の参考に供し、将た其の求むる所を明言すべきなり、思ふに其の最も便宜ありて適当なる団結は豈に夫れ商法会議所にあらずや、余輩の之を望むこと久し、而して今まや之れを大阪に得たり
信書の報する所によるに、大阪なる商法会議所は去月二十七日商業不景気挽回策の調査委員会を開らきて委員の意見を報告せりと、該報告は原因と救済策との二部に分ち頗ぶる躰裁を備へたるものゝ如し、今ま其の要領を掲ぐれば
(一)不景気の原因
 (一)新事業の勃興 一金利の低落、二投機の流行、三会社法の未制定
 (二)金融の不円滑 一国定資本《(固)》の増加、二信用の欠乏
 (三)米価の騰貴 昨年米作の減少、二本年麦作の凶歉、三地方農民の売惜
 (四)恐慌 米価の騰貴、二株式の下落、三金融の逼迫
(一)不景気救済策
 (一)本年米作の程度を測り外国米輸入を奨励せらるべき事
 (二)日本銀行担保品の区域拡張し固定資本を融解せしむる事
 - 第19巻 p.429 -ページ画像 
 (三)日本銀行に於て地所為替手形の再割引を為すの道を開く事
 (四)日本銀行東京大阪本支店の金利歩合を均一にする事
 (五)国私立銀行に於て商業取引の便利を謀るへき事
 (六)各商組合に信約取引を拡張し手形の流通を謀る事
 (七)興業銀行若くは動産銀行を起し長期低利の貸付方法を設けらるべき事
而して大阪商法会議所は本月上旬全会員を招集して審議すべしと云ふ余輩は未た其の論拠と断定の善悪精粗を詳かにせず、固より妄りに之れか批評を加ふべからずと雖とも、兎に角該会議所の為す所、誠とに嘉みすべく、余輩は謹んで其の労を謝せんと欲するなり、且つ又た其の不景気の原因を探くるや、条目十数に渉ると雖とも、悉とく是れ余輩か従来本誌に於て原因中に数へ立てたるものにして、暗に其の意見の吻合せしことを喜ぶなり、唯々其の救済の策に至りては余輩の同意する能はざる条件或は出づべき歟、そは全会の議決を経たる後ちにあらざれば論弁するを得ずと雖とも、彼の長期若くは低利貸附に関する意見に就ては、余輩は充分擲重《(鄭)》に審議せられんことを該会員諸君に望まざるを得ず、蓋し此の如き方法は畢竟自然ならざる経済現象を社会に生して、却て弊害を後世に醸すの恐あればなり、余輩は大阪商法会議所の美挙を賛す、而して其の報告、殊に救済策の成るべく有効ならんことを希望して已まざるなり、我国十数の商法会議所は、此際何ぞ坐して黙する乎、黙して而して止まるべきや、余輩切に諸君に請ふ、奮興蹶起以て救済の策を講究せられんことを、世は諸君か高見卓説の出づるを待つこと夫れ猶ほ大旱の雲霓のごとし