デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

  詳細検索へ

公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.2.19

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
3款 東京商業会議所
■綱文

第20巻 p.11-98(DK200004k) ページ画像

明治25年6月6日(1892年)

是ヨリ先当会議所、目下施行延期中ナル商法ニ修正ヲ加ヘン為メ委員ヲ挙ゲ法学博士梅謙次郎ヲ聘シテ之ヲ研究ス。是日栄一当会議所会頭トシテ司法大臣子爵田中不二麿・農商務大臣河野敏鎌ニ其修正意見ヲ具陳ス。


■資料

第一回東京商業会議所事務報告 第一〇頁 明治二五年四月刊(DK200004k-0001)
第20巻 p.11-12 ページ画像

第一回東京商業会議所事務報告  第一〇頁 明治二五年四月刊
一商法修正ノ儀ニ付会員益田孝君外五名ヨリ建議ノ件
 本件ハ明治二十四年十月十五日会員益田孝・益田克徳・中野武営・佐久間貞一・大倉喜八郎・村田雷蔵諸君ヨリノ建議ニ係リ、其要旨ハ商法中実際ニ適セザル箇条少カラザルヲ以テ、此際調査委員ヲ撰定シ該法ノ条項ヲ調査セシメ、修正ノ意見ヲ定メテ其筋ヘ建議スベシト云フニ在リ、依テ同年十一月十四日第九回ノ臨時会議ニ附シタルニ、委員十名ヲ撰ヒ調査セシムル事ニ決シ、即チ投票ヲ以テ左ノ諸君ヲ撰挙シタリ
                   益田孝君
                   渋沢栄一君
                   奥三郎兵衛君
                   中野武営君
                   大倉喜八郎君
                   佐久間貞一君
                   梅浦精一君
                   益田克徳君
                   太田実君
                   村田雷蔵君
 - 第20巻 p.12 -ページ画像 
 其後委員ハ顧問トシテ適任ノ法律家ヲ聘セン事ヲ請求シタルニ付、即チ法学博士梅謙次郎氏ニ依嘱シ、目下委員ニ於テ其修正案調査中ニ付、追テ其報告ヲ待チテ更ニ会議ニ附スル見込ナリ
一商法修正ノ儀ニ付益田孝君外二十四名ヨリ建議ノ件
 本件ハ会員益田孝・小林義則・鈴木亮蔵・説田彦助・半田善八・柴田藤兵衛・方波見平兵衛・大住喜右衛門・森岡平右衛門・徳田孝平中沢彦吉・小松正一・守田重次郎・高島勘六・松本伊兵衛・田中佐次兵衛・高木与兵衛・藤田武次郎・太田実・大倉喜八郎・橋本辰三郎・金沢三右衛門・伊井吉之助・加藤忠蔵・小布施新三郎諸君ヨリノ建議ニ係リ、其要旨ハ商法ノ修正ハ極メテ緊要ノ件ナルニ付、政府ニ於テ一日モ早ク其準備ニ着手セラレン事ヲ其筋ヘ建議シタシト云フニ在リ、然ルニ其後会員益田孝君外五名ヨリ提出シタル商法修正ノ建議可決シタルヲ以テ、本件ノ建議者ハ之ヲ撤回シタリ


渋沢栄一書翰 穂積陳重宛 (明治二十四年)一一月二七日(DK200004k-0002)
第20巻 p.12 ページ画像

渋沢栄一書翰  穂積陳重宛 (明治二十四年)一一月二七日  (穂積男爵家所蔵)
拝啓然者過日御内話申上候商業会議所ニ於て此度商法修正之意見提出致度ニ付其調査委員之集会ニて右顧問として梅氏を相願度と申事ニ決定仕候、就而ハ此取調ニ関し其報酬等も如何ニ致候而可然哉、又右調査手続も何様之手順ニ可致哉、兎ニ角表向同氏ヘ依頼之事を申入承諾之上ハ近日一夕梅氏及委員一同相会し右等打合之上取極申度、尤も前書報酬も可成ハ格別之高ニ不相成様致度と存候ニ付同氏ニも余り数多之時日を労せしめさる様と存候、就而ハ其詳細御内談之為萩原源太郎さし上候間御聞取被下、尚貴兄より梅氏ヘ懇親上御相談被下其回答模様早々御申越可被下候右拝願如此御坐候 匆々不一
  十一月廿七日              渋沢栄一
    穂積陳重様


第二回東京商業会議所事務報告 第三―一三頁 明治二六年四月刊(DK200004k-0003)
第20巻 p.12-13 ページ画像

第二回東京商業会議所事務報告  第三―一三頁 明治二六年四月刊
一商法修正ノ義ニ付司法・農商務両大臣ヘ建議及貴族・衆議両院ヘ請願ノ件
 本件ハ前回ニ報告シタルカ如ク、其後委員ニ於テ屡々会議ヲ開キ、商法ノ全編ニ付キ修正ヲ要スル条項ヲ審議シ、其修正案及建議請願書案ヲ草シ報告シタルニ付、明治二十五年六月三日第十三回ノ臨時会議ニ付シ其可決ヲ経、同月六日ヲ以テ左ノ如ク之ヲ田中司法大臣及河野農商務大臣ヘ建議シ、且ツ貴族院及衆議院ヘ請願シタリ
    商法ノ修正ヲ要スル義ニ付建議
 商法ヲ制定シテ之ヲ施行スルハ商業上ノ信用ヲ保護シ其取引ヲ確実ニスル所以ニシテ我政府ガ明治二十三年三月法律第三十二号ヲ以テ商法ヲ発布セラレタルモ蓋シ此意ニ外ナラザルベシ、然リト雖トモ本会議所ノ審案スル所ニ拠レバ夫ノ商法中ニハ往々慣習ニ背馳シ実際ニ適応セサルノ規定少シトセズ、今若シ修正ヲ加ヘズシテ俄カニ之ヲ実施スルニ於テハ大ニ我商業ノ秩序ヲ攪乱シ商人ヲシテ非常ノ困厄ヲ感セシメ其極却テ意外ノ結果ヲ生スル事ナシトセズ、是ヲ以
 - 第20巻 p.13 -ページ画像 
テ本会議所ハ其修正ヲ切望シ爾来黽勉怠ラズ之ヲ実際ニ質シ之ヲ法理ニ諮ヒ別冊修正案 ○次掲ヲ調成シテ敢テ之ヲ閣下ニ呈ス、閣下本会議所ノ意見ヲ採納セラレ速ニ之ヲ修正シ実施セラレン事希望ノ至ニ堪ヘズ
 右本会議所ノ決議ニ依リ謹テ建議仕候也
  明治二十五年六月六日
            東京商業会議所会頭 渋沢栄一
    司法大臣  子爵 田中不二麿殿
    農商務大臣 河野敏鎌殿
   帝国議会ヘノ請願書案ハ本案中建議ノ文字ヲ総テ請願ト改メ閣下ヲ貴院ト改ム


商法及商法施行条例修正案 東京商業会議所編 明治二五年六月刊(DK200004k-0004)
第20巻 p.13-98 ページ画像

商法及商法施行条例修正案 東京商業会議所編
                    明治二五年六月刊
    商法及商法施行条例修正案
第一条 明治二十三年三月二十七日法律第三十二号商法中改正刪除スルコト左ノ如シ
   (欄外記事) ○(参照)トシテ掲載セル原文ナリ。本資料ニオイテハコレヲ便宜各修正案条文ノ前ニ編入セリ
        原文
   第一条 商事ニ於テ本法ニ規定ナキモノニ付テハ商慣習及ヒ民法ノ成規ヲ適用ス
第一条 商事ニ関シ本法ニ規定ナキモノニ付テハ商慣習ヲ適用シ商慣習ナキトキハ民法ノ成規ヲ適用ス但公安ニ関スル規定ハ此限ニ在ラス
 原文ニハ「商慣習及ヒ民法ノ成規ヲ適用ス」トアリテ其適用ノ順序ヲ規定セサルカ故ニ若シ商慣習ト民法ノ成規ト並ヒ存スル時ハ何レヲ適用スヘキカ明了ナラス、蓋シ公安上ノ法律ニ反スルノ慣習ハ之ヲ適用スヘカラサルハ勿論ナルヘシ、然リト雖モ商慣習ト民法ノ成規ト並ヒ存シテ然モ其成規ハ右商慣習ヲ禁止セサル場合尠ナカラス、如斯場合ニ於テハ主トシテ商慣習ヲ適用セサルヘカラス、想フニ立法者ノ精神モ亦此ノ如クナルヘシト雖モ行文上ヨリ見ルトキハ商慣習存スル時ト雖モ又常ニ民法ヲ適用スヘキカヲ疑ハシム、是本文ノ修正ヲ要スル所以ナリ、他ハ字句ノ修正ニ過キス
  (欄外記事)
   第四条 商取引トハ売買・賃貸又ハ其他ノ取捌ノ方法ニ因リ産物・商品又ハ有価証券ノ転換ヲ以テ利益ヲ得、又ハ生計ノ為メニスル旨趣ニテ直接又ハ間接ニ行フ所ノ総テノ権利行為ヲ謂フ、殊ニ左ニ掲クルモノハ商取引ニ属ス
     第一 産物ノ交換・販売ヲ目的トスル取引
     第二 製造・工業及ヒ手職業ニ係ル作業及ヒ取引
     第三 人及ヒ物ノ運送ニ係ル作業及ヒ取引
     第四 航漕ニ係ル作業及ヒ取引
     第五 建築ニ係ル作業及取引
     第六 銀行営業ニ係ル作業及ヒ取引
     第七 流通シ得ヘキ信用証券ノ発行及ヒ流通ニ係ル作業及
 - 第20巻 p.14 -ページ画像 
ヒ取引
     第八 商ノ為メニ為シ又ハ受クル倉庫寄託及ヒ其他ノ寄託ニ係ル作業及ヒ取引
     第九 船舶ノ売買・質入・抵当・構造・修繕・艤装及ヒ乗組ニ係ル作業及ヒ取引
     第十 取引所ノ取引
     第十一 保険ニ係ル作業及ヒ取引
第四条 商取引トハ動産・不動産ノ運転ニ由リテ利益ヲ獲ルヲ以テ目的トスル諸種ノ行為ヲ謂フ
  (欄外記事)
   第五条 其他左ニ掲クルモノハ之ヲ商取引ト看做ス
     第一 公ニ開キタル店舗・帳場若クハ其他ノ営業所ニ於テ又ハ公告ヲ為シテ営ム両替及ヒ利息若クハ其他ノ報酬ヲ受クル金銭貸付
     第二 新聞紙及ヒ其他ノ定期印刷物ノ発行
     第三 商事ニ於ケル各般ノ代理及ヒ委任
     第四 公ナル周旋所及ヒ代弁ノ営業
     第五 公ナル共歓場及娯遊場ノ営業
     第六 受負作業ノ引受
第五条 左ニ掲クルモノハ常ニ之ヲ商取引ト看做ス
第一 商取引ニ関スル代理及ヒ仲立
第二 商取引ノ附属行為
第三 指図証券ノ発行・裏書・引受及ヒ無記名証券ノ発行
 原文第四条及ヒ第五条ハ啻ニ文章ノ冗長ニシテ意義ノ明瞭ナラサルノミナラス種々不完全重複ノ廉等アリ、殊ニ後ノ第八条ト相牴触スルカ如キハ其尤甚シキモノナリ、本文ノ如クスルトキハ文字簡明ニシテ而カモ諸般ノ商取引ヲ網羅シテ遺コス所ナシト信スルナリ
  (欄外記事)
   第七条 左ニ掲クルモノハ之ヲ商取引ト看做サス
     第一 所有地又ハ借地ヨリ収穫シタル産物ヲ売ルコト但営業ノ目的ヲ以テセサルモノニ限ル
     第二 戸戸ニ就キ又ハ道路ニ於テ物品ヲ売リ又ハ労役ヲ供スルコト但常設ノ営業所ヨリ出ヅルモノハ此限ニ在ラズ
     第三 専ラ労力賃ノミヲ得ル目的ニテ物品ヲ製作シ又ハ労役ヲ為スコト
     第四 他人ノ為メニ働作又ハ労役ヲ賃約スルコト但本法中此等ノ契約ニ関スル規定ヲ掲ケサルトキニ限ル
第七条第二号 戸戸ニ就キ又ハ道路ニ於テ物品ヲ売買シ又ハ労役ヲ供スルコト但常設ノ営業所ヨリ出ツルモノハ此限ニ在ラス
第五号追加 商事会社ノ有限責任社員トナルコト、其会社ノ業務ヲ担当スルトキ亦同シ
 原文ニハ単ニ「戸戸ニ就キ又ハ道路ニ於テ物品ヲ売リ云々」トアリテ小間物屋・魚屋等ハ皆ナ本条ノ規定ニ依リ商取引ヲ為サヽルモノト看做サレテ、却テ是レヨリ瑣細ナル紙屑買・硝子片買等ノ如キハ商
 - 第20巻 p.15 -ページ画像 
取引ヲ為スモノト看做サルヽノ大不権衡ヲ生スルヲ以テ、本文第二号ノ修正ヲ必要トセリ
 本文第五号ヲ加ヘタルハ凡ソ商事会社ノ社員ハ共同シテ一ノ商業ヲ営ムモノニ外ナラサルカ故ニ、純理ヨリ之ヲ言フトキハ修正第五条第二号ニ依リ商事会社ノ社員トナルハ皆ナ商取引ナリト謂ハサルコトヲ得ス、然リト雖モ合資会社及ヒ株式会社ノ有限責任社員トナルヲモ商取引トスルトキハ破産ノ厳法ニ服従セサルヘカラサルノミナラス、商法ノ能力ヲ具フヘキカ故ニ大ニ会社ノ成立ヲ妨碍スルノ恐アルヲ以テナリ
  (欄外記事)
   第八条 不動産ニ関スル権利ヲ目的トスル契約ハ商取引トセス
    但射利ヲ旨趣トスル買得及ヒ転売ハ此限ニ在ラス
第八条 削除
 本条ニ於テハ第一「射利ヲ旨趣トスル買得及ヒ転売」ニ限リテ之ヲ商取引トシ、其他ノ不動産上ノ取引殊ニ借家ヲ営業トスルカ如キハ之ヲ商取引ト看做サス、是レ前後頗ル不権衡ナリト謂ハサルコトヲ得ス、第二外国ニ於テ通常不動産上ノ取引ヲ以テ商取引トセサル理由ハ主トシテ法律ニ通暁セサル商事裁判官ヲシテ法理ノ錯雑セル諸種ノ不動産問題ヲ判決セシメサルニ在リ、然ルニ我邦ニ於テハ別ニ商事裁判官ヲ置カサルカ故ニ同一ノ危険ナシ、是レ本条ヲ削除シタル所以ナリ
  (欄外記事)
   第十条 契約ニ因リ独立シテ義務ヲ負フコトヲ得ル各人ハ一時ノ商取引ナルト常時ノ商業ナルトヲ問ハス総テ商ヲ為ス事ヲ得
    独立シテ義務ヲ負フコトヲ得サル者ト雖モ其後見人ニ依リ亦商ヲ為スコトヲ得但後見人ハ商業登記簿ニ其登記ヲ受ク可シ
第十条第二項 独立シテ義務ヲ負フコトヲ得サル者ト雖モ其後見人ニ依リ亦商ヲ為スコトヲ得、但後見人商業ヲ営マント欲スルトキハ特ニ親族会ノ許可ヲ受ケ商業登記簿ニ其登記ヲ受クヘシ
商業ヲ営ムノ許可ヲ得タル後見人ハ其許可セラレタル商業ニ関シテハ如何ナル行為ト雖モ独断ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得、但親族会ニ於テ其権限ヲ減縮スルコトヲ得
後見人ノ権限ニ加ヘタル制限ハ仮令之ヲ登記スルモ善意ノ第三者ニ対シテ其効ナシ
 商業ヲ営ムハ大事ナリ、尋常民事ノ取引ヲ為シ又ハ単独ノ商取引ヲ為スト日ヲ同シウシテ語ルヘカラス、故ニ特ニ親族会ノ許可ヲ必要トセリ、然リト雖モ一タヒ其許可ヲ得タル上ハ民法ノ規定ニ従ヒ毎時親族会ノ許可ヲ得ヘキ様ニテハ到底機敏ヲ貴フ商業ヲ営ムコト能ハサルカ故ニ之ニ全権ヲ委スルコトヽセリ(民法人事編第百九十四条ヲ参観セヨ)、但親族会ニ於テ其権限ヲ制限スルコトヲ得ルハ固ヨリナリト雖モ其制限善意ノ第三者ニ対シテ効アリトスルトキハ第三者ノ損害ヲ被ムルモノ多カルヘク随テ人皆ナ後見人ト取引ヲ為スコトヲ好マサルニ至ルノ虞アルカ故ニ善意ノ第三者ニ対シテハ其効ナ
 - 第20巻 p.16 -ページ画像 
シトシタルナリ、又原文ニ拠レハ単独ノ商取引ヲ為スニモ登記ヲ受クヘキモノトセリト雖モ、是レ頗ル煩ニ堪エサルモノアルノミナラス毫モ其必要アルヲ見ス、是レ本文ノ修正ヲ施シタル所以ナリ
  (欄外記事)
   第十一条 男女ヲ問ハス未成年者ニシテ年齢十八歳ニ満チ且父母又ハ後見人ノ承諾ヲ得テ独立ノ生計ヲ立ツル者ハ商ヲ為スコトヲ得
    右ノ未成年者自己ノ為メ商ヲ為サント欲スルトキハ前項ノ要件ヲ明記シ且自己及ヒ父・母又ハ後見人ノ署名捺印シタル陳述書ヲ管轄裁判所ニ差出シ登記ヲ受ク可シ、然ルトキハ其登記ノ日ヨリ商事ニ於テ総テノ権利及ヒ義務ニ関シ成年者ト全ク同一ナルモノトス
第十一条 男女ヲ問ハス未成年者ニシテ年齢十八歳ニ満ツルモノハ親権ヲ行フ父・母又ハ後見人ノ許可ヲ得テ如何ナル商業ヲモ営ムコトヲ得、但一種又ハ数種ノ商業ヲ営ムノ許可ヲ得タルモノハ其許可セラレタル商業ノミヲ営ムコトヲ得
前項ノ未成年者ハ其年齢ヲ明記シ且ツ許可ヲ与ヘタルモノ及ヒ自己ノ署名捺印アル陳述書ヲ管轄裁判所ニ差出シ登記ヲ受クヘシ、其登記ノ日ヨリ許可セラレタル商業ニ関シテハ成年者ト全ク同一ノ能力ヲ有スルモノトス
如何ナル商業ヲモ営ムノ許可ヲ得タル未成年者ハ其登記ノ日ヨリ民事ニ関シテモ亦成年者ト同一ノ能力ヲ有スルモノトス
商業ヲ営ムノ許可ヲ得タル未成年者未タ営業ニ充分ナル智能ヲ有セサルノ徴候ヲ呈ハストキハ其許可ヲ与ヘタルモノ又之ナキトキハ親族会ニ於テ其許可ノ全躰又ハ一部ヲ取消スコトヲ得、此場合ニ於テハ其未成年者カ成年ニ達スルマテ更ニ許可ヲ与フルコトヲ得ス
 原文ニハ「独立ノ生計ヲ立ツル」ヲ必要トセリト雖モ我輩未タ極メテ瑣細ノ商業ヲ営ムニマテ之ヲ必要トスルノ理由ヲ発見セス、較々盛大ノ商業ヲ営ムモノハ仮令法律ノ命令ナキモ実際ノ需要ニ因リテ必ス独立ノ生計ヲ立ツヘキカ故ニ右ノ法文ハ到底蛇足タルヲ免カレス唯既ニ魚商ヲ営ムニ適当ナル智能ヲ具フル少年未タ必スシモ呉服商ヲ営ムノ智能ヲ具ヘス、況ンヤ銀行商ニ於テヲヤ、是レ第一項末文ノ必要アル所以ナリ
 又原文ニハ「商ヲ為スコトヲ得」ト云ヒ前条ノ文例ニ依レハ単独ノ商取引ヲ為スニモ亦本条ノ条件ヲ必要トセルモノヽ如シト雖モ、手形一枚ヲ発行スルニモ本条ノ条件ヲ必要トスルノ理由アラサルカ故ニ是等ハ皆ナ民法ノ通則ニ放任シ、単ニ一商業ヲ営ムニ就イテノミ本条ノ条件ヲ必要トシタルナリ
 又原文ニハ単ニ「父・母又ハ後見人」トアリ、如何ナル場合ニ父、如何ナル場合ニ母、如何ナル場合ニ後見人ノ許可ヲ必要トスルヤヲ言ハス、是レ固ヨリ民法ノ規定スル所ニ依ルヘシト雖モ、或ハ右三人ノ内誰レニテモ可ナルカヲ疑ハシムルカ故ニ明カニ「親権ヲ行フ」ノ五字ヲ加ヘタリ
 第三項ヲ追加シタル所以ハ凡ソ民事ト商事トヲ分ツハ実際頗ル難シ
 - 第20巻 p.17 -ページ画像 
トスル所ナリ、殊ニ金銭ノ貸借ニ於テ然リトス、故ニ既ニ如何ナル商業ヲモ営ムノ許可ヲ得タル未成年者ハ重キ商事ノ取引ニ関シテ十分ノ能力ヲ有スルモノナルヲ以テ、軽キ民事ノ取引ニ関シテハ固ヨリ其能力アルモノトセンコト法理ニモ合ナヒ又実際ノ便宜ニモ適スルモノト信スルナリ
 第四項ハ一タヒ商業ヲ営ムノ許可ヲ得タル未成年者未タ十分ノ智能ヲ具ヘス、或ハ一朝放蕩ニ耽リ其財産ヲ浪費シ、或ハ常ニ拙劣ノ取引ニ由リテ損失ニ損失ヲ重ヌルカ如キコトアラハ其父母・後見人等ハ豈ニ之ヲ坐視スルコトヲ得ンヤ、是レ此追加ヲ必要トシタル所以ナリ(民法人事編第二百二十一条ヲ参観セヨ)、他ハ皆ナ文字ノ修正ニ過キス
 民法財産編第五百五十条ハ本条ト相抵触スルモノアルカ故ニ之レヲ改メサルコトヲ得スト信スレトモ、今ハ先ツ商法ノミヲ修正セント欲スルヲ以テ敢テ之レヲ言ハス
  (欄外記事)
   第十二条 婦ハ其夫ノ明示又ハ黙示ノ承諾ヲ得テ商ヲ為スコトヲ得、此承諾ハ其婦カ夫ニ遺棄セラレ又ハ夫ヨリ必要ノ給養ヲ受ケサルトキハ之ヲ得ルコトヲ要セス
    婦カ其夫ノ商業ヲ助クルノミニテハ之ヲ商人ト看做サス
第十二条 婦ハ其夫ノ明示又ハ黙示ノ許可ヲ得テ如何ナル商業ヲモ営ムコトヲ得、但一種又ハ数種ノ商業ヲ営ムノ許可ヲ得タルモノハ其許可セラレタル商業ノミヲ営ムコトヲ得
夫カ其婦ヲ遺棄シ又ハ之ニ必要ノ給養ヲ与ヘサルトキ其他民法人事編第七十条ノ場合ニ於テハ婦ハ夫ノ許可ヲ受クルコトヲ要セス
 本条ノ修正モ亦前条ニ同シク単独ノ商取引ニ就イテハ別段ノ能力ヲ必要トセサルニ在リ、是レ欧洲ニ於テモ皆ナ然ル所ナリ(仏国商法第四条・独国商法第七条・白耳義商法第九条・希臘商法第四条・伊太利商法第十三条・澳太利匃牙利商法第七条・瑞西義務法第三十五条・西班牙商法第六条等)
 第二項ニ民法人事編第七十条ヲ援用シタルハ同条ニ列挙セル失踪・禁治産其他瘋癲ノ場合ニ於テハ果シテ夫ノ許可ナクシテ商業ヲ営ムコトヲ得ルヤ否ヤニ就キ多少ノ疑問ヲ生スルノ虞アルヲ以テ之ヲ明言スルヲ必要トシタルナリ
 原文ノ第二項ハ全ク蛇足ニシテ却テ種々ノ臆説ヲ惹起スルノ恐アルヲ以テ之ヲ削除セリ
  (欄外記事)
   第十三条 商ヲ為スコトヲ得ル婦ハ商事ニ於テハ独立人ノ総テノ権利ヲ得、義務ヲ負フ
    婦ハ商ノ債務ニ付テハ婦ノ財産ニ対シテ夫ニ属スル管理権又ハ其他ノ権利アルニ拘ハラス自己ノ全財産ヲ以テ其責任ヲ負フ、但夫ノ承諾ヲ得テ商ヲ為ス場合ニ於テ夫婦間ニ財産共通ノ存スルトキハ共通財産モ亦其責任ヲ負フ
第十三条 商業ヲ営ムコトヲ得ル婦ハ其商業ニ関シテハ独立人ト全ク同一ノ能力ヲ有スルモノトス
 - 第20巻 p.18 -ページ画像 
婦ノ商業上ノ債務ニ関シテハ婦ノ財産ニ対シテ夫カ管理権又ハ其他ノ権利ヲ有スルニ拘ハラス婦ハ其全財産ヲ以テ責任ヲ負フ、但夫ノ許可ヲ得テ商業ヲ営ム場合ニ於テ夫婦間ニ財産ノ共通アルトキハ共通財産モ亦婦ノ商業上ノ債務ノ担保タリ
 本文ハ前条ノ修正ノ結果トシテ字句ニ修正ヲ施シ、併セテ他ノ用語ノ穏カナラサルモノヲ改正シタルノミ
  (欄外記事)
   第十四条 夫婦ノ一方カ商ヲ為シ夫婦間ニ財産共通ヲ為ササルトキ又ハ之ヲ解キタルトキハ商業登記簿ニ登記ヲ受クル為メ其事実ヲ管轄裁判所ニ届出ツル事ヲ要ス
    夫婦ハ共ニ同一商事会社ノ無限責任社員タルコトヲ得ス
第十四条 夫婦ノ一方カ商業ヲ営ム場合ニ於テ若シ夫婦間ニ一ノ財産契約アルトキハ商業登記簿ニ其登記ヲ受クルニ非サレハ第三者ニ対シテ之ヲ援用スルコトヲ得ス
第二項 削除
 原文ニハ第一「商ヲ為シ」トアリ、一商取引ヲ為スニモ夫婦財産契約ヲ登記スヘキモノヽ如キヲ以テ「商業ヲ営ム」ト改メタルナリ
 第二「財産共通ヲ為サヽルトキ又ハ之ヲ解キタルトキ」トアリテ夫婦カ財産共通制ヲ取リタルトキハ之ヲ登記スルニ及ハス他ノ制ヲ取リタルトキハ必ス之ヲ登記スルニ非サレハ登記ノ原則(第二十二条)ニ基キ善意ノ第三者ニ対シテ効ナキカ如シ、然ルニ民法財産取得編第四百二十六条以下ニ拠レハ我邦法定ノ夫婦財産制ハ財産共通制ニ非ス、為メニ頗ル奇怪且ツ不都合ナル結果ヲ醸スヘシ、是レ本文ノ修正ノ実ニ止ムコトヲ得サル所以ナリ
 第三原文第二項ニハ夫婦ノ結社ヲ禁スルノ法文アリト雖モ毫モ之ヲ禁スルノ理由ナク、又民事会社ヲ結フコトヲ禁セサルニ単ニ商事会社ヲ結フコトノミヲ禁スルハ頗ル其当ヲ得サルカ故ニ之ヲ削除セリ
  (欄外記事)
   第十八条 商号・後見人・未成年者・婚姻契約・代務及ヒ会社ニ関スル商業登記簿ハ当事者ノ営業所又ハ住所ノ裁判所ニ之ヲ備ヘ登記及ヒ之ニ関スル事務ハ其裁判所之ヲ行フ
    前項ノ営業所又ハ住所ヲ他ノ地ニ移シタルトキハ既ニ登記シタル事実カ尚ホ存スル場合ニ限リ移転地ニ於テモ亦更ニ其登記ヲ受ク可シ
第十八条第一項 後見人・未成年者・夫婦財産契約・代務及ヒ会社ニ関スル商業登記簿ハ之ヲ当事者ノ営業所又ハ住所ノ裁判所ニ備ヘ其裁判所ヲシテ登記ニ関スル事務ヲ司ラシム
第三項 既ニ登記シタル事項ニ変更ヲ生シ又ハ其事項消滅ニ帰シタルトキハ其変更又ハ消滅ハ更ニ之ヲ登記スルニ非サレハ善意ノ第三者ニ対シテ其効ナシ
 第一項ノ修正ハ次ニ商号ニ関スル規定ヲ削除シタル結果ニシテ、他ハ字句ノ修正ニ過キス
 第三項ヲ追加シタル所以ハ本法未タ何レノ処ニモ汎ク登記シタル事項ノ変更又ハ消滅ヲ登記スヘキコトヲ規定セルノ法条アラス、然リ
 - 第20巻 p.19 -ページ画像 
ト雖モ一旦登記ニ由リテ公示シタル事項ハ又其変更・消滅ヲ登記スルニ非サレハ第三者ニ損害ヲ与フルコト蓋シ尠少ニ非サルヘシ、第二十一条第二項ハ草案ニ拠レハ幾分カ右ノ意味ヲ有セシカ如シト雖モ今ノ法文ハ毫モ其意味ヲ有セサルノミナラス其所在甚タ不穏当ナルカ故ニ玆ニ掲クルコトトセリ
  (欄外記事)
   第二十一条 若シ裁判所ニ於テ登記ヲ拒ミタルトキハ当事者ヨリ其命令ニ対シテ即抗告ヲ為スコトヲ得
    登記ノ変更又ハ取消ニ付テモ亦前項ニ同シ
第二十一条第二項 削除
 現今ノ法文ノマヽニテハ殆ト意味ナキモノナルカ故ニ右ノ第十八条ノ修正ヲ以テ足レリトシテ本条第二項ヲ削除スルコトトセリ
  (欄外記事)
     第三章 商号
   第二十三条 各商人ハ商号ヲ有シ総テ商業上ニ於テ自己ヲ表示スル為メ之ヲ用ユ、若シ一人ニシテ資本ヲ分チ数箇ノ営業ヲ為ストキハ其各営業ニ付キ各別ノ商号ヲ有スルコトヲ要ス
   第二十四条 商号ハ従来屋号ト称スルモノヲ以テスルヲ通例トスト雖モ営業者ノ氏又ハ氏名ヲ以テスルモ妨ナシ
   第二十五条 商号ノ登記ヲ請ハントスル者ハ商業登記簿ニ登記ヲ受クルコトヲ得、支店アルトキハ其支店ニ付テモ亦同シ
    登記ヲ受ケタル商号ノ変更又ハ廃止ハ速ニ其登記ヲ受ク可シ
   第二十六条 商号ハ登記ニ因リ同一営業ニ付キ一地域内ニ於テ其専有ノ権利ヲ取得シ他人之ヲ用ユルコトヲ得ス、但本法施行以前ヨリ有スル商号ハ従前ノ営業ヲ変セサルモノニ限リ一地域内ニ於テ同一ナルモ妨ナシ
   第二十七条 相続ニ因リテ商業ヲ引受クル者又ハ契約ニ因リテ商業ト共ニ商号ヲ引受クル者ハ、第七十五条ニ規定シタル場合ヲ除ク外、従前ノ商号ヲ続用スルコトヲ得
   第二十八条 商号ハ其営業ト共ニスルニ非サレハ他人ニ譲渡ス事ヲ得ス
    営業ト商号トヲ併セテ譲渡ストキハ其商号ヲ続用スルト之ヲ変更スルトヲ問ハス取引ノ仕残・債務・得意先及ヒ商業帳簿モ共ニ譲渡スモノト看做ス、但特約アルトキハ此限ニ在ラス商号引受ノ通知又ハ公告ノ中ニ特約ヲ明掲セサルトキハ其特約ハ第三者ニ対シテ無効タリ
   第二十九条 営業ト商号トヲ併セテ譲渡ス者更ニ其営業ヲ為ササル責務ヲ負担シタルトキハ其責務ノ履行ハ爾後十个年間其一地域内ニ限ル
   第三十条 既ニ登記シタル他人ノ商号ヲ濫用シタル者又ハ第二十八条第二項及ヒ第二十九条ニ記載シタル責務ニ背ク者アルトキハ被害者ハ其加害所為ノ停止及ヒ損害賠償ヲ要求スルコトヲ得
第一編 第三章 商号(自第二十三条至第三十条) 削除
 - 第20巻 p.20 -ページ画像 
 第一 本章ノ規定ハ実施スルノ必要ナシ
 現今各商人ノ使用スル商号ハ何屋・何堂若クハ何軒ト云フカ如ク其種類一ニシテ足ラスト雖モ、要スルニ同種ノ商業ヲ営ム者ニシテ同一ノ商号ヲ使用スルノ例甚タ多ク、現ニ彼ノ呉服商ノ越後屋、太物商ノ近江屋、質商ノ尾張屋・佐野屋ノ類ニ至リテハ同業者各個ヲ区別スル為メノ特称タルヨリハ、寧ロ其商業ノ種類ヲ区別スル為メ殆ト同業者ニ通用スルノ総称タルカ如キ景況アリ、是蓋シ従来大賈巨商ニハ暖簾ヲ与フルト称シ、雇人ガ多年誠実ニ勤続スルニ当リ主人ヨリ之ニ資本ヲ分与シ己レト同一ナル商号ヲ称セシムルノ慣例アリテ自ラ此現況ヲ馴致シタルモノナルヘシ、而シテ此等商号ノ中ニハ各商人カ頼リテ以テ其営業上ノ信用ヲ維持スル為メニ必要ナルモノモ亦固ヨリ少ナカラサルヘシト雖モ、若シ偶々其商号ノ同一ナル為メ同業者互ニ不便ヲ感スル事アレハ、之ニ其住地名字若クハ符号ヲ加ヘテ適宜ニ之ヲ区別スルノ便法アレハ、今日同業者中同一ノ商号ヲ使用スル者多キモ実際商売上ニ於テ甚シキ差閊ヲ生スル事ナシ、蓋シ時トシテ故意ニ他人ノ商号ヲ濫用シテ自己ノ利益ヲ図ラントスル者全ク無キニアラスト雖モ、斯ノ如キ実例ハ稀ニ見ル所ニシテ未タ一般ニ此規定ヲ実施スルノ必要ヲ促カスニ足ラス、況ンヤ此等特別ノ場合ニ於テハ此規定ニヨラサルモ他ニ之ヲ救護スルノ道ナキニアラサルニ於テヲヤ、是本章ノ規定ヲ以テ実施スルノ必要ナシト信スル所以ナリ
 第二 本章ノ規定ヲ実施スル時ハ商人ノ徳義心ヲ破壊シ却テ目的外ノ結果ヲ生スルノ懸念アリ
 案スルニ本章規定ノ目的トスル所ハ他人ノ商号ヲ濫用スルノ弊ヲ防キ以テ使用本主ノ利益ヲ保護スルニ在ルヘシ、然リト雖モ今若シ此規定ヲ実施スル時ハ果シテ其目的ヲ達シ得ヘキヤ否ヤ、単ニ其目的ヲ達シ難キノミナラス或ハ却テ反対ノ結果ヲ生スル事ナキヤヲ懸念スルナリ、蓋シ今日同種ノ商業ヲ営ム者ニシテ同一ノ商号ヲ使用スル者甚タ多キニモ拘ラス実際ニ於テ故意ニ他人ノ商号ヲ濫用シテ其利益ヲ害セン事ヲ図ル者極メテ少ナキ者ハ、畢竟スルニ各商人ニ徳義心アリテ自ラ此等ノ所為ヲ制止スルカ為メナルヘシ、然ルニ今此規定ヲ実施シテ本章第二十六条ニアルカ如ク「商号ハ登記ニ因リ同一営業ニ就キ一地域内ニ於テ其専有ノ権利ヲ取得シ他人之ヲ用ユル事ヲ得ス」ト定ムルトキハ、是恰モ同一ノ商業ヲ営ム者ニ向ヒ同地域内ニ在ラサル時ハ何人ノ使用スル商号ト雖モ随意ニ之ヲ使用スル事ヲ得ル旨ヲ公許スルト同一ナルニ付、之カ為メ従来各商人中ニ成立セル徳義心ヲ破壊シ之ヲシテ法律ノ許ス範囲内ニ於テ他人ノ商号ヲ濫用シ以テ其利益ヲ害セントスルノ情念ヲ発生セシメ、結局却テ其使用本主ノ危険ヲ増スノ恐ナキカ、例ヘハ甲カ芝ノ高輪ニテ万清ト称シ料理業ヲ営ムニ当リ乙カ僅ニ数丁ヲ隔ツル品川(地域外)ニテ同一ノ商号ヲ称シ甲ト同種ノ商業ヲ営ム事アリトセンニ、此等ノ場合ニ於テ甲ナル使用本主ハ乙ナル同業者ノ為メ実地ノ損害ヲ受クル事アリトスルモ、如何セン此所為タル恰モ法律面ニ於テ公許スル所ナルヲ以テ、甲ナル被害者ハ乙ナル加害者ニ向テ損害ノ賠償ヲ要
 - 第20巻 p.21 -ページ画像 
求スルコトヲ得サルヘシ、果シテ然ルトキハ甲ノ地位ニ立ツ者ハ仮令表面ニ於テハ其商号ノ専用ヲ保護セラルヽトスルモ是レ実際ニ於テハ却テ奸商ニ向テ適々之レニ加害スルノ釁隙ヲ与フルモノト謂ハサルヘカラス、是本章ノ規定ヲ実施スルトキハ商人ノ徳義心ヲ破壊シ却テ目的外ノ結果ヲ生スルノ懸念アリト信スル所以ナリ
  (欄外記事)
   第三十一条 各商人ハ其営業部類ノ慣例ニ従ヒ完全ナル商業帳簿ヲ備フル責アリ、特ニ帳簿ニ日日其取扱ヒタル取引、他人トノ間ニ成立チタル自己ノ権利義務、受取リ又ハ引渡シタル商品、支払ヒ又ハ受取リタル金額ヲ整斉且明瞭ニ記入シ、又月月其家事費用及ヒ商業費用ノ総額ヲ記入ス
    小売ノ取引ハ現金売ト掛売トヲ問ハス逐一之ヲ記入スル事ヲ要セス日日ノ売上総額ノミヲ記入ス
第三十一条 商人ハ帳簿ヲ備ヘ之ニ日日取扱ヒタル一切ノ取引ヲ整然且明瞭ニ記入シ又月月其家事費用ノ総額ヲ記入スル責アリ
小売ノ取引ハ逐一之ヲ記入スルコトヲ要セス唯現金売ト掛売トヲ分チ日日ノ売上総額ノミヲ記入スヘシ
 原文ニハ「其営業部類ノ慣例ニ従ヒ完全ナル商業帳簿ヲ備フル責アリ」トアリテ特ニ其種類ヲ示サヽルカ故ニ、若シ裁判官ノ見込ヲ以テ某々ノ帳簿ハ慣例上調製スヘキモノナリト判定スルトキハ不幸ニシテ之ヲ調製セサリシ商人ハ第千五十一条第四号ニ因リ有罪破産ニ処セラルヽノ虞アリ、豈ニ危険ナラスヤ、殊ニ「完全ナル商業帳簿」ト云ヘルカ故ニ若シ偶々厳酷ナル裁判官ニ逢ハヽ商人ハ大抵皆ナ不完全ナル商業帳簿ヲ備フルトテ有罪破産ニ処セラルヽノ危険アリ、斯クノ如キハ未タ嘗テ外国ニ於テ聞カサル所ナリ是レ右ノ数文字ヲ削除シタル所以ナリ、其他第一項ノ文字ヲ削リタルハ大率重複煩雑ニ渉ルヲ以テナリ、唯末文ノ「商業費用」ヲ削リタルハ商業費用ハ皆ナ商取引ニシテ詳細之ヲ記載スル事ヲ必要トスルモノナレハナリ第二項ノ修正ハ原文ノマヽニテハ別ニ現金売ト掛売トヲ分ツコトヲ必要トセサルモノヽ如ク見ユ(草案ノ説明ニ拠レハ然ラサルモ)、然ルニ此二者ヲ分ツハ商業ノ計算上頗ル必要ナルコトニシテ之ヲ分タサレハ金銭ノ出納ヲ詳ニスルコトヲ得サルヲ以テナリ
  (欄外記事)
   第三十二条 各商人ハ開業ノ時及ヒ爾後毎年初ノ三个月内ニ又合資会社及ヒ株式会社ハ開業ノ時及ヒ毎事業ノ年度ノ終ニ於テ動産・不動産ノ総目録及ヒ貸方借方ノ対照表ヲ作リ特ニ設ケタル帳簿ニ記入シテ署名スル責アリ
    財産目録及ヒ貸借対照表ヲ作ルニハ総テノ商品・債権及ヒ其他総テノ財産ニ当時ノ相場又ハ市場価直ヲ附ス弁償ヲ得ルコトノ確ナラサル債権ニ付テハ其推知シ得ヘキ損失額ヲ扣除シテ之ヲ記載シ又到底損失ニ帰ス可キ債権ハ全ク之ヲ記載セス
第三十二条 商人ハ開業ノ時及ヒ爾後毎年一回一定ノ時期ニ於テ又合資会社及ヒ株式会社ハ開業ノ時及ヒ毎事業年度ノ終ニ於テ動産・不動産ノ総目録及ヒ貸方借方ノ対照表ヲ作リ特ニ設ケタル帳簿ニ記入スル
 - 第20巻 p.22 -ページ画像 
責アリ
財産目録及ヒ貸借対照表ニハ一切ノ商品・債権及ヒ其他ノ財産ニ当時ノ価格ヲ附スヘシ
 原文ニ拠レハ各商人ハ開業ノ時及毎年一月ヨリ三月迄ニ財産目録ヲ作ラサルヲ得ス、然ルニ商売ノ種類ニヨリテハ斯ノ如ク其時期ヲ定メラルヽヲ不便トスル者アリ、故ニ其時期ハ原文ノ如ク一月ヨリ三月迄ト云フカ如ク之ヲ定メスシテ単ニ毎年一度トシ各商人ヲシテ一年ノ中何月ニ於テモ毎年一定ノ時期ニ於テ自由ニ之ヲ作ル事ヲ得セシメタシ
 又原文ニ拠レハ帳簿ニ署名スヘキモノトセリト雖モ他ノ帳簿ニハ署名スルコトナキニ単ニ財産目録帳ニノミ署名セシムルハ其当ヲ得サルノミナラス毫モ其必要アルヲ見サルカ故ニ之ヲ省キタリ、蓋シ原文ハ欧洲ニ於テ帳簿ニ調製セサル目録又ハ表ニ署名スヘキヲ定ムルヲ誤解シテ摸倣セシモノカ、又第二項原文ニ拠レハ財産目録及貸借対照表ニ掲クヘキ債権ニシテ弁償ノ確ナラサルモノハ其推知シ得ヘキ損失額ヲ扣除シテ之ヲ記載セサルヲ得ス、又到底損失ニ帰スヘキ債権ハ全ク之ヲ記載セサル者トセリト雖モ弁償ノ確ナラサルモノヽ損失額ヲ推知シ之ヲ扣除シテ目録及表ニ掲クル時ハ之ニ応シテ帳簿ヲモ引直サヽルヲ得ス、而シテ若シ之ヲ引直サヽル時ハ目録及表ト帳簿ト符合セスシテ大ナル不都合ヲ生スヘシ、又従来ノ慣習ニ拠レハ総テ債権ハ之ヲ帳簿ニ記載シ置クヲ例トセルカ故ニ本条ノ如ク予メ帳簿ヨリ扣除スルハ甚タ不都合ナリ、又到底損失ニ帰スヘキ債権ハ全ク之ヲ記載セサルモ妨ナキカ如シト雖モ到底損失ニ帰スヘキヤ否ヤ確知スルハ極メテ難キカ故ニ、寧ロ之ヲ帳簿ニ存シ置キ時効其他ノ原因ニ由リ全ク消滅ニ帰シタルトキ始メテ之ヲ帳簿ニ記載セサルヲ妥当トス、是レ本文ノ修正ヲ施シタル所以ナリ
  (欄外記事)
   第四十六条 代務ハ無期ニテモ又或ル時期ニ達シ若クハ或ル事件ノ生スルヲ限トシテモ又有期ニテモ之ヲ委任スルコトヲ得但解任及ヒ辞任ノ権利ハ此カ為メニ妨ケラルヽコト無シ
第四十六条 雇傭人ニ非サル者ニ代務ヲ委任スル場合ニ於テハ無期ニテモ又或ル時期ニ達シ若クハ或ル事件ノ生スルヲ限トシテモ之ヲ委任スルコトヲ得、但解任及ヒ辞任ノ権利ハ此カ為メニ妨ケラルルコト無シ
 本条ノ修正ヲ要スル所以ハ民法財産取得編第二百六十一条ニ拠レハ番頭其他ノ雇傭人ハ其種類ニ依リ五年又ハ一年ヲ超過スル時期ヲ以テ之ヲ雇入ルルコトヲ得ス、又右ノ制限内ノ時期ヲ以テ之ヲ雇入レタルトキハ雇主及ヒ雇人双方ニ於テ任意ニ解雇又ハ辞雇スルコトヲ得ス、故ニ原文ノ如ク本条ヲ代務人一般ニ適用セント欲スルトキハ民法ノ規定ト相牴触スルノ虞アリ、故ニ木条ハ単ニ之ヲ雇傭人ニ非サル代務人即チ妻子其他ノ親族朋友等ニ代務ヲ委任スルトキニ限ルモノトセシナリ
  (欄外記事)
   第四十七条 代務人ハ代務権ノ全部若クハ一分ヲ他人ニ転付ス
 - 第20巻 p.23 -ページ画像 
ルコトヲ得ス、但商業使用人ヲ置ク権アリ
第四十七条 代務人ハ主人ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ其権限ノ全躰若クハ一部ニ就キ他人ヲシテ己ニ代ハラシムルコトヲ得ス、但商業使用人ヲ置クコトヲ得
 本条ノ原文ヲ後ノ第五十六条ト対照スルトキハ代務人ハ仮令主人ノ承諾ヲ得ルモ他人ヲシテ己ニ代ハラシムルコトヲ得サルモノヽ如シ然リト雖モ是レ実ニ謂レナキ事ニシテ主人サヘ承諾スレハ必ス他人ヲシテ己ニ代ハラシムルコトヲ得スンハアルヘカラス、是レ本修正ノ止ムヲ得サル所以ナリ、其他ハ序ニ字句ヲ修正シタルノミ
  (欄外記事)
   第四十九条 何人ニテモ代務委任ヲ偽称シ又ハ代務委任ヲ踰越シテ取引ヲ取結ヒタル者ハ、相手方ニ対シテ其択ニ従ヒ取引履行又ハ損害賠償ノ責任ヲ自己ニ負フ、其代務委任踰越ノ場合ニ於テ第四十五条第二項ニ従ヒテ商業主人其義務ヲ負フ可キトキハ主人モ亦之カ責ニ任セサルコトヲ得ス、然レトモ此場合ニ於テハ主人又ハ代務人ノ中一方ノミニ対シテ其取引ノ効用ヲ致サシムルコトヲ得
    相手方ニ於テ代務委任ノ欠欠ヲ知テ為シタル取引ハ双方ニ在テ無効タリ
第四十九条 何人ニテモ代務ノ委任ヲ偽称シ又ハ其代務ノ権限ヲ踰越シテ取引ヲ為シタル者ハ、相手方ニ対シテ其択ニ従ヒ取引履行又ハ損害賠償ノ責任ヲ負フ、但権限踰越ノ場合ニ於テ第四十五条第二項ニ従ヒ商業主人其義務ヲ負フ可キトキハ此限ニ在ラス
相手方ニ於テ代務権ノ欠欠ヲ知リテ為シタル取引ハ主人ノ認諾ヲ条件トシテ之ヲ取結ヒタルモノト看做ス
 本条第一項原文ニ拠レハ第四十五条第二項ニ因リ主人責任ヲ負フヘキトキト雖モ猶ホ代務人ハ第三者ニ対シテ其責任ヲ負フヘキモノヽ如シ、是レ頗ル其当ヲ得ス、夫レ第三者ハ主人ト取引ヲ為サント欲シテ主人其取引ニ就キ責任ヲ負ヘルニ、何ヲ苦ミテ猶ホ代務人ニ係リ取引ノ履行ヲ求メ又ハ之ヲ無効トシテ損害賠償ヲ求メント欲スルカ、是レ実ニ謂レナキノ甚シキモノナラスヤ、故ニ主人責任ヲ負フトキハ代務人ハ第三者ニ対シテハ毫モ責任ナキモノトセリ、若シ夫レ代務人カ主人ニ対スル責任ハ敢テ本条ノ規定スル所ニ非ス、故ニ玆ニ喋々スルヲ要セス
 第二項ノ修正ハ結約者ノ尤モ普通ノ意思ヲ示シタル者ナリ、蓋シ第三者カ代務権ノ欠欠セルヲ知リテ猶ホ取引ヲ為スモノハ通常別ニ悪意アルニ非ス、単ニ主人ノ認諾センコトヲ仮定シテ之ヲ取結フナリ故ニ其予想ノ如ク主人之ヲ認諾センカ、固ヨリ主人ニ対シテ効力ヲ生スヘシト雖モ、主人若シ之ヲ認諾セサルカ、是レ其条件ノ到来セサルモノニシテ取引ハ毫モ効力ヲ生スルコトナシ、原文ニ拠レハ第三者ハ其相手方ノ代務権ノ欠欠ヲ知リテ取引ヲ為シ、而モ主人ト取引ヲ為サンコトヲ欲シタルモノト仮定セシカ故ニ、勢之ヲ無効トセサルコトヲ得サリシト雖モ、是レ豈ニ正当ニ結約者ノ意思ヲ解釈セルモノナランヤ
 - 第20巻 p.24 -ページ画像 
  (欄外記事)
   第五十二条 商業使用人カ商業主人ノ為メニ店舗・倉庫及ヒ其他ノ営業場ニ於テ或ル業務ヲ弁スルトキ又ハ他所ニ送遣セラルルトキ又ハ帳場ニ於テ第三者ト取引ヲ為スニ際シ主人ヨリ制止セラレス若クハ第三者ノ問ヲ受ケテ己レ之ヲ為ス権アリト答ヘタルトキハ特ニ其職分ノ範囲ニ付キ置カレタルモノト看做サル
第五十二条 商業使用人カ其主人ヨリ或ル業務ヲ弁センカ為ニ店舗・倉庫及ヒ其他ノ営業場ニ置カルルトキ若クハ他所ニ送遣セラルルトキ又ハ帳場ニ於テ主人ノ制止ナク第三者ト或ル取引ヲ為ストキハ其業務ニ就キ十分ノ権限アルモノト看做サル
 商業使用人カ第三者ト取引ヲ為スニ際シ主人ヨリ制止セラレサル時ノ如キハ其業務ノ範囲内ニ付置カレタルモノト看做サルル事ハ当然ナルヘシト雖モ、第三者ノ問ヲ受ケテ己レ之ヲ為ス権アリト答ヘタル時モ前同様ニ看做サルヽトスルトキハ或ハ、右ノ答ヲ為シタルトキハ常ニ如何ナル事ヲモ做シ得ルトノ解釈ヲ生スルノ憂ナシトセス(草案ノ意味ハ則チ然リシナリ)若シ又此ノ如キ意ニアラス単ニ帳場ニ於テ右ノ答ヲ為シタル時ニ限ルトセハ「第三者ノ問ヲ受ケテ己レ之ヲ為ス権アリト答ヘタル時」ノ事ハ寧ロ「主人ヨリ制止セラレサル時」ノ中ニ自然包含セラルヘキモノニシテ是レ全ク不用ノ文字ナリト云ハサルヲ得ス、故ニ本文ノ修正ヲ必要トシタルナリ、其他ハ字句ノ修正ニ過キス
  (欄外記事)
   第五十三条 商業使用人ヲ商業主人ノ代人トシテ之ト取引ヲ為シタル第三者カ善意ナルニ於テハ使用人其受ケタル委任ニ依ラサルモ又指定セラレタル方法ニ依ラサルモ其取引ハ第三者ニ対シテ有効タリ
第五十三条 削除
 本条ハ若シ唯商業使用人ハ常ニ慣習ノ許ス限ノ権限ヲ有スルモノト看做サルルノ意ナランカ、第五十七条ニ於テ第四十五条第二項ヲ適用スルカ故ニ不用ナリ(第五十一条ヲ参観セヨ)若シ仮令慣習以外ノ事ニテモ、苟モ第三者ニシテ善意ナランニハ必ス其権限アルモノト看做サルルノ意ナランカ、実ニ主人ニ取リテ危険尤モ甚シト謂ハサルコトヲ得ス、是レ本条ヲ削除シタル所以ナリ
  (欄外記事)
   第五十九条 期限ヲ定メスシテ取結ヒタル雇傭契約ハ双方何時ニテモ之ヲ解ク予告ヲ為スコトヲ得、但其予告ハ一个月前ニ之ヲ為スコトヲ要ス
    商業主人若クハ商業使用人ノ終身ヲ期シ又ハ之ト同視ス可キ長キ期限ヲ定メテ取結ヒタル雇傭契約ハ期限ヲ定メサルモノト看做ス
第五十九条第二項 削除
 民法財産取得編第二百六十一条ニ拠レハ雇傭人ハ五年又ハ一年ヨリ長キ期限ヲ以テ之ヲ雇入ルルコトヲ得スト雖モ、右ノ期限内ニ於テ
 - 第20巻 p.25 -ページ画像 
取結ヒタル雇傭契約ハ双方ニ於テ必ス之ヲ守ラサルヘカラサルコトハ既ニ前ニ述フルカ如シ、而シテ若シ右ノ期限ヨリ長キ期限ヲ以テ之ヲ取結ヒタルトキハ当事者一方ノ随意ニテ右ノ期限到来ノ時ヲ以テ雇傭終了ノ時ト看做スコトヲ得、然ルニ本項ニ拠レハ終身又ハ之ト同視ス可キ長キ期限ヲ以テ取結ヒタル雇傭ハ、無期限ニテ取結ヒタル雇傭ト同一視スルカ故ニ、第一其期限ノ却テ民法ノ期限ヨリ短キ時ト雖モ其期限ヲ守ラシムルコト能ハス、第二其期限ノ民法ノ期限ヨリ長キ時ハ民法ノ規定ノ如ク之ヲ短縮スルニ非スシテ全ク無期限ト看做シ、一月前ノ予告ヲ以テ直ニ之ヲ解約スルコトヲ得ルモノトセリ、是レ啻ニ民法ト牴触スルノミナラス実ニ不当ノ極ト謂ハサルヲ得ス、殊ニ「終身ト同視ス可キ長キ期限」ト曰フカ如キハ甚タ漠然トシテ殆ト攫雲捉風ノ感アリ(草案ニハナカリシ)是レ本項ヲ削除スルヲ必要トシタル所以ナリ
  (欄外記事)
   第六十三条 商業使用人ヲ何時ニテモ解任シ得ヘキ場合左ノ如シ
     第一 不実ノ行為ヲ為シ又ハ己レニ受ケタル信任ニ背キタルトキ
     第二 自己ノ計算又ハ第三者ノ計算ニテ取引ヲ為シタルトキ、但些少ノ取引ハ此限ニ在ラス
     第三 正当ノ理由ナクシテ其命セラレタル仕事ヲ為スコト及ヒ総テ己レノ負担シタル義務ヲ履行スルコトヲ拒ミ又ハ之ヲ怠リタルトキ
     第四 不当ノ挙動又ハ不品行ノ為メニ指斥ヲ受ケタルトキ
第六十三条第二号但書 削除
 本条第二号中「但些少ノ取引ハ此限ニアラス」トアレトモ些少ノ分量ヲ見分クルハ甚タ困難ナルノミナラス些少ノ取引ト雖モ法文ヲ以テ之ヲ明許スルハ至当ノ事ト云フヘカラス、是此但書ヲ削除シタル所以ナリ
  (欄外記事)
   第六十五条 雇傭契約ハ商業主人ノ死亡ニ因リテ終ラス、然レトモ商業使用人ノ雇入レラレタル其営業ノ廃止ニ因リテ終ル但其営業ヲ他人ニ移サントスルトキハ第五十九条ニ従ヒ双方予告ノ権利ヲ有ス
第六十五条 雇傭契約ハ営業ノ廃止ニ因リテ終了ス
営業ヲ他人ニ譲渡シタルトキ又ハ主人カ死亡シタルトキハ使用人及ヒ譲受人又ハ相続人ハ各其譲渡又ハ死亡ヲ知リタルヨリ一个月内ニ解約ノ予告ヲ為スニ非サレハ雇傭契約終了セス、但予告ヲ為シタルトキハ其日ヨリ一个月ノ後契約終了スルモノトス
 原文ニハ単ニ「商業主人ノ死亡ニ因リテ終ラス」ト云ヘルカ故ニ主人死亡スルモ使用人ハ其心服セサル相続人ニ使用セラレサルコトヲ得ス、相続人モ亦タ其信任セサル使用人ヲ使用セサルコトヲ得サルモノヽ如シ、草案ノ説明ヲ見レハ原文但書ハ此場合ニモ適用スヘキモノヽ如シト雖モ、原文ノマヽニテハ斯クノ如ク解スルコト極メテ
 - 第20巻 p.26 -ページ画像 
難シ、且ツ右但書ニハ単ニ「第五十九条ニ従ヒ双方予告ノ権利ヲ有ス」ト云ヒ、其予告ハ何時ニテモ之レヲ為スコトヲ得ルモノヽ如シ是レ甚タ其当ヲ得ス、故ニ本文ノ如ク修正ヲ加ヘタルナリ
  (欄外記事)
   第七十四条 二人以上七人以下共通ノ計算ヲ以テ商業ヲ営ム為メ金銭又ハ有価物又ハ労力ヲ出資ト為シテ共有資本ヲ組成シ責任其出資ニ止マラサルモノヲ合名会社ト為ス
第七十四条 数人共通ノ計算ヲ以テ商業ヲ営ム為メ金銭・有価物又ハ労力ヲ出資ト為シテ共有資本ヲ組成シ其各自ノ責任無限ナルモノヲ合名会社ト為ス
 原文ニハ「二人以上七人以下」トアリ、何故ニ其人数ヲ制限セシヤヲ原ヌルニ人数多ケレハ権力少数ノ手ニ落チ危険ナリト曰フニ過キス然リト雖モ充分信スヘキ理由アリテ少数ノ業務担当者ヲ信シ之レニ全権ヲ委ヌレハ嘗テ法律之レニ干渉スルノ必要ナク、若シ充分ノ信用ナケレハ必ス相当ノ監督方法ヲ設クヘキカ故ニ其危険ナシ、且ツ恰モ多人数ヲ以テ無限責任ノ合名会社ヲ組成スルハ危限ナルコト多キカ為メニ、実際法律ノ禁制ナキモ敢テ多人数ヲ以テ之レヲ組成スルコトハ稀ナルヘシ、故ニ法律叨リニ干渉センヨリハ寧ロ自由ニ放任スルヲ愈レリトス、且ツ草案ノ説明ニ拠レハ七人ノ制限ハ英国法ニ倣ヘリト曰フト雖モ、英国法ニ於テ二十人ヲ超過スル多人数ニテ組合商業(Partnership)ヲ設立スルコトヲ禁シ、唯七人未満ニテ会社(Company)ヲ設立スルコトヲ得ストセルコト猶ホ我カ株式会社ニ於ケルカ如キノミ(商法第百五十六条ヲ参観セヨ)、仏独等ニ於テハ合名会社員ノ数ニ関シ毫モ制限アルコトナシ(仏国商法第二十条・独国商法第八十五条等)、尚ホ英国ノ二十人以下ノ制限ハ英国ニ於テハ組合商業ハ幾分カ我邦ノ民事会社ニ類スル所アリテ敢テ登記スルコトヲ要セス、故ニ大ニ之レヲ制限スルノ必要アルヘシト雖モ我邦ニ於テハ合名会社モ亦タ必ス登記ヲ為シ、其他民事会社ニ比スレハ法律ノ干渉実ニ雲泥ノ差アルカ故ニ之レヲ制限セサルモ敢テ危険アルコトナシト信スルナリ
 原文ニ言ヘル「責任其出資ニ止マラサル」トハ所謂無限責任ヲ指スモノナルカ又ハ責任其出資ニ止マラスシテ各社員カ所有スル財産ノ幾分ニ及フモノヲ指スモノナルカ、蓋シ法文ノ精神ニ拠レハ必ス所謂無限責任ヲ指スモノナルヘシト雖モ、文面上ヨリ見ル時ハ其意義不分明ニシテ惑ヲ生シ易シ、是本条末文ノ修正ヲ要スル所以ナリ
  (欄外記事)
   第七十五条 商号ニハ総社員又ハ其一人若クハ数人ノ氏ヲ用ヰ之ニ会社ナル文字ヲ附ス可シ
    会社若シ現存セル他人ノ営業ヲ引受クルトキハ其旧商号ヲ続用スルコトヲ得ス
第七十五条 商号ニハ総社員又ハ其一人若クハ数人ノ氏ヲ用ヒ之ニ合名会社ナル文字ヲ附ス可シ
第二項 削除
 本条原文ノ第二項ニハ会社若シ他人ノ営業ヲ引受クルモ其旧商号ハ
 - 第20巻 p.27 -ページ画像 
之ヲ襲用スルヲ得ストノ事ヲ規定シアリシモ、既ニ其営業ヲ引受クルノ必要アルトキハ、随テ之ヲ表彰スル旧商号ヲ襲用スルコトモ亦必要ナルヘキ事情アルヘシ、然ルニ其営業ハ引受クルモ其旧商号ハ之ヲ襲用スル能ハストセハ、誰カ他人ノ営業ヲ引受クルモノアランヤ、左レハ該項規定ノ如キハ恰モ他人ノ営業ハ引受クルヲ得スト云フニ異ナラスシテ実際ノ支障少カラストス、且ツ本邦ニ於テハ通常屋号ヲ以テ商号トスヘキカ故ニ他人ノ商号ヲ用フルモ弊害鮮カルヘシ(商法第二十四条参照)、是レ該項ヲ削除シタル所以ナリ
 商法施行条例第八条第二項ニ「既設会社ノ商号ニハ其会社ノ種類ニ従ヒ合名会社・合資会社又ハ株式会社ノ文字ヲ附スヘシ」トアリ左レハ本条合名会社ノ商号ニハ合名会社ナル文字ヲ附スルヲ適当ナリトス・是本文ノ修正ヲ要スル所以ナリ
  (欄外記事)
   第八十一条 会社ハ登記前ニ開業スルコトヲ得ス、之ニ違フトキハ裁判所ノ命令ヲ以テ其営業ヲ差止ム、但其命令ニ対シテ即時抗告ヲ為スコトヲ得
第八十一条 会社ハ登記前ニ事業ニ着手スルコトヲ得ス、之ニ違フトキハ裁判所ノ命令ヲ以テ其営業ヲ差止ム、但其命令ニ対シテ即時抗告ヲ為スコトヲ得
 原文中ニハ「開業」ノ文字アリ、抑モ此開業トハ是迄慣用スルカ如ク営業開始ノ意ナル歟将タ事業着手ノ意ナル歟、若シ前解ノ如クナランカ次ノ第八十二条ニ於テ大ニ実際ニ不都合アルヲ見ル、蓋シ普通ノ工業特ニ鉄道事業ヲ経営スル会社ノ如キハ其機械ヲ外国ニ注文シテ之ヲ接手スル迄少クモ六月个若クハ其以上ヲ要シ、其ヨリ鉄道ヲ敷設シテ其営業ヲ開始スルニハ尠カラサル歳月ヲ要スルニ付、登記後六个月内ニ営業ヲ開始スルハ実地為シ得サル所ナリ、想フニ本条中ニアル開業ノ文字ハ事業ノ着手ヲ意味スルモノナルヘシト雖モ字面ヨリ見ル時ハ営業開始ヲ意味スルカ如クニ思ハレ甚タ不都合ナリ、殊ニ後ノ第二百五十六条第二ニ於テ登記前ニ開業シタル業務担当ノ任アル社員ヲ罰スルニ五円以上五十円以下ノ過料ヲ以テスルカ故ニ到底之ヲ事業ニ着手ト修正セサルコトヲ得スト思考セリ
  (欄外記事)
   第八十二条 会社其登記ノ日ヨリ六个月内ニ開業セサルトキハ其登記及ヒ公告ハ無効タリ
第八十二条 会社其登記ノ日ヨリ六个月内ニ事業ニ着手セサルトキハ会社ハ当然解散セルモノト看做ス
 本条前段ノ修正ハ唯前条修正ノ結果ニシテ再ヒ玆ニ其理由ヲ陣スルノ要ナシ、後段修正ノ理由ハ原文ノ儘ニテハ唯登記及ヒ公告ノミ無効トナリテ会社契約ハ依然存スルモノヽ如シ、故ニ初ノ登記アリテヨリ幾年ヲ経ルノ後ト雖モ更ニ之レヲ登記セハ可ナリト謂ハサルコトヲ得ス是レ前ノ第七十八条ニ於テ、会社設立後十四日以内ニ登記ヲ為スヘキコトヲ規定セル主意ニ反スルモノナキカ、或ハ曰ハン第二百五十六条第一ニ因リ登記ヲ怠リタル業務担当ノ任アル社員ハ五円以上五十円以下ノ過料ニ処セラルヘキカ故ニ、仮令一旦登記ヲ為
 - 第20巻 p.28 -ページ画像 
シタルトキト雖モ苟モ其登記無効ニ帰シタル以上ハ猶ホ登記ヲ為ササリシカ如キヲ以テ亦タ右ノ過料ニ処セラルヘシ故ニ第七十八条ニハ十分ノ制裁アリト謂フヘシト、是レ既ニ事実ニ於テ一旦登記ヲ為シタルモノニ全ク登記ヲ為サヽルモノニ科スヘキ過料ヲ科スルハ頗ル穏カナラサルノミナラス斯ク曖昧糢糊ナル会社ヲ存立セシムルハ一般ノ信用ノ為メニ喜フヘキコトニ非ス、是レ本文ノ修正ヲ加ヘタル所以ナリ
  (欄外記事)
  第八十四条 会社契約ノ規定ニシテ会社ノ施行セサリシモノハ社員又ハ第三者ニ対シテ其効用ヲ致サシムルコトヲ得ス
第八十四号《(条)》 削除
 本条ハ法律ハ不施行ニ因リテ其効力ヲ失フトノ学説ニ依リ規定セシモノナランカ、此学説ノ当否ハ姑ク舎キ仮リニ之レヲ法理ニ合ナヘルモノトスルモ、会社員ノ如キハ多クハ実業家ニシテ法律専門ノ者稀ナルカ故ニ単ニ法理ヲ以テ之ヲ責ムヘカラサルノ事情アリ、サレハ一時ノ不気附ニテ会社契約ノ規定ヲ施行セス、又ハ実際ニ害ナカリシヲ以テ一社員カ之ヲ施行セサルヲ黙許シタル事アリシトテ直ニ其効用ヲ滅スルカ如キハ甚タ苛酷ニ失スルモノト謂ハサルヲ得ス、例ヘハ代務人ハ総社員ノ承諾ヲ以テ之レヲ置クヘキコトヲ約シタル場合ニ於テ、一社員専断ヲ以テ之レヲ置キタルコトアルモ、是レカ為メニ争論ヲ提起スルタケノ価値モナク、又其代務人ハ恰モ適当ノ人物ナリトシテ他ノ社員之レヲ黙許シタレハトテ後日其社員又ハ他ノ社員カ専断ヲ以テ不適当ナル人物ヲ代務人トセントスルニ際シ、其他ノ社員契約ノ明文ニ拠リテ之レヲ妨止スルコトヲ得ストセハ誰カ其不当ヲ鳴ラサヽルモノアランヤ、是レ本条ヲ削除セシ所以ナリ
  (欄外記事)
   第八十六条 会社ノ目的ニ反セサルモ之ニ異ナル業務及ヒ事項ニ付テハ業務担当ノ任アル総社員ノ承諾ヲ要ス
第八十六条 削除
 原文ニハ「会社ノ目的ニ反セサルモ之ニ異ナル事項」ハ業務担当ノ任アル総社員之レヲ決スルモノトセルカ故ニ、会社カ贈与ヲ為スカコトキ汽船会社カ契約ニ掲ケサル新航路ニ船ヲ発スルカ如キ事項ト雖トモ猶ホ業務担当社員ノミニテ之レヲ決スルコトヲ得ヘシ、是レ元来会社契約ノ施行ノ為メニ置カレタル業務担当社員ノ権限内ニ在ルヘキ所ニ非サルノミナラス、若シ業務担当社員僅カニ一二名ノ場合ニ於テハ一二名ニテ右ノ事項ヲ決スルコトヲ得ヘキカ故ニ甚タ危険ナルモノアルカ如シ、故ニ凡ソ定款外ノ事ハ総社員ノ承諾ヲ以テスルニ非サレハ之レヲ決スルコトヲ得ストスルヲ妥当トス、而シテ本条ヲ削除スルトキハ普通ノ原則及ヒ第八十三条ノ明文ニ因リ当然総社員ノ承諾ヲ要スルコトトナルヘシ、是レ本条ヲ削除シタル所以ナリ(仏国及ヒ独国商法第百三条ニ於テモ亦同シ)
  (欄外記事)
   第八十九条 社員ノ議決権ハ其出資ノ額ニ応シテ等差ヲ立ツルコトヲ得ス
 - 第20巻 p.29 -ページ画像 
第八十九条 削除
 合名会社ハ主トシテ人ニ着眼スルモノトハ言ヒナカラ一万円ノ資本ヲ投スルモノト百円ヲ出スモノト其議決権ヲ同シウスルトセハ其不当ナルコト敢テ喋々ヲ須タス、故ニ本条ノ禁令ハ実ニ謂レナキモノナリト信ス、是レ本条ヲ削除シタル所以ナリ(仏国ニ於テハ出資額ニ応シテ議決権ヲ定ム)
  (欄外記事)
   第九十五条 社員其負担シタル出資ヲ差入レサルトキハ会社ハ之ヲ除名スルト年百分ノ七ノ利息ヲ払ハシムルトヲ択ミ、尚ホ其孰レノ場合ニ於テモ損害賠償ヲ求ムルコト得
第九十五条 社員其負担シタル出資ヲ差入ルルコトヲ怠リタルトキハ会社ハ之ヲ除名スルト年百分ノ十ノ利息ヲ払ハシムルトヲ択ミ、尚ホ其孰レノ場合ニ於テモ損害賠償ヲ求ムルコトヲ得
 第九十五条・第百一条・第百三条・第二百十三条・第三百三十四条等ニ於テ「年百分ノ七ノ利息」ナル文字アリ、蓋シ此等ノ利息ハ金銭其他ノ有価物ヲ受取ルノ権アル人カ之レヲ受取ラサルニ因リテ蒙ムル損害ヲ賠償セシメンカ為メニ定ムルモノナルニ、普通利息ノ割合ヨリ廉ナル時ハ備権者《(債)》ハ為メニ損害ヲ蒙ムルヘシ、現今普通ノ利息ハ多クハ百分ノ十ヨリ下ル事ナクシテ是従来各会社カ株金払込延滞ニ課スル利息ヲ日歩三銭(年百分ノ一〇、八)乃至五銭(百分ノ一八)位ニ定ムルヲ例トスル所以ナリ、由是観之前記各条中「百分ノ七ノ利息」ハ普通ノ利息ト権衡ヲ得サルニヨリ総テ之ヲ百分ノ十ト修正セリ
 又原文ニハ「出資ヲ差入レサルトキハ」云々ト之レアリ、凡ソ出資ヲ差入レサルトキハ其懈怠ニ出ツルト止ムヲ得サルニ因ルトヲ問ハス、皆ナ本条ヲ適用スヘキモノヽ如ク見ユルト雖モ、前条ト対照スルトキハ本条ハ単ニ社員ノ懈怠ニ因リテ「出資ヲ差入レサル時」ノミヲ言ヘルコト判然セルノミナラス、若シ然ラストセハ殆ト本条ヲ解スルコト能ハサルヘシ、故ニ本文ノ如ク改メンコトヲ望ムナリ
  (欄外記事)
   第九十八条 社員ハ総社員ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ第三者ヲ入社セシメ又ハ第三者ヲシテ己レノ地位ニ代ハラシムルコトヲ得ス
    社員ノ相続人又ハ承継人ハ契約ニ於テ反対ヲ明示セサルトキハ其社員ノ地位ニ代ハルコトヲ得、但総社員ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ業務ヲ担当スル権利ナシ
第九十八条第二項 削除
 相続人ト雖モ同一人ニ非サルカ故ニ総社員ノ承諾ナクシテ入社スルヲ得ストセンコト尤モ合名会社ノ性質ニ適合セルモノト謂フヘシ、蓋シ合名会社ハ財産上ヨリハ寧ロ信用上ノ集合体ナレハナリ、又原文ニハ相続人ハ入社スルヲ得レトモ総社員ノ承諾ナケレハ業務ヲ担当スルヲ得ストアリ、夫レ業務担当ノ権利ナキ者ニシテ社員タルヲ得ルト云フハ頗ル奇怪ナリト謂フヘシ、是レ本条第二項ヲ刪除シタル所以ナリ(後ノ第百二十一条ノ修正文ヲ見ヨ)
 - 第20巻 p.30 -ページ画像 
  (欄外記事)
   第百一条 社員カ会社ニ消費貸ヲ為シ又ハ会社ノ為メニ立替金ヲ為シタルトキハ年百分ノ七ノ利息ヲ求ムルコトヲ得、又社員カ業務施行ノ為メ直接ニ受ケタル損失ニ付テハ其補償ヲ求ムルコトヲ得
第百一条 社員カ会社ニ消費貸ヲ為シ又ハ会社ノ為メニ立替金ヲ為シタルトキハ年百分ノ十ノ利息ヲ求ムルコトヲ得、又社員カ業務施行ノ為メ直接ニ受ケタル損失ニ就テハ其補償ヲ求ムルコトヲ得
 理由第九十五条ニ詳カナリ
  (欄外記事)
   第百二条 会社契約ニ於テ明示ノ合意ナキトキハ社員ハ業務施行ノ勤労ニ付キ其報酬ヲ求ムルコトヲ得ス、然レトモ労力ヲ出資ト為シタル社員其負担シタル出資外ニ為シタル労力ニ付テハ相当ノ報酬ヲ求ムルコトヲ得
第百二条 会社契約ニ反対ノ合意ナキトキハ社員ハ業務施行ノ勤労ニ付キ相当ノ報酬ヲ求ムルコトヲ得、労力ヲ出資ト為シタル社員其出資外ニ供シタル労力ニ就テモ亦同シ
 原文ニ拠レハ第一労力ヲ出資トスル者ハ若シ出資外ニ労力ヲ供シタルトキハ相当ノ報酬ヲ受ケテ他ノ社員会社ノ為メニ勤労ヲ供スルモ毫モ報酬ヲ受ケスト云フハ頗ル偏頗ノ譏ヲ免カレス、第二前条ニ拠レハ会社ノ為メニ出資外ノ立替金ヲ為シ其他金銭上ノ損失ヲ被ムリタルモノハ利息ヲ求メ又ハ賠償ヲ要ムルコトヲ得、然ルニ勤労ヲ供シタルモノハ間接ニ損失ヲ被ムルコト固ヨリ言フヲ待タサルニ、其報醐《(酬)》ヲ求ムルコトヲ得ストセシハ豈ニ前後権衡ヲ得タルモノト謂フヘケンヤ、是レ本文ノ修正ヲ加ヘタル所以ナリ、他ハ字句ノ修正ニ過キス
  (欄外記事)
   第百三条 社員カ会社ノ為メニ受取リタル金銭ヲ相当ノ時日内ニ会社ニ引渡サス又ハ会社ノ金銭ヲ自己ノ用ニ供シタルトキハ会社ニ対シテ年百分ノ七ノ利息ヲ払ヒ且如何ナル損害ヲモ賠償スル義務アリ
第百三条 社員カ会社ノ為メニ受取リタル金銭ヲ相当ノ時日内ニ会社ニ引渡サス又ハ会社ノ金銭ヲ自己ノ用ニ供シタルトキハ、会社ニ対シテ年百分ノ十ノ利息ヲ払ヒ且如何ナル損害ヲモ賠償スル義務アリ
 理由第九十五条ニ詳カナリ
  (欄外記事)
   第百五条 各社員ノ会社ノ損益ヲ共分スル割合ハ契約ニ於テ他ノ準率ヲ定メサルトキハ其出資ノ価額ニ準ス
    出資ト為シタル労力ノ価額ヲ契約ニ於テ定メサルトキハ各般ノ事情ヲ斟酌シテ之ヲ定ム
第百五条 会社ノ損益及ヒ財産ノ分配ノ割合ハ契約ニ於テ他ノ準率ヲ定メサルトキハ各社員ノ出資ノ価額ニ準ス
契約ニ於テ出資ト為シタル労力ノ価額ヲ定メサルトキハ各般ノ事情ヲ斟酌シテ之ヲ定ム、但労力ヲ出資ト為シタル社員ハ会社ノ業務ニ因リ
 - 第20巻 p.31 -ページ画像 
テ増殖シタル財産ニ限リ其分配ヲ受ク
 後ノ第百二十四条第二項及ヒ第百三十二条ニ拠レハ社員退社ノ時、又ハ会社解散ノ時労力ヲ出資トシ其他退社又ハ解散ト与ニ終止スル出資ヲ為シタル社員ニハ会社財産ヲ分タサルモノトセリ、然リト雖モ是レ実ニ不当ノ太甚シキモノニシテ有名ナル技師、非凡ナル企業家、若シ労力ヲ出資トシタルトキハ会社財産之レカ為メニ増加スルコト稀ナリトセス、然リ而シテ其退社ノ時又ハ会社解散ノ際、之レニ会社財産ヲ分与セサルハ不正焉ヨリ大ナルハナシ、草案ニハ唯社員退社ノ時ニノミ此規則ヲ設ケシニ、現法文ニ之レヲ解散ノ場合ニ拡充セシハ尤モ解シ難シ、又右ノ規定ハ民法財産取得編第百四十一条ノ規定ニ反セリ、但シ会社ノ財産毫モ会社ノ業務ニ因リテ増殖セザルモ尚ホ之レヲ労力ヲ出資トシタル社員ニマデ分ツトキハ、他ノ社員ニ対シテ頗ル不公平ノ譏ヲ免レ難シ、是レ本文ノ如ク修正ヲ施シタル所以ナリ
   (欄外記事)
   第百十一条 業務担当ノ任アル社員ノ代理権ニ加ヘタル制限ハ第三者ニ対シテ其効ナシ
第百十一条 業務担当ノ任アル社員ノ代理権ニ加ヘタル制限ハ善意ノ第三者ニ対シテ其効ナシ
 原文ニ拠レハ悪意ノ第三者ニ対シテ効ナキモノヽ如ク甚タ不当ナルノミナラス、後ノ合資会社ニ就テ規定セル第百四十四条ト合ハス、是レ善意ノ三字ヲ加ヘタル所以ナリ(第四十五条第二項ヲ参観セヨ)
   (欄外記事)
   第百十二条 会社ノ義務ニ付テハ先ツ会社財産之ヲ負担シ次ニ各社員其全財産ヲ以テ不分ニテ之ヲ負担ス
第百十二条 会社ノ義務ハ先ツ会社財産ヲ以テ之ヲ弁済シ次ニ各社員其全財産ヲ以テ連帯ニテ之ヲ負担ス
 又原文ニハ各社員「不分ニテ」会社ノ義務ヲ負担スルモノトセリ、是レ蓋シ草案ニハ合名会社ノ社員ヲ以テ連帯義務アルモノトセサリシニ依ルカ、然リト雖モ第一次キノ第百十三条ニ於テ「社員ト同シク連帯無限ノ責任ヲ負フ」ト云ヒ、第二民法財産取得編第百四十三条第二項ニ拠レハ民事会社ノ社員モ皆ナ連帯ノ責任ヲ負ヒ、第三凡ソ商事契約ニ因リ二人以上同時ニ義務ヲ負フトキハ必ス連帯ノ義務ヲ負フヘキコトハ商法第二百八十七条ノ規定スル所ナリ(草案ニハ是レ亦タ不分〔ungetheilt〕ト云ヘリ)故ニ之レヲ「連帯ニテ」ト改メタルナリ
   (欄外記事)
   第百十三条 社員ニ非スシテ商号ニ其氏ヲ表スルコトヲ承諾シ若クハ之ヲ表スルニ任セ又ハ会社ノ業務ノ施行ニ与カリ又ハ事実社員タルノ権利義務ヲ有スル者ハ社員ト同シク連帯無限ノ責任ヲ負フ
第百十三条 社員ニ非スシテ商号ニ其氏ヲ表スルコトヲ承諾シ若クハ之ヲ表スルニ任セ又ハ会社ノ業務ノ施行ニ与カリ又ハ事実社員タルノ権利義務ヲ有スル者ハ社員ト同シク連帯無限ノ責任ヲ負フ、但会社ニ
 - 第20巻 p.32 -ページ画像 
商号ヲ譲渡シタル者及ヒ退社員ニシテ其氏ヲ商号中ニ続用スルコトヲ承諾シタル者ハ此限ニ在ラス
 本条ニ但書ヲ加ヘタル所以ノモノハ前ノ第七十六条ニ於テ退社員アル時其承諾ヲ経テ依然其氏ヲ会社ノ商号中ニ続用スルコトヲ得ヘシトセルニ、本条原文ノ儘ニテハ退社員モ亦タ社員ニ非スシテ商号ニ其氏ヲ表スルコトヲ承諾シタルモノナルカ故ニ社員ト同シク連帯無限ノ責任ヲ負フヘキモノヽ如ク疑ハル、此クノ如クンハ第七十六条ハ毫モ其効用アルヲ見ス、是豈ニ立法者ノ意ナランヤ、且ツ本修正案ニ於テハ前ノ第七十五条第二項ヲ削除セルカ故ニ他人ノ商号ヲ譲受クル場合ニ於テモ亦タ社員ニ非スシテ商号ニ其氏ヲ表スルコトヲ承諾シ、若クハ之ヲ表スルニ任スルモノヲ生スヘシ、而シテ此等ノモノ皆ナ社員ト同シク連帯無限ノ責任ヲ負フヘシトセハ不当モ亦タ太甚シト謂フヘシ、是レ本条ニ但書ヲ加フルヲ必要トセル所以ナリ
  (欄外記事)
   第百二十一条 右ノ外社員ハ左ノ諸件ニ因リテ退社ス
     第一 除名
     第二 死亡、但亡社員ノ地位ニ代ハル可キ相続人又ハ承継人ナキ時ニ限ル
     第三 破産
     第四 能力ノ喪失、但特約ナキトキニ限ル
第百二十一条 右ノ外社員ハ左ノ原因ニ由リテ退社ス
第二号 死亡、但契約又ハ総社員ノ承諾ニ依リ相続人又ハ其他ノ承継人死亡者ノ地位ニ代ハルヘキトキハ此限ニ在ラス
 本条第二号ヲ修正シタル理由ハ前ノ第九十八条ヲ修正シタル理由ニ同シ、故ニ再ヒ玆ニ贅セス、他ハ字句ノ修正ニ過キス
  (欄外記事)
   第百二十四条 退社員ノ持分ノ価値ハ特約アルニ非サレハ其出資ノ何種類タルヲ問ハス金銭ノミニテ之ヲ払渡ス
    労力ノ出資又ハ其他退社ト共ニ終止スル出資ニ付テハ特約アルニ非サレハ之ニ対スル報償ヲ為ス義務ナシ
第百二十四条第二項 削除
 理由前ノ第百五条ヲ修正シタル理由ニ同シ
  (欄外記事)
   第百二十六条 会社ハ左ノ諸件ニ因リテ解散ス
     第一 会社存立時期ノ満了
     第二 会社契約ニ定メタル解散事由ノ起発
     第三 総社員ノ承諾
     第四 会社ノ破産
     第五 裁判所ノ命令
第百二十六条第一項 会社ハ第八十二条ノ場合ノ外尚ホ左ノ原因ニ由リテ解散ス
 本条ヲ改メタルハ第八十二条ヲ改メタル当然ノ結果ニシテ別ニ説明ヲ要セス、唯序ニ「諸件ニ因ル」ノ文字余リニ奇異ナルカ故ニ之レヲ改メタルノミ
 - 第20巻 p.33 -ページ画像 
  (欄外記事)
   第百三十六条 社員ノ一人又ハ数人ニ対シテ契約上別段ノ定ナキトキハ社員ノ責任カ金銭又ハ有価物ヲ以テスル出資ノミニ限ルモノヲ合資会社ト為ス
    合資会社ノ社員ノ数ハ之ヲ制限セス
第百三十六条 社員ノ一人又ハ数人ハ連帯無限ノ責任ヲ負ヒ他ノ社員ノ責任ハ唯其出資ノミニ限ルモノヲ合資会社ト為ス
合資会社ノ出資ハ金銭又ハ有価物ニ限ル
 本節ヲ案スルニ合資会社ノ社員ノ数ニハ別段制限ナク其責任ハ有限ニテモ差支ナキカ故ニ将来此種ノ会社続々起ルヘキハ必然ナリ、然ルニ業務担当ノ任アル社員ノ責任ヲ有限トスル事ヲ許ス時ハ奸猾ノ徒之ヲ利用シテ良民ヲ苦シムルノ弊害ヲ生スル事ナシトセス、或ハ合資会社ノ登記ニハ各社員ノ出資額ヲ掲ケサルヲ得サレハ以テ充分此弊害ヲ防キ得ヘシト論スル者アレトモ是只理論上ニ止マリ実際ニ於テハ各商人カ互ニ取引スルニ当リ一々其登記簿ヲ点撿スルカ如キ手数ハ可成之ヲ避クルノ事情アレハ或者ノ論スル所ハ未タ充分安心スルニ足ラサルナリ、且ツ後ノ第千五十四条ニ至リ会社破産ヲ為ストキハ其無限責任社員及ヒ取締役ハ破産ヨリ生スル失権其身ニ及フヘキコトヲ規定セリ、若シ合資会社社員皆ナ有限責任ナルコトヲ得ハ一人モ失権ヲ受クルモノナキコト多カラン、又無限責任社員アルモ若シ業務ヲ担当スル者有限責任ナルトキハ業務ヲ担当セル尤モ有罪ナル社員ハ失権ヲ免カレテ却テ業務ニ干与セサリシ社員失権ヲ受クルノ奇観アヘヘシ《(ル)》、不当モ亦タ甚シカラスヤ、是レ本条ニ先ツ一名又ハ数名ノ社員ハ必ス無限責任タルヘキコトヲ示シタル所以ナリ原文第二項ヲ削除シタルハ合名会社社員ノ数ノ制限ヲ廃シタルカ故ニ合資会社ニ就キ特ニ制限ナキコトヲ明言スルノ必要アラサレハナリ、因テ原文第一項中ニ合資会社ノ出資ハ作業ヲ以テスルコトヲ得ザルコトヲ暗ニ示セルヲ取リテ明カニ第二項ニ掲ゲ以テ原文ニ代ヘタリ
  (欄外記事)
   第百三十八条 合資会社ノ登記及ヒ公告ニハ第七十九条ノ第二号乃至第六号ニ列記シタルモノノ外尚ホ左ノ事項ヲ掲クルコトヲ要ス
     第一 合資会社ナルコト
     第二 会社資本ノ総額
     第三 各社員ノ出資額
     第四 無限責任社員アルトキハ其氏名
     第五 業務担当社員又ハ取締役アルトキハ其氏名及ヒ其責任ノ有限又ハ無限ナルコト
第百三十八条第四号 無限責任社員ノ氏名
第五号 業務担当社員又ハ取締役アルトキハ其氏名
 本条ノ修正ハ第百三十六条ヲ修正シタル主意ニ基キタルモノナリ、尚ホ後ノ第百四十一条及ヒ第百四十二条ノ修正文ヲ参観セヨ
  (欄外記事)
 - 第20巻 p.34 -ページ画像 
   第百四十条 無限責任ノ社員・取締役ヲ除ク外社員ハ自己ノ計算又ハ第三者ノ計算ニテ会社ノ商部類ニ属スル取引ヲ為シ又ハ之ニ与カルコトヲ得
第百四十条 無限責任社員ハ総会ニ於テ総社員四分三以上ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ自己ノ為メ又ハ第三者ノ為メ会社ノ商業部類ニ属スル取引ヲ為シ又ハ之ニ与カルコトヲ得ス、之ニ背キタルトキハ第百四条ノ規定ヲ適用ス
 本条ノ修正ハ主トシテ第百三十六条ヲ修正シタル主意ニ基クモノニシテ苟モ取締役ハ必ス無限責任社員中ヨリ選任スヘキモノトスル以上ハ特ニ取締役ノ事ヲ言フノ必要ナク(後ノ第百四十二条ノ修正ヲ見ヨ)又原文ニ業務担当社員ヲ掲ケサリシハ大ナル欠点ナリシカ、是レ亦タ本節全躰ノ修正ニ因リテ特ニ掲クルノ要ナキコトトナレリ(次条ノ修正ヲ見ヨ)他ハ本条ノ規定ヲシテ一層明瞭ナラシメンコトヲ欲シタルニ過キス
  (欄外記事)
   第百四十一条 各社員ハ契約上他ノ定ナキトキハ同等ニ会社ヲ代理スル権利義務ヲ有ス
第百四十一条 無限責任社員ハ契約上特別ノ定ナキトキハ同等ニ会社ヲ代理スル権利義務ヲ有ス
 本条ノ修正ハ第百三十六条ヲ修正シタル主意ニ基クモノナリ、故ニ再ヒ玆ニ其理由ヲ贅セス、唯序ニ字句ヲ修正シタルノミ
  (欄外記事)
   第百四十二条 社員七人ヲ超ユル会社ニ在テハ其契約ヲ以テ社員中ヨリ一人又ハ数人ノ取締役ヲ任シ又設立後七人ヲ超ユルトキハ会社ノ決議ヲ以テ之ヲ任ス、但其決議ノ効力ハ総社員四分三以上ノ多数決ニ依リテ生ス
    取締役ハ何時ニテモ会社ノ決議ニ依リテ解任セラルルコト有ル可シ、其決議ノ効力ハ亦総社員四分三以上ノ多数決ニ依リテ生ス
第百四十二条 社員七人ヲ超ユル会社ニ在テハ其契約ヲ以テ無限責任社員中ヨリ一人又ハ数人ノ取締役ヲ撰定シ又設立後七人ヲ超ユルトキハ総社員四分三以上ノ多数決ヲ以テ之ヲ撰定スヘシ
取締役ハ何時ニテモ総社員四分三以上ノ多数決ヲ以テ解任セラルルコト有ル可シ
 理由前条ニ同シ唯他ニ序ニ字句ノ尤モ穏カナラサルモノヲ修正セシノミ
  (欄外記事)
   第百四十六条 会社契約ニ於テ又ハ第百四十二条ニ定メタル会社ノ決議ニ依リテ業務担当ノ任アル社員又ハ取締役ノ総員、数人若クハ一人カ其業務施行中ニ生シタル会社ノ義務ニ付キ無限ノ責任ヲ負フ可キ旨ヲ予メ定ムルコトヲ得
第百四十六条 有限責任社員ハ会社ノ業務ヲ担当スルコトヲ得ス、之ニ背クトキハ会社ノ義務ニ対シテ当然連帯無限ノ責任ヲ負フ
 是レ本節修正ノ眼目ナリ
 - 第20巻 p.35 -ページ画像 
  (欄外記事)
   第百四十七条 前条ニ掲ケタル無限ノ責任ハ業務担当ノ任アル社員又ハ取締役ノ退任後一个年ノ満了ニ因リテ消滅ス
第百四十七条 会社契約ヲ以テ選定シタル業務担当社員又ハ取締役其任ヲ退キタルトキハ、爾後其責任其出資ノミニ止マルヘキコトヲ会社契約又ハ会社ノ決議ヲ以テ定ムルコトヲ得、但其決議ハ総社員四分三以上ノ多数決ニ依ル
前項ノ場合ニ於テハ其業務担当社員又ハ取締役退任ノ後二个年間其在任中ニ生シタル会社ノ義務ニ就キ連帯無限ノ責任ヲ負フ
 前条ヲ改メタル当然ノ結果トシテ本条ヲモ改メサルコトヲ得ス、而シテ本文ノ如ク修正スルヲ以テ至当ト為スヘキカ如シ、第二項ニ於テ「退任後一ケ年」ヲ改メテ退任後二个年トシタルハ、前ノ第百二十五条ト権衡ヲ得セシメンカ為メ、且ツ其全財産ヲ信用シテ取引シタル債権者一年ノ後既ニ其社員ノ財産ニ対スル訴権ヲ失フトスルハ此債権者ニ対シテ聊カ酷ニ失スルノ譏ヲ免カレサルヲ以テナリ
  (欄外記事)
   第百五十条 事業年度ノ終リタル後直チニ通常総会ヲ開キ其年度ノ貸借対照表及ヒ事業並ニ其成果ノ報告書ヲ社員ニ提出シテ検査及ヒ認定ヲ受ク、其認定ハ出席社員ノ多数決ニ依ル
第百五十条 事業年度ノ終リタル後直チニ通常総会ヲ開キ其年度ノ貸借対照表及ヒ事業並ニ其成果ノ報告書ヲ提出シテ其検査及ヒ認定ヲ受ク
 本条末文ノ「其認定ハ出席社員ノ多数決ニ依ル」ヲ削リタル理由ハ総会ノ多数ニ関スルコトハ総テ次条ニ於テ之レヲ規定センコトヲ欲シタルニ在リ、他ハ字句ノ修正ニ過キス
  (欄外記事)
   第百五十一条 臨時総会ニ於テ議スヘキ事項ハ総社員ノ過半数ヲ以テ之ヲ決ス
    然レトモ合名会社ニ在テ総社員ノ承諾ヲ要ス可キ事項ハ総社員四分三以上ノ多数ヲ以テ之ヲ決ス、此場合ニ於テハ不同意ノ社員ハ直チニ退社スル権利アリ
第百五十一条第一項 会社契約ノ施行ニ関スル議事ハ契約又ハ法律ニ特別ノ規定アルモノノ外出席員ノ過半数ヲ以テ之ヲ決ス
 原文ニハ「臨時総会ニ於テ議ス可キ事項ハ」仮令契約ノ施行ニ関スル瑣細ノ事ト雖トモ必ス総社員ノ過半数ヲ要スルコトヽシ、通常総会ニ於テ議スル所ハ如何ナル重大ノ件モ唯出席員ノ多数決ニ依ルヲ常トシタルハ甚タ其当ヲ得サリシカ故ニ、修正案ニハ一ニ議事ノ性質ニ依リ其会社契約ノ施行ニ関スルモノハ皆ナ会社契約ノ履践ニシテ苟モ合資会社ヲ組成スルモノハ必ス総会ノ多数決ニ依ルヘキコトヲ予想シタルモノト謂ハサルコトヲ得ス、之レニ反シテ其他ノ事項ハ既ニ第八十六条ヲ削除シタルカ故ニ皆ナ合名会社ニ在テハ総社員ノ承諾ヲ要スヘキ事項ノミナリ、此等ハ社員カ初メ予想シタル事項ニ非サルカ故ニ純理ヨリ言ヘハ合名会社ニ於ケルカ如ク総社員ノ承諾ヲ要スヘキ筈ナレトモ合資会社ハ社員ノ数合名会社ヨリ多キヲ常
 - 第20巻 p.36 -ページ画像 
トスルカ故ニ、総社員ノ四分三以上承諾スレハ可ナリトセシナリ
  (欄外記事)
   第百五十五条 株式会社ハ其目的カ商業ヲ営ムニ在ラサルモノモ亦之ヲ商事会社ト看做ス
第百五十五条 株式会社ハ其目的カ商業ヲ営ムニ在ラサルモノニモ亦本節ノ規定ヲ適用ス
 原文ニハ「之ヲ商事会社ト看做ス」トアリテ其会社ハ民事会社ナルニ拘ハラス破産ヲ為シ(第九百七十八条)、其会社ノ取結ヒタル取引ハ皆ナ商取引ト看做サレ(第六条)、之レニ代務人及ヒ商業使用人ノ規定ヲ適用スヘク(第四十二条及ヒ第五十一条)、商業帳簿ヲ備フルノ責アリ(第三十一条)、能力モ商事上ノ能力ヲ要シ(第十一条以下)其社員ハ夫婦財産契約ヲ登記セサルヘカラス(第十四条)、其会社ノ取結ヒタル契約ヨリ生スル法定ノ利息ハ年六分ニ非スシテ七分ナルヘク(第三百三十四条)、証拠モ商法ノ証拠規則ニ依リ(第二百七十七条以下)、其会社カ他ノ者ト同時ニ権利ヲ得義務ヲ負フトキハ必ス連帯ノ権利義務ヲ生スヘク(第二百八十七条)、其会社ノ義務ハ六年ニシテ時効ニ罹リ敢テ三十年ヲ待タサルヘク(第三百四十九条)、其会社若シ質入ヲ為ストキハ民法ノ規則ニ依ラスシテ商法ノ規定ニ従フヘキカ如シ(第三百六十七条以下)、是レ実ニ理由ナキコトナリ、故ニ本条ヲ修正スルコト本文ノ如クシ、唯商法中株式会社ニ特別ナル規則ノミヲ適用スルコトヽシタルナリ(仏国ニ於テモ亦タ然リ)、尚ホ民法財産取得編第百二十条ハ本文ノ如ク解釈セサルコトヲ得ス故ニ本条ヲ改メサレハ民法ト抵触スルノ虞アリ
  (欄外記事)
   第百六十一条 株式ノ申込ヲ為スニハ申込人其引受クル株数ヲ株式申込簿ニ記入シテ之ニ署名捺印ス、又其申込ハ署名捺印シタル陳述書ノ送附ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得
    代人ヲ以テ申込ムトキハ委任者ノ氏名ニ代人氏名ヲ附記シテ之ヲ捺印ス
第百六十一条第二項 削除
 本条第二項ヲ削除シタル理由ハ代人ヲ以テ株式ノ申込ヲ為スニハ委任状ヲ徴スルヲ例トス、蓋シ株式ノ申込ハ会社設立ノ基礎ニシテ若シ後日ニ至リ本人其委任ヲ為サヽリシト抗弁スルコトアルトキハ容易ナラサル結果ヲ惹起スヘキカ故ナリ、而シテ委任状ヲ有スル代人ヲ以テ株式ノ申込ヲ為スコトヲ得ルハ言フヲ待タサルカ故ニ単ニ右ノ第二項ヲ削除シタリ
  (欄外記事)
   第百七十六条 株式ハ一株毎ニ株券一通ヲ作リ之ニ其金額・発行ノ年月日・番号・商号・社印・取締役ノ氏名・印及ヒ株主ノ氏名ヲ載ス
第百七十六条 株式ハ一株毎ニ株券一通ヲ作リ之ニ其金額・発行ノ年月日・番号・商号・社印・取締役ノ氏名・印及ヒ株主ノ氏名ヲ載ス、但株主ノ求ニ依リ数株ヲ合シテ一通ノ株券ヲ作ルコトヲ得
 原文ノ如ク株券ハ一株毎ニ必ス一通ヲ作ルモノトスルトキハ大会社
 - 第20巻 p.37 -ページ画像 
ニテ拾万乃至弐拾万個ノ株式ヲ発行スル者ニ在リテハ非常ノ不便ヲ感スルナリ、蓋シ其枚数夥多ナルトキハ(第一)株券ノ調製ニ多クノ費用ヲ要シ、(第二)譲渡ノ際裏書記載ノ手数繁雑ヲ加ヘ、(第三)株主之ヲ保存スルニ便ナラス、(第四)紛失毀損ノ憂従テ多キ等不便勝テ数フヘカラス、故ニ本条ヲ修正シ株主ノ望ミニヨリテハ数株ヲ合シテ一通ノ株券ト為ス事ヲ得セシムルヲ可トス、是現ニ日本鉄道会社・日本郵船会社・第十五国立銀行等ノ如キ大会社ノ実行スル所ニシテ之カ為メ毫モ弊害ヲ生スル事ナク、而カモ其便益大ナルハ之ニ関係スル者ノ洽ク知ル処ナリ、是本文ノ修正ヲ要スル所以ナリ
  (欄外記事)
   第百八十条 株金額少ナクトモ四分一ノ払込前ニ為シタル株式ノ譲渡ハ無効タリ
第百八十条 株金額四分一ノ払込前ニ為シタル株式ノ譲渡ハ会社及ヒ善意ノ譲受人ニ対シテハ無効タリ、但四分一ノ払込前ニ登記ヲ為シタル場合ニ於テハ其登記後ニ為シタル譲渡ノ無効ハ善意ノ譲受人ニ対シテ之ヲ援用スルコトヲ得ス
 原文ニ単ニ「無効タリ」トアリテ全ク不成立ナルヤ又誰ニ対シテノミ無効ナルヤ判然セス、然ルニ譲渡人及ヒ悪意ノ譲受人ハ自ラ法律ノ許サヽル所ヲ行ヒ自ラ其無効ヲ唱フルコトヲ得ルトセハ甚タ不当ナルノミナラス、元来法律ノ精神ハ新立ノ会社ノ株式ヲ多ク申込置キ、空螺ヲ吹立テヽ其相場ヲ激昂セシメ己レハ未タ一銭ノ払込ヲ為サス又ハ極メテ僅少ノ払込ヲ為シタルノミニテ之レヲ他ニ転売シ、一攫千金ノ利ヲ獲ント欲スル投機者流ヲ成ルヘク会社ヨリ遠ケント欲スルニ在ルカ故ニ其保護セント欲シタル会社及ヒ善意ニテ欺カレタル譲受人ノミ其無効ヲ唱フルコトヲ得ヘシトセシナリ、又原文ニハ会社ノ取締役カ未タ四分一ノ払込ヲ受ケ了ラサルニ偽リテ既ニ之レヲ受ケタリト曰ヒ以テ登記ヲ受ケタル場合ニ於テハ如何ノ問題ヲ決セス、是レ一大欠典ト謂ハサルコトヲ得ス、故ニ但書ヲ加ヘ以テ善意ノ譲受人ヲ保護セント欲シタルナリ、蓋シ既ニ登記ヲ為シタル場合ニ於テハ第三者ハ皆ナ四分一ノ払込既ニ終リタルモノト信スルハ当然ノ事ニシテ此場合ニ於テモ猶ホ譲渡無効ナリトセハ其株式ノ流通ヲ妨クルコト尠少ナラサルヘケレハナリ、他ハ字句ノ修正ニ過キス
  (欄外記事)
   第百八十二条 株金半額払込前ノ株式ノ譲渡人ハ会社ニ対シテ其株金未納額ノ担保義務ヲ負フ
第百八十二条 削除
 本条ハ株金半額払込前ノ条式《(株)》ヲ譲渡シタルモノヲシテ会社ニ対シテ其株金未納額ノ担保義務ヲ負ハシムルノ規定ナレトモ、払込ノ半額以上ト以下トニ依リテ全ク責任ヲ負フト全ク責任ヲ免カルヽトノ別ヲ立ツルハ甚タ謂ハレナキ事ニシテ、且実際ニ於テモ既ニ売買ヲ許シタル株式ハ転輾数人ノ手ニ移ルベケレハ如此ノ規定ハ頗ル其煩累ニ堪ヘス、是レ本条ヲ削除セシ所以ナリ
  (欄外記事)
 - 第20巻 p.38 -ページ画像 
   第百八十三条 会社ハ株主名簿及ヒ計算ノ閉鎖ノ為メ公告ヲ為シテ事業年度毎ニ一个月ヲ踰エサル期間株券ノ譲渡ヲ停止スルコトヲ得
第百八十三条 会社ハ株主名簿及ヒ計算ノ閉鎖ノ為メ公告ヲ為シテ事業年度毎ニ一个月ヲ踰エサル期間株式ノ譲渡ヲ停止スルコトヲ得
 原文ニハ前ニハ「株式ノ譲渡」ト云ヒ今ハ「株券ノ譲渡」ト云ヘリ斯ク前後其用字ヲ同シウセサルハ頗ル其当ヲ得サルノミナラス株券ヲ譲渡スハ是レ株式ヲ譲渡スノ意ヲ表スルニ過キサルモノナルカ故ニ、皆ナ株式ノ譲渡ト改メタルナリ
  (欄外記事)
   第百八十七条 取締役ニ選マルル為メ株主ノ所有ス可キ株数ハ会社定款ニ於テ之ヲ定ム、取締役ノ在任中ハ其株券ニ融通ヲ禁スル印ヲ捺シ之ヲ会社ニ預リ置ク可シ
第百八十七条 取締役ニ選マルル為メ株主ノ有ス可キ株数ハ会社定款ニ於テ之ヲ定ム、取締役ノ在任中ハ其株券ヲ会社ニ預リ置ク可シ
 取締役ノ在任中其所有株券ノ融通ヲ禁シ之ヲ会社ニ預ケ置カシムル事ハ実ニ至当ナリト雖モ、今日普通ノ慣例ヲ案スルニ商事会社取締役ノ任期ハ多クハ一年ニシテ其都度交代スルヲ例トスルカ故ニ、原文ニアルカ如ク其株券ニ融通ヲ禁スル印ヲ捺スルモノトスル時ハ更代ノ際一々其株券ヲ新調セサルヘカラスシテ、之カ為メ其所有者ヲシテ無益ノ費用ト手数トヲ蒙ラシムルノ不都合アリ、或ハ斯ノ如キ規定ヲ設ケサル時ハ取締役カ私ニ之ヲ融通スルノ弊ヲ生スヘシト云フ者アリ、然リト雖モ此等ノ事ハ畢竟徳義ノ制裁ニ依ルヘキモノニシテ若シ其取締役ニシテ悪心アリトセンカ仮令其株券ニ融通ヲ禁スル印ヲ捺シテ之ヲ会社ニ預カリ置クトスルモ到底其実効ヲ奏スルヲ得サルヘシ、何トナレハ取締役ハ自ラ其会社ノ公印ヲ監守シ且ツ営業ノ全権ヲ有スル者ニシテ不正ノ株券ヲ発行スル事ノ如キ亦甚タ容易ナレハナリ、之ヲ要スルニ取締役カ在任中其株券ヲ会社ニ預カリ置ク事ハ寧ロ形式上ノ検束ニ属スルヲ以テ其株券ニ捺印スルハ敢テ必要ナラサルヘシト信ス、是本文ノ修正ヲ要スル所以ナリ
 又「所有ス可キ」ヲ単ニ「有ス可キ」トシタルハ株主ノ権利ハ素ト一ノ債権ナルカ故ニ之ヲ有スルコトハアルヘキモ之レヲ所有スルコトハアルヘカラサレハナリ、尚ホ後ノ第二百十四条ノ下ニ於テ詳論スヘシ
  (欄外記事)
   第百八十九条 取締役ハ会社ノ義務ニ付キ各株主ニ異ナラサル責任ヲ負フ、然レトモ定款又ハ総会ノ決議ヲ以テ取締役ノ在任中ニ生シタル義務ニ付キ取締役カ連帯無限ノ責任ヲ負フ可キ旨ヲ予メ定ムルコトヲ得、其責任ハ退任後一个年ノ満了ニ因リテ消滅ス
第百八十九条 取締役ハ会社ノ義務ニ就キ他ノ株主ニ異ナラサル責任ヲ負フ、然レトモ定款ヲ以テ取締役ノ在任中ニ生シタル義務ニ就キ取締役カ連帯無限ノ責任ヲ負フ可キ旨ヲ予メ定ムルコトヲ得、其責任ハ退任後一个年ノ満了ニ因リテ消滅ス
 - 第20巻 p.39 -ページ画像 
 本条ヲ修正シタル理由ハ第一「総会ノ決議ヲ以テ」取締役ニ連帯無限ノ責任ヲ負ハシメント欲スルモ、若シ取締役ニ選ハレタルモノ此責任ヲ負フコトヲ欲セサレハ敢テ之レヲ強ユルコト能ハス、故ニ「又ハ総会ノ決議」ノ七字ヲ削レリ、第二「各株主」ヲ他ノ株主ニ改メタルハ唯字句ノ修正ニ過キス
  (欄外記事)
   第百九十一条 総会ハ株主中ニ於テ三人ヨリ少ナカラサル監査役ヲ二个年内ノ時期ヲ以テ選定ス、但其時期満了ノ後再選スルハ妨ナシ
第百九十一条 総会ハ毎年株主中ニ於テ一人若クハ数人ノ監査役ヲ選定ス、但之ヲ重選スルハ妨ナシ
 本条原文ノ規定ニ拠レハ凡株式会社ハ其規摸ノ大小如何ヲ問ハス必ス株主中ヨリ三名以上ノ監査役ヲ選定シテ取締役ノ業務ヲ監督セシメサルヘカラス、然ルニ極メテ少額ノ資本ヲ以テ成立スル所ノ会社ノ如キ三名ノ取締役ノ外更ニ三名以上ノ監査役ヲ置ク事ハ実際必要ナラスト信ス、況ンヤ監査役ノ責務ハ頗ル重大ニシテ随テ多額ノ給料若クハ報酬ヲ要スルノ事情アルカ故ニ多数ノ監査役ヲ置ク事ハ其会社ノ経済上甚タ不利ナルニ於テヲヤ、故ニ少額ノ資本ヲ以テ成立スル会社ノ如キハ一名ノ監査役ヲ置ク事ヲ得セシメン事ヲ望ム(仏国千八百六十七年七月二十四日会社法第三十二条ニモ一人又ハ数人ノ監査役ヲ選任スヘキ事ヲ言ヘリ)、又原文ニハ「二个年内ノ時期ヲ以テ」トアリ、之レヲ第百八十五条ニ比スレハ一年短シ、而シテ其理由ヲ問ヘハ蓋シ監査ノ任ニ当レルモノハ在任長ケレハ動モスレハ取締役ト共謀シテ不正ノ事ヲ為スノ恐レアリ、之レニ反シテ取締役ハ理事者ナルカ故ニ在任長カラサレハ事務ノ進捗ヲ妨クルノ虞アルヲ以テナリ、然リト雖モ僅僅一年ノ差果シテ能ク右ノ精神ヲ貫クニ足ルヤ否ヤ頗ル疑フヘシト為ス、是レ監査役ヲ毎年改選スルコトヽシタル所以ナリ(仏国会社法第三十二条ニ於テモ亦タ然リ)、其他ハ字句ノ改正ニ過キス
  (欄外記事)
   第百九十二条 監査役ノ職分ハ左ノ如シ
     第一 取締役ノ業務施行カ法律・命令・定款及ヒ総会ノ決議ニ適合スルヤ否ヤヲ監視シ、且総テ其業務施行上ノ過愆及ヒ不整ヲ検出スルコト
     第二 計算書・財産目録・貸借対照表・事業報告書・利息又ハ配当金ノ分配案ヲ検査シ此事ニ関シ株主総会ニ報告ヲ為スコト
     第三 会社ノ為メニ必要又ハ有益ト認ムルトキハ総会ヲ招集スルコト
第百九十二条第一号 削除
 本条第一号ノ規定ニ拠レハ監査役ハ常ニ其職分トシテ取締役ノ業務ヲ監督セサルヘカラスシテ、若シ其責務ヲ欠クカ為メニ損害ヲ生スル時ハ第百九十五条ニ示スカ如ク責任ヲ負ハサルヲ得サルカ故ニ監督ノ際不知不識適当ノ畛界ヲ超逸シテ業務ニ関渉シ遂ニ商業ノ円滑
 - 第20巻 p.40 -ページ画像 
ヲ害スルノ弊ヲ生スル事ナシトセス、故ニ本条中第一号ヲ除却シ以テ監査役ノ職分ヲシテ現今各会社ノ所謂会計検査委員ノ如ク会計収支ノ正否ヲ監督スルニ止マラシメン事ヲ望ム、是本条第一号ヲ削除セシ所以ナリ
  (欄外記事)
   第二百六条 会社資本ノ増加ハ株券ノ金額ヲ増シ又ハ新株券若クハ債券ヲ発行シテ之ヲ為シ又其減少ハ株券ノ金額又ハ株数ヲ減シテ之ヲ為スコトヲ得、但資本ハ其全額ノ四分一未満ニ減スルコトヲ得ス、此債券ハ記名ノモノニシテ其金額ニ付テハ第百七十五条ノ規定ヲ適用ス
第二百六条 会社資本ノ増加ハ各株ノ金額ヲ増シ又ハ新株ヲ発行シテ之ヲ為シ又其減少ハ各株ノ金額又ハ株数ヲ減シテ之ヲ為スコトヲ得、但減シテ資本金額ノ四分一未満ニ至ルコトヲ得ス
会社ハ債券ヲ発行スルコトヲ得、其債券ハ記名ノモノニシテ其金額ニ就テハ第百七十五条ノ規定ヲ適用ス
 本条ニ於テハ債券ヲ発行スルヲ以テ資本ヲ増加スルノ一法トセリ、是レ大ナル誤謬タルヲ免カレス、蓋シ債券ヲ発行スルハ唯負債ヲ起スナリ、苟モ会社ニ於テ金銭ヲ借入ルヽ毎ニ之レヲ資本ヲ増加シタルモノト看做サヽル以上ハ債券ニ由リテ獲タル金額ヲ以テ資本ト為スコト能ハサルヘシ、然ラスンハ資本ノ総額ヲ変更スルモノナルカ故ニ之レヲ登記セサルヘカラス(第百六十七条第四及ヒ第二百十条)定款ヲ変更スルモノナルカ故ニ特別ノ多数ヲ要ス(第二百三条)、資本一旦増加シタル以上ハ其増加額即チ原資本額ニ債券ニ由リテ獲タル金額ヲ併セタルモノヽ四分一未満ニ減スルコトヲ得ス(第二百六条)、仮令四分一以上ニテモ之レヲ減スルトキ即チ債券一枚ノ償還ヲ為スニモ必ス之レヲ登記セサルヘカラス、特別多数ノ承諾ヲ得サルヘカラス(第百六十七条第四及ヒ第二百十条、第二百三条)、而シテ右ノ償還ヲ為スノ前予メ会社ノ総債権者ニ通知セサルヘカラス(第二百七条)、債権者中若シ異議ヲ申出ツルモノアルトキハ会社ハ其債権者ニ弁済シ又ハ担保ヲ供セサルヘカラス(第二百八条)、原資本額ニ債券ヲ発行シテ獲タル金額ヲ併セタル総額ノ四分一ニ達スルマテ準備金ヲ積立テサルヘカラス(第二百十九条)、豈ニ此クノ如キノ理アランヤ
 第一項ノ修正ハ唯株券ヲ主トシテ言ヘルノ不当ナルコトヲ信スルト又但書ノ余リニ翻訳然タルトニ因リテ字句ヲ修正シタルノミ
  (欄外記事)
   第二百十三条 払込期節ヲ怠リタル株主ハ年百分ノ七ノ遅延利息及ヒ其遅延ノ為メニ生シタル費用ヲ支払フ義務アリ
第二百十三条 期節ニ至リ猶ホ払込ヲ為ササル株主ハ年百分ノ十ノ遅延利息及ヒ其遅延ノ為メニ生シタル費用ヲ支払フ義務アリ
 本条「百分ノ七」ヲ改メテ百分ノ十トシタル理由ハ前ニ第九十五条ニ関シテ之レヲ述ヘタリ、其他「期節ヲ怠ル」ノ語ハ如何ニモ不穏当ナルカ故ニ本文ノ如ク改メタリ
  (欄外記事)
 - 第20巻 p.41 -ページ画像 
   第二百十四条 払込ヲ怠リタル株主カ更ニ少ナクトモ十四日ノ期間ニ於テ払込ム可キ催告ヲ会社ヨリ受ケ仍ホ払込ヲ為ササルトキハ、会社ハ其株主ニ対シテ株券ノ所有権ヲ失ヒタリト宣言スルコトヲ得、然ルトキハ其株券ハ会社ノ所有ト為ル
第二百十四条 払込ヲ怠リタル株主カ更ニ十四日以上ノ期間ニ於テ払込ム可キ催告ヲ会社ヨリ受ケ仍ホ払込ヲ為ササルトキハ会社ハ其株主ヲ以テ株主タル権利ヲ失ヒタルモノト宣言スルコトヲ得、然ルトキハ其株式ハ会社之ヲ取得ス
 原文ニハ第一株式ト株券トヲ混スルコト猶ホ第百八十三条ニ於ケルカコトク、第二「株券ノ所有権」「株券ノ所有」ト云ヘリ、蓋シ株券ナルモノハ一紙片ニシテ之レカ所有権ヲ得ルモ何ノ益スル所カ之レ有ラン、唯其紙片カ証表スル株式即チ株主タル権利コソ之レヲ有スルニ利アレ、然リト雖トモ株主タル権利ハ一ノ債権ナリ、債権ノ所有権ナル語ハ往々学者ノ用フル所ニシテ新法典亦タ之レヲ用フルノ処ナキニ非サレトモ是レ甚タ不穏ナル用語ニシテ、我カ法典ハ財産権ヲ分チテ物権ト人権トノ二種ト為シ、物権ノ首ニ所有権ヲ置キ人権即チ債権ト明カニ之ヲ識別シナカラ債権ノ所有権ト曰ハヽ恰モ人権ノ物権ト曰フト一般ナリ、是レ本条ノ修正ヲ必要トシタル所以ナリ(民法財産編第一条・第二条及ヒ第三条ヲ参観セヨ)
  (欄外記事)
   第二百十五条 所有権ヲ失ヒタリト宣言セラレタル株券ノ従前ノ所有者ハ会社ニ於テ其株券ヲ公売スルモ、其代金既ニ催告ヲ受ケタル払込金額ニ満タサルトキハ其不足金及ヒ第二百十三条ニ記載シタル利息並ニ費用ノ支払ニ付キ仍ホ責任ヲ負フ但剰余アルトキハ会社ハ之ヲ従前ノ所有者ニ還付ス
    会社ハ其定款ヲ以テ別ニ違約金ヲ払フ可キコトヲ定ムルコトヲ得
第二百十五条第一項 失権ヲ宣言セラレタル株主ハ会社ニ於テ其株式ヲ公売スルモ其代金既ニ催告ヲ受ケタル払込金額ニ満タサルトキハ其不足金額及ヒ第二百十三条ニ記載シタル利息並ニ費用ノ支払ニ就キ仍ホ責任ヲ負フ、但剰余アルトキハ会社ハ之ヲ従前ノ株主ニ還付ス
 理由前条ノ修正ニ同シ
  (欄外記事)
   第二百十七条 会社ハ自己ノ株券ヲ取得シ又ハ之ヲ質ニ取ルコトヲ得ス、所有権ヲ失ヒタリト宣言セラレタル株券又ハ債務ノ弁償ノ為メ若クハ其他ノ事由ニ因リテ会社ニ交付セラレ若クハ移属シタル株券ハ、一个月内ニ於テ公ニ之ヲ売リ其代金ヲ会社ニ収ム
第二百十七条 会社ハ自己ノ株式ヲ買受ケ又ハ之ヲ質ニ取ルコトヲ得ス、第二百十四条ノ場合其他会社カ正当ニ株式ヲ取得シタル場合ニ於テハ、其取得ノ日ヨリ三ケ月内ニ其株式ヲ公売シ且其代金ヲ受取ルヘシ
 本条ヲ修正シタル理由ハ前掲二条ヲ修正シタル理由ノ外第一原文ニハ汎ク「取得スルコトヲ得ス」ト云ヒ、恰モ有償無償ノ取得一切ヲ
 - 第20巻 p.42 -ページ画像 
包含スルモノヽ如ク見ユルニ、次ニ「債務ノ弁償ノ為メ若クハ其他ノ事由ニ因リテ会社ニ交付セラレ若クハ移属シタル株券」ト云ヒ会社カ自己ノ株式ヲ取得スルコトヲ得ヘキ場合アルコトヲ示セリ、唯如何ナル場合ヲ斥セルヤハ漠トシテ之レヲ知ルニ由ナシ(草案ニハ「其他ノ事由云々」ハナカリシ)、蓋シ会社カ自己ノ株式ヲ取得スルノ尤モ弊害多キハ其資本金ヲ出タシテ其株式ヲ買収シ、一時下落セル株式ノ気運ヲ挽回セントシテ能ハス遂ニ破産スル場合ニ在リ、故ニ既ニ金銭ヲ以テ買取ルコトト之レヲ質ニ取ルコトトヲ禁スレハ他ノ贈与ニ由リテ取得スルハ勿論代物弁済・和解等ニ由リテ取得スルカ如キハ之レヲ許シテ可ナルカ如シ、第二「一ケ月」ヲ三ケ月ト改メタルハ期限短キニ失シ、殆ド公売等ノ手続ヲ践ムノ遑ナケレバナリ、第三原文末尾ニ「其代金ヲ会社ニ収ム」ト云ヘリト雖トモ、第二百十四条ノ場合ノ如キハ其代金ノ残余ハ之レヲ原株主ニ還付スヘキモノニシテ(第二百十五条)、会社ハ唯一時其手ニ代金ヲ受取ルニ過キス、是レ本条ヲ修正シタル所以ナリ
  (欄外記事)
   第二百十九条 利息又ハ配当金ハ損失ニ因リテ減シタル資本ヲ塡補シ及ヒ規定ノ準備金ヲ扣取シタル後ニ非サレハ之ヲ分配スルコトヲ得ス
    準備金カ資本ノ四分一ニ達スルマテハ毎年ノ利益ノ少ナクトモ二十分一ヲ準備金トシテ積置クコトヲ要ス
第二百十九条 利息又ハ配当金ハ損失ニ因リテ減シタル資本ヲ塡補シ且次項ニ規定セル準備金ヲ控取シタル後ニ非サレハ之ヲ分配スルコトヲ得ス
資本ノ四分一ニ達スルマテ準備金トシテ毎年ノ利益ノ二十分一以上ヲ金銭又ハ有価物ニテ積置クコトヲ要ス
 原文ニ拠レハ必ス金額ニテ利益ノ二十分一以上ヲ積置クヘキカ如シ然ルニ場合ニ依リテハ商品ハ甚タ多ク庫中ニ存スレトモ直チニ之レヲ金額ニ代フルヲ不利益トスルコトナシトセス、故ニ本文ノ如ク修正シテ幾分カ臨機ノ処置ヲ施スノ余地ヲ与ヘタルナリ
  (欄外記事)
   第二百二十二条 会社ハ其本店及ヒ各支店ニ株主名簿・目論見書・定款・設立免許書・総会ノ決議書・毎事業年度ノ計算書財産目録・貸借対照表・事業報告書・利息又ハ配当金ノ分配案及ヒ抵当若クハ不動産質ノ債権者ノ名簿ヲ備置キ通常ノ取引時間中何人ニモ其求ニ応シ展閲ヲ許ス義務アリ
第二百二十二条 会社ハ其本店及ヒ各支店ニ株主名簿・目論見書・定款・設立免許書・総会ノ決議書・毎事業年度ノ計算書・財産目録・貸借対照表・事業報告書・利息又ハ配当金ノ分配案・抵当及ヒ不動産質ヲ有スル債権者ノ名簿ヲ備置キ通常ノ取引時間中株主及ヒ会社ノ債権者ノ求ニ応シ展閲ヲ許ス義務アリ
 原文ニ拠レハ会社ハ常ニ其本店及各支店ニ株主名簿其他ノ書類ヲ備ヘ置キ何人ノ求メニ応シテモ之ニ展閲ヲ許サヽルヘカラス、蓋シ此等ノ書類ハ株主又ハ債権者ハ勿論新ニ之ト取引セントスル者ガ実際
 - 第20巻 p.43 -ページ画像 
ノ必要ヨリ其閲覧ヲ求ムルガ如キ場合ニ於テ之ヲ承諾スルハ固ヨリ妨ナシト雖トモ、何人ニモ其望ニ応シテ開示セザルヲ得ザルモノトスルハ豈其当ヲ得タルモノト云フヘケンヤ、況ンヤ如此規定アル時ハ徒ラニ会社ヲ煩ハシ之ヲ妨害セントスルノ徒ナキヲ保セザルニ於テヲヤ、之ヲ要スルニ此「何人」ノ文字ヲ株主及ヒ会社ノ債権者ト改メ、其他ノ人ニ至リテハ苟モ実際ノ必要アリテ閲覧ヲ求ムル場合ノ外之ニ応ゼザルモ可ナル事ニ規定セン事ヲ望ム、而シテ実際ノ必要アルモノニハ仮令法文ノ規定ナキモ会社ノ利益ノ為メニ喜テ之レヲ開示スヘキカ故ニ単ニ株主及ヒ債権者ノミ之レヲ請求スルコトヲ得ルモノトセリ
  (欄外記事)
   第二百三十二条 会社解散ノ場合ニ於テハ取締役ハ総会ヲ招集シ解散ノ決議ヲ取ル、但裁判所ノ命令ニ依リテ解散スル場合ハ此限ニ在ラス
    其総会ニ於テハ破産ノ場合ヲ除ク外一人又ハ数人ノ清算人ヲ選定ス
第二百三十二条 会社解散ノ場合ニ於テハ取締役ハ総会ヲ招集シ一人又ハ数人ノ清算人ヲ選定ス、但破産ノ場合ハ此限ニ在ラス
 第二百三十条ニ拠レハ株主ノ任意ノ解散ノ場合ヲ除クノ外皆ナ当然解散スヘキ場合ニシテ別ニ総会ノ決議ヲ要セス、唯清算人ヲ選定スルノ必要アルノミ、而シテ株主ノ任意ノ解散ノ場合ニ就イテモ既ニ第二百三条ニ於テ任意ノ解散ノ決議ヲ為スニハ定款変更ノ決議ヲ為スト同一ノ多数ヲ要スルコトヲ言ヘルカ故ニ、更ニ之レヲ玆ニ規定スルノ要ナシ、是レ本文ノ如ク修正ヲ施シタル所以ナリ
  (欄外記事)
   第二百三十三条 前条ニ掲ケタル解散ノ決議又ハ清算人ノ選定ヲ為ササルトキハ裁判所ハ債権者若クハ株主ノ申立ニ因リ又ハ職権ニ依リ其命令ヲ以テ決議ニ換ヘ又ハ清算人ヲ任スルコトヲ得
第二百三十三条 前条ニ従ヒ清算人ノ選定ヲ為ササルトキハ裁判所ハ債権者若クハ株主ノ申立ニ因リ又ハ職権ヲ以テ清算人ヲ選任ス
 本条ノ修正ハ前条ノ修正ノ結果ト末文ニ「任スルコトヲ得」ト云ヒ任セサルモ可ナルカ如ク見ユルヲ改メテ必ス選任スヘキモノタルコトヲ明瞭ニシタルトニ外ナラルナリ
  (欄外記事)
   第二百三十四条 会社ハ破産ノ場合ヲ除ク外決議後七日内ニ解散ノ原由・年月日及ヒ清算人ノ氏名・住所ノ登記ヲ受ケ之ヲ裁判所ニ届出テ、又何レノ場合ニ於テモ之ヲ各株主ニ通知シ且地方長官ヲ経由シテ主務省ニ届出ツルコトヲ要ス
第二百三十四条 取締役ハ清算人選定後七日内ニ解散ノ原由・年月日及ヒ清算人ノ氏名・住所ノ登記ヲ受ケ且之ヲ裁判所ニ届出ツヘシ
取締役ハ同一ノ期限内ニ前項ニ従ヒ登記ヲ受クヘキ事項ヲ各株主ニ通知シ且地方長官ヲ経由シテ主務省ニ届出ツルコトヲ要ス、但破産ノ場合ニハ唯其年月日ヲ通知シ且届出ツルヲ以テ足ル
 - 第20巻 p.44 -ページ画像 
 本条ノ修正モ亦タ第二百三十二条ノ修正ノ結果ニ過キス、唯序ニ字句ヲ修正シテ原文ノ不明瞭ナリシ点ヲ明瞭ニセシノミ
  (欄外記事)
   第二百三十七条 登記後ニ為シタル株式ノ譲渡及ヒ清算ノ目的ノ為メニセサル財産ノ処分ハ総テ無効タリ、但特別ノ理由アリテ裁判所ノ許可ヲ得タルトキハ此限ニ在ラス
第二百三十七条 登記後ニ為シタル株式ノ譲渡及ヒ清算ノ目的ノ為メニセサル財産ノ処分ハ総テ無効タリ
清算人ハ裁判所ノ許可ヲ得ルニ非サレハ営業ヲ続行スルコトヲ得ス
 原文但書ニハ「特別ノ理由アリテ裁判所ノ許可ヲ得タルトキハ此限ニ在ラス」トアリテ其意味ヲ了解シ難シ、然ルニ草案ノ説明ニ拠レハ本文第二項ノ意味ナリト云ヘリ、是レ草案ノ説明アルニ非サレハ誰レカ復タ原文但書ヲ以テ斯クノ如キ意味アルモノトセンヤ、故ニ明カニ之レヲ第二項ニ掲クルヲ以テ得策トシタルナリ
  (欄外記事)
   第二百四十六条 清算人ハ清算ノ為メ株主ヲシテ其未タ全額ヲ払込マサル株券ニ付キ払込ヲ為サシムル権利アリ
第二百四十六条 清算人ハ清算ノ為メ株主ヲシテ其未タ全額ヲ払込マサル株式ニ付キ払込ヲ為サシムル権利アリ
 本条ハ唯「株券」ヲ株式ト改メタルノミナリ
  (欄外記事)
   第二百五十三条 清算中ニ現在ノ会社財産ヲ以テ会社ノ総債権者ニ完済シ能ハサルコトノ分明ナルニ至リタルトキハ、清算人ハ破産手続ノ開始ヲ為シテ其旨ヲ公告シ且会社ノ取引先ニ通知ス
    此場合ニ於テ既ニ債権者又ハ株主ニ支払ヒタルモノ有ルトキハ之ヲ取戻スコトヲ得、清算人カ貸方借方ノ此ノ如キ関係ナルコトヲ知リテ為シタル支払ニシテ其受取人ヨリ取戻シ得サルモノニ付テハ債権者ニ対シテ其責任ヲ負フ
第二百五十三条 清算中ニ現在ノ会社財産ヲ以テ会社ノ総債権者ニ完済スルコト能ハサルコトノ分明ナルニ至リタルトキハ清算人ハ破産手続ノ開始ヲ為シテ其旨ヲ公告シ且会社ノ取引先ニ通知ス
清算人前項ノ手続ヲ終リタルトキハ第二百五十条ニ依リ卸任ヲ求ムヘシ
此場合ニ於テ既ニ債権者又ハ株主ニ支払ヒタルモノ有ルトキハ破産管財人之ヲ取戻スコトヲ得清算人カ会社財産ノ不足ナルコトヲ知リテ為シタル支払ニシテ其受取人ヨリ取戻シ得サルモノニ就テハ清算人債権者ニ対シテ其責任ヲ負フ
 本条原文ノ儘ニテハ清算人卸任ノ事ヲ言ハサルヲ以テ管財人ト清算人ト両立スヘキモノヽ如シ、故ニ清算人ノ破産手続ノ開始ヲ為シテ其旨ヲ公告シ、且会社ノ取引先ニ通知シ事務ヲ管財人ニ引渡シタル上ハ直チニ卸任ヲ求ムヘキ旨ヲ明示セン事ヲ望ム、是レ本条ニ修正ヲ加ヘシ所以ナリ
 第一項及ヒ第三項ノ修正ハ皆ナ序ニ字句ヲ修正シタルニ過キス
 - 第20巻 p.45 -ページ画像 
  (欄外記事)
   第二百五十六条 業務担当ノ任アル社員又ハ取締役ハ左ノ場合ニ於テハ五円以上五十円以下ノ過料ニ処セラル
     第一本章ニ定メタル登記ヲ受クルコトヲ怠リタルトキ
     第二登記前ニ開業シタルトキ
第二百五十六条第二号 登記前ニ事業ニ着手シタルトキ
 是第八十一条ヲ修正シタル当然ノ結果ナリ
  (欄外記事)
   第二百五十八条 株式会社ノ取締役ハ左ノ場合ニ於テハ二十円以上二百円以下ノ過料ニ処セラル
     第一 第二百十六条ノ規定ニ反シ株金ノ全部又ハ一分ヲ払戻シタルトキ
     第二 第二百十七条ノ規定ニ反シ会社ノ為メ其株券ヲ取得シ又ハ質ニ取リ又ハ公売セサルトキ
     第三 第二百十八条又ハ第二百十九条ノ規定ニ反シ利息又ハ配当金ヲ株主ニ払渡シタルトキ
     第四 第二百二十五条ノ場合ニ於テ会社ノ金匣・財産現在高・帳簿及ヒ総テノ書類ノ検査ヲ妨ケ又ハ求メラレタル説明ヲ拒ミタルトキ
    合資会社ノ業務担当ノ任アル社員又ハ取締役カ第百五十三条ノ規定ニ反シ利息又ハ配当金ヲ社員ニ払渡シタルトキハ亦本条ニ定メタル罰則ヲ之ニ適用ス
第二百五十八条第二号 第二百十七条ノ規定ニ反シ会社ノ為メ其株式ヲ買受ケ又ハ質ニ取リ又ハ公売セサルトキ
 本文ノ修正ハ第二百十七条ノ修正ノ結果ニ過ギス
  (欄外記事)
   第二百六十八条 或人カ損益共分ノ契約ヲ以テ他人ノ営ム商業ニ出資ヲ供シテ之ヲ其者ノ所有ニ移シ商号ニ自己ヲ表示スル名称ヲ顕ハサス、又業務施行ニ与カラサルモノヲ匿名組合トシ、其営業者ノ行為ニ付キ第三者ニ対シ出資未済ノ場合ニ於テ其出資ノ額ニ満ツルマテヲ限リ義務ヲ負フ
    代務人又ハ商業使用人ト為リテ用務ヲ弁スルハ業務施行ニ与カルモノト看做サス
第二百六十八条第一項 或人カ損益共分ノ契約ヲ以テ他人ノ商取引又ハ商業ニ出資ヲ供シテ商号ニ自己ヲ表示スル名称ヲ顕ハサス又業務施行ニ与カラサルモノヲ匿名組合トシ出資未済ノ場合ニ於テ其当業者ノ行為ニ就キ第三者ニ対シ其出資ノ額ニ満ツルマテヲ限リ義務ヲ負フ
 本条ヲ修正シタル理由ハ第一原文ニ拠レハ「他人ノ営ム商業ニ出資ヲ供スル」場合ニノミ匿名組合アルモノトセリ、然ルニ一ノ商取引ニ就テ匿名組合ヲ結ハント欲スルコト稀ナリトセサルヘシ、而シテ毫モ之レヲ禁スルノ理由ナシ、故ニ「商取引又ハ商業」ト改メタルナリ、蓋シ原文ハ独国商法第二百五十条ニ同ジキガ如シ、然リト雖トモ独国商法ニ於テハ当座組合(Vereinigung Zu einzelnen Handelschäften)ノ規定粗ホ匿名組合ノ規定ニ類スルヲ以テ毫モ差支ナ
 - 第20巻 p.46 -ページ画像 
シト雖トモ、我邦ニ於テハ当座組合ノ規定ハ全ク匿名組合ノ規定ト相容レサルモノアリテ到底是レニ由リテ以テ匿名組合ニ類スルモノヲ立ツルコトヲ得ス(仏国商法第四十八条ニ拠レハ匿名組合ハ主トシテ単独ノ商取引ノ為メニスルモノナリ或ハ一ノ商業ノ為メニスルコト能ハサルノ説アレトモ是レハ信スヘカラス)、第二原文ニハ「之ヲ其者ノ所有ニ移ス」ト云ヒ暗ニ其出資ハ必ス一ノ財産ナルヘキコトヲ示セリト雖トモ、実際技師・番頭・手代・職工等カ一定ノ給料ヲ受クル代ハリニ利益ノ配当ヲ受クヘキ約定ニテ乃チ匿名組合ヲ結ハント欲スルコト多カルヘク、而シテ之レヲ禁スル理由ナキノミナラス却テ之レヲ奨励スヘキカ如シ、又之レヲ匿名組合ト看做サスシテ一ノ無名契約ナリト曰ハンカ、我輩之レヲ匿名組合ト看做サヽルノ理由ヲ発見セス、斯ク頻繁ナルヘキ契約ヲ単ニ無名契約トスルカ如キハ我法典ノ躰面上ヨリモ頗ル妥当ナラスト信スルヲ以テ右ノ数字ヲ削リ、作業ト雖トモ之ヲ出資トスルコトヲ得ルモノトシタリ
  (欄外記事)
   第二百六十九条 匿名組合ノ損益共分ノ割合ハ明約アルニ非サレハ営業資本総額ニ対スル出資額ノ比例ヲ以テ之ヲ量定ス
第二百六十九条 匿名組合ノ損益共分ノ割合ハ特約アルニ非サレハ組合資本総額ニ対スル出資額ノ比例ニ依リ之ヲ量定ス
 本条ノ修正ハ前条ニ於テ単独ノ商取引ニ関シテモ亦タ匿名組合ヲ結フコトヲ得ヘキコトヲ定メタルヲ以テ「営業資本」ヲ「組合資本」ト改メ序ニ字句ノ修正ヲ施シタルニ過キス
  (欄外記事)
   第二百七十一条 匿名組合ノ契約ハ其契約ニ於テ時期ヲ定メサリシトキハ六个月前ノ予告ヲ以テ之ヲ解除スル事ヲ得、又其契約ハ営業者ノ破産若クハ死亡又ハ其営業ノ廃止ヲ以テ終ル
第二百七十一条 匿名組合ノ契約ハ其契約ニ於テ時期ヲ定メサリシトキ又ハ当事者ノ終身ヲ期シテ之ヲ取結ヒタルトキハ六个月前ノ予告ヲ以テ之ヲ廃罷スルコトヲ得、又其契約ハ当業者ノ破産若クハ死亡又ハ其取引ノ結了若クハ営業ノ廃止ニ因リテ終了ス
 本条ヲ修正シタルハ第一第二百六十八条ヲ修正シタル結果ト、第二「又ハ当事者ノ終身ヲ期シテ之ヲ取結ヒタルトキ」ノ十数字ヲ挿入シタルト(是レハ草案ノ説明中ニハアレトモ明カニ法文ニ掲ケサレハ畢竟争論ノ種トナルヘキカ故ニ序ニ之レヲ修正セリ)、第三「解除」ヲ改メテ廃罷トシタルトニ在リ、解除ノ文字ハ通例契約ヲ既往ニ遡リテ取消ス場合ニ用フルモノナリ、然ルニ本条ニ於テハ単ニ将来ニ向テノミ之ヲ取消スモノナルコト疑ナキカ故ニ寧ロ廃罷ノ文字ヲ用フルヲ可トスルナリ
  (欄外記事)
   第二百七十二条 契約解除ノ場合ニ於テハ匿名員ノ負担ニ帰ス可キ損失及ヒ債務ヲ引去リタル後其出資額ヲ之ニ払戻ス事ヲ要ス
第二百七十二条 契約廃罷ノ場合ニ於テハ匿名員ノ負担ニ帰ス可キ損失ヲ引去リタル後其出資額ヲ払戻スコトヲ要ス
 - 第20巻 p.47 -ページ画像 
 本条ノ修正ハ第一前条ノ修正ノ結果ト第二「損失及ヒ債務ヲ引去ル」ノ文字穏カナラサルトニ因ル、蓋シ事業ノ利益又ハ損失ヲ算スルニハ必ス権利義務ヲ算入セサルヘカラサルハ言フヲ待タサル所ニシテ仮令現金ニシテ損失ヲ被ムラサルモ若シ他ニ義務ヲ負フトキハ是レ即チ損失タルヘキカ故ニ「及ヒ債務」ノ四字ハ到底蛇足タルヲ免レス、他ハ字句ノ修正ノミ
  (欄外記事)
   第二百七十三条 匿名員ハ契約解除ノ場合及ヒ毎事業年度ノ終ニ於テ計算書ノ差出ヲ求メ及ヒ商業帳簿並ニ書類ヲ展閲調査セント求ムル権利アリ
    此規定ハ第二百六十六条及ヒ第二百六十七条ニ掲ケタル場合ニモ亦之ヲ適用ス
第二百七十三条 匿名員ハ契約廃罷ノ場合及ヒ毎事業年度ノ終ニ於テ計算書ヲ求メ且商業帳簿並ニ書類ノ展閲調査ヲ為ス権利アリ
第二項 削除
 第一項修正ノハ前二条修正ノ結果ト字句ノ修正トノミ、第二項ヲ削除シタル理由ハ匿名組合ニ於テハ当業者独リ外ニ対シテ取引ヲ為スカ故ニ匿名員カ之レニ計算書ヲ求メ其帳簿ヲ点撿スルノ必要アリ、又之レヲ明言スルノ要用アリトスルモ他ノ当座組合及ヒ共分組合ニ於テハ組合員各々外ニ対シテ取引ヲ為スカ故ニ其間ニ互ニ計算ヲ為シ其帳簿ヲ点撿スルハ言フヲ待タサル所ナリ、且ツ本条第一項ヲ之レニ適用スルコト能ハス、何トナレハ此レニハ当業者ト匿名員トノ別アラサレハナリ
  (欄外記事)
   第二百七十七条 主タル目的物カ五十円ノ価額ヲ超ユル契約ハ其履行ヲ即時ニ為ササルトキハ之ヲ書面ニ作成シテ交付ス可シ
    本法中成ル契約ニ関スル特別ノ規定ハ前項ノ為メニ妨ケラルルコト無シ
第二百七十七条 商事契約ニ関シテ本法ニ特別ノ規定アルモノヲ除ク外、其成立ノ為メニスルト証拠ノ為メニスルトヲ問ハス一切書面ヲ作ルコトヲ要セス
 本修正ノ理由トスル所ハ凡ソ証拠ノ事タル要スルニ事実ヲ明カニスルニ在リ、必スシモ書面ヲ必要トスルノ理ナシ、故ニ民法ニ於テモ五十円ヲ超過スル合意ニ必ス書面ヲ要ストセシハ、大ニ議スヘキモノアルカ如シ(証拠編第六十条)、然ルニ之レヲ尤モ機敏ヲ貴フ商業ニ適用スルニ至リテハ迂モ亦タ太甚シト謂フヘシ、仏国ニ於テハ民事ニハ百五十仏ヲ超過スル合意ニ就キ書面ヲ要ストセルニ拘ハラス商事ニハ之レヲ要セストセリ(商法第百〇九条ニ拠ル)、独国ニ於テハ一切之レヲ要セス(商法第三百十七条)、殊ニ本条原文ニ拠レハ契約ノ成立ニ書面ヲ要スルカ如ク見エ尤モ穏カナラス
  (欄外記事)
   第二百七十八条 書面作成ノ要件ハ合式ノ契約証書ヲ以テモ義務者又ハ其代人ノ署名若クハ之ニ代ハル可キ氏名アル書簡・
 - 第20巻 p.48 -ページ画像 
電報・勘定書・切符其他ノ各書類ヲ以テモ之ヲ充タスコトヲ得
   第二百七十九条 第二百七十七条ニ掲ケタル契約ノ旨趣ニ付テノ証拠又ハ反対証拠ハ書面ヲ以テスルモノニ限リ之ヲ許ス、但第二百七十五条ニ従ヒテ為ス契約条款ノ解釈ニ関スルモノ又ハ錯誤・強暴若クハ詐欺ノ証明ニ関スルモノ又ハ覊束スル意思ナクシテ契約書ニ掲ケタル事実ニ関スルモノハ此限ニ在ラス
   第二百八十条 第二百七十七条ニ掲ケタル契約ハ書面ニ作成セスト雖モ後ニ至リ当事者ニ於テ殊ニ双務契約ノ場合ニ在テハ其双方ニ於テ実際之ヲ履行シ又ハ書面ヲ以テ之ヲ承認シタルトキハ其効力アリ
第二百七十八条・第二百七十九条及ヒ第二百八十条 削除
 是レ前条修正ノ結果ナリ
  (欄外記事)
   第二百八十五条 契約上ノ義務ヲ将来ノ事件ノ不確定ナル発生又ハ不発生ニ繋ラシムル場合ニ於テハ契約ハ其事件ノ発生セサルトキ又ハ発生シタルトキハ当然消滅ス
第二百八十五条 削除
 本条ハ単ニ条件ノ性質ヲ説クモノナリ、然ルニ条件ノ事ハ既ニ民法財産編第四百八条以下ニ尤モ詳細ニ之レヲ規定セルヲ以テ、本条ハ蛇足ニ類スルノミナラス、本条ノ規定ト民法ノ規定ト頗ル相牴触スル所アルカ故ニ寧ロ之レヲ削除シテ、此等ノ事ハ一ニ民法ノ規定スル所ニ依ルヲ可トス、是レ本条ヲ削除シタル所以ナリ
  (欄外記事)
   第二百九十六条契約提供ニ対シテ条件ヲ附シ又ハ変更ヲ加ヘテ為ス承諾ニ在テハ提供者ハ其選択ヲ以テ之ヲ純粋ノ拒絶ト看做シ又ハ被提供者ヨリ更ニ為シタル提供ト看做ス事ヲ得
第二百九十六条 被提供者若シ提供ニ対シテ条件ヲ附シ又ハ変更ヲ加ヘテ承諾ヲ為シタルトキハ之ヲ新ナル提供ト看做ス
 原文ニ拠レハ提供者ノ撰択ニ任セ或ハ之レヲ拒絶ト看做シ或ハ之レヲ新ナル提供ト看做スコトヲ得ルモノトセリ、是レ頗ル妥当ナラサルモノアルカ如シ、蓋シ通常ノ場合ニハ之レヲ拒絶ト看做スモ新ナル提供ト看做スモ毫モ異ナル所ナシ、何トナレハ被提供者ニハ答辞ヲ為スノ義務アラサレハナリ、唯第二百八十二条及ヒ第二百九十四条ニ因リ被提供者若シ答辞ヲ為サヽルトキハ承諾シタルモノト推定セラルルコトアリ、此場合ニ於テ初ノ提供者ハ本条原文ニ拠リ仮令答辞ヲ為ササルモ敢テ黙示ノ承諾ヲ為シタルモノト看做サレサルコトヲ得ルカ如シ、然レトモ草案編纂者モ其不当ナルコトヲ悟リ、右ノ場合ニ於テハ慣習ニ依リ必ス承諾ヲ為シタルモノト推定セサルヘカラスト云ヘリ、是レ第一本条原文ニ悖ルモノアルカ如キノミナラズ若シ然リトセハ本条ノ意味ハ修正文ト同シカルヘシ、何トナレハ黙示ノ承諾ヲ推定スヘキ場合ヲ除クノ外変更ヲ加ヘタル承諾ヲ拒絶ト看ルモ新ナル提供ト看ルモ共ニ初ノ提供者ニ答辞ヲ為スヘキ義務
 - 第20巻 p.49 -ページ画像 
アラサレハナリ、若シ然ラハ草案ノ説明ニ本条原文ノ規定ニ由リテ以テ贈答往復際限ナキヲ防カント欲スト云ヘルハ全ク根底ナキニ終ラントス、或ハ曰ハン第三百条ニ因リ被提供者カ受取リタル商品ハ必ス之レヲ保存スルノ義務アリ、初ノ提供者若シ変更ヲ加ヘタル承諾ヲ拒絶ト看ルコトヲ得ハ蓋シ此義務ナカラント、原文ノ意果シテ然ランカ、是レ益々修正ヲ加ヘサルコトヲ得サルノ理由トナラン、何トナレハ初ノ提供者己レノ提供ニ由リテ相手方ノ答辞ヲ促カシ其答辞己レノ意ニ満タサレハトテ之レカ為メニ送付シタル商品ヲ委棄シテ顧ミサルコトヲ得ルトセハ不当焉レヨリ大ナルハナケレハナリ然リト雖モ我輩ハ是レ決シテ立法者ノ意ニ非サルヲ信ス、故ニ本文ノ如ク修正セハ却テ立法者ノ意思ニモ適合スルコトアランカ
  (欄外記事)
   第二百九十九条 契約取結ニ関スル通信ヲ為スニ当リ送達人ノ過誤及ヒ遅延ニ付キ送達人ニ其責任ナキトキハ送達ノ為メ利益ヲ受クル者其責ニ任ス
第二百九十九条 削除
 本条ニ於テ「送達ノ為メ利益ヲ受クル者」トハ如何ナル者ヲ指スカ通常契約ニ於テハ当事者双方利益ヲ受クヘキカ故ニ随テ其一方ノ意思ノ送達ハ双方ノ為メニ利益アルヲ常トス、此クノ如ク曖昧ナル箇条ハ却テ之レナキノ愈レルニ如カサルノミナラス現ニ民法財産編第三百八条末項ニ明カニ「郵便・電信ノ錯誤ハ差出人ノ責ニ帰ス」ト規定シ、毫モ疑ヲ存セサラシムルカ故ニ本条ヲ削除スルヲ以テ必要トシタルナリ
  (欄外記事)
   第三百八条 期間ヲ定ムルニ日数ヲ以テシタルトキハ其期間ノ末日ヲ満期日ト看做シ、週数・月数又ハ年数ヲ以テシタルトキハ最後ノ週・月又ハ年ニ於テ結約ノ日ニ応当スル日ヲ満期日ト看做ス
第三百八条 期間ヲ定ムルニ日数ヲ以テシタルトキハ結約ノ翌日ヨリ起算シ其期間ノ末日ヲ満期日ト看做ス
  (欄外記事)
   第三百九条 日ヲ以テ定メタル期間ノ計算ニ付テハ結約ノ日ハ之ヲ算入セス
第三百九条 期間ヲ定ムルニ月数又ハ年数ヲ以テシタルトキハ結約ノ翌日ヨリ暦ニ従ヒテ之ヲ算ス
 原文ニ拠レハ「週数・月数又ハ年数ヲ以テシタルトキハ最後ノ週・月又ハ年ニ於テ結約ノ日ニ応当スル日ヲ満期日ト看做ス」トセルカ故ニ、若シ応当日ナキトキハ奈何スヘキカ、例ヘハ一月三十一日ニ一月ノ期限ヲ以テ結約シタル場合ニ於テハ二月ニ三十一日ナキヲ以テ二十八日(閏年ニハ二十九日)ヲ満期日トスヘキカ、将タ之レニ三日ヲ加ヘ三月三日ヲ以テ満期日トスヘキカ、又応当日アルトキハ必ス応当日ヲ以テ満期日トスヘキカ、例ヘハ二月二十八日(閏年ニハ二十九日)ニ一月ノ期限ヲ以テ結約シタル場合ニハ三月二十八日ヲ以テ満期日トスヘキカ、若シ然スルトキハ是レ聊カ一月ト曰ヒ難
 - 第20巻 p.50 -ページ画像 
キカ如シ、故ニ「結約ノ翌日ヨリ暦ニ従ヒテ之ヲ算ス」トスルトキハ、第一例ニ於テハ二月二十八日ヲ以テ、第二例ニ於テハ三月三十一日ヲ以テ満期日トスヘキカ故ニ何レモ正当ノ結果ヲ得ルナリ、蓋シ原文ニハ日ヲ以テ定メタル期間ニ就イテノミ結約ノ日ハ之レヲ算入セストセリト雖トモ、是レ誠ニ謂ハレナキコトニシテ若シ日ニ就イテ此算法ヲ取ラハ週・月・年ニ就イテモ亦タ之レヲ取ラサルヘカラス、且ツ民法証拠編第九十九条ノ算法ハ則チ本文ノ如クニシテ是レ時効ノ計算法ニ就イテ規定スル所ナリト雖トモ、他ニ別ニ規定スル所アラサルカ故ニ契約ノ期日ノ計算ニモ亦タ之レヲ準用スヘキカ如シ(草案編纂者ノ思意ハ則チ然リ)、又「週数」ノ二字ヲ削リタルハ週ヲ以テ期限ヲ定ムルトキハ計算法極メテ分明ニシテ特ニ之ヲ規定スルノ要ナケレハナリ
  (欄外記事)
   第三百十三条 或ル期間ノ経過中ニ履行ヲ為ス契約ナルトキハ其履行ハ期間内何レノ取引日ニテモ之ヲ為シ又ハ之ヲ求ムルコトヲ得
   第三百十四条 前条ノ場合ニ於テ疑ハシキトキハ期間ノ定ニ因リテ利益ヲ受ク可キ一方カ履行日ヲ択ムコトヲ得、通例此ノ如キ一方ト看做ス可キ者ハ商品ノ受取人又金銭ニ係ル債権ニ在テハ債務者トス
第三百十三条及ヒ第三百十四条 削除
 第三百十三条ニ拠レハ或ル期間中ニ履行ヲ為ス契約アルトキハ何時ニテモ履行ヲ為シ、「又ハ之ヲ求ムル事ヲ得」トセリ、是レ頗ル当ラサル者アリ、期間中何時ニテモ履行ヲ為ス事ヲ得ルハ勿論ナリト雖モ、何時ニテモ之レヲ求ムル事ヲ得ルトスルトキハ実際期限ナキト毫モ異ナル所ナシ、是豈初メニ期限ヲ設ケタル趣旨ナランヤ、立法者ハ専ラ双務契約ノ場合ヲ予見セルモノノ如シト雖トモ双務契約ニ於テハ通常結約者双方ノ利益ノ為メニ期限ヲ設クルカ故ニ、一方ニ於テ履行ヲ為スハ則チ善シト雖モ敢テ期限内ニ他ノ履行ヲ求ムル事ヲ得ストセンコト尤モ妥当ナリト信スルナリ、而シテ本条ヲ削除セハ普通ノ原則ニ因リ此ノ如ク決スヘキ事、毫モ疑ヲ容レサルナリ又第三百十四条ニ拠レハ疑アルトキハ結約者ノ一方カ履行日ヲ択ムコトヲ得ルトシ、殊ニ商品ノ受取人及ヒ金銭ノ債務者ヲ特別ニ保護スルカ如キハ謂レナキノ甚シキモノニシテ、且ツ商品ノ受取人ハ債権者ナルニ之レヲ金銭ノ債務者ト同様ニ保護スルハ実ニ其理由ヲ発見スルニ苦シムヲ以テ本条ヲ削除シタルナリ、(草案ノ説明ニ拠レハ商品ノ受取人ハ則チ金銭ノ債務者ナリト云ヘリト雖モ、第一商品ノ受取人必スシモ金銭ノ債務者ナラス、既ニ代価ヲ払ヒタルコトアリ又債務者ナルモ数日月ノ後其代価ヲ払フヘキコトアリ、第二若シ商品ノ受取人常ニ金銭ノ債務者ニシテ常ニ商品ト引換ニ金銭ヲ払フヘキモノトセハ特ニ「商品ノ受取人」ナル文字ヲ置クノ要ナカルヘシ、是レ自家撞着ト謂フヘシ)
  (欄外記事)
   第三百十六条 契約其他ニ履行期日ノ定ナクシテ債務者其履行
 - 第20巻 p.51 -ページ画像 
ヲ相当ノ期間ニ為ササルトキハ債権者ハ満期日ヲ定ムルコトヲ得
   第三百十七条 別段ノ履行地ヲ定メス又ハ取引ノ性質若クハ当事者ノ意思ニ因リテ之ヲ推知スルコトヲ得サルトキハ、履行ハ債権者若クハ受取ノ権利アル者ノ指定シタル地若シ指定セサルトキハ其住地殊ニ営業場ニ於テ之ヲ為ス可シ
   第三百十八条 債務者ノ負担セル送付ノ義務ハ債権者ノ指定シタル運送場若シ指定セサルトキハ適当ノ運送場ニ交付スルヲ以テ之ヲ履行シタルモノトス
第三百十六条・第三百十七条及ヒ第三百十八条 削除
 第三百十六条及ヒ第三百十七条ニ拠レハ契約履行ノ時日及ヒ場所ヲ其契約ニ明示セサルトキハ、皆ナ債権者ノ指定シタル時日・場所又ハ場所ヲ指定セサルトキハ其住所ニ於テ履行ヲ為スヘキモノトセリ是レ第一漫リニ債権者ヲ保護スルノ譏ヲ免レス、第二後ノ第三百二十二条ニ特ニ債務者ヲ保護スルカ如キト前後矛盾(但シ第三百二十二条ノ規定ハ止ムコトヲ得サル規定ナリト信ス)(猶ホ上ノ第三百十四条ト全ク矛盾セリト雖トモ是レハ既ニ削除セリ)、第三民法財産編第三百三十三条末項・第四百六十八条・財産取得編第七十五条第二項等ト全ク相反ス、故ニ寧ロ右ノ両条ヲ削除シ此等ノ事ハ偏ニ慣習ニ依ルヲ可トスヘキカ如シ
 又第三百十八条ニ「債権者ノ指定シタル運送場」ニ商品ヲ送付スヘシトセルハ謂ハレナシ、是レ亦タ削除シテ一ニ契約又ハ慣習ノ定ムル所ニ依ルヲ可トスルナリ
  (欄外記事)
   第三百三十一条 損害賠償ヲ査定スルニハ偶然・推測若クハ将来ノ利益若クハ損失又ハ他ノ情況ノ加ハルニ因リテ生スルコト有ル可キ利益若クハ損失ハ之ヲ問フコトヲ得ス
第三百三十一条 削除
 本条ノ意義ハ極メテ曖昧糢糊トシテ殆ント之レヲ了知スルニ苦ムト雖トモ、草案ノ説明等ニ由リテ之レヲ察スルニ畢竟不正行為ノ直接ノ結果ニ非サル損害ハ之レヲ賠償スルヲ要セストセルニ外ナラサルカ如シ、是レ固ヨリ当然ノ事ニシテ別ニ法文ノ規定ヲ要セス、本条ノ如キ曖昧糢糊タル法文アレハ却テ詞訟ノ種子ヲ播スルノ虞アリ、現ニ草案ノ説明中ニモ商品ヲ買ヒテ直チニ之レヲ転売スルノ約ヲ結ヒタルニ、其商品ニ瑕疵アルヲ以テ之レヲ転買主ニ与フルコトヲ得ス、為メニ被ムル損害ノ如キハ之レヲ賠償スルヲ要セスト云ヘリト雖トモ、是レ実ニ不当ノ太甚シキ者ナルコトハ敢テ喋々ヲ待タサルナリ、此等ノ事ハ到底幾十百条ノ規定アルモ悉ク其場合ヲ網羅スルコト能ハス、故ニ慣習ト裁判官トニ依頼シ、各事件ニ関シ実際ノ情状ニ就イテ之レヲ決セシムルノ他アラサルヘシ、是本条ヲ削除シタル所以ナリ
  (欄外記事)
   第三百三十四条 遅延利息其他ノ利息ニシテ法律又ハ契約ニ於テ歩合ヲ定メサルモノハ年百分ノ七トス
 - 第20巻 p.52 -ページ画像 
第三百三十四条 遅延利息其他ノ利息ニシテ法律又ハ契約ニ於テ特ニ其歩合ヲ定メサルモノハ年百分ノ十トス
 理由前ノ第九十五条ノ下ニ詳カナリ、他ハ字句ノ□正《(修脱)》ノミ
  (欄外記事)
   第三百三十九条 過失アル不履行ニ因リテ債権者ニ加ヘタル損害カ違約金ノ額ヲ超ユルトキハ違約金ノ外、此超過額ニ付キ損害賠償ヲ求ムルコトヲ得
第三百三十九条 削除
 凡ソ違約金ヲ定ムルハ後ニ損害賠償ノ訴ヲ起スコトノ煩労ヲ避ケンカ為メナリ、然ルニ本条ノ規定ノ如クンハ違約金ヲ請求シ猶ホ損害之レヨリモ多キコトヲ証シテ其賠償ヲ求ムルコトヲ得ヘキカ故ニ、是レカ為メニ訴ヲ起スコト頗ル頻繁ナルノ恐レナシトセス、是レ結約者カ初メ違約金ヲ定メタル意思ニ悖ルコトナキヲ保セス、且ツ民法財産編第三百八十九条ト全ク反対ノ規定ナルカ故ニ寧ロ本条ヲ削除シテ常ニ之レヲ事実問題ト看做シ、唯特別ノ意思ヲ発見シ難キトキハ民法ニ依リ違約金ノ外之レヲ請求スルコトヲ得ストセンコト、尤モ妥□《(当脱)》ナルカ如シ
  (欄外記事)
   第三百六十三条 交互計算ニ繰込ミタル債権ハ契約上ノ定ナキトキト雖モ其繰込ノ日ヨリ之ニ相当ノ利息ヲ付ス可シ
第三百六十三条 削除
 交互計算ニ利息ヲ附スルハ従来ノ慣習ニ背クノミナラス原文ノ「相当ノ利息」トハ甚タ漠然トシテ一ニ法官ノ認定如何ニ在ルカ如シ、故ニ全ク之レヲ削除スルヲ可トシタルナリ
  (欄外記事)
   第三百六十七条 商取引ヨリ生スル債権ノ担保ノ為メニスル動産質権ノ設定ハ総テノ場合ニ於テ書面契約ヲ以テ之レヲ為ス可シ、其契約ハ担保セラル可キ債権ノ年月日・数量並ニ其合法ノ原因及ヒ質権設定ノ年月日並ニ目的物ヲ逐一記載セサルトキハ無効トス
第三百六十七条 動産質権ハ質物ノ占有ヲ債権者又ハ其代人ニ移スニ非サレハ生セス、且質権既ニ生スルノ後ト雖モ債権者又ハ其代人質物ノ占有ヲ抛棄スルトキハ其質権ハ之ヲ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
動産ヲ抵当トスルニハ其占有ヲ債権者又ハ其代人ニ移スコトヲ要セス但善意ノ第三者ニ対シテ之ヲ援用スルコトヲ得ス
第三百六十八条・第三百七十三条・第三百七十四条・第三百七十五条第三百八十二条・第三百八十三条・第三百八十五条及ヒ第三百八十六条ノ規定ハ動産ノ抵当ニモ亦之ヲ適用ス
 本条原文ニ拠レハ質入ヲ為スニハ必ス書面ヲ作ラサルヘカラス、若シ之レヲ作ラサレハ質入契約成立セサルカ如シ、是レ実ニ商業ノ実際ヲ知ラサル迂濶ナル規定ト謂ハサルコトヲ得ス、殊ニ其書面ニ記載スヘキ事項甚タ多ク、而シテ其一ヲ欠ケハ契約忽チ不成立ト看做サルヘキニ至リテハ到底実際ニ行ハレサル所ナリ、蓋シ民法ニモ類似ノ規定アレトモ(債権担保編第百条)是レ既ニ大ニ議スヘシト為
 - 第20巻 p.53 -ページ画像 
ス、而ルヲ民法ヨリ一層詳密ナル書面ヲ要ストセルハ実ニ我輩カ解セサル所ナリ、是レ本条原文ヲ削除シタル所以ナリ(仏国ニ於テハ民法第二千〇七十四条ニ因リ第三者ニ対シテ先取特権ヲ獲ント欲セハ必ス書面ヲ作ラサルコトヲ得スト雖トモ、商法第九十一条ニ因リ商事ノ質入ニハ一切書面ヲ要セス、且ツ民事ニ於テモ金高百五十仏以下ノ質入ニ就イテハ書面ヲ要セス、我カ民法ニ於テモ債権担保編第百一条ニ拠レハ金額五十円以下其他証人ノ証拠ヲ許スヘキ総テノ場合ニ於テハ皆ナ書面ヲ要セストセリ、独国商法第三百〇九条ニ拠ルモ商事ノ質入ニハ民法上ノ一切ノ方式ヲ要セストセリ)
 原文ニ換フルニ本文ノ修正文ヲ以テシタル理由ハ商法原文ノ規定ニ拠レハ、第一動産ノ抵当ヲ認メス、第二質権ハ債権者ニ於テ質物ノ占有ヲ抛棄スルモ為メニ消滅セサルモノトセルカ如シ、是レ頗ル其当ヲ得ス、第一動産ノ抵当ハ現時実際ニ行ハルヽ所ニシテ今遽カニ之レヲ禁スルノ理由ナシ、故ニ唯之レヲ善意ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得サルモノトシ、以テ其弊害ヲ防遏スルニ止メ依然之レヲ許サンコトヲ欲ス、或ハ民法ニ之レヲ許サヽルヲ以テ(債権担保編第百九十五条)商法ニノミ之レヲ許スハ如何ト難スルモノアラント雖トモ、是レ毫モ顧慮スルニ足ラス、商業ニハ民事ニ無キ需要アリ、民事ニハ動産ノ抵当ヲ許サヽルモ敢テ不便ヲ感セサルヘシト雖トモ、商業上ニハ之レヲ許サヽレハ頗ル不便ヲ覚ユヘキカ故ニ之レヲ存スルナリ、第二一旦動産ノ抵当ヲ許ス上ハ質ハ民法ノ規定ノ如ク第三者ニ対シテハ必ス債権者ニ於テ質物ヲ占有スルニ非サレハ質権成立セサルモノトスルモ毫モ不可ナキカ如シ(債権担保編第百二条)、蓋シ質物債務者ノ手ニ在ルトキハ第三者ハ其質物タルコトヲ知ラス、或ハ之レヲ買ヒ或ハ又之レヲ質ニ取リ或ハ之レニ依頼シテ金銭ヲ貸与スル等ノ虞アルカ故ニ債権者カ質物ヲ占有スルコトヲ必要トシタルナリ
  (欄外記事)
   第三百六十八条 質権設定ニ因リ債権者ハ質物ヲ売却シテ其債権ノ弁償ニ充ツル権利ヲ取得ス、但質物ノ占有カ自己又ハ其代人ニ移リタルトキニ限ル
第三百六十八条 質入契約ニ由リ債権者ハ質物ヲ売却シ其代価ヲ以テ他ノ債権者ニ先タチ弁済ヲ受クル権利ヲ取得ス
 本条但書ヲ削除シタルハ前条修正ノ結果ナリ、他ハ原文ニ質権カ優先権ヲ生スヘキコトヲ言ハサルヲ以テ之レヲ明言シタルノミ
  (欄外記事)
   第三百七十一条 債務者カ其債務ノ弁済ヲ遅延シタルトキハ債権者ハ債務者ニ対シ訴ヲ起スコト無クシテ質契約書ヲ差出シ裁判所ノ命令ヲ得タル後、質物ノ売却ニ着手スルコトヲ得
    此命令ハ債権者ヨリ遅延ナク債務者ニ之ヲ通知ス可シ
第三百七十一条 債務者カ其債務ノ弁済ヲ遅延シタルトキハ裁判所ハ債権者ヲシテ債務者ニ対シ訴ヲ起サシムルコトヲ要セス、其権利ヲ証明セシメテ質物ノ売却ヲ命令スルコトヲ得
債権者右ノ命令ヲ得タルトキハ之ヲ債務者ニ通知シタル後、直チニ質
 - 第20巻 p.54 -ページ画像 
物ノ売却ニ着手スルコトヲ得
動産ヲ抵当トシタル債権者カ弁済ヲ受ケサルトキハ第一項ノ手続ニ依リ抵当差押ノ命令ヲ得テ抵当物ヲ差押ヘタル後、其売却ニ著手スルコトヲ得
 本条ノ修正ハ第一前ノ第三百六十七条ノ修正ニ因リ必スシモ契約書ナキカ故ニ単ニ「其権利ヲ証明セシメテ」ト云ヒ、以テ如何ナル方法ニテモ其証拠ヲ提出スルコトヲ得セシメント欲シタルト、第二原文第一項ニ「質物ノ売却ニ著手スルコトヲ得」ト云ヒ、第二項ニ「遅延ナク債務者ニ之ヲ通知ス可シ」ト云フニ止マリ毫モ其通知ヲ遅延シタル時ノ制裁ヲ掲ケス、故ニ売却ニ著手シテ然ル後之レヲ通知スルモ或ハ全ク之レヲ通知セサルモ其売却ハ有効ナルカ如シ、是レ初ヨリ此通知ヲ命令セサルノ愈レルニ如カサルヲ以テ本文ニハ債務者ニ通知シタル後ニ非サレハ質物ノ売却ニ著手スルコトヲ得サルモノトシタルト、第三抵当ニ関スル規定ヲ加ヘタルトニ在リ
  (欄外記事)
   第三百七十二条 債務者カ契約書ヲ以テ売却ノ承諾ヲ明示シタルトキ又ハ指図証券ヲ質入シタルトキハ債権者ハ裁判所ノ命令ナクシテ売却ヲ為スコトヲ得
第三百七十二条 債務者カ契約ヲ以テ弁済遅延ノ場合ニ於テ直チニ質物ヲ売却スルコトヲ許諾シタルトキ又ハ質物カ指図証券ナルトキハ債権者ハ裁判所ノ命令ヲ請フコトヲ要セスシテ売却ヲ為スコトヲ得
 本条ノ修正ハ第三百六十七条ヲ修正シタル結果ニシテ唯序ニ字句ヲ修正シタルノミ
  (欄外記事)
   第三百七十六条 債務者ハ質権ノ設定ニ因リテ質物ヲ他ニ譲渡ス権利ヲ失フコト無シ、然レトモ質債務ノ全額ニ満ツルマテ其代価ヲ質債権者ニ支払フ可シ、之ニ違フトキハ二年以下ノ重禁錮ニ処ス
第三百七十六条 債務者ハ質入契約ニ由リテ質物ヲ譲渡ス権利ヲ失フコト無シ、然レトモ債権者ハ譲受人ニ対シテモ亦其質権ヲ行フコトヲ得
 是レ第三百六十七条ヲ修正シタル当然ノ結果ナリ、且ツ原文ニハ重禁錮ノ罰アリタレトモ民事(刑事ニ対シテ言フ)上ノ取引ニ刑罰ヲ附スルハ尤モ忌ムヘキ事ナルカ故ニ、殊ニ本条ヲ修正スルノ必要アリト信ス、他ハ字句ノ修正ニ過キス
  (欄外記事)
   第三百七十七条 買主ニシテ其買入レタル物ニ付キ第三者ニ質権ノ存スルコトヲ知ル者ハ質債務ノ全額ニ満ツルマテ其代価ヲ直接ニ質債権者ニ支払フ可シ、之ニ違フトキハ亦前条ノ刑ニ処ス
第三百七十七条 抵当動産ノ買主若シ抵当権ノ存スルコトヲ知レルトキハ、其代価ヲ抵当債権者ニ支払フニ非サレハ其義務ヲ免カルルコトヲ得ス
抵当債権者若シ其代価ヲ過廉ナリトスルトキハ第三百七十一条以下ノ
 - 第20巻 p.55 -ページ画像 
規定ニ依リ更ニ抵当物ノ売却ヲ求ムルコトヲ得、但此売却ニ由リテ得タル代価若シ原売買ノ代価ニ売却ノ費用ヲ加ヘタル額ニ達セサルトキハ抵当債権者ハ其不足額ヲ補充スル義務アリ
買主若シ第三百七十四条ノ期間内ニ於テ債権者ニ債務ノ全額ヲ弁済スルトキハ債権者ハ売却ノ権利ヲ失フモノトス
 本条原文ニ拠レハ質権ハ直接ニ之レヲ第三者ニ対抗スルコトヲ得サルモノヽ如ク、唯悪意即チ質権アルコトヲ知レル買主ヲ罰スルニ二年以下ノ重禁錮ヲ以テセリ、是レ頗ル其当ヲ得サルノミナラス第三百六十七条ヲ修正シタルニ因リ之レト前後矛盾スルモノアリ、故ニ之レヲ削除シ之レニ代フルニ動産ノ抵当ニ関スル規定ヲ以テセリ、而シテ其規定ハ民法ノ不動産ノ抵当ニ関スル規定ノ精神ニ基キ力メテ其繁ヲ刈リ簡ヲ旨トシタリ(民法債権担保編第二百四十八条以下ヲ参観セヨ)
  (欄外記事)
   第三百七十八条 同一ノ物ニ付キ質権ヲ二人以上ニ設定シタルトキハ其物ノ占有者カ売却ノ優先権ヲ有ス、但強暴若クハ隠密ニテ又ハ随時返還ノ条件ヲ以テ其占有ヲ得タルトキハ此限ニ在ラス
第三百七十八条 同一ノ物ヲ二人以上ニ質入シタルトキハ現占有者他ノ債権者ニ先タチテ弁済ヲ受ク、若シ同一ノ人二人以上ノ債権者ノ為メニ質物ヲ占有スルトキハ後債権者カ前債権者ノ質権ヲ知レルト否トヲ問ハス常ニ質入ノ前後ニ依リ其順位ヲ定ム
強暴又ハ隠密ノ占有者ハ前項ノ規定ヲ援用スルコトヲ得ス
 原文ニ「売却ノ優先権」ト云ヘリト雖トモ我カ法律ニ拠レハ売却ハ何人カ先キニ之レヲ為スモ各債権者相互間ノ権利ハ為メニ消長スルコトナク、優先権ノ有無ハ自ラ売却スルト他人カ売却スルトニ依リテ異ナルコトナシ、故ニ之レヲ改メ且ツ序ニ実際起ルヘキ疑問ヲ決シ又字句ノ不穏ナルモノヲ修正シ務メテ民法ノ規定ト相背馳スルコトナカラシメタリ(民法財産編第百八十三条・第百八十五条等ヲ参観セヨ)
  (欄外記事)
   第三百七十九条 二人以上ノ質債権者中一人ハ現物ヲ占有シ他ノ者ハ其物ニ付テノ処分証券ヲ占有スルトキハ孰レニテモ其占有ヲ先キニ得タル者売却ノ優先権ヲ有ス
第三百七十九条 削除
 本条ノ「処分証券」トハ第三百六十九条ニ規定セラレタル船荷証書倉荷証書其他裏書ヲ以テ所載商品ノ処分権ヲ移転スル事ヲ得ル証券ノ意ナラン、然レトモ是等ノ証券ヲ質入スル場合ハ倉荷証書ニ多ク船荷証書ニハ稀ニシテ其倉荷証書モ二通以上ヲ発行シタル時ニ非サレハ本条ノ如キ場合ヲ生セサルヘシ、且倉荷証書ハ為替手形又ハ船荷証書ノ如ク地ヲ隔テヽ所載ノ物品ヲ受取ルモノニ非サレハ二通以上ノ証券ヲ発行スルノ必要ナク、殊ニ寄托ノ条ニ於テモ倉荷証書ハ数通ノ証券ヲ発行スルノ規定ナシ、然ルニ本条ニ此規定ヲ設クルニ於テハ倉荷証書モ亦二通以上ヲ発行シ得ルヤノ疑ヲ生スルノ恐アリ
 - 第20巻 p.56 -ページ画像 
是本条ノ削除ヲ要スル所以ナリ
   (欄外記事)
   第三百八十条 動産ニ付テノ有効ナル質権ハ質債権者ノ善意ナルトキニ限リ所有者ニ於テ又ハ物ヲ処分スル為メ所有者ヨリ委託セラレタル代人ニ於テ又ハ正当ナル取得ニ因リ物ノ占有ヲ得タル各人ニ於テ之ヲ設定スルコトヲ得、但無記名証券ヲ除ク外其物カ盗品又ハ紛失品ナルトキハ此限ニ在ラス
第三百八十条 質入主カ他人ノ物ヲ質入シタルトキハ質債権者ハ民法証拠編第百四十四条以下ノ規定ヲ援用スルコトヲ得、但無記名証券ヲ質物トシテ受取リタル善意ノ債権者ハ其証券カ盗贓品又ハ遺失品ナルトキモ其所有者ニ対シテ質権ヲ行フコトヲ得
 本条原文ノ規定ハ民法ノ規定ト聊カ同シカラサルモノアリ、而シテ我輩特別ノ理由アルヲ見ス、故ニ民法ノ規定ヲ玆ニ適用スルヲ以テ妥当トシタリ、唯無記名証券ハ特ニ流通ヲ容易ニスルニ非サレハ実際ノ取引上ニ尠カラサル不便ヲ感スルカ故ニ、仮令其盗贓品又ハ遺失品ナルトキト雖トモ、善意ニテ之ヲ質ニ取リタル債権者ヲ保護スルコトトセリ
   (欄外記事)
   第三百八十四条 質権ハ将来ノ債権ノ為メ予メ之ヲ設定スルコトヲ得ス
第三百八十四条 削除
 本条ノ意ハ未タ金ヲ借ラサルノ前予メ質物ヲ与ヘ将来借ラント欲スル金ノ担保ト為ス彼ノ俗ニ称スル「根抵当」ノ類ヲ禁スルモノヽ如シ、然ルニ根抵当ノ実際ニ必要アルハ商人ノ洽ク知ル処ニシテ又毫モ之レヲ禁スルノ理ナシ、草案ノ説明ニ拠レハ決シテ根抵当ヲ禁スルノ意ニ非スシテ主トシテ仏国民法第二千〇八十二条ノ規定ヲ取ラサルコトヲ示サント欲シタルカ如シ、蓋シ同条ニハ質債権者質入契約ヲ結ヒタル後、同一債務者ニ対シ更ニ一ノ債権ヲ得タルトキハ其債権ノ期限、前ノ際権《(債)》ノ期限ト同時又ハ之レヨリ前ニ到来スヘキ場合ニ限リ、両債権ノ弁済ヲ受クルマテ質物ヲ留置スルコトヲ得ルト規定セリ、是レ固ヨリ不当ノ規定ニシテ我カ民法ニ於テハ既ニ之レヲ取ラサリシナリ、故ニ本条ノ規定ナキモ仏国民法ノ規定ニ依ルコト能ハサルハ固ヨリ論ヲ俟タサル所ナリ、蓋シ質ハ債権ノ従ニシテ主タル債権ナケレハ従タル質ナキハ勿論ナリト雖トモ、当事者ノ意思ニ依リ将来ニ発生スヘキ債権ヲ予見シ其発生ヲ条件トシテ質入ヲ為スコト、彼ノ根抵当ノ如キハ固ヨリ有効ナルヘキコト草案ノ説明ニモ言ヘル所ナリ、故ニ本条ヲ削除シ以テ将来争疑ノ種子ヲ未萌ニ防遏セント欲シタルナリ
   (欄外記事)
   第三百八十六条 指図証券又ハ無記名証券ニ因リテ生シタル債権ヲ質入スルニハ債務者ニ通知ヲ為スコトヲ要セス
    質債権者ハ質ニ取リタル債権ヲ売却ニ代ヘテ直接ニ取立ツルコトヲ得、又金銭ニ係ル債権ニ非サルトキハ目的物ヲ質物トシテ取扱フコトヲ得
 - 第20巻 p.57 -ページ画像 
第三百八十六条 指図証券又ハ無記名証券ヲ以テ証明セル債権ヲ質入スルニハ其債務者ニ通知ヲ為ス事ヲ要セス
質債権者ハ質ニ取リタル債権ヲ売却セスシテ質入主ノ立会ヲ以テ其弁済ヲ要求スルコトヲ得、但手形及ヒ小切手ヲ以テ質物トスルトキハ質入主ノ立会ヲ要セス
前項ニ依リ弁済ヲ受ケタル債権ノ目的物カ金銭ニシテ其期限カ之ヲ以テ担保スル債権ノ期限ヨリ前ニ到来スルトキハ質入主ハ第三百三十五条ニ拠リ割引ヲ求ムルコトヲ得
其債権ノ目的物カ金銭ナラサルトキハ債権者ハ之ヲ債権ニ代ヘテ質物ト看做スコトヲ得
 原文ニ拠レハ債権者ハ質入主ノ立会ナクシテ質入シタル債権ノ弁済ヲ受クルコトヲ得ルカ故ニ、若シ其金額之レニ由リテ担保スル債権ノ額ヨリ多キトキハ(而シテ通常其額ヨリ多シ)其債権者過剰額ヲ費消スルノ虞アリ、或ハ其債権ノ期限之レニ由リテ担保スル債権ノ期限ヨリ前ニ在ルコトアリ、此場合ニ於テハ第三百三十五条ニ拠リ質入主ヨリ割引ヲ求ムルコトヲ得スンハアルヘカラス、或ハ弁済ノ額ニ就キ質入主ト其債務者トノ間ニ争論アルコトアリ、此場合ニ於テ質債権者若シ債務者カ弁済スル額ヲ受取リ証書ヲ還付スルトキハ質入主損害ヲ受クルノ恐レアリ、是レ質入主ノ立会ヲ必要トシタル所以ナリ、唯手形及ヒ小切手ニ就キ例外ヲ設ケタルハ此等ノ者ハ日限ニ其弁済ヲ受ケサルトキハ求償権ヲ失フヘキカ故ニ或ハ質入主ノ立会ヲ待ツノ遑ナキコトアランコトヲ思ヒテナリ、其他ハ前顕割引ノ権ヲ明カニシタルト序ニ字句ヲ修正シタルトニ過キス
  (欄外記事)
   第三百九十八条 指図証券ノ裏書譲渡ハ白地ニテモ之ヲ為スコトヲ得
第三百九十八条 指図証券ノ裏書譲渡ハ譲渡人ノ署名・捺印ノミヲ以テモ之ヲ為スコトヲ得
 本条原文中「白地」ノ文字ハ蓋シ英語ノ「ブランク」ト同一義ニシテ、証券ヲ流通スルニ当リ譲渡人ノ署名・捺印ノミヲ以テスル所謂略式ノ裏書ヲ指称スルモノナラン、然レトモ今熟々其字義ノ上ヨリ察スルニ或ハ文字ヲ記載スルコトナク全ク空白ナルモノヲ意味スルヤノ疑アリ、故ニ寧ロ此文字ヲ「譲渡人ノ署名捺印ノミ」ト改メ、其意義ヲ明瞭ニスヘシ、是レ本文ノ修正ヲ要スル所以ナリ
  (欄外記事)
   第四百四条 切手・切符其他ノ無記名証券ハ交付ノミヲ以テ之ヲ他人ニ転付スルコトヲ得、此等ノ証券ニ因リ所持人カ発行人ニ対シテ有スル権利ハ其証券ニ記載シタル旨趣又ハ法律・命令若クハ慣習ニ依リテ之ヲ定ム
第四百四条 切手・切符其他ノ無記名証券ハ交付ノミヲ以テ之ヲ他人ニ譲渡スコトヲ得、此等ノ証券ニ依リ所持人カ発行人ニ対シテ有スル権利ハ、其証券ニ記載シタル文言及ヒ法律・命令若クハ慣習ニ依リテ之ヲ定ム
 本条ハ字句ノ修正ニ過キサルカ如シト雖トモ、原文ニ「証券ニ記載
 - 第20巻 p.58 -ページ画像 
シタル旨趣」ト云ヘルハ聊カ明瞭ナラサル所アリテ或ハ証券ノ文言ニ依ラスシテ当事者ノ意思ヲ探究スヘキカヲ疑ハシム、然ルニ無記名証券ハ其証券ノ文言ニ倚頼シテ其取引ヲ為スモノ故、其文言以外ニ当事者ノ当初ノ意思ヲ探究スルコトヲ許サス、故ニ之レヲ文言ト改メタリ、又「旨趣又ハ法律云々」トアレトモ同時ニ証券ノ文言ト法律トニ依ルヘキカ故ニ「文言及ヒ法律」ト改メタリ
  (欄外記事)
   第八章 代弁人・仲立人・仲買人・運送取扱人及ヒ運送人
第一編第八章標題中「仲買人」ヲ「問屋」ト改ム
 本章中ノ「仲買人」トハ英語ノ「コンミツシヨンマルチヤント」ト同一義ニシテ、我国ノ所謂仲買人トハ大ニ其性質ヲ異ニシ、寧ロ問屋ニ相当スルモノヽ如シ、是本文ノ修正ヲ要スル所以ナリ
  (欄外記事)
   第四百五条 代弁人・仲立人・仲買人及ヒ運送取扱人ノ権利義務ハ第七章第六節ニ掲ケタル原則ニ従ヒテ之ヲ定ム、但下ノ数条ニ別段ノ規定アルモノハ此限ニ在ラス
第四百五条 代弁人・仲立人・問屋及ヒ運送取扱人ノ権利義務ハ第七章第六節ニ掲ケタル原則ニ従ヒテ之ヲ定ム、但本章ニ別段ノ規定アルモノハ此限ニ在ラス
 理由前ニ同シ唯序ニ「下ノ数条」ヲ改メテ「本章」トシタルノミ
  (欄外記事)
   第四百十六条 常嘱ノ代弁人其行為ニ付キ第三者ノ問ニ対シテ己レニ其権アリト明言シタルトキ又ハ其行為カ慣習上委任ノ範囲内ニ在ルトキハ委任者ハ善意ナル第三者ニ対シテ責任ヲ負フ
第四百十六条 常嘱ノ代弁人ノ行為カ慣習上委任ノ範囲内ニ在ルトキハ委任者ハ善意ナル第三者ニ対シテ常ニ責任ヲ負フ
 原文ニハ「第三者ノ問ニ対シテ己レニ其権アリト明言シタルトキハ委任者責任ヲ負フトアリ、然レトモ如何ニ常嘱ノ代弁人ナリトテ相当ノ権限ナキニ第三者ニ対シテ之アリト明言シタルカ為メ、委任者ヲシテ其責任ヲ負ハシムルハ理ニ於テ許スヘカラサルノミナラス委任者ノ迷惑少シトセス、是レ本文ノ修正ヲ要スル所以ナリ
  (欄外記事)
   第四百十九条 中立人ハ官ノ認可ヲ受ケ他人間ノ商取引ノ媒介ヲ為スヲ営業トスル商人ニシテ取引所ナキ地ニ於テハ商品・有価証券・貨幣及ヒ為替ノ相場ヲ定メ及ヒ之ヲ公ニスル専権ヲ有ス、其仲立人ノ行為ハ総テ公ノ信用アルモノトス
第四百十九条 仲立人ハ官ノ認可ヲ受ケ他人間ノ商取引ノ媒介ヲ為スヲ営業トスル商人ニシテ取引所ナキ地ニ於テハ商品・有価証券・貨幣及ヒ為替ノ公定相場ヲ立ツル専権ヲ有ス
 原文ノ儘ニテハ仲立人ハ相場ヲ「公ニスル専権ヲ有スルモノ」トセルカ故ニ、他人ハ自己ノ店舗ニ於テ売買スル商品ノ相場ヲ新聞紙ニ広告スルコトサヘヲモ得サルカ如ク見エテ頗ル妥当ナラス、故ニ本文ノ如ク改メタリ、又本条ノ末文ヲ削除シタルハ「仲立人ノ行為カ
 - 第20巻 p.59 -ページ画像 
公ノ信用アリ」ト云フハ寧ロ経済上ノ性質ニシテ、法律上ノ性質ニ非ス、故ニ之レヲ法文ニ掲クレハ其躰裁ヲ得サルノミナラス「行為カ公ノ信用アリ」ト云フハ、文字モ頗ル允当ヲ欠ケルカ如キヲ以テナリ
  (欄外記事)
   第四百二十七条 仲立人組合ハ多数決ヲ以テ其営業ヲ行フ為メノ定款ヲ設ク可シ、其定款ハ商業会議所及ヒ取引所又ハ其一ノ存スル地ニ在テハ此承諾ヲ経、且官ノ認可ヲ受クルコトヲ要ス、各組合員ハ其定款ヲ遵守スル義務アリ
    前項ノ規定ハ定款変更ノ場合ニ於テモ之ヲ適用ス
    定款ハ法律・命令・商慣習及ヒ其地ノ取引所定款ニ背戻スルコトヲ得ス
    第四百四十八条ノ規定ハ取締役ノ決議ニ付テモ之ヲ適用ス
第四百二十七条第三項 定款ハ法律・命令及ヒ其地ノ取引所ノ定款ニ背戻スルコトヲ得ス、又商慣習ニ反スル定款ハ之ヲ善意ナル第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
 原文ニハ定款ハ商慣習ニ悖戻スルコトヲ得サルモノトセリ、是レ蓋シ慣習ニ反スル定款ヲ設ケ、之レヲ第三者ニ対抗スルコトヲ得ルトセハ善意ノ第三者ハ往々欺カレテ損害ヲ被ルノ恐レアルヲ以テナリ然リト雖トモ定款ニ於テ仲立人及ヒ委任者双方ノ為メニ便利ナル方法ヲ定ムルカ如キハ仮令其慣習ニ反スルコトアルモ之レヲ禁スルノ理ナク、又委任者ニ不利益ナル事項ト雖トモ之レヲ知リテ仲立ヲ委任シタル者ニ対シテハ之レヲ援用スルコトヲ得ルモ可ナルカ如シ、是レ本文ノ修正ヲ必要トシタル所以ナリ
  (欄外記事)
   第四百二十八条 取締役ハ左ニ掲クル権利及ヒ義務アリ
     第一 仲立人カ其職務範囲内ニ属スル取引ニ於テ法律・命令及ヒ仲立人組合定款ヲ遵守スルヤ否ヤヲ監視スルコト
     第二 組合員中ニ違背者アルトキハ之ヲ懲責シ且必要ノ場合ニ於テハ其処罰及ヒ除名ヲ申立ツルコト
     第三 取引所ナキ地ニ於テハ各組合員ヨリ提出スル覚書ニ基キ、少ナクトモ一週日毎ニ為替相場及ヒ貨幣・商品並ニ有価証券ノ相場ヲ定メ及ヒ之ヲ公ニスルコト
     第四 其定メタル相場ヲ絶エス記入スル為メ帳簿ヲ備ヘ、且求ニ応シテ公定ノ相場書ヲ交付スルコト
     第五 裁判所又ハ官庁ノ求ニ応シテ商ノ情況ヲ開陳シ又慣習ニ付キ意見ヲ陳述スルコト
     第六 仲立人ノ認可及ヒ員数ノ増減ニ付キ意見ヲ陳述スルコト
     第七 総テ組合内部ノ事務ヲ管理スルコト
第四百二十八条第一号 仲立人カ其職務ノ範囲内ニ属スル取引ニ於テ法律・命令・仲立人組合定款及ヒ商慣習ヲ遵守スルヤ否ヤヲ監視スルコト
 仲立人組合ノ定款カ商慣習ニ反セサル場合ニ於テ仲立人カ商慣習ニ
 - 第20巻 p.60 -ページ画像 
反スルノ取引ヲ為スヤ否ヤヲ監視スルコトモ亦法律・命令等ニ反スルノ取引ヲナスヤ否ヤヲ監視スルト同シク必要ナラン、是本文ノ修正ヲ要スル所以ナリ
第一編第八章第五節中「仲買人」ヲ「問屋」「仲買委任ノ関係」ヲ「問屋ニ為シタル委任」「仲買取引」ヲ「問屋取引」「仲買手数料」ヲ「問屋手数料」「仲買営業」ヲ「問屋営業」ト改ム
 理由本章標題ノ修正ニ同シ
  (欄外記事)
   第四百四十九条 或ル商品ヲ小売ノ外ハ取引所ニ非サレハ商フヲ得サルコトヲ官ヨリ規定スルコトヲ得
    此規定ニ違フ者ハ二円以上二百円以下ノ過料ニ処ス
    前項ノ過料ニ付テハ第二百六十一条第一項ノ規定ヲ適用ス
第四百四十九条 削除
 本条ニ規定スル処ハ要スルニ取引所ニ専売権ヲ与フルモノニシテ商売ノ自由ヲ覊束スル事、蓋シ焉ヨリ大ナルハナシ、是本条ノ削除ヲ要スル所以ナリ
  (欄外記事)
   第四百七十八条 仲買人ハ仲買ノ為メ取扱フ商品ニ自己ノ商標又ハ商号ヲ附スルコトヲ得
    然レトモ其商品ニ附シタル他ノ商人又ハ製造人ノ商標又ハ製造標ヲ其承諾ヲ得スシテ変更シ又ハ除去スルコトヲ得ス、又他ノ商人又ハ製造人ヨリ出テタル仲買商品ニ出所ノ区別ヲ表セスシテ自己ノ商標又ハ商号ヲ附スルコトヲ得ス
第四百七十八条 問屋ハ其営業ノ為メ取扱フ商品ニ自己ノ商標又ハ商号ヲ附スルコトヲ得
然レトモ其商品ニ附シタル他ノ商人又ハ製造人ノ商標又ハ製造標ハ、其承諾ヲ得スシテ之ヲ変更シ又ハ除去スルコトヲ得ス、又他ノ商人又ハ製造人ヨリ委託シタル商品ニ出処ノ区別ヲ表セスシテ自己ノ商標又ハ商号ヲ附スルコトヲ得ス
 是レ本章標題修正ノ理由ニ基クモノニシテ、序ニ字句ヲ修正シタルニ過キス
  (欄外記事)
   第四百八十二条 運送取扱人ハ運送賃ヲ約定シタルト否トヲ問ハス、又其引受ケタル運送ヲ自己ノ運送具・賃借ノ運送具又ハ他人ノ運送具ヲ以テ施行スルト施行セシムルトヲ問ハス仲買人及ヒ運送営業人ト同一ノ責ニ任ス
第四百八十二条 運送取扱人ハ運送賃ヲ約定シタルト否トヲ問ハス、又其引受ケタル運送ヲ自己又ハ他人ノ運送具ヲ以テ自ラ施行スルト他人ヲシテ施行セシムルトヲ問ハス、問屋及ヒ運送営業人ト同一ノ責ニ任ス
 是レ亦タ前掲修正ノ結果ト「自己ノ運送具・賃借ノ運送具又ハ他人ノ運送具」ノ文字カ余リニ奇怪ナルヲ以テ之レヲ改メタルトニ因ル蓋シ賃借ノ運送具モ亦タ他人ノ運送具ニシテ自己ノ物ト他人ノ物トノ中間ニ復タ賃借物ナルモノアラサルナリ
 - 第20巻 p.61 -ページ画像 
  (欄外記事)
   第四百八十四条 運送取扱人ハ運送状ヲ発行ス可シ、其運送状ニハ左ノ諸件ヲ掲クルコトヲ要ス
     第一 年月日・運送取扱人ノ氏名及ヒ住所
     第二 運送営業人ノ氏名及ヒ住所
     第三 運送品ノ種類及ヒ重量
     第四 行李アルトキハ其箇数・性質及ヒ記号
     第五 約定シタル引渡ノ地及ヒ時
     第六 運送賃
    其他運送状ニハ左ノ諸件ヲ掲クルコトヲ得
     第一 運送品ノ価額
     第二 名宛人ノ氏名
     第三 引渡ヲ遅延シタル場合ニ於テ支払フ可キ損害賠償ノ額
第四百八十四条第一項第三号 運送品ノ種類及ヒ重量又ハ容積
 原文ニハ「重量」トノミアリテ凡ソ運送品ハ其種類ノ何タルヲ問ハス必ス其重量ヲ検シテ之ヲ運送状ニ掲ケサルヘカラサルモノトセリ然ルニ従来我国運送業者ニ於テ運賃取立ノ際ニ行ハルヽ一般ノ慣習ハ、個数取(酒樽・蜜柑箱ノ類)元価取(株券其他高価品ノ類)ノ外、才員及ヒ秤量ノ二種ヲ以テ其標準トセリ、然ルニ今本条ニ於テ運送貨物ハ総テ其重量ノ記載ヲ要ストセハ灯心・棉花・諸証券類其他運送上少シモ重量ヲ知ルコトヲ要セサルモノニ至ルマテ悉ク其重量ヲ検シテ記載セサルヘカラス、毎日数千万個ノ荷物ヲ取扱フヘキ当事者ニ取リテハ繁雑モ亦甚シト云フヘシ、故ニ重量ヲ以テスヘキ物ハ重量ニ依リ、容積ヲ以テスヘキ物ハ容積ニ依ルヲ得セシメタシ是レ本文ノ修正ヲ要スル所以ナリ
  (欄外記事)
   第四百九十七条 運送品ノ各部又ハ各箇ノ喪失若クハ毀損ノ場合ニ於テ毀損セサル各部又ハ各箇ヲ其儘使用シ若クハ売却シ得ヘカラサルトキハ、其喪失若クハ毀損ニ因リテ運送品全部ニ付キ減シタル価額ヲ賠償ス可シ、然レトモ其毀損セサル各部又ハ各箇ノ価額カ運送品全部ノ価額ノ四分一ニ超エサルトキハ前条ノ規定ヲ適用ス
第四百九十七条 前条ノ場合ノ外、運送品ノ一部カ喪失又ハ毀損シタルトキハ其喪失又ハ毀損ニ因リテ運送品全躰ニ付キ減シタル価額ヲ賠償ス可シ
 原文ニ拠レハ本条ノ場合ト前条ノ場合ト毫モ異ナル所ナク、而カモ其規定ヲ同シウセサルモノヽ如ク頗ル了解シ難キモノアリ、而シテ本文ノ如クスルトキハ誠ニ至当ノ規定トナルカ故ニ斯ク修正ヲ施シタリ、本条末文ヲ削除シタルハ前条ト全ク重複スルヲ以テナリ、故ニ草案ニハ之レナカリシ(原文ニ仍リ本条ト前条トヲ対照スルトキハ一箇ノ運送品ノ一部喪失又ハ毀損シタル時ト数箇ノ運送品中一箇又ハ両三箇ノ喪失又ハ毀損シタル時トヲ分タント欲シタルモノヽ如シト雖トモ、毫モ之レヲ分ツノ理由ナシ)
 - 第20巻 p.62 -ページ画像 
  (欄外記事)
   第五百十五条 受取人留保ヲ然サスシテ運送品ヲ受取リ及ヒ運送人ニ支払ヲ為シタルトキハ運送人ニ対スル総テノ請求権ハ消滅ス
第五百十五条 受取人異議ヲ留メスシテ運送品ヲ受取リ且運送人ニ支払ヲ為シタルトキハ其受取リ且支払ヒタル翌日ヨリ起算シ一般ノ休日ヲ控除シ三日内ニ請求ヲ為スニ非サレハ運送人ニ対スル請求権ハ総テ消滅ス
 原文ニ拠レハ受取人カ異議ヲ留メスシテ運送品ヲ受取リ、且ツ運賃ヲ支払ヒタルトキハ直チニ請求権ヲ失フモノトセリ、是レ仏国商法ノ旧規定ニ仍リタルモノナリ、然ルニ仏国ニ於テハ未タ鉄道ノ開ケサル頃ハ受取人先ツ運送品ヲ受取リ、之レヲ点検シテ然ル後其運賃ヲ払フコトヲ得シカハ人其規定ヲ以テ大ニ不当ナルモノトハセサリシモ、鉄道ノ便一タヒ開ケテヨリハ運送品ヲ受取ラント欲セハ必ス先ツ其運賃ヲ払ハサルヘカラサルコトトナリシカハ、物ノ喪失又ハ毀損ヲ点検スルノ遑ナク遂ニ運送人ノ責任ハ殆ト有名無実トナルニ至リ、商業家ハ夙ニ右ノ規定ノ不当ナルコトヲ鳴ラシタリシカ、千八百八十一年ニ至リ政府ハ竟ニ一ノ改定案ヲ議会ニ提出シ種々議論ヲ経修正ヲ施シタル末、千八百八十八年四月十一日ノ法律ヲ以テ終ニ之レヲ改正シ、毀損及ヒ一部ノ喪失ニ就イテハ本文ノ如ク規定シ其他ノ請求権ハ一年ノ時効ニ因リテ始メテ消滅スルコトヽセリ、今一切ノ請求権ニ就キ本文ノ如ク規定シタルハ幾分カ原規定ノ精神ヲ斟酌シ、大ニ運送人ヲ保護セント欲シタルナリ(仏国商法旧第百〇五条及ヒ新第百〇五条ヲ参看セヨ)(独国商法第四百〇八条ニ拠レハ一般ノ原則トシテハ我カ商法第五百十五条原文ノ如ク規定シ、例外トシテ喪失又ハ毀損カ表面ヨリ発見シ難キトキハ、仮令荷物受取且ツ運賃支払後ト雖トモ之レヲ発見シテヨリ遅延ナク請求ヲ為スニ於テハ、猶ホ未タ請求権ヲ失ハストセリト雖トモ我輩ハ本文ノ規定ヲ以テ簡ニシテ便ナリト信ス)
  (欄外記事)
   第五百二十六条 他人ノ物ト雖モ其占有ヲ正当ノ方法ヲ以テ取得シタル者ハ所有権移転ノ時ニ於テ買主善意ナルトキハ之ヲ売買スルコトヲ得、但無記名証券ヲ除ク外盗品又ハ紛失品ハ此限ニ在ラス
第五百二十六条 売主カ他人ノ物ヲ売リタルトキハ買主ハ民法証拠編第百四十四条以下ノ規定ヲ援用スルコトヲ得
 理由第三百八十条ノ修正ニ同シ
  (欄外記事)
   第五百二十八条 契約取結ノ時既ニ存在セサル物ノ売買契約ハ双方孰レモ此事実ヲ知ラス、且其存在ノ確実ナラサルコトヲ認メテ之ヲ取結ヒタルトキハ有効トス
第五百二十八条 契約取結ノ時既ニ存在セサル物ノ売買契約ハ仮令双方孰レモ其事実ヲ知ラサルトキト雖モ猶ホ無効タリ
 原文ニハ双方孰レモ其事実ヲ知ラス唯其存在ノ確実ナラサルコトヲ
 - 第20巻 p.63 -ページ画像 
認メテ取結ヒタル契約ハ有効ナリトセリト雖トモ、是レ頗ル其当ヲ得サルモノアリ、蓋シ此場合ニ於テハ当事者ノ意思ヲ二様ニ解釈スルコトヲ得ヘシ、一ハ其物ノ真ニ存在スルコトヲ条件トシテ売買ヲ結ヒタルモノト看做スヘシ、此場合ニ於テハ其物存在セサレハ契約ナキコト知ルヘシ、一ハ所謂買主ナルモノ其物ノ真ニ存在スルコトヲ万一ニ僥倖シ、所謂売主ナルモノト一ノ射倖契約ヲ結ヒ之レニ金若干ヲ与ヘ、若シ幸ニシテ其物真ニ存セハ己レ之レヲ取ルヘシト約シタルモノト看做スヘシ、是レ真ノ売買ニ非ス一ノ射倖契約ナリ、故ニ売買トシテハ之レヲ無効ナリトセサルコトヲ得ス、是レ本条ヲ修正シタル所以ナリ
  (欄外記事)
   第五百三十条 初ヨリ履行ノ意思ナクシテ取結ヒ又ハ取得若クハ譲渡ヲ禁セラレタル物ニ付キ取結ヒタル売買契約ハ無効トス
第五百三十条 削除
 双方ニ初ヨリ履行ノ意思ナケレハ其契約ノ無効ナル事ハ契約ノ通則ニ照シテ明カナレハ別ニ玆ニ規定ノ労ヲ採ルニ及ハス、若シ単ニ一方ニ履行ノ意思ナキ時ニ於テモ其契約無効ナリトスレハ是レ実ニ不当ノ規定ナリト謂ハサルコトヲ得ス、何トナレハ一方ヨリ他ノ一方ニ対シ売ルヘシ買フヘシト約シタルトキハ、仮令其実履行ノ意思ナカリシトスルモ対手方ニ於テハ十分其履行ヲ求ムルコトヲ得スンハ如何シテカ他人ノ言辞ヲ信シテ契約ヲ結フコトヲ得ンヤ、又「取得又ハ譲渡ヲ禁セラレタル物」ノ之ヲ売買スルコトヲ得サルコトハ、固ヨリ言フヲ待タス、是レ本条ヲ削除シタル所以ナリ
  (欄外記事)
   第五百五十条 買主ハ其拒ミタル物ノ代価ヲ既ニ支払ヒタルトキ又ハ其物カ損敗シ若クハ価ヲ失フニ至ル可キモノナルトキハ売主ノ計算ヲ以テ之ヲ売却スルコトヲ得、買主ノ利益ノ為メニスル売却ニ在テハ第三百九十二条ノ規定ヲ遵守スルコトヲ要ス
第五百五十条 買主ハ其拒ミタル物カ損敗シ又ハ価ヲ失フノ恐アルトキハ売主ノ為メニ之ヲ売却スヘシ
買主既ニ代価ヲ支払ヒタルトキ其他売主ニ対シ求償権アルトキハ、第三百八十七条以下ノ規定ニ従ヒ留置権ヲ有ス
 本条原文ノ意ハ頗ル了解ニ苦シムト雖トモ草案ノ説明ニ依リテ考フレハ略々本文ノ意味ニ外ナラサルカ如シ、然リト雖トモ原文ノ儘ニテハ到底此クノ如ク解スルコトヲ得ス、是レ此修正ヲ必要トスル所以ナリ
  (欄外記事)
   第五百五十六条 指図証券・無記名証券等ヲ以テスル供給契約ノ場合ニ在テハ此証券等ニ基キテ物ヲ引渡ス義務アル第三者ニ買受代価ヲ支払フニ因リテノミ其物ヲ買主ニ引渡スコトヲ得ルハ契約又ハ商慣習アルトキニ限ル
    供給契約ノ目的物ニ質権ノ存スルトキハ尚ホ第三百七十七条
 - 第20巻 p.64 -ページ画像 
ノ規定ヲ遵守スルコトヲ要ス
第五百五十六条 削除
 本条ニ規定スル所ハ当然ニシテ言フヲ待タサルモノナリ、且ツ法文ハ実ニ曖昧糢糊トシテ殆ト其意ヲ解スルコト能ハス、草案ノ原文ニ依リテ僅カニ其意ヲ察スルコトヲ得ルノミ、是レ之レヲ削除スルノ愈レルニ如カストセシ所以ナリ、且ツ其第二項ハ前ノ第三百七十七条ヲ修正シタルニ因リ必ス之レヲ削除セサルコトヲ得サリシナリ
  (欄外記事)
   第五百六十六条 最終ノ競買無効ナルトキ又ハ競売人之ヲ承諾セサルトキハ其競落ハ之ニ次ク最高価ノ競買人ニ帰ス
第五百六十六条 最終ノ競買無効ナルトキハ之ニ次ク最高価ノ競買人ヲ以テ競落人トス
 原文ニハ「又ハ競売人之ヲ承諾セサルトキハ」ノ十数字アリ、故ニ競売人ノ欲セサル者ハ随意ニ之レヲ承諾セスト云ヒテ排斥スルコトヲ得ルモノヽ如シ、若シ然リトセハ必ス種々ノ悪弊ヲ生スルコト疑ナシ、今草案ノ説明ヲ観ルニ草案編纂者ハ右様ノ意味ヲ以テ本条ヲ記載シタルニ非ス、唯第五百六十一条ニ掲載セル無資力者又ハ悪意アル者カ競買ヲ為シタルトキハ競売人ニ於テ之レヲ承諾セサルコトアルヘシト云ヘリ、若シ然ラハ是レ亦タ無効ノ競買ニシテ既ニ条首ノ文字ニ包含セリト謂ハサルヘカラス、是レ前掲ノ数文字ヲ削除シ併セテ次句ヲ修正シタル所以ナリ
  (欄外記事)
   第五百六十八条 競売人ハ競買ニ付キ及ヒ売買契約ノ取結並ニ履行ニ付キ買主ノ代理ヲモ引受クルコトヲ得、然レトモ競売ノ為メ委託セラレタル物ヲ競売スル以前ニ其物ニ対シテ売主ニ前貸ヲ為ス権利ナシ
第五百六十八条 競売人ハ競買及ヒ売買ノ履行ニ就キ買主ノ代理ヲモ引受クルコトヲ得
 原文ニハ競売人ハ「競売ノ為メ委託セラレタル物ヲ競売スル以前ニ其物ニ対シテ売主ニ前貸ヲ為ス権利ナシ」トセリ、今草案ノ説明ニ就キ其理由ヲ討ヌルニ若シ競売人売主ニ前貸ヲ為セハ是レ自ラ買主ノ地位ニ立ツナリ、競売人自ラ買主トナレハ他ノ買主ヲ遠ケ以テ己レノ利ヲ図ルノ虞アリ、故ニ前貸ヲ禁スルナリト云ヘリ、是レ我輩カ解セサル所ナリ、第一競売人カ前貸ヲ為シタレハトテ必スシモ自ラ買主トナルニ非ス、第二仮令自ラ買主トナルトスルモ売主ノ許諾ヲ受ケスシテ窃カニ之レヲ為スハ則チ不可ナリト雖トモ、苟モ売主ノ許諾ヲ受ケテ之レヲ為ス以上ハ何ノ不可カ之レ有ラン、売主ハ任意ニ競売人ニ売却スルコトヲ得ルモノナリ、然リ而シテ之レニ競売スルコト能ハスト曰ハヽ誰レカ其愚ヲ嗤ハサランヤ、今売主ハ金ノ入用アリテ物ヲ売ラサルノ前、競売人ニ借ラント欲ス、而シテ是レ売主ニ不利益ナリトテ法律ヲ以テ之レヲ禁セントスル歟、此クノ如クンハ我輩ハ恐ル、売主ヲ保護セント欲スルノ極却テ売主ノ便益ヲ妨クルニ至ランコトヲ、是レ本条末文ヲ削除シタル所以ナリ、其他「競買」ト云ヒ又「売買契約ノ取結」ト云フハ頗ル重複ノ譏ヲ免レ
 - 第20巻 p.65 -ページ画像 
ス、蓋シ競買最終ニシテ其効力ヲ生スヘキトキハ売買契約直チニ成立スヘシ、後ニ証書ヲ造ルカ如キハ一ノ手続ニ過キス、故ニ競買ハ売買契約ノ取結中ニ包含スルモノト謂フヘシ、是レ序ニ全条ノ文字ヲ修正シタル所以ナリ
  (欄外記事)
   第五百七十条 競売人ハ契約上又ハ慣習上ノ競売手数料ト競売ニ付キ支払ヒタル費用及ヒ立替金ニシテ競売手数料中ニ包含セサルモノヽ賠償トヲ売主ニ対シテ請求スルコトヲ得、又競売人ハ此債権ノ為メ及ヒ適法ニ売主ニ為シタル前貸ノ為メ競売物又ハ其代価ニ付留置権ヲ有ス
第五百七十条 競売人ハ契約上又ハ慣習上ノ手数料ト競売ニ就キ支払ヒタル費用及ヒ立替金ノ賠償トヲ売主ニ請求スルコトヲ得
 本条末文ヲ削除シタル所以ハ、第一第五百六十八条ヲ修正シタルニ因リ売主ニ前貸ヲ為スハ皆ナ適法トナリタルカ故ニ原文「適法」ニノ三字ハ之レヲ削ラサルヘカラス、第二留置権ノ事ハ第三百八十七条ニ於テ一般ニ之レヲ規定セルカ故ニ之レヲ玆ニ掲クルハ聊カ重複ニ渉ルノ嫌アルヲ以テナリ、其他原文ノ「競売手数料中ニ包含セサル云々」ハ固ヨリ言フヲ待タサル所ニシテ徒ラニ法文ヲシテ渋晦ナラシムルノ感アルヲ以テ之レヲ省キタリ(上ノ第五百五十条ニ特ニ留置権ノ事ヲ言ヒタルハ第三百八十七条ノ明文中ニ其場合ヲ包含セサルヲ以テナリ)
  (欄外記事)
   第五百八十三条 商品又ハ有価証券ノ消費借ニ付テハ債務者ハ別段ノ契約ナキトキ又ハ特定物ナルトキハ其領収ノ時ト地トニ於ケル価額ヲ償還スルコトヲ要ス
第五百八十三条 削除
 本条ニ拠レハ商品又ハ有価証券ヲ消費借シタルモノハ必ス其価ヲ返還スヘキモノトセリ、是レ頗ル慣習ニ背キ又当事者ノ意思ニ反シ、且ツ前条ノ規定ト前後矛盾スルモノアリ、蓋シ当事者カ米幾石・公債証書幾枚ヲ貸与スル場合ニ於テハ仮令之レヲ消費スルコトヲ許スモ其意思仍ホ期限ニ至リ同種ノ米同石数、同種ノ公債証書同枚数又ハ同金額ヲ返還セシムルニ在ルヲ常トス、然ラスンハ是レ貸借ニ非スシテ売買ナランノミ、草案ノ説明ニ曰ク、然ラス、売買ハ通常現金支払又ハ短期支払ナルモ貸借ノ場合ニハ期限長シト、実ニ驚クニ堪エタル論拠ト謂フヘシ、我輩未タ長期ノ売買ハ売買ニ非ス短期ノ貸借ハ貸借ニ非ストスルノ法理アルコトヲ聞カス、又貸借物特定物ナルトキハ(法文ニ「債務者ハ………特定物ナルトキハ」ト云ヘルハ驚クヘシ)仮令反対ノ契約アルモ必ス其価額ヲ償還スヘシトセリ是レ蓋シ消費貸ノ何物タルコトヲ知ラスシテ記載シタルモノナラン夫レ消費貸トハ借主ニ於テ借リタル物ヲ消費シ、唯之レト同量ノ同種ノ物ヲ返還スルノ契約ヲ謂フ、故ニ特定物ハ之レヲ使用貸スルコトヲ得ルモ之レヲ消費貸スルコトヲ得サルハ聊カ法理ヲ解スルモノノ皆ナ知ル所ナリ、蓋シ立法者ハ通常金ノ需要ニ迫マレルモノカ友人等ニ金ヲ貸サンコトヲ請フモ金ナキヲ以テ他ノ物件ヲ与ヘ之レヲ
 - 第20巻 p.66 -ページ画像 
売リテ以テ金ヲ獲、若干歳月ノ後ニ之レヲ償還スヘキコトヲ命スル場合ニ於テ、俗ニ其物件ヲ「貸ス」ト云フニ迷ハサレ是レ即チ消費貸借ナリト誤信セシモノナラン、然リト雖トモ法律上ヨリ之レヲ観レハ第一貸主ハ先ツ借主ニ其所有物ヲ売ルノ委任ヲ与ヘ、第二其代価ヲ消費貸スルコトヲ諾シタルナリ、故ニ其貸シタルモノハ金銭ニシテ特定物ニ非ス、代替物ニ就イテモ同一ノ契約ヲ結フコトヲ得ルハ論ヲ俟タスト雖トモ是レ亦タ代替物其物ノ貸借ニハ非ス、故ニ本条ハ一抹ニ付シ去ルヲ以テ尤モ妥当ナリト思考セリ
  (欄外記事)
   第五百八十四条 債務者ノ名ヲ記シタル信用証券又ハ債務者ノ計算ヲ以テ発行シタル信用証券ハ債務者其金額ヲ償還スル義務アルトキニ限リ債務者ニ於テ又ハ債務者ノ計算ヲ以テ之ヲ譲渡シ又ハ其他ノ方法ニテ之ヲ付与スルニハ券面記載ノ満額ヲ以テスルコトヲ要ス、之ニ違フトキハ其証券ヲ無効トス、然レトモ割引ヲ為スコトハ此カ為メニ妨ケラルヽコト無シ
第五百八十四条 削除
 本条ハ頗ル明瞭ヲ欠クト雖トモ今草案ノ説明ニ依リテ之レヲ解スルニ債務者ハ真ニ借リタル金額ヨリ多クノ金額ヲ証書ニ記載スルモ其証書無効ナリト曰フニ外ナラサルカ如シ、而シテ其理由ヲ問ヘハ曰ク、是レ高利貸ノ一法ニ過キサレハナリト(草案編纂者ハ従来我邦ニ利息制限法アルコトヲ知ラス且ツ之レヲ設クルノ非ナルコトヲ論シ、而カモ本条ノ規定ヲ必要トシタルハ実ニ自家撞着ト謂フヘシ)我輩ハ今利息制限法ノ可否ヲ論スルコトヲ休メテ利息制限法苟モ存在スル限リハ厳重ニ之レヲ遵守セシムヘシトスルモ猶ホ本条ノ必要アルヲ見ス、蓋シ高利ヲ貪ランカ為メニ証書ノ金額ヲ偽ラシムルカ如キハ固ヨリ利息制限法ニ悖ルモノニシテ貸主ニ対シテハ苟モ其事実ヲ証スル以上ハ(本条ヲ適用スル場合ニ於テハ必ス此事実ヲ証明セサルヘカラサルコトニ注意スヘシ)本条ノ規定ナキモ単ニ利息制限法ノ適用ニ由リテ借主ハ其真ニ借リタル金額ノミヲ弁済シ、若シ詐偽ノ金額ニ対シテ利息ヲ払ヒタル場合ニ於テハ其過払額ヲ償還セシムルコトヲ得ヘシ、唯善意ノ第三者ニ対シテハ其証書必ス有効ナラスンハ大ニ取引上ノ信用ヲ害シ且ツ民法・商法ノ普通ノ原則ニ悖ルノ恐レアリ(民法証拠編第五十条商法第六百九十九条等ヲ参観セヨ)、又本条ノ場合ニ於テハ必ス高利貸アリトスルコト能ハス、会社カ債券ヲ発行スルニ当リ往々額面未満ノ額ヲ以テ之レヲ発行スルコトアリ、而モ毛頭利息制限法ヲ潜脱スルノ意志ナシ、然リ而シテ猶ホ之レヲ禁スルノ理アリト曰フカ、是レ本条ヲ削除シタル所以ナリ
  (欄外記事)
   第五百九十条 元債ノ償還ハ若シ債務者カ契約上負担シタル利息ノ支払ヲ二期以上遅延シ又ハ支払停止ト為リ又ハ資産上切迫ナル情況ニ至リタルトキハ反対ノ契約アルニ拘ハラス約定期間ノ満了前ニ之ヲ求ムルコトヲ得
第五百九十条 債務者若シ二期以上約定ノ利息ノ支払ヲ遅延シ又ハ支払停止ヲ為シタルトキハ仮令反対ノ契約アルモ債権者ハ約定期間ノ満
 - 第20巻 p.67 -ページ画像 
了前ニ元債ノ償還ヲ求ムルコトヲ得
 本条原文ニハ資産ノ切迫ナル情況ニ至リタルトキハ期限ノ満了前ニ元債ノ償還ヲ求ムルヲ得ト規定スレトモ、其状況ハ総テ事実ノ問題ニシテ且ツ実際ニ於テ切迫ナル状況ト認ムヘキヤ否ヤヲ区別スルハ困難ナルヲ以テ、寧ロ支払停止ニ由リテ始メテ請求権ヲ生スルモノト為スノ明瞭ナルニ若カサルナリ、是本文ノ修正ヲ要スル所以ナリ他ハ字句ノ修正ニ過キス
  (欄外記事)
   第六百六条 或ル額ニ付キ与信用ノ為メニ人ヲ紹介スルハ之ヲ信用委託ト看做ス、但其紹介ヲ留保ナクシテ為シタルトキニ限ル
第六百六条 削除
 本条ニ拠レハ単ニ「与信用ノ為メニ人ヲ紹介スル」ヲ以テ「信用委託」ト為シ、常ニ保証人ノ義務ヲ負ハシムルハ大ニ慣習ニ背キ頗ル擅断ノ規定タルヲ免レス、是レ本条ヲ削除シタル所以ナリ
  (欄外記事)
   第六百十六条 二人以上ノ寄託者ノ代替物カ互ニ混合シタルトキハ各寄託者ハ其寄託シタル数量ノ割合ニ応シテ混合物ノ共有者ト為リ、且其割合ニ応シテ混合物全部ノ喪失又ハ毀損ノ危険ヲ負担ス
第六百十六条 削除
 立法者ハ代替物ノ何物タルコトヲ知ラスシテ本条ヲ記載シタルモノノ如シ、夫レ代替物トハ当事者ノ意思ニ於テ同種ノ物ヲ以テ互ニ相変換スルコトヲ許スモノヲ謂フ、故ニ真正ノ寄託ハ常ニ特定物ニ関シ受寄者ハ必ス其受取リタル物件ヲ返サヽルヘカラス、唯消費寄託ハ常ニ代替物ニ関シ受寄者ハ受寄物ヲ費消シ、之レト同種ノモノヲ寄託者ニ返還スレハ可ナリ、甲ハ危険寄託者ニ在リ、乙ハ危険受寄者ニ在リ、今本条ニハ各寄託者混合物ノ共有者ト為リ其危険ヲ負担スト云ヘルカ故ニ其代替物ノ寄託ニ非サル事知ルヘシ、是レ草案ノ説明ニ依レハ毫モ疑ナキ所ナリ、蓋シ立法者ハ法律上ノ代替物ト事実上代替シ易キ者トヲ混シ、甲寄託者ノ米ト乙寄託者ノ米トヲ混合シタルカ如キヲ以テ直チニ代替物ノ混合ト名ツケタルモノカ、然ラスンハ受寄者ハ直チニ寄託物ノ所有者ト為リ唯寄託者ニ対シテ債務ヲ負フニ過キス、随テ其物ノ危険ハ所有者タル受寄者カ負担スヘキ筈ナリ、蓋シ此等ノ事ハ既ニ民法ニ明瞭ナル規定ノ在ルアリ、故ニ寧ロ本条ヲ削除スルノ愈レルニ如カストシタルナリ(民法財産取得編第十八条)
  (欄外記事)
   第六百十九条 反対ノ明約ナキトキハ封セサル金銭又ハ貴金属ノ寄託物ハ常ニ受託者ノ所有物ト看做シ又封セサル有価証券ノ寄託物ハ其証券ヲ寄託者ヨリ定マリタル相場ニテ受託者ニ交付シタルトキニ限リ受託者ノ所有物ト看做ス
第六百十九条 反対ノ契約又ハ慣習ナキトキハ封セサル金銭ノ寄託ヲ受ケタル者ハ其所有者ト為リ、其他ノ物ノ寄託ヲ受ケタル者ハ其所有
 - 第20巻 p.68 -ページ画像 
者ト為ラス
 原文ニハ貴金属及ヒ有価証券ヲ寄託シタル場合ニ於テモ受寄者其所有者ト為ル者トセリト雖モ、此等ハ頗ル慣習ニ背キ当事者ノ意思ニ反スルノ虞アリ、故ニ特約又ハ慣習アル場合ノ外ハ唯金銭ヲ寄託シタル場合ニ於テノミ受寄者其所有者ト為ルモノトセリ
  (欄外記事)
   第六百二十一条 寄託物ノ受取証書ハ寄託者ノ名ヲ以テモ指図式ニテモ無記名式ニテモ之ヲ発行スルコトヲ得、但反対ノ明記ナキトキハ其裏書譲渡ヲ為スコトヲ得
第六百二十一条但書 削除
 本条但書ニハ「反対ノ明記ナキトキハ其裏書譲渡ヲ為スコトヲ得」トアレトモ其証書ノ無記名ナルトキハ単ニ其交付ノミニ由リテ寄託物ヲ譲渡スコトヲ得ヘキハ草案ノ説明ニモ言ヘルカ如シ、又明カニ指図式ニテ其証書ヲ発行シタル場合ニ於テ之レヲ裏書譲渡スルコトヲ得ルハ固ヨリ言フヲ待タス、故ニ右但書ノ意ハ蓋シ記名ノ証書ト雖トモ之レヲ裏書譲渡スルコトヲ得ヘシトスルニ在ルカ、若シ然リトセハ右ノ文字ハ頗ル穏カナラサルノミナラス共同倉庫ノ受取証ノ如キニ在リテハ或ハ可ナラント雖トモ、爾余ノ寄託ニ就イテハ我輩其規定ノ必要ナキヲ信スルナリ、夫レ裏書譲渡ナルモノハ利害相伴フモノニシテ其利ヲ言ハヽ諸般ノ債務証書皆ナ之レヲ裏書譲渡スルコトヲ得ルトスルノ理アラン、其害ヲ言ハヽ之レヲ特別ノ場合ニ限ルノ必要アラン、我輩未タ寄託証書ニ就イテノミ常ニ之レヲ裏書譲渡スルコトヲ得ルモノトスルノ理由ヲ発見セサルナリ、唯当事者之レヲ欲セハ宜シク其証書ヲ指図式ニスヘキノミ、是レ右ノ但書ヲ削除シタル所以ナリ
  (欄外記事)
   第六百六十条 動産又ハ不動産ハ賃借人・用益者若クハ受託者其他ノ資格ヲ以テ之ヲ占有シ又ハ保管スル者ニ於テ自己ノ利益ニテモ所有者ノ利益ニテモ自己及ヒ所有者ノ利益ニテモ之ヲ保険ニ付スルコトヲ得、但孰レノ利益ニテ保険ニ付シタルカニ付キ疑アルトキハ自己ノ利益ニテ保険ニ付シタルモノト看做ス
    自己ノ利益ニテ保険ニ付シタル場合ニ在テハ第一ニ被保険者自己ノ損害ニ充テンカ為メ次ニ所有者ニ対スル自己ノ責任ニ充テンカ為メ保険ニ付シタルモノト看做ス、其責任ニ充ツル被保険額ノ部分ニ対シテハ被保険者ノ債権者ハ総テ請求権ヲ有セス
    所有者又ハ其他ノ者ノ損害賠償ノ要求ニ充テンカ為メ保険ニ付シタル場合ニ於テハ第六百三十九条ニ依リ自己ノ保険者ト看做ス可キトキト雖モ其被保険額ヲ限トシテ保険者独リ全部ノ損害ヲ負担ス
第六百六十条第三項 所有者又ハ其他ノ者ノ損害賠償ノ要求ニ充テンカ為メ其旨ヲ明示シテ保険ニ付シタル場合ニ於テハ第六百三十九条ニ依リ被保険者ヲ以テ自己ノ保険者ト看做ス可キトキト雖モ其被保険額
 - 第20巻 p.69 -ページ画像 
ヲ限トシテ保険者独リ全部ノ損害ヲ負担ス
 第六百三十九条ニ拠レハ例ヘハ四千円ノ価額ヲ有スル物ニ二千円ノ保険ヲ附シタルカ如キ場合ニ於テハ、其残余二千円ノ価額ハ被保険カ自ラ之ヲ保険シタルモノト看做シ、保険者及被保険者ヲシテ共ニ其損失ヲ分担セシムルノ規定ナルカ故ニ、若シ偶々其物カ火災ニ罹ルニ当リテハ保険者ハ其損失ノ半額ヲ負担スル訳ニシテ、即チ四千円ノ損失ニ対シテハ二千円ヲ弁償シ、二千円ノ損失ニ対シテハ一千円ヲ弁償スル割合ナリ、然ルニ本条第三項ニ拠レハ、例ヘハ被保険者カ或ル物ヲ所有者又ハ其他ノ者ノ損害賠償ノ要求ニ充テンカ為メニ保険ニ付シタル時ニハ、保険者ハ前記第六百三十九条ノ場合ト雖トモ猶其損失ノ全部ヲ負担セサルヘカラス、蓋シ被保険者カ所有者又ハ其他ノ者ノ損害賠償ノ要求ニ充テンカ為メニ保険ニ付シタルト否トハ被保険者及第三者間ノ関係ニ止マリ、本来保険者ノ与カルヘキ所ニアラス、然ルニ本条第三項ノ場合ニ於テ保険者ヲシテ前記第六百三十九条ノ場合ト同額ノ保険料ヲ収受シテ二倍ノ危険ヲ負担セシムルハ保険者ノ大ニ困難ヲ感スル所ナリ、故ニ本条第三項ノ規定ハ被保険者カ其旨ヲ明示シテ保険ニ付シタル場合ニ限ル事トシタシ是本文ノ修正ヲ要スル所以ナリ、他ハ字句ノ修正ニ過キス
  (欄外記事)
   第六百八十三条 総テ保険無効ノ場合ニ於テハ保険契約ヲ以テ此場合ノ為メニ約定シタル額若シ約定ナキトキハ、少ナクトモ被保険者ノ為メニ既ニ積立テタル貯金ノ半額ヲ被保険者ニ償還スルコトヲ要ス、但被保険者カ詐欺若クハ悪意ニ因リテ自ラ無効ニ至ラシメタルトキハ此限ニ在ラス
第六百八十三条 総テ保険無効ノ場合ニ於テハ保険契約ヲ以テ此場合ノ為メニ約定シタル金額若シ約定ナキトキハ、少ナクトモ既ニ支払ヒタル保険料総額ノ三分一ヲ被保険者ニ償還スルコトヲ要ス、但被保険者カ詐欺ニ由リテ自ラ無効ニ至ラシメタルトキハ此限ニ在ラス
 本条ノ修正ヲ望ムニハ先ツ「貯金」ノ二字ヲ解釈セサルヘカラス、草案ノ説明ニ拠レハ貯金トハ払込ミタル保険料ノ元利合計ナリトセリ、然リト雖トモ元来生命保険ハ貯蓄ノ性質ヲ帯フルニ拘ハラス通常ノ貯蓄ト全ク同視スルヲ得ス、通常ノ貯蓄ニ在テハ貯金銀行ニ預入タル元金ト元金ヨリ生シタル利子トノ合計ハ預ケ人ノ貯金ニシテ貯金銀行ハ預ケ人ノ外ニハ此元利金ヲ支払フノ責任ナシト雖モ、保険料ハ単ニ被保険者各自ノ為メニ貯蓄スヘキモノニ非ス、其一分ハ年々死亡スル他ノ被保険者ノ保険金トシテ支払ヒ(此分ハ火災若クハ海上保険ノ保険料ノ如ク償還ヲ受クヘカラサルモノナリ)、其一分ハ各被保険者ノ為メニ積立テ(此分ノミ貯金ト謂フヲ得ヘシ)、其一分ハ会社営業ノ費用ニ充テ且ツ死亡ノ臆算ニ超過シタルトキノ予備トス、生命保険ノ計算ハ甚タ複雑ニシテ了解シ易カラサルニ因リ、可成簡要ノ点ノミヲ挙示セン為メ姑ク会社営業費等ヲ除キ所謂純保険料(英語ネツト、プレミユム)ヲ分析スレハ左ノ如シ
 金拾三円四拾七銭
  右ハ英国同盟保険会社ノ死亡表ニ依リ年齢二十歳ニシテ金千円ノ
 - 第20巻 p.70 -ページ画像 
尋常終身生命保険ヲ契約セル被保険者ヨリ払込ム一年分ノ純保険料ナリ
 此内
  金七円弐拾五銭 一年間ニ同年齢ノ死亡者ヘ支払フ保険金
  金六円弐拾弐銭 一年ノ末ニ生存者ノ積立金即チ貯金
 合金拾参円四拾七銭
 右ノ如ク純保険料ノ一半ヲ以テ短命ノ不幸者ニ支払フ保険金ヲ補充シ、他ノ一半ノミ生存者ノ為メニ積立テタル貯金トナル、海上及ヒ火災ノ保険ニ在テハ年々支払フヘキ保険金ヲ臆算シ、年々ノ保険料ヲ以テ其年ノ保険金ヲ支払ヘトモ、生命保険ニ在テハ一年ノ支出ヲ計テ保険料ヲ定ムルトキハ被保険者ノ老ユルニ随テ年々保険料ヲ増スノ不便ヲ生スルヲ以テ、保険契約ノ時ヨリ老後ニ至ルマテ一定ノ保険料ヲ払込マシム、即チ少壮ノ時ニ於テ其年ノ死者ニ支払フヘキ保険金ノ外ニ老後払込ムヘキ保険料ノ幾分ヲ前払セシムルノ理ナリ故ニ年齢二十歳ノ時結約セル者ハ其年ノ末ニ前記ノ金六円弐拾弐銭ヲ余シ、会社ニ於テハ其人ノ為メニ之レヲ積立置クヲ以テ翌年ヨリ生存中払込ムヘキ保険料ハ二十一歳ノ時新タニ結約セル者ノ終身支払フヘキ保険料ノ全額ヨリ金六円弐拾弐銭ヲ減スルノ割合ニ当リ決シテ毫厘ノ差異アル事ナシ、此年末ノ積金ヲ英訳ニテハ「レゼルブ」(貯存金)又ハ「ネツトヴアリユー、オフ、ポリシー」(保険証書ノ純価値)ト称シ、如何ナル場合ヲ論セス此純価値ノ外ニハ保険会社ヨリ被保険者ヘ還付スヘキ者無キ計算ナリ、右述フル所ニ依リ本条「貯金」ノ二字ハ通常ノ貯蓄ト同様ニ払込金ノ元利合計ト解釈スルノ穏カナラサルヲ知ルニ足ルヘシ、然リト雖トモ本条ノ貯金ヲ以テ純保険料ノ内不幸ノ死者ニ支払ヒタル残額、即チ生存ノ被保険者各自ノ為メニ積立テタル保険証書ノ現価値ナリトスレハ、僅カニ其半額ヲ被保険者ニ償還シ他ノ半額ハ之レヲ保険会社ノ所得トスルハ頗ル不当ナリト謂フヘシ、故ニ償還金額ヲ払込金ノ少クトモ三分一ト改正スヘシ、元来生命保険ハ被保険者相互ニ短命ノ不幸者ヲ済助スルノ主旨ニシテ、恰モ同舟済水ノ観アリ、故ニ中途ニシテ保険契約ヲ解除スル者ハ自己ノ便宜ヲ以テ同舟者ヲ捨テヽ顧ミサルト一様ナレハ、保険契約無効ノ場合ニ於テ其払込金ノ一部ヲモ取戻スヲ得ストノ説ニ依リ数十年以前マテハ保険無効トナレハ、被保険者ニハ壱銭ヲモ還付セサルヲ欧米生命保険会社ノ例トセシカ、近年保険会社競争ノ結果トシテ此苛酷ノ説ヲ排シ勉メテ被保険者ノ便益ヲ計リ保険解約ノ時ニハ保険証書ノ純価値ヲ計算シ、殆ト其全部ヲ還付スルニ至リタレトモ、其額ハ払込金ノ三分一ヨリ少カラスト契約スルヲ以テ通例トス、生命保険ノ種類ニ依リ或ハ払込金ノ三分二若クハ五分四ヲ還付スルモノアレトモ、尋常終身保険ノ如キニ在テハ三分一以上ヲ還付スルハ過当ニシテ解約者ノ為メニ会社ニ損失ヲ蒙ラシメ随テ契約保続ノ被保険者ニ損失ヲ及ホス事アリ、故ニ本条ニ於テハ償還金額ヲ払込金ノ少クトモ三分一トシテ其余ハ法文ニ明記セス之レヲ商業上ノ競争ニ一任シテ可ナリ
 又原文ニ「詐欺若クハ悪意」トアリ、聊カ重複スルモノアルカ如シ
 - 第20巻 p.71 -ページ画像 
今草案ノ説明ニ由リテ考フレハ単ニ不養生・放蕩等ノ為メニ死ヲ速キタルカ如キモ亦本条但書ノ範囲内ニ在ルカ如シ、是レ稍々酷ニ失スルノ感アリ、故ニ「若クハ悪意」ノ五字ヲ削リ単ニ詐欺ノ場合ノミトシタリ
  (欄外記事)
   第六百八十八条 総テ生命保険・病傷保険及ヒ年金保険ノ場合ニ於テハ被保険者若クハ其権利承継人ハ正当時期ニ予告ヲ為シタル後、保険契約ニ従ヒ若クハ第六百八十三条ニ従ヒ自己ニ属スル償還金ヲ受ケテ契約ヲ解除スル権利ヲ有シ又ハ予告ヲ以テ償還ヲ求ムルコトヲ得ヘキ利息附ノ預ケ金ニ其契約ヲ変換スル権利ヲ有ス
    保険料ノ不払ハ保険者ニ於テ之ヲ契約解除ノ予告ト看做スコトヲ得
第六百八十八条 生命保険及ヒ病傷保険ノ場合ニ於テハ被保険者若クハ其承継人ハ適当ノ時期ニ予告ヲ為シタル後保険契約若クハ第六百八十三条ニ定メタル償還金ヲ受ケテ契約ヲ解除シ又ハ之ヲ更ニ適当ノ時期ニ予告ヲ為シテ其償還ヲ求ムルコトヲ得ヘキ利息附ノ預ケ金ニ変換スル権利ヲ有ス
保険料ノ支払ナキハ保険者ニ於テ之ヲ契約解除ノ予告ト看做スコトヲ得
 本条ニ於テハ被保険者ニ予告ヲ為シテ契約ヲ解除スル権利ヲ与ヘ、明示ノ契約アレハ其契約ニ従テ償還金ヲ受ケ、契約ナキトキハ第六百八十三条ニ従ヒ償還金ヲ受クヘキ旨ヲ規定スレトモ、第六百八十三条ハ主トシテ生命保険ノ償還金ヲ規定シタルモノニシテ年金保険ニハ聊カ之ヲ適用シ難キモノアリ、抑モ年金保険ハ被保険者ヨリ一時ニ巨額ノ金員ヲ払込ミ、一定ノ年限間若クハ終身間毎年若干ノ金ヲ受取ルモノニシテ短命者ハ千円ヲ出シテ僅カニ五百円ヲ受取リ長生者ハ千円ヲ出シテ、千五百円ヲ受取ルカ如キコトアリ、生命保険ノ短命者ニ得アリテ長生者ニ損アルト全ク相反シ、又生命保険ニ在テハ年数ヲ経ルニ随ヒテ償還金次第ニ増加シ、年金保険ニ在テハ次第ニ減少スル等総テ其趣ヲ異ニス、故ニ年金保険解約ノ場合ハ別ニ之ヲ規定セス契約ノ自由ニ一任セント欲ス、蓋シ年金保険ノ契約ヲ結ヒタル後被保険者ノ身躰多病、不健康トナリ長生ノ望ミナキヲ以テ数月前ニ予告ヲ為シ、容易ニ解約シテ自己ニ損スル所ナキトキハ年金払戻ノ契約ヲ結ヒタル会社ハ長生ノ被保険者ニ対シテ払戻ノ責任ヲ尽ス事能ハサルニ至ルヘシ、此ノ如キハ法律上許スヘキ所ニ非サルナリ
 其他「権利承継人」ヲ単ニ承継人トシタルハ法典ノ普通ノ用語ニ倣ヒタルナリ「正当時期」ヲ「適当ノ時期」ト改メタルハ「正当時期」ト云ヘハ既ニ契約上又ハ法律上確定セシ時期ノ如ク見エテ穏カナラサルニ因ル、其他序ニ二三ノ穏カナラサル字句ヲ修正シタルノミ
  (欄外記事)
   第六百九十条 保険会社ハ保険料其他ノ収入金ノ中ヲ以テ年々積立ヲ為シ何時ニテモ年々支払フ可キ被保険額ノ少ナクトモ
 - 第20巻 p.72 -ページ画像 
平均二倍ニ満ツル準備金ヲ設クル義務アリ、此準備金ハ十分安全ニ利用シ其証券ヲ裁判所ニ寄託スルコトヲ要ス、但之ヨリ生スル収入ハ会社ニ帰ス
第六百九十条 保険会社ハ其業務ヲ始ムル前ニ五万円ノ金額又ハ有価証券ヲ裁判所ニ寄託スルコトヲ要ス、但之ヨリ生スル収入ハ会社ニ帰ス
会社ノ積立金弐拾万円ニ達スルトキハ裁判所ハ前項ノ金額又ハ有価証券ヲ会社ニ返付ス
 本条ハ被保険者ヲ保護スル旨趣ニ出テタルコト明白ナレトモ却テ反対ノ結果ヲ見ルノ恐アリ、海上保険・火災保険ノ如キハ単ニ損失弁償ノ主義ニ基クモノナレハ毎年収入スル保険料ヲ以テ其年ノ損失ヲ弁償スレハ可ナルヲ以テ仮令非常ノ損失アルモ別ニ年々支払フヘキ被保険額ノ平均二倍以上ノ準備金ヲ設クレハ足レリトスルモ、独リ生命保険ニ在リテハ第六百八十三条ニ就テ述ヘタル如ク其保険料ノ一分ハ他ノ保険ト同様ニ保険金トシテ其年ノ死亡者ニ支払ヘトモ一分ハ各被保険者ノ為メニ積立テサルヘカラス、故ニ他ノ保険ニ在リテハ相当ナル準備金モ生命保険ニ在リテハ過少ノ準備金ナリトス、然ラハ生命保険ノ準備金ハ幾何ニシテ可ナリヤト問ハヽ標準トスヘキ死亡表ト利息ノ割合トヲ一定スルニ非サレハ之レニ明答スルコトヲ得サルヘシ、故ニ官府ニ於テハ生命保険会社ノ準拠スヘキ死亡表ト利息ノ割合トヲ定メ第六百九十二条ノ鑑定人ニ命シテ会社ノ計算ヲ点検セシメテ始メテ相当ノ準備金ヲ定ムルコトヲ得ヘシ、徒ラニ画一ノ法ヲ設ケテ性質相同シカラサル諸種ノ保険ニ適用セント欲スレハ準備金過少ナルコトアルモ官府ニ於テ之ヲ如何トモスル事能ハス、後来永続ノ望ナキ会社モ法律ノ仮面ヲ被ムリ不当ノ信用ヲ得テ結局害ヲ被保険者ニ及ホスヘシ、蓋シ保険ノ如キ広ク社会ノ休戚ニ関係スル事業ハ法律ヲ以テ相当ノ制裁ヲ加フルハ敢テ無用ノ干渉ト謂フヘカラス、故ニ本条ハ本文ノ如ク修正シテ無資無産ノ徒カ所謂泡沫会社ヲ起シテ毒ヲ世間ニ流スヲ防ク事ヲ目的トシ、準備金額ノ如キハ別ニ適切ノ標準ヲ定ムルヲ可トスルナリ、蓋シ右ノ修正文ハ一千八百七十年制定ノ英国生命保険法第三節ニ傚ヒタルモノナリ、今之ヲ左ニ記シテ参考ニ供ス
  第三節 此法律制定以後統一王国内《ユーナイテツドキングドム》ニ設立スル各会社及ヒ統一王国外《ユーナイテツドキングドム》ニ設立シタル若クハ設立スヘキ各会社ニシテ、此法律制定以後統一王国内《ユーナイテツドキングドム》ニ於テ生命保険ノ業ヲ始ムルモノハ衡平裁判所ノ会計官ニ二万磅ノ金額ヲ寄託シ、会計官ハ該裁判所ノ管理ニ帰スル資本放下ノ為メニ採定シタル証券ノ中、会社ノ択ム所ノ証券ニ放銀シ之ヨリ生スル収入ハ会社ニ属ス、此金額ヲ寄託シタル後ニ非サレハ登記官ハ登記証書ヲ発スヘカラス、而シテ保険料ノ中ヨリ積立テタル生命保険資金四万磅ニ達シタルトキハ会計官ハ直ニ寄託金ヲ会社ニ返付スヘシ
  (欄外記事)
   第六百九十一条 保険会社ハ少ナクトモ毎年一回其年ノ収支一覧表及ヒ貸借対照表ヲ作リテ之ヲ公告シ且各社員及ヒ各被保
 - 第20巻 p.73 -ページ画像 
険者ニ送達スル義務アリ
第六百九十一条 保険会社ハ少ナクトモ毎年一回其年ノ収支一覧表及ヒ貸借対照表ヲ作リテ之ヲ公告スル義務アリ
 保険ノ事業ハ広ク公衆ノ利害ニ関係スルヲ以テ其計算ヲ秘密ニスヘカラス、勉メテ公衆ヲシテ会社ノ実況ヲ知ラシムルハ一般公衆ノ為メノミナラス確実ノ会社ニ在テハ可成其実況ノ世上ニ知ラルヽヲ利益トス、故ニ毎年収支一覧表・貸借対照表ヲ新聞紙ニテ公告スルハ必要至当ノ事ナレトモ此手続ノ外猶ホ各社員及各被保険者ニ之ヲ送達スルノ義務アリトスルニ至リテハ徒ニ非常ノ手数ト費用トヲ要スルノミナラス実際ニ於テハ殆ト為シ能ハサル事ニシテ且被保険者ノ為メニモ大ナル利益ナシ、是レ本文ノ修正ヲ要スル所以ナリ
 海上保険ノ如キハ保険ノ期間甚タ短クシテ僅ニ某地ヨリ某地ニ達スル一航海ノ間ニ過キサルモノ甚タ多シ、是等短期ノ保険ハ多クハ各地ノ代弁店ニ於テ契約ヲ締ヒ契約期間ノ終リタル後ニ非サレハ本店ニ於テ之ヲ知ラサル者アリ、一々現在ノ各被保険者ヲ調査シテ之ニ貸借表等ヲ送付スルハ殆ト為シ能ハサル事ナリ
 又生命保険会社ニ在テハ被保険者ノ人員甚タ多ク、加之其被保険者ハ土着ノ農家ニハ少クシテ官吏・銀行及会社ノ雇人・海員・商人・工業者等ノ如キ才能技芸ニ依テ衣食スル者其大半ヲ占メ其居処ノ変転極メテ多ク、独リ国内ニ於テ居ヲ転スルノミナラス外国ニ旅行シテ其所在ヲ知ル可ラサル者アリ、尤保険契約ニハ住居ヲ転スレハ一一会社ニ通知スヘキ旨ヲ明示スレトモ実際ハ之ヲ怠ル者多キヲ免レス、我国ニ於テハ生命保険ノ創始以来未タ十年ニ満タサレトモ一会社ノ被保険者既ニ一万人ニ過クル者アリ、今ヨリ数十年ヲ経過セハ其人員ノ大ニ増加スルコト明カナリ、斯ク居処ヲ変転スル多数ノ被保険者ニ一々貸借表ヲ送付スルハ極メテ難事ナレトモ本条ニ依テ之ヲ送付セサレハ第六百九十四条ニ厳重ノ罰アリ、仮令会社ハ之ヲ送付スルモ万一被保険者第六百九十四条ヲ利用セン為メ到達セサルヲ口実トシテ其義務ヲ欠キタリト主張セハ何ヲ以テ之レニ抗弁スルヲ得ンヤ、是等ノ紛議ヲ予防スルニハ手数ト費用トヲ顧ミス書留郵便ヲ用フルモ猶数万ノ被保険者ニ一々遺漏ナカラシムルハ難事ナリ、況ンヤ収支一覧表・貸借対照表ヲ被保険者ニ送付スルモ生命保険ノ計算ハ複雑ナルヲ以テ被保険者ハ之ニ由テ、将来会社ノ計算ニ不足ヲ生セサルヤ否ヤヲ知ルニ足ラサルヲヤ、要スルニ公衆ノ為メニ生命保険会社ノ確実ヲ保セント欲スルニハ第六百九十二条ニアル検査ノ方法ヲ厳ニシ、生命保険ノ組織ニ明ナル人ヲシテ監督セシムルノ外ニ手段ナキナリ
  (欄外記事)
   第六百九十二条 裁判所ハ何時ニテモ被保険者ノ申立ニ因リ保険会社ノ保険業ノ現況・取引ノ実況・貸借ノ関係及ヒ会社カ保険業ヲ営ム原則ヲ、一人若クハ二人以上ノ鑑定人ヲシテ検査セシメ、其検査ノ結果ヲ被保険者ニ通知シ且公告スル権アリ、其検査及ヒ公告ノ費用ハ裁判所ノ見込ヲ以テ右申立ヲ十分ノ理由アリトスルトキハ保険会社之ヲ負担ス
 - 第20巻 p.74 -ページ画像 
    行政官庁ハ亦其職権ヲ以テ検査ヲ行フコトヲ得
第六百九十二条第一項 裁判所ハ何時ニテモ被保険者ノ申立ニ因リ保険会社ノ営業ノ現況・取引ノ情態・貸借ノ関係及ヒ会社カ保険業ヲ営ム原則ヲ一人若クハ数人ノ鑑定人ヲシテ検査セシメ其検査ノ結果ヲ被保険者ニ通知シ且公告スル権アリ、其検査及ヒ公告ノ費用ハ会社ニ過失アルトキハ其会社之ヲ負担ス
 原文ニ拠レハ裁判所ノ見込ヲ以テ被保険者ノ申立ヲ十分ノ理由アリトスルトキハ会社ヲシテ検査及ヒ公告ノ費用ヲ負担セシムヘキモノトセリ、是レ実ニ会社ニ取リテ過重ノ負担ナリト謂ハサルコトヲ得ス、夫レ何レノ国ニ於テモ社外ノ人ハ動モスレハ会社ノ内情ヲ推量シ確固ナル会社モ往々不当ノ嫌疑ヲ受クルコト実ニ人情ノ免レサル所ナリ、然ルニ裁判所ノ見込ヲ以テ被保険者ハ保険会社ヲ疑フノ理由アリタリト認定スルトキハ、常ニ会社ハ検査ヲ受ケサルヘカラサルノミナラス、其費用ヲモ負担セサルヘカラストセハ讒誣流言等ノ為メ不慮ノ嫌疑ヲ被ムル度毎ニ尠ナカラサル費用ヲ負担セサルヘカラサルニ至ルヘシ、是レ本文ニ於テ唯会社ニ過失アルトキニ限リ其費用ヲ負担スヘキモノトセル所以ナリ
  (欄外記事)
   第六百九十九条 手形ハ或ル金額カ相違ナク支払ハル可キ旨ヲ明記シ指図式又ハ無記名式ニテ発行スル信用証券ニシテ合法ノ原因ヲ当然含有スルモノタリ
第六百九十九条 手形ハ或ル金額ヲ無条件ニテ支払フ可キ旨ヲ明約シ又ハ之ヲ命令スル指図式又ハ無記名式ノ証券ニシテ当然合法ノ原因ヲ有スルモノト看做ス
 原文ニ拠レハ「或ル金額カ相違ナク支払ハル可キ旨ヲ明記」スヘシトセリト雖トモ為替手形ノ如キハ唯支払ヲ命令スルニ止マリ決シテ相違ナク支払ハル可キ旨ヲ明記セス、又「相違ナク」トハ如何ナル意カ振出人又ハ支払人カ無資力ナルトキハ勿論為替手形ニ於テ若シ資金ヲ差入レサリシトキハ手形ノ支払ナキヲ常トス、而モ其手形ノ手形タルニ妨ケナシ、唯草案ノ説明ニ拠レハ「相違ナク」トハ無条件(Unbedingt)ノ意ナリトセルカ故ニ本文ニハ明カニ無条件ニテトセリ、又「合法ノ原因ヲ当然含有スルモノタリ」トハ殆ト其意ヲ解スルニ苦シムナリ、蓋シ合法ノ原因ノ有無ハ事実ニシテ人ヲ殺サシメンカ為メニ若干ノ金額ヲ払フコトヲ約シ一ノ約束手形ヲ作レハ其手形ニ合法ノ原因ナキコトハ敢テ争フヘカラサルニ在ルヘシ、唯手形ヲ受取ルモノハ右ノ事実ヲ知ラサルコト多キカ故ニ其知ラサルモノニ対シテハ常ニ合法ノ原因アルモノト看做ス他ノ手形義務者ニ其支払又ハ償還ヲ求ムルコトヲ得セシメサルヘカラス、是レ蓋シ本条ノ意ナランカ、若シ然ラハ当然合法ノ原因ヲ有スルモノト看做スト改ムルヲ以テ至当トスルカ如シ、以上ノ理由ニ基キ本文ノ如ク修正ヲ施シタルナリ
  (欄外記事)
   第七百五条 手形ハ其旨趣ニ因リテ直接ニ義務ヲ負ハシム、但法律又ハ商慣習ニ依リテ例外ト為ス可キ者ハ此限ニアラス
 - 第20巻 p.75 -ページ画像 
第七百五条 手形ハ其文言ノミニ由リテ義務ヲ生ス
 本条原文ニハ「旨趣ニ因リテ直接ニ義務ヲ負ハシム」ト云ヘリ、其意味殆ト解シ難シト雖トモ今草案ニ拠リテ之ヲ案スルニ本文ノ意味ニ外ナラサルカ如シ、蓋シ手形ハ尤モ容易ニ流通スヘキ信用上ノ器械ニシテ之レヲ取引スルモノハ単ニ其文言(Inhalt)ノミニ依頼スヘキカ故ニ、仮令其文言ニ錯誤等アルモ敢テ之レヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス、又仮令其手形ニ合法ノ原因ナキモ既ニ第六百九十九条ニ規定セルカ如ク常ニ之レアルモノト看做スヘシ、本条ハ則チ此事ヲ明言セント欲シタルニ過キス、又原文但書ニ拠レハ法律又ハ商慣習ニ依リ手形ノ文言ニ従ハサルコトアルヘキカ如シ、是レ寧ロ其文言ノ解釈又ハ其文言外ノ規定ニ関スルモノナランカ、例ヘハ横浜ニ於テ「幾百弗」ト書シタル手形ニ対シテハ日本銀貨ヲ支払フノ慣習アルカ如キ又ハ未成年者ノ署名・捺印アルモ、其未成年者ハ其義務ヲ鎖除スルコトヲ得ルカ如キ(第七百一条)是レナリ、若シ然ラハ是レ本条ノ「例外」ニ非ス、寧ロ本条ノ規定外ナリト謂フヘキカ、而シテ是レ皆ナ言フヲ待タサル所ナルカ故ニ之ヲ削除シタリ
  (欄外記事)
   第七百六条 法律上ノ要件ヲ掲ケサル手形又ハ其要件ト共ニ違法ノ事項ヲ掲ケタル手形又ハ旨趣カ互ニ牴触シ其牴触ヲ法律ノ許セル方法ヲ以テ取除クコトヲ得サル手形ハ無効タリ
第七百六条 法律上ノ要件ヲ掲ケサル手形又ハ其要件ト共ニ違法ノ事項ヲ掲ケタル手形又ハ其文言カ互ニ相牴触シ、法律ノ規定ニ拠リテ之ヲ訂正スルコトヲ得サル手形ハ無効タリ
 本条ノ修正ハ単ニ字句ノ修正ニ過キスト雖トモ、前条ニ於テ「旨趣」ヲ改メテ文言トシタルカ故ニ、本条ニ於テモ之レヲ改メサルコトヲ得サリシヲ以テ序ニ其他ヲ修正シタルナリ
  (欄外記事)
   第七百七条 手形上ノ重要ナラサル附記ハ法律上ノ要件ニ適スル手形ノ旨趣ノ効力ヲ妨クルコト無ク又為替上ノ義務ヲ生セシムルコト無シ
第七百七条 手形ニ法律上ノ要件外ノ附記アルモ為メニ手形ノ効力ヲ妨クルコト無ク又其附記ハ手形上ノ義務ヲ生スルコト無シ
 理由前条ニ同シ
  (欄外記事)
   第七百十条 手形又ハ小切手ノ占有者ニシテ正当ノ方法ニ依リ且甚シキ怠慢ニ出テスシテ之ヲ取得シタル者ハ其手形又ハ小切手若クハ其代金ノ引渡ノ請求ニ応スル義務ナシ、但占有者カ手形又ハ小切手ノ引渡ヲ求ムル訴ヲ起シタル場合アルニ当リ、之ニ対シ抗弁ヲ為シ得ヘキ事実ト同一ノ事実ニ因リテ請求セラルヽトキハ此限ニ在ラス
第七百十条 正当ノ方法ニ由リ且甚シキ過失ナク手形若クハ小切手ヲ取得シタル者ハ其手形若クハ小切手又ハ其代金ヲ還付スル義務ナシ、但其取得ノ原因ニ依リ之ヲ還付スヘキトキハ此限ニ在ラス
 本条ノ原文ハ其意味尤モ解シ難ク僅カニ草案ノ説明ニ依リテ粗其意
 - 第20巻 p.76 -ページ画像 
ヲ探知スルコトヲ得ヘキノミ、草案ノ説明ニ拠レハ但書ノ場合ハ或ハ質入シタル手形ニシテ、既ニ其債務ノ弁済アリタルトキ或ハ手形ノ買主カ其代価ヲ払ハサルトキ或ハ手形ノ支払請求ヲ委任シタル後委任者其委任ヲ取消シタルトキヲ言ヘルモノヽ如シ、然レトモ此等ハ皆ナ取得ノ原因ニ依リテ手形ヲ還付スヘキ場合ナルカ故ニ本文ノ如ク修正ヲ加ヘタリ、猶ホ後ノ第七百三十条及ヒ第七百三十一条ノ修正文ヲ見ヨ
  (欄外記事)
   第七百十二条 為替手形ノ引受人又ハ約束手形ノ振出人ニ対スル為替上ノ請求権ハ満期日ヨリ起算シ三个年ヲ以テ時効ニ罹リ、又所持人若クハ裏書譲渡人ヨリ振出人若クハ前裏書譲渡人ニ対スル償還請求権ハ、拒証書ヲ作リタル日若クハ請求ノ通知ヲ為シタル日ヨリ三个年ヲ以テ時効ニ罹ル
    時効ハ訴ヲ起シ其他各箇ノ裁判上ノ手続ヲ為スニ因リテ中断セラレ、又裁判所ノ判決ニ依リ又ハ書面ニ明示シテ債務ヲ承認シ、新債務ト為シタルニ因リテ消滅ス
第七百十二条第一項 為替手形ノ引受人又ハ約束手形ノ振出人ニ対スル手形上ノ請求権ハ満期日ヨリ三个年ヲ以テ時効ニ罹リ、又所持人若クハ裏書譲渡人ヨリ振出人若クハ前裏書譲渡人ニ対スル償還請求権ハ請求ノ通知ヲ為シタル日ヨリ三个年ヲ以テ時効ニ罹ル
 原文ノ「起算シ」ノ三字ヲ取除キタルハ時効計算ノ法ニ依リ必ス満期日ノ翌日ヨリ起算スヘキカ故ナリ(民法証拠編第九十九条第三項又前ノ第三百八条及ヒ第三百九条ヲ参観セヨ)、「拒証書ヲ作リタル日若クハ」ノ十二字ヲ削リタルハ、第七百六十七条及ヒ第七百八十一条ニ拠レハ償還請求ヲ為スニハ単ニ拒証書ヲ作ルノミニテハ未タ足レリト為サス、必ス請求ノ通知ヲ為サヽルヘカラス、而シテ第七百八十一条ニ拠レハ此請求ノ通知ハ拒証書ヲ作リタル翌日之レヲ為スヘキカ故ニ拒証書ヲ作リタル日ハ未タ請求ヲ為スコトヲ得サル日ナリ、未タ請求ヲ為スコトヲ得サル日ヨリ時効ノ進行ヲ始ムルカ如キハ時効法ノ原則ニ悖レルコト尤モ甚シ、是レ本文ノ修正ヲ加ヘタル所以ナリ、他ハ文字ノ修正ニ過キス
  (欄外記事)
   第七百十四条 手形ヨリ生スル請求権ヲ時効ニ因リ又ハ法律ニ規定シタル行為ヲ怠リタルニ因リテ失ヒタル者ハ、其失ヒタルニ拘ハラス支払人・振出人又ハ裏書譲渡人ニ対シ此等ノ者カ支払ハサル為替資金若クハ取戻シタル為替資金ニ因リテ、己レヲ利シタル限度ニ於テ右請求権ヲ主張スルコトヲ得、第七百十一条ノ場合ニ係ルモノト雖モ亦同シ
第七百十四条 時効ニ因リ又ハ法律ニ規定シタル行為ヲ怠リタルニ因リテ手形ヨリ生スル請求権ヲ失ヒタル者ト雖モ、為替資金ヲ受取リタル支払人、又ハ之ヲ供セス若クハ取戻シタル振出人、若クハ裏書譲渡人カ之ニ因リテ己レヲ利シタル限度ニ於テ、此等ノ者ニ対シテ支払ヲ請求スル権利ヲ失ハス、手形ノ盗難・紛失又ハ滅失ノ場合ニ於テモ亦同シ
 - 第20巻 p.77 -ページ画像 
 原文ハ甚タ曖昧ニシテ且ツ聊カ穏カナラサル規定ヲ包含セリ、第一「支払ハサル為替資金」トハ何ヲ謂フカ、若シ支払人カ受取リテ而モ支払ハサル為替資金ヲ謂フモノトセンカ振出人カ供セサル為替資金ノ事ナシ、若シ振出人カ支払人ニ支払ハサル為替資金ヲ謂フモノトセンカ支払人カ受取リタル為替資金ノ事ナシ、是レ両ナカラ不完全ト謂ハサルヘカラス、而シテ支払ハサル為替資金ノ一語ヲ以テ右ノ二者ヲ包含セシムルコト能ハサルハ喋々ヲ待タスシテ明カナリ、第二一旦「手形ヨリ生スル請求権ヲ失ヒタル」コトヲ言ヒ而カモ「右請求権ヲ主張スルコトヲ得」ト曰フハ之レヲ失ヒタルモ之レヲ失ハスト曰フト一般自家撞着ト謂ハサルヘカラス、而シテ草案ノ説明ヲ見レハ本条ニ規定セル権利モ亦タ一ノ手形上ノ権利ニシテ第七百十二条ニ因リ三年ノ時効(而シテ始メノ時効経過ノ後三年ト云ヘルハ尤モ其当ヲ得ス)ニ罹ルモノトセリト雖トモ、是レ頗ル妥当ヲ欠ケルカ如シ、本条ノ場合ニ於テハ毫モ支払人・振出人又ハ裏書譲渡人ヲ保護スルノ理由アラサルカ故ニ第三百四十九条ノ原則ニ依リ満期日ヨリ六年ノ時効ニ罹ルモノトセンコト尤モ其当ヲ得タルモノト謂フヘシ、第三「第七百十一条ノ場合ニ係ルモノ」ハ頗ル曖昧ナリ、同条ハ盗取セラレ、紛失シ又ハ滅失シタル手形ヲ無効トスル手続ヲ規定スルモノナリ、故ニ寧ロ本文ノ如ク明言シ之レヲ無効トスルト無効トセサルトニ論ナク皆ナ之レニ本条ヲ適用スヘキコトヲ示スヲ以テ必要トシタリ、以上ハ則チ本条修正ノ理由トスル所ナリ、他ハ字句ノ修正ニ過キス
  (欄外記事)
   第七百十五条 総テ手形ニ署名ヲ為シタル者ハ此ニ因リ連帯シテ義務ヲ負担ス、然レトモ此連帯義務ハ各義務者ニ於テ特立ノモノトス
    為替ノ訴ハ其総員ニ対シ又ハ其一人ニ対シテ之ヲ起スコトヲ得
第七百十五条 総テ手形ヨリ生スル権利義務ハ常ニ連帯ナリ
第二項 削除
 原文ニ拠レハ第一義務ノミ連帯ニシテ権利ハ連帯ナラス、然ルニ第二百八十七条ニ拠レハ凡ソ商事契約ヨリ生スル権利義務ハ双方ニ在リテ連帯ナルモノトセリ、然リ而シテ手形ノミ然ラストスルハ其当ヲ得ス(仏国ニ於テハ一般ニ商事契約ヨリ生スル権利義務ヲ連帯トセスト雖トモ、手形ヨリ生スル権利義務ニ限リ之レヲ連帯トセリ)第二「然レトモ此連帯義務ハ各義務者ニ於テ特立ノモノトス」ト云ヘリ、今草案ノ説明ヲ観ルニ是レ不完全ノ連帯ナルコトヲ示サント欲シタルナリト云ヘリ(我カ民法ニ全部義務ト云ヘルモノ)、蓋シ草案ニハ第二百八十七条ノ場合ニモ同シク不完全ノ連帯アルモノトシ単ニ不分(Ungeteilt)ト曰ヒシモ今ハ改メテ連帯トセリ、而シテ民法ニ依レハ、連帯ハ一種ニ限リ従来不完全ノ連帯ト名クルモノハ之レヲ全部義務ト称セリ、故ニ第二百八十七条ノ連帯トハ完全ノ連帯ナルコト疑ナシ、若シ然ラハ手形義務トスルノ謂ナシ、否一般商事契約ヨリ生スル義務ハ仮令連帯ナラサルモ手形義務ハ特ニ之レヲ厳
 - 第20巻 p.78 -ページ画像 
重ニシ之レヲ連帯トスルノ理アリ、第三第二項ノ規定ハ連帯ノ一ノ結果ニ過キサルカ故ニ之レヲ掲クルノ要ナク、若シ之レヲ掲クレハ他ノ連帯ノ結果モ亦之レヲ掲ケサルヘカラサルニ至ルヘシ、以上ハ則チ本条修正ノ理由ナリ
  (欄外記事)
   第七百十六条 為替手形ニハ左ノ諸件ヲ明瞭詳密ニ記載スルコトヲ要ス
    第一 振出ノ年月日及ヒ場所
    第二 為替金額、但文辞ヲ以テ記ス可シ
    第三 支配人ノ氏名
    第四 受取人ノ氏名又ハ其指図セラレタル人若クハ所持人ニ支払フ可キ旨及ヒ満期日並ニ支払地
    第五 為替手形ト引換ニテ支払ヲ為ス可キ旨
    第六 振出人ノ署名・捺印
第七百十六条第二号但書 削除
第四号 受取人ノ氏名、但無記名式ナルトキハ所持人ニ支払フ可キ旨ヲ記スヘシ
第五号 満期日及ヒ支払地但支払人ノ住地ヲ附記スルトキハ之ヲ支払地ト看做ス
 第一原文第二号ニハ「為替金額但文辞ヲ以テ記ス可シ」トアリ、是レ或ハ欧文ノ文字ヲ用ヒ数字ヲ用ヒサルニ倣ヒ「ごひやくろくじふはち円」ト書スヘキモノヽ如ク、或ハ「五百六十八円」ト書シ敢テ「五六八」又ハ「568」ノ略字ヲ用ヒサルノ意ナルカ如ク稍々判然セサルモノアリ、第一ノ如クンハ繁ニ過キテ行ハレ難カラン、而シテ第二ノ解釈ノ如クンハ特ニ之レヲ言フノ要ナク慣習上既ニ此ノ如クスルヲ例トス、是レ右第二号ノ但書ヲ削除シタル所以ナリ、第二原文第四号ニ「受取人ノ氏名又ハ其指図セラレタル人若クハ所持人ニ支払フ可キ旨」トアリ、是レ文字ノ直訳然タルノミナラス一読スルトキハ上ノ氏名ハ下ノニ支払フニ連続スルモノヽ如ク頗ル奇異ノ思ヒアラシム、蓋シ或ハ単ニ「受取人ノ氏名」ヲ書シ或ハ受取人ノ氏名ヲ書シ猶ホ其指図人ニ支払フヘキ旨ヲ附記シ(「紀国屋文左衛門殿又ハ其指図人ニ支払フヘシ」又ハ「紀国屋文左衛門殿ノ指図人ニ支払フヘシ」ノ類)或ハ「所持人ニ支払フ可キ旨」ヲ書スヘシト曰フニ過キサルヘシ、然ルニ単ニ受取人ノ氏名ヲ書スルモ当然裏書譲渡ヲ為スヘキ者トセルカ故ニ、其指図人ニ支払フヘキ旨ヲ書スルハ決シテ手形ノ必要条件ニ非ラス、本条ハ唯手形ノ必要条件ヲ列挙スル者ナルカ故ニ、書スルモ書セサルモ可ナル文言ハ敢テ此ニ掲クヘカラス、是レ「其指図セラレタル人」ノ数字ヲ削除シタル所以ナリ、第三原文第四号ニ拠レハ必ス「支払地」ヲ記載スヘキモノヽ如シ、然レトモ支払人ノ住地ヲ掲クルトキハ明カニ之レヲ「支払地」ナリト曰ハサルモ之レヲ以テ支払地トスルノ意思ナリシコトハ喋々ヲ須タス、是レ草案ノ説明ニハ明言セル所ナリト雖トモ原文ノ儘ニテハ頗ル疑ナキ能ハス、故ニ之レヲ明文ニ掲クルヲ必要トセリ、第四原文第五号ニ「為替手形ト引換ニテ支払ヲ為ス可キ旨」トアリ、既ニ
 - 第20巻 p.79 -ページ画像 
言ヘルカ如ク本条ハ原来手形ノ必要条件ヲ列挙セルモノナルカ故ニ若シ其一ヲ欠クトキハ其手形忽チ無効ニ帰スヘシ(第七百六条)、然ルニ手形ト引換ニ支払ヲ為スカ如キハ慣習上既ニ一定セルモノニシテ別ニ之レヲ手形ニ明記スルノ必要ナク、而シテ偶々之レヲ明記スルコトヲ忘レタルカ為メ其ノ手形無効ニ帰スルカ如キコトアラハ、是レ大ニ従来ノ慣習ニ反シ商業上ノ取引ヲ不便ニスルモノト謂フヘシ、故ニ本項ヲ削除シ原文前項ニ種々ノ事項ヲ混記セルヲ以テ其一半ヲ分チテ第五トシ以テ其欠ヲ補ヒタリ(第八百十一条ヲ参照セヨ)是レ本条ノ修正ノ理由トスル所ナリ
  (欄外記事)
   第七百二十三条 裏書ニハ其年月日・場所・裏書譲渡人ノ署名捺印及ヒ裏書譲受人ノ氏名アルコトヲ要ス、然レトモ白地ニテモ裏書譲渡ヲ為スコトヲ得
第七百二十三条 裏書ニハ其年月日・場所・譲渡人ノ署名・捺印及ヒ譲受人ノ氏名アルヲ通例トシ、譲渡人ノ署名捺印ノミヲ以テモ亦之ヲ為スコトヲ得
 理由第三百九十八条ニ同シ
  (欄外記事)
   第七百二十五条 無記名式ニテ振出シ又ハ白地ニテ裏書譲渡ヲ為シタル為替手形ハ交付ノミヲ以テ之ヲ転付スルコトヲ得
第七百二十五条 無記名式ニテ振出シ又ハ譲渡人ノ署名・捺印ノミヲ以テ裏書譲渡ヲ為シタル為替手形ハ之ヲ交付スルノミニ由リテ其権利ヲ移転スルコトヲ得
 理由同上、但シ序ニ字句ヲ修正シタルノミ
  (欄外記事)
   第七百三十一条 担保ノ為メニスル裏書譲渡(質入為替手形・寄託為替手形)ハ其目的ヲ記載シタルトキト雖モ真ノ裏書譲渡タリ、然レトモ各為替債務者ハ為替手形ヲ以テ担保シタル債務ヲ支払ヒ又ハ其他ノ方法ヲ以テ之ヲ消却シタリトノ抗弁ヲ裏書譲受人ニ対シテ為スコトヲ得
第七百三十一条 担保ノ為メニスル裏書譲渡ニ於テ其目的ヲ手形ニ記載シタルトキハ其裏書譲受人ハ総テ為替義務者ニ対スル譲渡人ノ権利ヲ行ヒ自己ノ債権ノ弁済ヲ受クルコトヲ得ルノミニシテ更ニ其手形ヲ譲渡スコトヲ得ス、但転質ノ為メニ其目的ヲ記載シテ更ニ裏書譲渡ヲ為スト自己ノ債権ノ期限ニ至リ其弁済ヲ受ケサル場合ニ於テ手形ノ裏書譲渡ヲ為ストハ此限ニ在ラス
 本条ヲ修正シタル所以ハ第一質債権者ニ其債権ノ期限ノ到来前ニ手形ヲ譲渡スコトヲ許スノ不当ナルト、第二担保裏書譲渡ニ就キ「寄託為替手形」ト云ヘルハ頗ル曖昧ナルト、末文ノ「裏書譲受人」ト云ヘルハ総テノ裏書譲受人ノ如ク見エ、草案ノ説明ニ拠レハ単ニ質債権者ノミヲ指スモノヽ如キトニ在リ
  (欄外記事)
   第七百三十二条 裏書譲渡ハ各裏書譲渡人ノ順序カ裏書譲受人ニ至ルマテ間断ナキトキニ限リ裏書譲受人ノ為メ効力アリ、
 - 第20巻 p.80 -ページ画像 
又代理又ハ担保ノ為メ裏書譲渡ヲ為シタル為替手形ハ裏書譲渡人ニテモ裏書譲受人ニテモ更ニ裏書譲渡ヲ為スコトヲ得
第七百三十二条 裏書譲渡ハ前譲渡人ト前譲受人ト間断ナク符合スルトキニ限リ有効ナリ、但代理又ハ担保ノ為メ裏書譲渡ヲ為シタル為替手形ハ其譲渡人ニ於テ更ニ裏書譲渡ヲ為スコトヲ得
 是前条ヲ修正シタル自然ノ結果ニシテ唯序ニ字句ノ修正ヲ施シタルノミ
  (欄外記事)
   第七百三十四条 為替手形ノ所持人ハ其手形ニ別段ノ記載ナキトキハ満期日前ニ引受ノ為メ支払人ニ之ヲ呈示スルコトヲ得若シ支払人其引受ヲ為サヽルトキハ其翌日拒証書ヲ作ルコトヲ要ス
    他所払為替手形ノ振出人ハ所持人ニ於テ引受ノ為メ其手形ノ呈示ヲ為ス可ク、若シ為サヽルトキハ償還請求権ヲ失フ可キ旨ヲ記スルコトヲ得
第七百三十四条 為替手形ノ所持人ハ其手形ニ別段ノ文言ナキトキハ満期日前何時ニテモ引受ノ為メ支払人ニ之ヲ呈示スルコトヲ得、若シ支払人其引受ヲ為ササルトキハ拒証書ヲ作ルコトヲ得
振出人ハ所持人ニ於テ引受ノ為メ其手形ノ呈示ヲ為ス可ク若シ為ササルトキハ償還請求権ヲ失フ可キ旨ヲ手形ニ記載スルコトヲ得、此場合ニ於テハ若シ支払人引受ヲ為ササルトキハ其翌日拒証書ヲ作ルニ非サレハ呈示ヲ為シタリト看做サス
 原文ニ拠レハ第一引受ノ為メニ呈示ヲ為スモ支払人引受ヲ為シ肯セサルトキハ必ス其翌日拒証書ヲ作ルヘキモノトセリ、而シテ本条ト後ノ第七百三十九条トヲ対照スルトキハ、若シ拒証書ヲ作リテ之レヲ為替義務者ニ通知セサルトキハ所持人ハ償還請求権ヲ失フヘキカ如シ、是レ実ニ不当ノ尤モ甚シキモノト謂フヘシ、夫レ通常ハ所持人ニ於テ引受ヲ請フト請ハサルト一ニ其自由ニ在リ、故ニ一タヒ之レヲ請フモ支払人ハ例ヘハ未タ為替資金ヲ請取ラサルヲ以テ引受ヲ為スコト能ハスト曰ヘリトセンカ、所持人ハ後日ニ至リ更ニ之レヲ呈示スルコトヲ得スンハアルヘカラス、蓋シ初ヨリ此時ニ至ルマテ呈示ヲ為サヽルコトヲモ得シカ故ニ、前ニ一タヒ之レヲ呈示シタレハトテ其権利ヲ失フノ理ハ毫モ之レアラサルナリ、然ルニ一タヒ呈示シテ引受ヲ得ルコト能ハサレハ其翌日直チニ拒証書ヲ作ルヘシトセバ、後ニ再ヒ之レヲ呈示スルコトヲ得サルヤ殆ト疑ナシ、否ナ再ヒ之レヲ呈示スルコトヲ得ストスルニ非サレハ必ス拒証書ヲ作ラシムルノ理由ナシ、故ニ仏(商法第百十九条)独(手形法第百十八条)等ノ法律ニ傚ヒ単ニ所持人ニ於テ為替義務者ニ対シテ、償還請求権ヲ行ハント欲スル時、期限前何時ニテモ之レヲ作ルコトヲ得ルモノトシタリ、第二原文第二項ニ拠レハ他所払為替手形ノ振出人ノミ引受ヲ請フノ義務ヲ所持人ニ附スルコトヲ得ルモノヽ如シ、是レ実ニ謂レナキノ甚シキモノナリ、草案ノ説明ニ拠レハ振出人ハ皆ナ同一ノ権利ヲ有スレトモ特ニ他所払手形ニ就イテ其必要アリ、故ニ之レヲ言ヘルナリトセリ、然レトモ原文ノ儘ニテハ此種ノ手形ニ限リテ
 - 第20巻 p.81 -ページ画像 
之レヲ許スモノヽ如キヲ以テ「他所払云々」ノ文字ヲ削リタリ、末文ハ前項ヲ改メタルニ因リ其必要ヲ生シタルモノナリ
  (欄外記事)
   第七百三十五条 一覧後定期払ノ為替手形ハ別ニ短キ呈示期間ノ記載ナキトキハ日附後遅クトモ二个年内ニ引受ノ為メ之ヲ呈示ス可シ、若シ之ヲ呈示セサルトキハ振出人及ヒ裏書譲渡人ニ対スル償還請求権ヲ失フ
    支払人カ方式ニ依レル引受ヲ拒ミ若クハ引受ノ日附ヲ為スコトヲ拒ムトキハ其翌日拒証書ヲ作ルコトヲ要ス、此場合ニ於テハ拒証書作成ノ日ヲ以テ呈示ノ日ト看做ス、若シ拒証書ヲ作ラサルトキハ満期日ハ呈示期間ノ末日ヨリ起算ス
第七百三十五条第二項 支払人カ方式ニ依レル引受ヲ拒ミ若クハ引受ノ日附ヲ為スコトヲ拒ムトキハ拒証書ヲ作ルコトヲ得、此場合ニ於テハ拒証書作成ノ日ヲ以テ呈示ノ日ト看做ス、若シ拒証書ヲ作ラサルトキハ呈示期間ノ末日ヲ以テ呈示ノ日ト看做ス、但其翌日マテニ拒証書ヲ作ラサルトキハ期限前ニ振出人及ヒ裏書譲渡人ニ対シテ担保ヲ求ムルコトヲ得ス
 原文ニ拠レハ第一支払人カ引受ヲ拒ムトキハ必ス其翌日拒証書ヲ作ルヘキモノトセリ、是レ既ニ前条ニ説明セル理由ニ基キ我輩カ不当トスル所ナリ、第二拒証書ヲ作ラサルトキハ呈示期間ノ末日ヨリ満期日ヲ起算スルモノトセリ、是レ前段ノ規定ニ比シテ頗ル寛ニ失スルモノアルカ如シ、夫レ拒証書ヲ作ルハ煩ニシテ且ツ費用ヲ要スルカ故ニ之レヲ作ルノ所持人ハ之レヲ作ラサルノ所持人ヨリ一層重キ保護ヲ得ルニ非サレハ誰レカ復タ拒証書ヲ作ルモノアランヤ、然ルニ拒証書ヲ作ルモノハ、之レヲ遅延ナク為替義務者ニ通知スルニ非サレハ償還請求権ヲ失フノ虞アリ(第七百三十九条)、之レニ反シテ拒証書ヲ作ラサルモノハ右ノ失権ノ恐レナキカ如シ(草案ノ説明ニ依ルモ然リ)、是レ蓋シ立法者カ或ハ英法ニ則トリ或ハ仏・独法ニ傚ヒタル結果ニシテ前後動モスレハ権衡ヲ失フモノカ殊ニ拒証書ハ之レヲ作ルモ作ラサルモ可ナリ、唯之レヲ作ルトキハ必ス呈示ノ翌日之レヲ作ルヘシトセルハ何ノ理由ニ基クカ、又法文ノ不精ナルコトヲ言ハヽ初メニ「其翌日拒証書ヲ作ルコトヲ要ス」ト云ヒ次ニ之レヲ作ラサルモ毫モ権利ヲ失ハサルコトヲ言フハ何ソヤ、且満期日ヲ呈示期間ノ末日ヨリ起算スヘキモノトセルハ誤レリ、夫レ我カ法典ノ期間計算法ニ依レハ事実ノ生シタル日ハ之レヲ算入セス、其翌日ヨリ起算スヘキ事ハ既ニ前ニ論シタル所ナリ、故ニ本文ノ如ク改メ暗ニ此意ヲ示セリ、第三拒証書ヲ作ラサルニ因リ全ク所持人ノ償還請求権ヲ失ハシムルハ当ヲ得スト雖トモ、為替義務者ニ対シテ担保ヲ求ムルノ権利ヲ失ハシムルハ固ヨリ当然ナリ、何トナレハ為替義務者ハ拒証書ニ由リテ始メテ支払人カ引受ヲ拒ミタルコトヲ確知スルコトヲ得レハナリ、是レ本文ノ末尾ヲ加ヘタル所以ナリ
  (欄外記事)
   第七百三十九条 支払人ガ引受ノ全部若クハ一分ヲ拒ミタルトキ又ハ第七百三十七条及ヒ第七百三十八条ノ規定ニ依リテ引
 - 第20巻 p.82 -ページ画像 
受ヲ拒ミタリト看做ス可キトキハ所持人ハ拒証書ノ作成ヲ遅延ナク振出人又ハ裏書譲渡人ニ通知ス可シ、若シ此通知ヲ為ササルトキハ之ヲ受ケサリシ者ニ対シテ償還請求権ヲ失フ
    又右ノ通知ヲ為シタル所持人ハ振出人又ハ裏書譲渡人ニ対シテ為替金額及ヒ拒証書ノ費用並ニ戻為替ノ費用ヲ満期日ニ支払フコトニ付テノ担保ヲ求ムル権利ヲ有シ、各裏書譲渡人ハ自ラ担保ヲ為シタルト否トヲ問ハス前者ニ対シテ右同一ノ権利ヲ有ス、但拒証書ノ交付ヲ受クルニ非サレハ担保ヲ供スル義務ナシ
    当事者ノ一人カ為シタル通知及ヒ其受ケタル担保ハ其後者総員ノ為メニモ効力アリ
第七百三十九条 支払人カ手形ノ全躰若クハ一部ニ就キ引受ヲ拒ミタルトキ又ハ第七百三十七条及ヒ第七百三十八条ノ規定ニ依リテ引受ヲ拒ミタリト看做ス可キトキハ、所持人ハ拒証書ヲ作リ之ヲ振出人又ハ裏書譲渡人ニ通知シ、此等ノ者ニ対シテ為替金額及ヒ拒証書並ニ戻為替ノ費用ヲ満期日ニ支払フコトノ担保ヲ求ムルコトヲ得、各裏書譲渡人ハ自ラ担保ヲ供シタルト否トヲ問ハス前者ニ対シテ同一ノ権利ヲ有ス、但右孰レノ場合ニ於テモ拒証書ノ交付ヲ受クルニ非サレハ担保ヲ供スル義務ナシ
当事者ノ一人カ為シタル通知又ハ受ケタル担保ハ其後者総員ノ為メニモ効力アリ
 本条ヲ修正シタル理由ハ既ニ第七百三十四条ニ就イテ之レヲ言ヘリ蓋シ本文ハ英法ニ傚ヒタルモノナリト雖トモ我輩ハ未タ之レニ感服セサルノミナラス、他ノ規定皆ナ仏・独ニ則トリ独リ本条ノミ英法ニ傚ヒタルカ故ニ前後自ラ権衡ヲ得サルカ如シ、是レ本条ヲ修正スルノ已ムヲ得サル所以ナリ、他ハ皆ナ字句ノ修正ニ過キス
  (欄外記事)
   第七百五十四条 為替金額ハ為替手形ニ記載シタル貨幣ヲ以テ之ヲ支払フ可シ、若シ特ニ貨幣ノ種類ヲ表示セサルトキハ支払地ニ於テ商人間ニ流通スル貨幣ヲ以テ支払ヲ為ス意思ナリト推定ス
第七百五十四条 削除
 原文ニ「若シ特ニ貨幣ノ種類ヲ表示セサルトキハ支払地ニ於テ商人間ニ流通スル貨幣ヲ以テ支払ヲ為ス意思ナリト推定ス」ト云ヘルハ如何ナル意カ、一見スル所ニテハ例ヘハ「若干円」ト書スレハ金銀貨幣又ハ紙幣孰レヲ以テ之レヲ支払フモ可ナルカ如シ、若シ此クノ如キ意味ナランニハ、是レ民法・商法ノ通則ニシテ特ニ此ニ掲クルハ聊カ蛇足ニ類スルモノアリ、今草案ノ説明ヲ見ルニ草案編纂者ノ意ニテハ仮令「若干仏」「若干麻」ト書スルモ、東京又ハ横浜ニ於テ支払フヘキ手形ナランニハ日本貨幣ヲ以テ支払ヒテ可ナリトセシカ如ク、是レ勿論慣習ニ由リテ既ニ定マレルコトナランニハ毫モ差支ナシト雖トモ然ラハ別ニ明文ヲ要セス、第三百二十一条及ヒ第七百九条ニ拠ルモ明カナリ、故ニ本条ヲ一抹ニ付シ去ルヲ以テ尤モ妥当ナリトス、此クノ如クスレハ一ニ慣習ニ依ルヘキカ故ニ、慣習ガ草
 - 第20巻 p.83 -ページ画像 
案編纂者ノ意見ノ如キトキハ之レヲ用ヒ、慣習ガ之レニ違フトキハ之レヲ用ヰス、以テ尤モ実際ニ便利ナル解釈ヲ取ルコトヲ得ヘシ
  (欄外記事)
   第七百五十八条 債権者カ為替金額ヲ満期日ニ受取ラサルトキハ支払人ハ債権者ノ費用及ヒ危険ニテ其金額ヲ供託所ニ寄託スルコトヲ得、此場合ニ於テハ支払人ハ甚シキ怠慢ニ付テノミ責任ヲ負フ
第七百五十八条 債権者カ為替金額ヲ満期日ニ受取ラサルトキハ支払人ハ債権者ノ費用及ヒ危険ヲ以テ其金額ヲ供託所ニ供託スルコトヲ得
 原文ニハ「此場合ニ於テハ支払人ハ甚シキ怠慢ニ付テノミ責任ヲ負フ」ト云ヘリ、其意蓋シ無資力ナル供託所ニ供託シタル場合ニ於テ支払人ニ責任アルヘキコトヲ言ハント欲シタルモノナランカ、然ルニ明治二十三年七月二十五日勅令供託規則第一条ニ拠レハ「法律ノ規定ニ依リ供託スル所ノ金銭・有価証券ハ総テ大蔵省預金局ニ於テ之ヲ保管スヘシ」トセルカ故ニ苟モ公ノ供託所ニ供託スル以上ハ支払人ニ些ノ過失アルコトナシ、是レ右ノ数十字ヲ削除シタル所以ナリ、草案ニハ「裁判所又ハ銀行ニ供託スヘシ」ト云ヒシカハ右ノ末文ヲ必要トセシ歟
  (欄外記事)
   第七百六十三条 引受人ハ一為替手形ノ数通中ニテ其引受ヲ記セサルモノニ対シテハ担保ヲ供セシメタル上ニ非サレハ支払ヲ為ス義務ナシ、引受ヲ記シタル為替手形数通アル場合ニ在テハ之ヲ合シテ引渡ササルトキモ亦同シ、若シ担保ノ提供ヲ為スニ拘ハラス引受人カ支払ヲ拒ムトキハ所持人ハ拒証書ヲ作ルコトヲ得
第七百六十三条 一為替手形ニ就キ数通ヲ発行シタルトキ支払人其一通ニ対シテ引受ヲ為シタル揚合ニ於テハ支払人ハ其引受ヲ為シタル手形ト引換ニ非サレハ支払ヲ為ス義務ナシ、但所持人担保ヲ供スルトキハ此限ニ在ラス、此場合ニ於テ支払人尚ホ支払ヲ拒ムトキハ所持人ハ其翌日拒証書ヲ作ルコトヲ得
 原文ニハ「引受ヲ記シタル為替手形数通」アルヘキコトヲ仮定スト雖トモ、引受ハ一通ニ対シテノミ之レヲ為スヘク、然ラスハ頗ル危険ニシテ信用ヲ拡ムルノ具却テ不信ヲ播種スルノ器械ト為リ了ラントス、是レ本文ヲ修正シタル所以ナリ、他ハ序ニ字句ヲ修正シタルニ過キス
  (欄外記事)
   第七百八十六条 償還請求ハ左ノ額ニ付キ之ヲ為スコトヲ得
    第一 為替金額及ヒ満期日ヨリ起算シタル年百分ノ七ノ利息
    第二 拒証書ノ費用、其他必要ナル立替金
    第三 戻為替ヲ振出シタルトキハ其費用
第七百八十六条第一号 為替金額及満期日後ノ年百分ノ十ノ利息
 理由前ノ第九十五条ノ下ニ詳カナリ、唯序ニ利息ノ起算日ハ満期日ノ翌日ナルカ故ニ「満期日後ノ利息」ト改メタルノミ
  (欄外記事)
 - 第20巻 p.84 -ページ画像 
   第八百十一条 約束手形ニハ左ノ諸件ヲ明瞭・詳密ニ記載スルコトヲ要ス
    第一 振出ノ年月日及ヒ場所
    第二 支払金額、但文辞ヲ以テ記ス可シ
    第三 受取人ノ氏名又ハ其指図セラレタル人ニ支払フ可キ旨
    第四 満期日
    第五 約束手形ト引換ニテ支払ヲ為ス可キ旨
    第六 振出人ノ署名・捺印
第八百十一条第二号但書 削除
第三号 受取人ノ氏名
第五号ヲ削除シ原文ノ「第六」ヲ「第五」トス
 理由第七百十六条ニ同シ
  (欄外記事)
   第八百十八条 小切手ハ裏書ヲ以テ之ヲ転付スルコトヲ得、若シ白地ニテ裏書譲渡ヲ為シタルトキ又ハ無記名式ニテ振出シタルトキハ交付ニ因リテ之ヲ転付スルコトヲ得
第八百十八条 小切手ハ裏書ヲ以テ之ヲ譲渡スコトヲ得、若シ裏書譲渡人ノ署名・捺印ノミヲ以テ裏書譲渡ヲ為シタルトキ又ハ無記名式ニテ振出シタルトキハ、交付ノミニ由リテ之ヲ譲渡スコトヲ得
 理由第三百九十八条・第七百二十三条及ヒ第七百二十五条ニ同シ
  (欄外記事)
   第八百十九条 小切手ハ引受ヲモ拒証書ヲモ要スルコトナシ又小切手ハ日附後三个年ヲ以テ時効ニ罹ル、若シ小切手ヲ振出ノ日ヨリ三日内ニ支払ノ為メ呈示セス又ハ送付セサルトキハ所持人ハ遅延ノ結果ヲ負担ス
第八百十九条 小切手ニハ引受又ハ拒証書ヲ用ヰス
小切手ハ日附後三个年ヲ以テ時効ニ罹ル
小切手ハ同地内ニ於テハ日附後三日以内、振出地ト支払地ト同シカラサルトキハ七日以内ニ其支払ヲ請求スヘシ
 第一原文ニハ「引受ヲモ拒証書ヲモ要スルコト無シ」トアレトモ手形ニモ通常引受ヲ要スルコト無シ、第二時効ノ事ハ全ク別事項ナルカ故ニ別項トスルヲ穏当トス、第三原文ニハ「若シ小切手ヲ振出ノ日ヨリ三日内ニ支払ノ為メ呈示セス又送付セサルトキハ所持人ハ遅延ノ結果ヲ負担ス」トセリ、是レ一ニハ遠隔地間ニ於テ振出ス所ノ小切手ノ如キ三日内ニ必ス支払ヲ請求スヘキモノトセルハ頗ル短期ニ過クルト、二ニハ「遅延ノ結果ヲ負担ス」ルノ固ヨリ当然ニシテ言フヲ待タサルトニ因リテ修正ヲ加ヘサルコトヲ得サル所ナリ、乃チ本文ノ如クニシテ始メテ其当ヲ得ヘキカ如シ(仏国千八百六十五年六月十四日小切手法第五条ニ拠レハ発行地ト支払地ト同一ナルトキハ五日間、同一ナラサルトキハ八日問、白耳義千八百七十三年六月二十日法律第四条ニ拠レハ発行地ト支払地ト相同シキトキハ三日間、同シカラサルトキハ六日間、西班牙商法第五百三十七条ニ拠レハ同地内ニ於テハ五日間、発行地ト支払地ト相異ナルトキハ八日間外国ニ於テ支払フヘキモノニ就イテハ十二日間、瑞西義務法第八百
 - 第20巻 p.85 -ページ画像 
三十四条ニ拠レハ五日又ハ八日、伊太利商法第三百四十一条ニ拠レハ八日又ハ十四日ナリ、又草案ニハ請求ノ日限ヲ定メサリキ、蓋シ必ス十日内ニ償還請求ヲ為スヘキコトヲ規定セルカ故ニ遅クモ其期限内ニハ必ス支払請求ヲ為スヘキコトヲ推定セシニ因ルカ〔第八百二十条〕)
  (欄外記事)
   第八百二十条 呈示ノ上ニテ支払ヲ受ケサルトキハ日附後十日内ニ所持人ハ裏書譲渡人若クハ振出人ニ対シテ、裏書譲渡人ハ其前者若クハ振出人ニ対シテ償還請求権ヲ有ス、然レトモ振出人ニ対シテハ振出人カ信用ヲ有セス又ハ信用ヲ消尽シ又ハ依頼ヲ取消シタルトキハ、右期間ノ満了後ト雖モ償還請求権ヲ有ス
    振出人ハ争アル場合ニ在テハ其小切手帳ヲ裁判所ニ差出ス義務アリ
第八百二十条 所持人前条ノ期限内ニ小切手ノ支払ヲ請求スルモ其支払ヲ受ケサルトキハ同地内ニ於テハ日附後十日以内、振出地ト支払地ト同シカラサルトキハ十五日以内ニ裏書譲渡人及ヒ振出人ニ対シテ償還請求権ヲ有ス
右ノ請求ヲ受ケタル裏書譲渡人ハ同一期限内ニ其前者及ヒ振出人ニ対シテ償還請求権ヲ有ス、但前項ノ期限ヲ過キタルモ裏書譲渡人カ請求ヲ受ケタル翌日ニ為シタル償還請求ハ有効ナリ
振出人カ銀行ニ対シテ信用ヲ有セス又ハ支払ノ依頼ヲ取消シタルトキハ所持人又ハ裏書譲渡人ハ本条又ハ前条ノ期限内ニ其請求ヲ為ササルモ時効ノ成就ニ至ルマテ振出人ニ対スル償還請求権ヲ失ハス
振出人ハ争アル場合ニ於テハ其小切手帳及ヒ通帳ヲ裁判所ニ差出ス義務アリ
 第一原文ニハ「日附後十日内ニ」償還請求ヲ為スヘキコトヲ規定セリ、是レ離隔セル土地ノ間ニ於テハ聊カ期限過短ノ嫌アリ、故ニ振出地ト支払地ト異ナル場合ニ於テハ之ヲ十五日トセリ、第二原文ニハ所持人・裏書譲渡人共ニ十日内ニ請求ヲ為スヘキコトヲ規定セリ故ニ所持人カ右ノ期限ノ末日ニ裏書譲渡人ニ請求ヲ為シタルトキハ裏書譲渡人ハ其前者及振出人ニ請求ヲ為スコトヲ得サルカ如シ、是レ豈ニ至当ノ規定トナスヘケンヤ、況ンヤ所持人ト裏書譲渡人ト同地内ニ住居セサルトキハ其通知ヲ為スニ一日乃至数日ヲ要スルニ於テヲヤ、是レ本文第二項ノ規定ヲ必要トシタル所以ナリ、第三前条ノ期限内ニ支払ヲ請求セザルトキノ制裁トシテハ前条ノ原文ニ「所持人ハ遅延ノ結果ヲ負担ス」ト曰ヘルノミニシテ、是レハ当然言フヲ待タスシテ既ニ之ヲ削除シタリ、而シテ本文第三項ノ如ク規定セハ尤モ其当ヲ得ヘシト信スルナリ、第四原文第二項ニハ「振出人ハ争アル場合ニ在テハ其小切手帳ヲ裁判所ニ差出ス義務アリ」トアリ然ルニ小切手帳ノミニテハ差引ノ計算分明ナラスシテ随テ其争ヲ裁決スルニ不便ナルヘシ、故ニ斯ノ如キ場合ニ於テハ振出人ヲシテ通帳ヲモ差出スノ義務ヲ負ハシメンコトヲ望ム、是レ本文修正ノ要領ナリ、其他原文ノ「信用ヲ消尽シ」タル場合、即チ「信用ヲ有セサ
 - 第20巻 p.86 -ページ画像 
ル」場合ナルカ故ニ之ヲ削リタルカ如キハ唯字句ノ修正ニ過キス
  (欄外記事)
   第八百二十四条 日本人民ノ所有ニ専属シ又ハ日本ニ主タル営業所ヲ有シ且日本ノ裁判権ニ服従スル会社其他ノ法人ニシテ合名会社ニ在テハ総社員、合資会社ニ在テハ少ナクトモ社員ノ半数、株式会社ニ在テハ取締役ノ総員、其他ノ法人ニ在テハ代表者ノ総員カ日本人民ナルモノヽ所有ニ専属スル商船其他ノ海船ハ日本ノ船舶ニシテ日本ノ国旗ヲ掲クル権利ヲ有ス
第八百二十四条 商船其他ノ海船ノ所有者カ日本人民ナルカ又ハ日本ニ主タル営業所ヲ有シ且日本ノ裁判権ニ服従スル会社其他ノ法人ニシテ合名会社ニ在テハ総社員、合資会社ニ在テハ社員ノ過半数、株式会社ニ在テハ取締役ノ総員及ヒ議決権ノ過半数ヲ有スル株主、其他ノ法人ニ在テハ代表者ノ総員及ヒ之ヲ組織スル者ノ過半数カ日本人民ナルトキハ其船舶ハ日本ノ船舶ニシテ日本ノ国旗ヲ掲クル権利ヲ有ス
 本条原文ニ拠レハ合資会社々員ノ半数、株式会社取締役ノ総員、其他法人代表者ノ総員カ日本人民ナルニ於テハ其所有ニ専属スル商船等ハ日本ノ国旗ヲ掲クル権利ヲ有スル事トナルナリ、然ルニ其制限ヲ斯ノ如クニ止ムル時ハ猶外国人ヲシテ我海上ノ利益ヲ壟断セシムルノ恐ナシトセス、何トナレハ本条ノ規定ニ従フ時ハ合資会社々員ノ半数、株式会社ノ過半数ノ議決権ヲ有スル株主其他法人ノ過半数ノ社員カ外国人ナル場合ニ於テモ猶其所有ニ専属スル商船等ヲシテ日本ノ国旗ヲ掲クルノ権利ヲ有セシムルノ結果ヲ生スレハナリ、是本文ノ修正ヲ要スル所以ナリ、他ハ字句ノ修正ニ過キス
  (欄外記事)
   第八百二十六条 船舶登記簿ニハ左ノ諸件ヲ登記シ且年月日ヲ記スヘシ
     第一 船名及ヒ船籍港
     第二 船舶構造ノ時及ヒ地ノ知レタルトキハ其時及ヒ地又船舶カ日本ノ船籍ニ帰シタルトキハ其時及ヒ事情
     第三 官ノ測度証書ニ基キタル船舶ノ種類・大小・積量及ヒ詳細ナル記載
     第四 船長ノ氏名及ヒ国籍
     第五 一人又ハ数人ノ所有者ノ氏名・住所及ヒ詳細ナル記載又船舶ノ所有権ニ付キ所有者ノ股分ノ割合及ヒ所有権取得ノ合法ノ原因
第八百二十六条第四号 船長ノ氏名及ヒ国籍、但沿岸航海ノ場合ニ於テハ之ヲ登記スルコトヲ要セス
 欧米各国ニ於テモ概ネ本条第四号ト同様ノ規定アリト雖トモ我国ニ於テハ平時船長ノ交代甚タ多キヲ以テ其都度登記簿面ヲ改正セサルヘカラスト為ス時ハ実際不容易差支ヲ生スヘシ、従来ノ経験ニ拠ルニ定期出帆ノ時限ニ迫リ疾病其他止ムヲ得サル事情ニ因リ俄カニ船長ノ交代ヲ要スル事少カラス、本法実施ノ上ハ斯カル場合ニ於テハ必ス其出帆時限ヲ延期セサルヘカラス、殊ニ午後四時(横浜港ニ於テハ午後四時ヲ以テ出帆時限ト為スモノ殊ニ多シ)出帆ノ約束ヲ為
 - 第20巻 p.87 -ページ画像 
シタル船舶ニ於テ不意ノ交代アル時ハ直チニ改正登簿ノ出願ヲ為サントスルモ、既ニ執務時間ニ後レ止ムヲ得ス其翌日ノ開局ヲ待チ相当ノ手続ヲ経由シ始メテ出帆シ得ヘキノミ、寸刻ヲ争フヘキ船舶ノ出入ニシテ斯カル場合ニ遭遇セハ船舶発着ノ定期ヲ紊リ船主直接ノ損害ハ勿論、船客荷主ノ迷惑一方ナラサルノミナラス郵便物ノ延着及外国船接続ニ関係シ公益ヲ害スル事尠カラサルナリ、是本文ノ修正ヲ要スル所以ナリ
  (欄外記事)
   第八百三十五条 船舶構造ノ契約及ヒ売買其他ノ権利行為ニ因リテ船舶ノ全部若クハ股分ヲ取得スル契約ハ特ニ作レル契約証書ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ取結フコトヲ得ス
    相続・結婚其他此類ノ事由ニ因レル船舶所有権ノ移転ハ公正ノ証書ヲ以テ之ヲ証スルコトヲ要ス
第八百三十五条 削除
 船舶ノ構造・売買等ニ関スル取引ハ何レモ皆敏活ヲ要スル商機ニ属シ、時トシテハ一音ノ電報ヲ以テ之ヲ決了スルガ如キ事其実例少シトセズ、然ルニ本条ノ如ク特ニ作レル契約証書ヲ以テスルニ非サレハ此等ノ契約ヲ結ブ事ヲ得ズト規定スルトキハ、其霊敏ノ活動ヲ阻碍スルノ虞アリ、且夫船舶ハ原来動産ニ属スルモノナレバ其構造・売買等ノ契約ノ如キ鄭重・簡単一ニ当事者ノ択ム所ニ任シテ可ナリト信ス、又第二項ト第一項トヲ相対照スルトキハ相続・結婚等ニ由リ船舶ノ所有権移転スヘキ場合ニ於テハ、必ス特ニ公証人ニ依リ公正証書ヲ作ルヘキモノヽ如シ、然レトモ其立法者ノ意ニ非サル事ハ深ク思考ヲ費ヤスヲ須タス、何トナレハ相続ノ如キハ必スシモ当事者ノ意思ヲ要セス法律ノ力ニテ当然相続人トナルコト尤モ多ク、婚姻ノ如キハ固ヨリ当事者ノ意思ニ依ルト雖トモ婚姻ノ儀式ハ自ラ民法ニ其規定ノ在ルアリ、此儀式ヲ践メハ当然夫婦ノ財産上ニ其効果ヲ生スヘク又特ニ夫婦財産契約ヲ結フトキハ其結果ニ因リ船舶ノ所有権モ亦タ当然移転スルコトアリ、此場合ニ於テハ其財産契約ハ必ス公正証書ヲ以テ之レヲ取結フヘキコト民法財産取得編第四百二十二条ニ明文アル所ナリ、故ニ右孰レノ場合ニ於テモ船舶ノ所有権ヲ移転スルニ就キ特ニ公正証書ヲ作ルカ如キハ殆ト解シ難キ所ナリ、故ニ法文ニ「之ヲ証スルコトヲ要ス」ト云ヘルト草案ノ説明トニ拠リ(但シ草案ニハ裁判所ノ証明ヲ要ストセリ)登記ヲ請フニ際シ又ハ争アルニ当リ、其権利ヲ証スル為メ右ノ公正証書ヲ要スルモノトセサルコトヲ得ス、然ルニ右ノ証拠トナルヘキ公正証書ハ特ニ之レヲ作ラサルモ大抵自ラ存在スヘキノミ、蓋シ相続ノ順位ハ親属ノ関係ニ依ルヲ常トシ、而シテ其関係ヲ証明スルニハ必ス其人ノ出生証書ヲ提出セサルヘカラス、而シテ出生証書ハ一ノ公正証書ナリ、又遺贈ニ由リテ船舶ヲ取得シタル場合ニ於テモ遺言ハ公正証書ヲ以テスルコト多シ、又仮令公正証書ナラサルモ常ニ極メテ精確ナル証書アルヘシ(民法財産取得編第三百六十八条以下)又婚姻証書モ一ノ公正証書ニシテ夫婦財産契約モ亦タ必ス公正証書ヲ以テ之レヲ取結フヘキコトハ上ニ言ヘルカ如シ、故ニ毫モ更ニ公正証書ヲ作ルノ要ナ
 - 第20巻 p.88 -ページ画像 
シ、而シテ登記ヲ請フニ際シ又ハ争アルニ当リテハ、別ニ法文ノ規定ナキモ必ス右等ノ証書ヲ提出スヘキカ故ニ、本条第二項ハ一抹ニ付シ去ルヲ以テ尤モ妥当ナリト信ス、是本条ヲ削除シタル所以ナリ(明治二十三年十月二十九日司法省令登記法取扱規則第二十六条第二項)
  (欄外記事)
   第八百八十九条 碇泊期間及ヒ超過碇泊期間ノ計算ニハ一般ノ休日及ヒ風雨其他天然若クハ法律上ノ妨碍ニ因リテ荷積又ハ荷卸ヲ妨ケラレタル日ヲ算入セス
第八百八十九条 削除
 碇泊期間及超過碇泊期間ヲ計算スルニ一般ノ休日ヲ除クハ我海業ノ実際ニ反スルモノナリ、海外諸国ヲ始メ我国ノ税関ニ在リテモ臨時開関料ヲ納ムレバ休日ニテモ其手数ヲ為スコト、既ニ一般ノ慣例ニシテ海上ノ業務ハ自ラ陸上ニ於ケル業務ト其趣ヲ異ニスル所アリ、一般ノ休日ニテモ発着ハ勿論荷積荷卸シ共遠慮ナク之ヲ施行シテ更ニ顧ミザルヲ例トス、故ニ碇泊期間等ノ計算ヲ為スニ当リテモ固ヨリ之レヲ除クベキ理由ナシ、且ツ其他ノ諸点モ其地ノ習慣ニ依ラシムルヲ穏当ト思考ス、是本条ヲ削除シタル所以ナリ
  (欄外記事)
   第八百九十九条 船荷証書ハ船長カ運送ノ為メニ受取リタル運送品ニ対シテ発ス可キ受取証券ニシテ左ノ諸件ヲ包含ス
     第一 船名及ヒ国籍
     第二 船長ノ氏名
     第三 船舶賃借人ノ氏名及ヒ積荷受取人ノ指示
     第四 積荷港及ヒ到達港
     第五 貨物ノ種類・数量及ヒ各箇運送品ノ員数・記号・番号・外包ノ方法
     第六 運送賃ニ付テノ約定
     第七 年月日
     第八 交付シタル船荷証書ノ数
    積荷証書《(船カ)》ハ求ニ応シ幾通ニテモ之ヲ交付ス可シ、其中ノ一通ニハ船長ノ手許ニ備置ク為メ賃借人署名・捺印シ他ノ各逋《(通)》ニハ船長署名・捺印スルコトヲ要ス
    船荷証書ハ或人ニ宛テ又ハ指図式若クハ無記名式ニテ之ヲ発スルコトヲ得
第八百九十九条第一項第二号 船長ノ氏名、但沿岸航海ノ場合ニ於テハ之ヲ記載スルコトヲ要セズ
第二項 船荷証書ハ求ニ応シ幾通ニテモ之ヲ作ルヘシ、其中ノ一通ハ船長ノ手許ニ備ヘ置ク為メ賃借人之ニ署名・捺印シ、他ノ各通ハ船長又ハ其代理人之ニ署名・捺印スルコトヲ要ス、但沿岸航海ノ場合ニ於テハ船舶賃貸人船長ニ代リテ之ニ署名・捺印スルコトヲ得
 船荷証書ハ総テ船長ノ名義ヲ以テ授受スヘキハ至当ノ順序ニシテ欧米各国ノ例規亦斯ノ如クナリト雖トモ我国従来ノ慣習ニテハ陸上ニ於テ先ツ之ヲ製シ船長ノ名代トシテ他ノ関係人之ニ署名・捺印シテ
 - 第20巻 p.89 -ページ画像 
発行スルヲ以テ荷積ヲ終ルト同時ニ直様出帆スルヲ得ヘシ、然ルニ今実際本船ニ於テ数千万個ノ荷物ニ対スル船荷証書ヲ製シテ一々船長ニ署名・捺印セシムルハ実際容易ニ為シ得ヘキ事ニアラス、故ニ斯ノ手続ヲ為スカ為メ第九百条ニ二十四時間ノ猶予ヲ与フレトモ専ラ之カ為メニ空シク碇泊スルハ第一本船ノ損失莫大ナルノミナラス荷物運送ノ遅滞ヲ来シ遂ニ荷主ヲシテ商機ヲ失ヒ容易ナラサル損害ヲ蒙ラシムルニ至ルヘシ、畢竟斯ル事業ノ手続ハ既ニ数十年ノ経験ニ依リ能ク其便否ヲ研究シ竟ニ最モ至便ナル今日ノ慣習ヲナシタルモノナルニ、今ヤ一朝ニシテ之ヲ打破スルハ豈甚タ遺憾ナラスヤ、又沿岸航海ノ場合ニ於テハ船長ノ更代甚ダ多キヲ常トスルガ故ニ船舶賃貸人証書ニ署名・捺印スルヲ得ルモノトセリ、是本条第一項第二号及第二項ノ但書ヲ加ヘタル所以ナリ、他ハ字句ノ修正ニ過キス
  (欄外記事)
   第九百一条 規定ニ従ヒテ発シタル船荷証書ノ旨趣ハ当事者相互ノ間及ヒ当事者ト保険者トノ間ニ於テ完全ナル証拠ト為ルモノトス、然レトモ反対ノ証拠ハ之ヲ挙クルコトヲ得
    船長ハ外包ノ儘ニ又ハ閉蓋シタル容器ノ儘ニ受取リタル運送品ノ種類及ヒ数量ニ付テハ明約アルニ非サレハ責任ヲ負フコト無シ、但運送品ヲ受取人ニ引渡ス時ニ於テ其外部ニ毀損アルトキハ此限ニ在ラス
    喪失又ハ毀損ニ付テノ責任ハ第四百九十三条ニ掲ケタル情況ニ因ル外、尚ホ火災・盗難其他過失ニ出テサル事故ニ因リテ消滅ス
    過失ニ付テノ責任ハ契約ヲ以テモ之ヲ免カルルコトヲ得ス
第九百一条第四項 削除
 本条第四項ノ規定ハ契約ノ自由ヲ妨ゲ海業者ニ過重ノ責ヲ負ハシムルノ憾アリ、過失ノ責任ト雖トモ双方ノ合意ニ依リテ其免否ヲ約スルハ敢テ不可ナシト信ズ、故ニ此ノ如キハ別段ニ法律ノ干渉ヲ要セズ当事者双方ノ合意ニ一任スルヲ可トス、是レ本条第四項ヲ削除シタル所以ナリ
  (欄外記事)
   第九百七条 船長ノ承諾ヲ得ス又ハ虚偽ノ明告ヲ為シテ船舶ニ積込ミタル運送品ハ船長之ヲ陸揚シ又ハ之ニ最高ノ運送賃ヲ付スルコトヲ得、又其運送品カ船舶若クハ他ノ物ヲ危険ナラシムルトキハ之ヲ海中ニ投スルコトヲ得
第九百七条 船長ノ承諾ヲ得ス又ハ虚偽ノ明告ヲ為シテ船舶ニ積込ミタル運送品ハ船長之レヲ陸揚シ又ハ之ニ最高ノ運送賃ヲ付スルコトヲ得、又其運送品ガ船舶若クハ他ノ物ヲ危険ナラシムルトキハ之ヲ海中ニ投スルコトヲ得
虚偽ノ明告ヲ為シテ積込ミタル運送品ガ他ノ物ニ危害ヲ加ヘタルトキハ賃借人其損害ヲ賠償スルコトヲ要ス
 原文危険物ノ規定ハ唯将来ニ対スル予防ニ止マリ更ニ既往ノ損害ヲ補償スルノ点ニ及バズ、例ヘバ火薬ノ如キ危険物ヲ陰蔽シテ積込ミタル後、俄然爆発シテ船舶若クハ他ノ物ニ危害ヲ加フルコト往々ニ
 - 第20巻 p.90 -ページ画像 
シテ之レアリ、蓋シ損害賠償ノ事ハ民法ニ於テ其規定アリト雖トモ玆ニ之ヲ明記スルヲ便利ナリトス、是第二項ヲ追加シタル所以ナリ
  (欄外記事)
   第九百二十四条 原因ノ如何ヲ問ハス船舶カ発航ヲ遅延シタルトキハ旅客ハ無代価ノ止宿若シ運送賃ニ賄ヲ包含スルトキハ船中ニ於ケル賄ヲモ請求スルコトヲ得、然レトモ其遅延ノ甚シキトキハ旅客ハ契約ヲ解除シテ既ニ支払ヒタル運送賃ノ償還ヲ請求スルコトヲ得、但其遅延カ船長ノ過失ニ因ルトキハ尚ホ損害賠償ヲ請求スルコトヲ得
    前項ノ規定ハ航海中、立寄港ニ於テ生シタル同一ノ場合ニモ之ヲ適用ス然レトモ、運送賃ノ償還ハ未タ航海セサル路程ニ応シテノミ之ヲ請求スルコトヲ得
第九百二十四条 原因ノ如何ヲ問ハズ船舶ガ発航ヲ遅延シタル場合ニ於テ旅客ハ運送賃ニ賄ヲ包含スルトキハ船中ニ於ケル賄ヲ請求スルコトヲ得、其遅延ガ船長ノ過失ニ因ルトキハ旅客ハ無代価ノ止宿ヲモ請求スルコトヲ得
如何ナル場合ニ於テモ其遅延ノ甚シキトキハ旅客ハ契約ヲ解除シテ既ニ仕払ヒタル運送賃ノ償還ヲ請求スルコトヲ得、但其遅延ガ船長ノ過失ニ因ル時ハ尚損害賠償ヲ請求スルコトヲ得
前項ノ規定ハ航海中、立寄港ニ於テ生シタル同一ノ場合ニモ之ヲ適用ス、然レトモ運送賃ノ償還ハ未タ航海セサル路程ニ応シテノミ之ヲ請求スルコトヲ得
 原因ノ如何ヲ問ハズ船舶ガ発航ヲ遅延シタル場合ニ於テ旅客ヲシテ無代価ノ止宿ヲ請求スルコトヲ得セシムルハ少シク妥当ヲ欠クニ似タリ、故ニ其責務ノ区域ヲ減縮シテ船長過失ノ場合ニ限ルコトヽセリ、其他ハ字句ノ修正ニ過ギズ
  (欄外記事)
   第九百三十二条 船舶及ヒ積荷ノ全部又ハ一分ヲ救助スルコトヲ得タルトキハ、積荷ト船舶及ヒ運送賃ノ半分トカ到達港其他航海ノ終極地ニ於ケル其価額ノ平等ナル割合ヲ以テ共同海損ヲ共担ス
第九百三十二条 船舶及ヒ積荷ノ全躰又ハ一部ヲ救助スルコトヲ得タルトキハ、到達港其他航海ノ終極地ニ於ケル積荷及ヒ船舶ノ価額ト運送賃ノ半額トノ平等ナル割合ヲ以テ共同海損ヲ分担セシム
 英国ノ法律ニテハ船舶ノ価額ハ共担分損(共同海損)ヲ決算スル時ノ価値、船賃ハ仕向ケ港ニ到達シ貨物引渡ノ上送状ニ従ヒ領収スヘキ船賃ヨリ航海中ノ乗組船員ノ給料・港費・仕向港ニ於テ貨物引渡ノ費用ヲ引去リタル残額ヲ以テ算定スルノ制規ナリ、蓋シ運送賃ハ航海中乗組ノ船員ノ給料・港費・貨物引渡費等ヲ差引クヘキモノナレハ、之レヲ半分トシタルハ或ハ相当ナランカ、然レトモ船舶ノ価額ヲ半分トシタルハ其理由孰レニアルカヲ知ル事能ハサルナリ、是本文ノ修正ヲ要スル所以ナリ、他ハ字句ノ修正ニ過キス
  (欄外記事)
   第九百四十六条 冒険貸借ハ船長カ船籍港外ニ在テ船舶又ハ積
 - 第20巻 p.91 -ページ画像 
荷ノ已ムヲ得サル需用ノ為メ債権者ニ冒険料ヲ支払フ約束ニテ航海中冒険抵当物ニ付テノ海上危険ヲ引受ケシムル条件ヲ以テ取結フ貸借契約タリ、此契約ヲ取結フニハ第八百七十二条ノ手続ニ依ルコトヲ要ス
    認可書及ヒ冒険貸借証書ニハ冒険貸借ノ事実・目的・船名・航路・冒険抵当物及其価額ヲ明記スルコトヲ要ス
    冒険貸借ノ金額カ冒険抵当物ノ価額ニ超ユルトキハ債権者ハ其超過額、若シ債務者ニ詐欺ノ意思アル場合ニ在テハ全金額ニ利息ヲ附シテ之ヲ取戻スコトヲ得
    期望ノ利益ハ之ヲ積荷ノ価額ニ算入スルコトヲ得ス
   第九百四十七条 船舶、〔附属物ヲ包含ス〕運送賃及ヒ積荷ハ之ヲ総括シ又ハ分別シテ冒険抵当ト為スコトヲ得、然レトモ積荷ノミハ其需用ノ為メニスルニ非サレハ之ヲ冒険抵当ト為スコトヲ得ス
    船舶ノ冒険抵当ニハ明示ナキモ船舶ノ附属物及ヒ航海ノ終ニ於テ得ヘキ運送賃ヲ包含ス
   第九百四十八条 同一ノ物ヲ相異ナル需用ノ為メニ数回冒険抵当ト為シタルトキハ後ノ債権ハ前ノ債権ニ先タツモノトス
   第九百四十九条 冒険貸借証券ハ求ニ因リテ二通以上ヲ交付シ又指図式ニテ之ヲ発スルコトヲ得、指図式ニテ発シタル場合ニ在テハ裏書ヲ以テ転付スルコトヲ得、然レトモ裏書譲渡人ハ元金ノ支払ニ付テノミ責ヲ負ヒ冒険料ノ支払ニ付テハ盟約アルニ非サレハ其責ヲ負ハス
   第九百五十条 冒険貸借金額及ヒ冒険料ハ別段ノ期間ヲ約定シタルニ非サレハ船舶ノ投錨後八日内、積荷ニ付テハ其陸揚後八日内ニ之ヲ弁償スルコトヲ要ス、若シ此期間ニ弁償ヲ為ササルトキハ債権者ハ冒険抵当物ニ対シテ質権ヲ行フコトヲ得総テノ冒険抵当物ハ其債権者ニ対シテ連帯ノ責任ヲ負フ
   第九百五十一条 航海ノ変更、他ノ船舶ニ貨物ノ積換其他危険ノ変更ハ避ク可カラサル必要ニ出テタルニ非サレハ債権者ヲシテ海難ニ付テノ責ヲ免カレシム
   第九百五十二条 冒険貸借債務ノ弁償ハ冒険抵当物ノ全部カ航海中海上危険ノ為メニ喪失シタルトキハ之ヲ求ムルコトヲ得ス、若シ毀損又ハ一分ノ喪失ノ場合ニ在テハ、其残余ノ価額ニ限リ之ヲ求ムルコトヲ得、但海損及ヒ救助ノ費用ハ之ヲ扣除ス
    前項ノ場合ニ在テハ海損ニ付テノ損害賠償ハ債権者ノ利益ニ帰ス
第二編第七章 冒険貸借(自第九百四十六条至第九百五十二条) 削除
 冒険貸借ハ古ヘ交通ノ便ニ乏シク海商猶ホ幼穉ナリシ頃ニハ相応ニ行ハレタル所ナリト雖トモ交通ノ便開ケ海商頓ニ進ムニ随ヒ冒険貸借ノ需要遂ニ皆無トナレリ、然ルニ欧洲ニ於テ古来ノ慣習ニ従ヒ商法中ニ冒険貸借ノ事ヲ規定スルヲ見テ直チニ之レヲ其慣習モナキ我邦ニ採用セント欲スルカ如キハ実ニ謂ハレナキ事ナラズヤ、是レ本
 - 第20巻 p.92 -ページ画像 
章ヲ削除シタル所以ナリ
  (欄外記事)
   第九百七十八条 商ヲ為スニ当リ支払ヲ停止スル者ハ自己若クハ債権者ノ申立ニ因リ又ハ職権ニ依リ裁判所ノ決定ヲ以テ破産者トシテ宣告セラル、但此決定ニ対シテハ即時抗告ヲ為スコトヲ得
    前項ノ決定ハ口頭弁論ヲ要セスシテ之ヲ為スコトヲ得
第九百七十八条 商人カ支払ヲ停止スルトキハ裁判所ハ本人若クハ債権者ノ申立ニ依リ又ハ職権ヲ以テ破産宣告ノ決定ヲ為スヘシ、但此決第ニ対シテハ即時抗告ヲ為スコトヲ得
前項ノ決定ハ口頭弁論ヲ用ヰスシテ之ヲ為スコトヲ得
 原文ニハ「商ヲ為スニ当リ支払ヲ停止スル者ハ」ト云ヒ、仮令商人カ支払ヲ停止スルモ若シ其支払カ商取引ニ関セサルトキハ破産ヲ宣告スルコトヲ得ス、随テ民事訴訟法ノ普通ノ強制執行方法ニ由ラサルヘカラス、是レ蓋シ特ニ商法ニ於テ破産ヲ規定スルノ理由ニ背クモノアラン、又苟モ商取引ニ関スル支払ヲ停止スルトキハ、仮令其人商人ナラサルモ之レカ破産ヲ宣告スヘキモノトセリ、然リ而シテ熟々本編ニ規定セル所ヲ観察スレハ商業帳簿ヲ首トシ、凡ソ商人ニ特別ナル事項ヲ以テ破産ノ基礎トセルガ如シ、蓋シ破産ノ制度ニシテ完全無欠ナランニハ、之レヲ商人・非商人ニ通シテ適用スルコト恰モ英・独・澳・匈等ノ諸国ニ於ケルカ如クスヘシ、破産ノ制度酷ニ失スルノ恐レアランニハ仏・蘭・白・伊・西・葡等ノ諸国ニ於ケルカ如ク単ニ之レヲ商人ノミニ適用スヘシ、夫レ商人ハ国ノ富源ヲ運用シテ国ノ富裕ヲ増進セシムルノ任ニ当レルモノニシテ其責極メテ重シ、随テ之レニ対スル法律ノ規定ハ孰レノ国ニ於テモ多少通常人ニ対スルヨリモ厳重ナリトス、我輩ハ破産ノ制度ヲ改良シテ之レヲ商人・非商人ニ通シテ適用センコトヲ欲スルモノナリト雖トモ、此クノ如クセンニハ必ス商法ノ破産編ヲ全然改正シ新ニ一法案ヲ起草スルニ非サレハ能ハス、是レ本修正案ノ主眼トスル所ニ背クモノアリ、故ニ先ツ之レヲ商人ノミニ限リ異日十分ノ改正ヲ施スニ当リテ之レヲ非商人ニモ及ホスコトヽスルモ敢テ晩シト為サヽルナリ、是レ本文ニ於テ商人カ支払ヲ停止スルトキハ其商取引ニ関スルト民事取引ニ関スルトニ論ナク之レカ破産ヲ宣告シ、非商人ハ一切破産ノ制裁ヲ受ケサルモノトシタル所以ナリ
  (欄外記事)
   第九百九十条 支払停止後又ハ支払停止前十日内ニ破産者カ其財産中ヨリ無償ノ利益ヲ或人ニ与フル権利行為、殊ニ贈与、無償ニテ若クハ不相当ノ報償ヲ以テ義務ヲ負担スル契約、期限ニ至ラサル債務ノ支払、期限ニ至リタル債務ノ変体支払及ヒ従来負担シタル債務ノ為メ新ニ供スル担保ハ財団ニ対シテハ当然無効トス
第九百九十条 支払停止後又ハ支払停止前十日内ニ破産者カ其財産中ヨリ無償ノ利益ヲ或人ニ与フル行為、殊ニ贈与、無償ニテ義務ヲ負担スル契約、期限ニ至ラサル債務ノ支払、期限ニ至リタル債務ノ代物弁
 - 第20巻 p.93 -ページ画像 
済及ヒ従来負担シタル債務ノ為メ新ニ供スル担保ハ財団ニ対シテハ当然無効トス
 本条ノ「若クハ不相当ノ報償ヲ以テ」ノ十二字ヲ削除シタルハ廉価ヲ以テ売リタルモノ高価ヲ以テ買ヒタルモノ皆ナ此中ニ包含セラルヘク、破産管財人動モスレハ適当ノ畛域ヲ超エテ無効ナルヘカラサルヲ無効トシ裁判官ニ於テモ或ハ之レヲ認可スルコトナキヲ保セス是レ次条ノ範囲ニ侵入スルモノニシテ当然無効トスヘキ理由ヲ失フニ至ラン、是レニ由リテ本条ノ修正ヲ必要トセリ、「又変躰支払」ヲ代物弁済ト改メタルハ民法ノ用語ニ依レルナリ(民法財産取得編第三十五条債権担保編第四十六条等)蓋シ同シク日本帝国ノ法律ニシテ其用語ヲ異ニスルカ如キハ可成的之レヲ避ケサルヘカラサレハナリ、又「権利行為」ノ文字ハ穏カナラサルカ故ニ単ニ行為トセリ
  (欄外記事)
   第千八条 各裁判所管轄区ニハ職務上義務ヲ負フ可キ破産管財人ノ名簿ヲ備置キ破産裁判所ハ各箇ノ場合ニ於テ其名簿中ヨリ管財人ヲ選定ス
第千八条 各裁判所管轄区ニ破産管財人ノ名簿ヲ備置キ破産裁判所ハ各場合ニ於テ其名簿中ヨリ管財人ヲ選定ス
選定セラレタル管財人ハ正当ノ理由アルニ非サレハ之ヲ辞スルコトヲ得ス
 原文ニ「職務上義務ヲ負フ可キ破産管財人」ノ文字アリ、其意義極メテ曖昧ナリト雖トモ之レヲ二義ニ解スルコトヲ得ヘシ、一ハ其職務ニ就キ十分ノ注意ヲ為スヘキ義務ヲ負フノ意ニシテ、一ハ職務上必ス破産管財人タルヘキ義務ヲ負フノ意ナリ、是レ両ナカラ当然ノ事タリト雖トモ、第一ノ意味ハ既ニ第千十一条ニ「管財人ハ其行為ニ付テハ代理人ト同一ノ責任ヲ負フ」ト云ヒ(「代理人ト同一ノ責任ヲ負フ」ハ極メテ拙ナリ、何トナレハ管財人モ亦タ一ノ代理人ナレハナリ)第三百四十一条第二項ニ「代理人ハ委任ヲ行フノ際至重ノ注意ヲ為ス義務アリ」ト云ヘルニ因リテ明カナリ、第二ノ意義ハ他ノ仲立人(第四百二十九条第二項)問屋(第四百七十七条)ノ如ク其職務ヲ辞スルコトヲ得サルモノトスルニ在リト雖トモ、原文ノ儘ニテハ斯ク解釈スルコト極メテ難シ、故ニ右ノ十数文字ヲ削リ本文第二項ヲ加ヘタリ(商法施行条例第三十六条及ヒ第三十八条ヲ参観セヨ)他ハ字句ノ修正ニ過キス
  (欄外記事)
   第千十二条 管財人ハ破産宣告後、即時ニ財団ヲ占有シ且其管理及換価ニ著手スルコトヲ要ス
    管財人ハ其執務ノ為メ破産者ノ補助ヲ求ムルコトヲ得、破産主任官ハ此カ為メ破産者ニ報酬ヲ与フルコトヲ得
第千十二条第二項 右ニ就キ管財人ハ破産者ノ補助ヲ求ムルコトヲ得自己ノ破産シタルカ為メ其破産手続ニ執務シタリトテ之レニ報酬ヲ与フルハ豈甚タ不都合ナラスヤ、是レ本条ノ末文ヲ削除シタル所以ナリ、他ハ字句ノ修正ニ過キス
  (欄外記事)
 - 第20巻 p.94 -ページ画像 
   第千十九条 管財人ハ財団ニ属スル破産者ノ貸方ヲ取立テ及ヒ破産者ノ権利ヲ債務者其他ノ人ニ対シテ主張シ且保全スルコトヲ要ス
    管財人ハ左ニ掲クル行為ニシテ百円以上ノ額ニ係ルモノニ付テハ破産者ノ意見ヲ聞キ且破産主任官ノ認可ヲ受ク可シ
     第一 訴訟ヲ為スコト
     第二 和解契約又ハ仲裁契約ヲ取結フコト
     第三 質物ヲ受戻スコト
     第四 債権ヲ転付スルコト
     第五 相続又ハ遺贈ヲ拒絶スルコト
     第六 消費借ヲ為スコト
     第七 不動産ヲ買入ルヽコト
     第八 権利ヲ抛棄スルコト
     第九 総テ財団ニ新ナル義務ヲ負ハシムルコト
第千十九条第二項 管財人ハ左ニ掲クル行為ニ就テハ破産者ノ意見ヲ聴キ且破産主任官ノ認可ヲ受ク可シ
 原文ニ拠レハ百円未満ノ金額ニ就イテハ管財人ハ専断ヲ以テ訴訟ヲ為シ、和解・仲裁契約ヲ為シ、債権ヲ譲渡シ、相続・遺贈ヲ拒絶シ消費借ヲ為シ、不動産ヲ買入レ、権利ヲ抛棄シ、義務ヲ負担スルコトヲ得ルモノトセリト雖トモ、是レ実ニ危険ノ最モ甚シキモノニシテ、若シ之レヲ実施セハ弊害百出殆ト底止スル所ヲ知ラサラントス是レ右等ノ行為ニ就イテハ金額ノ多寡ヲ論セス、必ス破産者ノ意見ヲ聴キ且ツ破産主任官ノ認可ヲ受クヘキモノトセシ所以ナリ
  (欄外記事)
   第千三十条 主タル債務者ノ破産ニ於テ届出テタル債権ハ協諧契約ノ場合ト雖モ保証人其他ノ共同義務者ニ対シ其全額ニ付之ヲ主張スルコトヲ得、又保証人又ハ共同義務者ハ主タル債務者ノ破産ニ於テ其償還請求ヲ届出ツルコトヲ得、然レトモ主タル債務者ノ為メニスル協諧契約ノ効果ニ従フ
第千三十条 破産ニ対シ届出テタル債権ト雖トモ保証人其他ノ共同義務者ニ対シ其全額ニ就キ之ヲ主張スルコトヲ得、協諧契約アリタル場合ト雖トモ亦同シ、但弁済其他有償行為ニ由リ其義務ヲ消滅セシメタル保証人又ハ共同義務者ハ民法ノ規定ニ従ヒ当然破産ニ対スル債権者ノ権利ニ代位ス
 原文ニ拠レハ既ニ債権者カ其債権ノ全額ニ就キ破産ニ対シ請求ヲ為シタルニ拘ハラス保証人又ハ共同債務者モ亦タ自己カ債権者ニ弁済スルコトアルヘキ金額ニ就キ破産ニ対シ請求ヲ為スコトヲ得ルモノノ如シ、是レ同一ノ債権ニ就キ二重ニ請求ヲ為スモノニシテ到底法理ノ許ササル所タリ唯保証人等カ弁済ヲ為シタルトキハ民法債権担保編第三十六条及ヒ第六十四条ニ因リ当然債権者ノ権利ニ代位スルモノトス、是レ本文ノ如ク修正スルヲ以テ尤モ妥当トスル所以ナリ
  (欄外記事)
   第千五十条 破産宣告ヲ受ケタル債務者カ支払停止又ハ破産宣告ノ前後ヲ問ハス履行スル意ナキ義務又ハ履行スル能ハサル
 - 第20巻 p.95 -ページ画像 
コトヲ知リタル義務ヲ負担シタルトキ又ハ債権者ニ損害ヲ被フラシムル意思ヲ以テ貸方財産ノ全部若クハ一分ヲ蔵匿シ転匿シ若クハ脱漏シ又ハ借方現額ヲ過度ニ掲ケ又ハ商業帳簿ヲ毀滅シ蔵匿シ若クハ偽造・変造シタルトキハ詐欺破産ノ刑ニ処ス
第千五十条 破産ノ宣告ヲ受ケタル債務者カ其時期ノ如何ヲ問ハス債権者ニ損害ヲ被フラシムル意思ヲ以テ貸方財産ノ全躰若クハ一部ヲ蔵匿シ脱漏シ若クハ表面上他人ニ譲渡シ又ハ借方現額ヲ過度ニ掲ケ又ハ商業帳簿ヲ毀滅シ蔵匿シ若クハ偽造・変造シタルトキハ詐欺破産ノ刑ニ処ス
 本条「履行スル意ナキ義務又ハ履行スル能ハサルコトヲ知リタル義務ヲ負担シタルトキ又ハ」ノ三十八字ヲ削リタル理由ハ、凡ソ義務ハ履行セサルヘカラサルモノニシテ若シ履行セサレハ法律上強制ノ方法ニ乏シカラス、故ニ凡ソ義務ヲ負フモノハ皆ナ履行スルノ意ヲ以テ之レヲ負ヒタルモノト謂ハサルヘカラス、然ルニ濫リニ他人ノ意思ニ立入リ是レ履行スルノ意ナカリシナラント想像ヲ以テ之レヲ認定シ之レニ詐欺破産ノ厳刑ヲ科スルコトアラハ誰カ其大不当ヲ鳴ラササルモノアランヤ、又義務ヲ履行スルコト能ハストハ唯目前ノ事ニシテ将来資産ヲ恢復スルコトアラハ固ヨリ之レヲ履行スルコトヲ得ルナリ、然ルニ目下履行スルコトヲ得サルコトヲ知リテ義務ヲ負担シタレハトテ直チニ之レヲ詐欺破産ノ重罪人トスルハ苛酷モ亦タ甚シト謂フヘシ、是レ本修正ノ実ニ止ムヲ得サル所以ナリ(仏国商法第五百九十一条及ヒ独国破産法第二百〇九条ニハ此場合ナシ)又「転匿」トハ如何ナルモノヲ指スカ、従来未タ嘗テ聞カサル所ノ新熟語ナルカ如シ、察スルニ表面上他人ニ譲渡シタルヲ謂フナラン若シ然ラハ明カニ之レヲ掲クルノ不明瞭ナル新奇ノ熟語ヲ用フルニ勝ル固トヨリ万々ナラン、是レ之レヲ修正シタル所以ナリ、其他序ニ不穏当ナル字句ヲ修正セリ
  (欄外記事)
   第千五十四条 破産宣告ヲ受ケタル債務者又ハ破産シタル商事会社ノ無限責任社員若クハ取締役ハ復権ヲ得ルニ至ルマテハ取引所ニ立入ルコト、仲立人ト為リ合名会社若クハ合資会社ノ社員ト為リ又ハ株式会社ノ取締役ト為ルコト、清算人・破産管財人若クハ商事代人ノ職ヲ執ルコト、商業会議所ノ会員ト為ルコト、其他商業上ノ栄誉職ニ就クコトヲ得ス
第千五十四条 破産ノ宣告ヲ受ケタル債務者又ハ破産ノ宣告ヲ受ケタル商事会社ノ無限責任社員ハ復権ヲ得ルニ至ルマテ取引所ニ立入ルコト、仲立人・合名会社若クハ合資会社ノ社員・株式会社ノ取締役・清算人・破産管財人・商事代人又ハ商業会議所ノ会員ト為ルコト、其他商業上ノ栄誉職ニ就クコトヲ得ス
 本条中「若クハ取締役」ノ六字ヲ刪リタルハ原来本条ノ規定ハ頗ル峻厳ナル規定ニシテ真ニ過失アルモノヲ罰スルノ精神ニ出テタルモノナリ、而シテ若シ商人ニシテ平生充分ノ注意ヲ為サハ破産スルニ至ラスシテ止ミタランニ、畢竟多少ノ不注意アリテ終ニ破産スルニ
 - 第20巻 p.96 -ページ画像 
至リタルモノト推定スレハナリ、然ルニ会社ノ取締役ハ一年乃至三年(第百八十五条)ニシテ之レヲ改選スルヲ常トスルカ故ニ、或ハ上任ノ翌日会社破産スルニ至ルコトナシトセス、而カモ本条原文ノ規定ニ拠レハ此取締役ハ本条ノ制裁ヲ受ケサルヘカラス、而シテ其過失者ヲ問ハハ、必ス前任取締役尤モ多ク其責任ヲ取ラサルヘカラス、然リト雖トモ斯ク毎々改選スルコトアルヘキ取締役中ニ於テ誰カ尤モ多ク過失アルヘキヤヲ知ルハ難カルヘク、サレハトテ会社ノ初ヨリ終ニ至ルマテ嘗テ取締役ノ任ニ当リタルモノヽ全員ヲ挙ケテ皆ナ本条ノ制裁ヲ受クヘキモノトスルコト能ハサルヘシ、殊ニ況ンヤ取締役ハ往々株主総会ノ決議ヲ履行シ為メニ損耗ヲ生スルコトアルニ於テヲヤ、其他ハ字句ノ修正ニ過キス
  (欄外記事)
   第千五十五条 復権ヲ得ルニハ協諧契約ノ調ヒタルト否トヲ問ハス、破産者カ元債・利息及ヒ費用ノ全額ヲ債権者総員ニ弁償シタルコト、又所在ノ知レサル為メ未タ弁償ヲ受ケサル債権者ニ全額ヲ弁償スル準備及ヒ資力アル事ヲ証明ス可シ
    復権ノ申立ニハ債権者ノ受取証其他必要ナル証拠物ヲ添フ可シ
    然レトモ協諧契約ノ場合ニ在テハ第一項ノ証明ヲ為スコト無クシテ取引所ニ立入ルコトヲ得、又商事会社ニ付キ協諧契約ノ調ヒタルトキハ無限責任社員若クハ取締役ハ亦其証明ヲ要セスシテ会社ヲ継続スルコトヲ得
第千五十五条第三項 然レトモ協諧契約アリタル場合ニ於テハ第一項ノ証明ヲ為ササルモ取引所ニ立入ルコトヲ得、又商事会社ニ就キ協諧契約ノ調ヒタルトキハ無限責任社員モ亦右ノ証明ヲ要セスシテ其会社ヲ継続スルコトヲ得
 是レ前条修正ノ結果ニシテ唯序ニ字句ヲ修正シタルノミ
第二条 同年 ○明治二三年八月七日法律第五十九号商法施行条例中改正スルコト左ノ如シ
  (欄外記事)
   第一条 商法第二十六条・第二十九条及第二百十条ニ定メタル一地域トハ、各市町村ノ一区域ヲ謂ヒ市町村制ヲ行ハサル地方ニ在テハ、従来ノ宿駅町村等ノ一区域ヲ謂フ
    一地域内ニ二箇以上ノ区裁判所アルトキハ其内一箇所ヲ以テ登記簿ヲ取扱フ所トス、其裁判所ハ司法大臣之ヲ指定ス
第一条第一項 商法第二百十条ニ定メタル一地域トハ市町村ノ一区域ヲ謂ヒ市町村制ヲ行ハサル地方ニ在テハ従来ノ宿駅町村等ノ一区域ヲ謂フ
 本条中原文ノ「第二十六条・第二十九条及ヒ」ノ十二宇ヲ削リタルハ商法中商号ニ関スル一章ヲ削除シタルニ因ル
  (欄外記事)
   第五条 本条例発布前ヨリ既ニ設立シタル各会社ハ商法実施ノ日ヨリ六个月内ニ商法第七十八条・第百三十八条・第百六十八条ニ準シテ登記ヲ受クヘシ、之ヲ怠リタルトキハ商法第二
 - 第20巻 p.97 -ページ画像 
百五十六条ノ科料ニ処シ且地方裁判所ノ命令ヲ以テ其営業ヲ差止ム、但其命令ニ対シテハ即時抗告ヲ為スコトヲ得
第五条 商法実施前ニ設立シタル会社ハ商法実施ノ日ヨリ六个月内ニ商法第七十八条及ヒ第百六十八条ニ準シテ登記ヲ受ク可シ、之ヲ怠リタルトキハ商法第二百五十六条ノ罰則ヲ適用シ且地方裁判所ノ命令ヲ以テ其営業ヲ差止ム、但其命令ニ対シテハ即時抗告ヲ為スコトヲ得
 第一原文ニハ「本条例発布前ヨリ既ニ設立シタル各会社」トアリ、故ニ商法施行条例発布後商法実施前ニ設立シタル会社ニ就テハ毫モ規定スル所ナシ、然リト雖トモ商法実施ノ前ヨリ商法ノ規定ヲ適用スルコト能ハサルハ敢テ喋々ヲ待タス、故ニ本文ノ如ク修正ヲ施シタリ、第二商法第百三十八条ニハ合資会社ニ就キ登記スヘキ事項ヲ掲挙セルカ故ニ同条ハ合名会社ニ関スル第七十九条ニ適応スル箇条タリ、而シテ其登記ヲ為スヘキコトハ既ニ第七十八条ニ之レヲ規定シ第百三十七条ヲ以テ之レヲ合資会社ニ適用セルカ故ニ、本文ニハ第百三十八条ヲ除キタリ、第三「過料ニ処シ」ヲ罰則ヲ適用シト改メタルハ会社ヲ過料ニ処スルニ非スシテ、其役員ヲ之レニ処スルモノナルコトハ第二百五十六条ノ明文ニ因リテ明カナレハナリ
  (欄外記事)
   第十一条 既設株式会社ハ其株券ノ金額商法第百七十五条ノ規定ニ反スルモ其定款ノ定ニ依ルコトヲ得
第十一条 本条例発布前ニ設立シタル株式会社ハ其株式ノ金額商法第百七十五条ノ規定ニ反スルモ其定款ニ定ムル所ニ依ルコトヲ得
 前条マテニ規定セル所ハ総テ商法実施前ニ設立シタル会社ニ之ヲ適用スヘシト雖モ、本条ノ規定ヲ之ニ適用スルトキハ商法実施ノ期ニ迫マリ急速ニ株式会社ヲ設立シ以テ商法ノ規定ヲ潜脱セント謀ルモノナキヲ保セス、而シテ本条ノ如キ会社内部ノ組織ニ関スル事項ニ就テハ今ヨリ商法ノ規定ニ依ルヘシトスルモ別ニ実際ニ行ヒ難キノ事情アルヲ見ス、是レ原文ノ主意ニ仍リ本文ノ如ク修正シタル所以ナリ、他ハ字句ノ修正ニ過キス
  (欄外記事)
   第十二条 既設株式会社ハ其定款ニ於テ第一回ノ株金払込ヲ四分一以下ニ定メタルトキハ、商法第百六十七条第二項ノ規定ニ反スルモ其定款ノ定ニ依ルコトヲ得
第十二条 本条例発布前ノ株式会社ハ其定款ニ於テ第一回ノ株金払込ヲ四分一未満ニ定メタルトキハ、商法第百六十七条第二項ノ規定ニ反スルモ其定款ニ定ムル所ニ依ルコトヲ得
 理由前条ニ同シ
  (欄外記事)
   第十四条 既設株式会社ノ既ニ発行シタル株券ハ商法第百七十六条ニ反スルモノ有ルモ之ヲ改ムルコトヲ要セス
第十四条 本条例発布前ノ株式会社カ既ニ発行シタル株券ハ商法第百七十六条ニ反スルモノ有ルモ之ヲ改ムルコトヲ要セス
 理由同上
  (欄外記事)
 - 第20巻 p.98 -ページ画像 
   第十八条 既設株式会社ニ於テ既ニ其定款ヲ以テ株主ノ議決権ニ制限ヲ立テタルモノハ商法第二百四条ノ規定ニ反スルモ其定款ニ従フコト得
第十八条 本条例発布前ノ会社ニ於テ既ニ其定款ヲ以テ株主ノ議決権ニ制限ヲ立テタルモノハ、商法第二百四条ノ規定ニ反スルモ其定款ニ従フコトヲ得
 理由同上
               東京市京橋区西紺屋町廿六番地
明治二十五年六月四日印刷     印刷者   島連太郎
               東京市京橋区西紺屋町廿六七番地
                 印刷所   秀英舎
   ○本資料第十九巻所収「東京商工会」明治二十三年五月二十四日、同二十三年八月十二日、同二十三年八月二十七日、同二十三年九月四日、同二十三年十二月十三日、同二十四年九月二十一日、本巻明治二十六年九月二十二日、同二十六年十二月二十五日、同二十七年六月二十七日、同二十七年十二月二十日、同二十八年一月十二日、並ニ第二十一巻所収「東京商業会議所」明治二十九年九月十四日、同三十年六月二十八日、同三十年十二月二十七日、同三十一年十二月二十四日、同三十二年二月十日ノ各条参照。



〔参考〕竜門雑誌 第四八一号・第一九七頁 昭和三年一〇月 青淵先生と法制(高根義人)(DK200004k-0005)
第20巻 p.98 ページ画像

竜門雑誌  第四八一号・第一九七頁 昭和三年一〇月
    青淵先生と法制 (高根義人)
 青淵先生と法制事業の関係につき述べよとのことにつき追憶して見ると、明治二十六・七年の頃東京商業会議所の法典調査委員会で当時会頭であられし先生と法律的事項につき談論する機会を得て、先生は法律的素質を多大に有せらるゝと感じたことを想ひ出した。此委員会は其頃已に公布され未だ実施されぬ民法・商法を研究して、修正意見を纏めるために設けられたもので、最初に前文部大臣で当時第一銀行行員たりし水野錬太郎氏が出席せられて居たが、農商務省に任官せらるゝので余が代ることになつた。毎週一回午後四時頃から十時頃まで法典の逐条研究をして各自修正意見を提出する仕組であつた。余は明治二十九年五月後任を志田鉀太郎氏に譲つて洋行するまで毎回出席して居つた。その時の委員は十名と覚ゆ。其中勉強して出席されたのは荘田平五郎・豊川良平・阿部泰蔵・加藤正治・大江卓等の諸氏で、先生は会頭として大抵の用事を押切つて出席せられた。何れも当時実業界一方の雄鎮たる人々とて、議論も中々盛んであつた。加藤・荘田の両氏は尤も理窟に長じ、其議論は理路井然数学者の難問題を解くが如き趣があつた。大江氏は往々奇抜の説を吐いて人を驚し、阿部氏は堅実真面目にして保険家らしき論をされた。其間に在つて先生は論理は飽くまで之を徹底せしめんとすると同時に、曲折せる事情を遺憾なく参考して、常に中正の帰着点を発見せんと試みられた ○下略