デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
3款 東京商業会議所
■綱文

第21巻 p.191-199(DK210021k) ページ画像

明治29年10月12日(1896年)


 - 第21巻 p.192 -ページ画像 

是ヨリ先当会議所、法典調査会ノ依頼ニヨリ商事慣習及ビ海商ニ関シ調査中ナリシガ、是日栄一、当会議所会頭トシテ右調査結果ヲ同会ニ回報ス。


■資料

第六回東京商業会議所事務報告 第二四―二九頁 明治三〇年四月刊(DK210021k-0001)
第21巻 p.192-199 ページ画像

第六回東京商業会議所事務報告  第二四―二九頁 明治三〇年四月刊
一商事慣習及海商ニ関スル調査事項ニ就キ法典調査会ヘ答申ノ件
 本件ハ明治二十八年中法典調査会ヨリノ照会ニ係リ、其要旨ハ、商事慣習及海商ニ関スル調査事項ニ就キ取調ノ上回報ヲ得タシト云フニ在リ、仍テ役員会議ノ決議ヲ以テ其調査ヲ民法及商法調査委員ニ附託シタルニ、其後委員ニ於テ報告書ヲ提出シタルニ付、之ヲ明治二十九年九月十二日第五十四回及同年十月五日第五十五回ノ臨時会議ニ附シ其可決ヲ得、同年十月十二日附ヲ以テ左ノ如ク法典調査会ヘ答申セリ
  先般御照会ノ商事慣習並海商ニ関スル問題、其後遂取調候処其結果ハ別冊ノ如クニ有之候間左様御承知相成度、此段本会議所ノ決議ニ依リ及御回報候也
   明治二十九年十月十二日
            東京商業会議所会頭 渋沢栄一
    法典調査会 御中
(別冊)   商事慣習
第一問 (第一項) 屋号ノ保護如何
 答 従来屋号ニ付テハ法律上別ニ保護カナリシト雖トモ、商業ノ種類ニ依リテハ慣習上相当ノ制裁アリシモノヽ如シ
    (第二項) 屋号ト他ノ商号ト何レカ多キヤ
 答 屋号ニ比スレハ他ノ商号ハ其数少シ
    (第三項) 営業ノ譲渡人ハ同町ニテ同商業ヲ営ムコトヲ得ルヤ
 答 営業譲渡人ハ慣習上同町ニテ同商業ヲ営ムコトヲ得サリシモノノ如シ
第二問 (第一項) 合名会社ト合資会社ノ何レヲ好ム風アリヤ
 答 会社法実施後未タ年所ヲ経サルニヨリ何レヲ好ム風アリトモ確認シ難シ
    (第二項) 合名会社々員ハ随意ニ其権利ヲ他人ニ譲渡スコトヲ得ルヤ
 答 従来ノ事態ハ明白ナラスト雖トモ、現今ハ会社法ニ従ヒ社員随意ニ其権利ヲ他人ニ譲渡スコトナシ
    (第三項) 社員中ノ一人死亡スルモ会社ハ残存スル社員ノミニテ継続スルヤ
 答 前項ト同シク現今ハ総テ会社法ニ従ヒ権利義務ノ関係ヲ定ムレトモ、従前ノ事態ハ明白ナラス
第三問 株券面ノ全額払込マテハ原株主責任ヲ負フトシテハ如何
 答 株式ハ其譲渡ヲ許ストキ、則チ通常株式会社ニ在リテハ株金四分ノ一ノ払込アリ、登記ヲ経タルトキヨリ譲渡人ニ責任ナシトスルヲ可トス、其理由ハ已ニ株式ヲ譲渡シタル以上ハ株主ニ非
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サルカ故ニ、株主総会ニ出席シ会社ノ業務ニ対シテ容喙スルヲ得ス、社員トシテノ権利ハ全ク之ヲ失ヒナカラ其責任ノミ之ヲ負ハシムルハ不当ナルカ故ナリ、左レハ本問ノ如キ必要ハ更ニ之ヲ認メス
第四問 準備金ニ代ルニ商品等ヲ貯蓄スルヲ以テスルノ必要ナキカ
 答 準備金ナルモノハ必ス貨幣ナラサル可ラスト解釈スルニ於テハ本問ノ如キ疑問モ起ルヘシト雖トモ、所謂準備金ナルモノハ必スシモ貨幣ニ限ルヲ要セス、当事者ノ便宜ニヨリ株券若クハ公債・証書等ノ形態ヲ取リテ儲蓄スルモ妨ケナキハ勿論、鉄道会社ニ於テ準備金ヲ以テ鉄道線路ヲ延長シ、汽船会社ニ於テ準備金ヲ以テ汽船ヲ購入スルノ如キハ毫モ妨ケナキノミナラス、実際極メテ必要ナリト信ス
第五問 一ノ株式ヨリ他ノ株式ニ多額ノ配当金ヲ与ヘ得ルコトトシテハ如何
 答 本問ニ対シテハ積極ノ答ヲ可トス、此事ニ就テハ已ニ昨年本会議所ノ提案ニ従ヒ全国商業会議所聯合会ノ議決ヲ経テ其筋ニ建議セリ、依テ右建議書ヲ附録ス
第六問 組合ニ関スル当地ノ慣習ヲ詳細ニ知リタシ
 答 本問ノ組合ナル詞ハ営業組合ノ意ナルカ、若クハ商法ニ所謂共産商業組合ノ意ナルカ、若シ前者ナリトスレハ同業組合準則ナルモノアリテ、之ニ準拠シテ営業組合ヲ設置シ居ルヲ以テ別ニ慣習ナシ、若シ後者ナリトスレハ実際共産組合ノ例ハアリト雖トモ、其時々ニ当事者ノ約束ニテ権利義務ノ関係ヲ定ムル場合多クシテ、別ニ慣習ノ見ル可キモノナシ
第七問 遅延利息其他特約ナキトキノ利息ハ何程ナリヤ
 答 遅延利息ハ会社株金ノ払込若クハ保険料ノ払込ノ場合ニハ通例日歩三銭ヨリ四銭マテトス、則チ年壱割壱分ヨリ壱割四分五厘ナリ、特約ナキトキノ利率ハ別ニ慣例ノ徴スヘキナシ
第八問 離隔地ニ在ル物ヲ売買シ未タ引渡ノ済マサル中ニ、其物カ天災ニ依リ滅失シタルトキハ買主ハ代価ヲ支払フコトヲ要セサルカ
 答 此問ニ対シテハ特ニ慣習ヲ称フ可キモノヲ認メス、其時ト場合ニ従ヒ、当事者間ニ於テ相談熟議ノ上穏便ニ損失ノ負担ヲ決セシモノナリ、別紙ニ示スハ、本問ノ如キ事実ノ最モ起リ易キ米穀ノ取引ニ関シ近来起リタル事例ナリ、参考ノタメ玆ニ之ヲ附録ス
第九問 信用約束ニ付テノ利息又ハ手数料ハ何程ナリヤ
 答 手数料及利息共ニ判然セス、信用貸ノ利息ハ抵当貸ヨリモ低価ナル如シ、其理由ハ、信用ニテ金銭ヲ貸ストキハ大抵信用セラルヽモノヽ信用カ、抵当ヲ出シテ借ル者ヨリモ大ナルモノトス故ニ之ニ貸スニ低利ヲ以テスルナリ
第十問 当地ニテハ昔ヨリ保険ニ類スル制度アリシヤ、其現今ノ保険トノ差如何
 答 当地ニテハ昔時保険ニ類スル制度存在セス
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第十一問 当地ニ在ル保険ノ種類如何
 答 当地ニ行ハルヽ保険ハ海上・生命・火災ノ三種ナリ
第十二問 (第一項) 被保険物ヲ譲渡ストキハ保険ハ其物ノ取得者ニ転付スルヤ
 答 家屋・船舶及ヒ貨物ノ保険ハ譲渡人ト譲受人トノ間ニ合意アルトキハ転付ス
     (第二項) 保険証券ノ譲渡ハ頻繁ナリヤ
 答 火災保険ニ在テハ証券ノ譲渡ヲ為スモノ少カラス
第十三問 (第一項) 何地トノ手形取引ハ尤モ頻繁ナリシヤ
 答 大坂トノ手形取引カ尤モ盛ナリシ
     (第二項) 昔ヨリ手形ト称シ来リシモノヽ種類如何
 答 当地ニテハ遠隔地間ニ送金スル目的ヲ達スルタメ為替手形ノミ行ハレタル如シ、別紙ニ其雛形ヲ示ス
第十四問 (第一項) 手形ニ条件ヲ付シ得ルモノトスル利害如何
 答 手形ニ条件ヲ付スルトキハ、支払ヲ不定ナラシムルヲ以テ其手形ノ流通ヲ妨クルコト勿論ナレトモ、其条件付タルコトヲ知リテ授受シタル者ノ間ニ於テハ之ヲ有効トスルモ毫モ差支ナシ、若シ条件成就セスシテ手形支払ハレサルニ至ラハ、是レ固ヨリ条件付手形ヲ授受シタル者ノ予期スル所ナルヘケレハ、法律ヲ以テ之ヲ防クニ及ハス、然ルニ若シ条件付ノ手形ハ無効ナリト法律ニ定ムルトキハ、条件付タルコトヲ知リテ手形ヲ授受シタルモノト雖トモ、後日条件成就シテ支払ノ義務ヲ履行セサル可ラサルニ及ンテ、自己ノ支払ヲ拒絶スル口実トシテ条件付タルコトヲ主張スルモノアルニ至ルヘシ、故ニ条件付手形タルカ故ニ手形ヲ無効トナス必要ナシ
     (第二項) 二十五円以下ノ手形ヲ無記名式トナスノ必要ナキカ
 答 若シ少額面ノ無記名手形ノ発行ヲ許ストキハ信用アル一私人ニ於テ猥ニ手形ヲ発行シ、実際紙幣発行ト相同シキ弊アルヘシ、故ニ少額ノ無記名手形ヲ禁スルハ至当ナリ、然レトモ弐拾五円ノ制限ハ高ニ過ク、旧手形条例ノ如ク五円以上トナスヲ可トス
第十五問 破産管財人ハ債権者ヲシテ之ヲ撰マシムル必要ナキカ
 答 破産管財人ハ債権者ノ利益ヲ保護スヘキモノナルヲ以テ、債権者ヲシテ之ヲ撰任セシムル方頗ル破産手続ヲ円滑敏活ナラシムル利アルヘシ
第十六問 (第一項) 破産・手形・会社ノ三法実施セラレタルニ依リテ受ケタル便宜如何
 答 実施後年所ヲ経サルヲ以テ便宜・不便宜ノ評ヲ下シ難シ
     (第二項) 此法律中其改正ヲ希望スル点ヲ述フ可シ
 答 別ニ商法修正案ヲ呈スル際詳細ニ答申ス可シ
第十七問 商業帳簿ニ家事費用ヲ記入スル慣習アリシカ
 答 通常商店ニ在リテハ一所ニ記入スレトモ、所謂大店ニ至リテハ別ニ帳簿ヲ作リ、店ノ勘定ト一家ノ勘定トヲ別ニス
     (第二項) 何ケ月毎ニ総勘定ヲ記入スルヤ
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 答 通常ハ十四日及三十日ニ決算シ、又タ盆及暮ニモ決算ス、所謂店卸勘定ト称スルモノハ一ケ年目ノ総勘定ヲ為スモノニシテ年末ニ於テス、会社ハ通常毎半季ニ総勘定ヲ為ス、其季節ハ暦ニ依ルモノアリ、或ハ政府ノ会計年度ニ依ルモノアリ
     (第三項) 帳簿ハ何年間之ヲ保存スルヤ、小売帳ト卸売帳トニヨリ保存期限如何ニ異ナルヤ
 答 保存期限ハ小売帳ト卸売帳トノ区別ナク五・六年乃至十年トス尤モ旧家ニ在リテハ百年以来ノ帳簿ヲ保存スルモアリ
第十八問 (第一項) 期限ヲ定メスシテ雇入タル雇人ヲ解クニ何日前ニ予告ヲ為スヤ
 答 本問ノ如キ予告期間ナシ
     (第二項) 雇人カ雇傭期限中ニ疾病ニ罹リタルトキハ其給料及治療費ハ如何ニスルヤ
 答 職工等ハ其雇入契約中ニ之ヲ定ム、通常病気ナレハ証人即時之ヲ引取ルコトヲ約ス、会社等ニテハ疾病ハ七日間若クハ三十日間ハ給料ヲ与フ、然レトモ其後ハ無給トスルカ如キモノアリ、要スルニ一定ノ慣習ナシ
第十九問 当事者双方其事実ヲ知ラサルトキハ存在セサル物ノ売買ヲモ有効トセシヤ
 答 無効トセリ
第二十問 (第一項) 昔ヨリ海運ト陸運トニ依リテ運送人ノ権利義務ニ差異アリシヤ
 答 差異ナシ、又タ運送上ノ書式モ異ナル所アルヲ見ス
     (第二項) 運送ヲ遅延シタルニ付テノ賠償ハ何程ナリヤ
 答 遅延シタルカ為メニ賠償スル慣習ナシ
     (第三項) 依頼人ハ運送人ニ運送品ヲ委付シテ全価額ノ賠償ヲ求ムルコトアリヤ
 答 無シ、委付スル場合アレトモ各場合ニ当事者ノ熟議ニ出ルモノナレハ、損傷カ如何ナル程度ニ達スレハ委付スルコトヲ得ルヤ否ヤニ付確言シ難シ
              (為替手形雛形及附録ハ之ヲ略ス)

     海商
第一条第一項 船舶ノ共有ナル事実多クアリヤ
 答 古今共ニ之アリ、旧徳川氏時代ニ於テ歩入船ト唱ヘタルモノハ現今ノ所謂共有船舶ナリトス、而シテ其歩入船ナルモノハ菱垣廻船(寛永元年頃江戸・大坂間ニ貨物ヲ廻漕シタル船舶ハ皆外囲ニ菱形ノ垣ヲ装ヒタル故ニ此名アリ)樽廻船(従来大坂ヨリ江戸ニ酒類ヲ運送スルニ他ノ貨物ト共ニ菱垣廻船ニ積載シタレハ難破船アル毎ニ問屋間ニ海損ノ割合ニ就キ屡争論ヲ生シタルニヨリ、享保年中問屋組合ノ重立チタル者相議シテ、酒類ハ別船ニ積ムコトニ定メタル以来、酒荷物積船ヲ菱垣廻船ニ対シ樽廻船トハ唱ヘタルナリ)ニ限リ往々其例アリタリト伝フ、而シテ現今尚ホ和船ニ共有船舶アリヤ否ヤハ未タ調査ヲ遂ケスト雖
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トモ、今逓信省管船局ニ就キ調査スル所ニ拠レハ、西洋形船舶ニシテ共有ニ属スル分ハ左ノ諸船ナリトス
    一 竜平丸    神戸港
    二 紀盛丸    和歌山
    三 丹洲丸    宮津
    四 大平丸    肥前早岐
    五 五洋丸    箱立《(函館)》
   而シテ共有ノ船舶ハ一般船舶ノ増加ニ伴ヒ其数自然ニ増加スルノ傾向アリト云フ
同第二項 船舶ニ関スル支出ニ付不同意ノ所有者アリタル時ハ如何スルヤ
同第三項 船舶ノ共有者ハ随意ニ自己ノ持分ヲ譲リ渡スコトヲ得ルヤ
 答 此二問題ノ事項ノ如キハ共有者間ニ成立スル契約又ハ相互ノ合意協議ニヨリ処分セラルヽモノニシテ、之ニ関シ慣例ト称スヘキホトノモノハ未タ之レアルヲ聞カス
第二条 船舶ヲ構造若クハ売買スルニ当リテ作製スル証書ノ雛形二・三ヲ見タシ
 答 日本人間ニ売買スル船舶譲渡書ハ極メテ簡単ナルモノニシテ、別紙甲号日本郵船株式会社所属ノ西洋形汽船新潟丸ノ売渡証書乙号大坂商船株式会社所有汽船売渡証書並ニ同社ニ於ケル汽船売買約定書ノ如キ即チ是レナリ、然レトモ外国人ヨリ買入ルヽ船舶ノ売買契約書ハヤヽ精密ナルモノアリ、別紙丙号日本郵船会社買入レノ名古屋丸ノ売渡証書ノ如キ即是レナリ、又造船契約書ハ別紙丁号同会社所有ノ仙台丸造船契約書及大坂商船株式会社造船契約書ニ就テ其例ヲ知ルヲ得ヘシ、而シテ和船ノ構造ニ就テハ、船大工ヨリ提出スル仕法帳ノ外別ニ厳格ナル契約書ナシト云フ
第三条 船舶カ他人ニ売渡サレタル後売主ノ債務ノ為メニ差シ押ヘラレテ買主之カ為メ迷惑ヲ蒙リシコト度々アリヤ
 答 船舶登記ノ法行ハレテ以来汽船ノ如キ東京ニ於テハ未タ曾テ其事実アルヲ聞カス、併シ此点ニ就テハ猶法典調査会ヨリ裁判所ニ照会シテ其事実ヲ明確ニセラレンコトヲ希望ス
第四条第一項 共同海損ノ精算ヲナシタルコトアリヤ
 答 和船時代ニ在テハ共同海損ノ場合ニ際シ現今欧米各国ニ行ハルルカ如ク精密ナル海商法ニ従ヒタル精算ヲナシタル例ハ曾テ之レナカリシト雖モ、浦仕舞ナル習慣法ニヨリ精算ヲナシタルコトアリ、昔日ノ合力勘定・振合勘定・分散勘定是ナリ、合力勘定トハ海難ニ因リ積荷ノ幾分ヲ損害喪失シ、若クハ船舶ヲ毀損シタルトキハ、総運賃高ニ応シテ積荷主ヲシテ運賃ノ増金ヲ出サシメ、之ヲ以テ損害ヲ賠償シタルモノヲ云ヒ、振合勘定トハ海難ニ際シ打荷ヲ為シタル場合ニ積荷元価ノ総計ト損害入費ノ総計トヲ為シ、荷主全体ニ於テ積荷ノ元価ニ応シテ其損害入費ヲ負担シタルモノヲ云ヒ、又分散勘定トハ大海難ノタメ破船シテ全積荷ヲ損失シタル場合ニ於テ、其漂着シタル荷物及船ノ破
 - 第21巻 p.197 -ページ画像 
片器具等ヲ拾集シ之ヲ売却シテ、其代金ヲ以テ各荷主及船主ヘ原価ニ応シテ分配シタルモノヲ云フ、右ノ中振合勘定ハ現今ノ共同海損ニ稍類似スルモノトス、由是観之、和船時代ト雖トモ共同海損ノ精算法皆無ナリトハ、謂フヘカラサルナリ、而シテ維新以来西洋形船舶ノ行ハレテヨリ、汽船モ亦此旧浦仕舞法ニ従ヒ共同海損ノ勘定ヲ為シタルノ実例アリヤ否ヤハ、今之ヲ徴スヘキモノナシト雖トモ、明治八年太政官第六十六号布告内国難破船及漂流物取扱規則発布以後ハ、前文ニ掲ケタル如キ海損ノ勘定法ハ自ラ消滅ニ帰シタルナルヘシ、而シテ今日本郵船株式会社ニ就キ之ヲ取調ヘタルニ、同会社取扱船ニ関シテハ帝国商法頒布ノ前後ニ於テ、欧米ノ共同海損法ニ従ヒ之レカ精算ヲナシタル実例三・四件アリ、然レトモ事皆外国人ニ関係ヲ有シタル船舶積荷ニ関スルモノニシテ、未タ日本人間ニ共同海損ノ精算ヲナシタル例アラサリシカ、今明治二十九年一月十一日同会社汽船酒田丸ノ遭難スルヤ、同月十八日保険会社・運漕会社商議ノ結果、遂ニ共同海損ノ計算ヲ為スニ決シ、同年五月二十七日ニ至リ鑑定精算成立セリ、此レ実ニ日本人間ニ於テ正則ニ従ヒ共同海損ノ計算ヲ為シタル嚆矢ナリ、従前ニ在テ日本人間ニ共同海損ノ計算ヲ為シタル例ナカリシモノハ、畢竟日本人ノミノ利害ニ関スル共同海損ノ場合ニハ万事同会社ト各荷主、若クハ保険会社トノ間ニ協議ヲ遂ケテ其負担ノ割合ヲ定メ、検査人ノ手数ヲ煩ハシ損害ノ上ニ出費ヲ増加スルカ如キハ勉メテ之ヲ避ケタレハナリ、然レトモ事外国人ニ関係ヲ有スルトキハ正則ニ従ヒ処分セサレハ却テ面倒ナルヲ以テ、ヨーク、アントウエルブノ規則ニ従ヒ共同海損ノ精算ヲナスヲ常トセシナリ、例ヘハ薩摩丸・空知丸ノ如キ曩ニ外国航路ニ使用中海難ニ罹リタル時、積荷主ノ多クカ外国人ナルヲ以テ正則ニ共同海損ノ精算ヲナセリ、又二十八年五月中同会社ノ借船ロードラ号ノ函館近海ニ於テ任意ノ乗上ケヲ為シタル場合ニモ亦共同海損ノ精算ヲナセリ、其故ハ船舶所有者ノ外国人ナリシニ因ルナリ、今参照ノ為メ別紙巳号ロードラ号ニ関スル共同海損精算書ノ謄本壱通ヲ添付ス
同第二項 冒険貸借ノ制度昔ニ存セシヤ、此制度ヲ尚ホ設ケ置ノ必要アリヤ
 答 冒険貸借ノ習慣果シテ我国ニ存在セシヤ否ヤハ、何分調査ノ材料完備セサル為メ玆ニ確答シ難シト雖モ、古老ノ実際家ニ就キ之ヲ聞クニ、菱垣廻船ニハ其制ナカリシモノヽ如シ、而シテ現時モ亦我国ニ於テハ其習慣ナク、且ツ交通機関ノ具備スルニ従ヒ独リ我国ノミナラス一般ニ冒険貸借ノ制度ヲ必要トセサル傾向ナキニ非サルモ、我国前途航海ノ業愈々伸張スルニ至ラハ交通機関ノ備ハラサル地方ニ向テ航海スル場合多カルヘク、従テ冒険貸借ノ必要ヲ感スルコト無キヲ保シ難キヲ以テ、我商法中ニハ此制度ヲ存シ置クヲ可トス
第五条第一項 船舶ヲ売渡ス契約ヲ為ストキハ其附属物ハ如何スルヤ
 - 第21巻 p.198 -ページ画像 
 答 我国ニ於ケル船舶ノ売買ニハ、航海用ヲ目的トスルトキハ、常ニ航海ニ必要ナル船具・器具ヲ総テ附属スルヲ以テ慣例トナスニ似タリ、和船ノ売買ニハ乗出シ或ハ乗替ヘト云フコトアリ、乗リ出シトハ直チニ海上ニ乗出スヲ得ルノ義ナリ、又乗リ替ヘトハ船頭カ航海中従来ノ船舶ヲ売却シ他ノ新船ヲ購買シ直チニ其儘新船ニ乗替フルノ意ナリ、此ノ如キ和船ノ売買ニハ附属品一切ヲ添付スルヲ以テ習慣トス、尤モ伝馬船ハ別段ノ約束アラサレハ買主ニ移ラスト言フ、而シテ今日西洋形汽船ノ売買ハ如何ト云フニ航海ニ必要ナル属具即チ檣・索具・帆・錨・短艇・救命具等ノ類ハ西洋形船舶検査手続ニ依リ必ス規定ノ設備ヲ要スルモノニシテ、恰モ船舶ノ要部ヲ構成スルカ如キ姿アルヲ以テ、此等ノ属具ハ船舶売買ノ際総テ売主ヨリ買主ヘ引渡スヲ常例トス
同第二項 向払ノ運送賃ヲ売主買主何レカ之ヲ得ル乎
 答 本問題ノ事項ノ如キハ船舶売買ノ当時契約ヲ以テ之ヲ定ムルモノナレハ、別ニ実例ヲ示スコト甚タ難シ、而シテ実際ニアリテハ船舶ノ売買ハ多ク到着港ニ於テ其引渡ト同時ニ之レヲ為スヲ以テ、本問題ノ事項ノ如キハ稀有絶無トモ謂フヘキ歟、尤モ明治十八年ニ三菱会社ト共同運輸会社ト合併シタル際ハ、同年九月三十日ヲ以テ出納ヲ限リ、同日マテノ金銭出入ハ各自ノ所得負担トナシ、十月一日以後ノ出入ハ日本郵船株式会社ノ負担トナセルヲ以テ、当日航海中ノ汽船ノ向払運賃ハ譲渡人タル旧会社ニ属セス、譲受人タル新会社ノ所得ニ帰セシ例アリ
第六条 船員ノ職務上ノ行為ニ付キ船主ハ如何程迄責任ヲ負フヤ
 答 本問題ニ対スル答案ハ左ノ二項ニ区別シテ之ヲ弁セサルヘカラス
    第一 荷主ニ対スル責任ノ場合
    第二 荷主以外ノ第三者ニ対スル責任ノ場合
   第一ノ場合 荷主ニ対スル責任ニ関シテハ全国ノ各汽船会社及廻漕営業者ハ概ネ皆同一ノ船荷証書ヲ発行シ、以テ船主ノ責任ヲ制限スルヲ慣例トセリ、即チ船員ノ技術上ノ過失懈怠ニ原因セル損害若クハ喪失(乗上ケ又ハ衝突ノ類)ニ付キ、荷主ニ対シテハ純然タル無責任ヲ約スルモノナリ、又仮令荷物ノ喪失又ハ損害等ノ為メ荷主ニ対シ弁償スヘキ場合(荷物授受ノ際誤謬ヨリ生スル紛失又ハ船員ノ不注意ニ因ル濡傷ノ類)ト雖モ、船荷証書ニ記載シタル原価ヲ以テ限リトナセリ、又同一ノ場合ニ於テ原価ノ記載ナキ時、荷物壱個ニ付金五拾円以内ヲ限リ損害高ニ応シ弁償スルノ外其責ニ任セサルナリ
   第二ノ場合 船主カ荷主以外ニ在ル第三者ニ対スル責任ノ程度如何ニ就テハ、未タ確定ノ慣例アルヲ聞カス、然レトモ若シ実際ニ斯ル問題ノ起リタル場合ニハ、海商法一般ノ原則タル船舶及運賃ヲ限リ、船主責任ノ程度ト為サヽルヲ得サルモノノ如シ
第七条第一項 船舶ノ難破スルトキハ船主ハ船ヲ損シ荷主ハ荷ヲ損ス
 - 第21巻 p.199 -ページ画像 
ルヤ
 答 然リ、是レ我国古来ノ慣例ナリ
同第二項 他人ノ船舶ヲ借リテ航海スル中ニ其船難破シ、借船主船主ニ船舶ノ代価ヲ弁償セシコトアリヤ
 答 借船ニ二種アリ、船員乗組ノ儘借船スル場合ト船舶ノミヲ借リ入ルヽ場合トアリ、而シテ第一ノ場合ハ船ノ海難ニ因リ沈没破船スルモ借船主其責ニ任セス、又第二ノ場合ニ於テ借船主カ難船シタル例アルモ其代価ヲ全償シタルノ適例アルヲ聞カス
第八条 日清戦争ノ起リタル為メ船舶保険契約ノ解除シタル例多クアリヤ
 答 曾テ其例ナカリシト云フ、尤モ各保険会社ハ船体ノ保険ニ付テハ保険契約ノ条項中左ノ二項ヲ追加シタルナリ
    一 戦時ニ政府ノ御用船トナリタルトキハ、被保人ハ速ニ当会社ニ通知シ、併セテ該借上ケ中ノ危険ニ対シ政府カ負担スヘキ要領ヲ申出ツヘシ
    二 戦時ニ政府ノ御用船トナリタルトキハ、被保人ハ本文保険料ノ二倍ヲ仕払フヘシ、但宣戦公布又ハ開戦ノ日ヨリ媾和終局ノ日迄日割ヲ以テ計算ス
第九条 運送賃・運送貨物ノ売却利益・船長ノ給料ニ付キテ海上保険ヲ結ヒシ例アリヤ
 答 運賃ニ対シ保険ヲ付セシ例ハ屡々アリタリ、而シテ其著シキ実例ハ、日本郵船株式会社ノ船舶ヲ以テ布哇国及ヒグワードループニ日本ノ移住民ヲ送致シタル時ニハ悉ク其運賃ヲ保険ニ附シタリ、其他貨物ト雖モ稀ニ其運賃ヲ保険ニ付シタルノ例アリ、然レトモ船長ノ給料ヲ保険ニ付シタル例ハ未タ曾テ之ヲ聞カス
第十条 回漕問屋ノ手ヲ経スシテ船主ト貨主トノ間ニ直接ニ運送契約ヲ取結フ例多クアリヤ、又貨主カ船舶内ニテ貨物ヲ引渡シ船長ヨリ直接ニ船荷証書ヲ受取ルコトアリヤ
 答 現今回漕問屋ト称スル者ニ左ノ二種アリ
    一 自ラ船舶ヲ所有スルト否トニ拘ラス、専ラ他ノ船主ノ代理店トシテ回漕ノ業ヲ営ム者是ナリ(例ヘハ東京ノ玉置回漕店及谷道回漕店ノ如キハ此種ニ属ス)
    二 船主ニアラス又代理店ニアラスシテ、荷主ト船主若クハ代理店トノ間ニ立チ回漕ノ周旋取次ヲ為ス者是ナリ(例ヘハ東京及諸港ニ散在シテ汽船問屋若クハ回漕問屋ト称スル者ノ如キハ多ク此種ニ属ス)
    前記二種ノ回漕問屋ヲ区別スル為メ第一種ヲ元問屋若クハ船附問屋(船主ノ代理店)ト云ヒ、第二種ヲ普通問屋ト云フ
    然リ而シテ第一問ノ事実ハ石炭・米穀類ノ如キ多額ノ貨物ヲ運送スル場合ニ多ク其例アリ、然レトモ其実際ノ積荷高ニ至リテハ回漕問屋ノ手ヲ経テ運送スル場合ニ比スレハ小量タルヲ免レス、又第二問ノ事実ハ場所積取リ(市場ヲ経スシテ直チニ原産地ニ就キ之ヲ積ミ取ルノ義ナリ)ノ場合ニ多ク其例アリトス         (附録甲号以下ハ之ヲ略ス)