デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
3款 東京商業会議所
■綱文

第21巻 p.221-225(DK210029k) ページ画像

明治29年12月17日(1896年)

是日栄一当会議所会頭トシテ、現行営業税法ヲ改正シ課税標準ヲ合理的ナラシメルト共ニ税率ヲ引下ゲンコトヲ大蔵大臣伯爵松方正義ニ建議シ、同月二十四日貴族院議長公爵近衛篤麿・衆議院議長鳩山和夫ニ請願ス。


■資料

第六回東京商業会議所事務報告 第一〇頁 明治三〇年四月刊(DK210029k-0001)
第21巻 p.221-225 ページ画像

第六回東京商業会議所事務報告  第一〇頁 明治三〇年四月刊
一営業税法改正ノ義ニ付大蔵大臣ヘ建議、貴族・衆議両院ヘ請願ノ件
 本件ハ臨時商業会議所聯合会ノ決議ニ係リ、其要旨ハ、法律第三十三号営業税法ハ課税方法煩雑ニシテ加フルニ税額ノ負担亦公平ヲ得サルモノアルニ付、改正意見ヲ具シテ大蔵大臣ヘ建議シ、且ツ貴族衆議両院ヘ請願スヘシト云フニ在リ、依テ之ヲ明治廿九年十二月十六日第五十七回ノ臨時会議ニ附シ其可決ヲ得、同月十七日附ヲ以テ左ノ如ク大蔵大臣ヘ建議シ、同月二十四日附ヲ以テ同断貴族・衆議両院ヘ請願セリ
    営業税法改正ノ義ニ付建議(請願)
謹テ按スルニ、明治二十九年法律第三十三号営業税法ハ課税方法甚タ煩雑ニ失シ納税者ノ困難少カラサルヘシト信スルニ付、本会議所ハ別紙ノ改正意見ヲ具シテ之ヲ閣下(貴院)ニ建議(請願)ス、右ハ独リ本会議所ノ意見ナルノミナラス、全国商業会議所聯合会ノ一致可決シタル所ナリ、仰キ願クハ閣下(貴院)幸ニ輿論ノ在ル所ヲ察セラレ、
 - 第21巻 p.222 -ページ画像 
速ニ之ヲ採納セラレンコトヲ、此段本会議所ノ決議ニ依リ別紙相添建議(請願)仕候也
  明治二十九年十二月十七日(二十四日)
             東京商業会議所会頭 渋沢栄一
    大蔵大臣  伯爵 松方正義殿
    貴族院議長 公爵 近衛篤麿殿 (各通)
    衆議院議長    鳩山和夫殿
(別紙)
    営業税法改正意見
      第一 営業税法ノ欠点
凡ソ税法ヲ制定スルニ当リテ注意スヘキ第一要義ハ課税方法ノ簡明ニシテ而カモ公平ヲ失ハサルニアリ、苟クモ課税方法ニシテ煩雑ニ失スルアラン乎、独リ多額ノ徴税費ヲ要スルノミナラス、納税者ハ為メニ非常ノ苦痛ヲ感シ、其結果竟ニ負担ノ公平ヲ欠クニ至ルハ免ルヘカラサルノ理数ナリ、謹テ明治二十九年法律第三十三号営業税法ヲ按スルニ、課税方法甚タ煩雑ニシテ、加フルニ税額ノ負担亦公平ヲ得サルモノアリ、請フ嘗ミニ其然ル所以ヲ開陳セン
 其一 営業税法ハ建物賃貸価格ヲ以テ課税標準ノ一ニ定メラレタリト雖モ、建物ノ大小及其賃貸価格ノ多寡ハ甚シク収利ノ大小多寡ニ反シ、之ヲ例セハ銀行業・保険業等ハ矮小ノ家屋ニ於テ其業ヲ営ムモ莫大ノ利益ヲ収メ得ヘク、之ニ反シ製造業・販売業等ハ建物ノ手広ナルニ似ス収ムル所ノ利益僅少ナルモノアリ、何トナレハ其営業ノ状態ニ異ナル所アレハナリ、然ルニ等シク課税標準トシテ之ニ課スルニ千分ノ四十ノ税率ヲ以テセントス、安ンソ其結果ノ公平ナルヲ得ンヤ、況ヤ建物賃貸価格其物ニ至テモ公平ニ之ヲ定ムルハ到底望ムヘカラサル事ナルニ於テオヤ、是ノ如キモノヲ以テ課税ノ標準ト為スハ、課税上徒ニ煩雑ノ手数ヲ増スニ過キサルナリ
 其二 営業税法ハ又従業者ヲ以テ課税標準ノ一ニ定メラレタリト雖モ、営業ノ種類ニ依リテハ従業者ノ員数一定セスシテ随時増減スルモノ少カラス、是ノ如キモノヲ以テ課税ノ標準ト為スハ、亦只課税上煩雑ノ手数ヲ増スニ過キス、殊ニ本法ニ於テ名義ノ何タルヲ問ハス営業ニ従事スルモノハ総テ従業者ト定メ、商家ノ丁稚、製造家ノ徒弟ノ如キニ至ルマテ悉ク従業者トシテ計算スヘキモノトセシ如キハ、酷ノ甚シキモノト謂ハサルヘカラス、何トナレハ商家ノ丁稚、製造家ノ徒弟ノ如キ、多クハ将来其業ニ当ランコトヲ欲シテ本業ヲ見習ハンカ為メニ寄食スルモノナレハ、仮令其名ハ被傭者ナルモ其実ハ決シテ普通ノ被傭者ト同一視スヘキモノニアラサレハナリ、固ヨリ従業者ハ課税ノ標準タルニ止リ、直接其頭上ニ負担ヲ受クルニ非スト雖モ、已ニ課税ノ標準ト為ス以上ハ、傭主ハ勉メテ其員数ヲ減セントスルハ免カルヘカラサル情勢ニシテ、其余響ノ及フ所啻ニ旧来ノ慣習ヲ破リ、子弟ヲシテ発達ノ途ヲ失ハシムルノミナラス、延テ商工業ノ振興ヲ妨クル媒介タルカ如キコトナキヲ必セサルナリ
 其三 営業税法ハ又資本金額ヲ以テ課税標準ノ一ニ定メラレタリト雖モ、資本金額ノ多寡ハ必シモ収利ノ多寡ト比例セサルノミナラス
 - 第21巻 p.223 -ページ画像 
一個人カ営業ニ対シテ放下スル運転資本ノ如キハ到底其額ヲ知ルニ由ナキモノナリ、独リ運転資本ノ知リ難キニ止ラス、固定資本ニ変形シタルモノニ至リテモ家屋ノ規模其揆ヲ一ニセス、器械ノ品種其目ヲ同フセス、一々之ヲ打算シテ以テ資本総額ノ幾許ナルヤヲ知ルコト豈容易ノ業ナリトセンヤ、是ノ如キモノヲ以テ課税ノ標準ト為スハ、是亦徒ニ課税上ノ手数ヲ増スニ過キサルナリ
 其四 営業税法ハ物品販売業ノ売上金額ヲ卸売・小売ノ二ニ分チテ其税率ヲ卸売ハ万分ノ五、小売ハ万分ノ十五ト定メラレタリ、卸売ハ小売ニ比スレハ概シテ薄利ナルヲ常トスルカ故ニ、之ヲ区分シテ税率ニ等差ヲ設ケシハ一見公平ヲ得タルカ如シト雖モ、是只法文上ニ於テ公平ノ迹ヲ示スニ過キス、其実際ニ至テハ二者ノ区分甚タ曖昧ニシテ之ヲ識別スルニ由ナキモノナリ、蓋シ単純ニ考フレハ営業者ニ対シ販売スルモノヲ卸売ト云ヒ、消費者ニスルモノヲ小売ト云フカ如クナルモ、営業者ニ販売スル者其量必スシモ多キニ非ス、消費者ニ販売スルモノ其量必スシモ少キニ限ラス、而シテ店頭日々ノ顧客ニ就キ、其果シテ営業者ナルヤ将タ消費者ナルヤヲ吟味スルカ如キハ到底為シ能ハサル事タリ、然ラハ何ニ縁テ容易ニ卸売ト小売トヲ区分シ得ンヤ、要スルニ卸売・小売トハ対手ノ営業者ナルト消費者ナルトノ区分ヲ識別スルニ由ナク、又其商高ノ多寡ノミヲ以テ区分シ得ヘキニ非サレハ、之ヲ法文ニ規定シ得ヘキ程ノ明確ナル限界ヲ睹出ス能ハサル者ナリ、夫レ二者ノ区分是ノ如ク曖昧ナルニ拘ラス、其税率ニ於テ一ト三トノ大差アリトセハ、実施ノ日ニ至テ幾多ノ紛擾ヲ醸サヽラントスルモ豈得ヘケンヤ、其法文上ニ於テ公平ノ迹ヲ示シタルモノ適マ以テ不公平ヲ生スルノ因タラスンハアラサルナリ
以上ハ則チ営業税法中最モ著シキ欠点ナリト信ス、不幸現法ノ如クニシテ実施セラルヽアラハ、収税官ト納税者トヲシテ煩雑ニ堪ヘサラシムルノミナラス、延テ商工業ノ発達ヲ害スルニ至ルヘシ、是本税法ノ改正ヲ必要トスル所以ナリ
     第二 営業税法改正ノ要領
営業税法ノ改正セサルヘカラサル所以ハ以上開陳スル所ノ如シ、然ラハ如何ニ之ヲ改正スヘキ乎、要スルニ課税方法ノ簡明ニシテ而カモ公平ヲ失ハサルヲ以テ帰旨ト為サヽルヘカラス
   其一 一個人ノ営業ニ対シテハ左ノ標準ニ依リ相当ノ課税ヲ為ス事
(一) 物品販売業
   右ハ売上金額(卸売ト小売トヲ問ハス)ヲ課税標準ト為ス事
(二) 銀行業
  右ハ総益金(諸経費ヲ控除セサルモノ)ヲ課税標準ト為ス事
(三) 金銭貸附業
  右ハ貸附金額ヲ課税標準ト為ス事
(四) 保険業 物品貸付業 製造業 印刷業 写真業 倉庫業 運送業 運河業 桟橋業 船渠業 船舶碇繋場業 貨物陸揚場業 席貸業 料理店業 旅人宿業
 - 第21巻 p.224 -ページ画像 
  右ハ収入金額ヲ課税標準ト為ス事(本号ニ列記スル営業ハ其課税標準同一ナルモ其税率ニ至リテハ彼此適宜ニ差異ヲ附スルヲ要ス以下各号亦同シ)
(五) 土木請負業 労力請負業
  右ハ受負金額ヲ課税標準ト為ス事
(六) 公ナル周旋業 代弁業 仲立業 仲買業
  右ハ報償金額ヲ課税標準ト為ス事
 前記ノ如ク営業税法ヲ改正スルニ於テハ、啻ニ課税上煩雑ノ手数ト無益ノ経費トヲ省キ得ヘキノミナラス、課税標準複雑ナラサルカ故ニ、其税額ノ苛重ナラサル限リハ、営業者ヲシテ非常ノ苦痛ト煩労トヲ感セシムルカ如キ患ヒナキヲ得ヘシ
   其二 会社組織ヲ以テスル営業ハ其利益金ヲ課税標準ト為ス事
 本来営業税ヲ公平ニ賦課セント欲セハ、課税ノ標準ヲ営業所得即チ利益ニ求ムルヨリ善キハナシ、只営業利益ナルモノハ容易ニ之ヲ知ルニ由ナク、強テ之ヲ知ラント欲スレハ幾多煩雑ナル手数ヲ要スヘキニ依リ、已ムヲ得ス他ニ課税標準ヲ求ムルニ外ナラス、然ルニ会社組織ノ営業ニ在テハ、株式会社ハ勿論、他ノ合資・合名会社ト雖モ一個人ニ比スレハ其所得ヲ知ルコト頗ル容易ナルモノアリ、何ソ故ラニ幾多煩雑ナル手数ヲナシテ結局不公平ノ課税ヲ為スニ畢ルノ要アランヤ、是会社組織ヲ以テスル営業ニ対シテハ、課税方法ヲ異ニセントスル所以ナリ
   其三 税額ハ相当ノ軽減ヲ為ス事
 改正意見ハ税額ニ就テハ細目ニ渉リテ按ヲ具セスト雖モ、其程度ハ全体ニ於テ現法ニ比シ之ヲ軽減スルヲ至当ナリトス、聞クカ如クンハ現法ハ一年七百五拾余万円ヲ徴収シ得ヘキ目的ヲ以テ定メラレタリト、府県従来ノ地方税中ヨリ国庫ニ移ルヘキ営業税ハ概算二百九万円ナリト云フニ、一躍之ヲ増シテ七百五拾余万円ト為サントス、其増加ノ急激ニシテ負担ノ過重ナルヤ知ルヘキナリ、国家前途ノ経営ニ要スル費用ハ国民ノ本分固ヨリ之ヲ負担セサルヘカラスト雖モ其負担スル所ハ国民全般ニ通シテ彼此権衡ヲ失フカ如キコトナキヲ要ス、戦後多費ヲ要スルノ故ヲ以テ、特リ商工業者ヲシテ是ノ如キ非常ノ増税ヲ負担セシメントスルカ如キハ、決シテ権衡ヲ得タリト謂フヘカサルナリ、況ヤ急激ノ変動ハ経済上最モ忌ムヘキ所ニシテ税源ヲ涸渇セシメサルハ課税上ノ要義ナルオヤ、我商工業者ハ徒ニ自己ノ納税額ノ軽減セラレンコトヲ望ム者ニ非サルモ、国民ノ本分トシテ負担スル所ハ著シキ懸隔ナカラシムルコト国家経済ヲ燮理スル所以ノ本道ナリト信ス、故ニ営業税法ヲ前記ノ如ク改正スルニ当リテハ、税額ニ相当ノ軽減ヲ為シ、商工業者ヲシテ負担ノ偏重ヲ感セシムルコトナキヲ希望スルモノナリ
 以上ハ則チ営業税法改正ヲ希望スルニ就テノ大体ノ意見ナリ、大綱已ニ挙カレハ細目従テ張ルヲ常トス、故ニ税法ニ規定セラルヘキ条項等ニ至テハ敢テ玆ニ絮述セス
   ○本巻明治二十九年四月二十五日、同二十九年十一月六日、同三十年五月七日、同三十年十月八日、同三十年十二月二十七日ノ各条、並ニ本資料第二
 - 第21巻 p.225 -ページ画像 
十二巻所収「商業会議所聯合会」明治二十九年十一月十九日、同三十年十一月五日、同三十年十二月四日ノ各条参照。
   ○営業税ハ明治三十二年三月、同三十五年三月ノ両度ニ改正サレタレドモ、何レモ局部的改正ニシテ、当会議所ノ企図セルガ如キ改正ハ遂ニ実現セザリキ。(明治財政史第六巻第六六―七一頁)