デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治31年12月17日（1898年）

是日栄一当会議所会頭トシテ、所得税法改正案中ノ公債利子課税ニ就キ之ヲ修正削除センコトヲ大蔵大臣伯爵松方正義・農商務大臣曾禰荒助ニ建議シ、貴族院議長公爵近衛篤麿・衆議院議長片岡健吉ニ請願ス。

東京商業会議所月報　　第七七号・第一三頁　明治三二年一月
○同月　○明治三一年一二月九日、本会議所ニ於テ第七十六回ノ臨時会議ヲ開ク当日ノ出席者ハ左ノ如シ
　武田忠臣君　○外十七名氏名略
午後五時四十分開議、会頭渋沢栄一君議長席ニ就キ、左ノ件々ヲ議事ニ附シ、午後六時十分閉会セリ
○中略
　一公債利子ニ所得税ヲ課スルヲ不可トスル義ニ付建議ノ件
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（会員提出）
本件ハ会員大江卓君ノ提議ニ係リ、其要旨ハ、所得税法改正案中公債利子ニ課税スル規定ハ不可ナルニ付、之ヲ削除セラルヽ様政府ニ建議シ、議会ニ請願スヘシト云フニ在リ、審議ノ末全会一致ヲ以テ可決シ文案ノ起草並ニ建議・請願ノ事ハ役員会議ニ一任スルニ決ス

東京商業会議所月報　　第七七号・第一七頁　明治三二年一月
○同月　○明治三一年一二月十七日、所得税法改正案中公債利子ニ課税スルヲ不可トスル義ニ付テノ建議書ヲ大蔵・農商務両大臣ニ進達シ、同請願書ヲ貴族・衆議両院ニ呈出セリ（建議書・請願書ノ全文ハ参照ノ部第四号ニ掲載ス）

東京商業会議所月報　　第七七号・第二一頁　明治三二年一月
○参照第四号
　明治三十一年十二月九日第七十六回臨時会議ノ決議ニ依リ、所得税法改正案中公債利子ニ課税スル義ニ付、大蔵・農商務両大臣ニ進達セシ建議書、貴族・衆議両院ニ呈出セシ請願書ノ全文ハ左ノ如シ
　　　　所得税法中改正法律案ニ関スル建議（請願）
政府カ今期議会ニ提出セラレタル所得税法中改正法律案ニ拠レハ、所得税法第三条ヲ改正シテ課税スヘキ所得ヲ三種ニ区分シ、其第二種ヲ「此ノ法律施行地ニ於テ支払ヲ為ス公債・社債ノ利子」ト為シ、之ニ課スル税率ヲ「千分ノ二十」ト規定セラレタリ、抑モ公債ハ国家カ信用上負ヘル所ノ債務ニ外ナラスシテ、其利子ハ政府之ヲ保証セルモノナリ、然ルニ之ニ向テ課税スルガ如キコトアラン乎、其結果ハ政府自ラ保証シタル所ノ利子ヲ恣ニ低下スルニ異ナラスシテ、公債所有者ハ為メニ予期セサル損失ヲ蒙ラサルヲ得ス、本法律案ハ固ヨリ所得トシテ公債利子ニ課税セントスルモノナルヲ以テ、直接ニ公債若クハ公債利子ニ課税セントスルモノトハ同視ス可ラサルモ、事実ノ上ニ於テハ毫モ択フ所ナキナリ、是クノ如キハ適マ以テ公債ノ信用ヲ傷クルニ過キサルヲ信ス、故ニ本会議所ハ同法律案ヲ修正セラレ、公債利子ニ対シテハ一切所得税ヲ課スルカ如キコトナカランコトヲ切望ス、願クハ閣下（貴院）速ニ本建議（本請願）ヲ採納セラレンコトヲ
右本会議所ノ決議ニ依リ建議（請願）仕候也
　　明治三十一年十二月十七日
　　　　　　　　　　　　東京商業会議所会頭　渋沢栄一
 - 第21巻 p.369 -ページ画像 
　　　　大蔵大臣　　伯爵　松方正義殿
　　　　農商務大臣　　　　曾禰荒助殿
　　　　貴族院議長　公爵　近衛篤麿殿
　　　　衆議院議長　　　　片岡健吉殿
　　　○右建議ハ実現セズ。明治三十二年二月十三日法律第十七号ヲ以テ所得税法改正セラレ、公債利子ニハ千分ノ二十ノ所得税ヲ賦課セラルルコトトナリタリ。（法令全書明治三二年上巻）