デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

  詳細検索へ

公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
3款 東京商業会議所
■綱文

第21巻 p.616-629(DK210109k) ページ画像

明治34年2月6日(1901年)

臨時商業会議所聯合会ノ決議ニ基キ、是日栄一当会議所会頭トシテ、協定税率ノ存在ハ商工業ノ発達ヲ阻害スルヲ以テ速ニ之ヲ廃棄センコトヲ内閣総理大臣侯爵伊藤博文・外務大臣加藤高明・大蔵大臣渡辺国武・農商務大臣林有造ニ建議シ、翌七
 - 第21巻 p.617 -ページ画像 
日貴族院議長公爵近衛篤麿・衆議院議長片岡健吉ニ請願ス。


■資料

東京商業会議所報告 第一〇〇号・第三―四頁 明治三四年二月刊(DK210109k-0001)
第21巻 p.617 ページ画像

東京商業会議所報告  第一〇〇号・第三―四頁 明治三四年二月刊
○第百一回臨時会議 明治三十四年一月三十一日開
 出席者
  井上角五郎君 ○外十七名氏名略
午後六時開議
渋沢会頭欠席ノ為メ大倉副会頭議長席ニ就キ、先ツ井上角五郎君ヨリ臨時商業会議所聯合会ノ議事ニ関スル報告アリ、猶審議ノ末該聯合会決議事項ノ処分ニ関シ左ノ如ク決議ヲ為セリ
 一 経済整理ニ関スル件
 一 国家経済ノ方針ニ関スル件
 一 協定税率ノ廃止ニ関スル件
 一 試掘鉱区課税ニ関スル件
以上四件ハ全然聯合会ノ決議ヲ是認シ、本会議ニ於テモ其決議ノ趣旨ニ基キ政府ヘ建議シ、議会ヘ請願スルモノトシ、其文章ノ起草ハ役員会議ニ一任スルモノトス
○中略
 一 協定税率廃止期成同盟会組織ノ件
本件ハ聯合会ノ決議ヲ承認シ、本会議所ニ於テモ之ニ加盟スルニ決ス
○中略
午後六時五十分閉会


渋沢栄一 日記 明治三四年(DK210109k-0002)
第21巻 p.617 ページ画像

渋沢栄一 日記  明治三四年     (渋沢子爵家所蔵)
二月六日 曇
昨夜ヨリ下痢症ニテ朝来出勤スルヲ得サルニヨリ、午後一時ノ郵船会社重役会及商業会議所臨時会ニハ電話ヲ以テ断リ遣シ、終日在宅治療ニ勉ム


東京商業会議所報告 第一〇〇号・第四―五頁 明治三四年二月刊(DK210109k-0003)
第21巻 p.617 ページ画像

東京商業会議所報告  第一〇〇号・第四―五頁 明治三四年二月刊
○第百二回臨時会議 明治三十四年二月六日開
 出席者
  馬越恭平君 ○外二十四名氏名略
午後五時五十分開議
渋沢会頭欠席ノ為メ大倉副会頭議長席ニ就キ、先ツ左ノ件ヲ報告ス
前回臨時会議ノ決議ニ基キ左ノ手続ヲ執行シタリ
○中略
 一 協定税率廃止ニ関スル件
    四《(二)》月四《(六)》日付ヲ以テ内閣総理・外務・大蔵・農商務四大臣ヘ建議書ヲ進達ス
○中略
午後七時十分閉会

 - 第21巻 p.618 -ページ画像 

東京商業会議所報告 第一〇〇号・第八頁 明治三四年二月刊(DK210109k-0004)
第21巻 p.618 ページ画像

東京商業会議所報告  第一〇〇号・第八頁 明治三四年二月刊
○同月同日 ○二月六日 協定税率廃止ニ関スル件ニ付、内閣総理・外務・大蔵・農商務四大臣ニ建議書ヲ進達ス(建議書ノ全文ハ参照ノ部第七号ニ掲載ス)


東京商業会議所報告 第一〇〇号・第八頁 明治三四年二月刊(DK210109k-0005)
第21巻 p.618 ページ画像

東京商業会議所報告  第一〇〇号・第八頁 明治三四年二月刊
○同月 ○二月七日、経済整理ニ関スル件外三件ニ付、貴族・衆議両院ヘ請願書ヲ進達ス(請願書ノ全文ハ参照ノ部第五号乃至第八号ニ掲載ス)


東京商業会議所報告 第一〇〇号・第一四頁 明治三四年二月刊(DK210109k-0006)
第21巻 p.618 ページ画像

東京商業会議所報告  第一〇〇号・第一四頁 明治三四年二月刊
 ○参照
○第七号
 明治三十四年二月六日及七日附ヲ以テ協定税率廃止ニ関スル件ニ付内閣総理・外務・農商務三大臣及貴族・衆議両院ヘ進達シタル建議請願書ノ全文ハ左ノ如シ
    協定税率廃止ニ関スル建議(請願)
港ハ国ノ門戸ニシテ、海関ハ即チ其鎖鑰ナリ、一国経済ノ緩急ニ応シテ鎖鑰ノ開閉ヲ制スルハ、元ヨリ其国自衛ノ権利ニ属ス、苟モ独立自主ノ邦国皆此自由ナカル可カラス
不幸我国ノ通商条約ニハ一種ノ協定税率ナルモノアリテ、向フ十年間ハ自主ノ権利ヲ箝制セラレ、尚門戸アルモ任意ニ鎖鑰ノ開閉ヲ為シ能ハサルカ如シ、今試ニ我国現行ノ税率ヲ以テ之ヲ欧米各国ノ税率ニ対比セハ、課税ノ軽重素ヨリ同日ノ論ニアラス、例之ハ本邦ノ綿糸ノ輸入税ハ加工ノ程度ヲ論セス百斤ニ付僅ニ四円拾八銭ナルモ、仏国ニ於テハ其晒シタルモノ百斤ニ付六拾壱円五拾四銭ヲ徴スルカ如シ、之ヲ以テ我ノ彼ニ輸出スルハ難ク、彼ノ我ニ輸入スルハ易ク、為メニ我国商工業ノ発達ヲ阻害スルコト最モ甚シ、若シ一タヒ此協定税率ヲ廃棄シテ、機ニ臨ミ時ニ応シテ自由ニ改定スルコトヲ得ハ、必ス我カ商工業ノ発達ヲ期スルヤ昭カナリ、既ニ綿糸及綿布ノ二品ノミニ於テモ数千万円ノ輸入ヲ減少シテ、忽チ内地ニ其生産ヲ増殖スルコトヲ得ルヤ必セリ、由是観之、此協定税率ノ今日ニ存在スルハ洵ニ国家ノ一大病源ニシテ、我商工業ノ健全ハ遂ニ得テ望ム可カラス、本会議所ハ一日モ速ニ之カ廃棄ヲ見ンコトヲ切望ニ堪ヘサルナリ
右本会議所ノ決議ニ依リ建議(請願)仕候也
  明治三十四年二月六日(請願ハ七日附)
          東京商業会議所会頭 男爵 渋沢栄一
    内閣総理大臣 侯爵 伊藤博文殿
    外務大臣      加藤高明殿
    農商務大臣     林有造殿  (各通)
    貴族院議長  公爵 近衛篤麿殿
    衆議院議長     片岡健吉殿


第十一回東京商業会議所事務報告 第三―四頁 明治三五年四月刊(DK210109k-0007)
第21巻 p.618-619 ページ画像

第十一回東京商業会議所事務報告  第三―四頁 明治三五年四月刊
一協定税率廃止ニ関スル義ニ付、内閣総理・外務・大蔵・農商務四大
 - 第21巻 p.619 -ページ画像 
臣ヘ建議、貴族・衆議両院ヘ請願ノ件
 本件ハ京都外十五会議所ヨリ本年一月東京ニ於テ開設中ノ臨時商業会議所聯合会ニ提出シテ其可決ヲ得タルモノニ係リ、其要旨ハ、協定税率ノ今日存在スルハ国家ノ一大病源ニシテ、商工業ノ発達ヲ阻害スルモノナルヲ以テ、一日モ速ニ之ヲ廃棄スルニ勉メラレタキ旨ヲ政府ニ建議シ、議会ニ請願スヘシト云フニ在リ、仍テ明治三十四年一月三十一日第百一回ノ臨時会議ニ附シタルニ其可決ヲ得、建議書及請願書ノ起草並ニ提出方ハ役員会議ニ一任スルニ決シタルニ付其後役員会議ニ於テ起草ノ上二月六日附(請願書ハ七日附)ヲ以テ左ノ如ク内閣総理・外務・大蔵・農商務四大臣ヘ建議シ、貴族・衆議両院ニ請願シタリ
  ○建議・請願書ハ報告所載ノモノト同一ニツキ略ス。
  ○右建議書ハ内閣総理・外務・大蔵・農商務ノ四大臣ニ進達セリトナス資料ト、大蔵大臣ヲ除ク三大臣ニ進達セリトナス資料トアリ。ココニハ姑ク四大臣ニ進達サレタリトナスモノニ従フ。
  ○本資料第二十二巻所収「商業会議所聯合会」明治三十四年一月二十三日ノ条参照。



〔参考〕銀行通信録 第一七七号 明治三三年八月 経済時事談(渋沢栄一男談)(DK210109k-0008)
第21巻 p.619-620 ページ画像

銀行通信録  第一七七号 明治三三年八月
  経済時事談(渋沢栄一男談)
    協定税率改正の論に就て
近頃今回の事件を機として列国に交渉して、協定税率を改正して国定税率となし関税の収入を増さんと云ふ説を聞しが、是れは中々容易に行はれないと思ひます、よし行はるゝにして見ても協定税率の改正を無制限の保護の主義に用ゐよふと云ふに到つては、経済上余程の研究問題であると思ひます、我国は開港以来保護主義であつたか自由主義であつたかと云へば、保護と云ふよりは自由であつた方が多いかと思ふ、然るに今協定税率を廃して之に代ふるに米国の如く無制限の保護主義を採ると云ふ主旨であれば、向後自国の工業に如何なる影響を与へるか十分考へんければならん、米国か保護の結果商工業が繁栄すると云へばとて、米国なればこそ出来て他の国には出来ぬかも知れぬ、米国の鉄がずんずん輸出せらるゝ様になりしには特別の事情がありはせぬか、即ち米国は学理の原則に反する方針を採りても国力に余裕があるから打勝てるかも知れぬ、仮へば相撲にしても大砲の様な大力の者は四十八手以外の逆手でも勝てるかも知れぬが、之れを誰れにも及ぼすことは出来ない、近頃八釜しい輸入防止論から輸入税を酷課すると云ふことになると、内地の工業品は自然と改良進歩を計ることは底抜けとなつて、唯代価の高いばかりで少こしも発達をしないといふ結果を呈しはせぬか、一個人の購買力か集まつて一国の購買力となり、外国から品物を輸入するのであるから、買ふ力がなければ自然と輸入も止むものであるが、無理に之れを止めよふとするは条理に反するのみならず、之れが為め高い品物を買はせるが如き却て不利益のことを生する、若しも今の協定税率は不完全であるから改正をしよふと云ふならば、出来る事ならば改正もし廃止もしたいものだが、無制限の保護税主義を達する為めに之れを改正したいと云ふ様なことなれば、今
 - 第21巻 p.620 -ページ画像 
申す通り経済上の根本から大に研究をして貰ひたい、又税を多くとると云ふことと、保護の主義をとると云ふことは別物で、保護の主義は輸入を防止するにあり、収入の主義は輸入を害せぬ範囲内に於て税率を定めよふと云ふのである、孰れにしても協定税率の改正の如きは、余程研究を要することであるから、世の中に於て此論を為す方々の主旨は何処にあると云ふことを承りたいものであります、まだ申上げたきことも沢山あれど、一寸と心に浮んだ所の事丈けを申上げた次第であります。



〔参考〕明治大正財政史 大蔵省編 第八巻・第五七六―六一五頁 昭和一三年九月刊(DK210109k-0009)
第21巻 p.620-629 ページ画像

明治大正財政史 大蔵省編  第八巻・第五七六―六一五頁 昭和一三年九月刊
 ○第六編 第二章 第七節 協定税率
    第二款 明治三十二年の協定税率
 第一次条約改正に当り我国は当時の国情・外交上已むを得ずして、重要輸入品に就き平均従価一割の税率を協定し、尋いで英・仏・独・墺の四箇国と追加条約を締結して其の税率を定め、何れも明治三十二年一月一日より実施したり。其の協定は墺国に対する分を除けば全く片務的にして、他の三国は我国に対して何ら自国関税率の協定を為すことなく、我国は唯此等の諸国が第三国と協定税率を設けし場合に、最恵国条款の適用に依りて利益に均霑するに過ぎず、而も実際に其の利益を享受するは、纔に我絹織物が伊太利に於て協定の利益を受け、仏蘭西に於て幾分低税を課せらるる程度にして、当時の我輸出品は粗製品・原料品或は美術工芸品を主としたる為め、欧米に於て条約の利益を受くる場合は甚だ少かりしなり。
 協定品の主要種目は大体に於て各種織物及其の材料・各種鉄鋼品・玻瓈・皮類・砂糖等にして、此の外藍及紙(英国)、染料及塗料・薬品機関車及客車・時計(独国)、珠玉・細貨類・化粧品類・葡萄酒(仏国)木製家具類・珠玉・金銀細貨類・馬(墺国)等なりき。今各国に対する協定税率を掲ぐれば左の如し。
○中略
 前掲協定税率は単に締約国のみならず、最恵国条款に依り爾余の締盟諸国にも適用せられ、加ふるに条約中には税率以外に我国を不利益に拘束する規定も存在せしを以て、表面上の互恵平等条約にも拘らず実質上税権は尚ほ其の一半を諸外国の手中に握られしものなり。而して本条約の満期限は明治四十四年七・八月なりしを以て、政府は日露戦後国威揚り内外の政情安定したるに乗じ、期限満了を俟ちて一挙に片務的協定税率を撤廃し、完全なる互恵平等条約を実現せんと欲して著々調査を進め、下準備を整へたり。其の調査及準備に就ては既に本章第四節一般税率の改正の部に之を掲げたるを以て玆には省略す。但し明治三十九年二月頃大蔵省に於て為したる「現行協定税率に関する調査」並に本協定成立当時総理大臣又は大蔵大臣たりし伯爵松方正義が同じ頃起草したる「協定税率撤廃意見」は、本協定の内容、其の我財政上及産業上に及ぼしたる影響並に協定税率撤廃に関する対処方等に就き、事情を闡明するに足るを以て之を左に掲ぐべし。
  『  現行協定税率に関する調査
 - 第21巻 p.621 -ページ画像 
    一、現行条約の種類
  欧米諸国と我邦との問の現行条約は、関税問題上より分類すれば一・二国との条約を除きて大部分は所謂無条件の最恵国約款付のものなり。其中に於て税目付のもの即ち協定税を附しあるものと否らざるものとの二種あり。
    二、税目付きの条約(協定税ある条約)
  韓国・清国との条約の如き本問題に関係なきものを除くときは税目附条約は英・独・仏三国との条約なりとす。
    三、条約の期限
  現行条約は明治四十三年七月十七日に至り一方より廃止の通知を為すを条件とし、夫より満一年即明治四十四年七月十六日を以て終了となるものなり。但し仏国及墺国との条約は同八月三日を以て終了とす。即今より五年半の期間は有効なるものなり。
    四、協定税を附したる形式
  協定税目を定めたるは英・仏・独三国との条約に於て総て本条約に附属せる議定書を以てせるものとす。
    五、欧米諸国の我邦に対して定めたる協定の有無
  欧米諸国は我邦に対し自国関税の協定を為せるもの一もなし。唯各国に於て第三国と協定ある場合には最恵国条款の適用に依りて我物品も其協定に均霑するものなり。実際に於ては其利益を享有するは、我絹織物が伊太利に於て協定の利を受け、仏蘭西に於て幾分低き税率なるを得る位にして、我輸出品は粗生天産品と美術品を多しとする為め、欧米に於て条約の利を受くる場合は甚だ少きものとす。
    六、協定税の大要
  英国との協定物品を概記すれば左の如し。
   各種織物及其材料
   鉄鋼各種
   玻瓈
   皮類
   砂糖
   藍
   紙
  独国との協定物品を概記すれば左の如し。
   各種織物及其材料
   鉄鋼各種
   砂糖
   染料・塗料
   皮類
   玻瓈
   薬品
   機関車・客車
   時計
  仏国との協定物品を概記すれば左の如し。
 - 第21巻 p.622 -ページ画像 
   各種織物及其材料
   鉄・鋼
   珠玉・細貨類
   化粧品類
   葡萄酒
    七、協定の英・仏・独以外の国の生産品に及べる結果
  英・仏・独三国との間の協定税目は前期の如しと雖、此税目は決して協定を締結したる国の産品に利益を与へたるのみにあらずして、対等の条約を為したる欧米諸国は皆最恵国約款に依り自家の産品が、我に於て協定税目の利を受くるの結果となれり。就中北米合衆国は我邦との条約は条件的最恵国条款付なる為め、米国に於て他国に対し相互主義に依り或種物品に減税を為す場合には、我邦物品は其減税の利益に均霑するを得ざる地位に在るに拘らず米国品に対しては我協定税目は一切均霑せしめざるを得ざる関係となり、事実に於ても今日米国より輸入する物品は協定税の為めに莫大なる利益を受けつゝあるなり。
  又英・仏領の殖民地と雖、印度の如き条約中に加入したるものは皆其産品を我に輸入するに於て協定の利を受けつゝあり。加奈太の如きも加入条約我と英国との間に成立つ時に於ては又利益を受くるものにして、概言すれば清・韓二国を除く外、苟も我と通商貿易の関係ある邦土は全部英・仏・独の協定の利を受けつゝあるものなり。
    八、税率以外の協定
  日英・日独・日仏条約の附属議定書に於て税率以外に我邦の行為を束縛するの規定は、課税価格の算定方法、度量衡のこと、布帛類の尺度検定法及産地証明規定等なるも、最も重大の結果を生ぜしめたるものは日独議定書中に定めたる我国定税率制定の期限に関する条項に在り。即国定税則の改正を独逸国より輸入品に適用するには、六箇月以前に公布すべきものとすとあるに依り、爾来戦争等に際し歳入を得るの急要を感ずる場合に於ても、税率の改正は常に六箇月の期間を経ざれば実施する能はず、之が為め財政に屈伸の自由を欠きしは再三経験せし所たり。
    九、協定税目の財政に及ぼせる結果
  協定税目が今日迄我国家経済に及ぼしたるの利害は、其関係複雑にして容易に之を判断するを得ずと雖、其歳入に及ぼせるの結果は明治三十二年より三十七年迄六箇年間に於ては、我関税収入の之が為めに減ぜること毎年五百万円内外とす。三十八年後に在りては戦時の為め他物品に対する税率増加したるを以て、其割合に協定税ある物品にも増率を実行し得べかりしものと仮定すれば、三十八年度の如きは約一千四百万円の収入を増加し得べかりしものとす。要するに関税収入の約四割は常に協定の為めに減額せられ居るものとす。
    十、協定税率の実際上の割合
  協定税は条約締結の当時には多く一割を標準とし、之を従量税と
 - 第21巻 p.623 -ページ画像 
為したるものあり。其後年月を経過するに従ひ物価の変動ありたると、我に輸入せらるゝ物品の品質に変遷あるとの為め、最初一割にて定めしもの今日にては之に達せざるものを多しとす。今主なる物品につき近時実際にて幾割なるやを見れば次の如し。

            条約当時の率   三十七年の価格にての割合
               割        割
   鉄(条及竿)     〇・七五     〇・六三
   生金巾        一・〇〇     〇・五八
   羅紗         一・〇〇     〇・八七
   精糖         一・〇〇     一・一五
   葡萄酒        一・〇〇     〇・五〇
   印刷紙        一・〇〇     一・〇六
   靴底革        一・五〇     〇・八六
   玻瓈         〇・八〇     〇・六二
   藍          一・〇〇     〇・六三
   コンデンスミルク   〇・五〇     〇・五二

  即協定税率は多の物品に就き言へば、最初一割となせしものも実際には五分乃至八分の低税となり了れる情況なり。此事情も実際我経済財政に尠なからざる影響を与ふるものなり。
    十一、協定税目と我産業との関係
  協定税目は素より我産業に対し適当なる関税たるべきものあり。産業上の利害は略言し難しと雖、一方には我産業今日の程度に於て協定税ある為め適切に影響せられ、我に成立ち得べき産業にして之あるが為めに十分の発達を為し得ずと認めらるゝものあり。此等を挙ぐれば次の如し。
   一、掛時計
   二、コンデンスミルク
   三、帽子
   四、藍
   五、玻瓈板
   六、革工業
   七、蝋燭
   八、紙類
   九、白砂糖
   十、綿布類
   十一、毛布類
   十二、洗濯石鹸
  又単に協定税率の影響のみに帰し難きも、我工業の発達多少不利益を為せるは、一切の鋼鉄類並に鉄道・機関車・客車の製造工業なりとす。
    十二、互恵主義より見たる現在の協定税目
  協定税目は前記の如く主要品の我関税率を一定年間一割以下の低位に据置かしめたるものにして、対手国の方にては毫も其関税に協定を為さざりしを以て、毫も相互利益の交換に非るは論なきも事実に於ては各国制度の如何に応じて此関係に異なる所あり。今
 - 第21巻 p.624 -ページ画像 
国別に概説するときは左の如し。
  英国
   英本国に於ては関税を課するは、単に酒・煙草・茶・砂糖・珈琲等僅少なる種類に限るを以て、実際我邦より同国に輸出する物品の如きは全部無税なりと云ふを得べく、従て英国との協定は関税上に於て相互の譲歩なるもの発生し得べからず。勢ひ英国の譲歩は関税以外の事柄に存することゝなり、関税協定は片務的となるは当然の結果たるべし。但し今日までの変遷を考ふれば、印度の如き、加奈太の如き、次第に我邦と通商上の関係を増加し、此等英国領地は皆母国と異なり各種物品に関税を存し、特に加奈太の如きは其関税高きのみならず、本国物品と他国物品とに対し税率の差等を置くものなれば、将来此等英領と貿易関係を増加する場合には、英本国との協定に付注意すべきものとす。
  仏国
   仏国は関税制度に於て最高・最低の両税あり。協定を為したる国には最低税を適用するを以て、事実上は仏国は我邦に向ても自国の税率に協定低減を為したると同様の結果なり。唯一の遺憾とすべきは、我邦より仏国に輸出する物品中重要の位地を占むる羽二重に対しては最低税を用ゐず、特に之が為めに割合に高き税を課するに在り。
  独逸
   独逸は関税の制度に於て国定・協定を併用するものなれば、若し我より輸入する物品多く、且つ其種類に於て独逸が露国・墺国・伊太利等と協定を為したる物品と同様なる場合あらば、我に於ても利益に均霑する理なれども、現状に於ては我より輸出する物品は僅に四百万円にして、其物品は毫も独逸が他と協定を為す如き種類にもあらず。故に独逸は我協定の為めに其輸出品に莫大の利を与へつゝあるに拘はらず、我の収むる利益毫も存せずして協定は全く一方の利益に帰し居るものなり。
  米国
   米国は其関税一般に高く我より輸出する物品も之が為めに困難を感じ居るの現状なり。元来米国は協定税率主義を採らず、稀に他国と互恵的関税を約するも、是すら其場合少く且つ其協定は関係国以外には之を及ぼさゞるの制度を維持せり。反之我邦が英・独・仏と協定譲歩したる利益は、米国は全部之を享有し得るを以て、同国の商工業進歩し、輸出貿易も偉大の増進を為す最近時にありては、米国より我に輸入する物品年々月々増加する実況なれば、米国は協定税目の為めに受くる利益最も多く同国と我との関係は独逸に於けるより一層片面的のものなり。
    十三、協定締結国より見たる協定税の価値
  英・独・仏三国は各自国主要の輸出物品に付き、我邦と協定を結びたるものなるを以て、各協定は皆其目的を達して自国の輸出業を保護せんことは勿論のことゝす。然れども三国は其貿易の状況
 - 第21巻 p.625 -ページ画像 
に応じ、我邦と結びたる協定の利を受くること一様なるものにあらず。今各国に付利益の程度を見れば次の如し。
  英国
   最近時に在りては我輸入額の最も多きは英国品にして、三十八年の総額は
   英国     壱億壱千五百万円
   米国     壱億四百万円
   独逸     四千弐百万円
   仏国     五百万円
   英領印度   九千万円(大部分は米)
   なれば、英国の我に対して有する協定は殆んど全部英国に実益を与へ、利益の額も亦最大なるものなり。但し英国協定中藍に対する協定は之が為め我税率制定を束縛したるため却て独逸産人造藍に殊に利益を与へ、英領より輸入は年々歳々独逸品に駆逐せられつゝあれば、此一品は却て協定の不利を英国自身が受けたるものなり。
  独逸
   独国は四千万円の物品を我に販売するを以て、其協定の実益を受くるは尠しとせず。されど米国が他国の協定を利用して受くる実益の如く大なるものに非ず。而して最も多種類の協定を我に対し有するは独国なりと雖、其中に就き左記品目の如きは独逸より輸入せられず、却て他より輸入せらるゝものなれば、協定の有無に付痛痒なしと思はるゝものなり。
    綿糸・綿布・麻布・鉛・亜鉛・玻瓈・ログウード・ペーント絹綿繻子・コンデンスミルク・パラフヰン蝋・セメント
  仏国
   仏国より我へ輸入品は僅々五百万円以下なれば、品目に於ても分類に於ても実益少なし。今日の実況にては葡萄酒・毛織物・細貨類・化粧品類を除き、数多物品の協定は仏国自身に何の実益をも与へ居らざるものなり。
    十四、国別に協定廃止変更の場合
  現在の協定は物品の種類に於て英・仏・独三国の協定に共通なるものを多しとす。故に或一国との約束に於て協定を廃するも、事実は大なる結果を収むるを得ざるものとす。然れども協定中或一国に特有にして他の二国との協定になき品種あり。之を左に掲ぐ其他の物品は皆二国又は三国の協定に存するものと知るべし。
   仏国協定にのみ存する物品
    双眼鏡・製図器・印刷器械・蝋燭・絹繻子・シヤムパン・葡萄酒・仮製金銀細貨・石鹸・薫香類
   独国協定にのみ存するもの
    機関車・客車・数種の薬品・鋼の管・筒・軌条・線・電鍍板及葉鋼・紙類(印刷紙外の)・ダイナマイト・アリザリン・苦草・置掛時計
   日英協定のみに存するもの
 - 第21巻 p.626 -ページ画像 
   乾藍・錫塊・亜鉛塊
    十五、期限満了の際に於ける彼我の地位情勢
  通商的関係より観察して現在の協定条約満期の際に於ける彼我の地位を推断するに、大体に言へば英・仏・独共に我邦と条約上の協定を以て利益とするの地に在り、米国も亦可成的我邦と互恵条約を為さずして、英・独何れかの協定の成るを俟て之に均霑するを希望するなるべし。反之我邦の側より見れば、協定を為し報償を得て実益を収むるものは至て少きを以て、協定は僅少の場合の外之を為さゞるを以て利益とす。其理由次の如し。
  一、我邦の輸出貿易漸次に発達するとするも、欧米に輸出するは大部分生糸の如き粗生原料にして、何の邦国に於ても粗生原料は自国の利益上無税なるべき物品なるを以て、我物品が報復を受くべき場合甚だ少し。
  二、英国は収入主義以外に関税なければ、我に向て譲歩するの余地毫も存せず。又我に報仇すべき制度もなし。唯印度に於ては各種物品に五分の関税ありと雖、印度の国情は近き将来に於て保護的関税に変化すべしと思はれず。加奈太に於ては場合に依り或国の物品に重税を課するの制度あり。現今之を独逸品に対し実行すと雖、最恵国条約ある間は之を行ふを得ず加之我より加奈太への輸出物品は僅少なるを以て、畢竟英国は毫も我に協定を強ゆべき力を有せざるものなり。
  三、独逸は前記せる如く関税に国定・協定の二種ありと雖、我輸出品は毫も是等に関係なく、独逸に於て協定の均霑を得ると否とは事実何等の痛痒を感ずるものにあらず。故に独逸は我に協定を望むこと切なるべきに拘はらず、我には報償たるべき利益の得べきものなく、譲歩すべき事情毫も存せず。
  四、仏国との関係は少しく前二者と異り、仏国には最高・最低二税あり。若し我に於て仏国品に対し低減を為さざる場合には我輸出品に対し時に不利益なる取扱を為すべし。而して仏国は我に売ること少く、我より買ふものは生糸羽二重を初め其額少なからざれば、我に於ては葡萄酒の如き主として仏国に生産する種類の物品を撰みて、可成的他国品に及ばざる様協定するは相互の利益とす。
  五、米国は我に売るの物品も多く、我より買ふの物品も多しと雖国制として容易に他と協定を為さざるべく、米国の関税を低下せしむることは至難なるものと察せざるべからず。此事は近時独逸との間に容易に相互条約の成立を見ざるに推しても明なり。而して米国より我に輸入する物品は小麦及小麦粉を除く外、多くは英・独其他よりも来る物品なるを以て、若し我米国への輸出品を利する為めに同国に対し協定を結ぶときは、英・独其他も之に均霑するを覚悟せざるべからず。即我の犠牲は常に彼の犠牲よりも大なるべき傾向を有す。加之米国関税の高きは単り我物品に対するものにあらず、米国には仏国の如き報復手段を具備せるに非るを以て、米国との協定
 - 第21巻 p.627 -ページ画像 
は相互利害の相平均する迄は成るべく之を避けざるべからず。
  要するに相互利益の交換を基礎として将来の協定を考ふるときは仏国及米国との関係に於て特種物品の外、我に於て協定を為すべき事情存在せず。協定に対する我国の体度《(態)》を定むるは主として右の通商的関係を基礎とすべきものなり。        』
    『  協定税率撤廃意見
  我国が英・仏・独三国と協定し、去る明治三十二年一月より実施したる協定関税率たるや、欧洲各国に行はるゝ相互的協定の方法に非ず。我国の協定税は全く片務的にして、是等諸国の生産品は何れの地より我国に輸入するも特殊低位の税率を適用し、同時に課税に関する最恵国条款を有する他の各条約国の生産品も亦協定税率の恩典に浴し、右三国の生産品と同一の関税を課せらるゝに依り、之れが為め我国関税政策の運用を妨礙せられ、内国生産の保護上必要の場合に於ても適当の税率を設けて之れを有効に施行することを得ざるを以て、内地製造業は外国品の圧迫を受け、発達を阻害せらるゝこと多く、将来我国工業の骨髄とも見るべき製鉄事業の如きすら、之れを保護助長するの機会を得ざるのみならず、協定品は概ね輸入額の多量なる物品なるを以て、国家の収入を阻碍せらるゝ等其弊害実に大なり。独り此のみならず協定税率の外国定税則に於ても、三国との議定書中我の行為を検束せらるること少なからず、其の重なる者は、独国との議定中我が税則の改正を彼の輸入品に適用するには六ケ月以前に公布すべしと謂ふが如き最も不利の甚きものなり。然るに右協定税率は通商航海条約の在続期間有効なるに由り、明治四十四年八月まで効力を有し今より尚ほ五ケ年有半の時日を余せり。此期間内は財政上最も憂虞すべきの時にして、民業に於て該協定税率の為め既説の不利を蒙り、剰へ戦捷の光栄を担ふて将来一大発展を為さんとする生産業者が受く可き苦痛は一層深かるべく甚しきに至りては、之れが為め戦後の経営を誤まり立国の基礎を危くするに至るやも測り知るべからず。
  故に此際右三国に交渉して協定税率の撤廃を求むるを急務とす。今や我国は露国に対して戦捷者の地位に立ち、陸海の兵備充実して英国と攻守同盟を締結し、世界の視線を我に集め、一躍して一等国の地位に進み、列国は尊敬を致して続々大使を派遣するに至れり。然るに翻て理財の方面を顧れば、依然として片務的の議定書に束縛せらるゝこと前陳の如くなるは一等国として愧づべきの事に非ずや。加之日露戦役の為多大の経費を使用し、外債も巨額に上り、今後三・四ケ年の間には或は財政困難に遭遇するやも量られず。幸に今にして協定撤廃の計画其目的を達し、一切の輸入品に我が国定税率を適用することを得ば、国庫の収入は現在よりも約弐千万円の増加を来し、追年関税の総額五千万円以上に至るべきは必然にして、随て財政運用の途玆に大に開くべし。反覆考慮するに協定税撤廃を求むるの時期は今日を逸すべからず。
  然りと雖も我国の不利は即各国の利益とする所にして、仮令彼等
 - 第21巻 p.628 -ページ画像 
に於て我国の実力を認めたりとするも、自己の不利を顧みず有効期間内に協定の撤廃に同意するは容易の事にあらざるべし。果して然らんには之に対して我も亦相当の報酬を与へざるべからず。然らば如何なる報酬を与へば国家の為め不利を招くことなく且其の提案正当にして彼の同意を得るの望みあるや、曰く土地所有権を許与するにあり。
  土地所有権の問題たるや一時輿論囂々として之れを許可するの不可なるを倡へ、政府の方針も一時不許容説に帰着したるが如きも是れ畢竟絶対的の問題に非ずして寧ろ遅速の問題なるのみ。現に文明諸国は之れを他国人に許与して顧慮することなく、且之れが為め国家に危害を加へたるの例を聞かず。果して然らば次回の条約改正に当りては土地所有権問題は彼れより我に提議するや疑ふべからず。此時に際しては殆んど之れを拒絶するに口実なく或は無条件に之れを許与するの止むを得ざるに至るや測り知るべからず。因て寧ろ此際我より提議して協定税率の利益と交換するの優れるに如かず。世間或は杞憂論者なきに非ざるべしと雖も、外人が我法権に服してより既に数年の間支障を惹起したることなく、我国の人智は日々啓発して彼等に欺瞞せらるゝの恐れあるなし。且必要ある場合には土地収用法のあるあり、土地を外人が所有すると邦人が所有するとの間に逕庭なきを思へば、税権回収の報酬として之れを外人に許与するも敢て不可なかるべし。右三国中英国は已に我の同盟たり、独国も亦近来我に親善の意を表することを務めつゝある際なれば、今日の時期を利用して速かに交渉を開き協定税率撤廃を図るを得策とす。而して協定税率の外前に述べたる我が国定税則中彼の検束を受くる条項は、此の際に於て可及的之を改訂して税権の完全を期せんことを庶幾す。
                     松方正義 』
    第三款 明治四十四年以後の協定税率
 明治三十二年実施の条約は何れも十二箇年を期限としたるを以て、明治四十四年七・八月に於て全部失効となりしが、政府は之を機として締盟各国と新条約を結ぶこととし、四十四年四月の日米条約の締結を始めとして、英・瑞典・独・諾・西の五箇国とも期限前に批准交換を終へ其の他は期限後漸次改訂を了せり。新条約中協定税率を交換せるは、英・独・仏・伊の四箇国のみにして、他は単に最恵国条款の交換を為せるに過ぎざりき。此等の協定税率に就ては仍ほ多少の不利益をも存したれども、税率は片務的より双務的となり、且つ税目も大いに局限せられたり。即ち英国に対しては、ペ―ント・亜麻織糸・綿織物・毛織物・毛綿交織物及毛又は毛綿と絹との交織物・鉄類等、五税番中の五十七税目、独逸に対しては、革類・サルチルサン・塩酸キニーネ及硫酸キニーネ・人造藍・コールタール染料・毛織糸・毛織物・毛綿交織物及毛又は毛綿と絹との交織物・包装用紙及燐寸用紙・亜鉛瓦斯石油及蒸気機関・原動力機と結合したる発電機等十一税番中の十九税目、仏国に対しては、鰮油漬・天然バター・葡萄酒・シヤムパン阿列布油・石鹸・香油・香水・毛織物・毛綿交織物・自動車及其の部
 - 第21巻 p.629 -ページ画像 
分品等、十五税番中の二十二税目、伊国に対しては、缶詰の蔬菜・果物各種の麺類・ヴエルモツト及マルサラ・揮発油・帽子・鈕釦・水銀等九税番中の十六税目にして、旧条約時代百四品を約したるに比し、其の範囲大いに制限せられ、且つ税目の細分に依り更に不当なる不利益を予防することを得、且つ税率も一般に之を高め、又施行期間も之を短期に協定せり。今各国との協定税率を列挙すれば左の如し。
○中略
 右四箇国との協定税率中、日独協定税率は大正三年八月、日独国交断絶と共に効力を失ひ(但し大正三年九月法律第四十三号を以て、大正四年三月末日迄に輸入申告を為すものに対しては仍ほ協定税率を適用せり)、又日英協定税率は同十二年七月十六日満期となりしを以て之が廃棄の手続を執り、十四年三月十日を以て消滅したり。日仏協定税率は大正七年九月四日附仏国の廃棄通告に依り、翌八年九月九日限効力を失ふこととなりしが、両国間に同年九月十日以後新協定の成立若くは廃棄声明の効力発現迄は仍ほ現在の協定税率を三箇月毎に暗黙裡に更新存続せしむとの暫行取極成り(大正八年九月二十日外務省告示第十九号)、又日伊協定税率は大正六年十二月三十一日を期限とせしが期限に先ち一箇年の延期を約し、爾後之れ亦日仏協定と同趣旨により暫行取極を以て其の効力を存続せしめ来れり(大正五年十二月二十九日外務省告示第二十八号・同六年十二月三十日同第四十二号・同七年十二月二十七日同第二十三号・同八年七月十一日同第十五号・同年十月二日同第二十一号)。即ち大正末年現行の協定税率は対仏・対伊の両国分にして(但し他の諸国は最恵国条款により同一の利益に均霑す)其の品目は対仏国分十五品種二十二税目、対伊国分九品種十六税目なり。尚ほ日仏協定税率は所謂Sliding Scale Systemにして、国定税率に対し一定の歩合減を以て、之が税率と為すを以て、国定税率の改正ある場合は之に伴ひて変動するものにして、変更後五箇月を経て之を実施することとせり。