デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治28年9月27日（1895年）

是日第四回定期会第三日ノ会議ニ於テ、岡山商業会議所ノ提案ニ係ル、営業満期国立銀行継続案ノ儀ヲ建議・請願スルノ件上程サレ、栄一原案ニ賛成ス。該案二十九日第四日ノ会議ニ再ビ上程サレ可決サル。

明治二十八年九月開設
第四回商業会議所聯合会報告　　第四三―四四頁　刊
○第十六号議案
営業満期国立銀行処分案提出ニ関スル建議・請願ノ件
　（理由）継続案ノ可ナルハ既ニ世間公論ノ在ルアリ、今玆ニ複説スルヲ須ヒズト雖トモ、試ニ右継続ヲ希望スルノ理由ヲ概挙スレバ左ノ如シ
　　　　　三綱領
　　第一　不換ノ性質ヲ有スル銀行紙幣ヲ消却シテ兌換制度確立ノ旨趣ヲ厲行スル事
　　第二　紙幣発行機関ヲ一ニシ銀行制度ノ整理ヲ計ル事
　　第三　退縮抑制ノ条例ヲ去リ、自由行動ノ活路ヲ取リ、経済社会ノ進歩ト駢行スル事
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　　　　　三要目
　　第一　我国立銀行ノ組織ヲ変シテ私立銀行ニ継続セシムルハ過渡変遷ノ際極メテ円満ナル処分案ナル事
　　第二　財政上漸次紙幣消却ニ於ケル既定ノ方針ヲ貫達スル事
　　第三　継続案ハ多数国立銀行若クハ各実業団体ノ公論輿望タル事
　右等継続ノ理由アルニ拘ハラス、全国百三十有余ノ銀行悉ク満期ニ迫ルノ今日、尚継続処分法定ラスシテ営業満期後ノ措置及紙幣消却方法ノ成立スル事能ハサルノ悲境ニ陥ル事アランカ、啻ニ経済社会ニ於ケル変遷過渡ノ際ニ準拠スヘキ適応ノ規定ヲ欠クノミナラス、今日ノ国立銀行ハ銀行条例第十二条ニ依テ継続（処分法ノ継続ニアラス）又ハ解散スルノ外他ニ途ナキニ至ルヘキナリ、果シテ然レバ朝野従来ノ苦心モ徒ニ水泡ニ帰シ、其結果ハ却テ銀行ノ恐慌激変ヲ来シ、経済社会ヲ紊乱スルニ至ルモ亦知ル可ラサルナリ、仍テ今聯合大会ニ本案ヲ提出シ、満場一致ヲ以テ可決シ、各会議所ヨリ其筋ニ建議・請願シテ、議会開会ノ劈頭第一ニ該処分案ヲ提出シテ其措置ヲ定メン事ヲ請フハ目下ノ最急要務ナリ

明治二十八年九月開設
第四回商業会議所聯合会議事概録　　第三八―四一頁
　　　○第三日
九月廿七日午前十時五十分開議
　　出席、委員　○渋沢栄一外四十一名
○上略
　　第十六号議案　　（岡山提出）
　　　　営業満期国立銀行処分案提出ニ関スル建議・請願之件
第三十九番（光藤亀吉君）　此議案ニ付キテ少シ御断リセン、本会ニハ高田副会頭列席スル筈ナリシガ、都合ニ依リ突然本員ガ代ツテ来リタルヲ以テ、充分ノ説明ヲナス能ハス、書記長山羽協一氏ヲシテ其任ヲ尽サシメントス、同氏ハ銀行ニ就キテノ事実ヲモ知リ居ルナリ、右御承知ヲ乞フ
岡山書記長（山羽協一君）　此事タル、理由書ニ在ルカ如ク年来重要ノ事柄ニシテ、政府ニ於テハ之ヲ私立銀行トシテ継続セシムルノ案カ出来テ居レリ、之ニ対シテ延期案即チ明治三十年ヨリ今十年間モ延ハストノ延期説アル、然ルニ我国銀行ノ制度ハ当初「ナシヨナルバンク」ノ形ニ拠リ、特権特立ノ制ヲ採リタル米国ノ制度ニ則リタルガ為メ、我国ノ紙幣ハ不換紙幣ガ多クシテ、紙幣ガ錯雑ニナリ、種々ノ弊害ヲ生シ、加フルニ明治十年西南戦役後ノ変動ト云ヒ、又段々世運ノ進歩ヨリシテ、十三・四年頃ヨリ大ニ銀紙ノ変動ヲ起シ頗ル困難セル所アリシヲ以テ、欧羅巴ニ行ハルヽ中央銀行制度ニ改ムルノ必要ヲ感ジ、同十六年ニ其制度ヲ確定シ、日本銀行ニ紙幣発行統一ノ権ヲ有セシメ彼ノ国立銀行条例ノ改正ヲ発布シタリ、爾後逐々改正シタルガ、其第十二条ノ営業期限ハ免許ノ日ヨリ二十ケ年継続スルヲ得ベシト規定シタルモノニシテ、期限後尚ホ営業セントセハ私立銀行トシテ大蔵大臣ノ特許ヲ得サルベカラス、且ツ紙幣消却ノ方法ヲ定メ漸次消却シテ解散迄ニハ悉ク消還シ終ラザルベカラズト云フ都合ナリキ、斯ノ如クニ
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シテ銀行制度ハ規律ガ立チ、日本銀行ハ紙幣発行唯一ノ機関トナリ、漸次不換紙幣ヲシテ兌換銀行券ニ改メルノ方針ヲ以テ着々実行シタルガ故ニ、当業者モ大ニ利便ヲ感シ居タリ、然ルニ営業期限ハ爰両三年ニ差迫リタルヲ以テ此間ニ何トカ方案ヲ立テサルベカラズ、之レガ為メ政府ハ既ニ処分案ヲ提出シタル訳ナルガ、兎ニ角今十年モ延期セサレハ到底紙幣消却ノ勘定ガ出来ズ、之レガ実際ニ為シ得ラレスハ矢張リ第十二条ノ実行ヲ完フシタルモノト言フベカラストノ点ヨリ、種々ノ議論アリテ、政府案モ其儘ニナリ、荏苒今日ニ至リ、尚ホ徒ラニ議論スルノミニシテ何等ノ処置ヲモ為サスシテ経過セハ、已ヲ得ス現行法ノ第十二条ニ依リテ処分セラルヽノ外ナシ、若シモ斯ル場合ニ至レハ紙幣ノ消却モ終ルヲ得スシテ非常ニ困難スルコトニナルナリ、故ニ此際政府ガ特殊ノ恩典ヲ以テシタル処分案ノ如ク、之レガ継続ヲ許スコトヽナレハ、全国百三十有余ノ銀行ハ無事ニ継続スルヲ得テ安全ニ其責ヲ果スコトヲ得ベシ、是レ今日民間ノ輿望ニシテ、已ニ夫々請願ヲモ為シタルコトナレハ、最早喋々論議スルヲ要セサルガ、御承知ノ如ク之レニ就テハ各地方当業者ノ意見ヲ徴シタルコトモアリ、当時種種ノ説アリ、殊ニ四国・中国ノ如キハ延期説ヲ採リシガ、今日ニテハ皆ナ其非ヲ悟リテ継続説ヲ採ルコトニナリ居レリ、現ニ我岡山ニ在テモ先ニ延期ヲ希望シタルモノガ、今日ハ継続説ニ同意ヲ表スルコトニナレリ、願クハ諸君ハ継続説ニ一致シ、第九議会ニ向ツテ請願スルコトニ致シタシ、之ヲ御相談センガ為メニ本案ヲ提出シタル次第ナリ、其利害等ハ一番ノ如キ多年斯業ニ従事セラルヽ御方ノ能ク知ラルヽ所ナルヲ以テ最早之ヲ贅セス、満堂一致ヲ以テ本案ヲ可決セラレンコトヲ希望ス
第二十七番（三浦碧水君）　本員モ賛成ス、是レハ已ニ衆議院ニ於テモ可決シ、只貴族院ノ拒ムノミ、勿論各会議所ニ於テモ素ヨリ同意ノコトナラン
第一番（渋沢栄一君）　此事ニ関シ本員ハ関係尤モ密ナリ、会員トシテハ如何ト思フガ、密接ノ関係ヲ有スル本員ナレバ玆ニ少ク銀行者ノ希望ヲ述ン、此問題ハ世間ニ流布シテ明カナレハ昨年来ノ経過如何ハ省キ、今提出者ノ説明ニ就テ行掛リヲ述ベントス、即チ延期説ト継続説トカ戦争セシハ其通リナルモ、其内ニ若シ十二条ニヨリテ処分セラルルニ至ラハ云々トアリシガ、十二条ノ如キハ現在ノ法律ニテハ百万ノ銀行ガ大多数ヲ以テ決スルトモ到底行ハレサルナリ、今此案ガ行ハレサレバ意地悪ルト云フ慾張リノ為メニ銀行モ横道ニ行クナリ、況ンヤ百三十三条中ニ解散云々ノ事アリ、人意的ニ継続シ尚ホ解散スルハ何人モ其利害ノ点ヲ知ルナリ、又十二条ノ為メニ紙幣消却云々ノ事ヲ云ハレシカ、山羽氏ノ説ハ不可ナリ、之レハ政府ノ説ニアラス且ツ恩典ニモ非サルナリ、蓋シ継続説ハ何レニシテモ政府ノ主意ニ適フモノカ我カ政府ハ初メハ米国ノ制度ニ則リシガ、其後英国ノ制度ニ変シタリ其頃ヨリ以前発行セラレシ紙幣ヲ消却セント企画セシガ、容易ニ其目的ヲ達スルニ至ラサリシヲ以テ、満期ノ後ハ各国立銀行ノ拘束ヲ解キ自由ニ営業セシムレハ紙幣統一ノ事モ出来テ、自然経済社会ノ一大進歩ヲ為スベシトノ意ナリ、若シモ然セサルニ於テハ政府モ当初ノ方針
 - 第22巻 p.42 -ページ画像 
ヲ変ヘサルベカラスト雖トモ、此事タルヤ実ニ困難ナリ、故ニ継続説ヲ採リシモノナリ、又一方ニテハ延期説ヲ可トスルモノアリ、其事ニ曰ク、仮令ヒ十六年ニ改正セシニモセヨ六年ヤ十年位ハ延期スルモ可ナラン、此ク困難ニ陥ラシメザルモ可ナリト、此等ノ諸説ハ未タ双方成立セス、要スルニ岡山員外ノ説ニ拠レバ、延期説ト継続説トニ付キテ、其延期説ハ邪ニシテ継続説ハ正ナルガ如クニ謂ハレタルモ、敢テ然ラス、外観ニテハ何レニテモ可ナルカ如キモ、行掛ノ有様ヨリ見レハ継続ニナルモ自己ノ都合ヲ能クセントスルハ不可ナルヲ以テ、国家的ニ成立ノ容易ナル方ニセザルベカラス、丁度昨年ヨリ延期説モ挫折シ、又満期モ近キニアリ、此時ニ何レトモ成立ヲ求メルガ宜シ、故ニ東京ニテハ継続説ヲ賛成スル摸様ニシテ、且ツ又各地方ヘモ賛同セシメントスル主意ナリ、此レハ決シテ延期説ヲ不道理ナリト云フノ故ニアラス、若シ延期・継続両ナカラ失フトキハ大変ナルガ故ニ、之ヲ継続トセハ世上ニ不同意ナカラントテ賛成シタルモノアリ、銀行ノ意思ヲ陳フルガ如キハ如何ナルモ、之レモ御承知ヲ願ヒタキガ為メナリ、其辺ハ悪シカラズ御了知ヲ乞ヒタシ、之ヲ商業会議所員トシテ云ヘハ不得已場合ニハ政府案ニ同意スルノ外ナカルベキモ、事実ハ斯ノ如クナルヲ以テ、絶対的之レニ同意スル能ハズ、即チ大体ニ於テ賛成ノ意ヲ表スルニ過キザルナリ
第十九番（川喜多四郎兵衛君）・第二十四番（稲生治右衛門君）ハ大体ヲ賛成ス
会長（奥田正香君）　大体ハ他ニ異議ナキヲ以テ可決ス、明後日第二読会ヲ開カン

明治二十八年九月開設
第四回商業会議所聯合会議事概録　　第七三―七四頁　刊
　　　○第四日　〇九月二九日午後零時四〇分再開
○上略
会長（奥田正香君）　是ヨリ本会ヲ継続ス、国立銀行条例中改正案ノ第二読会ヲ開ク
　書記長朗読
　　　（議案省略ス）
岡山書記長（山羽協一君）　本案ハ第一次会ニ我国金融機関ニ対シ円満ナル処置トシテ満場一致ヲ以テ之ヲ可決セリ、今更其理由ニ就キ討議スルノ要モナシ、唯速ニ議決シテ第九議会ノ開会第一ニ提議スルニ至ラシメン事ヲ希望シ、其理由ヲ改メタリ、敢テ御賛成ヲ乞フ
第十九番（川喜多四郎兵衛君）　只今朗読ニナリシハ提出者ノ訂正シタルモノカ
会長（奥田正香君）　然リ
第一番（渋沢栄一君）　此訂正ハ穏当ナラン、故ニ二読会・三読会ヲ兼ネテ可決セラレン事ヲ望ム
第四十五番（下田耕造君）・第三十八番（横江清次郎君）・第二十四番（稲生治右衛門君）ハ各一番ニ賛成ス
会長（奥田正香君）　然ラバ原案ニ決シ、之ヲ以テ確定トス