公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15
第22巻 p.49-57(DK220016k) ページ画像
明治28年9月29日(1895年)
是日第四回定期会第四日ノ会議ニ於テ、名古屋商業会議所ノ提案ニ係ル、商法第六章第百七十五条改正ノ儀ヲ開申・請願スルノ件上程サレ、栄一会長トシテ議事ヲ司宰ス。該案原案通リ可決サル。次イデ栄一参会員トシテ、東京商業会議所ニテモ法典調査中ナルニヨリ、商法ノ実施ニナラザル部分ニ就キテノ意見又ハ疑点アラバ之ヲ同調査会ニ呈出サレタキ旨ヲ述ベ、法典調査委員タル松波仁一郎ヲ会員一同ニ紹介ス。
明治二十八年九月開設 第四回商業会議所聯合会報告 第五四―五六頁 刊(DK220016k-0001)
第22巻 p.49-50 ページ画像
明治二十八年九月開設
第四回商業会議所聯合会報告 第五四―五六頁 刊
○第二十五号議案
商法第六章第百七十五条修正ノ件
商法第百七十五条「各株式ノ金額ハ会社資本ヲ一定平等ニ分チタルモノニシテ弐拾円ヲ下ルコトヲ得ス、又其資本拾万円以上ナルトキハ五拾円ヲ下ルコトヲ得ス」トアルヲ「又」以下ノ二十五字ヲ削除セラレン事ヲ農商務・司法両大臣ヘ開申シ、及ヒ貴衆両院ニ請願スル事
(理由)商法第百七十五条ノ末項ニ於テ株式会社ノ資本金額拾万円以上ナルトキハ株式金額少クモ五拾円ヲ下ルコトヲ得スト規定セラレタルハ、蓋シ株式ヲ細分スルトキハ徒ラニ繁雑ヲ加ヘテ事業ノ進行ニ妨アルヘキヲ慮リ特ニ制限ヲ定メラレタルモノヽ如シ、立法ノ精神果シテ斯ノ如クナラハ、資本金額ノ多キヲ加フルニ随ヒ其制限モ自ラ之レニ伴ハサルヘカラサルハ当然ノ事ナルヘシ、然ルニ同条ニ於テ拾万円以上ハ五拾円ヲ下ルコトヲ得スト規定セラレタルノミニシテ、其五拾万円、百万円乃至千万円以上ニ至ルモ曾テ株式金額
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ニ於テ制限ヲ加フル処ナキハ如何ナル理由ナルヤ、其拾万円ヲ限度トシテ以上以下ノ区別ヲ設ケ、以テ株式金額ノ制限ヲ設ケタルヤヲ疑ハサルヲ得サルナリ、実ニ同条ノ如クンハ拾万円以下ノ会社ニ於テハ制限ノ範囲ヲ尽スモ尚ホ弐拾円ノ株式四千九百九十九株(即チ資本金額九万九千九百八拾円)ニ過キサルモ、若シ夫レ拾万円以上ノ会社ニ於テハ仮リニ百万円ノ資本金額トシテモ五拾円ノ株式弐万株ノ多キヲ致シ、更ニ千万円ノ資本トスレハ弐拾万株ノ多キニ至ルヘキ割合ナリ、況ンヤ其千万円以上ノ巨額ナル場合ニ於テオヤ、抑モ株式ノ細分ヲ避ケントシタル同条ノ制限ニシテ斯ル場合ヲモ尚ホ忍ブベクンハ、拾万円ヲ限度トシテ株式金額ヲ弐拾円・五拾円ト区別シタルノ必要ハ果シテ何レニアルヤ、寧ロ株式金額ノ制限ハ其最低度ヲ弐拾円ト定ムルノミニシテ、其以上ニ於テ少シモ制限ヲ加フル処ナク、適宜ニ之ヲ応用セシムルニ若カサルナリ
近頃ロ新設ノ株式会社ニシテ往々七万円・八万円乃至九万何千円ト云ヘルカ如キ端数ノ資本金額トナスモノ往々之レアリ、是等ノ新設会社ニ於テ其資本ヲ拾万円トスルハ計画上極メテ便利アルヲ知ルモ同条ノ制限アルカ為メ已ムヲ得ス端数ノ資本金額トナスニ過キス、斯ノ如キハ実際ノ不便思フヘキナリ
株式ヲ細分スルノ利害ハ敢テ多言ヲ要セサルモ、試ミニ事実ヲ徴セヨ、商法実施以来東京・大坂両株式取引所ノ如キ株式ヲ細分シテ百円株ヲ五拾円株ニ改メタルモノ比々是アルヲ見ルモ、未タ曾テ五拾円株ヲ百円株ニ改メタルモノ一モ之アルヲ聞カス、又タ日本紡績会社ノ如キ資本金額弐百万円ノ大会社ニシテ商法実施前ニ設立サレシカ為メ幸ニ本条ノ制限ヲ免レ、今日尚ホ弐拾五円ノ株式ナリ、而シテ是等諸会社ハ株式金額ノ少キカ為メ繁雑ヲ来シ事業ノ進行ニ妨ヲナシタル事ナキノミナラス、却テ株式ノ運用上ニ便利ヲ与ヘ資本家ノ間ニ歓迎セラルヽニアラスヤ、此点ヨリ考フルトキハ株式ヲ細分スルハ資本ヲ聚合スルニ於テハ最モ便益アルモノト謂ハサルヲ得ス今ヤ経済社会ノ気運ハ大ニ資本ヲ聚合シテ新事業ヲ施設セントスルニアリ、而シテ一方ニハ軍人軍属ノ行賞アリテ小資本ノ地方ニ散スルモノ今後多キヲ加フルアラントス、斯ル場合ニ於テ巧ミニ資本ヲ聚合シ以テ有利ノ事業ニ資セント欲セハ、同条ノ末項ニ規定セル如キ無益ノ制限ヲ除キ、豁大ナル範囲ニ於テ縦横ノ働キヲナサシムルハ商工業ノ発達ヲ期スルニ於テ極メテ必要ノ業ナリト信シ、敢テ本案ヲ提出ス
提出者 名古屋商業会議所
賛成者 岡山商業会議所
同 岡崎商業会議所
同 静岡商業会議所
同 豊橋商業会議所
同 知多商業会議所
同 四日市商業会議所
明治二十八年九月開設 第四回商業会議所聯合会議事概録 第五四―六三頁 刊(DK220016k-0002)
第22巻 p.50-57 ページ画像
明治二十八年九月開設
第四回商業会議所聯合会議事概録 第五四―六三頁 刊
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○第四日
九月廿九日午前九時開議
出席、委員 ○渋沢栄一外三十八名
○上略
第二十五号議案 (名古屋提出)
商法第六章第百七十五条改正ノ件
第二十一番(奥田正香君) 本案ハ我名古屋商業会議所ノ提出案ニシテ理由ハ既ニ明記スルガ如シ、敢テ喋々ヲ要セサルガ、尚ホ大体ノ主意ヲ陳ベン、商法ノ規定ニ拠レバ株式会社ノ資本金拾万円以下ナルトキハ壱株ノ金額弐拾円ヲ下ルヲ得ス、拾万円以上ナルトキハ五拾円ヲ下ルヲ得ストアリ、其何等ノ原因アリテ然ルヤハ知ルヲ得スト雖トモ、実際此規定アルガ為メニ、商業ノ発達ヲ妨クルモノト認ムルナリ、何トナレハ壱株ノ金額ヲ少額ナラシメ、多数ノ株主ヲ集メテ会社ヲ起サンコトヲ企ツルモノアルモ、其資本ノ総額拾万円ヲ超過スルニ於テハ必ラス此規定ヲ遵奉シテ、壱株ノ金額ヲ五拾円ツヽニ分タサルベカラス、故ニ之レニ応シテ株主タラントスルノ輩モ勢ヒ其金額ノ為メニ躊躇スルアルヲ免レサルハ往々目撃スル所ノ事実ナリ、其資本金ヲ九万五千円若クハ九万八千円等ノ端数ニシテ之レガ設立ヲ為スモノヽ続々勃興スルハ則チ其困難ヲ避ケントスルニ外ナラス、若シモ斯ル分界ヲ立ルヲ以テ必要ナリトセハ、其拾万円以上ハ五拾円ヲ下ルヲ得ストアルニ対シ、百万円以上ハ百円ヲ下ルヲ得スト規定シテコソ然ルベキニ唯ダ拾万円ヲ以テ之ヲ区別スルガ如キハ甚タ其意ヲ解シ得サルガ、併シ之レガ最低ヲ制限スルハ敢テ不必要トスルニアラス、故ニ此規定ヲ修正シテ、其資本金額ノ多少ヲ論セス単ニ壱株ノ金額ハ弐拾円ヲ下ルヲ得スト云フコトニ為セハ、応募者モ大ニ利便ヲ得テ自ラ会社事業ノ発達スベキヤ知ルベキノミ、株式組織ノ要ハ株式ヲ細分シ汎ク資本家ヲシテ応募セシムルニアレバナリ、之ヲ事実ノ上ニ徴スルモ第一国立銀行ノ如キハ今ヨリ数年前ニ於テ其百円株ヲ五拾円株ニ改メタリ、商法実施ノ後ニ在テハ東京・大阪両取引所ノ如キ亦其株式ヲ細分シテ百円株ヲ五拾円ニ改メタルガ、未タ曾テ五拾円株ヲ百円株ニ改メタルモノアルヲ聞カス、又日本紡績会社ノ如キハ其資本金額弐百万円ノ大会社ナルニモ拘ハラス、其株式ハ弐拾五円株ナリ、之レハ商法実施以前ニ設立シタルガ故ニ此規定ヲ免レタルモノニシテ、今日尚ホ之ヲ便利トシ既設会社タルノ幸運ト為ス実例已ニ斯ノ如シ、殊ニ戦後ノ今日各地ニ勃興セントスル株式会社ニ於テモ、幸ニ弐拾円乃至弐拾五円ノ株式ヲ以テ設立スルヲ得ハ、何程資本ヲ多クスルモ充分ナル資本家ヲ集メルコトヲ得テ、自ラ会社ノ目的ヲ達スルニ容易ナルベキナリ、聞説ラク、這般戦功者ノ賜金ハ貯金ノ通帳ヲ以テスト、政府ガ其意ヲ須ユルノ厚キ吾人ガ敬服シテ禁マサル所ナリト雖トモ、時運ノ進化ハ此等行賞ニ充ルニ其地方ニ関スル鞏固ナル鉄道会社等ノ株式ヲ以テスルノ得策ナルヲ知ラサルベカラス、左ナクトモ地方ニ散スル小資本ヲ聚合シテ是等有利ノ事業ニ資センニハ、亦株式ヲ細分シテ単ニ之レカ最低ヲ弐拾円ニ止メ置クヲ便利トス、且夫戦後ニ於ケル殖産興行ノ大機関トシテ興業銀行ヲ設立セントスル計画アリト云ヘリ、即チ各地小銀行
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ノ上ニ置クコトニナルベシ、果シテ然ルトキハ其資本ヲ分担スルニモ弐拾円乃至弐拾五円株ヲ以テセハ、一般ニ之ニ応スルコトヲ得テ大ニ便利ナリ、要スルニ会社ヲシテ安全ナラシメンニハ多数ノ株主ヲ求メ一致以テ事ニ当ラザルベカラス、会社ヲシテ盛大ナラシメンニハ多額ノ資本ヲ集メ鋭意以テ事ニ当ラサルベカラス、其之ヲ為スモノ唯ダ此無要ノ制限ヲ解キテ広漠タル無限ノ範囲ニ自由ノ働キヲ為サシムルニアルナリ、即チ戦後ノ今日商工業ノ発達ヲシテ敏速ナラシムルニ必要ノ好手段ト認メ玆ニ本案ヲ提出セリ、幸ニ御賛成ヲ得タシ
第十八番(貝塚卯兵衛君) 此案ニ対シテハ別ニ質問ヲ要セス、直チニ賛成ヲ表ス、提出者ハ道理上ヨリ縷々陳弁サレタルガ、其道理上ハ扨置キ、事実上最モ必要ヲ認ムル処ニシテ、即チ我地方ノ如キ少資本家ノ多数ヲ占ムル部落ニ於テハ殊更ラ必要ヲ感ズルモ、奈何セン此制限ヲ超過スル時ハ其株式ヲシテ大ナラシメザルヲ得ズ、故ニ将ニ起ラントスルノ大会社モ遂ニ其志望ヲ達スルニ至ラスシテ、空シク蟄伏セザルベカラス、且之ヲ一己人トシテ見ルモ、近時会社事業ノ必要ヲ感スルト共ニ、孰レモ其株式ヲ尊重シ殆ント通貨ノ如ク、今日求メテ明日売ルト云フガ如キ運用ノ自在ナルモノナリ、然レハ其株式ノ金額ニシテ小ナルヲ得ハ、大ニ商工業ノ発達ヲ助成スルノミナラズ、一己人トシテモ其利便ヲ得ルコト亦尠シトセス、即チ事実上ニ於テモ此拾万円以上ハ五拾円ヲ下ルヲ得ストノ文字ヲ削ルノ必要ナル所以ナリ
第十四番(須永信夫君) 斯ル不便ヲ感シテ建議セントスル以上ハ定メテ其希望ヲ達シ得ントノ見込ミナカルベカラズ、又夫レニ就テハ何ノ為メニ斯ル制限ヲ設ケタルヤヲ調ベサルベカラス、夫等ハ提出者ニ於テ其筋ヘ伺ヒタルコトアルヤ
第二十一番(奥田正香君) 素ヨリ商法ハ其法文ノ漠タルガ為メニ自ラ解釈ノ区々ナルヲ免レサルガ、併シ斯ルコトヲ伺出テタリトテ指令ニナルモノデナシ、蓋シ是等制限ノ必要ハ繁雑ヲ来タシテ自然不都合ヲ生セントノ懸念ヨリ起リタルモノナランガ、其資本金ヲ拾万円以上ニシテ弐拾円株ニスルモ唯タ株数ヲ多クスルノミナレハ毫モ不都合ヲ生スルコトナシ、啻ニ之レナキノミナラス、前既ニ説明シタル如ク折角ニ拾万円以上ノ大会社ヲ起サントスルモ、此制限アルガ為メニ大ニ困難ヲ感シ、却ツテ九万九千余ト云フ資本ニ止メルガ如キ見苦シキコトアリ、且ツ各自株式ノ運用上ニモ大不便ヲ感シツヽアルナリ、事実已ニ如此シ、商法ノ制限ハ毫モ利スル処ナク唯ダ不便ヲ実業社会ニ与フルモノト謂ハサルベカラズ、之レガ意見ヲ其筋ニ開申シ幸ヒニ事実ヲ詳ニスルヲ得ハ必ズヤ之レヲ採用スルニ吝カナラサルコトヽ思考スルナリ、嘗テ其筋ヘ伺ヒタル等ノコトハナシ
第九番(亀岡徳太郎君) 要スルニ株券面ヲ五拾円以上トスルノ規定ヲ省キテ、単ニ弐拾円以上トスルダケニ修正ヲ加ヘタシトノ希望ニシテ仮ヘ会社ニ直接之レガ必要ナシトスルモ、株式市場ニ売買転輾スルニハ株券面ノ少額ナル時ハ大ニ便利ナラン、提出者ハ頻リニ此制限アルガ為ニ拾万円ノ資本ヲ以テスベキモノデモ九万何千円ニ止メルト云フ見苦シキ事アリト説明セリ、夫等ハ何レデモ宜シキガ便利ト云フニ至テハ修正シタル方ガ宜シカラン、又日本紡績会社ノ実例ヲモ引証セリ
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之レハ素ヨリ商法実施以前ノコトニテ其季節ヲ異ニスルモノナルガ、併シ其事実上ニ於テハ弐百五拾円ノ一株ヲ以テ十株ニ分チ以テ市場ニ売買シツヽアルモノナリ、是等ノ点ヨリ見レハ或ハ反対ノ感ナキニアラサルモ、此案ニシテ其意ヲ果シ得ルノ暁ニハ多少ノ利スル処ハアルベシト認ムルガ故ニ、本員ハ大体ノ主意ニ対シテ之レニ賛成ヲ表シ置カン
第十番(大西五一郎君) 株主会議ハ権利個数ノ多少ニ依テ決スルモノナルガ、自然夫等ノ整理上ニ関係ヲ及ホスコトナキヤ、何ニカ調ベアラハ承リタシ
第二十一番(奥田正香君) 別ニ斯ル調査ナキガ、日本鉄道会社ノ如キハ三千万円ノ資本ニシテ其株主ハ多数ナルモ、未タ嘗テ之レガ整理上ニ一大困難ヲ感シタルヲ聞カズ、若シ是等ノ大会社ニシテ困難アリシトセンカ、蓋シ株主ノ多数ナルガ為ニアラズ、他ニ事情ノアルアリテ然ルナリ、又帝国商業銀行ノ如キハ最初其株式ヲ各地ノ取引所ニ分割シ、取引所ハ之ヲ其株主ニ分配シタルモノナルガ故ニ、株主ノ各地ニ散在スルモノ極メテ多キニモ拘ハラズ、已ニ第一総会ヲ開キタル節モ遠方ノ株主ニハ委任状ヲ送ル等夫々ノ手続アリテ、整理上別ニ混雑ヲ生シタル如キコトアルヲ耳ニセズ、由之観是、其株主ノ多数ハ敢テ苦シムニ足ラサルナリ、而シテ只今九番ハ日本紡績云々アリシカ、之レハ其資本金ノ多キガ為ニ引例セリ、併セテ一言ス
第四番(萩原彦七君) 此事タル各地商工業ノ状況ニ依リ自然其趣ヲ異ニスルモノニシテ、例ヘバ彼ノ東京・大阪ノ如キハ五拾円株ハ少ナキニ過ルヲ以テ、更ニ百円株ニ改メントスルノ傾アリ、然レハ必スシモ全体一括ノ下ニ決スルヲ得ザルコトナレトモ、其地区ニ依リテハ或ハ必要ヲ感スル所アラン、故ニ敢テ反抗ヲ要セス先ツ之レヲ賛成セン
第二十一番(奥田正香君) 成ル程大阪市立銀行ノ如キ其他巨額ノ株式ヲ適切ナリト認メル地区ニ在テハ或ハ不必要ナランカナレトモ、我地方ノ如キ少額ノ株式ヲ以テ便利トスル田舎地方ニアリテハ、大ニ之レガ必要ヲ感ズルナリ
第二十七番(三浦碧水君) 大賛成ナリ、大体制裁ノ要ハ幾分ノ弊害アルヲ防クニアリ、而シテ此株式ニ於ケル之ヲ弐拾円株ニスルモ何等弊害アルヲ見ズ、已ニ弊害ナシトセハ便利ニ就クニ於テ何ノ差支カ之アラン、故ニ原案ニ賛成ス
第二十四番(稲生治右衛門君) 聊カ不同意ナリ、然シ絶対的反対ニハ非サレトモ、熟ラ近時各地ニ会社ノ続々設立セラルヽヲ観ルニ、中ニハ投機的会社、即チ株式ヲ市場ノ売買ニ供スルヲ主トスル如キ会社ナシトセス、若シモ斯ル会社アランニハ、其株式ヲ細分スルガ為メニ却ツテ市場ヲ惑乱スルノ基トナラン、是レ平素大ニ慷慨ニ堪エサル処ナリ、故ニ大体賛同スルモノナルガ、斯様ノ弊害アランコトヲ恐ルヽガ為メニ之レニ反対ス
第十四番(須永信夫君) 諸君ノ説明ニヨリ大ニ了解セシガ、凡ソ国ノ大法典ヲ改正セント欲セバ、予メ之レガ詳細ノ調査ヲ遂ケサルベカラズ、其調査ヲ為スニハ相当ノ時日ヲ要スルヲ以テ、本案ハ宿題ニセラレンコトヲ希望ス
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第三十四番(安田和助君) 採決ヲ要ス
第三十番(中村藤吉君)・第四十五番(下田耕造君)ハ原案ヲ賛成ス
第三十四番(安田和助君)・第六番(中村栄助君)・第十一番(柴谷武次郎君)・第三十七番(水登勇太郎君)ハ各十四番ノ宿題説ヲ賛成ス
第二十四番(稲生治右衛門君) 前説ヲ取消シ、更ニ十四番ニ賛成ス
大阪書記長(浜田健次郎君) 私ハ実業者間ニ斯ル議論ノ現ハルヽヲ喜フモノニシテ、即チ本案ノ主意トスル所ハ大賛成ナリ、元来日本経済社会ニ於ケル法則トシテ行ハルヽ此種ノモノハ西洋各国ノ摸型ニシテ物価ノ高キ生活ノ程度ヲ異ニスル所ニテ行ハルヽモノヲ其儘日本ニ輸入シテ用ユルモノ多シ、株券ノ如キ亦然リ、彼等ガ其国内ニ在テ組織スル株式会社ハ大資本ヲ投スルヲ以テ常トナスガ故ニ、其株券モ随ツテ金額ノ大ナルヲ便利トス、之レニ対シテ行ハルヽ所ノ法則ニ摸倣シテ、之ヲ日本ノ実業社会ニ応用スルモノナレハ、日本ノ民度ニ適セサルモノ多キヤ知ルベキノミ、故ニ商法発布ノ当時ニモ既ニ其意ヲ得サルモノアリキ、日本現今ノ民度ハ西洋各国ノ如ク大資本ヲ有スルモノ少クシテ、所謂生活ノ程度ハ彼国民ニ数歩ヲ譲ルベケレハナリ、然レハ此不適当ナル株券ニ関スル規定ニ対シ、当局者ニ向テ之レガ改正ヲ促スニ何ノ躊躇スル所カ之レアラン、抑モ株式会社ナルモノハ成ルベク株式ヲ細分シ、小資本ヲ集メテ大資本ニ満スコトヲ必要トセサルベカラズ、会社ノ内部ニ諸種ノ弊害ヲ醸生スルハ、大資本家ガ大株主トナリテ会社ヲ自由ニ為スヨリ起ルモノナリ、故ニ是迄株式ニ手ヲ触レサルモノニモ能ク株式ノ価値ヲ知ラシメ、競ツテ之ヲ所有セシムルヲ要ス、然ルトキハ自カラ財産ヲ貯フルコトヲ得ルノミナラス、大株主ガ専横ノ弊害ヲ防クノ一手段トモナルベシ、是等ノ点ヨリ見ルモ株券ヲ五拾円以上トスルハ、日本物価ノ安キ生活程度ノ低キニ比シテ高キニ過ルノ不可ナルコトヲ知ラサルベカラス、英吉利ノ如キ何百万磅ト云ヘル大資本ヲ要スル鉱山事業ノ株式ニ於テモ或ハ壱磅ヲ以テスルアル、何レニシテモ此制限ヲ低クスルノ便利ナルコトハ疑フベカラサル事実ナリ、故ニ本案ハ満場ノ御賛成ヲ得テ成立タンコトヲ希望ス
会長(渋沢栄一君) 討論尽キタルカ如シ、玆ニ採決セン、原案賛成者ノ外ニ宿題説アリ、先ツ之レヨリ決セン、宿題トスルニ同意者ハ起立
起立 少数
会長(渋沢栄一君) 少数ナリ、成立セス、依テ大体ヲ可決ス
第十四番(須永信夫君) 採決ニ異議アリ、苟クモ国ノ法典ヲ可否スルニハ能ク調査ヲ遂ケサルベカラス、然ルヲ宿題説ガ成立タサレバトテ直チニ原案ニ決スルガ如キ会長ノ処置ニハ服スル能ハス、宜シク賛否ヲ起立ニ問フテ決スベシ
会長(渋沢栄一君) 然ラハ要求ニ応ジ更ニ起立ヲ試ミン、原案賛成者ハ起立
起立 多数
会長(渋沢栄一君) 全ク原案ニ決ス、尋ヒテ第二読会ヲ開カン、朗読ハ省ク
第四十二番(徳永安兵衛君) 本員ハ原案ニ賛成ヲ表ス、之ヲ単ニ弐拾円以上ニ制限スルハ大ニ其当ヲ得タルモノナリ
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第十四番(須永信夫君) 本員ハ一層ノ便利ヲ与ヘン為メ、之ヲ拾円以上ト云フニ制限シタシ、弐拾円以上ノ制限タル、吾地方ノ如キハ尚ホ其多キニ過クル所アレバナリ、斯ク修正ス
第十八番(貝塚卯兵衛君)・第四十五番(下田耕造君)・第十七番(伊藤伝七君)ハ原案ヲ翼賛ス
第四番(萩原彦七君) 議論ノ主意ハ大同小異ニ止ルヲ以テ、最早敢テ贅言ヲ吐クノ必要ナキノミナラス、却テ議事ノ進行ヲ妨クル処アルヲ以テ、須ク議長ノ特権ニ依リテ制裁ス可シ
会長(渋沢栄一君) 採決セン、十四番ノ修正説アルモ賛成者ナキヲ以テ成立セス、即チ原案ニ決ス、且ツ第三読会ヲ省略シ、之ヲ以テ確定ト為ス、玆ニ於テ御約束ノ如ク会長ノ交替ヲ願ヒタシ
(此時交替シ第二十一番会長席ニ復ス)
第一番(渋沢栄一君) 此場合ニ御披露ヲ要スルコトアリ、陳ベテ差支ナキヤ
会長(奥田正香君) 差支ナシ
第一番(渋沢栄一君) 然ラハ諸君ニ報導セン、予テ法典ノ調査ニ就キ我東京商業会議所ハ一案ヲ調査シ、明治二十六年九月神戸ニ於テ開設サレタル商業会議所聯合会ニ提出シテ諸君ノ賛成ヲ得シ事アリシガ、東京ニテハ調査委員ヲ置キ、毎週調査会ヲ開キ、今尚ホ調査シツヽアリテ、已ニ民法ハ大体調査ノ草案モ出来、昨今ハ商法ノ未タ実施ナキ部分ニ移ル趣ナリ、其起草委員タル梅謙二郎君ハ我東京商業会議所ノ特別会員ナルガ、尚ホ実地ノ経験ヲ承知シタシ、已ニ夫々聞キタル所アルモ未タ充分ナルコトヲ承ラス、故ニ聯合会ノ諸君ニ打合ハシ、商法ノ実施ニナラサル部分ニ就テノ御意見且ツ御疑点アレバ同委員又ハ同調査会ヘ向ケ成ルベク早ク御呈出アリタシトノ文通ヲ得タリ、尚ホ梅君ノミナラス其他同位地ノ人々ヨリモ同様ノ希望アリ、玆ニ其手続ヲ斯様ニスベシトハ申兼ヌルガ、東京商業会議所ニテモ成ルベク夫々取調ベテ早ク呈出セントスル都合ナレハ、各会議所ニ於テモ実地ノ御経験ニ就テ成ルベク早急御呈出ニナル様希望シ置クナリ、尚ホ過日来同法典調査委員タル松波仁一郎君ガ大阪地方ニ公用ヲ帯ビ留在中ナレバ、一応同氏ヲ招還シ以テ同調査会ノ意見及ビ之ガ事情ヲ報ゼシムベシトノ来電アリシヲ以テ、大阪在留中ナル松波君ニ報導セシニ、同君ハ昨夜来名シ本日已ニ当聯合会場エ臨席シ居ラルレバ、一応同氏ニ法典調査会ノ意見及希望等ノ報告ヲ煩ハサントス、諸君幸ニ御差支ナクハ御聴取リヲ願ヒタシ、之ヲ諸君ニ諮ル
(満場同感、此時渋沢君ハ松波君ヲ会員一同ニ紹介セラル)
松波仁一郎君ノ演説
諸君ニ御挨拶シマス、初メテ御目ニ懸リマシタガ、早急ノ場合デゴザイマスカラ直チニ御話スルコトニ致シマス、今渋沢君ヨリ御陳ベニナリマシタル如ク、法典調査会ニ於キマシテノ調査モ段々進ンテ已ニ民法ヲ終リ、商法ニ移ルコトニナリマシタ、之レニ就テハ、時ニ応シ場合ニ依リ、各地ノ商業会議所ヘ御尋ネニ出シタコトモアリマスルガ、何分書面ヲ以テシテハ其意思ノ相通セヌコトモアルノデ今度自ラ御面ヲ合ハシ親シク御打合ハセヲスルト云フガ為メニ、諸
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方ヲ歩クコトニナリマシタ、御承知ノ如ク民法・商法ハ非常ニ沢山アツテ、唯今商法ハ梅君ガ担任デ私ガ補助デアル故ニ、二人デ巡回スレハ都合モ宜シウゴザイマスガ、夫レデハ跡ニ差支ルカラ梅君ガ居残リテ、私ガ出テ各地ノ諸君ニ御打合セスルコトニナリマシテ丁度大阪ニ行ツテ居リマスル中ニ、梅君カラ御当地ヘ行ツテ商業会議所聯合会ノ諸君ニ親シク御打合セヲセイトノ電報ガアツタノデ、此処ニ参リテ御相談ヲ願フコトニナツタ訳デゴザイマス
商法ハ千条余ニモ渉リ、其主意ノ如キモ漠然トシテ解釈ニ苦シムベキ条項ガアリマスシ、或ハ又実際ニ適セナイ条項モアリマスルガ、一々之ヲ逐条ニ分ケテ御話スルコトハ到底時間等ガ許サナイノデ、先ツ今日其大要ノ調査問題ヲ認メテ差出シマシタガ、決シテ之レダケニ限ルト云フ訳デハアリマセン、尚ホ他ニ御気付ノ事項ガアレハ充分ニ調ベテ御出シヲ願ヒタイノデス、海商ヲ別ニシマシタノハ、大津ナリ福島ナリ又仙台トカ云フ如キ海ノナイ所モアリマスカラ、之ヲ混ゼテモ宜クナイト思ヒマシテ別ニシテ置キマシタガ、併シ何レノ方デモ御腹蔵ナク御調ベニナリテ御出シヲ願ヒ、又御意見モアレハ承ルコトニ致シタイノデゴサイマス、夫レニ就テモ今御相談ヲ願ヘハ大ニ便利トナリマセウケレドモ、到底此議場デ願フコトモ出来ス、又此場合詳シク説明スルト云フコトモ時間ガ掛ルノデ出来マセン、残念ナカラ止メテ置キマス、問題ノ書キ様モちよつトノ間ニ木筆デ認メマシタノデ、御分リ悪ヒ所モアリマセウガ、其点ハ今日明日ハ御当地ニ滞在シテ居リマスカラ、若シ御質問ノ点ガアラハ御尋ネ下サツテ行違ヒノナイ様ニ御承知アランコトヲ希望シマス、将来ハ斯様ニシタイ、在来ハ斯ウデアルト云フコトニ分ケテ承ハルコトニ致シタイ、只今拝聴シマシタニ、夫ノ商法第六章ノ第百七十五条ノ問題デコサイマス、只今其制限ヲ拾円ニスルトノ御説モアリマシタ様デスガ、今弐拾円以下ノ株券ノ必要ハ此先如何デアルカ、私共ハ只今承リマシタガ実際ハ弐拾円以下ノモノハ入ラナイトカ、弐拾円以下ノモノハ地方ニアツテ必要デアルトカ云フ如キコトヲモ尚ホ構ハス御書込ミガ願ヒタイ、何デモきつちりトシタコトニハ及ビマセン、実際ノ事情実際ノ習慣等ガ明カニ分レハ夫レデ宜シイ、法律ニ抵触スルカラ斯ウセンケレバナラヌ、斯ウ書カンケレハナラヌト云フガ如キコトマデ御心配ニハ及バナイ、私共ガ拝見スルノデアルカラ御腹蔵ナク御認メヲ願イタイ、ソウシテ甚タ申シ兼ヌルガ成ルベク早ク御出シガ願ヒタイノデス、調査会ニ於キマシテハ一旦議決スルコトニナリマスカラ、若シ議決後ニ夫等ノ御意見等ガ出マシテモ夫レヲ変ヘルハ甚タ困難デゴサイマスカラ、其辺ハ能ク御承知下サツテ、早ク御気付ノコトハ御聞セガ願ヒタイ、私モ実ハ期日ガ切迫シテ居マスノデ、長ク御当地ニ居ルコトハ出来マセンガ、併シ是非トモ出張シテ御話シスルガ必要ダト云フコトデアリマスレハ、内閣ノ調査会ヘ申込ミテ出テ参ルコトニ致シマス、法典調査会ニテモ成ルベク諸君ノ御便利ニ応スルコトニナリマセウカラ、成ルベク早ク御調ベニナツテ、只今差出シマシタ問題ニ付テハ実地ノ慣習ガ分リマスル様、又其他御気付ノコトヲモ併セテ御申出アランコトヲ
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厚ク希望シテ置キマス
会長(奥田正香君) 議事ヲ進行セン、第廿四号議案提出者タル十六番ニ御尋ス、如何ニモ控席ノ事ヲ持出ス様ナレトモ、此議案ハ昨日協議会ニテモ附議シタル如ク、改正シタキ点種々アルガ、明年ヲ待ツテ改正セン事ヲ希望スルモノ多カリシヲ以テ来年ニ譲リ、即チ其調査ヲ次回開会地ノ会議所ニ附托シ置ク方ガ便ナラン、異議ナクハ然カセン
第十六番(井島茂作君) 実ハ本年モ建議・請願等ノ事ヲ本会ニテ決議スルモ、当期ノ帝国議会ニ向テ其手続ヲ為ス能ハサルコトアラン、故ニ本案ノ如ク会期ノ改正ヲ要スルガ併シ之ハ第五回ノ開会地モ最早定マルベキヲ以テ、尚ホ各会議所諸君ノ御意見ハ腹蔵ナク其開会地会議所ニ申込ミ、御迷惑ナカラ其会議所ニテ之ヲ収集メテ善キ点ヲ採リ、改正案トシテ第五回聯合会ニ提出ニナルコトニ致シタシ
会長(奥田正香君) 然ラハ御異議ナキモノト認メ斯様ニ致サン