デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

  詳細検索へ

公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2021.8.27

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
4款 商業会議所聯合会
■綱文

第22巻 p.811-843(DK220067k) ページ画像

明治35年12月8日(1902年)

是日臨時会第一日ノ会議ニ於テ、京都・大阪・神戸・名古屋・四日市五商業会議所ノ聯合提出ニ係ル工場法案ニ関スル儀上程サレ、提案者ヨリ提案理由ノ説明アリ。九日第二日・十日第三日ノ会議ニ於テ、農商務省工務課長窪田静太郎ヨリ政府当局ノ本案ニ対スル意見ヲ聴取シ、討議ヲ重ヌ。十一日第四日ノ会議ニ再度上程サレ委員附託トナリシガ、十二日第五日ノ会議ニ於テ、該法制定ノ時期尚早ヲ趣旨トスル委員会報告可決セラル。栄一会長トシテ議事ヲ司宰ス。


■資料

渋沢栄一 日記 明治三五年(DK220067k-0001)
第22巻 p.811 ページ画像

渋沢栄一 日記  明治三五年     (渋沢子爵家所蔵)
十二月八日 曇
○上略 九時過東京商業会議所ニ抵リ全国商業会議所聯合会ヲ開ク ○下略
十二月九日 雨
○上略 午飧後東京商業会議所ニ抵リ聯合会ヲ開ク ○下略
十二月十日 晴
○上略 十時商業会議所聯合会ニ出席ス、午後三時散会 ○下略
十二月十一日 曇
○上略 九時商業会議所聯合会ニ出席ス ○下略
十二月十二日 晴
○上略 十一時商業会議所ニ抵リ聯合会ニ出席シ、此日ヲ以テ議事結了ス ○下略


明治三十五年十二月開設 臨時商業会議所聯合会議事速記録 第四四―四七頁 刊(DK220067k-0002)
第22巻 p.811-813 ページ画像

明治三十五年十二月開設
臨時商業会議所聯合会議事速記録  第四四―四七頁 刊
明治三十五年十二月八日午後一時二十五分開議
  出席委員     三十三名 ○氏名略
○上略
○会長(東京、渋沢栄一君) モウ時間モ大分経チマシタカラ、明日カラ議事ニ取掛ツテハ如何デセウ
○三十六番(神戸、藤田松太郎君) チヨツト私ハ散会ニナル前ニ、諸君ニ御協リ致シタイト思ヒマスガ、此工場法案ニ付キマシテ提出シタ理由ヲ簡短ニ申述ベテ、都合ニ依ツタナラバ農商務省ノ方ニ御照会ヲ願ヒタイト考ヘマス、併シ先方ノ都合モアラウト思ヒマスカラ、此事ダケハ諸君ノ御決定ヲ願ヒタイト考ヘマス
○会長(東京、渋沢栄一君) 宜シウゴザイマス、ソレデハ其事ヲ申述ヲ願ヒマス
○三十六番(神戸、藤田松太郎君) 此工場法案ニ関スル件ヲ提出シタ
 - 第22巻 p.812 -ページ画像 
ノハ、別ニ是ゾト云ツテ説明スル意見トカ云フモノハ、発起会議所ニ於テハ一定シテ居リマセヌ、諸君ノ御承知ノ通リ本問題ハ随分我国ニ取ツテ重要ナル問題デアリマスカラ、討論審議スル際ニ当ツテ、農商務省ニ要求シテ、或ハ大臣、若シ大臣ニ御差支ガアレバ其当路者ニ本会ニ臨席ヲ願ツテ十分説明ヲ聞キ、且ツ質問ニ応答ヲ願ヒタイト思ヒマス、諸君如何ナモノデアリマセウ、此事ヲ御協リ致シマス
○二十三番(広島、早速整爾君) 唯今ノ御意見ニ賛成ヲ表スルト同時ニ、私ハ此一号議案ノ省令改正ノ件ニ付キマシテモ前カラノ行掛リモアリマスルデ、此一号議案ガ議事ニ上ボル際ニハ矢張リ農商務省ノ当局者ニ御臨席ヲ願ツテ、サウシテイロイロ御説明ヲ承リ、且ツ吾々モ意見ヲ述ベテ、或ハ質疑スベキハ十分質疑スルト云フ風ニシタイト思ヒマス、全体前ノ聯合会ニ於テモ一号議案ノコトニ付イテハイロイロ当局者ノ御説明ヲ願ツタコトモゴザイマシタガ、大分行違ヒガゴザイマシテ、更ニ今回ノ聯合会ニ此問題ガ提出ニ相成ツタ次第デゴザイマス、依テ工場法案ノ件ニ付イテ同意ヲ表スルト同時ニ、一号議案ノ件ニ付イテモ是ガ議事ニ上ボル際ニハ当局者ノ臨席ヲ請フヤウニシタイト考ヘマス
○三十四番(大阪、法橋善作君) 唯今三十六番カラ工場法案ノコトニ対シテ当局者ノ臨席ヲ請フト云フ建議ガゴザイマシタガ、私ハ此事ヲ諸君ニ御極メヲ願フ前ニ御参考ノタメニ一言申上ゲテ置キマスガ、私共発起会議所ニ於テ工場法案ヲ提出シタノハ、工場法案ナルモノハ日本ノ現状ニ対シテ果シテ必要デアルヤ否ヤ、此大体ニ付イテ審議討論ヲスルニ止メタイト云フタメニ提出シタノデゴザイマス、ソレデ是ハ余程面倒ナ問題デゴザイマシテ、一々条項ニ渉ツテ逐条審議致スヤウナ事ニナリマシテハ、ナカナカ四日ヤ五日ノ短時日デハ之ヲ議了スル事ガ出来マセヌ、各地異ツタル利害関係ガゴザイマスカラ各会議所ノ意見ガ未ダ極マラヌ所モゴザイマス、故ニ唯ダ今日ノ場合、工場法案ナル大法典ハ此場合ニ我国ノ現状ニ照ラシテ設クルノ必要アリヤ否ヤト云フ大体ヲ玆ニ審議決定シタイト云フ考デゴザイマス、故ニ是ゾト云ツテ別ニ議案ヲ提出セズシテ、ソレダケノ意思ヲ諸君ニ申上ゲテ、若シコレガ不必要デアルト云フコトニナレバ、何モ之ヲ議スルノ要ハナイ、又必要デアルト云フコトニナレバ、従テ是カラ逐条審議ニ渉ル所ノ事ガ生シテ来ルノデアリマスカラ、先以テ今般ノ提出案トシテハ大体ノコトニ就イテ御審議ヲ仰キタイト云フ考デゴザイマス、ソレデ唯今建議ノアリマシタ如ク、当局者ガ如何ナル意思ヲ以テ如何ニ観ル所ガアツテ工場法案ナルモノヲ出サレタカ、其事ヲ一応承ツテ是等ノ建議ヲスルノガ必要デアラウト思ヒマスカラ、一言此事ヲ申述ベテ置キマス
○会長(東京、渋沢栄一君) 今ノ工場法案ニ付イテハ当局者ノ臨席ヲ請フト云フ御動議ハ、皆サン御同意デゴザイマスカ
   (「異議ナシ」ノ声起ル)
○会長(東京、渋沢栄一君) サウ致シマスルト、当会議所カラ早速聞合ハセマシテ、何日ニドナタガ出席ガ出来ルカ、大臣デアルカ、次官デアルカ、商工局長デアルカ、成ルベク十分ナル力ヲ持ツタ人ニ出テ
 - 第22巻 p.813 -ページ画像 
貰ヒタイト云フコトヲ照会致シマセウ


明治三十五年十二月開設 臨時商業会議所聯合会議事速記録 第四八―六六頁 刊(DK220067k-0003)
第22巻 p.813-820 ページ画像

明治三十五年十二月開設
臨時商業会議所聯合会議事速記録  第四八―六六頁 刊
明治三十五年十二月九日午前十時四十五分開議
  出席委員     二十四名 ○氏名略
○会長(東京、渋沢栄一君) コレヨリ開会致シマスガ開会ニ先立ツテ御報告致スコトガゴザイマス、和歌山カ曩ニ参会ノ回答ガゴザイマシタケレドモ、今日電報デ参会ヲ断ツテ来マシタ、ソレカラ高崎ト小樽ハ昨日ハ来否ガ判然致シマセヌデシタガ、共ニ今回ハ来会致シカネルト云フ通知ガゴザイマシタ、ソレカラ第一号議案ハ先キニ議スヘキデゴザイマスガ、工場法案ニ関シテ窪田静太郎君ガ御出席下サイマシタカラ、二号議案ヲ先キニ議題ニ供シマス、御質問ガアリマスレバ御質問下サイ、但シ同君ハ今日余義ナキ先約ガアツテ、二時十五分頃ニハ其方ヘ御出デナサラナケレバナラヌト云フコトデ、時間ガ甚ダ少イ、丁度三・四十分ノ間シカ此処ニ御出テノ時間ガゴザイマセヌヤウデスカラ、若シ今日済ミマセヌケレバ明日復タ御臨席ヲ願ウコトニシテ、先ヅ其間ダケ御質問下サイ
○三十四番(大阪、法橋善作君) 此工場法案ノ議事ニ付キマシテハ、発起会議所ヲ代表シテ、神戸会議所ガ担当スル筈ニナツテ居リマシタガ、マダ出席サレマセヌカラ、私カラ大体申述ベマスガ、此会ニ於テ五会議所ガ工場法案ニ対シテ一ノ問題ト致シマシタノハ、当時主務省ヨリ各会議所ヘ御諮問ニナツテ居リマスガ、聯合会ニ於テ本案ニ対スル全国商業会議所ノ意向ヲ窺ヒ知ツテ答申シタラ宜カラウ、ト云フ考デ提出シタノデアリマス、併ナカラ、短期ノ此聯合会ニ於テ之ヲ逐条審議スルト云フコトハ甚ダ難イコトデアラウト思ヒマスカラ、ソレデ我国ノ工場ニ於テ此工場法案ナルモノハ必要デアルヤ否ヤト云フ大体ヲ玆ニ議了致シマシタナラバ、其必要ト不必要トノ二点ニ分レタ結果トシテ、逐条審議ト云フコトガ生レテ来ルダラウト考ヘマス、要スルニ此会ニ於テハ、大体ニ対シテノ審議討論ヲ致シテ、多数ノ意嚮ニ因テ将来ノ事ヲ処シタイト云フ希望ニ外ナラヌノデアリマス、付キマシテハ、昨日ノ本会ノ希望ニ依テ今日当路者ガ御臨席下サイマシタガ、唯今会長ヨリ御話ノ如ク時間ガ至ツテ短イコトデアリマスルカラ、今日吾々ガ要メマスルノハ、政府ハ如何ナル見込ヲ以テ此法案ヲ今日ノ場合ニ御制定ニナツタノデアルカ、如何ナル必要ガアツテ御提出ニナツタノデアルカ、其辺ニ付イテ大体御示シ下サレハ、従テ吾々ノ参考ニモナリ、又法案ニ対シテ親切ニ討議ガ出来ヤウト思ヒマス、其他各員ノ御見込ガゴザイマセウカラ質問カアツテモ宜ウゴザイマセウガ、吾々発起会議所ノ希望ハ其処ニ在ルノデアリマスカラ、一言致シテ置キマス
○会長(東京、渋沢栄一君) 然ラバドウカ当局者ノ本案ニ対スル大体ノ御意見ヲ御説明ヲ願ヒマス
○工務課長(窪田静太郎君) 大体ヲ申上ケマスガ、我国ニ於キマシテモ段々此機械的ノ工業ガ輸入セラレタニ付イテ、女子供デ間ニ合ハナカツタコトカ間ニ合フヤウナコトニナツテ来マシタノデ、次第ニ女子
 - 第22巻 p.814 -ページ画像 
供ヲ使ツテ仕事ヲスルト云フモノガ多クナツテ参リマシタ、ソレデ此工場組織ノ進歩ニ伴ヒマシテ斯様ナル現象ノ来タルト云フコトハ、殆ト何レノ国ニ於テモ現ハレテ居ル現象デ、ソレガ我国デモ既ニ現ハレテ来テ居ルノデアリマス、ソレカラ又此学理ノ応用ニ依テ或ハ薬品ヲ用ヰ、若ハ電気ヲ用ヰ、其他機械モ複雑シタモノヲ用ヰルト云フ所カラシテ、工業ト云フコトガ其種類ニ依リ又其規模ニ依テ附近ノ公衆一般ニ影響ヲ及ボスト云フ事モ免レナイコトデアリマシテ、動モスレハ障害ヲ及ボシタ事例モアル、ソレカラ此機械的ノ工業、化学作用ヲ用ヰル工業等ニ伴ツテ職工ノ負傷スルコトモ免レナイコトデアツテ、是モ亦随分多数ニ起ツテ参リマシタ、ソレデ之等ノ弊害ト云フモノハ如何ナル物ニモ一利有レハ一害有リデ、何事ニモ余弊ト云フモノヽ伴ウコトハ免レマセヌ、ソレガタメニ此工業ト云フモノガ発達ヲ止メルトカ云フヤウナコトガアツテハナリマセヌケレドモ、併ナガラ此弊害ト云フモノヲ適当ナ時期ニ於テ、予防スル所ノ手段ヲ講ジマセヌト云フト、其弊害ガ何人ノ眼ニモ余マルト云フ時期ニ至ツテ俄ニ之ヲ矯正シヤウトシテモ其効ヲ収ムルコトガ難ク、又其矯正ノ方法ニ伴ツテ余弊ノ生スル虞モアル、今日ニ於キマシテ然ラバ其弊害ト云フモノハ如何ニアルカ、或ハ其弊害ト云フモノハ未ダ無イノデアルカ、或ハ已ニ有ルト云フコトデアルカト云フ問題ニナリマスルナラバ、私共ノ観ル所デハ今日既ニ其弊害ハ有ルト思ヒマス、其弊害ヲ捨テ措キマスルナラバ、先刻申シタヤウナ時代ニ立至ルデアラウト恐レルノデス、然ラバ如何ナル所ニ其害ガアルカト云ヘバ、私共ハ主トシテ女子供ヲ使ウカラニアルト思フト云フモノハ、我国ノ工業ガ殊ニ此繊維的ノ工業、即チ糸デアルトカ云フモノヲ取扱ツテ居ル所、又ハ糸ヲ造ルトカ云フ工場ガ大部分ヲ占メテ居ルノデス、工場ノ数デ云ヘバ三分ノ二ハ是等ノ種類ノ工場デ占メテ居ルノデス、亦職工ノ数カラ云ツテモ三分ノ二ハソレデ占メテ居ルノデアリマス、而シテ此種類ノ工場ニ於キマシテハ第一ハ紡績業、生糸織物其他繊維的ニ属スル工場ニ於キマシテハ主トシテ女ヲ使ウ、女ヲ使ウ所ニハ必ズ子供ガ伴ツテ居ルト云フ事実ハ争フベカラサル事実デアリマス、女ノ数ガ総テノ職工数ニ対シテ三分ノ二アリマス、之等ハ外国ニ較ベテモ著イ特例デアツテ、併ナガラ外国デモ工場ニ関スル法令ノ出来タ始メハ、英吉利デハ千八百十年頃、今カラ九十年モ前ノ状況ヲ見マスルト矢張斯様ナル状況ヲ呈シタノデスソレデ其三分ノ二ノ職工ノ約半数以上ハ工場ニ収容セラレテ居ルモノデ、小ナル所ハ工場内ニ寄宿シテ居ツテ、大キナ所ナラバ大キナ寄宿舎ニ寄宿シテ居ルト云フ有様デアリマス、此寄宿シテ居ルト云フコトニ付イテハ則チ起居動作一ニ工場ヲ監督スル所ノ人ニ依テ左右セラレルノデアル、就中小数ノ者ヲ集メテ居ル所ノ小工場デアルト、其傭イテ居ル人ノ頭ノ向キ方如何ニ依テ、此傭ハレテ居ル寄宿シテ居ル者ノ幸不幸モ分レルノデス、詳シク云ヘバ慈善ナル人ニ傭ハレテ居ル小数ノ者ハ極メテ幸福ナ有様デ、殆ド家庭ノ状況ヲ呈シテ居ル、ソレカラ稍々酷薄ナ人ニ傭ハレテ居ル所ノ小サナ工場デアリマスルト、動モスレバ殴打・檻禁、所謂虐待ト云フ場合ニ至ルコトガ多イ、要スルニ斯様ナ小サナ所ノ工場ニ於キマシテハ、傭フテ居ル人ノ頭如何ニ一ニ属
 - 第22巻 p.815 -ページ画像 
シテ居ルノデス、デ小工場ノ中ニハ最モ善イノモアリ最モ悪イノモアルト云フ状況デアリマス、然ルニ多数ノ職工ヲ使ウ所ノ大キナ工場ニ至リマスルト、大体ニ於テ傭フテ居ル人ノ頭何如ニ依テ大変ニ様子ガ違ウト云フ状況ハ私共ハ認メナイ、多少ハ固ヨリ工場ヲ管理シテ往ク人ニ依リマシテ違ウ所ガアリマスケレドモ、大体カラ申シマスルナラバ多数ノ人ヲ使ツテ往ク所デアリマスルト、ドウシテモ職工ヲ一隊トシテ使ツテ往カナケレバナラヌト思フノデス、或ハ軍隊的ニ規律的ニ使ツテ往クト云フコトモアリマスカラシテ、其一人々々ニ当ツテ直接其人ノ健康ナリ或ハ性質ナリト云フモノニ依テ小サナ工場デ家族的ニ処置シテ往クノトハ趣ガ違ウノデアリマス、而シテ大キナ所ノ多数ノ職工ヲ寄宿セシメテ居ル所ノ工場ニ於キマシテモ、互ニ各工場ノ間ニ競争モアリマス、又之ヲ主裁シテ往ク人ハ唯ダ一個人ノ頭ニ依テ自由ニ為シ得ナイノデ、多クハ集マツテ居ル所ノ人ノ持物デアツテ、唯ダ一人ノ人ノ自由ニハ為シ得ナイト云フ関係モアリマスル所カラシテ、此状況ト云フモノハ略々何レノ工場デモ大ナル違ツタル所ハアリマセヌノデス、而シテソレニ付イテハ今日ノ職工ハ大部分女子供デアツテ其大部分ガ寄宿舎ニ収容セラレテ、サウシテ一定ノ規則ノ下ニ軍隊的ノ仕事ヲシテ往クト云フコトニ伴ツテ、自然ニ弊害ト云フモノガ起ツテ来ルノデアラウト思フノデス、小サナ子供ガ大キナ者ト一緒ニ使ハレ、或ハ動モスレハ事業ノ景気ニ依テ長時間労働ニ従ウトカ、或ハ人ノ足ラヌタメニ普通十二時間ノモノガ二十四時間ノ仕事ヲシナケレバナラヌト云フヤウナコトカ起ルトカ、或ハ機械ヲ成ルヘク利用シヤウト云フコトカラシテ昼夜交替シテ仕事ヲスル、此仕事ヲスルニモ子供ヲ使ハナケレバ昼夜交替スルダケノ人ヲ集メルニ困難デアルト云フ所カラシテ、小サナ子供ニ至ルマデモ昼夜交替ニ事業ニ従ウ、之等ハ則チ工業ノ発達ニ伴ツテ自然ニ起ル所ノ弊害ト思フノデス、敢テ此工場ヲ持ツテ居ル人トカ云フ者ノ慈善トカ酷薄トカ云フ問題デハナイト思フノデス、是ハ工場組織ニ伴ツテ来テ居ル所ノ自然ノ弊害ナンデス、其弊害ハ如何ナル憂ヲ遺スカト云ヘハ、是カタメニ一般ノ衛生上若ハ何程カ教育上ニモ障害ヲ及ボスト云フコトガアル、ソレト同時ニ又是等ノ女子供ト云フモノハ、他年ニ健全ニシテ善良ナル所ノ職工ヲ使ツテ往クト云フ所ノ源泉ヲ何程カ涸ラシテ往クト云フ傾ニナルノデアリマスカラシテ、他年ニ成ルヘク健全ニシテ成ルヘク教育アル善良ノ職工ヲ養フテ往カウト云フ点カラ見テモ、今日ニ於テ工場自然ニ伴ツテ起ル弊害ヲ矯正シナケレバナルマイ、デ其矯正ハ吾々ハ成ルヘク是ハ早ク着手シテ、其代リ事情ノ許ス限リ徐々ニ歩ンデ往キタイ、急劇ニ此害ヲ矯メヤウトスルナラバ又従テ他ノ害ヲ生ズルコトデアリマスカラシテ、成ルベク徐々ニ歩ンデ往キタイ、徐々ニ歩ンデ往クニハ成ルベク早ク着手シタイト云フ所ノ考デアリマス、其他子供ナドノ使ヒ方ニ付イテモ制限ヲ設ケテ改良ヲ計ルト云フコトハ、労働者社会ノ進歩若ハ平和ト云フ側カラ見テモ必要デアリハセヌカ、何トナレバ彼等ノ生活ヲシテ往ク一ノ資本ハ健康ナル身体デアル、之ヲ今日ノ儘ニ委ネテ往クナラバ、他日社会ノ厄介ニナル者ガ多数生ズル、若ハ平和ヲ紊ス所ノ源トナル、所謂窮スレバ乱スルト云フ傾モ持ツコトデアリマス
 - 第22巻 p.816 -ページ画像 
カラ、労働社会ノ幸福平和ト云フ側カラ見テモ、漸次ニ之等ノ弊害ヲ矯正スルコトニ着手シナケレバナルマイト思フ、其他先刻申上ケマシタ建物・設備等ニ付イテノ危険ヲ予防スルトカ、或ハ負傷ニ付イテモ扶助ノ途ヲ設ケルトカ云フコトモ、社会ノ平和ヲ維持シ一面ハ労働社会ノ平和的進歩ヲ計ルト云フコトニナルノデ、而シテ又直接工業上ニモ利益ノアルモノト思ヒマス、大体ハ先ツ斯様ナル次第デ、吾々ハ成ルベク早ク着手シタイト考ヘル訳デアリマス
○三十八番(名古屋、鈴木摠兵衛君) 窪田君ノ御説明ニ依テ概要ハ分リマシタガ、尚質問ヲ致シタウゴザイマスガ、今御説明ノ趣旨ニ依リマスルト、女子及幼年者ヲ保護スルト云フコトガ第一ノ主眼ノヤウニ承リマシタガ果シテサウデアルカ、果シテサウデアルト、之等ノモノハ燐寸業ナトニハ到底従事スルコトガ出来ヌト思ヒマスガ、其処ラノ御考ハドウデアルカ、ソレカラ又我国ノ工業ハ繊維的ノモノカ大部分ヲ占メテ居ルト云フ御説デアリマシタガ、当局者ハ機織・製糸・紡績ナトニ重ニ御注目ニナツテ、其他複雑ナル業ニハ少シモ御注目ガナカツタヤウニ懸念シマスガ、ソレハ如何デアリマスカ、念ノタメニ伺ヒマス
○工務課長(窪田静太郎君) 左様デゴザイマス、先刻申上ゲマシタヤウナ理由カラシテ、差向キ衛生上・教育上、将来工業ノ発達上、又工業社会ノ秩序上社会ノ平和ト云フ方面カラ観察致シマシタ所デ、最モ憂フベキモノハ女子供ノ使ヒ方デアルト思フノデス、其弊ノ及ブ所ハ甚ダ深イ、之ヲ直サウト云フコトハ又必ズ多年ノ慣習ヲ養成シテ往カナケレバナラヌト云フ事ニナルノデ、矯正スルコトガ困難ナンデス、ソレデ先ヅ是ガ一番ニ吾々カ目ヲ附ケナケレバナラヌ弊害デアラウト信ジテ居ルノデス、ソレ等ノ弊害ナリ、又他ノ点カラ考ヘテ見テモ、大体デ申スナラバ女子供ト云フモノヲ多数ニ使フ所ハ則チ繊維的ノモノデ、先刻アナタノ御列挙ニナツタ種類ノ仕事デアリマス、総テノ職工ノ三分ノ二ハ其種類ノモノニ属シテ居ルノデス、モウ一ツ言ヒ換ユレバ、総テノ職工ノ三分ノ二ハ女デアルト云フコトモアリマスカラシテ此繊維的ノ工業ト云フモノハ先ヅ最モ弊害ヲ矯正スル上カラ着目シナケレナバラヌコトヽ思ヒマス、併シナガラ其他ノ種類ノ工業ニシテモ均シク女ヤ子供モ使ウ、又危険ナル業務ニ従事スルトカ若ハ負傷シタト云フ場合ニ手当ガ行届カヌト云フヤウナ場合モアルユヘ、矢張他ノモノニ付イテモ着目シナケレバナラヌノデ、出来得ル限リ吾々ハ注目シテ居ル積リナンデス、ソレデ燐寸ニ付イテノ御尋ネデアリマシタガ、燐寸工場ガ之ガタメニ出来ナイト云フコトハナカラウト思フノデアリマスガ、若シ出来ナイト云フコトガアルトスルナラバ、ソレハ其弊害ヲ矯正スルノ仕方ガ、詰リ余リニ急ニ過キルノデアツテ、モウ少シ之ハ漸進的・緩和的ニヤラナケレバナラヌモノデハナカラウカト思フノデス、適当ナル策ハ之等ノ事ニ付イテ左様ナルコトノナイヤウニシテ、サウシテ弊害ヲ矯メテ往クト云フコトノ歩ミヲ執ラナケレバナラヌト思フノデス、ソレデ農商務省カラ発布ニナリマシタ案ニ付キマシテハ、燐寸業ニ於テ女ヤ子供ガ使ヘナイデ業務ガ妨害セラルヽト云フヤウナコトハナイ見込デアリマス、尚ホ事実ニ就イテ斯ウ云フコト
 - 第22巻 p.817 -ページ画像 
ガアルト云フコトヲ御示シヲ願ヒマス
○三十八番(名古屋、鈴木摠兵衛君) 尚続イテ伺ヒマスガ、此法案ノ第九ノ所、此中ニハ甲ト乙トアリマスガ、乙ノ事柄ニ就イテ見マスルト、燐寸工場ニハ幼年者及女子ハ従事スルコトハ出来ヌヤウニ拝見スル、然ルニ唯今ノ御説明ニ依ルト是レハ女子供ヲ使ハヌテモ斯業ハ行立ツカ如キ御推測デアリマスガ、私共ノ名古屋アタリノ状況ニ照ラシテ見マスルト事実ハサウデナイ、其工場ニ就イテ御覧ナサレバ分リマスガ、壮年ノ男子ノ従事シテ居ル仕事ハ僅ニ重イ物ヲ運ブトカ木ヲ伐ル位ノ仕事デ、函ヲ貼ルトカ硫黄ヲ付ケルトカ云フ重ナル仕事ハ皆婦女子・幼年者ガ従事シテ居ルノデス、又一方カラ申スト立入ツタ事ヲ申スヤウデアリマスガ、此東京辺ノ銭儲ケノ暴イ所ト違ツテ、田舎ガ金銭ノ価ガ低イ、ソレ故親ハ人力車ヲ挽クトカ女子供ハ紡績工場ニ往ツテ働クトカ、八・九歳ノ者テモ燐寸ノ函ヲ貼ルトカシテ、一家数人皆働イテ漸ク生計ヲシテ居ルト云フ有様デス、然ルニ此工場法案ナルモノハ成程之等ノ者ヲ保護スルノハ理論カラ云ヘバ必要デアリマスガ其実ハ保護ニアラスシテソレ等ノ者ノ生業ヲ失ハシメルト云フコトニナリハセヌカト云フ懸念ガアリマスガ、併ナカラサウ云フ些細ナ事情ニハ拘泥セス、断然弊害ノ源泉ヲ清メナケレバナラヌト云フ御趣意デアリマスカ、之等ノ所ヲ念ノタメニ伺ヒマス
○工務課長(窪田静太郎君) 左様デゴザイマス、若シ燐寸ノ業ニ女若ハ十六歳以下ノ者ヲ総テ禁シマシタナラバ燐寸ノ業ハ成立タヌテゴザイマセウ、併ナカラ若シソレガ成立チ得ルモノデアレハ、燐寸工場ナドニ付イテハ女子供ヲ使ウコトヲ禁シテモ宜イノテス、ケレトモ誰ガ見テモ是ガ成立チヤウカナイナラバ、其処ハ衛生上ノ関係ハ如何、又一方カラシテ此工業上ノ関係如何ト云フコトヲ見テ、適当ナ歩ミヲ取ラナケレバナラヌト云フ私共ノ見込デアリマス、此乙ノ中女子供ハ差止メナケレバナルマイト云フ仕事ハ十分ニ調ベマシテ、サウシテ其中ノ最モ有害ナモノカラ禁ジテ、サウシテソレヲ一時ニ色々ナモノニ付イテ急激ニヤルナラバ忽チニ其業ノ衰頽ヲ招クト云フヤウナ事モアリマセウカラシテ、漸次ニ最モ急ヲ要スルモノハヤツテ往キタイ、ソレニ付イテハ燐寸ノ工場ノ如キモ、先ツ私共ノ認メテ居ル所テハ第一ハ薬ヲ付ケルトカ或ハ薬ヲ調合スルトカ云フヤウナ事、是ハ普通ハ子供ヤ女ナドヲ使ツテ居リマセヌガ、併ナガラ之等モ必ズナイトハ云ヘヌノデ、子供ナドヲ使ツテ居ル所ガ往々アルノデス、之等ノモノハ其場所ニ於テ働クト云フヤウナコトヲ差止メテモ、ソレガタメニ燐寸業ノ上ニ大ナル影響ヲ及ホスコトガアルト云フコトハナイデハナイカ、又乾燥ヲスル場所ニ小サナ子供ヲシテ動モスレバ扱ハシメテアル、之等ハ差止メタイモノト思ツテ居リマス、ソレカラ又薬品ヲ女子供ノ居ル所デ取扱フヤウナ事モ差止メタイ、或ハ軸ヲ拵ヘルトカ函ヲ貼ルトカ云フヤウナコトハ、是ハ女子供ニ禁ズルト云フダケノ必要モ差程ニアルマイト思ツテ居リマス、ソレ等ノコトニ付イテハ今禁ジヤウト云フ見込ハナイノデス、併ナガラ各種ノ業ニ亘ツテドノ部分ニドノモノガ最モ有害デアル、之等ノモノニ対シテ女子供ヲ禁ズルニハドウ云フ風ニヤツテ往クカト云フコトニ付イテハ、之ハ其命令ヲ定メル時分ニ十
 - 第22巻 p.818 -ページ画像 
分ニ審査シテ定メナケレバナラヌコトヽ思ツテ居リマス、併シサウ云フ風ナ女子供ヲ差止メナケレバナラヌモノガ往々アルト云フコトハ大体分ツテ居ルノデス、ソレ故ニ第九条ノ乙ト云フモノヲ設ケテ置イタ積リナンデス
○四十三番(金沢、村田庄四郎君) 最初議長ノ御示シヨリハ少シ時間ガ経ツタヤウデアリマシテ甚ダ恐縮デアリマスガ、私ノ質疑ダケハドウカ御許シヲ願ヒタイ、私ハ今三十八番ヨリノ質問デ稍々了解シタ所モアリマスガ、最初段々御述ベニナツタ所ヲ承ハルノニ、日本ハ追々開明ニ進ンデ来テ機械工業ナドガ盛ンニナツテ来タカラ此工場法案ヲ発布スルノ必要ガアルト云フ御趣意ノヤウニ承リマシタ、ソレハ委細承知致シマシタガ、目下日本ノ状況デハ自由賃金ト年期奉公ノ賃金ト二様ニナツテ居リマス、之等ハ当局者ハ此法案ハ一般ニ布カレルト云フ御見込デアリマセウカ、我北陸三県ノ如キハ近年羽二重業ガ盛ンニナツテ来マシテ今ヤ産額モ増シテ来マシタガ、最初御示シニナツタ通リ女子供ハ三分ノ二ヲ占メテ居ルノデス、全ク福井・石川・富山ノ三県ハ女子供デ事業ガ成立ツテ居ルト云フ目下ノ状況デアリマス、而シテ之等ハ皆自由賃銀ニナツテ居リマス、所ガ此法律案ヲ拝見シマスルト、其辺ノ所ガ判然セヌヤウニ考ヘマスガ、当局者ノ方テハドウ云フ思召デアリマスカ、一般ニ此法律ガ布カレルト云フコトニナルト、我北陸三県、則チ富山・福井・石川ナドハ非常ナ産額ニ減少ヲ来タサウト思ツテ深ク憂慮スル所デアリマスカラ、当局者ノ御見込ヲ一応伺ヒマス
○工務課長(窪田静太郎君) 左様デゴザイマス、年期徒弟ト云フモノト、ソレカラ普通ノ職工ト云フモノトノ間ニ、左程ニ区別ヲシテ見ナケレバナラヌト云フヤウナ事ハ、此法案ノ目的トスル所カラ観察シマスルトナイト信シマス、例ヘバ実際ノ所デ紡績工場ノ職工ト云フモノハ普通ノ年期デハナイ、福井・富山ノ辺モ年期デハナイ、足利・桐生ナドハ年期デアルト云フ差異ハアリマスケレドモ、ソレニ因テ著シクドチラガ教育上ノ関係如何、若ハ将来ニ及ホス関係如何ト云フ点カラシテ左程ノ区別ハナイト思ヒマス、此法案ノ目的トスル所ハ差向キ主トシテ衛生デアリマス、則チ健康ヲ保護スル、而シテ善良ナル職工ヲ他年ニ養フ、又将来ニソレニ伴フ弊害ヲ遺スマイト云フ方面カラ見マスルト、例ヘバ賃銭ヲ一時間幾ラ或ハ一反幾ラト云フコトデ貰ツテ而シテ働クノモ、年期デ働クノモ左程ニ之ヲ区別シテ観察シナケレハナラヌト云フ必要ハナイト思ツテ居ルノデス、例ヘバ一方ハ十五時間ヤツテモ宜イ、併ナガラ一方ハ十三時間デナケレバナラヌト云フヤウニ区別スヘキ必要ハナイト思ツテ居リマス、ソレ故ニ是レハ徒弟ト職工トノ区別ハ設ケナイ積リデアリマス、ソレデ福井・富山・石川等ノ機業ト云フモノガ衰頽スルト云フノナラバ甚ダ憂慮スヘキ点デアリマシテ、其衰頽スルデアラウト云フ虞ハ何処カラ来ルカ、其虞ノアルヘキ条項ハ如何ナル条項デアルカ、何故デアルカト云フコトハ吾々ノ深ク研究シタイ要点デアリマスガ、吾々ノ観ル所デハ、此仕組デ参ツタナラバ例ヘバ時間ノコトニシマシテモ、現今福井・石川辺ハ普通ノ就業時間ガ十四・五時間ニナツテ居リマセウガ、之ヲ十年ノ後ニ切詰メテ
 - 第22巻 p.819 -ページ画像 
十三時間ニシテ往ク、或ハ場合ニ依テ忙カシイ時分ニハ尚其延長ヲ許ストカ云フヤウナ途ガアリマシタナラバ、決シテ此産額ヲ減スルヤウナ虞ハナクシテ、而シテ何程カ衛生上ノ改良ノ基ニナルデアラウト云フ考ナンデス
○四十三番(金沢、村田庄四郎君) 害ニナラヌト云フ思召デアリマスガ、私共ノ観ル所デハ非常ナ混雑ヲ来タサウト思フノデアリマス、唯今ノ所デハ自由デ昼カラ来ルトカ、或ハソレガタメニ又日曜日ハ少シ余計ニ働クトカ云フヤウニ自由ニナツテ居リマス、ソレカラ又衛生上ノ事ニシマシマシテモ、細民デアリマスカラ少シ大キナ工場ニ往ケバ大抵綺麗ニナツテ居リマスルシ、又空気ノ流通モ宜クナツテ居リマス故ニ、却テ自分ノ家ニ居ルヨリハ工場ニ居ル方カ大変衛生上ニ取ツテモ宜イノデス、而シテ福井・富山・石川ノ三県ハ何レモ同業組合法ニ依テ皆各地ニ組合ガ設ケテアリマス、殊ニ一町ニ何軒モ同業者ガアル然ルニ向ヒノ方デハ此工場法案ニ由テ職工ガ三十人居ル、此方デハ二十人、或ハ十人、或ハ五人位シカ居ラヌ工場デアル、斯ウ云フコトニナリマスルト、同ジ同業組合ノ下ニアリナガラ此法律ヲ遵由スルト否トニ依テ、職工ナドハ忙ガシイノト忙ガシクナイノトアツテ、甲カラ乙ニ往クト云フヤウニナツテ非常ナ紛雑ヲ来タサウト思ヒマス、仕事ハ同ジテモ体裁ハ大変違ウヤウニナラウト考ヘマスガ、其辺ハドウ云フ御考デアリマスカ
○工務課長(窪田静太郎君) ソレハ三十人ニ区切リヲ付ケルト云フコトハ富山・石川辺ハ同業組合ノ関係ニ於テ困ルト云フ御意見デアリハセヌカト思ヒマスガ、大体ニ於テ吾々ガ三十人ト致シマシタノハ、先刻申シマシタ如ク、家族工業又ハ家族工業ニ准ズベキヤウナ、則チ縦令人ヲ使ツテ居ツテモ一家ノ僕婢ヲ使フガ如キ家族ニ准ズベキヤウナ工場ト、ソレカラ工場組織ノ工場トノ間ニ区別ガアルノデス、其工場組織ノ工場ニ自然ニ伴ウ弊害ガアルカラ之ヲ矯メヤウト云フ趣意デアリマスカラ、其分界ヲ工場組織ト家族組織トノ工場ノ間ニ付ケル、ソレニハ何ヲ標準ニシタラ宜イカト云ヘバ一番人ヲ標準ニスルノガ宜イト思ツタノデアリマス、然ラバソレヲ何人ニスルガ宜イカト云ヘバ、之ハ一般ノ工場カラ実際ニ見渡シタ所デ見当ヲ付ケナケレバナラヌ、ソレデ吾々ハ三十人ト云フ、家族的工場ト工場組織ノ工場トノ間ニ分界ヲ付ケルト云フノハ少シ高過ギルト思ヒマスケレドモ、初メハ稍々高メナ所カラ始メテ而シテ小サナ所ニ及ボスト云フコトハ実際各国ノ例ニ因テ見テモサウ云フ仕組ニナツテ居リマスノデ、外国デハ家族バカリデヤルモノデナイ以上ハ、一人デモ職工ヲ使ツテ居ル工場ニハ之ヲ適用スルト云フマデニ進ンデ居ル所モアツテ、此家族工業ニ付テハ幾分カ立入ツテ居ル所モアリマスガ、ソレハ此時運ノ進歩ニ伴ツテ漸次ニ進メテ往クベキモノデアツテ、初メカラ余リ小サナ所マデ進メテ往クノハ然ルベカラザルモノデアラウト信ジテ、此位ニ極メタノデアリマス
○番外五番(久留米、今村秀夫君) 大体ノ趣意ニ付イテハ窪田君ノ御説明ニ依テ分リマシタガ、此工場法案ヲ一読シテ見マスルト、此中ニハ或ハ勅令トカ命令トカ云フヤウナ範囲ヲ沢山御設ケニナツテ居ルヤ
 - 第22巻 p.820 -ページ画像 
ウデアリマスガ、此範囲ニ付イテ或ハ斯ウ云フ場合ニハ勅令ヲ以テ制裁スル、或ハ斯ウ云フ場合ニハ命令ヲ以テ取締ルトカ云フヤウナコトハ、予メ当局者ノ方デ御腹案ノアルコトデアリマセウガ、或ハサウ云フモノハ臨時ニ御発布ニナルト云フ御精神デアリマセウカ、一寸伺ヒマス
○工務課長(窪田静太郎君) 大抵見込ハ付ケテアリマス、併ナガラ物ニ依テ先刻モ申上ゲタ通リ第九ノ乙ニ依テ女子供ヲ禁ズベキモノト云フヤウナコトニナリマスルト、是ハ尚十分ニ施行準備トシテ斯ウ云フ風ニ規程ガ必要デアルカラヤラナケレバナラヌ、ソレニ付イテハ是ハ禁ジナケレバナラヌ、或モノヲ禁シタラ斯フ云フ困ルコトガアルカト云フヤウナコトヲ綿密ニ調査シナケレバナリマセヌカラ、一々何モカモ見込ガアルト云フコトハ申上ゲラレマセヌガ、大体ハ見込ヲ持ツテ居リマス
○三十七番(神戸、横田孝史君) 此問題ニ付イテ当局者トシテ窪田君ガ御臨席下スツテ、親シク案ノ趣旨ヲ御話シ下スツタコトハ吾々ノ最モ喜ブ所デアリマス、伺ヒマスレバ御出席ノ時間ニ制限ガアツテ最早此席ニ居ツテ下サルコトハ出来ヌヤウナコトニ承リマシタ、然ルニ本問題ニ付キマシテハ唯ダ一場ノ御話ノミナラス、最モ緊要ナル点ニ付イタ御伺ヒヲ致シテ置キタイ事柄モアリマス、付イテハ幸ニ御繰合ガ付キマスレバ最モ重畳ノ至リ、若シ否ラズシテ今日当席ニ於テ御答ガ出来ヌト云フコトデアレバ他日御臨席ヲ下サル訳デアリマスカ、折角御臨席ヲ下スツタニ付イテハ是非一・二伺ツテ置キタイ点モアリマスカラ、念ノタメ伺ツテ置キマス
○工務課長(窪田静太郎君) 明日ナラバ出席ガ出来マス
○三十七番(神戸、横田孝史君) 付キマシテハ諸君ニ御協リ致シマスガ、唯ダ自分一己ノタメニ御臨席ヲ願ウト云フコトハ聊カ憚リマスルカラ、若シ他ニ御質疑等ノ御方ガゴザイマスレバ、自分共ノ考デハ是非重ネテ明日御臨席ヲ請求シタイト考ヘマス(「同感」ト呼ブ者アリ)然ラバ会長ニ於テ然ルベク御取計ヲ願ヒマス
○三十四番(大阪、法橋善作君) 議事ノ進行上ノ都合ガアリマスカラ窪田書記官ガ御臨席ヲ下スツテ質問ヲシマスルコトハ私モ同意デゴザイマスガ、明日ハドウゾ午前ニ於テ御臨席ヲ願ツテ質問ヲ了ヘテ、サウシテ午後ハ二・三ノ議事ヲ成ルベク纏メルヤウニシタイト思ヒマス
○会長(東京、渋沢栄一君) 然ラバ明日ノ開会ハ九時ト致シマセウカ
○三十四番(大阪、法橋善作君) ドウカサウ云フコトニ願ヒマス
○会長(東京、渋沢栄一君) ソレデハ明日ハ午前九時開会ト致シマシテ、工場法案ニ関スル質問ハコレデ止メテ明日更ニ継続スルコトニ致シマセウ……ソレデハ窪田サン、時間ヲ少シ長ク御引留メ申シテ恐縮デゴザイマシタ、今御聴キノ通リノ次第デゴザイマスガ、明日ハドウカ九時カラ御臨席ヲ願イマス
○工務課長(窪田静太郎君) 承知致シマシタ


明治三十五年十二月開設 臨時商業会議所聯合会議事速記録 第九五―一三二頁 刊(DK220067k-0004)
第22巻 p.820-837 ページ画像

明治三十五年十二月開設
臨時商業会議所聯合会議事速記録  第九五―一三二頁 刊
明治三十五年十二月十日午前十時三十五分開議
 - 第22巻 p.821 -ページ画像 
  出席委員     二十七名 ○氏名略
○三十四番(大阪、法橋善作君) 皆サンニ一寸御協リ致シマスガ、正副会長トモマダ御出席ガゴザイマセヌ、然ルニ会長ハ最早途中マデ御出テニナツテ居ルサウデ、モウ程ナク御着ニナルデアリマセウガ、一時御着ニナルマデノ間仮会長デモ設ケテ議事ヲ開イタラ如何デゴザイマセウ(「異議ナシ」ノ声起ル)付キマシテハ甚ダ出過キタヤウテスガ京都ノ中村栄助君ニ仮会長ヲ御願申シタイト考ヘマスガ、皆サン如何デゴザイマセウ
   (「賛成」ノ声起ル)
   (中村栄助君会長席ニ就ク)
○仮会長(京都、中村栄助君) ソレデハ正副会長ノ御出席マデ不肖私カ此席ヲ汚シマス、本議ニ掛カル前ニ会計ノ御報告ガアリマスカラ、書記ノ方カラ唯今報告致サセマス
   (書記朗読)
○三十四番(大阪、法橋善作君) 私共ヘ曩ニ会計委員ヲ御嘱託ニナリマシテ、爾来取調ベマシタ結果、唯今朗読致シマシタ通リデアリマスガ、是ハ数年来ノ慣例ニ基キマシテ予算ヲ制定致シタノデゴザイマスカラ大抵異動ハアルマイト存ジマスルデ、左様御承知ヲ願ヒマス
○仮会長(京都、中村栄助君) 尚一言御報告致シマスガ、福井・松江二会議所カラ来否ノ通知ガゴザイマシタカラ御報告致シマス、福井会議所ハ解散ノタメニ総会《(マヽ)》ノ申込ガゴザイマシタ、ソレカラ松江会議所ハ参会ノ断リガゴザイマシタカラ此両件ヲ御報道致シテ置キマス……ソレデハ工場法案ノ条項ニ付イテ前会ノ質問ヲ継続致シマス
○三十八番(名古屋、鈴木摠兵衛君) 昨日ノ質疑ニ続イテ一応当局ノ方ニ御説明ヲ要メマスガ、既ニ昨日ハ燐寸業ノコトニ付テ概略伺ヒマシタガ、其御説明ニ依レバ、政府ニ於テハ劃一ナル制度ヲ以テ此工場ノ取締ト云フヨリハ、寧ロ職工ノ保護ト云フ精神カラ本案ハ成立ツテ居ルヤウニ思フ、昨日モ述ベタル如ク年齢ニ制限ヲ置キ、或ハ其他ノ事柄ニ制限ヲ設ケルト云フコトハ、細民ガ一家打寄ツテ親子共ニ労働ニ従事シテ、而シテ漸ク糊口ノ途ヲ立テヽ往クト云フ者ニ自然尠カラサル関係ヲ及ボスデアラウト思ヒマス、之等ハ政府ニ於テハ其根抵ヲバ洗ツテ改良セシメルニハ其辺ヲ顧ミルノ意思デアルカ否ヤト云フコトヲ昨日伺ヒマシタ所ガ、御返答ガ漏レテ居リマシタカラ更ニ之ヲ伺ヒタイ、次ニハ三十名ト云フノハ家族組織ノモノガ多イ、此以上ハ工場組織ニナツテ居ルモノガ多イカラ三十人トシタト云フコトデアリマシタガ、ドウ云フ所カラ三十人ト見ラレタカ、或ハ政府当局者ハ御調ノ結果ドウ云フ所ガ斯ウ云フ事ニナツテ居ルト云フ適例ニ依テ斯様ニ定メラレタノデアルカ、ソレカラ工場ノ取締ニ付イテハ、或ハ建増シヤ総テノコトヲハ検査スルト云フコトデアリマスガ、是ハ是迄ノ実例ニ徴スルニ乙ニ寛ニシテ甲ニ厳ナリト云フコトガアル、或ハ出張員ガ思ヒ思ヒニ依テヤル、又大工場ナドニ於テハ工事ヲ担当スル者ハ立派ナ肩書ノアル技師ガヤツテ居ル、然ルニ検査ニ出張スル人ハ三十円カ四十円位ノ属官デアルカラ、検査ニ往ツテ却テ大工場ノ技師ナドニ注意ヲサレタリ説諭ヲ聞イテ帰ツテ往クト云フ有様デアリマス、又三十
 - 第22巻 p.822 -ページ画像 
人以下ノ工場ニ於テハソレ程立派ナ技師ガ居ラヌカラ総テノ事ヲヤカマシク検査スル、則チ甲ニ厳ニシテ乙ニ寛ナリト云フ傾ガアル、又検査スル人ガ一県内ニ於テ数十ノ工場ニ一々手ガ廻ラヌタメニ、却テ急ク仕事ノ必要カラ工場ヲ増シタイト云フトキニ、其時機ヲ失ハシムル嫌ガアルト思ヒマスガ、是ニ付イテハドウ云フ御考デアリマスカ一応伺ヒマス
○工務課長(窪田静太郎君) 第一番ニ労働社会ノ生活ニ如何ナル影響ヲ及ホスデアラウカ、其処ニ困難ヲ生ジハシマイカト云フコトニ付イテノ見込ヲ御尋ネデゴザイマシタガ、是ハ吾々モ一面工業上ニ差向キ影響ヲ及ボスコトガドウデアルカト云フコトヲ考ヘルト同時ニ、一面労働社会ニ差向キ及ボスベキ影響ハドウデアラウカト云フコトハ、大ニ懸念致シマシテ考ヘテ居ル次第デゴザイマス、デ私共ノ此労働社会就中貧民社会ノ状況ヲ観マシタ所ニ依リマスルト、大体此子供ノ最モ小サナ者カラ申シマスルナラバ七・八歳カラノ小サキ子供ガ何程カノ儲ケヲスルト云フコトハ、十年乃至廿年以来則チ機械的ノ工業輸入ガサレテカラ以後ノコトデアルト云ツテ宜カラウト思ツテ居リマス、ソレデ此機械的工業ガ輸入セラレタ以来労働社会殊ニ貧民ノ社会ノ生活ニハ余程ナ幸福ヲ与ヘテ居ルノデアル、デ近来工業社会ガ大変萎微シテ前日ノ如キ勢ヲ以テ盛ニ興ラナイト云フ此数年ノ状況ニ於キマシテモ、尚ホ労働社会ノ状況ヲ見マスルト云フト、賃金ノ如キハ現ニ高クナリ、一般ノ労働社会ハ幸福ナ状況中ニアルト云ツテモ宜カラウト思ツテ居リマス、サウ云フ状況デアリマスルガ、是ガ七・八歳乃至十二三歳ノ小サナ子供ノ仕事ニ依テ何程カ労働社会ノ幸福ニ貢献スル所ガアルカト云フコトハ、是ハ数量ヲ以テ計リ出スト云フコトハ出来マセヌケレドモ、吾々ハ大体此労働社会ノ十数年幸福ナ状況ニ居ルト云フコトハ一般ノ仕事ノ殖ヘタ所ニ原因スル所デアツテ、子供ガ何程カノ儲ヲスルト云フコトガ左程ニ興ツテ大ナル力ノアルモノトハ思ハレヌノデアリマス、デ其子供ガ工場デ働イテ二・三銭乃至七・八銭ノ儲ヲスルト云フコトヲ止メタタメニドレダケノ労働社会ノ生活ニ困難ヲ与ヘルカト云フコトモ、吾々ハ恐ラクハ左程ニ困難ヲ与ヘルト云フ事ハナカラウト思フ、大体此貧民ノ状況ナドニ付イテ見聞致シマシタ所ニ依リマシテモ、子供ニ仕事ヲサセ、サウシテ生活ヲ維持シテ往クカ、若ハ子供ヲ学校ニ送リ親ガ働イテサウシテ一家ヲ支ヘテ往クカト云フ事ハ、主トシテ是ハ慣習的、一口ニ云ヘバ親ノ覚悟如何ニアルト大体ハ云ツテ宜イト観察シテ居ルノデス、デ均シク同ジヤウナ収入ガアリ同ジヤウナ状況デアル家族ニ就イテ観察シテ見テモ、必シモ皆其子供ヲ二・三銭位ノ儲ヲサセルト云フガタメニ「工場等ニ送ツテ生活ヲ維持シテ居ルカト云ヘハ決シテサウデハナイ、或者ハ同ジヤウナ収入ヲ以テ同ジ事情ニアツテ尚学校ヘ送リ得ル者モアリマスルシ、或者ハ送リ得ナイ者ガアルト云フノハ畢竟親タル者ノ覚悟如何ト云フ事ガ大体ノ道理ト私ハ思ツテ居リマス、併ナガラ是レハ一口ニハ云ヘマセヌ、私ノ子供ト云フノハ七・八歳乃至十二・三歳ノ子供ニ就イテ云フノデアリマスガ、ソレデ其子供ヲ働カシテ一家ノ生計ニ何程カノ助ケヲシテ居ルカト云フ事ハ、昨日モ申シマシタヤウナ風ニ差向キハ或ハソレデ
 - 第22巻 p.823 -ページ画像 
親ガ凌イデ居ルヤウデアリマスケレトモ、他年此子供ガ大人ニナツタ場合ニ一家ヲ成シテ往キ一身ヲ助ケテ往クト云フ所ノ唯一ノ資本ハ彼等ノ健康ナル身体、又能フ得ベクンバ何程カ与ヘタル教育ト云フ事ガ彼等ノ世ノ中ニ立ツテ往ク所ノ唯一ノ資本デアリマス、其資本ガ此小サナ中ニ涸渇スル、減耗スルト云フ傾ノアル事ハ、他年ニ損害ヲ労働社会ニ及ホス事ノ甚シイモノデアリマスカラ、縦令多少此子供ニ依テ儲ケルト云フ事ヲ辛抱スルトシテモ、之ヲ他年ニ養成スルト云フ目的デ、成ルベク身体ノ健全ヲ図リ若ハ教育ヲ受ケ得サセルヤウニスルト云フ事ハ、他年ニ労働社会ノ幸福ノ原因トナルデアラウト思フノデスソレデ此小サナ子供ガ工場デ儲ケルトカ云フ事ノ其収入ガ、ドノ位ノ影響ヲ一家ノ生計等ニシテ居ルカト云フ事ヲ申スノハ固ヨリ数字的ニ申セマセヌガ、若シ之ヲ一口ニ申シマスナラバ、吾々ハ先ヅ菓子ノ代ニナツテ居ルト云フ事ガ大体カラ云ヘバ云ヘルデアラウト思ツテ居ルノデス、多クハソレヲ以テ子供ノ菓子ノ代ニ与ヘルト云フヤウナ位ナモノデ、親々ガ子供ヲ工場ニ送ルト云フ事モ隣家ノ子供ガ往ツテ居ルカラ自分ノ子供モ先ヅ此位ニナツタラ工場ニデモヤツタラ宜カラウト云フ位ノ事デ、其儲ケ得タ金ト云フモノハ如何ニナルカト云フ事マデハ寧ロ考ヘナイデ、唯ダ慣習的ニ遊バシテ置クヨリハ工場ニヤツタラ宜カラウト云フ位デヤツテ置クノデ、子供ノ儲ケ得タ金ガドウナツテ果シテ一家ノ為ニナルカ、或ハ子供ノ為ニナルカト云フ事ニ考ヘ及バヌト云フ実況デアリマス、実ハ多ク菓子代ニナル、若ハ小サナ子供デモ動モスレバ年長者ノ中ニ立交ツテ賭博ニ類シタコトヲ行ツテ居ルト云フ状況デアリマス、此子供ガ何程カ儲ケルト云フコトカ果シテ是ガ他年ノ健康上其他ノ慮ル所ハ姑ク措イテ、現在ノ状況カラ云ツテモ、ソレガ子供ノ品性ニ於テ又一家ノ生計等ニ於テ、果シテ今日ノ状況カラ云ツテ、為ニナツテ居ルカ或ハ不為メニナツテ居ルカト云フコトハ寧ロ問題デアラウト思フノデス、之ヲ要スルニ私共ノ観ル所デハ十二三歳以下ノ子供ニ就イテノ工場労働ヲ制限スルト云フ事ハ、貧民社会ニ対シテモ耐ヘ得ラレナイコトデハ決シテナイ、慣習的親ノ精神ヲ養ツテ往キマシタナラバ必ズ良結果ヲ奏スルテアラウト思フノデアリマスガ、併ナガラ十数年来小サナ子供ニ手当リ次第ニ何カヤラシテ儲ケサセルト云フコトガ慣習トナツテ行ハレ来ツテ居ルノデス、此慣習ヲ一朝ニシテ打破スルト云フコトハ又考ヘナケレバナルマイト思フノデス、今日迄ハソレガ縦令悪イニモセヨ左様ナル状況ニ貧民社会ガ調和セラレテ、ソレデ行ハレテ往クト云フコトニ今ナツテ居ルノデアリマス、其有様デ調和シテ居ル其貧民社会ノ状況ヲ、急激ニ十二・三歳以下ノ者ハスツカリ止メナケレバナラヌト云フコトニスルナラバ、恐ラクハ或部分ノ貧民中ニハ差向キ迷惑ヲ感スルト云フモノモアラウシ、又実際上ノ迷惑モアラウガ、一ツハ慣習的、子供ガ儲ケタモノガ儲ケラレナクナツタト云フヤウナ慣習的ノヤウナコトカアルデアラウ、矢張是モ相当ノ年月ヲ措イテ先ヅ最モ小サナモノカラ制限シ、漸次ニ十二・三歳以下ノ者ニ対シテハ禁ズルト云フコトニシタナラバ急激ナ変動ヲ来タスコトガナクシテ、他年ニ労働社会ノ健康幸福ノ源ヲ造ルコトガ出来ルデアラウト信ズルノデゴザイマス、デ此要領ニ書イテアリ
 - 第22巻 p.824 -ページ画像 
マスルヤウナ風ニ、此子供ノ労働ニ付イテノ規程ヲ設ケタノデアリマス、ソレカラ其以上十六歳未満ノ子供若ハ女子ニ付イテハ、是ガタメニ此規程ニ依テ従来ヨリモ生産額ガ減ル、一体ノ工業ノ生産物ガ減ルト云フナラバ、労働社会ノ収入ノ減ルト云フコトニナル、サウスレバ労働社会ニドウ云フ影響ヲ及ボスカト云フコトモ考ヘナケレハナラヌト思フノデアリマスガ、吾々ハ生産額ヲ減ジナイデ、労働社会ノ収入ヲ減ズルト云フヤウナコトヲシナイデ、労働者ノ健康等ヲ保護スルコトハ出来ルト云フ見込デアリマス、又出来ルヤウニシナケレバナラヌノデアリマス、若シドウシテモ此生産額ヲ減シナケレバ労働者ノ健康等ノ保護ガ出来ナイト云フモノナラバ、殆ト此問題ヲ処理スル見込ハナイト云ツテ宜イト思ヒマス、デ吾々ノ見込デハ是又急激ニヤルナラバ生産額ヲ減ズルト云フコトハ免レヌデアラウガ、漸進的ノ方法ヲ以テ一面ニ工場ノ経営、労働社会ノ規律ト云フモノヲ進メテ、サウシテ一面ニ労働時間ヲ減ジテ往クト云フヤウナ仕組ニ致シマシタナラバ、敢テ生産額ニ影響スルコトナクシテ、サウシテ要領ニ書イテアルタケノコトハ出来ル見込ナンデス、若シ此仕組デハソレガ出来ナイトスルナラバ出来ル仕組ト云フモノハ何カアリハセヌカ、ドウシタラ両方ノ調和ヲ取ツテ進ンデ往クコトカ出来ルカト云フコトガ研究スベキ点デアラウト考ヘテ居リマス、ソレカラ三十人以上ト云フモノニ法律ノ適用ノ範囲ヲ定メタト云フコトハ、昨日モ一寸申上ゲタ如ク、此各種ノ工場ノ実況ニ照シテ三十人ト云フノハ寧ロ高イカモ知レマセヌガ、詰リ家族工業若ハ家族工業ニ准ズベキ如キ小工業者ヲ除イテ、サウシテ工場組織ノモノニ付イテ適用シテ往ク、ソレモ先ヅ是ガ小サナモノニマデ行キ過ギルヨリハ寧ロ稍々高イ所カラ始メタ方ガ穏当デアラウ、而シテ外国ノ例ヲ見テモ漸次ニ少サナ所マデニ及ンデ往クト云フ歴史カラ見テモ、矢張稍々高イ所ノ標準ヲ取ツタラ宜カラウト云フ考デ取ツタノデアリマス、是ハ各種類ノ工場ニ就テ見ルニ此位ヲ適当ト認メタノデアリマス、決シテ一・二ノ適例実例カラ此三十人ト云フモノヲ定メタノデハナイノデアリマス、ソレカラ工場ノ検査等ニ付イテ或ハ区々ニナリハセヌカ、或ハ人ニ依テ寛厳ハ生ジハシナイカト云フ事ノ御懸念ハ至極御尤モナ懸念ト考ヘマスガ、是ハ畢竟其人ノ技能如何、又其人ヲ使ツテ往ク所ノ使ヒ方如何ニ依ル次第デアリマス、吾々各地方区々ニナラヌヤウニ之ヲ中央ニ統一シテ、サウシテ適当ナル標準ヲ常ニ打合シテ、余リニ厳ニ失セズ又著シク寛ニ流レナイヤウニ打合ヲ始終ヤラシテ、中央デ之ヲ監督シテ往クヤウニシナケレバナラヌト思ツテ居リマス、其人ハドンナ人ヲ得ラレルデアラウカト云フコトニ付イテハ、成ルベク技術モアリ経験モアル人ヲ得タイト云フコトハ勿論デアリマスケレドモ、是亦費用ノ関係モアリマスルシ、サウ理想的ニ行ハルヽモノデモアリマセヌカラシテ、御懸念ノアルコトハ至極御尤ト思ヒマスガ、ソレハ成ルベク左様ナコトノナイヤウニ上級ノ監督ニ依テヤツテ往クヨリホカハアルマイト思フノデス、此問題タルヤ敢テ此工場法ヲ設ケル要点ニ関係スル問題デハナイト思フノデス、設ケナイデ置イテモ矢張工場ニ付イテハ建築等ニ付イテ取締ルト云フコトハ現ニ各地方ガヤツテ居リマスルシ、亦将来モヤルニ相違ナイノデアリ
 - 第22巻 p.825 -ページ画像 
マスカラ、ソレヲ行ツテ往ク上ニ於テ、矢張御話ノ如キ懸念ガアルノデアリマスガ、寧ロ是ハ一ツノ系統的ノ取締法ヲ設ケテ、サウシテ監督ノ関係ヲ定メテ中央デ統一スルノ方法ヲ設ケマシタナラバ、却テ寛厳ノ区々ニナルト云フヤウナ憂ハ大ニ減スルコトガ出来ルデアラウト見込ンデ居ル次第デアリマス、大要御尋ネニ対シテ御答ヲ致シテ置キマス
○三十八番(名古屋、鈴木摠兵衛君) 続イテ御尋ネヲ致シマス、唯今御答弁ニ依テ略々分リマシタガ、尚ホ続イテ御尋ネヲシタイノハ、幼年者ニ対スルコトハ政府ノ趣意ハ教育上カラ割出スト云フ御趣意デスカ、一般ノ父兄ノ情トシテ成ルタケ子供ヲ愛護シテ往ク、行ヒ得ベクンバ乳母日傘デ育テヽ往キタイト云フノガ父兄ノ情愛デアルガ、生活上已ムヲ得ズ労働サセルノデアル、ソレヲサウ云フコトヲサセナイヤウニト云フノガ一般教育家ノ謂フ所デアリマス、又幼年者ナラバ多少賃銭ガ廉イ、壮年者ナラバ賃銭ガ高イ、今日ノ工業ノ有様ニ依ツテハ勢ヒ賃銭ノ廉イ者ヲ使ハナケレバ売先ノ競争上ニ於テ甚シイ憂ガアルカラ働カシテ居ルノニ、教育上宜シクナイカラ止メルト云フ御精神ト承知シテ宜イカ、ソレカラ工場ノコトハ既ニ御説明ノ如ク是迄各府県ニ於テモ府令又ハ県令ヲ以テ取締ノ規則ガ立ツテ居ルノデアルガ、ソレガ決シテ良好ノ結果ヲ得テ居ラヌ、是ニ付イテハ政府ニ於テモ既ニ御苦慮ノアルコトヽ唯今御話ニ依テ承知致シマシタガ、今度ノ検査ノ方法ハドウ云フ方法ニ依テヤルカ、府県ノ知事ニ任セテシマウカ、或ハ特ニ技師的ノ人ヲバ各府県ニ置イテヤラセルカ、又県ニ置クトスレバ或ハ地方ニ依テハ二十里モ三十里モ検査ヲ受ケルタメニ特ニ出張ヲ煩ハサナケレバナラヌト云フコトガアルデアラウト思ヒマスガ、之等ノ手続ハドウナルカ伺ヒタイ
○三十二番(京都、中村栄助君) 唯今ノ質問ニ続イテ伺ヒマスガ、此法案ヲ御制定ニナツタ御趣意ヲ承リマスルト、主トシテ衛生上カラ割出シタト云フ御説明デアリマスガ、幼年者ニ対スル所ノ教育ト云フモノハ実行ノ上ニ何処ラマデノ程度ヲ以テ御取調ニナツタノデアリマスカ、夫等ノコトガ予メ御見込ガ立ツテ居レバ承ツテ置キタイ
○二十五番(豊橋、加藤六蔵君) 私ハ昨日出席致シマセヌデシタカラ私ノ問ハントスル事柄ハ既ニドナタカラカ出タカ知レマセヌガ、且ツ私ハ之ヲ一読シタダケデアリマスカラ或ハ誤ツタコトガアルカモ知レマセヌガ、此場合ニ於テ二・三御問ヒ致シタイノハ、先ヅ第一ニ此工場法案ヲ提出シヤウト云フ御精神ヲ伺ヒタイ、ト云フノハ工業上ノ発達ト云フコトヲ主眼トシテ見ラレタカ又ハ労働者ノ保護・衛生・教育ト云フコトヲ主眼トシテ見ラレタカ、又ハ欧羅巴ニアルカラシテ日本モ真似テ見ヤウト云フノデ之ヲ出サレタカ、其点ヲ一ツ伺ヒタイ、其主眼トスルモノカラシテ総テノ箇条ヲ割出シテ往カナケレバナラヌ、例ヘバ或労働者ヲ保護スルノ精神カ、則チ欧羅巴ニアル如ク「ストライキ」ガ起ルトカ総テ工場主ト労働者トノ間ガ調和ヲ欠イテ居ルト云フヤウナコトガアレバ、サウ云フ精神デ総テノ箇条ヲ仕組ンデ往カナケレバナラヌ、所ガ日本ノハ多クハ家族的デ尤モ大キナ工場モアリマセヌガ、サウ云フコトハナイト云ツテモ宜イ、ソレハ或ハ将来工業ガ
 - 第22巻 p.826 -ページ画像 
十分ノ発達ヲ為シタトキニ起ルカモ知レマセヌガ今日ニ於テハサウ云フコトハナイ、此点ヲ明細ニ承リタイ、ソレカラモウ一ツハ三十人以上ト云フノハ日本ニ何箇所位アルカ其見込ヲ伺ヒタイ、ソレカラ玆ニ仮ニ何箇所アルトスルト、今御諮問ニナツテ居ルモノハマダ未定ノモノデアリマスガ、農商務省デ御考ニナツタモノヲ施行スルコトニスルト其中ドノ位ノモノガ不合格ニナルト云フ御見込デアルカ、不合絡ノモノガアルトスレバ一部分ハ斯ウシナケレバナラヌト云フ其営業上ニ大関係ヲ及ボス工場ガ大分アルダラウト思ヒマスカラ、是等ノ箇条ヲ承リタイ、ソレカラ工場法ノ施行期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ムトアリマスガ、勅令デアルカラ分ラヌト或ハ御答ニナルカ知レマセヌガ、成程アナタガ分ラヌト仰ツシヤルノハ御尤モデアリマスガ、約ソイツ頃、例ヘバ当議会デ極マツタトスレバ約ソイツ頃施行ニナルカ、大約ノ御見込デ宜イカラ承リタイ、ソレカラモウ一ツハ第二工場ノ取締ト云フ所ノ、甲ト云フ所ニ工場ヲ新設スルトカ若ハ改築スルモノハ行政庁ニ届出デロト云フコトガアリマスガ、是ハ施行ニナツテ法律ガ効力ヲ生スル時カラ、総テ届ケテ認可ヲ受ケルト云フコトニナルデアリマセウカ、ソレカラ丙ト云フ所ニ寄宿舎其他工場ノ附属建物及設備ニ関スル事項ハ命令ヲ以テ定ムトアリマスガ、此命令ト云フコトガ能ク間違ツテ困ル、立法者ノ意見ト違ツタ命令ガ出テ困ル、二度ビツクリモノガ出テ困ル、私共度々経験シテ居ル、ソレデ甲ノ方ハ新設ト云フコトニナツテ、丙ノ方ハ寄宿舎其他工場ノ附属建物及設備ニ関スル取締デアル、ソレデ此命令ト云フコトハ前在ルモノニ対シテ強制スルヤウニ心得ルガ果シテサウデアリマスカ、若シサウトスレバドノ位ノ程度マデナサルカ、是モマダ分ラヌト仰ツシヤルカ知レマセヌガ、私ハ決シテ議論的デ申スノデハアリマセヌガ、ソレガ分ラヌト全体ノ法案ノ可否ニ苦ムト云フコトガ起ル、依テ責任ヲ持ツテドウト云フムヅカシイコトハ申シマセヌ、少シ位違ツテモ宜イカラ其程度ヲ大約承リタイ、ト云フノハ田舎漢ガ東京見物ニ来テ銀座ニ往ツテ見ルト大キナ立派ナ店ガ檐ヲ列ヘテ居ル、一寸見ルト皆大資産家ノヤウニ見エルガ扨勝手ヘ這入ツテ見ルト、ピーピーガラガラデ勘定ガイツモ合ハヌト云フ手合ガアルノデアル、ソレト均シク欧羅巴モ表面ヲ見ルト如何ニモ立派テアルガ、内部ヘ這入ルト色々ナコトガアル、サウ云フ皮相ノ観察カラ割出シタ程度デアリマスカ、或ハ官立ノ工場ガ大分在ル、アレハ銭ニ構ハヌデヤツテ居ルカラ比較的立派ダ、アヽ云フモノヲ標準トシテ是等ノ建築トカ寄宿舎トカ云フモノヽ程度ヲ定メラレルノデアルカ、或ハ現在行ハレテ居ル算盤ヲ持テ又工業ノ実際ヲ害サヌト云フヤウナ程度デアルカ、必ズ此法案ヲ作ルニ付イテハ夫等ノ御考ハアルダラウト思ヒマスカラ、命令デアルカラ将来デナケレバ分ラヌト云フヤウナコトヲ仰シヤラズニ、大体デ宜イカラ可否修正ニ対シテ参考ニ供スルダケデアリマスカラ、御腹蔵ナク御示シアランコトヲ希望致シマス
○工務課長(窪田静太郎君) 一番初メニ三十八番カラ御尋ネニナリマシタ子供ノ年齢ヲ制限スルト云フコトハ、教育ノ趣意デアルカト云フコトノ御尋デアツタト思フ、一口ニ申セバ子供ヲ仕上ゲテ他年善良ナル所ノ労働者タラシムルト云フ精神デ、ソレヲ打割ツテ申セバ、第一
 - 第22巻 p.827 -ページ画像 
ハ身体ノ健康デアルデ、其次ハ能フベキダケノ教育ヲ与ヘタイト云フ精神デアリマスノデ、年齢ノ制限ト云フコトノ一番重キヲ為ス理由ハ身体ノ発育ヲ充分ナラシムルト云フコトガ一番ノ目的ナンデ、サウシテ之ヲ普通教育ノ方法ニ依リマシテ出来ベキダケ教育ヲ与ヘテ行クト云フコトガ即チ直接ノ目的デ、最終ノ目的ハ則チ労働者ヲ改善スルト云フコトニ在ルデ、単ニ幼者ノ教育ノ目的デアルカト云フ御尋ニ対シテ、其通リデアリマスルト云フコトノ御答ハ少シ足リナイカト思ヒマスカラ今申ス如クニ申上ゲルノデ、併シナガラ教育ト云フ言葉ヲ若シ広イ意味ニ於キマシテ、他年ニ善良ナル人ヲ作ルノデアルト云フコトガ即チ教育デアルト云フ意味ニシマスルナレバ、御尋ノ如クニ教育スル目的デアルト言ツテモ宜カラウト思フノデアリマス、ソレカラ其次ニ監督ノ組織ニ付テ御尋ネデアツタト思ツテ居リマス、夫ハ監督ノ責任者ハ矢張リ地方長官ト云フコトニ致シタイ積リデ、サウシテ之ヲ実際ニ手足トナツテ働イテ行クト云フ人ハ技術家ヲ置カナケレバナラヌト思フ、其技術家ニ色々ナ種類ノ技術家ヲ要スル次第デアリマスルカラシテ、之ヲ総テノ地方ニ向ツテ総テノ種類ノ技術家ヲ各地方ニ総テ配置スルト云フ事ハ差向キハ其必要少ナク、又経費ノ所カラ申シテモ出来ナイト思ツテ居ル、併シナガラ地方ニ依テ工場ノ多イ所ナドニハ人モ高イ人ヲ置キ、成ルベク各種ノ専門ノ技術者ヲ置カナケレバナラヌト云フ積リデアリマスルガ、現今デハ工場ノ取締リヲヤツテアリマスルガ、殆ント其東京其他一・二ノ地方ヲ除キマスレバ恐ラクハ工場ヲ取締ルト云フ所ノ人ガナクシテ、而シテ取締ツテ居ルト言ツテ一口ニ言ヘバ言ツテ宜イト思フ、ト申スノハ此技術者ヲ置クベキ経費ト云フモノハ国庫カラハ配ツテナイノデアル、サウシテ地方ニ於テ俸給ノ主タル部分ヲ府県税カラ出シテ、サウシテ或ハ技手トカ或ハ技師トカ云フ名義ヲ付スル為メニ何程カ国庫カラ俸給ノ一部分ヲ(多クノ場合ニ於テハ極ク一小部分ヲ)出シテ、ソレデマア行ツテヤツテ居ル、一口ニ申セバ監督ノ設備ト云フモノガ甚タ手薄イト言ツテ宜イ、其手薄イ仕組ミヲ以テ監督ヲシテ行カウト云フ事デアルカラ、随分監督スル方モ監督セラルヽ方モ困難ナ話デアラウト思フ、併シナガラ又各地ノ工業ガ興リ、此工業ノ種類ニ依テハ随分公衆ニ迷惑ヲ及ボシ、或ハ職工徒弟ニ危険ナモノモアルカラシテ、之ヲ捨テヽ置クト云フ訳ニハ行カヌカラシテ、デ各地方モ行ツテヤツテ居ルデアルガ、偖テ今申スヤウナ仕組デ甚ダ困難ナ実況デアラウト思フノデ、デ東京ノ如キニシマシテモ此技術者ノ人員等ノ点ニ於テモ未ダ不充分デアリマシテ、ソレガ為メニ矢張リ監督スル方モセラルヽ方モ困難ヲ感ズルト云フ事ハ免レナイコトデアラウカト考ヘテ居ル、デ此工場法ヲ設ケテ系統的ニ取締ヲシテ行クト云フ事ニ付テハ国庫カラ相当ナ費用ヲ出シテ、サウシテ成ルベク必要ナル人員ヲ配置シテ取締リヲシナケレバナラヌ、サウデアリマセヌト却テ此監督セラルヽ方ニモ甚ダ困難ヲ生ズルト云フ事デアラウト思フ、デ私共ノ見込デハ今申ス如ク各地方ニ技術者ヲ配付スルト云フ外ニ、尚ホ此東京・大坂ト云フ如キ地方ニハ監督署ヲ置イテ其所ニ相当ナ技術者ヲ置キマシテ、地方ノ監督ノ仕方ヲ農商務大臣ガ監督シテ行ク事ノ機関トスルノデアル、デ各地方ニ或ハ区々ニナル
 - 第22巻 p.828 -ページ画像 
コトノナイヤウニ、又此監督ノ目的ト云フモノハ一面ハ保安・衛生ト云フコトヲ目的トスルト同時ニ、一面デハ工業上ノ便否如何ト云フコトヲ考ヘテ、両方ノ方面カラ適当ナ途ヲ歩マナケレバナラヌノデアリマスルカラシテ、此監督ノ方法ト云フモノヲ農商務大臣ガ監督シテ行クニ付テハ先ヅ東京・大坂位ニ監督署ヲ置イテ行クト云フコトハ必要デアラウ、サウシテ各地方デ行ツテ行クヤリ方ト云フモノヲ監督シ、事実ニ於テハ時々協議モ受ケテ、サウシテ円満ニ効果ヲ収ムルト云フ事ニナリタイト希望シテ居ル次第ナンデ、監督ノ仕組ハ略々マア左様ナコトヽ御承知ヲ願ヒタイ、ソレカラ教育ヲシテ行クト云フ事ニ付テノ見込ヲ三十二番カラ御尋ネニナツタト思ツテ居リマスガ、教育ノ途ハ現今既ニ普通教育ヲ強制的ニ行ツテ行クト云フコトガ我ガ学制ノ精神デアル、此精神ト云フモノヲ拡張シテサウシテ普通教育ヲ強制シテ行クト云フ事ヲ充分ニヤリタイ見込デアル、デ一面ニ子供ノ工場労働ヲ制限シテ健康ヲ図ルト同時ニ、一面デハソレ等ノ子供ニ普通教育ヲ受ケシムルト云フ方面デ方法ヲ附ケテ行カナケレバナラヌ、デソレニハ詰リ今日ノ学制ノ精神ヲ拡充シマシテ強制教育ヲ励行スルト、其励行ニ従テ或ハ地方ニ依テハ尚ホ学校ノ増設ヲ要スルト云フヤウナコトモアルカモ知レマセヌガ、ソレ等ノ事ハ成ルベク其強制教育ノ精神ニ協ウヤウニ進メテ行カナケレバナラヌト思ツテ居ルノデ、ソレカラ此工場法ヲ設クルト云フコトノ主眼トスル所ハ何デアルカト云フ御尋ネデゴザイマシタガ、此法律ヲ設クル精神ハ労働者ヲ改善シテサウシテ工業ノ発達ヲ図リ、又工業社会ノ秩序ヲ保チ、延イテ一般ノ秩序ヲ保チタイト云フコトガ此法律ノ主眼デアル、併シナガラ其目的ト云フモノガ此法律バカリデ達セラルヽカト云フナレバ、決シテ此法律ノミデ其主眼ト云フモノガ全クセラルヽ、他ニ望ム所ハナイ、必要ナ方法手段ト云フモノハナイノデアルト云フコトハ決シテ言ヘナイト思フ、併シナガラ其前申ス如ク、労働社会ノ改善ニ依テ工業ノ発達、工業社会ノ平和、社会ノ秩序ヲ保ツト云フコトノ目的ニ対シテノ方法ノ一ツトシテ此工場法ト云フモノヲ必要トスルノデアツテ、ソレニ付テノ色々ノ手段モアリマセウガ、此国家ノ制度トシテ是等ノ目的ニ付テ施設スルト云フ事柄ニ付テノ第一着手トナルベキモノハ、即チ此工場法ノ今日玆ニ出シテアリマスル所ノモノガ第一ニ必要ナモノデアツテ、又根本的ノモノデアルト考ヘテ居ル、何故カト申シマスルナレバ、詰リ此工業進歩ト云フコトハ資本ノ使ヒ方、労働ノ能力如何ニ基クコトニ相違ナイノデ、之ヲ改善シテ行クト云フコトハ工業ノ進歩ヲ期スル所以デアツテ、其改善シテ行クト云フコトノ本ハ則チ将来ノ労働者タルベキ今日ノ子供、又其子供ヲ養ツテ行クベキ女ト云フヤウナ種類ノモノニ付テ着手ヲスルト云フコトハ、他年ニ労働社会ヲ改良スル所ノ根本策又第一着手ノ策デアラウト信ジテ居ル、デ先刻申シマシタ所ノ主眼トスル所ハ詰リ工業ノ発達、工業社会ノ平和ト社会ノ秩序ト云フコトニ在リマスルノデアリマスケレドモ、其方法トシテ此法律ノ直接ニ達シテ行カウト云フ所ノ目的トシテハ労働ノ改善ト云フコトニ在ル、デ其労働社会ノ改善ト云フコトニ付テノ手段トシテハ労働社会ノ健康・教育ト云フコトガ改善ノ基礎ニナル、ソコデ此法案デ直接ノ目的トシ
 - 第22巻 p.829 -ページ画像 
マスル所ハ即チ労働社会、殊ニ他年ノ労働社会タルベキ所ノ幼者・婦女ト云フモノニ付テノ健康・教育ヲ目的トスル趣意デアル、併シナガラ此工場法ノ直接ノ目的若クハ最終ノ目的ニ対スル所ノ手段ト云フモノハ衛生教育ト云フ事ニ在リマスルガ、此教育ノ目的ニ付テハ工場法ハ積極的ニ之ニ教育ヲ与ヘルト云フ所ノ手段ハ執テ居ラナイデ、此法デハ教育ヲ受クルト云フコトヲ妨ゲナイ様ニスルコトヲ此法ノ目的トシテ、其妨ゲナイ所ニ拠ツテ行キマシテ、積極的ニ教育ヲスルト云フコトハ、教育令ノ方デ教育制度ノ方デヤツテ行キタイト云フ考デ居ルノデ、デ之ハ私共ノ工場ノ実況、職工等ノ状況ナドカラ調査致シマシタ所デハ工場デ工場主ヲシテ此幼者ニ積極的ニ教育セシムルト云フヤウナコトハ行ハレヌ話デアル、ソレハ寧ロ無理ナ注文デアル、若シ教育ノ方面ニ於テ注文ヲスルナレバ詰リ教育ノ妨ゲニナルヤウナコトヲ成ルベクヤラズニ置イテ貰イタイ、サウシテソレニ教育ヲシテ行クト云フコトハ公ケノ教育ノ機関ヲ拡張シテヤツテ行カナケレバナラヌト云フコトニ観察シテ居リマス、併シナガラ其教育ヲ妨ゲナイト云フコトニ付キマシテモ充分ニ希望ヲ言フタナラバ子供ノ労働時間ナドハ特ニ短カクシテ、サウシテ補習教育ノ時間ヲ取ルト云フコトガ必要デアリマスケレドモ、吾々ハ今日未ダ其所マデノ希望ヲスルコトハ無理デアル、子供ニ付テ特ニ此就業時間ヲ外国ノ如クニ六時間トカ八時間トカ云フガ如クニ制限ヲスルト云フコトハ事実許ルサナイデアラウト云フ観察カラシテ、教育ト云フコトノ為メニ労働ヲ制限スルト云フ方面ニ於テハ未タ此案デハ尽シテ居ナイノデアリマスカラ、ソレハ他年ニ進歩シタ上ハ兎モ角モ、今日ニ於テハ未ダソコマデヲ望ムト云フコトハ出来ナイコトヽ思ツテ居リマス、ソレカラ三十人以上ノ工場ノ数ガドノ位アラウカト云フ御尋デゴザイマシタガ、農商務省デ統計ヲ取ツテ居リマスル所デハ約三千デアリマス、之ニ対シテ職工ノ数ガ約三十五万人バカリニナツテ居ル、ソレカラ其モノヽ中デ此法律ヲ施行シテ設備・構造等ノ不合格トナルモノガドノ位アラウカト云フ御尋デゴザイマシタガ、之ハ全ク不合格ニナルモノガナイト云フコトヲ断言スルコトハ出来マセヌガ、此事ハ保安・衛生上擱クベカラザル危険ガアレバ兎モ角モ、サウデナイ以上ハ左様ナ希望ハ決シテ達セラレナイダラウト信ジテ居ルデ、工場設備等ノ改良ト云フコトモ詰リ之ハ長イ年月ノ間ニ漸次ニ改良シテ行クト云フコトノ目的デ行カナケレバ、然ラザレバ詰リ直接ニ此工場ノ数ヲ減ズルト云フコトニナラウシ、工業ノ発達ヲ阻害スルト云フコトニナルデアラウト思フ、保安ノ目的トスル所ハ工業ノ発達ヲ阻害シナイデ寧ロ進メツヽ、而モ此保安・衛生等其他ノ目的ヲ達シテ行クト云フコトヲ希望スルノデアリマスルカラシテ、法律施行ノ為メニ直チニ不合格ノ工場ト云フモノガ是々出来タト云フヤウナコトハ為シ得ザルコトデアラウト信ジテ居ル、デ一口ニ申セバ詰リ漸次ニ改良セシムルト云フ目的デアル、デ施行期日ノコトハ吾々ノ見込ム所デハ仮リニ此法律ガ今期ノ議会デ通過シテ直チニ発布ニナルト仮定シマシタ所デ、次キノ一年ハ来年カラ三十七年ニ跨リ、次ノ一年ハ此施行ノ……法律ヲ施行シテ行ク為メノ準備トシテノ調査ニ要スル積リデ、少ナクモ一年デ、吾々ノ今見込デ居リマスル所デハ一年
 - 第22巻 p.830 -ページ画像 
半ヲ要スルダラウト見込ンデ居ルノデ、デ急ギマシテ施行シマシテモ三十七年ノ十月位デナケレバ施行スルコトガ出来ナイト思ツテ居ル、ト申シマスノハ先日申シタ如クニ危険ナル仕事デアル、或ハ衛生上特ニ有害デアルト云フ仕事ヲ子供ナリ女ニ制限スルナレバ先ヅドウ云フ仕事カラ始メルカ、又子供ト云フ中デモドノ位ノ子供ニ対シテ先ヅ始メルカ、女ニハドウスルカト云フヤウナ調査モ致サナケレバナラヌ、又此年齢ノ就業時間ノ制限等ニ対シマシテモ第一種・第二種ノ工場ト二ツニ分ケテ居ルガ、第一種ニ編入スベキ工場ハドレドレト定ムベキカ第二種ニ編入スベキハドレドレトスベキカト云フコトヲ弥ヨ決定シヤウト云フニハ、尚ホ大ニ調査ヲシナケレバナラズ、又種々ノ方面ノ意見モ徴セナケレバナラヌト云フコトモアルカラ、其他此施行上ニ渡リマシタ所ノ調査ニ少ナクモ一年乃至一年半ヲ要スルダラウト思ヒマスカラシテ、仮リニ此今期ノ議会ニ通過シテ発布ニナルトシテモ、三十七年ノ十月ニ至ラザレバ施行ハ出来マイト私ハ考ヘテ居ル、ソレカラ工場ヲ設置スルト云フトキ等ニ付テノ認可ノコトハ、法律発布後直チニヤルカト云フ御尋ノヤウデシタガ、之ハ法律ヲ実施ニナリマシタ後ハ其後新築スルトカ新設スルトカ、或ハ従来アル物ニ対シテ増設スルトカ改設スルトカ云フヤウナ場合ニハ認可ヲ受ケシムルト云フコトトシナケレバナラヌ積リデ居リマス、唯ダ既往ノ施行前ニ設置ニナツテ居ルト云フヤウナモノニ付キマシテハ、此第十四ト云フ法案要領ノ第十四ト云フ所ニ書イテアリマス如クニ届ケ出テヲセシムル積リデアリマス、ソレカラ寄宿舎等ニ対シテノ取締リハ既設ノモノニ対シテモヤルカト云フ、又其程度ハドンナ風デアルカト云フ御尋デアリマシタガ、之ハ寄宿舎其他ノ附属建設物ト云フコトニ申シテ居リマスノハ、或ハ煙突ノ如キモノ高架「タンク」ノ如キモノデアルトカ、或ハ瓦斯「エンヂン」ノ如キモノトカ云フヤウナ設備、サウ云フモノニ付テノ取締リト云フ事ヲヤラナケレバナラヌノデアリマスガ、例ヘバ寄宿舎ニ付テ言ヘバ小サナモノニ付テマデノ必要ハアリマスマイケレドモ、大キナ寄宿舎ニナツタラバ之ヲ使用スル前ニ認可ヲ得サセネバナラヌト云フ必要モアラウト思フ、煙突ニシマシテモ矢張リサウ云フコトニナラウト思ツテ居リマスガ、其然ラバ取締リヲシテ行ク程度ハドウデアラウカト云フコトハ今之ヲ細カク申上ゲルコトハ出来マセヌデゴザイマスガ、吾々ノ見込ンデ居リマスル所ハ大体先刻モ申シマスル如クニ今日ノ此工業ヲ妨ゲナイデサウシテ改良ヲ漸次ニ図ラウト云フ精神デアリマスルカラシテ、現存ノ寄宿舎ト云フモノニ対シテ之ヲ直チニ閉鎖シナケレバナラヌトカ云フヤウナコトハ先ヅシタクナイ、又為シ得ナイデアラウト考ヘテ居ルノデアリマス、此程度ハチヨツト言葉ニ言ヒ現ハシ兼ネルデゴザリマスガ、先ヅサウ云フ精神デ行ツテ行クモノト云フコトニ御了解ヲ願ヒタイト思フ
○会長(東京、渋沢栄一君) 勅令ト命令ノ期日ハドノ位カト云フ……
○二十五審(豊橋、加藤六蔵君) モウ宜シイ、彼レデ分リマシタガ、モウ既ニ十二時ニナリマスデ、尚ホ御問ヒ申シタイコトガアリマスルガソレハ追テニ致シマシテ、簡単ニ御答ヲ願ヒタイノハ此三十人以上トスルト、四十人トカ或ハ五十人以上トスルト云フト凡ソ何箇所位ニ
 - 第22巻 p.831 -ページ画像 
ナリマスカ
○工務課長(窪田静太郎君) 五十人トシマスレバ其又半数位(約千五百)ト記臆シテ居リマスルガ統計ノ取ツタモノヲ持参シテ居リマセヌ
○二十五番(豊橋、加藤六蔵君) 唯今承ラヌデモ宜シウゴザイマスガ御調ベデ成ルベク委シウ御分リニナリマスレバ、書面デ拝見スレバ宜シイ
○三十七審(神戸、横田孝史君) 段々案ノ要点ニ付キマシテハ諸君ヨリ御尋モゴザイマシタ、唯タ一ツダケ御尋ヲ致シテ置キタイコトガアリマス、最早併シ十二時ニナリマスカラ午後ノ会議ニ……
○会長(東京、渋沢栄一君) 宜シウゴザイマセウ、モツ一ツ位
○三十七番(神戸、横田孝史君) 宜シウゴザイマスカ、甚ダ以テ迂遠ナコトヲ御尋ヲシマスルヤウデゴザイマスガ、今回農商務省ヨリ各地ノ会議所ニ向テ此案ニ付テ御諮問ニナリマシタニ付テハ、随分ドウモ甚ダ以テ御諮問ニナリマシタト云フ点ニ対シテ疑ヒガアル、凡ソ諮問ト云フコトニ付キマシテハ答案ヲ求ムルノ要ガアツテ御諮問ニナルト云フマデハ能ク分ツテ居ル、然ルニ曾テ農商務省ヨリ御諮問ニナリマシタコトニ付テ、殆ント其答案ノ趣意ヲ御採用ニナツタト云フコトハ余リ見ヘヌヤウニ心得テ居ル、是迄或ハ各地ノ会議所ナリ若クハ聯合会ナリ、種々ノ必要ナル案件ニ対シテ或ハ建議ニ或ハ交渉ヲスルト云フヤウナ事ニ付キマシテモ、先ツ以テ大抵ハ画餅ニ属シテシマウト云フノハ不幸ニシテ今日迄ノ歴史デアリマス、今日斯ル迂遠ナ御尋ヲシナケレバナラヌ、強イテ其御答ヲ求メテ置カナケレバナラヌト云フノハ、此春ノ聯合会デアリマス、恰度春ノ聯合会ニ今恰モ今回此案ヲ以テ各地ノ商業会議所ノ意見ヲ御聞キニナルガ如ク、十六議会デ通過シタ彼ノ商業会議所条例ニ対シテ、其施行法即チ議員選挙資格ノ規定ト云フモノニ付テ各地ノ商業会議所ノ意見ヲ御尋ニナリテ、各会議所ハ其議ヲ定メテ一ツニシテ御答ヲスルノ必要ヲ感ジテ聯合会ヲ開イテ御答シタ、其順序トシマシテ最モ之ハ会議所組織ノ上ニ於テ適切ノ利害ヲ感ズル故ニ、重ナル十五会議所ヲ以テ委員ヲ組織シ其委員会ニ対シテハ幸ヒ当局者中ノ当局者タル商工局長ガ御出席ニナツテ、サウシテ親シク其調査会ノ模様ヲ御聞キニナリ若クハ御意見ガアリマシタ、其ノ時ノ委員長ハ吾々ノ所見ハ幸ヒニシテ商工局長ノ見ル所ト一ツデアルト云フコトヲ以テ答ヘタ、ソレニモ拘ラズ全然ソレニ相反シタ施行法ガ出来、殆ント今日デハ不幸ニシテ会議所征伐ノ有様ヲ見ルト云フヤウナコトニ陥ツタノデアリマス、ソレト是トハ問題ガ違ヒマスケレドモ、時ヲ去ルコト僅カニ半年デゴザイマス、幸ニシテ主務省ノ御方針ガ大ニ半年ト今日トハ変ツテ居リマスルト云フコトデゴザイマスレバ、吾々ガ此案ヲ討議スルニモ大変愉快ニ大変熱心ニ之ヲ議スル事ガ出来ル、併シナガラ僅カ半年デアルカラ主務省ノ方針ハサウデナイ、儀式的ニ各地方ニ会議所ガアル何レ先ツ以テ一種ノ手続トシテ聞テ見ヤウト云フヤウナ若シ御思召デゴザイマスレバ、此席デ吾々ガ年末ニ際シテ貴重ナ時日ヲ費シテ論議スルノ必要ハナカラウト思ヒマス、古語ヲ以テ云ヘバ所謂角ヲ矯メテ牛ヲ殺スト云フヤウナ感ヲ為スガ如キ実例ガアルト云フコトハ、啻ニ此会議所条例ニ於テ此ノ如キノミナラ
 - 第22巻 p.832 -ページ画像 
ズ、漁業法案ニ於テモ施行法ノ為メニ当業者ハ非常ニ迷惑ヲシテ居ルト云フコトモ聞イタノデアル、之ハ併シナガラ自分共ガ親シク其局ニ従事シテ居ルノデアリマセヌカラ、果シテ当ヲ得タル施行法デアルカ否ヤト云フコトハ分リハセヌガ、既往ノ事実即チ省令十六号カラ見マスルト所謂思ヒ半バニ過ギルト云フ感ヲ為スノデアル、ソレデ一方ニ儀式的ノ意ヲ以テ会議所ナルモノガアル各地方ニ少ナカラヌ経費ヲ使ツテ設立ニナツテ居ルガ故ニ、マア一遍尋ネテ置カウト云フコトデゴザリマスルカ、或ハ吾々ノ意見ト云フモノハ若シ其意見ノ当ヲ得タモノデアツタナレバ採ツテ見ヤウト云フノデアルカ、併シナガラ当ヲ得タ意見デアツタナラバ採ツテ見ル、若シ吾々ガ編制ノ御考ト違ウヤウナコトナレバ採ラナイト云フコトハ、之ハモウ分リ切ツタ御答弁デアルガ、斯カル分リ切ツタコトニ付テ御尋ヲシナケレバナラヌノハ、先キニ申シタ如ク十五議会ニ於テ通過シタル会議所条例ノ施行法ニ付テ当局者親シク御尋ニナツタコトガ、何ゾ図ラン全然反対ニナルヤウナ不幸ガアリマスルカラシテ、斯様ナモウ御尋申サズトモ理想ノ上ニ於テ能ク会得ヲセネバナラヌ程ノ問題ニ対シテモ御尋ヲシナケレバナラヌ、ソレ故ニ最初ニ甚ダ迂遠ナコトニ付テ御尋ヲスルト斯ウ申シタノデ……
○会長(東京、渋沢栄一君) 二十七番ノ御尋ハ併シ之ハ窪田君ニ御質問ハ御無理デゴザリマセヌカ、農商務大臣デモ御出ニナツテ居ツタナレバ精神的ノ御答ガ出来ルカ知レマセンガ、窪田君ハ工務ダケニ従事シテ居ルノデ、此御尋ヲ為サルニハ、是ト思フ事ハ採用シヤウト思ツテ居ル事ハ明カデアリマセウ、デ前ニ不幸ニモサウ云フ例ガアルカラ又再ビスルカト云フコトハ、之ニ対シテ御答ノ限リデナイト言ハレマセヌカ
○二十七番(神戸、横田孝史君) 議長ニ御請求申シテ一昨日当局大臣若クハ総務長官ニ出テ貰ヒタイ、然ラザレバ両名ニ代ツテ此会ニ臨席ヲ希望スルト云フ趣意ヲ以テ願ツタヤウニ考ヘテ居ル
○会長(東京、渋沢栄一君) 其御請求ハ私ハ了知シマシタカラ其事ヲ申上マシタケレドモ、先ヅ此工場法ニ付テハ極ク事柄ヲ熟知シテ居ルカラ窪田氏ヲ差出スト云フコトノ御申越シガアツテ御当人ガ御出デニナツタノデスカラ、又別ニ大臣ニ行テ御申述ハ格別、玆デ以テ質問トシテハ少シ工合ガ悪ルイデハアリマセヌカ、如何ナル精神ヲ以テ此諮問案ヲ発スルカト云フト、イヤ儀式的ニ尋ネルト云フ答ハ出来ヌデハナイカ、余リ野暮ヲ云フコトニナリハセヌカ
○二十七審(神戸、横田孝史君) ソレデハドヲデモ宜シウゴザリマスガ……
○二十五番(豊橋、加藤六蔵君) 私モ唯今ノ趣意ト至極同感デアリマシテ、当議場ニ出席シテ貰ウ方ハ責任ヲ持ツタ人、農商務大臣ト総務長官トカ、ケレトモ議会ノ初メデアリマスルカラシテ随分ソレ所デハナイカモ知レマセヌ、サウシテ見マスレバ誠ニ御苦労デアリマスルガ会長・副会長両名デ大臣ニ就カレテ一ツ其意ノアル所ヲ御聞キヲ願ヒタイ、ト申スノハ単リ此工場法案ノミデハナイ、唯今述ベラレタ如ク此当御出席ノ御方ハ皆地方デ有力ナ御方ノ多忙ナ御方、且又地方商工
 - 第22巻 p.833 -ページ画像 
業ヲ代表シテ居ル会議所ガ慎重ニ慎重ヲ重ネテ意見ヲ述ベタモノヲ、唯タ当リ前ノ儀式的ト云フヤウナ感ガ充分アルト私ハ考ヘテ居ル、一体日本ナドハ此商工業者ト云フモノニ重キヲ措カヌト云フ弊ガ、ドウモ封建ノ余習トシテアルノデ、デ人物ノ上カラ言ヒマシタナラバ、此所ニ御出席ノ御方ハ中々三千円ヤ五千円デ身ヲ売ル御方ハナイト考ヘテ居ル、中々富国強兵ヲ図ル上ニハ吾々ハ勤メナケレバナラヌ、御互ヒニ意見ヲ述ベルニモ慎重ニ述ベネバナラヌト考ヘル、己ヲ重ンジテ初メテ人ニ重ンゼラレルノデアリマスカラシテ、御互ヒニ充分注意スルト云フコトハ勿論デアルガ、商業上・工業上ノ為メニ農商務大臣其他政府ハ充分将来重キヲ措カンコトヲ今日最モ国家ノ為メニ必要ト私ハ考ヘマスカラシテ、此所ヘ出席ト云フコトハ或ハ無理ダラウト考ヘマスカラシテ、誠ニ御苦労デアリマスルガ、御両君ニ御出デヲ願ヒタイト考ヘマス、ドウゾ宜シク……
○会長(東京、渋沢栄一君) 二十五番サンノ此会ノ議長ガ農商務大臣ニ行ケト云フノハドウ云フ趣意ヲ言ヘト云フノデスカ、質問ニ答ヘテ呉レト云フ請求ニ行ケト云フノデスカ
○二十五番(豊橋、加藤六蔵君) 質問デモ宜シ、将来サウ云フ風ニシテ貰ヒタイ、此方ラニ出テ呉レバ此方ラノ諮問意見ニ重キヲ措イテ呉レト云フノハ将来ニ必要ガアル、ソレヲ用ヰヌト云フナレバ御互ヒニ議スル必要ガナイ、結局ハ将来吾々ノ言フコトハ聞イテ御呉レト斯ウ云フコトニナル
○三十四番(大阪、法橋善作君) 当局者ニ本案ヲ制定スル意向ヲ確メル為メニ質問中デゴザイマスガ、又加藤君其他ノ説ハ之ハ一個ノ希望トシテ御述ベニナツタノニ違ヒアリマセヌガ、ソレ等ノコトハ余程又考ヲ尽シテ議シタイト思ヒマス、時ガ十二時デゴザイマスカラ休憩ヲ致シテ又後ニ議スルコトニ致シタイ
○会長(東京、渋沢栄一君) 如何デス
○二十五番(豊橋、加藤六蔵君) 無論宜シイ
○会長(東京、渋沢栄一君) ソレデハ暫時休憩シマス
  十二月十日午後一時二十分開議
○会長(東京、渋沢栄一君) 是ヨリ開会ヲ致シマスル、工場法ノ続キヲ御議決ニナルヤウニ致シタウゴザイマス、但シ説明ノ窪田氏ハ今休憩中諸君ニ御諮リシマシタラ最早大抵質問ノ要ハナカラウト云フコトデ、同君ニハ退席シテ宜シイト云フコトヲ通ジマシタ、本題ニ移ツテ此所分案ヲ御議決ナルヤウニ致シタウゴザイマス
○三十九番(名古屋、上遠野富之助君) 工場法案ノ要領ニ付キマシテ此場合意見ヲ述ベタイト存ジマスルガ、昨日来当局者ヨリ段々ノ御説明モ承リマシテ、略々此案ニ対シテ当局者ノ意見モ伺ヒ知ツタ訳デアリマスガ、本員共ノ考ヘマスル所デハ、未ダ此工場法ガ実際ノ必要カラシテ今日ノ日本ノ工業界ノ有様ノ必要ニ迫ラレテ此制定ヲ要スルト云フコトニ立至ツタコトヽ思フコトハ出来ナイノデス、イロイロ当局者モ極ク親切ニ説明サレテ、其趣旨ノアル所モ能ク了知致シマシタデゴザイマスガ、其一番ノ目的ト云フコトヲ挙ゲマスルト云フト、理想デアツテドウモ実際ノ必要ト云フコトニ付テハ余程縁ノ遠イ説明ノ様
 - 第22巻 p.834 -ページ画像 
ニ聴取ツタノデアリマス、果シテ吾々ガ最初ヨリ想像シテ居ルガ如キ当局者ノ説明デアツタ、デ斯ノ如ク実際ノ必要ニ迫ラレテ制定スルノデナクシテ、何方カト申セバ理想即チ机ノ上ノ調査、学問ノ上ノ研究ト云フ方カラシテ此法ヲ立テルト云フコトハ実ニ容易ナラヌコトデアル、殊ニ此工業ノ如キ実際ニ今日損益ヲ掛ケテ居ルモノガサウ云フ筆法カラ割出サレタ所ノ法ヲ布カレルト云フコトハ非常ナ迷惑ヲ感ジテソレガ為メニ工業ノ発達ヲ害スルト云フコトハ大変ナコトデアラウト思ヒマス、就キマシテハ斯様ナ法案ハ今日マデ我邦ニハ施行スルコトハ早イモノデアル、斯ウ云フ概要ノ考デゴザイマス、何故サウデアルカト申シマスルト、試ニ此要領ノ二・三ニ付キマシテ考ヘテ見マシテモ、先ヅ第一ニ法令適用ノ範囲カラシテ甚ダ当局者ノ考ハ杜撰デアツテ、其目的ガ何所ニアルト云フコトモ甚ダ不明了デアル、ト申シマスモノハ若シ当局者ノ見込ノ如ク或ハ此衛生デアルトカ、危険デアルトカ云フ方ノ点カラヒドク工場ヲ取締ルト云フ考デアルナラバ、何方カト云ヘバ三十人以下ト云フモノニハ余程不規律ナモノガアルノデアルケレドモ工場ト云ハルヽ位ノ所ハ略々相当ノ設備ヲシ相当ノ規律モ立ツテ居ルノデアル、ケレドモ之ヲ実際ニサウ云フ細マカイ所マデ取締ルト云フコトニナルトソレ等ノモノガ堪ヘヌカラ、先ヅ三十名位ニスルノガ大概適当デアラフト、余程杜撰ノ考カラ出タノデアラウト思フソレカラ第二ノ此取締ノコトニ付キマシテ如何ナル手順ニ依ツテ取締ヲスルカ、行政庁云々ト云フヤウナコトガゴザイマスカラシテ、其辺ニ付テモイロイロ御質問モゴザイマシタ、ソレニ対スル説明モアノ説明ヨリ外ニ致シ方ハナカラウ、所ガ現ニ此工場ノ取締等ニ付テハ各府県共ニ相当ノ県令若クハ府令ヲ以テ今日取締ツテ居リマスガ、是等ノ如キハ実際ニ行ハレテ居ラヌノデアル、又適々行ハレルト云フヤウナコトガアルト、既ニ三十八番ヨリ質問ノ際ニモ述ベマシタ如ク之ヲ取締ル方ノ人ガ甚ダ不十分ナ人デアルガ為メニ、甲ニハ非常ニ厳重ニシテ乙ニハ寛デアル、又取締ラルヽ方カラ言ヒマシテモ憖ジ県令ナドヲ心得テ居ルモノガ、ソレハ相当ノ手続ヲスル為メニ、却テ願ヲ出シタ為メニ早速許可ヲ受クルコトガ出来ナカツタ、何モ知ラヌデ工場ナドヲ建増ヲシテ一向誰ニモ何トモ言ハレヌ、ソレ等ハ不十分ナコトデヤツテ居ルト云フコトデ、殆ンド愛知県ノ如キハ県令ノ四十六号デ是等ノ取締ハ法文ニハナツテ居ルガ、実際ハ少シモ行ハレテ居ナイ、之ヲ中央政府ガ今ノ地方官ノ更ニ上級ノ監督ノ上カラ段々指図シテ、全国一律ニ取締ヲスルトカ何トカ言ツテモ出来得ベキデナイ、寧ロ無益デアツテ、却テソレニ引掛ルモノガアツテ非常ニ迷惑ヲ感ジサセルト云フコトニ過ギナイ、汽缶ノ取締ニ至ツテハ是ハ余程危険ナ方デアリマスカラシテ警察ノ方デハ余程厳重ニヤリマシテ、是等ノ方ハ稍々取締ガ付キマシテ、其使用期限ハ何年何月マデト云フ証明書ヲ与ヘテ、其期間ガ来マスト云フト直グニ其管轄ノ警察署カラ検査官ガ廻ツテ来テ是亦検査ヲスルト云フ位デ、先ヅ辛フジテ汽缶ノ取締ト云フモノハ地方ノ実況ニ照ラシテ見ルトドウカ斯ウカ行ハレテ居ルト云フヤウナ有様デアリマスカラ、之ヲ法ノ上ニ極メテ厳重ニドウ斯ウスルト云フ事ハ却ツテ十分ニ功ヲ奏セズニ当局ニ迷惑ヲ感ジサセルニ過ギナイ、ソ
 - 第22巻 p.835 -ページ画像 
レカラ又其次ニ職工徒弟ノ十一歳未満ノ者ヲ使フコトヲバ禁止スルト云フヤウナコトハ、是ハ当局者ノ意見ヲ聴イテ見マシテ益々是ハ実際ヲ知ラヌ余程空論デアルト云フコトガ分ルノデアル、既ニ三十八番ノ質問ノ際ニモ其意味ヲ能ク言ハレマシタデゴザイマスガ、決シテ十一歳未満ノ職工ヲ使フト云フノハ使手ノ方ニモソンナニ苦労シテ使フト云フ意味ヨリハ、寧ロ親ニ附イテ来ルトカ或ハ姉ニ附イテ来ルト云フヤウナノガ能ク紡績ナドニハアルノデアル、是等ハモウ唯一人ソンナ小供ヲ家ニ置クコトハ出来ナイノデアルカラ、母親カ或ハ姉ニ附イテ来テ居ル、来テ居ルト唯置ク訳ニハ行カヌカラ三銭ナリ四銭ナリデ使ツテ居ル、其中ニ段々熟シテドウカ斯ウカ四銭トカ五銭トカ得ルヤウニナル、是ハ紡績工場ノ有様デアルガ又幾ラカ必要ノ方モアル、ト云フモノハ機械工場ナドノ模様ヲ見ルト却ツテ中年者ヨリ十一・二ノ子供カラ使ハヌト云フト本当ニ熟シテ行カヌ、或ハ桛繰若クハ糸巻ト云フヤウナコトデ子供カ這入ツテヤツテ居ルノデアル、是等ガサウ云フ所カラ稽古シテ段々本当ノ織物ト云フコトニナルト誠ニ熟シテ宜イノデアル、而シテソレ等ハ実際ニ於テソレデハ衛生ニ非常ニ害ガアツテ其身体ノ発育ヲ害スルカト云フナラバ、サウデハナイ、寧ロ家ニ居ルヨリハ其方ニ来テ居ル方ガ衛生ニ宜イ、今日衛生ニ害アリト云フコトヲ言ハレマスケレドモ、マタ若年ノサウ云フ子供ヲ使ヘバ害ガアルト云フコトハ、ソレハ学問ノ上ノ話デアル、兎ニ角家ニ居ルト非常ニヒドイ有様デアルカラ、工場ニ来ツテ友達ト一緒ニ気楽ニ鼻歌デモ唄ツテ機織ヲシテ居ルト云フト苦シイトハ思ハヌ、却テ愉快デアル、其証拠ニハ子供カラ織工場ニ育ツタ者ハパチパチ肥ツテ壮健ナ者ガ多イ、機織工場ニ居ルカラ身体ヲ悪クスルト云フヨリ寧ロ宜シクスルト云フコトガ実際ニ於テ明カナコトデアル、是等ノコトカラ考ヘテ見マシテモ、十一歳未満云々ト云フコトハ土地ノ状況ヲ知ラズニ唯学問ノ上カラ割出シタ者デハナイカト思フ、ソレカラ満十六歳ノ女子ト云フモノヲ、満十六歳未満ノ男女一緒ニ扱ヒマスカラ、之ヲ余程制限シタヤウニナツテ居リマスガ、此女子ノ満十六歳以上ニナツタ者ヲバ、特ニ徹夜ノコトナリ休憩時間ノコトヲ斯ウヤカマシク言フ必要ハナカラウト思フ、要スルニ此法律デ見マスト女ト云フモノニ付テハ特ニ非常ニ保護ヲ加ヘルト云フ、女ヲ大変庇ツタ精神ニナツテ居ルガ、是等ハ決シテ必要ガナイノデアル、是ハモウ此五・六、ソレカラ七・八ト云フヤウナ所マデ連関シテ、女ノ満十六歳以上ト云フモノハ斯ンナニ満十六歳未満ノ男女ト同等ノ扱ヲスル必要ハナイト私ハ考ヘル、殊ニ実ニ於テ差支ヲ生ズルコトハ第九ノ乙ニアリマスル「塵埃・粉末・有害瓦斯ヲ発生スル業務、毒薬・劇薬其他有害料品又ハ爆発性・発火性ノ料品ヲ取扱フ業務云々」斯ウ云フ所ニ女ヲ使フコトガ出来ナイナトヽ云フコトニナルト、差向キ非常ニ影響ヲ蒙リマスモノハ燐寸業、是ナドハ何所マデモ農商務大臣ハ命令ヲ定メルト云フコトデアリマスガ、即チ指定サレルト云フコトデアリマスガ、ドウ云フコトニ指定ヲサレルカ分ラヌガ、是等ノ指定ガ悪カツタナラバ殆ンド燐寸業ハ廃サレルト云フコトニナル、又紡績ノ瓦斯糸ナドヲ扱ヒマスルニ付テモ女ガ最モ必要デアル、男ニヤラシタナラバソレハ実ニ困ツタモノデアル、殊ニ女ハ喜
 - 第22巻 p.836 -ページ画像 
ブノデス、随分有害デアルカ知ラヌカ相当ノ給金モ取レテ、少シ働ノアル気ノ利イタ女ハ瓦斯ノ毛焼ヲスルコトナドハ好ンデ致スノデアル是等ハ決シテ男子ニヤラセルコトデナイ、最モ女子ニ適スル仕事デアル、是等ノ取締ナドト云フコトハ先ヅ暫クドウ云フ所カラ実際ノ上ニドヲ云フ有害デアルカト云フコトヲバ認メズシテ、全ク是モ唯空ニ衛生論ヤ何ヤカラ出テ来タモノデハアリハセヌカ、ソレカラ業務上ノ死傷ノ扶助ト云フヤウナコトデアリマス、是ハ随分此以前既ニ農商務省カラシテ工場法ノコトニ付テ諮問ニナリマシタ際ニモ名古屋商業会議所ナドハ答申ヲ致シタコトガアリマシタガ、職務上ノ負傷ノコトニ付テ相当ノ職工ニ手当ヲ致スコトハ最モ必要ナコトデアル、決シテ吾々ハ工場主ノ側デナクシテ、職工ヤ徒弟ヲ虐待スルコトカラ斯ノ如キ法律ガ必要ト云フ考デハナイ、サウ云フ残酷ナコトヲスルナラバ成程必要カモ知レマセヌガ、吾々ハ相当ニ職人ナドヲ取扱ツテ居リマス、又外ノ地方ノ事情ナドモ能ク取調ベテ見、又各工場ノ意見ナドヲ聴イテ見マシタ所デ、何所ノ工場ニシマシテモマダ純粋ニ本当ニ欧羅巴ニ見ルヤウナ工場ト云フヤウナ訳デナイノカ、幾ラカ家族的トカ申スカ、或ハ主従ト云フ関係ノ幾ラカ残ツテ居ル所ガアレバ、若クハ此工業ノ種類ニ依ツテハ子弟ト云フ関係ヲ持ツテ居ル所ガアル、又職工徒弟ハ其職工徒弟ノ間柄ニ於テ一種ノ情諠ガアル、又事実其間ノ習慣デ妙ナル相愛スベキ所ノ感情ヲ持ツテ居ルモノモアル、例ヘテ申スト、或一人ガ工場ニ於テ怪我ヲスル、サウ云フ場合ニ於テハ先ヅ其規定ガナクテモ治療等ノコトハ会社トカ或ハ工場主ガ致スコトハ無論ノ話、是ト同時ニ怪我ノ大小ニ依テハ仲間同志デ醵金ヲシテ見舞金ヲ出ストカ、又ハ重役ナドガ手当ヲナスト云フコトデアツテ、相当ニソレダケノ補助ヲスルト云フコトハ自ラ不文律デ成立ツテ居ルノデアル、又其工場ニ依リマシテハ幾ラカ積立金ノ性質ヲ持タシテ、自分ノ勝手デドウ斯ウシタ者ハ斯ウ云フモノダト云フテ、幾ラカ成文的ニ其方法ヲ設ケテ救済会トカ共済会ト云フモノヲ設ケテ、同業救済ノ方法ヲ設ケテ、ソレニハ会社モ幾分カ出ストカ、工場主カラモ一ケ年ニ幾ラカ出スト云フヤウナ方法ヲ設ケテ居ルモノモゴザイマス、随分此方法ハ先ヅ比較的ニ能ク慣習ノ上ニ行ハレテ、自ラ其間ニ靄然タル所ガアルノデアルソレヲバ殊ニ此法律ノ上ニ極メテ、サウシテ命令ヲ以テソレ等ノ場合ヲ規定スルト云フヤウナ厳格ナ事ヲ致シマスト云フト、折角今マデ徳義上自然ノ慣習カラシテ誠ニ円満ニ行ハレテ居ルコトハ、権利・義務ノ争ト云フヤウナ事ニナリマシテ、モウ規定シテ居ル最高額ノ二百五十円ト云フヤウナコトハ当然受ケ得ラルヽヤウナ事ニナツテ、本当ニ有難イト云フ事ハ其以上余程見舞金ヤ手当ヲヤラナケレバナラヌ事ニナリハセヌカ、是等ハ職工ト工場主ノ間ニ争端ヲ引起ス端緒トナリハセヌカ、是ハ単リ私設工場ノミナラズ、ソレソレ官設ノ工場ヲ総テ調ベテ見マシテモ、現ニ四十円・五十円位救助金ヲヤツテサウシテ解傭シテ仕舞ウト云フ規定ノアル所モアルヤウデアリマス、所ガ決シテ四十円ヤ五十円ハ貰ハヌノデアル、ナゼ貰ハヌカト云フト指ノ一本ヤ二本ヲ失ツタト云フ怪我デアツテモ、大キナ工場デハ指ノ一本ヤ二本位無イト云フモノハ、道具ノ番人ナトニ使フト云フヤウナコトデ使ツテ
 - 第22巻 p.837 -ページ画像 
居ルコトガ出来ルノデアル、吾々モ現ニサウ云フ風ニシテ使ツテ居ルノデアル、サウスルトソレ等ガ寧ロ一時ニ百円ヤ百五拾円ノ金ヲ貰フヨリハ仲間カラ見舞金ヲ貰ヒ、其他工場主カラ七・八拾円ノ金ヲ貰ツテ、サウシテ外ニ行ツテ傭ハルヽヨリモ、寧ロ我慢ヲシテ自分ノ過デ怪我ヲシタト云フ感念ヲシテ、而シテ其工場主ニ付イテ是マデ通リ給金ヲ貰ツテ勤メテ居ルト云フコトハ是ハ自然ニ行ハレテ居ルノデアル此慣習ハ単リ民間ノミナラズ官設ノ工場ニ於テモ行ハレテ居ルヤウニ段々聞及ビマシタ所デアリマス、斯様ニ此法案ノ要領ニ付テ承ツテ見マシテモ、兎ニ角実際ノ事柄トハ余程縁ノ遠イコトデアリマシテ、尚ホ先キニナリマシタナラバ此法案ノ必要ヲ感ズルヤウナ場合ニ立至ルカモ知レマセヌガ、先ヅ今日ノ如キハ、玆ニ法律ヲ制定シテ、サウシテ無理ニ不十分ナ監督ノ下ニ之ヲ監督スルコトハ出来ヌコトデハアリハセヌカ、暫ク法案ハ尚ホ早シト云フコトデ見合セテ、モウ少シ此工業界ノ発達ヲ見タ上ニ徐々ニ制定シテ遅クハナイト思フ、併ナガラ或危険ノ事等ニ至ツテハ是ハ警察等ノ手ヲ以テ現ニ取締ツテ居ルモノモアル、又其業ノ種類ニ依ツテ特ニ取締ヲスル必要ガナカツタナラバ、ソレ等ハ特別ノ方法ヲ設ケテ少シモ差支ノナイコトデアルカラ、名古屋ノ商業会議所ノ意見トシマシテハ、此法ハ先ヅ制定ニナラヌ方ガ宜カラウト云フコトニ致シマシテ、本会ニ提出シテ諸君ノ御賛成ヲ得ルヤウニ致シタイト云フ希望ヲ持テ居リマスノデゴザイマス、概要右ノ如クデアリマス
○三十四番(大阪、法橋善作君) 此工場法案ニ対シマシテハ自分モ少シク意見ガゴザイマスガ、併シナガラ皆サンモ多少之ニ対シテハ御意見ガアルデアラウト思ヒマス、然ルニ私共初メカラ是ハ大体ニ対シテ玆デ議了シテ置キタイト云フ見込デアツタノデアリマスガ、ソレニ会期モ迫ツテ居リマスカラ充分ノコトニハ参リマセヌガ、此法律ニ対シテ余程慎重ニ審議ヲ尽シテ決議シタイト思ヒマス、然ルニ吾々六・七名ハ四時ニナリマスレバ、農相ノ官邸ニ参リマスル約ニナツテ居リマス、加フルニ今般ノ出席委員中ニハ十一・二名モ衆議院議員ノ諸君ガゴザイマスルノデ、是ハ主務大臣カラ御諮問中ノ件デモゴザイマス、大体ニ先ヅ必要デアルカ、不必要デアルカト云フ事柄ハ本案ノ前途ニ対シテハ一大影響ヲ及ボスコトデアラウト思ヒマス、又余程慎重ノ態度ヲ取ツテ之ヲ決議シテ置キマセヌト、社会ヘ対シテ力ノ無イモノニナツテ仕舞ウト思ヒマスルデ、私ハ此工場法案ハ、明日成ルベク諸氏ニ努メテ御出席ヲ願ツテ、明日ノ第一番ノ議事ニシテ、成ルベク多数ノ頭ヲ以テ多数ノ意見ヲ闘ハシテ決議スルヤウニ致シタイト思フ、今日ハ最早時間ガ少ナイカラ昨日御託シニナツタ貯金銀行ノ委員ノ御報告ヲ仰イデ、此工場法案ハ明朝少シ早クカラ充分ニ可否ヲ決シタイト思ヒマス
○会長(東京、渋沢栄一君) 全会ニ御異議ガナケレバ今三十四番ノ御動議ノヤウニ致シタイト思ヒマスガ
   (「賛成」「異議ナシ」ト呼ブ者アリ)
然ラバ本問題ハ明日御議決ニナルヤウニ致スヤウニ仕リマス、依ツテ大体論ニ止メ置キマス
 - 第22巻 p.838 -ページ画像 


明治三十五年十二月開設 臨時商業会議所聯合会議事速記録 第一八五―一九四頁(DK220067k-0005)
第22巻 p.838-842 ページ画像

明治三十五年十二月開設
臨時商業会議所聯合会議事速記録  第一八五―一九四頁
明治三十五年十二月十一日午前十時四十分開議
  出席委員     二十四名 ○氏名略
○上略
○副会長(東京、馬越恭平君) 是ヨリ昨日ノ工場法案ノ続キヲ御議シニナリマスヤウニ致シタイト思ヒマス
○三十九番(名古屋、上遠野富之助君) 此工場法案ニ付キマシテハ昨日本員ノ考ハ申述ベテゴザリマスガ、再ビ此所デ繰返スコトハゴザリマセヌガ、要スルニ此法案ハ未タ実際ノ必要ニ応ジテ制定セニヤナラヌト云フ程ノ必要ヲ認メマセヌノデ、細カニ取調ベレバ調ベル程、当局者ノ考ヲ聞ケバ聞ク程、之ヲ今日ニ制定スルノハ時機早イモノデアルト云フ考ヲ以テ、本案ハ暫ク否決ヲスルト云フ考デ御賛同ヲ得タイト考ヘテ居リマス
○三十四番(大阪、法橋善作君) 工場法案ニ対シマシテ愚見ヲ述ベマスルガ、此工場法案ナルモノハ曩キニ主務省カラ御諮問ニナリマシテ爾来我カ大阪商業会議所ノ如キハ取調ベニ属シマシテ、漸クニ工場部会ノ決議ダケヲ経タト云フ有様デ、此工場部会ノ決議ヲ経ルニ対シマシテハ、大坂ニ現在スル所ノ四百有余ノ工場ニ向テ法案ヲ示シ従テ意見ヲ徴シタ上デ工場部会ハ決了シタノデ、近日総会ニ附シ更ニ主務省ニ向ツテハ何分ノ答案ヲスルト云フ手順ニナツテ居リマスルガ、先ツ以テ今日委員ガ是ノ大体ニ対シテ意見ヲ述ベルノハ工場部会ノ決議ニ依リ其大勢ヲ以テ述ベル考ヲ持テ出タノデゴザリマスノデ、私共ノ考ニハ日本ノ現在ノ工場社会ノ有様デ元来此我国ノ工場社会ノ歴史ニ依テ考ヘテ見マシテモ、今直チニ工場法案ナルモノヲ設クル必要ガナイト認ムルノデゴザリマス、ソレハドウ云フ訳デアルカト言ヒマスレバ工場法案ノ如キモノト云フモノハ不完全ナモノヲ設ケマスヨリハ寧ロナイ方ガ優レルダラウ、之ヲ完全ナ者トスルト云フ事ニナレバ事業者ト職工間ノ調和ニ待チ、而シテ百般ノ点ヲ観察ヲシテ、余程長時間ヲ費シ、余程実際上ヲ穿ツテシナケレバ容易ニ之ガ行ハレベキモノデモゴザリマセヌ、我国ノ工業社会ノ有様ガ之ヲ今日是非設ケナケレバナラヌト云フ必要ニ迫ツテ居ラヌ、第二ニハ農商務省カラ提出サレタ案其者モ未タ充分ニ届イテ居ナイヤウニ考ヘラレマスルシ、我カ大阪ノ工業社会ノ有様デ考テ見マスレバ、彼ノ案ハヤツタ所ガ別段毒ニモ薬ニモナラヌト云フ感ガアルノデ、故ニ私共ハ此場合設クル必要ハナイソレデ今日ノ所是等ノ者ガドウシタラバ宜カラウト云フ事ニナリマスレバ、工場ノ設備・就業時間・年齢其他保険救助ニ関シマスルヤウナ事柄ハ今ヤ我国ノ工業社会ニモ良習慣ガ生シツヽアルノデゴザイマスカラ、其習慣ノ発達ヲ待チ、敢テ公力ヲ加ヘズシテ自然ノ発達ニ任スト云フ方ガ却テ利益デハナイカト思ヒマス、ソレカラ風紀ニ属スル事衛生・危険薬剤等ニ至リテハ、刑法ト警察法トノ作用ニ依テ一歩モ仮セズシテ厳ニ之ヲ施行シテ行キマスレバ相当ノ取締ガ出来ルダラウト思ヒマス、敢テ今日特別ノ法ヲ設ケテモ仕方ガナイト思ヒマス、サウシテ此幼稚ノ時代ニナマジツカノ法律ヲ設ケマスレバ、工場主ナリ又
 - 第22巻 p.839 -ページ画像 
職工ナリ保護スル意思ヲ以テ却テ角ヲ矯メテ牛ヲ殺スヤウナ弊害ガアル、又彼等ノ安寧ヲ図ツテヤル為メニ却テ飯ガ食ヘヌト云フヤウナコトガアル、ソレラノコトハ工場歴史ナリ現在ノ状態ナリ地方ノ状況ヲ能ク穿ツテ見ナケレバナラヌト思ヒマス、今ヤ一例ヲ挙ゲテ別ニ私ノ考ヲ申述ベマスレバ、実ニ大阪ノ如キハ紡績ヲ以テ至大ナル工業ト致シテ居リマスガ、其紡績ノ如キモ凡ソ年齢ハ十三歳、時間ハ十時間ト云フコトハ一ツノ習慣ヲ為シテ居ルヤウナ有様デ、其他衛生等ノコトニ付キマシテモ充分設備ガアル、大抵一箇所ノ会社ニハ二名位ノ医師モ設ケテアル、ソレカラ設備ニ至リマシテモ職工其者ノ生活ノ度合ヨリハ工場ノ方ガ遥カニ優ツテ居ルト云フヤウナ事デ、設備等ハ工場ガ完全ヲ極メタモノデアル、職工ノ家ニ帰レバ相当ノ設備ガシテアルノニ工場ハサツパリシテナイノデハナイ、唯今ノ職工ノ住居ト工場ノ設備トヲ比シテ見レバ余程違ツテ居ル点ガアルト思ヒマス、又燐寸工場ノ如キハ昨日モ質問モアリ又反対モアリマシタガ、又大阪ノ工場ノ如キハ厘毛以下ノ金ヲ積ンデ六百万円以上ノ積出トナルヤウナモノデアリマス、此殆ント二十年間ノ歴史ハ工場法案ヲ設クル必要ハナクシテ却テ可笑シナコトヲ設ケマスレバ何千人ト云フ職工ガ生活ニ迷フト云フコトガ始マルダラウ、昨日当局者ガ答フル如ク菓子代ヲ儲ルガ為メニ決シテ副業ヲ為スト云フヤウナコトデハナイ、サウ云フヤウナ次第デゴザイマスカラ決シテ当局者ガ憂フル程ノモノデモナク、又職工ノ身体ガドウデアルカト言ヘバ、私共ハ欧羅巴ノ地ハ踏ミマセヌケレドモ、先輩者ガ見テ来タ話ヲ聞キマシテモ実ニ過激ナ働キヲスルヤウデゴザイマス、果シテ過激ナ働キヲスルコトデゴザイマスレバ、我国ノ職工ノ如キハ実際ノ事業ヲ執ルコトハ十時間ト仮定シテモ実際ハ七・八時間、多クハ鼻唄ヲ歌ツテ串戯雑リニ事業ヲ執ツテ居ルヤウナコトデ、又我カ大阪ノ二・三ノ鉄工場ノコトヲ以テ見マスレバ七ツ八ツノ幼者ニ至テハ何ノ制限ヲ設ル要ハナイ、所謂会社ノ給仕ト云フヤウナモノハ聊カ身体ノ健全ヲ害スルト云フヤウナコトハナイ、今之ヲ設クル必要ハチツトモナイ、ソレ是実況ヲ能ク参酌シテ見マスレバ、玆ニ此法ヲ設ケネバナラヌト云フ必要ハ毫モナイダラウト思ヒマス、ソレデ私ノ考デハ、先ツ此儘ニシテ置キマシテ自然ノ発達ニ任セ、去リナガラ社会ノ風習如何ナル点ニナツテ来ルカ知ラヌカラ、他日法ヲ設ルノ必要ガアツタ場合ニハ特別法ヲ設ケテ置ク方ガ寧ロ勝ツテ居ナイカ例ヘバ紡績ニ対シテハ紡績ノ工場法、機業ニ対シテハ機業ノ工場法、燐寸ニ対シテハ燐寸ノ工場法ト云フ其モノニ当箝メマシテ、其モノ全体ノ状態ヲ能ク研究シマシテ特別法ヲ行ヒマスレバ余程適切ナモノガ出来ルダラウト思ヒマス、事業ノ異ナル場合ガアル、大小ガアル、土地ト所ニ依テ異ナルニモ拘ラス一率ヲ以テ満天下ヲ支配スルト云フノハ却テ困難ナモノデ、却テ立派ナモノヲ拵ヘル事ハ出来マセヌ、其事業事業ニ対シテ最モ緊切ノ法ヲ設ケテヤルト云フ事ニナレバ、勅令ヲ設クル必要モナシ省令ヲ設クル必要モナイ、其モノニ対シテ尤モ適スル所ノ法案ヲ設クルコトガ出来マスルノデ、当局者ノ見ル所是非必要ニ迫ツタ場合ニハサウ云フ方法ヲ執ルガ宜クハナイカ、又今般ノ法案ヲ見マスレバ、農商務省ガ経済上事業ノ発達トシテ法案ヲ御提案ヲナ
 - 第22巻 p.840 -ページ画像 
サルコトノ意思ハ薄クシテ、内務省ガ警察作用トシテスル所ノ仕事ガ最モ多イヤウニ考ヘル、私共ノ全体ノ考ニハ、内務省人権問題即チ風紀・衛生・身体等ノコトニ対シテ酷ナ法律ヲ設クル場合ニハ、農商務大臣ハ国ノ経済ト云フコトモ顧ミネバナラヌ、又事業ノ発達モ顧ミネバナラヌカラ、サウ一時ニ低イ程度ノ人民ヲシテ高イ程度ニスルコトハ出来ナイカラ、暫ク経済ノ発達、工業ノ発達ヲ待ツテヤツテ貰ヒタイト云フ意思ノモノデハナイカト窃カニ思ヒマス、云フヤウナ有様デゴザイマスカラ私共ハ之ヲ設クル必要ハナイト云フ考デ、本会ニ於キマシテモ、日本ノ現状ニ照シマシテハ未タ此法案ヲ制定スルノ必要ヲ認メヌト云フコトノ御決議ニナルコトヲ希望致シマス
○三十六番(神戸、藤田松太郎君) 三十六番モ矢張リ同感デゴザイマシテ、絶対的法律ガイケナイト云フ方デハナイ、時機未ダ早シト云フ方デ、自ラ此案ヲ否決致シマスルニシタ所ガ、否決スル理由ヲ附ケマセヌケレバナラヌ、単ニイケヌト云フダケデハドウモチト世間ニ何ト思ヒマスカラ、成ルベク地方ニ割ツテ戴イテ九名位ノ起草委員ヲ選ミタイト思ヒマス、サウシテ明日マデニ起草ヲシテ戴キタイ、サウシテ起草シタモノニ対シテ明日決議スルコトニ致シタイ、其起草ヲ成ルベク皆サンモ余リ異ツタ御意見モナイヤウデアリマスカラ、時機尚ホ早シト云フヤウナ工合ニシタイト私ハ希望致シマス、併シソレハ其委員ガ出来マスレバ委員ニ大体ハ御任セスル考ヘデアリマス、随分世間ニ立派ニ賞賛ヲ得ルヤウニ其起草ヲ願ヒタイ、兎ニ角九名位ノ議長指名デ起草委員ヲ選ンデ戴キタイト思ヒマス
○四十三番(金沢、村田庄四郎君) 色々皆サンカラ御説ガ出マシテ、此工場法ハ実ニ重要問題デアリマシテ慎重ノ態度ヲ取ツテセネバナリマセヌガ、併シナガラ或ル工場ノ方デハ別ニ左シタルコトモナイト云フ御話モアリマス、又格別燐寸業位ハ宜イノデアルト云フ話モ聞キマシタ、デ私共ノ会議所ニ於キマシテモ各工業者等ニ皆諮問ヲシマシテ一々其諮問ニ対シテノ答案モ取ツテアリマスガ、未ダ全クハ取リマセヌデ、故ニ此諮問案ニ対シテノ未ダ会議所トシテノ意見ガ出ナイヤウナコトデアリマス、併シ其大体ノ意見ヲ能ク見マスルニ、大抵ハ我カ石川県ナド、福井・富山ナドノ重モナルモノハ機業デアル、此機業ニドウ云フコトデアルカト云フト、斯ウ云フコトガ制定ニナリマスレバ非常ニ損害ヲ来シテ、生産額ノ減少ヲ来タスト云フコトハモウ明カナコトデアリマス、ソレニ対シテ保護ヲ設ケ一々細カナル制裁ヲシテ貰ハナケレバ事業ノ発達ヲ図ルコトハ出来マセヌ、諸君御承知ノ通リ此絹織物業ト云フモノハ殆ント輸出額ガ四千万円近クニナル、此大キナル額ニ対シテ北陸三県ニハ其多分ハ出テ居リマス、之ハマア一部分ノ話デアリマスガ、全体諸君ノ御意見ヲ承テモ色々ノ差支ガアルヤウデアリマスル故ニ、別ニ今玆デ委員ノ調査スルト云フ必要モアリマスマイ、唯ダ是非当局者ガ熟考ヲシテ、此法案ハ今直チニ規則ニスルト云フコトニナラナイヤウニ、各地ノ状況モ充分認メタ上デナクバ之ヲ極メナイト云フコトノ注意ダケヲ決議シテ、暫ク此法案ハ見合セテ貰ヒタイ、早ク申セバ暫ク斯ウ云フ法ハ見合セテ貰ヒタイト云フ趣意ダケヲ、満場一致ノ決議ヲ以テ、ドウカ其希望ヲ建議ヲ致シテ置キタイト
 - 第22巻 p.841 -ページ画像 
思ヒマス
○三十六番(神戸、藤田松太郎君) チヨツト補ツテ置キタイト思ヒマス、此案ガ仮リニ会議所カラ否決ト云フコトノ建議ニナリマシタ所ガ決シテ政府ハ廃メマイ、早晩議会ニ提出スルコトデアラウ、左スレバ会議所ニハ余程以前ニ諮問ニナツテ居リマス、実業者トシテハ何トカ答申スル方ガ此議会ヘ対スル参考ニモナラウト思ヒマスカラ、私ハ冀クハ矢張リ此際各地方ニ割ツテ委員ヲ置イテ、如何ニモ議会ノ諸君ガ見テモ実業家ガ斯ク斯クニ言ツテ居ルト云フ一ツノ摸範ヲ作リタイト云フ考デ、矢張リ委員説ヲ主張致シマス
○四十三番(金沢、村田庄四郎君) チヨツト私ハ未ダ漏シマシタガ、最モソレハ意見ガナイト云フコトハナイノデ、既ニ皆意見ガアルニハ相違ナイノデゴザイマスガ、併シ大体ヲ言フニ先刻カラモ承リマスルニ、時機尚ホ早シ、未ダ各業ニ当ツテ区々別々ニ色々弊害ガアル、色色障害ガアルカラ、詰リ斯ウ云フ法ハ到底目下未ダ適セナイ、故ニ再考ヲ求メテ、熟考ヲ求メテ、当聯合会ニ於テハ当局者ニ熟考ヲシテ貰ヒタイト云フダケノコトデアリマシテ、既ニ私等ノ方デハ三県聯合シテ農商務大臣ヘ此機業ダケニ対シテノ希望ハ上申シテアリマスル、故ニ当局者ハ必ス目下色々見テ居ルデアラウト思ヒマス
○八番(富山、関野善次郎君) 最早会ノ大勢ハ極ツテ居ルヤウデハゴザイマスケレドモ、ソレデ栃木県ニハ工女ノ虐待事件ナドト云フ随分喧マシイ事柄モゴザイマスルシ、且又此工場法案ト云フモノハ随分数年ノ宿題ニナツテ居リマスルノデ、先年ハ農商工高等会議ナドニモ農商務大臣ハ諮問ヲセラレタコトモアツタヤウニ思フテ居リマス、ソレデ此農商務省カラ諮問ヲセラレタ商工者即チ私共ハ是等ノコトニハ分リ兼ヌル点ガ最モ多ウゴザイマスケレドモ、聞キ得タリ又見テ居リマスル上カラ見マスレバ少シ実行ノ仕悪イモノモアルト思ヒマス、ソレデ左様ニ数年ノ宿題ニモナツテ居ル位デアリマスカラ、必ズ今三十六番モ御話セラレタ如ク政府ハ議会ニ特ニ案ヲ出サレルダラウト思フ、案ヲ出サレルナラバ多少ノ修正ヲ加ヘテ或ハ通過ヲスルデハナイカトモ思フ、ソレデ不充分ナ所ハ充分ニ修正ヲ加ヘ意見ヲ加ヘテ、斯様斯様ノモノナレバ今日ノ場合ニ於テ適当デアルト云フヤウニシテ、私ハ玆ニ形勢左様ナ場合デアルニモ拘ラス之ヲ否決スルト云フヤウナコトハ甚ダ面白クナイコトデアラウ、之ヲ地位ヲ換ヘテ……今多クハ玆デ反対ヲスル、又此所ニ列席シテ居ルヤウナ側ハ資本家ト云フヤウナモノデ資本家ト又資本家以外ノ労働者ノ考ガ違ウト云フヤウナコトデ、甚ダ聯合会ノ為スコトヽ云フモノハ不公平ナヤリ方デアルト云フヤウナ譏リヲ受ルコトモ甚ダ好マヌコトデアリマスルシ、デ私ハ委員ヲ設ケテ大体ヲ之ヲ賛成スベキモノトシテ、サウシテ相当ノ修正ヲ加ヘルト云フコトニシテ答申ニナルヤウニ致シタイト思ヒマス
○三十五番(大阪、三谷軌秀君) 三十六番ノ委員説ニ同意ヲ致シマスサウシテ賛成ノコトニスルカ、修正ノコトニスルカ、否決ノコトニスルカハ委員会ノ権限ニ任カシテ置キタイ
○三十七番(神戸、横田孝史君) 三十七番ハ唯今三十五番ノ述ベマシタルト略同感デ、唯タ此所デ通過ヲサセルト云フ必ズシモ精神デナク
 - 第22巻 p.842 -ページ画像 
若クハ否決スルト云フコトニ予定シナイデ、能ク委員会ニ於テ調査ヲシマシタ上デ賛否共ニ明カニスルト云フ趣意ヲ以テ、委員ヲ選ヒタイト云フ考デ
○八番(富山、関野善次郎君) 今三十五番・三十七番ノヤウナ委員ナレバ私モ賛成ヲ致シマス
○副会長(東京、馬越恭平君) 三十五番ハ委員ノ数ナドノコトニ於キマシテハ三十六番ノ説ニ……
○三十五番(大阪、三谷軌秀君) 委員会ノ権限ハ制限セヌト云フノデスカラ三十六番ノ賛成説ト見テ宜カラウ
○三十六番(神戸、藤田松太郎君) 成ルタケ九名ヲ地方ニ割ツテ、ドウカ固ラナイヤウニシテ貰イタイ
○会長(東京、渋沢栄一君) ソレデハ三十六番ノ委員説ニ御同意ノ方ハ起立ヲ願ヒマス
  起立者  多数
○副会長(東京、馬越恭平君) ソレデハ三十六番ノ委員説ガ多数デゴザイマスルデ、ソレヂヤ九名ノ委員ヲ御指名申上ゲマス、松尾寅三君関野善次郎君・中井尚珍君・岡崎唯雄君・井島茂作君・法橋善作君・藤田松太郎君・上遠野富之助君・村田庄四郎君、此九名ノ方ヘ御指名致シマス


明治三十五年十二月開設 臨時商業会議所聯合会議事速記録 第二一二―二一五頁 刊(DK220067k-0006)
第22巻 p.842-843 ページ画像

明治三十五年十二月開設
臨時商業会議所聯合会議事速記録  第二一二―二一五頁 刊
明治三十五年十二月十二日午前十一時三十分開議
  出席委員     二十二名 ○氏名略
○上略
  十二月十二日午後零時三十五分開議
○会長(東京、渋沢栄一君) 午前ノ会議ニハ差支ガゴザイマシテ欠席致シマシタガ、是ヨリ開会ヲ致シマスル、委員ヘ御附託ニナリマシタ工場法案ニ付キマシテ委員カラノ報告ガゴザイマスカラ朗読致シマス
   (書記朗読)
    決議案
 工場法制定ノ趣旨ハ我々ニ於テ甚タ之ヲ諒トスルモ、本邦今日ノ実況ニ徴スルニ、本法ノ制定ハ却テ不利益ナル結果ヲ惹起スルノ虞アルノミナラス、今回公示セラレタル同法案要領書ニ列挙セル事項ノ如キモ不備不適実ニシテ、之カ実施上必スヤ非常ノ困難不利ナルモノアルヲ認ム、即チ我カ工業ハ今ヤ非常ノ奮発ト非常ノ苦心トヲ以テ其ノ発達ヲ促進シ、一日モ早ク海外列国ト相譲ラサルノ盛況ニ到達セシメサルヲ得サル特殊事情ノ下ニ在ルモノナルニ、若シ斯ノ如ク一法一律ノ下ニ之ヲ網羅規制スルニ於テハ、大ニ其ノ活達自由ノ行動経営ヲ阻止シ、其ノ進歩力ヲ遅弱ナラシムルノ不利アルト同時ニ、一面ニ於テハ資本ト労力トノ関係ヲシテ重キヲ法規ニ置クノ結果、自ラ道義制裁ヲ軽ンセシムルニ至リ、従来両者間ニ存スル温情美風ヲ損シテ実際ニ於テ労力社会ノ利福ヲ減殺スルノ因ヲ作スニ至ランモ亦測リ知ルヘカラス、果シテ然ラハ是レ全然本法ヲ制定セントスルノ趣旨ニ反スルノ結果ト謂フヘシ、故ニ我々ハ此ノ際寧ロ斯
 - 第22巻 p.843 -ページ画像 
ノ如キ法律ヲ制定セスシテ、成ルヘク我カ工業ヲシテ其ノ発達ヲ速進シ、其実力ヲ涵養スルニ容易ナラシメンコトヲ希望ス
○一番(赤間関、松尾寅三君) 工場法案委員会ノ結果ハ唯今書記ノ朗読ニナリマシタ通リノコトニナリマシタ、就キマシテ唯今ノ委員会ノ決議書ハ印刷ニシテ御配布スル都合デゴザイマス、マダ印刷ガ出来上リマセヌカラ後トカラ御配布致スコトニシマス、実ハ委員会ニ於キマシテモイロイロ審議研究ノ結果唯今ノ案ノ通リニナリマシタノデ、別段ニ御報告スル程ノコトモアルマイト考ヘマス、此事ヲチヨツト一言申シ上マス
○三十八番(名古屋、鈴木摠兵衛君) 委員会ニ於テ格別ニ御調査ノ上唯今大体ニ就テノ御報告ガ出マシタ、私モ其様ニ決定スルノガ穏当ト考ヘマス、是ニ賛成ヲ致シマス
   (「賛成、賛成」ト呼フ者アリ)
○会長(東京、渋沢栄一君) 別ニ御討論モゴザイマセヌガ、委員ノ報告ハ詰リ申スト尚早シト云フ案ニ帰スルヤウデゴザイマス、此決議ハ委員ハ此儘ニ唯決シテ置ウト云フダケデゴザイマスカ、其趣意ヲ以テ如何ナルコトヲナスカト云フコトマデハナイノデゴザイマセウ
○一番(赤間関、松尾寅三君) サウデス
○三十四番(大阪、法橋善作君) 委員会ノ方デハ此案ハ本会ノ決議ニ止メタイ発起会議所ノ提出デアリマシタケレドモ、此事ヲ制定スル必要ガアルカナイカト云フ大体ヲ決シタイト云フ提出案ダト思ヒマス、況ヤ各会議所ニ御諮問中デアリマスカラ各会議所ハ各会議所デ各々答申致スコトヽ思ヒマスカラ、本案ハ決議ニ止メテ置タ方ガ宜カラウト考ヘマス
○会長(東京、渋沢栄一君) 別段御異存ガゴザイマセネバ此決議ハ只決議ニ止メテ置クコトニ決シマス、此決議ニ御同意ノ御方ハ起立ヲ願ヒマス
  起立者  多数
○会長(東京、渋沢栄一君) 多数デゴザイマス、議スベキ件々ハ是デ総テ終リマシテゴザイマスル、午前ニ欠席致シマシタカラ二・三ノ要項ヲ後トカラ決議ノ摸様ヲ承知仕リマシタ、サウ致シマスルト此臨時聯合会ハ此議案ヲ以テ総テ議了致シタト云フコトニ相成リマスルノデ是デ散会ノコトヲ申シ上ルヤウ仕リマス
   ○工場法ト栄一トノ関係並ニ工場法成立ノ沿革ニ就イテハ本資料第十七巻所収「東京商法会議所」明治十三年十一月十五日、第十八巻所収「東京商工会」明治十七年五月二日、第十九巻所収「東京商業会議所」明治二十四年八月二十九日、第二十一巻所収「東京商業会議所」明治三十一年五月二十日、同年十月二十二日、同三十六年三月二十八日、第二十三巻所収「農商工高等会議」明治二十九年十月二十三日、同三十一年二月二十八日、並ニ本資料第二編第二部第五章学術及其他ノ文化事業中「社会政策学会」明治四十年十二月二十二日、同第三編第二部実業・経済、政府諸会ノ中「生産調査会」明治四十三年十一月一日、同第三編第一部社会公共事業中「協調会」大正十二年一月三十一日ノ各条参照。