デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

  詳細検索へ

公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
2節 其他ノ経済団体及ビ民間諸会
1款 経新倶楽部
■綱文

第23巻 p.5-8(DK230001k) ページ画像

明治22年5月(1889年)

是月、東京府下ノ実業家相集リ、懇親ヲ篤ウシ共同ノ利益ヲ謀リ、国会議員ヲモソノ中ヨリ選出セントシテ経新倶楽部ト称スル社交団体ヲ組織シ、栄一ソノ幹事ニ選バル。翌二十三年三月十二日当倶楽部ノ例月会ニ於テ、栄一、金融逼迫ニ関スル意見ヲ述ブ。


■資料

中外商業新報 第二一四六号 明治二二年五月二三日 経新倶楽部(DK230001k-0001)
第23巻 p.5-6 ページ画像

中外商業新報  第二一四六号 明治二二年五月二三日
    経新倶楽部
府下実業者の発起に係る経新倶楽部は今度愈々設立の運びに至れり、其趣意書及ひ規約は左記の如くにして、此程発起人中より幹事五名を撰挙せしに渋沢栄一・益田孝・西村虎四郎・大倉喜八郎・梅浦精一の五氏当撰したりと云ふ
    経新倶楽部設立趣意
経新倶楽部は同好の朋友相会して以て懇親を篤くせんが為に設立する所なり、凡そ人の在るや社会の複雑なる世事の繁擾なる間に起居し為に心身を牽纏せられ、動もすれは処世の行途に彷徨すること其地位と遭際との如何を問はず概ね人世の常観なりとす、況や夫れ時運の開達するに従ひ文明の旺進するに伴はれて、彼の複雑繁擾なるものは益々複雑し繁擾して復た往昔の簡易を期す可からざるに於ておや、今の時に及て徐に参画する所なくば他日に失機を憾むの慮なきを保せざるなり、熟々現時の世状を視るに同志同感の集合は漸く其機会を促し、或は政術の進歩を望みて専ら党派の樹立を謀る者あり、或は学事の長足を冀ひて一意その講究を勤る者あり、或は社交に技芸に或は方術に貨殖に前後相争て相投し以て結合をなす者其幾許なるを知らす、洵に盛なりといふへき也、然り而して実業者に至りては未た其同好相会して互に進歩を計るを見さるは抑も何そや、夫れ実業者は其業何たるに関らす各自の利益は相互に関繋して連鎖の如くなること弁を費さすして昭なり、苟も実業者にして同好相会して懇親を交遊の中に篤くし意思を談笑の間に吐露して互扶するに非さるよりは、何に由て実業の隆昌を一般に望み共同の利益を全局に期するを得んや、是れ我輩か此倶楽部を設立するの主趣なり、冀ふ所は同好相会して胸襟を開き実業の繁を謀り相互に其慶に頼るに在る而已
  明治廿二年五月
    経新倶楽部規約
 - 第23巻 p.6 -ページ画像 
○第一条 本倶楽部は同好相会して懇親を篤くし、以て実業者に関する共同の利益を進歩し保全するを目的とす○第二条 本倶楽部は  区  町  番地に設け、常に会員の交遊談話する会場とす○第三条 本倶楽部は毎月第二の水曜日を以て例月会を開く○第四条 本倶楽部は毎年一回会員総会を開き、幹事の報告を聞き諸務を議定す○第五条 本倶楽部は幹事五名及書記を置て諸務を処理せしむ、但幹事は会員総会に於て互選し其任期を一年とす○第六条 本倶楽部の会員たらんと望む者は会員三名の紹介に依り幹事の承諾を得るを要す○第七条 本倶楽部の会員は予め幹事の承諾を得て其朋友を本倶楽部に同好することを得、但総会及臨時会議の席には之を許さす○第八条 本倶楽部より退会せんと欲する者は其旨を幹事に報知すへし○第九条 本倶楽部の会員は会費として毎月金一円宛、地方会員は金二十銭宛を納むへし


東京経済雑誌 第一九巻第四七一号・第六六八頁 明治二二年五月二五日 経新倶楽部(DK230001k-0002)
第23巻 p.6 ページ画像

東京経済雑誌  第一九巻第四七一号・第六六八頁 明治二二年五月二五日
    ○経新倶楽部
府下の紳商諸氏は商工業家も一の団結を為し懇親を篤くし共同の利益を謀り議会議員をも其中より撰出せんものとて、普書租冲伝中に「衣は新きを経ざれば何に縁りて故きを得ん」と云るを取りて経新倶楽部なるものを組織し、幹事五名(任期一年)撰び、渋沢栄一・益田孝・西村虎四郎・大倉喜八郎・梅浦精一の五氏其撰に当れりといふ


中外商業新報 第二三八八号 明治二三年三月一一日 経新倶楽部例月会(DK230001k-0003)
第23巻 p.6 ページ画像

中外商業新報  第二三八八号 明治二三年三月一一日
    経新倶楽部例月会
同倶楽部は明十二日中洲枕流館に於て例月会を開き、当日は渋沢栄一氏の金融に関する談話もある由


中外商業新報 第二三九一号 明治二三年三月一四日 経新倶楽部例月会(DK230001k-0004)
第23巻 p.6 ページ画像

中外商業新報  第二三九一号 明治二三年三月一四日
    経新倶楽部例月会
渋沢・益田・大倉等の諸氏を始め実業家を以て成れる経新倶楽部の例月会は一昨日中洲枕流館に於て開きたり、当日は金融に関する渋沢栄一君の談話ありしが、右は甚だ有益なる談話なれば筆記は追て掲載すへし


東京経済雑誌 第二一巻第五一三号・第三六九―三七〇頁 明治二三年三月二二日 渋沢栄一君の金融逼迫談(DK230001k-0005)
第23巻 p.6-7 ページ画像

東京経済雑誌  第二一巻第五一三号・第三六九―三七〇頁 明治二三年三月二二日
    ○渋沢栄一君の金融逼迫談
渋沢栄一君は過日府下紳商諸氏が実業奨励の為めに設立せる経新倶楽部に於て、会員の請に応じて金融逼迫のことに付き意見を述べられたり、其の要旨は
 昨年の下半季より金融は追々に逼迫の状を呈し、殊に十一・十二月より本年の一・二月に至り益々逼迫を告ぐるに至りたれども、其の原因は当年若くは昨年に起せしものにあらずして、遠く明治十九年若くは廿年に因したるものと思惟す
 明治十年不換紙幣を発行したる結果は、物価騰貴となり、金融逼迫
 - 第23巻 p.7 -ページ画像 
となりしが、政府は明治十四・五年の交より不換紙幣の鎖却を始めたれば、十七・八年頃は物価漸く旧に復して金融も緩漫になるに至れり、十九年に及んで、銀紙の差全く之れなきを見るや、玆に政府は又兌換制度の実行を為したり、当時世上の事業は一般に衰頽して金利非常に低落し、人々無事に苦み、何かな工夫はなきやと思考せるや、会社事業大に起り、世を挙けて事業創起の感念を持たしむるに至れり、而して其の新事業創起の最も多繁なりしは、明治十九・廿年の間に在りたるが如し、是れ今日の金融逼迫の状を呈せし原因ならん、故に今日の金融逼迫は、国力の衰弱に因て来せしにあらずして、国力増進の途端に起れるものなれば、深く憂ふるに足らず、所謂人間ならば病の為めに衰弱して発熱したるものにあらずして、運動の過度に依りて発熱したるものと云ふを得べし
 去りなから金融逼迫と云ふ事は決して争ふ可らざる顕像なり、故に此の金融は将来如何に成り行く可き歟、又之を救治するには如何なる方法に依らん歟を研究するに、則ち「全国の実業者心を一にして適当の考案を立てゝ、之を実行する時は今日の逼迫は却て後日の助けともなるべし」、若し左なくして今日の有様に恐懼し、進退度を失ひ、或は此の状況に慣れて、尚ほ止むることを知らざる時は、将来の結果は最も恐るべきなり、病原は既に知られたれは、将来は養生次第にて如何にともなるべし、如何なる大医の薬も、養生が悪しければ、利くべきにあらず、次きは「救治なれど此の救治も急激に失するときは却て害あらん、則ち急激の救治と云はゞ、通貨を増して救治すべし」と云ふならんが、猥りに通貨を増して救治せんとするは予が甚た危ぶむ所なり、故に今日斯の金融逼迫を救治するは、予は実業者自ら救ふの覚悟を定め決して政府の力に依頼するの不可なるを信ず、去れと将来を恐怖して持株の売逃げを為すと云ふが如きことなく其の既往に成立せる事業は、忍堪して成効を期すべし、而して新たなる事業の如きは姑らく勘考して時機を見合するに如くなしとす、要するに今日の救治策は我々自ら恐怖の念を抱かず、飽まても忍堪を旨とし、又自ら猥りに走らず、飽まても自重を専一とすること最も急務なるべし、云々
殊に今日の金融逼迫を病に譬へて、過度の労働の為めに熱を発したるものなりと云ふが如きは、一言以て尽せりと云ふ可き歟、余輩の所見を以てすれば猶此の他にも其の原因あらんと信ず、唯だ君の自ら明言せらるゝか如く精密なる調査なきを憾むのみ、然れども兎に角実業社会の一指針となるは疑ふ可らず


中外商業新報 第二四〇二号 明治二三年三月二八日 経新倶楽部例月会(DK230001k-0006)
第23巻 p.7 ページ画像

中外商業新報  第二四〇二号 明治二三年三月二八日
    経新倶楽部例月会
経新倶楽部例月会は来月九日に開かるへき筈の所、右会日を一日に繰上け品川御殿山益田孝氏の私邸に於て観桜を兼ね例月会を開くよし


中外商業新報 第二四〇七号 明治二三年四月三日 経新倶楽部例月会(DK230001k-0007)
第23巻 p.7-8 ページ画像

中外商業新報  第二四〇七号 明治二三年四月三日
    経新倶楽部例月会
 - 第23巻 p.8 -ページ画像 
同倶楽部会員は予て記したる如く、一昨日午後二時より御殿山なる益田孝氏の私邸に於て例月会を開きしが、時恰も桜花爛熳の季に際したるを以て同氏の庭園に於て園遊会を催ふして、晩餐の席上に於ては商法に関する関氏の談話もありたり


中外商業新報 第二四三九号 明治二三年五月一一日 経新倶楽部(DK230001k-0008)
第23巻 p.8 ページ画像

中外商業新報  第二四三九号 明治二三年五月一一日
    経新倶楽部
経新倶楽部にては来る十四日午後五時中洲枕流館に於て例月会を開くよし