デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
2節 其他ノ経済団体及ビ民間諸会
4款 パリ博覧会出品組合
■綱文

第23巻 p.33-37(DK230006k) ページ画像

明治30年10月(1897年)

パリ博覧会出品組合成リ、栄一其委員長タリ。明治三十五年四月事務終了、解散ス。


■資料

青淵先生公私履歴台帳(DK230006k-0001)
第23巻 p.33 ページ画像

青淵先生公私履歴台帳          (渋沢子爵家所蔵)
    民間略歴 (明治二十五年以後)
明治三十年
一巴里博覧会出品組合ヲ組織シ其委員長トナル
  我国有名ノ当業者ニ資ヲ給シテ特殊ノ美術品ヲ製作セシメ、之ヲ巴里万国博覧会ニ出陳シテ我国ノ光誉ヲ発輝スルノ目的ヲ以テ、世ノ有志者ヲ勧誘シテ此組合ヲ組織シタルモノニシテ、過般已ニ製作品ノ全部ヲ該博覧会ニ展列セリ


竜門雑誌 第一一五号・第四八―五一頁 明治三〇年一二月 ○巴里博覧会出品組合(DK230006k-0002)
第23巻 p.33-35 ページ画像

竜門雑誌  第一一五号・第四八―五一頁 明治三〇年一二月
    ○巴里博覧会出品組合
来る明治三十三年巴里に於て開会せらるべき万国大博覧会に我国美術工芸品を出品するの目的にて岩崎・三井・渋沢諸家を始め東京の商工業家諸氏発起人となり標題の如き組合を組織せんとし、我青淵先生発起人総代として専ら京浜の商工業家及ひ華族諸家に加入勧誘中の由なるが、今日迄に加入の申込ありし分は岩崎家の二万円、三井家の一万円、青淵先生の五千円を始めとして、東京の商工業丈けにて已に七万参千円に達し尚続々申込ある由なれば、今後其事務着々進行して充分に目的を達するに至るべしといふ、又其趣意書及ひ規約草案は左の如くなりといふ
     巴里博覧会出品組合趣意書
明治三十三年仏国巴里府に開かる可き万国大博覧会は我日本国が戦勝後始めて万国博覧会に出品する者なるが故に、参観の世界各国人は兼ねて有名なる美術工芸品が此際如何なる面目を呈することならんと先づ其視聴を聳かして、異常の注意を為す可きは勢の自然なりと云ふ可し、此時に当り我日本国民たる者徒に従前の慣行に安んじ美術工芸上の出品を工人区々の為す所に任せ、大作鉅製の見る可きものなく、世界各国人をして遂に其予想を空うせしむるは、豈に千古の恨事に非ずや、顧ふに我美術工芸家の技倆は古今大差あるに非らず、現時亦霊妙の技術を抱く者あらんと雖も、其製作数年に亘り為めに多金を要する者は独力を以て着手することを得ず、所謂妙技を埋没する者時に或は之れなきに非らず、或は多少の資金を得て製作に従事する者あるも工人区々の考案を以て区々の物品を製出するが故に、集めて一場に陳列するに及んでは其規模の狭小なるのみならず、同類雑出通じて之を統合するの妙なく、開国以来今日に至る迄我国より万国博覧会に出品せし事其幾回なるを知らざれとも、真実我美芸の蘊蓄を発して善尽し美
 - 第23巻 p.34 -ページ画像 
尽し以て世界各国人を駭服せしむること能はず、誠に遺憾なりと云ふ可きなり、我等窃に此に見る所あり、明治卅三年の巴里博覧会に於ては聊か此遺漏を補はんと欲し、玆に巴里博覧会出品組合なる者を組織し、組合中より二十万円を募集して之を其資金に充て絵画・彫刻・七宝・陶器・蒔絵・織物等に至る迄、凡そ我美術工芸品として出品の価値ある者は組合自から図案を撰み又其意匠を指図して之を製作者に命じ、製品の数量・配合等能く会場陳列の宜きに適するを期し、纏めて之を出品するの道を謀りたらば、所謂霊妙の技ある者も大に其力を施すことを得て他の一般の出品と共に巴里博覧会に於て我美術工芸の光彩を発揮することを得んか、今や巴里博覧会の開会は前途二年半を余すに過きず、成る可く大に此目的を達せんと欲せば一日も躊躇す可きに非ず、同感の士君子幸に我等の微志を諒して速に之を賛助せられんこと偏に希望に堪へざるなり
     巴里博覧会出品組合規約
第一条 本組合は其新に製作せしめたる美術工芸品を来る明治三十三年仏国巴里府に開かる可き万国博覧会に出品するを以て目的とす
第二条 本組合は事務所を東京市京橋区木挽町十丁目拾一番地に置く
第三条 第一条の目的を達する資金として組合員中より金二十万円を募集すべし
第四条 資金は之を四百口に分ち一口の金額を五百円とす
第五条 組合員は組合組織の当時其持分一口に付き金五十円を払込み残金は必要の都度漸次之を払込むべし
  但し払込金額及び其払込期日は委員に於て少くとも十四日以前に通知すべし、其払込期日に至り若し払込を為さゞる者ある時は、其金額に対し百円に付日歩四銭の割合を以て延滞利息を徴収すべく、又万一期日後六十日を過ぎて払込を為さゞる時は、既に払込みたる金額を没収し組合員中より除名することあるべし
第六条 組合員は組合存立中如何なる事情あるも其出資金の払戻を請求することを得ず
第七条 組合員は組合員総体の承諾を得るに非ざれば其権利義務を他人に譲り渡すことを得ず
  但し組合員中死亡者ある時は相続人に於て其権義を承継することを得べし
第八条 組合員間損益共分の割合は各自の出資格に比例するものとす
第九条 本組合各般の事務を処理せしむる為め組合員中より十名の委員を撰任すべし
  但し委員は互撰を以て常務委員若干名を置くことを得
第十条 委員は本組合の目的を達するに必要なる諸般の事務を議定決行するの権力責任を有す
  但し組合全体の利害に関する重大の事件に付ては総組合員の会議を開き其多数の意見に従ふものとす
第十一条 委員は本組合の目的外に渉りて為したる行為に付ては自から其責に任すべし
第十二条 委員は本組合の事務を進行せしむる為め名誉幹事・名誉書
 - 第23巻 p.35 -ページ画像 
記及び属員若干名を置くことを得
第十三条 委員は製作物に関し其意見を問ふが為め組合若くは組合外より名誉委員若干名を嘱托することを得
第十四条 委員は製作物を審査せしむる為め審査員若干名を嘱托することを得べし
第十五条 委員は製作物の図案調製に参与し、其製作竣功に至る迄之を監督せしむる為め監督員若干名を嘱托することを得べし
第十六条 委員は本組合に必要なる経費を支払ひ、且つ金銭の収支に関する出納帳簿を設けて其計算を明にすべし
第十七条 委員は毎年六月・十二月の両度に於て其半季間の出納を調査し、貸借対照表及び事務報告書を調製し、組合員全体の認定を受くべし
第十八条 組合員は何時たりとも本組合の業務施行に関し、委員に対して意見を述ぶることを得、又帳簿其他各書類の展覧を求むるの権あり
第十九条 製作品竣功の上は之を陳列して総組合員の観覧に供すべし
第二十条 審査の上出品に決したる物品は其売価を定め製作者の名義を以て出品の手続を為すべし
第二十一条 出品は博覧会に於て購求者に売却し、若し売残品あれば之を本邦に積戻し、委員に於て最も適当と認むる方法を以て売却処分すべし
第二十二条 委員は製作品悉皆処分済の上組合の債権を取立て又其債務を弁償し、現存の財産を売却し其他一切の計算を整理して決算報告書を調製し、各組合員の出資額に応じて之を分配すべし
第二十三条 前条の精算を完了したる時は本組合を解散するものとす


竜門雑誌 第一三七号・第四七―四八頁 明治三二年一〇月 ○巴里博覧会出品組合(DK230006k-0003)
第23巻 p.35-36 ページ画像

竜門雑誌  第一三七号・第四七―四八頁 明治三二年一〇月
    ○巴里博覧会出品組合
同組合は来る明治三十三年仏国巴里に於て開設せらるべき万国大博覧会に我国美術工芸品を出品し、我国光発揚の一助たらんことを目的とし、去卅年十月我青淵先生を始め三井・岩崎其他京浜の有力家数十名の合資によりて設立せられたるものなり、其資本金は拾万円にして青淵先生其委員長に任じ、名誉顧問林忠正氏・名誉幹事益田克徳氏等専ら其経営に力め、内国の名手を撰みて織物・刺繍・蒔絵・鋳物・絵画彫刻・七宝・陶器等数百点を精作せしめ、近頃に至り漸く各製作品の大部分出来せしを以て之を上野公園桜ケ岡日本美術協会の新館に陳列し、去る九月二十八日を以て組合員其他縁故ある人々の観覧に供せられたり、陳列の品々は流石其道に名声隠れなき林・益田諸氏の指図設計になりたる丈ありて何れも優物のみにして、来年巴里博覧会に出陳の上は万国人の視線を引きアツパレ我国美術の高評を博するや疑なかるべしとなり、尚前記の如く上野へ陳列の翌日読売新聞に批評されたる一項を左に掲げて参考に供せん
 巴里博覧会出品組合は昨日上野美術協会新館に重なる作品を陳列して縁故の人々に縦覧せしめたり、配置方は彫工競技会を斟酌して成
 - 第23巻 p.36 -ページ画像 
へく類別的にし、時に彼此あしらひたるもありしが、劈頭目を驚かせしは小林久次郎と藤井喬秀の大壁懸なり、小林のは渓流新緑の刺繍にて宛然油絵の如く作者は之もて仏のゴブランとも拮抗すべき意気込なるべし、藤井のはずんと変りて水墨山水の天鵞緘友禅、前のと並びて和洋の柄合照応するも面白し、その前にあしらひたるは槌鉄雲竜の大花瓶にて山田長次郎の作是また人の目を惹きたり、此他重なる品とて人々の囲繞せるは精工舎担当名家合作の大堰川の書棚其の傍に据ゑたる半作の料紙硯は故人植松抱民が恨を斯芸に呑みたる跡は見え、摸様の春秋破屋なるも哀一入なり、織物に川島甚兵衛が豊太閤の陣羽織を繻珍に写せる埃及の唐花摸様を綃紀に織りたる帯地は彼れが平素の気焔も想ひやられぬ、鋳金の名家と知られし大島如雲の銅製鯉魚の置物の関谷博士の地震雛形に鯉をからませたる如き仕組にて、大小五尾鯉魚をば波にあしらひたり、取付ものならんも工風の異れりとて評判なり、山田宗美の鴨の置物も外国向きに適せりと云ふ者多く、大竹徳国の銅製の鶏、古銅の色を有せて而かも鶏製作に熟たれば批難なからん、七宝焼は類多けれ共高崎光一作対の銀花瓶、一つは牡丹を一つは芥子を顕はしたるが最も見事なり鈴木長吉鋳造秋草半肉の大花瓶は鋳物として無類とも云ふべく、特に一台に飾りて益田克徳氏の鼻高々と口上言ふこと見受けしも流石なり、出口に接して遥か入口の壁懸と対するは白山松哉作雁来紅研出蒔絵の四枚折屏風にて、扱ひに便なる為め下に小さき車を附く蒔絵としての大作なり、同じ場所に据ゑたる同人及片山旭合作の書棚は柄かはりたり、地は総体蝋色にて花菖蒲の螺鈿に郭公の処へ鴇鶏を蒔く、花やかとかきらびやかとか云ふものなるべし(彫工競技会より附け廻しのものも多し)先づざつと見し所こんなものにて、林忠正氏抔も来賓接対に尽力せしが定刻より参観者多く、夫人令嬢同道の青木外相抔をも見かけたり


渋沢栄一 日記 明治三四年(DK230006k-0004)
第23巻 p.36 ページ画像

渋沢栄一 日記  明治三四年     (渋沢子爵家所蔵)
五月廿四日 雨
○上略 六時 ○午後 新橋ニ着シ直ニ浜町常盤屋ニ抵リ巴里博覧会出品組合ノ委員会ニ出席ス、林忠正氏・近藤 ○廉平・益田孝・高橋義雄・益田克徳ノ諸氏来会ス、事務整理計算決了ノ事ヲ協議シ其方法ヲ定ム ○下略
   ○中略。
五月廿六日 晴
○上略 午後三時益田克徳・伊藤半次郎来ル、博覧会出品組合計算処分ノ事ヲ談ス ○下略


青淵先生公私履歴台帳(DK230006k-0005)
第23巻 p.36 ページ画像

青淵先生公私履歴台帳         (渋沢子爵家所蔵)
 ○民間略歴(明治二十五年以後)
    諸会社銀行等
一巴里博覧会出品組合委員長 卅五年四月解散
   ○博覧会出品目録ハ、伊藤半次郎氏所蔵ニ係ル明治三十三年一月二十六日発行ノ「美術画報」(編集発行者星野錫、発行所東京市神田区連雀町十八番地画報社)第二臨時増刊「巴里博覧会出品組合製品」号ニ明ラカナリ。
 - 第23巻 p.37 -ページ画像 


青淵先生六十年史 竜門社編 第二巻・第五九二頁 明治三三年二月刊(DK230006k-0006)
第23巻 p.37 ページ画像

青淵先生六十年史 竜門社編  第二巻・第五九二頁 明治三三年二月刊
 ○第五十八章 公益及公共事業
    第六節 美術品出品協会
美術品出品協会ハ明治三十年六月先生等ノ主唱ニ成リ、其目的ハ千九百年仏国巴里府万国大博覧会ヘ我邦ヨリ美術品ノ出品ヲ奨励スル為メ独リ政府ノ保護ニ依ラス有志者ニ於テ資金ヲ出シ一ノ協会ヲ組織シ、技術家ヲ補助シテ美術品ヲ製作セシメ、出品ノ上売却シテ益アレハ協会ノ収入トシ、損アレハ協会ノ負担トシ、以テ成ル可ク精巧ノ品ヲ集メ大ニ我邦美術品ノ名誉ヲ高メントスルニアリ、先生自ラ先ツ五千円ヲ出金シ、頻リニ京浜間ノ資産家ノ加入ヲ勧誘シタリ、其設立趣意書ハ左ノ如シ
    巴里博覧会出品組合趣意書 ○略ス


伊藤半次郎氏談話(DK230006k-0007)
第23巻 p.37 ページ画像

伊藤半次郎氏談話
                昭和十二年六月十一日 於小石川関口町伊藤氏宅 松平孝聴取筆記
    ○巴里万国博覧会出品組合ニ就テ
組合ノ組織ハ実ニ旨ク出来テヽ、全国ノ芸術家ヲ網羅シテ、組合デ作品ヲ募集シ之ヲ巴里ニ於ケル同博覧会ニ出品シテ、之ガ売レルト出品人ニ金ヲ交附シ同時ニ賞状ヲ呈スルト云フ又トナイ良イ方法デ行ハレマシタ、寄附金ハ岩崎家ガ最モ多ク確カ一万円ト記憶シテマス、此ノ間御社カラ問合セノアツタ折当時組合技手トシテ巴里ニモ行カレタ西尾喜三郎ニ会ヒニ行ツタ処ガ、最近十何年トカ患ヒ続ケテ寝テ居ツタガ、特ニ面会シテ話ヲシタガ、其レハオ前ノ方ガヨク知ツテルヨト言ハレテコチラハ返ス言葉ガナカツタ、コチラモ書類ハ全部焼失シテルシ、僅カニ残ツタ組合員名簿モコノ間ノ火事デ失クシテ誠ニ残念デアル、何トカオ役ニ立チタイガ当時ノ人モ多ク物故サレテルシスルカラ中々難シイ、唯今記憶シテヰルノハ巴里ヘ出品物ヲ持ツテ行ツタ竹沢太一君ガ確カ千葉県ニ健在ナ筈デァルカラ此ノ人ニ早ク会ツテゴランナサイ、何カ得ル処ガアルデセウ、私モ出品ノ折巴里行ヲスヽメラレタノデスガ、唖ノ旅行デハ役立チマセンデセウカラト御辞退シテシマヒマシタ、他ニハ佐々木勇之助サン、清水釘吉サンモ組合員デシタカラ之等ノ人ニモオ訊ネニナレバ何カ予期シナイヤウナヨイオ答ヲ得ラレルカト思ヒマス
   ○博覧会ハ千九百年(明治三三年)四月十四日開会式ヲ挙ゲ、同年十一月三日閉会式ヲ挙ゲタリ。其詳細ハ日本産業協会発行「産業」(第六巻第一〇号―一一号・昭和四年一〇月―一一月)ニ掲ゲラレタル「博覧会ノ沿革」中ニ述ベラレタリ。
   ○同会ノ記録ハ全部之ヲ渋沢倉庫株式会社倉庫ニ保管セル所、大正十二年九月ノ大震火災ニテ焼失シタリ。
   ○本巻「パリ万国博覧会臨時博覧会事務局」明治二十九年十一月十四日ノ条参照。