デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

8章 政府諸会
1節 諮問会議
6款 農商工高等会議
■綱文

第23巻 p.549-580(DK230048k) ページ画像

明治31年2月28日(1898年)

是日栄一、第三回当会議ノ議長ヲ仰付ラル。十月二十日ヨリ十一月四日迄、第三回当会議農商務省会議室ニ於テ開カレシモ、栄一病気ノ為出席セズ。東京商業会議所副会頭中野武営仮議長タリ。


■資料

官報 第四四一三号 明治三一年三月二二日 ○叙任及辞令(DK230048k-0001)
第23巻 p.549 ページ画像

官報  第四四一三号 明治三一年三月二二日
    ○叙任及辞令
                  従四位 渋沢栄一
農商工高等会議議長被仰付(二月二十八日内閣)


第三回農商工高等会議議事速記録 第三九―六七頁 明治三二年一〇月刊(DK230048k-0002)
第23巻 p.549-550 ページ画像

第三回農商工高等会議議事速記録  第三九―六七頁 明治三二年一〇月刊
明治三十一年十月二十日(木曜日)午前十時農商務省会議室ニ於テ開会、出席者三十八名、其人名左ノ如シ ○氏名略
午前十一時開議
同時内閣総理大臣伯爵大隈重信君・農商務大臣大石正巳君臨場
   (幹事美濃部俊吉君起テ本会議々長渋沢栄一君病気ノ為メ参会無之ニ付キ、仮議長ヲ選定スル迄農商務次官柴四郎君ニ仮ニ議長席ニ着カレムコトヲ請テ可然哉ヲ衆議ニ諮フ)
   (「異議ナシ」ト言フ者多シ、乃チ農商務次官柴四郎君議長席ニ着ク)
○中略
○井上角五郎君 チヨツト此抽籤ノ際ニ、唯今ノ議長ヲドウスルカト云フ問題ヲ御議シニナツテハドウデス、私ハサウシテ意見ヲ述ベマスガ、是レハ農商務大臣ニ指名ヲ請フテ定メテ戴クコトノ御同意ヲ願ヒタイ
   (「賛成」ト述ブル者多シ)
 - 第23巻 p.550 -ページ画像 
○農商務次官柴四郎君 唯今井上角五郎君カラ御発言ニナリマシタ議長ハ農商務大臣ノ指名ニシタイト云フ御説デゴザイマスガ、是レニ賛成ノ方ハ……
   (「賛成」「異議ナシ」ト述ブル者多シ)
○農商務次官柴四郎君 是レデ確定ト致シマス、ソレナラ農商務大臣ニ指名ヲ請フコトニシマス
○中略
○農商務大臣大石正巳君 実ハ此ノ議長ヲ御依頼スルトキニ、東京商業会議所ノ会頭ナルト且又名望ヲ慕テ、渋沢君ニ議長ヲ御依頼シタヤウナ訳ケデアリマスガ、渋沢君ガ先刻申シマシタ通リ暫ク御出席ガ出来ナイヤウナ訳ケデアリマスカラ、御出席ノ諸君ノ互撰ニ願ヒタイト思ヒマシタガ、指名ヲスルヤウニトノ御決議デアリマスカラサウスレバ東京商業会議所副会頭タル中野武営君ニ仮議長ヲ御苦労ヲ願ヒタイト思ヒマス、ドウゾ一ツ御請ケヲ願ヒマス
○十八番(中野武営君) 私ハ不行届デ甚ダ心配デゴザイマス
○農商務大臣大石正巳君 私ハドウゾ一ツ是丈ケハ何分ニ御繰合ヲ願ヒマス
○十八番(中野武営君) 甚タ不行届デ心配デゴザイマスガ、御指名デゴザイマスカラ
○農商務次官柴四郎君 中野君
   (中野武営君議長席ニ着ク)
   ○第三回農商工高等会議ハ明治三十一年十月二十日ヨリ同年十一月四日迄十二回ニ亘リ続行サレシガ、栄一病気ノ為メ何レノ会議ニモ出席セズ。(第三回農商工高等会議議事速記録)
   ○栄一ノ病気ニツイテハ他ニ資料ヲ欠ク。



〔参考〕第三回農商工高等会議議事速記録 第一―三六頁 明治三二年一〇月刊(DK230048k-0003)
第23巻 p.550-566 ページ画像

第三回農商工高等会議議事速記録  第一―三六頁 明治三二年一〇月刊
    諮問案
一 外資輸入ノ要否並其ノ方法如何
 本邦商工業ヲ振作スルニ、低利ナル資本ヲ外国ヨリ輸入スルヲ以テ目下ノ急務ト為スノ説アリ、其ノ方法トシテ或ハ政府ニ於テ公債ヲ外国ニ募リ之ヲ民間ニ放下スルヲ可トスル者アリ、或ハ政府保障ノ下ニ成立スル所ノ銀行ニ因テ外国資本ヲ誘入セムトスル者アリ、其ノ他外資輸入ノ方法トシテ世ノ論議ニ上ルモノ一ニシテ足ラス、然ルニ又一方ノ論者ハ敢テ外資輸入ヲ不可トスルニ非スト雖、這般人工的ノ施為ニ因リ之ヲ誘入スルコトヲ以テ却テ経済ヲ紊乱スルノ虞アルモノト為シ、経済上自然ノ趨勢ニ任スルヲ可トスル者アリ、其ノ他議論甚タ区々ニ亘リ帰スル所ヲ知リ難シ、蓋本問題ハ本邦ノ経済界ニ最モ重大ノ関係ヲ有スルモノニシテ、其ノ利害得失ハ最モ深重ノ講究ヲ要ス、今之ヲ本邦経済ノ現状ニ鑑ミ果シテ其ノ必要アリヤ否ヤ、若必要アリトセハ如何ナル方法ニ依ルヲ以テ最モ適当ト為ス哉ニ付、慎密ノ討議ヲ経テ其ノ利害得失ヲ明ニセムコトヲ望ム
一 本邦貨幣制度ノ変革ニ因リ対外国貿易上ニ及ホシタル利害ノ件
 本邦曩ニ金貨本位ノ制度ヲ採リタルヨリ爾来年余、其間一面金貨国
 - 第23巻 p.551 -ページ画像 
ニ対スル輸出入ニ於テ、又一面銀貨国ニ対スル貿易ニ於テ如何ナル影響ヲ蒙リタルカ、現ニ清国ニ対スル各種貿易ノ不振ナルカ如キ幣制改革ノ余響与テ力アルハ略々明ナリト雖、之ト同時ニ他ノ事情モ亦併セ来ルヲ以テ単純ニ幣制ノ影響ヲ知ルコト能ハス、又金貨国ヨリスル輸入ニ於テハ理論上本邦ニ大ナル利益ヲ与ヘタルコト疑ナシト雖、実際果シテ如何ノ影響ヲ生シタルカ明ニ之ヲ認識スルコト甚タ難シ、蓋シ実際此等商業ノ衝ニ当ル所ノ人士ヲ待テ始メテ其ノ実跡ヲ知ルヘキナリ、依テ玆ニ之ヲ諮詢シ、併テ之ヨリ生スル損失ハ之ヲ防キ其ノ利益ハ充分ニ之ヲ収ムルノ方法ヲ講セムコトヲ望ム
一 農商工業ニ関シ新条約実施準備ノ件
 改正条約実施ノ期ハ期年ノ間ニ迫レリ、之ト共ニ外国人ハ新ニ内地企業ノ権利ヲ獲得シ、其ノ他私法上ニ於テ本邦人ト同様ノ権利ヲ有スルコトヽナルナリ、之ニ伴フ所ノ各種ノ問題ハ今日ニ於テ大ニ之ヲ講究スルノ必要アリ、例ヘハ内地ノ各種事業中北海道ニ於ケル農業・水産業・林業ノ如キハ、之ヲ外国人ニ禁止スルノ必要アリヤ否ヤ、鉄道其ノ他国家ノ休戚ニ特別ノ関係ヲ有スル企業ニ付テハ外国人ノ権利ヲ制限スルノ必要アリヤ否ヤ、又其ノ程度ハ如何、内地ノ事業中大ニ外国人ノ侵略ヲ蒙ルヘキモノアリヤ、又之ニ対スル策如何、内外商人間ノ紛議ニ関シ適当ニシテ且敏活ナル裁判ヲ与フル為ニ、商事裁判所又ハ商事仲裁所等ノ機関ヲ設クルノ必要ナキヤ、商業会議所ニ外国人ヲ容ルヽノ利害如何等ノ問題ハ、皆最モ重大ナル関係ヲ本邦ノ経済ニ及ホスヘキモノナリ、依テ玆ニ其ノ利害得失ヲ講シ、並ニ此等事項ノ外尚講究ヲ要スル点ヲ指摘シ、且之ニ対スル意見ヲ吐露セムコトヲ望ム
一 工場法制定ノ件
 (理由) 現今本邦工業ノ勃興ト共ニ工場各地ニ起リ、従来ノ家内工業ハ漸ク変移シテ工場工業タラムトス、而シテ此等工場工業ハ其ノ効果ノ顕著ナルト同時ニ、其ノ設備完全ヲ欠クトキハ之ニ由テ往々人命ヲ危フシ、比隣公衆ニ重大ノ傷害ヲ与フルコトアリ、之ニ対シテ政府ノ監督ヲ要スルコト甚多シ、従来各地方庁ニ於テ既ニ此ノ事ニ関スル取締ヲ為スモノ尠カラスト雖、其ノ方法統一ヲ欠キ其ノ監督ノ設備完全ナル能ハサルモノアリ、然ルニ此ノ事タル工業者並一般公衆ニ最重大ナル利害ヲ及ホシ深ク其ノ権利ニ関係スルヲ以テ、其ノ監督ノ方法ニ付テハ之ヲ地方庁ニ一任セス、予メ法律ヲ以テ其ノ憑準ヲ定ムルヲ必要トス、加旃此等工場ニ於ケル工業主・職工間ノ関係ヲ視ルニ親睦協和恰モ家族師弟タルカ如キ情誼漸ク去テ、階級的差等間隙稍々其ノ跡ヲ現サムトセリ、是レ実ニ工場工業ニ伴フ所ノ必然ノ結果ニシテ、之ヲ各国ノ歴史ニ徴スルニ皆然ラサルハナシ、今ヤ情誼ノ関係既ニ衰退シテ之ニ代ルヘキ法律上ノ関係確立セサルヲ以テ、雇者・被雇者ノ規律頗ル紊乱シ、雇者ハ被雇者ノ転々移動スルニ苦ミ、被雇者ハ亦往々ニシテ雇者ノ圧抑ニ屈従スルノ悲境ニ沈淪スル者アリ、誘拐争奪ノ弊既ニ起リ教唆強要ノ風漸ク行ハレントス、此ノ時ニ当リ之ヲ一般ノ趨勢ニ鑑ミ、之ヲ本邦ノ実情ニ照シ、大体ノ法規ヲ設ケテ二者ノ関係ヲ律シ、一面以テ工業者ノ為
 - 第23巻 p.552 -ページ画像 
ニ其ノ事業経営ノ確実整正ヲ図リ、一面以テ労力ノ強健、風儀ノ保持ヲ企ツルモノ、是レ我工業ヲシテ健全ナル発達ヲ遂ケシムルニ最必要ノ事業トス、是レ本法ノ制定ヲ要スル所以ナリ、然レトモ本問題ノ関係スル所極メテ広且大ニシテ、殊ニ工業者及労働者ノ利害ニ直接大関係ヲ及ホスヲ以テ、仮令外国ノ事歴ニ徴シ自然ノ趨勢ノ能ク前知シ得ヘキモノアルモ、猶ホ法令ヲ以テ一朝急激ノ変化ヲ加フルハ国家経済上大ニ考慮スヘキ所ナルヲ以テ、本法ハ暫ク大体ヲ規定シ、単ニ大綱ヲ示シテ弊害ノ最甚シキモノヲ予防スルニ止メ、而シテ工場監督官吏ヲシテ本法ノ実施ヲ監視セシムルノ傍ラ常時工場ノ状態ヲ調査セシメ、其結果ニ基キテ詳ニ利害得失ヲ衡量シ、将来工場工業ノ進歩ニ応シテ能ク其ノ規律ヲ正シ雇者・被雇者ノ調和ヲ計ラムコトヲ期ス、因テ其法案ヲ添ヘテ之ヲ諮問ス
    工場法案
      第一章 総則
 第一条 此ノ法律ハ五十名以上ノ職工徒弟ヲ使役スル工場ニ適用ス
 第二条 前条以外ノ工場ニシテ事業ノ性質危険ナルモノ、健康ニ害アルモノ、職工・徒弟ノ保護取締上必要アルモノ、其ノ他特別ノ事由アルモノハ勅令ヲ以テ此ノ法律ノ全部又ハ一部ヲ適用スルコトヲ得
      第二章 工場
 第三条 工場ヲ建設・改築・増築セムトスル者ハ当該官庁ニ願出テ認可ヲ受クヘシ、既設ノ建物ヲ工場ニ使用セムトスル者亦同シ
  前項ノ工場ヲ他ノ工業ニ使用シ、又ハ工業ノ方法ヲ著シク変更セムトスルトキハ更ニ認可ヲ受クヘシ
  認可ノ手続・条件及効力ニ関スル規定ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
 第四条 工場ノ工事完成シタルトキハ当該官庁ノ検査ヲ受クヘシ
  検査ニ合格セサル工場ニ於テハ事業ヲ営ムコトヲ得ス
 第五条 工場ニハ危険予防・健康保全・風儀維持並公益保護ノ為必要ナル設備ヲ為スヘシ
 第六条 前条ノ設備ニ欠点ヲ生シタルトキハ、当該官庁ハ左ノ処分ヲ為スコトヲ得
  一 期間ヲ定メテ相当ノ施設ヲ命スルコト
  一 事業ノ全部又ハ一部ノ停止ヲ命スルコト
  前項第一号ノ場合ニ於テ工業主其ノ期間内ニ指定ノ施設ヲ為サヽルトキハ、当該官庁ニ於テ之ヲ執行シ、工業主ヲシテ一切ノ費用ヲ負担セシムルコトヲ得
 第七条 工場ニ汽鑵ヲ装置セムトスル者ハ当該官庁ニ届出テ検査ヲ受クヘシ
  前項ノ検査若ハ定期又ハ臨時ノ検査ニ合格セサル汽鑵ハ之ヲ使用スルコトヲ得ス
 第八条 職工社宅・寄宿舎・病室其ノ他工場ノ附属建物ニハ、本章ノ規定並ニ之ニ関スル罰則ヲ準用ス
      第三章 職工
 第九条 十歳未満ノ幼者ハ工場ニ於テ使役スルコトヲ得ス、但特別
 - 第23巻 p.553 -ページ画像 
ノ事由アル工業ニ付テハ命令ヲ以テ本条ノ例外ヲ設クルコトヲ得
 第十条 十四歳未満ノ職工ハ一日十時間ヲ超ヘテ使役スルコトヲ得ス、但特別ノ事由アルトキハ当該官庁ノ許可ヲ受ケ、之ヲ延長スルコトヲ得
 第十一条 職工ニハ少クトモ一ケ月二日ノ休暇、及一日一時間ノ休憩ヲ与フヘシ
  三大節ニハ事業ヲ休止スヘシ
  特別ノ事由アリテ前二項ニ依リ難キトキハ、当該官庁ノ許可ヲ受クヘシ
 第十二条 工業主ハ尋常小学校ノ教科ヲ卒ラサル十四歳未満ノ職工ニ、自己ノ費用ヲ以テ相当ノ教育ヲ与フルノ設備ヲ為スヘシ
  前項ノ職工ハ工業主ノ定ムル教則ニ服従スヘシ
 第十三条 職工業務上負傷シタル場合ニ於テハ、工業主之ヲ療養シ療養費ヲ支給スヘシ
  前項ノ負傷ニ依リ休養ヲ要スルトキハ手当ヲ支給シ、不具又ハ癈疾トナリタルトキハ扶助料ヲ支給スヘシ
  本条第一項ノ負傷ニ依リ死亡シタルトキハ、埋葬料及遺族手当ヲ支給スヘシ
  危害ノ原因自己若ハ他人ノ故意又ハ天災ニ出ルモノ、及危害ヲ避クル為特ニ設ケタル禁制ニ違背シタルニ出ルモノハ本条ノ限ニ在ラス
 第十四条 職工ハ左ノ場合ニ於テ直ニ契約ヲ解除スルコトヲ得
  一 工業主・業務監督者又ハ其ノ家族カ職工又ハ其ノ家族ニ対シ暴行虐待ヲ加ヘ、若ハ猥褻ノ所為アリタルトキ
  一 生命ヲ危フシ又ハ健康ニ著シキ害ヲ及ホスヘキ業務ヲ工業主又ハ業務監督者ヨリ強ラレタルトキ
 第十五条 工業主ハ左ノ場合ニ於テ直ニ契約ヲ解除スルコトヲ得
  一 職工カ工業主・業務監督者又ハ其ノ家族ニ対シ暴行又ハ侮辱ヲ加ヘタルトキ
  一 職工カ工場又ハ其ノ附属設備ノ秩序ヲ紊スヘキ行為ヲ為シタルトキ
 第十六条 工業主ハ職工トノ関係ヲ定ムル為職工規則ヲ設ケ当該官庁ノ認可ヲ受クヘシ、之ヲ変更セムトスルトキ亦同シ
  職工ノ社宅・寄宿舎取締ニ関スル規則亦前項ニ依ル
  当該官庁ニ於テ必要ト認ムルトキハ職工規則・社宅・寄宿舎規則ノ変更ヲ命スルコトヲ得
 第十七条 職工規則ニハ左ノ事項ヲ規定スヘシ
  一 雇傭契約ニ関スル規程
  一 休日・就業時間及休憩時間ニ関スル規程
  一 監督組織ニ関スル規程
  一 賞与・懲戒ニ関スル規程
  一 賃銭ニ関スル規程
  一 第十三条ノ給与及扶助ニ関スル規程
  一 積立金ニ関スル規程
 - 第23巻 p.554 -ページ画像 
  一 危害ヲ避クル為特ニ設ケタル禁制
  一 第十二条ノ教則
  職工規則ハ工業主及職工ヲ覊束ス
 第十八条 工業主ハ職工ノ異動ヲ明ニスル為職工名簿ヲ備フヘシ
 第十九条 職工ノ取締上必要ノ場合ニ於テハ命令ヲ以テ工業及職工ノ種類ヲ定メ、其職工ニ職工証ヲ所持セシムルコトヲ得
  前項ノ職工ニシテ職工証ヲ所持セサル者ハ、該工業ニ於テ工業主之ヲ雇入ルヽコトヲ得ス
 第二十条 農商務大臣ハ同業組合ノ申請ニ基キ、必要ト認ムルトキハ該組合員ノ使役スル職工ニ職工証ヲ所持セシムルコトヲ得
  前項ノ職工ニシテ職工証ヲ所持セサルモノハ、該組合員之ヲ雇入ルヽコトヲ得ス
 第二十一条 職工証ハ原籍地又ハ住所地ノ市町村之ヲ交附スヘシ、但前条ノ場合ニ於テハ同業組合之ヲ交附スヘシ
 第二十二条 職工証ハ工業主之ヲ保管シ、解雇ノ際之ヲ職工ニ還附スヘシ
 第二十三条 職工名簿及職工証ノ方式並記載事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
      第四章 徒弟
 第二十四条 工業主徒弟ヲ養成セムトスルトキハ予メ徒弟規則ヲ設ケ当該官庁ノ認可ヲ受クヘシ、之ヲ変更セムトスルトキ亦同シ
 第二十五条 徒弟規則ニハ左ノ事項ヲ規定スヘシ
  一 修業契約ニ関スル規程
  一 休日・修業時間及休憩時間ニ関スル規程
  一 授業ニ関スル規定
  一 給与ニ関スル規定
  一 疾病・負傷・死亡手当ニ関スル規程
  一 賞与・懲戒ニ関スル規程
  一 積立金ニ関スル規程
  一 第十二条ノ教則
 第二十六条 第九条乃至第十二条・第十四条・第十五条・第十六条第二項・第三項・第十七条第二項・第十八条乃至第二十三条並之ニ関スル罰則ハ徒弟ノ場合ニ之ヲ準用ス
      第五章 監督
 第二十七条 農商務大臣ハ婦女及十四歳未満ノ職工・徒弟ノ就業ニシテ特ニ危険ナルカ、又ハ健康若ハ風儀ニ害アリト認ムルトキハ之ヲ制限又禁止スルコトヲ得
 第二十八条 工場監督官吏ハ工場及其ノ附属建物ニ臨検シ、職工及徒弟ニ関スル書類ヲ検査シ、並工業主若ハ其ノ代理人及被用者ニ説明ヲ求ムルコトヲ得
  工場監督官吏又ハ工場監督官吏タリシ者ハ、其ノ職務執行上知リ得タル営業上ノ秘密ヲ守ルノ義務アルモノトス
 第二十九条 此ノ法律ニ依ル行政処分ニ不服アル者ハ訴願法ニ依リ訴願スルコトヲ得
 - 第23巻 p.555 -ページ画像 
 第三十条 職工規則・徒弟規則・社宅寄宿舎規則・雇傭契約又ハ修業契約ニ付、工業主ト職工又ハ徒弟間ニ起リタル紛議ハ、工場監督官吏ノ裁定ヲ受クルコトヲ得
     第六章 罰則
 第三十一条 第三条第一項・第二項・第四条・第七条・第九条乃至第十一条・第十六条第一項・第二項・第十八条・第十九条第二項第二十条第二項・第二十二条ニ違背シ、又ハ第十六条第三項若ハ第二十七条ノ命令ニ違背シタル者ハ二百円以下ノ過料ニ処ス
 第三十二条 職工名簿ニ付虚偽ノ所為アリタル者、及第二十八条ノ場合ニ於テ臨検・検査若ハ説明ヲ拒ミ又ハ虚偽ノ所為アリタル者ハ、五拾円以下ノ罰金ニ処ス
 第三十三条 他ノ工業主ト雇傭又ハ修業契約期間内ノ職工又ハ徒弟タルヲ知リ、其ノ工業主ノ承諾ナクシテ之ヲ使役シタル工業主又ハ其ノ媒介ヲ為シタル者ハ、二百円以下ノ過料ニ処ス
  職工・徒弟又ハ其ノ親族・法定代理人・保証人ヲ誘導シ、其ノ工業主ニ対シ虚偽ノ所為ヲ以テ契約ヲ解除セシメ、其ノ職工又ハ徒弟ヲ使役シタル工業主又ハ其ノ媒介ヲ為シタル者ハ、二百円以下ノ罰金ニ処ス
  前二項ノ規定ハ五十名以下ノ職工・徒弟ヲ使役スル工場ニモ之ヲ適用ス
 第三十四条 虚偽ノ職工証又ハ虚偽ノ所為ヲ以テ得タル職工証ヲ行使シ、又ハ行使セシメタル者ハ、二拾円以下ノ罰金ニ処ス
 第三十五条 第二十八条第二項ニ違背シタル者ハ刑法第三百六十条ノ例ニ拠リ処断ス
 第三十六条 此ノ法律ヲ犯シタル者ニハ刑法数罪倶発ノ例ヲ用ヰス
 第三十七条 本法ニ定メタル過料ニ付テハ、明治三十一年法律第十四号非訟事件手続法第二百六条乃至二百八条ノ規定ヲ準用ス
 第三十八条 工業主ノ代理人・家族・被用者ニシテ此ノ法律中工業主ニ関スル規定ニ違背スル行為ヲ為シタルトキハ、工業主ハ自己ノ指揮ニ出サルノ故ヲ以テ本章罰則ノ適用ヲ免ルヽコトヲ得ス
 第三十九条 商事会社ニ在テハ業務担当ノ任アル社員又ハ取締役、其ノ他ノ法人ニ在テハ理事ニ工業主ニ関スル本章ノ罰則ヲ適用ス
      附則
 第四十条 此法律ハ明治三十二年七月一日ヨリ施行ス
一 中央工業試験所設置ノ件
 近代ノ工業ハ学理ヲ基礎トスルモノニシテ、其ノ改良進歩ハ技術的試験ノ成蹟ヲ応用スルノ結果タルニ外ナラス、今ヤ本邦ノ工業漸ク刷新ノ運ニ向ヒ旧慣・古法ヲ改良シテ内外ノ新需用ニ適応シ、且模範ヲ外国ニ取リテ新規ノ工業ヲ興起セムトスルニ当リ、或ハ輸入原料ニ就テ、或ハ輸出製品ニ就テ其ノ分析試験ヲ要スルアリ、確実ナル試験ノ成蹟ニ基キ改良ノ方法ヲ立ツヘキモノ一ニシテ足ラス、欧米諸国ノ如キ現ニ工芸技術ノ発達セル所ニ於テモ尚試験所ヲ設立シ専門家ヲシテ終始工業上ノ研究ニ従事セシメ、其ノ成蹟ニ因テ大ニ事業ノ拡張ヲ来シタルノ実例尠シトセス、然ルニ本邦ニ於テハ僅ニ
 - 第23巻 p.556 -ページ画像 
帝国大学・工業学校ニ於テ教習ノ傍些少ノ試験ヲ挙行シ、又内務省衛生試験所ニ於テ人民ノ依頼ニ応シ医用薬品分析ノ傍ラ水・石鹸・鉱石・油類ノ定量分析ヲ為シ、本省鉱山局地質課ニ於テ鉱石及天然人造セメント原料ノ分析・証明ヲ為スノ外全ク技術的試験ノ機関ヲ欠ケリ、況ヤ比年労銀ノ騰貴ヲ来シタルノ結果、将来技術上ニ於テ泰西諸国ト競争拮抗スルノ覚悟ナカルヘカラサルニ於テオヤ、於是乎中央工業試験所ヲ設立シテ各部ニ適当ナル技術官ヲ置キ必要ナル機械ヲ備ヘ、一方ニ於テハ広ク官民ノ請求ニ応シテ諸般ノ試験・検定ヲ施シテ責任アル証明ヲ与ヘ、又一方ニ於テハ自ラ進テ各種工業ノ研究ニ従事シ、其ノ成蹟ヲ公ニシテ以テ技術上ノ指導ヲ為シ、学理ト実際トヲシテ益々密接セシメ、本邦工業ノ発達ヲ裨補センコト刻下極メテ緊急ノ事業ニアラサルカ、敢テ其会議ノ意見ヲ問フ
一 地方工業試験所国庫補助法制定ノ件
 (理由) 工業ノ発達ヲ図ラムト欲セハ学術的試験ヲ要スルヤ論ヲ俟タス、蓋シ本邦ノ工業タル概ネ旧慣遺法ニ依リテ今日ヲ致セルモノニシテ、其ノ規模未タ大ナラス、其ノ操作未タ完カラサルノ憾アリ而シテ之ヲ改進スルノ策、学理ヲ応用シタル技術的試験ヲ施行スルヨリ急ナルハナシ、故ニ中央ニ於テ工業試験所ヲ設立シテ諸般ノ試験ヲ施行スルト同時ニ、重要工産物ノ生産地ニ在テハ各地特別ノ事情ニ応シ稍々低度ノ試験ヲ施行スルノ所ノ機関ヲ設立シ、彼此相待ツテ一国工業ノ基礎ヲ鞏固ニシ物産改善ノ実蹟ヲ挙ケシメントス、然ルニ其ノ経費ニ至リテハ地方若ハ組合等ノ能ク堪フル所ニアラサルヲ以テ、年々国庫ヨリ其ノ幾分ヲ補助シ依テ以テ試験所ノ設立ヲ助成スルノ必要ナキカ、因テ之ニ関スル法案ヲ添ヘテ之ヲ諮詢ス
    地方工業試験所費国庫補助法案
 第一条 工業ノ発達ヲ奨励スル為ニ国庫ハ毎年度金拾万円ヲ支出シテ、地方工業試験所ノ費用ヲ補助スヘシ
 第二条 公立ノ地方工業試験所、若ハ主務官庁ノ認可ヲ経タル組合ニ於テ設立シタル工業試験所ニシテ工業上ニ効益アリト認ムルトキハ、農商務大臣ハ其ノ試験所ニ補助金ヲ交付スルコトヲ得
 第三条 補助ヲ受クヘキ地方工業試験所ハ、農商務大臣ノ認可シタル設計及規則ニ依リ、且同大臣ノ認可シタル管理者及試験担当者ヲ備フルモノニ限ル
  前項ノ設計・規則・管理者及試験担当者ヲ変更セムトスルトキハ更ニ農商務大臣ノ認可ヲ受クルヲ要ス
 第四条 地方工業試験所ニ交付スヘキ補助金ハ、設立者ノ負担額ト同額以内トス
 第五条 農商務大臣ハ地方工業試験所ニ特ニ目的ヲ指定シテ試験ヲ命スルコトヲ得
  前項ノ試験ニシテ特ニ費用ヲ要スルトキハ、農商務大臣ハ第一条ニ掲クル金額中ヨリ之ヲ補充スルコトヲ得
 第六条 補助ヲ受クル地方工業試験所ニ於テ臨時ノ必要ニ依リ多額ノ費用ヲ要スル特別試験ヲ施行セムトスルトキハ、農商務大臣ニ臨時特別補助ヲ申請スルコトヲ得
 - 第23巻 p.557 -ページ画像 
  農商務大臣ハ前項ノ申請ニ付其ノ試験ノ目的・方法ヲ審査シ、効益アリト認ムルトキハ第一条ノ金額中ヨリ臨時特別補助金ヲ給与スルコトヲ得、但其ノ金額ハ第四条ノ規定ニ依ル
 第七条 補助ヲ受クル地方工業試験所ノ設立者ハ、補助年期間其ノ試験所ノ経費ヲ継続支出スルノ義務アルモノトス
 第八条 補助ヲ受クル地方工業試験所ハ、其ノ試験成蹟ヲ農商務大臣ニ報告スヘシ
 第九条 補助金ノ交付ハ五箇年ヲ以テ一期トス、満期ノ後必要ニ依リ尚之ヲ継続スルコトヲ得
  農商務大臣ハ左記ノ場合ニ於テ補助年期間ト雖、其ノ補助ヲ廃止若ハ停止スルコトヲ得
  一 試験所ノ管理及試験ノ方法不適当ナリト認メタルトキ
  二 第三条ノ設計・規則ニ違背シタルトキ、又ハ同条第二項ノ規定ニ違背シタルトキ
  三 第五条第一項ノ命令ニ背キタルカ、第七条ノ義務ヲ尽スコト能ハサルカ、又ハ第八条ノ報告ヲ怠リタルトキ
      附則
 第十条 本法ハ明治三十二年四月一日ヨリ施行ス
一 土地整理法制定ノ件
  (理由) 本邦ノ耕地ハ其境界頗ル錯雑ニシテ畦畔・道路・溝渠等ノ区劃当ヲ得サルモノ甚タ多シ、今是等耕地ヲ適当ニ分合配置シ其区劃ヲ変シ、道路・溝渠等ヲ整理スルトキハ耕地ノ面積ニ於テ利スル所少カラサルノミナラス、灌水・運搬等ノ便ヲモ併取スルコトヲ得ヘシト雖、此ノ如キ事業ハ土地所有者多数ノ共同ヲ要シ之ヲ地主各自ノ自由ニ任スルトキハ其ノ共同一致ヲ得ルコト甚タ難キヲ以テ、法律ヲ以テ多数ノ同意者アルトキハ他ノ一部少数者ヲ強制シテ其ノ事業ニ加ハラシムルノ規定ヲ設ケ、又其方法順序ニ付一定ノ規矩ヲ与ヘントス、其ノ可否如何
    土地整理法要領
 第一項 土地整理ノ実施ヲ決定スル条件
(一)整理地区内ニ於テ整理ニ付スル土地ノ所有者二分ノ一以上ノ同意アリテ、其同意者カ整理地区内ニ於テ整理ニ付スル土地総面積ノ二分ノ一以上ヲ所有シ、且其同意者ノ所有スル土地ノ地価合計額カ、整理ニ付スル土地ノ地価合計額ノ二分ノ一以上ナルコト、若ハ(二)整理地区内ニ於テ整理ニ付スル土地ノ所有者四分ノ三以上ノ同意アルコト、若ハ(三)整理ノ施行ニ同意シタル土地所有者カ、整理地区内ニ於テ整理ニ付スル土地総面積ノ四分ノ三以上ヲ所有スルコト、若ハ(四)市町村カ其全部ヲ地区トスル土地整理ノタメ、市町村会ニ於テ議員四分ノ三以上ノ同意ヲ得タルコト
 第二項 換地及補償ニ関スル規定
  整理ニ付シタル土地ノ所有者ニハ、其土地ノ換地トシテ整理ニ付シタル土地ト可成同地目同価値ナル整理済ノ土地ヲ交付スルモノトス、但換地ノ割当上従前ノ土地ト換地トノ価格ノ間ニ止ムヲ得サル差異ヲ生シタル場合ニ於テハ、貨幣ヲ以テ互ニ補償スルモノ
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トス
 第三項 第三者ノ権利ニ関スル規定
(一) 整理ニ付シタル土地ニ関シ権利ヲ有スル第三者ノ物権及債権ハ、従前ノ土地ヨリ換地ノ上ニ移ル
(二) 賃借地カ賃貸借契約存続期間内ニ於テ整理ニ付セラルヽトキハ、該契約ニ規定ナキカ又ハ別段ノ契約ナキトキニ限リ、賃借人ハ予告シテ整理工事着手ノ時ヲ以テ賃借地ノ全部若ハ一部ニ対シ該契約ヲ解除スルコトヲ得、此解除ヲ理由トスル損害賠償ノ要求ハ之ヲ為スヲ得ス
   但施肥・播種・栽苗・立毛及土地改良ニ関スル損害賠償ハ此限リニアラス
 第四項 土地整理委員ニ関スル規定
(一) 土地整理委員ハ土地所有者其員数ヲ議定シ及之ヲ互選ス、但其一人ハ整理地区ノ属スル市町村長ヲ以テ之ニ充ツ
(二) 土地整理委員ハ土地整理事業ノ設計ヲ為シ、詳細ナル事業方法書ヲ作リ、及土地整理委員ノ権限、補償金ノ交付、費用ノ賦課徴収、増歩地ノ処分等ニ関スル規約ヲ起案シ、土地所有者総会ノ議定ヲ経テ政府ノ認可ヲ受クヘシ、事業着手後其方法書又ハ規約ヲ変更スルノ必要ヲ生スルトキハ、更ニ認可ヲ受クヘキモノトス
(三) 土地整理委員ハ事業方法書及規約ニ依リ整理工事ヲ実施シ及換地ノ割当、補償金ノ交付、増歩地ノ処分、費用ノ徴収・支払並土地台帳整理等ニ関スル事務ヲ執行ス
(四) 土地整理委員ハ、土地整理事業ノ施行ニ関スル法律行為ニ付整理地区内ノ土地所有者ヲ代表ス
 第五項 土地整理ノ為ニ生シタル登記事件ノ取消又ハ変更ニ関シテハ、登録税法第二条ノ登録税ヲ免除ス
 第六項 整理ノ施行ニ要スル経費ハ総テ参加土地所有者ノ負担トシ土地整理委員ノ請求ニ依リ市町村ハ市町村税徴収ノ方法ニ準シ之ヲ徴収スヘシ
一 第五回内国勧業博覧会之件
 来ル三十二年ニ開設スヘキ第五回内国勧業博覧会ハ、其開期仏国万国博覧会ト甚タ近接セルヲ以テ勢之ヲ延期シ、来ル三十五年頃ニ於テ之ヲ開設スルヲ可トスヘシ、果シテ然ラハ時恰モペルリ提督渡来後第五十年ニ当リ、且該会ハ戦後始メテ開設セラルヘキ所ノモノニシテ、又改正条約実施ニ就キ欧米各国ト対等ノ地位ニ立ツノ日ニ在ルヘキカ故ニ、其関係ノ重大ナル固ヨリ前回ノ比ニアラス、一層其規模ヲ大ニシ本邦ノ地位ニ適応セシムヘキノ必要アルヲ以テ、該会中ノ美術工芸部ニ限リ特ニ広ク外国ノ出品ヲ求メテ、一部万国博覧会ノ性質ヲ具ヘシメントスルノ議ヲ建ツルモノアリ、蓋シ美術工芸品ハ本邦工業ノ一大部ヲ占ムルモノニシテ、往々海外各国ノ称賛ヲ博シ優ニ之レト競争スルヲ得ヘキモノアリ、今此部ニ於テ外国ノ出品ヲ求メ幸ニ広ク海外各国ノ工芸品ヲ集ムルコトヲ得ハ、以テ本邦人ヲ刺激シテ益々我長所ヲ錬磨セシムルノ便トナルノミナラス、又
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之レカ為メ坐ナカラ各国ノ美術工芸ヲ研究スルノ好機ヲ得ヘキニ依リ、戦捷後及ヒ改正条約実施後ノ施設上此等ノ挙アルハ頗ル可ナルニ似タリ、然ルニ又之ト趣ヲ異ニシ、本邦ニ最モ密接ノ関係アル近隣ノ諸国ニ限リ、各部ヲ通シテ参同ヲ求ムルヲ可トスルノ議アリ、是レ元ト万国博覧会ヲ開設スルノ志望ヲ有スト雖、之ヲ外国ノ前例ニ照シ万国博覧会ノ失敗ニ終ランコトヲ慮リ、先ツ其企劃ヲ狭小ニシ邇キヨリ始メントスルノ意ニ外ナラス、今此等ノ説ニ付其可否如何ヲ問フ
一 清国新開市場日本居留地ノ利用ヲ完フスルニ付必要ナル施設如何
 清国新開港場ニ於テ本邦ノ得タル所ノ居留地ハ、本邦商人ノ之ヲ利用シテ店舗ヲ其ノ地ニ開ク者甚タ稀少ナリ、蓋シ未タ通商関係ノ親密ナラサルニ出ツト雖、斯ノ如キハ甚タ遺憾トスヘキ所ニシテ、細カニ其ノ原因ヲ究メ、本邦人ヲシテ充分居留地ヲ利用セシムルノ途ヲ啓クヲ必要トス、因テ此ノ目的ヲ達スルカ為政府ニ於テ施設スヘキ事業如何ヲ諮詢ス
一 農商工業ニ関スル統計ノ整理ニ関スル件
 農商工業ノ盛衰消長ヲ徴スルニ付最モ必要ナルモノハ統計ナリ、従来本省ニ於テハ農商工業ニ関シ一定ノ事項ヲ定メ年々地方庁ヲ通シテ其統計ヲ徴集シ蒐メテ印刷ニ附シ之ヲ公行セリ、然ルニ統計材料ノ蒐集ハ頗ル困難ノ事業ニシテ、往々計数ニ誤謬ヲ存スルヲ免レサルハ甚遺憾トス、加旃年々統計ヲ徴スル所ノ事項モ亦経済ノ進歩ト共ニ増補改訂ヲ要スルハ勿論トス、依テ玆ニ本会議ニ於テ従来ノ統計事項ニ付増補改訂スヘキ点及統計材料ノ蒐集ニ付適当ノ方法ヲ講究セン事ヲ望ム
一 海外移民ニ対スル方針如何
 海外ニ殖民地ヲ設クルコトハ英国最モ成効シ、仏・独亦孜々トシテ之ニ傚ハムトセリ、本邦ニ於テモ従来布哇・西比利亜・墨西哥等ニ向テ多少労力者ノ出稼又ハ移住スルモノアリ、今之ヲ本邦ノ事情ニ照シ海外移民ノコトハ本邦ノ経済ニ如何ノ関係ヲ有スルヤ、従テ政府ニ於テ将来是等移民ニ対シ如何ナル方針ヲ執ルヘキヤ等ノ問題ハ予メ充分ノ講究ヲ遂クルノ必要ヲ認メ、玆ニ之ヲ諮詢ス
一 漁業法制定ノ件
 (理由) 漁業ノ制度ハ維新以降単ニ従来ノ慣行ニ依ルノ外準拠スヘキモノアルナシ、熟ラ之ヲ我国漁業ノ実況ニ徴スルニ一般生計ノ上進・交通運搬ノ発達ニ伴ヒ、水産物ノ需用益々増加スルニ従ヒ、漁者営業ノ競争亦激シキヲ加ヘ、漁業ノ紛議到ル所ニ醸生シ、或ハ酷捕濫獲亦後日ヲ慮ルノ暇ナキモノ比々皆然リ、更ニ他方ヲ顧ミレハ固陋ノ旧習ヲ口実トシテ有利ナル漁具・漁法ノ使用ヲ拒ミ、漁業ノ改良進歩ヲ抑止妨害スルモノ往々ニシテ之レアリ、憶フニ従来ノ制度ニシテ敢テ改ムルコトナクンハ水産動植物ハ漸次減少シ、我国ノ一大富源タル水産業ノ利益ヲ永遠ニ維持シ之ヲ増進スルコト得テ望ムヘカラサルナリ、依テ漁政ノ根底タルヘキ法律ヲ定メテ、漁業ノ紛議ヲ理メ、蕃殖保護ヲ図リ、漁業ノ発達ヲ保進センコトヲ期ス、玆ニ其法案ヲ添ヘ之ニ関スル意見ヲ諮問ス
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    漁業法案
 第一条 公有水面ニ於テ左ニ掲クル方法ニ依リ漁業ヲ為ス者ハ行政庁ノ免許ヲ受クヘシ
  一 位置又ハ時期ヲ定メテ漁具ヲ常設スルモノ
  二 水産動植物ノ養殖場ヲ設クルモノ
  三 竹木又ハ石類ヲ以テ水面ヲ区劃スルモノ
  前項ノ外免許ヲ必要トスル漁業ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
 第二条 入会又ハ専用ノ慣行アル漁場区域ハ其慣行ニ依ル
 第三条 前条ノ慣行又ハ其区域ニ付争アルトキハ、関係漁業者ノ請求ニ因リ地方長官之ヲ決定ス
  漁場又ハ関係漁業者ノ管轄一府県以外ニ渉ルトキハ関係地方長官協議ノ上決定シ、協議調ハサルトキハ農商務大臣之ヲ決定ス
 第四条 水産動植物ノ蕃殖保護其他公益ノ為必要ナルトキハ、行政庁ハ漁業ノ免許ヲ取消シ又ハ制限スルコトヲ得
  第二条ノ入会又ハ専用ノ慣行アル漁場ニシテ前項ノ場合ニ該当スルトキハ、其漁場ニ於ケル漁業ヲ禁止シ又ハ制限スルコトヲ得
 第五条 漁業免許ヲ拒マレタル者、又ハ第三条及第四条ニ依リ行政庁ノ為シタル処分ニ対シテ不服アル者ハ訴願スルコトヲ得
  行政庁ノ為シタル処分違法ニシテ権利ヲ毀損セラレタリトスル者ハ、行政訴訟ヲ提起スルコトヲ得
 第六条 行政庁ハ必要ト認ムルトキハ漁場ノ位置又ハ区域ノ標識ヲ建設シ、若ハ其建設ヲ関係漁業者ニ命スルコトヲ得
  前項ノ場合ニ於テハ明治二十三年法律第三十八号水路測量標条例ノ規定ヲ準用ス
  土地使用料及建設ヲ命セラレタル場合ニ於ケル標識ノ建設及保存ニ要スル費用ハ、関係漁業者ノ負担トス
 第七条 漁業免許ヲ受ケタル者引続キ二年間其漁業ニ従事セサルトキハ免許ハ其効力ヲ失フ
 第八条 堰堤・水閘・水車其他ノ建設物ヲ設置シテ魚類ノ通路ヲ遮断シ若ハ妨碍アリト認ムルトキハ、行政庁ハ魚道ノ設置ヲ命スルコトヲ得
  魚道ノ設置及保存ノ費用ハ、建設物設置者ノ負担トス
 第九条 水産動植物ニ有害ナル物質ヲ遺棄シ其蕃殖ヲ妨害スルト認ムルトキハ、行政庁ハ之ヲ禁止又ハ制限シ、若ハ遺棄者ノ負担ヲ以テ除害ノ方法ヲ設ケシムルコトヲ得
 第十条 行政庁ハ水産動植物ノ蕃殖保護若ハ漁業取締ノ為命令ヲ以テ禁漁場ヲ設ケ、又ハ水産動植物ノ採捕漁具ノ使用若ハ漁法ヲ禁止シ、又ハ制限スルコトヲ得
 第十一条 前条ニ依リ漁具ノ使用若ハ漁法ヲ禁止シ又ハ制限スル命令ニハ、其禁止又ハ制限ニ違背シタル者ニ対シ、何人ノ所有ヲ問ハス其漁具若ハ漁撈ニ供シタル物件並ニ漁獲物ヲ没収スルノ規定ヲ設クルコトヲ得
 第十二条 前三条ノ規定ハ、蕃殖保護上著シキ関係アル場合ニ於テ公有水面ト通スル私有水面ニ準用ス
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 第十三条 漁業者ハ水産動植物ノ蕃殖保護及共同ノ利益ヲ図ル為、地区及漁場区域ヲ定メ定款ヲ議定シ行政庁ノ認可ヲ経テ漁業組合ヲ設クヘシ、但行政庁ニ於テ漁業ノ情況ニ依リ組合設置ノ必要ナシト認メタル場合ハ此限ニアラス
  行政庁ハ必要アリト認ムルトキハ漁業組合ノ地区又ハ漁業区域ヲ指定シ若ハ之カ変更ヲ命スルコトヲ得
 第十四条 漁業組合ノ経費ハ、其組合員及漁場区域内ニ於テ漁業ヲ為ス者ヨリ徴収スルコトヲ得
 第十五条 明治三十年法律第四十七号重要輸出品同業組合法ノ規定ハ之ヲ漁業組合ニ準用ス、但シ農商務大臣ノ有スル職権ハ、漁業組合ヲ認可スル行政庁之ヲ行フ
 第十六条 他人ノ漁業免許ヲ得タル漁場ヲ侵シ漁撈シタル者ハ、百円以下ノ罰金ニ処ス
 第十七条 免許ヲ要スル漁業ニシテ免許ヲ受ケスシテ其漁業ヲ営ミタル者ハ、三十円以下ノ罰金ニ処ス
 第十八条 種類・寸尺・重量又ハ時期ニ依リ採捕ノ禁止又ハ制限ニカヽル水産動植物ヲ販売シタル者ハ拾円以下ノ罰金ニ処シ、仍ホ其代価ヲ追徴ス
 第十九条 此法律ハ明治三十三年一月一日ヨリ施行ス

          農商工高等会議々長
                 従四位  渋沢栄一
         農商工高等会議副議長
                     欠
         農商工高等会議々員(任命順次)
                 正五位 藤田伝三郎
                 正六位 高橋是清
                 正六位 大倉喜八郎
                 従六位 安田善次郎
                 正七位 中野武営
                 勲三等 近藤廉平
                 勲四等 山本達雄
                 勲五等 大谷嘉兵衛
                     荘田平五郎
                     井上角五郎
                     末延道成
                     井上甚太郎
                     田中源太郎
                     山本亀太郎
                     兼松房太郎
                     松田源五郎
                     鈴木長蔵
                     奥田正香
                     遠藤敬止
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                     佐野理八
             従四位工学博士 仙石貢
                 正六位 島田三郎
                     豊川良平
                     田口卯吉
                     佐久間貞一
                     広海二三郎
                     小栗富次郎
                 従五位 土居通夫
                     浜岡光哲
          農商工高等会議臨時議員
             大蔵省主計局長 阪谷芳郎
    東京帝国大学法科大学教授法学博士 金井延
        東京帝国大学農科大学教授 玉利喜造
        東京帝国大学農科大学教授 横井時敬
                 従三位 渡辺洪基
                 従三位 田中芳男
                 従三位 村田保
                 正四位 富田鉄之助
                 正五位 手島精一
                 従五位 矢野次郎
                 正六位 平賀義美
                     渡瀬寅次郎
            外務次官法学博士 鳩山和夫
                内務次官 鈴木充美
                大蔵次官 添田寿一
                逓信次官 箕浦勝人
          非職農商務省工務局長 志村源太郎
                 正五位 堀田連太郎
                文部次官 柏田盛文
          農商工高等会議幹事
            農商務大臣秘書官 対馬健之助
             農商務省参事官 美濃部俊吉
   ○外資輸入ニ関スル諮問案ニ就イテハ、当会議ニ於テ次ノ如ク議決セラレタリ。(第三回農商工高等会議議事速記録、第三六九―三八三頁)
    「凡ソ資本ノ安全ニシテ利益多キ所ニ流入スルハ経済上自然ノ趨勢ナリ、其自然ノ趨勢ヲ妨害スヘキ法令制度ヲ改廃スルハ最今日ノ急務タルヲ信スルヲ以テ、政府ハ宜シク速ニ之ヲ改廃スルノ手段ヲ採ラルヘシ、尤モ故ラニ外資ヲ輸入スルカ如キ事実問題ハ特ニ諮問アラムコトヲ希望ス」
   ○本邦貨幣制度ノ変革ニ因リ対外国貿易上ニ及ボシタル利害ニ関スル諮問案ニ就イテハ「我カ幣制改革ハ外国貿易ニ利益ヲ与フルコト甚タ大ニシテ別ニ特記スヘキ弊害アルヲ見サルナリ」トノ委員決議案可決セラレタリ。(同上書、第六二三―六四二頁)
   ○農商工業ニ関シ新条約実施準備ニ関スル諮問案ニ就イテハ「新条約実施ノ為メ農商工業ニ関シテハ特ニ外国人ニ対シ制限ヲ設クルノ必要ヲ認メス」ト決議セラレタリ。(同上書、第六一六頁)
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   ○工場法制定ニ関スル諮問案ニ就イテハ左ノ如キ法案可決セラレタリ。(同上書、第四五九―五一八頁・第五五四―五六三頁)
     「  第一章 工場
     第一条 工場ヲ建設・改築・増築セントスル者ハ地方長官ニ届出ヘシ、既設ノ建物ヲ使用セムトスル者亦同シ
      前項ノ工場ヲ他ノ工業ニ使用シ、又ハ工業ノ方法ヲ変更セントスルトキハ更ニ届出ヘシ
     第二条 前条ノ届出アリタルトキハ地方長官ハ其ノ工事ヲ検査スヘシ
      検査ニ合格セサル工場ニ於テハ事業ヲ営ムコトヲ得ス
     第三条 工場ニハ危険ヲ予防シ、健康ヲ保全シ、風儀ヲ維持シ、並公益ヲ害セサル為必要ナル設備ヲ為スヘシ
     第四条 前条ノ設備ニ欠点アリタルトキハ、地方長官ハ左ノ処分ヲ為スコトヲ得
      一 期間ヲ定メテ相当ノ施設ヲ命スルコト
      一 事業ノ全部又ハ一部ノ停止ヲ命スル事
      前項第一号ノ場合ニ於テ工業主其ノ期間内ニ指定ノ施設ヲ為サヽルトキハ地方長官ニ於テ之ヲ執行シ、工業主ヲシテ一切ノ費用ヲ負担セシムルコトヲ得
     第五条 前各条ノ規定ハ左ノ工場ニ限リ之ヲ適用ス
      一 蒸汽力・水力・電気力・瓦斯力又ハ其他ノ原動力ヲ用フルモノ
      一 前号以外ノ工場ニシテ事業ノ性質危険ナルモノ、衛生其他公益ニ害アルモノ、但此場合ニ於テハ予メ勅令ヲ以テ其ノ工場ノ種類ヲ指定スルヲ要ス
     第六条 工場ニ附属スル寄宿舎及病室ニハ、工場ニ関スル前各条ノ規定並之ニ関スル罰則ヲ準用ス
     第七条 工場ニ汽鑵ヲ装置セントスル者ハ、地方長官ニ届出テ検査ヲ受クヘシ
      前項ノ検査若ハ定期又ハ臨時ノ検査ニ合格セサル汽鑵ハ之ヲ使用スルコトヲ得ス
     第八条 工場・寄宿舎及病室ノ設備並ニ汽鑵検査ニ関スル規則ハ、地方長官之ヲ定メ農商務大臣ノ認可ヲ受クヘシ
        第二章 職工及徒弟
     第九条 農商務大臣ハ、左ノ各号ノ範囲内ニ於テ省令ヲ以テ、工場ノ職工・徒弟ノ使役ニ関スル規則ヲ定ムルコトヲ得
      一 十歳未満ノ幼者ノ使役ヲ禁制若ハ制限スルコト
      一 女子又ハ十四才未満ノ職工・徒弟ニ一日十二時間以上ノ就業時間及就業ノ種類ヲ制限スルコト
      一 職工・徒弟ニ一ケ月二日ノ休暇、及一日十時間以上ノ労働ヲ為ス場合ニ一時間ノ体憩ヲ与ヘシムルコト
     第十条 工業主ハ工場寄宿舎ニ居住スル職工・徒弟ニシテ十四才未満ノ者ニ対シ相当ノ教育ヲ与ヘ、且ツ其ノ疾病ノ際引取人ナキトキハ之ヲ救養スルノ義務アルモノトス
     第十一条 職工作業上負傷若ハ死亡シタル場合ニハ、工業主ハ少クモ左ニ掲クル各号ノ救恤ヲナスノ義務アルモノトス、但シ危害ノ原因自己若ハ他人ノ故意又ハ天災ニ出ルモノ、及危害ヲ避クル為特ニ設ケタル禁制ニ違背シタル者ハ此限ニアラス
      一 職工カ負傷シタルトキハ、負傷ノ当時ニ得タル賃銭ノ半額ヲ休養中支給スルコト
      一 前号ノ場合ニ於テハ療養ノ実費ヲ給シ若ハ自ラ療養ヲ与フルコト
      一 負傷ニ因リ労作ヲナス能ハサルニ至リタルトキハ、職工カ負傷ノ当時ニ得タル賃銭二ケ年分
      一 負傷ニ因リ労作ヲ減シタル場合ニハ、其減少ノ程度ニ応シテ減シ
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タル金額
      一 負傷ニ因リ死亡シタル場合ニ於テハ、負傷ノ当時ニ得タル賃銭ノ三十日分
      一 前号ノ死亡者ノ扶養ニ依リ生活シタル遺族アルトキハ前号賃銭一ケ年分
      前項第三号及第四号ノ金額ハ二百五十円、第六号ノ金額ハ百五十円ヲ以テ最高額トス
      前二項ノ規定ハ徒弟ノ場合ニ之ヲ準用ス
     第十二条 工業主ハ職工・徒弟規則ヲ設ケ地方長官ニ届出ヘシ、之ヲ変更スルトキ亦同シ
      寄宿舎取締ニ関スル規則亦前項ニ依ル
     第十三条 職工・徒弟規則ニハ左ノ事項ヲ規定スヘシ
      一 雇傭契約又ハ修業契約ニ関スル規程
      一 休日・就業時間及休憩時間ニ関スル規程
      一 賞罰ニ関スル規程
      一 賃銭若クハ手当ニ関スル規程
      一 救恤ニ関スル規程
      一 積立金ヲナス場合ニハ其規程
      一 危害ヲ避クル為特ニ設ケタル禁制アルトキハ其ノ禁制
      職工・徒弟規則ハ工業主及職工・徒弟ヲ覊束ス
        第三章 監督
     第十四条 農商務大臣ハ工場規察官ヲシテ工場ニ臨検セシムルコトヲ得
     第十五条 此法律ニ依ル行政処分ニ不服アルモノハ、行政訴訟ヲ提起シ又ハ訴願法ニ依リ訴願スルコトヲ得
        第四章 罰則
     第十六条 第一条・第七条第一項及第十二条ノ届出ヲ怠リタル者ハ、二十円以下ノ過料ニ処ス
     第十七条 第二条第二項及第七条第二項ニ違背シタル者ハ、二百円以下ノ過料ニ処ス
     第十八条 工業主ト契約中ノ職工・徒弟又ハ其ノ親族・法定代理人・保証人ヲ誘導シ、他ノ工業主ヲシテ其職工又ハ徒弟ヲ使役セシメタル媒介者ハ、二百円以下ノ罰金ニ処ス
     第十九条 此ノ法律ヲ犯シタル者ニハ刑法数罪倶発ノ例ヲ用ヰス
     第二十条 本法ニ定メタル過料ニ付テハ、明治三十一年法律第十四号非訟事件手続法第二百六条乃至二百八条ノ規定ヲ準用ス
     第二十一条 工業主ノ代理人・家族・被傭者ニシテ此法律中工業主ニ関スル規定ニ違背スル行為ヲ為シタルトキハ、工業主ハ自己ノ指揮ニ出サルノ故ヲ以テ本章罰則ノ適用ヲ免カルヽコトヲ得ス
        附則
     第二十二条 此ノ法律ハ明治三十三年一月一日ヨリ施行ス    」
   ○工場法ト栄一トノ関係、並ニ工場法成立ノ沿革ニ就イテハ本資料第十七巻所収「東京商法会議所」明治十三年十一月十五日、第十八巻所収「東京商工会」明治十七年五月二日、第十九巻所収「東京商業会議所」明治二十四年八月二十九日、第二十一巻所収「東京商業会議所」明治三十一年五月二十日・同年十月二十二日・同三十六年三月二十八日、第二十二巻所収「商業会議所聯合会」明治三十五年十二月八日、本款明治二十九年十月二十三日、第二部第五章学術及其他ノ文化事業中「社会政策学会」明治四十年十二月二十二日ノ各条参照。
   ○中央工業試験所設置ノ件ニ就イテハ「設置ノ必要ハ認ム、其ノ場所ハ水利運搬並ニ電気力・瓦斯力等ノ利用ニ便利ナル地ヲ撰定スベシ」トノ案可決セラレタリ。(東京経済雑誌第九五四号、第一一二八―一一二九頁)
   ○地方工業試験所国庫補助法ハ其必要ナキ旨議決セラレタリ。(同上書)
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   ○土地整理法制定ノ件ニ就イテハ、諮問ノ土地整理法要領第一項ノ第一号中二分一ヲ三分ノ二ト改メ、他ハ全部諮問要領ヲ可決セリ。(第三回農商工高等会議議事速記録、第三六二―三六五頁・第四一〇―四二六頁)
   ○第五回内国勧業博覧会ノ件ニ就イテハ、諮問案ヲ修正シテ次ノ如ク答申セリ。(同上書、第五二一―五三一頁)
    「明治三十二年ニ開設スヘキ第五回内国勧業博覧会ヲ延期シテ明治三十五年ニ開設スルハ頗ル適当ナリトス、然レドモ該会中ニ美術工芸ノ一部ヲ万国博覧会トシ、或ハ東邦ニ密接ノ関係アル近隣ノ諸国ニ限リ各部ニ参同ヲ求ムルハ可ナルカ如クナルモ、此ノ如キ性質ノ博覧会ヲ開設スルハ既ニ時期ノ切迫セルヲ以テ予期ノ好果ヲ収ムルコト難カラン、依テ来ル明治三十五年ニ於テハ従前ノ如キ内国勧業博覧会トシ、為シ能フヘクンハ之ニ万国貿易品陳列ノ一部ヲ設クヘシ、真個ノ万国博覧会ハ他年ヲ期シテ開設スルヲ可ナリト信ズ」
   ○清国新開市場日本居留地ノ利用ヲ完フスルニ付必要ナル施設如何ニ関スル諮問ニ就イテハ左ノ如ク議決セラレタリ。(同上書、第六四三―六七〇頁)
    「清国新開港場ニ得タル我居留地ニ本邦商人ノ店舗ヲ開ク者稀少ナルハ今日ノ形勢ニ於テ不得已ノ結果ナリ、抑国力内ニ充実シテ諸業外ニ暢ブ是レ自然ノ気数ニシテ、商業ノ海外ニ振フコト亦此数ニ外ナラス、今ヤ内地ノ事業ヲ振興スルニ外資ヲ要スルノ時運ニ当リ、多クノ商人ヲシテ資本ヲ外ニ用ヰ新タニ事業ヲ居留地ニ興サシメンコト頗ル難ヲ見ル、若シ政府ガ強テ之ヲ誘導セントスルコトアラハ是レ人為ヲ以テ自然ノ趨勢ヲ乱ル者ニシテ、其効功ヲ見ルヘキニ非ス
    然レトモ彼我ノ状勢ヲ明ニシ其地形・人情及ビ物品ノ需要等ヲ詳査シテ之ヲ我国人ニ知ラシメ、志アリ力アル商人ヲシテ徐ロニ適宜ノ業ヲ居留地ニ営作セシムベキ便ヲ計ルハ政府当局ノ当然ナル事務ニ属ス、是ヨリ以外強テ奨励ノ方法ヲ施スハ今日ノ急務ニ非スト思考ス」
   ○農商工業ニ関スル統計ノ整理ニ関スル諮問ニ就イテハ次ノ如ク決議セラレタリ。(同上書、第五三一―五五三頁)
    「農商工業ニ関スル従来ノ統計ハ往々事実ヲ失ヒ又発表ノ時期頗ル後ルヽモノアリ、為メニ参考ノ用ヲ欠クニ至ル、是レ調査ノ方法従来専ラ官庁ノ階段ヲ経過シ其間熱心適実ヲ失フモノアルニ由ルモノト信ス、依テ今後ハ事項ヲ区分シ商業会議所・農会・水産会・各種組合等ヲ直接ニ利用スルノ方法ヲ開クノ必要アルヲ認ム、又我邦統計ノ機関ハ其組織並相互ノ関係完全ナラサル所アリ、就中諸般統計ノ基礎タル国勢調査ノ方法ノ如キ未タ備ハラス大ニ改良ヲ要スルモノアリ、而シテ此等詳細ノ方法ニ至テハ頗ル高尚ノ学術的問題ニ属スルモノアルヲ以テ、適当ノ専門家ヲ撰定シ永ク専業トナサンコトヲ望ム」
   ○海外移民ニ対スル方針如何ノ諮問ニ就イテハ左ノ如ク議決セラレタリ。(同上書、第六七一―六七九頁)
    「帝国ノ人口増加スルニ随ヒ海外ニ移住スル事ハ現勢ノ自然ナリト雖モ、殖民ノ事ハ唯人口ノ故ノミニアラス、人口ト共ニ資本之ニ伴ハサルヘカラズ、自国ノ資本ニヨリテ業ヲ海外ニ立ツルノ力アリテ初メテ永住ノ殖民ヲ為スヲ得ベシ、帝国今日ノ気運ハ未タ此域ニ達セス、従来布哇・西比利亜墨西哥等ニ向テ為セル者ハ真ノ移住者極メテ少クシテ契約ノ出稼人其多キニ居リ、欧西諸国ノ所謂移住殖民トハ大ニ其趣ヲ異ニス、是レ資本ニ伴フノ移民ト之ニ伴ハサル者ト其関係相異ナルニ由ルナリ、政府ハ国力自然ノ結果ニ非ル移民ヲ奨励ス可カラズ、自由ノ移民ニ対シテ其権利ヲ保護シ其安全ヲ保ツハ政府ノ当務タルヘシ、然レトモ契約ノ労働ハ勿論、自由ノ移民ト雖モ唯充分ニ其権利ヲ保護スルノ方法ヲ尽サレンコトヲ希望ス」
   ○漁業法制定ノ件ニ就イテハ、諮問ノ漁業法案ニ多少ノ修正ヲ加ヘテ議決セリ。修正ノ箇所次ノ如シ。(同上書、第五六三―五八二頁)
    「第一条 公有水面ニ於テ左ニ掲クル方法ニ依リ漁業ヲ為ス者ハ行政庁ノ
 - 第23巻 p.566 -ページ画像 
免許ヲ受クヘシ
       一 位置及時期ヲ定メテ漁具ヲ常設スルモノ
      第三条 前条ノ漁場区域ニ付、争アルトキハ、関係漁業者ノ請求ニ因リ地方長官之ヲ決定ス
       漁場区域又ハ関係漁業者ノ管轄一地方以外ニ渉ルトキハ関係地方長官協議ノ上決定シ、協議調ハサルトキハ農商務大臣之ヲ決定ス
      第十一条 前条ノ命令ニ違背シタル者ニ対シ其漁具若ハ漁撈ニ供シタル物件並ニ漁獲物ヲ没取ス                」



〔参考〕第三回農商工高等会議議事速記録 第六八三―七一九頁 明治三二年一〇月刊(DK230048k-0004)
第23巻 p.566-580 ページ画像

第三回農商工高等会議議事速記録  第六八三―七一九頁 明治三二年一〇月刊
  本会議中各議員ヨリ提出シタル建議案ハ凡テ十六通ニシテ、右ノ内田口卯吉君外二名提出ニ係ル製産ニ課スル租税ノ興廃増減ニ関スル建議案ハ本会議ニ於テ可決ノ上建議ノ手続ヲ了シ、其他ハ本会議ニ付スルニ至ラスシテ閉会ニ至リタルモ、井上甚太郎君外一名ノ提出ニ係ル礦肥調査所設置ニ関スル建議案、並金井延君提出ニ係ル工場法案ヲ労力者ニ諮問スル義ニ付テノ建議案ヲ除ク外ハ何レモ審査委員ニ附托シ、該委員会ニ於テ夫々決議ヲ了シタルモノナリ、参考トシテ之ヲ左ニ掲載ス
       提出者 農商工高等会議臨時議員 手島精一
    工業技術者養成ニ関スル建議
 我国ニ於テ工業ニ関スル技術者養成ノ途頗ル欠如スルヲ以テ、其供給ニ亦不足ヲ告ケ、随テ官私ノ工場ニ於テ技術ノ素要乏シキ技術者ヲ使用スルハ止ムヲ得サルニ出ルナリ、而シテ工業ノ発達ハ刻下ノ急務ニ属スト雖モ、適良多数ノ技術者ヲ得ルニ非レハ焉ゾ能ク之ヲ望ムベケンヤ、今ヤ国庫ハ地方実業学校ニ補助金ヲ交付シ以テ職工及職工長タルモノヽ養成ヲ奨励スルニ係ラス、是等工人以上ノ技術者タルモノハ二・三官立学校ニ於テ養成スルノ外他ニ施設アルコトナク、適良ノ技術者欠乏スルモ亦宜ナラスヤ、然ルニ此種技術者養成ニ任スヘキ工業学校ハ設備ニ多額ノ費用ヲ要シ、一府県等ノ能ク之ニ堪ユヘキニ非ルヲ以テ、速ニ国費ヲ以テ従前ニ数倍スル技術者養成ノ方法ヲ規画シ、工業ノ発達ニ伴随シテ不足ナカラシメンコトヲ、玆ニ本会議ノ決議ヲ経テ貴大臣ニ建議ス
   明治三十一年十月廿二日
            農商工高等会議議長 渋沢栄一
     文部大臣 尾崎行雄殿
    多数技術者ヲ海外諸国ニ派遣セシムル建議
 本省ニ於テ従前ヨリ有数ノ技術練習生ヲ海外ニ派遣スルノ挙アリト聞ク、然トモ其人員ハ少数ニシテ刻下特ニ我実業ノ発達ヲ必要トスルノ時運ニ於テ固ヨリ以テ足レリトスヘカラス、蓋シ学理ノ応用ニ成レル製品ハ輸入益々増加スルノ趨勢ヲ生シ、又我輸出ノ製品ハ欠点多クシテ海外ノ需要減少セントスルノ傾向アルハ、職トシテ我技術者専門技芸ニ精通スルモノ少キニ依レルナラン、是ヲ以テ本省ハ更ニ多数ノ技術者ヲ選抜シ官費ヲ以テ海外諸国ニ派遣シ、彼レノ技芸ヲ練習セシメ以テ我実業ニ裨補スル所ナカルヘカラス、而シテ技術官ノ資格、練習ヲ要スヘキ業種、帰朝後ノ義務其他必要ナル事項
 - 第23巻 p.567 -ページ画像 
ハ当局者ニ於テ須ラク宜シキニ適スルノ方法ヲ設クヘシト雖モ、輸入ヲ防遏シ輸出ヲ奨励スルハ実ニ国家経済ノ急務ニ属スルヲ以テ、速ニ多数官費技術者ノ派遣ヲ実施セラレンコトヲ玆ニ建議ス
   明治三十一年十月二十日
            農商工高等会議議員 井上甚太郎
     農商工高等会議議長 渋沢栄一殿
 右委員会報告
 工業技術者養成ニ関スル建議、多数技術者ヲ海外諸国ニ派遣セシムル建議ニ付、廿八日委員会相開候処別紙ノ通可決相成候、此段及報告候也
   明治三十一年十月廿九日    委員長 田中芳男
     農商工高等会議々長 渋沢栄一殿
 (別紙)
    工業技術者養成ニ関スル建議
 我国ニ於テ工業ニ関スル技術者養成ノ途頗ル欠如スルヲ以テ、其供給ニ亦不足ヲ告ケ随テ官私ノ工場ニ於テ技術ノ素養乏シキ技術者ヲ使用スルハ止ムヲ得サルニ出ルナリ、而シテ工業ノ発達ハ刻下ノ急務ニ属スト雖モ、適良多数ノ技術者ヲ得ルニ非レハ焉ソ能ク之ヲ望ムヘケンヤ、今ヤ国庫ハ地方実業学校ニ補助金ヲ交付シ以テ職工及職工長タルモノヽ養成ヲ奨励スルニ係ラス、是等工人以上ノ技術者タルモノハ二・三官立学校ニ於テ養成スルノ外他ニ施設アルコトナク適良ノ技術者欠乏スルモ亦宜ナラスヤ、然ルニ此種技術者養成ニ任スヘキ工業学校ハ設備ニ多額ノ費用ヲ要シ一府県等ノ能ク之ニ堪ユヘキニ非ルヲ以テ、速ニ国費ヲ以テ従前ニ数倍スル技術者養成ノ方法ヲ規画シ、工業ノ発達ニ伴随シテ不足ナカラシメンコトヲ、玆ニ本会議ノ決議ヲ経テ、本会規則第二条ニ依リ、貴大臣ニ建議ス
   明治三十一年 月 日
            農商工高等会議議長 渋沢栄一
     文部大臣    殿
    多数技術者ヲ海外諸国ニ派遣セシムル建議
 本省ニ於テ従前ヨリ有数ノ技術練習生ヲ海外ニ派遣スルノ挙アリト聞ク、然レトモ其人員ハ少数ニシテ刻下特ニ我実業ノ発達ヲ必要トスルノ時運ニ於テ固ヨリ以テ足レリトスヘカラス、蓋シ学理ノ応用ニ成レル製品ハ輸入益々増加スルノ趨勢ヲ生シ、又我輸出ノ製品ハ欠点多クシテ海外ノ需要減少セントスルノ傾向アルハ職トシテ我技術者ノ専門技芸ニ精通スルモノ少キニ依ルナラン、是ヲ以テ本省ハ更ニ多数ノ技術者ヲ選抜シ官費ヲ以テ海外諸国ニ派遣シ、彼レノ技芸ヲ練習セシメ以テ我実業ニ裨補スル所ナカルヘカラス、而シテ技術官ノ資格、練習ヲ要スヘキ業種、帰朝後ノ義務其他必要ナル事項ハ当局者ニ於テ須ラク宜シキニ適スルノ方法ヲ設クヘシト雖モ、輸入ヲ防遏シ輸出ヲ奨励スルハ実ニ国家経済ノ急務ニ属スルヲ以テ、費用ノ許ス限リ成ルヘク多数ノ技術者ヲ派遣セラレンコトヲ玆ニ建議ス
   明治三十一年 月 日
 - 第23巻 p.568 -ページ画像 
            農商工高等会議議長 渋沢栄一
     農商務大臣 大石正巳殿

    農商工ニ関スル調査書及報告書類ヲ頒布スルノ建議
 従来農商務省及所轄ノ官衙ニテ時々調査書及報告書ヲ刊行シアリシカ、其頒布区域甚タ狭隘ニシテ之ヲ閲読スルノ便ヲ得ルモノ極テ少ナク、折角多額ノ費用ト時日トヲ消シタル当局者ノ労モ民間ニ伝ハラサルモノ多ク、為メニ農工商業進歩ノ機ヲ逸セシムルモノ多シトス、之レニ反シ若シ政府ニシテ盛ニ此等書類ヲ民間ニ頒布スルニ於テハ我産業発達上必ス著シキ利益ヲ挙ルヘキヲ信ス、欧米諸国ノ如キハ農工商ニ関スル精細ナル報告ハ、政府勉メテ弘ク民間ノ当業者及其他ノ所望者ニ無代価ニテ配付シアリ、今ヤ我邦教育ノ普及ニ由リ此種ノ報告類ヲ解スルモノ頗ル多キニ到リタル時ニ当リ、此方法ニ依テ政府ハ内外諸般ノ農工商業上有益ナル事実知識ヲ民間ニ伝フルニ於テハ、寧ロ他ノ区々タル法令手段ヲ以テ民業ヲ誘掖セントスルニ優レルモノナルヲ信ス、故ニ将来農商務省及所轄ノ官衙ニ於テハ報告又ハ調査書ノ如キハ更ニ一層ノ精緻ヲ加ヘ、且ツ平易読ミ易キヲ重ンシ、広ク当業者其他所望者ニハ無代価ニテ配布シ、農商工業者ヲシテ、座ナカラ有益ナル智識ヲ獲ルノ便ヲ得セシメン事ヲ望ム、是レ玆ニ建議スル所以ナリ
   明治三十一年十月廿四日
          農商工高等会議臨時議員 渡瀬寅次郎
     農商工高等会議々長 渋沢栄一殿
 (右委員会報告)
 農商工ニ関スル調査書及報告書類ヲ頒布スルノ建議ニ付、廿八日委員会相開キ左ノ通リ決議候条及御報告候也
   明治三十一年十月廿九日    委員長 阪谷芳郎
     農商工高等会議々長 渋沢栄一殿
 本建議ハ其趣旨ニ就テハ最モ同意ヲ表スト雖モ、当局者ニ於テモ既ニ其趣意ヲ以テ経費ノ許ス限リ各種報告類ヲ印刷頒布シツヽアル趣ナルヲ以テ、別段建議ニ及ハサルモノトス

    農事監察官設置ニ係ル建議
 右思フニ、農事試験場ノ事ナリ、農会ノ事ナリ、害虫防除ノ事ナリ巡回教授ノ事ナリ、産業組合ノ事ナリ、共進会ノ事ナリ、其他地方ノ農務ハ今後益々繁雑ヲ加フヘシ、而シテ之ヲ監督利導シ以テ之ヲ過失ナク実効ヲ致サシムルハ、是レ中央政府ノ主トシテ務ムヘキ所ニシテ、中央政府自ラ事業ヲ起シ又タ直接ニ民間ノ事業ヲ監督スルカ如キハ抑モ其方針トナスヘキモノニアラサラン、且ツ政令・法律ヲ発シテ之レカ実行上ノ監督ヲ等閑ニス亦タ不可ナラスヤ、農商務省タルモノ請フ速ニ農事監察官若干名ヲ置キ、之ヲシテ常ニ各自ノ受持区ヲ巡回シ以テ主ラ監察ノ事ヲ管ラシメン事ヲ、是レ此建議ヲナス所以ナリ
   明治三十一年十月廿日
 - 第23巻 p.569 -ページ画像 
          農商工高等会議臨時議員 横井時敬
     農商工高等会議議長 渋沢栄一殿
    農事試験本支場ノ業務拡張及特用農芸作物ノ奨励ニ係ル建議
 農事改良ノ主要機関トシテ農事試験場ノ必要有効ナルハ一般ノ認識スル所ナリ、故ニ曩キニ明治二十六年ヲ以テ現在ノ農事試験場ヲ官設シタルハ外観上其当ヲ得タルカ如シ、然ルニソノ規模ソノ経費寡少ニ失シテ、本邦農産ノ改良増殖ヲ期図スヘキ重大ノ任務ヲ充分ニ尽サシムルニハ大ニ足ラサル所アルヲ認ム、此ノ不完全ナル設備ヲ以テ尚能ク我農業界ニ対シ鮮少ナラサルノ実蹟ヲ挙ケ得タルハ実ニ予想外ノ幸福ナリト云フヘシト雖、是レ一ハ従来本邦農業ノ程度尚幼稚ニ属セシヲ以テ少額ノ経費ニ相当セル簡易ノ試験ニテモ能ク其効ヲ奏シ得タリシナリ、然ルニ是等簡易ナル試験事業ノ外、更ニ国家経済上重大且緊急ナル問題ノ解釈ニ対シテ精確ナル試験・研究ヲ実行セシムルノ必要アリ、例ヘハ米麦等普通重要農産ノ外砂糖ノ如キ藍ノ如キ棉ノ如キ何レモ目下経済上急要ノ問題ニシテ、是等ニ就テモ速ニ精細ナル試験ヲ実施セシメ、且既ニ有益ト認定スル成蹟ハ之カ普及ノ途ヲ講セサルヘカラス、又国庫ノ財源トナレル煙草ノ栽培・製造・試験及種々ノ病虫害試験ノ如キ一トシテ急要ナラサルナシ、故ニ苟モ本邦農事改良機関ノ一大基礎トシテ農事試験場ヲ設置シタル以上ハ、従来ノ規模ヲ拡張シテ今日ノ如キ遺憾ナカラシメンコト実ニ目下ノ急務トス、之ヲ要スルニ現在ノ農事試験ハ、中央政府ノ試験場トシテ適当セル設備ニ完成セシメンコト冀望ニ堪ヘサル所ナリ、本建議ノ目的ヲ達スルニ必要ナル経費ノ細調ハ当局者ニ一任スヘシト雖、大要現今ノ試験場経費六万千円ニ左ノ金額ヲ補ヘハ足ルヘシト信ス
  一金五万五千円   試験場本支場ノ改良・拡張
  一金四万円     病虫害試験費
  一金四万五千円   煙草栽培製造試験費
  一金拾万円     特用作物委托試験費
    右経常費合計二拾四万円
  一金五万円     本支場新営費
  一金二万円     支場建物購買費
  一金二万三千円   煙草栽培製造試験用新営費
  一金二万七千円   病虫害試験用新営費
  一金五万円     土地購買費
    右臨時費合計拾七万円(初年度限)
   明治三十一年十月二十日
            農商工高等会議議員 井上甚太郎
     農商工高等会議議長 渋沢栄一殿
    農事試験本支場ノ業務拡張及特用農芸作物ノ奨励ニ係ル経費概算
      第四款 農事試験場費      二一四、七七六円
 第一項 俸給及諸給        七九、三二〇円
 - 第23巻 p.570 -ページ画像 
  第一目 奏任俸給         四八、〇〇〇円
   技師四十人、一人平均年俸千弐百円トシ此金四万八千円
         従来ノ分         三十二人
   技師四十人
         特用作物普及用      八人
  第二目 判任俸給         三一、三二〇円
   技手六十人、一人平均月俸三十五円、此金弐万五千弐百円
         従来ノ分         二十人
   技手六十人
         特用作物普及用      四十人
   書記十七人、一人平均月俸三十円、此金六千百弐拾円
 第二項 庁費            五、二六五円
  第一目 備品費           一、九六〇円
  第二目 図書及印刷費          二八六円
  第三目 筆紙墨文具           九六四円
  第四目 消耗品           一、三八六円
  第五目 通信運搬費           六六九円
        従来ノ分        三、一〇五円
     内訳
        特用作物普及用     二、一六〇円
 第三項 修繕費           三、二〇〇円
  第一目 各所修繕          三、二〇〇円
 第四項 死傷手当             一〇円
  第一目 死傷手当             一〇円
 第五項 賠償及訴訟費            五円
  第一目 訴訟費               五円
 第六項 旅費           二〇、八八五円
  第一目 内国旅費         二〇、八八五円
    (一) 農事巡回講話ノタメニ要スル旅費六千八百四拾五円
    (二) 棉・藍・煙草・大麻・藺其ノ他ノ特用作物依托試験地二千三百四十ケ所、之カ監督ノタメ出張ヲ要スル一ケ所ニ付二回ツヽ一回平均三円トシ、此金壱万四千四拾円
        従来ノ分        六、八四五円
     内訳
        特用作物普及用    一四、〇四〇円
 第七項 雑給及雑費         六、〇七二円
  第一目 給与               五〇円
   給仕・小使等ノ特別精勤者ヘ慰労トシテ給与スルニ依ル
  第二目 雇員給           二、四四八円
   雇員十六人、一人月俸拾五円ノモノ四人、同上拾弐円ノモノ十二人トシ、此金弐千四百四拾八円
        従来ノ分   十二人  一、七二八円
     雇員
        特用作物普及用 四人    七二〇円
  第三目 傭人料           二、四八九円
   給仕 十人   一人日給拾弐銭    四三九円二〇銭
   小使 二十五人 同弐拾銭     一、八三〇円
   大工         大工一人五拾銭
      等延五百八十六人        二一九円六〇銭
   経師職        経師職一人三拾銭
 - 第23巻 p.571 -ページ画像 
        従来ノ分        二、一九六円
     内訳
        特用作物普及用(小使四人) 二九三円
  第四目 被服費             一九三円
    (一) 給仕靴料一人ニ付三円ツヽ十人分、此金参拾円
    (二) 小使被服一着分、一人ニ付六円五拾銭ツヽ二十五人分、此金百六拾弐円五拾銭
        従来ノ分          一六七円
     内訳
        特用作物普及用(小使四人分) 二六円
  第五目 雑費              九一九円
   雑費ハ宿直賄費・舟車馬類傭賃等重モナルモノナリ
 第八項 試験費          九九、九九二円
        従来ノ分       四三、三九二円
     内訳
        特用作物普及用    五六、六〇〇円
  第一目 器具器械費        一三、〇〇〇円
        従来ノ分       一二、〇〇〇円
     内訳
        特用作物普及用     一、〇〇〇円
  第二目 図書及印刷費        四、五五〇円
        従来ノ分        三、五五〇円
     内訳
        特用作物普及用     一、〇〇〇円
  第三目 原料費           四、一〇〇円
  第四目 給与              一五〇円
   特別精勤ノ農夫・傭夫ヘ慰労トシテ給与スルニ依ル
  第五目 雇員給           五、五二〇円
   試験事業補助トシテ助手二十四人ヲ要ス、一人月俸二十円ノモノ二十人、同拾五円ノモノ四人、此金五千五百弐拾円
        従来ノ分(十五円ノモノ四人)      七二〇円
     内訳
        特用作物普及用(二十円ノモノ二十人)四、八〇〇円
  第六目 傭人料          一一、六三六円
   農夫   四十一人  一人日給三十三銭余
                  此金四千九百九拾五円九拾銭
   傭夫   十一人    同二十九銭余
                  此金千百八拾九円五拾銭
   臨時農夫 壱万七千人  同三十二銭余
                  此金五千四百五拾円
  第七目 試験用雑費        六一、〇三六円
   試験用雑費ノ内依托試験ノ数ハ左ノ如シ
    棉          六百六十ケ所 四十四府県一府県ニ付十五ケ所ツヽ 一ケ所二十円 一三、二〇〇円
    藍          七百二十ケ所 四十八府県一府県ニ付十五ケ所ツヽ 同      一四、四〇〇円
    煙草         七百二十ケ所 同                同      一四、四〇〇円
    大麻、藺其他特用作物 二百四十ケ所 同一府県ニ付五ケ所ツヽ      同       四、八〇〇円
   臨時費            一一八、九四七円
   一、建物新営費         四七、六〇〇円
   一、建物購買費         二一、三四七円
   一、土地購買費         五〇、〇〇〇円
 - 第23巻 p.572 -ページ画像 
 右之通リニ候也
   明治三十一年十月廿日
            農商工高等会議議員 井上甚太郎
     農商工高等会議議長 渋沢栄一殿
    府県農事試験場ヘ国庫補助ノ件ニ付建議
 農事改良ノ基礎ハ宜シク之ヲ試験ノ成蹟ニ徴スヘキハ敢テ贅言ヲ要セス、曩ニ農商務省ハ農事試験場ヲ設ケラレ其成蹟大ニ視ルヘキモノアリ、近年各地之レニ做フテ府県試験場ヲ設ケ地方税支弁ヲ以テ之ヲ維持スルモ地方税ハ年々重キヲ加ヘ之レカ支弁ニ困シ、為メニ既設試験場ノ基礎甚タ固カラサルノ憾アルノミナラス、其設立ノ必要ヲ感スルモ之レカ支弁ニ窮シテ未タ設置ノ期ニ到ラサルモノアリ蓋シ農事ノ性質トシテ急速改良ノ効果ヲ収メ得ヘキニ非ラサレハ農事試験場ノ如キハ其基礎鞏固ニシテ恒久的ノモノタルヘキハ言ヲ俟タサルナリ、是ヲ以テ国庫ヨリ年々一府県ニ付金千五百円合計金六万九千円ノ金額ヲ補助支給シテ既設ノモノハ其基礎ヲ鞏固ニシ、又未設ノ地ニハ之レカ設立ヲ助成セラレンコト希望ニ堪ヘサル所ナリ
   明治三十一年十月廿二日
          農商工高等会議臨時議員 玉利喜造
     農商工高等会議々長 渋沢栄一殿
    水産調査及ヒ練習ニ要スル船舶新営ニ関スル建議
 我帝国環海八千里、漁民ノ数約百余万、水産ノ利極メテ饒シ、故ニ漁業ヲ振興シ国富ヲ増進スルハ国家経済上為スヘキノ要務タリ、然ルニ我国漁業ノ情態旧慣ヲ株守スルニ止マルカ故ニ、一方ニハ当然挙クヘキノ巨利ヲ放抛シテ顧ミス、他ノ一方ニ於テハ濫漁酷捕水族ノ減耗ヲ来スノ弊アリ、真正ノ発達ヲ見ルニ至ラス、故ニ漁場ヲ探撿シテ以テ其拡張ヲ図リ、漁具・漁法ヲ調査シテ以テ漁業ノ進歩ヲ図リ、水族ノ性情ヲ研究シテ以テ其蕃殖ヲ図リ、其他水族ノ分布潮流ノ関係等ヲ調査シテ当業者ニ指示シ、併セテ学識技能ヲ有スル人材ヲ養成シ漁民ノ先導者タラシメサルヘカラス、而シテ以上ノ施設方法ヲ完カラシムルニハ必ラス洋海ノ航行ニ堪ヘ調査練習ニ適スル特種構造ノ汽船及ヒ帆船ヲ設備スルコトヲ要ス、欧米諸国ハ国勢上水族ノ種類本邦ノ如ク饒多ナラス、習慣上魚食ノ関係本邦ノ如ク剴切ナラサルニ係ハラス概ネ数艘ノ調査船ヲ備ヘ、漁場ノ探撿、漁具漁法ノ調査、水族ノ性情・移転等ヲ精査シ、漁利ノ増進ヲ図レリ、然ルニ我政府ハ曩ニ水産調査所及ヒ水産講習所ヲ設ケ且遠洋漁業奨励法ヲ発布スト雖モ、其調査・練習・奨励・指導ニ欠クヘカラサル船舶ナキカ故ニ、到底十分ニ其実効ヲ挙クルコト能ハサルヘシト信ス、依テ迅ニ適当ノ船舶ヲ新営シ我国水産業ノ進歩発達ヲ図ラレンコトヲ希望ス、其経費ヲ概算スルニ別紙ニ記載スル所ノ如シ、其細目ニ至テハ当局者ニ於テ調査施設セラレンコトヲ欲ス、右建議候也
   明治三十一年十月廿日
            農商工高等会議議員 井上甚太郎
     農商工高等会議議長 渋沢栄一殿
 (別紙)
 - 第23巻 p.573 -ページ画像 
      臨時費
 一金四万六千九百五拾円   蒸汽船一艘(百五十噸)
                但端艇及付属品共
 一金一万二千三百七拾九円  帆船一艘(六十噸)
                但端艇及付属品共
  計金五万九千三百二拾九円
      経常費
 一金九千二百六拾円     蒸汽船一艘ニ対スル一年度分
                但俸給・器具・器械品・船員給・傭人料・其他雑費
 一金五千三百二拾三円    帆船一艘ニ対スル一年度分
                但同前
  計金一万四千五百八拾三円
 合計金七万三千九百拾二円
    良種苗ヲ全国ニ配布スルノ建議
 農産ノ増収ヲ得ント欲スルニハ必ス先ツ善良ナル種子苗木ノ普及ヲ謀ラサル可カラス、是ヲ以テ海外文明諸国ニ於テハ年々新種ノ良種苗ヲ栽培シテ農産ノ発達ヲ勉メツヽアルナリ、元来植物ノ種類ハ人為ヲ以テ改良ヲ加フルトキハ年一年ニ改良シ得ルモノナレトモ、之ヲ等閑ニ付センカ啻ニ現時ノ状態ヲ保持シ得サルノミナラス、漸次劣等ニ赴クモノナルカユヘニ、必ス良種苗ノ撰択ヲ要スル所以ナリ然ルニ我邦農家ノ多クハ旧来ノ種苗ノミヲ栽培スルヲ以テ足レリトナシ、亦タ他ニ新種ノ有利ナル良種苗ヲ求ムルモノ尠シ、為ニ農産ノ発達ヲ期スルコト難ク、斯クテハ改良ノ気運ニ到達スルノ期ヲ見ル可ラサルナリ、米国中央政府ニテハ二十余年前ヨリ国庫ノ費用ヲ以テ年々良種苗ヲ上下両院議員其他全国ノ重ナル当業者ニ一定数量ヲ無代価ニ頒布シ、以テ大ニ農産ノ改良発達ヲ致シタリ、我農商務省ニ於テモ数年前ヨリ少量ノ外国種大小麦種子ヲ頒布セシカ、少量ナカラモ相応ノ改良ヲ呈セリ、又旧開拓使ニテハ、前米国農務局長「ケプロン」ノ説ニ依リテ米国ノ良種苗数多ヲ北海全道ニ頒布シタルコトアリシカ、其結果頗ル見ルヘキモノアリシナリ、今ヤ我農産物ハ逐年外国産ト競争ノ度ヲ高ムルノ時ニ当リテ、我中央政府ハ此際国庫ノ費用ヲ以テ各地ニ適スヘキ有益ナル良種苗ヲ撰択シ、無代価ニテ盛ニ全国ニ配布シ、以テ速ニ農産ノ改良発達ヲ促サレンコトヲ望ム、依テ玆ニ建議ス
   明治三十一年十月廿四日
     農商工高等会議々長 渋沢栄一殿
 (右委員会報告)
 農事監察官設置ニ係ル建議、農事試験本支場ノ業務拡張及特用農芸作物ノ奨励ニ係ル建議、府県農事試験場ヘ国庫補助ノ件ニ付建議、水産調査及練習ニ要スル船舶新営ニ関スル建議並ニ良種苗ヲ全国ニ配布スルノ建議ニ付、廿九日委員会相開候処左ノ通リ決議相成候条此段及御報告候也
   明治三十一年十月三十一日   委員長 村田保
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     農商工高等会議々長 渋沢栄一殿
 一農事監察官設立ニ係ル建議
   右全部可決
 一農事試験本支場ノ業務拡張及特用農芸作物ノ奨励ニ係ル建議
   右全部可決
 一府県農事試験場ヘ国庫補助ノ件ニ付建議
   右建議書中金千五百円トアルヲ相当ノ金額ト改メタル外、全部可決
 一水産調査及練習ニ要スル船舶新営ニ関スル建議
   右全部可決
 一良種苗ヲ全国ニ配布スルノ建議
   右全部可決

    蚕業調査会設置ノ建議
 本邦物産中輸出額ノ巨大ヲ占ムルモノ之ヲ生糸ト為ス、故ニ国家経済ノ利害、国力ノ消長モ亦製糸ノ精粗ニ由テ影響ヲ及ホスコトハ衆ノ能ク知ル処ニシテ、今更喋々論ヲ待タス、之ニ因テ官民克ク力ヲ協セ徧ク本業家ヲ奨励シツヽ粗製ノ弊ヲ矯メテ、深切ニ本業ヲ保護スヘキハ実ニ今日ノ急務ナリトス、若シ夫レ斯業家ニ於テ一個上ノ私情ニ傾キ或ハ天理ノ正則ニ悖リ、年内数回ノ養蚕ヲ試ミ自然桑圃ノ衰フルヲモ顧ミス、妄リニ多額ノ繭ヲ収穫スルニ垂涎シテ竟ニ粗製ノ生糸ヲ輸出スルニ至リテハ最モ恐ルヘシ、忽チ海外諸国ノ貿易場ニ孤立シ十方ヨリ非難ノ声ヲ聴クニ至ラン、斯ルトキハ国家百歳ノ長計モ一朝ノ拙策ニ臍ヲ噛ムノ悔ニ陥ラン耶、即チ是レ吾人カ平素ノ観念ニシテ禍ヒヲ防キ嘉福ヲ遠大ニ慮ル所以ナリ、由来自今蚕業調査会ヲ設置シテ愛国心ヲ懐キタル斯業家ヲ本会ニ集メ、以テ斯業ノ改良ヲ謀リ、益々吾国蚕糸業ノ隆盛ヲ海外ニ博シ国利民福ニ供センコト熱望ニ堪ヘス、玆ニ謹テ建議仕候也
   明治卅一年十月廿一日
            農商工高等会議々員 佐野理八
     農商工高等会議々長 渋沢栄一殿
 (右委員会報告)
 蚕業調査会設置ノ建議ニ付委員会相開キ候処、別記ノ通決議相成候条、此段及御報告候也
   明治三十一年十月三十一日   委員長 村田保
     農商工高等会議々長 渋沢栄一殿
(別記)
    蚕糸業ニ係ル諮問会開設ノ義ニ付建議
 本邦輸出中ニ於テ主位ヲ占ムルモノ之ヲ生糸ト為ス、国家経済上ノ利害、国力ノ消長一ニ生糸貿易ノ振否ニ由テ巨大ノ影響ヲ及ホスコト素ヨリ喋々論ヲ待タス、然ルニ翻テ本邦斯業ノ現況ヲ観察スルニ内ハ蚕種弥々雑駁ニ流レ糸縷従テ均一ナラス、飼育ノ方法亦未タ改良ノ域ニ達セスシテ各地違蚕多ク、桑園ノ培養ハ漸クニ欠乏ヲ現ハシテ衰頽ノ甚シキヲ見ル、外ハ精良ノ点ニ於テ伊・仏蚕糸ニ争フ能
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ハス、産額ノ多大ハ以テ清国ニ比スルニ足ラス、且其改良糸ニ於テハ遠ク之ニ及ハサルモノアリ、而シテ海外需用者ノ信用ハ益々失墜シ非難ノ声漸クニ高カラムトス、今ニシテ之カ救済ノ策ヲ講シ斯業百年ノ長計ヲ立ルニアラスムハ、我主脳貿易品タル蚕糸ハ遂ニ全ク海外市場ヲ駆逐セラレ、噬臍尚及フナキノ悔アラムコトヲ恐ル、仍テ農商務省ハ此際特ニ蚕糸業ニ老練ナル者ヲ召集シ、斯業ニ対スル百般ノ事項ニ付諮詢セラレ、之カ調査ニ着手シ以テ其大方針ヲ決定セラレンコトヲ望ム、玆ニ謹テ建議仕候也

           農商工高等会議々員 高橋是清 提出
    株式取引所制度改正ノ儀ニ付建議案
 現今本邦ノ株式取引所ハ株式組織ニシテ会員組織ニアラス、且定期取引ハ三ケ月ノ長期ヲ許セリ、是レ共ニ非ニシテ改正ノ最モ急務タルヲ信スルナリ
 抑々株式取引所ヲ公設スルノ目的ハ、有価証券ノ相場ヲ明確堅固ナラシメテ公衆ノ利益ヲ保護スルニアリ、故ニ取引所ノ取引ハ多少投機的ノ性質ヲ帯フルヲ免レストスルモ、其取引ニ従事スルモノヲシテ濫ニ自己ノ資力ニ超越シテ無謀ノ投機的売買ヲ恣ニスル能ハサラシムルヲ最モ緊要トス、是レ欧米株式取引所ノ第一義トスル所ニシテ、会員組織ヲ必要トシ長期売買ヲ禁制セサルベカラサルノ理由ハ則チ玆ニ存ス、是ヲ以テ倫敦・紐育ノ株式取引所ハ共ニ会員組織ニシテ、倫敦ニ於テハ英国整理公債証書ヲ除クノ外ハ必ス二週間目ニ売買ヲ決算シ、紐育ニ於テハ必ス日日之ヲ決算シ、決シテ長期売買ヲ許サヽルナリ、然ルニ翻テ本邦ノ株式取引所ヲ見ルニ前述ノ如ク株式組織ヲ採用セリ、而シテ既ニ株式組織ナレハ取引高ノ多少・増減ハ株主ノ利害ニ直接ノ関係アルカ故ニ、取引所ハ務メテ取引ノ増加ヲ誘フノ傾向ナシトセス、三ケ月ノ長期売買ヲ許スカ如キ蓋シ主トシテ相場師ノ便益ヲ謀ルノ精神ニ出ツルモノニシテ、随テ相場師ハ僅少ノ差金ヲ以テ鉅万ノ取引ヲ為シ得ルカ故ニ、其思惑取引ニ従事スルヤ自己ノ資力ニ顧ミス適当ノ限度ヲ超越シテ濫売買ニ耽ルヲ免レス、終ニ株式取引所ハ有価証券ノ相場ヲ明確堅固ナラシムルノ目的ヲ達スル能ハス、反テ投機者流ヲシテ数種ノ株券ヲ弄ヒテ輸贏ヲ争ハシムル一種賭博場タルノ観ヲ呈スルニ至ル、是レ誠ニ慨嘆スヘキナリ、故ニ取引所ノ相場ハ激変多クシテ公衆ハ之ヲ標準トシ之ニ信頼スル能ハス、其結果ヤ真正ノ売買ハ取引所内ニ行ハレスシテ却テ取引所外ニ行ハルヽニ至ルナリ、斯ノ如クナレハ取引所アリト雖モ殆ト其効用ナキナリ、且将来自然ノ趨勢ニ任セ外国資本ノ漸次輸入セラルヽノ時運ニ会スルモ株式取引所ノ状態今日ノ如クナランニハ大ニ其輸入ヲ障害スヘシ、故ニ今日ニ於テ取引所ノ制度ヲ改正シ其弊害ヲ匡救シ、欧米ニ於ケルカ如ク真ニ能ク有価証券ノ相場ヲ明確堅固ナラシムルノ目的ヲ達シ、内外人ヲシテ之ニ信頼セシムルハ最モ急務ニシテ、果シテ玆ニ至レハ外国人モ自カラ安ンシテ其資本ヲ本邦ノ有価証券ニ投スルヲ躊躇セサルヘシ、且内地公衆モ有価証券市価ノ堅固ナルヲ認メ、欧米ニ於ケルカ如ク確実ナル有価証券
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ヲ所有スルハ殆ト利付ノ現金ヲ所有スルニ異ラサルニ至レハ、公衆ノ貯金ハ先ツ有価証券ニ投セラレ、其取引所ニ注カレタル貯金ハ更ニ銀行ニ流入スヘキカ故ニ、銀行モ低利ナル貸付資金ヲ得テ大ニ金融ヲ暢通スルノ利益アルヘシ、是レ政府カ欧米ノ制度ニ傚ヒ速ニ我カ株式取引所ノ制度ヲ改正セラレンコトヲ希望スル所以ナリ
 右本会ノ決議ヲ以テ、農商工高等会議規則第弐条ニ拠リ、此段建議仕候也
   明治三十一年十月  農商工高等会議々長 渋沢栄一
     農商務大臣 大石正巳殿
           農商工高等会議々員 高橋是清 提出
    鉄道抵当ニ関スル法律ヲ制定シ、以テ外資ノ輸入ヲ容易ナラシムル儀ニ付建議案
 本邦ノ事業ニシテ外資ヲ輸入スヘキモノハ実ニ鉄道ニ如クハナシ、鉄道ハ初メニ巨額ノ資本ヲ固定セシムルヲ要シ、而シテ永遠ニ利益ヲ生スルモノナレハ、外資ヲ募集シテ起業スルニ最モ適セルモノナリ、而シテ外資ヲ募集スルノ便法ハ抵当付債券ヲ発行スルニアリト雖モ、本邦ノ法律ニ於テハ鉄道布設権ヲ抵当トナスコト能ハス、是レ外資輸入ニ至大ノ妨害ヲ与フルモノナレハ、速ニ法律ヲ制定シテ此妨害ヲ除却セラレンコトヲ希望ス、右法律制定セラレ、鉄道会社ハ其鉄道布設権並ニ動不動ノ財産ヲ抵当トシテ債券ヲ発行シ、若シ鉄道会社其債務ヲ履行スル能ハサル場合ニ於テハ、債権者ハ其抵当ニ取リタル鉄道布設権並ニ動不動ノ財産ヲ引受ケテ自カラ鉄道ヲ布設シ且営業シ得ルコトヽナレハ、外国財主ノ債券募集ニ応スルモノ増加シ、本邦鉄道事業ノ為メニ大ニ資金供給ノ道ヲ開クコトヲ得ヘシ、是レ此建議ヲ呈出スル所以ナリ
 右本会ノ決議ヲ以テ、農商工高等会議所規則第二条ニ拠リ、此段建議仕候也
   明治三十一年十月 農商工高等会議々長 渋沢栄一
     農商務大臣 大石正巳殿
     逓信大臣  林有造殿
 (右委員会報告)
 株式取引所制度改正ノ件並鉄道抵当ニ関スル法律ヲ制定シ、以テ外資ノ輸入ヲ容易ナラシムルノ二建議案ニ対シ、委員会ニ於テハ建議案ノ通孰レモ全部可決候条、此段及報告候也
   明治三十一年十一月二日    委員長 土居通夫
     農商工高等会議議長 渋沢栄一殿

         提出者 農商工高等会議々員 田中源太郎
    金融ヲ円滑ニシ利子ヲ低廉ナラシムルノ法策ニ付建議案
 条約ノ改正、外人ノ雑居ハ期年ノ間ニ迫リ、東洋ニ於ケル商戦ハ愈劇甚ナラントス、然ルニ我実業界ノ状況ヲ見レハ容易ニ其発達ヲ期ス可ラサルノミナラス、其発育ニ際スルモノモ殆ト将ニ斃死セントスルノ悲境ニ瀕ス、此状態ヲ以テ商戦場裡ニ馳駢ヲ試ム、其敗衂予メ知ル可キ而已、此時ニ当リ其斃レントスルモノヲ救済シ其起タン
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トスルモノヲ助長スルノ策二・三ニシテ止マラスト雖モ、資本ヲ充実ニシ利子ヲ低廉ナラシムルハ現下ノ急務ナリ、是レ客年来外資輸入ノ説世上ニ行ハレ、今回農商工高等会議ヘ対シ亦之カ適否ヲ諮詢セラルヽニ至リタル所以ナラン、故ニ本会ハ之カ要否及其方法ニ付意見ヲ答申シタリト雖モ、資本ヲ充実ニシ利子ヲ低廉ナラシムルノ策タル独リ外資輸入ニ止マラス、尚内地ニ於テ施為ス可キノ策則チ保証準備ノ額ヲ増加スルカ如キ、国庫金ノ取扱ヲ改良スルカ如キ最モ経済界ニ緊急必要ナルヘシト信ス、依テ左ニ其企望ヲ開陳ス
 一、兌換銀行券保証準備ノ額ヲ増加スル事
  現行兌換銀行券発行条例ニ依レハ、平時保証準備ノ額ハ八千五百万円ヲ極度トセリ、此額タル日本銀行ニ対スル特典ヲ制限シタルモノヽ如シト雖モ、我国通貨ノ高ハ正貨ノ外此極度ヲ以テ平時ノ使用ヲ充タシ、又危険ノ患ナキ程度ナリト見做セルナラン、然レトモ此標準ヲ以テ能ク今日ノ経済界ヲ制御シ得ルヤ否ヤハ頗ル疑問ニ属ス、蓋シ同条例ハ明治十七年ノ制定ニシテ、当時商工業未タ発達セス従テ資本ノ需用モ多カラス人民ノ生計物品ノ価格亦今日ノ如クナラス、此時ニ於テ正貨ノ発行高ハ一億一千七百余万円諸紙幣発行ノ高ハ一億三千万円内外ニシテ合計二億四千余万円ナリシヲ以テ、市場需用ノ程度ニ適シタルモ、爾来上下共ニ長足ノ進歩ヲ為シ、殊ニ戦勝後一層ノ劇進ヲ促カシタルカ為メ、一時ノ勢ニ乗シ或ハ膨脹ニ過キ又ハ奢侈ニ流レ若クハ投機ニ失シタルモノ之アル可シト雖モ、国運ノ伸暢ニ従ヒ経済界ノ発達ニ従ヒ、資本ノ需用ヲ増加スルハ又自然ノ数ナリ、即チ明治十七年ノ歳出入ハ漸ク八千万円ナリシモノ、今ヤ一躍シテ二億三千余万円ニ昇リ米価ハ一石五円内外ナリシモノ今ヤ拾円以上ニ上リ、当時ノ壱円金貨(現今ノ二円也)ハ壱円三十銭内外ナリシモノ今ヤ二円ノ呼価ニ法定セラルヽニ至リ、輸出入ノ合計ハ漸ク七千万円内外ナリシモノハ今ヤ二億万円以上三億七千万円ニ及フ、実ニ驚ク可キノ変遷ニアラスヤ、加之人口ハ七百万人以上ヲ増加シ、北海道ノ開拓、台湾ノ新領、其他銀行・諸会社ノ増設、一般農商工業ノ改良発達等資本ノ需用頗ル多キ今日ニ於テ、尚且保証準備ハ八千五百万円ニシテ正貨又八千万円内外ナレハ、他ノ紙幣ヲ合スルモ漸ク二億六千万円ニ過キス、且ツヤ信用取引ハ未タ発達セサルノ時ニ当リ、此額ヲ以テ金融ヲ円滑ナラシメントスルカ如キハ不能ノコトニ属ス玆ヲ以テ更ニ兌換銀行券発行条例ヲ改正シ、保証準備ノ額ヲ一億二千万円乃至一億五千万円ニ増加セラレンコトヲ望ム
 一、国庫金ノ取扱ヲ改ムル事
  凡ソ通貨ハ流通運転シテ其妙用ヲ顕ハシ停滞固着スルトキハ全ク其妙用ヲ失ス、反之信用取引発達シ手形ノ流通円滑ナレハ通貨ハ輾転授受ヲ為サスシテ幾百倍ノ用ヲ達スルモノナリ、之ヲ以テ政府夙ニ信用取引ノ発達ヲ企図シ、明治十六・七年ノ頃ヨリ頻ニ之レカ勧誘ヲ勉メラレタルヲ以テ漸次発達シツヽアリト雖モ、却テ政府ハ未タ自ラ改メス依然旧法ヲ固守スルカ如シ、現今我国ノ歳出入ハ二億三・四千万円ニシテ、此巨額ノ費金ヲ取扱フ上ニ於ケ
 - 第23巻 p.578 -ページ画像 
ル必ス現金ヲ以テ納入セシメ一モ手形ヲ用フルヲ許サス、而シテ其納入シタル現金ハ毫モ流通ノ用ニ供セス、之レカ為ニ発行通貨ノ空シク国庫ニ死蔵セラルヽモノ実ニ巨額ニ上レリ、而シテ現ニ国庫金ヲ取扱フモノハ政府監督ノ下ニアル日本銀行ニシテ、各地又相当ノ信用アル銀行ノ成立シアレハ、今適当ノ方法ヲ設ケ納税上ニ手形ヲ用ヒ政費金ノ運用ヲ許シ、又公債利子金ノ如キ或ル期間ヲ限リ国税ニ代用セシムルニ至ラハ、資本ノ欠乏ヲ裨補スルノ益蓋シ尠少ニアラサルヲ信ス
 右本会ノ決議ヲ以テ農商工高等会議規則第二条ニ拠リ此段建議候也
            農商工高等会議々長 渋沢栄一
     大蔵大臣  松田正久殿
     農商務大臣 大石正巳殿
 (右委員会報告)
 金融疏通ノ方策ニ関スル建議ニ付委員会相開候処別紙之通決議候間此段及御報告候也
   明治三十一年十一月二日    委員長 阪谷芳郎
     農商工高等会議々長 渋沢栄一殿
 (別紙)
    金融疏通ノ方策ニ付建議
 金融疏通ノ方策ハ一ニシテ足ラスト雖モ、其施行急ヲ要スルモノニ付、左ニ企望ヲ開陳ス
  第一 日本銀行兌換銀行券保証準備無税発行額制限拡張ノ事
 明治二十三年以降兌換銀行券保証準備無税発行額ハ八千五百万円ヲ限リトセリ、然ルニ同年ト今日トヲ比較スルニ農商工業共ニ大ニ進ミ、外国貿易ノ如キハ凡三倍ノ増進ヲ為シ、通貨ノ需用モ亦増加セサルヲ得ス、然ルニ八千五百万円以外ノ保証準備発行ニハ法律上五分以上ノ課税アリ、之カ為メ自然金利ノ騰貴ヲ促シ金融疏通円満ナラス、抑モ税付兌換券ノ発行ハ金融市場恐慌等非常ノ場合ニ一時許可スルハ可ナルモ、之ヲ市場平穏ノ日ニ常用スルハ金融整理上宜シキヲ得タルモノニアラス、依テ政府ニ於テ兌換銀行券条例ニ改正ヲ加ヘ、保証準備無税発行額ヲ壱億弐千万円ニ増加アランコトヲ望ム
  第二 保証準備無税発行額増加ニ伴フ日本銀行ノ義務ノ事
 保証準備無税発行額増加ニヨリ日本銀行ノ特典ハ増加スルカ故ニ、之ニ対スル義務トシテ同行ニ命シ左ノ事項ヲ施行セシメラレンコトヲ望ム
  一海外貿易ハ外国低利ノ資本ト競争セサルヲ得サルカ故ニ、外国為替手形ノ割引ニ低利ヲ以テ一層力ヲ用ヒ貿易ノ発達ヲ図ラシムルコト
  一内地商工業枢要ノ地ニシテ未タ日本銀行支店・出張所ノ設ナキ場所ニ漸次之ヲ開設シ、普通銀行ニ対スル高等金融ノ便宜ヲ開カシムルコト
  一日本銀行本支店・出張所間ノ内地送金ハ無手数料ニテ取扱ハシムルコト
  一内地商業手形ノ割引ニ一層力ヲ用ヒ、対人信用ノ発達ヲ力メシ
 - 第23巻 p.579 -ページ画像 
ムルコト
  一保証準備ノ有価証券ハ、漸次外国市場ニ於テ自由ニ売買シ得ルモノニ改ムルノ方針ヲ執ラシムルコト
  一各種貨紙幣、就中補助貨幣ノ流通地方ニヨリ往々適度ヲ失シ、取引上不便ヲ感スル場合ニ於テ進テ之ヲ矯正スルノ方法ヲ執ラシムルコト
  第三 国庫ノ納払及保証ニ銀行カ義務ヲ有スル小切手及預金手形ヲ使用スルノ途ヲ開ク事
 国庫金ノ取扱上、国庫ニ差支ナキ限リ納払上ナルヘク便宜ノ方法ヲ設クルハ金融疏通上最モ必要アリ、依テ確実ナル銀行カ義務ヲ有スル小切手ヲ使用スルカ如キハ何等ノ差支ヲ見サルナリ、又政府ニ於テ会計法其他ノ規則ニヨリ徴セラルヽ身元保証金・入札保証金等ノ如キ、従来多クハ現金又ハ公債証書ニ限ラレタルカ、差支ナキ限リハ確実ナル銀行ノ預金手形ヲモ使用スル等、ナルヘク銀行ノ信用ヲ利用スルノ方法ヲ開カンコトヲ望ム
 右本会議ノ決議ヲ以テ、農商工高等会議規則第二条ニ拠リ此段建議仕候也
   明治三十一年十一月二日
            農商工高等会議々長 渋沢栄一
     農商務大臣 大石正巳殿

    第五回内国勧業博覧会ニ於テ水産部ヲ万国博覧会ノ組織トスルノ建議
 水産事業ハ近時欧米諸国ニ於テ漸ク注目スル所トナリ、殊ニ魚肉ヲ貴重シ随テ其事業ニ重キヲ措クニ至レルハ、欧洲諸国ニ於テ特ニ屡屡万国水産博覧会ヲ開設スルヲ以テ之ヲ徴スヘシ、彼独逸・英吉利ノ如キハ水産ノ利我邦ノ如ク多大ナラサルニ拘ハラス、独逸ハ明治十三年ニ万国水産博覧会ヲ首都伯林ニ開キ、英吉利ハ十五年ニ万国水産博覧会ヲ首都倫敦ニ開ケルカ如キハ、即チ水産ノ事業ヲ振興セントスルニ汲々タルヲ見ルヘシ、而シテ水産物ハ我海国ノ特産ニシテ宇内列国ノ斉シク瞻望スル所ナルコトハ、独逸ノ博覧会並本年那威ベルゲン市開設ノ万国水産博覧会等ニ於テ、欧米人ノ本邦出品ヲ歓迎シタルハ亦其例証ト謂フヘシ、故ニ第五回内国勧業博覧会ニ於テ水産部出品ヲ以テ万国博覧会ノ組織トナストキハ、我海国天賦ノ利ヲ万国ニ示シテ其販路ヲ拡ムルト同時ニ、賛同諸外国ノ水産上ニ於ケル学術智識ヲ輸入シ、大ニ我海国ノ利源ヲ開クコトヲ得ヘシ
 本件ニ関シテハ客年神戸市ニ開設シタル第二回水産博覧会ニ於ケル大日本水産会ニ於テ首唱スルモノアリテ本年四月ノ同会大会ニ於テ之カ開設ヲ主務省ヘ建議セルアリ、故ニ第五回内国勧業博覧会ニ於テハ水産部ノ出品ニ就テ特ニ万国ノ賛同ヲ求メラレンコトヲ企望ス
 右農商工高等会議規則ニ依リ及建議候也
   明治三十一年十月廿日
          農商工高等会議臨時議員 田中芳男
          同           村田保
 - 第23巻 p.580 -ページ画像 
     農商工高等会議議長 渋沢栄一殿

             農商工高等会議々員 井上甚太郎
         提出者
             同臨時議員     横井時敬
    礦肥調査所設置ニ関スル建議
 農産ノ増殖ヲ計ラントスルニ当リ、邦内ニ於ケル肥料ノ産否如何ハ其成否ニ重大ノ関係ヲ有ス、殊ニ燐肥ハ本邦農業上最モ肝要トスル肥料ナルニ拘ハラス、其供給乏シクシテ輸入益々盛ナラントス、故ニ先ツ此肥料ノ産原ニ付調査探撿ヲ遂クルハ目下緊急ノ要務ナリトス、依テ本会議ハ、政府カ従来ノ如ク土性調査ノ傍ラ之レヲ施行スル如キ等閑ニ附セス、更ニ礦肥調査ノ機関ヲ特設シ着々実功ヲ挙ケラレンコトヲ切望ス
 右本会議ノ決議ニ依リ及建議候也
   明治三十一年 月 日
            農商工高等会議議長 渋沢栄一
     農商務大臣 大石正巳殿

         農商工高等会議臨時議員 金井延 提出
    工場法案ヲ労力者ニ諮問スル義ニ付建議案
 今回本会ニ提出サレタル工場法案ノ目的トスル所ハ、同法制定理由書ニモ明カナルカ如ク一面以テ工業者ノ為ニ其事業経営ノ確実整正ヲ図リ、一面以テ労力ノ強健風儀ノ保持ヲ企テ、以テ工業ノ進歩ト其一大要素タル労力者ノ保護トヲ図ルニ在リ、故ニ之ニ利害ノ関係ヲ有スルハ資本家・企業家ト職工・労力者トノ二者ナリ、然ラハ則チ此法案ノ利害得失ヲ詳ニセムト欲セハ、両者ノ之ニ対スル意見ヲ合セ徴スルヲ以テ公平ノ所置ト為スヤ明々白々タリ、而ルニ当局者ハ曩ニ全国商業会議所ノ意見ヲ徴シテ、今又本会議ノ議ヲ求ムト雖モ、是レ或ハ裁判官カ原告弁論ノミヲ聴キ被告ノ答弁ヲ求メスシテ判決ヲ下スノ類タラサルナキヲ得ンヤ、何トナレハ商業会議所ハ利害関係者ノ一方タル資本家ト企業家トノミヲ以テ成リ、本会議ノ如キモ議員中多少利害関係ノ外ニ超然タルモノナキニシモアラスト雖モ、多クハ資本家・企業家ヨリ成リ、労力者ノ代表者ハ殆ト一人モ之アルコトナシ、故ニ商業会議所ト本会議トノ意見ノミヲ徴シテ、労力者ノ意見ヲ聴カサルハ公平ノ所置ト謂フヲ得サル可シ
 現今吾邦ニ東京工業協会・鉄工組合・労働組合期成会等ノ如キ歩武整々秩序ノ十分立テル労力者ノ団体存在スルハ、之ニ諮問ヲ為スニ於テ毫モ不便ヲ感スルコトナシ、況ヤ未タ此等ノ団体ニ属セサル職工・労力者ノ意向ト雖モ、当局者ニシテ適当ノ方法ヲ講シテ諮問セハ之ヲ窺知スル事決シテ為シ難キニアラサルニ於テオヤ、然ルニ之ヲ為サスシテ、主トシテ利害関係者ノ一方ヨリ成立スル会議ノ意見ノミヲ参考トシテ、吾邦ノ社会政策的立法ノ第一タル工場法ニ対スル方針ヲ決定スルハ、恐ク其当ヲ得タルノ所置ト謂フヲ得サルヘシ是レ此方案ヲ労力者ニモ諮問スルコトヲ必要トスル所以ナリ