デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治25年11月4日（1892年）

是日栄一、当委員会ニ出席シ、甲武鉄道路線新宿ヨリ神田三崎町迄延線ノ件ニ付キ内務大臣ヘ復申
 - 第28巻 p.192 -ページ画像 
案ニ関スル議事ニ与ル。

東京市区改正委員会議事録　　第五巻・第六七―七〇丁
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（東京府文庫所蔵）
東京市区改正委員会議事録第八十七号
　　明治二十五年十一月四日午前十時十六分開議
　　　　闕席　大森鐘一　○外十三名氏名略
　　　　出席十六員（三十一番・三十二番ハ召集セス、原竜太番外席ニ着ク）
○委員長曰　甲武鉄道会社線路新宿ヨリ神田三崎町迄延線ノ件ニ付、内務大臣ヘ復申案ノ議事ヲ開ク、但条件ハ一項毎ニ議決スルコトニ為スヘシ
　　　書記朗読
　　甲武鉄道会社線路新宿ヨリ神田三崎町迄延線ノ件、本会ニ於テ反復審議ヲ遂ケ、会社ニ於テ左ノ条件ヲ承諾シタル上ハ異存無之コトニ議決致候
　　　一市区改正ノ道路等ニ関係スル場所ハ、他日市区改正起工ノ場合ニ際シ支障アルトキハ、該会社ノ自費ヲ以テ改築シ、改正事業ノ障害トナラサル様東京市参事会ト予約スヘキ事
　　　一牛込門外ノ線路ハ市区改正ノ設計道路ヲ踏切リ、交通上妨害ノ虞アルヲ以テ軌道布設ノ位置ヲ変更セシムル事
　　　　但其変更ニ関シテハ東京市参事会ニ協議ヲ要スヘキモノトス
　　　一四ツ谷門ヨリ市ケ谷門ニ至ルノ間土堤ノ突出セル箇所ノ堀割ハ之ヲ隧道ニ改メシムル事
　　　一堤上ノ樹木ハ伐採セサル様注意ヲ要スヘキハ勿論、飯田橋ヨリ小石川橋ニ至ルノ間ハ特ニ之ヲ存置スル為メ、軌道ヲ移設スヘキ事
　　右復申候也
○十九番銀林曰　前会ノ決議ニ依リ、復申案ハ幹事ニ於テ調ルコトニナリ、只今朗読アリシ如ク起草セシカ、飯田橋ヨリ小石川橋ニ至ルノ間堤上ノ樹木ヲ伐採セシメサル様ニセハ、更ニ線路ヲ改正スルノ場合ヲ生シ、愈改正セハ猶更多数ノ樹木ヲ伐採スルノ恐アルノミナラス、一層美観ヲ損スルノ虞アル趣、該会社ヨリ委員長迄申出タリ依テ東京府庁ニ於テモ実地調査セシメタルニ、新線路ニ比シ旧線路ノ方伐採スヘキ樹木差引十二本程多シト雖トモ、風致ノ点ニ至リテハ新線路ノ方却テ害アルモノヽ如シ、故ニ前会ノ決議ヲ取消シ、更ニ右末項ヲ左ノ通改正シタシ
　　一堤上ノ樹木ハ可成伐採セサル様注意ヲ加ヘ、止ムヲ得ス伐採シタル場合ニ於テハ、線路ノ妨ナキ場合ニハ松樹ヲ植ヘ、風致ヲ損セサル様致スヘキ事
　尚堤上工事ハ成ルヘク美観ヲ損セヌ様注意ヲ要スルヲ以テ、左ノ一項ヲ追加シタシ
　　一濠内塁上ノ工事ハ市ノ美観ヲ損セサル様注意スヘキ事
○七番松田曰　初メ内務大臣ノ諮問ニ、神田三崎町トアリシカ、実地ヲ踏査セシ処ニテハ三崎町ニハ関係セス、鉄道線路ハ全ク飯田町ニ
 - 第28巻 p.193 -ページ画像 
止メアルニ、新聞等ニモ三崎町迄云々トアリシヲ以テ疑ヲ抱キ居リシカ、是ハ其設計ヲ改正セシ為メ斯クナリシナラハ、実地ノ如ク飯田町迄ト改メテハ如何、又十九番ハ会社ヨリ委員長マテ云々申出タリト述ヘラレタルカ、或ハ該会社ニ於テ新設計ニセハ多額ノ費用ヲ要スルユエ、旧設計ニ為シタシトノコトニハ非サルヤ、将タ費用ノ点ニハ関セス只成シ得ヘカラサル理由ノ存スルヲ以テナリヤ
○委員長曰　内務大臣ノ諮問ニハ三崎町迄トアリシカ、其後設計ヲ変更セシニヨリ飯田町ニナリシナリ
○十九番銀林曰　多額ノ費用ヲ要スルヲ以テノ謂ニハアラス、新設計ニセハ牛込ヨリ土堤ヲ切抜カサルヲ得ス、殊ニ高低一様ナラサル上屈曲モ亦急トナリ、無理ナル線路トナルヘキヲ以テナリ
○二十五番芳野曰　三崎町迄トアレトモ事実飯田町ナレハ、七番ノ説ノ如ク更正スル方可ナラン
○委員長曰　設計ヲ変更セシニヨリ、神田三崎町迄トアルヲ麹町区飯田町迄ト更正スル七番ノ説ニ同意者ハ起立アレ
　　総起立
　又曰　全会一致ナルヲ以テ右ニ決ス
　　　書記（復申案第一項）朗読
　又曰　異議ナキニ由リ原案ニ決ス
　　　書記（復申案第二項）朗読
　又曰　異議ナキニ由リ原案ニ決ス
　　　書記（復申案第三項）朗読
　又曰　異議ナキニ由リ原案ニ決ス、而シテ次項以下ハ十九番ヨリ提出セシ改正案ニ由リテ議スルコトヽスヘシ
　　　書記朗読
　　一堤上ノ樹木ハ可成伐採セサル様注意ヲ加ヘ、止ムヲ得ス伐採シタル場合ニ於テハ、線路ノ妨ナキ場合ニハ松樹ヲ植ヘ、風致ヲ損セサル様致スヘキ事
○二十七番渋沢曰　本項ノ修正案ニ、止ムヲ得ストアル以下ヲ「伐採スル場合ニ於テハ東京市参事会ニ協議シ、線路ノ妨ナキ場所ニハ樹木ヲ植ヘ、風致ヲ損セサル様致スヘキ事」ト修正シタシ
○五番白石曰　漫ニ堤上ノ樹木云々トセハ、何レノ場所ニテモ伐ルヘカラストスルモノヽ如シ、故ニ小石川橋ヨリ飯田橋迄ノ間ト明記シテハ如何
○二十五番芳野曰　成ルヘク伐採云々ノ文字ハ削リ、牛込橋ヨリ小石川橋ニ至ルノ間ト修正シ、其以下ハ二十七番ノ説ヲ賛成ス
○七番松田曰　二十七番ノ説ヲ賛成ス
○委員長曰　止ムヲ得ストアル以下ヲ修正スル二十七番ノ説ニ同意者ハ起立アレ
　　起立十二名
　又曰　多数ナルヲ以テ右ニ決ス
　　　書記朗読
　　一濠内塁上ノ工事ハ市ノ美観ヲ損セサル様注意スヘキ事
○十九番銀林曰　前文ニ堤上トアリテ、本項ニ塁上トセシハ二様ノ嫌
 - 第28巻 p.194 -ページ画像 
ヒナキヲ得サレハ、一様ニ改メタシ
○二十五番芳野曰　市ノ字ヲ削除シタシ
○二十七番渋沢曰　美観ト云ヘハ何ニカ金銀ニテモ鏤メル様ノ嫌ヒアレハ、別段本項ヲ置クノ必要ナカルヘシ、故ニ削除シタシ
○九番田坂曰　前項ニ風致ヲ損セサル様云々トノ明文アレハ、夫レニテ充分尽セリ、故ニ二十七番ノ説ヲ賛成ス
○委員長曰　末項ヲ削除スル二十七番ノ説ニ同意者ハ起立アレ
　　総起立
　又曰　全会一致ナルヲ以テ右ニ決シ、是ニテ確定ス、依テ直チニ内務大臣ヘ復申スヘシ　○下略