デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治26年6月（1893年）

是ヨリ先、桓武天皇平安遷都千百年記念祭ノ事業ヲ賛助セン為メ平安遷都千百年紀念祭協賛会設立セラル。是月栄一、当協賛会特別会員並ニ幹事ヲ嘱託セラレ、会計ヲ担任シ、明治二十九年解散ニ至ル迄尽力ス。

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青淵先生六十年史　竜門社編　　第二巻・第五七〇―五八二頁　明治三三年二月刊
　○第五十八章　公益及公共事業
　　　　第四節　平安遷都紀念祭協賛会
明治二十八年第四回内国勧業博覧会ノ挙アラントスルヤ、京都市民ハ同年ハ恰モ桓武天皇都ヲ平安ニ定メテヨリ千百年ニ当レルヲ以テ、同市ニ於テ遷都紀念祭ヲ挙行シ大ニ同市ノ繁盛ヲ図リ、併セテ国光ヲ万国ニ示サント欲シ、博覧会開設ノ場所ヲ京都ト定メンコトヲ願ヘリ、帝国議会及政府モ其議ヲ可トシ、終ニ博覧会ハ京都ニ於テ開設スルコトヽナレリ
明治二十六年八月十一日青淵先生ハ第四回内国勧業博覧会評議員ヲ仰付ケラル、是ヨリ先キ先生ハ以為ラク、博覧会ハ内国ハ勿論、外国ヨリ最モ多数ノ見物人ヲ集メ広ク智識ヲ交換シ実業ヲ奨励スルノ具ニ供スルモノニシテ、最モ多数人ノ集合宿泊ニ便ナル場所ヲ選ハサルヘカラス、其場所タル東京ヲ除キ他ニアルヘカラス、依テ京都ニ於テ開設スルノ議ニ反対シ、同志ト計リ東京商業会議所ヨリ政府ニ建議スル所アリシモ、終ニ容ルヽ所トナラサリキ
　　　　　　内国勧業博覧会開設地ノ義ニ付建議
　内国勧業博覧会ノ開設地ハ、東京ヲ措テ他ニ適当ノ地位ヲ覓ム可ラサルコトハ、本会議所ノ固信スル所ナルニ、今ヤ本会議所ハ政府ニ於テ来明治二十八年ヲ期シ第四回内国勧業博覧会ヲ京都ニ開設スルニ内定セラレタルノ事実ヲ確知シタルヲ以テ、敢テ左ニ意見ヲ開陳シテ閣下ノ採択ヲ請ハントス
　蓋シ此ノ博覧会タル、其最大主眼ハ名称ニ於テ顕著ナルカ如ク内国ノ勧業ニ在リ、即チ我日本全国ノ為メニ其殖産製作工芸技術ノ諸業ヲ奨励スルニ在リ、此ノ主眼ハ第一回開設ノ当初ヨリシテ今日ニ至ルマテ、確固トシテ変動ナキハ本会議所ニ於テ確信スル所ナリトス果シテ然ラハ政府ハ明治十年始メテ之ヲ開設シテヨリ既ニ三回、皆之ヲ東京ニ於テセラレタルノ今日ニ至リ、勧業上何ノ必要アリテ此ノ主眼ニ最モ適当ナル東京ヲ措テ他ノ不適当ナル地位ヲ覓メテ開設セント欲セラルヽヤ、是本会議所ノ私ニ其理由ニ惑フ所ナリ
　夫レ内国勧業博覧会ハ日本全国ノ事ナリ、一都会一地方ノ事ニ非サルナリ、苟クモ出品ヲ蒐集シ来覧ヲ招致スルニ最屈竟ノ地位アラハ五畿八道八十余国何レノ市邑タルト何ノ島嶼タルトニ論ナク、直ニ
 - 第28巻 p.642 -ページ画像 
其地ヲ選定シ以テ勧業博覧会開設地トナス可キナリ、此ノ際素ヨリ其地方ニ好悪愛憎ノ念ヲ挟ム所ナク、又随テ山水ノ秀凡ト風景ノ優劣トヲ問フニ暇ナカル可キナリ、然ルニ此ノ最屈竟ノ地位、最適当ノ地位ハ、東京ヲ外ニシテ他ニ之ニ勝ルノ地ナキヲ以テ、第一回ノ始メヨリ勧業ノ主眼ニ於テ常ニ之ヲ東京ニ開設シ、爾来数回ノ実験ヲ以テ益々其然ルヲ確知シタルニ非ラスヤ、実際ノ情勢ハ寔ニ斯ノ如クナルニ、忽然今日ニ至リテ此ノ主眼ニ最適当・最屈竟ナル地ヲ棄テ之ヲ他ニ覓ムルハ、右ノ目的ニ於テ更ニ東京ニ勝ルノ事実ヲ発見セラルヽカ故ナル乎、抑亦勧業ノ主眼ヲ今日ニ変更セラルヽカ故ナル乎
　勧業博覧会ノ開設地ハ東京ヲ措テ他ニ適当ノ地位ヲ覓ム可ラサルノ理由ハ、極メテ簡明ニシテ敢テ呶々ヲ要セサルカ如シト雖モ、目下世説囂々ノ際或ハ其得失ニ惑フ者ナキヲ保セス、故ニ本会議所ハ左ニ最モ見易キ理由二三ヲ記シテ、聊カ之ヲ陳弁セントス
　勧業博覧会ノ主眼タル、物産ヲ勧奨シテ其販路ヲ拡張スルニ外ナラス、故ニ此ノ目的ヲ達センニハ交通ニ運搬ニ最モ便ナルノ地ヲ選定セサル可ラス、而シテ此ノ点ニ関シテ試ニ東京ヲ将テ全国中他ノ各要市ニ比較センニ、其人口戸数ハ言ヲ俟タス、鉄道ノ利ト云ヒ、海運ノ便ト云ヒ、近国ニ碁布スルノ諸要市ト云ヒ、外国貿易ノ開港場ト云ヒ、之ヲ統計ニ徴スル迄モナク、固ヨリ同日ノ論ニアラサルナリ、但シ京都若クハ大阪ノ如キハ東京ニ次クノ大市ニシテ多少其便宜ヲ有セサルニアラサルモ、悪ソ能ク東京ノ集メテ之ヲ大成スルカ如クナルヲ得ンヤ、此ノ点ニ関シテハ本会議所ノ陳弁ヲ俟タスシテ当局者カ夙ニ其優劣便否ヲ十分明知セラルヽ所ナリト信スルナリ
　博覧会ニ必要ナルハ来覧者ノ便否如何ニアリ、然ルニ東京ハ帝都輦轂ノ下タリ、政治ノ中央タリ、商業ノ中心タリ、学術技芸ノ淵叢タリ、発明新創ノ集点タルヲ以テ、東西ヨリ南北ヨリ来往スル者平日ニ於テモ絡繹織ルカ如クニシテ、他ノ地方ノ企及スル所ニアラス、故ニ博覧会ノ開設ニ当リテハ特ニ観覧ノ為ノミニ来ルニアラスシテ之ヲ覧ルノ便ヲ得ル者其多数ニ居ル、況ンヤ特ニ四方ヨリ来観スル者ト雖モ東京ハ概ネ他ノ所用ヲ兼ネテ来ルノ地タルニ於テヲヤ、是博覧会衆庶来観ノ多キハ特ニ東京ニ在ル所以ニシテ、他ノ地方ニ在リテハ即チ此ノ利ヲ外ニスルノ不幸ヲ免レサルヤ照然タリ、且夫レ此ノ博覧会ハ主眼内国勧業ニ在リト雖モ、販路ノ拡張ニ就テハ豈外国ニ望ヲ属スル所ナカランヤ、而シテ外人来観ノ便宜ニシテ衆多ナル、東京ノ右ニ出ツルノ地ナシ、然ルニ之ヲ措テ他ノ地方ニ開設セハ、此ノ点ニ於テ目的ヲ失ハンコト顕然タリ、是即チ開設ノ目的ヲ失フモノト云フモ可ナラン
　博覧会ニ必要ナルハ審査ノ便宜如何ニアリ、此ノ便宜ハ特ニ東京ニ於テ具備円満ヲ見ル所ナリ、蓋シ勧業ノ主眼タル、物産奨励ノ方法ハ審査ノ精疎巧拙ニ関シテ進止往駐ノ結果アル事理勢ノ然ラシムル所ナレハ、当局者ノ最モ注意スヘキハ審査ニ其人ヲ得テ以テ奨励ノ実ヲ挙クルニ在リ、然ルニ此ノ審査ニハ啻ニ学芸暁通ノ人ノミニアラス、殖産若クハ製作ノ実地ヲ熟知シ、及其需用ト販売ノ方向ニ明
 - 第28巻 p.643 -ページ画像 
カナルノ人ヲ得テ、相共ニ相待チテ審査ノ効ヲ全フスルヲ要スヘキニ、奈何セン此ノ人々ハ概ネ東京ニ常住スルノ人ニシテ、之ヲ他ノ地方ニ求メンハ最モ至難ノ事ナリトス、其中ニ就テ官吏ハ之ヲ派出セシムルヲ得ルモ、在官ニ在ラサル審査委員ハ其常職アルヲ以テ、政府ノ命ト雖モ強テ之ヲ派出セシムル事能ハサルヘシ、於是乎博覧会ハ之ヲ東京ニ於テスレハ其精確覈明ヲ得ルモ之ヲ他ノ地方ニ於テスレハ鹵莾ニ流ルヽノ患ヒアルハ必然ナリ、其得失果シテ如何ソヤ博覧会ヲ開設スルニ付テ、予メ当局者ノ工夫ヲ要スルハ、其残品ノ処分ナリトス、現ニ第三回ノ如キ政府ハ若干ノ補助ヲ此ノ処分ニ与ヘラレタルニ拘ハラス、出品者ハ猶其処分ニ苦ミタルノ結果ヲ見シニアラスヤ、東京ニ於テ猶且然リ、況ヤ他ノ地方ニ於テオヤ、去レハ第四回ノ開設ニ臨ミテハ頗ル此ニ注意シ、一方ニ向テハ出品ノ夥多ナルヲ勧誘スルト共ニ、一方ニ向テハ其残品ノ処分宜ヲ得ルノ方法ヲ講シ、以テ前後ノ計ヲ立ツルコト緊要ナリ、而シテ之レヲ為スニハ東京ヲ除キ他ニ其地ノアラサルヤ顕然タルニ、今ヤ博覧会ヲ他ノ地方ニ開設セハ、此ノ残品処分ノ善後方法ハ決シテ其立計ヲ期スルヲ得サルヘシ、然ルトキハ出品者ハ益々之ニ懲リテ、遂ニ第五回ヲ開設スルニ至リテハ其隆盛ヲ予卜スルコト能ハサルノ不幸アルヘシ、此ノ如キモ尚ホ第四回内国博覧会ハ之ヲ東京ニ開設セサルモ可ナリトスル乎
　説ク者ハ曰ク、他ノ地方中京都ノ如キハ之ヲ東京ニ比較スレハ山水秀麗ナリ、風景佳絶ナリ、加フルニ千載ノ帝都タリシヲ以テ、寺院堂宇ノ建築ノ如キ、史学美術ノ参考ノ如キ、大ニ之ニ富メルカ故ニ来覧者ノ為ニハ博覧会ニ附帯スルノ便益アリ快楽アルコト東京ニ勝ルノ要点ナリト、此ノ説タル博覧会以外ノ事タリ、勧業博覧会ヲ開設スル主眼ノ要点ニ非サルナリ、既ニ開陳シタル如ク此ノ博覧会ノ最大主眼ハ唯々一ニ勧業ニ在ルノミ、山水・風景・名所・旧蹟等ノ有無ハ決シテ主眼ニ非ラサルナリ、苟モ勧業ノ主眼ニ適当スルノ第一位タラハ、一ノ山水名勝ナキモ之ニ選定スヘク、又苟モ此ノ主眼ニ適当ナラスンハ千万ノ名勝アルモ之ニ選定ス可カラサルハ勿論ナリトス、然ルヲ斯ル主眼外ノ事ニ心ヲ動カシテ内国勧業ノ必要ヲ第二ニ措クコトアラハ、殖産製作ヲ勧奨シテ国家ノ進運ヲ計ルノ長計ハ、之カ為ニ䠖跙駐遏スルノ悪果ニ陥ランコトヲ恐ルヽナリ、是豈ニ当局者カ顧ミサル所ナランヤ、故ニ本会議所ハ是ノ如キ浮躁ノ説ハ決シテ政府ノ議ニ非サルヲ確信スル者ナリ、畢竟此ノ説アルモノハ蓋シ博覧会ヲ将テ之ヲ博物館ト混同一視スル誤謬ニ出ツルノミ、彼博物館ハ百般ノ学科・芸術・製作・技能ニ必要ナル事物ヲ古今ニ渉リテ蒐集シ、其智能ヲ養成スルノ目的ナルカ故ニ、専ラ既往ノ事物ヲ保存スルニ在リ、博覧会ハ之ニ反シテ百般ノ殖産・製作・技術学芸ヲ勧奨シテ、以テ国家経済ノ進歩ヲ計ルノ目的ナルカ故ニ、専ラ現在ノ事物ヲ奨励シテ前途ヲ属望スルニ在リ、之ヲ如何ソ勧業博覧会ヲシテ此ノ主要目的ヲ棄テ、他ノ博物館ト同地位ニ立タシメ、以テ其勧業ノ主眼ヲ達セシムルヲ得ンヤ
　爾ノミナラス第四回勧業博覧会ヲ開設スルカ為ニ之ニ要スルノ場所
 - 第28巻 p.644 -ページ画像 
如何ヲ視ルニ、東京ニハ上野公園地ノ之ニ恰応スル所アリト雖モ、他ノ地方ニ於テハ決シテ是ノ如キ広廓ノ所ナキヲ知ルナリ、或ハ云ク、現ニ京都ノ如キ今般政府カ博覧会ヲ該地ニ開設スルニ内定セラルヽヤ、市民ハ奮テ其市費ヲ支出シテ博覧会開設ニ恰応ノ場所ヲ設ケ、之ヲ其用ニ供スルノ議アリ、故ニ政府ハ之ヲ京都ニ開設スルモ之カ為メ別ニ費額ヲ加フル所ナシト、是全ク国家経済ノ理ヲ知ラサルノ説ナリ、仮令京都ニ於テ博覧会開設ノ場所ヲ設クルニ当リ、其市費ヲ以テシテ国費ヲ以テセサルモ、市費・国費均シク是国家ノ費用ニアラスヤ、異ナル処ハ僅カニ其負担ノ区域ト支出ノ方途トニ在ルノミ、然ルヲ京都市民カ其市費ヲ以テ場所ヲ設クレハ可ナリトシテ之ヲ思ハサルハ、決シテ当局者カ国家経済ノ観念ヨリシテ、発露スヘキノ允許ニ非ラサルカ故ニ、本会議所ハ是ノ如キ浅薄ノ説ハ決シテ政府ノ議ニ非サルヲ信スルナリ
　或ハ云ク、明治二十八年ハ　桓武天皇平安定鼎ノ一千百年ニ該当スルヲ以テ其紀念祝祭ヲ兼ネテ以テ第四回内国勧業博覧会ヲ京都ニ開設スヘシ、現ニ米国ノ如キ独立百年祭ノ為ニ博覧会ヲ「ヒラデルヒヤ」ニ開設シ又米国創見四百年祭ノ為ニ現ニ博覧会ヲ「シガコ」ニ開設セントス、是傚フヘキノ適例ナリト、是亦祭典ヲ将テ之ヲ勧業ト混同一視スルノ誤謬ナリトス、彼ノ米国博覧会ハ祭典博覧会ナリ勧業博覧会ニ非サルナリ、彼ノ国民ハ其最大紀念タル祭典ヲ行ハントストニ当リ、何ヲ以テ其祭儀ニ充テン乎ト思惟シ、博覧会開設ノ国民ヲ益スルハ逈ニ煙火・奏楽・舞踏・酒宴ニ勝ルコト万々ナルヲ信シテ博覧会ヲ開設スルニ議決シ、以テ其挙ニ及ヒタルモノナラン既ニ其主眼祭典ニ在リテ勧業ニアラサルニヨリ、其地ノ選定モ亦随テ其趣ヲ殊ニスルモノナリ、今ヤ我国ノ博覧会ハ勧業博覧会ナリ、祭典博覧会ニ非ラサルナリ、故ニ祭典ノ為メニ之ヲ利用シテ以テ勧業ノ最大主眼ニ隔離セシメンハ、決シテ当局者カ応允セラルヘキ所ニ非ストス、若シ果シテ京都ニ於テ定都一千百年祭ヲ行ハンカ為ニ紀念祭典博覧会ヲ臨時ニ開クヘシト云ハヽ即チ可ナリ、奈良市民カ大和奠都二千五百五十二年祭ノ為ニ、大津市民カ滋賀遷都一千二百二十五年祭ノ為ニ、紀念祭典博覧会ヲ橿原ニ大津ニ開クヘシト云ハハ、亦即チ可ナリ、本会議所ハ其市民カ　皇恩ヲ感戴シテ往古ノ　聖沢ヲ銘肝スルノ厚ヲ喜ヒテ共ニ之ヲ協賛シ、併テ政府カ適応ノ保護ヲ与ヘラレン事ヲ冀望スヘキナリ、然レトモ勧業ノ主眼ハ祭典ニ同シカラサルヲ以テ、臨時祭典博覧会ニ代フルニ此ノ勧業博覧会ヲ以テス可シト云フニ至リテハ、何等ノ事情アリトモ其主眼ニ背馳スルニ由リ決シテ是ヲ可トセサル者ナリ、何トナレハ即チ斯ノ如ク他ノ目的ニ利用シテ両功ヲ併収セント欲スル時ハ、両功倶ニ挙ラサルコト往々事物上ノ実験ニ明カニシテ僥倖其一功ヲ収メ得ルモ他ノ一功ハ必ラス為ニ烏有ニ帰スルコト其常観タルカ故ニ、祭典ノ為メニ勧業ノ主眼其功ヲ失フハ炳焉タルヲ恐ルレハナリ、要スルニ博覧会ヲ云フ者或ハ其一地方ノ観念ニ執着シテ以テ博覧会ヲ利用シテ其他ノ衰態ヲ一時救済スヘシト議シ、或ハ之ヲ仮用シテ新創ノ利源ヲ捜索スヘシト説キ、一挙シテ両功三利倶ニ収ム可キヲ言フト雖モ、之
 - 第28巻 p.645 -ページ画像 
ヲ極論スレハ岐路ニ走リテ皆勧業ノ大道ヲ忘ルヽニ過キサルカ故ニ本会議所ハ政府カ第一回開設ノ当初ニ於テ国家前途ノ大計ヲ定メ、確乎不抜ノ主眼ヲ此ニ置カレタルヲ遵守シテ敢テ変移スル所ナク、第四回ニ於テモ其主眼ヲ貫通シテ、以テ勧業博覧会ヲ依然東京ニ開設アランコト是即チ政府本来ノ定論ナリト信シ、其爾ク行ハレン事ヲ冀望スルニ在リ
　上来開陳スルカ如クナレハ、第四回内国勧業博覧会開設ノ地位ハ、東京ヲ外ニシテ決シテ最適当ノ地アルコト無ク、又最屈竟ノ所アルコト無シ、偶々一二ノ理由トス可キモノアルモ、其為ニ勧業ノ主眼ヲ第二ニ措ク事アラハ、政府カ確定セラレタル勧業ハ遂ニ博覧会ト隔離シテ、名実相適セス、為ニ国家ノ大計ヲ誤ルニ至ランコトヲ恐ルヽナリ、今ヤ海陸運輸ノ便大ニ其歩ヲ進メ、地勢上ニ於テモ東京ハ正ニ全国ノ中心タリ、関西諸道ト雖モ出品ノ運輸ニ関シテハ京都ニ比シ多ク難易ヲ見ルニ至ラス、況ンヤ関以東ノ諸道ニ於テオヤ、当局者幸ニ之ヲ地理ニ徴シ之ヲ統計ニ証セハ、本会議所カ此ノ言ヲナス決シテ荒唐ナラサルヲ知リ得ラル可キナリ、仰キ願クハ閣下本会議所ノ意見ヲ採択セラレンコトヲ、此段本会議所ノ決議ニ依リ建議候也
　　明治二十五年十二月十五日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　東京商業会議所会頭
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一
　　　　農商務大臣　伯爵　後藤象二郎殿
京都市民ハ遷都紀念祭挙行ニ付キ、先生ノ賛成助力ヲ仰カサルヘカラサルノ必要アリ、然ルニ先生ハ前ニ第四回内国勧業博覧会ヲ京都ニ開設スルヲ不可トスルノ論ナリシヲ以テ、頗ル憚ル所アリ、人ヲシテ先生ノ意向ヲ問ハシム、先生曰ク、博覧会ヲ京都ニ開設スルノ不可ナルコトハ、善シヤ議会カ是トシ政府カ可トスルトモ、何処マテモ不可ナリト信ス、此ノ道理ハ決シテ抂クヘカラス、然シナカラ場所ノ指定ハ其当ヲ失スルトモ、博覧会ハ日本ノ博覧会ニシテ京都一市ノモノニアラサレハ、力メテ之ヲ盛大ニセサルヘカラス、又遷都紀念祭ニ至テハ博覧会トハ自ラ別事ニシテ、挙国人民ノ共ニ祝スヘキモノナリ、京都一市ノ私事ト考フルハ大不可ナリ、宜ク広ク全国ノ有志ニ計リ、最モ盛大ヲ期セサルヘカラスト、京都市民先生ノ一言望外ニ出テ大ニ喜ヒ平安遷都紀念祭協賛会ヲ設立シ、先生ヲ推シテ幹事ト為ス、先生専ラ寄付金ノ募集出納ヲ幹シ頗ル尽力スル所アリ、応募者十余万人、金額四拾万円ニ達シ、非常ノ盛曲ヲ挙クルニ至レリ
○下略
　　　○本資料第二十三巻所収「第四回内国勧業博覧会」参照。

青淵先生公私履歴台帳　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
　　　　民間略歴（明治二十五年以後）
明治二十七年
一平安遷都紀念祭協賛会ノ設立ヲ賛助シ、其会計監督トナル
　　明治二十八年第四回内国勧業博覧会ノ京都ニ開カレントスルヤ、
 - 第28巻 p.646 -ページ画像 
同市民ハ同年恰モ桓武天皇都ヲ平安ニ定メ玉ヒシヨリ千百年ニ当ルヲ以テ同市ニ於テ遷都紀念祭ヲ挙行シ、以テ其繁栄ヲ図リ、併セテ国光ヲ万国ニ示サントスルノ挙アリ、即有志者ノ勧誘ニヨリ本会ノ設立ヲ賛成シ、会計ヲ監督セリ、後本会ハ其目的ヲ達シテ解散セリ

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