デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治40年7月10日（1907年）

是日栄一、三井集会所ニ於テ開催セル日本銀行主催ノ日仏協約祝賀会ニ出席ス。

渋沢栄一　日記　　明治四〇年　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
七月十日　雨　涼　　　　　　　　　　　　　　起床七時　就蓐十二時
○上略　夜七時半三井集会所ニ抵リ、日本銀行ノ催ニ係ル日仏協約祝賀ノ宴会ニ出席ス、賓主会スル者八十名余、饗宴モ亦美ヲ尽セリ、夜十一時散宴　○下略

中外商業新報　　第七六九五号　明治四〇年七月一一日
　　　　○日仏協約祝賀会
松尾・高橋日本銀行正副総裁は今回成立の日仏協約に対し祝意を表せんため、十日午後七時半三井集会所に於て仏国大使及大使館員を始め各元老・各大臣及朝野の名士七十余名を招待し、盛大なる饗宴を張れり、宴酣にして松尾総裁は起つて仏国大統領の健康を祝し（此時仏国
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歌マルセーズを奏す）一同起立乾杯し、次て仏国大使は起つて我　天皇陛下の御健康を祝し奉り（此時君が代を奏す）一同起立乾杯し、次で松尾総裁は再び起つて、仏国大使のため健康を祝し、左の演説を為せり
　大使閣下、各閣下、並に諸君
　今度日仏協約の成立せしに付、我経済社会の為めに祝意を表せんとし、此小宴を開催せしに各位の尊臨を辱ふしたるは余等の大なる光栄として、感謝する所なり
　偖我国と仏国とは旧来の友邦にして、素より其交際も親密なるは今更申すまでもなきことなれども、今度更らに進んで条項を備へたる協約を締結せられ、以て其事項を明かにし将来国交上益々親密を加へ、両国民の福利を増進せられんとするに至りたるは、我経済社会の為め余等の衷心欣喜に堪へざる所なり、又明治三十八年及四十年本行副総裁高橋是清政府の命を帯び仏国に於て公債募集の商議を為せしとき、仏国政府は非常なる厚意を表せられ、其国民は熱心を以て我公債の発行を迎へられ、其大成功を見るに至りたるは深く徳として感謝する所なり
　今度の協約により永く東洋の平和を保障せられ、両国経済上の利便を計り、倶に福利を増進せんことは余等の切に願ふ所にして、又其希望の満足せしめらるべきは疑を容れざる也、茲に余は赤誠を以て此協約の成立に関係せられたる両国の当局各位、殊に今夕の正賓たる大使閣下の功績に対し、謹で謝意を表し、各閣下並に諸君と共に杯を挙げて大使閣下の健康を祝し、併せて益々繁栄せられんことを祈る
終つて仏国大使は日本銀行正副総裁の健康を祝し、左の演説を為せり
　総裁貴下、閣下、及諸君
　仏蘭西共和国と日本帝国との間に斯く円満に交渉を了し、又両国の輿論及新聞雑誌に斯く同唱一和を以て、歓迎せられたる協約の締結を祝さんとして、更に今夕予に与へられたる優渥なる機会に於て、錚々たる貴紳と共に会同することを得たるは、予の誠に満足とする所なり
　抑も該協約は新たに東洋の平和を確保すると共に、恰も今総裁貴下が述べられたる如く、両国の通商上及経済上に恩恵的結果を感得すべき一層親密なる関係の新時代を、日仏両国間に開かれたるものなるを信ず
　仏国は日本の輸出国中多年優位を占め、其豊富にして著名なる工芸品の原料を、此妙霊なる邦土よりの供給に仰ぐ所あるや久し、日本も亦之に対して嗜好・芸術及深大なる同情の上にて、相一致せる仏国の製産品に対して、将来一層の歓迎を辞せざるべき予の疑を容れざる所なり
　今や両国の経済的関係は既に成立せり、平和文明の共同維持により事業貿易上の関係は、今後益々親密に親密を加ふるに至るべし
　予は如上の確信を以て、茲に六月十日の協約締結に尽くされたる両国の卓越なる政治家及国務大臣に謝意を表さずんば止まざるものな
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り、閣下及諸君、余は我々を招待せられたる日本銀行総裁及同副総裁両君の健康と、日本の隆昌と、又日仏協約の永遠なる前途との為め、予と共に祝杯を挙げられんことを希望す
終つて一同歓談に時を移し、散会せしは午後十一時なりき、尚当日の重なる来賓は左の如し
　仏国大使　ゼラール　二等書記官　ダール　海軍武官　マルチニー　訳官　ガロワ　横浜領事　ラ・ロツシユ
　山県侯爵　　　松方伯爵　　　大山侯爵　　　　寺内正毅
　阪谷芳郎　　　林子爵　　　　松岡康毅　　　　斎藤実
　松田正久　　　原敬　　　　　牧野伸顕　　　　山県伊三郎
　東郷平八郎　　奥男爵　　　　松田定一　　　　花房男爵
　渡辺男爵　　　石本新六　　　水町袈裟六　　　勝田主計
　荒井賢太郎　　橋本圭三郎　　珍田捨巳　　　　山座円次郎
　石井菊次郎　　安達峰一郎　　吉田要作　　　　渋沢男爵
　大倉喜八郎　　浅野総一郎　　高田慎蔵　　　　加藤正義
　安田善次郎　　豊川良平　　　早川千吉郎　　　山川勇木
　高橋新吉　　　志村源太郎　　池田謙三　　　　佐々木勇之助
　尾崎行雄　　　千家男爵　　　森村市左衛門　　中野武営
　浅田正文　　　松方巌　　　　川島忠之助　　　福島安正
　加藤友三郎　　三須宗太郎　　安楽兼道　　　　石渡敏一
　清野長太郎　　三井高保　　　岡野敬次郎