デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

1章 社会事業
2節 中央社会事業協会其他
2款 社会事業協会 = 財団法人中央社会事業協会
■綱文

第30巻 p.619-633(DK300080k) ページ画像

昭和4年11月14日(1929年)

是日ヨリ同月十六日迄、日本青年館ニ於テ当協会主催第二回全国方面委員会議開催セラル。栄一之ニ出席シ一場ノ挨拶ヲナス。同会議ニ於テ救護法促進ノ決議案ヲ決定シ、救護法実施促進継続委員会ヲ組織ス。


■資料

第二回全国方面委員会議報告書 中央社会事業協会編 第一八―二八頁 昭和五年七月刊(DK300080k-0001)
第30巻 p.619-627 ページ画像

第二回全国方面委員会議報告書 中央社会事業協会編
                      第一八―二八頁 昭和五年七月刊
    会議の準備
 社会事業の全国的提携並連絡の機能を果すために、毎年斯業の各部門に於ける全国大会を催すことを恒例として来た我中央社会事業協会は、今年度は救護法実施促進の意味も含めて時節柄最も緊要且つ適切であると思はれる全国方面委員会議の第二回を開くことゝし、初秋以来協会関係者一同は全力を尽して準備を進めて来た。
 先づ十月四日渋沢協会長の名により、便宜上東京に於ける左記の諸氏に準備委員を委嘱した。
    第二回全国方面委員会議準備委員
              社会局保護課長 富田愛次郎
              社会局福利課長 藤野恵
               社会局事務官 山崎巌
                社会局嘱託 相田良雄
                 社会局属 今野富造
              東京府学務部長 林茂
              東京府社会課長 中原啓造
          東京府社会事業協会幹事 岡弘毅
              東京市社会局長 安井誠一郎
           東京市社会局保護課長 船津新四郎
 - 第30巻 p.620 -ページ画像 
           東京市社会局方面係長 竹内清一
              浴風会保護課長 小沢一
              済生会救療部長 紀本参次郎
                   其他 本協会理事
 かくて十月十日午後十時協会事務所《(マヽ)》に第一回準備委員会を開いた結果、第二回方面委員会議要項並執行順序を作製し、翌十一日協会長より各府県及道庁学務部長宛通牒を発して
 一、協議題取纏め提出の件
 一、出席者取纏め報告の件
等に対し尽力方を依頼し、更に社会局長官及び各地方長官並各府県・市町村等の方面係其の他方面委員経営主体宛に、会議が所期の効果を収むる様配慮方の依頼状を発した。更に十一月十一日午後二時より第二回準備委員会を開いて、会議に於ける協議題其他の件につき協議を遂げた。
    第二回全国方面委員会議要項
一、期日 昭和四年十一月十四日より同十六日まで(三日間)但十六日は見学
一、会場 東京市明治神宮外苑日本青年館
一、会議 開会式・総会・委員会・協議会・総会・閉会式
一、協議案
  一、本協会提出議案
   現下社会情態に鑑み、方面委員制度に関し運用上特に改善を要すべき事項如何
  二、各府県提出議案
   各府県に於て、方面委員に関する議案取纏めの上、十一月五日までに本協会へ通報のこと(但議案の取捨は本協会に一任のこと)
一、出席者
  一、方面委員及方面事務所事務担当者にして、地方長官の推薦あるもの
  二、方面委員制度に関係ある官公吏にして、地方長官の推薦あるもの
  三、その他特に出席を希望するものにして地方長官の推薦あるもの、又は本協会に於て推薦せるもの(但右の内地方長官推薦にかゝるものは一府県四十名を超えざること)
一、出席申込
  出席者は、昭和四年十月三十一日限り各地方庁社会課宛に申込むこと
  各地方庁は同十一月五日までに取纏めの上、本協会へ通報のこと
一、会費 一人金二円
一、宿舎及食事 一切自弁のこと
一、旅費 一切自弁(但し汽車汽船賃割引証交附のこと)
一、招待会 会期中之を開く
一、懇談会 会期中之を開く
 - 第30巻 p.621 -ページ画像 
一、報告書
 会議に関する一切の記事を編纂し、之を報告書として出席者一同に配布す
    第二回全国方面委員会議執行順序
第一日(十一月十四日)木曜日(於日本青年館)
 受付  午前八時―同十時
 開会式 午前十時―同十一時
  一、開会の辞 渋沢本協会々長
  二、告辞 安達内務大臣
  三、挨拶 大野社会局社会部長
  四、講演 林市蔵氏
 協議会 午前十一時―同十二時
 本協会々長招待会 午後零時―同一時
 協議会 午後一時―同五時
第二日(十一月十五日)金曜日(於日本青年館)
 協議会 午前九時―同十二時
 東京府知事並東京市長招待会 午前零時―同一時
 協議会 午後一時―同四時
 閉会式 午後四時―同五時
  一、挨拶 吉田社会局長官
  二、閉会の辞 窪田本協会副会長
 懇談会 午後五時―同九時
第三日(十一月十六日)土曜日
 新宿御苑拝観 午前九時―同十一時
 東京市内外社会施設見学 午前十一時―午後四時
 見学場所
  第一班 日暮里愛隣団・桜楓会託児所
  第二班 深川富川町方面事務所・東京市簡易宿泊所・同産院・同託児所・同愛紀念病院
  第三班 東京市小石川隣保館・同授産場・同託児所・同病院・同聾学校・啓成社
  第四班 松沢病院・浴風園
  第五班 全生病院
  第六班 東京市養育院
    第二回全国方面委員会議協議事項
 本協会提出協議題
一、現下社会情態ニ鑑ミ、方面委員ニ関シ運用上特ニ改善ヲ要スベキ事項如何
 各府県提出協議題
  (一) 救護法実施促進ニ関スル件
一、救護法ヲ昭和五年度当初ヨリ実施セラレンコトヲ其ノ筋ニ建議スルコト
                        (大阪府)
                  (近畿方面委員聯絡会)
 - 第30巻 p.622 -ページ画像 
二、昭和四年四月法律第三十九号救護法実施促進方ヲ其ノ筋ヘ建議ノコト
                        (東京府)
                        (群馬県)
                        (山梨県)
                        (愛知県)
                        (石川県)
三、救護法実施促進ニ関スル件
                        (新潟県)
                        (長野県)
                        (岐阜県)
                        (三重県)
                        (富山県)
                        (愛媛県)
                        (香川県)
                        (高知県)
四、救護法ノ実施方促進ヲ其ノ筋ヘ要望シ、施行細則決定ニ関シテハ一応地方関係者ニ諮問セラルヽ様其筋ヘ要望スル件
                        (福岡県)
  (二) 方面委員制度及ビ其ノ運用ニ関スル件
   (イ) 方面委員制定並ニ其ノ連絡ニ関スル件
五、方面委員ニ関スル法規ヲ速ニ制定セラレンコトヲ其ノ筋ヘ建議スルノ件
                        (群馬県)
                        (宮崎県)
                        (徳島県)
                        (沖縄県)
                  (近畿方面委員聯絡会)
六、方面委員制度ニ於ケル委員ノ名称ノ全国的統一ニ関スル件
                        (栃木県)
七、全国方面委員ノ名称統一並ニ待遇方法ニ付標準ヲ設ケ、之ヲ設置主体ニ推奨セラルヽ様其ノ筋ニ建議スルノ件
                        (宮城県)
八、方面委員制度ノ連絡統制ニ関スル件
                        (愛知県)
九、全国ニ亘リ委員網ヲ設ケテ事務ノ連絡統一ヲ図ルベク、相当施設セラレンコトヲ其ノ筋ニ建議スルノ件
                        (岐阜県)
一〇、方面委員聯盟設立ニ関スル件
                        (愛知県)
一一、委員ニ関スル機関紙ヲ設ケラレンコトヲ其ノ筋ヘ建議スルノ件
                        (岐阜県)
一二、全国方面委員ノ協調連絡ヲ図ルタメ、之ガ機関雑誌ヲ設クルノ可否
 - 第30巻 p.623 -ページ画像 
                        (富山県)
一三、方面委員会ヲ常設的組織的ニ組織シテハ如何
                        (滋賀県)
  (ロ) 方面委員事業資金ニ関スル件
一四、方面委員活動資金調達方法如何
                        (北海道)
                        (山梨県)
一五、方面委員ノ取扱ニ係ル救護費支出ニ関スル件
                        (徳島県)
一六、方面委員事業奨励ノ趣旨ニヨリ其ノ経費ニ対シ国庫補助相成様其ノ筋ヘ建議ノ件
                        (宮崎県)
一七、方面委員助成機関ノ財力充実ニ関スル良法如何
                        (宮崎県)
一八、各地方面委員助成会ノ活動状況承リタシ
                        (福岡県)
  (ハ) 方面委員ノ機能ニ関スル件
一九、救護法実施ニ伴フ方面委員ノ対策如何
                        (宮崎県)
二〇、婦人方面委員ノ職能ヲ発輝セシムル良法如何
                        (高知県)
二一、農漁村ニ於ケル方面委員制度運用ノ良法如何
                        (宮崎県)
二二、方面委員制度ヲ一般ニ周知セシムル方法トシテ
  イ、適当ナル宣伝映画作成ヲ其ノ筋ニ要望スルノ件
  ロ、方面事業ニ関シ国定教科書ニ登載スル様、其ノ筋ヘ要望スルノ件
                        (福岡県)
  (ニ) 方面委員会ノ事務ニ関スル件
二三、方面委員カード整備ニ関スル件
                        (愛知県)
                        (香川県)
二四、方面委員ガ用務ノタメ旅行スル場合、汽車・汽船賃ヲ割引セラルヽ様、其ノ筋ヘ建議スル件
                        (新潟県)
                        (福岡県)
二五、方面委員取扱ノ被救護者ヲ輸送スル場合、汽車汽船賃ヲ割引セラルヽ様其ノ筋ヘ建議スル件
                        (新潟県)
                        (福岡県)
二六、諸証明(謄抄本)並閲覧手数料免除ノ件
                        (愛知県)
二七、方面委員ニシテ方面事務上戸籍謄本下附申請ノ際、申請者ノ方面委員タルヲ証スル関係市町村ノ証明書ヲ添付スルノ可否如何
 - 第30巻 p.624 -ページ画像 
                        (香川県)
  (三) 方面委員取扱事項ニ関スル件
   (イ) 児童保護ニ関スル件
二八、託児所令ヲ速ニ制定セラルヽ様、其ノ筋ニ建議スルノ件
                        (新潟県)
二九、貧困児童就学奨励金国庫支弁方ヲ其ノ筋ヘ建議スルノ件
                        (岐阜県)
三〇、養子・養育児ノ虐待ヲ防止スル良法如何
                        (新潟県)
三一、不良児発生防止ニ関スル適当ナル対策如何
                        (新潟県)
三二、少年労働者ニ対スル適切ナル保護対策如何
                        (新潟県)
三三、幼弱者ニシテ不具ナル者ニ対スル指導方法如何
                        (新潟県)
三四、山間地方ニ於ケル農繁期託児所設置普及ノ良法如何
                        (岐阜県)
  (ロ) 医療ニ関スル件
三五、救療施設ヲ完備スル様其ノ筋ヘ建議スル件
                        (広島県)
三六、医師ナクシテ困難セル町村ニ国庫補助ヲ以テ医師設置ノ件
                        (長野県)
三七、診療費低減運動ニ関スル件
                        (新潟県)
三八、方面委員ガ低額治療券ヲ発行シタル場合、之ヲ済生会同様ニ取扱フ様日本医師会ニ依頼ノ件
                        (石川県)
三九、結核救療機関整備ニ関スル件
                        (兵庫県)
四〇、結核療養所ノ国営ヲ其ノ筋ニ建議スルコト
                        (東京府)
四一、人口五万以上ノ都市ニ於ケル結核病者療養所ノ設置方ニツキ既定法令ヲ励行セラレンコト、並ニ都市以外ノ結核病者療養所ヲ府県ニ於テ設置セシメラレンコトヲ其ノ筋ニ建議スルコト
                        (大阪府)
                  (近畿方面委員聯絡会)
四二、公立精神病院設置促進ニ関シ督励方ヲ其ノ筋ニ建議スルノ件
                        (山梨県)
四三、精神病院法ノ一部ヲ改正シ、各府県ニ義務的ニ之ガ設置ヲ見ル様方法ヲ講ゼラレタシ
                        (富山県)
四四、健康保険法ニ依ル保険金給付手続ニ関シ、規定改正ヲ其ノ筋ニ建議スルコト
                        (京都府)
 - 第30巻 p.625 -ページ画像 
   (ハ) 失業ニ関スル件
四五、失業保険法ノ制定促進ヲ其ノ筋ニ建議スルコト
                        (東京府)
四六、現下ノ失業事情ニ鑑ミ速ニ失業保険制度ヲ実施セラレタク、尚公共団体ニ対シ、共済保険制度ノ設置ヲ奨励セラルヽ様請願スルノ件
                        (新潟県)
四七、地方ニ於ケル失業救済施設トシテ最モ適切ナル方法如何
                        (奈良県)
四八、地方ノ状況ニ応ジ失業対策トシテ方面委員会又ハソノ助成会ナドノ経営ヲ以テ、授産ソノ他ノ事業ヲ起興スル場合、政府ハソノ設備費(労働要具ナドノ)労力費ナドニ対シ、相当補助アランコトヲ当局ニ要望スルノ件
                        (長野県)
四九、現下ノ社会状態ニ鑑ミ方面委員トシテ執ルベキ失業対策如何
                        (愛知県)
五〇、現下ノ情勢ニ鑑ミ失業防止並救済ノ実ヲ挙グルタメ方面委員トシテ活動スベキ適切ナル方案ヲ承リタシ
                        (静岡県)
   (ニ) 防貧ニ関スル件
五一、細民生活基礎確立ノ一方法トシテ生活上ニ余力ヲ打出サシムルニ必要ナル具体的方法如何
                        (千葉県)
五二、方面委員ノ防貧事業トシテ、如何ナル施設ヲ講ゼラレシヤ承リタシ
                        (長崎県)
五三、防貧的施設タル副業授産事業ニ対シテハ、現下ノ情勢ニ鑑ミ特ニ国家ハソノ団体ニ対シ低利資金融通ノ途ヲ開カレンコトヲ内務大臣ニ建議スルコト
                        (愛媛県)
五四、授産所或ハ授職所設置ニ際シテハ、地方的事情ヲ考慮ノ上相当国庫ノ補助アル様其ノ筋ヘ要望スルノ件
                        (福岡県)
   (ホ) 教化ニ関スル件
五五、方面委員制度ヲシテ細民ニ対スル思想善導ノ中心機関タラシムル良法如何
                       (神奈川県)
五六、下層階級ニ対スル精神的指導ノ良法如何
                        (鳥取県)
五七、方面委員トシテ融和問題ニ関シ採ルベキ最モ有効適切ナル方法如何
                        (奈良県)
五八、映画俳優志願家出青少年防止ニ関スル良法如何
                        (京都府)
 - 第30巻 p.626 -ページ画像 
    会議の概況
第一日 十一月十四日
 午前七時会場日本青年館の会議事務室に勢揃ひした協会職員八名・研究生七名、全員十五名は全国を地方別に分けた五つの受付其の他の夫々に与へられた部所についた。八時には受付開始、遥々遠い地方から集られた方々が早々と来られる。十時までに受付けた地方からの協議員は七百十六名、それに協会推薦の協議員其他を加へて約八百名、会場に当てられた大講堂に着席する
開会式
 定刻より遅れること十分、正に十時十分、合図の振鈴によつて、玆に意義深き第二回全国方面委員会議の開会式の幕は切つて落された。
 中央社会事業協会原総務部長の開会の宣告に次いで、本協会常務理事社会局社会部長大野緑一郎氏の開会の辞があり、縷々本会議の深甚なる意義が述べられる。次に聖上に供奉して大演習の地にある安達内務大臣の告辞が、潮内務次官によつて代読され、終つて我国方面委員制度の開祖とも云はるべき林市蔵氏の大阪方面委員制度創設当時の事情及委員の使命と心情についての講演あり、最後に、所労のために遅参された本協会々長渋沢子爵の挨拶を以つて開会式を終つた。
記念撮影
 開会式に所定の時間を過したゝめに、午前の協議会総会を午後に変更、直に会館大玄関前にて一同記念撮影をする。余りに多勢で全部入り切れなかつたのは残念であつた。
中央社会事業協会々長招待午餐会
協議会総会
 午後一時開会、満場一致の推挙により大野常務理事議長席に着く。
 協議題の審議に入るに先つて東京府鈴木慶四郎氏より緊急動議あり我国方面制度の濫觴たる岡山県済世顧問の恩人故笠井信一氏、及び大阪方面委員事業の父故小河滋次郎博士の御遺族に対して全大会の名に於て感謝と慰問の意を表したしとて其の賛同を求めらる、満場一致を以つて之を賛す、次いで動議により第一回全国方面委員会議に於ける決議事項の結果について、本協会原総務部長より詳細なる報告説明あり、斯くして愈々協議題の審議に入る
 先づ本協会提出の議題について原氏の説明あり、重要且つ広汎なる問題なる故を以て、議長指名の委員附議となる。次いで協議題一乃至四「救護法実施促進に関する件」を一括して審議、満場一致建議をなすことに決定し、其の実行は議長指名の建議陳情委員会に一任することゝなる。
 次に協議題五乃至二七「方面委員制度及其の運用に関する件」は協会提出議題と一括して第一委員会に、「方面委員取扱事項に関する件」は、イ「児童保護に関する件」(協議題二八―三四)ロ「医療に関する件」(協議題三五―四四)を一括して第二委員会に、ハ「失業に関する件」(協議題四五―五〇)ニ「防貧に関する件」(協議題五一―五四)ホ「教化に関する件」(協議題五五―五八)を第三委員会に、夫々説明討議の後附託することゝなり、第一日の総会を終了した。
 - 第30巻 p.627 -ページ画像 
余興
 夜六時半余興として春野百合子嬢の浪曲あり、会衆二百其の妙技に感動する、百合子嬢は横浜より新潟への途次繁忙の際にも拘らず特に篤志を以て立寄られ、当会議出席者諸氏を慰められたのであつた。
第二日 十一月十五日
 委員会 午前九時半、第一・第二・第三及陳情の各委員会所属の委員は、夫々所定の会議室に於て逐条審議に入る。やがて陳情委員は建議書を持つて自動車に分乗、委員長たる大阪の沼田代議士、及協会側委員生江氏を先達に、内閣・内務省・大蔵省・社会局、及政民両党本部を歴訪陳情に赴いた。
 此の間委員以外の協議員は大講堂に於て原氏座長の下に懇談的協議会を開く。東京府より提出の、一、軽費診療所普及の件、二、青少年の不用意上京防止の件、三、禁酒を方面委員に徹底せしむる件、について討論が行はれた。
東京府知事及東京市長招待午餐会
 牛塚東京府知事並堀切東京市長共に出席されて一場の挨拶があつた
協議会総会
 午後二時二十分、一同大講堂に参集、大野常務理事議長席に着き、愈々最後の協議会総会が開かれる。第一委員会委員長東京府小林半三郎氏、第二委員長東京府鈴木慶四郎氏、第三委員長東京府中野隆三氏より夫々各委員会に於る協議状況・決議事項につき説明報告、並に陳情委員会委員長大阪府沼田嘉一郎氏より各陳情先に於る情勢の報告あり、各委員長の報告に対し夫々若干の質問応答の後全部を可決した
閉会式
 協議会総会に引続き直に閉会式に移り、協会副会長社会局長官吉田茂氏、同じく副会長行政裁判所長官窪田静太郎博士の閉会の挨拶あり午後四時三十分、第二回全国方面委員会議は満堂の拍手の裡に無事終焉の幕を下した。
懇談会
 夜六時より有志の懇談会開会、集るもの百二十名、楽しい晩餐を共にし、生江孝之氏の座長にて歓談裡に八時散会した。
第三日 十一月十六日
 午前八時半一同新宿御苑前に参集、苑内を拝観して後、六班に分れ中央社会事業協会職員案内の下に、東京市内外社会施設の見学を行つた。


第二回全国方面委員会議報告書 中央社会事業協会編 第六―七頁 昭和五年七月刊(DK300080k-0002)
第30巻 p.627-628 ページ画像

第二回全国方面委員会議報告書 中央社会事業協会編
                     第六―七頁 昭和五年七月刊
    挨拶 (会長子爵 渋沢栄一)
 遅参を致しまして真に申訳けの次第も御座いません。一言御挨拶を申上げます。どうも老衰致しまして声がよく通りません上に、近年歯が抜けまして物を云ふのに不便で御座います。御聞きづらいところは幾重にも御容赦を願ひます。
 今日方面委員の大会に遠路御出席下さいました皆様に、此の老人よ
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り厚く御礼を申上げます。又唯今は林先生の誠に結構な御講演を聞かせて頂きまして厚く御礼を申述べます。
 さてどうも旧いことを述べるのは此老人の癖で御座いますが、世の進運の行き方を見まするのに、実に其の著しいことに驚くのであります。今日斯く多数の方面委員の仕事に携る士に御目にかゝると云ふことも、真に今昔の感に堪えない次第で御座います。私は多年東京市養育院長の職責を汚して居りますが、其の起りはと申しますと、明治の初年に外国の或る偉い御方が来邦されたことがありましたが、其の折市内に浮浪の徒が徘徊して居てはいけないと云ふので、仮収容所を作つて之を集めたのが始まりでありました。其の後之を市井に放つことも出来ず、白河楽翁の遺された所謂七分金と申します共有金を出して府が之を保護致すことになりましたが、明治十七年府会が出来ました時に之の処置について問題が起りました。即ち、窮民救助は益々惰民を養成するものだ、養育院の如きは惰民製造所であると云つて、猛烈な非難が起つたのでありまして、私共が泪を流して懇願したにも拘らず、遂に十八年に廃止されてしまひました。そこで私共は資金を集めまして、今度は個人として之を継承し仕事を続けたのでありますが、明治二十二年東京市制が布かれました時に相談致しまして之を市に委ねることに致しましたのであります。
 其の後救世軍の亡くなられました大将のウイリアム・ブースが来朝致されまして、御目にかゝりましたときに、大変教へられたことがありました。それは、救世軍では窮民に救助を与へると同時に、彼等の生活を立直すやう、自活の途を与へることに努力してゐると云ふことでありました。之は今日では普通のことでありますが、当時養育院でも其の救世軍の親切をしてゐなかつたのであります。之では廃止論者の云ふことも亦、尤もであると思ひました。「人はパンのみにて生くるものに非ず」と云ふ聖書の言葉がありますが、私は心霊精神を入れ替へることが完全なる救護だと考へるのであります。之は大方の諸賢が既に御承知のことゝは思ひますが、何卒救心救体を主として御事業を遂行されんことを切望して、簡単ながら一言挨拶に代へる次第であります。
   ○前掲資料中ノ会議執行順序ニヨレバ、栄一開会ノ辞ヲ述ブル予定ナルモ、遅参ノタメ右挨拶ヲナス。


集会日時通知表 昭和四年(DK300080k-0003)
第30巻 p.628 ページ画像

集会日時通知表  昭和四年      (渋沢子爵家所蔵)
十一月十四日 午前十時 方面委員全国大会(四ツ谷日本青年館)


第二回全国方面委員会議報告書 中央社会事業協会編 第三六―三七頁 昭和五年七月刊(DK300080k-0004)
第30巻 p.628-629 ページ画像

第二回全国方面委員会議報告書 中央社会事業協会編
                     第三六―三七頁 昭和五年七月刊
    委員会(協議大要)
         (十一月十五日 午前九時)
  陳情委員会
           委員長  大阪府  沼田嘉一郎
                東京府  佐藤愛蔵
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                京都府  藤岡円次郎
               神奈川県  関浩
                兵庫県  吉井政市
                新潟県  中戸賢亮
                群馬県  大林智明
                三重県  矢田俊正
                愛知県  戸苅三郎七
                山梨県  寺田喜作
                岐阜県  一色順雄
                長野県  浜田修蔵
                山形県  永田誠
                石川県  木谷吉太郎
                富山県  安藤専哲
                岡山県  赤沢乾一
                香川県  玉男木梅吉
                愛媛県  友近喜代太郎
                高知県  池田永馬
                福岡県  高口勝一
           中央社会事業協会  生江孝之
 午前九時半開会、協議の結果、昭和四年四月法律第三十九号救護法の昭和五年度実施につき建議陳情することに決し、委員一同左の建議書を持つて、内閣・内務省・大蔵省・社会局及政民両党本部を歴訪した。
      建議
 我邦現下ノ情勢ニ鑑ミ、昭和四年四月法律第三十九号救護法ヲ、昭和五年度当初ヨリ実施セラレンコトヲ要望ス
 右満場一致ノ決議ヲ以テ建議ス
  昭和四年十一月十四日
                 第二回全国方面委員会議
                      出席者一同
 尚該法実施促進のため、六大都市所在府県の委員が継続委員として挙げられ、救護法実施促進の運動に当ることゝなつた。


救護法実施促進運動史 柴田敬次郎著 第七〇―七一頁 昭和一五年五月刊(DK300080k-0005)
第30巻 p.629-630 ページ画像

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財団法人中央社会事業協会三十年史 同協会編 第二四一―二四二頁 昭和一〇年一〇月刊(DK300080k-0006)
第30巻 p.630 ページ画像

財団法人中央社会事業協会三十年史 同協会編
                     第二四一―二四二頁 昭和一〇年一〇月刊
 ○第一部 第一五章 七 方面委員に関する会議並協議会
    第二回全国方面委員会議
 本会議は全国各地方より方面委員八百余名の参集を得て昭和四年十一月十四日より同月十六日まで日本青年会館に於て開催された。
 昭和四年、それは、救護法生誕の年である、社会事業界に於て久しくその制定を熱望してた救護法は此の年に及んで漸く第五十六議会を通過して、四年四月法律第三十九号を以て公布されたのである。社会事業関係者の喜びは想像の及ばぬところであつた。
 然るに公布当時の世間の噂さに依れば、世上の不景気と政府の緊縮政策に依つて本法の実施期日は無期延期せられると言ふ風説が専らであり、又本会議に於いて当時の社会局社会部長大野緑一郎氏の為された挨拶の中にさへも「之が施行期日に付ては国家財政の関係上未だ遽かに之が決定を許さざるものがある事は遺憾」であると述べられてゐる事に依つて見るも、其の実施時日は全く不明であると言ふ状態で、法制定の歓喜に酔ふた直後のこととて関係者は一層亦焦燥の気に充たされたのであつた。
 本協会は叙上の如き社会的状勢の下に於て第二回方面委員会議を開催したのであるが、之れが救護法実施を促進する機縁をつくつた事は言ふまでもなく、従つて各地方よりの協議題にもこの問題に触れるもの多く、先づ大会の劈頭に於て別項の如き救護法実施促進の建議案を決定し、直ちに委員を挙げて関係当局を歴訪せしめた。斯くの如く救護法を中心としての来会者の熱意物凄く、社会の本会議に於ける期待も又頗る大なるものがあること何人も疑はない所であつた。加之、本会議は是の問題に端を発して全国方面委員の結束を愈々固くし、特に該法の実施促進の為め六大都市所在府県よりは委員を挙げて救護法実施促進継続委員会を組織し、所謂救護法実施促進運動の母体を作り、更に全日本方面委員聯盟結成への前駆をなしたるは我国方面事業史上特記すべきものである。
○下略
 - 第30巻 p.631 -ページ画像 


救護法実施促進運動史 柴田敬次郎著 第七九―八〇頁 昭和一五年五月刊(DK300080k-0007)
第30巻 p.631 ページ画像

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〔参考〕東京朝日新聞 第一五六三六号 昭和四年一一月一五日 全国方面委員会に際して(社説)(DK300080k-0008)
第30巻 p.631-633 ページ画像

東京朝日新聞  第一五六三六号 昭和四年一一月一五日
    全国方面委員会に際して(社説)
この十四日から三日間、東京で全国方面委員の会合が開かれてゐる。方面委員が如何なるものであるかは、最早特に注釈を要せぬ程世人に親しみ深い名になつて居て、貧民の友、困窮者の指導員として、失業家賃問題、さては産児制限の方面まで、事ある毎に方面委員の名が引だされ、過般は内務大臣がわざわざ東京の方面委員を招待して、意見の交換をさへ試みたのであつた。
 方面委員のはう芽は大正六年岡山県に設置された済生顧問の制度にこれを見る事が出来るけれど、その名称および機構において今日の方面委員の元祖となるべきものは、大正七年米騒動の後に大阪府が創始したものに帰せねばならない。時の知事林氏が偶然理髪床から見た新聞売りの母子にそく隠の情を動かされたのが機縁になつて、これに故小河博士の研究にかゝるエルバーフェルド市方面委員制度が体系をつけて、府下所在の篤志家を選任して、各々定められた受持区域の窮民生活状態のカード調査をなさしめ、その調査を基礎として救貧対策を実行することゝなつた。時勢が丁度社会問題の急を告げてゐた折柄、大正九年の暮には東京市にもこの制度が打ち建てられ、段々これが地
 - 第30巻 p.632 -ページ画像 
方におよぼしてきて、今では全国津々浦々に渉つて方面委員制度網が張り渡されたのである。皮肉にこれを観察すれば、例のお役所一流の画一好きから趣旨も精神も丸のみ込みにたゞその名称さへ用ふれば良いといふ様な濫設もあらうし、時節柄何か社会事業をやらねばならぬ手前、一番金がかゝらずして体裁がよく、その上地方の名誉患者を喜ばすことも出来る、一石二鳥をねらつてゆく地方官憲の横着も手伝つてこの隆盛と、見れば見られる節もないでは無いが、日々に加はる社会層の険悪、これに対応する社会法制の不備、せめて方面委員など設けて、ドン底生活に不断の接触を保ち、これによつて平生は社会下層の気圧力をぼくするメートルともなり、事ある時には組織ある救ひの手となつて働く便宜ともなる関係から、いはゞ社会自身防衛の必要上といふやうな意識が知らず知らずの間に強く働いて、かくは急速な発達を見たのであらう。
 皮相ながらもかく拡つて全国的な一制度となつた以上、今後如何にその内容を充実すべきかに関して、方面委員自身を始め、為政家も、また世の識者も深き考慮を払はねばならぬ。第一が人の問題である。方面委員を任命する者は知事とか市長とかであるが、地方党弊の赴く所、動もすればこの社会事業家の任命にまで党派的観念が交り、殊にその身分が一種名誉職的のものであるだけに、これを踏段として市会議員の選挙に打つて出ようといふやうな、始めから成心をもつて事に望むものすらある。従つてその選任は兎もすると地方政客間の大問題となり、党派的根性から起る運動・請託・排斥・報復なぞ、全然制度の根本精神をじうりんする様な苦々しいさたが起ることまれでないがさやうな選任事情から決して適任者が出てくるはずはなく、結局制度全体をむしばんで仕舞ふの外は無いのであるから、この点に関し、第一任命者のき然たる態度を望むと共に、方面委員にだけはいはゆる党人の介入を厳禁する一札を強き輿論の力によつて打ち樹てねばならぬのである。
 婦人を方面委員に採用すべしとの声が漸次強くなつてゐる。内務省も、過般事業性と土地の状況によつて婦人方面委員を採用して宜しいとの通牒を発した由であるが、乳児保護や託児所が特に重要性を占むる我国の社会事業界において、婦人の多数を方面委員に持つべきは当然過ぎる程当然のことゝいはねばならぬ。然るに東京市なぞでは過去に於いてはそれでもまだ一人の女性委員を持つて居たのであるが、今ではそれすら影を絶つたのである。その理由とする所を聞くと委員の会合に顔出しをせぬからとの由であるが、元来万緑叢中紅一点といふやうな選任の仕方では婦人が協力しようにも事実上不可能になる事は人情の当然である。いやしくも婦人委員を任命するなら宜しく冋時に数人を置き、一群となつて男子と協力し得易きやうにせねばならぬ。
 次に考へたいのは事業の連絡である。各受持区域を担任する方面委員が全体に如何なる連絡を保持し得るか。それは官僚一流の市長・知事・内務省と、順を追ふ統かつ監督をいふのではない。方面委員の扱ふ一つ一つの対象物が、あるひは数個慈善団体の取扱ひと重複する恐れなきか、これと逆に、どれからも構はれずに打捨て置かれて居るも
 - 第30巻 p.633 -ページ画像 
のは無きか、これ等に関して方面委員が自治的に組織するなり、あるひは別個の連絡機関として、社会事業のいはば手形交換所のやうなものが出来ても、もう良い時機である。方面委員はドイツのエルバーフェルドから範を取つたにしても、何もドイツ式にのみ拘泥する必要はない。これに加味するに、米国の慈善事業連絡協会主義をもつてして両者調和の妙用を発揮することを努め、大都市には必ず一個の社会事業交換所を設け、これと周到なる連絡を保ちつゝ、個々の方面委員が活動する様な仕組を作つて行きたいものである。
 最後に、方面委員制度を口実若くは気休めの種として、当然促進せねばならぬ社会立法実施を怠らしめてはならない。この点に於いては今開かるゝ全国方面委員大会が、政府の怠慢をべんたつして救護法を昭和五年度より実施せよと決議せんとするのは我意を得た所である。先にもいうた如く、方面委員は社会下層の気圧計に過ぎず、救者被救者の連絡機関であつて、何等救貧の実体を有して居らぬにも拘らず、その取扱方面の広はんなる所から一見社会事業の万能膏の如き体裁を有するにつけ込み、この制度の現存にしや口して、もつと実体的な社会立法や社会施設を怠る傾向が中央地方の為政家の間に現れるとしたら、それは真に憂ふべき事といはねばならぬ。