デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.20

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

3章 国際親善
2節 米国加州日本移民排斥問題
2款 日米同志会
■綱文

第33巻 p.434-436(DK330027k) ページ画像

大正2年6月2日(1913年)


 - 第33巻 p.435 -ページ画像 

是日栄一、当会会長トシテ外務省ニ政務局長阿部守太郎ヲ訪ヒ、アメリカ合衆国ノ排日立法ニ就テ凝議ス。三日当会協議会、東京商業会議所ニ開カル。栄一出席シテ、同問題研究ノタメ近ク渡米セントスル法学博士末広重雄ヨリ、右ニ対スル法理上ノ意見ヲ聴取ス。十日更ニ外務省ニ外務大臣男爵牧野伸顕ヲ訪ヒ、同問題ニ関スル要談ヲナス。


■資料

竜門雑誌 第三〇一号・第六二―六三頁 大正二年六月 △青淵先生の外務省訪問(DK330027k-0001)
第33巻 p.435 ページ画像

竜門雑誌 第三〇一号・第六二―六三頁 大正二年六月
△青淵先生の外務省訪問 日米同志会長青淵先生には、六月二日午後一時五十分外務省に出頭、阿部政務局長に面会して、土地案に対する其の後の方針に就き凝議する所ありたり
○中略
△青淵先生の外務省再訪問 日米同志会長青淵先生には、中野副会長同伴、六月十日午後二時三十分外務省に出頭し、牧野外相と対米問題に関する要談を為せり


東京日日新聞 第一三一二七号 大正二年六月四日 ○日米同志会会合(DK330027k-0002)
第33巻 p.435 ページ画像

東京日日新聞 第一三一二七号 大正二年六月四日
    ○日米同志会会合
日米同志会に於ては、三日午前十時より東京商業会議所に於て協議会を開き、渋沢男・中野・大橋・浅野・杉原諸氏を始め約十五名出席、問題研究の為め渡米する京都帝国大学教授末広法学博士を招じ、土地案に対する法理上の意見を聴取せるが、同博士は
 土地問題は、日米条約にも亦米国憲法にも違反せず、唯米国憲法追加第十四条に「州は其の管轄に就て、総ての人に対し同等の保護を拒絶することを得ず」とある故を以て、高等法院に争ふとするも、其は米国目下の国情に於ては遺憾乍ら多大の望を嘱する能はず、故に余の意見としては、唯々最後の手段一に在るのみ云々
と述べ、夫より中野氏より添田博士渡米後の消息に就て報告する所あり、更に該問題に関し種々協議を尽し、午後一時散会せり


末広重雄談話筆記(DK330027k-0003)
第33巻 p.435-436 ページ画像

末広重雄談話筆記            (財団法人 竜門社所蔵)
                   昭和十二年四月三日、於同氏邸、編纂員太田慶一聴取
   ○大正二年六月三日東京商業会議所にて故子爵に説かれたる法理上より観たる排日問題の概要。
大正二年日米間の大問題となつたのは所謂加州土地法(Californianland law)である。同法は当時加州の農業界において著しき発展をなしつゝあつた日本人を駆逐して、ひいて農業を中心とする加州における日本人の産業を破壊して、在住日本人に致命傷を与へるを目的とした。是より先、実施になつた日米間の紳士協約(Gentlemen's Agreement)による日本人労働者の渡米禁止と共に、土地法は、在加州、ひいて在米日本人に大打撃を与へるものであつたから、我国に於て、米国の排日に対する非難攻撃大いに起り、日米関係頗る悪化し、日米戦
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争の風説さへ行はれた。
同法案が加州議会に提案された当時、子爵は東京商業会議所会頭中野武営氏と共にこの問題について深く憂慮せられ、その成立防止の為めに大に努力されたが、遂にその効なく、同法案は加州議会を通過して大正二年五月十九日加州知事がそれに署名し、同年八月十日から実施された。
然らば当時我々は、如何なる理由によつて加州土地法を非難したか、同法は外国人を米国国法の下に、米国市民たるを得るものと然らざるものとに区別し、前者は市民同様に不動産上の権利を取得・保有・使用・譲渡及び相続し得るが、後者はその本国政府と米国政府との間に存在する条約の規定の範囲内においてのみ不動産上の権利を取得・保有・使用及び譲渡するを得るにすぎずとした。然るところ、当時の日米通商条約は、米国在住日本人の土地の所有並に農業用の目的をもつて土地を貸借(lease)し得ることに就て、何等規定してゐるところがないのであるから、米国市民たるを得ざるものであると考へられてゐた日本人は、同法の下に於て土地を取得するを得ざることゝなり、更に同法の下において米国市民たるを得る欧洲移民は、十五年の期間をもつて農業地の賃借を為し得るに反し、米国市民たるを得ざる日本人は、三年を越えざる期間に於てのみ之を為し得るに過ぎないことになつて、甚しき差別待遇を受けることになつた。
当時加州土地法の起草者であつたWebbは、加州土地法が外国人を米国市民たるを得るものと然らざる者とに区別するのは、米国の帰化法に基くものであつて、不動産所有に関して差別待遇をするは合理的であると主張してゐたが、私等は之を非なりとした。蓋し米国の帰化法によると、外国人を帰化能力を有する外国人(白人及黒人を含む)と、然らざる外国人とに分ち得る、そして前者を更に米国市民たるべき意思表示をなしたる者、即ち帰化の願出をして所謂「ファースト・ペーパー」(First Paper)を得たる者と、未だ其の意思表示をなさざる者とに分つことが出来る。所で米国の市民たるべき意思表示をなしたる者は、いはば準市民となつたもので、未だ意思表示をなさざる者に比して、米国市民に近づいたところの者である。これらの者に対しては、不動産所有ばかりでなく、米国市民の有する幾多の権利を認める州法(State law)がある位である。然る所、米国市民たるを得る者であつても、未だ市民たるべき意思表示をなさゞる外国人は、日本人の如く市民たるを得ざる者と、外国人たることに於ては全く同じである、それで米国の或る州法が、米国市民たるべき意思表示をなしたる者と、米国市民たるを得る外国人であつても未だ市民たるべき意思表示をなさゞる者とを区別して、前者に不動産所有を許し、後者には市民たるを得ざるもの同様その所有を許さないとするのは、理由のあることである。これに反して加州土地法の如く、外国人を米国市民たる得る者と、然らざる者とに区別して、不動産所有の許否を定め、或は農業用土地の賃借に関して差別待遇をなすことは、不合理であり全く先例のないところである。そこで私はこの点について、加州土地法を不当なりとして非難攻撃したのであつた。