デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2021.9.1

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

3章 国際親善
3節 国際団体及ビ親善事業
13款 社団法人国際聯盟協会
■綱文

第36巻 p.426-440(DK360168k) ページ画像

大正10年4月23日(1921年)

是日、当協会第一回総会、築地精養軒ニ開カル。栄一出席シテ其議長トナル。


■資料

国際聯盟 第一巻第四号・第一九二―二〇九頁大正一〇年七月 国際聯盟協会会報(一)第一回総会(DK360168k-0001)
第36巻 p.426-437 ページ画像

国際聯盟 第一巻第四号・第一九二―二〇九頁大正一〇年七月
 ○国際聯盟協会会報
    (一)第一回総会
 時日 大正十年四月二十三日
              出席会員
                     泉哲
                     ○他九十六名氏名略
      渋沢会長開会の辞
 これより開会致します。まことに不馴れな会長で、別して第一回の総会でありますから不馴れづくしであらうと思ひます故、どうか皆様の御気付きの点は御注意を下さるやうお願ひ致します。
 今日の総会には第一に本会のこれまでの経過を御報告申上げ、第二に会計の承認を乞ひ、第三に役員の改選を行ひ、第四に本会を社団法
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人にする件に就き、御協議を乞ひたいのであります。
 度々申上げる如く私は別して海外の事に暗い人間で、日常の用向すら精しく承知致しませぬ故、万事不行届きであらうと存じます故、その辺は何卒御寛恕あらんことを希望いたします。
 これより添田君から事務の御報告を願ひます。
      添田副会長事務報告
 唯今会長のお話により極簡略に事務の経過を申上げます。
 昨年四月二十三日本会設立以来、同月二十九日第一回理事会を開き理事各位には屡々御会合致されまして、今日まで殆ど十回余り会議を重ねました。
 本会基金の募集に関しては、会長御自身非常な御奔走下されましたことは、本会の深く感謝致す次第であります。
 又井上理事に於かれて面倒な会計を御監督下されましたことも、諸君と共に感謝に堪えぬ次第であります。
 総裁には徳川公爵閣下を、御繁忙にあらせらるゝ中を枉げて御就任をお願ひ致した次第でありまして、公爵の御承諾を得ましたことは本会の深く幸福とする処でありまして、海外に於ける本会の印象なども之が為に極めて力強いものであると確信致します。
 副総裁には西園寺公並に大隈侯に親しく罷り出でゝ、御就任方をお願ひ致しましたけれども、色々御都合があつて御採諾の栄を得ませぬでした故、そのまゝになつて居ります。
 評議員は発起人及び其の他有力者にお願ひして、総数百六十名になつて居ります。
理事は十二名でありましたが、岡・松田両博士が渡欧せられ、高橋博士が逝去せられました為、目下三名の欠員があります。
 幹事は伊達・杉村・沢田の三君にお願ひ致し、三君には本会の事務に就て非常に御尽力下されましたことは、諸君と共に記憶すべきことと存じます。
 書記長は経費の見込みも十分立たなかつた為、専任の人を置く訳に参らず、止むを得ず外務省の沢田君に無理に労をとつて頂いたのであります。そのお骨折りに対しては真に感謝に堪えませぬ。沢田君は東宮殿下に供奉して海外に行かれました為、その後は杉村君に之亦御繁忙中を無理に労を執つて頂いて居る次第で、これ亦本会として大に感謝する次第であります。
 書記は主に学士より選び、数は成る可く少くして目下五名程事務に当つて居ます。
 事務所は幸ひ産業協会の三階を借りることを得まして、漸く用を弁じ得るやうになりました。
 唯今会員は六百名許りであります。客員は三名であります。
 次に外に対しては昨年六月、各国々際聯盟協会の聯合会(ユニオン)に加入し、昨年十月ミランに開かれましたユニオンの第四回総会には田中館博士・堀田伯爵及三浦公使○弥五郎外六名の方に、本会を代表して御参列を乞ひました。特に御注意を喚起したいことは、此総会に於て山東問題並に朝鮮独立問題を余り不当なる発展をなさゞらしめた事は
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本会の努力に待つところ大なるものがあると云ふ点であります。
 次に昨年十一月ジュネーブに開かれました第一回聯盟総会には、人種的差別待遇撤廃案及委任統治に関する本会の希望を外務大臣に陳情し、英国代表にも御依頼し、又英国々際聯盟協会のロード・ロバートセシル卿にも希望致したのであります。
 本年一月パリーに開かれましたユニオンの理事会には、三浦公使・武者小路子爵○公共・市橋教授○倭の三君に本会を代表して出席して頂いたのであります。その後ベルギーのパレー・デ・グモンに開かれまするユニオンの役員会、及び来る六月ジネーブに開かれまするユニオンの第五回総会には、岡博士○実其他彼地に在る方々に御出席をお願ひする都合になつて居ります。
 何分創立の際でありまして寄附金なども会長の御尽力により此頃となつて漸く目鼻がついた様な次第で、従つて諸君に御満足を与へるやうなことも充分出来なかつた事は深く御詫びを致す次第であります。
      井上会計監督会計報告
 九年度の会計報告は次の通りでございます。
  大正九年度報告(自大正九年七月至大正十年三月)
   貸借対照表
        収入之部
                          円
基金(其筋ヨリ)            一〇、〇〇〇・〇〇
会費                   一、四六一・〇七
雑収入                    二四三・三八
寄附金                 二五、九六〇・〇〇
合計                  三七、六六四・四五
        支出之部
什器買入                    三七・八〇
通信費                     一四・〇五
消耗品費                    五五・八三
印刷物費                 二、六七四・九一
図書購入費                  一七八・四二
給与費                  二、〇三七・八二
報酬                     二八九・〇〇
雑費                   二、八五一・二〇
銀行預ケ金               二七、五七九・二四
手許現金                 一、九四六・一八
 合計                 三七、六六四・四五
  (備考)
   銀行預ケ金内訳
    第一銀行当座預金        一三、〇九六・四〇
    三井銀行小口当座預金       六、六二二・八四
    三菱銀行特別当座預金       七、八六〇・〇〇
 尚、寄附金の事に就て説明申上げますと、最初の計画は本会に若干の基本金を集め、その利子で年々の経費を払うと云ふ説もありましたが、色々相談の結果、結局年々の必要なる費用を直接寄附によつて集
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めると云ふことに定まり、当分三年間会の費用を弁ずる為、寄附金を約束せらるゝ事になり、渋沢会長の御尽力によりまして相当の額が集まる事になり、其中既に払込みになつた方は二万五千九百六十円程手許にある次第であります。
  議長(子爵渋沢栄一)
 寄附金募集に就きましては、私が寄附者に交渉致しました故、尚一寸敷衍して井上君の御報告に申添へやうと思ひます。
 一体本会の費用は相当の基金をまとめて、此親金から生ずる利子で経営して行くと云ふのは最も安全な方法でありまして、此意味で有力なる方々に御依頼してみたのであります。殊に昨年九月総理大臣官邸に於て京浜の有力者にお集りを願つた場合には、首相からのお話もあり、又私よりもお願ひして、大体は御諒解を得たのでありますが、其後打寄つた相談では親金の利子で経営するよりは、年々必要な費用だけを寄附しやうではないかと云ふことに、寄附者側の御意嚮は傾いたので、夫も一応尤ものことで、親金を集めては之を不利益に運転しないとも限らぬ虞れがあります故、寄附者の御承知を得まして、年々出して頂くことに致しました。年限は不取敢三年と定め、極概略を申せば此寄附によつて向ふ三ケ年間、毎年六万円程の収入が得らるゝことになつて居ります。実は毎年八万円程を募集し得る見込みでありましたが、其中二万円は十三・四名の方々が御申出でなかつた為、未だ契約に立至つて居りません。尚或筋からの補助も未だ充分完結は致しませんが、民間の寄附と同じ位得られるか如何か未決問題であります。会の費用としては幹部の見込みでは年十五万円位は是非欲しいと云つて居りますが、微力にして私は今の処、何とも申上げることは出来ないのであります。
  井上会計監督
大正十年度収入支出の予算は次の通りであります。
        大正十年度予算
          収入之部
                            円
寄附金                   五二、六六六・〇〇
会費                     一、五〇〇・〇〇
雑誌及単行本売上代              二、〇〇〇・〇〇
雑収入                      五〇〇・〇〇
前年度繰越金                二九、五二五・四二
合計                    八六、一九一・四二
          支出之部
俸給諸給   書記長             三、六〇〇・〇〇
       書記              八、六四〇・〇〇
       嘱託手当            一、二〇〇・〇〇
       雑給              二、四〇〇・〇〇
事務費    事務所借料           四、二〇〇・〇〇
       図書購入費           一、〇〇〇・〇〇
       通信及逓送費          一、〇〇〇・〇〇
       文房具及消耗品費        一、五六〇・〇〇
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       雑費                三〇〇・〇〇
       宴会費             一、〇〇〇・〇〇
講演会諸費                  三、〇〇〇・〇〇
印刷物刊行費 雑誌             一六、〇〇〇・〇〇
       単行本             四、〇〇〇・〇〇
海外代表派遣費及聯合会費分担金       一〇、〇〇〇・〇〇
事務所設備費                一〇、〇〇〇・〇〇
翌年度へ繰越金               一八、二九一・四二
 合計                   八六、一九一・四二
 実は初年度である為、此予算は極めて拠処が少い為に或は決算になりました際大分狂ひが生ずるかと思ひます。
 予算を御覧下されば之では不足であらうと思召す点もございませうが、先刻会長自らの説明もありました如く、寄附金の未決定のものもありますし、今後だんだん機会ある毎に寄附金を増すと云ふ御考への様でありますから歳入に於てもだんだん殖えることゝ思ひます故、歳出の不足は之によつて償ひ得ることゝ考へて居ります。何か御質問でもありますればお答へ致します。
  議長(子爵渋沢栄一)
 別に御質問はございませんか、では昨年度の決算、本年度の予算なるものは之で御承認下されたことゝして宜しうございますか(異議なしと呼ぶ者あり)全会一致で確定致しました。
 夫では本会を法人組織に致したらよからうと云ふ議が理事会に於て起り、評議員会に於ても賛同を得ましたに就ては御手許に差上げたる定款の原案を作成致した次第であります。之に就て御協議を乞はねばなりません。
穂積理事に御説明を願ひます。
 穂積理事の会則説明演説は、雑誌印刷の都合により次号に譲る。
  富谷鉎太郎
 私の希望を申上げます。本会を社団法人とすれば社員の資格――得喪に関する規定は、随分八釜敷い問題にならうと思ひます、併し誠意を以てお互ひに集つてゐる人達の会でありますから、利益を目的とするものでもなく、娯楽の為の会でもなく、公益の為の会でありますから、此点は成可く八釜敷くないことに願ひ度い。退社の場合は理事会の決議によつて定めて頂きたいと思ひますが、皆様の御意見は如何でございますか。
  議長(子爵渋沢栄一)
 唯今の御発言の趣旨は退会の規定は定款に書入れておく方がよい、その方法は成可く簡単にしたい。但し文案は提出はせぬけれども理事会で定めてもらいたい、かう云ふ御趣意に承りましたが、……
  富谷鉎太郎
 その通りであります。
  議長(子爵渋沢栄一)
 唯今の事は皆様は御異存はございませぬか。(異議なしと呼ぶ者あり)夫では唯今の御意見に従ひ、理事会に於て社員の資格喪失に関す
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る規定を余り窮屈にならぬやうに決定して、定款に加へることに致します。
  穂積理事
 夫から二・三唯今諸君の御承認を願つておきたい事があります。
 此定款案を御決議になれば、之に基いて法人設立の手続きをしなければならぬ、夫には主務官庁の認可を得なければならぬ、主務官庁は外務省であるか、内務省であるか、文部省であるか、兎も角認可を得るに就ては、此定款案の大原則に変更を来たさゞる限り多少字句の修正を必要とする場合がないとも限りませぬ故、その際は理事会の相談で夫を決定し、後より報告することに致して宜しうございませうか。次に此会の財産を法人の財産に移転すると云ふことに、会員の方々から御承認を願つておきたい。
 又此総会は、本会が社団法人になつた時の定款の案を決議すると同時に、夫迄の本会の規則となる会則の改正を御協議願ふ訳であります故、本会が法人になつた上で適用出来ない規定がありましたならば、夫は法人組織に至る迄の会則と諒解して宜しうございますか(異議なしと呼ぶ者あり)
  議長(子爵渋沢栄一)
 夫では定款修正の分は後から御報告致します。字句に就ての修正は大体妨げない場合は、理事会にお任かせ下さるとして、その意味に於て全会一致御決議と致します。左様御承知置き願ひます。
      役員改選
  議長(子爵渋沢栄一)
 続いて役員改選の議事に移ります。
  一会員
 私は甚だ僭越でございますが、諸君の御賛成を得て会長・副会長は御留任を願ひたいと思ひます。(賛成と呼ぶ者あり、拍手起る)
  一会員
 理事・監事・評議員、之は会長の御指名に願ひ度いと存じます、どうか諸君の御賛成を願ひます(賛成と呼ぶ者あり)
  議長(子爵渋沢栄一)
 全会御異議がございませぬならば、此席から御名前を申上げるやうに致します。御希望によりまして会長・副会長は、現在の者を再選することになりました故名前は申上げませぬ、理事として井上準之助君・林毅陸君・穂積重遠君・吉井幸蔵君・田川大吉郎君・頭本元貞君・山田三郎君《(山田三良)》・山川端夫君・近衛文麿君・姉崎正治君・秋月左都夫君・宮岡恒次郎君、此の十二名を指名致します。夫から更に監事は大倉喜八郎君・団琢磨君・江口定条君、此の三名を指名致します。評議員は多勢でありますから、此処に一々申上げることは差控へて後から御報告申上げます。夫では此で役員改選は結了致しましてございます。
  動議
○男爵阪本俊篤君 私は此際一の動議を提出致したいと思ひます。それは諸君も御承知の通り、帝国の委任統治に属しまする「ヤツプ」島に対する米国の行動は、殆ど此国際聯盟を無視し、如何にも不都
 - 第36巻 p.432 -ページ画像 
合な行動であります。若し斯様な事柄を不問に置きます時には、第二・第三の「ヤツプ」問題を惹起さんとも限らぬのであります。本会は宜しく此際相当の行動に出ることが必要であらうと思ひます、就て此際速かに評議員会を開催されて、適当の処置を執ることを希望致します。此動議を提出致します。
○議長(子爵渋沢栄一君)阪本君の御説は評議員会を開けと云ふのでありますか。
○男爵阪本俊篤君 評議員会を開いて、さうして其評議員会に於て如何なる行動を執るかと云ふことを表決致して、それに依て行動せんことを希望致します。
○副会長(男爵阪谷芳郎君)阪本男爵の動議も賛成したいのでございますけれども、理事会に評議会《(先づ理事会で決めて其上で評議員会)》を開くと云ふ順序でございますから今日直ぐ開けと云ふのでありますが。
○男爵阪本俊篤君 別に今日直ぐと云ふ希望ではありませぬが、事実は切迫致して居るやうでございますから成べく早い機会に於て、或は今日此後御開きになりましても差支ない、又事の順序と致しまして理事会を開いて、続いて評議員会に移すと云ふことになりましても、其辺のことは一向私は異存はありませぬ。
○副会長(添田寿一君)既に此問題に就ては理事会で大に考慮を巡らして居ります、就きましては如何でございませうか、阪本男爵に御相談でございますが、先づ理事に調査をすべしと云ふことだけの御議決に願ひまして、其上必要でございましたならば委員会、若くは総会までも開くと云ふことを、理事会の決議に御譲りを願ひたいと思ひます。
○男爵阪本俊篤君 それで異存はありませぬ。
○議長(子爵渋沢栄一君)唯今「ヤツプ」問題に付て阪本君から動議が出ましたが、是は重要の問題でありますから理事会で十分審議して、如何なる手続を執つて宜いか、若し必要がありますならば進んで評議員会若くは総会に掛けると云ふまでのことは、兎に角理事会で十分審議して見るが宜からうと云ふ御提案でございますが、之に就て何か御意見がありますか。
    (「異議なし」と呼ぶ者あり)
○議長(子爵渋沢栄一君)全会御一致でございますれば其通り決します、御提案の通り決議致しました。
○亀井陸良君 私は順序を詳しく存じませぬが、国際聯盟協会に対して一の希望を有つて居る者でありますが、此席に於て述べて差支ありませぬか。
○議長(子爵渋沢栄一君)宜しうございす。
○(亀井氏の演説は別欄に掲ぐ)
○議長(子爵渋沢栄一君)唯今亀井さんの御演説は大分重大な問題でありまして、或は軍備縮小とか、或は山東撤兵とか、或は労働法規の制定とか若くは阿片の問題とか、何れも私共個人としては相当の同意を致して居ることでございますけれども、果して国際聯盟協会に於て之を提案にするや否やと云ふことは、多少の疑義を有つて居
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るのであります、希望としては亀井さんに譲らぬでも、此会で果して大声叱呼が出来るや否やと云ふことは、余程考物ではないかと思ひます。唯今の御希望は既に「ヤツプ」問題に就て阪本男爵の御建議もございますが、併し此趣意の次第も能く諒解致して居りますから、理事会を早速開いて十分研究致しまして、理事会の評議に依ては更に評議員会にかけることに致します、それだけに御止め置き下すつては如何でございますか(亀井氏承諾す)
○(伊達源一郎氏の質問は別欄に掲ぐ)
○太田正孝君 唯今いろいろ御説が出ましたが、其中にたつた一言私は申述べたいと思ひまするのは、此国際聯盟に於ける労働会議の結果、日本に於ても労働法規と云ふものに対しては、早晩是が完成を期せなければならぬと云ふ立場にあることは、私が申上げるまでもない話であります、其労働法規が七月一日までに編纂することになると考へます、去りながら兎に角本年の議会に於きまして、懲戒法案と云ふやうなものが政府から提案されましたが、それも国際法規の一種であつて、矢張り国際労働の法規の完全を期する一端であらうと思ひます、此場合に於て尚ほ政府が此労働法規の成案を得て、一日も早く制定されることを私は希望致して居りまするが、是が問題は要するに重大な問題でありまして、此国際聯盟協会が慎重に之が審議の任に当ることは、果して過当の仕事ではないと思ひます、又此問題に就ては政府と言はず、其他の智識階級若くは労働階級までも、共に慎重審議をして完全なる法規を得たいと考へて居りますから、理事会に於ても、此労働法規の問題に就ては、慎重審議御研究を願ひたい、其結果と致しまして、会長から御話の評議員会にかけるか或は総会にかけるなり方法もありませうが、兎に角慎重に御研究を願いたいと云ふことを、私は一言希望致して置きます。
○議長(子爵渋沢栄一君) 別に御発言がありませぬければ、之で議事は結了致してございますから、唯今阪本君の御論旨は理事会に於て早速審議することに致します、さうして亀井君の御希望の四箇条は大問題でございますが、能く篤と注意を致して評議の模様で又或は評議会に掛けるとか総会に掛けるとか、今此処で申上げることは出来ませぬが十分研究することに致します、それから会の性質に就て伊達君の動議は、副会長から申上げまして、大体は御諒解のやうでございますが、之も能く攻究致しませぬと、斯う云ふ新しい仕事は兎角銘々の考へやうに依て範囲が広くも解釈出来、狭くも解釈出来る虞がありますから、此範囲を御互に皆さんに能く諒解の出来るやうに致したいと思ひます、今日既に斯う云ふ御発議があつたに就ては、此範囲と云ふものは能く研究致して、或機会に申上げたいと思ひます、それでは是で会を終ることに致します。
   午後五時三十分
  総裁 公爵 徳川家達
 私は総裁と致しまして一言御挨拶を申します、国際聯盟協会は創立以来玆に一歳を経まして、内部の組織次第に完成を告げまして、資金も相当醵集することを得ましたことは、協会の為は勿論、邦家の為に
 - 第36巻 p.434 -ページ画像 
真に御同慶の次第で御座います。
 此点に関しましては、渋沢会長、阪谷・添田両副会長を初め、其の他の幹部諸君が幾多の困難を排して、着々所期の目的を遂行せられましたこと、及賛助員諸君に於て財界不況の際にも拘らず、進んで本会の為資金醵出を承知せられたことに対し、特に感謝の意を表し度く考へます、又講演に雑誌に献身的御尽力下されました諸君に対しても、同様深く感謝を表したいと存じます。
 国際聯盟の将来に於きましては、御承知の通り尚ほ幾多の障礙が横はつて居りまして、容易に楽観を許すものでないと存じますけれども我が国民が聯盟至高の目的達成の為、各国民と相提携致しまして進みまして、苟も我国策の根本に対し、世界の誤解及非難を招がざらんと努むることは、真に急務中の急務と確信して居ります。
 今や協会内部の組織も略ぼ完成を告げ、是より稍々所期の活動を開始せんとするに当りまして、庶幾は会員諸君一致の御努力に依りまして、本会をして益々国際平和に対する我が国民外交の機関たる、其本分を発揮せしめられんことを、切に希望致す次第であります。
 是だけを申上げて御挨拶と致します(拍手)
  外務大臣 伯爵 内田康哉君
 本日、我国際聯盟協会の第一回の総会を催されまして、又此盛宴を張られまして、私御招待を受けて玆に末席を汚すことを得たのは、洵に光栄と存ずる次第でございます。
 国際聯盟のことに就きましては、私が彼此申上げるまでもなく悉く御承知のことゝ思ひます、私は実際其事柄に関して居りますから、一言申上げるのは果して其当を得ないことでないと思ひます。
 御承知の通り此国際聯盟は、昨年の一月十日対独条約が実施されると共に、正式に成立したのであります、併し国際聯盟なるものは、其前よりも活動を始めて居るが、昨年一月十日以後は、誠に活溌に運行をして居る次第である、世の中には国際聯盟の将来に対するいろいろの非難の説を吐く人もある、又其様な考を有つて居る人もあるやうでございますけれども、是は天下の大勢に私は帰着することゝ思ふ、既に昨年以来、第一の総会又理事会の如きは、十何回も開かれて居る次第でございます、此を我国の関係より申しましても、外務省では此国際聯盟に余程時間を費して居る、殊に最も私等の頭を悩まし、又時間を費したのは、各種の委員会が此国際聯盟の下に開かれて居ることで即ち軍事上にも、交通通信のことにも、亦経済財政にも、或は裁判所等に関して、各種の委員会が開催されて居ります、それに矢張り日本でも相当の人を出さなければならぬ、其人の撰択に非常に困つて居る中々我国に人才も居りますけれども、偖て此委員会の委員を選定しやうと致しますれば、此方より要望の出来る人には断はられ、中々其適任者を得ることには、苦心して居る次第であります、併し幸に此国際聯盟の重大なる、且つ我国が此国際盟聯者《(衍カ)》に関係することは、自己の大なることを感知されて居る次第でございますから、無理な註文も為し、既に閉鎖委員会には柳田君の承諾を求め、又聯盟規約改正委員会には、鳩山博士が先方へ行つたやうな次第であります、又常設裁判所
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の方の会議にも、それぞれ委員を指名して先方に出したやうな次第である。
 斯の如くして此国際聯盟は、独り日本のみならず各国に於ても余程重きを措いて、此運行を忠実にせしめん為には、皆苦心して居る次第でございます、他の方面より考へれば国際聯盟は、所謂創設の際であつて、未だ会自からが結局の主宰権を有つて居ない、間接に各国政府の助けを藉らなけなればならぬのでありますから、私等の理想とする所の国際聯盟の力が、充実して現はれるまでは遠いことであらうと思ふ、併し斯の如き困難なる場合に於きましても、今日までの国際聯盟のことは私は余程満足して行くものであらうと思ふ、今後益々発展して行くであらうと思ふ、唯御承知の通り国際聯盟は、結局は世界を包括するものである、今日は此国際聯盟に加入して居る国もまた此事に慣れて居ない次第でありますから、今後の困難、又責任が重く且つ大なる次第であります、何事も初めより満足するやうに行くものではないのであります、又斯の如き重大なる千古に企てられざりしものが、兎も角も其形を備へ、是より世界に於て活動せんとするのでありますから、無論今後の困難なることは覚悟しなければならぬ、併し結局未だ参加せられざる所の国が参加して、お互に十分に満足すべき国際聯盟が現出すべきものであらうと思ふ、之に向つて我国が十分に努力を今日よりすることは、我が国威を揚げ又我国の義務としてせざるべからざる次第であります、幸に本協会が成立致しまして、其総裁に又其会長に副会長に、又理事の方々に申分のない御方々を得た次第であります、誠に此総会の為に喜びであるのみならず、我国が国際聯盟の発展に貢献するのに、洵に宜き機関を組織されたことゝ思ひます、結局国際聯盟の将来の成功は、政府の努力に俟つよりも、是は民間の努力に俟たなくちやならぬ、政府のすることは、或は政府の考へが主になることもありませう、又此方は実際誠実であつたものも他の方に疑はれることもありませう、それ故に此協会が成立致しましたことは、洵に私は衷心より慶賀に堪えざる次第であります、殊に我国はいろいろ人情を欧米と異に致しますから、或国に於ては、我国を称して好戦国又武断国と称して居る、斯の如き間違つたことはないのであります、我日清戦争と云ひ日露戦争と云ひ、決して戦略的の主義から出たのではない、結局は極東の平和を確立せんが為に鋒を取つたのである、平和の維持、平和を主張する所の強き精神から寧ろ鋒を取つたので、此日清・日露の戦役でもそれを立証して居るのである、今後もさうであらうと思ふ、願くば極東の平和に限らず、世界に対する所の平和の主張をして益々鞏国ならしめ、又其主張を全世界に宣伝せしむるやうに努力致したい、其大なる運行は、私は今日の第一日の総会を開かれました所の、此国際聯盟協会の主たる目的であらうと思ふ次第であります、何卒此点に就て、十分の御努力を希望せざるを得ない次第であります。
 私は遅刻致しまして如何なる決議を為しましたか、唯今総裁閣下より承りました所に依りますれば、愈々此協会を、法人組織にすると云ふことに決定されたさうでありまして、是亦本協会の発展に其歩を進
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めたことゝ思ひます、洵に慶賀に堪えませぬ、今日御招待を蒙りました御礼を申上げると同時に、本会の将来の発展を希望して聊か祝辞を述べました次第であります。(拍手)
      (三)国際聯盟協会の性質について
                      伊達源一郎
○一寸本会の性質に就て、役員の方に強いて伺うと云ふのではありませぬが、一般の方に伺つて見たいと思ひます、それは此会則の第一条に、国際聯盟の精神達成と云ふやうに書いてございますが、此国際聯盟と云ふのは「ヴエルサイユ」条約の場合に於て、締結せられたる所の国際聯盟であるか、広く国際的に平和を保つて行くと云ふ精神であるか、それが余程混同せられて居るやうであります、理事会等に於ても、いろいろ御話があつたやうでございますけれども、的確に如何に考ふべきであるか、又吾々の考へ様に依りまして、唯今のやうにいろいろな御発言・御意見もありますが、斯う云ふ問題に対して協会が行動をするに当つては、どの範囲に基くかと云ふことを、決定して置かなければならぬと思ひます、若も此目的が不明瞭であり、国際聯盟協会と云ふ会が一般外交のことに就て、総て活動すると云ふことになつて来たら、可なり六かしいことになつて来はせぬか、或人は狭い意味に解して居り、或人は広い意味に解して居る、私は意見を申上げるのではありませぬが、考へ様に依て唯今申上げたやうに、直接行動が自然に決定されると思いますが、是が強いて明白に是だけと云ふやうに、会長及び理事の方の御決定を敢て願ふと云ふ訳ではありませぬ、唯今六けしい問題であらうと思ひますので、いろいろ此会議に於て御意見を伺ふことが出来れば仕合せであります、もう一つは本会の性質に関して、会員のことでございますが、唯今穂積博士からの定款の御説明の時に承りますると、可なり是が広く大きな会になつて、後には手紙の通知でなく、新聞雑誌に依て通知すると云ふことであります、又予算を見ますると、五百名ばかりの会員と云ふことが予想されて居るやうでありますが之も中々決定仕悪いことであらうと思ひます、本会の会員は、少数の識者に依て組織すべきものであるか、或は大に会員を募集して赤十字社のやうに、総会は日比谷公園で開くやうにするのか、そこ等の方針をこゝで決めて置くことは会の為に宜いことであらうと思ひます、自分ではどうすると云ふことが決らず、自分で迷つて居るやうな次第でございますから、此機会に於て、いろいろ此事に就て承ることが出来ますれば仕合であります。
○副会長(添田寿一) 私の解釈致して居ることだけを御参考に申上げます、第一条其他にありまする国際聯盟なるものは、正しく千九百十九年六月二十三日調印になりましたる所の、其聯盟に基きまして設られたる聯盟協会と解釈致します、詰り固有の名詞と解釈致します、然らばそれが名前が変つたならば、どうかと云ふやうな、例へば御議論がございますれば、精神が同じでありますれば、少しも差支ないと云ふことが、第一条に設けてあります、それから第二の御尋の会員の範囲でございます、成べく是は国民的の理想の下に、
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打算しなければならぬと思ひます故に、会員は決して、智識階級の一部分に限るべきものではないと思ひます、それは既に皆さんも御承認になつて、本日御決議になりました第二十条に、会費は僅かに年額三円となつて居ります、是は詰り成べく其額を少なくして、広く会員を得たいと云ふ積りであります、どうぞ左様御承知を願ひます。
○議長(子爵渋沢栄一) 只今の添田君の御説明は御諒解下さいましたか。
○伊達源一郎君 是は決定になつて居れば誠に明かなことで、それで宜いのでありますけれども、考へれば如何様にも考へられる問題でございます、今の御答に依りますと、国際聯盟と云ふのは、千九百十九年六月二十三日の「ヴエルサイユ」で調印せられた、彼の第一篇のものであると云ふことでありますが、之もそれで宜いとすればそれで宜いと思ひます、されども「ヴエルサイユ」の聯盟協会と云ふやうなものでも、現に彼の聯盟は不完全であつて、あの聯盟ではいかないと云ふ議論をして居る者がないでもない、さう云ふ聯盟を達成すると云ふことは、果して本会の目的であるかどうかと云ふことは、可なり議論があるだらうと思ひます、今日の聯盟会などはいろいろな意味で開かれて居りますが、聯盟会に参加することは彼の意味でありませうけれども、彼の聯盟と云ふものが果して此会の目的であり、彼の聯盟の精神が此会の目的であるかどうかと云ふことに就ては、いろいろな議論があると思ひますから、私は副会長の御考へで、本会の目的は既にあると云ふことであれば、それで宜いのでございますけれども、詳細の御意見を此際承ることが出来れば仕合せであります。


国際聯盟 第一巻第四号・第一四一―一四四頁大正一〇年七月 一、世界平和の為に誠意を披瀝せよ 亀井陸良(DK360168k-0002)
第36巻 p.437-439 ページ画像

国際聯盟 第一巻第四号・第一四一―一四四頁大正一〇年七月
    一、世界平和の為に誠意を披瀝せよ
                      亀井陸良
 国際聯盟協会が成立して玆に一年、此間に於て総裁・会長・副会長其他理事の諸氏が熱心に奮闘せられたることは、我等会員一同の深く感銘する所である。尚今後此協会が益々盛大に趨き、益々広く社会より其存在を認めらるゝに至るべきことは、極めて必要であると思はれる。○中略
 先づ第一に国際聯盟は周知の如く、世界の平和を増進し、大戦の惨禍を防遏しようとの考へから出て居るのであつて、其最も重要とする所は、軍備縮小、軍備を如何にして制限するかと云ふ問題である。此問題は既に米国に於て又英国に於ても盛に論議せられ居る。日本に於ても熱心なる論者の一人たる本協会員尾崎行雄君によつて建議案が衆議院に提出されたけれども、賛成者の少数なりし為、即決否決されたのである。然し此軍備縮小問題は国家の利害に関する最も重大なる問題であつて、之を研究することは極めて緊要なことである。本会も創立以来玆に一年、而して此間に於て幹部諸君が種々苦心せられたる事の多きは勿論であるが、斯の如き重大なる問題に関して、又各国に対
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しても、日本の国家及び国民の決心を示す所の機会を掴へて、本会が何等かの決議を以て、此意思を表示することは極めて重要なことであると思ふ。既に国際聯盟の仕事として、或はゼネバに、或は巴里に、我国からも代表を派遣して政府も相当に苦心して居るやうであるが、此聯盟協会も此事に就て研究し、会としての意思を表示することが極めて必要であらう。海軍の縮小に就ては既に種々の議論が交換せられ又或は協定をしなければ日本に於ても縮小は出来ないかも知れないが陸軍に就ては、我々の意見としては、之は日本独特のもので、或程度迄縮小も出来ると考へて居る。協会の仕事として、斯の如き問題にも注意を払ふことは極めて必要であると思はれる。
 第二には山東問題である。之は一昨年巴里に於て我主張が通つて、山東が独逸から直接に日本に来ると云ふことになつたのであるが、頑冥なる支那は其後に於ても直接交渉に応ぜずして、彼我の間幾度の交渉をして居るが、かゝる問題も国際聯盟の重要事項であると思はるゝに拘らず、今日まで顧みられて居ない。之を如何にするかは暫く措くとしても、少くとも日本は山東に於て何故に今日依然として駐兵して居るか、支那に還附すると誓ひつゝも今日に於て依然として山東の一角に於て陸軍大将を派遣し、済南府に於て堅牢なる無線電信を以て軍事行動をして居る。之は亜米利加或は支那人の言ふが如く、何等の野心があつて之を持続して居るのでは毛頭ないに違いない。然し乍ら、斯の如き無用なることを何時までも継続して居る理由が何処にあるか之は一日も早く撤兵して、即ち日本として為すべきことは当然為さなければならぬのであつて、若しも支那が応ぜぬにしても相当の手続きを尽して、且つ青島の如きは軍司令部を廃して総領事でも置くことが最も緊要である。巴里会議の当時珍田・牧野両全権が山東会議に於て日本は還附する、且つ出来るだけ早く撤兵すると云ふことを果して誓はれたか否かは分明しないが、少くとも日本は一日も早く撤兵すると云ふ意思があつて、而してウイルソンは日本の両全権は最も信用すべき紳士であるとし、其最も熱心なる最も真実を籠めたる言葉に感じて亜米利加の各全権の反対にも拘らず日本の要求を容れたことは、ランシング卿の手記に於ても言明して居る所である。斯の如く日本の両全権は大に誠意を披瀝して山東の撤兵に就いても熱心に主張されたと思はるゝに関らず、今日まで依然として少くとも一聯隊の兵を山東の野に駐めると云ふことは、公平なる第三者の立場からしても、山東は日本が依然として領有する意思ありと云ふ風の疑ひを容れる余地が存在するのである。斯の如く日本は今日行詰りの状態であつて、殆ど四面楚歌の声で、自ら利益を得る所は尠いと云ふやうな次第であるが、此協会の如きは最も熱心に山東の撤兵を主張することが必要であらうと思ふ。或は此問題は困ると云ふやうな考へがあるかも知れないが、事外交の重大問題に関係して居る以上、斯の如き問題に容喙することは決して僭越過当のことでないと思ふ。
 第三は華盛頓に開かれた国際労働会議である。此点に就ては衆議院に於ては問題は無かつた様であるが、貴族院に於ては江木翼君よりして原首相其他に就て質問があつたやうである。之は労働会議終了後十
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八ケ月を経れば実行すると云ふことになつて居る、「コムピテント・オーソリテイ」と言ふ言葉を使つて居るやうであるが、それは千九百二十一年七月一日を以て其期と決定して居る。今後二ケ月を余すのみであるが、今日まで見る所では其法規に関する法律は議会にも提出せずして放棄してある。如何にして此問題を処理するか知らないが、若しも此七月一日までに何等かの事をしなければ、日本は世界に対して信用を失ふことになる。斯の如き重大なる国際関係に於て、日本が信用を失ふか否かと云ふことに就て、国際聯盟協会が無言で居ることは余り面白くないことゝ信じて居る。協会はかゝる問題に就て政府を鞭撻し、国民の輿論を喚起すべき必要があらうと思ふ。
 第四には阿片問題である。此問題は兎に角聯盟の規定篇にもある通り、阿片、其他の有害物に関するものを禁ずると云ふ申合のやうである。私も阿片に就ては余程以前より、日本の関東州及び青島其他への阿片密輸入に就て攻撃して居た一人であるが、既に議会の問題になつて内外に日本の恥を曝すことになつたのは実に赤面の至りである。平生忠実信義を叫んで種々なことを言ひ、或は日支提携して東亜の平和を促進せねばならぬなどと言ふ其日本人が、其言葉の下から、日本国民の手から如何なることをするかと云ふと、阿片・モルヒネの密輸入をして多くの支那人を殺して居るのである。之は先日東亜新聞協会に於ても、支那人の一人京津泰晤士報漢文欄主筆熊少豪と云ふ人が、此人は天津に居るのであるが、山東・直隷に於て一年に阿片・モルヒネ・コカインの中毒の為に死する者十万人だと言つて居る。之は大袈裟かも知れないが、兎に角山東・直隷其他に、日本人の少数者の手に依つて密輸入して利益を貪つて居る、我々が殆ど夢想もしないやうな手段をやつて、支那人の深い恨みを買つて居るのである。斯の如きことは国際聯盟協会としては仮借する所無く発いて、其不正手段の実状が分明となつたならば、之が禁止に充分尽力することが必要である。
 其他希望は種々あるが、先づ以上述べた所の四つ、即ち第一は軍備縮小問題、第二は山東の撤兵問題、第三は労働法規の制定、第四は阿片問題、斯の如き重大問題に就て、協会は此際大いに其威力を発揮して、日本国民は決して徒らに利益を貪つて居るのではなく、協会としては極力此問題に尽力するの意思を、内外に表示することが極めて必要であると思ふ。
○下略


竜門雑誌 第三九六号・第七一頁大正一〇年五月 ○国際聯盟協会(DK360168k-0003)
第36巻 p.439-440 ページ画像

竜門雑誌 第三九六号・第七一頁大正一〇年五月
○国際聯盟協会 青淵先生の会長たる国際聯盟協会第一回総会は、二十三日午後三時より築地精養軒に於いて開会せられ、出席者約七十名あり、先づ青淵先生議長席に着き開会の辞を述べ、添田副会長の事務報告、理事井上準之助氏の会計報告及予算の説明ありて、協議事項に移り
 (一)役員改選の件は会長・副会長は重任となり、理事は多少の変更を加へ、(二)国際聯盟協会を社団法人となす件は、原案に多少の修正を加へた後、之れを可決
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次で阪本俊篤男より「ヤツプ島問題に対し本会の意思を表明すべし」との緊要動議出でしが、頗る重大問題なるより理事会に一任する事となり、更に亀井陸郎氏《(亀井陸良)》は
 (一)軍備縮小問題(二)山東撤兵問題(三)華府の労働会議に於て決議した労働法規の提出(四)阿片問題に関し如何なる態度を採る可きや
等に関し質問する所あり、是亦理事会に移す事となり、議事を終り、徳川総裁の挨拶ありて後晩餐を共にし、次で内田外相の演説、外務省参事官長岡春一氏の講演ありて散会したる由なるが、尚同会は発会後一箇年を経過し、愈々基礎出来せるより、今後は専ら其目的を達成するに努力する一方、該協会の主意を徹底せしむる目的を以て、左記懸賞論文を一般より募集する事になりし由。
 (一)国際聯盟と国家主権との関係に関するもの(二)委任統治に関するもの(三)国際聯盟を経済的方面より研究せるもの(四)国際聯盟と人種問題に関するもの(右一等百五十円一名、二等七十五円二名、選外若干)
 其他(一)新日本の世界的使命(二)国際政治道徳(三)独逸は何故に敗れたるか等に関するもの(右一等五十円一名、二等廿円五名、選外十円若干)



〔参考〕集会日時通知表 大正一〇年(DK360168k-0004)
第36巻 p.440 ページ画像

集会日時通知表 大正一〇年 (渋沢子爵家所蔵)
五月九日 月 午後四時 国際聯盟協会相談会(同会事務所)
   ○中略。
五月十七日 火 午後三時 国際聯盟協会講演会(帝大講堂)