デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.20

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

3章 国際親善
3節 国際団体及ビ親善事業
13款 社団法人国際聯盟協会
■綱文

第37巻 p.147-153(DK370026k) ページ画像

昭和2年5月(1927年)

当協会第七回通常総会ノ決議ニ依リ、是月栄一、当協会会長トシテ、文部大臣三土忠造ニ対シ、青少年ニ対スル国際聯盟知識普及ニ関スル建議書ヲ提出ス。


■資料

国際聯盟協会書類(三) 【(謄写版) 建議案】(DK370026k-0001)
第37巻 p.147-150 ページ画像

国際聯盟協会書類(三)          (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
    建議案
国際聯盟の至高なる目的を国民に理解せしめ、その偉大なる事業に翼賛すべきを奨励するやう諸般の施設を講ずるは、聯盟内に於て重要なる常任理事国の地位を占むる我国、当然の責務なりといふべし。而して其の施設中、最も有効喫緊なるは我国民教育を初め、教育界の全般に於て聯盟の目的事業を、次代の国民たるべき青少年に教育するに過ぎたるものなし、国際聯盟はその目的達成上、教育の力の重要なるを認め、曩に第五回聯盟総会に於て「総会は加盟各国政府が各自国内の青少年に対し、国際聯盟の存在及目的並に聯盟規約の条文を教育せられんことを勧告す」との決議を為せり、此の勧告に従ひて各国政府及び私立団体が諸種の施設を講じつゝあるは、聯盟事務局調査の明示するところなり、而して聯盟内の学芸協力委員会によりて招集せられたる教育専門家小委員会は、右の勧告を実施するの具体的方法に就きて考究した結果、遂に別紙の如き一の勧告及び指示事項を作製し、之が第四十一回理事会及び第七回聯盟総会の採択を得て、各国政府に回送せられたるを以て、我が文部省に於ても此点につき相当の措置を執られ居るべきを信ずるも、猶此際一層積極的施設を講ぜられんことを、聯盟協会第七回総会満場一致の希望に基きて建議す。
  昭和二年五月
                国際聯盟協会々長
                    子爵 渋沢栄一
    文部大臣 三土忠造閣下

    学芸協力委員会の教育専門家
    小委員会の勧告及指示事項
      勧告
 国際聯盟の存在並に目的を青少年に教授するに関する各国政府、並に関係国際団体よりの回答の希望及意見を審議して、専門家小委員会
 - 第37巻 p.148 -ページ画像 
は次の勧告を提出する。
      直接の公式方法
一 凡ての青少年はその正規の教育中に、その智力に応じて適当に国際聯盟の事業及目的、即ち国際協力の発展に就て、教授さるべきである。
二 此の教授は学校の正科に於てなさねばならぬ。特に師範学校に於ては、この点を顧慮する要あり、又右に関する問題が師範学校の試験に課せらるべきである。
三 聯盟の事業に関する教授は、小学校から始むべきである。
四 少年及少女の教育が別々に行はるゝ国に於ては、少年に対すると同じやうに少女にも、此の教育が施さるべきである。
 蓋し青少年の感化に対する婦人の力は重要視すべきだからである。
五 凡ての教師に斯の如き教授を可能ならしめるために、各国政府が現在採用せる学科の中に、此の科目を挿入することを要する。
 聯盟事務局は、右の目的の為め、聯盟の事業を解説せる参考書を編纂すべきである。
六 各国の当局者は、教師に対し聯盟規約を供給する方法を講ずべし
七 聯盟事務局は、教職にあるものをして特別に興味を感ぜしむる聯盟の活動の方面に関する定期的報告を発行し、之を毎回主なる教育雑誌及び新聞に送付する方法を講すべし。
八 普通教育を終了して、専門教育即ち商業学校・補習科・夜学・工業学校・農学校等に赴かんとする者の為め、特に相当の手段を講ずる必要がある。
九 国際聯盟に関する教授の時間及方法は、各国当局者の権限内にある事勿論であるが、しかし、地理・歴史、或は公民科に聯絡して教授するを便とする。
十 此の教育は生徒の一般教育に於て出来る丈け上年級迄継続せらるべきものである。
十一 教師に供与すべき教科資料は、次の如きものであらう。
 イ 聯盟の主義・歴史及その活動に関する参考書。
 ロ 視覚に訴へる教材(幻灯・活動写真等)。
 ハ 各種年齢の児童に対する読物。
 ニ 師範学校に於て之に関する教育を受けなかつた教師に対する特別の教案。
十二 右に関しラヂオを教育上に使用する事も考慮されねはならぬ。
      教育当局者に勧告する其の他の方法
 当局者は各自の国々の状況に応じて、最も適当なるものを次に挙げる方法によつて、更に右教育の奨励・促進を計るべきである。
十三 当局者は次の如き方法により、各種の学校に此の問題の研究を奨励することが出来る。
 イ ゼネヴア其他に於ける講習会に教育家を参加せしめること。
 ロ 毎年特別の一日或は半日を定めて、国際聯盟の目的及事業に関する理解を与へること、その日は特別の祝日或は祭日にしてもよい。
 - 第37巻 p.149 -ページ画像 
 ハ 聯盟に関する懸賞論文を学校の上級生から募集すること。
 ニ 教員の図書室には、聯盟に関する各種資料を備へ付け、又学校内及公衆図書館の児童図書室には、青少年に適当な聯盟に関する読物を備へ付けること。
 ホ 学校外の時間に、青少年の間に設けられた私的団体の便宜を与へること。
 ヘ 試験問題の中に聯盟に関する事項を入れること。
十四 大学教育に於ては、聯盟の問題は一層高尚な立場から取扱ふべきである。特別講座の設置など望ましい所である。
      非公式の方法
十五 民間の団体は次の如き方法により、聯盟の目的及活動に関する教育を促進することが出来る。
 イ 上記の方法の実行について教育当局者を援助すること。
 ロ 学校の希望により、生徒の興味を喚起する為め講演を行ふこと
 ハ 各自団体の青年部・少年部のために講演及び講座を設けること
 ニ 聯盟に関係ある問題につき、懸賞論文の募集をなすこと。
 ホ 聯盟に関する資料及絵画・映画・幻灯等を備ふること。
 ヘ 大学その他高等程度の学校に於て、学生に聯盟関係の問題に関する深い研究を奨励すること。
 ト 成人教育の各種団体に聯盟に関する興味を喚起せしむること。
 チ (一)天災等の危害を被つた他国民を救助し。
    (二)一国の衛生状態を改良する等の問題に青少年をして協力する習慣を養はしめること。
十六 「民衆大学」、家庭教師講習会、労働組合、コオペラチーヴ組合講演クラブ研究団体、教育の目的を有する体育協会、ボーイ・スカウト、ガール・ガイド其他青少年の協会は、国際聯盟の存在及目的に関する教育に貢献することが出来る。
十七 学校の教科普及百科辞書の編纂に関し、政府・科学協会・学術団体、並に教科書の著者及び出版者は、国際聯盟に関する項目を右編著に挿入するやうに努められたい。
十八 教師・著者及び出版者が、容易に参考書を見得る為め、主要なる各図書館は聯盟出版物を備へ、聯盟を取扱つた主なる図書を置くことが望ましい。
      青少年の国際的接触
 本小委員会は、各国の青少年間に直接又は間接の接触を保たしむる件につき、各国政府及国際団体の意見を徴したが、その結果は次の如く要訳することが出来る。
一 相互に了解し合ふことは協力の基礎条件である。而してこの了解を促進せんが為めには、各国間の青少年の直接間接の接触を必要とする。
 二 間接の接触方法としては、次の手段を勧めたい。
 イ 青少年の国際精神を喚起する様な講演、適当なる絵画及映画の紹介、外国の手工品陳列、祭日及びペーヂエント。
 ロ 相当なる教師或は指導者の監督の下に学業の余暇に、学校間の
 - 第37巻 p.150 -ページ画像 
通信交換を行ふ、此の種の通信は絵画・写真・製作品の交換をも含んでゐる。
 ハ 出来得れば、学校間の通信を計る協会を設くる。
 ニ 上記の方法で蒐集された資料の展覧会。
 ホ 適当なる外国の傑作を翻訳し、之を少年雑誌に掲載する。
 ヘ 少年向定期刊行物。
三 青少年の直接接触を奨励するには次の方法がよい。
 是等の方法はその参加者が永く印象を残す年齢の時代に行はるれば更によい。
 イ 家庭間に子供の交換。
 ロ 子供の国際的なキヤンプ、及国際的ホリヂイ、コロニー。
 ハ 団体の遠足。
 ニ 大会及びその他の集会。
 ホ 各国の学校間に於ける生徒の交換。
 ヘ 休暇中の講習会。
四 その国の状態に応じて採用せられた方法により、是等の訪問及交換手筈を定める場合、政府に援助をなすは有志団体の任務である。
五 是等訪問並交換の計画に対し、補助金を交附する方法を研究されたい。
六 旅行上の便宜・旅券・旅券の裏書・賃銀割引を政府に依頼したい
七 国際協力を表象する徽章又は証書の問題は、引続き研究すべきである。
八 生徒交換の為めの右勧告は、青年の牧師及教授の交換にも亦適用さるべきであらう。
九 各国に於ける学業の程度を標準化することは、右の交換を容易ならしめる。政府は早速此の問題を審議する様にされたい。
十 交換に関する各種提案を統一する為め、学芸協力国際学院に一小局を設けるやうにしたい。
十一 最後に、国際聯盟の事業に関し、その国の国語で詳細且つ適切な情報を供給する講演者を、各国教師の為めに提供する事が出来ないものであらうか、聯盟事務総長の研究を望む。殊に地理的其他の事情により、国際聯盟なるものが未だ充分に知られてゐない国々については、特に考慮すべき価値がある。


国際聯盟の目的事業に関する教育に就て 全国の教育者に寄す 国際聯盟協会編 第六―一〇頁昭和二年一一月刊(DK370026k-0002)
第37巻 p.150-151 ページ画像

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冊子版の『渋沢栄一伝記資料』をご参照ください。

〔参考〕世界と我等 第二巻第八号・第二―四頁昭和二年八月 国際聯盟に関する教育を振興せよ 文部大臣 法学博士 水野錬太郎(DK370026k-0003)
第37巻 p.151-153 ページ画像

世界と我等 第二巻第八号・第二―四頁昭和二年八月
    国際聯盟に関する教育を振興せよ
            文部大臣 法学博士 水野錬太郎
 本篇は水野文部大臣が、国際聯盟に関する教育を振興せざるべからざるを声明せんが為に、七月八日麹町永田町の文部大臣官邸に於て本誌記者を引見して談られたるものである。記者はそれを速記したのであるが、猶その正確を期せんが為に更に大臣の校閲を経て玆に掲載したのである。全国の教育家諸氏が大臣の玆に述べられたる趣旨を体し、国際聯盟に関する教育に力を注がれんことを切望する。
 国際聯盟は欧洲大戦後に於て、世界の平和を保持し人類の幸福を増進する趣旨に基き、亜米利加の大統領ウヰルソンの主唱に依つて成立したものである。今日では世界の各文明国殆ど総てが加入して居て、其の数五十五ケ国に達してゐるのである。唯亜米利加・露西亜・墨西哥・埃及其他の二・三の国が這入つて居らぬに過ぎないが、然し亜米利加の如きは表面上加入して居らぬ丈で、事実は加入国と同一に聯盟の発達に努力して居るのである。又独逸の如きは、昨年此の聯盟に加入して以来、熱心に聯盟の発展と世界の平和維持に力を尽して居ると
 - 第37巻 p.152 -ページ画像 
云ふ状況である。
 国際聯盟に関しては種々の議論があり、中には聯盟は無力だと云ふ意見を有する者も無いではないが、併し今日では各国共に世界の平和を保持し、人類幸福の実現を図るには、国際聯盟の力に依らねはならぬことを認め、その発展の為に努力して居ると云ふ状態であり、現に我国の如きも聯盟の創設以来それに加入し、其の常任理事国の一員となつて、我が代表は常に聯盟理事会及び聯盟総会に出席して、その発達に貢献して居るのである。而して聯盟の事業は単に政治的方面のみならず、学問・芸術・経済・財政・交通・保健・衛生・婦人児童保護国際裁判等あらゆる方面にわたり、各国の専門家が協力して熱心に活動してゐるのであるから、聯盟の事業は今後益々世界的に発達して、世界の平和と人類幸福の上に多大の貢献をなす、最も有力なる機関となることと信ずるのである。尚ほ各国に国際聯盟協会なる私設の団体があつて、ジユネーブに於ける国際聯盟の事業を後援し支持せんが為国際聯盟に関する研究調査を為し、或は講演会を開催し、或は印刷物の刊行を為し、各国の姉妹団体との連絡を図つて国際聯盟の事業に協力して居るのである。現に我国に於ても国際聯盟協会なるものがあつて、朝野有力の人が此の協会に加入し国民に国際知識を与へ国際聯盟を理解支持せしむるに努力して居る状態である。
 現在我が帝国は、最早東洋の僻陬に孤立してゐるものではなくして世界各文明国と互に相伍して、国際舞台に立つて活動して居るのである。故に我が国民は其眼界を広くして、単に昔の東洋の一孤島たる島国的国民たることに満足しないで、広く世界の大勢を知り、我国の占むる国際的地位を考へて行動せねばならぬ。随つて我国民は国際的知識と、国際的生活をなすの訓練とがなければならないのである。昭和の日本は世界的舞台に立つて、世界各国と協力するの時代に進んだのであるから、総ての事柄を国際的に考慮して行かなければならぬ。産業も経済も財政も、将た又教育も、国際的の観念を以て進んで行かなければならないのである。而して国際聯盟こそは、世界の手形交換所とも云ふべき聯盟政局の中軸である、固より一国一国にはそれぞれ固有の国情もあり、国体もあり歴史もあるのであるから、其固有の文明を維持し、其国の立場を考へなければならないことは言ふ迄もないのであるが、同時に又広く国際的の観念を以て行動しなければならないよく日本は日本であり、外国は外国であると云ふことを言ふ者もあるが、それは固より其通りであるけれども、今日は日本が孤立して、偏狭なる考へを以て進むべき時代ではなくして、互に協力融和し単に一国の文明を進むるのみを以て満足せず、世界的文明の基礎を築くと云ふことに、意を注がなければならぬのである。殊に東洋と西洋とは、文化に於て各其の特色を異にしてゐるのであるから、此の文化を融和して玆に東洋・西洋を通じたる一新文明を築くと云ふことが我が帝国の使命である。我が帝国は東洋に在る国であるが、同時に又西洋諸国から非常に重きを置かれて居るのであるから、此の東西両洋の楔となり、其両文明を調和し世界平和に貢献することが、我が帝国の使命でなければならぬ。此の意味に於て我が国民は、能く今日世界の大勢を
 - 第37巻 p.153 -ページ画像 
察し、国際聯盟を理解し、これを理解しこれを支持して行くやうにしなければならぬ。これが為には国際聯盟の目的の何であるか、又其事業の如何なるものであるかを、次代の国民たる青少年に知らしめ、且国際聯盟の発展の為に努力せんとする信念を養成すると云ふことが、今日昭和時代の教育に於て最も大切なことであると思ふのである。故に今日の教育者は玆に思ひを致して、此点に遺憾なきを期することを切望して止まないのである。