デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

3章 国際親善
3節 国際団体及ビ親善事業
13款 社団法人国際聯盟協会
■綱文

第37巻 p.311-320(DK370082k) ページ画像

昭和5年7月19日(1930年)

是ヨリ先七月十五日、当協会第九十回理事会ニ於テ可決セル応訴義務受諾ニ関スル決議、及ビ国際聯盟規約改正案ニ対スル決議ヲ、是日栄一、当協会会長ノ名ニ於テ、内閣総理大臣浜口雄幸及ビ外務大臣幣原喜重郎ニ建議ス。


■資料

社団法人国際聯盟協会会務報告 昭和五年度 同協会編 第六―一七頁昭和六年五月刊(DK370082k-0001)
第37巻 p.311-317 ページ画像

社団法人国際聯盟協会会務報告 昭和五年度 同協会編
                       第六―一七頁
                       昭和六年五月刊
    三、理事会
○上略
第九十回 七月十五日正午より協会集会室に開く、出席者―阪谷・山川両副会長、二荒・穂積・神川・松永・関屋・坂本・若宮・山田・頭本各理事、奥山主事。
 報告―理事半数改選の件(阪谷副会長報告、評議員会の項参照)
 協議事項―会長・副会長互選の件(重任決定)、ゼネバ国際問題研究大学へ本協会事務員留学の件(佐藤醇造氏の留学を承認)、常設
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仲裁々判問題委員会にて調査したる左記決議案(承認)
      ○応訴義務受諾に関する決議(七月十四日採択)
 昭和五年五月十七日《(六)》の本協会第十回総会は満場一致を以て、我国が常設国際司法裁判所規程第三十六条第二項の、所謂応訴義務を受諾せんことを希望せる決議を可決したり。本委員会は右の希望を玆に重ねて繰返すと共に、尚我が政府が左に列挙せる条件の下に、これを受諾せん事を希望す。
 一、受諾の期間を五年とし、その後においては廃棄の通告あるまでとすること。
 二、相互条件によること。
 三、裁判所に付託すべき紛争の種類は、国際司法裁判所規程第三十六条第二項に列挙せる紛争とすること。
 四、右の紛争に対し、左の留保を附すること。
  (イ)批准後の状態又は事実に関し、批准後に発生したる紛争のみに限ること。
  (ロ)紛争当事国が調停手続仲裁々判手続、其他の平和的処理方法によることに合意ありたる紛争、又は当事国の一方が理事会の審査に付託せんとする意思を表示し、若くは現にこれに付託せられつゝある紛争は除外すること。○応訴義務受諾ノ建議ハ大正一二年一二月一八日及ビ昭和五年五月二四日ニモ行ハレタリ
      ○国際紛争平和的処理の促進に関する決議(七月十四日採択)
 世界の平和と正義とを確保する為めには、国際間に起ることあるべき紛争を、平和的に処理するの方法を確立せざるべからず、殊に最近に於ては、一方に於て世界の大勢は、益々紛争の平和的解決の方向に進みつゝあり、他方に於て我国自身も既に聯盟規約及常設司法裁判所規程を受諾して、一定の程度に於て平和的処理の義務を負へるを以て急激なる飛躍はもとより避くべしと雖、漸進的に列国と伍しつゝ国際紛争の平和的処理方法の確立に向つて、協力することは必要にして且つ百年の大計に適ふ。この意味に於て、本協会は我国が成るべく速に左の処置を講ぜんことを玆に希望す。
        一
(一)国際紛争の平和的処理を目的とする、二国間条約を成るべく多くの国と締結すること。
(二)一九二八年の第九回聯盟総会に於て、採択されたる国際紛争平和的処理に関する「一般議定書」に加入すること。
        二
国際紛争の平和的処理に関して、前記の措置を講ずるに就ては、左の原則に依るを必要と認む。
(一)国際紛争にして当事国が互に権利を争ひ、且通常の外交手段に依りて友好的に解決し得ざるものは、仲裁裁判所又は常設国際司法裁判所の裁判に附せらるべく、当事国は其判決に服すること。
(二)国際間の一切の紛争にして、仲裁手続又は司法手続に附せられざるものは、之を調停手続に付託し、又は聯盟規約に依り聯盟理事
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会に付託すべきこと。
(三)調停手続は紛争当事国が選定したる公平なる機関に於て、紛争事実を慎重審議の後、勧告を為すものなるを以て、聯盟理事会に付託する場合と同じく、之に対して一切の留保を為さざること。
(四)千九百二十八年「一般議定書」に対する加入はB式に依るべく尚左の趣旨に依る留保を附すべきこと。
 (イ)相互条件によること。
 (ロ)批准後の状態又は事実に関し、批准後に発生したる紛争のみに限ること。
 (ハ)紛争当事国が調停手続・仲裁々判手続其他の平和的処理方法によることに合意ありたる紛争、又は当事国の一方が理事会の審査に付託せんとする意思を表示し、若くは現にこれに付託せられつゝある紛争を除外すること。
        附記
「一般議定書」の解釈につき、本委員会は特に左の諸点に注意を喚起せんと欲す。
(一)調停委員会の構成
 第六条第三項によれば、共同に選任せらるべき三委員が、すべて一方当事国の推薦せし候補者たることを生じ得べし。この不都合なる結果を除去するため、何れの当事者の推薦せし候補者も、少くとも一名当選するまで抽籤を繰返すべきことゝするを正当とす。
(二)調停手続の終結の時期
 第二〇条及第二一条に謂ふ調停手続の終結の時期につき、(イ)調停が何等の解決条件をも提示するに至らずして終結したるときは、その終結の時期を意味し、(ロ)解決条件を提示したるときは、一方当事者によつて受諾を拒絶せられたる時期、又は諾否を表示すべき期間を、双方当事者が共に諾否を表示せずして経過したるときに於て、右期間満了の時期を意味すと解釈せらる。
(三)調停手続と仲裁々判手続との先後
 第一条及第二一条に依れば、権利を争ふ紛争以外の紛争は、必ず先づ調停に付託せられ、調停が失敗したる場合に於てのみ、仲裁々判に付託せらる、然れども当事者の合意あらば、直に仲裁々判に付託し得べきことを禁ずべき理由なく、右の諸規定を之を禁ずる趣旨にはあらざるものと解釈するを適当とす。
(四)非法律的紛争の裁判準則
 第二八条に依れば、他に裁判準則なき場合に於て、「衡平と善」を以て裁判の準則とす。これを準則とすることは、非法律的紛争を仲裁々判に付託すべきことを定むる限り、認めざるを得ざるべし、尚この場合に於ける仲裁々判は、実質に於て調停に類するに至るべきも、形式に於て裁判手続をとることゝ、その決定せる判決が拘束力を有することゝによつて、依然として裁判に外ならず。
(五)現存条約殊に聯盟規約との関係
 第二九条によれば、本議定書は現存諸条約に影響を及ぼさざることを定む。聯盟規約その他現存条約が原則として優先するも、先づ本
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議定書によることも可能なるべし。尚両者の間に全く優先補充の関係なく、先づ何れによるかは全く自由なりとの見解もありたり。
(六)第三一条に於ける行政官庁の意義
 第三一条に謂ふ行政官庁は、行政裁判所又は之に準ずる争訟裁定の行政官庁を意味するものと解釈せらる。その理由は、(イ)沿革的に従来の仲裁条約にては、専ら行政的裁判所が明示されたること。(ロ)紛争に対する権能は、訴訟又はそれに類する争訟に対し、第三者としてその裁定に当る権能を意味すること。(ハ)一切の行政官庁の決定について、国際裁判所に上訴せしめることは、広きに失すること等にあり。
(七)国内問題の留保
 第三九条第二項は、留保し得べき事項の一として国内問題を掲ぐ。
 特に之を留保事項として掲ぐることは正当ならず。国内問題を国際法上他国の干渉を許さざる範囲の事項に限るとすれば、その留保は不当に非ざるも、特に之を留保すべき必要なく、他方に於て、その留保が主張せらるゝ場合は動もすれば、条約の規定ある場合を除き領土内の一切の事項を包括するが如く、極めて広義に解釈せららるるを以てなり。
 我国自ら国内問題を留保すべきにあらざることは言を俟たず。(イ)歴史的に聯盟規約以来、我国は常に国内問題の留保に反対し来れること。(ロ)上述の如く理論上特に国内問題を留保すべき理由なきこと。(ハ)我国自ら国内問題の広義の解釈を是認する誤解を招くこと等の理由による。
(八)第三国の参加
 第三五条二項及第三六条によれば、調停手続に於ては紛争当事国より第三国の参加を招請し得べきことゝし、司法的又は仲裁的手続に於ては第三国より参加を要求し得べきことを認む。この差異を設けたることは両手続の性質の差異より見て至当なりと認む。但し、調停手続に於て利害関係ある第三国が参加を要求し得べきこと。司法的又は仲裁的手続に於て、紛争当事国より第三国の参加を招請し得べきことも可能なるべし。(以上)
     ○国際聯盟規約改正案に対する決議(七月十四日採択)
  第十回聯盟総会の決議に従ひ、第五十八回聯盟理事会の任命せる国際聯盟規約改正問題特別委員会は、不戦条約と聯盟規約との調和を計らんが為め、本年二月二十五日より三月五日迄、ジユネーブに会合の上、左の如き改正案を起草したり。
「前文」
 (現行規定)締約国は戦争に訴へざるの義務を受諾し
 (改正案)締約国は総て戦争に訴へざるの義務を受諾し
「第十二条一項」
 (現行規定)聯盟国は聯盟国間に国交断絶に至るの虞ある紛争発生するときは、当該事件を仲裁裁判若は司法的解決、又は聯盟理事会の審査に付すべく、且仲裁裁判官の判決、若は司法裁判の判決後又は聯盟理事会の報告後三月を経過する迄、如何なる場合に於ても戦
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争に訴へざることを約す
 (改正案)聯盟国は、聯盟国間に国交断絶に至るの虞ある紛争発生するときは、当該事件の解決の為、平和的手段のみを用ふることを約す
 紛争継続するときは当該紛争を仲裁裁判、若は司法的解決又は聯盟理事会の審査に付すべし。聯盟国は如何なる場合に於ても、其の紛争解決の為戦争に訴へざることを約す。
「第十三条四項」
 (現行規定)聯盟国は一切の判決を誠実を履行すべく、且判決に服する聯盟国に対しては戦争に訴へざることを約す、判決を履行せざるものあるときは、聯盟理事会は其の履行を期する為必要なる処置を提議すべし
 (改正案)聯盟国は一切の判決を誠実に履行すべく、且判決に服する聯盟国に対抗する如何なる行動をも執らざることを約す
 判決を履行せざるものあるときは、聯盟理事会は其の履行を期する為、如何なる種類の手段を採るべきかを提議すべし、紛争当事国の代表者の表決は之を算入せず
「第十五条六項」
 (現行規定)聯盟理事会の報告が、紛争当事国の代表者を除き、他の聯盟理事会員全部の同意を得たるものなるときは、聯盟国は該報告書の勧告に応ずる紛争当事国に対し、戦争に訴へざるべきことを約す
 (改正案)聯盟理事会の報告書が紛争当事国の代表者を除き、他の聯盟理事会員全部の同意を得たるものなるときは、聯盟国は該報告書の勧告に応ずべきことを約す、若し理事会の勧告が履行せられざるときは、理事会は其履行を期する為、適宜の処置を提議すべし
「第十五条七項」
 (現行規定)聯盟理事会に於て紛争当事国の代表者を除き、他の聯盟理事会員全部の同意ある報告書を得るに至らざるときは、聯盟国正義公道を維持する為、必要と認むる処置を執るの権利を留保す
 (改正案)聯盟理事会に於て、紛争当事国の代表者を除き他の聯盟理事会員全部の同意ある報告書を得るに至らざるときは、理事会は此場合に処するに最も適当なる手続を調査し、之を当事国に勧告すべし
 (第十五条七項追加)調査の進行中、何時にても聯盟理事会は当事国一方の要求により、又は理事会自身の発意により、当該紛争に関する法律問題に就き勧告的意見を、常設国際司法裁判所に諮問することを得、右諮問は理事会の全会一致の表決を要せず
我が仲裁裁判問題委員会は、数回の会合を開き右改正案を慎重審議研究せる結果、左の結論に達したり。
一、聯盟規約前文に対する改正案は、聯盟国は絶対に一切の戦争をなさざるの義務を受諾するの意を明かにせんとするものにして、此の点は従来の規定が或る戦争をなさざるの義務を受諾するの意なりしものとは異れり。而して聯盟規約に於ても不戦条約と同様に、自衛
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の為めにする戦争を禁止するの趣意にあらずと認めらるゝを以て、我委員会は此解釈を留保して、今回の前文の改正に異議なきことに決定せり
二、第十二条第一項は現行規定に依れば、国交断絶に至るの虞ある紛争事件の解決に際し、聯盟国は当該事件を仲裁裁判、若くは司法的解決又は聯盟理事会の審査に附すべく、且仲裁裁判の判決若くは司法裁判の判決後、又は聯盟理事会の報告後三ケ月を経過する迄は、如何なる場合に於ても戦争に訴へざることを約すといひて、反面に於ては右三ケ月経過後は戦争に訴ふるも、規約の違反とならざることを暗示せしが、此の点は明に不戦条約の趣意と一致せざるを以て改正案に於ては、右三ケ月云々の字句を削り、紛争事件の解決の為には平和的手段のみを用ゆべく、如何なる場合に於ても其紛争を解決する為に戦争に訴へざることゝなしたるものなり。我委員会に於ては、前項前文の改正に対すると同一の趣意を以て、本条に関する改正案を可決したり
三、第十三条第四項は現行規定によれば、聯盟国は一切の判決を誠実に履行すべく、且判決に服する聯盟国に対しては、戦争に訴へざることを約すとありて、反面に於ては判決に服せざる聯盟国に対しては戦争に訴ふることもあり得るやうに解せられたるが、今回の改正案に於ては、右の「判決に服する聯盟国に対しては戦争に訴へざることを約す」なる字句を「判決に服する聯盟国に対抗する如何なる行動をも執らざることを約す」と改めたり。蓋し紛争を解決する為に戦争に訴ふべからざることは、既に前記第十二条第一項の改正案に明記せるを以て、玆に之を繰返すの要なきに依り、本条に依ては判決に服従する国に対しては、戦争を為すべからざるは勿論、其他の一切の対抗的行動を執ることを新に禁止したるものと認められる而して改正案の「対抗する如何なる行動をも」なる字句は、広義に失するの憾あり、又現行規定に対する反面解釈、即ち判決に服従する国は、判決に服従せざる国に対して、戦争を為し得べしとの点は前記新第十二条第一項の規定に依り、紛争を解決する為に戦争を為すことに関しては、判決に服従する国と否とに拘らず、総て之を禁止せるを以て問題は解決せるも、戦争以外の対抗的行動に付ては、本条改正案に依るも、猶反面解釈を為し得べく、即ち判決に服従する国は服従せざる国に対して、対抗的行動に出づるを得、と解釈するを得べし、然れども此等の諸点は、畢竟判決に服従せざる国に対する一種の制裁規定に外ならざるを以て、強て之に異議を挟むの要なし。
 又本項後段に於て該判決を履行せざる場合には、従来の規定には単に理事会は必要なる処置を提義することゝなり居り、且右理事会の決定には、紛争当事国の投票が含まるゝや否や明示せざりしを改めて、理事会は一切の必要なる手段を提議することゝし、又理事会の決定には当事国の投票を含まざることを明かにしたるは、規約の不備なる点を明確にしたるものにして適当と認む。
 以上の見解に依り我委員会は、本条改正案を可決したり。
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四、第十五条第六項は現行規定によれば、理事会の報告書が紛争当事国の代表者を除き、他の聯盟理事会員全部の同意を得たるものなる時は、聯盟国は該報告書の勧告に応ずる紛争当事国に対し、戦争に訴へざることを約するに止まれるが、今回の改正案に於ては、聯盟国は理事会員全部の同意を得たる勧告に服従することを約し、且理事会の勧告が履行せられざるときは、理事会は之が履行を期する為必要なる手段を提議することゝなり居れり。斯の如く理事会の勧告の性質を一変して之に拘束力を与へ、且其履行方法を規定せんとするが如きは、聯盟規約の根本の立前を変更せんとするものにして、之が為却て理事会に於ける勧告の決定を一層困難ならしめ、又当事国をして其政治的紛争を理事会に附議することを躊躇せしむるに至るべく、これ敢て理事会の機能と活動との発展を期する所以にあらず、加之此改正案は聯盟規約と不戦条約との、調節を計らんとする範囲を超ゆるものと認めらるゝを以て、我委員会は左の修正案を議決したり。
 「聯盟理事会の報告書が、紛争当事国の代表者を除き、他の聯盟理事会員全部の同意を得たるものなるときは、聯盟国は該報告書の勧告に応ずる他の聯盟国に対抗する如何なる行動をも執らざることを約す」
五、第十五条第七項は現行規定によれば、聯盟理事会に於て紛争当事国の代表者を除き、他の聯盟理事会員全部の同意ある報告書を得るに至らざる時は、聯盟国は正義公道を維持する為、必要と認むる処置を執る権利を留保すとし、暗に戦争に訴ふることをも認めたるを改めて、理事会に於て満場一致の報告書を得るに至らざる場合には之を当事国の単独行動に委せず、理事会に於て此場合に処すべき適当なる解決に関する手続を調査し、之を勧告することゝし、飽までも平和的に紛争を解決するの手段を尽すことゝ為したるは適当なり依て我委員会は本条改正案を可決したり。
六、第十五条第七項追加は、現行規定に欠けたる全然新たなる規定にして、調査進行中理事会が満場一致の決議によらず、法律問題に関し国際司法裁判所の意見を求め得ることを認めたるものなるが、斯の如き重要なる決定に付ては、満場一致の採決に依るを適当なりと認め、我委員会は本条追加改正案を否決したり。
建議 七月十九日、本協会常設仲裁々問題委員会にて調査研究し、第九十回理事会にて承認可決せる応訴義務の受諾問題、及び国際紛争平和的処理問題に関する決議を、浜口内閣総理大臣・幣原外務大臣に建議したり。
○下略
   ○建議ハ前例ニヨリ会長ノ名ヲ以テセルモノト認ム。
   ○本款大正十二年十二月十八日ノ条(第三十六巻所収)参照。



〔参考〕国際知識 第一一巻第一一号・第三四頁昭和六年一一月 参考 応訴義務受諾の宣言に批准の諸国(DK370082k-0002)
第37巻 p.317-318 ページ画像

国際知識 第一一巻第一一号・第三四頁昭和六年一一月

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 参考 応訴義務受諾の宣言に批准の諸国 南阿、アビシニア、アルバニア、濠洲、墺地利、白耳義、ブラジル、ブルガリア、カ 以下p.318 ページ画像 ナダ、丁抺、エストニア、芬蘭、仏蘭西、独逸、希臘、ハイチ、匈牙利、印度、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルグ、新西蘭、和蘭、諾威、パナマ、ポルトガル、羅馬尼、サルヴアドル、シヤム、西班牙、瑞典、瑞西、ウルガイ、ユーゴースラビア、英国、愛蘭(此中批准を要せず調印のみにて効力を発生せる国を含む) 応訴義務受諾の宣言に調印せるも未批准の諸国 コスタリカ、チエツコスロバキア、ドミニカ、グアテマラ、伊太利、リベリア、ニカラガ、ペルー、ペルシヤ、波蘭 其他の諸国 米国、アルゼンチン、ボリビア、智利、中華民国、コロンビア、キユバ、エクアドル、ヘイジアス、ホンジユラス、日本、パラグアイ、ヴエネズエラ     (本年九月三日現在、国際聯盟発行の報告に拠る) 






〔参考〕外交余録 石井菊次郎著 第二七九―二八三頁昭和六年五月三版刊(DK370082k-0003)
第37巻 p.318-320 ページ画像

外交余録 石井菊次郎著 第二七九―二八三頁昭和六年五月三版刊
 ○第一編 第九章 仲裁裁判
    第四節 常設国際司法裁判所に対する応訴義務
 国際聯盟に加入したる国は聯盟規約第十三条に依り、聯盟国間に起りたる紛争にして仲裁、若くは司法的解決に適すと認めらるるもの即ち条約の解釈、国際法上の問題、国際義務の違反となるべき事実の存否、並該違反に対する賠償の範囲、及性質に関する紛争は、一括之を仲裁又は司法的解決に付すべき義務を受諾して居るのである。随つて若し総ての国際紛争を、(一)仲裁又は司法的解決に適するものと(二)之に適すと称し難きものとに類別すれば、其第一類に属する総ての国際紛争の関する限り、聯盟国は主義として仲裁裁判廷、若くは国際司法裁判所に対し、応訴義務を負ふて居るものである。
 想ひ起す、一九二〇年(大正九年)十一月国際聯盟第一総会に於て常設国際司法裁判所構成法が議せらるるに当り、其第三十六条に至つて図らず議論は二派に分れた。多数の聯盟国は前項仲裁若くは司法的解決に適すと認めらるる国際紛争に関して聯盟各国は業已に応訴義務を受諾したる事なれば、今や其聯盟国が相集まりて、国際司法裁判所を設置するに際しては、之に対し応訴義務を承認すべきは勿論であると為し、其応訴義務を本条に規定せんと主張した。之に対し少数ながら総ての大国を含む残余の諸国は、当時猶は未成立に属する常設国際司法裁判所に対し、直ちに応訴義務を受諾するに躊躇した。彼等が聯盟規約第十三条に於て受諾せる応訴義務は、仲裁廷若くは司法解決機関の何れかに対してであつた。今其中の司法裁判所のみに対し、応訴義務を認むるは早計であると論じた。其論法には多少曲弁の嫌があつた。反対側は規約第十三条に依る仲裁廷、若くは司法機関に対する応訴義務を更めて、国際司法裁判所専属の応訴義務に局限しようと謂ふのではなかつたから、両派妥協の余地は充分に見えて居つたのだが、少数側の躊躇する真の原因は、将さに設立せられんとする司法裁判所に、如何なる判事の選任を見る事やら、又新裁判所が如何に運転することやら、総て未決状態に在りし際に、今直ちに之に対し応訴義務を
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受諾するのは、余り軽率に非ずやとの憂慮に外ならなかつた。理窟は兎も角、其所に已むを得ざる事情が存在したことは、多数側にも諒得せられたから、玆に各聯盟国は必要と認むる留保と条件とを付し、適当と認むる時機を選むで、其応訴義務を受諾するを得ることとし、而して其留保条件の内容と時機とは、各聯盟国の選択に任せたのであつた。斯くして聯盟全部の妥協を成立せしめたものが、謂ゆる第三十六条の選択条項と称せらるるものである。
 常設国際司法裁判所は創立十年にして、業已に世間一般が期待したる所を遥かに超越したる好成績を挙げた。法律問題及政治的紛争にして、同裁判所の思慮深き公平真摯なる判決に依つて、満足に解決せられたるもの已に二十件に達した。曩には同裁判所に選任せらるべき判事の人格、同裁判所の実際運転の情態等に対し、無理ならぬ憂慮を抱きたる聯盟国と雖も、叙上の好成績を挙げ之に伴ふ権威を既得したる裁判所に対し、最早其応訴義務を受諾するに何等の躊躇逡巡を感ずべき理由を持たないこととなつた。果然英国労働党内閣は昨一九二九年九月の聯盟総会に於て、率先同裁判所に対する応訴義務を受諾する旨の宣言を為し、他国に勧誘して彼の例に倣はんことを求めた。
 是より先き、国際司法裁判所構成法の選択条項に依つて、謂ゆる仲裁若くは司法的解決に適すと認められたる事件に就き、同裁判所に対する応訴義務を受諾したる聯盟国は、署名批准共に完了したる者に独逸を始め二十個国あり、宣言を了して未批准済のもの六個国ありたる所、玆に英国政府の活動に依つて新に選択条項を受諾したる国は、仏国・伊国等を始とし十三個国に達した。之に英国を加へて前来受諾国と合すれば四十個国となり、其中には英仏伊独の四大常任理事国は、悉く包含せられて居る。玆に至つて聯盟国中、国際司法裁判所の応訴義務を諾する事に躊躇するもの、僅に十数個国を算するのみとなり、而も其中に大国即ち常任理事国としては、単り我日本を見るのみとなつた。
 国際聯盟に向つて真摯なる努力を寄与して、世界平和樹立の大業に応分の貢献を捧ぐる事は、我官民が既往十年未だ曾て渝らざる所である。之実に「聯盟平和の実を挙げむことを思へ」との聖勅に遵由する所以である。軍備縮小会議の召集あれば、其都度之を快諾して全権を派し、不戦条約の提議に接しては之を速諾して、苟も人後に落ちざらんと努めたる等、何れも上下一致の方針の実行に外ならない。然るに昨秋常設国際司法裁判所管轄権に直面しては、前述の如く他の常任理事国を悉く網羅する聯盟国の大多数が、揃つて甘諾したる応訴義務を我国単り逡巡決する能はずして、常任理事国として特に面白からざる例外を為し居ることは、我輩の深く遺憾とする所である。
 国際紛争平和的処理事業に於て、我国は縦し列国に率先するの美績を収め得ざる迄も、せめて列強の伍伴より脱落するの陋態だけは免れたきものである。我国は単り聯盟に於ける常任理事国の一員として、聯盟が最重きを措く国際紛争平和的解決問題の進捗のため凡ゆる努力を捧ぐるの義務あるばかりではない、東洋文化の代表として我国の名士が、常設司法裁判所の正式判事の一人として、常に在任するを期待
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する地位に在るものではないか。斯る期待を有する我国が其裁判所に対して、信任を欠くの嫌ある管轄権受諾遅延の態度を採つて宜しからう歟。聞く所に依れば頃ろ欧洲諸国に於ては、已に国際司法裁判所の管轄権を受諾せざる聯盟国は、同裁判所判事候補者を推薦するの資格なしとの評言を敢てするもの出で来れりと云ふ。霜を踏むで堅氷到る之までの我国の躊躇は猶ほ外国より遅緩の非評を受くるの程度であらう、此上遷延を重ぬるときは何時か我国は、国際紛争平和的処理の事業に対する障碍国と視らるるに至るであらう。