デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

大正10年12月（1921年）

是ヨリ先、臨時救災委員会募集ノ義捐金、六十四万四千余円ニ達ス。是月、日華実業協会ハ北支旱災救済事業報告ヲ発刊シ、同委員会ヲ解散ス。栄一、日華実業協会会長トシテ之ニ与ル。

渋沢栄一日記　大正一〇年　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
一月六日　晴　寒
○上略正午、日華実業協会ニ抵リ支那饑饉救助ノ寄附金分配ノ事ニ付、来会幹事ト協議ス○下略
　　　○中略。
一月九日　快晴　軽寒
○上略北京在留ノ邦人ヨリノ来書ヲ閲ス○中略一ハ田村治平氏ノ支那饑民救恤ニ関スル意見書ナリ○中略白岩竜平氏ヘ一書ヲ送リテ田村ノ来書ヲ封入ス○下略
　　　○中略。
一月十八日　晴　寒
○上略十二時日華実業協会ニ抵リ、支那饑民救恤ノ方法ヲ協議ス、北京
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天津・済南ノ三府ヘ直接経営ノ事ヲ決シ、近日書記長派遣ノ事ヲ議定ス○下略
　　　○中略。
一月三十一日　晴　寒
○上略日華実業協会主催ノ支那饑民救恤ニ付、北京及天津方面ノ書状ヲ認ム、但明日発送シテ工藤氏ニヨリテ公使又ハ平井氏等ヘ達スルモノナリ○下略
　　　○中略。
三月四日　曇　寒
○上略正午日華実業協会ニ抵リ奥村氏帰朝ニ付、支那ニ於ル飢民ノ現状ヲ報告セラル○下略
　　　○中略。
三月七日　晴　寒
○上略午飧中日華実業協会書記来リ、饑民救済ノ実施ヲ談ス○下略
　　　○中略。
三月九日　曇　軽寒
○上略支那饑民救済ニ関シテ山根倬三ト云フ人ノ意見小冊子ニテ送リ越セシモノヲ一覧

渋沢栄一書翰　斎藤恒三宛　（大正一〇年）三月六日　（斎藤恒一氏所蔵）
○上略
先般ハ支那饑民救済ニ付寄附金之義申上候処金三千円御醵出之由拝承仕候、目下実業協会より書記長派遣種々取扱中ニ御坐候、尤も幹事奥村と申人頃日支那より帰京ニ付実地之模様承合候処ニてハ中々之惨状ニて、到底完全之救助抔ハ思ひも寄らさる事と申居候、乍去日華実業協会ニ於る饑民救済之挙ハ多少国交上にも効果可有之と申事ニ御坐候
○下略
　　三月六日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一
　　　　斎藤賢契
　　　　　　　拝復

北支那旱災救済事業報告　日華実業協会編　第一―六頁　大正一〇年一二月刊
曩に北支那大飢饉に際し本協会は善隣の誼に顧み特に臨時救災委員会を組織し、普く大方の同情に訴へたる処、短日月の間に六十余万円の巨額に達したるは一同の感謝措く能はざる処なり、本義捐金処分に付ては種々考究の末成るべく直接有効なる方法を取ることとし、敢て其実行に着手したるも、元来無経験の事に属するのみならず彼欧米人の如く支那内地随所に多年教会・学校又は病院等の機関設備を具有するものと異なり、其成績如何は窃かに自ら疑惧したる処なりし、然るに本書中詳記する如く北支那在留本邦官民の協力と日本赤十字社の共同とに由り、予期以上の結果を以て同情者の誠意を直接災民に徹底せしめ、併せて聊か国際感情の融合に資し得たるは欣慰に堪へざる処、即ち之を首途として将来或は教育に或は医療に或は慈善に、敢て欧米人
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に劣らざる対支文化施設の吾邦人に由りて達成せられん事を希図して止まざる次第なり
玆に事業及会計の報告書を頒つに際し、重ねて大方の仁人に対し深甚の謝意を表す
尚義捐金寄附各位の芳名及金額は、当時洩れなく各新聞紙に広告したる外、記録として本協会に備へ置き随時閲覧に供するに付、本書中には凡て之を省略することとせり
　　大正十年十二月　　　　　日華実業協会
　　　　　　　　　　　　　　　会長　子爵　渋沢栄一
　　　　　　　　　　　　　　　副会長　　　和田豊治
　　　　　　　　　　　　　　　同　　男爵　藤田平太郎
　　　　　　　　　　　　　　　臨時救災委員長　男爵　大倉喜八郎
　　　　　　　　　　　　　　　臨時救災委員
　　　　本会北支那救災事業報告概要
詳細ナル報告ハ以下記述スル所ニ譲リ、左ニ救災ニ関スル一般事業並ニ会計概要ヲ略述報告ノ事ニセリ
　　　　　　災民施粥成績
一、通県（北京附近）　北京在留邦人ヨリナル同地救災会ニテハ、本会ノ事業トシテ北京附近ノ通州ニ二ケ所ノ施粥廠ヲ設ケ、同地支那側商務総会役員援助ノ許ニ災民ニ対シ施粥ヲナシ、本年二月二十八日開始シ五月十七日終了ニ至ル迄施粥シタル延人員三十八万八千百四十六人ニ及ベリ
二、彰徳施粥廠　同地ノ支那人救済会之ニ当リ、本会ヨリ送附セル七千五百元ヲ以テ二月十九日ヨリ六月末日ニ至ル迄、延人員四十四万三千四百五十人ニ施粥シタリ
以上三ケ所ニ於テ施粥シタル総延人員八十三万一千五百九十六人ニ達セリ
　　　　　　災童収容成績
一、北京災童収容所（朝陽門外）　北京救災会ニテハ本会ノ事業トシテ定員五百名ヲ収容スル設備ヲ以テ災童収容所ヲ設ケ、三月十日開始ヨリ六月廿五日閉鎖ニ至ル迄、其収容延人員三万二千五百三十七人ニ上レリ
二、鄭州災童収容所（石平街）　鄭州在留邦人ヨリナル救災会ノ援助下ニ定員二百名収容ノ災童収容所ヲ設ケ、四月一日開始シ六月三十日閉鎖ニ至ル迄、収容延人員九千七百四十九人ニ及ベリ
以上二ケ所ニ於ケル災童収容総延人員四万二千二百八十六人ニ達セリ
　　　　　　災民施療成績
一、通県施療所（日本赤十字社ト協同）　通県商務総会ノ尽力ニヨリ予テ施粥廠ヲ設ケ居リタルニ更ニ災民救療ノ必要ヲ感ジ三月廿八日施療所ヲ設ケ、次デ四月五日ヨリ日本赤十字社派遣救護班ニ引継ギ爾後協同事業トシテ六月七日閉鎖ニ至ル迄、取扱患者延人員二万二百九十九人ニ及ベリ
二、北京施療所（同上）　日本赤十字社救護班到着ト同時ニ共同事業
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トシテ四月十一日開始シ、六月七日終了ニ至ル迄延人員一万四千五百三十九人ヲ取扱ヒタリ
三、天津施療所（同上）　天津ニ於ケル災民救療ハ二月二十日同地日本医師団一致ノ下ニ、同地ニ於ケル本会ノ収容災民部落タル南開方面及新車站方面ニ於テ之ニ従事シ、次デ日本赤十字社救護班ニ引継ギ共同事業トシテ六月七日終了ニ至ル迄、延人員一万六千七百八十四人ヲ取扱ヒタリ
四、鄭州施療所　青島守備軍民政部ニテハ、特ニ医師・看護婦等ノ人件費ヲ分担シ、四月一日施療ヲ開始シ七月二十一日閉鎖ニ至ル迄、延人員二万九千二百六十二人ヲ施療セリ
以上四ケ所ニ於ケル取扱施療患者総延人員八万〇八百八十四人ニ達セリ
　　　　　　災民ニ対スル糧品給与
一、山東省　済南居留民ヨリ成ル山東義賑委員会ハ本会ノ救災事業ヲ援助スル為メ、本協会代表者トシテ被害地ニ慰問使ヲ派遣シ、且糧品給与ヲ行フ事トセリ、第一回ハ居留民会長大間地芳之助氏外十数名ヲ以テ組織シ、四月十五日済南ヲ発シ臨清外八県ヲ歴巡シ、高梁其他ノ穀物約百十五万八千斤ヲ支那官民ノ手ヲ経テ賑糧券引換ニ被害民ニ分与シ、第二回ハ山東義賑会委員長郡島忠次郎氏之ニ当リ、一行十名六月十日済南ヲ発シテ残余ノ被害地方タル臨邑外九県ヲ巡回シテ、前同様賑糧券及現品ヲ給与セリ
二、河南省　鄭州在留邦人ヨリナル救済会ハ、本会ヨリ送附セル銀五千元ヲ以テ糧品ヲ買入、氾水県外数件ノ被害地方ニ慰問使ヲ派遣シ且糧品ヲ分配セリ
　　　　　　災民ニ対スル現金品給与
一、天津救災会　天津在留邦人ヨリナル救災会ニテハ、本会ノ事業トシテ天津附近ニ群集セル各省ノ災民部落約二万五千戸中ノ一部分ヲ引受ケ、延人員五万五千余人ニ対シ二月十九日ヨリ四月十日ニ至ル迄糧食及食費薪炭費ヲ与ヘ、且帰還者ニ旅費及糧食又ハ食費ヲ給シ内ニハ農具ヲ供給シタルアリ
二、北京順天時報社施与部　饑饉ノ為メニ北京城内外ニ多数ノ窮民増加セルヲ以テ、順天時報社ノ施与部ニ托シ本会ノ賑災事業タルコトヲ表明シテ、三月十二日ヨリ五月十七日ニ至リ各一人ニ対シ一元宛ヲ標準トシテ、三千元ヲ三千人ニ施与セリ
三、山西旱災救済会　工藤特派員ハ北京賑災部員三名ト共ニ山西督軍及救災会ヲ訪問シ、慰問ノ意ヲ述ベ銀一万元ヲ同救災会ニ寄贈ス
四、河南区救済会　工藤特派員開封府ニ河南督軍及救災会ヲ訪問シ慰問ヲ為シ、銀一万元ヲ同救災会ニ寄贈ス
五、河北救災会　銀二万元ヲ在北京小幡公使ノ手ヲ経テ、華北救災会長梁士詒氏ニ贈レリ
六、直隷義賑会　銀一万元ヲ船津天津総領事ノ手ヲ経テ同会ニ贈レリ
七、天津急募賑款大会　銀一万元ヲ船津天津総領事ノ手ヲ経テ、贈与セリ
八、北京急募会　小幡公使ノ手ヲ経テ四万五千円ヲ贈与セリ（東洋拓
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殖会社ノ分、同社ヨリ直接公使ニ交附）
九、支那政府賑務処　南満鉄道会社金十二万九千九百十八円、東洋拓殖会社金三万円、朝鮮銀行金三万円、合計十八万九千九百十八円ハ寄附者ヨリ東三省巡閲使張作霖氏ノ手ヲ経テ賑務処ニ寄附、花ノ日会金二千円、東洋婦人会金一千円、木曜会（婦人編物会）金五百円合計金三千五百円ハ寄附者ヨリ直接駐日支那公使ニ托シテ賑務処ニ寄附セリ
　　　　　　義捐金収支清算報告概要
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　円
一、義捐金総額　　　　　　　　　　　　　金六四三、〇〇四・四一
　　　　利子　　　　　　　　　　　　　　　　金一、五三九・二六
　　総計　　　　　　　　　　　　　　　　金六四四、五四三・六七
　　　　内訳
一、救災事業着手ノ為メ北京・天津・済南ニ送金額
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　円
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　金三〇〇、〇〇〇・〇〇
一、寄附者ヨリ直接支那側ニ送付セシ額　　金二三四、四一八・〇〇
一、各新聞社広告料寄附額　　　　　　　　　金二一、四一二・八三
一、金銀換算差額　　　　　　　　　　　　　金四三、〇〇〇・〇〇
一、諸費用支出　　　　　　　　　　　　　　金三六、五四四・二三
一、義捐金残額　　　　　　　　　　　　　　　金九、一六八・六一
　総計　　　　　　　　　　　　　　　　　金六四四、五四三・六七
一、済南救災会ヨリ救災事業残金返還　　　　　金三、六八一・五九
一、義捐金残額総計　　　　　　　　　　　　金一二、八五〇・二〇
本残金ノ処分ハ、臨時救災委員会解散ト共ニ、本会常任幹事会ニ引継ギ、同幹事会ノ決議ニ依リ、最モ適当ト認ムル目的ノ為メニ使用スル事トス

北支那旱災救済事業報告　日華実業協会編　第九〇頁　大正一〇年一二月刊
　　　　義捐金収支精算報告書
　　収入
　　　　　　　　　　　　　　　　　円
　義捐金総額金　　　六四三、〇二二・四一（別表一号参照）
　利子金　　　　　　　　一、五三九・二六
　総計金　　　　　　六四四、五六一・六七
　　　内訳
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　円
　　寄附者ヨリ指定寄附額金　　　　　　　二三四、四一八・〇〇（別表二号参照）
　　各新聞社広告料寄附額金　　　　　　　　二一、四一二・八三（別表三号参照）
　　換算差額金　　　　　　　　　　　　　　四三、〇〇〇・〇〇（別表四号参照）
　　北支那各地ニ救災事業ノタメ送金額金　三〇〇、〇〇〇・〇〇
　　諸費用金　　　　　　　　　　　　　　　三六、五四四・二三（別表五号参照）
　　義捐金残高　　　　　　　　　　　　　　　九、一八六・六一
総計　　　　　　　　　　　　　　　　　　六四四、五六一・六七
　　済南救災会ヨリ救災資金返還額金　　　　　三、六八一・五九
残高総計金　　　　　　　　　　　　　　　　一二、八六八・二〇
　　　○別表略ス。
 - 第40巻 p.44 -ページ画像 

北支那旱災救済事業報告　日華実業協会編　第七四―七五頁　大正一〇年一二月刊
　　　　一、本会ノ救災事業ニ対シ支那官民ヨリノ謝状
今回ノ救災事業ハ固ヨリ隣邦ノ災厄ニ対スル純然タル慈善的施設ニシテ、本会ノ精神ト国民的同情ハ著シク支那官民間ニ好感ヲ以テ迎ヘラレ、殊ニ日本赤十字社ガ救護班ヲ派遣シ本会ノ救済事業ト協同シテ災民施療ニ努力セラレタル一事ハ、各地トモ其ノ美挙ニ感動シ居レリ
　　　　　　大総統令　六月廿四日　（一般救災事業完了ニ際シ大総統ノ対外感謝令北京公使館ヨリ移牒）
　上年北方各省災情奇重籌賑維艱深頼中外人士及在外僑民不分畛域尽力捐輸義問貽宣至堪嘉尚而各友邦政府尤復綣懐睦誼表示熱誠用能広集賑款宏済災黎推其行仁施恵之忱実符救済䘏隣之義凡我国人同深感佩現在賑務瞬将結束著内務部会同各該省地方長官分飭所属協同在地紳商将一切善後事宜妥籌弁理務期挽回元気康済民生用副本大総統恵保閣閻之至意此令
　　　　　　陝西省救災ニ対シ督弁賑務処謝礼
　逕啓省准
　貴館函開前由日華実業協会提議将賑款分送陝西省藉資散賑並請敝館代為送交祗以該省地方稍有不靖情形故暫末発送在案玆与該協会代表商議決定以洋銀五千元分送該省而将所余五千元補助鄭州所設施療所充作救済病苦之用特将該款五千元正金銀行兌票一紙送致尊処即請査収並妥交該省可靠弁賑機関並祈将施賑情形随後開示敝処処以便転告該協会是所至盼等因並附正金銀行兌票一紙到処当経本処照数収訖除将該款妥交高会弁増爵宋君聯奎担任携陝散放務使実恵及民籍副善懐並仍俟施賑後再将散放情形函達外特先函復並塡具収拠送請査収転寄為荷此頌　時祉
　　　　　　　　　　　　　　督弁賑務処啓　八月十二日
　　　○他ニ山西省督軍閻錫山、河南灾区救済会々長趙倜張鳳台、華北救災会々長梁士詒、直隷義賑会々長辺守靖、中国紅十字会、通州商民ノ謝礼記事アリ