デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

5章 教育
2節 女子教育
1款 日本女子大学校
■綱文

第44巻 p.633-635(DK440170k) ページ画像

大正10年4月20日(1921年)

是日栄一、当校創立満二十年記念式並ニ前校長故成瀬仁蔵追悼会ニ臨ミ、祝辞及ビ追懐ノ辞ヲ述ブ。


■資料

集会日時通知表 大正一〇年(DK440170k-0001)
第44巻 p.633 ページ画像

集会日時通知表 大正一〇年        (渋沢子爵家所蔵)
四月二十日 水 午後二時 日本女子大学創立記念式兼故成瀬校長追悼会(同校)


家庭週報 第六一一・六一二合併号大正一〇年五月三日 ○二十周年記念式(DK440170k-0002)
第44巻 p.633-634 ページ画像

家庭週報 第六一一・六一二合併号大正一〇年五月三日
    ○二十周年記念式
 四月二十日、母校創立満二十周年記念並に前校長故成瀬先生三年の記念式が挙行されました。講堂の都合上、午前と午後の二回に式を分けて、附属女学校四年以下幼稚園までの生徒は午前に、四年及大学部は午後二時から式を致しました。午後の式には大隈侯・渋沢子・浮田
 - 第44巻 p.634 -ページ画像 
博士その他の来賓があり、教授講師方をはじめ、桜楓会員、地方支部代表者等、多数参列して盛会でありました。会場正面の壇上には成瀬前校長の肖像が置かれ、その傍の大花瓶には満開の八重桜と青々とした楓が活けられてありました。
 はじめに御製を拝唱し、三分間の瞑想の後、麻生校長の式辞があり次に浮田博士の帰朝談、渋沢子爵、大隈侯爵の順で祝辞があり何れも学生、桜楓会員に深い感銘を与へられました。それから開校記念の歌を一同合唱します時には皆の顔には限りない感動の色が見えました。終つて一同校庭に集まり桜楓館前、丁字の植込の近くに記念の木蓮を植えました。閉会後、来賓・教授諸氏、桜楓会員は家政館食堂に於て茶菓を共にし、各自、アパートメントハウスを参観しました。アパートメントハウスは当日開寮の予定でありましたが工事の都合で其の運びに至らず、諸所設備中でしたが、あくまでも行とゞいた新式の建築法には皆感嘆の声を放ちました。晩香村、金山、温室等を一目に収め得る食堂もいゝ感じてあります。その周囲にはこの日既に数本の桜楓の若木が植えてありました。


家庭週報 第六一一・六一二合併号 大正一〇年五月三日 斯くして私自身が教育された 子爵渋沢栄一(DK440170k-0003)
第44巻 p.634-635 ページ画像

家庭週報 第六一一・六一二合併号 大正一〇年五月三日
    斯くして私自身が教育された
                    子爵 渋沢栄一
 本校創立廿年記念は祝すべき情を持ち、また故成瀬校長の三年記念は悲しむべき情を持つて居ります。併し成瀬校長の追悼は本校の隆盛を祝するに於て十分悲しむべき情を語るだらうと思ひます。
 現校長が故成瀬校長の精神を繰りかへして説かれ、又只今浮田博士が欧巴に於て感ぜられたことを若しも成瀬校長が御存命であつたらお話しやうと思つたといふ、最意味深いよいお話を拝聴して誠に喜ばしく思ひました。皆さんは最もよい解釈をなさる事と思ひます。
 故成瀬校長の勝れた所は今更私がくどくどしく申上ぐる迄もなく皆様御承知の事と思ひますが、殊に私の最も感じたことは意志が強固であつたこと、又事に当つて精神の集中力の非常に強い方でありましたそれ故に先程浮田博士もお話になつた様に、梵語学者に向つても女子教育の意見をたづねるといふ風に、自分の思つたこと、自分の一旦信じたことはどこまでも徹底する迄これを追究して止まない精神を有つて居られましたから、人から見れば脱線した様に思はれることもありましたが、つまりそれほど熱心に、且つそれほど真面目な方でありました。
 私は永い間お交際して色々のお話をいたしましたが、今でもあの笑顔が目に見える様に思はれます、而して此の間に於て私は申さば故成瀬校長に私自身が教育されたやうなものであります。
 数十年前に故校長が覚悟されて一身を女子教育の為めに捧げられたことはその生前に於ても深く感じたことでありますが、殊にその死後に於て如何に偉大であつたかゞ痛切に感ぜられます。
 私はどちらかといふと当女子大学の経営の方面に与はつて居りますので、先程現麻生校長の報告に何も出来てゐないといふお言葉であり
 - 第44巻 p.635 -ページ画像 
ましたか、これは却て私がおわびをしなければなりません。然し私も成瀬校長に倣つて意志を強くし、且つ精神を集中して私の出来るだけの義務を尽し、今数年の間に安心していたゞける様にしたいと思つてゐる次第であります。
 只今浮田博士から感心すべき、一英国婦人のお話を伺ひましたが、人の精神、人の心は誰しも斯くありたいものと思ひます。唐の魏徴が太宗に云つた言葉に、「使臣為良臣、莫使為忠臣」といふことがありますが、併したゞそうした変時の場合にのみ婦人の節操を尽すのみならず、平時に於て、平和の内に所謂人道的に婦人の天性である愛を以てその重き使命を全ふしていただきたいと思ふのであります。
 以後益々校風を盛んにしてゆくと共に、故成瀬校長を慕ふ情も益々増してゆく事と思ひます。玆に満廿年記念を祝すると共に、故校長の追悼を申述べた次第であります。(文責在記者)