デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

5章 教育
4節 教育行政関係
3款 国民教化運動
■綱文

第46巻 p.314-316(DK460090k) ページ画像

昭和4年8月22日(1929年)

是ヨリ先、文部省、国民精神ノ作興ト経済生活ノ改善ヲ図ルタメ、当運動ヲ全国ニ実施セシメントス。

是日、箱根小涌谷ノ旅館ニ滞在中ノ栄一ノ許ニ、速記者ヲ派遣シ当運動ニ対スル栄一ノ意見ヲ徴ス。


■資料

諸意見書(四) 【昭和四年八月廿二日小涌谷客舎ニ来訪、直ニ面会シテ来意ヲ聴取シ、本案○次掲ノ貫徹ニ付テ意見ヲ諮問セラルルニヨリ、来訪ノ安田氏ニ対シテ、予カ平生ノ所懐ヲ略陳…】(DK460090k-0001)
第46巻 p.314-316 ページ画像

諸意見書(四)              (渋沢子爵家所蔵)
昭和四年八月廿二日小涌谷客舎ニ来訪、直ニ面会シテ来意ヲ聴取シ、本案○次掲ノ貫徹ニ付テ意見ヲ諮問セラルルニヨリ、来訪ノ安田氏ニ対シテ、予カ平生ノ所懐ヲ略陳シ、氏ハ詳細ニ之ヲ速記シテ、約一時間位ノ口演ニテ其要領ヲ得タルヲ覚フ
 但当日口演ノ要旨ハ、昔時東洋式教育方法カ維新後ニ於テ俄然欧米式ニ変化シ、其方法宜ヲ得サル所アルト、多数教育ノ必要上其趣旨鄭寧親切ヲ欠ク所アリ、加フルニ学生一同ノ知識慾熱烈ナルニヨリ兎角ニ先ヲ争ヘ後ルルヲ恐ルルノ風ヲ生シ、所謂質実穏健ヲ失シ、軽佻浮薄ニ流ルルノ弊ニ陥リタルニヨリ、今日ノ教育ハ、人々勉メテ義務ヲ先ニシテ権利ヲ後ニスルノ慣例ヲ起スニ在ルノ理由ヲ反復切言セリ
  ○右ハ次ノ印刷物「教化動員に関する件」ノ表紙ニ栄一鉛筆ニテ自書セルモノナリ。
(名刺)


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 (別筆) 8/22 (安田勝蔵氏持参) (別筆) 貴族院速記者安田勝蔵氏ヲ御紹介申上候何卒御引見被下度候   文部書記官兼東京帝国大学書記官              菊沢季麿 (別筆) 渋沢子爵閣下 




  ○右ハ印刷物「教化動員に関する件」ノ表紙裏ニ貼布セラレタルモノナリ。
(印刷物)
(表紙)

  教化動員に関する件

    要旨
 熟々国家の現状を察するに、世局重大にして、時難頗る急迫せるものあり。外、国際の関係は姑らく言はず、内、国民の生活は、偸安放逸に流れ、思想亦中正を欠くこと既に久しく、世態年と共に益々険悪
 - 第46巻 p.315 -ページ画像 
ならんとす。今にして之を矯正するなくんば噬臍の悔遠からずして至らんも亦知るべからず。
 顧れば大正十二年十一月国民精神作興に関する詔書渙発以来玆に六年、此間風俗匡励せられざるにあらず綱紀粛正せられざるにあらず。而も多年の積弊之を一洗するに難く、浮華軽佻の習、近時却て都鄙に洽ねからんとするは、民心の弛緩其の甚しきに至れるを証左するものにして 聖旨に対し奉り、恐懼に堪へざる所なり。翻て経済界輓近の趨勢を観るに、財政は中央地方共に膨脹し、貿易は累年輸入の超過を示し、国債積んで六十億の多きに達するに拘らず、国民の消費は依然節度を超え、国家経済の危急将に目睫に迫らんとす。此の秋に方り、内閣新に成立を告げ、時局匡救の衝に当る。就中国民精神の作興と財政経済の整理緊縮とは、当面緊急の問題として一面政府の英断を要すると共に、他面国民の自覚を促し、其の奮起に須たざるべからざるものあり。若し国民にして一たび憂国の至情を撥し来るあらんか、済世の猛志烈々火の如く、陋習を打破し、弊竇を芟除し、以て現下の難局を打開するは敢て至難の業にあらざるべし。故に方今の急務は如上の二項に対し、国民的自覚を喚起せしめ、闔国の協力に依り、其の目的の達成を期するにあり。而して之が促進の方途素より多岐なるべしと雖、朝野協戮、教化の総動員を行ひ、一般国民に対し質実剛健、勤倹力行を鼓吹するを以て、最も有効適切なる計企となさざるべからず。
 曩に 聖上陛下践祚の後、朝見の御儀に際しては日新以て更張の期を啓くべき訓を垂れさせ給ひ、又即位の大礼を行はせらるゝや、紫宸殿の御儀に於て教化を醇厚にすべき旨を宣し給ふ。聖旨深遠洵に感激に禁へず。退いて惟ふに教化は改風の本、易俗の源、之を醇厚にするは世道を更張し人心を一新せしむる所以なり。されば所在各地の教育機関及教化団体は勿論、苟も経世済民を以て自ら任ずるもの、相率ゐて国民覚醒の運動に従ふあらば、一代の風尚鬱然として振起せんこと毫も疑を容れざるなり。謂ふ所の教化動員は、即ち之を実現せんとする一方途に外ならず。
 若し夫れ、本運動の趣旨を鮮明ならしめ、更に其の効果を顕著ならしむるの途に至りては、大略左記の内容を必須の要件となす。
 一、本運動は、左の二項を標榜し、極力之が徹底を期す。
  (イ)国体観念を明徴にし国民精神を作興すること。
  (ロ)経済生活の改善を図り、国力を培養すること。
 一、本運動は朝野一致して之に当り、特に各種教育機関及教化に関係ある民間諸団体並篤志者等の活動を促すこと。
 一、趣旨徹底の方法は、講演・講話・印刷物の配布其他地方の実情に応じ、最適最好の途を択ぶべきも、簡易平明を旨とし力めて映画を利用すること。
 一、本運動は愛国的奉仕運動たるべきこと。
 今や列強相競ふて各々国力の充実に其の全力を傾注す、我国民たるもの深く思を玆に致し、国家百年の計を樹て、国力振興の基を固うせざるべからず。何の暇ありてか、苟且偸安、奢侈逸楽を是れ事とせん。且つ夫れ国民精神の作興に力め、経済政策の確立を図るは、
 - 第46巻 p.316 -ページ画像 
為政の要道にして寸時も忽にすべからざる所、況や現下の情勢に照すに、之が実績の如何は直に国運の消長、民生の休戚に繋るといふも過言にあらざるなり。然らば即ち此機を逸せず、中央地方相呼応して、教化の総動員を行ひ、各々全幅の力を傾倒して、風教の振作に努むるは、是れ 聖旨に奉答する所以にして、又刻下最も緊切の要務たるを信ず。
    方法
 一、地方長官会議ニ於テ、文部大臣ヨリ本教化運動ニ関スル訓示ヲ為スコト。
 二、文部省直轄諸学校長等ニ対シ、本教化運動ノ実施ニ付訓令ヲ出スコト。
 三、全国的組織ヲ有スル教化事業関係有力者ヲ召集シテ文部大臣ヨリ本教化運動ニ関スル訓示ヲ為スコト。
 四、学務部長会議ヲ開キテ、本教化運動実施方ニ付熟議ヲ遂ゲシムルコト。
  社会教育主事会議ヲ開キテ同上
 五、教化団体・青年団体・女子青年団体・少年団体・婦人団体等ノ社会教化機関ノ活動ヲ促スコト。
  苟モ社会ノ指導的地位ニ立テル各団体並篤志者ヲ糾合シテ、普遍且徹底的ニ本教化運動ニ当ラシムルコト。
 六、各宗教団体ハ其ノ独自ノ立場ニ於テ、又ハ道府県教化団体聯合会ト聯盟シテ、所属ノ布教機関ニ依リ本教化運動ニ当ルコト。
 七、教化綱領並パンフレツトノ編纂
  本教化運動ノ趣旨ヲ明カニシ、関係団体並個人ノ活動ノ参考資料タラシムル為メ、学界・思想界並実務的方面ノ権威者ニ依嘱シ、講演等ノ資料トシテ適当ナルパンフレツトヲ編纂頒布スルコト。但シ各団体等ハ各自ノ教義・主義・綱領等ニ、篤志家ハ其ノ懐抱セル意見ニ基キテ本教化運動ノ趣旨達成ニ努ムルコト。
 八、映画ノ製作
  本教化運動ノ趣旨ヲ普ク一般国民ニ徹底セシムル為メ映画ノ利用ニ重キヲ置ク。即チ適当ナル映画ヲ製作シ説明書ト共ニ、一定ノ利用条件ノ下ニ地方教化団体聯合会等ニ之ヲ無償交付シテ講演・講習等ノ際必ス之ヲ利用セシムルコト。此ノ映画並説明書ハ関係官庁ノ専門家之ニ参加シ正確ニシテ権威アルモノヲ作ルコト。
 九、ポスターノ製作頒布並通俗的読物ノ編纂
  本教化運動ノ趣旨ヲ一般国民ニ理解セシムル為メポスター並ニ通俗的読物(リーフレツト、パンフレツト)ヲ製作編纂シ各市町村等ニ普ク之ヲ頒布スルコト。
 一〇、講演・講話ノ開催(講談・浪花節・ラヂオ等ヲ併用ス)
 一一、本教化運動ニ参加セル諸団体等ノ聯絡ヲ緊密ナラシムル為適当ナル方法ヲ講スルコト。
 一二、本教化運動ハ余リ長カラサル期間内ニ行フヲ本旨トスルモ本年度末迄ノ間ニ於テ適宜施行スルヲ妨ケサルコト。