デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

6章 学術及ビ其他ノ文化事業
1節 学術
7款 帰一協会
■綱文

第46巻 p.607-613(DK460148k) ページ画像

大正4年10月29日(1915年)

是月二十三日、栄一渡米ノ途ニ就ク。是日、船中ニ於テ、当協会ヨリ発表スベキ宣言書ノ草案ヲ修正ス。十二月十五日、当協会修正委員会ハ、右栄一提出ノ修正案其他ニ基キテ最終案ヲ決定シ、翌一月ノ例会ニ付議スルコトトス。


■資料

渋沢栄一 日記 大正四年(DK460148k-0001)
第46巻 p.607 ページ画像

渋沢栄一 日記 大正四年         (渋沢子爵家所蔵)
十月廿五日 曇
風稍強ク船少シク動揺ス、一行中ニ船室内ニ籠居スル者二・三人アリ余ハ幸ニ其中ニ算入セラレサルヲ得タリ、午前七時起床、入浴シテ衣服ヲ整ヘ、八時朝飧ヲ食ス、後○中略浮田和民氏ノ帰一協会ヨリ発表スヘキ宣言書草案ヲ一読ス○下略
   ○中略。
十月廿九日 晴
午前七時起床、入浴シテ甲板上ヲ散歩ス、八時朝飧ヲナシ、後船室内ニ於テ種々ノ書類ヲ検閲ス、出立ノ際浮田和民氏ヨリ寄セラレタル帰一協会一協会《(衍)》ニ於テ発表スヘキ大正革新ニ関スル国民ノ覚悟ト題書スル宣言書体ノ原稿ヲ熟読シ、之ヲ修正シヨリ《(衍)》、布哇ヨリ書送スヘキ準備ヲ為ス○下略


帰一協会会報 第七号・第二四―二九頁大正五年三月 ○宣言決定に至る経過の大要(DK460148k-0002)
第46巻 p.607-610 ページ画像

帰一協会会報 第七号・第二四―二九頁大正五年三月
 ○宣言決定に至る経過の大要
同年○大正四年十月廿七日 別案起草委員会
 委員浮田氏起草(但し前委員の草案を基礎としたるもの)(第三案乙)の宣言案に付きて討議す。其結果「大正革新に関する国民の覚悟宣言草案」(第四案)を得たり。仍て廿九日附を以て、右(第三及第四案)の両者中、採決せられ度き旨、会員に通知す。右両案左の如し。
 (第三案乙)大正革新ニ関スル国民ノ覚悟宣言草案
 開国進取ハ祖宗以来ノ国是ニシテ、明治維新ノ皇謨実ニ此ニ淵源ス
 - 第46巻 p.608 -ページ画像 
此ノ皇謨ヲ拡充シ、国運ノ伸張、民力ノ充実ニ努力スルハ、吾人ガ国家ニ対スル本分ニシテ、世界ノ進運ニ資スルノ道亦玆ニ存ス。吾人ハ大正革新ノ精神ヲ振起シ、内ハ国民生活ノ大本ヲ確立シ、東洋文明ノ代表者タル実ヲ挙ゲ、外ハ国際正義ノ擁護者トナリ、大ニ世界文化ノ進展ニ寄与センコトヲ要ス。
 此ノ目的ヲ成就センガ為メニハ、国民挙ツテ、内外ノ形勢実ニ重大ナル時機ニ際会セルヲ自覚シ、同心協力、万難ヲ排シ、奮ツテ此ノ国是ヲ遂行スルノ覚悟ナカルベカラズ。今爰ニ謹ンデ国是五条及ビ時務要目十七条ヲ決議シテ、之ヲ世ニ発表シ、国民ノ熱誠ナル考慮研究ヲ請ハント欲ス。
      国是
一、自他ノ人格ヲ畏敬シ、国民生活ノ基礎ヲ鞏固ニスベシ。
一、先帝ノ遺詔ニ基キ、憲政有終ノ美ヲ済スベシ。
一、国民挙ツテ自発的活動ノ精神ヲ振起スルト同時ニ、共同ノ目的ヲ自覚シ、組織的共同ノ実ヲ挙ゲンコトヲ要ス。
一、学制ヲ改メ、教育ヲ盛ニシ、大ニ天下ノ人材ヲ養成スベシ。
一、平和人道ヲ尊重シ、国際正義ヲ擁護シ、人類共存ノ真理ヲ明カニスベシ。
      時務要目
一、言論ノ自由ハ、我ガ憲法ノ保証スル所ナルニ拘ラズ、我ガ政府ハ未ダ曾テ此ノ自由ヲ毀損セザル者アラザルナリ。吾人ハ大ニ言論ノ自由ヲ高調シ、健全ナル国民思想ヲ啓発セザルベカラズ。
二、選挙ノ腐敗、政治ノ堕落ハ、今ヤ公然ノ事実ナレバ、吾人ハ選挙法ノ改正、選挙取締規則ノ励行ヲ力説シ、政治ノ改善ヲ要求セザル可ラズ。
三、将来政党ノ競争益々激烈ナラントス。然ルニ外交ト教育トハ、国家生存及ビ発展ノ最大必要条件ナレバ、仮令内閣更迭スルモ、外交ノ方針ト教育ノ主義トハ確定継続シテ動揺セザランコトヲ要ス。
四、大学及ビ高等教育機関ノ不足ハ、辛辣ナル競争試験ノ由ツテ起ル所ナリ。吾人ハ此際官学私学ノ協力統一ヲ図リ、試験教育ノ悪弊ヲ除カザル可ラズ。
五、世界ノ文明国中最モ困難ナル文字ヲ使用スルハ、支那ト日本トアルノミ。我ガ教育ノ効果十分ナラザルハ、一ニ国字ノ難渋ニ由ルコト、教育者ノ熟知スル所ナレバ、吾人ハ輿論ヲ喚起シテ、国字ノ改革ヲ断行セザル可カラズ。
六、科学ノ応用独創ノ研究ヲ奨励シ、以テ学問ノ独立ヲ期スルハ、我国刻下ノ急務ナリトス。故ニ学制ヲ改革シ、教育者ノ人種ヲ尊敬シ其ノ自主的活動ヲ重ンゼザル可ラズ。
七、極東ノ平和ハ懸リテ日支両国民ノ協同一致ニアリ。吾人ハ本邦ニ於ケル支那留学生及ビ在留民ヲ歓迎厚遇シ、而シテ支部ニ於ケル在留日本人ノ態度ヲ改善センコトヲ要ス。
八、東西文明ヲ調和シテ之ヲ融合スルハ、将来世界的新文明ヲ誘致スルノ基ナリ。現今世界ニ於テ直接此ノ使命ヲ帯ブル者ハ、日本ト米国トナルガ故ニ、吾人ハ留意シテ日米親善ノ為メニ努力センコトヲ
 - 第46巻 p.609 -ページ画像 
要ス。
九、明治維新以来領土頻リニ拡大シ、今ヤ日本国民ハ朝鮮・台湾・樺太・千島等ノ新附異民族ヲ包含シ、又異人種ノ帰化スル者少シトセズ。
 吾人ハ民族人種ノ異同ニ拘泥セズ、一切平等ノ見地ニ立脚シ、同化帰一ノ大勢ヲ助長セザル可ラズ。
十、前述ノ如ク領土甚ダ膨脹セリト雖モ、人口ノ繁殖ハ更ニ一層急激ナレバ、吾人ハ従来国民生活ノ大本タル農ヲ重ンズルト共ニ、商工業ヲ奨励シ、世界ニ於テ経済的大発展ヲ企テザル可ラズ。
十一、近時工業ノ発達ト共ニ、資本家及ビ労働者ノ間往々利害ヲ異ニシ、其ノ痛弊ヤ社会ノ風紀ヲ破壊シ、国家ノ活力ヲ減殺シ、延テ工業ノ衰頽国勢ノ萎靡ヲ来スノ恐アリ。此ノ弊害ヲ未然ニ制シテ、工業ノ発展国運ノ進歩ヲ鞏固ナラシムルハ、完全ナル工場法ノ制定ニ若クハナシ。吾人ハ今ヨリ我ガ工場法ノ実施ニ関シテ大ニ研究シ且ツ警戒センコトヲ要ス。
十二、信用ハ経済的国民ノ生命ナルニ、邦人未ダ其ノ意義ト、其ノ重ンズ可キ所以ノ道トヲ知ラザル者多シ。吾人ハ国民教育上、実業道徳ノ鼓舞振作ニ努力スル所アルヲ要ス。
十三、虚偽ノ形式ニ拘泥シ、習慣第二ノ天性ヲナシテ、殆ンド怪ムナキニ至ルコト、古今其ノ例乏シカラズ。吾人ハ刮目覚醒シテ此ノ弊風ヲ改メザル可ラズ。
十四、納税ノ義務ハ立憲国民ノ名誉トナス所ナリ。然ルニ我ガ国ノ税制ハ甚ダ過重ニシテ、且ツ公平ナラザルガ故ニ、脱税セザルモノ殆ド稀ナリ。国民道徳上甚ダ厭フベキコトナルガ故ニ、吾人ハ税法ヲ改正シ、此ノ不名誉ヲ雪ガンコトヲ要ス。
十五、国家ノ基礎ハ家族ニアリ。然ルニ近時男女夫婦ノ大倫紊レ、国家ノ休戚ニ関スルコト大ナリ。吾人ハ激励シテ家族ノ神聖ヲ保護セザルベカラズ。
十六、女子ハ国民ノ母ナルガ故ニ、女子ヲシテ其ノ才能ヲ伸バシ、各各其ノ志ヲ遂ゲシムルハ男子ノ向上、国民ノ発展ヲ助成スル所以ナレバ、益々女子教育ヲ普及セシムルト共ニ、大ニ其ノ程度ヲ高メンコトヲ要ス。
十七、博愛禽獣ニ及ブハ人道ノ極致ナルニ、今ヤ全国古来ノ美風頽廃シ、動物虐待ノ状見ルニ忍ビザルモノアリ。吾人ハ輿論ヲ動カシ速カニ法律ヲ定メ、之ガ救済ノ道ヲ図ラザル可ラズ。

 (第四案)大正革新ニ関スル国民ノ覚悟宣言草案
 開国進取ハ、建国以来ノ宏謨ニシテ、明治維新ノ鴻業、実ニ此ニ淵源ス。此ノ宏謨ヲ拡充シ、国運ノ伸張、民力ノ充実ニ努力スルハ、吾人ガ国家ニ対スル本分ニシテ、世界ノ進運ニ参与スルノ道、亦玆ニ存ス。吾人ハ大正革新ノ精神ヲ振起シ、内ハ国民生活ノ大本ヲ確立シ、東洋文明ノ代表者タル実ヲ挙ゲ、外ハ国際正義ノ擁護者トナリ、大ニ世界文化ノ進展ニ寄与センコトヲ要ス。
 此ノ目的ヲ成就センガ為メニハ、国民挙ツテ、内外ノ形勢実ニ重大
 - 第46巻 p.610 -ページ画像 
ナル時機ニ際会セルヲ自覚シ、同心協力万難ヲ排シ、奮ツテ此ノ国是ヲ遂行スルノ覚悟ナカルベカラズ。本会ハ爰ニ左ノ要項ヲ決議シテ之ヲ世ニ発表ス。若シ夫レソノ細目ニ至リテハ、機ニ臨ミ、時ニ応ジテ更ニ研究ヲ遂ゲ、世ニ問フ所アルベシ。
 一、自他ノ人格ヲ尊重シ、自発的活動ヲ促進スルト同時ニ、組織的共同ノ実ヲ挙グベシ。
 二、公共ノ精神ヲ涵養シ、以テ憲政ノ本旨ヲ貫徹スベシ。
 三、学風ヲ刷新シテ教育ノ実効ヲ挙ゲ、各般ノ才能ヲ発揮セシムベシ。
 四、科学ノ研究応用ヲ盛ニスルト共ニ、精神的文化ノ向上ヲ計ルベシ。
 五、人道正義ヲ重ンジ、国際平和ヲ護リ、以テ立国ノ大義ヲ宣揚スベシ。


帰一協会会報 第八号・第一六〇頁大正五年七月 ○十月例会(DK460148k-0003)
第46巻 p.610 ページ画像

帰一協会会報 第八号・第一六〇頁大正五年七月
    ○十月例会
 大正四年十一月四日午後五時半、麹町区八重洲町中央亭に於て開会(十月中開会すべきを、都合により十一月に繰下げたり)出席者二十三名。
 既に会報第七号を以て発表したる帰一協会宣言案に関し引続き討議を行ふ。開会先づ浮田和民氏は宣言案提出理由の説明あり。次で出席会員中にて宣言の各条項に付きて討議を為し、論議容易に尽きざりしが、決局五ケ条を決定し、第六条に関しては次回に議する事として散会せり。


帰一協会会報 第七号・第三〇―三一頁大正五年三月 ○宣言決定に至る経過の大要(DK460148k-0004)
第46巻 p.610-611 ページ画像

帰一協会会報 第七号・第三〇―三一頁大正五年三月
 ○宣言決定に至る経過の大要
同年○大正四年十一月四日例会
 宣言案(第四案)を原案と為して、討議す。而して従来の議論の帰する所、宣言第五項迄は、大体に於て、決定を見たるも、第六項に関しては、多数の意見出でゝ容易に決すべくも見えず、之を次回に譲ることゝせり。而して当日の成案(第五案甲)は左の如し。
 (第五案甲)大正国民ノ覚悟ニ関スル宣言案
 開国進取ハ建国以来ノ宏謨ニシテ、明治維新ノ鴻業実ニ此ニ淵源ス此ノ宏謨ヲ拡充シ、国運ノ伸張民力ノ充実ニ努力スルハ、吾人ガ国家ニ対スル本分ニシテ、世界ノ進運ニ参与スルノ道亦玆ニ存ス。吾人ハ大正革新ノ精神ヲ振起シ、内ハ国民生活ノ大本ヲ確立シ、東洋文明ノ代表者タル実ヲ挙ゲ、外ハ国際正義ノ擁護者トナリ、大ニ世界文化ノ進展ニ寄与センコトヲ要ス。
 此ノ目的ヲ成就センガ為メニハ、国民挙ツテ、内外ノ形勢実ニ重大ナル時機ニ際会セルヲ自覚シ、同心協力万難ヲ排シ、奮ツテ此ノ国是ヲ遂行スルノ覚悟ナカルベカラズ。本会ハ爰ニ左ノ要項ヲ決議シテ之ヲ世ニ発表ス。若シ夫レソノ細目ニ至リテハ、機ニ臨ミ、時ニ応ジテ更ニ研究ヲ遂ゲ、世ニ問フ所アルベシ。
 - 第46巻 p.611 -ページ画像 
 一、自他ノ人格ヲ尊重シ、国民道徳ノ基礎ヲ鞏固ニスベシ。
 二、公共ノ精神ヲ涵養シ、以テ立憲ノ本旨ヲ貫徹スベシ。
 三、自発的活動ヲ振作スルト同時ニ、組織的協同ノ実ヲ挙グベシ。
 四、学風ヲ刷新シテ大ニ教育ノ効ヲ進メ、各般ノ才能ヲ発揮セシムベシ。
 五、科学ノ根本的研究ヲ奨励シ、其ノ応用ヲ盛ニスルト共ニ、敬虔ノ念ヲ養ヒ、以テ精神的文化ノ向上ヲ図ルベシ。
    (以上五項大体議論確定、第六項につきて左の諸案あり)
 六、人道正義ヲ重ジ、国際平和ヲ護リ、以テ立国ノ大義ヲ宣揚スベシ。(委員原案)
 六、国際的平和ヲ重ジ、進退一ニ正義ヲ主トシ、以テ人道ノ大義ヲ宣揚スベシ。(浮田氏修正案)
 六、委員原案ノ文中「立国ノ大義」ヲ「四海同胞ノ大義」ト修正ス(高木氏案)
    (尚此他添田氏ヨリ経済ニ関スル一条、石橋氏ヨリ海事思想養成ニ関スル一条追加ノ要求アリ)


帰一協会会報 第八号・第一六〇―一六一頁大正五年七月 ○十一月例会(DK460148k-0005)
第46巻 p.611 ページ画像

帰一協会会報 第八号・第一六〇―一六一頁大正五年七月
    ○十一月例会
 大正四年十一月廿九日午後五時、中央亭に於て開会。出席者十九名
 開会先づ姉崎正治氏は宣言討議に関し前回までの経過の大体を説明し、次で阪谷芳郎男の司会の下に議事に移る。即ち前回よりの懸案たる宣言第六に付き討議を行ひ、斯くて大体宣言の確定を見たるを以て文字修正の委員を設けて之を依頼し散会せり。仍て十二月十五日午後四時中央亭に会して、文字の修正を為し、成案を得たるを以て、更に次例会に於て会員一同に謀る事とし委員会を閉ぢたり。(以上の経過は会報第七号を以て纏めて発表したるにより、此処には其の大要を録するのみ)


帰一協会会報 第七号・第三一―三六頁大正五年三月 ○宣言決定に至る経過の大要(DK460148k-0006)
第46巻 p.611-613 ページ画像

帰一協会会報 第七号・第三一―三六頁大正五年三月
 ○宣言決定に至る経過の大要
同年○大正四年 十一月二十九日例会
 本会開会に先立ちて、宣言に関し、佐藤鉄太郎氏、渋沢栄一氏の提出案あり。左の如し。
 一、国民ノ自覚ヲ促シ、統一アル国民的理想ヲ確立スルコト。
 二、宗教教育ノ目的ヲ一ニシ、之ガ自発的活動ヲ重ズルコト。
 三、科学ノ根本的研究ヲ奨励シ、国力ノ伸張ニ努力スルコト。
 四、割拠的気風ヲ打破シ、挙国一致ノ実ヲ挙グルコト。
 五、自衛ヲ主トシテ軍備ヲ充実シ、国際的位地ノ安固ヲ図ルコト。
    (以上佐藤氏提出案)

 (第五案乙)大正革新ニ関スル国民ノ覚悟宣言書(渋沢氏旅行中郵送提出案)
 開国進取ハ祖宗以来ノ国是ニシテ、明治ノ皇謨実ニ此ニ淵源ス。斯ノ皇謨ヲ拡充シテ、益々国運ノ伸張民力ノ充実ニ努力スルハ、吾人ガ
 - 第46巻 p.612 -ページ画像 
国家ニ対スル本分ニシテ、世界ニ報ズル所以ノ道亦玆ニ在リ。吾人ハ爰ニ大正革新ノ精神ヲ振起シ、内ハ国民生活ノ大本ヲ確立シ、東洋文明ノ代表者タル実ヲ挙ゲ、外ハ与国ト共ニ国際道徳ノ擁護者トナリ、大ニ世界文運ノ隆盛ニ寄与セザルベカラズ。此ノ目的ヲ成就センガ為ニハ、国民挙テ内外ノ形勢共ニ重大ナル時機ニ際会セルヲ自覚シ、同心協力、奮テ万難ヲ排シ、帝国ノ国是ヲ定メテ、之ヲ遂行スルノ覚悟ナカルベカラズ。依テ本会ハ左ニ国是五条及ビ時務要綱十目ヲ決議シテ之ヲ発表シ、同胞ノ熱誠ナル考慮研鑽ニ供セント欲ス。
      国是
 一、先帝ノ遺詔ニ基ヅキ、憲政有終ノ美ヲ済スベシ。
 一、世界ノ平和ヲ尊重シ、国際ノ道徳ヲ擁護シ、人類共存ノ道ヲ全カラシムベシ。
 一、学制ヲ改善シテ、大ニ天下ノ人才ヲ発育シ、且ツ其人格ノ修養ニ勉ムベシ。
 一、虚栄ヲ去リ、実益ヲ重ジ、国民生活ノ基礎ヲ鞏固ニスベシ。
 一、自発的活動ノ精神ヲ振起スルト同時ニ、共同生存ノ真理ヲ自覚シ、組織的結合ノ実ヲ挙ゲンコトヲ要ス。
      時務要綱
 一、言論ノ自由ハ我ガ憲法ノ保証スル所ナリ。然ルニ為政者ハ時ニ或ハ之ヲ雍塞スルコトナキヲ保セズ。吾人ハ痛切ニ之ヲ力説シ、国民思想ノ啓発ニ勉メザルベカラズ。
 二、選挙ノ紊乱政治ノ堕落ハ、今ヤ公然ノ事実トナレリ、吾人ハ選挙法ノ改正、選挙取締規則ノ励行ヲ要求シ、政治ノ改善ヲ企図セザルベカラズ。
 三、外交ト教育ト実業トハ、国家ノ発展、国民ノ生存上、最大必要条件タリ。仮令政争ノ為ニ内閣更迭スルコトアルモ、其主義方針ハ確乎継続シテ動揺セザランコトヲ要ス。
 四、大学及ビ高等教育機関ノ不足ハ、無用ナル競争試験ノ由テ生ズル所ナリ、吾人ハ此際官私学ノ協力統一ヲ図リ、試験制度ノ弊害ヲ除去セザルベカラズ。
 五、科学ノ応用、独創ノ発明ヲ奨励スルニハ、理化学研究所ヲ設立スルヲ、我邦刻下ノ急務トス。吾人ハ官民協力ノ方法ニ拠リテ、之レガ創設ヲ企劃スベシ。
 六、極東ノ平和ハ、懸リテ日支両国民ノ協力一致ニ在リ。故ニ吾人ハ我邦官民ノ支那ニ対スル態度ヲ改善シ、善隣ノ友誼ヲ厚ウセンコトヲ要ス。
 七、東西ノ文明ヲ調和融合スルハ、世界的新文明ヲ誘致スルノ基ナリ。現今宇内ニ於テ此使命ヲ帯ブル者ハ、我邦ト北米合衆国トナリト思惟ス。故ニ吾人ハ特ニ此ニ留意シテ、日米ノ親善ヲ厚ウセンコトヲ要ス。
 八、信用ハ経済的国民ノ生命ナルニ、邦人未ダ其意義ト、其重ズベキ道トヲ知ラザル者多シ。吾人ハ国民教育上、実業道徳ノ鼓舞作興ニ努力スベシ。
 九、近時工業ノ発達ト共ニ、資本家労働者ノ間、往々其利害ヲ異ニ
 - 第46巻 p.613 -ページ画像 
シ、其弊ヤ延テ工業ノ衰頽ヲ来タスノ恐アリ。此弊害ヲ未然ニ制スルハ、完全ナル工場法ノ制定ニ在リトス。吾人ハ此ニ注意シテ大ニ研究シ、且ツ警戒スル所アルヲ要ス。
 十、形式ニ拘泥シ旧慣ヲ墨守スルハ、日進月歩ノ時勢ニ応ズルノ道ニアラザルナリ。吾人ハ刮目覚醒シテ、此弊風ヲ改メザルベカラズ。
 先づ開会するや、前回の懸案たる、宣言案(第五案甲)第六項に付きて討議し、其結果渋沢氏の提出案を参酌し、玆に同第六項を決定せり。即ち
  第六項 世界平和ヲ尊重シ、国際ノ道徳ヲ擁護シ、以テ立国ノ大義ヲ宣揚スベシ。
 斯くて、本会合に於て、大体宣言の確定を見たり。但し文字修正の必要あるを以て、左記七名の修正委員を選定し、其の修正をなす。
  修正委員
   姉崎正治氏  中島力造氏  成瀬仁蔵氏
   水野錬太郎氏 佐藤鉄太郎氏 浮田和民氏
   増田義一氏
同年十二月十五日 修正委員会並ニ例会
 前回にて決定したる宣言案に修正を加へて決定案を得たり。巻頭に掲げたるもの即ち是なり。
 尚ほ明年一月例会に於て会員一同に謀る事と為す。


帰一協会 趣旨、意見書、決議、宣言並規約会員名簿並出版目録 第一二―一三頁刊(DK460148k-0007)
第46巻 p.613 ページ画像

帰一協会 趣旨、意見書、決議、宣言並規約会員名簿並出版目録 第一二―一三頁刊
    宣言
開国進取ハ建国以来ノ宏謨ニシテ、明治維新ノ鴻業実ニ此ニ淵源ス。此宏謨ヲ拡充シ、国家ノ実力ヲ養ヒ、国運ノ伸張ヲ図ルハ吾人ガ国家ニ対スル本分ニシテ、世界ノ進運ニ参与スルノ道、亦玆ニ存ス。吾人ハ大正革新ノ精神ヲ振起シ、内ハ国家成立ノ本義ヲ発揮シ、東洋文明ノ代表者タル実ヲ挙ゲ、外ハ国際正義ノ擁護者トナリ、大ニ世界文明ノ進展ニ寄与センコトヲ要ス。
此目的ヲ成就センガ為ニハ、国民挙ツテ、内外ノ形勢実ニ重大ナル時機ニ際会セルヲ自覚シ、同心協力、奮ツテ此国是ヲ遂行スルノ覚悟ナカルベカラズ。本会ハ爰ニ左ノ要項ヲ決議シテ、之ヲ世ニ発表ス。若シ夫レソノ細目ニ至リテハ、著々研究ヲ遂ゲ、世ニ問フ所アルベシ。
一、自他ノ人格ヲ尊重シ、国民道徳ノ基礎ヲ鞏固ニスベシ。
二、公共ノ精神ヲ涵養シ、以テ立憲ノ本旨ヲ貫徹スベシ。
三、自発的活動ヲ振作スルト同時ニ、組織的共同ノ発達ヲ期スベシ。
四、学風ヲ刷新シ、教育ノ効果ヲ挙ゲ、各般ノ才能ヲ発揮セシムベシ。
五、科学ノ根本的研究ヲ奨励シ、其応用ヲ盛ニスルト共ニ、堅実ナル信念ヲ基礎トシ、精神的文化ノ向上ヲ図ルベシ。
六、国際ノ道徳ヲ尊重シ、世界ノ平和ヲ擁護シ、以テ立国ノ大義ヲ宣揚スベシ。
  大正五年二月