デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

6章 学術及ビ其他ノ文化事業
1節 学術
7款 帰一協会
■綱文

第46巻 p.657-662(DK460166k) ページ画像

大正11年3月17日(1922年)

是年一月三十日、栄一アメリカ合衆国ヨリ帰国ス。是日当協会、一ツ橋如水会館ニ於テ、例会ヲ兼ネテ栄一ノ帰国歓迎会ヲ開ク。栄一出席シテ日米関係ニ関スル演説ヲナス。


■資料

(帰一協会)協会記事四(DK460166k-0001)
第46巻 p.657-659 ページ画像

(帰一協会)協会記事四          (竹園賢了氏所蔵)
    三月例会記事
本会例会は先に米国より帰朝せられたる渋沢子爵一行の歓迎会を兼ね
 - 第46巻 p.658 -ページ画像 
て、十七日○大正一一年三月(金)午后五時半より、神田一橋如水会館に於て左記の如く開催す、当日の来会者左の如し
 麻生正蔵氏    姉崎正治氏
 岩野直英氏    今岡信一郎氏
 小野英二郎氏   浮田和民氏
 筧克彦氏     尾高豊作氏
 加藤正義氏    片山国嘉氏
 川田鉄弥氏    川島令次郎氏
 佐藤鉄太郎氏   斎藤七五郎氏
 渋沢栄一氏    塩沢昌貞氏
 石橋甫氏     島本愛之助氏
 内ケ崎作三郎氏  添田寿一氏
 田中次郎氏    土肥修策氏
 野口日主氏    成田勝郎氏
 花房太郎氏    服部宇之吉氏
 穂積重遠氏    福岡秀猪氏
 堀内三郎氏    本郷房太郎氏
 宮岡直記氏    矢野茂氏
 矢吹慶輝氏    山内繁雄氏
 脇田勇氏
当日の講演左の如し
 ワシントン会議雑感   法学博士 添田寿一氏
自分は此の前の巴里会議にも参列し、此度も参列して、列国の誠意と人類の前途とに疑惧の念を懐くものである、支那問題が米国の政策に非常な関係あること、日英同盟の廃棄、四国協商等何れも吾人の細心の監視を要すべき事柄のみである、各国只自利のみを念頭に置き、未だ平和人道の為め真の協力が成立してるとは思はれない、私は今後の学術の発達も、只此の利己本位の戦争のみに利用さるゝなきかを心配するのである、共存共栄の大原則に基いてやつたならば、人種間の平和も実現さるゝ事と思ふ
 日米関係其の他について    子爵渋沢栄一氏
此度の米国行きは全く老人の冷水と申すべきものであつたが、ともかくも途中無事で、昨年の十月十三日から本年一月卅日迄、百余日に及んで帰国したわけである、今度行つたのは日米の国交について心配する所があつた為である、日米関係については明治三十七・八年頃から心配し始め、小村侯などからも励されたりして、其の後今日迄、先方の商業会議所員と往来したり、親交をつゞける様にして来た次第である、米国民は突飛な所のある国民故当方で好意を以て対しても数回排斥などをやつた、之には日本の悪い所もあるから仕方もないので、其の都度其の寛和する様に幾分努力して来たつもりである、斯くて日米関係委員会なるものを設ける様になつたのである、日米戦争説などを唱へるものが米国にすらあつて、私も心配したが、其等の影さへ無くなつて安心した様な次第である、尚加州問題・布哇問題などについて米国が如何なる態度を取るかは目下予知し得ざる所である、最後に私
 - 第46巻 p.659 -ページ画像 
の眼からは日本の各般の事が不真面目と見えます、過日松方公にあつた時にもそう申しました、此の不真面目と云ふ事の源因は何であるか之は一言には申上げられない事であるが、本協会としてもよく之について討究していたゞき度いと思ふ
質問 姉崎博士より、現下の日本は悩みの時代にて不真面目の時代にあらず、学生などに於て特に然り、と云はれ、之に稍反対の意見を述べるものに浮田博士等あり、結局、果して現下の日本は真面目なりや不真面目なりやを先つ研究するの件を提案し、之を後日に待つ事として打ち切りとす


竜門雑誌 第四〇七号・第六一頁 大正一一年四月 ○帰一協会帰朝歓迎会(DK460166k-0002)
第46巻 p.659 ページ画像

竜門雑誌  第四〇七号・第六一頁 大正一一年四月
○帰一協会帰朝歓迎会 帰一協会にては、三月十七日午後五時半より如水会館に於て、青淵先生の帰朝歓迎会を開催し、先生にも出席の上一場の外遊所感を述べられたりと云ふ。



〔参考〕現代気風調査事項に関する報告 第一―一三頁刊(DK460166k-0003)
第46巻 p.659-662 ページ画像

現代気風調査事項に関する報告  第一―一三頁刊
    現代気風調査事項に関する報告
                         姉崎正治
本問題は、本年○大正一一年三月本会例会で、渋沢子爵の発議に基いて、特別委員を組織して調査することになつたに始まる。即ち、「どうも此頃の人心状態・社会気風が、あらゆる方面で真面目でないやうに思はれるが、事実どうであらうか。仮にその通りだとすれば、その原因はどこにあり、対策をどうすべきか」。是が提出された問題であつて、同様の考は、前から大分会員の中にも浮むで居たのであるが、浮田和民氏の動議で、それ等問題を調査研究する為に、特別委員を設けることになつたのである。
 その結果、会員中から浮田和民・斎藤七五郎・添田敬一郎・増田義一・矢吹慶輝の五氏と幹事五名とを委員とし、渋沢子爵は員外に参加していただくことになつた。而して六月十五日委員会第一回会合を開き、席上各々所見を披瀝し、意見を交換し、その結果に基いて、調査の土台とする為に調査事項と、大体の方針を立案することゝし、姉崎が先づ、その試案を作ることにした。本報告はその試案であつて、今それを会員に配布し、その批評・注文を乞ふ次第である。それ等の結果に基いて、一層之を鍛錬し、九月以後調査研究の基礎としたいのである。
 先づ、調査事項に関する大体の着眼点を云はゞ、社会気風の問題は結着、外囲社会状態と人間精神状態との相互関係又は反応の結果として考へて見るべきだといふ点を根本出発点とする。而して、道徳や宗教の事は勿論、政治や経済の事も、此の着眼点から観察し考究して見たいと思へる。
 次に、何れの時代でも、現下の状態は前時代からの変遷推移や又外国からの影響などゝ結びつけて考へる要があり、特に現代の如き時代に処しては、その必要が多いから、静的観察でなく、動的観察を必要とする。即ち仏教でいふ力作因縁の見地に重きを置き、それから進む
 - 第46巻 p.660 -ページ画像 
で、果報、即ち結果なり対策に及ぶべきだと考へられる。
 右様の見地に基いて、大綱を四に分けて見た。四大綱の間には、互に離すべからざる聯絡のあるは勿論であるが、着眼の分界は、調査研究の為に、便宜乃至必要である為に、大体の分類を試みたので、それ等の結果を総合して見るのみならず、互の聯絡に注意することも、頗る必要と思はれる。
 大綱中の細目については、又各々大小の項目を彙類して見たいとも考へたが、始から大小軽重を定めてかゝるのは、一面に於て便利の様でも、他面、事の大小従属又は因果関係を予断するに当るといふ処がある。此も或る程度では必要であらうが、調査研究の進行や内容に干渉しては、却て真相を誤る危険もあると考へられる。そこで先づ、「此の様な点もあらうか」といふ意味で項目を羅列して見た。されば、羅列した項目は、必しも同等に重要だといふ意味でなく、又それ等の間には交叉聯絡のあることも、勿論含蓄しての羅列である。
 此の如くにして、聯絡(必しも統一といはず)のある見地から諸方面の事項を整列して見、その結果、各方面に分業して担任者を定め、事実の調査を進め、その間に聯絡を保ち、事実の関係や反応を捜り、出来得べくば、全体と共に局部毎にも対策を考へて見たい、此が報告者の希望である。
 右様の次第故、本報告を御覧になつて、御気附の点を幹事へ御注文くだされたく、報告者は、それ等を総合して、更に案を作り、九月に委員会の討議を求めるつもりであり、その成行や結果については、時時同様の報告を頒布して、批評意見を求むることにしたいと思ふ。
 報告者が今夏或る処で講義する筈の筋書大要、本報告調査事項と関係あり、併せて批評を乞ふ。
        *
      調査事項
 政治・法制・組織上の問題
  政権移動の状態とその人心に及ぼす影響
  政党と自治体、並に選挙運動
  諸種閥の聯絡関係
  法令制定の精神とその運用、並に人民の法律に対する態度
  人物経済配置並にその新陳代謝
  司法制度の運用とその人心に及ぼす影響
  警察・青年会・在郷軍人会等の運用
 経済問題と精神状態との聯関
  資本及労働の心理特に階級観念
  都会生活の発展、その状態と影響
  農村問題と農民気風の変遷
  交通機関の発達とその影響
  土地分配と生活安定の問題
  射倖心と勤勉努力の気風との問題
  奢侈浪費と生活改善
  自国製品に対する信用不信用の問題
 - 第46巻 p.661 -ページ画像 
 風俗・道徳・教育に関する問題
  権威観念と自由観念、義務責任と権利主張、その関係並に消長
  郷党道徳と輿論の制裁と個人の自覚
  諸学校修身教育の実状、その内容及効力
  諸種徳育団体の主義と活動状態
  教育者の生活と精神状態、特にその待遇と思想の自由
  文学芸術の風潮
  性慾問題と風俗並に家庭問題
  娯楽機関と民衆教育(祭礼等を含む)
 宗教及精神生活
  現存宗教の多岐分裂と人心の帰向
  各宗派勢力の消長及その伝道感化事業
  社会気風と宗教心との関係(射倖心・迷信等の問題を含む)
  国家思想と宗教心との関係(国際不安・軍備思想等の問題を含む)
  日曜学校、その他幼年青年の感化
  工場・軍隊・監獄等に於ける教誨事業
  個人主義・虚無思想・独善気風等の問題
  人生の徹底的改造といふ思想と宗教
  物質主義と理想主義との消長
  青年心理並に老年心理と宗教との関係

    現代文化と精神生活の使命
                    姉崎正治(稿)
      一、現代文化の特質と由来
 中世文化の特質が信頼沈思にあるに対して、現代文化は活動開拓を特質とする。此の差別は又、通常謂ゆる東洋と西洋との対照に当るが東洋も西洋現代の文化を容れた以上、此の特質を開発すると共に、又その困難にも遭遇するのは、自然の数である。現代文化の特質は最も能く産業組織に現はれて居る。而して人生、社会組織や経済状態は、信仰思想の内容、精神気風の傾向と密接に相互関聯するものであるから、現代の社会問題が常に思想問題と相表裏するといふ事が最も重要の点であり、文化と精神生活と聯絡する所以は此にある。
      二、現代文化の難関
 現代文化の活動精神は先づ政治と産業とに現はれ、科学が之を助けて来たが、その組織が進むに従つて段々難関に遭遇し、社会的には階級の対立、世界的には国際競争となり、而して大戦の爆発に続いて人生に対する生物学的見解が本能性の爆発となつて現はれて来た。日本は東洋中世風の社会から西洋近代風の文化へ移らうとする問題と共に此の現代文明の難関に遭遇し、二重の問題にぶつかりつゝある。但し困難と共に希望の光明は、人生の理想的改造といふ意気に現はれ、その為には思想信仰即ち精神生活を如何にすべきかといふことが大問題となつて来た。困難のあるのは即ち希望のある所以である。
      三、現代文化と精神生活
 現代文化は、特に日本では外面組織の上で発達して来たが、その組
 - 第46巻 p.662 -ページ画像 
織に副ふだけの精神が充実せず、文化を指導する理想が欠けてゐる。そこで文化の内容をどうするかといふ問題の外に、文化そのものをも疑問とする風潮も生じて来た。何れにしても、文化問題といふのは、制度文物の組織だけで満足せず、文化の内容、人生の意味といふ事を問題とするものであつて、人生に対する魂の目ざめとも称すべきである。此の覚醒が即ち精神生活に対する渇望であり、社会・制度・文化のみならず、人生に対する精神的意義を求め、人生の価値、人間の品格乃至運命といふ問題に進まざるを得ない。
      四、精神生活の意義と使命
 現代文化は理性の組織で秀でて居たが、それが破綻を呈して、本能性の爆発となり、その中から却つて理想信念の要求が生じて来た。理想といふのは、人生の精神的価値を発揮し創作すること、而して信念とは、此の未だ現はれぬ理想に対する信頼である。此が文化の破綻を救ふ力とならなければ、人類は元の野蛮生活に逆転する虞があるといふ所に現代の危機がある。而して此の如き理想の力を発揮するのは結着人格の力にある。即ち弘く深く宇宙人生の姿を映しとつて、それで人生を指導し感化する力のある心鏡を有する人格が精神生活の本拠である。而して現代人の使命は此の如き人格を徒に外に求めないで、各自の魂に求め、而してそれが融合して、文化を作り上げる様にするにある。
  ○是年八月十四日右ノパンフレツトヲ、会員百三十三名ニ発送シテ、其ノ意見ヲ問ヒタル旨、「協会記事四」ニアリ。