デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

7章 行政
2節 内務行政
3款 帝都復興審議会
■綱文

第48巻 p.436-458(DK480136k) ページ画像

大正12年11月24日(1923年)

是日栄一、総理大臣官邸ニ於ケル当会ニ出席ス。政府提出ノ議案ニ対シ種々反対意見アリ、栄一之ヲ調停センガタメ協議会ヲ開カンコトヲ提議ス。山本総理大臣ノ取計ヒニヨリ特別委員会ヲ設クルコトニ決シ、栄一同委員会ノ閣外委員ノ一人ニ指名セラル。


■資料

竜門雑誌 第四二三号・第六四頁大正一二年一二月 ○帝都復興と中庸の要(DK480136k-0001)
第48巻 p.436 ページ画像

竜門雑誌 第四二三号・第六四頁大正一二年一二月
○帝都復興と中庸の要 左は青淵先生談として十一月十七日発行の国民新聞に掲載せるものなり。
 帝都復興基礎案の発表を見たが、総額七億七千万円との事である。而して其計画に依る幾多の重要なる諸件に付ては今之を批評するのは早計と思はれる。又港湾にせよ、又都市計画の第一線より第四十六線に至るが如き、又公園に於ても夫々専門家の講究を待つ事が大であるし、日本の帝都復興案の具体化は又官民一致に依らねばならぬ事は勿論であるが、要するに百年の大計をして其実あらしむると否とは、官民共に其責を負はねばならぬ故に、現在日本の国力から見て、妥当なる措置を執る事が肝要である。無暗に縮少して其実効果の乏しきに於ては、大震後の千載一遇の機会を逸する事となるべく、計画の過大なる時は是亦国民の負担を重くして復興の名に背く事とならうから、望むらくは各種専門家に於ても一層の審議を凝し凡て中庸を忘却せぬ様に切望する次第である。


渋沢子爵親話日録 第一 自大正十二年十一月至同年十二月 高田利吉筆記(DK480136k-0002)
第48巻 p.436-437 ページ画像

渋沢子爵親話日録 第一 自大正十二年十一月至同年十二月 高田利吉筆記
                    (財団法人竜門社所蔵)
○十一月廿一日
△朝大石正巳氏飛鳥山へ参邸、政府の帝都復興計画ハ放漫に失すれば
 - 第48巻 p.437 -ページ画像 
審議会に於て大に緊縮的修正を加へざるべからすとて御同意を求めらる
○下略


帝都復興審議会書類(DK480136k-0003)
第48巻 p.437 ページ画像

帝都復興審議会書類           (渋沢子爵家所蔵)
謄写版)
  大正十二年十一月二十二日
             帝都復興審議会幹事長
                   子爵後藤新平
    (宛名手書)
    渋沢委員殿
      通知
明後二十四日午前十時会議相開カレ候ニ付、麹町区永田町内閣総理大臣官舎ニ御参集相成度候
                (付箋)
                [議案ハ明日御送付可仕候


渋沢子爵親話日録 第一 自大正十二年十一月至同年十二月 高田利吉筆記(DK480136k-0004)
第48巻 p.437 ページ画像

渋沢子爵親話日録 第一 自大正十二年十一月至同年十二月 高田利吉筆記
                   (財団法人竜門社所蔵)
○十一月廿三日 (新嘗祭)
○上略
△次に大橋新太郎氏参邸、復興審議会の事につき意見書を提示す、審議会ハ廿四日に開かるへきにより、御意見の趣ハ其際提議せんと答へらる
○中略
△東京日々新聞記者松岡正男氏参邸、復興審議会の事に関して御談話を請ふ
○下略


渋沢栄一書翰 大橋新太郎宛(大正一二年)一一月二四日(DK480136k-0005)
第48巻 p.437 ページ画像

渋沢栄一書翰 大橋新太郎宛(大正一二年)一一月二四日
                   (大橋新太郎氏所蔵)
拝読 昨朝ハ態と尊来種々御懇示被下忝奉存候、右御提案ニ関し今日更ニ詳細之来諭遂一了承仕候、井上君ヘハ尚御打合可被下趣何卒充分領意候様御説明相成、老生も全然御同意之旨御申通し被下度候、又伊東氏ニも御談話有之候由、今日審議会にて会見之筈ニ付篤と打合可申と存候、只遺憾なるハ和田氏之病気欠席ニ御坐候、老生も其中往訪之積ニ候
右不取敢拝答如此御坐候 敬具
  十一月廿四日
                      渋沢栄一
    大橋賢契
       研北


渋沢子爵親話日録 第一 自大正十二年十一月至同年十二月 高田利吉筆記(DK480136k-0006)
第48巻 p.437-438 ページ画像

渋沢子爵親話日録 第一 自大正十二年十一月至同年十二月 高田利吉筆記
                     (財団法人竜門社所蔵)
○十一月廿四日
△午前十時総理大臣官邸に於ける帝都復興審議会に委員として出席せ
 - 第48巻 p.438 -ページ画像 
らる、政府提出の議案に対し、伊東・加藤・高橋・江木等の委員諸氏より種々の反対意見続出して議まとまるへくも見えざれば、子爵ハ之を融和調停せん為、一時本会議を中止して協議会を開かんことを提議せられしに、閣臣を除きたる所謂閣外の委員ハ悉く同意せしも、議長たる総理大臣の希望により特別委員会を開かるゝことに決定す
○中略
△御帰邸後報知・時事・万朝等の新聞記者参邸、審議会議事の模様を質問す、差支なき限り談話せらる


帝都復興史附横浜復興記念史 復興調査協会編 第一巻・第一六八―一八七頁昭和五年五月刊(DK480136k-0007)
第48巻 p.438-448 ページ画像

帝都復興史附横浜復興記念史 復興調査協会編 第一巻・第一六八―一八七頁昭和五年五月刊
 ○第二編 帝都復興計画の経過
  第五章 帝都復興審議会の大修正
    第一節 審議会総会
 復興院幹部が心血を濺いで作成せる復興計画案は、参与会及び評議員会に於て一部の修正を加へられたが、大体に於て原案を認められたるを以て、愈々復興事業の根元たる帝都復興法案を作成し、先に参与会及審議会の諮問を経たる復興計画具体案、十一月二十二日の閣議に於て決定せる予算案等と一括して十一月二十四日復興審議会に提出した。諮問案要旨及復興法案左の如し。
      諮問案第一号
一、帝都復興計画区域及復興事業規格に関する件
二、復興事業統制及復興事業の執行に関する件
三、復興事業費の区分に関する件
 (以上は復興院評議会へ提出のものと殆んど同様に付之を略す。評議会諮問案参照)
      諮問案第二号
一、帝都復興計画案の大綱に関する件
二、帝都復興計画の事業年度・財政方針に関する件
三、復興事業の統制及其の事業の執行に関する件
 大正十二年九月渙発せられたる詔書の聖旨を奉戴し、東京及横浜両市の災後に善処すると共に、其将来の発展に備ふる為帝都復興計画の規模を按ずるに、各都市計画区域の都市計画法に依り確定したるものあると共に、社会上・経済上政府として有機的生活を営むに足るの地域を包含し今遽かに之を変改する必要を認めず。商工業及住居の地域に於ける制又震災の直前に於て都市計画法に依り夫々権限ある機関との議定を経たるものは、之を土地の情況、交通運輸の利便並に災後に於ける復興の趨向等に照し大体に於て則るに足るものと認む。従つて帝都復興に関しては東京及横浜両市計画区域内に健全にして秩序ある都会の建設を促進するを主眼とし、民度と財力の許す範囲に於て事の緩急を稽へ序を逐ふて案を進め、交通・衛生・保安・経済・教育等に関する重要施設の整理を図り、永久に都市の安寧を維持し、福利を増進するの基礎を固むる為め、先以て主として焼失地区域の復興に必要なる施設の逐行を図り、其国に於て執行するものと地方に於て執行す
 - 第48巻 p.439 -ページ画像 
るものとの区分及其負担法は別に定むる所に依り、後者に対しては財政上の援助を与へて施行せしめんと欲す。
其の要綱左の如し。
      第一 街路の規格及路線の系統
都市構築の規矩たる街路に就ては大震災の惨害に鑑み此の際特に英断するの要あり。乃ち専ら交通幹線の配置に意を用ひ之れが規格は高速度鉄道の敷設に備ふる為め幅員十五間以上三十間とし、幅員六間以上の街路に之れを配し、其の電気軌道網を構成すべき路線の規格は十一間以上とし、地域の情況と交通の系統を案して主要路線の系統及其規格等を大要左の如く、主要街路の交角並に橋台等には適当なる広場を設く。(括弧内の数字は延長間数。其下は幅員間数)
第一、品川より本芝町一丁目・芝口一丁目・木挽町・江戸橋・和泉橋・車坂町を経て三輪町に至る(七、四一〇)一八乃至二四
第二、九段坂下より南神保町・両国橋を経て亀戸町に至る(三、四一〇)一五乃至二四
第三、呉服橋より永代橋を経て砂町に至る(二、九二〇)二〇
第四、有楽町一丁目より尾張町・木挽町三丁目・築地三丁目を経て月島二号地に至る(隅田川を含まず、一、二五〇)一五乃至二〇
第五、築地三丁目より入船町・亀島町・浜町三丁目・浅草橋・南元町・北田原町を経て金杉下町に至る(四、四二〇)
第六、上野公園より駒形町を経て押上町に至る(二、〇〇〇)二〇
第七、東京駅東口城辺河岸より下槙町・亀島町を経て新船松町に至る(八三〇)一二乃至二八
第八、永楽町一丁目濠端より元千代田町に至る(一一〇)四〇
第九、桜田門外より新議事堂前に至る(三二〇)三〇
第十、相生橋南詰より和倉町・相生町を統て中の郷竹町に至る(二、七八〇)一三、五乃至三〇
第十一、東京駅北口銭瓶町より新常盤橋・小伝馬町一丁目を経て浅草橋に至る(八七〇)一五
第十二、神田橋内より淡路町一丁目を経て本郷三丁目に至る(一、二九〇)一五乃至一八
第十三、一ツ橋内より南神保町・水道橋を経て壱岐殿坂下に至る(九二〇)一二乃至一五
第十四、大手町一丁目より一ツ橋内・雉子橋・新門橋を経て飯田橋に至る(一、五四〇)一五乃至二〇
第十五、虎の門より西久保神谷町に至る(四八〇)一五
第十六、桜田本郷町より芝公園に至る(五八〇)一八
第十七、鍛冶橋外より桜町・弾正橋・高橋を経て箱崎町四丁目に至る(八八二)一二乃至一八
第十八、芝口一丁目より虎の門を経て赤坂見付に至る(一、五一〇)一八
第十九、一ツ橋外より鎌倉河岸・城辺河岸を経て新橋駅に至る(二、〇五〇)一五
第二十、雉子橋内より九段坂下を経て飯田町三丁目に至る(八四〇)
 - 第48巻 p.440 -ページ画像 
一五
第二十一、九段坂下より富士見町一丁目・半蔵門を経て新議事堂に至る(一、三九五)一五
第二十二、蠣殻町二丁目より人形町を経て岩本町に至る(八八〇)一五
第二十三、壱岐殿坂下より本郷一丁目・二長町・御蔵前片町・法恩寺橋を経て亀戸に至る(三、六九〇)一二乃至一五
第二十四、浅草材木町より吉野橋を経て三の輪に至る(一、四〇〇)一三、五
第二十五、両国橋東詰より両国駅に至る(九八)一八
第二十六、木挽町九丁目より築地四丁目に至る(一一〇)一五
第二十七、南元町より厩橋通・黒船町に至る(二〇〇)一五
第二十八、深川公園前より砂町に至る(一、五三〇)一二
第二十九、浜町三丁目より中洲町・石島町を経て砂町に至る(二、一四〇)一二
第三十、浜町三丁目より新大橋・菊川橋を経て大島町に至る(一、七七〇)一二
第三十一、中の郷元町より寺島町に至る(一、〇九〇)一二
第三十二、山の宿町より亀岡町を経て橋場町に至る(八六〇)一二
第三十三、吉野橋より南千住町常盤通路踏切に至る(七七〇)一二
第三十四、大手町一丁目より北鞘町・荒布橋・浜町一丁目を経て両国橋西詰に至る(一、六四〇)一二
第三十五、竜閑橋北詰より、紺屋町・美倉橋竹町を経て入谷町に至る(二、一八〇)一二
第三十六、道三町より鎌倉河岸・昌平橋・平神町二丁目を経て池の端七軒町に至る(一、九二五)一二
第三十七、今入町より愛宕町を経て赤羽橋に至る(一、〇六〇)一二
第三十八、千束町一丁目より亀町に至る(六三〇)一二
第三十九、入谷町より山の宿町・浅草駅前・本所駅脇を経て洲崎に至る(三、八七〇)一二
第四十、荒布橋東詰より思案橋を経て小網町四丁目に至る(二一〇)一二
第四十一、西久保神谷町より宇田川町に至る(五〇〇)一二
  削除路線
一、第一線路の内三の輪町より千住町大橋に至る間
二、第十三路線の内壱岐殿坂下より巣鴨町庚申塚に至る間
三、第十四路線の内飯田橋より高田町に至る間
四、第十五路線評議会提示の第十七路線の内西久保神谷町より目黒駅に至る間
五、評議会提示の第十五路線(市谷見附より淀橋町に至る)全部
七《(マヽ)》、同上第十六路線(溜池町より道玄坂に至る)全部
八、同上第二十八路線(西久保より新宿駅に至る)全部
九、同上第四十路線(巣鴨宮下より池袋に至る)全部
十、同上第四十一路線(霞町より恵比寿駅前に至る)全部
 - 第48巻 p.441 -ページ画像 
  修正幅員
一、第十五路線は十五間を十八間に
二、第十八路線は十八間を十五間に
      第二 公園の配置
 公園は主として官有地等の整理に伴ひ漸を逐ふて之れが配置の適切なるを期し、取敢へず東京及び横浜に各々左の数公園を開設すると共に、出来得る限り焼失地域内に於て復興を必要とする小学校の附近児童遊園を設くるを得しむ。
      (東京の部)
隅田公園、約四万坪、隅田川沿岸枕橋上に設け勝地を保存す
江東公園、約四万坪、深川御料地附近に設く
日本橋公園、約一万坪、日本橋区内の適地に設く
      (横浜の部)
日出公園、約四千八百坪、長者町日出川を埋築す
山下公園、約二万五千坪、山下町海岸を埋築す
野毛山公園、約二万坪、野毛山貯水地跡に設く
青木町公園、約六千坪、神奈川区有水面を埋築す
      第三 市場の配置
 中央卸売市場の位置は東京にありては築地海軍省用地跡。横浜にありては高島町附近とし市場設備に関する市の経営を助成す。
 蔬菜市場は中央市場以外に東京にありては両国及び秋葉原両駅の附近にも開設することを得しむ。
      第四 市街宅地割の整理
 街路又は運河の類の施設により建築敷地としての利用の全からざるものを生じたる時、其の他土地の状況により必要あるものについては土地区劃整理を行ふ。
      第五 防火措置
 防火措置に関しては都市計画法により重要街路の沿道並びに中枢地区に対し、既に防火区制の定めあるも今回街路の新設広築をみるべきにより、新たに計画街路の沿道となるべき一定の土地に対し、路線形に防火地区を指定する外、中枢地区に於ては集団的防火地区の拡張を図ると共に、適当なる方法により防火地区内に於ける不燃質建築物の築造を助成す。
      第六 京浜の関係並に港湾及運河の施設
 京浜の関係に就ては横浜港を以て帝都の外港とし、既成設備の回復と第三期拡張計画の速進を期し、隅田川の河口に内港の設備を施し、両港の連絡を完全にし且つ沿岸工業地域の開発に資するがため、神奈川県鶴見地先より六郷川の流末部を横断して大森地先に至る延長約八千五百間の間に幅員五十間、水深八尺の運河を開鑿し、港湾設備地・鉄道主要貨物駅及び商工業地域相互に必要なる運河を新鑿又は改修して水運の便を増進すると共に、沿岸には適当なる倉庫地帯を設くるを得しむ。
 隅田川河口に於ける内港設備の概要及び市内運河の改修計画の大要左の如し
 - 第48巻 p.442 -ページ画像 
 内港設備、港門を大森地先に置き延長約三千百間、幅員百間、水深二十五尺の航路を芝浦地先に導き、永代橋以下の隅田川澪筋延長約五百間、水深二十五尺の繋船岸壁及び面積約五十二万坪、水深二十五尺の船溜を設け、品川駅地先に延長百四十間、水深八尺の物揚場及面積約十六万坪水深八尺乃至十二尺の船溜を置き、之を防護するに各砲台を連絡して月島地先に至る約千九十間の仮防波堤を以てする外、砲台外航路を擁して南に延長千百間、北に延長千五百間の両防波堤を築造し、陸上設備として上屋約三千坪を施設す。
    第二節 帝都復興事業年度及財政方針に関する件
 帝都復興計画は本年以降七年間に完成するものとして、之に要する費用は必要に応じ公債を以て支弁し、地方財政の実情に顧み此の際に於ける非常の措置として、(第一)国に於て執行する事業に対する地方公共団体の分担金は、復興事業の継続年間その徴収を猶予し、地方財政の恢復を待つて相当年期を定めて之を分納せしむる事とし、(第二)地方に於て執行する事業費中道路・橋梁・上下水道・学校・中央市場・塵芥処分其他衛生施設及社会事業、並に公園・瓦斯電気等の施設に必要なる費用は、府県に対しては復興事業の継続期間中無利子を以て之を貸付し、市に対しては国の保証に依り地方債を起すことを得しむ。上水及電気瓦斯の供給、並に軌道の如き収益事業に要するものを除き其他に要する起債利子は年七分を限度とし、復興事業年度間国庫より補給するものとし、貸付金は復興事業完成後遅くも三十年間に償還せしむるものとして経理せんとす。
    第三節 帝都復興法案
第一条 本法に於て復興計画と称するは、東京及横浜に於ける都市計画其他復興に関する重要施設の計画にして、第三条の規定に依り確立したるものを謂ふ
 本法に於て復興事業と称するは、復興計画に属する事業にして、第三条の規定に依り確立したるものを謂ふ
第二条 復興計画区域は関係公共団体及び帝都復興院評議会の意見を聞き、帝都復興院総裁之を決定し、内閣の認可を受くべし
第三条 復興計画及復興事業は帝都復興院評議会の意見を聞き、帝都復興院総裁之を決定し、内閣の認可を受くべし
第四条 前二条の規定により確立したる事項は、命令の定むる所に依り之を公告す
第五条 復興事業は勅令の定むる所に依り、行政官庁又は公共団体を統轄する行政官庁之を執行す
 行政庁にあらざるものは、帝都復興院総裁の特許を受け復興事業の一部を執行することを得
第六条 復興事業に要する費用は行政官庁之を執行する場合に在りては国、公共団体を統轄する行政官庁之を執行する場合に在りてはその公共団体、行政庁に非る者之を執行する場合に在りては其の者の負担とす
第七条 行政官庁復興事業を執行する場合に於ては、勅令の定むる所により関係公共団体をして其の費用の一部を負担せしむることを得
 - 第48巻 p.443 -ページ画像 
第八条 行政官庁に非る者復興事業を執行する場合に於ては、勅令の定むる所により国庫よりその費用の一部を補助することを得
第九条 公共団体の負担に属する復興に要する費用に対しては、国庫より資金を貸付することを得
 第一項の貸付の利率・償還方法・償還年限及び前項無利子の期間は勅令を以て之を定む
第十条 都市計画法第六条第二項及び同法第八条の規定は、復興事業に要する費用に関し之を準用す
第十一条 主務大臣復興事業の為め必要ありと認むる時は、公共団体をして其の公用又は公共の用に供する土地を事業執行者に供用せしむることを得
第十二条 復興計画区域内に於て市街地建物法に依る地域又は地区の指定をなすには、第三条及第四条の例に依る、復興計画区域内に於ては風致若くは風紀の維持、又は倉庫若くは荷揚設置のため第三条及び第四条の例を指定することを得
第十三条 都市計画法第十一条の規定は、前条の地区内又は復興事業に要する土地の境域内に於ける建築物、土地に関する工事又は権利の制限に就き之を準用す
第十四条 復興計画復興事業又は地域地区に関する調査又は工事をなす為め必要あるときは、行政庁は官吏又は吏員をして他人の土地に立入り測量又は検査をなし、障害の竹木・土石等を移転又は除却せしむることを得、但し日出前日没後は占有者の承諾あるに非れば邸内に立入る事を得ず
第十五条 復興計画区域内に於ける土地に就ては、其の宅地としての利用を増進するため、土地区劃整理を施行することを得
 土地区劃整理に関しては、本法又は本法に基きて発する命令に別段の定めある場合を除くの外、耕地整理法を準用す
 土地区劃整理に就ては、建物ある宅地を整理施行区域に編入することを得
第十六条 復興事業として土地区劃整理を施行する場合に於て、耕地整理法に依り難き事項に関しては、勅令を以て別段の定めを為すことを得
第十七条 復興事業として土地区劃整理を施行する場合に於て必要ありと認むるときは、他の復興事業に要する土地を併せ之を施行することを得
第十八条 復興事業として確定したる土地区劃整理施行地区は、帝都復興院総裁之を定め告示すべし
第十九条 復興事業として確定したる土地区劃整理を施行する為組合を設立せんとする時は、前条の規定に依る整理施行地区内の土地所有者総数の二分の一以上にして、土地の総面積の二分の一以上に当る土地所有者の同意を得て設計書及規約を作り、帝都復興院総裁の認可を受くべし
 土地所有者前項の規定に依り同意をなす場合に於ては、借地法に依る借地権者の同意を得ることを要す
 - 第48巻 p.444 -ページ画像 
 第一項の認可を受けたる場合は第五条の特許を要せず
第二十条 行政庁土地区劃整理を行ふ場合に於ては、設計・換地処分費用負担等に関する事項は勅令の定むる所に依り、土地所有者その他の関係人の意見を聞き、行政庁之を定む
第二十一条 行政庁は第十九条の土地区劃整理組合の委託を受け其の事業を施行することを得
第二十二条 行政庁土地区域整理を施行する場合に於ては、勅令の定むる所に依り、土地所有者その他の関係人をして、其の費用の一部を負担せしむることを得
第二十三条 都市計画法第十四条及び第十五条の規定は土地区劃整理に関して之を準用す
第二十四条 復興事業に要する土地は之を収用又は使用することを得
 前項の収用に依りて一宅地を為すに足らざる残地を生ずる場合に於ては、其の区劃を整理するため必要ある前項土地の附近の土地は、併せて之を収用することを得
 前項附近の土地の区域は帝都復興院総裁之を定め、第四条の例に依り之を公告す
第二十五条 復興事業のため必要あるときは、建築物その他の土地に附着する物件を収用又は使用することを得
第二十六条 前二項の規定による収用又は使用に関しては、本法又は本法に基きて発する命令に別段の定めある場合を除くの外、土地収用法に依る土地収用の例による、此の場合に於ては前条の物件はこれを土地と見做す
第二十七条 第二十四条又は第二十五条の規定に依る収用又は使用に就ては、第三条の規定による復興事業の認可を以て土地収用法に依る事業の認定と看做す
第二十八条 土地収用法第二十二条第一項の協議調はざる場合、又は所有者若くは関係人の不服其の他の事由に依り其の協議をなすこと能はざる場合に於ては、事業の執行者は補償審査会の裁決を求むることを得、協議開始後一ケ月を経たる場合亦同じ
 前項の補償審査会に関しては勅令を以て別段の定めをなすことを得
第二十九条 本法中土地の収用に関する規定は、土地に関する所有権以外の権利の収用に関し之を準用す
第三十条 行政庁復興事業として道路に関する工事を執行する場合に於ては、河川法第八条第二項による
第三十一条 第二十条第二項の規定により収用したる土地及び土地区劃整理のために収用したる土地の処分及び管理に関しては、勅令を以て之を定む
第三十二条 復興事業に依り生じたる設備の管理及び帰属につき必要なる事項は、勅令を以て之を定む
第三十三条 都市計画法第二十三条乃至第二十六条の規定は、本法若くは本法に基きて発する命令、又は之によりてなす処分に関し之を準用す
  附則
 - 第48巻 p.445 -ページ画像 
第三十四条 本法は公布の日より之を施行す
第三十五条 都市計画法に依り確定したる都市計画区域、都市計画事業及び市街地建築物法による地区の指定は各本法により確定したる復興計画区域、復興事業及び市街地建築物法に依る地区の指定と看做す
第三十六条 本法施行前都市計画法又はこれに基きて発する命令によりてなしたる処分、及び土地収用に関する手続は、本法又は本法に基きて発する命令に牴触せざる限り、本法に依りて之をなしたるものと看做す
第三十七条 東京市区改正土地建物処分規則の適用により行政庁のなしたる処分に関しては、同規則第一条第二項乃至第四項の規定はその効力を有す
第三十八条 東京市区改正条例又は大正七年法律第三十六号及び大正七年勅令第百八十四号に依り下付を受けたる官有の河岸地は、その下付を受けたる市の所有に属する間地租を免除す、但しその市の復興事業の終りたるときは此の限りに在らず
 前項の河岸地の下付を受けたる市は、復興事業の終るまでは之を売却又は譲与することを得ず、但し止むを得ざる場合に於て帝都復興院総裁の許可を受けたるときは此の限りに在らず
 然るに之より先復興審議会委員中には政府が審議会を見ること恰も復興院の別機関の如く、復興院参与会及評議会に於て決定せるものを閣議に於て形式的に承認したる後、始めて之を審議会に諮問するに止め、一も新たなる国策の樹立に関し諮問する所なきは、政府に確乎たる政策上の意見なきを曝露するのみならず、斯くては挙国一致の声明に反し且つ畏くも復興詔勅の御趣旨に悖るものなりとの意見を以て、政府の措置を非難攻撃する者少なからざるに至つた。従つて当日の審議会に於ては委員の政府攻撃痛烈を極むべしと予想されて形勢穏かならざるものがあつた。
 開会劈頭後藤総裁《(幹事長)》の説明終るや、政府弾劾の口火は江木氏によつて切られた、その大要左の如し。
    第四節 審議会委員諸氏の政府弾劾演説
 政府は地方財政の緊縮に力を傾注してゐながら、今回提出の都市計画を見るに其の不均衡は驚くべきものがある。一例を挙げれば京浜運河の開鑿或ひは東京湾築港の如きは既に多年の懸案なるに拘らず政府が之を震災のドサクサ紛れに行はんとするが如きは吾人の諒解し能はざる所である。かゝる火急の際何故に之を完成するの要ありや。又道路の幅員を三十間に拡築するが如きは財政窮乏を告ぐる際余りに贅沢に失する所はないか、建築の如きも法律を以て過酷の制限を附するは反つて復興の障害となるものではないか。其他本計画に就ては吾人の解釈に苦しむもの頗る多く、殊にその復興予算は我国現下の状態に鑑み余りに尨大なるを以て、此の際は先づ復興の程度に止め敏速に復旧事業に全力を注いで之が完成を期し、然る後市民の財政状態復旧して復興計画を遂行し得べき時期を待つて各種の施設を行ふのが適当であらう。即ち復興事業を他日に於て実行する
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前提の下に、目下は復旧の程度に止め置くことが至当であらうと考へられる。
江木氏は微温的ながら政府弾劾の口吻を以てその措置の誤れる所以を攻撃すること約一時間に亘つた。次で伊東巳代治伯は数十日を要して物したる尨大なる原稿を卓上に拡げながら、荘重なる口調にて
 今回の復興計画に関して政府の執れる方針には根本的に正反対である。
と前提し、意見の要項を一応分類の上熱弁を揮ふこと実に三時間、或は憲法論を以て或は詔勅及び告諭を引用して激論滔々その尽くるを知らざる状態であつた。左にその大要を掲げやう。
 (一)先づ財政上の見地に於て復興予算七億円を計上するが如きは現下の財政状態に鑑る所なき無謀にして、其の尨大なること実に言語に絶す。若し一応我が国の財政力を考慮するものあれば、何人も恐らく政府の無方針に驚愕せざるを得ないであらう。即ち各省の復興事業費を通計すればその額優に十六七億を突破すべく、今や我国の内外債総額は四十三億の多額に達し、若し此儘推移すれば遂に財政上破綻を免れざる運命に在る際、かくの如き巨額を計上するは余りに暴挙と評せざるを得ない。
 (二)次に此の政府の樹立せる都市計画に依れば、用地の買収費を驚くべき低廉に見積れるのみならず、百万坪以上の土地を買収する方針であるが、政府は果して静かに考慮を運らしたる事ありや否、苟くも吾々は憲法上の所有権不可侵に就ても考慮の上、徐ろにその適策を講ずべきものなるを信ずるに拘らず、政府は何等此の点に留意せざるものゝ如く、徒らに法律を濫発して土地買収其他の事項を強要せんとするの形跡あるは、一面憲法の精神に違反するものではないか。
伊東伯は更に火災保険問題等に亘つて痛論し、正面より政府を攻撃した。而して若しその意見の容れられざる場合は審議会委員を辞すべしと頗る強硬なる態度に出で
 ワシントン会議以来国防充実に就て遺憾の点多き際、政府が国防充実を放棄して帝都復興にのみ意を傾注するが如きは思はざるも亦甚だしきものと云ふべく、この意味に於ても此の復興計画は余りに尨大に失するを以て、政府は宜しく本委員会の意見を参酌し、根本的に案を樹直しては如何。
とまで極言した。休憩後大石正巳氏も亦根本的に政府案に反対の意見を述べ、伊東伯と同様案の立直しを迫り且つ精神復興の必要欠く可らざる所以を論じた。斯の如く委員連の強硬なる反対論に対して政府側は後藤内相を始めとし、井上蔵相・田農相等交々起つて弁明大いに努めた。
後藤内相「伊東・大石両委員の御議論に就ては謹聴すべき点も多々あるが、実際上誤解に基く点も亦尠くない。又江木委員は京浜運河の不急に就て論ぜられたが、運輸交通の整備は実に今回の復興計画の根幹にして、之に依つて其の真意義を発揮し得るものである。故に京浜運河に要すべき予算は決して尨大に失するものではないと信
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じて疑はないのである。私は現在に至るまで各種の施設をなし、その当時に於ては尨大に失するものとして盛んに非難攻撃せられたるに拘らず、今日に於ては何れも時代に副ふ適当なる施設として認められてゐるの例は尠くない。此の復興計画の如きも現在に於ては余りに尨大に失するの観なきにしもあらずと雖も、十年後、百年後に於て之を観れば必ずや適当の施設と認めらるべきものであることを信じて疑はざる次第である」
井上蔵相 「伊東伯は財政上より見て、既に我が国内外債は四十三億円に達するを以て、此の上更に復興公債を起すに於ては財政的に破綻の外なしとの御議論であつたが、余の見る所に於ては我が国の募債能力は行詰りではなく、尚ほ現在以上に募債の余地は充分にあると信じてゐる。況んや復興事業の募債は其の額十四億円なるも、之は継続事業費の全額にして一ケ年募債額は二億円に過ぎざるを以て利子支払能力は毫も之を憂ふるに足らず。而も公債は内地のみに於て充分消化し得る見込みである」
次で江木氏は「国防計画を考慮に置かずして復興計画に全力を尽すは諸外国との政策釣合上考慮すべきである」と述べ、高橋是清氏は「復興計画に依れば公共団体に対する負担が利子補給に比し過重ではないか」と詰つたが、之は高橋氏の誤解に基くものにして、政府の説明に依つて闡明した。更に加藤高明氏は
 「各委員の議論を拝聴するに、伊東・大石両委員の説は政府弾劾の如く推せられ、江木委員も亦微温的ではあるが政府弾劾の如く思はれる。斯くの如く各員が反対するに於ては何時まで論ずるも結末つかざるが故に、政府は閣議に於て決定せる以上議会に於て論議しては如何」
と述べ、青木信光氏は「寧ろ審議を後日に譲つては如何」と希望したが、此の時渋沢栄一老は「老人として」と前提して簡単にその意見を述べ、
 今や罹災市民は復興計画が如何になるかを非常に待ちあぐんでゐる際、審議会に於て決定を見ざれば罹災民の落胆は一方ならず。益々不安を感ずるであらう。故に此の際何とかして纏めてはどうか。之には小委員を設けて審議するのが便宜であらう。
と委員付託の動議を提出し、委員の多数は之に賛成した。依つて小憩後山本総裁は左の如く小委員を指名した。
 委員長 伊東巳代治。
 委員  後藤新平・岡野敬次郎・田健次郎・犬養毅・井上準之助(以上閣僚)
     高橋是清・加藤高明・渋沢栄一・青木信光・江木千之(以上閣外)
 委員指名終つて散会を宣せられんとする際某委員から「審議会の内容は従来秘密一点張りであつたが、復興計画は直接市民に関係ある事柄なるを以て秘密主義を撤廃しては如何」と提議し、満場異議なく之を決した。此の日審議会に於て沈黙を守れるは日銀総裁市来乙彦氏のみにして、閣僚以外の委員は悉く政府案に猛烈に反対し会議決裂を想
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はせるものがあつたが、渋沢子の一言に依つて辛うじて委員付託となつた。されど政府案は一大修正を加へられるべきは既に当日に於て明白に予想されるに至つた。


帝都復興審議会速記録 大正十二年十一月(DK480136k-0008)
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帝都復興審議会速記録 大正十二年十一月 (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
    帝都復興審議会速記録 大正十二年十一月二十四日午後ノ分
      午後一時二十分 開議

○上略
子爵後藤幹事長 チヨツト御答ヲ致シテ置キマス
簡単ナ事デアリマス、此「行政官庁ノ執行スル事業ノ費用ハ国ノ負担トス」ト言フコトニ就テハ、最前ノ御話ノ如ク趣意ハ同シコトデアツテ、解釈ガ違ツテ居ルノデアリマス、予算ガ無ケレバ執行ハ出来ナイノデアリマスカラ決シテサウ云フコトハ出テ来ナイ訳デアリマスノデ是ハ御安心ナツテ宜シイト思ヒマス、其レカラ此ノ芝浦ノ築港ノコトニ就テ御話ガアリマシタガ、是ハ帝都復興ニ必要デアル、不可分デアルト云フコトノ意志ハ私ノ弁明ガ徹底シナイカラノコトデアリマス、有謂材料―帝都復興ノ為ニ来ル所ノ有謂材料ニ対シテ賃金ノカカルコトヲ避ケルト云フコトハ是ハ復興ニ対シテノ急務デアル、又後ニ至レバ帝都ガ復興シテ経済上ノ復興能力ヲ助ケルト申上ケタノヲ、其レヲ帝都ノ復興ヲ助ケル為ニヤルノダト斯云フ風ニ御解釈ニナツタ様デスガ、是ハ急務デアルト云フコトハ帝都復興ノ事業ヲ為スニ急務デアルト云フ予備ノ手段トシテ、二ケ年間ニ成功シテ三ケ年間之レヲ利用スル許リデモ必要デアルト云フ急務ノ理由ヲ申上ケタ訳デアリマス、サウシテ此ノ事柄ハ元計画シタモノトハ違ヒマスケレドモ、是ハ又後ニ細目ニ入ツテ攻究スル場合ガ出マシタナラバ、其時ニ申上ル様ニ致シマス、
其カラ土地買収費ニ就テ、伊東伯爵カラ沢山ノ金ガ要ツテ予算ガ倍加シテ来ルデアラウト云フコトノ説デ有リマシタガ、此ノ事ハ其ノ用地費ト云フモノノ最高ハ幾等、最低ハ幾等ト云フ計算ヲシマシテ、サウシテ此ノ平均額ヲ採ツテ、又用地費ノ三割ト云フモノハ其ノ移転費等ヲ積ツテ居ルノデアリマスカラ、更ニ其場合ニ詳シク申上クル様ニ致シマセウ、加之土地区劃整理法ヲ行ヘバ此ノ金額ハ是ヨリズツト減ルト云フコトハ、是ハ皆様ガ既ニ御諒解ニナツテ居ルカモ知リマセヌガ之ニ対シテ能ク御諒解ヲ乞ヒタイモノデアリマス、
ソウシテ土地区劃整理法ト云フモノガ場所ニ依ツテ是ヲ行フ様ニシ、収用法ト併用スル様ナ方法ニナツテ居リマスケレドモ、評議会ニ於テハ之ヲ全然全部ニ行フコトガ地主ニ取ツテモ利益ナルガ故ニ必要デアルシ、復興院ニ於テモ都合上宜シイト云フコトニ実際研究ノ上、各実地ニ臨ミ方々歩テ見タリシテ是ハ研究セラレテ居ルモノデアル、土地区劃整理法ヲ実行スルニ至レバ、此ノ金額ハ更ニ是ヨリ以上ニ昇ボス事ハ無イト云フコトハ証明サレテ居ルモノデアリマスカラ、唯収用法ノ値段一方ヲ考ヘテ憂慮サレマシタナラバ、其レハ或ハ伊東伯爵ノ言ハレマシタ如ク、又江木君ノ云ハレマシタ様ナ意味ハ全然ナイトモ申
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サレマセヌガ、玆ニ土地区劃整理法ト云フモノハ、地主其他ノ希望ニ依ツテ行フコトガ全然出来ルモノデアルト云フ前提ハ、決シテ無理ナル前提ニ非ラザルコトヲ、評議会ニ於テモ夫々研究シテ居ル所デアリマス、
其レカラ下谷デ高イ地所ガ売レタト云フコトガアリマスガ、現在ニ於テ又ハ将来ニ於テ或場所ヲ除クノ外ハ、地価ハ非常ノ騰貴ヲスルモノデナイト云フコトハ、一定ノ公論モアル所デアリマスカラ、左様ニ心配スルモノデハナイ、殊ニ土地区劃整理法ノ補助アルニ於テハ、全然此ノ金額ハ昇ラナイ様ニ処理スルコトガ出来ルト云フコトヲ当局ニ於テ実際上カラ考ヘタコトデ、決シテ空論デ無イト云フコトヲ申上ゲマス、其レカラ河川ノコトモアリマスガ、是レハ少シ誤解ノアル様デアリマスカラ実際上ニ就テ申上グルコトガアラウト思ヒマス、
次ニ空軍防止ノコトハ参与会ニ於テモ評議会ニ於テモ専門家ノ議論ガアリマシテ、色々ノ意見ガアリマシタ、併シナガラ此ノ計画ノ中ニドウシテ入レテドウスルカト云フコトハ到底出来ナイモノデアル、唯一部ヲ言ヒマスルト此ノ地下鉄道ノ場合ニ於テ、其地下鉄道ニ避ケラレル様ニシ、若クハ穴倉ヲ沢山増スト云フコトガ必要デアルト云フコト位ヨリ外ニ何等意見ガ出マセヌ、然ルニ若シ江木君ニ於テ其辺ニ就テ此点ガ欠ケテ居ル、斯ウスレバ良イト云フコトガアリマスレバ、之ヲ参与会並ニ評議会ニ於テ攻究ノ至ラヌ所ノモノヲ補フニ足ルモノデアリマスカラ、承リマシテ修正スルニ吝ナラザルモノデアリマス、唯此事ハ全然等閑ニ附セラレテ居ルカト云フコトデアリマスナラバ、凡ソ此ノ事ヲ申上ケテ置カナケレバ、参与会並評議会ニ於テ夫々攻究サレマシタコトノ経過ヲ私ハ玆ニ報告スルノ義務アルト存シマスカラ、此事ヲ一言申上テ置キマス、
江木委員 此ノ法案第五条ニハ明カニ「復興事業ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ行政庁之ヲ執行ス」トアリマス、予算デ極メル論ハ……
子爵後藤幹事長 法文ノ所ハ後デ願フコトニスレバ良カラウト思ヒマス、是ガ本議題ニナリマシタナラバ明瞭ニ申上ルコトガ出来ヤウト思ヒマス、従ツテ其ノ杞憂ヲ抱カルル必要ハナカラウト云フコトヲ申上ケテ置キマス、
江木委員 空軍ノ事ハ、サウスルト穴ヲ掘ツテ隠レテ居ルヨリ仕様ガナイト云フノデアリマスカ、再考スル手段ハ無イノデアリマスカ、
子爵後藤幹事長 是ハ一言申上ケマス、ソレハ攻究ノ結果サウ云フコトニナリマシタノデ、其レハ環状通路ヲ大キクシテ、サウシテ之ニ対シテ自動車砲車ノ自由運転ヲスルトカ云フコトハ夫々専門家ノ間ニ御説ガアリマシタ、併シナガラ結局其等ノコトハ別題トシテ、今日其設備ヲ復興計画ノ中ニ入レルト云フコトハ穏当デナイ、此ノ設備ノ中ニ入ルベキモノハ地下鉄道ニ対シテ其等ノ工夫ヲシテ置クコトガ、或ハ必要デアラウト云フコトノ話モ有リマシタ、其レデ結局建築物其他ノモノニ対シテ、航空軍ノ防禦ノ設備ヲスルト云フコトノ条項ヲ玆ニ明カニ示シテ置クト云フコトヨリ外ニ途ハナイト云フコトニナリマシタ左様御承知ヲ願ヒマス、
大石委員 大抵伊東伯ト江木君ノ御説デ吾々ノ考ヘテ居ル処ハ尽キタ
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様ニモ思ヒマスガ、尚此処デ申上ケタイ点ガアリマス、
此ノ復興審議会ト云フモノハ申ス迄モナク、此ノ震災ニ付テ起ツタ重要事件ヲ審議スルト云フ官制ニモナツテ居ルシ、其重要事件ト云フ中ニハ今モ段々御話ニナルヤウナル御希望ノコト、或ハ御希望カラ進ンデハ外交ノコト、財政経済ノコト皆重要ナル事件デ、而シテ審議会ガソウ云フ重大ナコトニ関与スルモノデアルト吾々ハ心得テ居ルガ、然ルニ今日迄審議会ニ掛ケラレタルモノハ僅ニ「バラツク」ノ供給令ト云フ様ナモノデ、其後何等此ノ会議ニハ御諮問ニナツテ居ラナイ、サウ云フ処ヨリシテ遂ニ今日ノ様ナ議論ガ起ツタノデアラウト思フ、斯ウ云フ事柄モ重要ナ事件デアツテ、而シテ此ノ協議ニ上ボスベキモノデアルト云フナラバ、前以テ今日迄ニ沢山機会ハアル、其レニナゼ御諮リニナラナイカト考ヘテ居ル、又是レガ僅ニ「バラツク」位ノ問題デ一向サウ掛ケル必要ハナイト云フ御考ヘナラバ、此会ハ余リ必要ナモノデハナイ、御廃シニナツテモ良カラウ、畢竟スルニ此ノ機会ニ将ニ出ントスル問題ハ中々重要ナ問題デアル、サスレバ此ノ議会ニドウカ之ヲ通過サセナケレバナラヌト云フコトハ、此ノ復興院ノ委員モ皆其見当デ以テ今日熟議サレテ居ルガ、私ハ考フルニ今日斯云フコトヲ未ダ質問ニモ這入ラヌト云フ間ニ於テ、既ニ諸君ノ御意見ノ在ル所ニ向ツテ見レバ、中々一朝一夕ニ済ミサウナ事トモ思ハヌ、或ハ之ヲ早ク鵜呑ニスルト云フ御考ヘナラバ別問題デアルガ、是ハ国家ノ大事デアル、容易ニ決スベキ問題デナイ、然ルニ今日迄斯云フ重要ナルコトノアルニ拘ラズ、更ニ審議会ニ掛ケナイノミナラズ、今日迄此ノ問題ガ殆ンド震災以来九十日――三ケ月ノ間玆ニ之レ位ノ問題デスラ決シナイト云フノハドウ云フ訳デアル、私ハ考ヘル、此ノ財政・経済、日本ノ民力ト云フモノヲ基礎ニシテ法案ヲ立テナイト云フノハ間違デアル、日本ノ民力・財力ヲ基礎ニシテ法案ヲ立テルノガ当然デアル、之ヲ何遍モ何遍モ案ヲ立テハ取消シ案ヲ立テハ取消スト云フ様ナ事ノ間ニ今日既ニ九十日ノ日数ヲ経テ居ル、サウ云ヒバ其レハドウモ斯云フ場合ハ一朝一夕ニ決セラレナイト云ハルルカモ知ラヌ、然ルニ今日迄世間ヲ煽動シテ、サウシテ莫大モナイ註文ヲ出シテ来タ、国家ヲ真ニ憂ヒ国ノ安危ヲ考フル所ノ識者ノ議論ニ値シタ法案ト云フモノハ私ハ無イト考ヘル、今日迄又種々ナル案ヲ立テラレテ、立テハ取消シ、立テハ取消スト云フコトヲシタト云フコトハ世間周知ノコトデアル、初メ六十間道路ニスルト云ヒ、次ニハ四十間ノ道路ニスルト云ヒ、段々変ツテ来テ居ルト云フコトヲ見ルモ、実ニ是レハ無責任ノ事デアル、国家財政ノ上カラ割出シテ相当ニ責任ヲ以テ案ヲ立テルナラバ決シテ取消ノ必要ハナイ、多少ノ修正ハアツテモ取消ノ必要ハナイ、其レヲ取消サナケレバナラヌト云フノハ、一国ノ重大事件ニ対シテ思慮ガ足リナイカラデアル、国家ノ経済ヲ土台ニシテ立テタ案デナイカラデアル、而シテ諸君ハドウ考ヘテ居ラルルカ、「バラツク」ヲ建テ罹災民ヲ置テアルカラ是デ足リルト思ツテ居ラルヽカ、私ハサウ考ヘナイ、「バラツク」ヲ建テテ此間ノ罹災民ヲ放任シテ在ルト云フコトハ政府モ亦此ノ審議会モ容易ナラヌ責任ヲ持ツテ居ル、此ノ「バラツク」ニ居ル罹災民ハ恰モ商売ヲ奪ハレ職業ヲ禁セラレテ居ルト同様ノ結果ヲ
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持ツテ居ル、実ニ「バラツク」ニ居ル人々ノ今日ノ怨声ト云フモノハ諸君ハオ聴キニナラヌカ、大厦高楼ノ内ニ居ツテ贅沢ナ暮シヲシテ居ル人ハ聴エヌカ知ラヌガ、吾々ハ貧民同様ノ生活デアルカラ此ノ声ガ能ク聴ヘル、是レハ此儘ニシテ職業モ出来ズ、工場ヲ持ツテ居ル者ガ工業ニ従事スルコトガ出来ナイ、土地ノ売買モ出来ナイト云フヤウナ状態ニ置テ安閑トシテ居ラルルカ、昼夜兼行シテモナゼ其ノ案ヲオ立テニナラナイカ、サウシテ此等ノ事モ今日迄審議会ニ御諮リニナツタナラバ、本会議ノ賢明ナル諸君ハ必ラズヤ是レヲ急カレル方法モアラウ、又御忠告申ス道モ有ツタデアラウト思フ、既ニ先達モ吾々同志共デドウモ政府ガ始メカラ此ノ事ヲベンベントシテ居ルト云フコトハ、洵ニ見ルニ忍ビザル聴クニ堪ヘザル状態デアル、曩ニ会議ヲ開カレタ際ニ於テモ、或ハ一週間或ハ十日間ノ内ニハ其ノ図面モ御示シ下サルト云フ御約束モアツタガ、余リ長イカラ催促ヲ仕様デハナイカト云フ話ガ起リマシタ、其処デ私ニ其ノオ使ニ往ケト云フコトデアツタカラ私ハ総理大臣ヲオ訪ネシテ其ノ事情ヲ委シク御話シタ、総理大臣ガ云ハルヽニハ如何ニモ尤デアル、是ハ会ヲ開ク事ニシヤウ、斯言フ御話デ其際帝都復興院ノ総裁ニモ話シテ呉レト云フ御話デ在ツタカラ、私ハ帰ツテ其儘ヲ話シタ、処ガ多少首ヲ傾ケテ居ツタケレドモ、先ツ開クガ宜シイト云フコトニ其処デ御話ガ決ツタ、其レデ明日カ明後日カニハ開ク斯云フ御話デ在ツタカラ帰ツテ居ツタガ、其ノ翌朝ノ手紙ヲ以テ昨日御話アツタガ都合ガアツテ開カヌト云ツテ来タ、其レハ御都合ニ因テ開カヌト云フコトハ御自由ナ話デアル、是等モ唯会ヲ開イテ理窟ヲ言ヒタイト云フヤウナ人ハ一人モ無イ、国家ヲ憂フル余リニ如此御催促ヲ申シタ訳デアル、所ガ其レ以来何等ノ音沙汰ナシ、私ハ諸君ヲ代表シテ往ツテ居ルノダカラシテ、ドウモ是ハ黙シテ居ル訳ニハ行カヌトハ心得テ居ツタケレドモ、ドウモ開カヌト云フ丈ケノ事デアルカラ更メテ諸君ニ御挨拶ハシナカツタト云フコトハ今日謝シテ置キマス、ソウ云フ都合デ此ノ会ヲ開カヌト云フ事デアリマシタカラ私ヲ使ニ立テタ諸君ニオ詫ヲ申シテ置キマス、サウシテ此ノ復興審議会ニ御諮リニナルベキコトデナイカト思ハレル点ハ御諮リニナラヌ、其レハ何ンデアルカト云ヘバ、復興ニ関スル重要ナルコトハ審議スルト云フコトハ官制ニモアル、総理大臣ガ諮ツテ見様ト思ヘバ諮ル、諮ルマイト思ヘバ諮ラヌ、唯自由自在ニ御勝手ニナサルト云フナラバ其レデモ宜カラウカ知ラヌガ、是レハ大概常識ト云フモノカラ見テ、斯如キモノヲ諮ルベキモノデアルカ諮ルベカラサルモノデアルカト云フコトハ決シテナケレバナラヌ、私ハ常識論デアルガ更ニ御諮リニナラヌガ随分此ノ間ニハ算ヘ上テ見レバ大キナ問題ガ四ツ五ツアル、一国ノ財政経済ニ大影響ヲ持ツ問題モアツタノデアル、是等モ一応将来ノ為ニドウナサルカ御考ヲ承ツタラ吾々モ一通リ考モアリモスルガ、尚御注意ノ点ハ必ラス申上ル、其レカラ此ノ復興予算ト云フモノニ就テ御両名カラ頗ル精密ナル御話ガアツタガ、全然私ナドハ同意デアル、デ此儘デ唯案ヲ玆テ議シテ宜シイカ悪イカト云フコトハ問題デハナイ、実ハ議会ヲ通過シテ此ノ事ヲ早ク行ハレタイト云フノデアル、所ガ議会ガ通過シサウモナイト云フコトガ確ニ是ハ見エテ居ルト私ハ思ウテ居
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ル、此儘デ出シタナラバ通過シナイト思フ、玆ニ考フベキモノハ社会ニ二ツノ潮流ガ成立ツテ居ル、一ツノ潮流ハ金ヲ沢山使ヘ姑息ナコトデハイカヌ斯云フ潮流ガ一ツアル、此ノ潮流ハ誰ガ作ツタカ是ハ私ガ強ク申サヌガ、実ハ初メニ大キナ計画ヲ出シタト云フコトガ作ツテ居ル、此ノ潮流ガ最初八十億モ六十億モ使ヒソウナ案ヲ出シタカラ斯云フコトニナツテ尚金ヲ使ツテ呉レ、未ダ其レデハ足ラヌ、モツト完全ナ案ヲ樹テ呉レ、百年ノ案ヲ樹テ呉レ、是ハ果シテ国家ノ責任ヲ持ツテ居ル人ノ肯ハルル案デアルカ無イカト云フコトヲ考ヘルト、斯ノ如キ案ヲ出シテハ潰レルニ決マツテ居ル、潰ルレバ我々ノ本意ニ背ク、ドウカ潰レヌ案ヲ出シタイト云フノデアル、而シテ是ハ国家ノ為ニ最モ必要ナリト云フ所ノモノハ早クスベシ、延ヘラレルモノハ成ルタケ後ヘ延ベヤウ、斯云フ趣意デアル、其所デ斯云フ場合ニモ段々御話ガアル様ニ、破壊サレテ居ルモノハ何ニカト云フコトヲ顧ミテ見タラ分ル、此震災火災ニ因ツテ破壊サレテ居ルモノハ即チ国防・交通機関、或ハ教育、或ハ此間ニハ精神ノ堕落、斯云フノヲ即チ恢復スルト云フ事ガ、一番今日ハ重大ナル問題デハナイカ、実ハ東京市ノ市区ヲ改正スル様ナコトハ政治家ノ眼カラ観レバ何ンテモナイ、如此コトハ一種ノ俗吏ニ委ネテ置テモ出来ルカモ知レヌ、又現ニ玄人筋ノ人ノ説ヲ聴テモ如此案ヲ立テルニサウ暇ハ要ラヌ、少シ気ノ利イタ者ガ三人五人集ツタラ一週間ニ確カニ出来ルト言フコトヲ、是ハ多少責任ノアル技術ノアル人モサウ云フテ居ル、又此ノ出来テ来タ案ト云フモノハ如何ナル干係デアルカ、段々諸君ノ御話ノ通リデアラウト思フ、其レハ是ヲ拵ヘルニハ中々容易ナラヌカラ三ケ月モ半年モ掛ルト云ヘバ其レハ「リーゾネーブル」ナ話デハナイ、常識ノ欠ケタ話デアル、此ノ百日ノ間何ヲシテ居ツタカト云フ問題、ドウモ吾々カラ見タル所デハ甚ダ「プロダクチーブ」ナ此所ニ持ツテ来タ案ガ、諸君ガ直ニ賛成ヲスルト云フモノヲ作ツタカ何ウカト言ヘバ、恐ラクハ閣員ノ外ノ諸君ニ於テ今伊東君カラ述ヘラレ江木君カラ述ヘラレタ所ハ、大概私ノ見タル処ニ賛成セラレタ論デハナイカト思フ、サウ云フ案ヲ拵ヘルニ既ニ百日ニ近イ日数ヲ費シテ居ルト云フナラバ、此ノ帝都ノ罹災民ヲドウシテ救フカ、今日怨声ヲ放ツテ居ル所ノ此罹災民ト云フモノニ満足ヲドウシテ与ヘルカ、是レハ又此ノ案ヲ作リ直スカ、若シクハ案ヲ新タニ立テ直スカ、其レハ政府ノ御勝手デアル、又日数ヲ何十日費スト言フコトニナツテ御覧ナサイ、ドウナリマスカ、国ノ計画ト云フモノハ決シテ手習草紙デハアリマセヌゾ、幾度モ書直スト云フ事ハ国家ガ許サヌ、是レハ一人一家ノ問題デハナイ、国ノ全部ニ関スルソウ云フコトヲ為サレテ是レデ天下ニ向ツテ責任ノ立ツモノデアルカ、立ツモノデナイカ、是レハ考ヘナケレバナラヌ、吾々ハ上陛下ニ対シ奉リ下ハ国民ニ対シテ、此ノ委員ノ席ニ連ツテ甚タ無責任ナリト云フコトヲ言ハレテモ実ニ罪ヲ謝セナケレバナラヌ、ト思ツテ居ル、デ私ハ或ハ細目ニ入ツテ質問スルトカ何ントカ云フ事ノ必要ヲ見ナイ、大概解ツテ居ル、然レドモ是ハ諮問機関デアル、諮問機関デアルカラサウ云フモノノ言フ事ハ、馬耳東風デオヤリナサルト云ヘバ其レハ御勝手デアル、吾々ハ苟クモ是レニ向ツテハ委任ヲ持タナケレバナラヌ位置ニ居ルト
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思フカラ、老婆心デ斯ノ如キ事ヲ申シテ置ク、是レダケデアル、
子爵青木委員 本会ニ御提出ニナリマシタ案ニ就テ皆様方カラ色々御質問ヤ御意見モ御座イマシタ、大分政府ノ支持セラレマス案ト根本ニ於テ大懸隔ガアル様ニ私ハ思フノデアリマス、尚又各員ノ御趣意モ略略吾々ニモ解リマシテ吾々ノ御同感ノ所モアルノデアル、就キマシテハ今日之レヲ玆ニ御決定ニナルト云フコトニナリマスト吾々モモウ少シ考慮ヲシタイト考ヘルノデアリマス、尚又只今大石君カラ御話ノ審議会ノ審議ノコトニ就キマシテモ只今迄ニ随分此ノ会ニ諮詢セラルベキ事件ガ多々アツタカト思フ、単ニ都市計画ノミデアリマスルナラバ是レ丈ケノ重要ナル機関ガ必要デアルヤ否ヤト云フコトモ大イニ疑フ処デアルノデアリマス、其等ニ就キマシテモ今少シ考慮ノ時間ヲ御与ヘヲ願ヒタイト存シマス、今日ハ大分時間モオ掛リニ成ツタ様デアリマスカラ、此ノ位デ此ノ会ヲオ閉ヂニナリマシテ、尚考慮ノ余地ヲ御与ヘ下サイマシテ、次会デ御決定アランコトヲ私ハ希望致シマス、
子爵高橋委員 今朝来伊東伯其他ノ御意見ヲ拝聴致シ私モ大体ニ於テ御両君ノ御意見ニ同意スル処ガ多イノデアリマス、此ノ大震災火災後ニ於キマシテ一番緊急ノ施設トシテ必要ナルモノハ、此ノ罹災民即チ市民ノ生計ノ道ニ於テ安定セシムルコトガ第一デナケレバナラヌト考ヘマス、此ノ計画ニ依ツテ見マスト云フト、第一ニ考ヘネバナラヌ所ニ御考ヘヲ費サレタルコトガ薄クテ、唯道路、或ハ堀割ト云フヤウナ形ノ上ニ於テノ計画ニ重キヲ置カレテ居ル様ニ見ユル、予テ聞テ居リマスルガ倫敦ノ大火ノ時ニ第一ニ矢張リ市民ノ生計ノ道ヲ復活サセタイト云フコトヲ主トシテ居ル、サウシテ案ヲ樹テル、例ヘバ一等道路ハ四階ヲ建テル、二等道路ハ三階ヲ建テル、三等道路ハ二階ヲ建テル其レデ地区ヲ決メタ、建築地ヲ決メテヤツタラ後ハ自分ノ力デ家ヲ建テタ、従テ商業ハ復活シタ、其レカラ後ハ市民ノ富ノ増殖ニ従ツテ段段拡張モセラレ改良モセラレタ、幸ニ今日ノ都市計画法ナルモノハ全然技術トシテ行ハレ、而シテ中央地方ニ分レテ委員会ト云フモノガ組織セラレテ居ル、土地収用法モアル、市街建築法モ行ハレテ居ル、而シテ都市計画ニ就テハ相当研究シテ相当ノ知識ヲ具ヘタ機関ガアル、ソレニ依ラスシテ新ニ復興院ヲ設ケラレ、サウシテ此ノ計画ヲ為サシメタ、所ガ復興院ノ評議会デ決定シタモノガ「オーロンチック」ノモノデハナイ、官制ニ依ツテ法律ヲ動カス訳ニハ行カヌ、何ノ為ノ復興院ノ評議員会ノ決議デアルカ、又審議会ニ於テ是ヲ議シテ見タ処デ議会デ通過シテ見タ処デ、矢張リ都市計画法ヲイジラナケレバ中央地方ノ計画委員会ニ掛ケテ、内務大臣ガ之ヲ確定シテ内閣デ執行スルヨリ外方法ガ無イ、寧ロ斯云フコトニ依ラズシテ現在行ハレテ居ル法律ノ下ニ、早ク市民ノ生計ノ道ヲ復活サセルト云フコトニ著手セラレタナラバ宜カラウト実ハ考ヘテ居リマス、総テ良ク外国ノ例ガ新聞ナドニ出マス、第一震災ノ前ニ於テ市区改正ニシテモ容易ニ行ハレナイ、ソレト云フモノハ第一ニ先ツ故障ト為ルモノハ我国ノ小売商売人ノ組織ト、外国ノ小売商売人ノ組織ト違フ、小売商売人ハ銀座ノ店ニシテモ日本橋通リノ店ニシテモ家族ハ勿論婢僕迄皆其処ニ住ツテ居ル、外国ノハ会社ニシテモ個人ニシテモ遠クカラ朝店ニ通ツテ来テ、夜ニナレ
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バ帰ツテ行ク、其所ガ違ツテ居ル、サウ云フ実際カラ考ヘマスルト道路ノ事モ公園ノ設備モ普段ノ状態ヲ能ク観テ、其レニ適応スル様ナ設備ヲシナケレバナラヌ、強チ外国ノ例ニ拠ル訳ニハ行カナイ、ソレカラ市内ノ改正ニ於テモ、今度ノ焼跡ノ市街ノ形ニ付テ一番大切ナル基礎トナルモノハ上下水道ノ設備デアリマス、是レナドハ従来ノ通リ市ニ任シテモ、市ガ災害ニ因テ富力ノ減殺サレナイ以前ニ於テスラ遅々トシテ進マナカツタ、然ルニ今度斯様ナ計画ヲシテ道路ヲ開クニシテモ、上下水道ガ之ニ伴ツテ往カナケレバ能ク其効ヲ為サナイノデアリマス、何レノ国ニ往ツテモ新ニ市街ヲ計画スルニハ上下水道ヲ先以テ計画スル、其レカラソノ災害後ニ私ナドノ考ヘニハ兎ニ角民心ヲ安定サセナケレバナラヌ、又衣食ノ途ヲ得セシムルヨリ仕方ガナイ、其レニハ通信・電話・運輸斯云フ様ナモノヲ早ク復活サセナケレバ、今日ノ状態ニ於テ市民ノ苦情ハ何ニカト云フト、電信ヲ出スニモ四時過キハ受附ケナイ、市中用達ヲスルニモ電車ガ復旧シナイカラ自動車カ自転車デ往カナケレバナラヌ、ト云フ有様デアル、是迄交通機関ヲ利用シテ生計ヲ立テ居ツタ者ガ其ノ途ヲ断タレテ困ツテ居ルガ、斯様ナ事ニハ御頓着ハナイ、電話ニシテモ焼ケタ交換局ヲ前ノ儘ニ加入者ヲ纏メタ上デヤラウトスレバ費用モ余計掛ルカラ、応急ノ設備トシテ二百何十カ三百カ纏メタモノヲ拵ヘレバ早ク便利ニ出来ル筈デアル、又金融ノ干係ニ付テモ此頃ハ現金取引ノミデ信用ハ殆ンド無クナツテ了ツタ、故ニ従来直接ニ東京ヘ来タ物ハ、今日ハ大阪ト名古屋ニ品物ヲ送リ、サウシテ名古屋ナリ大阪ナリノ商人ガ自分ノ金デ以テ自分ノ計算ト危険ヲ以テ物ヲ持ツテ来ルカラ、其物品ノ代価ハ高クナルニ決ツテ居ル、サウシテ漸ク家ガ建チサウニナツテ、従来ノ如クニ地方ト商売ガ出来ル時分ニハ地方トノ関係ガ薄クナツテ、新ニ又商売ノ道ヲ開ラカサナケレバナラヌコトニナル、故ニ当局ニ於テハ此点ニ付テハ重キヲ措カレテ、一刻モ早ク生計ノ途ヲ開クコトノ御施設ガナケレバナラヌト私共ハ考ヘテ居ル、
其レカラ新規ニ道路ヲ拡ケタリ造ツタリスル予算ナドヲ見マシテモ、唯一時要ル丈ケノ金デ三十間ナリ二十四間ノ道路ヲ拵ヘマシテモ、此ノ修繕トカ維持ハ誰ガスルカ、皆市民デアル、国道ト雖モ府県税デアル、其等ノ費用ハ果シテ市民ノ負担ノ力ニ合フヤ否ヤ、サウ云フコトモ略ボ考ヘナケレバナラヌ、其レカラ今日御諮問ニナリマシタ第三ノモノハ能ク通読シテ見マスルト云フト、今日存在シテ居ル道路計画法ト変ツタコトハ余リナイ、唯実質ニ於テ変ツタト認ムルモノハ、第三ニ於テ国ノ行政庁ニ於テ執行スル復興事業ニ要スル費用ハ国庫ノ負担トスト云フコトガアリマス、其上ニ持ツテ来テ之レニ加ハワツタノガ其一部ハ事業地ノ属スル公共団体ヲシテ分担セシムル、国ノ仕事ト雖モ其ノ事業ニ関係スル公共団体ニ分担サセルコトガアル、其レカラ第三ニ公共団体ノ負担ハ――行政庁ニ於テ執行スル復興事業ニ要スル費用ハ公共団体ノ負担トシ、其一部ハ国庫ノ負担トシテ補助スルト云フノデアツテ、実質ニ於テ重要ナ違ヒハ殆ンドナイ、其他ハ先ツ大抵文章ガ変ツタ位デ今日ノ都市計画法ト変リハナイ、而シテ此ノ予算ニ付テ変ツタ点ヲ見ルト、国ノヤル仕事ニ就テ東京市ニ二億幾等ヲ分担シ
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テ居ル、而シテ一方公共団体ノ費用ニ対シテ補助スル金ハ六千万円デアル、東京市民ハ六千万円ノ補助ヲ貰フ代リニ二億何千万円ノ分担ヲサセラレルノデアル、有難迷惑ニ相違ナイ、サウ云フ点ニ付テ、其他細目ニ至レバ沢山疑義ガアリマスカラシテ御尋ネモシタイノデアリマスガ、大体論ニ於テ既ニ伊東伯・江木君ノ御両人カラ充分意見ヲ述ヘラレタノデアリマスカラシテ、吾々ハ大体ニ於テ此ノ御両君ノ仰セト御同感デアリマス、就キマシテハ此ノ事ノ議会ヲ満足ニ通過シテ、一日モ早ク市民ガ安定ヲ得ルヤウニシタイト云フコトガ希望デアル、ドウカ両委員ノ述ベラレタ所ヲ御考慮ニナツテ、更ニ御修正ニナル事ヲ私ハ希望致シマス、却ツテ其方ガ議会ノ通過モ良カラウカト思ヒマス願クハ政府ニ於カレテ両委員ノ言議ニ付テ充分ニ御考慮ヲ願ヒタイノデアリマス、
議長(伯爵山本総裁)此ノ場合ニ於キマシテ一言申シマス、今日ハ午前・午後ヲ通シマシテ長時間ノ御質問御希望玆ニ御意見ヲ併テ承リマシタノデアリマス、
今日ハ散会致シマシテ、又此ノ次ニ開クベキ時日ヲ取極メタイト思ヒマス、
子爵加藤委員 私ハ第一ニ御断リ申シマスガ都市計画ハ丸デ門外漢デアリマシテ、何等ノ知識モ持チマセヌノデ案ノ中デ解ラナイコトモアリマスカラ数多ノ質問ヲ致シタイノデアリマスガ、唯今其ノ場合デモ有リマセヌ、唯今高橋子爵カラ述ベラレタコトモアリマスシ、其前ニ各委員カラ述ベラレタコトモアリマスガ、之ヲ審議スルコトニ致シマスルト今ヤ議会ノ開会モ目捷ノ間ニ迫ツテ居リマシテ、而モ此ノ審議ハ鄭寧ニ致セバ中々二ケ月ヤ三ケ月ノ間ニ出来ルモノデナイ、又復興院ニ於テモ時日ガアレバ特別委員ヲ御設ケニナツテ審議セラルルノモ宜シイデアリマセウガ、最早先ガ詰ツテ洵ニ切詰メタコトデアリマス吾々ハ空シク時間ヲ費シテモナラヌノデアリマス、何レ議会ニ御出シニナツテ調査ヲ求メラレナケレバ実行ガ出来ナイノデアリマスカラ、唯今迄ノ処デ閣外ノ委員ノ意嚮モ略分カリマシタデセウシ、私モ同列ノ諸君ガ述ベラレタ所モ一々同感デアリマスカラ、又内閣諸公ノ委員ノ意嚮ノ大体ハ知リ得ベキ便利ガアルト思ヒマスカラ、此辺デ御止メニナリマシテ、後ハ御参酌ニナリマシテ尚御定ニナルナリ、或ハ其儘デ御提出ニナルナリシテ、何分時日ガアリマセヌカラ青木子爵カラノ御説ノ通リニシテ、他日御開キニナルコトハ又時日ガ延ヒルカト思ヒマスカラ、大体ニ就テ先ニ述ベラレタ委員ノ意見ヲ採用スベモノハ採用シ、採用スベカラザルモノハ採用シナイデ案ヲ定メラルベキ事ヲ希望致シマス、
  (「賛成ト呼フモノアリ」)
子爵渋沢委員 重要問題ニ付キ各委員ノ考ノ種々変ツテ参リマスコトハ已ムヲ得ナイヤウニ思ヒマス、私共モ此ノ委員ヲ仰付ケラレマシタ頃カラシテ此ノ問題ハ甚タ面倒ニナリハシナイカト云フコトヲ苦慮致シタノデアリマス、恰度帝都復興院ノ為サレ方ガ二ツノ合ハスベカラザルモノヲ合ハシタヤウニ思ハレマス、一方ノ罹災民ニ対シテ成ル丈ケ早ク事業ノ安定ヲ得サセタイ、一日モ早クニト云フ希望ヲ持ツタノ
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デアリマス、又帝都ヲシテ完全ナル帝都タラシメタイト思フヨリ、充分ニ評議シテ良イ上ニモ良イコトヲ考ヘタイト思ヒマス、必ラス時モ掛リ金モ掛ル、時ト金ノ掛ル方ト、金ヲ減シ又早クヤリタイト云フ方ト二ツ一緒ニヤラウト云フノデアリマスカラ、枘鑿相容レズ、火ト水ト相戦フヤウナ有様ガ生ズルノハ已ムヲ得ナイト思ヒマス、今日私共ノ考ヘテ居ル中ニモ、伊東サンナリ江木サンナリ又其ノ他ノ委員ノ御意見ノ成程サウト思ハレル所モアリマスガ、左レバト云ツテドウシテモ此ノ場合相当ナ処置ハ為サラナケレバナラヌト思ヒマスガ、此処デ行当ツテ唯此ノ議論ノ為ニ甚シキハ議会モドウナルカト云フコトデアルト、詰リ申スト罹災者タル東京・横浜等ノ市民ガ政治上或ハ有力ナル方々ノ意見ノ為ニ宙ニ吊リ下ケラレル有様ニナリハシナイカト云フコトヲ深ク憂フルノデアリマス、皆様モ御憂ヘニナルガ私共モ年寄ノ故ニ尚更之ヲ憂フルノデアリマス、就キマシテハ此案ニ対スル段々私共ニモ多少愚見ヲ申上ケタイト思フ点モ御座イマスガ、ヨリ以上伊東伯ナリ江木君・加藤君・高橋君ノ御説ガ御座イマスガ、何ウデ御座イマセウカ、一日モ早クモウ一遍会ヲ御開キニナツテ討論会デナク之ニ対スル反対ノ御意見ガアルナラバ是ハ斯ウシタイ、アヽシタイト云フコトヲ成ルベク御聴取ニナツテ、サウシテ或ル部分ハ御修正下サツテサウシテモウ一応立案シテ下サル様ナ御考ヘハナイモノデ御座イマセウカ、サモナケレバ加藤サンノ仰シヤル様ニナリハセヌカト恐レルノデスケレドモ、唯是レデ審議会ハ済ンデ了ツタト云フコトハ一般ニ対シテ甚タ心苦シイモノニナリハシマイカ、今日迄ニ行掛リマシタモノデスカラ、例ヘバコノ案ニ付テ此ノ点ハ斯ウアリタイト云フコトハ多数ノ議決デ無ク寧ロ個々懇談的ニ評議シテ見テ、サウシテ幾分ノ御修正ノ廉ガ其処デ協定シ得ラレタナラバ、成ル丈ケ早ク明後日ニモ御修正下サツテモウ一遍提案スル、可成ハ此処デ協議シ得ルモノデナケレバ議会ヘ出シテモ如何アリマセウカ、サウ云フ工夫ガ出来ヌナラバ已ムヲ得マセヌガ、私共老人ノ御用ニ足ラヌ者カラ考ヘマスト、ドウゾ成ル丈ケサウ云フ風ノ取纏メヲ着ケタイ様ニ考ヘマスノデ、且此ノ方法ニ付テハ私共モ、斯クモナスツタラ行ハレハシナイカト云フ和田氏ノ意見ト少シ違フ様デスケレドモ、私ハ実施ニ付テハ寧ロ中間設備ガ或ハ要リハシナイカト思ヒマス、是等ハ更ニ此ノ問題ニ付テ自分等ハ斯ウナツテ宜カロウト思フト云フコトヲ申上ケタイト考ヘマスガ、根本ニ於テ余リ程度ガ違ヒ過キルカラモツト低クシタイ、此ノ法律デハイカヌト云フ法律ニ精シイ御方ヤ計算ニ精シイ御方ガ、其等ノ説ヲ余リ議論的デナク協議的ニ御相談ナスツテ、サウシテ大方針ガ其処ニ稍協定シマシタナラバ御改正下サルコトニ吝カナラズ致シマシテ、更ニ修正案ヲ両三日中ニ御提出下サルト云フ様ナコトニハ出来得ヌモノデハ御座イマセウカ、可成サウアリタイト希望致シマス、サウ云ウ折合論ノヤウナ事ヲ申上クルノデスガ、元々此問題ガ面倒ナリト云フコトハ識者ヲ待タズシテ知リ得ルコトヽ思ヒマスノデ、今日此ノ場合ノアルコトハ決シテ怪シムベキコトデハナイ、若シ一方ニ偏スレバ一方ニ対シテ反対意見ノ出ルコトハ尤モナルコトデアリマスカラ、少シ折合フタ考ヲ致シマセヌト、詰リ之ハ抜キモ差シモナラヌ様ニナツテ、其
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ノ苦シミハ皆我国ニ居ル人々ニ与ヘル様ニナリハシマスマイカ、其処ヲ御考ヘ下サツタナラバ少シ御忍ビ下サル御考ガ当局ノ御方ニモ、此ノ委員ニ列スル吾々ニモ有ツテ然ルベキカト思ヒマスノデ、其折衷説ノヤウナ折合論デ頗ル老人ノ意気地ナシノ意見デハ御座イマスケレドモ唯一言愚存ヲ申上マス、
議長(伯爵山本総裁) 此間五分間ノ休憩ヲ、
伯爵伊東委員 只今渋沢子爵カラ御述ヘニナリマシタノハ至極穏当ノ事デアリマス、今日ハ先ツサウ云フ事デ渋沢サンノ御述ヘニ成ツタ様ニ懇談会ニナルト云フコトヲ私ハ賛成シタイト思フノデアリマス、
議長(伯爵山本総裁) 此ノ場合ニ五分間休憩致シマス、
  午后三時二十分休憩
  午后三時二十五分開議
議長(伯爵山本総裁) 其レデハ是レカラ会議ヲ開キマス、
先刻伊東伯爵並渋沢子爵カラ御意見ノ出マシタ如ク、中々此ノ問題ハ重要ナル問題デ御座イマシテ充分慎重ニ御協議スル必要ガアルト考ヘマス、此ノ場合ニ於キマシテ之ヲ再ヒ調査シ意見ヲ合ハセマスルニハ委員ヲ両方カラ指名シマシテ其レニ委シテ御修正ノ意見ガアリマスレバ、其レニ因ツテ案ヲ一ツ作リタイト思ヒマスガ之ニ大体御同意ヲ希望シマス、サウスルト其数ハ或ハ少数ノ方ガ宜シイカ多数ノ方ガ宜シイカ、ソレデ内閣側カラ三名若クハ五名、アナタ方ノ方カラ同シ数ヲ御出シ下サルト云フコトニ致シタイト思ヒマス、若シ是レヲ議長ニ其指名ヲ御一任ニナリマスレバ此ノ場合ニ於テ申上ゲタイト考ヘルノデアリマス、
伯爵伊東委員 今同列ノ御話ニ願フハ両方五名位ヅヽトシテ、総裁閣下ヨリ御指名ヲ願ツタラドウカト思ヒマス、
議長(伯爵山本総裁) 其レデハ御報告致シマス
  閣外ノ方ヨリハ
               伯爵 伊東巳代治君
               子爵 高橋是清君
               子爵 加藤高明君
                  江木千之君
               子爵 青木信光君
               子爵 渋沢栄一君
  閣内カラハ
               子爵 後藤新平君
                  井上準之助君
                  岡野敬次郎君
               男爵 田健次郎君
                  犬養毅君
両方デ十名《(マヽ)》ト為リマス、御苦労ナガラ委員長ハ伊東伯ニ御願ヒイタシマス、
(「議事ノ模様ヲ秘密ニスルト云フコトハ随分吾々ガ人カラ恨マレルノデスガ……」「サウデス、中々実行出来ルモノデモナシ、又秘密ニスル必要モ無イト思ヒマス、」
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  「マア其辺ノ処デ良イデセウ」ト言フモノアリ)
議長(伯爵山本総裁) 是デ散会致シマス、
  午后四時三十二分散会、