デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

大正3年9月13日（1914年）

是日栄一、旧乃木邸ニ於ケル当会主催、乃木大将三年祭ニ参列ス。

中外商業新報　　第一〇二〇〇号　大正三年九月一四日
　　　　○秋雨墓面を洗ふ
　　　　　　思出多き乃木将軍三年祭
偉大なる大和魂の発露、日本古武士的典型として全世界に喧伝せられ渇仰せられし故乃木大将が最後の日は、春風秋雨玆に三度廻り来りぬ思えば明治天皇御西下の夜、其帰りまさぬ大御幸を慕ひて逝ける大将が心こそ、常に国民の念頭に新なるものなれ、庭の木立に一葉墜ちて秋雨蕭々たる十三日午前八時、新坂町なる旧大将邸には壮厳なる祭典執行せらる、之より先市役所より原田助役二十名の吏員を従へて
△諸般の設備　を整頓し、門内入口の左右には受付の天幕を設け、庭内なる乃木神社も亦同じく天幕の中に鎮座せり、其前面なる鳥居は大将夫妻の墓標に併用せるものにて、右大将、左夫人との掲示あり、又思出最も深き大将の居宅は特に清らかに洒掃を施したり、斯る折しも雨を衝いて土屋大将、八代海相、一戸・坂本・山根・兵頭の各中将、河合・安藤の両少将、木戸孝正侯、小笠原子、石黒男、渋沢男、阪谷男中野武営氏、其他陸海軍将校・学習院教授・乃木会員等陸続として参着すれば、刻を計りて日枝神社宮司久保悳隣氏は祭官数名を従へ天幕裡に起る奏楽中
△神饌を供へ　祭文を捧読し、参列の一同交々拝一拝して式を畢へたるは同九時、斯くて邸内に尽きせぬ懐旧談などありて各将軍の眉宇雨と共に暗然たるものあり、続いて十時より親戚及び故旧の人々は青山墓地なる大将夫妻の墓前に詣で、此処にも雨を冒して墓前祭を執行せり、いやが上にも降りしきる雨は墓面を打ちて音なく、悲壮の感は参拝者の胸底深く徹して熱涙坐ろに双頰を伝ふを覚えぬ
　　▽市長の発電
阪谷東京市長は将軍三年祭執行に際し、出征軍に左の電報を発せり
　本日乃木将軍祭典の挙行に当り、玆に東京市民を代表し、閣下始め
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出征軍諸氏一同連日の御辛苦を感じ、併せて光輝ある御成功の速ならん事を切に祈る（陸軍宛）
　本日乃木将軍祭典の挙行に当り、玆に東京市民を代表し、遠征艦隊諸氏一同連日の御辛苦を感謝し、併せて光輝ある御成功の速かならんことを切に祈る（海軍宛）
　　▽墓前の雑踏
青山墓地なる故大将墓前へ通ずる路傍には朝まだきより白木の卓上に榊を積み上げて売れるを見ぬ、参拝者は雨をも厭はず
△袖打ち濡らし　つゝ引きも切らず、学習院初等科の生徒は松井主事に引率されて外套姿凛々しく一隊をなして来り、ありし昔の院長が俤を偲びつゝ可憐しくも礼拝して暫しは去りも敢へざりしは、見る者をして感慨更に深からしめたり、参拝者の多くは学生なりしが、正午迄に万を以て数ふべき参拝者ありし事は、如何に将軍の遺徳の偉大なるかを確的に示せるものと云ふべく、今更の如く其
△崇高なる人格　を偲ぶのみ、墓地には大天幕を張り柵内は清掃塵を止めず、墓前には素行会・在郷軍人赤坂分会・三島弥太郎子等献納の榊・生花等あるのみにて頗る質素なる事例の如く、柵外には一般参拝者が捧げし榊、山をなして堆し、此処に拝する人々、前記学生の外に乃木邸参拝の各将軍を始め将校士卒の軍服姿一際に目立つを覚えたり時正に戦を宣し山東の一角には勇敢なる将士砲火を交へんとす、忠魂護国の神となつて早くも三年、地下の将軍如何の感かあらん、問へども答へず、秋雨徒らに袖を湿すのみ

集会日時通知表　　大正四年　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
弐月五日　金　午後五時　乃木会協議会（日本倶楽部）
　　○中略。
九月三日　金　午後一時　乃木会（市役所）

集会日時通知表　　大正五年　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
九月四日　月　午後一時　乃木会評議員会（市役処）
　　○中略。
九月十三日　水　○時刻ノ欄空白　乃木大将御命日ヘ
　　○中略。
十一月廿二日　水　午前九時　故乃木大将追位祭典（旧同邸）
　　○同刻大蔵省ニ経済調査特別委員会アリ。

集会日時通知表　　大正六年　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
九月十三日　木　午前八時　乃木神社祭典（赤坂旧乃木邸）
　　　　　　　　午後一時　乃木会講演会（専修大学）
　　　　　　　　　　　　　引続評議員会