デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

9章 其他ノ公共事業
1節 記念事業
14款 其他 9. 水戸志士遺墨展覧会
■綱文

第49巻 p.175-179(DK490049k) ページ画像

昭和3年3月4日(1928年)


 - 第49巻 p.176 -ページ画像 

是ヨリ先、国民新聞社長徳富猪一郎ヨリ、水戸義公生誕三百年記念ノタメ、三月三日ヨリ、当展覧会ヲ、青山会館ニ於テ開催スルニ付、同会ノ特別協賛員タルコトヲ請ハル。是日栄一、同展覧会ヲ参観ス。


■資料

会員関係書類 【(印刷物) 謹啓 時下寒冷の候、先以而御安康為邦家恐悦至極に奉存候、偖而本年は、水戸義公の生誕三百年に相当致候に付…】(DK490049k-0001)
第49巻 p.176-177 ページ画像

会員関係書類               (渋沢子爵家所蔵)
(印刷物)
謹啓 時下寒冷の候、先以而御安康為邦家恐悦至極に奉存候、偖而本年は、水戸義公の生誕三百年に相当致候に付、朝野名流の御協賛を願ひ、同公の高風を追慕し、併せて水戸藩出身勤王志士の偉烈を表彰せんか為め、青山会館主催本社後援の下に、来る陽春三月三日より、別紙の如く水戸志士遺墨展覧会を開催仕度候条、何卒右趣旨御賛襄の上本会特別協賛員たることを御許諾被成下度奉懇願候、猶幸ひに御許諾を賜はり候ても、御迷惑は一切相懸申間敷、此段御諒承被成下度候
                          敬具
  昭和三年一月
              国民新聞社長 徳富猪一郎
追伸 乍御手数同封の葉書にて折返し御回答奉願上候、尚ほ乍失礼御回答無御座候節は御許諾を賜はりしものと拝承致度、予しめ御諒承奉願上候
    (宛名手書)
    子爵渋沢栄一閣下
(別紙、印刷物)
    水戸義公生誕三百年記念
      水戸志士遺墨展覧会
我青山会館は其の創立の趣旨たる皇室中心主義の宣揚と我国風教の振興、徳操の涵養に資せんが為め、曩に西郷南洲先生遺墨展覧会、尋いで大久保甲東先生遺墨展覧会、更らに昨秋田中光顕伯の寄贈にかゝる尊王報国志士の遺墨展覧会を開催致し、江湖諸賢の多大なる協賛と後援に依つて望外の盛況を齎らし、聊か世道人心に貢献し得た事を深く感銘致して居る次第であります。
然るに本年は恰も水戸義公生誕三百年に相当致しますので、夫れを記念せんが為め、我青山会館は玆に博く朝野名流の御協賛を願ひ、同公の高風を追慕し、併せて水戸藩出身勤王忠士の偉烈を表彰することに決し、前回同様国民新聞社後援の下に義公を始じめ、威公・文公・武公・烈公及び水戸志士の、遺墨遺品を一堂に集め、左の規摸に依つて『水戸志士遺墨展覧会』を開催する事に致しましたから、右趣旨御賛襄の上特別の御後援を賜はりたく謹んで御願ひ申上げます。
      △会期 (毎日午前九時より午後六時迄)
   △三月二日……(金曜)……特別招待
   △三月三日……(土曜)……一般公開
   △三月四日……(日曜)……一般公開
   △三月五日……(月曜)……一般公開
   △三月六日……(火曜)……一般公開
 - 第49巻 p.177 -ページ画像 
      △会場
   青山会館別館 (青山南町六丁目市電明治神宮表参道前)
      △出品
   出陳の主なるものは水戸徳川侯爵家の御秘蔵に係かる水戸義公の木像、同公着用の甲胄、大日本史原稿等を始め左に掲ぐる水戸藩の志士、儒臣の遺墨遺品を蒐集して展観に供する筈
○明治天皇の勅宣並勅語 御宸筆御製
 徳川頼房(威公)・徳川光圀(義公)・徳川治保(文公)・徳川治紀(武公)・徳川斉昭(烈公)・藤田東湖・戸田蓬軒・安島帯刀・茅根寒緑・金子孫二郎・高橋多一郎・武田耕雲斎・山国兵部・鵜飼吉左衛門・鵜飼幸吉・桜任蔵・田丸稲之衛門《(田丸稲之右衛門)》・関鉄之助・藤田小四郎・斎藤留次郎・野村彝之助・鮎沢伊太夫・大場一真斎・豊田天功・勝野豊作・長谷川清・高橋荘左衛門・原市之進・吉成又右衛門・斎藤監物・稲田重蔵・佐野竹之介・黒沢忠三郎・大関和七郎・広岡子之次郎・山口辰之助・森五六郎・岡部三十郎・鯉淵要人・杉山弥一郎・蓮田市五郎・森山繁之介・広木松之助・川崎孫四郎・山崎猟蔵・佐久良東雄・平山兵介・武田彦右衛門・武田魁介・川瀬七郎右衛門・武田藎・国分新太郎・宮本茶村・大和田外記・石河幹忠・金子勇二郎・木村権之衛門《(木村権之右衛門)》・黒沢登幾子・朱舜水・人見懋斎・佐々十竹・鵜飼錬斎・吉弘馨斎・大串雪蘭・栗山潜峰・三宅観瀾・中村篁渓・安積澹泊・神代鶴洞・打越樸斎・長久保赤水・立原翠軒・同杏所・高橋坦室・藤田幽谷・青山延于・杉山復堂・会沢正志・薩州有村雄介・有村次左衛門・同母蓮寿尼等の諸家其他
      △講演
尚ほ会期中青山会館大講堂に於て左の講演会が開催されます

図表を画像で表示--

        三月三日(土)午後六時 於青山会館大講堂    一、序講        文学博士 渡辺世祐先生    二、維新回天の偉業に於ける水戸の功績                蘇峰 徳富猪一郎先生 





国民新聞 第一二九八六号 昭和三年三月一日 何れも好史料 あす招待日、青山会館の水戸志士遺墨展(DK490049k-0002)
第49巻 p.177-178 ページ画像

国民新聞  第一二九八六号昭和三年三月一日
    何れも好史料
      あす招待日、青山会館の
        水戸志士遺墨展
二日を招待日として、三日から六日迄青山会館に開催される水戸義公生誕三百年記念遺墨品展覧会は、昨報、水戸徳川侯爵家出品歴代藩主の遺品遺墨百五十点の外に、一般愛蔵家より出品されたる儒臣・志士の遺墨数百点は何れも憂国の至誠溢れ、日高尚剛氏出品の有村治左衛門並に同妻蓮寿尼の治左衛門二十三回忌の歌の如き日本女性の意気を顕はし
 高橋皞氏出品烈公筆独按摩の図は弘化年中水戸に幽居中の安島帯刀以下九名の身体の衰弱を憂へ、烈公自ら交付せしめたものである
坂本狂氏出品の水藩英烈遺墨帖は史家の好資料、その他の逸品何れも史料としても観賞者の注目に価せぬものはないので、今から人気は沸
 - 第49巻 p.178 -ページ画像 
騰してゐる。


国民新聞 第一二九八七号 昭和三年三月二日 水戸志士遺墨展 けふ招待日 逸品五百点を並べて 青山会館の大展覧会 明三日から公開(DK490049k-0003)
第49巻 p.178-179 ページ画像

国民新聞  第一二九八七号昭和三年三月二日
  水戸志士遺墨展
    けふ招待日
      逸品五百点を並べて
      青山会館の大展覧会
        明三日から公開
青山会館主催水戸義公生誕三百年記念水戸志士遺墨遺品展覧会は、今二日を招待日として、三日から公開されるが、何しろ総数五百点といふ空前の大展覧会のことゝて、予定の別館のみにて到底陳列し切れず止むなく
 大講堂 並に地下室をも之に当てゝ、遂に全館を開放することになつた、先づ第一会場たる別館に入れば佐々十竹、三宅観瀾の稿本から吉弘馨斎・長久保赤水・安積澹泊・藤田幽谷・大串雪蘭・鵜飼称斎・中村篁渓・会沢憩斎・栗山潜峰・朱舜水・心越禅師・国友善庵・豊田天功・青山延光・立原翠軒などの書翰や詩幅や画幅があり、それに次で水藩の大立物藤田東湖の筆で一つは得意の瓢兮歌と続いて諸葛孔明の出師表並に正気歌である、一糸乱れぬ筆力の整斉自ら襟を正さしめる、次ぎの区画には何れも目を奪ふものばかりである、又た徳川斉修公の墨竹、烈公が
 自画像 に自賛したものや、同公の霞ケ浦四季の歌、去野笛の記など面白く、光圀公の書翰など何れも簡単明瞭達意の文である、次の室には藤田東湖と立原翠軒・同杏所・茅根寒緑などが大部分を占めて、其他藤田小四郎・野村鼎実・安島帯刀・長谷川清などの逸品が陳べられ、其の一隅に東湖常用の食器・印籠・佩刀や約二升の酒を盛るべき大瓢がある、此の瓢こそは東湖が愛情措かず、いはゆる有名なる瓢兮歌を作つたものである、三階の陳列場は徳川侯爵家の出品を以て全部を占領してゐる、右側の小室には紫の幔幕を中央に絞つて、中には明治天皇を始め奉り、霊元天皇・後西院天皇・孝明天皇の
 御宸筆 が恭しく飾り立てられ、その隣りの小室は義公常用の手沢を存する器物が並べられてゐる、頼房光圀両公を始め、治紀・治保・斉昭諸公の遺墨は何れも目醒むるばかりの筆力を発揮し、歴代の諸侯が何れも剛健の気風をもつてゐられたことが窺はれる、この外嘉永五年に烈公が朝廷に献上せられた地球儀の模型であるが、更に最も有意義なるものは大日本史の
 旧稿本 であつて、史官の筆になつた稿本に、義公自ら朱を以て加筆せられたところなどを見ると、義公修史の意図の那辺にあつたかを窺ひ知ることが出来る、更に本館大講堂に入ると、講堂一面に展開されたものは、有名なる追鳥狩の絵巻物で、全十九巻に収められた総人員一万余人、総大将の烈公を始めとして、藤田・戸田・鵜飼・吉弘其他知名の人士は、何れもその風貌の特長によつて描破せられ、稀代の彩色画であり、此の追鳥狩こそ日本陸軍練兵の嚆矢を為したものである、地下室には筑波山の義挙関係者と、桜田門要撃志士の遺墨が陳列
 - 第49巻 p.179 -ページ画像 
されてゐる、尚ほ
 明三日 午後六時から大講堂に於て徳富蘇峰氏の『維新回天の偉業に於ける水戸の功績』並に文学博士渡辺世祐氏の『修史事業の功果』と題する紀念講演があるが、聴講希望の申込非常に多く当日の盛況がおもいやらるゝ。


国民新聞 第一二九八八号 昭和三年三月三日 遺墨を前に……幕末の思ひ出〔青山会館の水戸志士遺墨展覧会〕 名士の入場相つぐ(DK490049k-0004)
第49巻 p.179 ページ画像

国民新聞  第一二九八八号昭和三年三月三日
    遺墨を前に……幕末の思ひ出
      〔青山会館の水戸志士遺墨展覧会〕
        名士の入場相つぐ
青山会館で開催された水戸義公生誕三百年記念水戸志士遺墨遺品展覧会開会二日の招待日は、朝来の微雨に拘らず入場者多く、花房太郎子爵夫妻を先頭第一に、続いて態々蒲原から上京した田中光顕伯爵の元気な巨躯も見えた。
 徳川圀順侯・大久保利武氏・前田利定子・千寿吉彦氏・樹下快淳氏三宅驥一博士・三上参次博士・石黒子爵など続々と踵を接して会場は忽ち名士を以て埋められたが、何れも之等筆者に多少の関係を有せる人々であるだけに、到るところ藩公並びに志士を中心として幕末の混乱状態の論談に花がさく。
田中伯と徳川侯との話など最も面白く、会場は時ならぬ幕末史の研究会場の観を呈し、刻々と観覧者の数が増加して行つた。


竜門雑誌 第四七五号・第七九頁昭和三年四月 青淵先生動静大要(DK490049k-0005)
第49巻 p.179 ページ画像

竜門雑誌  第四七五号・第七九頁昭和三年四月
    青淵先生動静大要
      三月中
四日 水戸志士遺墨展覧会を参観(青山会館)



〔参考〕(増田明六) 日誌 昭和三年(DK490049k-0006)
第49巻 p.179 ページ画像

(増田明六) 日誌  昭和三年      (増田正純氏所蔵)
三月六日 火 晴                 出勤
○上略
午後四時より銀行倶楽部ニ於て竜門社の理事会と評議員会とが同時に開かれた○中略
午後五時から工学博士伊東忠太氏の建築ニ関する講演があつた。○中略
講演は一時間半かゝつて七時から晩餐会に移つた、席上渋沢子爵の水戸烈士遺墨展覧会を観ての感想談があつた
○下略