デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

1章 金融
2節 手形
1款 東京手形交換所
■綱文

第51巻 p.134-143(DK510033k) ページ画像

明治44年1月6日(1911年)


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是日栄一、各地手形交換所代表トシテ、池田謙三ト連署シテ、商法改正意見ヲ司法大臣岡部長職・貴族院議長徳川家達・衆議院議長長谷場純孝・法制局長官安広伴一郎ニ提出ス。


■資料

銀行通信録 第五一巻第三〇三号・第六一―六六頁明治四四年一月 ○内国銀行要報 各地手形交換所の商法改正意見(DK510033k-0001)
第51巻 p.135-143 ページ画像

銀行通信録 第五一巻第三〇三号・第六一―六六頁明治四四年一月
 ○内国銀行要報
    ○各地手形交換所の商法改正意見
東京交換所にては昨年四月名古屋に於て開催したる全国手形交換所聯合会の決議に基き、同年九月の定式集会に於て商法改正案に関する調査委員を挙げ、爾来之が調査に着手し、其間各地交換所より送付し来りたる意見書を参酌して慎重審議を尽し、更に其草案を各地交換所に送付して意見を問合せ、愈々全部の同意を得たるを以て本月六日各地交換所総代として司法大臣・法制局長官並貴衆両院議長へ宛て左の意見書を進達したり
本年七月発表せられたる商法中修正案は、大体に於て大に改善せられたりと雖、尚実際取扱上に適合せざるもの尠なからざるを以て、各地手形交換所組合銀行に於て審議講究の上当業者実際の見地に基き、修正希望の事項を別冊に列記し以て劉覧に供す、庶幾くは之を採納せられんことを 謹言
  明治四十四年一月六日
          東京交換所
          大阪手形交換所
          神戸交換所
          京都手形交換所
          横浜交換所
          名古屋交換所
            右総代
             東京交換所
                委員    池田謙三
                委員 男爵 渋沢栄一
   司法大臣  子爵 岡部長職殿
   貴族院議長 公爵 徳川家達殿
   衆議院議長    長谷場純孝殿
   法制局長官    安広伴一郎殿
     商法中修正希望書
今回公表せられたる商法改正案は、主として商事に関する実際の事情に鑑み、現行商法の不備を修補するを要旨として起案せられたるものなること之を認むるに難からず、大体に於ては賛成の意を表すべきものなりと雖も、仔細に各条項に就きて之を見るに、或は改正の条項にして実際の事情に適合せざるものあり、或は改正を加ふべくして脱漏したるものあり、未だ以て遺憾なしと云ふべからず、依て当業者実際の見地に基き修正を希望する事項を左に列挙し、以て当局者の参按に供す、庶幾くは之を採納せられ以て改正の要旨を全
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うせられむことを望む
 (一)署名に関する件
署名すべき場合には之に代ふるに記名捺印を以てすることを得る様規定せられたし
改正案に依れば、第百四十八条・第二百五条及第三百三十二条の三箇条に於て「署名し又は記名捺印すること」と規定し、其の他の場合には単に「署名すること」とあり、左すれば改正商法実施の上は明治三十三年二月法律第十七号商法中署名すべき場合に関する件は廃棄の始末となるべきは想察するに難からず、若し果して然りとせば実際の取扱上非常の不便を感ずるに至るべく、到底実業社会現今の程度に於ては単に署名のみを以てするに適せざるのみならず、為めに商取引の発展を阻害するの恐あり、故に前記法律第十七号は改正商法実施の後と雖も尚ほ之を廃棄せず、従来の如く署名に代ふるに記名捺印を以てすることを得る様規定せられむことを希望す
 (二)改正案第七十七条規定の取締役が其の任務を怠りたる場合に関する件
取締役が其の任務を怠りたる場合に於て其の任務を怠りたる取締役のみが連帯して損害賠償の責に任すべき様法文を修正せられたし
改正案第百七十七条に依れば「取締役が其任務を怠りたるときは、会社に対し連帯して損害賠償の責に任ず」とありて、取締役の全員が連帯して損害賠償の責に任ぜざるを得ざるものゝ如く誤解せらるる恐なしとせず、故に其の任務を怠りたる取締役のみが連帯して損害賠償の責に任ずるものと、明確に解釈し得る様法文の修正あらむことを希望す
 (三)改正案第百九十条の二の但書に関する件
改正案第百九十条の二の但書は之を削除せられたし
本条本文の規定は第二十六条第二項の規定と略ぼ其の趣旨を同うし至当なりと信ずるも、其の但書の規定は適用上甚だ困難にして種々の弊害を伴ひ、反て会社財産の状態を不明ならしむるの結果を来すべきなり、思ふに立法の趣旨は会社の当局者が其の営業上の収益にあらざる財産価格の騰貴より生する差額を利益金中に編入して、所謂蛸配当を為すの弊を未然に防遏せんとするに在るべしと雖も、適用の困難は主として其の製作価額又は取得価額を定むるの正確なる標準を得さるに在り、取得価額を定むるの困難は無償又は之に類する有償取得の場合に存し、製作価額を定むるの困難は或種の事業に於て正確なる製作価額を定むること殆んど不可能なるに存す、然るに法律は単に取得価額・製作価額なる二箇の文言を以て其の総てを律せんとす、是れ不能を強ゆるものなり、加之本条但書適用の結果として、会社の財産は其の財産目録に依り正確なる実力を示すことを得ずして、会社の債権者・株主及其他の利害関係人は会社の真相を知悉する能はず、国家又は公共団体は会社に対する課税の標準を定むるに困難を生すべく、或は会社の真相不明に乗じて会社を攪乱するの悪徳者を出すことあるべく、延て国家経済上に悪影響を及ぼすことなきを保す可からず、要するに本条但書の規定は適用頗る困
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難にして、立法者が期待して以て会社を確実ならしめんとするの精神は不幸にして却て反対の結果を招致すべく、又一面会社に対し余りに苛酷なる服従を強要するものと云はざるを得ず、此の種の事項は法律を以て窮屈なる制限を加へんよりは寧ろ会社当局者の徳義心に一任するを穏当なりとす、故に本条但書の規定は之を削除せられむことを希望す
 (四)改正案第二百六十一条以下罰則に関する件
罰則中第二百六十一条の規定並第二百六十一条の二以下の規定に修正を加へられたし
改正案の罰則に関しては少しく苛酷に失するの感なしとせざるも、外国の立法例に依れば商法又は特別法を以て会社に対し特別なる罰則を設け、株式会社又は株式合資会社の重役又は支配人が苟も任務に背きたる行為を為して、会社に損害を加へたるときは、重罰に処せらるゝの例なるを以て、改正案に於ける罰則の厳重なるは致方なしとするも、第二百六十一条規定の其の任務に背きたる行為を為し云々の字句は、意義余りに広汎に解せられ、適用上時に其の当を失するの虞なしとせざるか故に「支配人が」の下に「自己若くは第三者の利益を図り、又は会社に損害を加ふる目的を以て」を加へ、刑法第二百四十七条と同一字句を用ゐられむことを希望す、又第二百六十一条の二以下の罰則は余りに細密に過ぎ、反て適用上不便の点なしとせざるが故に、列挙主義を改めて概括的の規定と為し、次に第二百六十一条の三第三項及第二百六十一条の四第二項の過失に対する罰則は穏当ならざるものと認むるが故に、削除せられむことを希望す
 (五)倉庫証券に関する件
倉庫証券は二枚制度を廃し之に代ふるに一枚制度を以てすることに修正せられたし
現行商法に於て二枚制度を採用せるは立法者が認めて以て文明の法規と為し、一方に質権を設定して資金の融通を円満ならしめ、他方に預証券を転輾せしめて商取引の発展を期せんとするものにして、一見歓迎すべき感あるも、深く其の実施の状況を考察するときは悲哉、我国実業界商取引の実際と頗る隔絶せる所あるを以て、該制度は明治三十二年四月一日より実施せられたるにも拘はらず、規定通り実行せらるゝことは稀有の事に属し殆んど廃物同様の感あり、今其の実際に於ける不便不利の要点を挙ぐれば即ち左の如し
第一 質権を設定するに時間と手数とを徒費し商取引の敏捷を欠く惧あり、倉庫営業者の作成する多数の証券に寄託者・質権者双方が第三百六十七条に規定せる各事項を質物の種類・品質・数量に応じ貸出金額を割当て、一々記入し質権を設定するに至りては、徒に時間と手数とを要し、従て商取引の敏捷を欠き、両者到底其の煩に堪へざるべし
第二 期限到来せしとき更に質権を設定せざるべからざるの不便あり
 寄託者が質権を設立し、其の寄託物の一部を売却せしとき、又は
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未だ売却せざるとき期限到来せば、其の残額又は全額に対し債務の継続を希望するは商業界の慣習なり、然るに斯る場合に於て二枚証券なるときは、簡易なる切換継続の手続を履む能はざるが為め、残存数量に対し更に時間と手数とを徒費して質権の設定を再びせざるを得ざるの不便あり
第三 預証券を分離するときは幾多の弊害之に伴ふを以て銀行業者は之を好まざるべし
 元来銀行業者は貸金を為すに当り、借主の信用如何に依り担保品を取捨し、貸金額を定むるものにして、単に担保品のみに着眼するものにあらず、故に預証券が分離転輾して其の結果預証券所持人(改正案の債務者)の何人なるかを知ること能はざるが如きは銀行業者の好まざる所なるが、既に分離する以上は後日相場の変動其の他の事情に依り担保品の下落を来したるときは、之に増担保又は入金せしむる能はずして期日に至り債務者が支払を延期する場合に屡々寄託物競売に関する手続を為すべきことあるべきを覚悟せざるべからず、従て銀行に於ても当初貸出を為すに当り、成るべく担保価格の低からむことを欲し、借主に取りては金融上不便尠なからざるべし、殊に競売の如きは債権者其の他に取りて決して利益ある弁済法にあらざるを以て、此の如きは銀行業者の好まざる所なり
第四 第一の裏書質入人も(寄託者)預証券の分離転輾は好まざるべし
 預証券所持人の弁済義務は寄託物を限度とし、債権額及利息を弁済するものにして(第三百七十三条)其の他に預証券所持人に対する何等責任の規定なし、是に由て之を観れば、預証券所持人が物件の昂騰を見越して之を譲受け、市価騰落せる場合利益を得たるときは自己の取得と為し、損失ありたるときは第一の質入裏書人に負担せしむる理にて、預証券所持人に取りては頗る都合よき規定なるも、第一の質入裏書人に取りては実に苛酷の規定なり、此の如き危険なる負担付きにての売買譲渡を為すが如きは決して好まざるべし
第五 預質両証券の質権設定事項に錯誤なきや否やを確むる能はざるが為め、質入証券の譲受を嫌忌するに至らむ
 質権設定の場合は預質両証券に第三百六十七条規定の事項を記載すべきものにして錯誤あるべき筈なきも、両証券分離転輾せるが為めに、第一の質権者以下の質入証券譲受人は、果して質入証券に記載ある事項が預証券にも漏なく又誤記なく設定しあるや否やを知る能はざるの不安あれば、質入証券の転輾は円満に行はれざるべし
第六 弁済場所を倉庫営業所と限定せられたるは不便なり
 二枚証券の主眼は質入証券及預証券を各分離運用せしむるに在り之が為め何れも証券の所持人を知る能はず、預証券所持人が弁済せんとするも弁済する能はず、又質入証券所持人は弁済を受けざるが為め、拒絶証書を作成せんとするも其の場所の不明なるより
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現行法にては疑問なりしが、改正案の規定に依り一点疑なきに至りたりと雖も、尚ほ支払場所を倉庫営業所と限定せられあるを以て、質入証券所持人判明せる場合に於ても、倉庫営業所に弁済せざるべからず、又双方共に遠隔の地に在りて各所持人相知れる場合と雖も、尚且倉庫営業所に弁済するに至りては双方の不便甚しからむ
以上の外商人間に売買の駈引、其の他の関係上借入金額又は利息等の他に知らるゝを欲せざる場合少なからず、又倉庫業者にありても之を不便とする相当の理由あるべし、之を要するに二枚証券制度を採用する以上は、仮令法律を以て明細の規定を設くるも、現在の商取引状態に於ては分離転輾の必要を認めざるのみならず、到底其の実効を期すべからず、即ち倉庫証券に依りて便益を受けんする各種の機関は、其の便益を受くる能はずして、反て不便を感ずること甚し、是れ制度其の宜しきを得ざるが為めなりとす、然り而して此の不便は一枚制度を採用するに依りて避け得べきことゝ信ず、固より一枚制度と雖も必ずしも多少の欠点なきにあらざるべきも、現行法施行前に於ては一枚証券制に依り円満に取引せる習慣ありて毫も其の弊害なかりしなり、故に実効なき二枚制度を存続するより寧ろ比較的便利多き一枚制度に依るの優れるに如かざるなり
 (六)拒絶証書作成機関に関する件
拒絶証書作成機関を公証人・執達吏に限らず便宜特定の官公吏をして作成せしめ得る様修正せられたし
現行商法に依れば、拒絶証書の作成は公証人・執達吏に限られたるを以て一般に不便を感ずること往々にして、殊に地方に於ては公証人・執達吏の数少なく為めに数里の道程を往復する如き不便は屡々実験する所にして、其の不便実に甚しと云ふべし、依て公証人・執達吏の外に市町村吏員又は地方郵便局長の如き者を特定し、之れが作成を為さしむるに於ては右の不便を除くのみならず、一般の利便又大なるべしと信ず、是れ此の修正を希望する所以なり
 (七)小切手の呈示期間に関する件
小切手の呈示期間は之を二週間に延長せられたし
現行商法に依れば小切手の呈示期間は一週間なるを以て、遠隔の地に送付するときは其の送達に日子を要する為め往々呈示期間を経過し、所持人の迷惑を感ずることあり、殊に輓近我領土の拡張せられたる結果、各地間の送達に一層の日子を要し、益々期間の短きを感ずるに至りたり、尤も遠隔の地には為替手形に依るの方法あり、強て小切手を使用するに及ばずと云はゞ一応尤の次第なるも、実際商人間に於ては日々幾多の取引に対し、其の都度銀行に依頼して為替手形を取組むよりも自己振出の小切手に依るの便宜なるに如かず、尚ほ斯の如く小切手の利用益々大ならんとするに当り、呈示期間経過の恐あるに依り之が発達を阻害するは甚だ遺憾とする所なり、是れ此の修正を希望する所以なり
 (八)商法第五百三十四条の復活に関する件
現行商法第五百三十四条の規定は之を削除せず、其の儘存続せられ
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たし
小切手の支払拒絶の場合は、為替手形等の場合と大に其の趣を異にし、頻繁に起る事実なれば右に対し一々支払拒絶証書の作成を要することは啻に償還請求権の行使を遅緩ならしめ、為めに小切手の授受を阻害するのみならず、実際に於て其の手数と煩雑とに堪へざるべし、元来小切手は支払証券にして殆んど金銭と同様に授受せらるるものなれば、従て其の取扱も極めて敏速簡易を要すること勿論にして、現行小切手法の簡易主義は頗る便利にして且施行後何等不都合を感ぜざるに、特に此の良制度を改め、為めに小切手の授受を阻害する如き憂ある方法を採用すること甚だ遺憾の至りと云ふべし、是れ本条の存続を希望する所以なり
 (九)小切手の支払保証に関する件
小切手の支払保証を認め其の効果に関する規定を設けられたし
現行商法に於ては支払保証小切手に関して何等の規定存せざるに拘はらず、小切手に支払保証を為すは各銀行者の日々扱ふ所なれば、之に関する規定の一日も速かに設けられむことを希望する次第にして、銀行が支払の保証をなすときは、小切手面の金額丈け振出人の預金より引落し、別口預金に組入るゝ慣習なるを以て、小切手の支払人は所持人に対して手形上の支払義務を負ふ事となるべし、然るに支払保証なるものは未だ小切手の支払にあらざるが故に、手形当事者以外の第三者より見れば、振出人の預金は猶ほ存在し居る筈なり、故に第三者より其の預金に対し権利を主張さるゝときは、法律上之を拒むこと能はず、斯くては若し振出人に於て支払停止を為したる場合の如き二重の支払を強請せらるゝことあるべし、依て支払保証の効果を認むると同時に、支払人の支払義務を確保すべき相当の規定を設けられむことを希望す
 (十)自己の債務に対する質権取得に関する件
自己の債務に対し質権を取得し得るの規定を設けられたし
自己の債務を債権の担保として権利質を設定することは、実際上永く一般に行はるゝ事実にして、啻に第三者を害することなきのみならず、当事者間には頗る便利にして敏活を主とする商取引に取りては最も希望する所なり、其の実例は多くは自己の発行する定期預金証書を担保とする場合にして、右は当事者相互の便益は勿論一般金融の上にも亦好都合なるべしと信ず、是れ本規定を設けられむことを希望する所以なり
 (十一)担保付手形の期日前支払並担保品交換に関する件
担保付手形債務の期日前に於ける全部若くは一部の支払を有効とし且担保品交換を有効とせられたし
商品又は有価証券を担保として手形を割引したる場合に於て、債務者が其の商品又は有価証券の全部若くは一部を手形の期日前に売却したるときは、手形債務の全部若くは一部を手形期日前に支払い又は代り担保品を差入れ、其の商品又は有価証券の全部若くは一部を手形債権者より受取ることは現今の商慣習にして、若し之を禁ずるときは商品又は有価証券の融通を阻害すること甚しく、商業取引上
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著しく不便を感ずべきは多言を要せず、然るに現行破産法第九百九十条の規定に依れば債務者破産の場合に於ては之れを無効とせらるるの虞あり、元来同条の趣意は他の債権者を害するの虞ある期限前の支払又は担保提供を無効とするに在りて、担保付手形の期日前支払又は担保品交換の如き毫も他の債権者に損害を及ぼさゞる行為までも無効とするものにあらざる可しと雖も、規定の不備なるが為め往々にして裁判所の問題となり、無効と判決せられたる例尠なからず、依て速かに適当の規定を設け、取引の安全を確保せられむことを希望す
 (十二)手形の支払担当者に関する件
手形の支払担当者は独り異地払手形に於てのみならず、同地払手形に於ても之を設くることを得ることゝせられたし
銀行と取引ある者が約束手形を振出し、又は為替手形を引受くるに当り、其の取引銀行を以て支払場所と指定することは殆んど一般の慣例にして、之が為めに自他共に便益を受くること多きは言を俟たず、而して銀行を以て支払場所と指定することは、期日に至り債務者自ら其の指定したる銀行に出頭して支払を為すの意にあらずして銀行をして自己に代り支払を為さしめんとするに在り、即ち指定されたる銀行は期日に至り手形所持人より呈示を受くるときは、本人の来行を俟たず、其の当座預金勘定より之を支払ふものとす、然るに手形面に於ては単に支払場所と記載せらるゝが故に、手形不渡の場合に於ては種々の面倒を生ずるのみならず、往々にして拒絶証書を無効とせらるゝの虞あり、是れ同地払手形に於て支払担当者を設くること能はざるが為め、已むを得ず其の実は支払担当者たる銀行を支払場所と記載するより生ずる不便なるを以て、独逸商法の如く同地払手形と雖も支払担当者を手形に記載することを得ることゝせられむことを希望す
 (十三)貨物引換証の発行者に関する件
貨物引換証は運送人のみならず、運送取扱人も亦之を発行することを得ることゝせられたし
現行商法の規定に依れば、陸上運送貨物を代表する証券は独り貨物引換証あるのみにして、而して之を発行し得る者は運送人又は自ら運送を為す運送取扱人に限らるゝものゝ如し、従て自ら運送を為さざる運送取扱人は貨物引換証を発行することを得ず、仮令実際に於て之に類似の証券を発行するも単に債権関係の証書たるに止まり、貨物引換証の如き物権的効力を生ぜざるものと解釈せざるを得ざるべし、然るに内地陸上の重なる運送機関たる鉄道が国有に帰したる以来、鉄道に依る運送貨物に対しては貨物引換証を得ること能はず已むを得ず運送取扱人の発行する貨物引換証類似の証券を以て取引の目的と為すの現状なり、従て一朝争の生じたる場合には荷主及之に対して荷為替を取組みたる銀行は証券を所持するも権利の実行に種々の面倒を生ずるのみならず、不測の損失を争むるの恐あり、且又運送取扱人が貨物引換証を発行することを得るときは、之に依りて取引の敏活を図り運送貨物に対する融通を円滑にするの利尠なか
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らずとす、依て運送取扱人も亦貨物引換証を発行することを得ることを明定せられんことを希望す
 (十四)貨物引換証の要件に関する件
貨物引換証に於ても船荷証券に於ける如く所持人に運送品を引渡すの記載を為し得ることゝせられたし
現行商法第三百三十三条の規定に依れば、貨物引換証には必ず荷受人の氏名又は商号を記載することを要し、証券所持人に運送品を引渡すの記載を為すことを得ず、之が為め貨物引換証を担保とする荷為替手形を取組みたる場合に於て、証券を所持する銀行が其の質権を実行するに付大なる故障を生ず、貨物引換証は記名式なるときと雖も、裏書に依りて之を譲渡すことを得(改正案第三百三十四条の三)べく、而して荷送人を以て譲受人と記載することは法律上差支なきが故に、荷為替取組の場合には貨物引換証に荷送人を以て荷受人と記載し、更に之を銀行に裏書譲渡せしむれば可ならんとの説ありと雖も、通常荷受人と称するときは実際に運送品を受取るべき人を指すは当然にして商業取引に於ては予め一定せるものとす、然るに特に荷為替取組の為めに荷送人自ら荷受人と為り、更に之を銀行に裏書譲渡するは独り手数の煩雑なるのみならず、往々にして錯誤を生ずるの虞なしとせず、寧ろ証券所持人に運送品を引渡すことゝするの簡便なるに如かざるなり、依て船荷証券に於けるが如く貨物引換証に於ても亦所持人に運送品を引渡すの記載を為し得ることゝせられむことを希望す
 (十五)無記名式為替手形の金額制限に関する件
無記名式為替手形の金額制限を廃せられたし
現行商法に於ては為替手形は其の金額三十円以上のものに限り之を無記名式と為すことを得と定めらる、之が為めに三十円以下の金額の送金取組の依頼ありたる場合に於ては、銀行は必ず記名式若くは指図式の手形を発行せざるべからず、然るに三十円以下の金額の送金の場合に於ては、其の受取人は多くは支払銀行と取引なき旅行者等なるを以て、其の支払を受くるに当り種々の手数と困難とを感ぜり、依て金額の制限を廃し実際の必要に応じて無記名式為替手形を発行し得ることゝせられむことを希望す、若し夫れ無記名式為替手形の金額制限を廃するときは、多数の少額手形を発行し、其の結果兌換券の流通を阻害し、且手形の所持人に不測の損害を生じ、経済上の秩序を濫すの弊害なきを保せずとせば、他に適当の取締法を設けて可なり、況んや之が為めに金額の制限を廃するの一事が直ちに此の弊を惹起するものと思惟するは、実際に於ては杞憂たるに過ぎざるに於てをや
 (十六)登記手続に関する件
登記手続法を修正して、支店所在地に於ける登記は本店所在地登記の抄本を以て之を弁じ得る様変更せられたし
現行商法第百二十六条規定の株式申込証、並改正案第二百三条規定の社債申込証に関しては、各二通を要することゝ成り居れるが、現行の登記手続法に依れば相当の手続を経て登記したる場合に於て、
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支店を有するときは右の中一通を以て其の支店の登記を済さゞるを得ざるものにして、数箇所の支店ある場合には敏速に其手続を了し難く、往々不都合を感ずることあり、依て右に関しては登記の手続法を改正し、支店所在地に於ける登記は、本店所在地登記の抄本を以て弁じ得る様簡易の取扱に変更せられむことを希望す