デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

1章 金融
4節 保険
1款 東洋生命保険株式会社
■綱文

第51巻 p.220-222(DK510058k) ページ画像

大正元年11月22日(1912年)

是日、築地精養軒ニ於テ、当会社契約高二千万円祝賀会開カル。栄一出席シテ演説ヲナス。


■資料

竜門雑誌 第二九五号・第七一頁大正元年一二月 東洋生命祝賀会(DK510058k-0001)
第51巻 p.220-221 ページ画像

竜門雑誌  第二九五号・第七一頁大正元年一二月
○東洋生命祝賀会 一昨年組織改善後の東洋生命保険株式会社は、昨秋既に一千万円の契約高を得、爾来引続き順調の発展を為し、這般二千万円の契約高に達するの盛況を見るに至れり、因て同社は吉例に依り十一月二十二日午後四時、朝野知名の士二百余名を築地精養軒に招待して祝賀会を開催、先づ各種余興の催しあり、次で主客一同食堂に入り宴将に終らんとする頃、社長尾高次郎君起つて来賓に対する謝辞並に将来の抱負を陳べ、来賓の健康を祝して乾盃を為し、次で青淵先
 - 第51巻 p.221 -ページ画像 
生及び岡工務局長の演説ありて宴を撤し、最後に活動写真の余興あり
十時和気靄々の裡に散会せりと。


(東洋生命保険株式会社) 社報 第五五号・第三九―四一頁大正六年八月 回顧七年(DK510058k-0002)
第51巻 p.221-222 ページ画像

(東洋生命保険株式会社) 社報  第五五号・第三九―四一頁大正六年八月
    回顧七年
○上略
大正元年十一月二十二日契約高二千万円祝賀会に於て
 私○栄一の当会社に対する立場は社長たる尾高次郎氏を初め其他の重役諸君とも別して懇親も厚ふございまするし、且つ此会社の再興とも云ふべき時期よりして多少の相談に与つて居ります為めに、寧ろ主人の位置にあるやうな感じが致します。重役諸君に対しては今日の来客として威張つて御馳走を頂戴することが出来得るか知れませぬが、お集りの諸君に対しては厚く従来の御贔屓お引立を謝さねばならぬやうに感じまする、殊に今社長の述べられました御報告に付て讚辞を呈するよりは、寧ろ一層注意尽力を希望し、いつもながら老人の繰言を申述べてお答に換へやうと思ふのでございます、(中略)私は当初尾高氏が此会社に入る前に於て、頻に其困難を説き容易な丹誠で出来るものではなからう、現在に段々成立つて来た先輩の会社は、非常なる骨折で今日を為したのである、斯く申すと甚だ不遠慮の言分ではあるけれども、未だ経験の乏しい人々が、破れ会社を引受けて力を入れると云ふことは、悪くすると失敗に了るの虞があるから、寧ろさう云ふ危道を踏まぬが宜からうと再三忠告しましたが、併し尾高氏が遂に大に任ぜねばならぬと云ふ位地に相成つた、それは恰度私が亜米利加旅行の留守中であつたのでございます私は帰朝してから其事を承つて、果してさう云ふ事情であるならば已むを得ない、既に止めることの出来ない以上は相提携する諸君と共に大に進んで取ると云ふ覚悟を持たねばならぬ、成程一般の社会は追々に進んで来るけれども、此会社の事業は其進歩に伴つて居るとは言へぬやうであるから、速かに根本を整理して、会社の基礎を鞏固にせねばなるまいと云ふことを切に申したのであります、此事に付ては隣席の岡君(商工局長)などは段々御指導があらしやつたやうに承知して居ります。(中略)去りながら、今尾高氏が一覧表に依つて当会社の成績を述べられましたが、成程表に現はれたところは左様に優良でございませうかなれども、玆に一言申して置きたいのは、氏は義太夫ばかりでなく碁もお打ちなさるが、囲碁の初めを御覧なさい、四ツ目殺を習ふ時分の進歩は頗る早いものであるが、稍々上達すると其割合には進歩しない、今日氏の技倆が余程進んだやうに思つても強い碁伯に向ふと、四・五年前にも五目・六目であつたのが今日もやはり五目・六目である(笑)。故に此保険事業も保険金額が、千万円か二千万円になるのは早いか知らぬが、是からは四ツ目殺を稽古する時のやうな按排に上達して行くことは六ケ敷い(笑)、玆に至つてどうしても前の縁故募集が一転して、真に社会公共的縁故になることを心懸けねばならぬ、凡そ世の中が東西南北皆縁故、親疎老若悉く関係と相成つたら、始めて確実なる進歩が出
 - 第51巻 p.222 -ページ画像 
来るだらうと思ひます。(中略)私は人の事業を選定するには、大に熟考を要すると云ふことを、此間も或る場所で話したことがありますが、前に述べた天の時、地の利、人の和と同じく孟子の言に、矢人豈不仁於函人哉。矢人惟恐不傷人、函人惟恐傷人。と云ふことがある、成程矢を造るものは其矢が人の兜を射貫くやうに心懸け居るに違ひない、又兜を造る人は矢が兜に当つても其の矢に傷けられぬやうに努むるに相違ない、兜を造る人も矢を造る人も同じく営業であるけれども、一方は人を救ひ、一方は人を傷ける、故に術不可不慎也と云ふてある。それ故に今世の中に鉄砲を造つてはならぬと云ふ訳ではありませぬが(笑)、併し業は成るべく仁慈的のものを選みたいのである、而して此保険事業の如き人の死後其遺族を利すると共に国家の富を増す、国家の富を増すほど己れの会社が繁昌すると云ふものであつたならば、此業こそは実に仰いで天に恥ぢず俯して地に恥ぢないものであると云ふことは、社長も重役諸君も御自負なすつて宜からうと思ひます、併し其自慢は約り社会の同情を得て始めて出来るものであれば、常に自慢に安ずる訳に行かないと云ふことも亦常にお心懸あるやうに致したうございます。(後略)


竜門雑誌 第二九八号・第五八―五九頁大正二年三月 ○東洋生命保険株式会社総会(DK510058k-0003)
第51巻 p.222 ページ画像

竜門雑誌  第二九八号・第五八―五九頁大正二年三月
○東洋生命保険株式会社総会 東洋生命保険株式会社にては、二月二十四日本社内に於て前期(自明治四十五年一月一日至大正元年十二月三十一日)の定時総会を開き、同期の利益金処分は原案通り左の如く可決確定したり。

 利益金弐万壱千八百九拾四円九拾八銭弐厘
  法定準備金      壱千壱百八拾四円(前年度分と合計金額壱千八百五拾弐円)
  役員賞与金      弐千壱百円
  株主配当金(年八分) 壱万円
  株主再配当積立金   五百円(前年度分と合計金額七百六拾円拾参銭壱厘)
  保険契約者配当積立金 四千五百円(前年度分と合計金額六千八百四拾壱円拾七銭六厘)
  後期繰越金      参千六百拾円九拾八銭弐厘

因に同会社は業務の発展に伴ひ従来の営業所にては甚だ狭隘を感ずるに至りしより、今回日本橋区本町一丁目十一番地に移転したる由。


中外商業新報 第九五四六号大正元年一一月二三日 東洋生命祝賀会(DK510058k-0004)
第51巻 p.222 ページ画像

中外商業新報  第九五四六号大正元年一一月二三日
    東洋生命祝賀会
一昨年組織改善後我国生命保険界の麒麟児を以て任したる東洋生命保険会社は、昨秋早やくも一千万円の契約高を獲得し斯界の注目を集めたるが、爾来同社は引続き順調なる発展を為し、這般二千万円の契約高に達するの盛況を見るに至れり、之れを以て同社は吉例に依り二十二日午後四時、朝野知名の士二百余名を築地精養軒に招待して祝賀会を開催、当日は各種余興に次いで主客一同食堂に入り宴将に終らんとする頃、社長尾高次郎氏起つて来賓に対する謝辞並に将来の抱負を陳べ、来賓の健康を祝して乾盃を為し、次で渋沢男爵及び岡工務局長の演説ありて宴を撤し、最後に活動写真の余興あり、十時和気靄々の裡に散会せり