デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

昭和2年11月11日（1927年）

是日、逓信省ニ於テ、第二回航空輸送会社設立準備調査委員会総会開カレ、逓信大臣ノ諮問ニ対スル特別委員会ノ報告ヲ可決、逓信大臣ヘ答申書ヲ提出ス。栄一出席シテ議事ヲ司宰ス。

航空輸送会社設立準備調査委員会報告書　第二七―三四頁刊
　　　　第四　航空輸送会社設立準備調査委員会
　　　　　　　　　　　　　　特別委員会及小委員会
一、十月五日午後二時二十分、逓信省会議室ニ於テ第一回特別委員会ヲ開催ス、出席者左ノ通。
　　　　　　　　　　特別委員長　　　　　　　井上準之助
　　　　　　　　　　特別委員　　　　　　　　橋本圭三郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　大橋新太郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　門野重九郎
 - 第51巻 p.611 -ページ画像 
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（代理山田馬次郎）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　若林貞夫
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　団琢磨
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　頼母木桂吉
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　男爵　郷誠之助
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　男爵　阪谷芳郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　木村久寿弥太
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　結城豊太郎
　　　　　　　　　　各官庁側
　　　　　　　　　　　　　　大蔵省主計局長　河田烈
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（代理広瀬事務官）
　　　　　　　　　　　　　　　　　陸軍次官　畑英太郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（代理岩下少佐）
　　　　　　　　　　　　　　　　　海軍次官　大角岑生
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（代理松永中佐）
　　　　　　　　　　　　　　　　　逓信次官　桑山鉄男
　　　　　　　　　　　　　　逓信省郵務局長　大橋八郎
　　　　　　　　　　　　　　逓信省航空局長　柳谷酉三
　　　　　　　　　　　　　　逓信省経理局長　最所文二
　　　　　　　　　　幹事
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　永島雄治
　　　　　　　　　　　　　　　　逓信書記官　清水収吉
　　　　　　　　　　　　　　　　逓信書記官　久野茂
　　　　　　　　　　　　　　　　逓信書記官　伊勢谷次郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　航空官　児玉常雄
　第一回特別委員会々議ノ結果、特別委員中ヨリ三人乃至五人ノ小委員ヲ選ヒ諮問事項ニ付テ詳細ニ調査スルコトニ決定シ、十月六日特別委員長ハ逓信大臣ト協議ノ上井上準之助・橋本圭三郎・大橋新太郎・男爵郷誠之助ノ四名ヲ小委員ニ選定ス。
二、十月十日、第一回小委員会ヲ逓信省内ニ於テ開催ス、出席者左ノ通。
　　　　　　　　　　小委員
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　井上準之助
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　橋本圭三郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　大橋新太郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　男爵　郷誠之助
　　　　　　　　　　逓信省側
　　　　　　　　　　　　　　　　　逓信次官　桑山鉄男
　　　　　　　　　　　　　　　　逓信参与官　向井倭雄
　　　　　　　　　　　　　　　　　郵務局長　大橋八郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　航空局長　柳谷酉三
　　　　　　　　　　　　　　　　　経理局長　最所文二
　　　　　　　　　　幹事
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　永島雄治
 - 第51巻 p.612 -ページ画像 
　　　　　　　　　　　　　　　　逓信書記官　清水収吉
　　　　　　　　　　　　　　　　逓信書記官　久野茂
　　　　　　　　　　　　　　　　逓信書記官　伊勢谷次郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　航空官　児玉常雄
三、十月二十五日第二回小委員会ヲ逓信省内ニ於テ開催ス、出席者左ノ通。
　　　　　　　　　　小委員
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　井上準之助
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　橋本圭三郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　大橋新太郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　男爵　郷誠之助
　　　　　　　　　　逓信省側
　　　　　　　　　　　　　　　　　逓信次官　桑山鉄男
　　　　　　　　　　　　　　　　逓信参与官　向井倭雄
　　　　　　　　　　　　　　　　　郵務局長　大橋八郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　航空局長　柳谷酉三
　　　　　　　　　　　　　　　　　経理局長　最所文二
　　　　　　　　　　幹事
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　田阪一郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　永島雄治
　　　　　　　　　　　　　　　　逓信書記官　清水収吉
　　　　　　　　　　　　　　　　逓信書記官　久野茂
　　　　　　　　　　　　　　　　逓信書記官　伊勢谷次郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　航空官　児玉常雄
四、十月五日午前十時十分逓信省会議室《（十一）》ニ於テ第二回特別委員会ヲ開催ス、出席者左ノ通。
　　　　　　　　　　特別委員長　　　　　　　井上準之助
　　　　　　　　　　特別委員　　　　　　　　橋本圭三郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　大橋新太郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　若宮貞夫
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　団琢磨
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　頼母木桂吉
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　根津嘉一郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　男爵　郷誠之助
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　男爵　阪谷芳郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　木村久寿弥太
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　結城豊太郎
　　　　　　　　　　各官庁側
　　　　　　　　　　　　　　　内閣拓殖局長　成毛基雄
　　　　　　　　　　　　　　　　　大蔵次官　黒田英雄
　　　　　　　　　　　　　　大蔵省主計局長　河田烈
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（代理広瀬事務官）
　　　　　　　　　　　　　　　　　陸軍次官　畑英太郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（代理岩下少佐）
 - 第51巻 p.613 -ページ画像 
　　　　　　　　　　　　　　　　　海軍次官　大角岑生
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（代理松永中佐）
　　　　　　　　　　　　　　　　　逓信次官　桑山鉄男
　　　　　　　　　　　　　　逓信省郵務局長　大橋八郎
　　　　　　　　　　　　　　逓信省航空局長　柳谷酉三
　　　　　　　　　　　　　　逓信省経理局長　最所文二
　　　　　　　　　　幹事
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　田阪一郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　永島雄治
　　　　　　　　　　　　　　　　逓信書記官　清水収吉
　　　　　　　　　　　　　　　　逓信書記官　久野茂
　　　　　　　　　　　　　　　　逓信書記官　伊勢谷次郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　航空官　児玉常雄

航空輸送会社書類　　　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
（印刷物）
拝啓
時下愈々御清穆之段奉賀上候、陳者来る十一月十一日（金曜）午前十一時より逓信省内会議室に於て、第二回航空輸送会社設立準備調査委員会を開催致候間、当日御繰合せ御出席被成下度、此段及御通知候
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　敬具
　　昭和二年十一月五日
　　　　　　　　　　　　航空輸送会社設立準備調査委員会
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　会長　子爵　渋沢栄一
　　　　（宛名手書）
　　　　子爵　渋沢栄一殿

集会日時通知表　昭和二年　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
十一月十一日　金　午前十一時　航空会社総会（逓信省会議室）
　　　　　　　　　正午　　　　右ニ引続キ午餐会（帝国ホテル）

竜門雑誌　第四七一号・第九五頁昭和二年一二月
　　　　青淵先生動静大要
　　　　　　十一月中
十一日　航空輸送会社創立準備調査委員会（逓信省会議室）右終つて午餐会（帝国ホテル）○下略

中外商業新報　第一四九九一号昭和二年一一月一二日
　　航空会社設立準備
　　　　　　　　第二回総会
航空輸送会社設立準備委員会第二回総会は、十一日午前十一時半から逓信省会議室に開催、渋沢会長以下各委員出席、井上特別委員長よりさきに政府より諮問せられたる、航空輸送会社起業目論見案並に同会社定款案に関する特別委員会における審議の結果を報告し、特別委員会においては政府原案を可決せる旨縷々説明あり、次で委員長報告を
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議題とし満場異議なくこれを可決し、正午散会、委員は帝国ホテルにおける逓相招待会に赴いた

航空輸送会社設立準備調査委員会報告書　第三四―四八頁刊
　　　　第五　第二回航空輸送会社設立準備調査委員会総会
十一月十一日午前十一時三十分、第二回航空輸送会社設立準備調査委員会総会ヲ逓信省会議室ニ於テ開催ス。
　（一）出席者
　　　　　　　　　　会長　　　　　　　子爵　渋沢栄一
　　　　　　　　　　副会長　　　　　　　　　井上準之助
　　　　　　　　　　委員
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　稲畑勝太郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　畑英太郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　橋本圭三郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　服部金太郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　大橋八郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　大橋新太郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　大川平三郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　大角岑生
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　川西清兵衛
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　河田烈
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　門野重九郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　団琢磨
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　頼母木桂吉
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　根津嘉一郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　長岡外史
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　成毛基雄
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　中村啓次郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　向井倭雄
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　黒田英雄
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　桑山鉄男
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　柳谷酉三
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　藤山雷太
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　藤田謙一
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　秋田清
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　最所文二
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　男爵　阪谷芳郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　木村久寿弥太
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　結城豊太郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　男爵　森村開作
　　　　　　　　　　幹事
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　田阪一郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　永島雄治
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　安達堅造
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　　　　　　　　　　　　　　　　逓信書記官　清水収吉
　　　　　　　　　　　　　　　　同　　　　　久野茂
　　　　　　　　　　　　　　　　同　　　　　伊勢谷次郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　航空官　児玉常雄
　（二）議事
○会長（子爵渋沢栄一）　何モ存ジマセヌ私ガ此ノ席ヲ汚シマスノハ甚ダ恐縮デアリマスガ、任命ヲ受ケマシテ此ノ席ヲ汚シマス。之ヨリ開会ヲ宣告イタシマス。予テ特別委員ガ出来テ段々御取調ベヲ下サツタノデスガ、委員長井上君ヨリ御報告ガ御座イマス、何卒之ヲ議題トセラレンコトヲ願ヒマス。
○特別委員長（井上準之助）　九月二十八日ニ特別委員ノ選挙ガアリマシテ私ガ委員長ニ選挙致サレマシタ、ソノ経過ヲ御報告致シマス特別委員会ヲ開キマスト、ソノ中デ数名ノ小委員ヲ選ンデ詳シク目論見書・定款等ヲ審議シタラヨカラウト云フ事ニナリマシテ、男爵郷誠之助君・大橋新太郎君・橋本圭三郎君、私モソノ中ニ選バレ都合四人ノ小委員ガ出来マシテ、ソノ者ガ二回ホド会合致シ、政府当局者カラ目論見書ノ内容総テニ就キ説明ヲ聞キマシタノデアリマス而シテ其ノ小委員会ノ審査ノ結果ハ次ノ通リデアリマシタ……
　段々政府当局者ノ説明ヲ聞イテ見マスト航空事業ハ日本ニ於テハ創始ノ事業デアリ、又世界各国ニ於テモ誠ニ未ダ何年ト僅カナ年月ガ経ツテ居ルダケノ事デアリ、外国ノ航空会社ノ事業成績モ余リ参考ニナルモノモナイノデアリマス。況ヤ我国ニ於テ之ヲ始メマスニ就テハ殆ンド、小委員ハ勿論デアリマスガ、政府当局ノ方ニ於キマシテモ実例ニ就テ我々ニ説明シテ下サルダケノ事モ出来ヌコトモアルノデアリマス。之ハ新規ノ事業トシテハ已ムヲ得ヌノデアリマスガモウ少シ詳細ニ申シマスレバ、収入ノ方デ申シマスト、大体郵便ハ現状カラ割リ出シテノ事デアリマスカラ、ソノ点ニ就キマシテハ我我ハ勿論確実ナル数字ト考ヘラレルノデアリマス。併シナガラ同ジ収入ノ中デモ、飛行機ノ旅行者ハ何人乗ルカト云フヤウナ事ハ殆ンド予想ニ属スルモノデアリマシテ、果シテ大連東京、上海東京ト云フヤウナ間ニ人ガ乗ルデアラウカ、乗ラナイデアラウカ、乗ルトモ考ヘラレル、ナカナカ危険ナモノデアリマスカラ、乗ラヌトモ考ヘラレル。結局スル所ハ余リヨク解ラナイト云フコトニナリマス。殊ニ支出ノコトニナリマスト殆ント総テガハツキリ此ノ範囲内ナラ大丈夫、此ノ範囲以外ハ多少見込モアルカト云フヤウナ意味デアリマシテ、我々四人共実業家カラ出タモノト致シマシテ考ヘテ見マスト普通ノ会社等ヲ創立致シマスノト違ヒマシテ、余程其ノ点ニ就テ見込ノ範囲ガ広過ギルヤウナ気ガ致シマスノデアリマス。ソレデ小委員会デハ之ヲヤツテ見ナイト解ラナイ、ヤツテ見タ上デ或ハ政府当局ノ云ハレル通リ、或ハ夫レヨリ以上都合ヨク行クカモ知レナイ。併シナガラ何レニシテモヤツテ見ナイト解ラナイノデアルガ、ヤツテ見テ当局ノ拵ヘタ此ノ目論見書ガ果シテ、此ノ通リ行クヤ否ヤ夫レヲ見ナイト解ラナイ。ソコデ会社ヲ設立スルトシテモヤツテ見テ此ノ目論見書ノ通リ行カナイ時ハ、政府ハ之ニ就テ相当ノ援助ニ就
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テ考慮シテ呉レルカ否カ、夫レハ一ツヤツテ見テ、此ノ目論見書ノ通リ行カナカツタラバ、政府モ其ノ点ニ就テ考慮シテ呉レルナラヤルト云フコトニナリマシテ、私ガ逓信大臣ニ対シテ、其ノ点ニ就テ交渉致シマシタ。サウ致シマスト逓信大臣モ尤モナ話デテ《（ア）》ル、新ラシイ仕事デアルカラサウ云フ事モアリマセウ、夫レニ就テハ事実此ノ会社ガ成リ立タナクナル、コノ目論見書通リ行ハレナイ事ガアレバ政府トシテハ、大ニ考慮ヲ致シマセウ……斯ウ云フ話デアリマシテ、夫レナレバ其ノ考ヘデ、実行方法トシテハ或ハ補助金ノ予算ノ年度割ヲ繰上ゲル、或ハ其ノ結果補助金ガ無クナツテシマヘバ補助金ノ増額ヲスルト云フヤウナコトモアラウジヤナイカト云フヤウナ事デ、大臣ノ言明ヲ御願ヒスルコトニシテ賛成ヲ得マシタノデアリマス。サウ云フ意味ニ於キマシテ諮問事項ノ第一ノ航空輸送会社企業目論見書ニ関スル点ハ之ヲ適当ダト認メテ、此ノ小委員会ハ夫レデ決議ヲ致シマシタ。ソノ結果ハ特別委員会ニ御諮リヲ致シマシタ所、之デヨカロウ、ツマリ此ノ意味ノコトヲ認メテヨカラウト云フ事ニナリマシタノデアリマス。ソレカラ尚其ノ他ニ之ハ決議ト云フヤウナ事デハ御座イマセンガ、斯ウ云フ事ガアリマシタノデアリマス。此ノ目論見書ヲ見マスト云フト、コレガ一ツノ利益ヲ計ル会社デアル関係上、一方カラ見マスレバ或ハ社員ニ対スル俸給トカ或ハ賞与金ト云フヤウナモノハ余リニ少額ニ過ギル、斯ウ云フヤウナ事モ屡々議論ガアリマシタノデスガ、併シ一方ニハ又多少節約シ得ル点モアリ、或ハ又一方ニハ少シ余計過ギルヤウニ見テ居ル所モアルカラ、総額ニ於テハ増減ナイノデアルガ、其ノ科目ノ差繰リヲスルト云フコトモ必要デアロウトイフ議論モ出マシタノデアリマスガ、併シ之レハ実際会社ヲ設立スル時ニ議シタラヨカロウ、今此処デ彼是評議スルコトハ要ラナイト云フコトデアリマシタ。又諮問事項ノ第二ノ航空輸送会社定款要項ニ関スル件、之ハ種々ト詮議致シマシタ結果、之レデ適当デアラウト云フコトニナリマシテ、之レモ特別委員会全会一致ノ議決ヲ経マシタノデアリマス。之レダケヲ私ハ特別委員長トシテ、御報告致シマス、此ノ意味ニ於キマシテ特別委員長ヨリ此ノ報告書ヲ本会長ニ報告致シマシタノデ、若シ皆様ガ之ヲ御議決下サイマスレバ本会長カラ逓信大臣ニ報告スルコトニナルノデアリマス。一寸申添ヘテ置キマス。
○委員（男爵阪谷芳郎）　私ハ特別委員デモアリマシテ只今井上サンノ御報告ノ事ヲ特別委員トシテ承ツテ賛成ヲ表シタノデアリマス。ガ、之ガ総会ニ於テ御決定ニナル場合ニ私ト致シマシテハ、一方ニ於テ飛行協会ノ会長ヲ致シテ居ル関係上、政府当局者ニ御尋ネヲシテ置カナケレバナラヌ事ガアリマス。ソレハ御承知ノ通リニ帝国ノ民間飛行ハ如何ニモ振ヒマセン、種々手段方法ヲ尽シ、飛行協会デモ、幹部諸氏又幹部ヲ助ケテ下サル諸氏ガ奔走シテ、先ヅ現在迄ノ程度ニ民間ノ飛行ヲ発達シ、イヤ引張ツテ参ツタ訳デアリマス。之ニ就キマシテ、現在定期ノ輸送ニ従事シテ居リマスモノハ川西君ノモノト、ソレカラ東京朝日ノ東西飛行、ソレカラ井上長一氏ノ四国大分ノ辺ヲ飛ンデ居ラレル三ツガゴザイマス。ソノ中デ朝日新聞ノ
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ト、ソレカラ井上氏ノハ之ハ規模ノ小サイモノ、多クハ陸軍ヤ其ノ他ノ払下ゲ機ヲ以テ当ラレテ居リマス。川西君ノヤツテ居ラレルノハ非常ニ規模ノ大キナモノデアリマシテ、只今デモ飛行士ガ二十七八人居リマス。機関士モ三十人、機体モ二十七・八デ新ラシイモノ払下ゲデハナイ、新ラシイモノヲ用ヒテ居ル、サウシテ近頃ハ上海航路・大連航路ニモ従事シテ居ラレル。而シテ政府ノ補助ハ一キロ三十銭ト云フノデスカラ之ハ何ニモナラナイ、殆ンド数十万ノ損失ヲシテ従事シテ居ラレル訳デアリマスガ、是等ノ事ハ私ハ何等法律上ノ責任ヲ以テ云フノヂヤアリマセンガ、飛行協会トシテハ、オヤンナサイオヤンナサイト頻リニ奨励申上ゲマシタ道徳上ノ責任ガアリマス。此度新ラシイ会社ガ出来ルニ就テ、日本ニ郵船会社ガ出来マシタ時ニハ御承知ノ通リ既ニ三菱ガ航海業ヲヤツテ居ツタ。又共同運輸会社ガヤツテ居ツタ。先ヅ此ノ二ツガ重ナルモノデアリマシタカラ、之ヲ合併シテ所謂八十八万円ノ保護金ヲ与ヘテ今日ノ海運業ガ成立シテ来タ訳デ。只今ノ民間ノ航空事業ハ当時ノ三菱ヤ或ハ共同運輸会社ノ程度迄モ未ダ発達シテ居ラナイ。又空ヲ飛ブノデアリマスカラ、サウ云フ不動産モ沢山ハ持タナイ訳デアリマスケレドモ、新タナル会社ガ出来ル時、此ノ新会社トシテ既往ニ於テ民間飛行ニ従事シタ会社トノ間ヲドウ云フヤウニ繋ギ合セルカト云フ事ノ考ヘガナクテハナラヌ。三菱会社・共同運輸会社ノ時ハ両者ガ非常ニ競争ヲシテ、当時政府ガ競争サシタト云フヤウナ悪口ガアル位デ、而モ政府ハ両方ヘ対シテ手厚イ保護ガアツテ、サウシテ競争ノ結果合併ト云フコトニナツテ双方トモ大シテ損ヲシナカツタ。併シナガラ此ノ度ノハ新ラシキ会社ヲ作ルト云フ事ヲ我々ハ決定スルノデアル。夫レガ成リ立チマシタ時、今既ニ何十万ノ損ヲ賭シテヤツテ居ル会社ト云フモノヲ、ソノ儘ニ放ツテ置クコトハ出来ナイト思フ。ソコラヲ政府ハドウ云フヤウニ処置ナサルデアラウカ、余程之ハ一寸困ツタ問題デハナイカト思フノデアリマス。併シナガラソノ間ヲ何トカ聯絡ヲツケル様ナ事ガ多少タリトモ考ヘラレテアルナレバ私ハ満足スルノデアリマスケレドモ、何ニモ考ヘテ居ナイト云フ事デアルト一寸飛行協会ノ立場ト致シマシテハ、折角今日迄オヤンナサイオヤンナサイト云ツテ民間ノ航空業ヲ繋イデ今日迄ヤツテ来テ、兎ニ角上海航路大連航路ト云フモノガ微弱乍ラ僅カ一ケ月ニ一航路、一ケ年デ十二往復ヤルダケデアリマスカラ知レタモノデアリマスケレドモ、夫デモ現在デハ何十万ノ損トナルト思フノデアリマス。ソコヘ此ノ新規ナル会社ガイヨイヨ設立サレル際、政府ニ於テハソコヲドウ云フ処置ヲ取ラレル考ヘデアリマスカ、未ダソレハ考ヘテ居ラナイカ、イヤソレハ相当処置スルト云フノデアルカ、一寸承ツテ置キタイノデアリマス、コレダケヲ一寸伺ヒマス。
○逓信次官（桑山鉄男）　誠ニ御尤ナ御尋ネデ御座イマシテ只今ノ御質問ノヤウナ趣旨ノ御質問ガ特別委員会ニモ出マシタ。其ノ時ニ航空局長並ニ私カラ御答ヘ致シテ置キマシタ通リ、今日ニ於キマシテハ航空会社ノ組織設立ト云フコトニ就テ、現在アル所ノ現ニ飛行事業ヲ営ンデ居ルモノヲドウスルカト云フ事ニ就キマシテ、サウ云フ
 - 第51巻 p.618 -ページ画像 
モノヲ基礎トシテ航空会社ヲ設立スルト云フ考ヘハ持ツテ居リマセン。又此ノ飛行会社ガ設立サレタ暁ニ、現ニ飛行事業ヲ営ンデ居ルモノヲドウスルカトイフ事ニ就テモ、将来設立サレル飛行会社トノ間ヲドウスルカト云フ迄ノ考ヘヲ持ツテ居リマセン。唯玆ニ申上ゲテ置キタイノハ、日本ノ飛行業務ヲ発達セシメ、更ニ助長スルトイフ政府ノ方針ニ就キマシテハ、今日ト雖モ又将来飛行会社ガ出来マシタ後ニ於キマシテモ、何等変ル所ハナイト思ヒマス。寧ロ此ノ航空会社ヲ設立スル動機ハ申スマデモナク、現在ノ民間飛行ガ甚ダ振ハナイモノデアル、ソレ故ニ日本飛行事業ノ発達ノ為ニ、政府ハ此ノ航空会社ヲ設立スルト云フ事ニナツタノデアリマスカラ、現ニ営ンデ居ラレマス会社其ノ他ノ方々ノ飛行事業ニ就キマシテハ、将来モ政府ト致シマシテハ、出来ルダケノ援助ヲ与ヘマシテ、日本ノ航空事業ノ発達ニ資セナケレバナラヌト考ヘテ居リマス。只今ノ御話ニ対シマシテハ、新ニ設立サルベキ飛行会社ト現ニ在ル会社トノ関係ハ、其ノ間ニ何等ノ関係ヲ持タナイ、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居リマス。但シ現在営ンデ居リマス会社ノ操縦士其ノ他ノ使用人デアルトカ、サウ云フ人ノ問題並ニ飛行機或ハ其ノ他ノ設備ト云フモノニ就キマシテハ、将来設立サルベキ航空会社ニ於テ之レヲ用ヒルト云フコトニ相成リマスレバ、政府トイタシマシテモ、出来ルダケ之ヲ使用スル様ニ勧奨シタイ。之ダケノ考ヘハモツテ居リマス。ソレカラ現在ノ航空事業ヲ営ンデ居リマスモノト、新ニ設立サルベキ会社トノ物質的関係ハ、只今申上ゲマスル様ニ、政府トシテハ考ヘテ居リマセンガ、併シ現ニ川西氏ノ会社ニシロ、其ノ他飛行業務ヲ営ンデ居ルモノニシロ、永年ノ間日本航空事業ノ発達ニ貢献シタコトハ考ヘテ居リマス。之ニ対シテハ何等カノ方法ヲ講ジタイト考ヘテ居リマス、之ダケヲ申上ゲマス。
○委員（男爵阪谷芳郎）　私ハ今ノ逓信次官ノ御答ヘニ対シテハ未ダ十分ノ満足トハ考ヘマセンガ、併シ其ノ以上ノ御答ヲ今此処デ逓信大臣ガナサルト云フコトハ難カシイデアラウ。唯民間事業ト云フモノハ法律的ニノミ考ヘテ如何ニモ情ナシニヤツテ行クトイフ事ハ出来ナイ。一方ニ於テ国家ガ受ケタ利益ハ相当ニ認メネバナラヌ。ソレデ大連ナリ上海ナリノ航路ト言フモノハ、此ノ新ラシイ会社ガ出来テヤル、其処ヘ又今ノ川西サンガヤツテ居ルノモヤルト云フコトハ出来ナイ。サウスルト其ノ航路ハ新会社ガ譲受ケナケレバナラヌ其ノ譲リ受ケルニ就テハ相当ナル別ノ利益ヲ川西氏ニ与ヘル必要ハアリマスマイカ、相当ナル損失ノナイ程度ニナサナケレバナラヌノジヤナイカト思ヒマス。川西サンノ方デモ之ハ国家的ニナサレタモノダト思ヒマスガ、上海航路・大連航路ノ如キハ余程ノ犠牲デアラウト思フ、逓信当局ノ御処置如何ニヨルト継続ハ難カシイ事ジヤナイカト思フ、新会社ニ於テ政府ノ計算ニヨツテスラ、斯ノ如キ損ガアルノデスカラ、現在川西君ガヤツテ居ラレル二航路ト云フモノニ損害ガアル、其ノ損害ヲ如何ニスルカト云フ事ガ定マラナケレバ、之レ以上継続シテオヤンナサイト云フ事ハ私共トシテハ云ヘナイ。サウスルト上海航路モ、大連航路モ中絶スルコトニナル、之ハ国家
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トシテモ体面上甚ダ宜シクナイ。併シ幸ニシテ川西君ノ如キ義侠ノ人ガ今日迄ハ引受ケテヤツテ呉レラレタノデアル、併シ今回政府デ新会社ガ出来ルトスルト、現在ノ航空業ヲ犠牲的ニヤツテ居ルモノトノ関係ヲ成ル可ク円満ニヤツテ戴クヤウニスル事ニ就テ、政府ガ骨ヲ折ルコトハ当然ノ事デハナイカ。日本ノ明治年間以来発達シタ事業ニ付テハ、一方ニ於テハ干渉シ過ギタト云フ事モアリマスガ、一方カラ云ヘバ政府ガ其ノ間ニ奔走セラレタ結果ガ種々ノ事業ノ発達ヲ早メタト云フモノガ沢山アルデアラウト思フ。之ヲ御用商人ガ私スルトカ或ハ藩閥ガ私スルトカイフコトハ最モ忌ムベキコトデアリマスガ、正当ナル事柄ニ付テ相当ナ現状ニ於テ、政府ガソレニ相当ナル斡旋ヲナスト云フ事ハ適当ナ事ヂヤナイカ。今日ニ於テ航空ノ事ハ先ヅ解ラヌ方ガ多イ、川西君ハ此ノ席ニ出テ居ラレルカラヨイガ、長岡外史君ハ知ツテ居ラレル、ソシテ其ノ他ノ人ハ事実御存知ナイ、私自身飛行協会ノ会長デアリマスガヨクハ知ラナイ。随分只今ノ所デハ日本ノ航空業ヲヤツテル人ハ困ツテ居ル、夫故ニ之ヲヤツテ貰ツタト云フコトハ飛行協会ノ会長トシテ非常ニ感謝シテ居ル。之ニ対シテ今ノ逓信次官ノ御言葉ノヤウデアルト、之ニ勲章ナリ爵位ナリヤツテヨイト云フ事モアリマセウ。併シナガラ一面ニ於テ事業発達ニ助ケヲナシタモノニ、後ノ事業ニ当ル者カ相当ノ金ヲ払ツテ行ツテモヨイヂヤナイカ。国家ガ夫ニ対シテ其ノ功勲ヲ認メルコトハ良イガ、併シナガラ事業ヲ事業トシテ円満ニ継承スルコトガ必要デ、先ニナシタモノガ後ノモノノ養ヒヲナシテ居ル、其ノ養ヒヲ受ケテ行クニハ別ナモノニナツテハ円満ニ行カナイト思ヒマス即チ次官ノ云ハレル人間ナリ道具ナリトイウコトハ解リマシタガ、今モウ少シ御進メ下サルコトハ如何ナモノデアリマスカ。私ハ飛行協会ノ会長トシテ多クノ人ニ犠牲ヲ与ヘタソノ立場ノ上カラ、自分ノ罪障消滅ノ為之レダケ一言シテ置キマスカラ、宜シク政府ニ於テモ御考慮ヲ願ヒタイノデアリマス。
○逓信次官（桑山鉄男）　只今ノハ御質問デハゴザイマセンカラ御答ヘ申上ゲルノハ如何カト思ヒマスガ、一寸此ノ際今ノ御言葉ニ関聯シテ申上ゲテ置キタイト思フノデアリマス。此度ノ航空会社ガ愈々設立サレマシテ飛行業務ヲ開始スルヤウニナリマシタ暁ニハ、現ニ営ンデ居リマス飛行会社ノ航空区間ト申シマスカ、ソノ中デ此度ノ飛行会社ノヤリマスモノト丁度重複スル形ニ相成リマスモノハ、其ノ飛行ヲ御見合セヲ願フコトニ致シタイ考ヘデアリマス。従ヒマシテ阪谷男爵モ御承知デアルト思ヒマスガ、上海・大連ハ現ニ川西氏ニ於テヤツテ居リマス、其ノ区間ニ対シマシテハ実ハ此度出来マス飛行会社ニヤツテ貰フノデ、之ニ重複イタシマシテ川西会社ニ於テ飛行ヲヤツテ貰フ考ヘハ持ツテ居リマセン。尚只今仰セノ通リ、全ク川西氏ノ国家的義侠的ノ考ヘカラ只今ノ飛行業務ヲ行ツテ居ラレルヤウデアリマシテ、輸送会社トシテハ勿論計画立ツテ居ル訳デハナイ、旅客・貨物ガアル訳デハナイ、全ク国家ノ為ニ他日ノ発達ノ為ニ川西氏トシテハ御努力相成ツテルヤウニ考ヘマス、其ノ点ハ船舶業者ノ最初ノ事情トハ聊カ異ツテ居リマスヤウニ考ラレマスノデ
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念ノ為申上ゲテ置キマス。
○委員（川西清兵衛）　私、川西清兵衛デアリマス。只今御話ガアリマシタガ、此ノ問題ニ就テハ私一身上ニ関係致シマスカラ申上ゲマスノハ如何カト存ジマスガ、此ノ機会ニ簡単ニ私ノ存ジテ居リマス事ダケヲ申上ゲタイト思ヒマス。只今阪谷男爵カラ種々御話ガアリマシタ。私ハ航空事業ニ対シテ関係致シテ居リマス。殊ニ今日ハ日本航空輸送会社ト云フコトデアリマシテ、私ノ伜其ノ他若イ者ガ経営ニ従事致シテ居リマス。私ハ直接関係致シテ居リマセンガ、種々之迄ニ阪谷男爵ノ御奨励ヲ受ケマシタ、又逓信省カラモ御指導ヲ受ケマシテ、微弱ナガラモ今日上海其ノ他ヲヤツテ居ル様ナ訳デアリマス。試験的ニヤツテ居ルノデ甚ダ行ツテ居ル所ハ微弱デアリマスガ、私ノ今日迄ニ実行致シマシタ事ニ就テハ、何等私ハ考ヘテ居リマセン。幸ニ玆ニ官民一致ノ立派ナ会社ガ出来ルコトハ、最モ国家ト致シマシテモ、亦国民ト致シマシテモ非常ニ喜バシイコトデアリマス。斯ヤウナモノガコヽニ出来マシタナラバ、我々ノ方ハ寧ロ止メマシテヨイト云フ積リデ居リマスヤウナ次第デ、之ニ対シマシテ種々御話ニ出タ様ナコトハ私ニ於キマシテモ考ヘテ居リマセン。唯今日迄航空事業ニ就キマシテ非常ニ苦心致シタ者ガゴザイマス。是等ノ者ニ対シテ既ニ新航空会社ガ出来マシテ何カ御使用ガ願ヘルト云フコトニナリマスレバ、私望外ノ仕合セデアリマシテ又左様アリタイト思ヒマス。今日迄私共ノ投ジマシタ物質的ノコトニ就テハ何等考ヘテ居リマセン、左様御承知ヲ願ヒタイト思ヒマス。
　　　（拍手スル者アリ）
○会長（子爵渋沢栄一）　阪谷男爵ヨリノ御注意ト、又今川西サンノ御決意ノ程モ御述ベニナリマシタガ、斯様ナ事ノ解決ガ付カナケレバ議事ノ進行上多少考ヘナケレバナラヌト云フ事デアリマセウカ、或ハ御双方ノ間ニ御諒解ガツイテ居ルノデアリマスカ。
○委員（男爵阪谷芳郎）　私ハ協会長トシテノ側デ申上ゲテ、何モ一向川西サンニ御尋ネシタ訳デモナイ、又当局者ニ対シテモ尋ネタ訳デハナイ、今此ノ席デ川西サンノ御顔ヲ見テ実ハ感慨無量デアリマス。自分ガ種々申上ゲテ御損害ヲカケテ居リマス事モアリマスガ、逓信次官ノ御話ノ意味モ相当ナ事ヲスル、川西サンモ何モ考ヘテ居ラヌガ、今使ツテ居ル人ヲ無駄ニシテハナラヌ、之ヲ使ツテ欲シイト云フコトデ、是モ先刻次官ノ御話ニモアリマス。双方ノ間ニ温カイ情義ガアレバソレデ満足デ、只今ノ川西サンノ御話デハ尚更感嘆ニ堪ヘナイ次第デアリマス。
　　　　（『原案賛成――委員長報告ニ賛成』ノ声起ル）
○会長（子爵渋沢栄一）　只今ノ特別委員長ノ御報告ニ異議ハアリマセンカ。
　　　　（『異議ナシ』ノ声起ル）
○会長（子爵渋沢栄一）　ソレデハ、問題ハ井上特別委員長ノ御報告ノ通、全会一致デ御認メニナツタモノト認メマス。コレデ閉会致シマス。

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航空輸送会社設立準備調査委員会報告書　第四九―五〇頁刊
　　　　第六　逓信大臣諮問事項ニ対スル答申書
十一月十一日、諮問事項ニ対スル左記答申書ヲ逓信大臣ヘ提出ス
　　昭和二年十一月十一日
　　　　　　　　　　航空輸送会社設立準備調査委員会
　　　　　　　　　　　　　　　　　会長　子爵　渋沢栄一
　　　　逓信大臣　望月圭介殿
昭和二年九月廿八日附ヲ以テ航空輸送会社設立準備調査委員会ニ御諮問相成候事項ニ対シ、同総会ノ決議ヲ経テ左記ノ通及答申候也
　　　　　　記
諮問事項第一　航空輸送会社起業目論見ニ関スル件
　右起業目論見ハ適当ナリト認ム
　但シ航空輸送会社ノ設立ハ我国創始ノ事柄ニ属スルヲ以テ、其ノ営業収入及支出計算ハ共ニ多少未知ノ事実ニ基ケル点アルハ已ムヲ得サル所ナリ、依テ会社ノ事業開始後ノ営業実績ニ徴シ到底予期ノ業績ヲ挙クルコト困難ナルニ於テハ、政府ハ会社ノ維持ニ付相当考慮ヲ払フノ必要アルモノト認ム
諮問事項第二　航空輸送会社定款要項ニ関スル件
　右定款要項ハ適当ナリト認ム