デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

3章 商工業
6節 窯業
6款 日本陶料株式会社
■綱文

第52巻 p.557-564(DK520074k) ページ画像

明治44年11月15日(1911年)

是日、東京商業会議所ニ於テ、当会社創立総会開カル。栄一、発起人トシテ尽力ス。


■資料

渋沢栄一 日記 明治四三年(DK520074k-0001)
第52巻 p.557 ページ画像

渋沢栄一 日記  明治四三年         (渋沢子爵家所蔵)
六月八日 半晴 暖
○上略 正午第一銀行ニ抵リテ午飧ス○中略渡部朔・細木・金岩氏等来リ、化学窯業ノ事ヲ談ス○下略


渋沢栄一 日記 明治四四年(DK520074k-0002)
第52巻 p.557 ページ画像

渋沢栄一 日記  明治四四年         (渋沢子爵家所蔵)
三月二十六日 曇 軽寒
○上略 高松・渡部其他ノ諸氏来リテ、絵具及陶器原料製造会社ノ事ニ付種々ノ談話アリ○下略
  ○中略。
八月二十三日 晴 暑
○上略 四時過中央亭ニテ陶料製造会社創立ノ事ニ付高松氏・渡部氏等ト会話ス○下略


日本陶料株式会社創立事項報告書 第一―一一頁刊(DK520074k-0003)
第52巻 p.557-560 ページ画像

日本陶料株式会社創立事項報告書  第一―一一頁刊
    日本陶料株式会社創立事項報告書
明治四十四年十一月十五日午前十一時東京市麹町区有楽町一丁目一番地東京商業会議所ニ於テ日本陶料株式会社創立総会ヲ開ク、出席株主委任状共三十名此株数四千百三十株ニシテ、株主総数四十三名株式総数五千株ニ対シ何レモ半数以上ニシテ有効ニ創立総会ヲ開クヲ得タリ創立委員長工学博士高松豊吉氏発議、満場一致ニテ発起人中野武営氏ヲ議長ニ挙ゲ、曩ニ各株主ニ通知シタル事項ヲ附議ス
 第一 会社ノ創立ニ関スル事項報告ノ件
創立委員長工学博士高松豊吉氏ノ報告左ノ如シ
 本日玆ニ日本陶料株式会社創立総会ヲ開クニ方リ、創立委員ニ於テ処理シタル諸般ノ事項ヲ報告シテ各位ノ承認ヲ請ハントス
一、当会社ノ設立ニ就テハ既ニ趣意書ニモ陳述セシ如ク、従来京都市金岩虎吉氏ノ経営ニ属スル日本陶磁器絵具製造所ノ事業ヲ継承シ、更ニ之ヲ拡張シテ陶磁器ノ製造ニ要スル貴金属絵具及素地原料ヲ大規模ニ製造シ、将来斯業ノ発展ヲ図ルベキ目的ヲ以テ、同志数名ノ発起人ヲ得ルニ至レリ
二、明治四十四年八月二十三日発起人会ヲ開キ、左ノ事項ヲ決議セリ
 (一)株式申込期日ハ凡九月十五日ヨリ二十五日マデトスルコト
 (二)証拠金額ハ金拾弐円五拾銭ト定メ、第一回払込金ト振替ユルコト
 - 第52巻 p.558 -ページ画像 
 (三)第一回払込期日ハ株式引受確定後遅滞ナク之ヲ定メ、証拠金領収書ト引替ニ第一回払込金領収書ヲ交付スルコト
 (四)取扱銀行ノ取極ハ創立委員ニ一任スルコト
 (五)創立委員ハ高松豊吉・奥繁三郎・細木松之介・渡部朔ノ四氏トシ、創立委員長ハ高松豊吉氏トスルコト
 (六)創立事務ハ便宜創立委員ニ一任スルコト
 (七)創立総会ノ期日及場所ノ取極ハ創立委員ニ一任スルコト
 (八)日本陶磁器絵具製造所ノ事業継承ニ関シ、同所主ト仮契約ヲ締結スルコトハ創立委員ニ一任スルコト
三、創立ニ関スル事務取扱ノ概要左ノ如シ
 (一)株式ハ発起人及賛成者ノミニテ満株トナルベキ見込ナルヲ以テ公衆募集ヲ為サズ、九月十五日ヨリ二十五日マデヲ申込期日ト定メ、予約者其他ニ対シ証拠金一株ニ付金拾弐円五拾銭ヲ添ヘ申込ヲ為スベキ旨ヲ通知セリ
 (二)前記申込期日マデニ大部分ハ申込アリタルガ、残数ニ対シテハ更ニ期限ヲ伸長シ十月二十六日マデニ全部申込完了シタリ依テ十月二十六日ヲ以テ払込期日ト定メ、申込証拠金ヲ第一回払込金ニ振替ヘタリ
 (三)日本陶磁器絵具製造所ノ事業継承ニ付テハ、十月二十日創立委員長高松豊吉ト右製造所主金岩虎吉トノ間ニ仮契約ヲ締結セリ
 (四)十月三十日付ヲ以テ十一月十五日東京商業会議所ニ於テ創立総会ヲ開クベキ旨各株式引受人ニ通知セリ
 (五)創立費ハ金参千円ヲ支出セリ
満場一致ヲ以テ承認ス
○中略
 第四 取締役及監査役選任ノ件
取締役及監査役ノ選任ハ投票ニ代ヘテ議長ノ指名ニ一任スルコトヽシ議長ハ取締役ニ渡部朔・野坂嘗治・金岩長造・星野錫・奥村安太郎ノ五氏ヲ、監査役ニ奥繁三郎・伊藤幹一ノ両氏ヲ推薦シ、満場一致ヲ以テ可決ス
○中略
 第六 日本陶磁器絵具製造所ノ営業継承ニ関スル仮契約承認ノ件
創立委員長高松豊吉氏左ノ仮契約全文ヲ朗読シ満場一致ヲ以テ可決ス
      仮契約書
日本陶料株式会社発起人総代創立委員長高松豊吉(以下甲ト称ス)ト日本陶磁器絵具製造所所主金岩虎吉(以下乙ト称ス)トハ左ノ仮契約ヲ締結ス
第一条 甲ハ乙ノ所有ニ係ル日本陶磁器絵具製造所ニ関スル営業ヲ金壱万五千円ニテ譲受ク
第二条 前条ノ営業ノ譲受代金ハ会社ノ設立登記後営業受授ノ際金七千五百円ヲ支払ヒ、残金七千五百円ハ爾後会社ノ株金払込アリタル都度株式六百株ニ対スル払込額ニ依リ計算シテ之ヲ支払フ
第三条 乙ハ営業譲渡後ハ自己ノ名義ヲ以テスルト他人ノ名義ヲ以テ
 - 第52巻 p.559 -ページ画像 
スルトヲ問ハズ、日本内地ニ於テ会社ノ目的ト同一若クハ類似ノ事業ヲ営ムコトヲ得ズ
第四条 甲ハ現在日本陶磁器絵具製造所ニ属スル建物・機械器具・諸設備・諸装置及営業用備品一切ヲ金弐万千七百円ニテ買受ク、但シ物件ノ滅失又ハ毀損ノ場合ニ於テハ、甲ハ之ニ相当スル金額ヲ買受代金ノ内ヨリ控除スルコトヲ得
第五条 物件ノ受渡及買受代金ノ支払ハ営業受授ト同時ニ之ヲ行フ、乙ハ営業譲渡期日ノ前日マデ前条ノ機械類ヲ使用シテ営業ヲ継続スルコトヲ得、但シ乙ハ之カ保存及修理ニ付其責ニ任ズベシ
第六条 此仮契約ハ会社カ成立セザルカ、又ハ創立総会ノ承認ヲ得ルコト能ハザルトキハ、双方トモ何等ノ責ヲ負フコトナク当然其効力ヲ失フ
右仮契約書弐通ヲ作成シ各自壱通ヲ有ス
  明治四拾四年拾月弐拾日
              日本陶料株式会社発起人総代
                創立委員長 高松豊吉
        京都市上京区南禅寺町字下河原五拾五番地
          日本陶磁器絵具製造所主 金岩虎吉
右ニテ当日ノ議事ハ全ク結了ス
次テ中野武営氏ヨリ創立委員ニ対シ尽力ヲ謝スル旨、並ニ本日当選ノ重役ニ対シ奮発努力ヲ望ム旨ノ演説アリ、右ニ対シ創立委員長高松豊吉氏及取締役ニ当選ノ渡部朔・星野錫両氏ノ答辞アリ、又日本陶磁器絵具製造所主金岩虎吉氏ヨリ誓テ会社将来ノ為メ尽瘁スベキ旨挨拶セラレ散会セリ
  明治四十四年十一月十五日
                 日本陶料株式会社発起人
                      渡部朔
                 工学博士 高松豊吉
                 男爵   渋沢栄一
                      中野武営
                      星野錫
                      伊藤幹一
                      奥繁三郎
                      津田栄太郎
                      稲垣恒吉
                      奥村安太郎
                      金岩長造
                 工学博士 細木松之介

閉会後取締役会ニ於ケル互選ニ依リ、渡部朔氏社長ニ、野坂嘗治・金岩長造ノ両氏常務取締役ニ選定ス、又取締役会ノ決議ニ依リ、中野武営・工学博士高松豊吉ノ両氏ヲ相談役ニ、工学博士細木松之介氏ヲ顧問ニ嘱託スルコトヽシ承諾ヲ得タリ
○中略
 - 第52巻 p.560 -ページ画像 
      株主名簿
 株数   府県   氏名
○中略
弐百株   東京   渋沢栄一
○下略


日本陶料株式会社 設立趣意書・目論見書・概算書・定款 第一―一〇頁刊(DK520074k-0004)
第52巻 p.560-561 ページ画像

日本陶料株式会社 設立趣意書・目論見書・概算書・定款  第一―一〇頁刊
    設立趣意書
本邦工業ノ進歩ハ比年駸々トシテ殆ント停止スル所ヲ知ラス、其効験亦頗ル顕著ナルモノアリト雖モ、此等ハ主トシテ機械的作用ニ依ル製造業ニシテ、化学応用ノ範囲ニ属スル事業ニ至テハ、大資本ヲ以テ工場的設備ニ依リ之ヲ経営スルモノ僅ニ五指ヲ屈スルニ過キス、是レ主トシテ施業ノ方案自ラ複雑ニシテ、其経営亦容易ナラサルニ坐セスンハアラス
凡ソ一国ノ生産ハ機械工業ニ依ルト同時ニ、力ヲ化学工業ノ発達ニ致シ、両々相俟テ之カ振興ヲ期セサルヘカラス、今化学工業ノ一種タル陶磁器業ヲ通観スルニ、其産額年々鉅万ニ上リ、海外輸出高ノミヲ以テスルモ優ニ七・八百万円ヲ算シ、本邦重要輸出品中実ニ主要ナル地位ヲ占メ、而モ今後益発展ノ希望ヲ以テ満タサル、然ルニ該事業経営ノ方法タルヤ、日本陶器合名会社其他一・二ノモノヲ除ケハ、其施業方法概ネ旧套ヲ脱セス、且家庭的小規模ニ過キサルヲ以テ、之カ原料ニ付テモ纔ニ各自ノ単純ナル装置ニ俟ツノ現状ナリ、是レ実ニ工場的設備ニ依リテ一手ニ供給スルノ最モ必要ナル所以ナリ、殊ニ我輸出陶磁器ハ其性質苟モスレハ脆弱ナルヲ免レス、且製品ノ整一ヲ欠キ多数ノ需要ヲ満タスヲ得ス、為メニ大ニ海外市場ニ於ケル販路ヲ制限セラルヽ憾アリ、此等ノ欠点ハ亦学理ト機械トノ応用ニ依リ原料ノ精選ニ努ムルニ由リテ之ヲ防クヲ得ヘキナリ
輸出陶磁器ノ大部分ハ色彩鮮麗ナルヲ要スルヲ以テ、為メニ要スル貴金属絵具ノ量亦尠シトセス、而シテ該絵具ハ現今専ラ之ヲ欧米ノ輸入ニ仰キツヽアリト雖モ、斯業者中各種絵具ニ関シ多年ノ経験ニ富ムモノアルヲ以テ、僅カニ之ニ学術ノ力ヲ仮サハ、彼ニ劣ラサル製品ヲ供給スルヲ得ルコト決シテ難事ニアラス
玻璃器製造事業ハ輓近長足ノ進歩ヲ為シ、遠ク清国及南洋等ニ輸出セラルヽモノ年々其額ヲ加フト雖モ、是レ亦原料ノ選択不充分ナル為メ色沢ニ、硬度ニ、共ニ欠クル所アリ、然ルニ幸ニ玻璃ノ主要原料トナルヘキ硅石等ハ、均シク陶磁器ノ原料タルヘキヲ以テ、同時ニ精良ナル原料ヲ製出スルコト頗ル容易ナリトス、以上ノ趣旨ニ由リ某等相議リテ、玆ニ日本陶料株式会社ヲ起シ、窯業絵具並陶磁器玻璃器原料ノ製造販売ヲ専ラトシ、併セテ窯業ニ関スル雑種材料ノ供給ヲ為シ、以テ斯業ノ改良発展ヲ図リ、聊カ国家経済上ニ資スル所アラント欲ス
                  日本陶料株式会社発起人
○中略
    目論見書
一、目的 各種ノ絵具並陶磁器其他ノ窯業品ノ原料ノ製造販売及之ニ
 - 第52巻 p.561 -ページ画像 
附帯スル事業ヲ営ムヲ以テ目的トス
二、商号 日本陶料株式会社
三、資本 総額ヲ金弐拾五万円トシ、此二分ノ一払込額金拾弐万五千円ヲ以テ第一期事業ヲ経営シ、更ニ業務ノ発展ニ伴ヒ漸次払込ヲ為スモノトス
四、株式 一株ノ金額ヲ金五拾円トシ、其総数ヲ五千株トス
五、営業地 本社並工場ヲ京都ニ設置シ、尚重要ナル土地ニハ分工場及支店ヲ設クルモノトス
六、経営ノ概要 第一期事業トシテ既設日本陶磁器絵具製造所ノ事業ヲ継承シ、主トシテ陶磁器・玻璃器ノ製造ニ要スル絵具及釉料類ヲ製造シ、且陶磁器・玻璃器ノ原料タル陶土・長石・硅石等ヲ磨砕精選シ、更ニ進ンテ各種ノ色彩絵具等ノ製造ニ及ホシ、仍テ以テ輸出陶磁器・玻璃器ノ品質ノ向上ヲ図リ、併セテ絵具輸入ノ防止ニ努メントス
○下略


日本陶料株式会社第一回営業報告書 (自明治四十四年十一月至明治四十五年三月) 刊(DK520074k-0005)
第52巻 p.561-563 ページ画像

日本陶料株式会社第一回営業報告書
                (自明治四十四年十一月至明治四十五年三月) 刊
    第壱回(自明治四十四年十一月至明治四十五年三月)営業報告書
            京都市下京区馬町通本町東入ル
               四丁目鐘鋳町四百十五番地
                    日本陶料株式会社
明治四十五年上半期間ニ於ケル本会社ノ業務並諸計算ノ要領ヲ株主各位ニ報告スルコト左ノ如シ
      一、庶務要領
一、登記事項
 明治四十四年 十一月二十日  会社設立         京都区裁判所
 明治四十四年 十一月三十日  柳原町本工場敷地買入   伏見区裁判所
 明治四十四年 十二月二十七日 柳原町本工場敷地買増   伏見区裁判所
 明治四十五年 一月二十二日  浄土寺町工場建物買入   京都区裁判所
 明治四十五年 二月十二日   鐘鋳町本社敷地買入    京都区裁判所下京出張所
 明治四十五年 二月二十四日  柳原町本工場敷地買増   伏見区裁判所
一、願届事項
 明治四十五年 一月十九日   本会社開業届       上京税務所
 同      一月二十六日  鐘鋳町買入地登録済金高届 下京区役所
 同      一月三十一日  本会社課税標準届     上京税務所
 同      一月三十一日  名古屋販売店営業継続届  名古屋税務所
 同      二月二十日   鐘鋳町道路使用願     京都市役所
一、標章及商標 本会社ノ標章トシテ桜花ノ内ニT字ヲ記セルモノヲ用ヒ、又商品ノ商標トシテ陶磁器用絵具ニハ円内ニCPMヲ、水金ニハ団羽印ヲ特許局ニ出願シ孰レモ登録ヲ経タリ
一、営業継承 予テ創立総会ニ於テ決議ノ契約ニ基キ、明治四十四年十一月二十六日ヲ以テ金岩虎吉氏ノ経営ニ係ル日本陶磁器絵具製造所ノ事業ヲ継承シ、南禅寺町ニ於ケル本店及工場並ニ付属舎、浄土寺町
 - 第52巻 p.562 -ページ画像 
ニ於ケル真如堂工場、白川村ニ於ケル水車工場ノ引継ヲ受ケ、尚ホ以上本店及三工場ニ備付ケアル機械・器具・什器及諸装置授受ヲ了セリ又貯蔵物件其他工場仕掛物等ニ付テハ各相当代価ヲ協定シ譲受ノ手続ヲ了セリ、尚ホ名古屋ニ於ケル金岩出張所モ将来同地方ニ於テ販路益多カルベキ見込アルヲ以テ、併セテ本会社ニ譲受営業ヲ継続スルコトトセリ
一、株式異動 本会社株式総数五万株ニ対シ本期間ニ於テハ別ニ異動ナク、株主人員ハ四十三名トス
一、職員 三月三十一日現在職員数ハ相談役二名、顧問一名、取締役五名、監査役二名、社員八名、準社員四名、雇傭員十三名ナリ
      二、工務要領
一、工場建設 本事業計画ノ当初ニ於テ工場敷地トシテ約千坪ノ地ヲ要スル見込ナリシヲ以テ、七条停車場附近ニ於テ貨物取卸ノ便アル地ヲ選定セント欲シタリシニ、幸ヒ前営業主ニ於テ相当地坪ノモノヲ買収シ居リタルヲ以テ、之ヲ譲受ケ、爾来工場設備ニ従事セルモ、該地点ハ一ハ洛南塩小路橋附近ニ、一ハ同所ヨリ南高瀬川沿岸ノ所ニシテ運輸ノ便アリタルモ、両地較ヤ間隔アリテ施業ニ利アラザルガ故ヲ以テ更ニ塩小路地所ノ隣接地ヲ買収セント欲シ、之ガ交渉ヲ開キタルモ熟議ニ時日ヲ要シ、去ル二月二十七日ヲ以テ漸ク全部ノ買収ヲ了セリ加フルニ田用水利ノ修理等之ニ伴ヒ、之レ工場建設ノ予期ニ後レタル所以ナリ、爾来障囲ノ建設ニ着手シ、又工場用井戸ノ掘方ヲ終了セリ之等敷地買収ノ完結ト同時ニ横浜「ストロン」商会ニ英国「クロッスリー」社製五十四馬力吸入瓦斯発動機ノ購入ヲ契約シ、来期ニ入リ此ノ機械ノ到着ト同時ニ工場上屋ノ建築ニ着手セント欲シ、既ニ之ガ設計ヲ終レリ、而シテ新工場ニ継承機械ヲ移転シ、更ニ効果アルノ設備ヲ為スハ製陶工業ノ最モ閑暇アル時季ヲ選バザルベカラズ、否ラザレバ当業者ニ対スル需給ノ均衡ヲ失ヒ彼我共ニ不利ノ地位ニ立ツヲ免レズ、之ヲ年来ノ経験ニ徴スニ、六・七月ノ候ヲ適当トス、故ニ工場建設ノ如キモ該季節ヲ標準トシ之レニ従事スベキモ、移転ノ為メ一時製造事業ノ中絶ヲ見ルニ至ラザルベキヤヲ之レ工務当局者ノ頗ル苦心スル所ナリ
一、継承工場 本会社ニ於テ日本陶磁器絵具製造所ヨリ継承セル工場ハ南禅寺工場・真如堂工場及白川工場ノ三ニシテ、前二者ハ疏水ノ余水ヲ用フル水車ヲ原動機トセルモノナルヲ以テ、水量欠乏ノ為メ南禅寺工場ハ全然運転不可能ニ陥リ製造ノ見込立タザルヲ以テ、電力原動機ヲ用ユルコトヽナシ、昨四十四年十一月二十六日継承当時以後京都市ニ対シ水力電気ノ供給ヲ請求セルモ、架設工事進捗セス、同十二月二十四日ニ至リ漸ク操業ヲ開始セルモ、市ノ発電所改修ノ為メ本年一月十一日ヨリ送電ヲ中止セラレ、其間操業日数僅カニ十有四日、二月十二日ニ至リ送電復旧シ、継承当時ヨリ今日ニ至ル迄ノ操業日数ハ六十九日トス
機械ノ運転斯ク中断セルヲ以テ操業ノ調和ヲ欠キ、予想ノ製産ヲ為ス能ハズ、為メニ一般得意先ニ対シ需要ニ応ズル能ハザリシヲ憾トス
真如堂工場モ亦疏水ノ余水ニ依レルノ水車工場ナルヲ以テ、仮令南禅
 - 第52巻 p.563 -ページ画像 
寺工場ノ如ク全然運転ヲ休止スル程度迄ニハ至ラザリシモ、通水不充分ニシテ機械ノ大半ハ時ニ運転ヲ中止スルニ至レリ
独リ白川工場ハ白川ヨリ分水セルモノナルヲ以テ、水源減水ノ為メ充分ノ水ヲ得ル能ハザリシモ、前二工場ニ比スレバ其ノ量較豊富ニシテ此ノ工場ノ全力運転ヲ計リ漸ク得意先ノ急需ニ応ズルヲ得タリ
      三、営業景況
一、販売 一般経済界ノ状態ハ未ダ順境ニ立到ラザルト、且ツ陶磁器輸出ノ不況トハ本会社ノ得意先タル各地陶磁器製造業者ニ多大ノ打撃ヲ与ヘ、従ツテ製産手控ノ観ヲ呈セリ、斯ノ貿易不振ノ原因ハ深ク之ヲ考究セバ多々アルベシト雖、昨年末ニ於ケル清国動乱ト米国輸入陶磁器荷造費問題トハ確ニ之ニ関聯セル所アルガ如シ、本会社ノ設立ガ斯ク沈衰ノ期ニ方レルニ係ハラズ、京都ハ勿論名古屋地方、金沢地方等ニ於テ、本会社経営方針ノ日ニ漸ク周知セラルヽニ至リ、頗ル当業者ノ歓迎スル所トナリ、製陶原料ニ将タ絵具ニ続々之ガ註文ニ接シタルモ、本工場ノ尚ホ未ダ成ラザルノ当期ニ於テハ、唯僅カニ継承工場ニ幾多ノ補修設備ヲ施シテ、極力製産ニ力メタルト、且旧営業主ヨリ引継ギタル商品ヲ販売シテ、需要ノ幾分ヲ補フヲ得タルニ過ギザルヲ以テ、充分ノ効果ヲ挙グルヲ得ザリシハ、当局者ノ実ニ遺憾トスル所ナリ
然ルモ前記販路ノ趨勢ニ依リ本会社事業ノ前途ニ希望ヲ認ムルヲ得タルハ歓喜ノ至リトス
○下略


日本陶料株式会社取締役 玉川直道談話筆記(DK520074k-0006)
第52巻 p.563-564 ページ画像

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