デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.20

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

3章 商工業
8節 鉄鋼
1款 日本鋼管株式会社
■綱文

第53巻 p.9-18(DK530002k) ページ画像

明治45年6月8日(1912年)

是日、日本橋倶楽部ニ於テ当会社創立総会開カル。

栄一出席シ、推サレテ議長トナリ、議事ヲ司宰ス。


■資料

竜門雑誌 第二八九号・第九二―九三頁明治四五年六月 ○日本鋼管株式会社設立(DK530002k-0001)
第53巻 p.9-10 ページ画像

竜門雑誌 第二八九号・第九二―九三頁明治四五年六月
○日本鋼管株式会社設立 青淵先生其他の発起に係る日本鋼管株式会社にては、六月八日午後二時より日本橋倶楽部に於て創立総会を開きたり、青淵先生議長席に着き、先づ「定款変更の件」「取締役及監査役全員報酬の件」を議定し、「取締役及監査役選任の件」は出席株主の動議に基き議長の指名にて左の諸氏を選任し、孰れも之を承諾せられたり。
 取締役 大橋新太郎氏  取締役 岸本吉右衛門氏
 同   大川平三郎氏  同   大倉喜三郎氏
 同   太田清蔵氏   同   白石元治郎氏
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 取締役 今泉嘉一郎氏
 監査役 安部幸兵衛氏  監査役 森岡平右衛門氏
 同   荒井泰治氏
尚ほ取締役互選の結果、白石元治郎氏社長に就任し、次に技師長招聘及特別報酬契約締結の件は取締役に一任して午後三時散会せり。


日本鋼管株式会社創業二十年回顧録 今泉嘉一郎著 第八七―九八頁 昭和八年一二月刊(DK530002k-0002)
第53巻 p.10-15 ページ画像

日本鋼管株式会社創業二十年回顧録 今泉嘉一郎著
                      第八七―九八頁
                      昭和八年一二月刊
    第三章 本格的の会社創立運動
○上略
 六月八日 には上京し、其日正午日本橋倶楽部に於て日本鋼管株式会社創立総会を開き、満場一致全議案を可決し、会社は完全に成立した。散会後直ちに大川・白石・岸本・森岡諸氏と共に、古鉄集収に関する協議を重ねて解散した。
 此創立総会に於て重役組織は左の如く決定された。
   ○取締役・監査役氏名前掲ニツキ略ス。
 次で取締役の互撰に依り社長を次の如く決した。
               社長 白石元治郎
 是で創立の仕事は結末を告げたのであるが、此創立運動に当つて発起人連名を以て一般に配布した創立趣意書・起業説明書・起業費予算は次の通りであつたことを玆に添加する。
      日本鋼管株式会社創立趣意書
 瓦斯・水道・電灯・鉄道ノ如キ事業ガ文明人類ノ生活ニ向ツテ其必要欠ク可ラザル事敢テ言ヲ俟タズ。而シテ電気ノ伝達ニ電線ヲ要シ貨車ノ来往ニ鉄道ヲ要スルヲ知ルモノハ、瓦斯体・液体ノ配給ニ鋼管ヲ要スル事モ亦之ヲ知了スベシ。若シ世界鋼管ノ製産今日ノ隆盛ヲ来サザルニ於テハ、瓦斯及水道事業今日ノ発達ハ到底之ヲ想像スル事能ハザルベシ。其他製缶・製油・機械・造船ハ勿論一般ノ建築土木ニ於テモ鋼管ノ需要頗ル大ナルモノアリ。之ヲ以テ輓近欧米諸国ニ於ケル鋼管ノ製造事業ハ頗ル隆盛ニシテ、其産出額ハ各種鉄鋼製造品ノ内ニ在リテ最モ主要ナル位置ヲ占ムルニ至レリ。米国ノ如キハナシヨナル製管会社ノミニテモ壱箇年優ニ壱百万噸以上ノ鋼管ヲ製出シ、独逸ニ於テハマンネスマン、ドイチエル・カイゼル、フエニツクス、ヂユツセルドルフ・レーレンワルツウエルク、ハーン、フルヂンスキー、ラウラ、ビスマルクノ如キ著名ナル製管工場アリテ、各其盛大ヲ競ヒ、又英国ニ於テハ彼ノ有名ナルスチユワード、ロイド、ウヰルソン、ユニオンノ如キ大会社アリ、瑞典ノ如キモ猶フアーゲルスター、サンドウイーケン等アリ、而シテ墺国ニ至リテハ彼ノ巨大ナルウイツトコウヰツツ製管工場ヲ有シ、製鉄事業ノ最モ幼稚ナル露国スラ今回ペートルスブルグ近郊コルビノニ於テ一大製管工場ヲ創設スルニ至レリ。
 然ルニ本邦ノ如キハ既ニ久シク相当多量ノ鋼管ヲ需要シ来レルニ拘ラズ、此種製造工場ナキヲ以テ全部ノ需要ヲ輸入ニ仰グノ外ナク現ニ昨四十四年ノ如キハ無慮四百万円ノ輸入ヲ見ルニ至レリ。蓋シ
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本邦ニ於テモ瓦斯・水道ノ如キ文明設備ヲ初メ機械其他ノ製造工業亦著シク発達セル当然ノ結果トシテ、斯ノ如キ需要増進ヲ来セルモノナルベシ。試ニ瓦斯ノ一事業ニ就テ之ヲ見ルモ、目下既設及計画中ノモノヲ合シテ八十余会社ヲ算シ、而シテ是等諸会社ハ其事業ノ拡張ト共ニ年々其瓦斯供給ノ枝線延長ヲ実行シ、殆ンド底止スル処ナキヲ想像セバ、又以テ将来ニ於ケル需要増進ノ程度ヲ察知スルニ難カラザルベシ。需要ノ盛ナルコト斯ノ如キナルニ拘ハラズ、本邦ニ於テ今日尚ホ未ダ一ノ鋼管製造所ナキハ、畢竟製鋼事業ニ関スル一般知識ノ幼稚ナルニ基クモノナルベシト雖モ、是レ実ニ我工業界ニ於ケル一大欠陥ト云ハザル可カラズ。斯ノ如キハ苟クモ世ノ産業ヲ論ズルモノヽ徒ラニ看過スル能ハザル所ニシテ、今ヤ事業創立ノ好機実ニ到来セルモノト云フベシ。
 予輩聊カ是ニ見ル処アリ、数年間調査ヲ重ネ、尚最近欧洲各国ニ於ケル製管技術ノ実況ニ就キ緻密ノ研究ヲ遂ゲ、営利事業トシテ十分成功ノ基礎アルモノト認メタルヲ以テ、玆ニ壱箇年約壱万噸ノ鋼管ヲ製造スルニ足ル可キ一製造所ヲ創立シ、同時ニ原料タル鋼塊ヲモ製造シ、以テ事業ノ根柢ヲ固メント欲ス。而シテ鋼管ノ製造ハ当初先ヅ壱万噸ノ程度ニ於テ予定ノ成績ヲ挙ゲタル後、漸次機宜ニ応ジタル拡張ヲ遂ゲ、一ハ以テ関係諸事業ノ発達ニ資シ、一ハ以テ輸入防遏ノ功ヲ奏シ、之ニ依ツテ此本邦工業ノ一大欠陥ヲ補足セントス。是レ亦報国ノ一事業タルヲ失ハザルヲ信ズ。
 今左ニ過去五年間我国ニ輸入セラレタル鋼管ノ数量及価格ヲ列挙シテ参考ニ資ス。

  年次      数量        価格
 三十九年   一〇、二四〇噸  一、五四七、一九八円
 四十年    二〇、二五六噸  二、九七二、三〇七円
 四十一年   一五、二二九噸  二、四三七、四九八円
 四十二年   一八、五五一噸  二、三〇五、六三〇円
 四十三年   二六、〇四〇噸  三、〇九七、六二六円
 五箇年総計  九〇、三一六噸 一二、三六〇、二五九円
 五箇年平均  一八、〇六三噸  二、四七二、〇五三円

 但シ表中ノ価格ハ、輸入税・金利・陸揚費等ヲ含マザルモノナリ。又汽缶・船舶其他既製品ノ一部トシテ輸入セラレタル鋼管類ハ凡テ之ヲ含マズ。
 尚ホ其後ニ於ケル鋼鉄管ノ需要益々増加シ、現ニ昨四十四年度ノ如キ一月ヨリ十一月迄ノ累計参百八拾七万参千七百拾六円ニ達シ、一昨年度ノ同累計ニ比シ壱百万円以上ノ増加ヲ示セリ。サレバ此種鋼材ハ実ニ本邦輸入品中ニ於テ侮ル可カラザル位置ニ達シタルモノト云フ可シ。
 之ヲ要スルニ、本事業ハ(一)製品ノ需要強勢ナルコト、(二)海外ニ於テ既ニ十分ノ成功ヲ遂ゲタル事業ナルニ拘ハラズ、本邦ニ於テハ未ダ著手シタルモノナキコト、(三)原料ニ比シ製品ノ代価頗ル高価ナルコト、(四)関税ノ保護十分ナルコト等ノ理由ニ因リ、既ニ確然タル基礎ヲ有スルモノト云フ可シ。
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 本事業ノ技術担当者タルベキ今泉嘉一郎氏ハ明治二十五年工科大学ヲ卒業シ、直ニ農商務省技師ヲ奉職シテ、当時創設セラレタル製鉄事業調査会ノ事務ニ従事シ、二十七年独逸フライベルヒ鉱山大学ニ入学シ製鉄学ヲ修メ、同二十八年更ニ実地練習ノ為同国ヘールデー製鉄所ニ於テ技師ヲ奉職シ、二十九年同地ニ於テ日本官立製鉄所ノ技師ニ任命セラレ、更ニ伯林鉱山大学ニ入学シ、爾後欧米諸製鉄所ヲ視察シ、三十年帰朝、爾来八幡製鉄所ノ建設ニ従事シ、遂ニ勅任技師長トシテ工務部長・鋼材部長兼職ノ下ニ、四十三年四月ニ至ル迄満十四年間官立製鉄所ノ実地ニ従事シ、其間欧米ヲ視察スルコト前後三回ニ及ビ、一般製鉄事業ト共ニ具サニ欧米ニ於ケル製管技術ヲ研究シタルガ、将来民業ニ従事スルノ志願ヲ以テ本職ヲ辞シタルモ、今尚休職技師トシテ製鉄事業調査ノ嘱託ヲ受ケ、且ツ在官ノ儘民間ニ於ケル鋼管製造事業ニ従事スルノ公許ヲ得タルモノナリ。
      一、起業説明書
(一)鋼管事業ノ近状 鋼管ニ二種アリ。一ハ鋼塊ヨリ一旦長キ平板ヲ製シ、之ヲ曲ゲテ管形トナシ、継目ヲ焼付ケタルニ依リ管ノ全長ニ亘リ此継目ヲ存スルモノニシテ、継目管(英Butt welded tubes, Lap welded tubes)ト称シ、一ハ鋼塊ヨリ直ニ引延バシテ管トナシタルニ依リ、管ノ全体一ノ継目ナク、完全ニ実質ヲ存スルモノニシテ、引抜管又ハ継目無管(英Solid drawn tubes, Seamless tubes)ト称ス。前者ハ旧式ノ方法ニシテ、後者ハ新式ノ発明ナリトス。一般ニ鋼鉄ノ性質トシテ如何ニ巧妙ニ焼付クルトモ、焼付ケザル部分ニ比シテ十分ノ七ノ強サヲ有スルニ過ギズ実地ノ使用ニ際シ高圧ノ瓦斯・蒸汽又ハ水ヲ通ズル時ハ、継目ヨリ爆発スルノ危険少カラズ。又屈曲・変形等ノ加工ヲナス時ハ、継目ハ自然ニ分離スルコトアリ。之ニ反シ引抜管ハ周壁尽ク健全ナル同一実質ヨリ成ルヲ以テ、管トシテ真ニ理想的ノ性質ヲ備フルモノト云フ可シ。又之ガ製造ニ就テモ継目管ハ極メテ軟質ノ鋼鉄ヲ撰バザル可カラズ。又其管肉ノ厚サハ原料タル平板ノ厚サニ従ツテ定ムルノ外ナケレドモ、引抜管ハ殆ド硬軟如何ニ論ナク、各種ノ鋼鉄ヲ用ユルコトヲ得可ク、其管肉ノ如キハ製造ノ瞬間ニ於テ厚薄自在ニ之ヲ造リ得ルノ便アリ、引抜管製造便法ノ発明者マンネスマン氏兄弟ノ専売権ガ西暦千八百九十年独貨壱千六百万マークヲ以テ売却セラレ、之ニ基キ資本金参千六百万マークヲ以テ独逸・墺地利マンネスマン製管会社ノ設立ヲ見タルガ如キハ、如何ニ世人ガ引抜管ヲ尊重スルヤノ程度ヲ察知スルニ足ル可シ。
  抑モ引抜管ハ其用途極メテ広ク、従ツテ世間ノ需要最モ多キモノナレドモ、当初尚其代価ノ高価ナリシガタメ、未ダ充分ニ世ノ需要者ヲ満足セシムルコト能ハザリシト雖モ、輓近ニ於ケル機械ノ発明改良ニ依リ、製造費モ亦著シク低廉トナリタルヲ以テ、原料ノ市価如何ニ依リテハ却ツテ継目管ヨリ廉価ニ製造セラルヽコトヽナリタルガ故ニ、欧米市場ニ於テ継目管ノ全ク駆逐セラルヽヲ見ルコト決シテ遠キ将来ニアラザルベキハ、識者ノ既ニ認識スル処ナリトス。我日本ノ如キハ則チ今日已ニ其情況ヲ具ヘタルモ
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ノナリ。日本ニテ継目管ノ原料タル平鋼板ハ、目下凡テ輸入ニ仰グヲ以テ、其代価一噸ニ付八拾五円ヲ要ス。他日日本ニ於テ製造スルモノアリトスルモ、七拾五円ヲ下ルコトナカルベシ。之ニ反シ引抜管ノ原料タル鋼塊ハ、輸入スルモ一噸六拾円、自ラ之ヲ製造スルニ於テハ四拾六円ニ過ギズシテ、引抜管ノ方却ツテ廉価ニ製造スルヲ得ルコトヽナル。
  前掲ノ事情ニ因リ、本社ハ専ラ引抜管ヲ製造シテ一般ノ需要ニ応ゼントス。目下日本ニ於ケル継目管ノ市価壱噸百弐拾五円内外引抜管壱噸百五拾円内外ナレドモ、本社ハ其製品一噸ノ販売代価ヲ凡テ百拾五円トシテ予算ヲ立テタリ。日本ノ輸入税ガ継目管壱噸ニ付キ拾八円四拾八銭、引抜管壱噸ニ付参拾八円六拾四銭ナルコトハ、益々以テ本事業ヲ利スルモノアルヲ知ル可シ。
(二)引抜鋼管ノ特長 今継目管ニ比シテ引抜管ノ優レル点ヲ指摘スレバ大略左ノ如シ。
 (イ)高圧蒸汽又ハ高圧瓦斯ニ適スルコト
 (ロ)水圧管ニ使用シ得ルコト
 (ハ)ボイラー・チユーブ又ハロコモチーブ・チユーブニ適スルコト
 (ニ)屈曲其他ノ加工ニ適スルコト
 (ホ)螺旋部面ノ完全ナルタメ継手ヨリ漏洩ナキコト
 (ヘ)同一圧力ニ対シテ重量ノ小ナルコト
 (ト)管端ノ収縮・拡張等ヲナシ得ルコト
 (チ)内面ニ凸起ヲ生ゼザルコト、従ツテ瓦斯体・液体ノ流通ニ摩擦少キコト
 (リ)管肉ノ著シク厚キモノ又ハ薄キモノヲ自在ニ造リ得ルコト
 (ヌ)自転車其他精功品ノ製造ニ適スルコト
 (ル)製造技術ニ於テ鍛接ノ困難ナキコト
 (ヲ)鋼質ハ硬軟何レニテモ用ヒ得ルコト
 (ワ)管ノ寸法異ル毎ニ原料鋼板ノ寸法ヲ異ニスルガ如キ不便ナク、同一ノ鋼塊ヲ用ヰテ製造ノ際長短厚薄ヲ殆ンド随意ニ定メ得ルコト
(三)鋼塊ノ製造 鋼塊ハ外国ヨリ輸入スルトキハ一噸ニ付六拾円内外ナレドモ、自ラ之ヲ製造スルトキハ実費四拾五円内外ニシテ金利・償却等ヲ加算スルモ尚輸入ニ比シ著シキ利益アルヲ以テ、本社ハ鋼管製造ノ外ニ之レガ原料タル鋼塊ヲモ製造スルコトヽセリ。
(四)工場建設ノ位置 工場敷地ハ横浜港ニ接近セル沿岸ニ於テ海陸輸送ノ便利ナル位置ヲ撰定シ、他日拡張ニ応ズル余地ヲ備フルモノトス。
(五)建物ノ築造 工場本館ハ凡テ鉄骨ヲ以テ永久的竪牢ヲ主トシ事務所・雑建物ノ如キハ出来得ル限リノ節約ヲ主トス。
(六)諸機械及各種炉ノ選定 諸機械及各種炉ニ就テハ欧米ニ於ケル最新式ノモノヲ撰定シ、同時ニ本邦特殊ノ情況ニ応ズルコトヲ主眼トス。
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  製造スベキ鋼管ノ大サハ目下瓦斯・水道・石油事業其他最モ盛ナル需要ニ応ズルタメ、径六吋以下、二分ノ一吋ト定メタルモ、輓近電柱其他ニ用ユルタメ六吋以上十吋迄ノ需要モ亦漸々増加スルノ傾向アルヲ以テ、本社ハ他日漸次事業ヲ拡張シテ是等ヲモ併セ製造セン事ヲ期ス。
  機械ノ全製造力ハ職工熟練ノ場合ニ於テ一箇年壱万参千噸ヲ製造シ得ル様設備スルモ、予算ニ於テハ単ニ壱万噸ヲ製造スルモノトシテ計算セリ。
  機械据付及各種炉築造結了シタルトキハ、二箇月間各部ノ試運転・調整及鋼管ノ試製ヲ行ハントス。
(七)機械ノ原動力 機械ノ動力トシテハ、本社ノ如キ事業ニ対シテ電気ノ最モ経済的ナルコトハ専門家ノ知了スル所ナルト共ニ、水力電気事業ノ隆興ニヨリ将来京浜地方ニ於ケル電気ノ供給頗ル便利ナルモノアルベキヲ予想シ、凡テ電力ニ依ルコトトセリ。之ガ為本社ハ高価ナル原動力工場設備ヲ全ク要セザルト共ニ、作業上大ニ動力ノ経済ヲ期シ得ル見込ミナリ。
(八)外国技師及職工長ノ雇聘 本社ハ事業創立ノ最初ヨリ成ルベク技術ノ安全ヲ期スルタメ、当初三箇年間ハ経験アル外国技師一名、職工長二名ヲ雇聘スルモノトシテ、之ガ俸給及社宅料年額壱万七千九百円ヲ支出予算中ニ編入シタリ。サレバ一旦日本職工熟練ノ域ニ達シ、全能力ヲ発揮シテ一箇年産額壱万参千噸ヲ得、同時ニ外国人ヲ要セザルニ至レバ、本社ノ純益ハ更ニ多大ノ増加ヲナスモノナリトス。
(九)起業及営業開始ノ予定時期
   明治四十五年四月中    創立
   同     五月     機械註文ノ為当事者海外派遣
   同     七月     機械註文
   明治四十六年三月中    機械到着
   同     六月中    機械据付結了
   同     七月及八月  試運転
   同     九月ヨリ   本就業
(十)資本金払込時期ノ予定 資本金弐百万円ノ内、当初先ヅ百弐拾万円ヲ以テ起業ス。其払込時期ノ予定左ノ如シ。
   第一回払込 創立ノ際
            五拾万円 但シ一株ニ付拾弐円五拾銭
   第二回払込 第一回払込後約八箇月後ノ予定
            参拾万円 同      七円五拾銭
   第三回払込 第二回払込後約三箇月後ノ予定
            四拾万円 同      拾円
   但シ第二回後ノ払込ハ工事ノ進捗ニ伴ヒ多少変更スルコトアル可シ。
(十一)流通資本金 流通資本金ハ資本金ノ内ヨリ拾壱万円ヲ振当テ、其他ハ必要ニ応ジ借入金ヲ以テ処弁ス。之ガタメ収支予算中ニ若干ノ利子ヲ見込ミタリ。
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(十二)収支予算ノ算出
 (イ) 鋼塊製造費ハ職工熟練セル場合ニ於テ一噸ニ付四拾五円五拾四銭ナルベキ予定ナレドモ、就業第一期ハ六拾円、第二期ハ五拾円、第三期ハ四拾七円、第四期ニ至リ初メテ予定ニ達スルモノトナシタリ。
 (ロ)鋼塊ヨリ製品ノ産出歩止リハ、欧米ニ在リテハ熟練セル場合ニ八割五歩ナレドモ、本社ハ当初四期間八割ニ止ルモノトシテ予算セリ。
 (ハ)鋼管製造力ハ、職工熟練ノ場合ニ一箇年壱万参千噸ヲ製造スルヲ得レドモ、予算ニハ第一期(三箇月)ニ於テ壱千弐百噸、第二期(六箇月)ニ四千噸、第三期ニ四千五百噸、第四期及第五期ニ五千噸トシテ計算セリ。
      一、起業費予算
一地所買収費及土工費      一五〇、〇〇〇円
一建物建設費          一三九、〇〇〇円
一諸機械費           四三一、七五七円
一同上据付費           六三、四五八円
一各種炉築造費共        二〇二、五〇〇円
一試運転費            一一、二六〇円
一総掛費             四二、〇二五円
一予備費             五〇、〇〇〇円
一流通資金           一一〇、〇〇〇円
  合計          一、二〇〇、〇〇〇円


渋沢栄一 日記 明治四五年(DK530002k-0003)
第53巻 p.15 ページ画像

渋沢栄一 日記 明治四五年          (渋沢子爵家所蔵)
六月十二日 曇 暑
○上略 午後五時半浜町常盤屋ニ抵リ、日本鋼管会社ヨリノ招宴ニ出席ス大倉・馬越・大橋・大川・白石・今泉等ノ諸氏来会ス、余興アリ、酒間一場ノ訓戒演説ヲ為シ、夜十時散会帰宿ス


日本鋼管株式会社創業二十年回顧録 今泉嘉一郎著 第九九頁 昭和八年一二月刊(DK530002k-0004)
第53巻 p.15 ページ画像

日本鋼管株式会社創業二十年回顧録 今泉嘉一郎著
                      第九九頁
                      昭和八年一二月刊
    第四章 会社成立より工場建設まで
      〔一〕成立の残務と建設の準備
○上略
 六月十二日 日本橋倶楽部で第一回の重役会議を開いた。次で浜町常盤に於て、渋沢子爵初め会社の創立に際し特に援助を与へられたる人々を招待して晩餐会を開き、謝意を表した。
○下略



〔参考〕日本鋼管株式会社定款 大正拾年六月改正 第一―九頁刊(DK530002k-0005)
第53巻 p.15-18 ページ画像

日本鋼管株式会社定款 大正拾年六月改正 第一―九頁刊
    定款
      第一章 総則
第一条 本会社ハ日本鋼管株式会社ト称シ、本社ヲ神奈川県橘樹郡田
 - 第53巻 p.16 -ページ画像 
島村大字渡田字若尾新田ニ設置ス
第二条 本会社ハ左ノ事業ヲ営ムヲ以テ目的トス
 一、銑鉄・鋼塊・鋼管其他各種鋼材ノ製造及ビ販売
 二、前項事業ニ直接又ハ間接ニ必要又ハ有利ナル鉱業、水力発電其他ノ附帯事業
 三、第一及ビ第二ノ目的ヲ達スル為メ必要又ハ有利ナル事業ニ出資スル事
第三条 本会社ノ資本金ハ弐千壱百万円トス
第四条 本会社ノ公告スベキ事項ハ所轄区裁判所ノ公告スル新聞紙ニ之ヲ掲載ス
      第二章 株式
第五条 本会社ノ株式ハ普通株式弐拾壱万株、優先株式弐拾壱万株、合計四拾弐万株トシ、壱株ノ金額ヲ五拾円トス
 優先株ハ毎決算期ニ於テ其払込金額ニ対シ年壱割弐分ニ相当スルマデ普通株ニ先チテ利益配当ヲ受クル権利ヲ有ス
 優先株ノ配当ガ該決算期ニ於テ其払込金額ニ対シ定率ニ達セザルトキハ、後期ニ於テ之レヲ塡補スルモノトス
 本社ガ六決算期継続シテ優先株普通株共通シテ年壱割弐分ノ配当ヲナシタルトキハ、優先株ハ其優先権ヲ失フモノトス
第六条 本会社ノ株式ハ記名式トシ、壱株券・拾株券・五拾株券ノ三種トス
第七条 本会社株金払込ノ時期及金額ハ重役会ノ決議ニ拠ル
第八条 株金ノ払込ヲ怠リタル株主ハ、其払込期日ノ翌日ヨリ払込済ノ日迄金壱百円ニ付一日金四銭ノ割合ヲ以テ遅延利息ヲ支払ヒ、且其遅延ノ為メニ生ジタル費用ヲ支払フベシ
第九条 本会社ノ株式ヲ取得シタルトキハ、譲渡人トノ連署ヲ以テ名義書替ヲ請求スベシ
 譲渡人ノ連署ヲ得ルコト能ハザル場合及ビ氏名ヲ改メタル場合ニ於テハ、官公吏ノ証明書ヲ添ヘテ名義書替ヲ請求スベシ
 前二項ノ場合ニ於テハ株券一枚ニ付金五銭ノ手数料ヲ徴収ス
第十条 株券ヲ汚損シタルトキハ、原券ヲ提出シテ新券ト交換ヲ求ムルコトヲ得
 盗難又ハ紛失ニ因リ新券ノ交付ヲ求ムル場合ニ於テハ、其事実ヲ明記シ証人二名以上ノ連署ヲ以テ請求スベシ、此場合ニ於テハ会社ハ其名義書替ヲ停止シ、本人ノ費用ヲ以テ公告シ、次ノ利益配当金支払日後三十日ヲ経テ故障ノ生ゼザルトキハ新券ヲ交付スベシ
 前二項ノ場合ニ於テハ公告料ノ外株券一枚ニ付金参拾銭ノ手数料ヲ徴収ス
第十一条 株券ノ分合ヲ要スルトキハ旧株券ト引換ニ新株券ヲ交付ス
 前項ノ場合ニ於テハ新株券一枚ニ付金参拾銭ノ手数料ヲ徴収ス
第十二条 株券名義書替ハ毎期決算期日ノ翌日ヨリ定時総会結了ノ日迄之レヲ停止ス
第十三条 株主ハ氏名・住所及印鑑ヲ本会社ニ届ケ置クコトヲ要ス、其変更アリシトキハ直ニ其旨ヲ届出ヅベシ、但株主ニシテ海外ニ在
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ル者及海外旅行中ノ者ハ相当代理人ヲ定メ届出ヅベシ
 若シ之ヲ怠リタルニ因リ生ジタル損害アルモ、本会社ハ其責ニ任ゼザルモノトス
      第三章 役員
第十四条 本会社ノ役員ハ左ノ如シ
  取締役   拾名以内
  監査役   五名以内
第十五条 取締役・監査役ハ壱百株以上ヲ有スル株主中ヨリ株主総会ニ於テ之ヲ選挙ス
第十六条 取締役ノ任期ハ三箇年、監査役ノ任期ハ二箇年トス、但満期再選スルコトヲ妨ゲズ
 前項取締役及ビ監査役ノ任期ハ其任期中ノ最終ノ配当期ニ関スル定時総会ノ終結ニ至ル迄之ヲ伸張ス
第十七条 役員中欠員ヲ生ジタルトキハ総会ヲ招集シ補欠員ヲ選任ス
 但其補欠当選者ノ任期ハ前任者ノ残期間トス
 役員中欠員アルモ法定ノ員数ヲ欠カズ、且現在ノ役員ニ於テ事務ニ差支ナシト認メタル場合ニ於テハ、補欠選挙ノ為メニ総会ヲ招集セザルコトアルベシ
第十八条 取締役ハ互選ヲ以テ社長一名ヲ置ク
 業務ノ都合ニヨリ互選ヲ以テ副社長二名ヲ置クコトヲ得
 社長ハ社務ヲ統轄シ本社ヲ代表ス
 副社長ハ社長ヲ補佐シ、社長事故アルトキハ之ニ代ル
第十九条 取締役及監査役ノ報酬ハ株主総会ノ決議ヲ以テ之ヲ定ム
第二十条 取締役ハ其在任中自己所有ノ本会社株式壱百株ヲ監査役ニ供託スベシ
      第四章 株主総会
第二十一条 定時総会ハ毎年十二月、六月之ヲ招集ス
第二十二条 総会ニ於ケル株主ノ議決権ハ其所有株一株ニ付一個トス
第二十三条 株主ハ代理人ニ委任シ議決権ヲ行フコトヲ得、但代理人ハ本会社ノ株主ニ限ル
第二十四条 総会ノ議長ハ社長之ニ任ズ、若シ事故アルトキハ他ノ取締役之ニ当ル
第二十五条 総会ノ議事ハ出席株主ノ議決権ノ過半数ヲ以テ之ヲ決ス可否同数ナルトキハ議長之ヲ決ス、但議長ハ所有株式ノ議決権ノ行使ヲ妨ゲズ
 議長ハ議事ノ整理上必要ト認メタルトキハ会議ヲ延長若クハ続行シ又ハ会場ヲ変更スルコトヲ得
第二十六条 総会ニ於テ議決シタル事項ハ決議録ニ記載シ、議長及ビ監査役、出席株主各壱名之ニ署名捺印ス
      第五章 計算
第二十七条 本会社ノ営業決算期ハ毎年十二月一日ヨリ五月末日迄、六月一日ヨリ十一月末日迄ヲ各一期トス
 但取締役会ノ決議ニヨリ初期ノ決算ニ限リ次期ノ決算ト併合スルコトヲ得
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第二十八条 本会社ノ営業決算期間ニ於ケル総収入金額中ヨリ営業上ノ諸経費及ビ損失並ニ諸機械建物償却金ヲ控除シタ残額ヲ純益金トシ、之ヲ左ノ如ク分配ス
  第一、法定積立金  純益金ノ百分ノ五以上
  第二、役員賞与金  純益金ノ百分ノ十以内
  第三、株主配当金  若干
第二十九条 本会社ハ計算ノ都合ニ因リ株主配当金ノ補充、其他臨時ノ必要ニ応ズル為メ別途積立金又ハ次期繰越金ヲナスコトヲ得
第三十条 利益配当金支払期日ヲ株主ニ通告シタル後三箇年間ニ支払ノ請求ナキ配当金ハ本会社ノ所得トスベシ
第三十一条 本会社ノ利益配当金ハ毎決算期末日締切ノ株主ニ配当ス
      附則(省略)