デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

大正12年10月2日（1923年）

是年八月、天津商務総会総弁卞蔭昌外四名連署ニ
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ヨリ、栄一ニ宛テ、両国親善増進ヲ期スルタメ、当協会トノ提携申出アリ。

是日栄一、当協会幹事会ニ出席シ、右申出及ビ関東大震災ニ対スル中国官民ノ同情ニ対スル感謝決議ニツキ協議ス。次イデ四日、幹事会ヲ続開シ、天津総領事吉田茂ヲ招待シテ協議ヲ重ネ、六日付ヲ以テ前記五名ニ宛テ回答書ヲ発送ス。

日華実業協会書類（一）　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
(控)
拝啓
陳者在天津吉田総領事ヨリノ稟申ニヨリ別添書信及転送候間御査収相成度、尚総領事来信写御参考ノ為メ供貴覧候間、委細右ニテ御了承ノ上可然御配慮相成度、此段申進候　敬具
　　大正十二年九月二十日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　出淵外務省亜細亜局長
　　　　渋沢子爵殿
（別紙）
公信第三九六号
　　大正十二年八月廿四日
　　　　　　　　　　　　　　　在天津総領事　吉田茂
　　　　外務大臣　伯爵　内田康哉殿
　　　　日華実業協会長渋沢子爵ヘ書面転交方ノ件
排日問題ニ関スル渋沢子爵等我実業家ノ所論ヲ伝承シタリトテ、当地商務総会総弁タリシモノニテ現存セルモノ並現総弁タル卞蔭昌等数名ハ、当地警察庁長揚以徳《（楊以徳）》ヲ地方有力者タル資格ニテ加ヘ連署ノ上、別封書面ヲ同子爵ヘ転交方依頼越シ、支那ノ事情ニ精通シ、日支両国々交ヲ顧念スルコト深キ同子爵等ニモ支那ニ対スル誤解ヲ抱カシムルニ至リシヲ遺憾トシ、日華実業協会ヲ主催セラルルヲ幸ヒ、同子爵ニ計リ、両国感情融和、親善増進ヲ期スル為メ同協会ト提携シ、其ノ目的ヲ達スルノ方策ヲ講シ度趣ヲ本官ニ添述シ、尚右連署者中王賢賓ハ先年日本滞在中親シク同子爵ニ面識モアレハ、同子爵ニ於テ何分ノ意見早速ニモ開示セラルルコトト信スル旨申添候
排日風潮ハ支那側ニモ甚大ノ不利益ナルコトハ、今回支那側商人モ自覚シツツアル折柄、当地首要実業家ヨリノ斯様ノ提議ハ、排日問題善後措置トシテノ彼我提携ノ端緒タルコトヲ得ヘシト存セラレ候ニ付、同子爵ニ於テモ本書面ニ対シテハ相当ノ回答ヲ与ヘラルルト共ニ、右連署支那人ハ当地有力ナル商人ニシテ、相当ニ識見閲歴モアル人物ノミナラス、商務総会歴代ノ総理連署セルハ、当地ノ商務総会並商民代表ノ意味ニテ、彼我実業家経済提携提議ノ意ニ外ナラス候ニ付、日華実業協会ニ於テモ、具体案案出ノ上、相当ノ代表者派遣相成、此等機会ニ於テ支那側ト協議ヲ進メラルルコトニ決定セラルルニ於テハ、前述ノ通リ、排日風潮ニ対シ支那商人側自ラ嫌厭ノ感情発生ノ際トテ、存外ニ効果可有、若又同協会ニ於テ真面目ニ本件提議ニ応セラルルノ
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意アラハ、当地以外上海・漢口其他トモ支那側ヨリ連絡ヲ取ラシメ、提携運動ノ範囲ヲ拡大セシムルコトヲモ得ヘシト相考候、如斯提議ハ其ノ発議者ノ相当ナル人物ニ顧ミ、折柄ノ排日問題善後策トシテ最モ好マシキ儀ト被存候ニ就テハ、同子爵ニ書面転交ト共ニ、可然御申添相成候様願度、此段及稟申候　敬具
　追而警察庁長楊以徳ノ連署加印セルハ、同人カ当地ノ有力者ニシテ之ヲ加ヘサレハ将来ノ運動ニ差支故障生シ易キト楊自ラ進ンテ加ハラント申出タル為メ、当地方有力者タル名儀ニテ加ヘタル次第ニ候
　　　　本書写送付先　在支公使

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日華実業協会往復（一）　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
（謄写版）
拝啓
謹而大震災御見舞申上候
　　　　幹事会開催御通知ノ件
　　（日付時間手書）
来ル十月二日后弐時当事務所ニ於テ幹事会相開キ、過日御手許ニ差上置候天津吉田総領事ヨリ申越シノ排日問題ニ関シ、天津商務総会総□《（弁）》
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照会ノ件ニツキ御協議願度、目下御繁忙中ト奉存候得共、何卒御繰合セ御臨席被成下度奉願候　敬具
　　大正十二年九月二十八日　　　　　　　　日華実業協会
　　　　（宛名手書）
　　　　渋沢会長殿

日華実業協会往復（一）　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
（謄写版）
拝啓
　　　　四日午餐会ノ件
昨二日幹事会ニテ決定ノ通リ、明四日午前十一時半丸ノ内工業倶楽部ニ於テ、天津総領事吉田茂氏招待午餐会ヲ催シ、同地商務総会申越ノ件ニ関シ引続キ御協議願度、御繰合セ御臨席奉願候　敬具
　　十月三日○大正一二年
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　日華実業協会

集会日時通知表　　大正一二年　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
十月二日　火　午後二時　　　日華実業協会幹事会（同会）
　　○中略。
十月四日　木　午前十一半時　日華実業協会催シ天津総領事吉田茂氏招待午餐会（工業倶楽部）

日華実業協会第四回報告書　　第二五頁大正一三年一二月刊
　　　　大正十二年六月以降
　　　　役員会及諸会合報告
○上略
十月四日招待会　渋沢会長以下幹事出席ノ上、入京中ノ吉田天津総領事ヲ招待シ、曩ニ天津総商会々頭其他有力者ヨリノ照会ニ対スル同総領事ノ意見ヲ聴取シタル上、協会側ノ意見ヲ開陳セリ
○下略

日華実業協会往復（一）　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
（謄写版）
拝啓
去ル二日及四日ノ幹事会ニ於テ御協議ヲ経候
　（一）天津商務総会ヘノ回答書発送ノ件
及
　（二）大震災ニ対スル支那官民ノ同情ニ対シ感謝決議発表ノ件
右別紙案文ノ通リ決定ノ上直ニ
　（一）ハ外務省ヲ経テ発送、（二）ハ支那各地及内地諸新聞ニ夫々発表致候間御承知置願度
右不取敢御報告迄得貴意候　敬具
　　大正十二年十月十日　　　　　　　　　　　　日華実業協会
（別紙）
(控)
敬復　陳ハ日華親好方案協議ニ関スル尊翰前月下旬ニ及ンテ拝接仕リ
 - 第55巻 p.221 -ページ画像 
随テ答書斯ク遅延致候ハ誠ニ抱歉ノ至ニ堪ヘス、総テ御諒承是祈候、両国経済的提携ノ緊切ナルハ、玆ニ縷述スルノ要モ無之、予等ハ只速ニ之ヲ実現スヘキ期望ヲ以テ、過去三年前、別紙趣意書ニヨリ日華実業協会ヲ創設仕、爾来不敏ヲ顧ミス、一意両国民親好ノ為メ努力致居候得共、不幸ニシテ多数民心ノ疎隔ハ未タ其成効ヲ見ルニ由ナク、殊ニ今春来貴国ニ於ケル排日ノ風潮ハ、従前ニ比シ更ニ一層ノ激昂ヲ加ヘ、往々極端ナル行動ニ出テラレ候、之レカ為メ敝国国論亦異常ノ沸騰ヲ来タシ、延テ両国国文《（交）》ヲ危殆ニ陥レンスルノ虞アリシハ、誠ニ慨歎ノ至リニ堪ヘス候、弊協会ハ此間ニ処シ、別紙ノ声明書ヲ発シテ微旨ノアル所ヲ明ニシ、兼テ敝国政府ニ進言シテ当面収拾ノ措置ヲ求メ更ニ善後ノ方法ヲ講究シ、両国民ノ渾然タル諒解ニ依リ、共栄ノ実現ヲ企画致居候、事情右ノ如ク候得ハ、今回貴翰ノ協力研究睦誼ヲ計ルノ件ハ素ヨリ敝協会ノ宿望ニシテ、会員ノ共ニ欣躍賛同スル所ニ御座候、只目下未曾有ノ災ニ罹リ、百事匆忙ノ際、直ニ卑案ヲ具シ貴覧ニ供フルヲ得サルニ因リ、先ツ目下在京中ノ吉田駐津総領事ニ対シ卑見ヲ縷陳致置候間、同総領事帰津ノ後、親シク御聴取願上度、尚貴国在留敝国商民モ亦素ヨリ此盛意ヲ歓迎シテ協力共策ニ努力スヘキハ勿論ノ事ト信シ居候、玆ニ先ツ書中ヲ以テ御来諭ヲ欣諾仕、併テ各位ノ鉤安ヲ祝シ申候　不宣
　　大正十二年十月六日
　　　　　　　　　　　　　　日華実業協会会頭《（長）》
　　　　　　　　　　　　　　　　　子爵渋沢栄一　頓首
　　　　葉登榜
　　　　寗世福
　　　　揚以徳《（楊以徳）》　諸位大人
　　　　卞蔭昌　均照
　　　　王賢浜《（王賢賓）》
　　○別紙「趣意書」及ビ「声明書」ニツイテハ前掲参照。

日華実業協会第四回報告書　　第三―四頁大正一三年一二月刊
　　　　第四年度会務報告（大正十二年六月ヨリ大正十三年五月ニ至ル）
○上略
　　三、大震火災ニ際シ民国朝野各方面ノ同情ニ感謝決議発表
　昨年京浜地方ニ於ケル大震火災ニ際シ、民国各地ニ救済会組織サレ或ハ物資ノ寄贈、或ハ慰問使ノ派遣ヲ受クル等、朝野各方面ヨリ多大ノ同情ヲ寄セラレタルハ感激ニ堪ヘサル所テアリマシテ、当時本会ハ慰問品ノ受理手配ヤ、慰問使ノ接待ニ当リマシタカ、当時本会トシテ左記感謝決議文ヲ発表シマシタ
　　今回ノ大震火災ニ際シ中華民国ノ朝野ヨリ注カレタル同情ハ吾人ノ感謝ニ堪ヘサル所ニシテ、隣邦真情ノ発露ヲ見ル、吾人ハ深大ナル意義ヲ感セサルヲ得ス、巨災ノ報一度伝ハルヤ、中央政府、前清皇室ヲ始メ、地方官紳・商務総会等ノ或ハ個々ニ、或ハ団体ノ名ニ依リ、時ヲ移サス紅十字救護班ヲ派出シ、又ハ多額ノ金品ヲ醵集寄贈セラル、彼ノ新銘号ノ特派ニ対シテモ、吾人ハ多忙ノ際親シク応
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酬スルヲ得サリシヲ遺憾トス、本協会ハ玆ニ決議ヲ以テ中華民国ノ朝野ニ対シ深厚ナル謝意ヲ表ス
○下略

日華実業協会往復（一）　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
　　　　会長ヨリ天津王竹林氏宛御手書写
粛啓　爾来御疎情ニ打過候得共仁兄益御清適之条欣慰ノ至ニ候、老年幸ニ無異今尚社会事業ニ努力罷在候間御省念被下度候、過日ハ貴方御同志各位ノ御連名ニテ貴我両国々交ノ親善ニ関シ弊協会ニ対シテ御懇篤ノ貴翰拝受、御致意ノ趣一同欽承イタシ深ク感佩仕候、右ニ付テハ不取敢別ニ一書ヲ以テ拝答致候得共、向後更ニ審議ノ上恰当ノ具体案ヲ作成シテ継続的ニ御協商相願候様仕度ト存候ニ付御含被下度候
今般弊国ニ於ル東京及附近各都市ノ大震災ハ実ニ未曾有ノ厄難ニテ、目下罹災者ノ救済ト都市ノ復興トニ上下一同協力尽瘁罷在、右災害ニ付貴国官民各方面ヨリノ御厚情ハ真ニ懇切ヲ極メタル有様ニテ弊国民ノ共ニ感謝スル処ニ御座候、老生ハ此現状ニ視テ自ラ一身ノ苦痛ヲ忘ルル如キ想有之候ニ付、此機会ニ於テ一言仁兄ニ向ツテ無限ノ謝意ヲ表シ候、右一書可得貴意如此御座候　敬具
　　大正十二年十月九日　　　　　　　　　　　渋沢栄一
　　　　王竹林仁兄大人
　　　　　　　　　研北

日華実業協会書類（一）　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
（謄写版）
　　　　　　　　　　　　　　　（栄一墨書）
　　　　　　　　　　　　　　　十月二日幹事会ニ於て落手
　　　　　　　　　　　　　　　十月三日一覧
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　日華実業協会
　　八月卅日発電　天津・漢口・上海・各商業会議所　長沙・重慶　各日本人会　宛
『貴地方ニ於ケル排日運動最近実況詳細御報導願度シ』
　　八月卅一日着電　漢口商業会議所発
『貴電見タ、当地方ノ排日ハ徹底ノ為メ一時緩和模様ナリシモ昨今又モ悪化、日貨掠奪頻々終熄ノ見込ナシ、委細文出シタ』
　　九月一日着電　天津商業会議所発
『電見タ、排日運動最近報告二十八日付発送シタ』

日華実業協会書類（一）　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
（謄写版）
　　　　最近天津排日貨運動衰退報告ノ件
　　　　　　　　　　大正十二年八月二十八日　天津商業会議所
天津ニ於ケル其後ノ排日貨運動ノ形勢ハ日一日ト緩和サレ、商取引ノ如キモ漸ヲ逐フテ恢復ノ気運ニ向ヒツツアリ候、今其ノ依テ来ル原因ヲ考察スルニ、政局ニ行キ悩ミタル直隷派カ或ル程度迄覚醒シ来リタルト、我カ官憲ノ強硬ナル抗議及国民外交ノ不断ノ努力漸次其ノ効果
 - 第55巻 p.223 -ページ画像 
ヲ現ハシ来リタルト、支那商民ハ既ニ排日騒キニ飽キ飽キシツツアリタル時、恰モ八月節期目前ニ迫リ来リ、一般商家ノ取引並金融状態今日ノマヽ推移スルヲ許サザルモノアルニ至リシ等其ノ主ナルモノニシテ、今其ノ経過ノ大要ヲ略述スレバ左ノ如クニ候
　排日貨運動ノ中枢ヲナセル宋則久一派ノ団体代表会ノ行動ハ、依然トシテ頑迷不霊初志ヲ貫徹セント焦慮シツツアリト雖、該運動活殺ノ鍵ヲ握リツツアル直隷派ノ態度軟化シ来リタル上、一般商家モ自己打算上共鳴セサルニ至リタル今日ニ於テハ、到底亦昔日ノ如キ狂暴ヲ逞フスルニ由ナク、風潮勃発ノ当初ハアラユル彼等ノ暴慢ヲモ黙許シツツアリタル支那官憲モ遂ニ之カ取締ニ一歩ヲ進メテ、七月初旬数次ニ亘リテ内務部ヨリ発セラレタル訓令ハ、直隷警察庁長楊以徳氏ヲシテ之カ取締並ニ風潮転換策ニ積極的行動ヲ執ルニ至ラシメ、七月卅日東洋棉花株式会社天津支店ノ買弁邱子良ガ排日貨運動者ノ為ニ支那街ニ於テ殴打負傷セシメラレタル事件突発スルヤ、楊警察庁長ハ直チニ巡警ヲ派シテ下手人十数名ヲ検挙シ之ヲ拘禁シテ取締上ニ対スル当局ノ態度ヲ明カニシタリ、一方楊警察庁長ハ団体代表会ノ幹部ヲ招致シテ其運動停止ヲ厳告スルト同時ニ、当地ノ主ナル日支実業家ヲ一堂ニ会シ、談笑ノ裡ニ相互ノ意思疎通ヲ計ラントシテ、七月中旬我総領事ヲ通シテ当商業会議所宛日支実業家ノ会合ヲ慫慂シ来リタリ、当所役員会ニ於テハ之ニ賛同シ、八月一日楊以徳氏箇人ノ資格ヲ以テ当所及天津総商会役員ヲ楊家花園（同氏私邸）ニ招待セラレタルニ、当所会頭始メ役員書記長出席シ、天津総商会々長卞月庭氏其他会董ト会合シ隔意ナキ懇談ヲ遂ケタリ、此ノ会合ノ結果穏健ナル日支実業家ノ気勢高マルト同時ニ不穏ナル排日貨運動者屏息スルノ傾向ヲ生シ、現ニ放行単モ殆ド有名無実ニ帰シテ仲秋節前ノ綿糸布等仕入商談実顕スルニ至リタルヲ以テ、此ノ機ヲ外サス、越エテ八月二十日ニハ同シク楊以徳氏ノ斡旋ニヨリ、天津総商会々長卞月庭氏以下会董十八名ノ名ニ於テ同会々員其他百二十余名ヨリ招待ヲ受ケ、当所会員其他百六十余名出席シテ日支懇親大会ヲ楊家花園ニ開催セラレ、卞会長ノ挨拶ニ対シ竹内会頭答辞ヲ述ヘ、其他双方二名宛所感ヲ披攊シテ相互了解ニ裨益スル所頗ル大ナリキ、之ニ対シテ来ル九月一日ニハ当会議所主催トナリ、前回主人側トナリタル天津総商会々員其他ヲ当地公会堂ニ招待シテ、第二回日支懇親大会ヲ開催セント目下準備中ナル等、逐日彼我ノ接近気分濃厚トナリ、従テ当地漢字新聞ノ論調モ亦昔日ノ如キ過激文字ハ跡ヲ絶チ、又当方ノ交渉ニ応シテ従来団体会ト総商会トニテ発給シツツアリタル放行単ノ如キモ支那警察官ニ於テ之ヲ剥キ取リ、日貨監視員ノ運動、排日演説者ノ集合ヲ禁止スル等、取締振リ漸ク具体化スルニ至リタリ、此ノ分ニテ経過スルニ於テハ、朞月ナラスシテ市面ハ旧ニ復スルニ至ルヘシト一般ニ観察セラレツツアリ
殊ニ最モ喜ハシキ現象トシテ特筆スヘキハ、前述日支会合ヲ発端トシテ、当地ニ当商業会議所及総商会ヲ中心トシテ日支各方面ノ有力者ヲ網羅シタル中日聯合会ヲ組織セントスル希望カ、日支双方期セスシテ相合致シタル事ニ有之、現ニ昨二十七日天津総商会々長卞月庭氏ハ当
 - 第55巻 p.224 -ページ画像 
所会頭ヲ訪問シテ右希望ヲ披攊シ、会則ノ作成ヲ協議シタル次第ニ御座候、卞会長ヨリ、此ノ中日聯合会ノ為ニ将来日支双方ヨリ相当基金ヲ募リテ中日聯合会々館ヲ建設スルノ運ヒニ致度、又日支双方ノ誤解ヲ一掃シテ隔意無キ親善ノ実ヲ挙クル為メ、一言論機関ヲ創設スルノ吃緊ナル旨縷々数時間ニ亘リテ説述セラレ候
所謂直隷派ノ御膝許タル天津ニ於テ、如右君子豹変ノ一劇カ演セラルル其動機ノ如何ハ暫ク問ハス、幸ニ事実上面目一新ノ大勢ノ動キ懸ケタル此好機会ニ於テ、当会議所ハ充分ノ努力ヲ払ヒ度、前顕中日聯合会々館及言論機関ノ設置等ノ具体的問題トナリ来リタル暁ニ於テハ、到底当地居留邦人ノ微力ノミニテハ之ニ応スル事困難ナルカ故ニ、自然大方ノ御援助ヲ懇願スルニ至ルベク、右予メ御含ミ置ノ程奉願候
右様ノ好形勢ヲ馴致スルハ、啻ニ天津一地方ノミノ為メナラズ、支那重要開港場ニ風ヲ臨ンテ起ルベキ中日懇親会ノ先駆ヲ為シテ、以テ一般ニ日支両国民親善ノ多数分子ヲ作ラントスルニ外ナラス候
先ハ此段最近状況御報告旁々得貴意候　敬具

日華実業協会書類（一）　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
（謄写版）
　　　　送還留学生ヨリ感謝状ノ件（日清汽船会社漢口支店報告）
過般東都震災ニテ本邦ニ留学中ノ支那学生送還セラルル事トナリ、先日社船ニテ上海ヨリ来漢、当地ヨリ更ラニ大元丸ニテ宜昌・重慶方面ヘ上航シタル支那学生一行ヨリ、日本政府ノ護送ニ対スル温情、社船便乗等ニ対シ、別紙新聞紙切抜ノ通リ当店ヘ感謝状送信有之候ニ付、御参考迄ニ新聞紙切抜添ヘ此段御報告申上候也
　『生徒等一行ハ御会社ノ世話デ十月十二日上海カラ大貞丸ニ乗リマシテ、同十六日ニ漢口ニ着イテ、御会社ノ方ニ切符ヲ請求スルノデアリマシタガ（中略）大元丸ノ船長ノ方ノ諒解デ其儘ニ船ニ乗リ、今ハ無事ニ宜昌ニ着キマシタ、謹ンデ報告イタシマス
　　回想スレバ生徒等貴国ニ留学シテ悲残ナル奇禍ニ遭ヒマシテ、貴国政府ト朝野諸彦ガ護送ニ依ツテ今ハ将ニ故郷ニ着カウトスルノデ誠ニ楽シムベキデアリマスガ、貴国政府ト朝野諸彦ノ高情厚誼ニ対シテ猶一層感謝ニ堪ヘナイノデアリマス
　生徒等ガ此度貴国ノ震災ヲ機会トシテ、向来排日ノ主人タル留日学生ヲ一変シテ親日ノ主人公タル事ヲ望ンデ居リマス
　亦我等モ到ル処ニ宣伝ニ努力シナケレバナラナイノデアリマス
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　早々
　　　十月
　関東震災罹災者　　　　　　農大実科　　揚啓棠
　　　東京一高　　沈起草　　東京予備　　陳輝壁
　　　〃高工　　　張止善　　東京労働　　揚家隆
　　　品川体育　　張鼎彦　　東京予備　　夏海洲