デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

大正13年6月17日（1924年）

是ヨリ先、上海中華学芸社ニ於テ学芸大学設立ヲ
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計画シ、同籌備委員会委員長王兆栄ヨリ当協会ニ対シ、其設立資金ノ援助方依頼アリ。之ト前後シテ、上海総商会会長宋漢章・副会長方積蕃ヨリ、我国ニ於ケル中華民国人労働者ノ入国制限緩和方ニツキ要請アリ。是日、当協会幹事会ヲ開キ、右二件ニ関シ協議ス。栄一、会長トシテ出席ス。

次イデ二十一日、三十日及ビ七月九日ノ幹事会ニ於テ、継続協議ヲ行フ。栄一、ソレゾレ出席ス。

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日華実業協会書類（一）　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
　　　　上海中華学芸社ニ於テ　　　　　　（栄一鉛筆）　六月三日一覧
　　　　学芸大学創設ニツキ日本側ニ対シ創立費援助運動ノ件
中華学芸社概要
　大正五年日本留学ノ支那学生中有力ナルモノ四十七人、真理研究、学芸昌明、智識交換、文化促進ノ主旨ヲ以テ会ヲ組織シ、同年ノ干
 - 第55巻 p.282 -ページ画像 
子ニ因ミ丙辰学社ト名称シタルカ起原ニシテ、昨十二年六月中華学芸社ト改称スルニ到リ
　事務所ハ最初東京ニ置キタルカ、大正九年ニ到リ更ニ上海・北京ニ事務所ヲ置キ、更ニ上海ヲ総事務所トナシ、漸次事務所ヲ各省要地ニ増設シ、後会員ニ欧米各国留学生ヲモ加ヘタルモ、主トシテ日本留学ノ出身者ヨリ成リ、会員数一千ニ達セントシ、日本留学出身ノ鄭貞文氏ヲ総幹事トス
　同社ノ事業トシテハ学芸雑誌・学芸叢書・学芸彙刊ノ発行及講演会ノ開催等ナリ
学芸大学創設計画
　最近同社ノ事業トシテ学芸大学創設計画ヲ樹テ、王兆栄氏籌弁委員会長トス、其ノ趣旨ハ従来ノ官立・私立ノ各学校時弊ニ甚シキヲ救ヒ、真ニ国家社会ノ有用ノ人材ヲ養成シ、日支両国ノ根底深キ提携ヲ計ラントスルニ在リ
　学科ハ法科・文科・理科ト予定シ、最初ハ予科ト専門部ヲ設ケ、漸次大学組織トナシ、尚大学内ニ日本留学希望者ノタメ予備教育ヲ施シ、日本語ヲ教ユル部門ヲ附属スル計画ナリト云フ
資金募集
　之カ資金ハ創立費約五十万元ノ予定ニテ、支那全国ハ勿論更ニ特種ノ関係アル日本側民間ヨリノ援助ヲ希望シ、近々各方面ニ対シ運動着手ノ予定ナリ
右ノ日本側資金募集ニツキテハ、先般已ニ上海ニ於テ同地日本人商業会議所会頭外在留有力者九名ノ日本側委員ヲ挙ケ、先般京都ニ於ケル商業会議所聯合会ニ於テ、上海商業会議所会頭田辺氏ヨリ、右計画発表ト共ニ援助ヲ求メラレタレハ、近々当地ニ於テモ各方面ニ対シ運動着手ノ事ト被存候
右不取敢概略御報ニ及ヒ候　　　　　　　　　　　　　以上
　　大正十三年五月十三日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　日華実業協会
　　　　渋沢会長殿

日華実業協会往復（一）　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
（謄写版）
拝啓
　　　　支那人労働者入国禁止ニ関シ別紙上海
　　　　総商会来翰御送付ノ件
右ハ今回全国商業会議所書記長会議ニ列席ノ上海日本人商業会議所書記長安原美佐雄氏、上海総商会ヨリノ依頼ヲ受ケ持参帰国セラレ、上京ノ途中京阪地方視察後病気ノ為メ入京期日遅延シ、途中名古屋ヨリ本会宛郵送セラレ、何レ詳細ハ、本人上京ノ上（来ル六日頃着京ノ予定）説明致度様申越ニ接シ候、別紙総商会来翰訳文不取敢入貴覧候
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　敬具
　　大正十三年六月四日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　日華実業協会
 - 第55巻 p.283 -ページ画像 
（別紙、謄写版）
　　　　上海総商会来翰訳文
拝啓　五月十三日神戸・大阪中華会館ヨリ来翰ニ接シ候、其来旨ハ
　「昨年京浜震災当時、当地方支那商人ニ於テ資金ヲ集メ、該地方同胞ヲ救助帰国セシメ候事ハ、大方ノ推称ヲ博シ居リ、婦女小児ニ至ル迄周ク知ル所ニ有之候、爾来京浜ノ商業漸ク復興シ来リ、帰国中ノ同胞ニ於テモ遺シ置キタル財産ニ思ヲ馳セ、手続ヲ怠ラサル様相次テ渡日シ、偏ヘニ未収債権ヲ収集シ、旧業ヲ恢復シ、以テ生計ヲ謀ラント致セシ次第ニ有之候、然ルヲ詎ソヤ、乗船入港ト知ルヤ、日本政府ハ新タニ苛令ヲ発布シ、水上警察ニ督令シテ上陸ヲ阻止シ明治卅二年ノ勅令中労働者ノ入国ハ禁止サレタリト唱ヘテ、真実商人ニシテ身ニ卅円ヲ有スル者ニ対シテハ其上陸ヲ許セシカ、継イテ増額シテ百円トナシ、後幾許モナキニ百円ヲ有スルモ尚ホ上陸ヲ阻止シ、上陸ニハ必ス商号アリ、シカモ規定三ケ条ノ担保アルヲ要スル事ト致候、窃カニ思フニ、同胞カ遠ク荒洋ヲ渡ツテ将ニ上陸セントスルニ当リ、直ニ抑留ノ難ニ逢ヒ、保証人ナキ者ノ如キハ皆労働者ト見做サレ、其上船ニ督令シテ原籍ニ追ヒ還ヘサレ候事、之ヲ試ミニ地ヲ替ヘテ考ヘ候場合、果シテ其屈辱ニ堪ヘ得ヘキヤ否ヤ、同人等ハ其心中察ルニ余アルモ、暫ク隠忍シテ之ヲ保証シ、上陸セシメ来リ候ニ、豈計ランヤ、本日又々新タニ苛令八ケ条ヲ加ヘ、此保証ヲモ禁止致候、此形勢ヲ見候テハ大イニ公憤ヲ禁スル能ハス、日ニ親善ヲ唱ヘ、日ニ提携ヲ言フモ、其実ハ口ニ親密ニシテ、腹中剣ヲ蔵スルモノ、米ハ排日、日本ハ排支ノ挙動ヲ醸成ス、同人等忍ハントシテ忍フ能ハス候、即チ会館ニ於テ一大会議ヲ開キ、一方祖国各地同胞ニ電告スルト同時ニ、一方領事ニ陳情シテ、地方官ニ向ツテ抑留ノ難ヲ免レシメン事ヲ交渉シ、更ニ委細ヲ公使ニ転嘱シテ、日本政府ニ向テ厳重ニ該苛令ヲ削除セン事ヲ交渉致候、如シ取消ヲ肯スレハ則チ已ム、然ルニ尚依然トシテ旧ノ如シ、我同胞ハ須ク一斉ニ奮起シテ、策ヲ集メ力ヲ合セ、条約ニ照ラシテ対峙セン、是ヲ至当ト存候、想フニ諸賢モ亦以テ然リトナサレン、希クハ御同情ヲ以テ（苛例一通同封致置候）周ク御通報被下度候」
右主旨ノ如ク申参リ候、弊会考ヘ候ニ、貴我両国ハ従来近隣ヲ称ヘ、清末ヨリ使ヲ通シ好ヲ修メテ以来、貴国人民ノ弊国ニ来ル者、下ハ手ニ薬箱ヲ提ケタル小商人、理髪師ノ如キ職人ニ到ル迄、一視同仁条約ニ遵ヒ保証ヲ加ヘサルハ無之、是即チ国際相互ノ通例ヨリ申シテ、弊国人民ニ対シテ特ニ制限ヲ設クルノ不当ナル理由ノ第一ト存候、経済提携ノ説ハ日ニ貴国人士ノ口ニ喧シク、而シテ貴会設立ノ主旨ハ特ニ此ヲ唯一ノ事業ト為シ居ラレ候、然ルニ所謂提携ナルモノハ、其実際ハ只タ貴国人士カ合弁事業ヲ以テ名トナシ、我国種々ノ利権ヲ獲得スルニアツテ、我国人民ノ貴国ニ往テ商工業ヲ経営スルモノニハ、種々条約以外ノ制限ヲ施シ、言論ト事実トハ適々相反スルヲ免レス、是即チ経済提携ノ大義ヨリ申シテ、弊国人民ニ対シテ特ニ制限ヲ設クルハ不当ナル理由ノ第二ニ候、曩ニ米国、支那労働者ノ入国ヲ禁止シ、以テ今次米国移民禁止ノ議ニ及ヒ候処、貴国有識者ハ斉シク其ノ有色人
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種ヲ偏視スルヲ以テ正義ニ反クモノト致サレ居候カ、貴我両国ハ既ニ同シク有色人種トシテ深ク其ノ差別待遇ノ影響ヲ受ケツツアルヲ、貴国カ同境域ニ在リナカラ、弊国ニ対シテ之ニ做フハ更ニ不当ト存候、況ンヤ米国カ支那労働者ヲ禁セシニハ尚ホ先ツ労働者入国禁止条約ヲ訂結セシニ、弊国ト貴国トノ間ニハ特ニ労働者入国禁止ノ条約ナキニ非スヤ、且ツ前清光緒二十九年訂結ノ条約ニ照セハ、労働者・商人斉シク努メテ優待スヘキノ明文モ有之候、如シ明治勅令ヲ以テ依拠ト為スナラハ、然ラハ国内法令ヲ以テ国際条約ヲ取消シ得ヘキモノニ候哉否ヤ、如シ可ナリトセハ、則チ弊国カ貴国ニ許与セル諸種ノ権利ハ総テ法令ヲ以テ制限シテ宜敷キ道理ニ候、如シ不可ナリトセハ、則チ両国条約中未タ労働者禁止ノ明文ヲ加ヘサル以前ハ、固ヨリ一方ノ意志ヲ以テ其制限ヲ行フノ理由無之候、労働者ニシテ尚入国禁止不当ナラハ、労働者ニ非サル小商人ハ更ニ申迄モ無之、是即チ国際条約ヨリ申シテ弊国人民ニ対シテ特ニ制限ヲ施スノ不当ナルハ第三理由ニ候、此事タル弊国居留民ノ権利ニ関係スル処尠カラサルノミナラス、貴会抱ク所ノ相互提携ノ主旨トモ相反シ居候、又聞ク処ニ依レハ、米国カ移民制限法ヲ議決シテ後、貴国民間ノ団体ハ皆電報ヲ発シテ抗争シ、以テ諸ヲ米国ノ輿論ニ訴ヘ候由、即チ弊会カ今回利害ヲ開陳シテ以テ貴会ノ御援助ヲ求ムニハ実ニ立派ナル先例有之、決シテ弊会ノ創挙ニハ無之、何卒御諒察被下度候、我等原ト貴国ヲ東洋ニ於ケル立憲ノ先進国ト仰キ居リ、明治初年ヨリ即チ万機公論ニ決スヘキヲ中外ニ宣言シ而シテ貴会ハ又両国ノ親善ヲ主張シテ、多数ノ実業家ヲ網羅スル実ニ民間唯一ノ有力団体ナレハ、其ノ主張スル所ノ公論コソ、貴国政府ノ意向ヲ転移スルモノト存シ、敢テ弊国民間ノ輿論ヲ代表シテ、此ニ支那人ノ上陸ヲ制限スルノ苛例カ国際通例ニ違反シ、提携ノ大義ニ違反シ、現行条約ニ違反スル各種ノ理由ヲ縷陳シ、御清聴ヲ煩スモノニ有之候、何卒貴国政府ニ即日自ラ進ンテ取消サレンコトヲ御転請相願度如上ニ御座候　敬白
　　五月十四日
　　　　　　　　　　　　　　　上海総商会
　　　　　　　　　　　　　　　　　　会長　　宋漢章
　　　　　　　　　　　　　　　　　　副会長　方積蕃
　　　　日華実業協会
　　　　　　　　　御中

日華実業協会往復（一）　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
拝啓
　　　　幹事会開催の件
益御清祥之段奉欣賀候、陳者来る六月十七日（火曜日）正午より、当事務所に於て幹事会相催し、予而御報告申上置候、上海中華学芸社に於て計画の学芸大学資金援助の件、並に上海総商会より申入れの支那人労働者入国禁止緩和の件につき、右要件を帯びて上京中の、上海商業会議所書記長安原美佐雄氏より説明聴取の上、追而右に対し、本協会の採るへき措置につきても御協議願度、御多用中乍ら、御繰合せ御
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臨席奉願候　敬具
　　大正十三年六月七日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　日華実業協会
　　　　渋沢会長殿
　追而当日粗餐の用意致置候、尚御面倒乍ら別紙に御出席の有無御返事願度候

日華実業協会往復（一）　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
　　　　幹事会（六月十七日正午）
一、上海中華学芸社ニ於テ計画ノ学芸大学設立費援助ニツキ申入ノ件
一、上海商業会議所ヨリ紹介ノ支那人労働者入国禁止緩和方ニツキ上海総商会ヨリ申越ノ件

日華実業協会往復（一）　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
　　大正十三年六月十日　　　　　　上海日本商業会議所
　　　　　　　　　　　　　　　　　副会頭　米里紋吉
　　　日華実業協会会長
　　　　子爵渋沢栄一殿
拝啓　貴会愈々御隆盛為邦家大慶ニ奉存候、陳者過般貴会幹事角田隆郎氏御来滬、当地総商会始メ有力ナル中国人士ト屡々会見セラレ、大ニ日華共存ノ大義ヲ唱導セラレタル為メ、両国民意志ノ疎通ヲ来シ、相互渾然タル諒解ニ一歩ヲ進メラレタルハ、当会議所ノ大ニ多トスル処ニ御座候、就而ハ其節同氏ヨリ今後ハ時事問題発生等ノ場合ニハ両国識者間ニ腹蔵ナキ意見ノ交換ヲ為シ、以テ問題解決ニ資シ度シトノ希望ヲ述ヘラレシニ、中国側ニ於テモ大ニ之ニ賛同セラレ、早速実行ヲ期スル事ニ相成候処、今回当地総商会ヨリ、最近日本ニ於ケル支那人労働者上陸禁止問題ニツキ貴会宛別翰ノ通リ申来リ候ニ付御転送申上候間、御査収被下度、此段得貴意候　敬具
　　○別翰略ス。訳文前掲。

集会日時通知表　　大正一三年　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
六月十七日　火　正午　日華実業協会幹事会（同会事務所）

日華実業協会第四回総会報告書　　第二八―二九頁大正一三年一二月刊
　　　　大正十二年六月以降
　　　　　　役員会及諸会合報告
○上略
役員会　六月十七日○大正一三年正午、渋沢会長、児玉・白岩・安川・森・森（広蔵）・倉知・荻野・黒川・角田各幹事、並ニ日華学会山井理事・上海商業会議所安原書記長列席ノ上、左記議案ニツキ協議ス
　　一、上海中華学芸社ノ計画ニ係ル学芸大学設立援助ノ件
　　一、支那労働者入国制限問題ニツキ上海総商会ヨリ来信ノ件
○下略

 - 第55巻 p.286 -ページ画像 

日華実業協会往復（一）　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
拝啓
来ル六月廿一日（土曜日）正午、当事務所ニ於テ幹事会相開キ、内務省石原書記官ノ御出席ヲ乞ヒ、支那人労働者入国ニ関スル当局ノ意見ヲ聴キ、尚先般来支那各地出張中ノ角田幹事帰京相成候間、当日同幹事ヨリノ報告可有之、御多用中乍ラ御繰合セ御出席奉願候
尚内務省当局者ヨリ当日右支那人労働者入国ニ関スル各位ノ御意見モ併セテ聞キ置キ度キ希望ニ候間、御含置願候　敬具
　　大正十三年六月十七日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　日華実業協会
　　　　渋沢会長殿
　追而当日粗餐ノ用意致置候間、御面倒乍ラ別紙ニ御出席ノ有無御返事願候

日華実業協会往復（一）　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
　　　　質問要項
一、支那人労働者入国ニ対スル卅二年勅令発布当時ヨリ今日迄ノ経過沿革
一、勅令並ニ条約上ヨリ見タル点
一、支那人労働者入国ニ対スル取締現況並ニ将来ノ方針
一、支那人労働者ノ入国ヲ禁止スルニ到リタル理由
一、支那人労働者入国禁止ニ対シ大震災後特ニ解禁運動起レルニ到リタル理由
一、支那人労働者入国者ノ数及種類
一、入国禁止ノ上送還サレタル者ノ種類及数
一、支那人労働者ノ内地労働者ニ及ホス影響
一、両者ノ能率比較及内地産業上及各方面ニ及ホス影響
一、内地及鮮人労働者ノ支那入国
一、鮮人労働者入国者トノ関係
其他

集会日時通知表　　大正一三年　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
六月廿一日　土　正午　日華実業協会ノ件（同会）

日華実業協会第四回総会報告書　　第二九頁大正一三年一二月刊
　　　　大正十二年六月以降
　　　　　　役員会及諸会合報告
○上略
役員会　六月二十一日○大正一三年正午、渋沢会長、黒川・荻野・奥村・森・森（広蔵）・安川・白岩・角田各幹事、並ニ内務省石原書記官列席ノ上、支那労働者入国制限問題ニツキ協議ス
○下略

日華実業協会往復（一）　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
 - 第55巻 p.287 -ページ画像 
拝啓
来ル六月三十日（月曜日）正午ヨリ、当事務所ニ於テ、先般来延引ニ相成居候角田幹事ヨリノ支那各地旅行御報告旁幹事会相開キ候間、御繁用中乍ラ御繰合セ御臨席奉願候　敬具
　　大正十三年六月二十六日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　日華実業協会
　　　　渋沢会長殿
　追而当日粗餐ノ用意致置候、尚別紙ニテ御出席ノ有無、御返事願度候

日華実業協会往復（一）　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
拝啓
来ル六月三十日（月曜日）正午ヨリ、当事務所ニ於テ、幹事会開催ニツキ御案内申上置候処、当日ハ角田幹事ヨリノ旅行御報告後、先般御協議願候中華学芸社ノ件及上海総商会ニ対スル回答ニツキテモ御協議願度、乍御繁用中御繰合セ御出席奉願候　敬具
　　大正十三年六月二十七日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　日華実業協会
　　　　渋沢会長殿

集会日時通知表　　大正一三年　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
六月三十日　月　正午　日華実業協会幹事会（同会）

日華実業協会往復（一）　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
　　　　幹事会（六月卅日正午）
一、角田幹事御報告
一、中華学芸社ノ件
　　　　　　　　　　　（鉛筆書入）
一、上海総商会回答ノ件（別紙回答案）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　以上
　　○別紙後掲。

日華実業協会往復（一）　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
拝啓
来ル九日（水曜日）正午、当事務所ニ於テ幹事会相開キ、中華学芸社ノ件及上海総商会ニ回答ノ件其他御協議願度、御繁用中乍ラ御繰合セ御臨席奉願候　敬具
　　大正十三年七月七日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　日華実業協会
　　　　子爵渋沢栄一殿
　追而当日粗餐用意置候

日華実業協会往復（一）　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
（栄一鉛筆）　　　　　　　　　（栄一鉛筆）
後ニ修正シタリ　　　　　　　　七月七日角田隆郎氏持参
　　　　　　　　　　　　　　　明後九日正午常任幹事会ヲ開キ協議スヘキモノ
 - 第55巻 p.288 -ページ画像 
拝啓
今回貴地弊国商業会議所ヲ経テ御転達相成候貴国人ノ弊国上陸ニ関スル貴翰正ニ落掌、両国親善ノ大義ニ顧ラレ縷々御開陳ノ御主旨逐一了承致候
貴翰ニ依リ、弊会ハ先ツ弊国当局者ニ就テ本件ノ顛末ヲ聴取シ、且今後ノ処置方ニ関シ意見ヲ求メ候処
国内ノ公安秩序及衛生ヲ維持スルカ為メ、入国者ニ対シ国内法ヲ以テ相当ノ制限又ハ取締ノ法ヲ設クルハ、蓋シ一般国際間ノ通例ニ有之、弊国政府ハ、不正入国者ヲ取締リ、入国後公安秩序衛生ヲ害シ、又ハ無資本ニシテ他ノ救助ヲ要スルモノヲ防遏スルカ為メ入国取締ノ法ヲ設クルニ到リタル趣ニテ、必ラスシモ貴国人ノミニ対スル差別的措置ニアラス、現ニ露国籍ノ入国者ニ対シテハ保証金壱千五百円トシ、単ニ旅行ノ為メ通過スルモノニ対シテモ弐百五拾円ノ保証金ヲ徴シ居リ而シテ国内法ニ依リ入国ヲ拒絶セラレタルモノ最近迄ニ其数数百人ニ達シ居レル由ニテ、其他英米人ニ対シテモ相当ノ取締法ヲ設ケ居候
労働者ト雖モ絶対ニ入国ヲ禁止致居候義ニハ無之、特ニ地方長官ノ許可ヲ得ルニ於テハ、内地何レノ地ニモ居住又ハ業務ニ従フ事ヲ得ル事ニ相成居候処
貴国労働者ノ弊国ニ在ル者ハ、概シテ衛生上遺憾ノ点甚多ク、且其ノ多クハ阿片ヲ喫シ、賭博ヲナシ、甚シキハ幼児誘拐ヲナスモノアリ、加之、近時弊国経済界緊縮ノ為メ、弊国労働者中失業者多キ状況ニシテ、貴国労働者ニ於テモ充分ノ就職ヲ得ス、生活上困難ノ結果種々ノ犯罪ヲ増加スル傾向有之、又一面ニ於テ労働者間ノ争議頻発ノ為メ相当取締ノ必要ニ迫レル際、貴国労働者ノ弊国ニ入ラントスルモノ益々多キヲ加ヘ、而シテ之ヲ幇助スルカ為メ、在留貴国人不正仲介業ヲナスモノアリ、之ヲ例セハ、商人ニ非サル入国者ニ対シ、仮説ノ商号、又ハ仮船荷証券、或ハ仮商用取引書類等ヲ使用セシメテ、之ヲ商人トシテ申告シ、或ハ入国ノ際、船上ニ於テ所定ノ入国提示金ヲ一時貸与シ、上陸後直ニ之ヲ回収スル等ノ事例多ク、之等ノ入国者ハ固ヨリ何等ノ資財ナクシテ、入国匆々救助ヲ要スルモノニ有之、或ハ曩ニ商人トシテ入国シタルモノニシテ直ニ労働者ニ変スルアリ、或ハ労働者ニ非ストシテ貴国官憲又ハ商館主ノ身元引受証ヲ提示セルニヨリ、仮ニ入国ヲ認ムルモ、後日取調ノ際ハ、其ノ被保証人ノ十中ノ八・九ハ行方不明トナレルノ事実頻出スルニ到レルヲ以テ、之等不正手段ヲ防遏シテ公安ヲ維持スルカ為メ止ムヲ得ス入国取締ヲ厳密ニスルニ至リタル趣ニテ、右ハ全ク治安維持ノ見地ヨリ来リタルモノト被存候
尚条約上ノ点ニツキ貴翰中
　「前清光緒二十九年訂結ノ条約ニ照セハ、労働者・商人斉シク努メテ優待スヘキノ明文モ有之」（原文ノコト）
云々トノ御申越ニ候得共、同条約中ニハ何等右ノ如キ明文無之、只同条約第九条末項ニ
　「日本国政府ハ、日本国ニ於ケル清国官吏及臣民ニ対シ、帝国法律規則ノ許ス限リ成ルヘク優遇ヲ与フル事ニ努ムヘシ」
ト有之、之ニ依ルモ貴国人ノ弊国ニ在ル者ニ対シテハ、弊国法律規則
 - 第55巻 p.289 -ページ画像 
ノ許ス限リ優遇スルト共ニ、又其ノ入国ニ対シ国内法制ニ依リ相当取締ヲ設クルハ誠ニ止ムヲ得サルニ出テタル義ト被存候
以上ハ貴国労働者ノ入国ニ対シ特ニ取締ヲ励行サルルニ到リタル事由並ニ条約上決シテ不当ノ取扱ニ非サル事ヲ具陳シタル次第ニ候
弊会ニ於テハ、貴示ノ如ク、両国ノ親善ヲ企図スル見地ヨリ、貴国人ノ入国ニ対シ出来ル限リ自由寛大ノ処置ヲ採ラレン事ヲ政府当局ニ要望シ、当局ニ於テモ貴国人入国問題ニ付テハ、目下友好的見地ヨリ折角攻究中ノ趣ニテ、遠カラス円満ナル解決ヲ見ル事ト推察被致候
尚弊会ニ於テモ本件ニ関シ慎重熟議ヲ遂ケ、政府当局ニ対シ無法ノ取扱無之様屡次所見ヲ開陳致居候間此儀モ併セテ御諒承相成度候　敬具
　　○右ハ上海総商会ニ対スル回答文案ナリ。

集会日時通知表　　大正一三年　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
七月九日　水　正午　日華実業協会幹事会（同会）

日華実業協会第四回総会報告書　　第二九頁大正一三年一二月刊
　　　　大正十二年六月以降
　　　　　　役員会及諸会合報告
○上略
役員会　六月三十日○大正一三年正午、予テ本会ノ用件ヲ帯ヒテ支那各地ニ出張中ナリシ角田幹事帰朝セラレタルニ依リ、報告ノ為メ役員会ヲ開催ス、出席渋沢会長外黒川・荻野・白岩・児玉・角田・奥村・森・森（広蔵）各幹事
役員会　七月九日正午、幹事会ヲ開催シ、左記議案ニツキ協議ス
　　一、支那労働者入国制限問題ニ関スル上海総商会宛回答書起草ノ件
　　一、中華学芸社ノ計画ニ関スル学芸大学援助ノ件ニ関シ、児玉・伊東・奥村・森・角田各幹事ヲ特別委員ニ推挙ス
　　一、青島旭兵営ノ一部ヲ支那側青島中学校ニ貸与ノ件
○下略

著作権保護期間中、著者没年不詳、および著作権調査中の著作物は、ウェブでの全文公開対象としておりません。
冊子版の『渋沢栄一伝記資料』をご参照ください。

日華実業協会第四回総会報告書　　第二―八頁大正一三年一二月刊
　　　　第四年度会務報告（大正十二年六月ヨリ大正十三年五月ニ至ル）
○上略
　　　　　　六、支那労働者入国問題ノ件
　本邦在留ノ民国労働者ハ、昨秋ノ震災前迄ハ相当ノ数ニ達シ各地ニ於テ風規・衛生或ハ対日本人労働者トノ関係其他ノ点ニツキ時々面倒惹起セルコトヲ聴イテ居リマシタカ、大震災後ハ一時全部本国ニ帰国セルモ、其後各種ノ復興事業興ルト共ニ再ヒ入国渡来者ノ数増加シ来リ、一方当局ノ入国者取扱振リカ従前ニ比シ厳重トナレル為メ、支那側ニ於テ其ノ措置ニ対シ非難起リ、漸次其ノ声高マルト共ニ各地ノ輿論ヲ喚起シ、遂ニ上海総商会ヨリ本会ニ対シテ、之カ制限撤廃及緩和方法ヲ講ス可キ様申越ニ接シマシタカ、本会トシテハ両国々民ノ友好関係ヲ阻碍セントスル如キ問題ニツキテ、相互ニ忌憚ナキ意見ノ交換ヲ為スコトハ必要ト認メ、本件ニ対シテモ慎重協議ヲ遂ケマシテ、当局ノ意見ヲ聴キ、非難ノ点ニ対シテハ其ノ取扱ヲ寛大ニセラレンコトヲ求ムルト共ニ、総商会ニ対シ回答ヲ発シ、大体諒解ヲ得ルニ到レルモ、此問題ハ将来ニ亘リ尚篤ト対策講究ノ必要アルモノト認メマス
　　　　　　七、中華学芸社計画ノ学芸大学資金援助ノ件
　中華学芸社ハ主トシテ日本留学出身者及ヒ欧米留学出身ノ有力者ヲ以テ会員トナセル団体テアリマスカ、其ノ会員数モ今ヤ一千人以上ニ達シ、学芸本位ノ団体ノミテナク、政治・経済其他ノ方面ニ亘リテ、
 - 第55巻 p.292 -ページ画像 
直接間接ニ輿論指導ノ実力ヲ有スル有力ナル団体ナルコトハ一般ニ認ムル所テアリマスカ、之ノ団体ニ於テ人材教育ノ為メニ学芸大学設置計画ヲ樹テ、其ノ資金募集ノ為メニ本年ニ入リテ国内及国外各方面ニ向ツテ募集委員ヲ派遣シ、吾国ニ対シテハ商業会議所・日華学会及本会ニ向ツテ援助ヲ依頼シ来リマシタノテ、本会ニ於テハ他ノ二団体ト協力シテ、出来ル限リ之ヲ援助スルコトニ決定シタ次第デアリマス
○下略