デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

  詳細検索へ

公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
2節 其他ノ経済団体及ビ民間諸会
3款 東北振興会
■綱文

第56巻 p.251-255(DK560065k) ページ画像

大正13年8月8日(1924年)

是日、東京銀行倶楽部ニ於テ、当会協議会開カレ、翌九日、委員総会開カル。栄一、ソレゾレ出席シ、議長トナリテ議事ヲ司ル。


■資料

集会日時通知表 大正一三年(DK560065k-0001)
第56巻 p.251 ページ画像

集会日時通知表  大正一三年      (渋沢子爵家所蔵)
八月八日 金 午前十時 東北振興会催
             六県知事招待協議会(銀行クラブ)
八月九日 土 午後四時 東北振興会ノ件(銀行クラブ)
       夕    東北振興会催
             六県知事招待協議会(銀行クラブ)


東北振興史 浅野源吾編 上巻・第三二〇―三三八頁 昭和一三年八月刊(DK560065k-0002)
第56巻 p.251-255 ページ画像

東北振興史 浅野源吾編  上巻・第三二〇―三三八頁 昭和一三年八月刊
 ○第三章 東北振興の基礎調査
    東北振興協議会
                     浅野源吾記
 東北振興会にては大正十三年八月八日午前九時より東京丸ノ内銀行倶楽部に於て、振興案に就て協議会を開きたるが、出席者東京側渋沢会頭・益田孝・吉池理事・梶原仲治・藤田謙一・倉知誠夫、東北六県側よりは上田宮城県知事・松原青森県知事・岸本山形県知事・池田秋田県知事・後藤岩手県知事・佐瀬福島県勧業課長・岩手県人見鉄太郎葛西重雄、青森県泉山吉兵衛・原田藤次郎・高谷豊之助、山形県渡辺正三郎・荒木彦助・秋田県田中隆三・斎藤宇一郎・菊地季吉・宮城県平塚喜市郎諸氏にして、渋沢会頭議長席に就き、劈頭振興会より提出したる左の諸案を議題として協議に入る事とせり。
      協議事項
 一、東北地方ニ於ケル金融ノ状況常ニ円滑ヲ欠キ、為メニ事業ノ不振ヲ来セルハ遺憾ノ至リナリ、之ガ緩和ノ方策如何
 二、農業ノ振興ハ全国的ノ問題トシテ考慮シツヽアル所ナルガ、東北地方ニ於テハ時《(特)》ニ其ノ必要アリ、之ガ振興ノ方策如何
 三、東北地方ノ物産ハ漸次東京ニ於テ需要セラルヽノ趨ニ鑑ミ、東北物産陳列所ノ建設
 - 第56巻 p.252 -ページ画像 
  右企劃ノ是非如何
 先づ審議に入る前、渋沢会頭より本会開会に就て一場の挨拶あり、次いで吉池理事より議案並に会の事業経過の説明を為したるが、協議案に対し出席各委員より夫々質問並に意見の開陳ありたり。今玆に会頭理事並に各委員の述べられたる意見の大要を摘記すれば左の如し。
 渋沢会頭 本会を開くに当り、委員諸君には此の酷暑の折、遠路の所御出京御出席被下たる事を感謝す。而し、此暑気は諸君の灼き程吾等も暑く、是れはお互の事なれば暫く御辛棒被下たし。次に本会の益益隆盛に趣《(赴)》く事は会員一同慶賀に堪へざる所なり。而して本会の益々隆盛に赴くに随ひ適切なる案を提げて当局にも陳情し、亦地方にも宣伝せんと思考し居る次第なり。今回夫れに就て協議を重ねんとするものにして、就て自分は吉池理事を帯同し予め若槻内相を尋ねて、本会の為さんとする趣旨を通じ賛成を得たり。而して亦従来実行し来りたる事は銘産品陳列会、産業の奨励、運輸機関の整備、金融の円滑助長地方と中央との連絡等なるも、更に今後為さんとする問題は金融機関の改善、交通機関の完成、農産業の奨励等を主として、其他幾多の問題を有する次第なるが、委員諸君に於ては只今配附したる諸案件に就て審議せられん事を希望する次第なり、と述べ ○中略
      特別委員会
 当日午餐後引続き金融・農業・陳列館の各案に就て夫々委員会を開き、金融問題に就ては梶原・泉山・田中・人見・荒木の各委員、農業問題に就ては斎藤・藤田・原田・平塚の各委員、陳列館設立問題に就ては渡辺・菊地・高谷・葛西の各委員が熱心論議審査したる結果、各各成案を得たる外、農業委員斎藤宇一郎・原田藤次郎・平塚喜市郎三氏は農業振興問題を以て最も重大となし、建議案を決議せり。
 翌九日午後四時より同所に於て委員総会を開き、委員に於て審議したる左の諸案を議題として協議する事として、午後五時散会したり。
          (一) 金融ニ関スル調査報告
(一) 東北地方ニ於テハ小銀行多数存在シ、其基礎確実ナラザルノ憾アリ、依テ事情ノ許ス限リ合同シテ鞏固ナル地盤ノ上ニ立タシメ、金融機関トシテ充分ノ働キヲ為サシムルコト
(二) 農・工・林産物ニ対シテハ日本銀行・日本勧業銀行及地方農工銀行ヨリ成ルベク円滑ニ資金ノ融通ヲ受クルコト
(三) 生産・販売・購買・信用・利用組合ノ利用ヲ盛ナラシメ、前記ノ銀行及産業組合中央金庫ヨリ相当ノ融通ヲ受クルコト
(四) 日本銀行ノ支店ヲ東北地方ニ於テナルベク其数ヲ増加セシムルコト
(五) 農業振興ノタメ特ニ東北拓殖ニ関スル銀行設立ヲ調査研究セシムルコト
          (二) 農業ノ振興ニ関スル調査報告
一、農業振興ニ関スル根本義トシテ
 農業ノ振興ハ我国現下ノ重要問題ナリ、而シテ殆ンド農業専門ト云フベキ東北地方ニ於テ殊ニ然リトス、宜シク本会ニ調査機関ヲ設ケ主トシテ東北農業振興ニ関スル根本方策、例ヘバ農家負担ノ軽減、
 - 第56巻 p.253 -ページ画像 
米価ノ維持、開墾助成特別奨励等ノ研究ヲ望ム
二、農業ノ振興ニ関スル件トシテ
 東北地方ハ天恵厚カラズ、不順ノ気候ニ襲ルヽコト既往其実例ニ乏シカラズ、此時ニ際セバ農業ノ経営単純ニシテ多クハ稲作一毛作ノミヲ以テ凶歉ヨリ脱スルコト能ハザルハ遺憾ノ至リナリ、依テ常ニ耕作上ノ労力ヲ節約シ、之ヲ以テ特用作物ヲ栽培シ、又ハ副業ヲ起シテ生産ヲ盛ナラシムルヲ必要ナリト信ズ
 (一) 労力ノ節約ニ資センガ為メ左記ノ方法ヲ講ズルヲ要ス
  (イ) 東北六県輪番ニ農具ノ展覧会ヲ開催シ、又ハ農具ノ競技会ヲ開催シ、優良品若クハ優等者ヲ賞シ、且ツ実際ノ使用方法ヲ農家ニ実験セシムルコト
  (ロ) 東北各県ノ農事試験場ニ農具使用ノ講習会ヲ開設シ、農家ノ子弟ニ改良農具ノ使用ヲ習熟セシムルコト
  (ハ) 東北地方ハ水力電気豊富ニシテ其料金モ亦従ツテ廉ナレバ、農業ノ電化ヲ図リ、灌漑排水ノ動力ハ勿謂、脱穀・精米・其集合労力ヲ要スル方面ニハ成ルベク電力ノ応用ヲ為スコト
 (二) 収入ノ増加ヲ図ルガ為メ左記ノ方法ヲ採ルヲ要ス
        特用作物ノ栽培
  (イ) 蒟蒻ノ栽培ハ東北地方ニ適シ、且ツ蒟蒻粉ノ需要工業方面ニ旺盛トナリ前途頗ル有望ナレバ、蒟蒻ノ栽培ヲ奨励スルコト
  (ロ) 馬鈴薯ノ栽培ハ東北地方ニ適シ、殊ニ気候ノ激変ニ耐ユルガ故ニ、之ヲ以テ食料ニ供スルノ外、澱粉又ハアルコールヲ製造セバ其需要尠キニアラザルベシ
        副業ノ経営
  (イ) 木通蔓細工 東北地方ノ名産ニシテ現今ニ於テハ青森ヲ最トシ、秋田・山形・福島・宮城・岩手何レモ多少ノ産出アリ、其産額少カラズト雖モ、之レガ製造ニ改良ヲ加ヘバ、内地ハ素ヨリ海外ニ迄販路ヲ拡張シ、相当ノ輸出ヲ観ルベキハ明ナル事実ナリ、依テ之ヲ発達セシムル為ニ左ノ方法ヲ採ルコト
     一、木通蔓ハ林野ノ雑木ニシテ、造林ニ伴フテ減少シ、又採取ノ時期ヲ過グレバ根絶スルノ恐アリ、依テ当業者ヲシテ組合ヲ設ケシメ、組合ヲシテ適当ノ方法ヲ以テ採取セシムルコト
     二、木通蔓ノ製造講習会ヲ開設シ、技術ヲ習熟セシムルコト
  (ロ) 秋蚕ノ飼育 東北地方ハ気候ノ関係上秋蚕ニ適スルノミナラズ、其品質モ亦良好ナルヲ以テ秋蚕桑園ヲ増設シ、之ガ飼育ノ増加ニ努ムルコト
  (ハ) 豚ノ飼育 農家ヲシテ養豚組合ヲ設ケシメ、各戸ニ少数ノ仔豚ヲ配付シ飼育セシメ、成育ノ上ハ之ヲ集合シテ販売セシムルコト
  (ニ) 藁細工・畳表・草莚ノ製造
     当業者ヲシテ組合ヲ組織セシメ、奨励ノ為或ハ製造機械ヲ貸与シ製品ノ販売等ニ便宜ヲ与フルコト
        (三) 陳列館設置調査報告
本事業ハ疾ニ東北振興会ノ事業ノ一ニ掲ゲタルモノニシテ、曩ニ山形
 - 第56巻 p.254 -ページ画像 
市及秋田市ニ開催シタル東北六県役員会ニ於テ、再度決議セラレタル案件ナルヲ以テ、此場合之レガ実現ヲ図ルハ最モ時機ニ適シタルモノト認ム
    目的
 東北六県ノ物産ヲ東京地方ニ紹介シテ販路ノ拡張ヲ図リ産業ノ振興ヲ期スルヲ目的トス
    業務ノ概要
一、見本品ノ陳列及東北六県ノ物産ノ委托販売
二、物産ノ調査、販路ノ紹介及商況ノ通信
三、産業指導者ノ派遣斡旋
四、東北六県ノ生産業者ノ宿泊、県人会・同郷会等ノ会合ニ部屋貸与
五、東北六県ノ産物ヲ主材トセル調理ニ依ル食堂ノ経営、又ハ食堂ノ貸与
○中略
    建議案
 東北ノ振興ハ各種当業者ノ努力ニ俟タザルベカラザルハ敢テ多言ヲ要セズト雖モ、之ヲ助成スル唯一ノ方法ハ交通機関ノ完備、低利資金ノ供給ヲ目的トスル特殊銀行ノ新設等トス、本会ハ速カニ精細ナル研究ヲ遂ゲ、政府及財界ノ有力者ニ進言協議セラレンコトヲ望ム
 右建議ス
                      斎藤宇一郎
                      原田藤次郎
                      平塚喜市郎
    陳情
一、鉄道省枕木購入価格改正ノ件
 従来鉄道省ニ於テ購入セラレタリシ枕木ハ東北地方ノモノハ之ヲ他ニ比較スレバ価格低廉ナリ、此低廉ナル理由ハ明瞭ナラズト雖モ、既往ニ於テ東北地方ノ物価低廉時代ニ於テ定メラレタルモノナルベシ、然ルニ東北地方モ逐年漸騰シ、今日ニ於テ他ト遜色ナキニ至レリ、依テ枕木購入価格ハ他ト同様ノ率ニ改メラレタシ
一、国有地貸付又ハ払下ニ関スル件
 東北地方ノ産業ノ不振ナルハ其原因一ニシテ足ラズト雖モ、其土地ヲ国民ニ利用セシムルコトノ吝ナルガ如キモ確ニ有力ナル一因ナラザルヲ得ンヤ、今土地ノ所有状態ヲ観ルニ、全国平均ニ於テハ国有地三割五分ニシテ民有地ハ六割四分ヲ示シ、九州ハ更ニ之ヨリ少ク二割三分ノ国有地ニ対シテ七割六分ノ民有地ナルヲ示ス、然ルニ東北ハ六割七分ノ国有地ニ対シ、民有地三割三分ヲ数フルニ至リテハ実ニ其差甚シキ懸隔アリト謂フベシ、依テ政府ハ東北地方振興ノ為メ相当ノ方法ヲ以テ国有地ヲ貸付又ハ売払ヲ実行セラレタシ

    委員総会
 同八月九日午後五時三十分開会、前日の出席委員中に差支欠席したるもの二・三名あり。知事側に於ては池田秋田県知事のみ出席、渋沢会頭議長席に就き、金融問題より順次議題に供し、同問題に就て梶原
 - 第56巻 p.255 -ページ画像 
委員長欠席に就き吉池理事代つて委員会の経過並に結果を報告し、農業振興問題に就ては斎藤宇一郎・原田藤次郎両氏より説明報告し、陳列館設立問題に就ては渡辺正三郎氏欠席に就き菊地季吉氏より説明報告する所あり。次いで委員会の報告案に対して各委員より多数の意見現はれ、夫れに対して渋沢会頭・吉池理事弁明に努めたり、斎藤氏は農業振興の意見として、地方の無産階級の農民に対しては、今日は金融の方法整はざるを以て、此の方面に対して何等か適切の方法を講ずるの必要あり。例へば法律規定に従つて成立したる組合等に対し、米麦・繭等の担保物を提供したるものには勿謂亦担保物なき場合も個人的保証を用せずして相当金融の方法を講ずる事を希望すと述べ、次に原田藤次郎氏より建議案提出の説明を為し、第一案金融、第二案農業の両案は審議の結果委員会決定の趣旨を誤らざる程度に於て字句の修正を理事者に一任し、成案となして夫々発表実行する事とし、第三案陳列館設立案は政府が財政緊縮の実行を為さんとする際なれば、此際地方財政中より一県六万五千円の補助金支出は不可能なると、亦陳列館経営に就て確実なる調査を為す事として、該案は適当の時期迄で保留する事となりたり。次に建議案は漠然と政府に陳情する意味にあらずして、交通機関の設備と、低利なる資金の供給に就て研究を遂げ、東北振興会が適当なる方法を取る意味に於て承認する事となり、亦附帯決議事項として、鉄道省枕木購入価格改正陳情、国有地貸付又は払下陳情の二件を可決して同九時三十分散会したり。