デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

1章 金融
1節 銀行
1款 第一国立銀行 株式会社第一銀行
■綱文

第4巻 p.594-602(DK040061k) ページ画像

明治33年5月15日(1900年)

五月十日栄一男爵ニ叙セラルヽヤ、是日第一銀行行員有志ヨリ花瓶一対ヲ添ヘテ賀表ヲ呈ス。


■資料

竜門雑誌 第一四五号〔明治三三年六月〕 ○第一六頁 株式会社第一銀行の祝詞(五月十五日捧呈)(DK040061k-0001)
第4巻 p.594 ページ画像

竜門雑誌 第一四五号〔明治三三年六月〕
  ○第一六頁
    株式会社第一銀行の祝詞(五月十五日捧呈)
先生授爵の 恩命に接するや第一銀行々員諸氏は五月十五日左の祝詞に添ふるに花瓶一対を以てし祝賀の意を表せられたり
      賀表
 青淵先生閣下恭しく惟れは閣下維新の初め理財の顕職に膺り、能く繽紛たる旧務を整理して中興の財政に従事し、将来の大計を建議して成功を後進に譲り、而して軒冕を抛つこと敝履をつ棄るか如く、高踏勇退して身を商工界に委し、自来百般の事業を興起して以て今日の盛運を開導せらるゝもの其功偉なりと謂ふへし、玆に閣下華甲の寿に躋り、世人大に祝賀せむとするに当り 朝廷先つ授爵の大典を挙けさせられて以て其勲功を彰はし、儼として商工界の儀表と為る、実に千載一遇の盛事なり、閣下固より爵禄に恋々たらすと雖已に盛世の輿望を荷ひ、遂に 聖明の聡に達し、商工界異数の寵栄を承け躋寿の慶をして余光あらしむ、閣下豈往時の軒冕を以て之を視るへけむや、某等閣下の教下に服事し、抃舞歓躍の至に任へす、因て敬て賀章を晋め、並に真葛窯花瓶一個を呈す、其瓶身万畳の波を表はし、絵くに霊異の物を以てす、竜に似て角なし、鱗にして翼有り、是れ閣下か野に在つて 朝遇の渥きに浴し天爵人爵相待つて青波万頃商洋工海に霊長たるの象にあらすや、仰き願くは莞納せられむことを謹て啓す
  明治三十三年庚子五月十五日
        株式会社第一銀行員有志総代
            佐々木勇之助  中川知一
            熊谷辰太郎   湯浅徳次郎
            長谷川一彦   尾高次郎
            田中元三郎   伊藤与七
            市原盛宏    西園寺亀次郎
            西脇長太郎   荒井栄蔵
            松井吉太郎
 - 第4巻 p.595 -ページ画像 

竜門雑誌 第一四五号〔明治三三年六月〕 ○第一九頁 第一銀行員其他諸氏の祝賀会(五月十九日)(DK040061k-0002)
第4巻 p.595 ページ画像

  ○第一九頁
    第一銀行員其他諸氏の祝賀会(五月十九日)
五月十九日第一銀行員其他の諸氏は先生の授爵を祝せんか為め先生を始として先生の令夫人及令息並に令息夫人を帝国ホテルに招待せられたり当日の出席者は左の三十名なりしと云ふ
 谷敬三     星野錫          田中栄八郎   原林之助
 竹田政智    斎藤峰三郎       佐々木慎思郎   佐々木勇之助
 吉田省三    笹瀬充明《(笹瀬元明)》 長谷川一彦    清水釘吉
 市原盛宏    西園寺亀次郎      本山七郎兵衛   仲又七郎
 清水泰吉    原田貞之介       郷隆三郎     神谷義雄
 諸井恒平    諸井時次郎       大沢正道     山田昌邦
 山中譲三    山口荘吉        福岡健良     大川修三
 萩原源太郎   和田格太郎

竜門雑誌 第一四五号〔明治三三年六月〕 ○第二五―二八頁 青淵先生経営事業の現況(其之壱)第一銀行(上)(DK040061k-0003)
第4巻 p.595-597 ページ画像

  ○第二五―二八頁
  青淵先生経営事業の現況(其之壱)
    第一銀行(上)
第一銀行は青淵先生が官途を辞して実業に従事せし第一着の経営にして、指を屈すれは既に廿八年前即ち明治六年六月の創立に係り、我国銀行業の鼻祖なりと謂つべし、当時先生は御用滞在の身分なりしかば公然同銀行頭取の職に就くを辞し総監役の名目の下に行中大小の事を統一画策せられたりと云ふ、明治九年銀行条例の改正せられたると同時に同銀行も亦其組織を改め、営業期限を二十ケ年として更に開業免許を得同年九月廿六日より開業せり、爾来同行の営業は日に進み、月に隆盛を極めて二十年の星霜を過ぎたり、愈々営業満期となりしかば明治廿九年六月廿六日営業満期国立銀行処分法に依て株式会社第一銀行として営業を継続する許可を得、同年九月廿六日第一国立銀行より一切の権利義務を継続せり、第一国立銀行営業満期当時の資本金二百二十五万円なりしも右継続と同時に積立金より二百二十五万円を割て資本金に繰入れければ四百五十万円(払込済)となれり、明治三十二年七月更に其資本金を五十万円増加して五百万円となせり、右五十万円は現在株主の持株に割宛て払込ましめ、既に三十七万五千円の払込を終り居れば払込資本金四百八十七万五千円なりとす、聞く本年七月には残額の払込を為さしむる由なれば五百万円払込済となるべし、現在の株主千五百十名の多きに上り、千株以上の大株主十名にして其持株三万三百五株即ち総株数の三分の一以上なりとす、今其氏名と持株を掲ぐれば左の如し
                 株
   渋沢栄一    一一、二〇七
   西園寺公成    三、四五一
   徳川家達     三、三三三
   古河市兵衛    二、八二二
   鍋島直大     二、二二三
   渋沢篤二     二、〇二五
   稲西合名会社   一、六六六
   三井八郎兵衛   一、四〇七
 - 第4巻 p.596 -ページ画像 
   東京貯蓄銀行   一、一一二
   有終会渋沢栄一  一、〇五九
先生は第一国立銀行創立せられて以来二十有余年の長き終始一貫其頭取として万事を経営せられて遂に今日の隆盛を来すに至れり、其長年月間に於ける先生の画策経営せし事跡に到ては我国の銀行史と離るべからざる関係を有すと雖ども其沿革に至ては既に六十年史○青淵先生六十年史の編纂あり同書第一巻四百九十六頁以下に詳記せるあれば之れを省略して直に現状に就て述ふるあらん、又記事の復雑を避けんが為め余は之を分類して始めに銀行営業上の組織を記して次に営業の景況に及んとす
     甲、営業機関の組織
第一銀行は本店を東京市日本橋区兜町に置き、現在十ケ所の支店と四ケ所の出張所ありて本店の営業課目は検査課、文書課、計算課、出納課、割引課及臨時建築部に分れ、本店は各支店各出張所を総監して営業上の中心となれり、今現在の重役は取締役五名監査役二名にして其人名は
          頭取          渋沢栄一
          取締役         西園寺公成
          同           三井八郎次郎
          同兼支配人       佐々木勇之助
          同兼神戸支配人     熊谷辰太郎
          監査役         須藤時一郎
  同                   日下義雄
の諸氏にして本店営業上の課目及其職分を掲くれは左の如し
 一、検査課 は本支店及出張所の事務を検査し其他営業上に必要なる各種の統計及び調査を為す
 一、文書課 は文書株式用度の事務を処理し且各課に専属せざる諸般の事務を掌理す
 一、計算課 は計算預金為替の事務を取扱ひ諸勘定の整理及営業の一部を掌理す
 一、出納課 は収納支払手形証券等に関する事務を取扱ふ
 一、割引課 は割引貸附荷為替等の事務を取扱ふ
 一、臨時建築部 は本店其他支店及出張所の新築改築ある際臨時に設置するものにして現在新築中の本店は工学博士辰野金吾氏の設計になり現時工事を監督せるものは工学士新家孝正氏なりと云ふ
本支店及出張所を総監せる重役の外本支店及出張所に於て実際業務に従事せる支配人以下各課の行員を示さんに左の如し
    第一銀行の営業所及ひ役員
本店   東京市日本橋区兜町弐番地
          取締役兼支配人    佐々木勇之助
          副支配人兼検査課長  市原盛宏
          副支配人兼計算課長  西脇長太郎
          出納課長       本山七郎兵衛
          文書課長       清水泰吉
 - 第4巻 p.597 -ページ画像 
          割引課長       仲又七郎
大阪支店 大阪東区高麗橋筋三丁目
          支配人        田中元三郎
          支配人代理      竹山純平
京都支店 京都市上京区烏丸通姉小路上る
          支配人        中川知一
          支配人代理      前田丑太郎
横浜支店 横浜市本町五丁目
          支配人        長谷川一彦
          支配人代理      石井健吾
神戸支店 神戸市栄町通四丁目
          取締役兼支配人    熊谷辰太郎
          支配人代理      岸崎昌
新潟支店 新潟市上大川前通八番町
          支配人        松井吉太郎
          支配人代理      佐田左一
名古屋支店 名古屋市伝馬町三丁目
          支配人        湯浅徳次郎
          支配人代理      西条峯三郎
四日市支店 四日市市浜町
          支配人        伊藤与七
          支配人代理      清水百太郎
釜山支店 韓国釜山
          支配人        荒井栄蔵
          支配人代理      武川盛次
仁川支店 韓国仁川
          支配人        尾高次郎
          支配人代理      麻生蓬
新大阪町支店 東京市日本橋区大門通新大阪町
          支配人        西園寺亀次郎
          支配人代理      村木善太郎
兵庫出張所 神戸市兵庫鍛冶屋町
          主任         川嶋良太郎
伏見出張所 京都伏見町
          主任         小林秀明
京城出張所 韓国京城
          主任心得       原田松茂
木浦出張所 韓国木浦
          主任         西川太郎一
                        (未完)


竜門雑誌 第一四六号・第三三―三五頁〔明治三三年七月〕 青淵先生経営事業の現況(其之二)第一銀行(中)(DK040061k-0004)
第4巻 p.597-599 ページ画像

竜門雑誌 第一四六号・第三三―三五頁〔明治三三年七月〕
  青淵先生経営事業の現況(其之二)
    第一銀行(中)
 - 第4巻 p.598 -ページ画像 
     乙、営業の現況
前号には第一銀行の沿革及営業組織の現況を述べたれば本号には少こしく営業の現況を述べんに第一に注目すべきは現在に於ては同行営業力の大に増進せるを見るなり、即ち明治十四年上半季末に於ける同行営業力は資本金百五拾万円、積立金三拾七万円、預金二百二拾八万三千円、合計四百拾五万三千円(御用借入金及発行紙幣を除く)に過ぎざりしもの二十年後の今日に於ては払込資本金四百八拾七万五千円、積立金七十五万円、預金千八百弐拾七万六千円、合計弐千参百九十万壱千円に増加して殆んど五倍に達せること是れなり、如此銀行営業力の増加するありしかば出入せし金銀の高の如き亦大に増加し之れを数年前の各半季間に比すれば左の如くなれり

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              入金            出金                       円             円 明治十四年上半季間   一〇六、四五一、二五〇   一〇六、三〇六、二八一 同 廿四年同上     一五六、〇〇四、七七三   一五五、八九三、五九三 同 廿九年同上     三〇七、六九〇、八〇三   三〇七、三一五、九六三 同三十三年同上     五八一、二二二、六八九   五七九、八四六、六四七 



依之観是入金出金ともに殆んど五倍の増加を為せり、又貸借対照表に表はれたる金額を見るに明治十四年上半季末に於ては、貸借ともに七百二十三万六千六百七十八円に過ぎざりしもの当半季末に於ては二千六百五十二万三千九百四十八円となれり、従て貸附、割引、為替取組代金取立、公私預金等も大に増加せり、又当半季間に於て一般経済、社会の商況不振にして貨物倉庫に停滞し、金融常に逼迫せしと雖ども同行は深く資金の運用に注意し大に顧客の便利を計りしかば、預金及手形の割引増加し利益金の内より公債証書及社債下落の差を四万九千円余引去るに至りしも、尚ほ二十九万三千円余の純益を得たりと云ふ以下項を逐ふて営業の現況を述べん
一、資本金積立金及純益
資本金に対する利益配当の割合は旧時の如く多大の配当を為すを得ず、是れ畢竟するに一般の金利も低落し、銀行も亦数多勃興して競争起り殊に銀行自身も徒に自己の利益をのみ計らず、社会一般の公益を計るに至りしを以てなり、今資本金に対する配当及資本及積立金に対する純益の割合を見るに左の如し

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           払込資本金     積立金      純益金      配当年率    資本及積立金に対する純益の割合               千円        千円     千円        割        割 十四年上半季    一、五〇〇       三七〇    二二七      一・六      二・四 廿四年同      二、二五〇     一、六二五    二四〇      一・六      一・二 廿九年同      二、二五〇     一、七五〇    二三二      一・二      一・二 卅三年同      四、八七五       七五〇    二九三       ・九      一・〇 



配当率は総資本金に対する配当の率なるも、払込資本金並積立金に対する純益の割合は積立金の増減に依て右表に示すが如く増減せり
二、預金
資本金及積立金に次て銀行の資金たる預金は非常なる勢を以て増加し当半季末に於ては約千八百二十万円に上り、資本金及積立金に対する割合は三倍二割五分となり、之れを十四年上半季の一倍二割二分に比
 - 第4巻 p.599 -ページ画像 
すれば非常なる進歩と云はざるべからず、今之れを類別比較せんに左の如し

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           定期預金         当座預金          公金預金     別段預金                  円            円           円         円 十四年上半季     四九七、一〇五    一、〇〇四、八七四     六六九、四六二   一一一、九五三 廿四年同     二、〇七八、七四〇    二、八六八、八二四     一〇六、五二三   二四一、四〇二 廿九年同     二、九七五、五一九    七、五三一、五四五     四九六、〇六五   五八二、七四五 卅三年同     四、七八三、二六九   一二、一七五、一〇七   一、〇六〇、六六七   二五七、二九四 



右表によれば定期預金は最近二十年間に十倍、当座預金は十二倍、公金預金も約二倍、別段預金二倍余を増加せり
三、金銀在高
金銀在高は此の期間に於て殆んど二倍して十四年上半季の百五十七万五千円より当半季には三百十三万八千円となれり、預金に対する其割合を見るに十四年上半季に於ては百分の六十八に当り、当半季に於ては百分の十八に過ぎざるも曩には発行紙幣の多かりしことを考慮せざるべからず、依て紙幣と預金に対する割合を見るに百分の三十三を減ぜり、今金銀の在高を比較せんに左の如し

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                  円 十四年上半季   一、五七五、〇九九 廿四年同上    一、八一二、二一三                  円 廿九年同上    二、六三四、七〇九 卅三年同上    三、一三八、一〇二 



四、貸附及割引
貸附及割引も亦此の期間に於て非常なる進歩を為せり、就中割引の大に増加せしは営業上の大進歩と云はざるべからず、即ち左の如し

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          貸附金         当座貸越         手形割引                  円           円            円 十四年上半季   二、三一〇、五八四     七五五、一八〇      四七三、二四二 廿四年同上    四、六〇〇、六〇五   一、一六六、一五八    一、四二六、一九五 廿九年同上    六、四一二、六二〇   一、六九四、八八七    五、一四九、九六五 三十三年同上   三、〇〇六、三一三   二、二八五、七五六   一二、九六九、二二三 



十四年上半季に於て手形の割引高は、貸附金の五分の一に過ぎざりしもの当半季に於ては地位を転倒して貸附金は割引高の四分の一弱となれり、されば其の進歩の如き貸附は十四年以来一時三倍弱となりしありしも、後ち漸次減少して三十三年上半季には僅に三割の増加となれり、之に反して割引高は二十八倍を増加せり、此間に於て当座貸越は殆んど三倍を増加せるも割引に比すれば其割合甚だ尠なしと云はざるべからず、更に当所及他所に別て各上半季間に於ける割引の総額を示さば左の如し

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          当所割引高        他所割引高                   円           円 十四年上半季    四、二〇〇、〇四八   四、四四一、〇三一 二十四年同上    七、八四四、四八五   二、九三六、四九五 二十九年同上   一四、〇六二、一二〇   四、九九六、八一二 三十三年同上   三五、三三六、一八四   八、三二二、七五七 



即ち総割引高は当所の分八倍七割、他所の分二倍弱を増加せり


竜門雑誌 第一四七号・第二八―三一頁〔明治三三年八月〕 青淵先生経営事業之現況(其之三)第一銀行(下)(DK040061k-0005)
第4巻 p.599-602 ページ画像

竜門雑誌 第一四七号・第二八―三一頁〔明治三三年八月〕
  青淵先生経営事業之現況(其之三)
 - 第4巻 p.600 -ページ画像 
    第一銀行(下)
     乙、営業之現況(続)
前号に於ては銀行営業力の主脳たる資本金積立金及預金の景況を述べ次に銀行放銀策の第一位に座すべき貸附と割引に及びたれば本号に於ては銀行営業の他の方面に向はん
一、証券の所有
国債及地方債証券の買入を為すは是れ銀行営業の一にして此等証券の下落に逢ふて往々損失を招くの虞ありと雖とも銀行に遊金多く他に放銀する能はざる時に方て証券中最も確実なる国債及地方債等を購入し、之れより生する利子を益する必ず批難すべきにあらず、今第一銀行が有する国債及地方債証券を見るに左の如し

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             国債           地方債        計                    円         円           円 明治十四年六月末   一、六〇七、二六九         ―   一、六〇七、二六九 同 廿四年六月末   二、〇七二、四六四       九五二   二、〇七三、四一六 同 廿九年六月末   一、九四七、八〇二   三九三、八一〇   二、三四一、六一二 同 卅三年六月末   一、九六八、二二九   三二〇、九四一   二、二八九、一七〇 



  備考 外に社債券々面額十九万二千四百円、時価十八万八千九百十五円を所有せりと云ふ
本年の如く公債及株券の価格下落せる年に於ては此等の証券の利子より得る利益は其下落の損失を補ふに足らさる有様となり、各銀行に於ても之れが為め大なる損失を来せるか第一銀行は右価格下落の塡補として利益金中より四万九千三百八十一円六十七銭を支出せり、右表の二百二十八万九千円とあるは其時価にして券面額は二百四十七万二千円なりしと云ふ
二、送金事業
為替送金のことも亦銀行営業の一にして第一銀行に於ては曩に手弘く公金を扱ひし為其送金甚だ尠なからざりしと雖今や此種の送金は大に減少して左の如き有様となれり

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            各地に向けたるもの     各地より向けられたるもの                      円               円 明治十四年上半季     五、四九四、八七二       六、五一九、六五三 同 廿四年上半季     二、二〇三、八二〇       二、八六四、三四八 同 廿九年上半季     一、六一九、一七九       二、二二四、八一〇 同 卅三年上半季       三四八、四〇一         一七四、四四六 



公金の取扱如此減少したるに拘らず普通の送金は益々発達して左の如くなれり

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            各地に向けたるもの 円   各地より向けられたるもの                      円              円 明治十四年上半季     四、二一一、六二六      六、六四六、四八五 同 廿四年上半季    一〇、九〇二、四〇六     一二、七六八、二五二 同 廿九年上半季    一一、五六七、六七五     一七、五六九、六七〇 同 卅三年上半季    三五、七八〇、一四六     四五、四五五、二四〇 



即ち私人送金の増加は非常なるものにして近く二十九年に比するも本年上半季は三倍有余を増加し、遠く十四年に比すれば各地に向けたる分は約九倍、各地より向けられたる分は七倍を増加せり、以て営業進
 - 第4巻 p.601 -ページ画像 
歩の状を知るに足るべし
因に云ふ同銀行の「コルレスポンデンス」先は千百五十にして此等は皆為替取組其他の取引を開けるものなり
三、荷為替の取組
荷為替の取組は之れを明治十四五年頃に比すれは非常なる増加を来せしも本年上半季間に於ては各地に向けたるもの大に減少して左の如くなれり

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            各地に向けたるもの   各地より向けられたるもの                    円            円 明治十四年上半季     五七六、六七四     六六五、一〇五 同 廿四年上半季   三、二五八、七五七   三、七九六、一六二 同 廿九年上半季   四、七六九、八五七   五、九九六、一〇八 同 卅三年上半季   三、九〇五、八七五   五、三〇〇、五五一 



四、代金取立
代金取立事業の進歩は得意先に最も利便を与ふるものにして亦銀行の為めに多少の利益を与ふるものなり、今第一銀行に於ける当所及他所代金取立の景況を見るに左の如し

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            当所取立         他所取立                     円           円 明治十四年上半季      一三九、二八八     二〇五、三九七 同 廿四年上半季      九一五、一〇〇     七六八、五八六 同 廿九年上半季    七、四五九、三五二   一、六四二、一二九 同 卅三年上半季   一二、二四九、〇七五   四、三三九、七三六 



即ち右表に拠れば当所代金取立高は明治十四年以来九十倍を他所取立も亦二十倍を増加して一は明治十四年の十三万九千円より本年上半季には千二百二十四万九千円となり、他は二十万五千円より四百三十三万九千円となれり、蓋し非常なる進歩なりと云はざるべからす、思ふに各個人が悉く此等の金円を自身若くは人を遣はして取立つると銀行か手形交換の方法に依り又は其他の方法に依て取立を済すの利便なると孰れか利にして孰れか不利なるや敢て説明を待つまでもなし
五、外国為替
当半季間に第一銀行が取扱ひたる外国為替は其主たる国は同銀行か幾多の支店を有せる朝鮮なるか今其種類を示さんに左の如し

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       外国へ向けたる分 円   外国より向けられたる分                円           円 為替       七九九、四六八     八〇四、八〇六 荷為替    一、九四七、三八六   二、〇四五、四二八 電信為替     五五一、九七六     五七二、〇六三 銀行為替   一、八〇六、〇〇三   二、四八〇、三八九 



以上に於て略ぼ銀行営業の景況を説述し終りたれば次に少しく当半季間の営業所得及其分配方を記して本編を終らん
     丙、当半季営業所得
当半季間に於ける本支店の営業総所得は百二十万円、営業費九十一万円にして純益二十九万円なりき、今其詳細を示さば左の如し

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          当半季総益金      当半季総損金     差引純益金                  円         円         円 本店         五一三、七一四   三五〇、四三七   一六三、二七七  以下p.602 ページ画像  支店及出張所     六九〇、六四二   五六〇、一三七   一三〇、五〇五 計        一、二〇四、三五六   九一〇、五七四   二九三、七八二 



右二十九万三千円の当季純益金に加ふるに前半季即三十二年下半季より繰越せる六万円を加へたる三十五万四千円を左の如く分配せりと云ふ
                          円
 当季利益金             二九三、七八二・〇七
 前季繰越金              六〇、三九五・〇三
   計               三五四、一七七・一〇
 役員賞与金              二三、五〇〇・〇〇
 積立金                五〇、〇〇〇・〇〇
 旧株配当金(年九分の割)      二〇〇、二五〇・〇〇
 新株配当金(同上)          一二、二〇〇・〇〇
 後季繰越金              六五、九七七・一〇
右営業所得の重なるものは利息の四十八万円、割引料の六十二万七千円、公債及債券の利子六万九千円、手数料の二万円等にして営業費の重なるものは利息の六十二万八千円、割引料の八万九千六百円、給料の五万五千円、諸税の一万六千七百円、雑費の五万二千円にして外に公債及証券価格下落の損失四万九千円なりしと云ふ(完)