デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治33年6月4日（1900年）

是日栄一、第一銀行ヲ代表シテ大蔵大臣伯爵松方正義・外務大臣子爵青木周蔵・日本銀行総裁山本達雄等ヲ帝国ホテルニ招待シ、韓国ノ財政経済ニ関スル談話会ヲ開ク。此会合ニ因リテ栄一ハ政府ノ意ノアル所ヲ知リ、兌換券発行ノ計画ヲ進ムルコトトナレリ。

渋沢栄一　日記　明治三三年　（渋沢子爵家所蔵）
六月四日　晴
○上略午後二時第一銀行ニ出勤シ文書ヲ整理ス、四時過帝国ホテルニ抵ル、松方大蔵大臣及松尾・阪谷ノ二氏、青木外務、内田政務局長、山本・高橋二氏等ヲ招宴シテ韓国ノ財政経済ニ関スル談話会ヲ開ク、蓋シ西脇長太郎仁川ヨリ帰朝シ、市原盛宏近日韓国ニ出張スルニ付其紹介ノ為此宴ヲ設ケタルナリ、賓主各意見ヲ快談シ、夜十時散会ス○下略

第一銀行五十年史稿　第五巻・第六八―七〇頁　大正一二年刊
　○第二編　第五章　日清戦後の発達
　　　　第三節　韓国中央金融機関
○上略明治三十三年六月四日大蔵大臣松方正義・外務大臣青木周蔵・理財局長松尾臣善・主計局長阪谷芳郎・政務局長内田康哉・日本銀行総裁山本達雄・同副総裁高橋是清等を帝国ホテルに招請し、本行よりは頭取渋沢栄一・取締役佐々木勇之助・監査役日下義雄等出席して「韓国財政経済に関する研究要項」及び副支配人市原盛宏の渡韓取調事項を示して其意見を徴したり、研究要項には「朝鮮に於ける本行将来の
 - 第16巻 p.96 -ページ画像 
営業方針を進取的ならしむる事の可否、金塊及び砂金の買収に努力して其産額の増加を図り、及び同国の貨幣制度を確立し、中央銀行を設立するにつきての方法、並に中央銀行の設立尚早しとせば本行の兌換券を発行する事の可否」等を挙げ、取調事項には「輸出入貿易の事、貨幣の事、金融機関の事、金塊買収の事、韓国財政の事」等なりしが幣制改革の件は何人も異議なく、たゞ実行の方法手段に至りては熟考を要すとなし、又中央銀行の設立は現在の状態にては困難なれば或は本行の兌換券を発行することも一策なるべしと認めしものゝ如く、敢て反対の意を表せるものなかりき。要するに本行の提案に対しては確乎たる意見を聴く能はざりしも、政府及び日本銀行の意志の存する所はほゞ推察すべし、よりて本行はかねての希望に従ひ銀行券発行の計画を進めんとす、韓国居留の我商人等も林公使も之を聞きて皆熱心に賛同せしかば、此年の冬借款問題の起れる際にも、第二次借款問題の起れる時にも、紙幣発行の交渉を提案せしは之が為なりしなり。○下略