デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治36年6月8日（1903年）

是ヨリ先、三月、韓国ニ於ケル銀行券発行ニ就キ大蔵省ヨリ訓示アリシカバ、第一銀行此ノ旨ヲ体シテ銀行券規則ヲ改正シ、是日大蔵省ニ提出ス。七月三日ヲ以テ認可セラル。

韓国ニ於ケル第一銀行　第一銀行編　第二一六―二二六頁　明治四一年八月刊
　○第五章　銀行券ノ発行
　　　　第四節　銀行券発行規則ノ改正
明治三十六年二月ニ於ケル李容翊ノ銀行券排斥事件終局ヲ告グルヤ、翌三月三十一日ニ於テ大蔵省ヨリ左ノ通牒アリ
　貴行在韓国支店ヨリ発行スル銀行券ニ関シ先般来韓国政府ノ禁令ニ対シ厳重交渉ノ結果右禁令ハ撤回スルコトニ解決致シ候ニ付、自今流通上ノ阻害ハ有之間敷ト存候得共、元来銀行券流通ハ自己ノ信用即チ主トシテ交換力ノ如何ニ関スルモノニ付、仕払準備ニ注意スルハ勿論過度ノ流通ハ金融ヲ紊乱スルノ虞アルヲ以テ成ルベク之ニ注意スベク、且銀行券ノ出納保管上主任者ノ責任ヲ明確ニシ、紛失盗
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難等ノ失態ヲ予防スルハ自衛上当然ノ義務ト存ジ候間、此際左記ノ事項ヲ標準トシテ銀行券発行規程ヲ設ケ可然ト存候間、右ニ準ジ至急規定書調製御上申相成度、依命此段及御通牒候也
　　明治三十六年三月三十一日
　　　　　　　　　　　　　　大蔵省理財局長　松尾臣善
　　　　第一銀行取締役頭取　渋沢栄一殿
　　　　　　銀行券発行取締ニ関スル事項
　一、準備金ハ金銀貨及日本銀行兌換券ヲ正貨準備トシテ公債証書・商業手形及政府証券（韓国ノ分共）ヲ保証準備トスルコト
　二、発行高ニ対シ同額ノ準備ヲ置クコト
　　但発行高百万円マデハ三分ノ二ヲ正貨準備トシ、百万円以上ハ半額ヲ正貨準備トス、其他ハ保証準備ヲ置クベシ、而シテ保証準備ノ準備価格ハ大蔵大臣ノ認可ヲ受クベシ
　三、発行高ハ各支店ヲ通ジテ五百万円ヲ限度トスルコト
　　但本文ノ制限ヲ超過シテ発行ノ必要アル場合ニハ大蔵大臣ノ認可ヲ受クベシ、而シテ其際ニハ更ニ準備ノ方法ヲ改正スルコトアルベシ
　四、銀行券ニハ時効ヲ付セズ永久兌換ノ義務アルコト
　五、損傷又ハ滅失シタル銀行券ハ、銀行ノ信用上（偽造・変造ヲ除ク外）可成便宜ナル方法ヲ以テ引換ヲ為スベシ
　六、予備券・回収券・損傷券ノ出納及保管ハ主任者ノ責任ヲ明確ニシ其取扱手続ヲ定ムベシ
　七、銀行券及準備ノコトニ就テハ在韓国我領事ノ監督ヲ受クルモノトス
次デ四月二十三日再ビ左ノ通牒アリタリ
　貴行発行ノ銀行券ニ付テハ曩ニ発行取締ニ関スル条件及御通牒候処尚外務省ト打合之上左記ノ通相定メ候ニ付、左様御承知相成度此段及御通牒候也
　　明治三十六年四月二十三日
　　　　　　　　　　　　　　大蔵省理財局長　松尾臣善
　　　　株式会社第一銀行頭取男爵　渋沢栄一殿
　八、在韓支店出張所々在地領事ハ毎月十五日及末日（日曜日ニ当レバ其翌日）ノ二回其支店出張所ニ就キ銀行券ノ発行高及其準備金ヲ審査スベシ、但シ領事ニ於テ必要ト認ムル場合ニ於テハ、臨時ニ発行高及其準備金ヲ審査スルコトアルベシ
　九、在韓支店出張所ハ前項所定ノ期日ニ於テ発行高及其準備金高ヲ電信ヲ以テ京城支店ニ報告シ、京城支店ハ之ヲ総括シテ在韓公使館ニ報告スベシ
本行ハ右訓示ノ旨ヲ体シテ銀行券規則ヲ改正シ、同年六月八日大蔵省ニ提出シテ認可ヲ請ヒシガ同年七月三日付ヲ以テ大蔵大臣ニ於テ右聞置カルヽ旨通牒アリタリ、改正規則ノ全文左ノ如シ
　　　　株式会社第一銀行券規則
　第一条　当銀行ハ韓国ニ於ケル彼我貿易ノ便利ヲ謀ル為メ在韓国支店出張所ニ於テ銀行券ヲ発行ス
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　第二条　銀行券ノ種類ハ壱円・五円・拾円ノ三種トス
　　但時宜ニヨリ五拾円・百円ノ二種ヲ発行スルコトアルベシ
　第三条　銀行券ハ所持人ノ望ニヨリ在韓国各支店出張所ニ於テ営業時間内何時ニテモ同額ノ日本通貨ト引換フベシ
　　但内地ノ本支店・出張所ニ於テハ一切引換ヲ為サズ、已ヲ得ザル場合ニ於テ引換ヲ為ストキハ相当ノ手数料ヲ徴収スベシ
　第四条　銀行券発行高ハ各支店出張所ヲ通ジ、五百万円ヲ以テ限度トス
　　但韓国市場ノ景況ニヨリ本条発行高ノ限度ヲ増加セントスルトキハ、大蔵大臣ニ申請シ其認可ヲ受クベシ
　第五条　銀行券発行高ニ対シテハ其引換ニ充ツル為メ日本通貨及有価証券ヲ以テ発行高ト同額ノ準備ヲ置クヘシ、而シテ金・銀貨及日本銀行兌換券ヲ正貨準備トシ、公債証書・商業手形・帝国又ハ韓国政府ノ証券ヲ保証準備トス
　　但保証準備ノ価格ニ付テハ大蔵大臣ノ認可ヲ受クベシ
　第六条　前条ノ引換準備中正貨準備ハ韓国各支店出張所ニ於テ、保証準備ハ京城支店ニ於テ銀行券発行高ニ応ジ、左ノ割合ニヨリ他ノ支払資金及有価証券ト区別シ之ヲ備ヘ置クコトヲ要ス
　　各支店出張所ヲ通ジ発行高百万円ニ満タザル時ハ
　　　発行高ノ三分ノ二　　　　　　正貨準備
　　　発行高ノ三分ノ一　　　　　　保証準備
　　発行高百万円以上ナルトキハ
　　　発行高ノ二分ノ一　　　　　　正貨準備
　　　発行高ノ二分ノ一　　　　　　保証準備
　　但京城支店ハ其保証準備中、公債証書ニ限リ之ヲ日本銀行本店ニ保管預ケト為シ、其保管証書ヲ以テ準備ニ充ツルコトヲ得
　第七条　未発行ノ銀行券ハ本店ニ保管シ、韓国支店出張所ノ需用ニ応ジ、其額ヲ定メ発行元高トシテ之ヲ交付スベシ
　第八条　銀行券発行高・正貨準備保証準備ノ有高及之ニ関スル帳簿其他証憑書類等ハ在韓帝国領事ノ検査ヲ受クベシ
　第九条　韓国支店出張所ハ其所轄ノ帝国領事ヘ、毎月十五日及末日（休日ニ当レバ前日）ノ二回、銀行券ノ発行高ト其準備高及流通ノ情況トヲ報告スベシ
　第十条　韓国支店出張所ハ前条所定ノ期日ニ於テ発行高及其準備金高ヲ電信ヲ以テ京城支店ニ報告シ、京城支店ハ之ヲ総括シテ在韓帝国公使ニ報告スベシ
　第十一条　汚染又ハ毀損シタル銀行券ハ左ノ規定ニヨリ無手数料ニテ日本通貨又ハ銀行券ト交換スベシ
　　一、券面中記号・番号二箇所ヲ存シ、券面中央ノ金額ヲ明カニ認メ得ベキモノハ全額ヲ以テ交換スベシ
　　二、細裂シタルモノト雖モ其裂端ヲ接続シテ明カニ一葉ノ銀行券タルコトヲ認メ得ベク、且其記号・番号・中央ノ金額等ノ明カナルモノハ全額ヲ以テ交換スベシ
　　三、分裂シタル断片ト雖モ記号・番号・中央ノ金額等ヲ明カニ認
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識シ得ルモノニシテ、且自余ノ断片ハ仮令将来持参スルモノアルモ半額ニ交換スル能ハズト認ムルトキハ尚ホ全額ヲ以テ交換スベシ
　　四、断片ガ全面ノ二分ノ一ニ充タザルモノト雖モ記号・番号・中央ノ金額等ヲ明カニ認識シ得ルモノニシテ、且自余ノ断片ハ全額ヲ以テ交換スル能ハズト認ムルトキハ半額ヲ以テ交換スベシ
　　五、断片ガ記号・番号及左右何レカ一箇所ノ金額ヲ存スルモ、自余ノ断片ガ全額ニ交換シ得ルト認ムルトキハ交換ヲ拒絶スルコトアルベシ
　　六、全面ヲ存スト雖モ肉色ニ変更ヲ生ジ又ハ記号・番号・中央ノ金額等ヲ認ムルコト能ハザルモノ、及其他ノ事由ニヨリ真贋ヲ識別シ難キモノハ交換ヲ拒絶スルコトアルベシ
　　七、券面ノ金額ヲ描改シタルモノト雖モ、明カニ原金額ヲ認メ得ベキモノハ善意ノ請求者ニ対シテハ其原金額ヲ以テ交換スベシ
　第十二条　前条ニヨリ引換ヘラレタル汚損券ハ時々取纏メ之レニ消印又ハ打抜ヲ為シ、記号・番号・種類・枚数及引換金額ノ明細表ヲ添ヘテ本店ヘ廻送スベシ
　第十三条　韓国各支店出張所ハ毎月二回（十五日及月末）銀行券ノ発行高回収高・流通高・元受高・手許有高及準備高ノ計算ヲ明カニシ、之ニ大体ノ情況ヲ附記シテ本店ヘ報告シ、且各店相互間ニモ其報告ヲ交換スベシ
　　本店ニ於テ右ノ報告ヲ得タルトキハ之レヲ総括シテ速ニ大蔵大臣ニ届出ベシ
　第十四条　本店ニ銀行券元帳ト銀行券記入帳トヲ備ヘ置キ、銀行券ノ製造高・交付高及手許有高等ヲ記入シ、銀行券記入帳ニハ銀行券ノ種類毎ニ帳簿ヲ区別シ、銀行券ヲ韓国支店出張所ヘ交付スル毎ニ店別ニ其記号・番号等ヲ詳記シ、又消却シタルトキハ其日附ヲ記入スベシ、而シテ其交付及消却トモ種類・記号・番号ヲ記シタル明細表ヲ以テ韓国各支店出張所へ通知スべシ
　第十五条　銀行券ヲ韓国支店出張所ヘ送付スル途中ニ於テ水火難ニ罹リ亡失シタルトキハ、其事実ノ確証ヲ得タル後、銀行券記入帳ニ其事由ヲ記シテ消却ノ手続ヲナシ、同時ニ韓国各支店出張所ヘ通知スベシ
　第十六条　韓国各支店出張所ハ銀行券元帳・銀行券有高帳・準備金有高帳及損傷銀行券記入帳ヲ備ヘ置キ、銀行券元帳ニハ銀行券ノ発行高・回収高・流通高等ヲ記入シ、銀行券有高帳ニハ発行元高トシテ本店ヨリ交付セラレタル銀行《（券脱カ）》ノ種類・金額・毎日ノ出入及銀行券有高ヲ記入シ、準備金有高帳ニハ正貨準備金ノ種類及毎日ノ有高ヲ記入シ、損傷銀行券記入帳ニハ、損傷券ノ種類・記号・番号・金額・枚数・引換金額及之ヲ本店ヘ回送シタルトキハ其日附ヲ記入スベシ
　　京城支店ニハ右ノ外保証準備有高帳ヲ備ヘ置キ、保証準備ノ出入及準備ニ充テタル有価証券ノ種類、券面ノ金額、準備価格及其他ノ要件ヲ記入スベシ
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　第十七条　韓国支店出張所ニ於テ本店ヨリ銀行券ノ交付ヲ受ケタルトキハ総勘定元帳中銀行券受取高勘定ノ入ト、銀行券手許有高勘定ノ出ニ振替ヘ記帳シ、同時ニ銀行券有高帳ノ入ニ記入シ、支配人又ハ主任ハ之ニ証印シテ銀行券保管ノ責ニ任ズベシ
　第十八条　韓国支店出張所ニ於テ銀行券ヲ発行セントスルトキハ、毎日営業時間ノ始メニ支配人又ハ主任ハ其日必要ト認メタル銀行券ノ高ヲ定メテ銀行券仮受渡簿ニ記入シ、其高ヲ出納掛長ヘ交付シ仮受渡簿ニ其証印ヲ押捺セシムベシ
　第十九条　毎日事務終了ノ際出納掛長ニ仮渡シセル銀行券ノ内、当日発行シタル高ニ対シテ支配人又ハ主任ハ銀行券手許有高勘定ヲ以テ入金票ヲ作リ、出納掛長ニ交付シテ銀行券有高帳ノ出ニ記入スベシ、而シテ出納掛長ノ手許ニ残存セル銀行券ハ、仮受渡簿ニ明記シテ支配人又ハ主任ニ引渡シ其証印ヲ受クベシ
　第二十条　毎日出納掛ノ手許ニ回収シタル銀行券ハ事務終了ノ際銀行券手許有高勘定ヲ以テ支払票ヲ作リ、出納掛長ヨリ支配人又ハ主任ヘ引渡シ、支配人又ハ主任ハ之ヲ受取リテ銀行券有高帳ノ入ニ記入スベシ
　第二十一条　前三条規定ノ手続ヲ終リタルトキハ、当日ノ銀行券発行高ニ対シテ第七条ノ規定ニヨリ正貨準備ノ額ヲ定メ其有高ヲ増減スベシ
　　　但保証準備ハ第十条ニヨリ各店ノ発行高ヲ総括シ、在帝国公使ニ報告スルト同時ニ其準備額ヲ増減スベシ
　第二十二条　韓国支店出張所ガ同国内地ノ支店出張所ヘ銀行券ヲ送付セントスルトキハ、第十九条ニヨリ発行ノ手続ヲ為シタル後本店勘定ヲ以テ支払ニ立テ同時ニ本店ニ報告スベシ、其送付ヲ受ケタル店ニ於テハ銀行券ノ回収ト看做シ、本店勘定ノ入ニ記入シテ本店ニ報告スベシ
　第二十三条　韓国各支店出張所ニ於ケル銀行券ノ取扱方・保管方及記帳手続ニ関シ此規則ニ規定ナキ事項ニ付テハ、其必要ニ応ジ本店ニ於テ別ニ之ヲ定メテ通達スベシ