公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15
第16巻 p.176-183（DK160028k） ページ画像
明治37年4月28日（1904年）
日露戦役ニ際シ京城・仁川両支店及平壌・鎮南浦両出張所ニ於テ、日本金庫事務取扱並ニ軍用切符ニ関スル事務ヲ取扱フコトトナリ、是日日本銀行ト約定ス。
韓国ニ於ケル第一銀行 第一銀行編 第二七一―二七六頁 明治四一年八月刊（DK160028k-0001）
第16巻 p.176-178 ページ画像
韓国ニ於ケル第一銀行 第一銀行編 第二七一―二七六頁 明治四一年八月刊
第六章 日本中央金庫派出所事務取扱
○上略
次デ明治三十七年ニ至リ日露戦端ヲ開クニ及ンデ再ビ京城・仁川ノ二支店及平壌・鎮南浦両出張所ニ於テ、日本金庫事務取扱ヲ委託セラルルト共ニ軍用切符ノ出納交換等ニ関スル事務ヲ取扱フコトヽナレリ、
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抑々軍用切符ハ我軍隊ガ其交戦地域内ニ於テ発行セル一種ノ紙幣ニシテ、之ヲ以テ総テノ軍需ヲ支弁シ硬貨ヲ運搬スルノ不便ヲ免レントスルニアリテ、明治三十七年二月我軍隊ガ始メテ仁川ニ上陸スルト同時ニ発行セラレタルモノニシテ、爾後戦線ノ拡張スルニ従ヒ其発行高モ亦次第ニ増加シテ、殊ニ満洲ニ於テハ銀本位タル本票ノ性質清人ノ嗜好ニ適合シ、一時満洲各地方ヲ通ジテ主ナル通貨タルノ状態ヲ呈セリ然レドモ韓国ハ本邦ト同ジク金貨本位ナルヲ以テ発行当初ヨリ概シテ其流通円滑ナラズ、流通区域ハ平壌以北ニ限ラレシト雖モ、満洲ヨリ廻送セラルヽモノ少ナカラズシテ、其引換ノ為メ韓国支金庫ニ於ケル交換高ハ各々巨額ニ上リ、就中仁川支金庫ニ於テハ軍票売買ヲ一ノ営業トセル芝罘清商ノ為メニ交換セラレタルモノ甚ダ多ク、殊ニ明治三十八年三月以後ニ於テ其傾向著シク、為メニ一時ハ引換中止説ノ出ヅルニ至リタルモ、全ク引換ヲ中止スルトキハ軍用切符ノ信用ニモ関係ヲ及ボスベキヲ以テ、仁川支店ニ於テ手加減ヲ加ヘテ交換スルコトヽ
派出所名 交換受入高 交換払出高 円 円 京城派出所 一、二四五、二五一・二〇〇 八、〇〇四・〇〇〇 仁川派出所 八、二三〇、一〇四・三〇〇 二一九、〇〇〇・〇〇〇 平壌派出所 九三三、〇二二・四〇〇 〇 鎮南浦派出所 七四六、六五八・五〇〇 〇 元山派出所 三六、九一八・九〇〇 〇 安東県派出所 一五、七八六、〇〇四・一〇〇 三、五二七、六四二・四〇〇
ナリ、且軍用切符ノ代弁人等ニ対シテ種々本票ノ性質等ヲ説明シテ、稍々兌換券ノ流出ヲ抑制スルヲ得タリ
今明治三十七年本行各支店・出張所ニ於テ軍用切符交換開始以後明治三十九年七月ニ至ル各店交換高ヲ掲グレバ左ノ如シ○上表
以テ軍用切符出納交換ノ各金庫派出所ニ於ケル主要ノ事務タリシヲ知ルニ足ルベシ、而シテ其金庫出納事務ニ関シ明治三十七年四月日本銀行ト締結セル条約ハ左ノ如シ
第一条
韓国京城・仁川・平壌・鎮南浦ニ於ケル中央金庫派出所現金（軍用切符及円形銀塊等ヲ包含ス、以下皆同ジ）ノ保管出納ヲ取扱フ為メ、株式会社第一銀行ハ前記派出所所在地ニ於ケル支店又ハ出張所ヲ以テ日本銀行代理店トナシ其事務ヲ取扱フモノトス
第二条
株式会社第一銀行ハ前条事務ニ関スル法令・告示又ハ金庫出納役ヨリ頒布スル所ノ規則・通達ヲ遵守シテ之ガ取扱ヲナスベシ
第三条
株式会社第一銀行ハ各派出所現金ノ保管出納並ニ其取扱ノ事務ニ付日本銀行ニ対シ一切ノ責任ヲ有ス
各派出所ニ保管中又該派出所ヨリ他ヘ逓送中ノ金員ニ損失ヲ生ジタルトキハ、其原因ノ如何ニ関セズ、前項ニ由リ株式会社第一銀行ニ於テ其責ニ任ジ、又之ニ因テ生ジタル総テノ損失費用ヲモ償フベシ
第四条
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各派出所ノ金櫃帳簿ハ店舗本業部ト混淆セザル様判然区劃シ、一見シテ其派出所ノ金櫃帳簿ノ蔵置シアルモノタルコトヲ識ルニ足ルベキ標章ヲ附シ置クベシ
株式会社第一銀行ハ如何ナル場合ニ於テモ其本業部ノ為メニ各派出所ノ現金ヲ使用スルコトヲ得ズ
第五条
日本銀行ハ各派出所事務取扱ニ要スル実費ヲ株式会社第一銀行ニ支払フベシ
第六条
本契約ハ明治三十七年五月一日ヨリ実施スベシ、期限ハ之ヲ定メズト雖モ、日本銀行ノ都合ニヨリ何時ニテモ之ヲ解除スルコトヲ得ベク、尚又双方協議ノ上ハ大蔵大臣ノ認可ヲ経テ本契約ヲ更正増削スルコトヲ得
右契約ヲ締結シタル証トシテ双方役員署名調印シ、壱通ハ日本銀行ニ保存シ、壱通ハ株式会社第一銀行ニ保存スルモノ也
明治三十七年四月二十八日 日本銀行総裁
松尾臣善
同国庫局長
山口宗義
同文書局長
伊藤欽亮
株式会社第一銀行頭取
渋沢栄一
同支配人
佐々木勇之助
同年五月三日右約条書ヲ追加シテ第一条派出所ニ安東県ヲ、同七月三十日鳳凰城ヲ加ヘシガ、鳳凰城ハ十月二十日ニ至テ之ヲ削除シ、同十一月五日ヨリ元山ヲ加フルコトヽナレリ
○下略
○右ハ明治三十七八年戦役中交戦区域ニ於テ軍隊ノ発行セル軍用切符ノ出納交換ヲ行フモノニシテ、派出所ノ数及ビ場所ハ左ノ如ク変動セリ。
開設 廃止
京城 明治三十七年四月 明治三十九年七月
仁川 同右 同右
平壌 同右 同右
鎮南浦 同右 明治三十八年十二月
安東県 明治三十七年五月 明治三十九年七月
鳳凰城 明治三十七年七月 明治三十七年十月
元山 明治三十七年十一月 明治三十九年七月
城津 明治三十八年六月 同右
咸興 明治三十八年十二月 同右
（第一銀行営業報告書ニヨリ作製）
渋沢栄一 日記 明治三七年（DK160028k-0002）
第16巻 p.178-179 ページ画像
渋沢栄一日記 明治三七年 （渋沢子爵家所蔵）
三月十三日 雪
午前七時起床、昨日ト同シク褥中ニ起臥シテ書類ヲ閲ス、午前佐々木勇之助氏来話ス、篤ニ同伴ス、韓国ニ関スル貸借上ノ件、殖産会社発
- 第16巻 p.179 -ページ画像
起ノ件、電気鉄道ノ件、其他尾高次郎派遣ニ付テノ要務ヲ協議ス○下略
渋沢栄一書翰 木村雄次宛（明治三七年）一〇月三日（DK160028k-0003）
第16巻 p.179 ページ画像
渋沢栄一書翰 木村雄次宛（明治三七年）一〇月三日 （木村雄次氏所蔵）
○上略
韓国之当行事務ハ日を逐て増大と相成可申、既ニ此程目賀田顧問渡韓前も色々内談有之候義ニ付、右ニ付本月中旬ニハ佐々木支配人渡韓之筈ニ候間、貴店任務又ハ将来之施設ニ付而も能々同氏より御打合可申ニ付、貴方ニも夫々御立案被成置候様仕度候、釜山ハ京仁とハ交際向抔ニハ相省候事も可有之候得共、もし韓国徴税之取扱も其一部を当行ニ引受候様相成候ハヽ中々之心配と存候、右等ニ付而も銀行券流通之区域ハ精々拡張候様御尽力専一と存候、釜山ハ商業上も向後ハ弥増相進可申ニ付、是又相当之応援御工夫被成下度候、右等来状之拝答旁老生之近況申上度如此御坐候 不一
十月三日 渋沢栄一
木村雄次様
渋沢栄一書翰 佐々木勇之助宛（明治三七年）一一月二日（DK160028k-0004）
第16巻 p.179 ページ画像
渋沢栄一書翰 佐々木勇之助宛（明治三七年）一一月二日（佐々木勇之助氏所蔵）
明治卅 《（マヽ）》年十一月二日
○中略
一昨日阪谷より来書ニて韓国目賀田氏之書状内覧之為被相廻候、右目賀田氏書状之趣旨ハ、韓国貨幣問題等日本之新聞ニ彼是相論し候ハ同氏之経営ニ寧ロ妨害有之候間、可成丈ケ音も香もなき様いたし度、韓国之財政其他向後之施設ハ総而彼ニ於て困却之極其救済等申出候際ニ適宜之処置を為すを以て上乗とす、もし我より求むる之念相見候時ハ所謂勝手我儘之申出ニ相成、到底適当之施設を為し難く、故ニ第一銀行佐々木氏渡航之如きも或ハ時機尚早と存候、精々其辺御含被下度といふ意味ニて、阪谷も同意ニ付当方ニも注意を望むと申事ニ候間、老生より篤と弁解もいたし丁寧ニ答置候義ニ候、且貴兄此度之渡航ハ敢而韓国経営のミを意味せしニ無之、三十三年ニ老生渡航以来重役之出張無之ニ付、各支店之事務視察其他ニて罷越候次第ニて、決而第一銀行ハ事を急候意念抔無之、又新聞等ニ何等言動相試候事共無之旨申通置候、是又御含まて申上置候
○中略
渋沢栄一
佐々木勇之助様梧下
○下略
渋沢栄一書翰 木村雄次宛（明治三七年）一二月三一日（DK160028k-0005）
第16巻 p.179-180 ページ画像
渋沢栄一書翰 木村雄次宛（明治三七年）一二月三一日（木村雄次氏所蔵）
○上略
韓国各支店之業務ハ追々拡張いたし此上財政顧問抔之考案決定之上ハ中央銀行之位地ニ立候様ニも可相成、随而種々之用向も可相生と存候間、各地支店ともニ充分ニ御注意有之候様企望仕候、銀行券も弥増流通相増候様相成慶賀之事ニ候得共、何分印刷局之製造手間取候ニハ困却仕候、一方ニ好都合あれハ一方ニ色々之責任相生候ハ世間之状態免
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れさる次第ニて、既ニ貴地其外とも居留民公共之借用金被申込、昨日も本店ニて取調候処、低利ニて年賦貸と相成候高金三拾万円以上ニ相成候、其上十八銀行其外よりも所謂無心同様之申出有之、実ニ鬱陶敷次第ニ御坐候、右地方年賦貸之事ハ、自然御序之節領事抔へも当行ハ随分色々之負担有之と申事を知らせ置候必要可有之と存候、但右等之義者廉立候而ハ自慢ニ相聞ヘ却而不宜候ニ付、御注意之上程能場合ニ御話し置被成度と存候
佐々木氏貴地出張中ハ色々御心配被下候由、帰京後も不相替多忙精励罷在候、御省念可被下候
○中略
十二月三十一日 渋沢栄一
木村雄次様
拝復
〔参考〕明治三十七八年戦時財政始末報告 大蔵省編 第五〇一―五〇八頁（DK160028k-0006）
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明治三十七八年戦時財政始末報告 大蔵省編 第五〇一―五〇八頁
戦地ニ於ケル臨時軍事費仕払ノ方法トシテ軍用切符ヲ使用セリ、其金額ハ明治三十八年六月マテニ壱億四千六百八拾四万七千弐百六円六拾銭ナルモ、右ノ内回収高五千八百四拾五万九千弐百六円拾銭アルヲ以テ差引現在使用高八千八百参拾八万八千円五拾銭ナリ、其毎月末ニ於ケル使用高ハ左表○下表ノ如シ
軍用切符発行ノ趣旨及信用維持ノ方法等ニ付テハ以下各款ニ叙述スルカ如シ
軍用切符使用高表
月次 金額 円 明治三十七年 二月末 六六七、〇〇〇・〇〇〇 三月末 二、四五九、六〇〇・〇〇〇 四月末 四、三八五、八五一・七〇〇 五月末 六、五九六、七二七・七〇〇 六月末 八、五六三、五六五・六〇〇 七月末 一八、二三八、四七五・七〇〇 八月末 四一、七〇四、六五四・八〇〇 九月末 四九、六三七、七五七・四〇〇 十月末 五九、八七六、八八六・九〇〇 十一月末 六二、四七六、二三七・二〇〇 十二月末 五九、六〇九、八二七・一〇〇 明治三十八年 一月末 五八、六六九、七三三・四〇〇 二月末 六三、〇三二、四六六・一〇〇 三月末 七〇、一二五、六〇九・六〇〇 四月末 八九、七七一、二七三・六〇〇 五月末 八六、五五八、七一七・六〇〇 六月末 八八、三八八、〇〇〇・五〇〇
発行ノ趣旨
時局ニ際シ国費多端ニシテ海外ニ於ケル仕払モ亦巨額ニ上リ、正貨ノ
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需要頗ル多大ナルヘキヲ以テ、成ルヘク正貨ヲ節用シ、国庫ニ融通ヲ与フルト同時ニ、戦地ニ於ケル軍費仕払ノ便利ノ為メ軍用切符ヲ発行セリ、軍用切符ハ銀ノ流通スル地方ニ於ケル船・車馬・人夫賃其他ノ軍費ノ仕払ニ供スルヲ目的トスルモノニシテ、円銀ト引換フルモノナリ、又軍用切符ハ予算ノ範囲内ニ於テ軍費仕払ノ一方法トシテ発行セル仕払証憑ニ過ギスシテ、之ヲ以テ国債ヲ起スモノニ非ス、又歳入トシテ決算スルモノニモ非サルナリ
種類・発行高及仕払高
軍用切符ノ種類ハ拾円・五円・壱円・五拾銭・弐拾銭・拾銭ノ六種ニシテ、当初約壱億円ヲ標準トシ、之ヲ運転使用スルノ予定ナリシモ、其後時局ノ発展ニ伴ヒ発行高ヲ増加セリ、而シテ当初ヨリ明治三十八年六月末ニ至ル製造高ハ左表ニ示スガ如シ
種類 枚数 金額 枚 円 拾円 四、六二二、一〇〇 四六、二二一、〇〇〇 五円 八、六一六、〇〇〇 四三、〇八〇、〇〇〇 壱円 二八、六八〇、〇〇〇 二八、六八〇、〇〇〇 五拾銭 三二、四五〇、〇〇〇 一六、二二五、〇〇〇 弐拾銭 七、六二〇、〇〇〇 一、五二四、〇〇〇 拾銭 四八、一五〇、〇〇〇 四、八一五、〇〇〇 合計 一三〇、一三八、一〇〇 一四〇、五四五、〇〇〇
右製造高ハ出来ニ随ヒ仕払元トシテ金庫ヘ交付スルモノニシテ、右製造高及一度発行セシモノヽ回収高ノ内、明治三十八年六月末迄ニ陸海軍出納官吏ヘ交付セシ高ハ左ノ如シ
軍用切符交付高調
一金壱億四千四百八万六千参百参拾六円七拾銭
出納官吏ヘ交付高
一金弐百七拾六万八百六拾九円九拾銭
金庫ニテ交換出納官吏ヘ交付高
計金壱億四千六百八拾四万七千弐百六円六拾銭
信用維持ノ方法
軍用切符ノ信用ヲ維持シ流通ヲ円滑ナラシメンカ為メ、各地軍金櫃部及牛荘正金銀行支店ニ於テハ之ヲ円銀ト交換シ、内地指定ノ金庫及韓国金庫派出所ニ於テハ大蔵大臣所定ノ円銀ノ時価ニ依リ之ヲ通貨ト交換シ、満洲金庫派出所ニ於テモ、本邦又ハ韓国等ニ入リ通貨ヲ使用セントスル目的ノ為メニスル者ニ対シテハ之ヲ通貨ト交換セリ、又野戦郵便局並ニ北清及韓国ニ在ル本邦普通郵便局ニ於テモ軍用切符ヲ受入ルヽノ外、牛荘・大連ニ在ル横浜正金銀行支店・出張所、安東県ニ在ル第一銀行出張所ニ於テハ本邦並ニ上海・天津・芝罘向為替ニ、奉天ニ在ル横浜正金銀行出張所ニ於テハ上海・天津向為替ニ、芝罘ニ在ル横浜正金銀行出張所ニ於テハ本邦・上海向為替ニ軍用切符ヲ受入レ、又牛荘・大連・遼陽・奉天・天津・芝罘等ニ在ル横浜正金銀行支店・出張所ニ於テハ軍用切符ヲ預金ニ受入ルヽコトヽセリ、而シテ戦地ニ於ケル我官憲ハ勿論満洲ニ於ケル清国官憲ニテモ諸種ノ公納ニ軍用切
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符ヲ使用セリ、初メハ人民未タ軍用切符ノ性質ヲ理解セサリシカ為メ多少流通円滑ナラサル地方アリシモ、漸次其性質周知セラルヽト連戦連勝ノ結果我軍ノ威望発揚セルトニ伴ヒ、軍用切符ノ信用ハ著々其基礎ヲ得、目下ハ円銀ト殆ト並価ヲ以テ円満ニ流通シツヽアリ
今明治三十八年六月末ニ於ケル軍用切符ノ収支及流通高並ニ其回収高ノ概況ヲ示セハ左ノ如シ
明治三十八年六月末軍用切符収支及流通高概況調
一金壱億四千五拾四万五千円 発行高
一金五千八百四拾五万六千四百五拾四円六拾銭 金庫交換受入高
一金参千九百参拾参万九千参百八拾壱円四拾銭 雑部金受入高
一金参千弐百五拾壱円五拾銭 歳入及保管金供託金
計金弐億参千八百参拾四万四千八拾七円五拾銭
内
金五千五百五拾八万参千弐百九拾五円弐拾銭 金庫現在高
金参千五百九拾壱万参千五百八拾五円七拾銭 雑部金払出高
金壱億四千四百八万六千参百参拾六円七拾銭 前渡官吏ヘ交付高
金弐百七拾六万八百六拾九円九拾銭 同金庫ニテ交換交付高
計金弐億参千八百参拾四万四千八拾七円五拾銭
右ニ対シ流通高ノ概況左ノ如シ
一金壱億四千六百八拾四万七千弐百六円六拾銭 前渡官吏ヘ交付高
内
金五千四百参拾参万五百円五拾銭 市場流通高
金弐千九百五万七千円 前渡官吏保管高
金五百万円 回送中ノ高
金五千八百四拾五万九千七百六円拾銭 金庫交換受入高及歳入金等
備考
前渡官吏保管高及回送中ノ高ハ陸軍省調ニ、其他ハ国庫簿ニ依ル
発行ノ利益
軍用切符発行ノ利益ハ発行ノ目的ニ依リテ自ラ明カナリ、即チ其一ハ正貨ノ節用ニ在リ、正貨準備ヲ充実シテ財政経済ノ基礎ヲ鞏固ナラシムルコトハ国家ノ存立及発達上最大要務ノ一ニシテ殊ニ戦時ニ於テ然リトス、蓋正貨ニ対スル時局ノ要求ハ頗ル巨額ナルヘキヲ以テ、成ルヘク之ヲ節用シテ正貨準備ノ根帯ヲ傷害セサラシメサルヘカラス、軍用切符ノ使用ハ、正貨ノ支出ヲ猶予シ軍資金ノ運用力ヲ増加シ国庫ノ融通ニ資スル所甚ダ多シ、其二ハ啻ニ正貨ノ支出ヲ猶予スルノミナラス、猶予期間ノ利子ヲ利益スルニ在リ、何トナレハ若シ軍用切符ヲ使用セスシテ兌換券其他硬貨ヲ使用ストセハ、之ヲ借入レテ利子ヲ仕払ハサルヘカラサルカ故ナリ、其三ハ兌換券ノ増発ヲ避クルニアリ、若シ軍用切符ヲ使用セストセハ若干ノ兌換券ヲ使用セサルヘカラス、兌換券ノ増発ハ直接ニ貨幣制度ニ影響スルノミナラス、多額ノ兌換券増発ハ経済上ノ変象トシテ自然市場ノ感覚ヲ動揺スルニ至ルヘシ、故ニ貨幣制度ト独立シテ別ニ軍用切符ヲ発行シ、戦況ノ一消一長ニ依リテ幣制ニ何等ノ感動ヲ及ホサヽラシムルコト最モ必要ナリトス、其四ハ戦地ニ於ケル軍費仕払ノ便利ニアリ、若シ一々硬貨ヲ以テ仕払ヲ為ス
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トキハ運搬保管出納等ニ労力・時間・経費等ヲ要スルコト甚タシク、軍用切符ヲ以テスルノ軽便敏捷ナルニ如カサルコト固ヨリ明カナリ
〔参考〕明治三十七八年戦時財政始末報告 大蔵省編 第五一二頁（DK160028k-0007）
第16巻 p.183 ページ画像
明治三十七八年戦時財政始末報告 大蔵省編 第五一二頁
軍隊ノ行動ニ伴ヒ軍資金ノ交付・保管及回送等ヲ便利ナラシムルハ作戦上最モ重要ナリトス、乃チ時局ノ発展ト戦線ノ拡張トニ伴ヒ、機宜ニ応シ緩急ヲ図リ、満韓各要地ニ中央金庫派出所ヲ設置シ、軍隊ノ活動ヲ援助セリ
派出所ノ事務
初メ我軍ノ韓国ニ上陸スルヤ、軍用切符ヲ使用セシヲ以テ、同地第一銀行支店・出張所ヲシテ軍隊使用ノ軍用切符ト通貨トノ交換ニ関スル事務ヲ開始セシメシト雖モ、戦局ノ発展ニ伴ヒ、之ヲ中央金庫派出所トシ、其他漸次満韓枢要ノ地ニ中央金庫派出所ヲ増設シ、戦地ニ必要ナル経費金ノ仕払、軍隊出納官吏保管金ノ出納及回送ハ勿論、経費戻入金ノ受領、其他特定ノ金庫ニ於テハ歳入金ノ受領及軍用切符ト通貨トノ交換等ニ関スル事務ヲ取扱ハシムルコトヽセリ