デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治29年3月12日（1896年）

是日栄一当会議所会頭トシテ、先ニ農商務省商工局長ヨリ照会アリタル海外直輸出入業ニ関スル件ニ就キ、調査結果ヲ同省商工局長安藤太郎ニ回報ス。

東京商業会議所月報　　第二八号・第二頁　明治二七年一二月
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○同月　○一一月二十八日、海外直輸出入ニ関スル儀ニ付、農商務省商工局長ヨリ照会書ヲ接受ス（照会書ノ全文ハ参照ノ部第二号ニ掲載ス）

東京商業会議所月報　　第二八号・第四頁　明治二七年一二月
○参照第二号
　十一月二十八日、海外直輸出入ニ関スル儀ニ付、農商務省商工局長ヨリ接受シタル照会書ハ左ノ如シ
海外直輸出入ノ発達ヲ揆図スルハ本邦商業上頗ル緊要ノ件ニ有之、就テハ左記ノ事項参考上必要ニ付貴所ノ詳査報告ヲ得度、大臣ノ命ニ依リ此段及御照会候也
　　明治二十七年十一月二十七日
　　　　　　　　　　　　　農商務省商工局長　若宮正音
　　　　東京商業会議所会頭　渋沢栄一殿
　　　　　　記
一明治初年已来欧米諸国直輸出入業ニ従事シタル会社・組合又ハ一個人ノ名称、其輸出物品ノ種類・資本額・輸出先及販売取引ノ方法
二右直輸出入者ニ於テ為替・倉庫・保険・運輸等ニ関シ各其取リタル手段方法
三各直輸出入業者着手年月、現時継続ノ有無、廃業シタル者ニ付テハ其事由
四海外直輸出入業ノ困難ニシテ発達ヲ障碍スル重ナル原由
五直輸出入業ノ発達ヲ援助スヘキ為メ将来ニ於テ開発スヘキ事項

東京商業会議所月報　　第二九号・第二頁　明治二八年一月
○同月　○明治二七年一二月十二日午後五時、本会議所事務所ニ於テ役員会議ヲ開キ、農商務省ヨリ照会ニ係ル海外直輸出入ニ関スル件及ヒ臨時会議開会準備ノ件等ヲ審議シ、午後七時四十分閉会ス

第四回東京商業会議所事務報告　　第三三―三四頁　明治二八年四月刊
一海外直輸出入ニ関スル儀ニ付、農商務省商工局長ヨリ照会ノ件
　本件ハ明治二十七年十一月二十七日附ヲ以テ若宮商工局長ヨリノ照会ニ係リ、其要旨ハ明治初年已来欧米諸国直輸出入業ニ従事シタル会社・組合又ハ一個人ノ名称、其輸出物品ノ種類・資本額・輸出先又販売取引ノ方法其他四項ニ付、本会議所ノ調査報告ヲ得タシト云フニ在リ、依テ其後商業部ニ調査ヲ附託シ、目下同部ニ於テ調査中ニ付追テ報告ヲ得タル上回報スル見込ナリ

東京商業会議所月報　　第四一号・第二頁　明治二九年一月
○同月　○明治二八年一二月二日午後五時、本会議所事務所ニ於テ商業部会ヲ開キ、直輸出入業ニ関スル件ヲ審議シ、午後七時二十分閉会ス

東京商業会議所月報　　第四四号・第二六―二七頁　明治二九年四月
○三月九日、本会議所事務所ニ於テ第五十回臨時会議ヲ開ク、当日ノ出席者ハ左ノ如シ
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　加東徳三君　○外二十四名氏名略
午後五時四十分開議、副会頭大江卓君議長席ニ着キ、左ノ件々ヲ議事ニ附シ、午後八時二十分閉会ス
○中略
　一、海外直輸出入ニ関スル儀調査報告ノ件（商業部提出）
本件ハ全会一致ヲ以テ原案ニ可決ス

東京商業会議所月報　　第四四号・第二九頁　明治二九年四月
○同月　○三月十二日、海外直輸出入業ニ関スル儀ニ付、農商務省商工局長ヘ答申書ヲ差出ス（答申書ノ全文ハ参照ノ部第九号ニ掲載ス）

東京商業会議所月報　　第四四号・第三八―四二頁　明治二九年四月
○参照第九号
　三月十二日、海外直輸出入業ニ関スル儀ニ付、農商務省商工局長ヘ差出シタル答申書ハ左ノ如シ
先般御照会有之候海外直輸出入ニ関スル件遂調査候処、其結果別紙ノ通リニ之有候間、此段御回報申上候也
　　明治二十九年三月十二日
　　　　　　　　　　　　東京商業会議所会頭　渋沢栄一
　　　　農商務省商工局長　安藤太郎殿
（別紙）
（一）明治初年已来欧米諸国直輸出入業ニ従事シタル会社・組合又ハ一個人ノ名称、其輸出物品ノ種類・資本額・輸出先及販売取引ノ方法
（二）右直輸出入業者ニ於テ為替・倉庫・保険・運輸等ニ関シ各其取タル手段方法
（三）各直輸出入業者着手年月、現時継続ノ有無、廃業シタル者ニ付テハ其事由
　　　明治初年以来東京市内ニ於テ欧米諸国直輸業ヲ営ミタル重ナル当業者ノ名称、其輸出物品ノ種類・資本額・輸出先・販売取引ノ方法其他ノ事項ハ左ノ如シ

（四）海外直輸出入業ノ困難ニシテ発達ヲ障害スル重ナル原因
　（一）我国ノ資本家概シテ外国貿易ニ放資スルヲ好マサルコト
　　　外国貿易ハ一積冒険ノ性質ヲ帯フルヲ以テ、我国ノ資本家ハ概シテ其資本ヲ之ニ注入スルヲ避クルノ実況アリ、是ヲ以テ偶々有為ノ商人カ奮テ直輸業ニ従事スルモ、資本供給ノ道充分ナラサルヨリ外商ト并駛シテ機先ヲ制スルコト能ハサルノ憾アリ、是我直輸業ノ発達ヲ障害スル一原因ナリトス
　（二）我国ノ金利欧米諸国ニ比シテ不廉ナルコト
　　　外国貿易ハ之ヲ内地ノ商業ニ比スレハ常ニ巨額ノ資金ヲ要スルヲ以テ、之ニ伴フ金利ノ高低ハ直接ニ当業者ノ利害ニ関スルコト大ナリ、況ンヤ金利ノ最モ低廉ナル外国ノ商人ト頡頏シテ輸贏ヲ決スルニ於テオヤ
　　　今彼我金利ノ割合ヲ見ルニ外国ノ金利ハ少キハ三・四朱ヨリ多キモ六朱ニ過キス、然ルニ我国ノ金利ハ少キモ七・八朱ノ問ニ在リ（正金銀行ノ如キ為替手形支払期日迄ハ六朱トナスノ便アリト雖トモ、其已後尚金融ヲ得ントスルニハ普通ノ利率ニ依ラサルヘカラス）彼我ノ差斯ノ如クナルヲ以テ我直輸業者ハ此点ニ於テ商利上大ニ困難ヲ感スルコト尠カラス、殊ニ金額ノ巨多
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ナル商品ニ就テハ一層甚シトナス、是亦我直輸業ノ発達ヲ障害スル一大原因ナリトス
　（三）当業者海外ノ商情ニ暗キコト
　　　我国商人ノ直輸業ヲ営ム者ハ多クハ彼地ノ商情ニ通暁セサルヲ以テ、最モ機敏ナル外国商人ト商機ヲ争フコト能ハス、常ニ商権ヲ彼ニ奪ハレ其ノ為ス処ニ摸倣スルカ如キ傾アリ、是亦我直輸業ノ困難ニシテ発達セザル一大原因ナリト云フベシ
　（四）我国製品ノ一定セサルコト、並ニ濫造ノ弊アルコト
　　　我国ノ製品ハ区々ニシテ一定セズ且濫造ノ弊アルヲ以テ、取引上当業者ノ困難尠カラズ、外国商人ハ其ノ不規則ナルヲ見テハ猶予ナク直押ヲ試ミ、共価格ヲ低下セシムルノ便アリト雖トモ我国商人ト生産者トノ間ニ於テハ情実ニ泥ミ外国商人ノ如ク刻薄ナル働キヲ為シ得難キヲ以テ、之ガ為メ往々損失ヲ醸スコトアルノミナラス、信用ヲ傷ヒ声価ヲ損シ一般取引上ニ影響ヲ及ホスコト亦鮮少ナラズ、是啻ニ直輸業ノ発達ヲ障害スル原因ナルノミナラズ、延テ一般外国貿易ノ進歩ヲ障害スルモノト云フベシ
（五）直輸出入業ノ発達ヲ援助スベキ為メ将来ニ於テ開発スヘキ事項
　（一）領事館ヲ増設シ領事ノ任用ニ一層ノ注意ヲ加フルコト
　　　外国市場ニ進入シテ取引ヲ営ム者ハ最モ領事ノ保護ヲ蒙ラザルベカラズ、而シテ領事ノ報告ハ尚羅針盤ノ如ク、依テ以テ商機ヲ定メザルベカラズ、然ルニ将来必要ノ貿易地ニシテ未ダ領事館ノ設置ナキモノアリ、又領事中実際ニ於テ彼我ノ商情ニ通暁セザル者ナキニシモアラス、随テ其着眼貿易ノ肯綮ニ当ラズ、其調査報告スル所ノモノ当業者ニ取リテ有要ナル参考トナルベキモノ少カリシハ最モ遺憾トスル処ナリ、且其給スル処ノ手当ノ如キモ甚タ薄クシテ、汎ク手ヲ商海ニ延ハシ進ンテ精密ナル調査ヲ遂クルノ資力ニ乏キノ憾ナキ能ハス、故ニ今後必要ノ貿易地ニ領事館ヲ増設シ一層領事ノ任用ニ注意シ、且其手当ノ如キモ充分ナル供給ヲナシテ其職責ヲ全クセシメンコトヲ望ム、是大ニ直輸業ノ開発ヲ援助スルノ効アルベシ
　（二）貿易ノ機関タル銀行ヲ増設シテ大ニ金融ノ便ヲ開クコト
　　　我直輸業者ノ金融機関タルモノハ唯一ノ正金銀行アルノミニシテ、未タ当業者ニ充分ノ便利ヲ与フルニ足ラス、金融機関ヲシテ完備セシメンニハ更ニ貿易ノ機関タル有力ノ銀行ヲ増設シ、正金銀行同様ノ便利ヲ与ヘ、両者ヲシテ相竢テ金融ノ便ヲ達セシメハ、其結果競テ当業者ノ便利ヲ図リ、且ツ金利モ亦能フ限リノ程度ニ迄低下スルニ至ラン
　　　又金銀ノ比価時々変動スルカ為メ、我直輸業者カ外国ヨリ商品ヲ仕入ルヽニ当リ予メ其仕入直段ヲ算定スルヲ得ス、随テ其取引ノ際違算ヲ生スルノ恐アリ、是当業者ノ大ニ困難ヲ感スル所ナリ、故ニ今後貿易ノ機関タル銀行ヲシテ海外諸国ニ対スル為換売買ヲ外国銀行ノ如ク取扱ハシメ、以テ我直輸業者ヲシテ取引上ノ安固ヲ得セシメンコトヲ望ム
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（三）外国ノ商情ニ通暁スル人ヲ養成スルコト
　　　我直輸業ノ発達セサルハ海外ノ商情ニ通暁スル人ニ乏キコト其一原因ナルヲ以テ、先ツ普通商業上ノ智識ヲ具ヘ且直輸業ヲ以テ身ヲ立テントスルノ人ヲ撰定シ、相当ノ保護ヲ加ヘテ之ヲ前途有望ノ海外市場ニ派遣シ、或ハ彼地商家ニ住込テ其実地ヲ練習セシメ、其地取引ノ模様、商業期節、需要嗜好ノ趨勢ヨリ、人情・風俗・習慣・法制等ノ細事ニ至ル迄能ク諸般ノ事実ヲ詳知セシメ、他日直輸業ヲ営ムニ方リ外国ノ商人ト比シテ相譲ラサル人ヲ養成スルコト最モ必要ナリト信ス
　（四）税関ノ規模ヲ拡張スルコト
　　　今ノ税関ハ往時我国ノ貿易極メテ幼穉ナル時ノ設備ニ係ルカ故ニ、今日ニ於テハ其規模狭小ニシテ貿易ノ実際ニ適応セサルノ憾アリ、例ヘハ上屋ニ於ケル荷物引渡時間ノ短ニ過クルカ如キ又ハ借庫倉敷料ノ高ニ失スルカ如キハ当業者ノ最モ不便ヲ感スル所ニシテ、特ニ輸入品ヲ再輸出セントスル揚合ニ於テハ其不便一層甚シキモノアリ、故ニ今後大ニ税関ノ規模ヲ拡張シテ上屋及借庫ニ増築ヲ加ヘ、相当ノ程度ヲ斟酌シテ荷物引渡時間ヲ延長シ、且ツ倉敷料ヲ低減シ、以テ当業者ノ便利ヲ達センコトヲ望ム
　（五）政府ニ於テ購入スル外国品ハ可成我国商人ノ手ニ託スルコト並ニ其購入手続キヲ簡易ニスルコト
　　　外国ニ於テハ政府ノ需用品ハ其国ノ商人ヲシテ之ヲ取扱ハシメ暗ニ自国ノ商業ヲ保護助成スルノ傾アリト雖モ、我国ニ於テハ然ラス、動モスレハ内商ヲ疎ンシ信ヲ外国ニ措クモノヽ如ク、内商ニシテ海外ニ支店ヲ置キ相応ノ信用ヲ有スル者アルニ拘ハラス、外国品ハ多ク之ヲ外商ニ託スルノ風アリ、故ニ其弊ノ及ホス処外国ニ於テ数十年来大ニ発達シタル商業代理ノ制、即チ「エジエンシー」ノ如キモ之ヲ我国ノ商人ニ託スルモノ少ク、多クハ之ヲ居留外商ニ託スルニ至ル、是実ニ我直輸業ノ発達ヲ障害スル一原因ナレハ、今後政府ノ購入品ハ可成之ヲ我商人ニ託スルノ方針ヲ取ラレンコトヲ希望ス、斯クノ如クニシテ漸次取引ヲ拡張スルニ至ラハ彼ノ商業代理人ノ如キモ遂ニ我商人ニ託スルニ至ルヘク、其結果ハ我直輸業ノ発達ヲ助クルコト実ニ鮮少ナラサルナリ
　　　又従来政府ノ購入手続ハ頗ル煩雑ニシテ、其受負者ニ対スル契約ノ如キモ徒ラニ条件ヲ付シ、当業者ヲシテ不便ニ苦マシムルモノ少カラス、此際政府ハ実際ノ事情ヲ調査シテ其購入手続ヲ簡易ニシテ、以テ直輸業者ヲ奨励扶掖スルコト亦必要ト信スルナリ
　（六）海運事業ヲ拡張スルコト
　　　海運事業ヲ拡張スルハ直輸業ノ発達ヲ援助スルノ一要策タルコト固ヨリ喋々ヲ要セス、而シテ此事ニ関シテハ本会議所定論ノ在ルアリ、已ニ其方法ヲ規画シテ当局者ニ建議シタルヲ以テ今玆ニ贅セス
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　（七）商品陳列所ヲ設置シテ内外品ノ見本ヲ当業者ニ縦覧セシムルコト
　　　内外品ノ見本及材料、調査報告書、製造所ノ模様並ニ統計等ヲ当業者ニ縦覧セシムルコトハ、彼我ノ嗜好及需用供給ノ如何ヲ知ラシメ、我貿易ノ発達ヲ促カスカ為メ最モ必要ナルヲ以テ、適当ノ場所ヲ撰ヒテ商品陳列所ヲ設置シ、汎ク当業者ヲシテ縦覧セシメンコトヲ望ム、然ルトキハ之カ為メ生産者ヲ奨励シ、当業者ニ便益ヲ与フルコト蓋シ鮮少ナラサルヘシ
　（八）我製品ヲ斉一ニシテ且濫造ノ弊ヲ矯ムルコト
　　　我製品ノ均一ヲ欠キ且濫造ノ弊アリテ往々商品ノ声価ヲ失墜スルコトアルハ已ニ述フルカ如クナルヲ以テ、適当ナル取締方法ヲ設ケ、品質ノ粗悪ヲ防キ製品ノ一定ヲ力ムルコト亦貿易ノ発達上必要ト信スルナリ

第六回東京商業会議所事務報告　　第一二―一六頁　明治三〇年四月刊
一海外直輸出入業ニ関スル義ニ付、農商務省商工局長ヘ回報ノ件
　本件ハ前々回ニ報告シタル如ク農商務省商工局長ヨリノ照会ニ係リ商業部ニ於テ調査中ノ処、其後同部ニ於テ調査ノ末報告シタルニ付之ヲ明治二十九年三月九日第五十回ノ臨時会議ニ附シ其可決ヲ得、同年三月十二日附ヲ以テ左ノ如ク同局長ヘ回報セリ
　　　○回報文ハ月報所載ノモノト同一ニツキ略ス。
　　　○東京商業会議所会頭トシテ栄一ノ建議セシ八項目ニ亘ル貿易発展策ニ対シ政府ノ採用セシ対策ハ凡ソ次ノ如シ。
　　　一、領事館ヲ増設シ領事ノ任用ニ一層ノ注意ヲ加フルコト
　　　　此建議ニヨリ政府ガ特ニ領事館ノ増設ニ意ヲ用ヒタリヤ否ヤハ不明ナレドモ、事ノ実際ニ於テハ領事館ハ当時急速ニ増加シツヽアリ。試ミニ明治二十五年当時ノ在外領事館ヲ明治三十六年ノソレニ比較スルト次ノ如シ。

　　　　　　　　　明治二十五年　　　　　　　　　　明治三十六年
　　　　韓国　　釜山・元山・仁川・京城　　　　釜山・元山・仁川・京城・木浦・鎮南浦・馬山
　　　　清国　　上海・天津・芝罘・漢口・福州　上海・天津・厦門・芝罘・漢口・蘇州・杭州・沙市・福州
　　　　英領　　香港・新嘉坡　　　　　　　　　香港・新嘉坡・孟買
　　　　濠州　　――　　　　　　　　　　　　　シドニー・タウンスヴヰール
　　　　比律賓群島　――　　　　　　　　　　　マニラ
　　　　露国　　薩吟嗹島哥爾薩港　　　　　　　オデツサ・薩吟嗹島哥爾薩港
　　　　米国　　紐育・桑港・布哇ホノルル　　　紐育・桑港・シヤトル・シカゴ・布哇ホノルル
　　　　英国　　倫敦　　　　　　　　　　　　　倫敦
　　　　仏国　　里昂　　　　　　　　　　　　　里昂
　　　　白国　　――　　　　　　　　　　　　　アンヴエルス
　　　　墨国　　墨西哥　　　　　　　　　　　　墨西哥
　　　　伯国　　――　　　　　　　　　　　　　リオデヂヤネーロ
　　　　加奈陀　――　　　　　　　　　　　　　モントリール・晩香坡

　　　　　備考　明治二十五年ノ分ハ「明治宝鑑」ニ、三十六年ノ分ハ鶴見左吉雄著「日本貿易史綱」ニヨル、名誉領事ノ設置サレシ地方ヲ除ク。
　　　　領事任用問題ニ関聯シテ特ニ注目スベキハ商務官ノ設置ナリ。農商務省ハ民間側ノ輿望ニ基キ常ニ海外ニアリテ商工業ニ関スル調査報告ヲ専掌スル官吏ノ設置ヲ企画シ、明治三十四年九月商工事務官設置ヲ計画セシ
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ガ、不成立ノマヽ約十年ヲ経過シ、明治四十三年七月ニ至リ初メテ外務省所管ニ属スル商務官官制ヲ発布セリ。商務官ハ定員四名、外務大臣ノ指揮監督ヲ受ケ、海外貿易ノ調査ニ関スル事務ヲ掌ルヲ任トシ、相当ノ成績ヲ挙ゲ業界ヲ裨益スルトコロ少ナカラザリシト言ハル。（「日本貿易史綱」第四一六―四一九頁）
　　　二、貿易ノ機関タル銀行ヲ増設シテ大ニ金融ノ便ヲ開クコト
　　　　建議ノ趣旨ハ実現セズ。当会議所ハ其後モ明治二十九年十二月十六日、同三十二年一月十九日、同三十四年十一月八日ノ三回ニ亘リ本件ニ関シ建議シ、商業会議所聯合会モ明治二十九年四月二十五日、同三十四年九月十五日、同三十五年十二月九日ノ会議ニ於テ、本件ヲ討議又ハ議決セリ。政府モ明治二十九年十月農商工高等会議ニ対シ貿易ヲ拡張スルガ為メ海外金融機関ノ設備ヲ計ル方法如何ヲ諮問セシガ、遂ニ正金銀行以外ニ貿易機関タル銀行ヲ設置セザリキ。
　　　三、外国ノ商情ニ通暁スル人ヲ養成スルコト
　　　　政府ハ海外貿易拡張費ヲ以テ明治二十九年以来実業練習生並ニ商況視察員ヲ海外ニ派遣セリ。詳細ニ就イテハ後掲ノ農商務省商工局長木内重四郎ノ演説参照。
　　　四、税関ノ規模ヲ拡張スルコト
　　　　税関拡張策トシテ会議所ノ建議シタルハ上屋及借庫ノ増築、荷物引渡時間ノ延長、倉敷料低減ノ三項ナリシガ、横浜港ニ就イテミルニ、官営借庫ハ其後モ増築サレザリシモノノ如クナルガ、明治三十年政府ハ保税倉庫法ヲ制定シ、官設保税倉庫一棟、私設保税倉庫三棟ヲ設置セリ。上屋モ官設ノモノハ増築セザリシガ、私設ノ上屋ハ明治三十年マデニ三棟ヲ増加シ、明治三十一年ニハ輸入棉花陸揚倉庫一棟ヲ設置セリ。（「横浜開港五十年史」下巻）荷物引渡時間ノ延長、倉敷料ノ低減ニ関シテハ資料不備ノ為メ明カナラズ。
　　　五、政府ニ於テ購入スル外国品ハ可成我国商人ノ手ニ託スルコト並ニ其購入手続ヲ簡易ニスルコト
　　　　右ニ関シテハ資料不備ノ為メ明ラカニスルヲ得ズ。
　　　六、海運事業ヲ拡張スルコト
　　　　右ニ就イテハ本資料第二十巻所収「東京商業会議所」明治二十八年八月十七日ノ条参照。
　　　七、商品陳列所ヲ設置シテ内外品ノ見本ヲ当業者ニ縦覧セシムルコト
　　　　政府ハ海外貿易拡張費ヲ以テ、明治二十九年以来海外ニ商品陳列所ヲ設置セリ。詳細ニ就イテハ後掲セル農商務省商工局長木内重四郎ノ演説参照。
　　　八、我製品ヲ斉一ニシテ且濫造ノ弊ヲ矯ムルコト
　　　　右ニ関シテモ資料欠除ノ為メ明瞭ナラズ。

明治三十二年十月開設
第八回商業会議所聯合会議事速記録　　第一七三―二〇〇頁　刊
明治三十二年十月十六日午前十時二十分開議
　　　　出席委員　　四十七名　○氏名略
○上略
○商工局長（木内重四郎君）　此度各地ノ商業会議所ノ方々ガ当所ニ御会同ニ相成リマシテ経済上重要ナル事項ヲ御討議ニ相成リマスルニ付キマシテハ、私共ハ最初カラ此方ニ罷リ出デヽ御意見ヲ承リマシタナラバ職務上有益ナル智識ヲ得ルコトデアラウト信ジテ居リマス、然ルニ最初ニ当ツテ中野サンマデチヨツト御断リ申上ゲマシタ通リ近頃
 - 第21巻 p.26 -ページ画像 
非常ニ取込ンダ緊急ノ用事ガ多クアリマシタ為ニ二日程不参ヲ致シマシタノハ誠ニ残念ノ次第デアリマス、今日ハ幸ニ罷リ出ルコトガ出来マシタノデ十分諸君ノ御意見ヲ承ハルコトガ出来ヤウト思フテ喜ンデ居リマス、其前ニ何ナリトモ私ニ演説ヲスルヤウニト云フ御話ガアリマシタノデ、差向キ現ニ自分ノ主管事項デアル事柄、且農商務省ノ仕事トシテハ実業振興ニ最モ重大ナル関係ノアル事項即チ海外貿易拡張費ヲ以テ支弁スル事柄ヲ御報告致サウト思ツテ居リマス、実業振興ノタメニ設置セラレタル公益機関タル商業会議所、海外貿易拡張費ニ関シテハ熱心ナル同情ヲ有シテ居ラルヽ商業会議所、其代表者タル諸君ノ御集リノ席上ニ於テ私ガ明治二十九年以来農商務省ガ海外貿易拡張費ヲ以テ経営シ来ツタ事柄ノ顛末ヲ説明致スコトハ必ズシモ無益ノコトデナカラウト思ツテ居リマス、殊ニ私ハ皆サンニ向ツテ希望致シマスルノハ従来ノ施設中其不適当ト認ムル所ハ遠慮ナク充分ニ御忠告ヲ願ヒマスルシ、且ツ親切ニ改良ノ方法ヲ御示シ下サルコトヲ希望致シマスル、又其適当ト御認メニナツタ事柄ニ向ツテハ尚ホ既往ニ於ケルガ如ク、将来ニ於テモ直接間接ニ力ヲ添ヘテ其実効ヲ挙ゲル事ニ御尽力アランコトヲ希望致シテ置キマス、此海外貿易拡張費ハ明治二十九年度カラ始メテ起リマシタノデ、金子堅太郎サンガ農商務次官デアツタ時デアリマス、当時実業家ノ賛成モアリ又両院ノ協賛ガアリマシテ此最モ必要ナル費用デアルト私共ガ考ヘテ居ル所ノ拡張費ガ生ジマシタノデス、ソレ以来本年度ニ至ルマデ四ケ年間仕事ヲ継続致シテ居リマス、其仕事ハドウ云フコトヲシテ居ルカト申シマスルニ第一ニハ農商工高等会議ヲ開クコト、第二ニハ実業練習生ヲ海外ニ派遣スルコトデアリマス、第三ニハ商況視察員ヲ海外ニ派遣スル事デアリマス、此商況視察ニ付テハ或ハ農商務省ナリ若クハ他ノ役所ナリノ官吏ヲ派遣スルコトヽ民間ノ実業家ヲ派遣スルコトヽ二色ニナツテ居リマス、次ギニハ海外ニ商品陳列所ヲ設置スルコトデアリマス、次ニハ諸般ノ報告ヲ印刷シテ当業者ニ配付スルコト及ビ極ク急ナルモノハ電信ヲ以テ海外カラ報告ヲ得テ之ヲ当業者ニ知ラシムルコト、之ハ調査報告ト云フ項目ニナツテ居リマス、其次ニハ工芸試験費デアリマス
農商工高等会議ハ二十九年ノ四月ニ始メテ規則ガ出来マシテ、其第一回ハ二十九年ノ十月ニ開キマシタ、ソレカラ第二回ハ翌三十年ノ三月ニ開キマシタ、サウシテ三十年ノ六月ニナツテ更ニ規則ヲ改メマシテ第三回ノ会議ハ昨三十一年ノ十月ニ開キマシタ、色々重要ナル問題ガ数多クアリマシタ、議員ハ総テ熱心ニ御討論ガアツテ吾々ニ最モ有益ナル智識ヲ与ヘタノミナラズ、政府ノ商工業ニ対スル政策ヲ決スル上ニ於テ少ナカラヌ稗益ヲ与ヘタコトヽ思ツテ居リマス、併シ此事ハ三十年ノ六月ニ規則ヲ改正シテ、従前ハ海外貿易ニ関スル事項ヲ審議スル諮問府デアリマシタガ、其後ニハ総テ農商工ニ関スル総テノ重要ナル事項ヲ諮問スル機関トナリマシタニ付テ、自カラ海外貿易拡張費ヲ以テ其費用ヲ支出スルノハ不都合デアルト云フコトニナリマシテ別ノ費用ニナリマシタ
次ニ拡張費ヲ以テ支出シ来ツタ事項ハ実業練習生ノ養成デアリマス、凡ソ実業ノ発達ニ付テハ色々ノ要素ノアルコトハ申スマデモナイコト
 - 第21巻 p.27 -ページ画像 
デアリマスガ、最モ今日ノ急務トスル所ハ人材ノ養成デアラウト思ツテ居リマス、ソレニハ商業ニアレ工業ニアレ、其中ノ各種ノ事業ニ付テ専門ノ智識アル者ヲ養成スルコトニ致サナケレバ将来ノ発達ハ期ス可ラザルコトデアルト云フ趣意デ、実業練習生ト云フ事柄ガ起ツタノデアリマス
マヅ其人数ヲ申シマスルト二十九年度ニ十人程派遣ヲ致シマシタ、三十年度ニ三人、三十一年度ニ六人、三十二年即チ本年度ニ至リマシテ大ニ増加ヲシテ二十八人程派遣ヲ致シマシタ、即チ二十九・三十・三十一、三箇年間ニ十九人デアツタ所ガ、此年度ニ至ツテハ前三箇年ヨリ増加シテ二十八人ヲ一箇年ニ派遣スルコトニ致シマシタ次第デ、都合四十七人ニナリマス、尤モ其中ニ補助費ヲ給セズシテ実業練習生ノ名称ヲ附シテ居ル者ガ四人程アリマス
ソレカラ之ヲ業体ニ依ツテ区別シマスルト、商業ト云フ方ガ参ツテ居ル者ガ二十七人、工業ト云フ側デ二十人程アリマス、其商業ニ付テモ色々ノ業務ガアリマスノデ、絹織物ナドハ随分多イ方デ六人、ソレカラ雑貨之ガ一番多イ業体デ九人、ソレカラ花筵・水産物・綿糸・棉花茶ト色々ノ業体ガアリマス、ソレカラ工業ニ付テ申シマスト之モ非常ニ種類ガ多イノデ、出テ参ツテ居ルノハ絹織物ニ一番多イ、ソレカラ染色再整、紡績、綿布、意匠摸様、石鹸ノ製造、煉瓦ノ製造、製革、製紙、陶磁器、硝子ノ製造、ソレカラ紡績器械、電気器械、石油ノ精製ト云フヤウナ諸般ノ事項ガアリマス、之ハ商業ニシテモ工業ニシテモ既ニ参ツテ居ル者ノ業体ヲ申上ゲルノデ、是カラ先キ色々人数ノ殖ルニ従ツテハ業体モ数多クナツテ来ルト思ヒマス
ソレカラ修業地ノ国ニ依ツテ区別シマスルト、米国ガ一番多イノデアリマス、米国ガ十五人、支那ガ十二人、仏蘭西ガ六人、英吉利ガ四人独逸ガ六人ト、其外メキシコ・浦塩斯徳・濠洲・露西亜ト云フヤウナ所ニモ行ツテ居リマス
ソレカラ実業練習生ノ学校ノ区別ヲ申シマスト、東京工業学校卒業生ガ一番多イノデ十一人程アリマス、ソレカラ高等商業学校ノ卒業生ガ五人、大学撰科卒業生ガ一人、慶応義塾卒業生ガ三人、尋常中学卒業生ガ五人、外国語学校卒業生ガ二人、其他工手学校・水産伝習所色々ノ学校ガアリマス
学校ノ履歴ニ付其主要トシテ吾々ノ要求スル所ハ、商業ニ付テハ高等商業学校、工業ニ付テハ未ダ高等ト云フ冠辞ハアリマセヌガ不日アルダロウト思ハルヽ東京工業学校ノ卒業生、是ガ一番希望デアリマスガソレ丈ケニ止メテハ範囲ガ狭過ギマスカラ地方ニ於テモ是ニ類似ノ商業・工業ノ学校ガアリマスカラ、ソレ等ノ者カラモ採ル、又他ノ学校デモ官立学校ニモ限ラヌ、公立学校ニモ限ラヌ、私立学校デモ相当ノ教科ヲ具ヘタモノナラバ尚ホ採ラヌトハ限ラヌノデスガ、大体尋常中学卒業丈ケノ力ト其上ニ専門ノ智識ヲ有シタ者ヲ欲イノデアリマス
学問ニ於テハ斯ウ云フコトヲ要件ト致シタイノデアリマス、其上ニ実務ノ練習ガナケレバナラヌ、学校ヲ卒業シテ直グ参リマシタノデハ学問ノ留学生トシテハ宜シイカ知レマセヌガ、実業練習生トシテハ――将来実際ノ事ニ当ルト云フノニハ――日本ノ事情ヲ知ラズ、学校カラ
 - 第21巻 p.28 -ページ画像 
直グ飛出シテ参ル者デハ行ケナイ、少ナクテモ一年、多ケレバ三年デモ四年デモ実務ノ練習ヲ経タ者ノ中カラ選抜スルト云フコトニ大体極メテアリマス、尤モ多少ノ例外ハナイコトハアリマセヌ、其人物ガ宜ケレバ必ズ何ノ学校ヲ卒業シナケレバナラヌト云フノデハナイ、既ニ参ツテ居リマス中デ最モ古イノハ明治二十五年頃ノ工業学校ノ卒業生ナドハ古ルイ中デ、卒業後七箇年モ実務ノ練習ヲシテ居ツテ大キナ会社ノ上ノ方ノ役ヲシテ居ツタ者デアリマス、此類ノ者モ大分多数参リマシタ
ソレカラ其修業年限ハ凡ソ三箇年ト定メテ置キマシタ、最モ人ニ依リマシテハ一年デ帰ル者モアリマセウシ、若クハ四年位居ル者モアリマセウ、大体三年ト云フコトニ極メテ居リマス
補助費ハ費用ノ全部ヲ支給スルト云フ主義ハ従来執ツテ居ラヌノデアリマス、ソレハ全部ヲ給スルコトニナリマスレバ、我モ我モト希望者ガ非常ニ出テ随分其中ニ情弊ガ起ラヌトモ限ラヌノデスカラ、自ラ十分奮発スル気象ガアリ、又多少信用ガアツテ自分ニ資産ガナクトモ融通ノ附クト云フ者ニ対シ、半額ナリ幾分ナリヲ補助スルト云フノデ丁度宜シイト云フ主義ヲ執ツテ、従来欧米ニ参ル者ニ向ツテハ月額四十円、支那ニ参ル者ニハ二十円ノ補給ヲ致シテ置キマシタ、併シナガラ之ハ余リ少ナイト云フ議論モアリ、又領事ノ報告モアリ、商業会議所カラノ意見モアリ、又吾々ノ実験上ノ考モアリマシタノデ、此年度カラ改メマシテ、米国ニ参ル者ハ七拾円、欧洲ニ参ル者ハ六十円、支那ニ参ル者ハ三十円、ソレカラサイベリヤ・東印度アタリハ凡ソ四十五円ト云フヤウナコトニ定メマシタ、尤モ之モ例外ヲ設ケテ人物ニ依リマシテハ増加ヲスルコトニナツテ居リマス
昨年各地ノ商業会議所カラ建議ガ出マシテ実業練習生ノ事ハ至極宜シイ、然ルニ従来ノ成績ニ依ルニ派遣ノ人数ガ非常ニ少ナクハナイカ、大ニ募ツタラ宜イダラウ、其経費ハ議会ニ要求シタナラバ無論協賛スルデアラウト云フ建議ガ出マシタ、至極同感ノコトデアリマス、又衆議院ニ於テハ中野武営君・井上角五郎君両君ヨリ提出セラレタル建議ガ出マシタ、此建議ハ衆議院ノ非常ニ歓迎スル所トナリマシテ、実業練習生ニ就テハ年々十五万円、商工視察即チ実業家・官吏ナドヲ派遣スルニハ十万円、併セテ二十五万円ヲ支出スルガ宜シイ、サウ云フ予算ヲ議会ニ提出スルナラバ直グニ協賛スルデアラウト云フノデ、昨年衆議院ヲ経過シテ政府ニ出タノデアリマス、又貴族院ニ於テモ東京商業会議所ノ請願ニ対シテ賛成ヲ致シテ政府ニ転送ニナツタノデアリマス、此ノ如ク上下両院モ、実業界モ商業会議所モ、其他有志家ナリ政治家ナリモ、総テ実業練習生ノ事ニ付テハ海外貿易ノタメニ国費ヲ支出スルノハ充分ヤラナケレバナラヌト云フヤウニ説ノ一致シテ居ルノハ吾々ノ大ニ喜ブ所デアリマス、唯従来人ヲ選定スルニ当ツテハ、充分デナカツタデハナイカト云フ感ジガアリマスノデ、自分ハ飽迄厳重ニ詮衡ヲ致シタ積リデアリマス、併シ間違モ随分アリマセウガ従来ヨリハ余程喧シク人ヲ吟味シタ積リデアリマス、ソレハ少シデモ情実ヲ酌ンデハナラヌ、人物サヘ宜ケレバ何ンナ所ノ人デモ構ハヌ、有力ナル人ノ推薦デアルカラ必ズシモ宜イト云フノデハナイノデアリマスカ
 - 第21巻 p.29 -ページ画像 
ラ、其人間ヲ見テ十分ニ詮衡スルト云フ積リデヤツテ居リマス、併シナガラ各地方デ実業練習生ノ制度ノアルコトヲ知ラザル人ガ未ダアリハシナイカト思ヒマス、ソレデ重ネテ爰ニ申上ゲマスルノハ、諸君ガソレソレノ地方ニ於テ実業練習生ノ制度ハ斯ク斯クノモノデアル、適当ナ者、希望ノ者ハ吾々ガ上申シテヤラウカラ申出ヨト云フヤウニ誘導セラルヽ事ヲ希望致シマス、尤モ諸君ガ誘導ナスツテ之ヲ私共ニ御推薦ニナツテモ、直グニ御同意スルヤ否ヤハ分リマセヌケレドモ、多クノ者ヲ募集シテ其中カラ最モ適当ナ者ヲ選ンダナラバ至極宜カラウト思ヒマスカラ、此段ハ広告ヲシナガラ御願ヒヲ致シテ置キマス、次ニハ海外ニ商品陳列所ト云フモノヲ設ケテ置キマス、之ハ我ガ商品ノ販路ヲ拡張スルニハ先ヅ商品ヲ展列シ之ヲ示サナクテハナラヌ、次ニ注文ヲ引受ケナクテハナラヌト云フ趣意デ、陳列所ヲ設ケテ居リマス最モ英・米・仏・独ト云フヤウナ国々デ日本ト彼ノ国トノ貿易ノ既ニ盛ナル所ニハソレゾレ商人モ行ツテ居ルモノデアリマスカラ、之ヲ設クルノ必要モアリマセヌガ、或ハ支那トカ、或ハ印度トカ、殖民地或ハメキシコト云フヤウナ、将来我ガ貿易上有望ナ市場デアルニモ拘ラズ我商品ノ販路ガ開ケテ居ラズ、商売人モ考ハアルケレドモ危険ヲ冒シテ自ラ店ヲ出スト云フコトヲ躊躇シテ居ルト云フ国柄、斯ウ云フ国柄ニハ先ヅ国費ヲ以テ端緒ヲ開クハ必要デアルト云フ考デ商品陳列所ヲ設ケタノデアル、二十九年度ニハ新嘉坡、印度ノ孟買、浦塩斯徳、ソレカラ露西亜ノ黒海ニ瀕シテ居ル所ノオデツサ、支那ノ沙市、墨西哥、此六箇所ニ陳列所ヲ設ケルコトニ二十九年度ニ始メテ極メマシテソレゾレ標本等ヲ購入シテ開館ヲシタノハ三十年ノ初メデアリマシタソレカラ三十年度ニナリマシテ更ラニ支那ノ厦門ニ増設ヲシマシタ、都合七箇所ニナリマシタ、其経費ノ話ヲ致シマスガ、凡ソ一箇所ニ付テ千円内外ノ商品ヲ送リマシテ、ソレカラ家賃ナリ或ハ小使番人ノ費用、其他領事ノ謝金――之ハ領事ニ監督ヲ致サセテ置キマスカラ――ト云フヤウナ陳列所ノ経費ガ、所ニ依ツテ違ヒマスルガ、先ヅ一箇所ニ付イテ五百円乃至千五百円位ノモノデアリマス
斯ウ云フ趣意デ陳列所ハ設ケテアリマスガ、私ノ考ニハ唯ダ日本ノ商品ヲ列ベテ外国人ニ見セタ所ガ、ソレモ非常ナ立派ナ物ヲ沢山列ベテアレバ効能ガ現ハルヽカ知レマセヌガ、経費ノ多クナイ為ニ立派ナ物ハ数多クナシ、又物品モ少ナシ、陳列所ト云フ家屋モ左程立派ナモノデハナイ、サウ云フ所ニ少シ許リノ品物ヲ陳列シテ見セタ所ガ多少ノ見物人ハアリマセウガ、アツタ所ガソレ丈ケニ終ルノデ、適々希望スル品物ガアツテ之ヲ註文シタイト申シテモ、領事ハ官吏デアリマスカラドウモ品物ノ中継ギヲスル訳ニハ行カヌ、多少二品・三品位取次ギヲスルカ知レマセヌガ、ソレデハ容易ニ貿易ノ発達ニハナラヌノデアリマスカラ、引受人ヲ置カシムルヤウニ昨年以来心配シテ居リマス、モウ一ツハ商品ヲ集メテ購入スルトキニ各地方ニ人ヲヤツテ集メサセタノデアリマスガ、其商品ヲ売ル商人ガ自分ノ品物ヲ海外ノ場所ニ陳列シテ置イテ、価格モ付イテ居ル運賃ノ表モ保険料ノ表モ付イテ居ツテ、直グ注文ニ応ジ得ル事ニナツテ居リマスガ、注文ヲ引受クルト云フ熱心ガナクテ唯ダ標本トナル品物ヲ拾円ナリ、弐拾円ナリニ売リサ
 - 第21巻 p.30 -ページ画像 
ヘスレバ宜イト云フヤウナ、極ク考ノ薄イ商人モアツタヤウニ伝聞シテ居リマス、サウ云フヤウナ次第デハ面白クナイト云フノガ一ツ、ソレカラ昨年二月ニオデツサノ名誉領事「ラシエーフ」ト云フ者ガ死去致シマシタニ依リ、同人ノ建議ニ依ツテ設置セラレタルオデツサノ陳列所ハ本人在任中ニ少ナカラヌ弊害ヲ醸シタルコトヲ発見致シ、ソレカ為ニ閉館スルコトニ致シマシタ、又昨年五月支那ノ沙市ハ御承知ノ通リ暴民ノタメニ焼カレマシタ、此二ツノ頓挫ガアリ、又一方ニ引受人ガナクテハ役ニ立タヌト云フ考、ソレカラ標本ヲ売付ケタ商人ノ中ニ面白クナイ人ガアルト云フ事ナドデ昨年ハ増設スルコトヲ見合セマシタ、サウシテ商人ニ於テ真ニ販路ヲ拡張スル考ガアルナラバ、僅カ計リ農商務省ノ経費ヲ以テ買上ゲラルルコトヲ望マズニ、自ラ寄贈スルガ宜イト云フノデ勧誘致シマシタガ、ソレガ為ニ多少ノ寄贈ハアリマシタガ是モ充分ナコトハアリマセンデシタ、此ノ如ク従前ノ方針ニ対シ多少ノ改良ヲ施スノ必要アリシガ為ニ、昨年ハ従前ノ状態ニ止メテ拡張ヲ見合セテ置キマシタ
本年度即三十二年度ニ於テハ多少改良ノ途ガ開ケマシタニ付、支那ノ牛荘・宜昌・上海、暹羅ノ盤谷四箇所ニ商品陳列所ヲ新設スルコトニ致シマシタ、之ハ従来ノ如ク領事ニ任セズニ、表向ハ領事ガスルト云フコトニナツテ居リマスガ事実ハ相当ノ商人ニ引受ケサスルコトニナリマシタ、相当ノ引受人ヲ見付ケマシタカラ増設スル事ニ致シマシタ、牛荘ト宜昌トハ東肥洋行ト云フ会社、コレハ熊本県人デ長ク漢口ニ本店ヲ設ケテ日本ノ商品ヲ売捌イテ居リマスガ、此会社ノ人々ハ能ク支那語ニ通ジテ居リ、辮髪ヲモシテマルデ支那人ノヤウナ人物ガ多イ、又確実ニ仕事ヲシテ居リマスカラソレニ任セマシタ、ソレカラ上海ノ方ハ日清貿易研究所ノ荒尾精ノ継続者ト云フヤウナ者デアリマセウカ彼ノ門人ガ陳列所ヲ設ケテ居ツタノデ、コレマデハ大抵彼等ノ自力デ充分デアラウ、政府ノ補助ハ必要デナカラウト云フ考デ居リマシタガ段々事情ヲ聞イテ見ルニ中々困難デアル、政府ノ補助ガナクテハナラヌト云フコトガ分リマシタノデソレニ補助スルコトニナリマシテ、即チ上海ニモ陳列所ヲ設クルコトニナリマシタ、ソレカラ暹羅ノ盤谷、之ハ日暹商会ト云フ――コレハ近頃出来タ商館デアリマスガ有力ナ可ナリシツカリシタ男ガ資本者責任者デアリマスカラ――之ニ命ズルコトニ致シマシタ、ソレカラ、ブラジルニモ陳列所ヲ設ケヤウト云フ計画ヲ致シマシタ、之ハブラジルカラ日本ニ公使トシテ参ツテ居ツタ者ノ意見ガ基トナツテ東京ニ在ル貿易協会ナドモ之ニ賛成シテ建議ニナツタコトモアル、又吾々モ当時ブラジルノ製造家或ハ農業家ガ盛ンニ日本ノ労働者ヲ移住サセヤウト云フ計画ガアツテ、現ニ移住民ハ出発スル計リニナツタ位、斯ウ云フ工合デ日本人ガ数多クブラジルニ参ルニ付テハ、将来彼我ノ間ニ貿易ノ発達スルコトハ明瞭デアルト云フ考ヲ起シ、其魁トシテ陳列所ヲ設ケヤウト致シタノデアリマス、然ルニ其後向フノ政府ニ於テハ財政ノ困難ガアリ、民間ニ於テハ経済上ノ切迫ガアリマシタノデ、移住民ノ事ハ中止ヲ致スコトニナリマシタ、此クノ如キ状況デハ彼我ノ貿易モ前途遼遠ナコトデアロウト云フ考ガ起リマシタノト、又一ツニハ相当ノ引受人ガナイト云フタメニ暫ク見合
 - 第21巻 p.31 -ページ画像 
セテ居リマス、既ニ設ケテアリマス墨西哥トカ浦塩斯徳・厦門・新嘉坡・孟買ナドニハ未ダ相当ノ引受人ガアリマセヌガ、是モ諸君ニ御相談ヲ願ヒマス、必ズシモ諸君ニハ限ラヌノデスガ――諸君ガ代表シテ居ル所ノ各地ノ都会デ、然ルベキ商人ガ遣ラウト云フ奮発ガアルナラバ、随分御相談ヲ致シタイト思ヒマスカラ、是モ爰ニ御願ヲ致シテ置キマス
次ニハ海外商況視察ノ仕事ヲ拡張費ヲ以テシテ居ルノデアリマス、之ハ先刻モ申上ゲタ通リ一ハ官吏ヲ派遣スルコトヽ一ハ実業家ヲ派遣スルコトデアリマス、日本ノ如キ総テノ事柄、商工業ノ事柄ニ付テ未ダ発達中デ充分ニ発達シテ居ラヌ国柄ニ於テハ、先進国ノ商況ヲ視察シテ彼ヲ知リ己ヲ知ラナクテハナラヌト云フコトハ申スマデモナイ、従ツテ海外ノ商況ヲ視察スルコトハ無論必要デアル、其為ニ政府ハ国費ヲ以テ之ガ必要ニ応ズルト云フコトハ勿論当然ノコトデアラウト思ヒマス、其人数ヲ大体御報告致シマスルト、二十九年度ニ派遣ヲ命ジタ者ハ本省ノ官吏ガ四人程　○中略　デアリマス、ソレカラ同廿九年ニ派遣シタ実業家ガ六人、絹織物業視察トシテ欧米ニ参ツタノガ二人、花莚業視察ガ一人、水産業視察トシテ亜米利加ガ一人、商工業視察トシテ南亜米利加ガ一人、欧米ニ参ツタノガ一人、其他既ニ外国ニ参ツテ居ル者ニ手当ヲ給シテ調査ヲサセタノガアリマス、是ガ三人程アリマス、又同様ニ調査ヲ嘱托シタル団体モ二ツ程アリマス、ソレカラ三十年度ニハ本省ノ官吏ハ三人程、ソレハ養蚕ノ技師デ支那ニ参ツタノガ一人水産ノ技師デ支那ガ一人、製茶ノ技手デサイベリヤヘ一人、ソレカラ実業家四人、之ハ蚕糸業視察トシテ支那ニ参ツタ者ガ一人、ソレカラ石油業視察トシテ露西亜・亜米利加ニ参ツタ者ガ二人、商工業視察トシテ新嘉坡ニ参ツタノガ一人、其外前年度ニアリマシタ通リ嘱託トシテ在朝鮮ノ鶏林団体ト云フモノニ殆ント一万円程ノ手当ヲヤリマシタ其外ニ手当ヲヤツタ者ガ七人ニ、又団体モモウ一ツアル、ソレカラ三十一年度ニハ本省官吏ノ派遣シタ者ガ五人、之ハ鉱産物視察トシテ欧米ニ参ツタ技師ガ一人、商工業視察トシテ支那ニ参ツタ高等官一人、製糸業視察トシテ支那ニ参ツタ技師ガ一人、織物業視察トシテ技師一人、農産物視察トシテ技師一人、外ニ本省以外ニ官吏ニ手当ヲ給シタ者ガ四人、其内一人ハ上海ノ領事、一人ハ商業学校ノ教師、一人ハ工業学校ノ教師、共ニ支那ニ参ツタ、ソレカラ一人ハ伊太利亜ニ遣ハシタ、其他実業家ヲ派遣シマシタノガ八人、之ハ商工業視察トシテ欧米ニ参ツタ者ガ二人、ソレカラ支那ガ六人、ソレガ当東京商業会議所ノ人ヤ大坂ノ商業会議所ノ人、若クハ陶磁器製造人、綿織物、材木ノ視察ト云フヤウナモノデアリマシタ、此時支那ニ遣リマシタノハ官吏ト実業家併セテ十二人程、其費用ハ凡ソ一万円程支出致シマシタ、之ハ昨年度ノ話、ソレカラ本年度即チ三十二年度ニ於テハ本省官吏ノ派遣セラレタル者ハ三人、之ハ農事ノ視察トシテ欧米ニ参ツタ技師ガ一人商工業視察トシテ支那ノ厦門カラ印度ノ孟買ニ至ルマデノ各開港ノ視察ヲ命ゼラレタ判任官ガ二人、ソレカラ本省以外ノ官吏デ派遣ヲ命ゼラレタ者ガ五人、ソレハ農産物視察トシテ露西亜ニ参ツタ宮内省ノ技師ガ一人、鉱産物視察トシテ欧米ニ遣サレタ大学教授ガ一人、ソレカ
 - 第21巻 p.32 -ページ画像 
ラ重油視察トシテコレハ石炭ノ代用トシテ極ク安ク済ムト云フ重油ノ最モ沢山ナ供給地タル――ボルネオニ大学教授ヲ一人、商業視察トシテマニラニ一人、商業視察トシテ欧米ニ一人、ソレカラ実業家ハ非常ニ沢山参リマシタ総体デ十六人、之ハ伊太利ノコモト云フ所ニ織物ノ博覧会ガアリマシタカラソレニ付テ絹織物ノ場所タル京都・福井・桐生・足利、此四ノ地方ノ人ヲ選抜シテヤリマシタ、京都カラ二人、栃木カラ三人、福井カラ一人、群馬カラ一人ト云フヤウニ伊太利亜ニ於ケル博覧会ノ為ニ七人程ヤリマシタ、ソレカラ欧米ノ商工業視察ガ二人、北部欧羅巴ニ水産業視察ガ一人、商工業視察印度一人、馬来半島一人、米国二人ト云フヤウニ非常ニ人数ガ沢山アリマス
此商況視察トシテ実業家ヲ派遣スルコトハ最モ必要ナル有益ナル事デアルニ拘ラズ、其選定ハ甚ダ困難ナルモノデアリマス、私ノ之ニ関係シタノハ極ク昨今ノコトデ、昨年来ノコトデアリマスガ、頗ル苦心ヲ致シテ居ルノデアリマス、又世間デモモウ少シ人ノ選定ノ仕方ガアリサウナモノダト云フ議論モアルカモ分リマセヌガ、併シナガラ之ハ誰ガ選定致シマシテモ他人ノ為シタ事ハ自分カラ見ルト欠点ノ見ヘルモノデスカラ、多少ノ欠点ハアルカハ分リマセヌガ、其為ニ商工業視察費ヲ無益ナリト云フワケニハ参ラヌト思ヒマス、将来ニ於テモ一層吾吾ハ注意ヲ致スニ違ヒナシ、又世間ヨリ相当ノ御忠告ヲ受クル事ヲ私ハ希望シテ居リマス、商況視察ノ必要ナルコトハ明白デアリマシテ、既往ニ於テ仮シ多少ノ欠点ガアルトシテモ其為ニ全体ノ利益ヲ没スルコトハ出来ナイト思ヒマス、現ニ昨年ノ議会ニ於テハ年々之ガ為ニ十万円宛支出シヤウト云フ建議ヲ致シタノヲ見テモ、必要ナルコトハ分ツテ居ルト思ヒマス
次ニ貿易拡張費ヲ以テ支出シテ居ル中ニ調査報告ト云フ項ガアリマスガ、之ハ海外ニ派遣シタ官吏ナリ、実業家ナリノ報告書ヲ印刷スル事ソレカラ領事ノ報告ヲ印刷スルコト、若クハ実業練習生ノ報告ヲ印刷スルコト、及別ニ相当ノ人ヲ置イテ不断調査セシムルコト及其結果ヲ印刷スルコト、要スルニ商工業振興ノ為多少ノ稗益アリト認ムルモノヲ分類篇纂シテ之ヲ印刷シ、之ヲソレゾレ実業家ニ配付致シテ居リマス、モウ一ツハ先刻モチヨツト申上ゲタト思ツテ居リマスガ、養蚕ノ事、生糸ノ事ニ就テハ電信ヲ仏蘭西カラ取ルコトニナツテ居リマス、此費用モ此調査報告費ノ項ヨリ支出シテ居リマス、此報告書類ハ毎年数十種ニ上リマシテ部数ハ数千部、随分沢山ナモノニナツテ居リマス次ニ拡張費ヨリ支出シテ居ル事項ハ工芸試験費デアリマス、従来ヤリマシタノハ漆ノ製造上ノ試験、ソレカラ陶磁器ヲ石灰ヲ以テ焼イテハドウカト云フ試験ヲ致シマシタ、此等ハ費シタ費用ハ極メテ少ナイニ拘ラズ良成績ヲ得タト信ジテ居リマス、此費用ノ如キハ将来大ニ拡張シナケレバナラヌ事デハアリマスガ、政府ハ来年度ニ於テ中央工業試験所ヲ設置スル考ヲ有シテ居リマスノデ、幸ニ議会ノ協賛ヲ得タナラバ工芸製造試験ハ其方デスル事ニナリマスカラ、貿易拡張費ノ方カラハ除ク事ニ致シテ居リマス、予算ノ形式ニ付テチヨツト序デナガラ申上ゲテ置キマスルノハ、二十九年度カラ昨年度マデハ海外貿易拡張費ト云フ費目ハ款モ項モ同名称デ一款一項デアツタノデ、其下ニ諸種ノ
 - 第21巻 p.33 -ページ画像 
目ヲ設ケテ支出ヲ致シテ居リマシタ為ニ、各目ノ間ハ流用ガデキルノデ大変支出ガ便利デアリマシタ、併シナガラ余リ便利過ギルト云フヤウナ議論ガ世間ニモアツタカモ知レマセヌ、現ニ大蔵省ニ於テハ余リ便利過ギハシナイカト云フ議論ガアリマシテ、之ガ為ニ本年度ヨリハ各種ノ項ニ分ツコトニナリマシタ、項ト項トノ間ハ流用ガデキヌノデ例ヘバ実業練習生ヲ多クヤリタイト思テモ、他ノ項ヨリ流用スルコトガデキヌト云フ不便ハアリマスガ之ハ予算ヲ確カニスルト云フコトニハナルト思ツテ居リマス
ソレカラ金額ノ事ヲチヨツト申上ゲマスガ、二十九年カラ昨年マデハ六万円デアリマシタ、其中ニ農商工高等会議ノ費用ヲモ支出スルコトニナツテ居リマスカラ、先ヅ五万円以上五万何千円ト云フ費用デアツタノデス、然ルニ昨年各地ノ商業会議所ノ意見其他ノ意見モアリ、又政府モ大ニ必要ヲ認メタ為ニ十万円ノ予算ヲ提出致シマシタ、当時中野サンアタリカラモウ少シ増スガ宜カラウ二十五万円程出スガ宜カラウト云フ建議ガ出マシタ、事実ハ其建議通リニ行ハレマセヌデシタガ兎ニ角従来ヨリチヨツト倍ニナツテ居リマスガ、ドウモコレデハ足リナイ、来年ハ更ニ増加ヲ致シタイト希望シテ居リマス、併シ其希望通リニナルカナラヌカ分リマセヌノデ、心配致シテ居ル次第デアリマス先日農商務大臣カラ演説ガアリ、渋沢議長ハ諸君ヲ代表シテ賛成ノ意ヲ表セラレタ通リニ、日本ニ於テハ内ハ工業ヲ盛ンニシ、外ハ通商ヲ盛ンニスルコトガ日本ノ経済上ノ国策デアルコトハ疑モナイコトデアル、現在ニ於ケル政策タルノミナラズ、将来永遠ニ継続スベキ国是デアラウト思ツテ居リマス、其事ニ付テハ殆ンド何人モ異存ハナカラウト思フ、併シ其国策ヲ遂行スルノ手段、方法ハドウスルカト云フコトガ直チニ踵デ起ル問題デアラウト思ヒマス、其為ニハ色々ノ設備ガ必要デアル、目的ハ外ハ商業ヲ盛ンニシ、内ハ工業ヲ盛ンニスル、詰リ商工業ハ相俟ツモノデアル、売ル為ニ拵ヘルノデアル、扨其方法手段ハト問ヘバ其種類ハ非常ニ沢山アルダラウト思ヒマス、例ヘバ金融機関ノ設備ヲ充分ニスルコト、資本ノ潤沢ヲ図ルコト、荷為替ノ便ヲ開クコト、此等モ最モ必要ナル手段ニ違ヒナイ、鉄道・電信・郵便ノ完備ヲ論ズルコト、此等モ最必要ナル方法デアリマセウ、港湾ノ修築モ必要デアリマセウ、倉庫ノ設備モ必要デアリマセウ、航路ノ拡張・航海奨励・造船ノ奨励・海員ノ養成等モ最モ必要ナル方法デアラウト思フ、ソレカラ関税其他商工業ニ関スル税法ノ問題モ又必要ナル方法ニ違ヒナイ、ソレカラ保険ノ事、海上保険ナドハ最モ必要ガアリマセウソレカラ貯蓄ノコト、労働者ガ宵越ノ銭ハ使ハヌト云フヤウニシテシマツテハ資本ヲ浪費セシムルカラ、之ヲ貯蓄セシムルコトガ必要デアル、其他商業学校・工業学校其他各種ノ実業学校設置ノコトノ必要、ソレカラ工業試験所ヲ設クル必要、又労働問題等モ密接ノ関係アルコトヽ思ツテ居リマス
前列挙シマシタ諸種ノ問題ハ軍事・国防ニ関係スル事柄モアル、国民教育ニ関係スルコトモアル、各種ノ方面ニソレゾレ重要ノ関係ヲ有シテ居ル事ハ疑ハアリマセヌガ、其最重大ナル所以ハ実ニ商工業振作ノ必要条件タルガ為デアルト思ヒマス、即チ主トシテ商工業ノ発達ヲ助
 - 第21巻 p.34 -ページ画像 
クル補助機関ト申シテ宜カラウト思ヒマス、此等ノ補助機関ハ又各々適度ノ発達ヲ為シ、彼ト是トノ間ニ調和ヲ保タナクテハナラヌ、一ツ発達シテモ外ノモノガ揃ハナクテハ格別役ニ立ツモノデハアリマセヌ此等諸条件彼是ノ間ニ相当ノ権衡ヲ保チ、ヨク調和シ、ヨク連絡シテ各々補助機関タルノ任務ヲ全フ致シマシタナラバ、其主眼タリ骨髄タリ精神タル商工業ハ振作シ来ルコトヽ信ジテ居リマス、以上列挙シタル事柄ノ外ニモ亦随分必要ナル条件ガ数多クアリマセウガ、此等ノ問題ニ向テ適当ノ解釈ヲ与ヘ、適当ノ方法ヲ講ジ、能ク之ヲ遂行シ、且之ガ調和ヲ図ルコトハ独リ政府ノ職務タルノミナラズ、亦実ニ実業家ノ責務ナリト思ヒマス
御承知ノ通リニ英国ハ夙ニ商工ノ国是ヲ定メテ和蘭・葡萄牙等ニ踵イテ盛ンニ世界ノ各地ニ通商航海ヲ開イテカラ今日ニ至ルマデ殆ンド三百年、其富ハ殆ト世界各国ニ卓絶シテ居ルノデアリマス、従ツテ兵モ強ク、世界各国ヲ挙ゲテ敵トスルモ恐レヌト云フ程ノ強国ニナツタコトハ世人ノ皆知ツテ居ルコトデアリマス、之ハ何ノ結果デアルカ、商工業ヲ盛ンニシテ国ヲ富シタタメデアルコトハ言ヲ俟タヌ
又独逸ハ近頃帝国ヲ建立シテ以来、「ビスマーク」ハ商工業ノ発達ヲ図ラナケレバナラヌト云フ事ニ着眼シテ、頻リニ奨励ノ方法ヲ設ケ、又移住民ヲ奨励シテ居ルコトモ又皆サンノ御承知ノコトデアル、独逸人ハ性質忍耐ノ強イ人種デ、又倹約ニシテ職業ヲ非常ニ勉強スル、又自ラ尊大デナク到ル処ノ国々ノ風俗習慣ニ従フ人種デアル上ニ、概シテ高度ノ教育ヲ受ケテ居ル、又商売向ニ付テハ人ノ模造ヲシタリ安売ヲシタリスル――色々ノ善イコトモ又適ニハ悪ルイコトモアリマスガ――要スルニ各種ノ条件ガ綜合シテ成功シテ居ル、其将来ニ於テハ久シク世界ノ先達ヲ以テ自ラ任ジテ居タル英国スラモ近頃独逸ヲ非常ニ恐レテ居ル、後世恐ルベシト云フヤウナ嘆声ヲ発シテ居ル、詰リ独逸ノ如キ武国デモ武ノミヲ以テ国ヲ建ルコトハ出来ヌト云フコトハ充分知ツテ居ル、又ヨク富国ノ道ヲ講究シテ着々成功シ居ルコトヲ爰ニ申述ベタノデアリマス
又米国ノ形勢ハドウデアルカ、其経済界ノ発達ハ非常ナモノデアル、迅速ナモノデアル、其将来ハ実ニ恐ルベキ者デアル、永ク其富世界ニ冠タリト自ラモ許ルシ、人モ許ルシテ居ツタ英国ヲモ凌ギ、世界ノ最モ富ンダル国ニ今日ハナツテ居ルノデアリマス、従来農業ガ盛ンデアツタ所ヘ、非常ナ極端ナ保護政策ヲ行ツテ工業ノ発達ヲ促ガシ、其工業ノ発達シタ結果其製品ヲ外国ニ売ラナクテハナラヌト云フ為ニ、非常ニ海外貿易ニ力ヲ尽ス事ニナリマシタ、サウシテ其政治上ニ於テモ永ク米国ハ平和平等主義ヲ以テ国策トシテ居ツタニ拘ラズ、近頃ハ帝国主義ヲ執ツテ来タ、即チ先ニハ布哇ヲ併呑シタ、今ハ又亡国ニ瀕シタル西班牙ニ対シテ戦ヲ挑ミ、玖馬ヲ奪ヒ、比律賓ヲ取ルト云フヤウナ帝国主義ヲ実行スル国トナリマシタ、政治上ニ於テハ其通リ、経済上ニ於テモ亦同様ノ主義ヲ採リ、勢力ヲ集注シ専政権ノ下ニ置クト云フ主義ヲ実行シテ居ルヤウニ聞イテ居リマス、即チ大会社ガ続々起ツテ居ルニ拘ラズ、其大会社ヲ一緒ニ結合シテ所謂トラストヲ組織スルコトガ盛ニ流行スルヤウニナリマシタ、コレハ経済上大ニ注意スベキ
 - 第21巻 p.35 -ページ画像 
事柄デアルト思ヒマス、米国ハ従来我ガ貿易ノ好市場デアツタコトハ世人ノ皆知ツテ居ルコトデアル、然ルニ近頃ハ我ガ輸出品ニ向ツテ非常ナ重税ヲ課シテ殆ド輸入ヲ杜絶セント欲スルカト疑ハルヽ程デアル而シテ米国ヨリ日本ニ輸入スル品物ハ従来少ナカツタニ拘ラズ、近年ハ甚ダ多クナツテ輸出入ノ有様ガ逆比例ニナツテ参ルノハ大ニ心配シ警戒シナケレバナラヌコトヽ思ヒマス
我国ハ政治上ニ於テモ、軍事上ニ於テモ、若クハ文化ノ程度ニ於テモ百般ノ事物ニ付東洋第一ノ雄邦タルコトハ疑モナキコトデアル、而シテ我国富ヲ増進スベキ経済上ノ国策ハ如何ン、即チ工業ヲ盛ンニスベシ、商業ヲ盛ンニスベシト云フコトハ世人ノ均シク言フ所デアル、扨工業ヲ盛ンニスルニハ廉価ノ原料ヲ外国カラ取ラナケレバナラヌ、商業ヲ盛ンニスルニハ我商品ヲ売捌クベキ好市場ヲ外国ニ求メナケレバナラヌ、我商品ノ好市場ト目スベキモノハ支那ヲ初トシ朝鮮・南洋諸島・東印度・南米諸国・加奈太・サイベリヤ等凡ソ我ガ日本ヲ取巻イテ居ル太平洋、其潮流ノ廻ツテ居ル国々ガ最モ適当ナル市揚デアラウト思フ、其中目前ニ於テ、若クハ近キ将来ニ於テ、或ハ永久カモ知レマセヌガ、最モ好市場ト目スベキモノハ支那デアラウト思フ、支那ハ経済上ニ於テモ我国ヨリ劣等ノ国ト言ハナケレバナラヌ、工業モ商業モ発達シテ居ラヌ、寧ロ農業国デアラウト思ウ、其好市場タル支那ヲ日本ガ充分ニ利用セナケレバナラヌニ、コレマデノ有様ハ如何デアルカ、皆サン御承知ノ通リ憐レナルモノデアリマス、支那第一ノ商業地方タル長江一帯ノ区域ハ永ク貿易ノ先達ヲ以テ許サレタル英国人ガ深ク這入ツテ居ル、ソレカラ近年英国人モ尚ホ舌ヲ巻ク所ノ独逸ハ山東省ニ行ツテ根拠ヲ据ヘ、商売上ニ於テ盛ンニ手ヲ伸バシテ居ルノデアル、又近頃マデ余所ノ事ヲ顧ミナカツタ米国ガ頻リニ支那ニ着眼シテ居ル、斯ノ如ク経済上最モ発達シタル、各種ノ機関ヲ有スル、強大ナル力ヲ持ツテ居ル英吉利ナリ亜米利加ナリ独逸ナリガ、我市場ト頼ムベキ支那ヲ占領セントスル事ハ最モ憂フベキ事ト思ヒマス、我商人ハ未ダ充分ニ発達シテ居ラヌノデ弱年ノ者デアル、羽翼モ成ラズ足腰モ充分立タヌノニ非常ニ大キナ者ト相撲ヲ取ラナケレバナラヌノデアルカラ、其憂慮スベキ事警戒スベキコトハ非常ナコトデアラウト思ヒマス、然ルニ我邦ノ実業家ハ例外タル有識者ハ暫ク措イテ、随分実業家中ニ目前ノ小利益ニノミ齷齪トシテ紛争ヲ事トシテ、人ハドウデモ宜シイトシテ自己ノ利益ノミニ汲々トシ、而カモ自分ノ利益モ充分ニ収メ得レバマダヨケレドモ、目前ノ利益丈ケニ注目シテ自分ノ将来ノ大利益ヲ思ハズ、既ニ自分ノ大利益ヲモ思ハヌ程ナレバ、国家全体ノ休戚トナルベキコトハ一向ニ頓着セヌトイウヤウナ状態ガ屡々見聞セラルヽノハ痛歎ニ堪ヘヌ事デアラウト思ヒマス、私ハ経験ガナク、老練ナル諸君ノ前デ書生論ノ如キ話ヲスルノハ甚ガ安カラヌ次第デアリマスガ、感情的ノ議論ヲスルノガ目的デハナイ、詰リ事実ガ此ノ如クデアルト思フカラデス、而シテ此クノ如キ弊ヲ除キ去ルニハ如何スレバ適当デアルカト云フ事ヲ論ジナケレバナラヌ、元来実業振興ト云フコトハ実業家自家ノ話デアラウト思フ、実業家銘々ガ完全ナル経験智識ヲ有シ、勤勉労力非常ニ骨ヲ折ツテ参ツタナラバ自然ニ発達スルモノ
 - 第21巻 p.36 -ページ画像 
デアル、詰リ官吏ガ喧シク云フヨリハ実業家自ラ奮フノガ当リ前デアル、如何ニ政府ガ手ヲ引クヤウニ――今ノ政府ハサウデハナカラウガ仮リニ政府ニ非常ナ賢明ナル人ガアツタト仮定シテモ――如何ニ政府ガ手ヲ引クヤウニシテモ、実業家ガ之ニ応ジナケレバ何ノ役ニモ立タヌト思ヒマス、詰リ宋人ノ苗ヲ揠クヤウニナリハセヌカト思ヒマス、詰リ自ラ奮ウト云フ所ガナクテハ役ニ立タヌト思ヒマス、ソレナラバ実業ノ事ハ実業家ニ一任シテ政府ハ顧ミナクテモ宜イカト云フトサウデハナイ、政府ハ亦為スベキコトガアル、国家トシテ為スベキコトガアル、政府トシテ為スベキ所ノモノハ政府之ヲ行ヒ、実業家自身ガ為スベキ所ノモノハ実業家之ヲ行ヒ、分業ヲシテ互ヒニ助ケナケレバナラヌコトト思ヒマス、貿易拡張費ノ事業ナドモ其一例デアリマセウガメキシコトカ、シンガポールトカ、将来ニ於テハ彼我ノ貿易ガ必ズ発達スルデアラウ、併シ現在ニ於テハ左程デモナシトシテ実業家ガ危険ヲ冒シテ店ヲ出スニハ躊躇スルト云フ所ニハ、政府ガ金ヲ出シテ先駆ヲスルト云フノガ国家ノ事業トシテ宜シイノデアリマセウ、併シナガラ先キノ先キマデ政府ガ補助スルトカ、政府ガ自ラスルトカ云フコトハ実業ヲ発達セシムル途デハナイ、却ツテ阻害スルモノデハナイカト思ヒマス、実業家ガ少シ奮ツテ為タナラバ宜カラウト思ヒマス、併シナガラ鉄道ノ事ナリ、郵便・電信ノ事ナリ、其他色々政府デナケレバデキヌ仕事ガ沢山アル、実業ニ付テノ政務ハ非常ニ数ガアツテ種類ガ多イノデアリマスガ、其政務ハ農商務一ツデ行ツテ居ルノデハナイ、大蔵省ナリ逓信省ナリ、又実業学校等ニ付テハ文部省ト云フヤウナ工合デ諸省ニ渉ツテ居リマス、而シテ或ル省デ行フコトヽ他ノ省デ為ル事ガ矛盾スルヤウデハ目的ヲ達シナイノデアリマスカラ、政府全体ノ調和ヲ図リ其研究シタルコトガ足並ヲ揃ヘナケレバナラヌコトハ勿論デアリマス、而シテ自分ノ及ブ丈ケノ事ハ考ヘテ居ル積リデアリマス併シナガラ何分日モ浅イコトデアリ、経験モ極メテ乏シイコトナリ、又智識モ少ナイコトデアルカラ善イ考ノ出ル筈モアリマセヌガ、怠ラズ調査ヲ致シ若クハ考案ヲ廻ラシテ居ルニ違ヒナイ、諸君ニ望ム所ハ何事デモ構ハヌ、又私共直接ノ主管事項デナクテモ構ハヌ、凡ソ実業ニ関係スル事デ利益アリト御認メニナツタ事柄ナレバ、何ニ依ラズ御忠告ニナル事ヲ偏ニ希望致シマス、其御意見ガ適当ナリト私共ニ於テ考ヘマスレバ、及バズナガラ実行ヲスルト云フコトハ人後ニ落チヌヤウニ奮発致サウト思ツテ居リマス、唯ダ間違ツタ事ヲ実行シテハナリマセヌカラ、間違ハヌヤウニ致サナクテハナリマセヌ、又知ラナイ事ハ早ク知ラシテ戴クコトニ致シタイ、又自分モ考ノ付イタコトデ諸君ニ御話致シタナラバ多少利益デモアラウカト云フコトガ若シ将来ニ於テ起ツタナラバ、申上ゲルデアリマセウ　○下略