デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.20

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
3款 東京商業会議所
■綱文

第21巻 p.338-348(DK210055k) ページ画像

明治31年10月22日(1898年)

当会議所、明治二十九年十二月以来、会員佐久間貞一ノ建案ニヨリ委員ヲ選ビテ職工ノ保護及ビ取締ノ件ヲ調査中ナリシガ、三十一年九月二十九日ニ至リ、農商務次官柴四朗ヨリ同省立案ノ工場法案ニ関シ当会議所ニ諮問アリタルヲ以テ、新ニ委員会ヲ設ケテ審議シ、是日栄一会頭トシテ、工場法ハ単ニ工場ノ設備及ビ取締ニ関スル規定ノミニ止メ、職工・徒弟ニ関スル規定ハ必要ナキ旨ヲ復申ス。


■資料

東京商業会議所月報 第五三号・第三頁 明治三〇年一月 【○十二月 ○明治二九…】(DK210055k-0001)
第21巻 p.338 ページ画像

東京商業会議所月報  第五三号・第三頁 明治三〇年一月
○十二月 ○明治二九年十六日、本会議所ニ於テ第五十七回臨時会議ヲ開ク、当日ノ出席者ハ左ノ如シ
 益田克徳君 ○外二十六名氏名略
午後五時三十分開議、左ノ件々ヲ決議シ、午後七時五十分閉会ス
○中略
 一職工ノ取締及保護ニ関スル件
右ハ佐久間貞一君ノ建議ニ係リ、全会一致ヲ以テ建議通リ委員七名ヲ選挙シテ之ニ其調査ヲ附託スルニ決ス
○中略
当日全会ノ請求ニ依リ議長ノ指名シタル委員ノ氏名ハ左ノ如シ ○中略

                        佐久間貞一君
                        梅浦精一君
                        朝吹英二君
     職工ノ保護及取締ニ関スル件 調査委員 岩谷松平君
                        豊川良平君
                        北村英一郎君
                        渡辺洪基君



東京商業会議所月報 第五六号・第一二―一六頁 明治三〇年四月 【○明治三十年三月五日…】(DK210055k-0002)
第21巻 p.338-339 ページ画像

東京商業会議所月報  第五六号・第一二―一六頁 明治三〇年四月
○明治三十年三月五日、本会議所ニ於テ第五十九回臨時会議ヲ開ク、
 - 第21巻 p.339 -ページ画像 
当日ノ出席者ハ左ノ如シ
 河村隆実君 ○外四十四名氏名略
午後五時四十分開議、渋沢栄一君議長席ニ着キ、左ノ件々ヲ議事ニ附シ、午後九時四十分閉会ス
○中略
 一各委員補欠選挙ノ件
本件ハ満場一致ヲ以テ会頭ニ其指名ヲ託スルコトニ決ス、依テ其後会頭ハ左ノ如ク指名シタリ
○中略
職工ノ取締保護ニ関スル調査委員 七名
               委員長《(マヽ)》 佐久間貞一君
                        梅浦精一君
                        朝吹英二君
               補        藤山雷太君
                        豊川良平君
               補        松本忠次郎君
                        渡辺洪基君


東京商業会議所月報 第五六号・第二〇頁 明治三〇年四月 【○同月同日 ○三月二…】(DK210055k-0003)
第21巻 p.339 ページ画像

東京商業会議所月報  第五六号・第二〇頁 明治三〇年四月
○同月同日 ○三月二九日午後四時、本会議所ニ於テ職工ノ取締保護ニ関スルノ件調査委員会議ヲ開キ、委員長ヲ選挙セシニ、其結果左ノ如クニテ午後四時三十分閉会ス
                 委員長 渡辺洪基君


東京商業会議所月報 第七四号・第一八頁 明治三一年一〇月 【同月 ○九月二十四日午前…】(DK210055k-0004)
第21巻 p.339 ページ画像

東京商業会議所月報  第七四号・第一八頁 明治三一年一〇月
○同月 ○九月二十四日午前九時、本会議所ニ於テ職工ノ取締保護ニ関スル件調査委員会議ヲ開キ、工場法案ニ就テ協議スル所アリ、午前十一時三十分閉会セリ


東京商業会議所月報 第七五号・第一―四頁 明治三一年一一月 【○明治三十一年十月六…】(DK210055k-0005)
第21巻 p.339-340 ページ画像

東京商業会議所月報  第七五号・第一―四頁 明治三一年一一月
○明治三十一年十月六日、本会議所ニ於テ第七十二回臨時会議ヲ開ク当日出席者ノ氏名左ノ如シ
 武田忠臣君 ○外十七名氏名略
午後六時開議、渋沢会頭病気ノ為メ欠席ニ付副会頭大江卓君議長席ニ着キ、左ノ件々ヲ議事ニ附シ、午後九時閉会ス
○中略
 一工場及職工ニ関スル法律案ノ議ニ付農商務省次官ヨリ諮問ノ件
                     (役員会議提出)
本件ハ審議ノ末議長指名ノ委員九名ヲ設ケテ之ニ調査ヲ附託スルニ決シ、議長ハ左ノ諸君ヲ委員ニ指名セリ(本件諮問案ノ全文ハ参照ノ部第四号ニ掲載ス)
          工場法案調査委員 雨宮綾太郎君
                   加東徳三君
                   梅浦精一君
 - 第21巻 p.340 -ページ画像 
                   藤山雷太君
                   青木正太郎君
                   野中万助君
                   阿部泰蔵君
                   朝吹英二君
                   町田徳之助君


東京商業会議所月報 第七五号・第九―一三頁 明治三一年一一月 【○参照第四号 明治三十一年九…】(DK210055k-0006)
第21巻 p.340-344 ページ画像

東京商業会議所月報  第七五号・第九―一三頁 明治三一年一一月
○参照第四号
 明治三十一年九月二十九日附ヲ以テ接受シタル工場法案ニ関スル農商務次官ノ諮問全文ハ左ノ如シ
辛第六拾号
工場及職工ニ関スル法律案別冊ノ通起草候ニ付テハ、該法律案ノ大体及各条ニ対スル貴会議所ノ意見詳細承知致度、此段及照会候也
  明治三十一年九月二十九日
                農商務次官 柴四朗
    東京商業会議所会頭 渋沢栄一殿
 追テ本文法律案ハ来ル十月二十日ヨリ開会セラルヘキ農商工高等会議ニ諮問スヘキ見込ニ付、可成該会議開会迄ニ詳細御答報相成度、此段添申候也
(別冊)
工場法案
    第一章 総則
第一条 此ノ法律ハ五十名以上ノ職工・徒弟ヲ使役スル工場ニ適用ス
第二条 前条以外ノ工場ニシテ事業ノ性質危険ナルモノ、健康ニ害アルモノ、職工・徒弟ノ保護取締上必要アルモノ、其ノ他特別ノ事由アルモノハ勅令ヲ以テ此ノ法律ノ全部又ハ一部ヲ適用スルコトヲ得
    第二章 工場
第三条 工場ヲ建設・改築・増築セムトスル者ハ当該官庁ニ願出テ認可ヲ受クヘシ、既設ノ建物ヲ工場ニ使用セントスル者亦同シ
 前項ノ工場ヲ他ノ工業ニ使用シ、又ハ工業ノ方法ヲ著シク変更セントスルトキハ更ニ認可ヲ受クヘシ、認可ノ手続・条件及効力ニ関スル規定ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第四条 工場ノ工事完成シタルトキハ当該官庁ノ撿査ヲ受クヘシ
 撿査ニ合格セサル工場ニ於テハ事業ヲ営ムコトヲ得ス
第五条 工場ニハ危険予防・健康保全・風儀維持並公益保護ノ為必要ナル設備ヲ為スヘシ
第六条 前条ノ設備ニ欠点ヲ生シタルトキハ当該官庁ハ左ノ処分ヲ為スコトヲ得
  一期間ヲ定メテ相当ノ施設ヲ命スルコト
  一事業ノ全部又ハ一部ノ停止ヲ命スルコト
 前項第一号ノ場合ニ於テ工業主其ノ期間内ニ指定ノ施設ヲ為サヽルトキハ当該官庁ニ於テ之ヲ執行シ、工業主ヲシテ一切ノ費用ヲ負担セシムルコトヲ得
 - 第21巻 p.341 -ページ画像 
第七条 工場ニ汽鑵ヲ装置セントスル者ハ当該官庁ニ届出テ撿査ヲ受クヘシ
 前項ノ撿査若ハ定期又ハ臨時ノ撿査ニ合格セサル汽鑵ハ之ヲ使用スルコトヲ得ス
第八条 職工社宅・寄宿舎・病室其ノ他工場ノ附属建物ニハ本章ノ規定並之ニ関スル罰則ヲ準用ス
    第三章 職工
第九条 十歳未満ノ幼者ハ工場ニ於テ使役スルコトヲ得ス
  但特別ノ事由アル工業ニ付テハ命令ヲ以テ本条ノ例外ヲ設クルコトヲ得
第十条 十四歳未満ノ職工ハ一日十時間ヲ超ヘテ使役スルコトヲ得ス
 但特別ノ事由アルトキハ当該官庁ノ許可ヲ受ケ之ヲ延長スルコトヲ得
第十一条 職工ニハ少クトモ一ケ月二日ノ休暇及一日一時間ノ休憩ヲ与フヘシ
 三大節ニハ事業ヲ休止スヘシ
 特別ノ事由アリテ前二項ニ依リ難キトキハ当該官庁ノ許可ヲ受クヘシ
第十二条 工業主ハ尋常小学校ノ教科ヲ卒ラサル十四歳未満ノ職工ニ自己ノ費用ヲ以テ相当ノ教育ヲ与フルノ設備ヲ為スヘシ
 前項ノ職工ハ工業主ノ定ムル教則ニ服従スヘシ
第十三条 職工業務上負傷シタル場合ニ於テハ工業主之ヲ療養シ、若ハ療養費ヲ支給スヘシ
 前項ノ負傷ニ依リ休養ヲ要スルトキハ手当ヲ支給シ、不具又ハ癈疾トナリタルトキハ扶助料ヲ支給スヘシ
 本条第一項ノ負傷ニ依リ死亡シタルトキハ埋葬料及遺族手当ヲ支給スヘシ
 危害ノ原因自己若ハ他人ノ故意又ハ天災ニ出ルモノ、及危害ヲ避クル為特ニ設ケタル禁制ニ違背シタルニ出ルモノハ本条ノ限ニ在ラス
第十四条 職工ハ左ノ場合ニ於テ直ニ契約ヲ解除スルコトヲ得
  一工業主・業務監督者又ハ其ノ家族カ職工又ハ其ノ家族ニ対シ暴行虐待ヲ加ヘ、若ハ猥褻ノ所為アリタルトキ
  一生命ヲ危フシ又ハ健康ニ著シキ害ヲ及ホスヘキ業務ヲ工業主又ハ業務監督者ヨリ強ラレタルトキ
第十五条 工業主ハ左ノ場合ニ於テ直ニ契約ヲ解除スルコトヲ得
  一職工カ工業主・業務監督者又ハ其ノ家族ニ対シ暴行又ハ侮辱ヲ加ヘタルトキ
  一職工カ工場又ハ其ノ附属設備ノ秩序ヲ紊スヘキ行為ヲ為シタルトキ
第十六条 工業主ハ職工トノ関係ヲ定ムル為職工規則ヲ設ケ当該官庁ノ認可ヲ受クヘシ、之ヲ変更セムトスルトキ亦同シ、職工ノ社宅、寄宿舎取締ニ関スル規則亦前項ニ依ル
 当該官庁ニ於テ必要ト認ムルトキハ職工規則、社宅・寄宿舎規則ノ変更ヲ命スルコトヲ得
 - 第21巻 p.342 -ページ画像 
第十七条 職工規則ニハ左ノ事項ヲ規定スヘシ
  一雇傭契約ニ関スル規程
  一休日・就業時間及休憩時間ニ関スル規程
  一監督組織ニ関スル規程
  一賞与・懲戒ニ関スル規程
  一賃銭ニ関スル規程
  一第十三条ノ給与及扶助ニ関スル規程
  一積立金ニ関スル規程
  一危害ヲ避クル為特ニ設ケタル禁制
  一第十二条ノ教則
 職工規則ハ工業主及職工ヲ覊束ス
第十八条 工業主ハ職工ノ異動ヲ明ニスル為職工名簿ヲ備フヘシ
第十九条 職工ノ取締上必要ノ場合ニ於テハ命令ヲ以テ工業及職工ノ種類ヲ定メ、其職工ニ職工証ヲ所持セシムルコトヲ得
 前項ノ職工ニシテ職工証ヲ所持セサル者ハ該工業ニ於テ工業主之ヲ雇入ルヽコトヲ得ス
第二十条 農商務大臣ハ同業組合ノ申請ニ基キ必要ト認ムルトキハ該組合ノ使役スル職工ニ職工証ヲ所持セシムルコトヲ得
 前項ノ職工ニシテ職工証ヲ所持セサルモノハ該組合員之ヲ雇入ルヽコトヲ得ス
第二十一条 職工証ハ原籍地又ハ住所地ノ市町村之ヲ交附スヘシ
  但前条ノ場合ニ於テハ同業組合之ヲ交附スヘシ
第二十二条 職工証ハ工業主之ヲ保管シ、解雇ノ際之ヲ職工ニ還附スヘシ
第二十三条 職工名簿及職工証ノ方式並記載事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
    第四章 徒弟
第二十四条 工業主徒弟ヲ養成セントスルトキハ予メ徒弟規則ヲ設ケ当該官庁ノ許可ヲ受クヘシ、之ヲ変更セムトスルトキ亦同シ
第二十五条 徒弟規則ニハ左ノ事項ヲ規定スヘシ
  一修業契約ニ関スル規程
  一休日・修業時間及休憩時間ニ関スル規程
  一授業ニ関スル規程
  一給与ニ関スル規程
  一疾病・負傷・死亡手当ニ関スル規程
  一賞与・懲戒ニ関スル規程
  一積立金ニ関スル規程
  一第十二条ノ教則
第二十六条 第九条乃至第十三条、第十四条、第十五条、第十六条第二項・第三項、第十七条第二項、第十八条乃至第二十二条、並之ニ関スル罰則ハ徒弟ノ場合ニ之ヲ準用ス
    第五章 監督
第二十七条 農商務大臣ハ婦女及十四歳未満ノ職工・徒弟ノ就業ニシテ特ニ危険ナルカ、又ハ健康若ハ風儀ニ害アリト認ムルトキハ之ヲ
 - 第21巻 p.343 -ページ画像 
制限又ハ禁止スルコトヲ得
第二十八条 工場監督官吏ハ工場及其ノ附属建物ニ臨検シ、職工及徒弟ニ関スル書類ヲ検査シ、並工業主若ハ其ノ代理人及被用者ニ説明ヲ求ムルコトヲ得
 工場監督官吏又ハ工場監督官吏タリシ者ハ其ノ職務執行上知リ得タル営業上ノ秘密ヲ守ルノ義務アルモノトス
第二十九条 此ノ法律ニ依ル行政処分ニ不服アル者ハ訴願法ニ依リ訴願スルコトヲ得
第三十条 職工規則・徒弟規則・社宅寄宿舎規則・雇傭契約又ハ修業契約ニ付工業主ト職工又ハ徒弟間ニ起リタル紛議ハ工場監督官吏ノ裁定ヲ受クルコトヲ得
    第六章 罰則
第三十一条 第三条第一項・第二項、第四条、第七条、第九条乃至第十一条、第十六条第一項・第二項、第十八条、第十九条第二項、第二十条第二項、第二十二条ニ違背シ、又ハ第十六条第三項若ハ第二十七条ノ命令ニ違背シタル者ハ弐百円以下ノ過料ニ処ス
第三十二条 職工名簿ニ付虚偽ノ所為アリタル者及第二十八条ノ場合ニ於テ臨検・検査若ハ説明ヲ拒ミ、又ハ虚偽ノ所為アリタル者ハ五拾円以下ノ罰金ニ処ス
第三十三条 他ノ工業主ト雇傭又ハ修業契約期間内ノ職工又ハ徒弟タルヲ知リ、其ノ工業主ノ承諾ナクシテ、之ヲ使役シタル工業主又ハ其ノ媒介ヲ為シタル者ハ弐百円以下ノ過料ニ処ス
 職工・徒弟又ハ其ノ親族・法定代理人・保証人ヲ誘導シ、其ノ工業主ニ対シ虚偽ノ所為ヲ以テ契約ヲ解除セシメ、其ノ職工又ハ徒弟ヲ使役シタル工業主又ハ其ノ媒介ヲ為シタル者ハ弐百円以下ノ罰金ニ処ス
 前二項ノ規定ハ五十名以下ノ職工・徒弟ヲ使役スル工場ニモ之ヲ適用ス
第三十四条 虚偽ノ職工証又ハ虚偽ノ所為ヲ以テ得タル職工証ヲ行使シ、又ハ行使セシメタル者ハ弐拾円以下ノ罰金ニ処ス
第三十五条 第二十八条第二項ニ違背シタル者ハ刑法第三百六十条ノ例ニ拠リ処断ス
第三十六条 此ノ法律ヲ犯シタル者ニハ刑法数罪倶発ノ例ヲ用ヰス
第三十七条 本法ニ定メタル過料ニ付テハ明治三十一年法律第十四号非訟事件手続法第二百六条乃至第二百八条ノ規定ヲ準用ス
第三十八条 工業主ノ代理人・家族・被用者ニシテ此ノ法律中工業主ニ関スル規定ニ違背スル行為ヲ為シタルトキハ、工業主ハ自己ノ指揮ニ出サルノ故ヲ以テ本章罰則ノ適用ヲ免ルヽコトヲ得ス
第三十九条 商事会社ニ在テハ業務担当ノ任アル社員又ハ取締役、其ノ他ノ法人ニ在テハ理事ニ、工業主ニ関スル本章ノ罰則ヲ適用ス
    附則
第四十条 此ノ法律ハ明治三十二年七月一日ヨリ施行ス
    理由書
現今本邦工業ノ勃興ト共ニ工場各地ニ起リ、従来ノ家内工業ハ漸ク変
 - 第21巻 p.344 -ページ画像 
移シテ工場工業タラムトス、而シテ此等工場工業ハ其ノ効果ノ顕著ナルト同時ニ、其ノ設備完全ヲ欠クトキハ之ニ由テ往々人命ヲ危フシ、比隣公衆ニ重大ノ傷害ヲ与フルコトアリ、之ニ対シテ政府ノ監督ヲ要スルコト甚多シ、従来各地方庁ニ於テ既ニ此ノ事ニ関スル取締ヲ為スモノ尠カラスト雖、其ノ方法統一ヲ欠キ、其ノ監督ノ設備完全ナル能ハサルモノアリ、然ルニ此ノ事タル工業者並一般公衆ニ最重大ナル利害ヲ及ホシ深ク其ノ権利ニ関係スルヲ以テ、其監督ノ方法ニ付テハ之ヲ地方庁ニ一任セス、予メ法律ヲ以テ其憑準ヲ定ムルヲ必要トス、加旃此等工場ニ於ケル工業主・職工間ノ関係ヲ視ルニ、親睦協和恰モ家族師弟タルカ如キ情誼漸ク去テ、階級的差等間隙稍々其ノ跡ヲ現サムトセリ、是レ実ニ工場工業ニ伴フ所ノ必然ノ結果ニシテ之ヲ各国ノ歴史ニ徴スルニ皆然ラサルハナシ、今ヤ情誼ノ関係既ニ衰退シテ之ニ代ルヘキ法律上ノ関係確立セサルヲ以テ、雇者・被雇者ノ規律頗ル紊乱シ、雇者ハ被雇者ノ転々移動スルニ苦ミ、被雇者ハ亦往々ニシテ雇者ノ圧抑ニ屈従スルノ悲境ニ沈淪スル者アリ、誘拐争奪ノ弊既ニ起リ、教唆強要ノ風漸ク行ハレムトス、此ノ時ニ当リ、之ヲ一般ノ趨勢ニ鑑ミ之ヲ本邦ノ実情ニ照シ、大体ノ法規ヲ設ケテ二者ノ関係ヲ律シ、一面以テ工業者ノ為ニ其ノ事業経営ノ確実整正ヲ図リ、一面以テ労力ノ強健風儀ノ保持ヲ企ツルモノ、是レ我工業ヲシテ健全ナル発達ヲ遂ケシムルニ最必要ノ事業トス、是レ本法ノ制定ヲ要スル所以ナリ、然レトモ本問題ノ関係スル所極メテ広且大ニシテ、殊ニ工業者及労働者ノ利益ニ直接大関係ヲ及ホスヲ以テ、仮令外国ノ事歴ニ徴シ自然ノ趨勢ノ能ク前知シ得ヘキモノアルモ、猶ホ法令ヲ以テ一朝急激ノ変化ヲ加フルハ国家経済上大ニ考慮スヘキ所ナルヲ以テ、本法ハ暫ク大体ヲ規定シ単ニ大綱ヲ示シテ弊害ノ最甚シキモノヲ予防スルニ止メ、而シテ工場監督官吏ヲシテ本法ノ実施ヲ監視セシムルノ傍、常時工場ノ状態ヲ調査セシメ、其ノ結果ニ基キテ詳ニ利害得失ヲ衡量シ、将来工場工業ノ進歩ニ応シテ能ク其規律ヲ正シ、雇者・被雇者ノ調和ヲ計ラムコトヲ期ス


東京商業会議所月報 第七五号・第四頁 明治三一年一一月 【○同月同日 ○十月八…】(DK210055k-0007)
第21巻 p.344 ページ画像

東京商業会議所月報  第七五号・第四頁 明治三一年一一月
○同月同日 ○十月八日午前九時、本会議所ニ於テ工場法案調査委員会議ヲ開キ、委員長ヲ選挙セシニ其結果左ノ如クニシテ、午前十一時閉会ス
               委員長 阿部泰蔵君
○中略
○同月 ○十月十一日午後六時十分、本会議所ニ於テ委員会議ヲ開キ、工場法案ノ件ヲ審議シ、午後八時閉会ス
○中略
○同月 ○十月十八日午前九時、本会議所ニ於テ委員会議ヲ開キ、工場法案ノ件ヲ審議シ、午後零時三十分閉会ス
○同月十九日午後四時、本会議所ニ於テ委員会議ヲ開キ、工場法案ノ件ヲ審議シ、午後七時閉会ス


東京商業会議所月報 第七五号・第三頁 明治三一年一一月 【○同月 ○十月二十二日、本会…】(DK210055k-0008)
第21巻 p.344-345 ページ画像

東京商業会議所月報  第七五号・第三頁 明治三一年一一月
 - 第21巻 p.345 -ページ画像 
○同月 ○十月二十二日、本会議所ニ於テ第七十三回臨時会議ヲ開ク、当日出席者ノ氏名左ノ如シ
 八尾新助君 ○外二十名氏名略
午後五時二十分開議、渋沢会頭病気ノ為メ欠席ニ付、副会頭中野武営君議長席ニ着キ、左ノ件々ヲ議事ニ附シ、午後八時閉会ス
 一工場法案調査報告ノ件 (委員提出)
本件ハ多数ヲ以テ報告案ノ如ク農商務次官ニ回報スルニ決ス


東京商業会議所月報 第七五号・第四頁 明治三一年一一月 【○同月 ○十月二十二…】(DK210055k-0009)
第21巻 p.345 ページ画像

東京商業会議所月報  第七五号・第四頁 明治三一年一一月
○同月 ○十月二十二日、工場法案ノ義ニ付、農商務次官ヘ意見書ヲ進達ス(意見書ノ全文ハ参照ノ部第五号ニ掲載ス)


東京商業会議所月報 第七五号・第一三―一五頁 明治三一年一一月 【○参照第五号 明治三十一年十…】(DK210055k-0010)
第21巻 p.345-347 ページ画像

東京商業会議所月報  第七五号・第一三―一五頁 明治三一年一一月
○参照第五号
 明治三十一年十月二十二日臨時会議ニ依リ、工場法案ノ義ニ付農商務次官ニ回報シタル意見書ノ全文左ノ如シ
去月二十九日附ヲ以テ御諮詢相成リタル工場法案篤ト遂審議候処、同法案ニ対スル本会議所ノ意見ハ別紙ノ如クニ有之候間、左様御承知相成度、此段本会議所ノ決議ニ依リ答申仕候也
  明治三十一年十月二十二日
            東京商業会議所会頭 渋沢栄一
    農商務次官 柴四朗殿
(別紙)
    工場法案ニ対スル意見
今回将ニ制定セラレントスル工場法案ヲ通覧スルニ、総則ヨリ罰則ニ至ルマデ六章四十条、其体裁頗ル具備セルカ如キモノアリト雖モ、之カ実施ニ伴フテ生スヘキ効果如何ヲ予想スレハ、第三章以下職工・徒弟ニ関スル規定ニ至テハ寧ロ弊アルモ益ナク、故ラニ雇者・被雇者間ノ親和ヲ攪破シ、適々以テ滋端ヲ醸成セシムルノ媒介トナルニ過キサルヘキヲ信ス、乃チ本法案大体ニ関スル本会議所ノ所見ヲ開陳スレハ左ノ如シ
 一工場法ハ宜シク単ニ工場ノ設備及ヒ取締ニ関スル規定ノミニ止ムヘキ事
  (理由)今ヤ我国ノ工業ハ日ヲ追テ進歩シ、工場ノ新設セラル、モノ多キヲ加フルノ状アルニ関ラス、其取締ハ之ヲ地方庁ニ一任スルヲ以テ、府県ノ異ナルニ従ヒ監督ノ寛厳同シカラス、検査ノ方法若クハ其標準ノ如キ亦区々トシテ一定セス、為メニ工業者ヲシテ不便ヲ感セシムルコト少ナカラス、此際一ノ法律ヲ定メ全国ノ工場ヲシテ統一アル監督ノ下ニ立タシムルハ必要ノ事タリ、故ニ本会議所ハ工場法ヲ定メテ工場ノ設備及ヒ取締ニ関スル規定ヲ設ケラルヽノ一事ニ対シテハ毫モ異議ナシ、然レトモ本法案第一章・第二章ニ定メラレタル各条ノ如キハ其意義甚シク空漠ニ失シ監督ノ手続ヨリ検査ノ方法等ニ至ルマテ総テ命令若クハ施行細則ノ規定ニ譲ラレタルヲ以テ、之ヲ一閲スルニアラサレハ容易ニ賛
 - 第21巻 p.346 -ページ画像 
否ヲ表シ難キモノアリ、特ニ工場ニハ危険予防・健康保全・風儀維持並公益保護ノ為必要ナル設備ヲ為スヘシト云フカ如キ、其必要ナルヲ疑ハスト雖モ、所謂設備ノ程度如何ハ直チニ工業ノ盛衰ニ関係スルモノアリ、若シ工場ノ設備ノ為メニ過度ノ経費ヲ投セサルヲ得サルカ如キコトアラハ、工業ノ大部分ハ得失相償ハサルカ為メニ俄然癈滅ニ帰スルモ亦知ルヘカラス、仮令ヒ此ノ如ク甚シキニ至ラストスルモ、其発達ヲ阻害スヘキヤ論ナク、国家経済上ニ及ホス影響真ニ測リ易カラサルモノアルナリ、是故ニ本会議所ハ、工場法ナルモノヲシテ単ニ工場ノ設備及ヒ取締ニ関スル規定ヲ示スノ法律タルニ止マラシムルコトヲ希望スルト同時ニ、其規定ハ本法案第一章・第二章ニ亘レル各条ノ如ク空漠ノモノナラス、解釈上疑義ヲ生シ易キ条項ノ如キハ尚一層明瞭ニ掲記セラレンコトヲ望ム、然レトモ規定細密ニ過キ工場主ヲシテ手数ノ煩雑ニ堪ヘサラシムルカ如キハ亦宜シク避クヘキ所タリ
 一職工・徒弟ニ関スル規定ハ事実ニ於テ其必要ヲ認メサル事
  (理由)本法案第三章以下職工・徒弟ニ関スル各条ヲ通覧スルニ立法ノ精神ハ本会議所固ヨリ之ヲ不可トセスト雖トモ、目下事実ニ於テ此等ノ規定ヲ設クルノ必要ヲ認メサルナリ、蓋シ欧米諸国ノ如キハ雇者・被雇者ノ関係我国ノ如クナラサルヲ以テ、特ニ此種ノ法律ヲ設クルノ必要アルモ、我国ニ至テハ雇者・被雇者ハ宛モ家族関係ニ等シキモノアリ、長幼相扶ケ吉凶相問ヒ、其間靄然タル情誼ノ存スル者アリ、従テ数十百人ノ職工・徒弟ヲ使役スル大工場ニ至テモ、雇者ノ虐待ノ為メニ被雇者ノ反抗ヲ招キシカ如キ事実ハ極メテ稀ナリ、是実ニ我国特有ノ美風ニシテ、此美風ハ永ク之ヲ存続スルヲ務メサルヘカラス、然ルニ今若シ強テ法律ヲ設ケテ、妄リニ雇傭関係ニ干渉スルカ如キアラン乎、適マ以テ雇者・被雇者間ノ親和ヲ攪破スルノ端ヲ啓キ、其結果為メニ古来ノ美風ヲ滅却スルニ至ラン、論者或ハ言ハン、我国ニ於ケル雇者・被雇者ノ関係前述ノ如クナリシ時代ハ漸ク去リテ、百般制度ノ変更ト共ニ将ニ其面目ヲ改メントス、況ンヤ改正条約ノ実施、内外人ノ雑居ハ眼前ニ逼リタルノ今日、単ニ一片ノ情誼ニ依頼シテ両者ノ関係ヲ規定セサルハ、国運ノ進歩ト相伴ハサルモノナルオヤト、蓋シ論者ハ政治上ノ変革又ハ学術上ノ進歩ト共ニ、社会上百般ノ事物皆旧慣ヲ改ムルモノナリトノ想像ヲ懐クモノナラン、試ミニ看ヨ、我国父子・夫婦・兄弟等ノ関係ハ政治ノ変革、学術ノ進歩ト共ニ其面目ヲ改メタリヤ、恐クハ然ラサルベシ、雇者・被雇者ノ関係モ亦政治・学術ト共ニ相伴随シテ俄カニ変更スルモノニアラザルベシ、徒ニ欧米諸国ノ法律ニ傚ヒ、実際不適当ノ規定ヲ設クルカ如キハ本会議所ノ取ラサル所ナリ
以上ハ即チ本会議所カ本法案ニ対スル大体ノ意見ナリ、若夫本法案各条ニ対シテハ議スヘキ点少ナカラスト雖モ、大体ノ意見是ノ如クナルヲ以テ此ニ之ヲ縷述セス
   ○工場法ト栄一トノ関係並ニ工場法成立ノ沿革ニ就イテハ、本資料第十七巻所収「東京商法会議所」明治十三年十一月十五日、第十八巻所収「東京商
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工会」明治十七年五月二日、第十九巻所収「東京商業会議所」明治二十四年八月二十九日、本巻明治三十一年五月二十日、同三十六年三月二十八日第二十二巻所収「商業会議所聯合会」明治三十五年十二月八日、第二十三巻所収「農商工高等会議」明治二十九年十月二十三日、同三十一年二月二十八日ノ各条、並ニ第二編第二部第五章学術及ビ其他ノ文化事業中ニ収メタル「社会政策学会」明治四十年十二月二十二日ノ条参照。



〔参考〕渋沢栄一書翰 斎藤恒三宛 明治三〇年一一月三日(DK210055k-0011)
第21巻 p.347 ページ画像

渋沢栄一書翰  斎藤恒三宛 明治三〇年一一月三日    (斎藤恒一氏所蔵)
○上略
乍序一事申上候ハ、此度農商務省ニて例之職工条例制定之見込ニて、草案も出来候由、昨日も志村工務局長拙宅へ被参、其要領申聞有之候詰り可成簡易ニ規定せし由なれとも
一十歳未満之少年ハ就業を禁する事
一十四年未満ハ十二時間之就業を十時《(間脱カ)》ニ止メ候事
一教育衛生之事ハ各工業ニ於て相当之手続を設備すへき義務ある事
一熟練せし職工ハ壱ケ年限之契約たらしめ未熟之ものニても三年以上ハ契約せしめさる見込之事
一右等之取締向即実際之見届方ハ、各県庁ニ特ニ其掛員を置き、時々巡撿と申都合ニ可致事
右等条例之大要ニて、此他各工場職工争奪之弊も規則上幾分制裁すへき見込と被存候、尤も右草案ハ近々農工商高等会議へ諮問可相成ニ付其際ニハ全文も御内覧ニ入候義も可出来なれとも、自然貴方実際之御経験ニ於て何か此法律案ニ御心附も有之候ハヽ、前以御示し被下度候右ハ拝答旁申上度 匆々不一
  十一月三日賀
                     渋沢栄一
    斎藤恒三様
「三重県四日市町三重紡績株式会社ニテ」 斎藤恒三様 御直展 「東京市日本橋区兜町二」 渋沢栄一

   ○封筒ノ日附印ハ三十年十一月三日ニシテ、斎藤恒三ハ当時三重紡績株式会社ノ取締役タリ。



〔参考〕東京経済雑誌 第三八巻第九五一号・第九九五頁 明治三一年一〇月二九日 ○工場法案に対する各商業会議所の決議(DK210055k-0012)
第21巻 p.347-348 ページ画像

東京経済雑誌  第三八巻第九五一号・第九九五頁 明治三一年一〇月二九日
    ○工場法案に対する各商業会議所の決議
農商務省の諮問に係る工場法案に対し、各商業会議所の已に決議して
 - 第21巻 p.348 -ページ画像 
答申せるもの三十六ケ所に達したり、之を全部反対・一部修正・全部賛成の三に大別すれば左の如し
 全部反対  堺 上田 長崎 浜松 神戸 東京 熊本 名古屋 桑名 博多
 一部修正  知多 伏見 八王子 京都 阿波 大坂 福井 高岡 広島 豊橋 新潟 岐阜金沢 函館 佐賀 仙台 前橋 山形 横浜
 全部賛成  太田 松江 岡崎 静岡 大津 尾道 松山
右の内修正に属するものは事実に於て反対に近きものと知るべし



〔参考〕工場法論 岡実著 第一二―一三頁 大正六年九月刊(DK210055k-0013)
第21巻 p.348 ページ画像

工場法論 岡実著  第一二―一三頁 大正六年九月刊
    第二節 第二期(自明治三十一年至同四十二年)
 明治三十一年四月志村局長職ヲ退キ、翌五月有賀長文氏工務局長ニ任セラレ、前年来ノ一般調査ヲ継続シ、同年六月以後更ニ各地ノ工場及職工・徒弟取締ノ状況ヲ視察シ、職工法案ヲ修正シテ之ヲ工場法案ト為シ、総則・工場・職工・徒弟・監督及罰則ノ六章トシ、之ヲ四十条ニ細別セリ
 明治三十一年九月工場法案ヲ各商業会議所ニ廻附諮問シタルニ、三府其ノ他ニ於ケル三十二ノ会議所ハ法令ノ制定ヲ可トシ、名古屋其ノ他ノ七会議所ハ之ヲ否トセリ ○下略