デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.20

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

3章 商工業
18節 其他ノ商工業
5款 日本石膏株式会社
■綱文

第54巻 p.58-63(DK540019k) ページ画像

大正2年(1913年)

是年、栄一・浅野総一郎等ヲ発起人トシテ、当会社設立セラル。栄一、株主トナル。


■資料

日本石膏株式会社設立趣意書 目論見書定款・其他(DK540019k-0001)
第54巻 p.58-63 ページ画像

日本石膏株式会社設立趣意書 目論見書定款・其他
                     (井口正之氏所蔵)
    日本石膏株式会社設立趣意書
輓近泰西ノ文明ハ早ク既ニ我邦ニ消化セラレ、殊ニ医学・戦術・造船・電気ノ如キハ欧米ノ巧技ヲ凌駕セルモノ今ヤ甚ダ夥シ、然ルニ我邦ノ精華タル美術工芸並ニ建築工業ノ発展ニ関シテハ、其進歩ノ著シキモノアリト雖モ、未ダ以テ吾人ノ意ヲ満タス事能ハザルハ洵ニ遺憾ニ堪ヘザルナリ、就中石膏(ギプス)工業ノ如キハ尚ホ未ダ微々トシテ振ハザルノミナラズ、世人ノ多クハ其名称ダモ知ラザルノ状況ニアリ、斯ノ如クニシテ焉ンゾ欧米諸邦ト比肩スルコトヲ得ンヤ
抑々石膏ハ一種ノ礦石ニ理化学作用ヲ施シテ得タル礦石粉末ニシテ、洋風建築(天井・欄間・壁等)・陶器・セメント・塑型・医療用模型・一般工業用・教育用品等ノ原料或ハ材料トシテ最モ需用多キモノナリ而シテ本邦ニ於テモ此等一般需用ノ概況ハ後段調査書中ニ挙ゲタル如ク、年ト共ニ益々其用途ヲ増加シツヽアルノ情勢ナレドモ、如何セン従来未ダ石膏工業ニ着目スルモノナク、已ムヲ得ズ年々輸入ヲ俟ツテ始テ其需用ニ応ズルノ有様ナリキ、某等此ノ事業《(情)》ヲ遺憾トシ、之レガ製造ニ着眼スルコト業ニ久シク、研究腐心歳ヲ閲スル五ケ年、漸クニシテ本邦唯一最良ノ原鉱地ヲ発見シタルト同時ニ、製造方法ニ於テ独創的一新機軸ヲ出シ、遂ニ輸入品ヲ凌駕スルノ理想的製品ヲ実現スルヲ得ルニ到レリ、製品々賃《(質)》ノ如何ハ工業試験所ノ試験報告之ヲ証明シテ余アルベシト信ズ
故ヲ以テ某等今般日本石膏株式会社ヲ起シテ、之レガ製造ヲ盛ニシ、一面ニ於テ本邦美術工芸ノ発達ニ資スルト共ニ、他面ニ於テハ不廉ナル外国品ノ輸入ヲ防遏シ、以テ国益ノ一端ニ貢献スル所アラントス、大方ノ諸彦幸ニ微衷ヲ諒セラレ、邦家ノ為メ御賛成ノ栄ヲ賜ハランコトヲ請フ
  大正弐年八月              発起人
    石膏ニ関スル諸調査
外国輸入品ノ状勢
 其主ナル輸入先ハ米・独両国ニシテ、此輸入高ノ最モ高潮ヲ示セルハ去ル明治四十年度ニ於テ約壱千六百五拾余万斤ヲ計上セリ、此《(然)》ルニ其後四十二年度ニ於テ吾等内地製造ヲ開始シ(則チ今般本会社ノ基礎トセシ原礦地ニ依リテ製造シタルモノ)、本邦工業界ニ向ツテ
 - 第54巻 p.59 -ページ画像 
販路ヲ開拓シタル結果、漸次輸入高ヲ減退シ、最近四十四年度ニ於テハ、輸入額約四百万斤ヲ減シタリ、之則チ一般需用ノ減ジタルニアラズ、後段ニ計上シアル如ク年次需用額ノ増加スルニモ不拘、輸入額ヲ減ジタルハ、本邦製品初メテ生レテ而カモ其品質良好、価格廉ナルヲ以テ、我ガ工業界ニ於テ、大ニ歓迎セラレタル所以ニ外ナラズ
石膏ノ主ナル用途
一、洋風建築室内塗料、天井・欄間・壁等既ニ使用セラレシ主ナル方面ハ、東宮御所・表慶館・帝国劇場等ニシテ、其他大ナル建築物ニシテ之レガ使用セラレザルハナシ、而シテ洋風建築物ノ年々増加スルニ従ヒ、石膏ノ需用益々急ヲ告ゲ、今ヤ一建築ニ五百樽乃至千樽ヲ使用スル例少ナカラズ、今後建築界ニ於ケル需用高ハ蓋シ無限大ナリ
一、陶磁器ノ原型
 一般窯陶業界ニ於ケル原型材料トシテノ必需品ニシテ、日本陶器・名古屋陶器及硬質陶器等各会社ニ於テ使用スル額ノミニテモ年需用高弐万樽ヲ下ラズ
一、セメント原料
 現今浅野セメント・北海セメント・磐城セント各社ニ於テ使用スル高ノミニテモ年額拾四五万俵ノ数量ヲ示セリ、本会社成立後ニ於テ内地セメント製造業者ニ洽ク供給ノ道ヲ開カンカ、其需用高実ニ多額ナリ
一、白墨
 副産物タル白墨ニ至リテハ其需用年額内地各学校・官衙・諸会社等ニシテ既ニ約参拾五万円以上ヲ計上ス、之ニ満鮮清移出ノ約弐拾万円ヲ合スレハ、決シテ少量ノ額ト云フ可ラス
一、塑型・医療用・一般工業用・教育用品
 年々使用ノ量極メテ多額ナルモ、之レ等多方面ニ渉リテハ其量詳ニ知ルヲ得サルヲ以テ玆ニ記サズ
輸入品対本製品ノ市価
 輸入品ノ目下第一流ニアルハ米国製三Ⅹ印ニシテ、此価格壱樽市価金八円内外、独国製壱樽市価金七円内外ナリ、而シテ本製品ハ目下壱樽金五円八拾銭ヲ以テ販売シツヽアリ、価格ニ於テハ本製品其最モ下位ニアルモ、品質ニ於テハ決シテ輸入品ニ劣ラザルコトハ工業試験所ノ試験報告書ヲ以テシテモ明カニシテ、又一般需用工業家ノ夙ニ認識セラルヽ処ナリ、輸入品ノ高価ナルハ品質ノ優良ナル所以ニ在ラズ、之則チ関税及運賃等多額ノ附帯費ヲ加算スルガ故ナリ、依テ本会社成立ノ上一層製造力ヲ拡張シ、益々販路ヲ拡メンカ、近キ将来ニ於テハ必ズ輸入品ヲ絶対ニ防止センハ、敢テ至難ノ業ニ非ズト信ズ
原礦地ノ現況
 原礦地ノ将来有望ニシテ、礦質優良且ツ豊富ナルハ、元工業試験所技師理学士山下伝吉氏ノ実地調査報告書ニアルガ如クナルガ、今其一般現況ヲ示セハ左ノ如シ
 - 第54巻 p.60 -ページ画像 
一、岩沢山ハ東北本線黒沢尻駅ヨリ四里十五丁ニシテ現場ニ達スヘク礦区約八万坪ヲ有シ、其礦質ハ雪花石膏ナリ、運搬ハ現場ヨリ拾五丁間ハ土橇ニヨリ、其他ノ四里ハ軽便線ニヨルノ便ヲ有セリ、着手以来今日ニ至ル迄ノ事業ノ経過ハ、初メ主トシテ探礦ニ従事シツヽ事務所・洗礦場・人夫家屋等ノ設備ヲ為シタリシガ、漸次事業ノ進ムニ従ヒ、坑道採掘及野天掘ノ両法ヲ採リテ採掘搬出ニ従事シツヽアリ、洗礦場ハ狭隘ヲ来シタルヲ以テ更ニ之ヲ増設シ、又中切坑ヲ開キ、次テ坑道内探坑的ニ立坑六十尺ヲ下シタルニ、益々良好ナルヲ確メタリ、坑内ハ何レモ全ク礦層ニシテ別ニ支柱ヲ要セズ、要スルニ金山石膏ヲ以テ成リ、殆ンド無尽蔵ト称スルモ敢テ過言ニアラズ、現今土橇ヲ以テ運搬セル十五丁間ハ、百斤ニ付金七銭ノ運搬費ヲ要スルモ、若シ軌道或ハ軽便鉄道ヲ敷設スルトキハ僅カニ一・二銭ニテ足ルベキ予想ナルヲ以テ、将来ハ其何レカニヨランコトヲ研究シツヽアリ
一、宮崎山ハ東北支線中新田駅ヲ距ル四里ノ処ニ在リ、搬出便ハ現今山道壱里、荷馬車三里ヲ以テス
 着手以来今日ニ至ル事業ノ経過ハ、探礦的採掘ヲ主トシタル設備ヲ為セシニ、礦量ノ豊富ナルコトヲ確認セルヲ以テ、過般来坑道採掘ヲ開始セリ、其坑内ノ状態ハ全ク石膏ヲ以テ包囲シ、下面ニ進ムニ従ヒ益々良好ナルヲ確メタリ、而シテ該山ノ礦質ハ繊維質及雪花ノ二種ヲ産シ、礦区ハ約拾八万余坪ヲ有セリ
    試験報告書○略ス
    石膏原礦調査報告書
      岩沢山
一、所在
    岩手県和賀郡岩崎村字岩沢
一、礦区
    約八万坪
一、地質及膏質
    地質ハ第三紀層ニシテ凝灰岩及頁岩ノ互層ヨリ成リ、石膏ハ凝灰岩間ニ発達セル粘土層中ニ瘤状「雪花質」ヲ為シテ現出シ、其質良好ナリ
一、埋蔵量
    粘土層中ニ含マルヽ石膏ノ分止リハ三分乃至五分ナリ
      宮城山《(宮崎山)》
一、所在
    宮城県加美郡宮崎村
一、礦区
    約拾八万坪
一、地質及膏質
    地質ハ第三紀層ニシテ凝灰岩及頁岩ノ互層ヨリ成リ、石膏ハ厚薄数層粘土ヲ挟ミ扁豆状ヲナシ現出シ、純白透明ノ良質ナリ、時ニ瘤状「雪花質」ノモノヲ混ズルコトアリ
一、埋蔵量
 - 第54巻 p.61 -ページ画像 
    粘土層中ニ含マルヽ石膏ノ分止リハ岩沢山ニ比シ有望ナリト認ム
右両礦ハ日本ギプス製造所ノ経営ニ係ハルモノニシテ、今般実地調査ノ結果本邦ニ於ケル石膏産出地トシテハ、多ク其比ヲ見ザル良産地ト認ム
  大正二年五月一日
              元工業試験所技師理学士
                    山下伝吉 

    目論見書
  資本金運用概算
    収入ノ部
一金拾五万円也
     資本総額金六拾万円ニ対スル第一回払込金
    支出ノ部
一金拾五万円也
     内訳
   一金九万六千円也 固定資本(既設会社買収費)
   一金参万弐千円也 運転資本
   一金弐万円也   工場及鉱山新設備費
   一金弐千円也   創立費
  営業収支概算
    収入ノ部
一金拾六万参千弐百八拾四円也 一ケ年収入総額
     内訳
   一金七万弐千円也     石膏壱万四千四百樽売上代
   一金四万九千九百八拾円也 セメント五万八千八百俵売上代
   一金弐万五千七百四円也  焼石膏用鉱石三万弐百四十俵売上代
   一金壱万四千四百円也   白墨売上代
   一金壱千弐百円也     廃石売上代
    支出ノ部
一金拾弐万四千四百九拾八円拾八銭也 一ケ年支出総額
     内訳
   一金拾壱万五千四百九拾八円拾八銭也 総経費
   一金四千円也       固定資本消却
   一金五千円也       重役報酬
 差引金参万八千七百八拾五円九拾弐銭也 純益金
  之ヲ処分スル事左ノ如シ
   一金弐千円也       法定積立金
   一金弐千円也       別途積立金
   一金参千八百円也     役員賞与金
   一金弐万七千円也     株主配当金(年壱割八分)
   一金壱千弐百円也     使用人救済積立金
   一金弐千七百八拾五円九拾弐銭也 後期繰越金
 - 第54巻 p.62 -ページ画像 
   備考
    本予算ハ初年度ニ於ケル最少限ノ製造ヲ以テ編成シタルモノニシテ、次年度以後ニ於ケル副製物応用工事ノ請負及其他ノ副業ヨリ生スル処ノ利益壱割五分以上ヲ増収スルコトハ容易ナリ
  固定資本使途概算
一金九万六千円也  総額
     内訳
   一金八万弐千五百円也  既設会社払込金
   一金五千円也      白墨製造所買収費
   一金八千五百円也    営業権買収費
○中略

    定款改正案
      第一章 総則
第一条 本会社ハ日本石膏株式会社ト称ス
第二条 本会社ハ石膏ノ採取・製造・販売及ヒ之ニ附帯スル業務ヲ営ムヲ以テ目的トス
第三条 本会社ハ本店ノ東京府南葛飾郡寺島村大字寺島千百八十番地ニ置ク
第四条 本会社ノ資本金額ハ金拾五万円トス
第五条 本会社ノ公告ハ所轄登記所ニ於テ登記事項ヲ公告スル新聞紙一種以上ニ掲載ス
第六条 本定款ニ別段ノ定ナキ事項ハ凡テ商法ノ規定ニ依ル
      第二章 株式
第七条 本会社ノ株式ハ三千株トシ、一株ノ金額ヲ金五拾円トス
○中略

    日本石膏株式会社重役人名
 取締役社長  浅野総一郎
 取締役    渡辺六蔵
 同      八十島親徳
 同      前川益次
 同(常任)  岡田直之介
 監査役    久米良作
 同      井口正之
      以上七名

    日本石膏株式会社株主名簿
  一四百株    渋沢栄一
  一四百株    浅野総一郎
  一参百五拾株  岡田直之介
  一弐百株    渡辺六蔵
  一弐百株    渡辺勝三郎
 - 第54巻 p.63 -ページ画像 
  一弐百株    田辺熊一
  一壱百株    久米良作
  一同      吉田丹治郎
  一同      八十島親徳
  一同      前川益次
  一同      木原多賀治郎
  一九拾株    安井清
  一八拾株    杏山章之丞
  一七拾株    井口正之
  一五百拾株   渋沢・浅野両氏
  合計参千株也


井口正之談話筆記(DK540019k-0002)
第54巻 p.63 ページ画像

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