デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.20

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

6章 対外事業
2節 支那・満洲
6款 日華実業協会
■綱文

第55巻 p.199-209(DK550040k) ページ画像

大正12年6月11日(1923年)

是ヨリ先、中華民国ニ於ケル排日運動頓ニ熾烈トナリ、日中関係ニ重大ナル悪影響ヲ及ボスニ至ル。是日栄一、副会長和田豊治ト共ニ、当協会ヲ代表シテ、外務大臣内田康哉ト会見シ、当局ノ強硬態度ヲ要望ス。十四日、当協会幹事会ニ於テ、更ニ之ガ対策協議ノ上、十九日、日本工業倶楽部ニ、外務省亜細亜局長出淵勝次等外務省当局ヲ招キテ、当協会側ト意見ノ交換ヲ行フ。栄一、ソレゾレ出席ス。

二十五日、東京商業会議所ニ於テ、当協会・東京商業会議所及ビ東京実業組合聯合会ノ合同協議会開カル。栄一出席シ、座長トナリテ、排日運動防止対策ニ関スル議事ヲ司ル。

次イデ七月三日、当協会幹部ハ、東京銀行集会所ニ於テ、外務次官田中都吉・駐支公使芳沢謙吉・通商局長永井松三・亜細亜局長出淵勝次等外務省当局ト会シ、協議ス。栄一、会長トシテ出席シ、排日排日貨運動ニ対スル当協会ノ声明書ヲ発表ス。


■資料

集会日時通知表 大正一二年(DK550040k-0001)
第55巻 p.199-200 ページ画像

集会日時通知表  大正一二年       (渋沢子爵家所蔵)
一月卅一日 水 正午    日華実業協会常任幹事会
  ○中略。
三月廿四日 土 正午    日華実業協会常任幹事会(兜町)
  ○中略。
四月五日  木 午前十一時 日華実業協会幹事会(兜町)
  ○中略。
六月五日  火 正午    日華実業協会幹事会(同会)
  ○中略。
六月九日  土 午後三時  日華実業協会幹事会(同会)
  ○中略。
六月十一日 月 午後四時  内田外相ト御会見ノ約(外務省)
  ○中略。
六月十四日 木 午後四時  日華実業協会ノ件(同会)
 - 第55巻 p.200 -ページ画像 
        午後五半時 鄭貞文氏来約(日華実業協会)
  ○中略。
六月十九日 火 午後三時  日華実業協会ノ件(工業クラブ)
  ○中略。
六月廿二日 金 午前十―十二時 日華実業協会ノ件ニ付角田隆郎氏来約(兜町)
  ○中略。
六月廿五日 月 正午    日華実業協会幹事会(同会)
        午後三時  日貨排斥問題ノ件(東京商業会議所)
  ○中略。
六月廿九日 金 午後三時  中華留日基督教青年会々館落成式(北神保町十同会館)
  ○中略。
七月二日  月 正午    排日貨問題ノ件(日華実業協会)
七月三日  火 午後二時  日華実業協会催
              芳沢駐支公使送別会(銀行クラブ)


竜門雑誌 第四二一号・第六〇―六一頁大正一二年六月 ○支那排日問題対策(DK550040k-0002)
第55巻 p.200-201 ページ画像

竜門雑誌  第四二一号・第六〇―六一頁大正一二年六月
○支那排日問題対策 日華実業協会にては、最近支那各地に蜂起する排日運動に就き過般来其対策を講究中なりしが、協会としては此際外務省の意嚮を訊し、飽迄も強硬の態度を採ることを要求するに決し、六月十一日午後五時、同協会の正副会長たる青淵先生並に和田豊治氏は協会を代表して内田外相に面会し、約一時間に亘りて陳情する所ありしが、之に対し当局としても既に北京代理公使に訓電を発して目下強硬の態度を採りつゝある旨を答へ、尚ほ今後も其対策を講ずるに遺漏なきを期すべしとの挨拶ありたる趣なるが、協会にては今後引続き其攻究を怠らざると同時に、在支及び内地の商業会議所其他の団体機関と連絡を取り、根本的に彼等の排日気勢を鎮静せしむるに努むべしと云ふ。
 右に就き六月十二日発行の東京朝日新聞は、青淵先生談として左の如く報ぜり。
 今までの排日運動は主に学生が中心となつてやる程のもので、敢て重大視する必要はなかつたのであるが、最近の実情を見るに、商務総会までが飛び出して運動するに至つたので、その影響するところ決して軽々に附することは出来ぬ、今までは何時も日本の態度が圧迫となり、脅威となり、又は侵略となりはせぬかと心配して、成るべく穏かに出ることに努めてゐたのである、又協会としても経済的に日支親善を標榜し極力努めて来たのである、しかるに支那が今日の如き態度を採ると云ふことは、之等の日支親善の関係を破壊するものである、之れに対しては今までのやうに只黙つて穏和に済ますと云ふことは出来ぬ、之を此の儘に放任して置けば、両国間の関係は永く取返しのつかぬ状態に陥る、永遠の日支親善の為めに此際思ひ切つて鎮圧せしめる必要がある、そこで今日外務省を訪うてその希望を述べたのであるが、外務省としては十分強硬の意志があるや
 - 第55巻 p.201 -ページ画像 
うである、尚外務省とは引続き情報の連絡を取り、一方内地及在支商業会議所と連絡して、此際是非目的を達したい考へである。


中外商業新報 第一三三九一号大正一二年六月一五日 今や如何にも黙止し難い 渋沢栄一子談(DK550040k-0003)
第55巻 p.201 ページ画像

中外商業新報  第一三三九一号大正一二年六月一五日
    今や如何にも
      黙止し難い
        渋沢栄一子談
 日華実業協会が日貨排斥を防止すべく奮起し、飽迄徹底的行動を採らんとするに至つた事情に就いて会長渋沢栄一子は左の如く語つた
日支両国は相互に扶助して共存共栄を期すべき関係にある、然るに三月以来支那人が各地に於て種々なる手段を以て日貨排斥を画策してゐることは甚だ遺憾とせざるを得ない、而も最近に至つて、其運動は単に一部有志及び学生に依りて行はるゝに非ずして、之等運動を阻止すべき筈の商務総会が、寧ろ中心を為すの観を呈し、在留同胞の生命財産の安固を失はんとするものある如き、黙止するに忍びない状勢となつた、勿論暴に報ゆるに暴を以てすることは好ましくないから、飽までも穏便に、又一時的な空騒ぎで無く、持久的態度を持して、円満なる解決を期する心得を必要とする、即ち吾人は外務当局に対し、支那政府をして根本的防止策を講ぜしむる交渉開始を求めると同時に、支那各地及日本全国の商業会議所並に種々の実業団体と密接な聯絡を取り、挙つて日貨排斥を防止する為尽力する様にしたいと思ふのである


竜門雑誌 第四二二号・第六一―六四頁大正一二年七月 ○日華実業協会と支那排日貨運動(DK550040k-0004)
第55巻 p.201-203 ページ画像

竜門雑誌  第四二二号・第六一―六四頁大正一二年七月
○日華実業協会と支那排日貨運動 支那に於ける日貨排斥運動は、長沙・漢口を中心として丸江・厦門・汕頭・広東に及び、更に新嘉坡・爪哇地方に瀰漫するの傾向あり、我が対支貿易に影響すること極めて甚大なるより、青淵先生の会長たる日華実業協会にては、六月十四日午後四時より更に協会事務所に於て協議会を催し、会長青淵先生・副会長和田豊治氏を始め幹事白岩竜平・児玉謙次・安川雄之助・荻野元太郎・杉原栄三郎・森弁治郎・阿多広介等諸氏出席の上、既報十一日正副会長の外務省当局と交渉せる顛末、並に十二日副会長の東京商業会議所と交渉せる顛末に付き報告ありて後、該問題に対しては全国及び支那各地の商業会議所並に各種実業団体と連絡の上円満なる解決に努むること、並に近く更に外務省当局と会見し、政府の該運動防止策をして徹底的たらしむるやう懇談すること等を協議して、六時半散会せる由なるが、右に就き青淵先生談として十五日発行の中外商業新報は左の如く報ぜり。
○中略
 斯くて同協会は同月十九日午後三時より、日本工業倶楽部に於て、外務省当局の臨席を求め、出淵亜細亜局長・広田情報部次長、坪井・栗野・岡部各課長列席の上、前記協会側諸氏と共に種々意見の交換を行ひ午後五時半散会せる由なるが、右に就き青淵先生談として二十日発行の都新聞は左の如く報ぜり。
 日華実業協会と外務当局との協議といつても、単に排日貨問題に就
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き意見の交換をしたに過ぎない、質問応答の内容は、外務省側の希望に依り口外する訳には行か無いが、兎に角吾人の希望としては、此際を機として、屡々支那に起る排日貨問題を根本的に解決したいと思ふ、即ち政府のみに信頼せず、微力ながら我等実業家一致協同の力を以て、飽迄同問題の円満解決を期して居る訳である、吾人は公正穏健の態度を以て進む方針であつて、遠からず支那の排日に対し具体的の手段方法を講ずる覚悟である。
 而して同協会にては、此際徹底的に該問題を解決すべく其趣旨を東京商業会議所及び東京実業組合聯合会に伝へて其意見を参考とする事とし、同月廿五日正午協会事務所に幹部会を開き、終つて午後三時より東京商業会議所に於て、前記二団体幹部と会合し、協会側より青淵先生、角田・荻野・油谷諸氏、実業組合側より星野・阿部・山崎・内藤・山本・樋口諸氏、会議所側より杉原・山科・守谷・大塚・岩崎・杉山・大山諸氏出席の上、青淵先生座長席に着き、排貨防止に関する今日迄の運動経過、並に政府当局との交渉顛末を述べ、更に今後の処置に就き出席者諸氏の意見を聞き、午後五時半散会せる由なるが、超えて七月二日正午より、同事務所に於て更に幹部会を開き、具体案を作製し、翌三日午後二時より東京銀行集会所に於て外務省当局と会し政府側より田中外務次官・芳沢支那公使・永井通商局長・広田情報部次長・出淵亜細亜局長、坪井・栗野・岡部各課長、又協会側より青淵先生、和田豊治・杉原栄三郎・荻野元太郎・安川雄之助・白岩竜平・小野英二郎・阿多広介・角田隆郎・伊東米治郎諸氏等出席の上、青淵先生より左記の如き声明書を提出し、更に口頭にて排貨行動の禁止、排日煽動者の処罰、損害賠償、善後保証の四項目を提示して種々協議する所あり、尚ほ協会側の方針としては、今後徹底的に該問題を解決する意嚮なることを附言し、七時散会せる由なり。
    支那に於ける排日排日貨運動に対する声明
 最近熾烈なる排日行動の支那各地に頻発せるは、実に吾人の期待を裏切り、輿論も亦一斉に強硬なる対策を高唱するに至れり
今翻て大正九年本会の設立に当り、趣旨として本会の宣明したる所を顧みるに
  「日支共存は基礎を経済的相互の提携に置くを以て其の第一義とすること、蓋し何人も異議なき所なり、而して之を遂行するには先づ彼我の意志を疎通し、相互の渾然たる諒会に待たざる可からざる又多弁を要せず
  然るに共存の運命を有する両国民が反目排擠、遂には国交を危殆に陥れんとするの虞ある現状に就ては、吾人の深憂措く能はざる所なり」
 之れ実に大正九年六月の事にして、爾来恰も三ケ年を経過し、其間本会は或は山東問題に関し、或は中支派遣隊に関し、其他機会ある毎に我当局に勧説して、苟くも両国々民誤解の因となるものは之を除去せしむるに努め、又北支旱災に際しては、全国の同情者より義捐金を募りて振済の補ひとなす等、畢竟両国々交の改善と国民相互の福利を維持増進せんことを企図したり、一方華府会議並に山東細
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目協定に関する我政府の態度方針並に其結果は、一部国民の間には其余りに退譲に過ぐるの批難ありたるに拘らず、吾人は両国の和平と幸福に切偲なるの余り、寧ろ之を歓迎したり、即ち黎大統領が該協定調印の機会に於て述べられたる如く、最早彼我両国の間に国交を阻碍すべき何等の案件なしと確信し、之より経済上両国民の間に礼譲ある平和の新局面を展開すべく期待したるなり
 然るに転瞬の間意外にも廿一個条問題に関聯して、既往八年間連続せる排日行動中未だ曾て経験せざる如き極端なる軽侮と脅迫を我在支同胞の上に加へ、甚しきは之を標榜するに経済断交を以てし、従来常に平和通商の支持者たりし各地有力なる商務総会も亦此渦中に投じて其行動を是認又は声援するが如き頻々たる報告に接し、吾人は悵然として失望を禁ずるを得ざるに至り、我国民全般も亦為に痛切なる刺戟を受け、今や輿論は稀に見る高潮に達し、我も亦経済断交を以て之に対抗すべしと説くものあるに至れり
 此場合吾人は徒らに感情に馳せ、率然として支那国民の全体を責めんとするものにあらず、如何となれば、政治上に於て現に最高統率者を失ひ、混乱の中にある支那国民の立場を顧み、吾人は深甚の同情を表せざる能はず、又其の行動は仮令中正を失するも、愛国観念に目醒めんとする一部青年国民の思想に対しては、吾人は寛容の精神を以て之に処すべきを知れり、況んや広大なる支那の領土内に於ては、此等の行動に無交渉なる地域も多かるべく、又各界を通じて聡明錬達なる少数有識の士が、時の非なるを見て暫く沈黙を守るあるをも推知せり
 徳に報ゆるに怨を以てするの友人に対しても、吾人は固より暴に代ゆるに暴を以てせんとするものにあらず、然れども国際間の感情は往々にして一歩を悞れば挽回すべからざる危機に陥ることあり、我国民の隠忍にも自ら程度あるを以て、吾人は此際支那国民の冷静なる判断を促し、翻然として其反省改新を望まざるを得ず、而して一面条約に違背し、国交の通義を没却したる現実の直接非行者に対しては、厳格にして仮借なき処置を要求せんとす、之れ固より正義の命ずる処、又実に彼我国交改善の目的を達するに万已むを得ざるに出づるものにして、斯くして吾人の希望は飽迄も東洋二大民族の完全なる諒会と提携とにより、世界の平和に貢献せんとするにありて即ち本会の厚く信じて疑はざる所の使命なり


中外商業新報 第一三四〇九号大正一二年七月三日 排日対策具体化す 日華実業の幹部 再度当局と会見(DK550040k-0005)
第55巻 p.203-204 ページ画像

中外商業新報  第一三四〇九号大正一二年七月三日
    排日対策具体化す
      日華実業の幹部
      再度当局と会見
日華実業協会は、二日正午から同事務所に於て幹事会を開き、会長渋沢子爵・副会長藤田男爵及び和田氏を初め白岩・荻野・杉原・安川・斎藤・小野・阿多・角田の各幹事出席の上、既報支那排日運動の対応策に就き東京会議所・実業組合聯合会並に全国商工大会等実業団体の之に対する意見書を参照して種々協議し、漸く成案を得るに至つた、
 - 第55巻 p.204 -ページ画像 
而して其内容は外交問題に関聯するので一般に公表するを避け、三日午後二時から外務当局と再度丸ノ内銀行集会所に会見し、該案を提示して、更に其実行方法を協議する由である、因に右成案は(一)支那政府に要求の件七箇条、(二)被害賠償方法三箇条、(三)善後保証方法五箇条、(四)該問題善後策十箇条、都合二十五箇条に渉る宏澣なるもので、果して其全部に就て外務当局の認容を得るや聊か疑問であると云ふ


中外商業新報 第一三四一〇号大正一二年七月四日 隠忍するにも程度がある 排貨の解決策と日華協会の声明(DK550040k-0006)
第55巻 p.204 ページ画像

中外商業新報  第一三四一〇号大正一二年七月四日
    隠忍するにも程度がある
      排貨の解決策と
      日華協会の声明
日華実業協会は、既報の如く、三日午後二時より丸之内銀行集会所に於て外務当局と会見し、支那の排日貨問題に関し本邦実業界の意見並に同協会の対応策に就き種々意見を開陳し当局の諒解を求めたが、外務省からは田中次官を初め
 芳沢公使・永井通商局長・出淵亜細亜局長、坪上・岡部・栗野同局課長、広田情報部次長
の諸氏臨席、又協会側からは
 渋沢子爵・藤田男爵・和田豊治・伊東米治郎・安川雄之助・白岩竜平・阿多広介・小野英二郎・ 倉知鉄吉・荻野元太郎・杉原栄三郎・角田隆郎・斎藤延・児玉謙次
の幹事諸君が出席した、而して協会側の外務当局に対する希望は主として(一)排貨禁止、(二)責任者所罰、(三)損害賠償、(四)善後保証の四条項に就き相当の措置方法を講ぜられん事であつて、尚其他諸項目に関し当局の諒解を求めた処、田中次官並に出淵局長等は之を大体に於て認容し、適当の方策を講ずると声明した、玆に於て同協会は更に其設立の目的趣旨並に従来採り来れる態度に就て述べ、最後の一節に左の如き声明を為し支那人士の反省を促すと共に、飽迄同協会は該問題を円満に解決せんと努力せる旨を表示した
 吾人固より暴に代ゆるに暴を以てせんとするものにあらず、然れども国際間の感情は往々にして一歩誤れば挽回すべからざる危機に陥ることあり、我国民の隠忍にも自ら程度ある以て、吾人は此際支那国民の冷静なる判断を促し、翻然として其反省改新を望まざるを得ず○中略 吾人の希望は飽迄も東洋二大民族の完全なる諒解と提携とに由り、世界の平和に貢献せんとするにある、即ち本会の厚く信じて疑はざる所の使命である


日華実業協会書類(DK550040k-0007)
第55巻 p.204-205 ページ画像

日華実業協会書類             (渋沢子爵家所蔵)
(印刷物)
    支那各地方ニ起レル排日運動ニ対スル声明
最近熾烈ナル排日行動ノ支那各地ニ頻発セルハ、実ニ吾人ノ期待ヲ裏切リ、輿論モ亦一斉ニ強硬ナル対策ヲ高唱スルニ至レリ
○中略
 - 第55巻 p.205 -ページ画像 
斯クシテ吾人ノ希望ハ、飽迄モ東洋二大民族ノ完全ナル諒会ト提携トニヨリ、世界ノ平和ニ貢献セントスルニアリテ、即チ本会ノ厚ク信シテ疑ハサル所ノ使命ナリ
  大正十二年七月三日
                      日華実業協会


日華実業協会書類(DK550040k-0008)
第55巻 p.205-206 ページ画像

日華実業協会書類             (渋沢子爵家所蔵)
(印刷物)
    支那ノ排日行動ニ対シ本協会ノ採リタル措置報告
                      日華実業協会
本協会ハ本年三月以来支那各地ニ起リタル排日運動ニ対シ、常ニ其ノ成行ニ注意ヲ怠ラサリシカ、五月ニ入リテ形勢漸次険悪トナリ、彼我ノ貿易上甚大ノ影響ヲ蒙ルノミナラス、竟ニ両国々交上由々敷大事ヲ惹起セントスル情勢ヲ呈スルニ至レルヲ遺憾トシ、先ツ右ニ関スル各地ノ情報ヲ蒐集スルニ力メ、爾来印刷物其他ニヨリ逐次会員各位ニ報告スルト共ニ、之レカ対策ニ付キ随時幹事会ヲ開キテ慎重ニ審議ヲ遂ケ、且之レカ実行ニ付屡次政府当局ニ懇請スル所アリ、一面機宜ニ応シ、対支那関係諸団体ト歩調ヲ共ニシ、支那官民ノ反省ヲ求メ、排日行動ヲ絶滅センコトニ努力シタリ
(一)本協会ノ態度及方針
 六月九日 本協会幹事会ニ於テ左記方策ヲ決定セリ
 一、今回支那各地ニ於ケル日貨排斥ハ顕ニ経済断交ヲ標榜シテ国際ノ信義ヲ没却シ、国交ヲ傷ケントスルノ行動ニシテ、最近形勢益険悪トナレルヲ以テ、此際是レカ根本的解決ヲ期スルカ為メ断乎タル態度ニ出ツルヲ必要ト認ム
 一、右ノ方針ニ依リ外務大臣ヲ訪問シテ、適当ノ措置ヲ採ラレン事ヲ要請スルコト
 一、商業会議所及実業組合聯合会ト聯絡シテ共同動作ヲ採ル事
 一、本問題ニ関シ支那ニ関係深キ会見中ヨリ実情ノ報告及意見ヲ求ムル事
 一、外務当局ト随時会合シテ本問題ニ関スル意見ノ交換ヲナス事
(二)外務大臣トノ会見及同省当局トノ意見交換
 六月十一日 渋沢本協会々長及和田副会長ハ外務大臣ト会見シテ、本協会決議ノ趣旨ヲ陳述申請セラレタリ
 同月十九日 日本工業倶楽部ニ於テ外務当局ト会見シ、第一回ノ意見交換ヲナセリ、同日外務省ヨリハ出淵亜細亜局長、栗野・岡部・坪上各書記官、本協会ヨリハ会長・副会長・各幹事出席シ、排日対応策ニ関シ意見ノ交換ヲナセリ
 七月三日 東京銀行倶楽部ニ於テ芳沢駐支公使ノ送別ヲ兼ネ、外務当局ト第二回意見交換会ヲ催シ、外務省ヨリハ田中次官・芳沢公使・出淵亜細亜局長、栗野・岡部・坪上各書記官、本協会ヨリハ会長・副会長・各幹事出席セリ、同日ハ兼テ本協会幹事会ニ於テ応急対策トシテ決議セル排日責任者処罰、排日運動禁止取締、損害賠償、及善後保障ニ関スル十一項ニ付キ逐項隔意ナキ意見ノ交換ヲ為セリ
 - 第55巻 p.206 -ページ画像 
(三)東京商業会議所及東京実業組合聯合会トノ連絡
 六月十二日 和田副会長ハ東京商業会議所ヲ訪問シテ、本問題ニ関スル相互ノ連絡及共同動作ニ就キ本協会決議ノ趣旨ヲ陳述セラレ、一方ニ於テ東京実業組合聯合会ニ対シ同様ノ申込ヲナセリ
 右交渉ノ結果、六月二十五日東京商業会議所ニ於テ叙上二団体及本協会ノ聯合協議会ヲ開催シ、本協会ヨリハ渋沢会長外幹事数名出席シ、渋沢子爵ハ座長トシテ互ニ意見ノ交換ヲナシ、且各団体ハ各自具体的対策ヲ作成スルニ決シタリ
(四)本協会員一般並ニ支那各方面ニ対スル《(シ)》情報及意見ヲ求ム
 本協会ハ排日対策ヲ決定スルカ為メ会員一般並ニ支那各方面ニ対シ排日ニ関スル実情報告及其意見ヲ求ムルニ決シ、六月十日以降左記電報ヲ哈爾賓・大連・奉天・営口・安東県・長春・青島・北京・済南・天津・漢口・長沙・常徳・重慶・沙市・宜昌・九江・南京・蕪湖・上海・福州・厦門・汕頭・香港・広東等ノ本邦人商業会議所・実業協会及日本人会宛発送セリ
  這般排日運動ニ関シ、本会ハ強硬ナル態度ヲ採ル事ヲ政府ニ要請セリ、今後引続キ必要ノ行動ヲ採リ度キニ依リ、貴地方ノ実況及御意見ハ随時御申越願ヒ度シ
(五)排日対策決定並ニ政府当局ニ申請
 六月二十一日 角田隆郎氏ニ嘱托シテ立案セル対応策ハ慎重審議ノ後、七月二日ノ幹事会ニ於テ、先ツ応急手段トシテ(一)排日責任者処罪、排日運動禁止取締ニ関スルモノ七項、(二)損害賠償ニ関スルモノ二項(三)善後保障ニ関スルモノ二項、並ニ口頭ヲ以テ政府当局ニ要望スヘキモノ五項ノ具体的対策ヲ決定スルト共ニ、別記声明書ヲ内外ニ発表スル事ヲ決議セリ
 尚善後方法ニ関スル諸施設ニ付テハ、目下引続キ慎重ニ攻究中ナリ
○下略



〔参考〕東京商業会議所報 第六巻第七号・第一〇―一二頁大正一二年七月 ○委員会(DK550040k-0009)
第55巻 p.206-208 ページ画像

東京商業会議所報  第六巻第七号・第一〇―一二頁大正一二年七月
    ○委員会
○中略
○日貨排斥に関する決議実行委員会
大正十二年六月十六日、当所に於て第一回日貨排斥に関する決議実行委員会を開催したり
 出席者 委員 橋本直一君   委員 堀内伊太郎君
     同  大山斐瑳麿君
 参加  副会頭山科礼蔵君
 欠席者 委員 大塚栄吉君   委員 米倉嘉兵衛君
     同  松下領三君   同  森盛一郎君
会議の開閉 午後一時四十分開議 午後二時 閉会
山科副会頭委員長席に着き、昨日農商務次官及外務大臣に会見の結果報告ありたり
    決議
 - 第55巻 p.207 -ページ画像 
一、日貨排斥に関する件
一、小幡公使を聘して意見を聴取すること
一、日貨排斥運動が対支貿易に及ぼせる影響を調査する為め、各関係方面に照会して其報告を聴取すること
一、漢口日本人大会より去る十五日発の電報による日貨排斥問題に関する陳情は之を承認
一、横竹商務官に対し、本件に関する彼地の事情の報告を求め、及之に対して採る可き、適当なる処置あらば承知し度旨、電報を発すること
一、日貨排斥問題に関しては日華実業協会及東京実業組合聯合会等と互に連絡提携して運動すること
一、本委員会は本件の解決を見るまで継続し、十分に善後策を考究し機宜によりては総会を開くこと
○大正十二年六月二十五日、当所に於て第二回日貨排斥に関する実行委員会を開会したり
 出席者 委員 橋本直一君   委員 堀内伊太郎君
     同  大塚栄吉君   同  大山斐瑳麿君
     同  米倉嘉兵衛君  同  松下領三君
     同  森盛一郎君
 参加  副会頭杉原栄三郎君  副会頭山科礼蔵君
     常議員杉山義雄君   常議員日下吉平君
  欠席者ナシ
会議の開閉 午後五時開議 午後六時閉会
山科副会頭委員長席に着き開議
日貨排斥問題に関し本日午後三時三十分より開会せられたる日華実業協会・東京実業組合聯合会及当所三団体より成る協議会終了後、該協議会の決議に因り直ちに本委員会を開催せられたり
    決議事項
 一、日貨排斥に関する件
日貨排斥問題の解決に対する具体的方案の作成に就き慎重審議を重ねたる結果、更に強硬なる態度を執ることに決し、該決議を渋沢子爵に宛て送付することゝせり
○大正十二年六月二十九日、当所に於て第三回日貨排斥に関する決議実行委員会を開会したり
 出席者 委員 橋本直一君   委員 堀内伊太郎君
     同  大塚栄吉君   同  大山斐瑳麿君
     同  米倉嘉兵衛君  同  森盛一郎君
 参加  副会頭杉原栄三郎君  副会頭山科礼蔵君
     常議員日下吉平君   欠席者委員松下領三君
 会議の開閉 午後二時三十分開議 午後三時三十分閉会
山科副会頭委員長席に着き開議
    決議事項
 - 第55巻 p.208 -ページ画像 
 一、日貨排斥に関する件
 日貨排斥に関する東京商業会議所の対策原案に就き慎重審議を重ねたる結果、之を修正して可決、直ちに該決議案を渋沢子爵に宛てゝ送付すること(修正決議別紙添付)
 尚、日華実業協会・東京実業組合聯合会並に当所の日貨排斥に関する三案纏りたる上は、去る二十五日開会せる如く更に右三団体の協議会を相開き、以て本件に関する三団体の決定案を作成致し度き旨日華実業協会に申送ること



〔参考〕東京商業会議所報 第七巻第八号附録・第七七―七八頁大正一三年八月 ○協議会(DK550040k-0010)
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東京商業会議所報  第七巻第八号附録・第七七―七八頁大正一三年八月
    ○協議会
大正十二年六月二十五日午後三時三十分当所に於て、日華実業協会・東京実業組合聯合会及東京商業会議所の第一回日貨排斥に関する聯合協議会を開会、午後五時閉会、出席者、日華実業協会側四名、東京実業組合聯合会側十四名、当所側十四名、会議事項左の如し
(一)日華実業協会々長渋沢子爵より日貨排斥問題に関する意見及希望を詳細に述べられ、又過日外務省を訪問せられたる経過、及日本工業倶楽部に於て同協会は外務省亜細亜局長其他を招聘して意見の交換を行ひたる結果を報告せられたり
(二)東京商業会議所山科副会頭より排日問題に関し商業会議所の執りたる態度並に外務省及農商務省当局との交渉経過の報告ありたり
(三)東京実業組合聯合会星野会長より、実業組合聯合会並に商工懇話会の日貨排斥問題に関して執りたる態度の経過報告あり、次に同組合の本件に関する委員長樋口氏より外務次官及内閣書記官長との会見の結果報告ありたり、最後に最近支那視察を終へて帰朝せられたる実業組合聯合会の野村氏より、支那内地に於ける日貨排斥の実情に就き詳細なる報告ありたり
    決議事項
      一、日貨排斥に関する件
日貨排斥問題の解決方策に関し慎重審議を重ねたる結果、右三団体は本問題解決の具体的方案を今週中に作成して之を渋沢子爵に送附し、引続き攻究を重ぬること



〔参考〕白岩竜平談話筆記(DK550040k-0011)
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白岩竜平談話筆記            (渋沢子爵家所蔵)
                      昭和二年八月一〇日
    日華実業協会と青淵先生
○上略
子爵指導の下に協会○日華実業協会が切々として日支社交の緝睦、経済の聯絡を企画するに拘はらず、両国の国際関係は複雑を極め、両国民の感情は兎角に背反睽離の一路を辿る傾向に在りて、大正十二年六月には廿一ケ条問題に因る排日の暴動支那全国に亘りたる為め、七月三日東京に於て対支団体聯合大会を開き、宣言及決議を発表して支那国民の反省を促したるが、子爵は老躯を提げて演壇に立ち大要左の趣旨を述べられた
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  徳に報ゆるに怨みを以てするの友人に対しても、吾々は暴に報ゆるに暴を以てせんとするものではない。只国際間のことは往々にして感情に馳せ、一歩を誤れば挽回の出来ぬ危機に陥る虞れがある。我国民の隠忍にも自ら程度がある。余は支那国民の冷静に反り自省を望まざるを得ぬ。吾人の希望は、飽迄も東洋二大民族の完全なる諒解と提携とに由りて、世界の平和に貢献せんとするものである。
と声涙共に降り、五百の会衆は為めに厳粛の気に打たれた。此時の排日運動はその後平静に帰したが、爾来支那の内乱と排外は永続性を帯び来りて、昨年○大正一五年の夏国民軍の長江進出と共に労農共産主義の侵入となり、その排外行動は空前の熾烈を示し、本年三月二十四日の南京事件となり、四月三日の漢口事件となつた。
協会は老子爵の指導の下に、不断の努力を以て協会本来の趣旨を貫くべく活動を続けて居る。○下略