デジタル版「実験論語処世談」[69a](補遺) / 渋沢栄一
1. 遠き慮りなければならぬ
とおきおもんぱかりなければならぬ
[69a]-1
子曰。人無遠慮。必有近憂。【衛霊公第十五】
(子曰く、遠き慮り無ければ、必ず近き憂あり。)
本章は、人に慮りなければならぬと云ふたのである。(子曰く、遠き慮り無ければ、必ず近き憂あり。)
それ程深い意味があるのでなく、現在無事であると思つて心に油断をして、将来はどう云ふことが出来るかを考へないで居ると、憂ふべきことが眼の前に来ることがある。故に現在や、目前のことのみでなく、遠き将来のことを考へて居らねばならぬ。若しさうでないと近き将来に憂ふべき事が出来るものであると説いた。
子曰。已矣乎。吾未見好徳如好色者。【衛霊公第十五】
(子曰く、已ぬるか、吾未だ徳を好むこと色を好むが如き者を見ざるなり)
本章は、前の子罕篇に出たもので、唯異る所は已矣乎の語が多い丈けである。そしてこの已矣乎は歎声であつて、本当に心の底から徳を好んで居る者はないと絶望の歎声を洩らしたのである。孔子の時代も既にさうであつたが、今の有様を見ても、世間には真に徳を好むで、心から湧き出て、徳を行ふやうな者はない。(子曰く、已ぬるか、吾未だ徳を好むこと色を好むが如き者を見ざるなり)
- キーワード
- 遠き, 慮り
- 論語章句
- 【衛霊公第十五】 子曰、人無遠慮、必有近憂。
【衛霊公第十五】 子曰、已矣乎、吾未見好徳如好色者也。
- デジタル版「実験論語処世談」[69a](補遺) / 渋沢栄一
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底本(初出誌):『実業之世界』第21巻第11号(実業之世界社, 1924.11)p.17-19
底本の記事タイトル:実験論語処世談 第二百六十三回 自ら厚うして薄く人を責めよ / 子爵渋沢栄一